(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】磁壁移動素子及び磁気記録アレイ
(51)【国際特許分類】
H10B 61/00 20230101AFI20241112BHJP
H10N 50/01 20230101ALI20241112BHJP
H10N 50/10 20230101ALI20241112BHJP
【FI】
H10B61/00
H10N50/01
H10N50/10 Z
(21)【出願番号】P 2021048982
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2024-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2020091151
(32)【優先日】2020-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【氏名又は名称】荻野 彰広
(72)【発明者】
【氏名】芦田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】柴田 竜雄
【審査官】脇水 佳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-226919(JP,A)
【文献】特開2019-057553(JP,A)
【文献】特開2020-053660(JP,A)
【文献】特開2010-278418(JP,A)
【文献】国際公開第2009/001706(WO,A1)
【文献】特開2010-055657(JP,A)
【文献】特開2014-123412(JP,A)
【文献】特開2015-201515(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0123029(US,A1)
【文献】国際公開第2011/036753(WO,A1)
【文献】特開2018-073871(JP,A)
【文献】国際公開第2018/189964(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10B 61/00
H10N 50/01
H10N 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に近い側から第1強磁性層、非磁性層、第2強磁性層の順に積層され、
積層方向からの平面視で前記第1強磁性層が延びる第1方向と直交する第2方向に沿って切断した切断面において、
前記第1強磁性層の前記第2方向の最短幅は、前記非磁性層の前記第2方向の幅より短
く、
前記積層方向及び前記第2方向に沿う切断面において、前記第1強磁性層の側面は、第1傾斜面と第2傾斜面を有し、
第1傾斜面は、前記第1強磁性層の前記基板に近い側の下端から前記第1強磁性層の前記第2方向の中央に向かって傾斜し、
第2傾斜面は、前記第1強磁性層の前記基板から遠い側の上端から前記第1強磁性層の前記第2方向の中央に向かって傾斜する、磁壁移動素子。
【請求項2】
前記第1強磁性層の前記非磁性層側の第1面の前記第2方向の幅は、前記非磁性層の前記第2方向の幅より短い、請求項1に記載の磁壁移動素子。
【請求項3】
前記第1強磁性層の前記第2方向の幅が最短となる位置は、前記第1強磁性層の前記積層方向の中央より前記非磁性層側にある、請求項1又は2に記載の磁壁移動素子。
【請求項4】
前記第1強磁性層の前記第2方向の最長幅が、前記非磁性層の前記第2方向の幅より短い、請求項1~3のいずれか一項に記載の磁壁移動素子。
【請求項5】
前記第1強磁性層の前記非磁性層から遠い側の第2面の前記第2方向の幅は、前記非磁性層の前記第2方向の幅より長い、請求項1~3のいずれか一項に記載の磁壁移動素子。
【請求項6】
前記非磁性層の厚みは、30Å以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の磁壁移動素子。
【請求項7】
前記非磁性層のミリングレートは、前記第1強磁性層のミリングレートより遅い、請求項1~6のいずれか一項に記載の磁壁移動素子。
【請求項8】
前記第1強磁性層の前記非磁性層と反対側に下地層をさらに備え、
前記下地層は、前記第1強磁性層よりもミリングレートが遅い、請求項1~7のいずれか一項に記載の磁壁移動素子。
【請求項9】
前記第1強磁性層は、前記下地層を構成する元素を含み、
前記元素の存在比は、前記積層方向において前記第1強磁性層の前記第2方向の幅が最短となる位置より前記下地層側にある第1領域が、前記積層方向において前記第1強磁性層の前記第2方向の幅が最短となる位置より前記非磁性層側にある第2領域より濃い、請求項8に記載の磁壁移動素子。
【請求項10】
前記第1方向に前記非磁性層を挟み、前記下地層を介して前記第1強磁性層と電気的に接続された第1導電部と第2導電部とを有し、
前記第1導電部及び前記第2導電部のそれぞれの前記第2方向の幅は、前記第1強磁性層の前記第2方向の幅より広く、
前記下地層のミリングレートは、前記第1導電部及び前記第2導電部のミリングレートより遅い、請求項8又は9に記載の磁壁移動素子。
【請求項11】
前記第2強磁性層の前記第2方向の側方に、前記第2強磁性層と異なる金属層をさらに備える、請求項1~10のいずれか一項に記載の磁壁移動素子。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の磁壁移動素子を複数有する、磁気記録アレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁壁移動素子及び磁気記録アレイに関する。
【背景技術】
【0002】
微細化に限界が見えてきたフラッシュメモリ等に代わる次世代の不揮発性メモリに注目が集まっている。例えば、MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)、ReRAM(Resistance Randome Access Memory)、PCRAM(Phase Change Random Access Memory)等が次世代の不揮発性メモリとして知られている。
【0003】
