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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】紡糸延伸装置
(51)【国際特許分類】
   D01D 5/16 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
D01D5/16
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021082969
(22)【出願日】2021-05-17
(65)【公開番号】P2022008091
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2024-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2020109105
(32)【優先日】2020-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】加賀田 翔
(72)【発明者】
【氏名】森永 遼
(72)【発明者】
【氏名】井上 豪之
(72)【発明者】
【氏名】安川 陸
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-055020(JP,A)
【文献】特開2019-131899(JP,A)
【文献】特開2016-216882(JP,A)
【文献】特開2016-079539(JP,A)
【文献】特開2002-371429(JP,A)
【文献】特開2019-131898(JP,A)
【文献】特開2016-164314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 1/00 - 13/02
D02G 1/00 - 3/48
D02J 1/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸を導入するための糸導入口と、前記糸を導出するための糸導出口とを有する保温箱と、
前記保温箱内にそれぞれ収容され、糸を加熱しつつ前記糸導入口から前記糸導出口に向かう糸走行方向に糸を送る複数の加熱ローラとを備え、
前記複数の加熱ローラは、前記糸走行方向の最上流側に配置された第1加熱ローラと、前記第1加熱ローラよりも前記糸走行方向の下流側に配置され、前記第1加熱ローラよりも糸送り速度が速く且つ高温である第2加熱ローラと、前記糸走行方向における前記第1加熱ローラと前記第2加熱ローラとの間に配置された少なくとも1つの第3加熱ローラとを有し、
前記保温箱の内部空間において前記複数の加熱ローラのうち前記第2加熱ローラに最も近い位置に入口が開口し、且つ、前記複数の加熱ローラのうち前記第1加熱ローラに最も近い位置に出口が開口した空気の誘導路をさらに備え、
前記入口は、前記第2加熱ローラの軸方向と直交する方向で見たときに前記入口の少なくとも一部が、前記第2加熱ローラの軸方向に沿った領域と重複するように開口しており、且つ、
前記出口は、前記第1加熱ローラの軸方向と直交する方向で見たときに前記出口の少なくとも一部が、前記第1加熱ローラの軸方向に沿った領域と重複するように開口していることを特徴とする紡糸延伸装置。
【請求項2】
前記入口は前記糸導出口よりも前記第2加熱ローラに近い位置で開口しており、前記出口は前記糸導入口よりも前記第1加熱ローラに近い位置で開口していることを特徴とする請求項1に記載の紡糸延伸装置。
【請求項3】
前記誘導路の全体は、前記保温箱の内部に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の紡糸延伸装置。
【請求項4】
前記誘導路の延設方向に直交する断面において、前記誘導路は全周が壁部によって囲まれていることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の紡糸延伸装置。
【請求項5】
前記入口は、前記第2加熱ローラの軸方向と直交する方向で見たときに、前記第2加熱ローラの軸方向に前記第2加熱ローラの外周面の糸の巻掛領域を包含する大きさに形成されていることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の紡糸延伸装置。
