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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】対向ピストンエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02B 23/06 20060101AFI20241112BHJP
   F02B 75/28 20060101ALI20241112BHJP
   F02F 3/26 20060101ALI20241112BHJP
   F02F 1/00 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
F02B23/06 T
F02B75/28 E
F02F3/26 C
F02F1/00 Q
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021053560
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022150793
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓太
(72)【発明者】
【氏名】小柴 勇紀
(72)【発明者】
【氏名】田中 健吾
(72)【発明者】
【氏名】首藤 進太郎
(72)【発明者】
【氏名】森 匡史
(72)【発明者】
【氏名】菅田 成俊
(72)【発明者】
【氏名】上田 哲司
【審査官】齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0036999(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0254261(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102012011159(DE,A1)
【文献】特開平02-215957(JP,A)
【文献】特表2018-513936(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 23/06
F02B 75/28
F02F 3/26
F02F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、
前記シリンダの内部における軸方向の一方側に配置された一方側ピストンと、
前記シリンダの内部における前記軸方向の他方側に配置された他方側ピストンと、を備え、
前記一方側ピストンの頂面には、中央側に凹んで形成された一方側キャビティが形成され、
前記他方側ピストンの頂面には、中央側に凹んで形成された他方側キャビティが形成され、
前記一方側ピストンの前記頂面の直径をD1としたときに、前記一方側キャビティの外周縁は、前記一方側ピストンの前記頂面の外周縁から全周に亘って0.1D1以上離れており、
前記他方側ピストンの前記頂面の直径をD2としたときに、前記他方側キャビティの外周縁は、前記他方側ピストンの前記頂面の外周縁から全周に亘って0.1D2以上離れており、
前記一方側ピストンには、前記一方側キャビティの前記外周縁から前記一方側ピストンの前記頂面の前記外周縁までに亘り延在する一方側燃料噴射溝が形成され、
前記一方側燃料噴射溝は、前記シリンダの内部に形成されるスワール流の流れ方向の上流側の溝高さが、前記スワール流の流れ方向の下流側の溝高さよりも高い
対向ピストンエンジン。
【請求項2】
前記他方側ピストンには、前記他方側キャビティの前記外周縁から前記他方側ピストンの前記頂面の前記外周縁までに亘り延在する他方側燃料噴射溝が形成され、
前記他方側燃料噴射溝は、前記スワール流の流れ方向の上流側の溝高さが、前記スワール流の流れ方向の下流側の溝高さよりも高い、
請求項に記載の対向ピストンエンジン。
【請求項3】
前記一方側燃料噴射溝は、前記他方側燃料噴射溝に対して前記シリンダの軸心を挟んで対向するように周方向にずらされて配置された、
請求項に記載の対向ピストンエンジン。
【請求項4】
前記シリンダの内部における前記一方側ピストンと前記他方側ピストンとの間に燃料を噴射するように構成された少なくとも1つの燃料噴射装置をさらに備え、
前記少なくとも1つの燃料噴射装置は、
噴射した燃料が前記一方側燃料噴射溝を通るように配置された一方側燃料噴射装置と、
噴射した燃料が前記他方側燃料噴射溝を通るように配置された他方側燃料噴射装置と、を含む、
請求項に記載の対向ピストンエンジン。
【請求項5】
前記一方側燃料噴射装置の中心軸線は、前記シリンダの径方向における外側から内側に向かうにつれて前記軸方向における前記一方側に傾斜しており、
前記他方側燃料噴射装置の中心軸線は、前記シリンダの径方向における外側から内側に向かうにつれて前記軸方向における前記他方側に傾斜している、
請求項に記載の対向ピストンエンジン。
【請求項6】
前記シリンダの内面には、前記一方側燃料噴射溝よりも前記スワール流の流れ方向の上流側に形成された第1掃気ポートと、前記一方側燃料噴射溝よりも前記スワール流の流れ方向の下流側に形成された第2掃気ポートと、が形成され、
前記第1掃気ポートは、前記第2掃気ポートよりも前記軸方向の前記他方側に位置している、
請求項1乃至5の何れか1項に記載の対向ピストンエンジン。
【請求項7】
前記シリンダの内面には、前記一方側燃料噴射溝よりも前記スワール流の流れ方向の上流側に形成された第1排気ポートと、前記一方側燃料噴射溝よりも前記スワール流の流れ方向の下流側に形成された第2排気ポートと、が形成され、
前記第1排気ポートは、前記第2排気ポートよりも前記軸方向の前記他方側に位置している、
請求項1乃至5の何れか1項に記載の対向ピストンエンジン。
【請求項8】
前記一方側キャビティおよび前記他方側キャビティは、半球面状である、
請求項1乃至の何れか1項に記載の対向ピストンエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対向ピストンエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
2サイクルディーゼルエンジンには、1つのシリンダの内部に2つのピストンを対向して配置し、2つのピストンの間に燃焼室を形成する対向ピストンエンジンがある(例えば、特許文献1)。対向ピストンエンジンは、ピストンが1往復する間にシリンダ内の燃焼ガスをシリンダ壁に形成された排気ポートから排出する排気行程と、シリンダ壁に形成された掃気ポートからシリンダの内部に空気を取り込む掃気行程と、が行われる。シリンダ壁に形成した掃気ポートを傾斜させ、掃気ポートから取り込んだ空気にスワール流(旋回流)を形成させることで、掃気と排気の入れ換え効果を高めることが行われることがある。