MRAMは、磁化の向きの変化によって生じる抵抗値変化をデータ記録に利用している。データ記録は、MRAMを構成する磁気抵抗変化素子のそれぞれが担っている。例えば、特許文献1には、書き込み電流と読出し電流の経路を分ける3端子型の磁気抵抗効果素子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気抵抗効果素子を微細化する際にスリミングという処理を行う場合がある。スリミングは、磁気抵抗効果素子の側面にイオンビームを照射し、磁気抵抗効果素子の平面視面積を小さくする処理である。しかしながら、イオンビームが露出する金属面に照射されると、金属の一部が飛散し、磁気抵抗効果素子の側壁に再付着する場合がある。磁気抵抗効果素子の側壁に付着した不純物は、磁気抵抗効果素子を構成する強磁性体の磁気特性を劣化させる。また付着した不純物は、磁気抵抗効果素子のリークの原因にもなる。磁気抵抗効果素子の側壁に付着した不純物は、磁気抵抗効果素子の信頼性を低下させる。
【0006】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、信頼性の高い磁気抵抗効果素子及び磁気記録アレイを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)第1の態様にかかる磁壁移動素子は、基板に近い側から第1強磁性層、非磁性層、第2強磁性層の順に積層され、積層方向からの平面視で前記第1強磁性層が延びる第1方向と直交する第2方向に沿って切断した切断面において、前記第1強磁性層の前記第2方向の最短幅は、前記非磁性層の前記第2方向の幅より短い。
【0008】
(2)上記態様にかかる磁壁移動素子の前記積層方向及び前記第2方向に沿う切断面において、前記第1強磁性層の側面は、前記積層方向に対して傾斜していてもよい。
【0009】
(3)上記態様にかかる磁壁移動素子の前記積層方向及び前記第2方向に沿う切断面において、前記第1強磁性層の側面は、第1傾斜面と第2傾斜面を有し、第1傾斜面は、前記第1強磁性層の前記基板に近い側の下端から前記第1強磁性層の前記第2方向の中央に向かって傾斜し、第2傾斜面は、前記第1強磁性層の前記基板から遠い側の上端から前記第1強磁性層の前記第2方向の中央に向かって傾斜してもよい。
【0010】
(4)上記態様にかかる磁壁移動素子において、前記第1強磁性層の前記非磁性層側の第1面の前記第2方向の幅は、前記非磁性層の前記第2方向の幅より短くてもよい。
【0011】
(5)上記態様にかかる磁壁移動素子において、前記第1強磁性層の前記第2方向の幅が最短となる位置は、前記第1強磁性層の前記積層方向の中央より前記非磁性層側にあってもよい。
【0012】
(6)上記態様にかかる磁壁移動素子において、前記第1強磁性層の前記第2方向の最長幅が、前記非磁性層の前記第2方向の幅より短くてもよい。
【0013】
(7)上記態様にかかる磁壁移動素子において、前記第1強磁性層の前記非磁性層から遠い側の第2面の前記第2方向の幅は、前記非磁性層の前記第2方向の幅より長くてもよい。
【0014】
(8)上記態様にかかる磁壁移動素子において、前記非磁性層の厚みは、30Å以上でもよい。
【0015】
(9)上記態様にかかる磁壁移動素子において、前記非磁性層のミリングレートは、前記第1強磁性層のミリングレートより遅くてもよい。
【0016】
(10)上記態様にかかる磁壁移動素子は、前記第1強磁性層の前記非磁性層と反対側に下地層をさらに備え、前記下地層は、前記第1強磁性層よりもミリングレートが遅くもよい。
【0017】
(11)上記態様にかかる磁壁移動素子の前記第1強磁性層は、前記下地層を構成する元素を含み、前記元素の存在比は、前記積層方向において前記第1強磁性層の前記第2方向の幅が最短となる位置より前記下地層側にある第1領域が、前記積層方向において前記第1強磁性層の前記第2方向の幅が最短となる位置より前記非磁性層側にある第2領域より濃くてもよい。
【0018】
(12)上記態様にかかる磁壁移動素子は、前記第1方向に前記非磁性層を挟み、前記下地層を介して前記第1強磁性層と電気的に接続された第1導電部と第2導電部とを有し、前記第1導電部及び前記第2導電部のそれぞれの前記第2方向の幅は、前記第1強磁性層の前記第2方向の幅より広く、前記下地層のミリングレートは、前記第1導電部及び前記第2導電部のミリングレートより遅くてもよい。
【0019】
(13)上記態様にかかる磁壁移動素子は、前記第2強磁性層の前記第2方向の側方に、前記第2強磁性層と異なる金属層をさらに備えてもよい。
【0020】
(14)第2の態様にかかる磁気記録アレイは、上記態様に係る磁壁移動素子を複数有する。
【発明の効果】
【0021】
上記態様にかかる磁壁移動素子及び磁気記録アレイは、信頼性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第1実施形態に係る磁気記録アレイの構成図である。
【
図2】第1実施形態に係る磁気記録アレイの特徴部の断面図である。
【
図3】第1実施形態に係る磁壁移動素子のxz断面図である。
【
図4】第1実施形態に係る磁壁移動素子の平面図である。
【
図5】第1実施形態に係る磁壁移動素子のx方向の中央におけるyz断面図である。
【
図6】第1実施形態に係る磁壁移動素子の第1導電部におけるyz断面図である。
【
図7】第1実施形態に係る磁壁移動素子を作製する際のスリミングを説明するための模式図である。
【
図8】第1変形例に係る磁壁移動素子のx方向の中央におけるyz断面図である。
【
図9】第2変形例に係る磁壁移動素子のx方向の中央におけるyz断面図である。
【
図10】第3変形例に係る磁壁移動素子のx方向の中央におけるyz断面図である。
【
図11】第1実施形態に係る磁壁移動素子のxz断面図である。
【
図12】第1実施形態に係る磁壁移動素子のx方向の中央におけるyz断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0024】
まず方向について定義する。x方向及びy方向は、後述する基板Sub(
図2参照)の一面と略平行な方向である。x方向は、後述する第1強磁性層10が延びる方向であり、後述する第1導電部51から第2導電部52へ向かう方向である。y方向は、x方向と直交する方向である。z方向は、後述する基板Subから磁壁移動素子100へ向かう方向である。z方向は積層方向の一例である。また本明細書で「x方向に延びる」とは、例えば、x方向、y方向、及びz方向の各寸法のうち最小の寸法よりもx方向の寸法が大きいことを意味する。他の方向に延びる場合も同様である。