【請求項6】
前記保温箱の内部空間における前記第2加熱ローラの外周面の糸の巻掛領域に接する第1空間領域に設けられ、前記第2加熱ローラから前記糸導出口に向かう前記空気の量を抑制し、抑制した前記空気を前記入口に導く第1遮蔽板をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の紡糸延伸装置。
【請求項7】
前記保温箱の内部空間における前記第1加熱ローラの外周面の糸の巻掛領域に接する第2空間領域に設けられ、前記出口から前記糸導入口に向かう前記空気の量を抑制し、抑制した前記空気を前記第1加熱ローラの外周面の糸の巻掛領域に導く第2遮蔽板をさらに備えることを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載の紡糸延伸装置。
【請求項8】
前記第1加熱ローラと前記第3加熱ローラとの間に設けられた仕切板をさらに備えることを特徴とする請求項1~7の何れか1項に記載の紡糸延伸装置。
【請求項9】
前記入口は、前記保温箱の内部空間における前記第2加熱ローラの外周面の糸の巻掛領域に接する第1空間領域に開口しており、
前記出口は、前記第2空間領域に開口していることを特徴とする請求項7に記載の紡糸延伸装置。
【請求項10】
前記第2空間領域のうちの、前記出口よりも前記糸走行方向の下流側の領域の少なくとも一部の空気通過面積が、前記出口と前記第1加熱ローラの外周面との隙間の面積に対して、狭いことを特徴とする請求項9に記載の紡糸延伸装置。
【請求項11】
前記空気通過面積の一部を規定する、前記誘導路と前記第1加熱ローラの外周面との間の隙間の大きさは20~40mmであることを特徴とする請求項10に記載の紡糸延伸装置。
【請求項12】
前記保温箱の前記複数の加熱ローラの軸方向の一方側の壁面が扉部であって、
前記複数の加熱ローラは、前記複数の加熱ローラの軸方向の他方側の壁面に片側支持されており、且つ、前記一方側の端面と前記扉部の内面との間の距離が9mm以下であることを特徴とする請求項1~11の何れか1項に記載の紡糸延伸装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸を加熱する糸加熱ローラを収容する保温箱を備えた紡糸延伸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、糸加熱ローラを含む複数のローラが保温箱に収容された紡糸延伸装置であって、保温箱を形成する壁部に糸導入口と糸導出口とが形成され、保温箱の壁部のうちの糸導出口に向かう気流が流れる壁部の内面に配置され、気流を内側に向ける第1整流部を有する紡糸延伸装置が開示されている。第1整流部によって、壁部に沿って流れる気流の向きが内側に向けられることで、糸導出口からの高温空気の流出が抑制されるため、熱エネルギーの損失を低減できる。
【0003】
特許文献1の保温箱の糸導入口付近には、糸導入口を通って保温箱の外部の低温空気が流入する。また、糸導入口付近に配置された加熱ローラには、糸導入口を通って外部から導入された低温の糸が巻き掛けられることとなる。このため、特許文献1の保温箱内においては、糸導出口から流出する熱エネルギーの損失は抑制できるものの、糸導入口から流入する低温空気等による熱エネルギーの損失を抑制することはできず、ローラを加熱するための電力消費量が増大する。
【0004】
特許文献2には、複数のローラを収納する保温ボックス(保温箱)と、保温ボックスに取り付けられる空気ダクトとを具備する紡糸巻取設備が開示されている。空気ダクトは、
保温ボックス内の糸導出口付近の高温空気を該保温ボックス内の糸導入口付近の低温空気領域へ案内する。これにより、熱エネルギーを効率良く利用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6088948号公報
【文献】特開2014-101611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2の装置では、糸導出口付近の高温空気は、ローラの端面と直交する方向、すなわち、ローラに巻き掛けられた糸の走行方向と直交する方向に沿って空気ダクトに導かれる。そして、空気ダクトを通る高温空気は、ローラに巻き掛けられた糸の走行方向と直交する方向から低温空気領域に案内される。このため、空気ダクトの入口及び出口付近において糸の走行方向と直交する方向に気流が乱れ、糸揺れが発生するおそれがある。糸揺れが生じると糸の品質に悪影響を及ぼす。