【0003】
特許文献1には、シリンダの内部に燃料を噴射するための噴射孔に渦巻噴射構造を採用することで、インジェクタから噴射される噴霧の干渉を抑制するとともに、ピストンやシリンダ壁への伝熱量を最小化することを狙った発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第9631549号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
対向ピストンエンジンでは、シリンダ壁に設けられた燃料噴射装置から燃料が噴射される。シリンダの内部に噴射された燃料が、シリンダ内に形成されたスワール流に流されて、燃焼室の外周側領域で燃えることがある。燃焼室の外周側領域に燃焼火炎が広がることで、ピストンの内部からの冷却作用が及びにくいピストンの外周部の熱負荷が増大する虞がある。ピストンの外周部の熱負荷が増大することで、ピストン潤滑の悪化(潤滑油の劣化)によるピストンの摺動不良や、ピストンに生じる熱応力によるピストンの損傷などの問題が生じる虞がある。
【0006】
特許文献1に記載のピストンは、ピストンの頂面に形成されたキャビティの外周縁から上記頂面の外周縁までの距離が短く、キャビティ内の燃焼火炎の熱がピストンの外周部に到達し易いため、ピストン外周部の熱負荷が増大する虞がある。
【0007】
上述した事情に鑑みて、本開示の少なくとも一実施形態の目的は、ピストン外周部の熱負荷の低減を図ることができる対向ピストンエンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一実施形態にかかる対向ピストンエンジンは、
シリンダと、
前記シリンダの内部における軸方向の一方側に配置された一方側ピストンと、
前記シリンダの内部における前記軸方向の他方側に配置された他方側ピストンと、を備え、
前記一方側ピストンの頂面には、中央側に凹んで形成された一方側キャビティが形成され、
前記他方側ピストンの頂面には、中央側に凹んで形成された他方側キャビティが形成され、
前記一方側ピストンの前記頂面の直径をD1としたときに、前記一方側キャビティの外周縁は、前記一方側ピストンの前記頂面の外周縁から全周に亘って0.1D1以上離れており、
前記他方側ピストンの前記頂面の直径をD2としたときに、前記他方側キャビティの外周縁は、前記他方側ピストンの前記頂面の外周縁から全周に亘って0.1D2以上離れている。
【発明の効果】
【0009】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、ピストン外周部の熱負荷の低減を図ることができる対向ピストンエンジンが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の一実施形態にかかる対向ピストンエンジンの構成を概略的に示す概略断面図である。
図2】本開示の一実施形態における一方側ピストンの頂面を正面から視た状態を概略的に示す一方側ピストンの概略正面図である。
図3】本開示の一実施形態における他方側ピストンの頂面を正面から視た状態を概略的に示す方側ピストンの概略正面図である。
図4】本開示の一実施形態にかかる対向ピストンの燃焼室近傍の軸方向に沿った断面を概略的に示す概略断面図である。
図5】一方側燃料噴射溝、他方側燃料噴射溝、一方側燃料噴射装置および他方側燃料噴射装置の位置関係を説明するための説明図である。
図6】本開示の一実施形態における一方側燃料噴射溝を説明するための説明図である。
図7】比較例にかかる一方側燃料噴射溝を説明するための説明図である。
図8】本開示の一実施形態における他方側燃料噴射溝を説明するための説明図である。
図9】本開示の一実施形態における掃気ポートを説明するための説明図である。
図10】本開示の一実施形態における排気ポートを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
なお、同様の構成については同じ符号を付し説明を省略することがある。
【0012】
(対向ピストンエンジン)
図1は、本開示の一実施形態にかかる対向ピストンエンジンの構成を概略的に示す概略断面図である。図1に示されるように、幾つかの実施形態にかかる対向ピストンエンジン1は、内部に軸方向(図中上下方向)に沿って延在するシリンダボア21が形成されたシリンダ2と、シリンダ2の内部における上記軸方向の一方側(図中上側)に配置された一方側ピストン3と、シリンダ2の内部における上記軸方向の他方側(図中下側)に配置された他方側ピストン4と、を備える。他方側ピストン4は、シリンダ2の軸方向において、一方側ピストン3とは反対側に配置されている。
【0013】
シリンダ2は、シリンダボア21を形成する内面22を有する。シリンダ2の軸方向の一方側における内面22には、少なくとも1つ(図示例では複数)の掃気ポート23が形成されている。シリンダ2の上記軸方向の他方側における内面22には、少なくとも1つ(図示例では複数)の排気ポート24が形成されている。複数の掃気ポート23は、シリンダ2の周方向に間隔をあけて設けられている。複数の排気ポート24は、シリンダ2の周方向に間隔をあけて設けられている。
【0014】
複数の掃気ポート23の夫々は、シリンダ2の外部から内部に向けて、シリンダ2の径方向に対して周方向の一方側に傾斜した方向に燃焼用気体CG(図示例では圧縮空気)を導く形状になっている。或る実施形態では、複数の掃気ポート23の夫々は、シリンダ2の径方向に対して周方向の一方側に所定角度傾斜した方向に延在している。掃気ポート23を通じてシリンダ2の内部(すなわち、シリンダボア21)に導かれた燃焼用気体CG(掃気)は、シリンダ2の内部にスワール流SF(旋回流)を形成する。このため、掃気ポート23を通じてシリンダ2の内部に導かれた燃焼用気体CGは、旋回しながら排気側に流れる。シリンダ2の内部にスワール流SFを形成することで、掃気工程および排気工程において、シリンダボア21における掃気や排気の入れ替え効果を高めることができる。
【0015】