【0025】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態にかかる磁気記録アレイの構成図である。磁気記録アレイ200は、複数の磁壁移動素子100と、複数の第1配線Wp1~Wpnと、複数の第2配線Cm1~Cmnと、複数の第3配線Rp1~Rpnと、複数の第1スイッチング素子110と、複数の第2スイッチング素子120と、複数の第3スイッチング素子130とを備える。磁気記録アレイ200は、例えば、磁気メモリ、積和演算器、ニューロモーフィックデバイスに利用できる。
【0026】
<第1配線、第2配線、第3配線>
第1配線Wp1~Wpnは、書き込み配線である。第1配線Wp1~Wpnは、電源と1つ以上の磁壁移動素子100とを電気的に接続する。電源は、使用時に磁気記録アレイ200の一端に接続される。
【0027】
第2配線Cm1~Cmnは、共通配線である。共通配線は、データの書き込み時及び読み出し時の両方に用いることができる配線である。第2配線Cm1~Cmnは、基準電位と1つ以上の磁壁移動素子100とを電気的に接続する。基準電位は、例えば、グラウンドである。第2配線Cm1~Cmnは、複数の磁壁移動素子100のそれぞれに設けられてもよいし、複数の磁壁移動素子100に亘って設けられてもよい。
【0028】
第3配線Rp1~Rpnは、読み出し配線である。第3配線Rp1~Rpnは、電源と1つ以上の磁壁移動素子100とを電気的に接続する。電源は、使用時に磁気記録アレイ200の一端に接続される。
【0029】
<第1スイッチング素子、第2スイッチング素子、第3スイッチング素子>
図1に示す第1スイッチング素子110、第2スイッチング素子120、第3スイッチング素子130は、複数の磁壁移動素子100のそれぞれに接続されている。第1スイッチング素子110は、磁壁移動素子100のそれぞれと第1配線Wp1~Wpnとの間に接続されている。第2スイッチング素子120は、磁壁移動素子100のそれぞれと第2配線Cm1~Cmnとの間に接続されている。第3スイッチング素子130は、磁壁移動素子100のそれぞれと第3配線Rp1~Rpnとの間に接続されている。
【0030】
第1スイッチング素子110及び第2スイッチング素子120をONにすると、所定の磁壁移動素子100に接続された第1配線Wp1~Wpnと第2配線Cm1~Cmnとの間に書き込み電流が流れる。第1スイッチング素子110及び第3スイッチング素子130をONにすると、所定の磁壁移動素子100に接続された第2配線Cm1~Cmnと第3配線Rp1~Rpnとの間に読み出し電流が流れる。
【0031】
第1スイッチング素子110、第2スイッチング素子120及び第3スイッチング素子130は、電流の流れを制御する素子である。第1スイッチング素子110、第2スイッチング素子120及び第3スイッチング素子130は、例えば、トランジスタ、オボニック閾値スイッチ(OTS:Ovonic Threshold Switch)のように結晶層の相変化を利用した素子、金属絶縁体転移(MIT)スイッチのようにバンド構造の変化を利用した素子、ツェナーダイオード及びアバランシェダイオードのように降伏電圧を利用した素子、原子位置の変化に伴い伝導性が変化する素子である。
【0032】
第1スイッチング素子110、第2スイッチング素子120、第3スイッチング素子130のいずれかは、同じ配線に接続された磁壁移動素子100で、共用してもよい。例えば、第1スイッチング素子110を共有する場合は、第1配線Wp1~Wpnの上流に一つの第1スイッチング素子110を設ける。例えば、第2スイッチング素子120を共有する場合は、第2配線Cm1~Cmnの上流に一つの第2スイッチング素子120を設ける。例えば、第3スイッチング素子130を共有する場合は、第3配線Rp1~Rpnの上流に一つの第3スイッチング素子130を設ける。
【0033】
図2は、第1実施形態に係る磁気記録アレイ200の特徴部の断面図である。
図2は、
図1における一つの磁壁移動素子100を第1強磁性層10のy方向の幅の中心を通るxz平面で切断した断面である。
【0034】
図2に示す第1スイッチング素子110及び第2スイッチング素子120は、トランジスタTrである。トランジスタTrは、ゲート電極Gと、ゲート絶縁膜GIと、基板Subに形成されたソース領域S及びドレイン領域Dと、を有する。基板Subは、例えば、半導体基板である。第3スイッチング素子130は、電極Eと電気的に接続され、例えば、紙面奥行き方向(+y方向)に位置する。
【0035】
トランジスタTrのそれぞれと磁壁移動素子100とは、配線Wを介して、電気的に接続されている。配線Wは、導電性を有する材料を含む。配線Wは、例えば、z方向に延びる。配線Wは、例えば、絶縁層Inの開口部に形成されたビア配線である。
【0036】
磁壁移動素子100とトランジスタTrとは、配線Wを除いて、絶縁層Inによって電気的に分離されている。絶縁層Inは、多層配線の配線間や素子間を絶縁する絶縁層である。絶縁層Inは、例えば、酸化シリコン(SiOx)、窒化シリコン(SiNx)、炭化シリコン(SiC)、窒化クロム、炭窒化シリコン(SiCN)、酸窒化シリコン(SiON)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ジルコニウム(ZrOx)等である。
【0037】
「磁壁移動素子」
図3は、磁壁移動素子100を第1強磁性層10のy方向の中心を通るxz平面で切断した断面図である。
図4は、磁壁移動素子100をz方向から平面視した図である。
図5は、磁壁移動素子100のx方向の中央を通るyz平面で切断した断面図である。
図5は、
図4のA-A線に沿って磁壁移動素子100を切断した断面である。
図6は、磁壁移動素子100の第1導電部51を通るyz平面で切断した断面図である。
図6は、
図4のB-B線に沿って磁壁移動素子100を切断した断面である。
【0038】
磁壁移動素子100は、例えば、第1強磁性層10と第2強磁性層20と非磁性層30と下地層40と第1導電部51と第2導電部52とを有する。例えば、基板Subに近い側から第1強磁性層10、非磁性層30、第2強磁性層20の順に積層されている。第1強磁性層10と非磁性層30との間及び非磁性層30と第2強磁性層20との間に、他の層が挿入されていてもよい。磁壁移動素子100にデータを書き込む際は、第1導電部51と第2導電部52との間の第1強磁性層10に書き込み電流を流す。磁壁移動素子100からデータを読み出す際は、第1導電部51又は第2導電部52と第2強磁性層20との間に読み出し電流を流す。
【0039】
「第1強磁性層」