【0007】
本発明の目的は、保温箱内において熱エネルギーの効率的な利用を実現しつつ、ローラに巻き掛けられた糸の糸揺れを抑制する紡糸延伸装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明の紡糸延伸装置は、糸を導入するための糸導入口と、前記糸を導出するための糸導出口とを有する保温箱と、前記保温箱内にそれぞれ収容され、糸を加熱しつつ前記糸導入口から前記糸導出口に向かう糸走行方向に糸を送る複数の加熱ローラとを備え、前記複数の加熱ローラは、前記糸走行方向の最上流側に配置された第1加熱ローラと、前記第1加熱ローラよりも前記糸走行方向の下流側に配置され、前記第1加熱ローラよりも糸送り速度が速く且つ高温である第2加熱ローラと、前記糸走行方向における前記第1加熱ローラと前記第2加熱ローラとの間に配置された少なくとも1つの第3加熱ローラとを有し、前記保温箱の内部空間において前記複数の加熱ローラのうち前記第2加熱ローラに最も近い位置に入口が開口し、且つ、前記複数の加熱ローラのうち前記第1加熱ローラに最も近い位置に出口が開口した空気の誘導路をさらに備え、前記入口は、前記第2加熱ローラの軸方向と直交する方向で見たときに前記入口の少なくとも一部が、前記第2加熱ローラの軸方向に沿った領域と重複するように開口しており、前記出口は、前記第1加熱ローラの軸方向と直交する方向で見たときに前記出口の少なくとも一部が、前記第1加熱ローラの軸方向に沿った領域と重複するように開口していることを特徴とするものである。
【0009】
保温箱の第1加熱ローラが配置された部分には糸導入口を通って外部の低温空気が流入する。また、第1加熱ローラには、外部から導入された低温の糸が巻き掛けられることとなる。このため、第1加熱ローラの温度を維持するために、より多くのエネルギーが消費される。一方で、第2加熱ローラの周囲の高温空気は、ローラの回転及びローラに巻き掛けられた糸の走行によって生じる随伴流により糸導出口から保温箱の外部へと流出してしまい、大きなエネルギー損失となる。
【0010】
第1の発明によれば、第2加熱ローラの外周面に沿って流れ、随伴流によって保温箱の外部に流出しようとする高温空気を誘導路に導くことができる。そして、誘導路によって、第2加熱ローラの周囲の高温空気を第1加熱ローラの周囲に導くことができる。これにより、高温空気の保温箱の外部への流出によるエネルギー損失を抑制しつつ、第1加熱ローラの周囲の温度を高めることができ、保温箱内において熱エネルギーを効率的に利用することができる。また、誘導路の入口及び出口は、加熱ローラの軸方向と直交する方向で見たときに少なくとも一部が加熱ローラの軸方向に沿った領域と重複するように開口している。このため、第2加熱ローラの周囲の高温空気は糸の走行方向と平行な向きで誘導路に導かれ、さらに、糸の走行方向と平行な向きで第1加熱ローラの周囲に送られる。これにより、加熱ローラに巻き掛けられた糸の糸揺れを抑制することができる。
【0011】
第2の発明の紡糸延伸装置は、第1の発明において、前記入口は前記糸導出口よりも前記第2加熱ローラに近い位置で開口しており、前記出口は前記糸導入口よりも前記第1加熱ローラに近い位置で開口していることを特徴とするものである。
【0012】
誘導路の入口及び出口付近は空気の流れが乱れやすい。誘導路の入口が糸導出口に近い位置で開口していると、糸導出口から保温箱の外部に導出される糸の糸揺れが発生しやすくなる。また、誘導路の出口が糸導入口に近い位置で開口していると、糸導入口から保温箱の内部に導入される糸の糸揺れが発生しやすくなる。第2の発明によれば、誘導路の入口は糸導出口よりも第2加熱ローラに近い位置で開口しており、誘導路の出口は糸導入口よりも第1加熱ローラに近い位置で開口している。このため、糸導入口から保温箱の内部に導入される糸の糸揺れの発生及び糸導出口から保温箱の外部に導出される糸の糸揺れを抑制することができる。また、誘導路の入口が糸導出口に近い位置で開口していると、誘導路の入口から誘導路に誘導される空気の一部は、糸の走行によって生じる随伴流により糸導出口から保温箱の外部へと流出してしまうおそれがある。第2の発明では、誘導路の入口が糸導出口よりも第2加熱ローラに近い位置で開口しているため、誘導路の入口から誘導路に誘導される空気の一部が糸導出口から保温箱の外部へと流出することを抑制することができる。