図示される実施形態では、一方側ピストン3は、シリンダ2の軸方向において、掃気ポート23が形成された掃気側に配置されている。他方側ピストン4は、シリンダ2の軸方向において、排気ポート24が形成された排気側に配置されている。すなわち、一方側ピストン3は、掃気側ピストン3Aからなり、他方側ピストン4は、排気側ピストン4Aからなる。なお、以下、特に言及しない限り、一方側ピストン3は、掃気側ピストン3Aであってもよいし、排気側ピストン4Aであってもよい。他方側ピストン4は、排気側ピストン4Aであってもよいし、掃気側ピストン3Aであってもよい。
【0016】
一方側ピストン3および他方側ピストン4の夫々は、シリンダボア21にシリンダ2の軸方向に沿って往復動可能に配置されている。シリンダボア21における一方側ピストン3の頂面31と他方側ピストン4の頂面41との間に燃焼室11が形成される。換言すると、一方側ピストン3の頂面31は、燃焼室11を挟んで他方側ピストン4の頂面41に対向するようになっている。
【0017】
図1では、下死点における一方側ピストン3および他方側ピストン4が実線で示されており、上死点における一方側ピストン3の頂面31および上死点における他方側ピストン4の頂面41の夫々が二点鎖線で示されている。
【0018】
一方側ピストン3および他方側ピストン4は、互いに同期してシリンダ2の内部を往復動する。図示される実施形態では、一方側ピストン3は、他方側ピストン4が上死点(最も一方側ピストン3に接近した位置)に到達したときに、上死点(最も他方側ピストン4に接近した位置)に到達する。また、一方側ピストン3は、他方側ピストン4が下死点(最も一方側ピストン3から離れた位置)に到達したときに、下死点(最も他方側ピストン4から離れた位置)に到達する。なお、一方側ピストン3と他方側ピストン4は、上死点や下死点に到達する時期がずれていてもよい。
【0019】
図示される実施形態では、図1に示されるように、一方側ピストン3は、一方側ピストンピン12を介して一方側コネクティングロッド14の一端に連結され、一方側コネクティングロッド14の他端はクランクシャフト16に連結されている。他方側ピストン4は、他方側ピストンピン13を介して他方側コネクティングロッド15の一端に連結され、他方側コネクティングロッド15の他端は上記クランクシャフト16に連結されている。クランクシャフト16が回転軸17を中心に回転することで、一方側ピストン3および他方側ピストン4は、互いに同期し、互いの摺動方向がシリンダ2の軸方向の反対側になるようにシリンダ2の内部を往復動する。
【0020】
対向ピストンエンジン1は、図1に示されるように、シリンダ2の内部における一方側ピストン3と他方側ピストン4との間に燃料を噴射するように構成された少なくとも1つの燃料噴射装置(燃料噴射弁)5を備える。
【0021】
燃料噴射装置5は、シリンダ2の内面22に設けられている。燃料噴射装置5は、シリンダボア21に燃料Fを噴射する少なくとも1つの噴射孔51を有する。燃料噴射装置5は、クランク角(クランクシャフト16の回転角)が所定角度になったとき(例えば、一方側ピストン3や他方側ピストン4が上死点に到達したとき)に、燃料Fをシリンダボア21に噴射する。
【0022】
対向ピストンエンジン1は、掃気ポート23を通じてシリンダ2の内部に導かれた燃焼用気体CGを、一方側ピストン3および他方側ピストン4により、燃料Fの発火点以上に圧縮加熱する。この圧縮加熱された燃焼用気体CGに、燃料噴射装置5から燃料Fを噴射することで、燃料Fを自己発火させる。燃料Fの自己発火により燃焼火炎が形成される。自己発火により生じた燃焼ガスの膨張により一方側ピストン3および他方側ピストン4が互いに離隔する方向に押し出される。そして、一方側ピストン3や他方側ピストン4の往復動がクランクシャフト16に伝達され、クランクシャフト16により回転力(動力)に変換される。
【0023】
複数の掃気ポート23の夫々は、上死点における掃気側ピストン3Aの頂面31よりも掃気側(軸方向の上記一方側)に形成され、且つ下死点における掃気側ピストン3Aの頂面31よりも排気側(軸方向の上記他方側)に形成されている。複数の排気ポート24の夫々は、上死点における排気側ピストン4Aの頂面41よりも排気側に形成され、且つ下死点における排気側ピストン4Aの頂面41よりも掃気側に形成されている。
【0024】
掃気側ピストン3Aの頂面31が各掃気ポート23よりも掃気側に摺動することで、各掃気ポート23を介したシリンダボア21への燃焼用気体CGの供給が可能になる。排気側ピストン4Aの頂面41が各排気ポート24よりも排気側に摺動することで、各排気ポート24を介したシリンダボア21からの排ガスEGの排出が可能になる。シリンダボア21に供給される燃焼用気体CGは、不図示の過給機により圧縮されているため、掃気ポート23と排気ポート24との間の圧力差により、シリンダボア21への燃焼用気体CGの供給やシリンダボア21からの排ガスEGの排出が行われる。
【0025】
図2は、本開示の一実施形態における一方側ピストンの頂面を正面から視た状態を概略的に示す一方側ピストンの概略正面図である。図3は、本開示の一実施形態における他方側ピストンの頂面を正面から視た状態を概略的に示す方側ピストンの概略正面図である。図4は、本開示の一実施形態にかかる対向ピストンの燃焼室近傍の軸方向に沿った断面を概略的に示す概略断面図である。
【0026】
幾つかの実施形態にかかる対向ピストンエンジン1は、図4に示されるように、上述したシリンダ2と、上述した一方側キャビティ6が形成された一方側ピストン3と、上述した他方側キャビティ7が形成された他方側ピストン4と、を備える。一方側ピストン3の頂面31には、中央側に凹んで形成された一方側キャビティ6が形成されている。他方側ピストン4の頂面41には、中央側に凹んで形成された他方側キャビティ7が形成されている。他方側キャビティ7は、燃焼室11を挟んで一方側キャビティ6に対向している。
【0027】
図示される実施形態では、図2に示されるように、一方側ピストン3の頂面31は、一方側キャビティ6の外周縁61から外周側(シリンダ2の径方向の外側)に向かって延在する一方側外周縁部32を含む。一方側外周縁部32(頂面31)の外周縁34は、シリンダ2の軸方向に沿って延在する一方側ピストン3の外周部33の一端に連なる。一方側キャビティ6は、外周縁61からシリンダ2の径方向における内側に向かうにつれて外周縁61からの深さが大きくなる凹湾曲面62を有する。
【0028】
図2に示されるように、一方側ピストン3の頂面31の直径をD1とし、一方側キャビティ6の外周縁61から一方側ピストン3の頂面31の外周縁34までの距離(径方向長さ)をD3と定義する。一方側ピストン3の頂面31は、全周に亘りD3≧0.1D1の条件を満たす。換言すると、一方側キャビティ6の外周縁61は、一方側ピストン3の頂面31の外周縁34から全周に亘って0.1D1以上離れている。