第1強磁性層10は、x方向に延びる。第1強磁性層10は、書き込み電流が通電される。第1強磁性層10は、例えば、z方向からの平面視で、x方向が長軸、y方向が短軸の矩形である。第1強磁性層10は、例えば、第2強磁性層20より基板Sub側にある。書き込み電流は、第1強磁性層10に沿って、第1導電部51から第2導電部52に向って、又は、第2導電部52から第1導電部51に向って流れる。
【0040】
第1強磁性層10は、内部の磁気的な状態の変化により情報を磁気記録可能な層である。第1強磁性層10は、磁気記録層、磁壁移動層と呼ばれる場合がある。
【0041】
図3に示すように第1強磁性層10は、例えば、磁化固定領域11、12と磁壁移動領域13とを有する。磁壁移動領域13は、例えば、x方向に、二つの磁化固定領域11、12に挟まれる。
【0042】
磁化固定領域11は、z方向から見て、第1強磁性層10の第1導電部51と重なる領域である。磁化固定領域12は、z方向から見て、第1強磁性層10の第2導電部52と重なる領域である。磁化固定領域11、12の磁化M11、M12は、磁壁移動領域13の磁化M13A、M13Bより磁化反転しにくく、磁壁移動領域13の磁化M13A、M13Bが反転する閾値の外力を印加しても磁化反転しない。そのため、磁化固定領域11、12の磁化M11、M12は、磁壁移動領域13の磁化M13A、M13Bに対して固定されていると言われる。
【0043】
磁化固定領域11の磁化M11と、磁化固定領域12の磁化M12とは異なる方向に配向している。磁化固定領域11の磁化M11と、磁化固定領域12の磁化M12とは、例えば、反対方向に配向している。磁化固定領域11の磁化M11は例えば+z方向に配向し、磁化固定領域12の磁化M12は例えば-z方向に配向している。
【0044】
磁壁移動領域13は、第1磁区13Aと第2磁区13Bとからなる。第1磁区13Aは、磁化固定領域11に隣接する。第1磁区13Aの磁化M13Aは、磁化固定領域11の磁化M11の影響を受けて、例えば、磁化固定領域11の磁化M11と同じ方向に配向する。第2磁区13Bは、磁化固定領域12に隣接する。第2磁区13Bの磁化M13Bは、磁化固定領域12の磁化M12の影響を受けて、例えば、磁化固定領域12の磁化M12と同じ方向に配向する。そのため、第1磁区13Aの磁化M13Aと第2磁区13Bの磁化M13Bとは、異なる方向に配向する。第1磁区13Aの磁化M13Aと第2磁区13Bの磁化M13Bとは、例えば、反対方向に配向する。
【0045】
第1磁区13Aと第2磁区13Bとの境界が磁壁DWである。磁壁DWは、磁壁移動領域13内を移動する。磁壁DWは、原則、磁化固定領域11、12には侵入しない。
【0046】
磁壁移動領域13において磁壁DWは、磁壁移動領域13のx方向に書き込み電流を流すことによって移動する。例えば、磁壁移動領域13に+x方向の書き込み電流(例えば、電流パルス)を印加すると、電子は電流と逆の-x方向に流れるため、磁壁DWは-x方向に移動する。第1磁区13Aから第2磁区13Bに向って電流が流れる場合、第2磁区13Bでスピン偏極した電子は、第1磁区13Aの磁化M13Aを磁化反転させる。第1磁区13Aの磁化M13Aが磁化反転することで、磁壁DWは-x方向に移動する。磁壁移動領域13において磁壁が移動すると、第1磁区13Aと第2磁区13Bとの比率が変化する。
【0047】
磁壁移動領域13において、磁壁DWが移動し、第1磁区13Aと第2磁区13Bとの比率が変化すると、第1磁区13Aと第2磁区13Bとの比率に応じて磁壁移動素子100の抵抗が変化する。また磁壁移動素子100の抵抗値は、磁壁DWの位置を段階的に移動させると段階的に変化し、磁壁DWの位置を連続的に移動させると連続的に変化する。抵抗値が段階的に変化する磁壁移動素子100は、多値のデータを扱うのに適している。抵抗値が連続的に変化する磁壁移動素子100は、アナログなデータを扱うのに適している。
【0048】
図5及び
図6に示すように、第1強磁性層10のy方向の最短幅L10minは、非磁性層30のy方向の幅L30より短い。非磁性層30のy方向の幅L30は、y方向の幅の平均値であり、例えばz方向の位置によってy方向の幅が変化する場合は、これらの平均値を意味する。
【0049】
図5及び
図6に示す第1強磁性層10のy方向の幅は、z方向の位置によって異なる。例えば、第1強磁性層10の第1面10aと第2面10bとはy方向の幅が異なる。第1面10aは、第1強磁性層10の非磁性層30側の面である。第2面10bは、第1強磁性層10の第1面10aと反対側の面である。
【0050】
図5及び
図6に示す第1面10aのy方向の幅は、非磁性層30のy方向の幅L30と同じである。
図5及び
図6に示す第1強磁性層10のy方向の幅は、第1面10aから第2面10bに向かうに従い狭くなり、最短幅L10minに至ったのち、広くなっていく。最短幅L10minとなる位置は、例えば、第1強磁性層10のz方向の中央より非磁性層30側である。
図5及び
図6に示す第1強磁性層10のy方向の幅は、第2面10bにおいて最長となる。
図5及び
図6に示す第2面10bのy方向の幅は、非磁性層30のy方向の幅L30より長い。第1強磁性層10のy方向の最長幅L10maxは、例えば、非磁性層30のy方向の幅L30より長い。
【0051】
図5及び
図6に示す第1強磁性層10のy方向の側面は、z方向に対してy方向に傾斜している。第1強磁性層10のy方向の側面は、第1傾斜面s1と第2傾斜面s2とに区分できる。第1傾斜面s1は、第1強磁性層10の側面の基板Sub側の下端を基準に、第1強磁性層10のy方向中央に向かって傾斜する傾斜面である。第2傾斜面s2は、第1強磁性層10の側面の非磁性層30側の上端を基準に、第1強磁性層10のy方向中央に向かって傾斜する傾斜面である。第2傾斜面s2は、第1傾斜面s1に対してオーバハングしている。
【0052】
第1傾斜面s1と第2傾斜面s2とは、第1強磁性層10の側面の接線のz方向に対する傾きがゼロとなる変曲点p1を挟む。変曲点p1は、非磁性層30のy方向の端部より内側にある。第1強磁性層10のy方向の側面は、例えば、非磁性層30のy方向の端部からz方向に下した仮想面に対して窪んでいる。
【0053】
第1強磁性層10は、磁性体により構成される。第1強磁性層10は、Co、Ni、Fe、Pt、Pd、Gd、Tb、Mn、Ge、Gaからなる群から選択される少なくとも一つの元素を有することが好ましい。第1強磁性層10に用いられる材料として、例えば、CoとNiの積層膜、CoとPtの積層膜、CoとPdの積層膜、MnGa系材料、GdCo系材料、TbCo系材料が挙げられる。MnGa系材料、GdCo系材料、TbCo系材料等のフェリ磁性体は飽和磁化が小さく、磁壁DWを移動するために必要な閾値電流が小さくなる。またCoとNiの積層膜、CoとPtの積層膜、CoとPdの積層膜は、保磁力が大きく、磁壁DWの移動速度が遅くなる。