【0013】
第3の発明の紡糸延伸装置は、第1又は第2の発明において、前記誘導路の全体は、前記保温箱の内部に設けられていることを特徴とするものである。
【0014】
第3の発明によれば、誘導路を通る空気は、保温箱の内部において保温されるため、高温空気のエネルギー損失をより小さくできる。
【0015】
第4の発明の紡糸延伸装置は、第1~第3の発明において、前記誘導路の延設方向に直交する断面において、前記誘導路は全周が壁部によって囲まれていることを特徴とするものである。
【0016】
第4の発明によれば、誘導路を通る空気が、途中で保温箱の内部に漏れ出すことを防ぐことができる。このため、効率良く高温空気を第1加熱ローラの周囲に導くことができ、より効率良く熱エネルギーを利用することができる。
【0017】
第5の発明の紡糸延伸装置は、第1~第4の発明において、前記入口は、前記第2加熱ローラの軸方向と直交する方向で見たときに、前記第2加熱ローラの軸方向に前記第2加熱ローラの外周面の糸の巻掛領域を包含する大きさに形成されていることを特徴とするものである。
【0018】
第5の発明によれば、誘導路の入口付近における空気の流れを複数の糸の間で均一化しやすくなる。これにより、空気の流れが乱れることによる誘導路の入口付近での糸揺れの発生をさらに抑制でき、糸の品質に悪影響を与えることを抑えることができる。
【0019】
第6の発明の紡糸延伸装置は、第5の発明において、前記保温箱の内部空間における前記第2加熱ローラの外周面の糸の巻掛領域に接する第1空間領域に設けられ、前記第2加熱ローラから前記糸導出口に向かう前記空気の量を抑制し、抑制した前記空気を前記入口に導く第1遮蔽板をさらに備えることを特徴とするものである。
【0020】
第6の発明によれば、第2加熱ローラの外周面に沿って流れ、保温箱の外部に流出しようとする空気の量を抑制することができる。また、第2加熱ローラの外周面に発生する随伴流によって糸走行方向の上流側から下流側に送られる空気を、より多く誘導路に導くことができる。これにより、さらに効率良く熱エネルギーを利用することができる。
【0021】
第7の発明の紡糸延伸装置は、第1~第6の発明において、前記保温箱の内部空間における前記第1加熱ローラの外周面の糸の巻掛領域に接する第2空間領域に設けられ、前記出口から前記糸導入口に向かう前記空気の量を抑制し、抑制した前記空気を前記第1加熱ローラの外周面の糸の巻掛領域に導く第2遮蔽板をさらに備えることを特徴とするものである。
【0022】
第7の発明によれば、誘導路によって導かれた高温空気が糸導入口から保温箱の外部に流出することを抑制し、さらに、当該空気を第1加熱ローラの外周面の糸の巻掛領域に導くことができる。これにより、第1加熱ローラの温度を維持する際のエネルギー消費を抑制することができ、さらに効率良く熱エネルギーを利用することができる。
【0023】
第8の発明の紡糸延伸装置は、第1~第7の発明において、前記第1加熱ローラと前記第3加熱ローラとの間に設けられた仕切板をさらに備えることを特徴とするものである。
【0024】
誘導路を通って第1加熱ローラの周囲に導かれた高温空気が第3加熱ローラの周囲に移動すると、第3加熱ローラが過剰に高温となることがあり、糸の品質が損なわれるおそれがある。第8の発明によれば、仕切板によって第1加熱ローラの周囲の高温空気が第3加熱ローラの周囲に移動するのを抑制することができる。これにより、第3加熱ローラが過剰に高温となるのを抑制することができる。
【0025】
第9の発明の紡糸延伸装置は、第7の発明において、前記入口は、前記保温箱の内部空間における前記第2加熱ローラの外周面の糸の巻掛領域に接する前記第1空間領域に開口しており、前記出口は、前記第2空間領域に開口していることを特徴とするものである。
【0026】