【0029】
図示される実施形態では、図3に示されるように、他方側ピストン4の頂面41は、他方側キャビティ7の外周縁71から外周側(シリンダ2の径方向の外側)に向かって延在する他方側外周縁部42を含む。他方側外周縁部42(頂面41)の外周縁44は、シリンダ2の軸方向に沿って延在する他方側ピストン4の外周部43の一端に連なる。他方側キャビティ7は、外周縁71からシリンダ2の径方向における内側に向かうにつれて外周縁71からの深さが大きくなる凹湾曲面72を有する。
【0030】
図3に示されるように、他方側ピストン4の頂面41の直径をD2とし、他方側キャビティ7の外周縁71から他方側ピストン4の頂面41の外周縁44までの距離(径方向長さ)をD4と定義する。他方側ピストン4の頂面41は、全周に亘りD4≧0.1D2の条件を満たす。換言すると、他方側キャビティ7の外周縁71は、他方側ピストン4の頂面41の外周縁44から全周に亘って0.1D2以上離れている。
【0031】
上記の構成によれば、一方側キャビティ6の外周縁61は、一方側ピストン3の頂面31の外周縁34から全周に亘って所定距離(0.1D1)以上離れて設けられており、他方側キャビティ7の外周縁71は、他方側ピストン4の頂面41の外周縁44から全周に亘って所定距離(0.1D2)以上離れて設けられている。このため、一方側キャビティ6および他方側キャビティ7により、燃焼室11中心に燃焼用の空間(キャビティ形成空間)11Aが形作られる。燃焼用の空間11Aにおいて燃焼用気体を圧縮し、燃焼用の空間11Aに燃料を噴射することで、燃焼用の空間11Aにおいて燃焼を完結させることができる。これにより、燃焼火炎が一方側ピストン3や他方側ピストン4の外周部33、43へ到達することを抑制できるため、一方側ピストン3や他方側ピストン4の外周部33、43の熱負荷の低減を図ることができる。
【0032】
なお、外周部33、43の熱負荷のさらなる低減のためには、一方側ピストン3の頂面31は、全周に亘りD3≧0.2D1の条件を満たすことが好ましく、全周に亘りD3≧0.3D1の条件を満たすことがさらに好ましい。また、外周部33、43の熱負荷のさらなる低減のためには、他方側ピストン4の頂面41は、全周に亘りD4≧0.2D2の条件を満たすことが好ましく、全周に亘りD4≧0.3D2の条件を満たすことがさらに好ましい。
【0033】
幾つかの実施形態では、図4に示されるように、上述した一方側キャビティ6および他方側キャビティ7は、半球面状である。一方側キャビティ6や他方側キャビティ7を半球面状にすることで、燃焼室11中心に形作られる燃焼用の球状空間11Aの容積を確保しつつ、一方側キャビティ6や他方側キャビティ7の外周縁61、71の、一方側ピストン3や他方側ピストン4の頂面の外周縁34、44からの距離D3、D4を大きなものにできる。これらの距離D3、D4を大きなものにすることで、一方側ピストン3や他方側ピストン4の外周部33、43の熱負荷を効果的に低減できる。
【0034】
(一方側燃料噴射装置、他方側燃料噴射装置)
幾つかの実施形態では、図2図4に示されるように、上述した一方側ピストン3には、一方側キャビティ6の外周縁61から一方側ピストン3の頂面31の外周縁34までに亘り延在する一方側燃料噴射溝8が形成されている。図3図4に示されるように、上述した他方側ピストン4には、他方側キャビティ7の外周縁71から他方側ピストン4の頂面41の外周縁44までに亘り延在する他方側燃料噴射溝9が形成されている。一方側燃料噴射溝8や他方側燃料噴射溝9は、図4に示されるように、径方向における内側に向かうにつれて溝深さが大きくなるように形成されていてもよい。上述した少なくとも1つの燃料噴射装置5は、噴射した燃料が一方側燃料噴射溝8を通るように配置された一方側燃料噴射装置5Aと、噴射した燃料が他方側燃料噴射溝9を通るように配置された他方側燃料噴射装置5Bと、を含む。
【0035】
図5は、一方側燃料噴射溝、他方側燃料噴射溝、一方側燃料噴射装置および他方側燃料噴射装置の位置関係を説明するための説明図である。図5に示される実施形態では、一方側燃料噴射装置5Aは、シリンダ2の周方向における一方側燃料噴射溝8が形成された範囲内に噴射孔51A(51)が位置するように配置されている。また、一方側燃料噴射装置5Aは、その中心軸線CA1を延長した直線が一方側燃料噴射溝8を通過するように配置されている。他方側燃料噴射装置5Bは、シリンダ2の周方向における他方側燃料噴射溝9が形成された範囲内に噴射孔51B(51)が位置するように配置されている。また、他方側燃料噴射装置5Bは、その中心軸線CA2を延長した直線が他方側燃料噴射溝9を通過するように配置されている。
【0036】
上記の構成によれば、一方側燃料噴射装置5Aにより噴射された燃料が一方側燃料噴射溝8を通り、上記燃焼用の空間11Aに供給される。また、他方側燃料噴射装置5Bにより噴射された燃料が他方側燃料噴射溝9を通り、上記燃焼用の空間11Aに供給される。このように上記燃焼用の空間11Aに供給される燃料は、一方側燃料噴射溝8や他方側燃料噴射溝9を通るため、スワール流SFの干渉を抑制できる。また、上記燃焼用の空間11Aに燃料を供給するための供給系統を複数設けることで、上記燃焼用の空間11Aにおける燃焼を促進できるため、対向ピストンエンジン1における未燃損失の増加を抑制できる。
【0037】
また、上記の構成によれば、一方側燃料噴射溝8や他方側燃料噴射溝9を通じて上述した燃焼用の空間(キャビティ形成空間)11Aに燃料を供給できる。この場合には、一方側外周縁部32(頂面31)と他方側外周縁部42(頂面41)との間の隙間を小さなものにすることができる。上記隙間を小さなものにすることで、燃焼火炎が一方側ピストン3や他方側ピストン4の外周部33、43へ到達することを抑制できるため、一方側ピストン3や他方側ピストン4の外周部33、43の熱負荷の更なる低減を図ることができる。
【0038】
なお、他の幾つかの実施形態では、一方側燃料噴射溝8又は他方側燃料噴射溝9の何れか一方のみが設けられていてもよい。燃料噴射装置5は、一方側燃料噴射装置5A又は他方側燃料噴射装置5Bの何れか一方を含む。
【0039】
(一方側燃料噴射溝)