【0054】
第1強磁性層10は、下地層40を構成する元素を含んでもよい。元素の存在比は、例えば、z方向において第1強磁性層10が最短幅L10minとなる位置より下地層40側にある第1領域R1が、z方向において第1強磁性層10が最短幅L10minとなる位置より非磁性層30側にある第2領域R2より濃い。
【0055】
「非磁性層」
非磁性層30は、例えば、第1強磁性層10に接する。非磁性層30は、第1強磁性層10上にある。非磁性層30は、第1強磁性層10と第2強磁性層20との間にある。
【0056】
非磁性層30は、例えば、非磁性の絶縁体、半導体又は金属からなる。非磁性の絶縁体は、例えば、Al2O3、SiO2、MgO、MgAl2O4、およびこれらのAl、Si、Mgの一部がZn、Be等に置換された材料である。これらの材料は、バンドギャップが大きく、絶縁性に優れる。非磁性層30が非磁性の絶縁体からなる場合、非磁性層30はトンネルバリア層である。非磁性の金属は、例えば、Cu、Au、Ag等である。非磁性の半導体は、例えば、Si、Ge、CuInSe2、CuGaSe2、Cu(In,Ga)Se2等である。
【0057】
非磁性層30のミリングレートは、例えば、第1強磁性層10のミリングレートより遅い。ミリングレートは、ドライエッチングに対するミリングレートである。ドライエッチングには、例えばイオンビームエッチングを使用する。イオンビームエッチングには、数百~数kVの電圧で加速された、ミリングには、例えばAr、Kr、Xe等の希ガス元素、またはそのイオンを使用できる。非磁性層30が酸化物の場合、金属である第1強磁性層10よりミリングレートが遅くなる場合が多い。
【0058】
非磁性層30の厚みは、20Å以上であることが好ましく、30Å以上であることがより好ましい。非磁性層30の厚みが厚いと、磁壁移動素子100の抵抗面積積(RA)が大きくなる。磁壁移動素子100の抵抗面積積(RA)は、1×104Ωμm2以上であることが好ましく、1×105Ωμm2以上であることがより好ましい。磁壁移動素子100の抵抗面積積(RA)は、一つの磁壁移動素子100の素子抵抗と磁壁移動素子100の素子断面積(非磁性層30をxy平面で切断した切断面の面積)の積で表される。
【0059】
また非磁性層30の厚みが厚い場合と、スリミング時における他の層とのミリングレートの違いにより非磁性層30の側壁に不純物が再付着しやすい傾向にある。非磁性層30のy方向の幅L30と第1強磁性層10のy方向の最短幅L10minとの関係を制御すると、非磁性層30の厚みが厚い場合でも、非磁性層30の側壁への不純物の再付着を抑制できる。
【0060】
「第2強磁性層」
第2強磁性層20は、非磁性層30上にある。第2強磁性層20は、一方向に配向した磁化M20を有する。第2強磁性層20の磁化M20は、所定の外力が印加された際に磁壁移動領域13の磁化M13A、M13Bよりも磁化反転しにくい。所定の外力は、例えば外部磁場により磁化に印加される外力や、スピン偏極電流により磁化に印加される外力である。第2強磁性層20は、磁化固定層、磁化参照層と呼ばれることがある。
【0061】
第2強磁性層20の磁化と磁壁移動領域13の磁化M13A、M13Bとの相対角の違いにより、磁壁移動素子100の抵抗値は変化する。第1磁区13Aの磁化M13Aは、例えば第2強磁性層20の磁化M20と同じ方向(平行)であり、第2磁区13Bの磁化M13Bは、例えば第2強磁性層20の磁化M20と反対方向(反平行)である。z方向からの平面視で第2強磁性層20と重畳する部分における第1磁区13Aの面積が広くなると、磁壁移動素子100の抵抗値は低くなる。反対に、z方向からの平面視で第2強磁性層20と重畳する部分における第2磁区13Bの面積が広くなると、磁壁移動素子100の抵抗値は高くなる。
【0062】
第2強磁性層20は、強磁性体を含む。第2強磁性層20は、例えば、第1強磁性層10との間で、コヒーレントトンネル効果を得やすい材料を含む。第2強磁性層20は、例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、これらの金属を1種以上含む合金、これらの金属とB、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とが含まれる合金等を含む。第2強磁性層20は、例えば、Co-Fe、Co-Fe-B、Ni-Feである。
【0063】
第2強磁性層20は、例えば、ホイスラー合金でもよい。ホイスラー合金はハーフメタルであり、高いスピン分極率を有する。ホイスラー合金は、XYZ又はX2YZの化学組成をもつ金属間化合物であり、Xは周期表上でCo、Fe、Ni、あるいはCu族の遷移金属元素または貴金属元素であり、YはMn、V、CrあるいはTi族の遷移金属又はXの元素種であり、ZはIII族からV族の典型元素である。ホイスラー合金として例えば、Co2FeSi、Co2FeGe、Co2FeGa、Co2MnSi、Co2Mn1-aFeaAlbSi1-b、Co2FeGe1-cGac等が挙げられる。
【0064】
第2強磁性層20の膜厚は、第2強磁性層20の磁化容易軸をz方向とする(垂直磁化膜にする)場合は、1.5nm以下とすることが好ましく、1.0nm以下とすることがより好ましい。第2強磁性層20の膜厚を薄くすると、第2強磁性層20と他の層(非磁性層30)との界面で、第2強磁性層20に垂直磁気異方性(界面垂直磁気異方性)が付加され、第2強磁性層20の磁化がz方向に配向しやすくなる。
【0065】
第2強磁性層20の磁化容易軸をz方向とする(垂直磁化膜にする)場合は、第2強磁性層20をCo、Fe、Niからなる群から選択された強磁性体とPt、Pd、Ru、Rhからなる群から選択された非磁性体との積層体とすることが好ましく、Ir、Ruからなる群から選択された中間層を積層体のいずれかの位置に挿入することがより好ましい。強磁性体と非磁性体を積層すると垂直磁気異方性を付加することができ、中間層を挿入することによって第2強磁性層20の磁化がz方向に配向しやすくなる。
【0066】