図6は、本開示の一実施形態における一方側燃料噴射溝を説明するための説明図である。幾つかの実施形態では、図6に示されるように、上述した一方側燃料噴射溝8は、シリンダ2の内部に形成されるスワール流SFの流れ方向の上流側に位置する上流壁81の溝高さH1が、スワール流SFの流れ方向の下流側に位置する下流壁82の溝高さH2よりも高い。以下、スワール流SFの流れ方向の上流側を単に上流側と表すことがあり、スワール流SFの流れ方向の下流側を単に下流側と表すことがある。溝高さH1、H2は、一方側燃料噴射溝8の最深部83からの高さを意味している。
【0040】
図7は、比較例にかかる一方側燃料噴射溝を説明するための説明図である。図6図7におけるFC1は、一方側燃料噴射装置5Aから噴射された燃料の中心を示している。比較例にかかる一方側燃料噴射溝08は、上流壁081の溝高さと下流壁082の溝高さとが同じになっている。この場合には、一方側燃料噴射溝08を通過する燃料にスワール流SFが干渉する虞がある。具体的には、一方側燃料噴射溝08を通過する燃料がスワール流SFにより下流側に流されて、一方側ピストン3の壁面(下流壁082)に付着する虞がある。
【0041】
これに対して、図6に示されるように、一方側燃料噴射溝8の上流壁81の溝高さH1を下流壁82の溝高さH2よりも高くすることで、スワール流SFを一方側燃料噴射溝8に入り込まないように偏流させることができる。スワール流SFを偏流させることで、一方側燃料噴射溝8を通過する燃料にスワール流SFが干渉することを抑制できるため、一方側燃料噴射溝8を通過する燃料がスワール流SFにより流されて、一方側ピストン3の壁面に付着することを抑制できる。これにより、燃料を一方側ピストン3の壁面に付着させることなく、上記燃焼用の空間11Aに供給できるため、対向ピストンエンジン1における未燃損失の増加を抑制できる。
【0042】
図6に示されるように、上述した一方側外周縁部32(頂面31)は、上流壁81から上流側に延在する第1の一方側外周縁部32Aと、下流壁82から下流側に延在する第2の一方側外周縁部32Bと、を含む。第1の一方側外周縁部32Aは、上流側に向かうにつれて高さが小さくなるように傾斜していてもよい。第2の一方側外周縁部32Bは、下流側に向かうにつれて高さが大きくなるように傾斜していてもよい。この場合には、傾斜した第1の一方側外周縁部32Aや傾斜した第2の一方側外周縁部32Bにより、スワール流SFを偏流させることができるため、一方側燃料噴射溝8を通過する燃料にスワール流SFが干渉することを効果的に抑制できる。
【0043】
図6に示されるように、上述した他方側ピストン4の頂面41には、シリンダ2における一方側燃料噴射溝8に対向する位置に凹んで形成された他方側溝部46が形成されていてもよい。他方側溝部46は、その上流壁47の溝高さH3がその下流壁48の溝高さH4よりも低い。溝高さH3、H4は、他方側溝部46の最深部49からの高さを意味している。この場合には、他方側溝部46により、一方側燃料噴射溝8を迂回するようにスワール流を案内できるため、一方側燃料噴射溝8を通過する燃料にスワール流SFが干渉することを効果的に抑制できる。
【0044】
(他方側燃料噴射溝)
図8は、本開示の一実施形態における他方側燃料噴射溝を説明するための説明図である。図8におけるFC2は、他方側燃料噴射装置5Bから噴射された燃料の中心を示している。幾つかの実施形態では、図8に示されるように、上述した他方側燃料噴射溝9は、スワール流SFの流れ方向の上流側に位置する上流壁91の溝高さH5が、スワール流SFの流れ方向の下流側に位置する下流壁92の溝高さH6よりも高い。溝高さH5、H6は、他方側燃料噴射溝9の最深部93からの高さを意味している。
【0045】
上記の構成によれば、図8に示されるように、他方側燃料噴射溝9の上流壁91の溝高さH5を下流壁92の溝高さH6よりも高くすることで、スワール流SFを他方側燃料噴射溝9に入り込まないように偏流させることができる。スワール流SFを偏流させることで、他方側燃料噴射溝9を通過する燃料にスワール流SFが干渉することを抑制できるため、他方側燃料噴射溝9を通過する燃料がスワール流SFにより流されて、他方側ピストン4の壁面に付着することを抑制できる。これにより、燃料を他方側ピストン4の壁面に付着させることなく、上記燃焼用の空間11Aに供給できるため、対向ピストンエンジン1における未燃損失の増加を抑制できる。
【0046】
図8に示されるように、上述した他方側外周縁部42(頂面41)は、上流壁91から上流側に延在する第1の他方側外周縁部42Aと、下流壁92から下流側に延在する第2の他方側外周縁部42Bと、を含む。第1の他方側外周縁部42Aは、上流側に向かうにつれて高さが小さくなるように傾斜していてもよい。第2の他方側外周縁部42Bは、下流側に向かうにつれて高さが大きくなるように傾斜していてもよい。この場合には、傾斜した第1の他方側外周縁部42Aや傾斜した第2の他方側外周縁部42Bにより、スワール流SFを偏流させることができるため、他方側燃料噴射溝9を通過する燃料にスワール流SFが干渉することを効果的に抑制できる。
【0047】
図8に示されるように、上述した一方側ピストン3の頂面31には、シリンダ2における他方側燃料噴射溝9に対向する位置に凹んで形成された一方側溝部36が形成されていてもよい。一方側溝部36は、その上流壁37の溝高さH7がその下流壁38の溝高さH8よりも低い。溝高さH7、H8は、一方側溝部36の最深部39からの高さを意味している。この場合には、一方側溝部36により、他方側燃料噴射溝9を迂回するようにスワール流を案内できるため、他方側燃料噴射溝9を通過する燃料にスワール流SFが干渉することを効果的に抑制できる。
【0048】
幾つかの実施形態では、図5に示されるように、上述した一方側燃料噴射溝8は、上述した他方側燃料噴射溝9に対してシリンダ2の軸心25(シリンダ2の内面22の軸方向に直交する方向における断面の中心)を挟んで対向するように周方向にずらされて配置されている。或る実施形態では、一方側燃料噴射溝8は、他方側燃料噴射溝9に対してシリンダ2の周方向に180°±5°以内にずらして配置されている。
【0049】
上記の構成によれば、一方側燃料噴射溝8は、他方側燃料噴射溝9に対してシリンダ2の軸心25を挟んで対向するように周方向にずらされて配置されている。この場合には、他方側燃料噴射溝9において偏流したスワール流SFが一方側燃料噴射溝8に入り込むことを抑制できるとともに、一方側燃料噴射溝8において偏流したスワール流SFが他方側燃料噴射溝9に入り込むことを抑制できる。これにより、燃料を一方側ピストン3や他方側ピストン4の壁面に付着させることなく、上記燃焼用の空間11Aに供給できるため、対向ピストンエンジン1における未燃損失の増加を抑制できる。
【0050】
幾つかの実施形態では、図4に示されるように、上述した一方側燃料噴射装置5Aの中心軸線CA1は、シリンダ2の径方向における外側から内側に向かうにつれて軸方向における上記一方側(一方側ピストン3が位置する側)に傾斜している。上述した他方側燃料噴射装置5Bの中心軸線CA2は、シリンダ2の径方向における外側から内側に向かうにつれて軸方向における上記他方側(他方側ピストン4が位置する側)に傾斜している。
【0051】
一方側燃料噴射装置5Aは、中心軸線CA1の延長方向に沿ってシリンダボア21に燃料を噴射する。他方側燃料噴射装置5Bは、中心軸線CA2の延長方向に沿ってシリンダボア21に燃料を噴射する。なお、シリンダ2の軸方向に沿った断面において、一方側燃料噴射装置5Aの噴射孔51Aが指向する噴射方向は、中心軸線CA1の延長方向に対して所定角度だけ鋭角に傾斜していてもよい。また、シリンダ2の軸方向に沿った断面において、他方側燃料噴射装置5Bの噴射孔51Bが指向する噴射方向は、中心軸線CA2の延長方向に対して所定角度だけ鋭角に傾斜していてもよい。
【0052】
上記の構成によれば、一方側燃料噴射装置5Aから噴射された燃料は、一方側燃料噴射装置5Aの中心軸線CA1の延長方向に沿うように軸方向の上記一方側、すなわち、一方側燃料噴射溝8の底側に向かって流れる。このため、一方側燃料噴射溝8において、一方側燃料噴射装置5Aから噴射された燃料とスワール流SFとが干渉することを効果的に抑制できる。また、他方側燃料噴射装置5Bから噴射された燃料は、他方側燃料噴射装置5Bの中心軸線CA2の延長方向に沿うように軸方向の上記他方側、すなわち、他方側燃料噴射溝9の底側に向かって流れる。このため、他方側燃料噴射溝9において、他方側燃料噴射装置5Bから噴射された燃料とスワール流SFとが干渉することを効果的に抑制できる。これにより、燃料を一方側ピストン3や他方側ピストン4の壁面に付着させることなく、上記燃焼用の空間11Aに供給できるため、対向ピストンエンジン1における未燃損失の増加を抑制できる。
【0053】
(掃気ポート)
図9は、本開示の一実施形態における掃気ポートを説明するための説明図である。図9では、下死点における一方側ピストン3が示されている。
幾つかの実施形態では、図6に示されるように、上述した一方側燃料噴射溝8は、上流壁81の溝高さH1が、下流壁82の溝高さH2よりも高い。図9に示されるように、上述したシリンダ2の内面22には、一方側燃料噴射溝8よりもスワール流SFの流れ方向の上流側に形成された第1掃気ポート23Aと、一方側燃料噴射溝8よりもスワール流SFの流れ方向の下流側に形成された第2掃気ポート23Bと、が形成されている。第1掃気ポート23Aは、第2掃気ポート23Bよりも軸方向の上記他方側(他方側ピストン4が位置する側)に位置している。なお、第1掃気ポート23Aは、一方側燃料噴射溝8よりも上流側に形成された掃気ポート23のうち、最も一方側燃料噴射溝8寄りに形成された掃気ポート23である。第2掃気ポート23Bは、一方側燃料噴射溝8よりも下流側に形成された掃気ポート23のうち、最も一方側燃料噴射溝8寄りに形成された掃気ポート23である。複数の掃気ポート23の夫々は、下死点における一方側ピストン3に重なり合わないように、シリンダ2の軸方向において、他の掃気ポート23の少なくとも1つに対してずれた位置に形成されている。
【0054】
上記の構成によれば、一方側燃料噴射溝8は、上流壁81の溝高さH1が下流壁82の溝高さH2よりも高い。一方側燃料噴射溝8よりも上流側に形成された第1掃気ポート23Aを、一方側燃料噴射溝8よりも下流側に形成された第2掃気ポート23Bよりも軸方向の上記他方側に形成することで、燃焼用気体を掃気するときに、第1掃気ポート23Aや第2掃気ポート23Bに掃気側ピストン3Aの外周部が被ることを抑制できる。この場合には、第1掃気ポート23Aや第2掃気ポート23Bの開口面積を確保できるため、対向ピストンエンジン1の掃気性能の低下を抑制できる。対向ピストンエンジン1の掃気性能の低下を抑制することで、対向ピストンエンジン1における未燃損失の増加やスモークの発生を抑制できる。
【0055】
(排気ポート)
図10は、本開示の一実施形態における排気ポートを説明するための説明図である。図10では、下死点における一方側ピストン3が示されている。
幾つかの実施形態では、図6に示されるように、上述した一方側燃料噴射溝8は、上流壁81の溝高さH1が、下流壁82の溝高さH2よりも高い。図10に示されるように、上述したシリンダ2の内面22には、一方側燃料噴射溝8よりもスワール流SFの流れ方向の上流側に形成された第1排気ポート24Aと、一方側燃料噴射溝8よりもスワール流SFの流れ方向の下流側に形成された第2排気ポート24Bと、が形成されている。第1排気ポート24Aは、第2排気ポート24Bよりも軸方向の上記他方側(他方側ピストン4が位置する側)に位置している。なお、第1排気ポート24Aは、一方側燃料噴射溝8よりも上流側に形成された排気ポート24のうち、最も一方側燃料噴射溝8寄りに形成された排気ポート24である。第2排気ポート24Bは、一方側燃料噴射溝8よりも下流側に形成された排気ポート24のうち、最も一方側燃料噴射溝8寄りに形成された排気ポート24である。複数の排気ポート24の夫々は、下死点における一方側ピストン3に重なり合わないように、シリンダ2の軸方向において、他の排気ポート24の少なくとも1つに対してずれた位置に形成されている。
【0056】
上記の構成によれば、一方側燃料噴射溝8は、上流壁81の溝高さH1が下流壁82の溝高さH2よりも高い。一方側燃料噴射溝8よりも上流側に形成された第1排気ポート24Aを、一方側燃料噴射溝8よりも下流側に形成された第2排気ポート24Bよりも軸方向の上記他方側に形成することで、燃焼用気体を排気するときに、第1排気ポート24Aや第2排気ポート24Bに排気側ピストン(一方側ピストン3)の外周部が被ることを抑制できる。この場合には、第1排気ポート24Aや第2排気ポート24Bの開口面積を確保できるため、対向ピストンエンジン1の排気性能の低下を抑制できる。対向ピストンエンジン1の排気性能の低下を抑制することで、対向ピストンエンジン1における未燃損失の増加やスモークの発生を抑制できる。
【0057】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0058】
上述した幾つかの実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握されるものである。
【0059】
1)本開示の少なくとも一実施形態にかかる対向ピストンエンジン(1)は、