第2強磁性層20の非磁性層30と反対側の面に、スペーサ層を介して、反強磁性層を設けてもよい。第2強磁性層20、スペーサ層、反強磁性層は、シンセティック反強磁性構造(SAF構造)となる。シンセティック反強磁性構造は、非磁性層を挟む二つの磁性層からなる。第2強磁性層20と反強磁性層とが反強磁性カップリングするとことで、反強磁性層を有さない場合より第2強磁性層20の保磁力が大きくなる。反強磁性層は、例えば、IrMn,PtMn等である。スペーサ層は、例えば、Ru、Ir、Rhからなる群から選択される少なくとも一つを含む。
【0067】
下地層40は、第1強磁性層10の非磁性層30と反対側にある。下地層40は、z方向に磁壁移動領域13と重なる位置にのみあってもよい。
【0068】
下地層40は非磁性体からなる。下地層40は、例えば、第1強磁性層10の結晶構造を規定する。下地層40の結晶構造により第1強磁性層10の結晶性が高まり、第1強磁性層10の磁化の配向性が高まる。下地層40の結晶構造は、例えば、アモルファス、(001)配向したNaCl構造、ABO3の組成式で表される(002)配向したペロブスカイト構造、(001)配向した正方晶構造または立方晶構造である。
【0069】
下地層40は、導体又は絶縁体である。下地層40は、導体であることが好ましい。下地層40が導体の場合、下地層40の厚みは、第1強磁性層10の厚みより薄いことが好ましい。下地層40は、例えば、Ta、Ru、Pt、Ir、Rh、W、Pd、Cu、Au、Cuを含む。下地層40は、例えば、Ta層、Pt層、Ta層とPt層との積層体である。
【0070】
下地層40は、例えば、第1強磁性層10よりもミリングレートが遅い。また下地層40は、例えば、第1導電部51、第2導電部52よりもミリングレートが遅い。例えば、下地層40がAl、Cr、Mg、Ta、Ti、Wから選択される1以上の元素を含み、第1強磁性層10がCo、Fe、Ni、Pt、Pd、Ir、Rhから選択される1以上の元素を含み、第1導電部51及び第2導電部52がAu、Cu、Ruから選択される1以上の元素を含む合金又は積層体の場合に上記関係を満たす。具体的には、例えば、下地層がTa又はTaとPtとの積層膜、第1強磁性層10がCoとPtとの積層膜、第1導電部51及び第2導電部52がAuの場合があげられる。
【0071】
下地層40の厚みは、例えば、xy面内において略一定である。下地層40の平均厚みは、例えば、50Å以下である。平均厚みは、下地層40をx方向に等間隔に10分割するそれぞれのx方向の位置で測定した下地層40の厚みの平均値である。
【0072】
「第1導電部及び第2強磁性部」
第1導電部51及び第2導電部52は、第1強磁性層10と電気的に接続される。第1導電部51及び第2導電部52は、例えば、
図6に示すように下地層40を介して接続される。第1導電部51及び第2導電部52は、第1強磁性層10に直接接続されてもよい。第1導電部51は、例えば第1強磁性層10の第1端部に接続され、第2導電部52は、例えば第1強磁性層10の第2端部に接続される。第1導電部51及び第2導電部52は、例えば、配線Wと第1強磁性層10との接続部である。
【0073】
第1導電部51及び第2導電部52は、柱状体である。
図4に示す第1導電部51及び第2導電部52は、z方向からの平面視形状が矩形である。第1導電部51及び第2導電部52のz方向からの平面視形状は問わず、円形、楕円形、不定形でもよい。第1導電部51及び第2導電部52のy方向の幅は、例えば、第1強磁性層10、非磁性層30のy方向の幅より広い。第1導電部51及び第2導電部52の上面は、例えば、エッチングされ、xy平面に対して窪んでいる。
【0074】
第1導電部51及び第2導電部52は、導電性を有する材料からなる。第1導電部51及び第2導電部52は、例えば、磁性体を含む。第1導電部51及び第2導電部52は、は、例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、これらの金属を1種以上含む合金、これらの金属とB、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とが含まれる合金等を含む。第1導電部51及び第2導電部52は、は、例えば、Co-Fe、Co-Fe-B、Ni-Fe等である。また第1導電部51及び第2導電部52は、の磁化容易軸をz方向とする(垂直磁化膜にする)場合は、第1導電部51及び第2導電部52は、をCo、Fe、Niからなる群から選択された強磁性体とPt、Pd、Ru、Rhからなる群から選択された非磁性体との積層体とすることが好ましい。また第1導電部51及び第2導電部52は、シンセティック反強磁性構造(SAF構造)でもよい。シンセティック反強磁性構造は、非磁性層を挟む二つの磁性層からなる。二つの磁性層はそれぞれ磁化が固定されており、固定された磁化の向きは反対である。
【0075】
第1導電部51が磁性体を含む場合、第1導電部51の磁化M51は、一方向に配向する。磁化M51は、例えば、+z方向に配向する。第1導電部51は、磁化固定領域11の磁化M11を固定する。第1導電部51の磁化M51と磁化固定領域11の磁化M11とは、例えば、同じ方向に配向する。
【0076】
第2導電部52が磁性体を含む場合、第2導電部52の磁化M52は、第1導電部51の磁化M51と異なる方向に配向する。磁化M52は、例えば、-z方向に配向する。この場合、第2導電部52は、磁化固定領域12の磁化M12を固定し、第2導電部52の磁化M52と磁化固定領域12の磁化M12とは、例えば、同じ方向に配向する。
【0077】
磁壁移動素子100の各層の磁化の向きは、例えば磁化曲線を測定することにより確認できる。磁化曲線は、例えば、MOKE(Magneto Optical Kerr Effect)を用いて測定できる。MOKEによる測定は、直線偏光を測定対象物に入射させ、その偏光方向の回転等が起こる磁気光学効果(磁気Kerr効果)を用いることにより行う測定方法である。
【0078】
次いで、磁気記録アレイ200の製造方法について説明する。磁気記録アレイ200は、各層の積層工程と、各層の一部を所定の形状に加工する加工工程により形成される。各層の積層は、スパッタリング法、化学気相成長(CVD)法、電子ビーム蒸着法(EB蒸着法)、原子レーザデポジッション法等を用いることができる。各層の加工は、フォトリソグラフィー等を用いて行うことができる。
【0079】
まず基板Subの所定の位置に、不純物をドープしソース領域S、ドレイン領域Dを形成する。次いで、ソース領域Sとドレイン領域Dとの間に、ゲート絶縁膜GI、ゲート電極Gを形成する。ソース領域S、ドレイン領域D、ゲート絶縁膜GI及びゲート電極GがトランジスタTrとなる。
【0080】
次いで、トランジスタTrを覆うように絶縁層Inを形成する。また絶縁層Inに開口部を形成し、開口部内に導電体を充填することで配線Wが形成される。第1配線Wp、第2配線Cmは、絶縁層Inを所定の厚みまで積層した後、絶縁層Inに溝を形成し、溝に導電体を充填することで形成される。
【0081】
第1導電部51及び第2導電部52は、例えば、絶縁層In及び配線Wの一面に、強磁性層を積層し、第1導電部51及び第2導電部52となる部分以外を除去することで形成できる。除去された部分は、例えば、絶縁層Inで埋める。
【0082】
次いで、第1導電部51、第2導電部52及び絶縁層In上に、下地層40、第1強磁性層10、非磁性層30を順に積層する。そして、非磁性層30の上の一部にレジストを形成する。次いで、レジストを介して、z方向からドライエッチングを行うことで、下地層40、第1強磁性層10、非磁性層30を加工する。加工後の積層体のyz断面形状は、矩形又は台形となる。
【0083】
次いで、積層体の第1強磁性層10を狙って、斜め方向からイオンビームを照射する。イオンビームの照射により第1強磁性層10が積層体のy方向の中央に向かって窪む。その後、第1強磁性層10と重なる位置に第2強磁性層20を積層する。
【0084】
最後に、イオンビームのxy平面に対する照射角をより小さくし、積層体の横方向からイオンビームを照射することで、積層体全体をスリミングする。スリミングにより積層体は微細化される。最後に積層体の周囲を絶縁層Inで埋めることで、磁壁移動素子100が得られる。
【0085】
第1実施形態に係る磁壁移動素子100は、スリミング時に非磁性層30の側面に不純物が再付着しにくい。この理由について、
図7を用いて説明する。
図7は、第1実施形態に係る磁壁移動素子100を作製する際のスリミングを説明するための模式図である。
【0086】
上述のように、スリミング時には、下地層40、第1強磁性層10、非磁性層30及び第2強磁性層20からなる積層体に対してy方向からイオンビームIBが照射される。イオンビームIBをy方向と平行に照射することは難しく、イオンビームIBはxy平面に対してz方向にわずかに傾いた方向から照射される。例えば、第1強磁性層10にイオンビームIBが照射されると、第1強磁性層10に含まれる金属粒子がパーティクルptとして飛散する。
【0087】
第1実施形態に係る磁壁移動素子100は、第1強磁性層10のy方向の最短幅L10minが非磁性層30のy方向の幅L30より短いため、非磁性層30がカバーとなり、パーティクルptが非磁性層30の側壁に再付着することが抑制される。
【0088】
また第1強磁性層10が第2傾斜面s2を有すると、第2傾斜面s2が第1傾斜面s1に対してオーバーハングしているため、パーティクルptが非磁性層30の側壁に至ることをより抑制できる。また第1強磁性層10のy方向の幅が最短となる位置が、第1強磁性層10のz方向の中央より非磁性層30側にあると、非磁性層30に近い部分が内側に向かって窪むことになり、パーティクルptが非磁性層30の側壁に至ることをより抑制できる。
【0089】
また非磁性層30及び下地層40のミリングレートを第1強磁性層10より遅くすると、スリミングが進むほど、第1強磁性層10の側面が非磁性層30及び下地層40の側面に対して内側に入っていく。そのため、非磁性層30がカバーとなり、パーティクルptが非磁性層30の側壁に再付着することがより抑制される。また下地層40のミリングレートを第1導電部51及び第2導電部52のミリングレートより遅くすると、下地層40がカバーとなり、第1導電部51又は第2導電部52から飛散したパーティクルptが非磁性層30の側壁に至ることをより抑制できる。
【0090】
また第1強磁性層10が下地層40を構成する元素を含むと、第1強磁性層10から飛散するパーティクルptの量を少なくできる。また第1領域R1における下地層40を構成する元素の存在比を第2領域R2より濃くすることで、パーティクルptが非磁性層30まで至る経路を確保しやすい第1領域R1からのパーティクルptの発生を抑制できる。
【0091】
パーティクルが付着して形成される不純物は、磁壁移動素子100のMR比を低下させ、場合によっては第1強磁性層10と第2強磁性層20とを短絡させる。第1実施形態に係る磁壁移動素子100は、非磁性層30の側壁への不純物付着を低減できるため、信頼性が高い。
【0092】
以上、第1実施形態に係る磁気記録アレイ200及び磁壁移動素子100の一例について詳述したが、第1実施形態に係る磁気記録アレイ200及び磁壁移動素子100は、本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0093】
(第1変形例)
図8は、第1変形例に係る磁壁移動素子101のx方向の中央におけるyz断面図である。磁壁移動素子101は、第1強磁性層10の側面の形状が磁壁移動素子100と異なる。磁壁移動素子101において磁壁移動素子100と同様の構成については、同様の符号を付し、説明を省く。
【0094】
図8に示す第1強磁性層10のy方向の側面は、z方向に対してy方向に傾斜する傾斜面s3である。傾斜面s3は、第1強磁性層10の側面の非磁性層30側の上端を基準に、第1強磁性層10のy方向中央から離れるように傾斜する傾斜面である。
【0095】
図8に示す第1面10aのy方向の幅は、非磁性層30のy方向の幅L30より短い。
図8に示す第1強磁性層10のy方向の幅は、第1面10aから第2面10bに向かうに従い広がる。
図8に示す第1強磁性層10のy方向の幅は、第1面10aにおいて最短となり、第2面10bにおいて最長となる。
【0096】
第1変形例に係る磁壁移動素子101は、第1強磁性層10のy方向の側面の一部が、非磁性層30より内側にある。そのため、非磁性層30が庇となり、第1強磁性層10から飛散したパーティクルptが非磁性層30の側壁に再付着することを抑制できる。
【0097】
(第2変形例)
図9は、第2変形例に係る磁壁移動素子102のx方向の中央におけるyz断面図である。磁壁移動素子102は、第1強磁性層10の側面の形状が磁壁移動素子100と異なる。磁壁移動素子102において磁壁移動素子100と同様の構成については、同様の符号を付し、説明を省く。
【0098】