シリンダ(2)と、
前記シリンダ(2)の内部における軸方向の一方側に配置された一方側ピストン(3)と、
前記シリンダ(2)の内部における前記軸方向の他方側に配置された他方側ピストン(4)と、を備え、
前記一方側ピストン(3)の頂面(31)には、中央側に凹んで形成された一方側キャビティ(6)が形成され、
前記他方側ピストン(4)の頂面(41)には、中央側に凹んで形成された他方側キャビティ(7)が形成され、
前記一方側ピストン(3)の前記頂面(31)の直径をD1としたときに、前記一方側キャビティ(6)の外周縁(61)は、前記一方側ピストン(3)の前記頂面(31)の外周縁(34)から全周に亘って0.1D1以上離れており、
前記他方側ピストン(4)の前記頂面(41)の直径をD2としたときに、前記他方側キャビティ(7)の外周縁(71)は、前記他方側ピストン(4)の前記頂面(41)の外周縁(44)から全周に亘って0.1D2以上離れている。
【0060】
上記1)の構成によれば、一方側キャビティ(6)の外周縁(61)は、一方側ピストン(3)の頂面(31)の外周縁(34)から全周に亘って所定距離以上離れて設けられており、他方側キャビティ(7)の外周縁(71)は、他方側ピストン(4)の頂面(41)の外周縁(44)から全周に亘って所定距離以上離れて設けられている。このため、上記一方側キャビティ(6)および上記他方側キャビティ(7)により、燃焼室(11)中心に燃焼用の空間(11A)が形作られる。上記燃焼用の空間(11A)において燃焼用気体を圧縮し、上記燃焼用の空間(11A)に燃料を噴射することで、上記燃焼用の空間(11A)において燃焼を完結させることができる。これにより、燃焼火炎が一方側ピストン(3)や他方側ピストン(4)の外周部(33、43)へ到達することを抑制できるため、一方側ピストン(3)や他方側ピストン(4)の外周部(33、43)の熱負荷の低減を図ることができる。
【0061】
2)幾つかの実施形態では、上記1)に記載の対向ピストンエンジン(1)であって、
前記一方側ピストン(3)には、前記一方側キャビティ(6)の前記外周縁(61)から前記一方側ピストン(3)の前記頂面(31)の前記外周縁(34)までに亘り延在する一方側燃料噴射溝(8)が形成され、
前記一方側燃料噴射溝(8)は、前記シリンダ(2)の内部に形成されるスワール流(SF)の流れ方向の上流側(上流壁81)の溝高さ(H1)が、前記スワール流(SF)の流れ方向の下流側(下流壁82)の溝高さ(H2)よりも高い。
【0062】
上記2)の構成によれば、一方側燃料噴射溝(8)の上流側(上流壁81)の溝高さ(H1)を下流側(下流壁82)の溝高さ(H2)よりも高くすることで、スワール流(SF)を一方側燃料噴射溝(8)に入り込まないように偏流させることができる。スワール流(SF)を偏流させることで、一方側燃料噴射溝(8)を通過する燃料にスワール流(SF)が干渉することを抑制できるため、一方側燃料噴射溝(8)を通過する燃料がスワール流(SF)により流されて、一方側ピストン(3)の壁面に付着することを抑制できる。これにより、燃料を一方側ピストン(3)の壁面に付着させることなく、上記燃焼用の空間(11A)に供給できるため、対向ピストンエンジン(1)における未燃損失の増加を抑制できる。
【0063】
3)幾つかの実施形態では、上記2)に記載の対向ピストンエンジン(1)であって、
前記他方側ピストン(4)には、前記他方側キャビティ(7)の前記外周縁(71)から前記他方側ピストン(4)の前記頂面(41)の前記外周縁(44)までに亘り延在する他方側燃料噴射溝(9)が形成され、
前記他方側燃料噴射溝(9)は、前記スワール流(SF)の流れ方向の上流側(上流壁91)の溝高さ(H5)が、前記スワール流(SF)の流れ方向の下流側(下流壁92)の溝高さ(H6)よりも高い。
【0064】
上記3)の構成によれば、他方側燃料噴射溝(9)の上流側(上流壁91)の溝高さ(H5)を下流側(下流壁92)の溝高さ(H6)よりも高くすることで、スワール流(SF)を他方側燃料噴射溝(9)に入り込まないように偏流させることができる。スワール流(SF)を偏流させることで、他方側燃料噴射溝(9)を通過する燃料にスワール流(SF)が干渉することを抑制できるため、他方側燃料噴射溝(9)を通過する燃料がスワール流(SF)により流されて、他方側ピストン(4)の壁面に付着することを抑制できる。これにより、燃料を他方側ピストン(4)の壁面に付着させることなく、上記燃焼用の空間(11A)に供給できるため、対向ピストンエンジン(1)における未燃損失の増加を抑制できる。
【0065】
4)幾つかの実施形態では、上記3)に記載の対向ピストンエンジン(1)であって、
前記一方側燃料噴射溝(8)は、前記他方側燃料噴射溝(9)に対して前記シリンダ(2)の軸心(25)を挟んで対向するように周方向にずらされて配置された。
【0066】
上記4)の構成によれば、一方側燃料噴射溝(8)は、他方側燃料噴射溝(9)に対してシリンダ(2)の軸心(25)を挟んで対向するように周方向にずらされて配置されている。この場合には、他方側燃料噴射溝(9)において偏流したスワール流(SF)が一方側燃料噴射溝(8)に入り込むことを抑制できるとともに、一方側燃料噴射溝(8)において偏流したスワール流(SF)が他方側燃料噴射溝(9)に入り込むことを抑制できる。これにより、燃料を一方側ピストン(3)や他方側ピストン(4)の壁面に付着させることなく、上記燃焼用の空間(11A)に供給できるため、対向ピストンエンジン(1)における未燃損失の増加を抑制できる。
【0067】
5)幾つかの実施形態では、上記4)に記載の対向ピストンエンジン(1)であって、
前記シリンダ(2)の内部における前記一方側ピストン(3)と前記他方側ピストン(4)との間に燃料を噴射するように構成された少なくとも1つの燃料噴射装置(5)をさらに備え、
前記少なくとも1つの燃料噴射装置(5)は、
噴射した燃料が前記一方側燃料噴射溝(8)を通るように配置された一方側燃料噴射装置(5A)と、
噴射した燃料が前記他方側燃料噴射溝(9)を通るように配置された他方側燃料噴射装置(5B)と、を含む。
【0068】
上記5)の構成によれば、一方側燃料噴射装置(5A)により噴射された燃料が一方側燃料噴射溝(8)を通り、上記燃焼用の空間(11A)に供給される。また、他方側燃料噴射装置(5B)により噴射された燃料が他方側燃料噴射溝(9)を通り、上記燃焼用の空間(11A)に供給される。このように上記燃焼用の空間(11A)に供給される燃料は、一方側燃料噴射溝(8)や他方側燃料噴射溝(9)を通るため、スワール流(SF)の干渉を抑制できる。また、上記燃焼用の空間(11A)に燃料を供給するための供給系統を複数設けることで、上記燃焼用の空間(11A)における燃焼を促進できるため、対向ピストンエンジン(1)における未燃損失の増加を抑制できる。
【0069】
6)幾つかの実施形態では、上記5)に記載の対向ピストンエンジン(1)であって、
前記一方側燃料噴射装置(5A)の中心軸線(CA1)は、前記シリンダ(2)の径方向における外側から内側に向かうにつれて前記軸方向における前記一方側に傾斜しており、
前記他方側燃料噴射装置(5B)の中心軸線(CA2)は、前記シリンダ(2)の径方向における外側から内側に向かうにつれて前記軸方向における前記他方側に傾斜している。
【0070】
上記6)の構成によれば、一方側燃料噴射装置(5A)から噴射された燃料は、一方側燃料噴射装置(5A)の中心軸線(CA1)の延長方向に沿うように軸方向の上記一方側、すなわち、一方側燃料噴射溝(8)の底側に向かって流れる。このため、一方側燃料噴射溝(8)において、一方側燃料噴射装置(5A)から噴射された燃料とスワール流(SF)とが干渉することを効果的に抑制できる。また、他方側燃料噴射装置(5B)から噴射された燃料は、他方側燃料噴射装置(5B)の中心軸線(CA2)の延長方向に沿うように軸方向の上記他方側、すなわち、他方側燃料噴射溝(9)の底側に向かって流れる。このため、他方側燃料噴射溝(9)において、他方側燃料噴射装置(5B)から噴射された燃料とスワール流(SF)とが干渉することを効果的に抑制できる。これにより、燃料を一方側ピストン(3)や他方側ピストン(4)の壁面に付着させることなく、上記燃焼用の空間(11A)に供給できるため、対向ピストンエンジン(1)における未燃損失の増加を抑制できる。
【0071】
7)幾つかの実施形態では、上記2)から上記6)までの何れかに記載の対向ピストンエンジン(1)であって、
前記シリンダ(2)の内面(22)には、前記一方側燃料噴射溝(8)よりも前記スワール流(SF)の流れ方向の上流側に形成された第1掃気ポート(23A)と、前記一方側燃料噴射溝(8)よりも前記スワール流(SF)の流れ方向の下流側に形成された第2掃気ポート(23B)と、が形成され、
前記第1掃気ポート(23A)は、前記第2掃気ポート(23B)よりも前記軸方向の前記他方側に位置している。
【0072】
上記7)の構成によれば、一方側燃料噴射溝(8)は、上流側(上流壁81)の溝高さ(H1)が下流側(下流壁82)の溝高さ(H2)よりも高い。一方側燃料噴射溝(8)よりも上流側に形成された第1掃気ポート(23A)を、一方側燃料噴射溝(8)よりも下流側に形成された第2掃気ポート(23B)よりも軸方向の上記他方側に形成することで、燃焼用気体を掃気するときに、第1掃気ポート(23A)や第2掃気ポート(23B)に掃気側ピストン(3A)の外周部が被ることを抑制できる。この場合には、第1掃気ポート(23A)や第2掃気ポート(23)の開口面積を確保できるため、対向ピストンエンジン(1)の掃気性能の低下を抑制できる。対向ピストンエンジン(1)の掃気性能の低下を抑制することで、対向ピストンエンジン(1)における未燃損失の増加やスモークの発生を抑制できる。
【0073】
8)幾つかの実施形態では、上記2)から上記6)までの何れかに記載の対向ピストンエンジン(1)であって、
前記シリンダ(2)の内面(22)には、前記一方側燃料噴射溝(8)よりも前記スワール流(SF)の流れ方向の上流側に形成された第1排気ポート(24A)と、前記一方側燃料噴射溝(8)よりも前記スワール流の流れ方向の下流側に形成された第2排気ポート(24B)と、が形成され、
前記第1排気ポート(24A)は、前記第2排気ポート(24B)よりも前記軸方向の前記他方側に位置している。
【0074】
上記8)の構成によれば、一方側燃料噴射溝(8)は、上流側(上流壁81)の溝高さ(H1)が下流側(下流壁82)の溝高さ(H2)よりも高い。一方側燃料噴射溝(8)よりも上流側に形成された第1排気ポート(24A)を、一方側燃料噴射溝(8)よりも下流側に形成された第2排気ポート(24B)よりも軸方向の上記他方側に形成することで、燃焼用気体を排気するときに、第1排気ポート(24A)や第2排気ポート(24B)に排気側ピストン(一方側ピストン3)の外周部が被ることを抑制できる。この場合には、第1排気ポート(24A)や第2排気ポート(24B)の開口面積を確保できるため、対向ピストンエンジン(1)の排気性能の低下を抑制できる。対向ピストンエンジン(1)の排気性能の低下を抑制することで、対向ピストンエンジン(1)における未燃損失の増加やスモークの発生を抑制できる。
【0075】
9)幾つかの実施形態では、上記1)から上記8)までの何れかに記載の対向ピストンエンジン(1)であって、
前記一方側キャビティ(6)および前記他方側キャビティ(7)は、半球面状である。
【0076】
上記9)の構成によれば、一方側キャビティ(6)や他方側キャビティ(7)を半球面状にすることで、燃焼室(11)中心に形作られる燃焼用の球状空間(11A)の容積を確保しつつ、一方側キャビティ(6)や他方側キャビティ(7)の外周縁(61、71)の、一方側ピストン(3)や他方側ピストン(4)の頂面の外周縁(34、44)からの距離(D3、D4)を大きなものにできる。これらの距離を大きなものにすることで、一方側ピストン(3)や他方側ピストン(4)の外周部(33、43)の熱負荷を効果的に低減できる。
【符号の説明】
【0077】
1 対向ピストンエンジン
2 シリンダ
3 一方側ピストン
3A 掃気側ピストン
4 他方側ピストン
4A 排気側ピストン
5 燃料噴射装置
5A 一方側燃料噴射装置
5B 他方側燃料噴射装置
6 一方側キャビティ
7 他方側キャビティ
8 一方側燃料噴射溝
9 他方側燃料噴射溝
11 燃焼室
12 一方側ピストンピン
13 他方側ピストンピン
14 一方側コネクティングロッド
15 他方側コネクティングロッド
16 クランクシャフト
17 回転軸
21 シリンダボア
22 内面
23 掃気ポート
24 排気ポート
25 軸心
31,41 頂面
32,42 外周縁部
33,43 外周部
34,44 外周縁
36 一方側溝部
46 他方側溝部
51,51A,51B 噴射孔
61,71 外周縁
62,72 凹湾曲面
CA1,CA2 中心軸線
CG 燃焼用気体
EG 排ガス
F 燃料
SF スワール流

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10