第2変形例に係る磁壁移動素子102は、第1強磁性層10のy方向の幅が第2面10bにおいて最長となる点において磁壁移動素子100と同じだが、第2面10bのy方向の幅が、非磁性層30のy方向の幅L30より短い点で相違する。第2変形例に係る磁壁移動素子102は、例えば、第1強磁性層10のy方向の最長幅L10maxが非磁性層30のy方向の幅L30より短い。
【0099】
第2変形例に係る磁壁移動素子102は、第1強磁性層10のy方向の側面が、非磁性層30より内側にある。そのため、非磁性層30が庇となり、第1強磁性層10から飛散したパーティクルptが非磁性層30の側壁に再付着することを抑制できる。
【0100】
(第3変形例)
図10は、第3変形例に係る磁壁移動素子103のx方向の中央におけるyz断面図である。磁壁移動素子103は、第2強磁性層20の側面に金属層60を有する点が磁壁移動素子100と異なる。磁壁移動素子103において磁壁移動素子100と同様の構成については、同様の符号を付し、説明を省く。
【0101】
金属層60は、例えば、第2強磁性層20のy方向の側方にある。金属層60は、例えば、第2強磁性層20のy方向の側面に接している。第2強磁性層20と金属層60との間には別の層があってもよい。別の層は、例えば、酸化膜である。
【0102】
金属層60は、第2強磁性層20と連続していない。連続していないとは、透過型電子顕微鏡により界面が確認できることを意味する。金属層60は、第2強磁性層20と異なる。第2強磁性層20と異なるとは、材質又は組成が異なることを意味する。金属層60は、非磁性体でも磁性体でもよい。
【0103】
第3変形例に係る磁壁移動素子103は、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と同様の効果が得られる。また金属層60が第1強磁性層10より外側に向かって突出することで、磁壁移動素子103の放熱性が向上する。
【0104】
「第2実施形態」
図11は、第2実施形態に係る磁壁移動素子110を第1強磁性層70のy方向の中心を通るxz平面で切断した断面図である。
図12は、磁壁移動素子110のx方向の中央を通るyz平面で切断した断面図である。第2実施形態に係る磁壁移動素子110のz方向からの平面図は、
図4と同等である。
【0105】
磁壁移動素子110は、例えば、第1強磁性層70と第2強磁性層80と非磁性層30と下地層40と第1導電部51と第2導電部52とを有する。磁壁移動素子110において第1実施形態と同様の構成は、同様の符号を付す。第1強磁性層70は、第2強磁性層0より基板Sub側にある。
【0106】
磁壁移動素子110にデータを書き込む際は、第1導電部51と第2導電部52との間の第2強磁性層80に書き込み電流を流す。磁壁移動素子100からデータを読み出す際は、第1導電部51又は第2導電部52と第1強磁性層70との間に読み出し電流を流す。
【0107】
第1強磁性層70は、一方向に配向した磁化M70を有する。第1強磁性層70は、磁化固定層、磁化参照層である。第1強磁性層70は、機能的には第1実施形態に係る第2強磁性層20と同等である。磁壁移動素子110は、磁化固定層が基板Sub側にあるボトムピン構造である。第1強磁性層70は、第2強磁性層20と同様の材料を用いることができる。第1強磁性層70は、下地層40を構成する元素を含んでもよい。
【0108】
第2強磁性層80には、書き込み電流が通電される。第2強磁性層80は、機能的には第1実施形態に係る第1強磁性層10と同様である。第2強磁性層80は、第1強磁性層10と同様の材料を用いることができる。
【0109】
第2強磁性層80は、内部の磁気的な状態の変化により情報を磁気記録可能な層である。第2強磁性層80は、磁気記録層、磁壁移動層と呼ばれる場合がある。第2強磁性層80は、磁化固定領域81、82と磁壁移動領域83とを有する。磁化固定領域81の磁化M81と磁化固定領域82の磁化M82とは、反対方向に配向する。磁壁移動領域83は、第1磁区83Aと第2磁区83Bとを有する。第1磁区83Aと第2磁区83Bとの境界が磁壁DWである。磁壁DWを挟んで、磁化M83Aと磁化M84Aとは反対方向に配向する。
【0110】
図12に示すように、第1強磁性層70のy方向の最短幅L70minは、非磁性層30のy方向の幅L30より短い。第1強磁性層70のy方向の幅は、z方向の位置によって異なる。例えば、第1強磁性層70の第1面70aと第2面70bとはy方向の幅が異なる。第1強磁性層70のy方向の幅は、第1面10aから第2面10bに向かうに従い狭くなり、最短幅L70minに至ったのち、広くなっていく。最短幅L70minとなる位置は、例えば、第1強磁性層10のz方向の中央より非磁性層30側である。第1強磁性層70のy方向の最長幅L70maxは、例えば、非磁性層30のy方向の幅L30より長い。
【0111】
第1強磁性層70のy方向の側面は、例えば、z方向に対してy方向に傾斜している。第1強磁性層70のy方向の側面は、第1傾斜面s1と第2傾斜面s2とに区分できる。第1強磁性層70のy方向の側面は、例えば、非磁性層30のy方向の端部からz方向に下した仮想面に対して窪んでいる。
【0112】
非磁性層30のミリングレートは、例えば、第1強磁性層70のミリングレートより遅い。下地層40は、例えば、第1強磁性層70よりもミリングレートが遅い。
【0113】
第2実施形態に係る磁壁移動素子110は、第1強磁性層70のy方向の最短幅L70minが非磁性層30のy方向の幅L30より短いため、非磁性層30がカバーとなり、パーティクルptが非磁性層30の側壁に再付着することが抑制される。第2実施形態に係る磁壁移動素子110は、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と同様の効果を奏する。また第2実施形態に係る磁壁移動素子110は、第1実施形態と同様の変形例を選択し得る。
【0114】
以上、本発明の好ましい実施の形態についてそれぞれ詳述した。それぞれの実施形態及び変形例における特徴的な構成は、それぞれ組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0115】
10、70 第1強磁性層
10a、70a 第1面
10b、70b 第2面
20、80 第2強磁性層
30 非磁性層
40 下地層
51 第1導電部
52 第2導電部
60 金属層
100、101、102、103,110 磁壁移動素子
200 磁気記録アレイ
L10max 最長幅
L10min 最短幅
L30 幅
R1 第1領域
R2 第2領域
s1 第1傾斜面
s2 第2傾斜面
s3 傾斜面