誘導路の入口及び出口付近は空気の流れが乱れやすい。誘導路の入口及び出口が、糸走行方向に送られる糸のうちの加熱ローラに巻き掛けられていない部分に向かって開口している場合、空気の乱れによって糸揺れが発生し、糸の品質に影響を与えるおそれがある。第9の発明によれば、誘導路の入口は第1空間領域に開口しており、出口は第2空間領域に開口しているため、糸揺れが発生するのをより抑制することができる。
【0027】
第10の発明の紡糸延伸装置は、第9の発明において、前記第2空間領域のうちの、前記出口よりも前記糸走行方向の下流側の領域の少なくとも一部の空気通過面積が、前記出口と前記第1加熱ローラの外周面との隙間の面積に対して、狭いことを特徴とするものである。
【0028】
空気通過面積が狭い部分では、第1加熱ローラの回転により発生する随伴流の流速が速くなる。その結果、圧力(静圧)が低下し、誘導路から第1加熱ローラへ空気を導きやすくなる。つまり、空気通過面積が狭い部分は、空気が流入しやすくなる。第10の発明によれば、誘導路を通って第1加熱ローラの周囲に誘導された空気は、第2空間領域のうちの上記の空気通過面積が狭い部分に空気が流入しやすくなることによって、誘導路の入口から多くの高温空気を誘導路に流入させることができ、すなわち、多くの高温空気を第1加熱ローラの周囲に導くことができる。以上により、さらに効率良く熱エネルギーを利用することができる。
【0029】
第11の発明の紡糸延伸装置は、第10の発明において、前記空気通過面積の一部を規定する、前記誘導路と前記第1加熱ローラの外周面との間の隙間の大きさは20~40mmであることを特徴とするものである。
【0030】
第11の発明によれば、誘導路と第1加熱ローラの外周面との間の隙間の大きさ(空気通過面積の一部を規定する値)を、加熱ローラへの糸掛けの際に用いられ糸を吸引するためのサクションガンの先端が通ることのできる大きさの範囲内において、できるだけ狭くするほうがより効果的である。隙間が狭い部分では、第1加熱ローラの回転により発生する随伴流の流速が速くなる。その結果、圧力(静圧)が低下し、誘導路から第1加熱ローラへ空気を導きやすくなる。よって、誘導路を通って第1加熱ローラの周囲に誘導された高温空気の多くは、上記隙間を通って糸走行方向の下流側へと送られることとなる。このため、誘導路によって導かれた高温空気が糸導入口から保温箱の外部に流出することを抑制することができる。また、上記隙間に空気が流入しやすくなることによって、誘導路の入口からより多くの高温空気を誘導路に流入させることができ、すなわち、より多くの高温空気を第1加熱ローラの周囲に導くことができる。以上により、さらに効率良く熱エネルギーを利用することができる。
【0031】
第12の発明の紡糸延伸装置は、第1~第11の発明において、前記保温箱の前記複数の加熱ローラの軸方向の一方側の壁面が扉部であって、前記複数の加熱ローラは、前記複数の加熱ローラの軸方向の他方側の壁面に片側支持されており、且つ、前記一方側の端面と前記扉部の内面との間の距離が9mm以下であることを特徴とするものである。
【0032】
加熱ローラの一方側の端面と扉部との間の距離が大きいと、加熱ローラの端面と扉部との間を空気が流動してしまうため、誘導路による高温空気の誘導を効率良く行うことができない。第12の発明によれば、加熱ローラの端面と扉部との間から空気が出入りし難くなるため、誘導路による高温空気の誘導を効率良く行うことができる。
【発明の効果】
【0033】
紡糸延伸装置において、保温箱内の熱エネルギーの効率的な利用を実現しつつ、ローラに巻き掛けられた糸の糸揺れを抑制することである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本実施形態に係る紡糸延伸装置を備える紡糸引取機を示す概略図。
図2図1の紡糸延伸装置の拡大図。
図3図2のIII-III断面図。
図4】実施例及び比較例の紡糸延伸装置の消費電力を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(紡糸引取機1の全体構成)
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態に係る紡糸引取機1の概略構成図である。紡糸引取機1は、図1に示すように、紡糸装置2と、紡糸延伸装置3と、糸巻取装置4とを備えている。以下、図1の紙面の上下左右方向を上下左右方向とする。また、図1の紙面に垂直な方向を前後方向とし、紙面表側を前方とする。
【0036】
紡糸引取機1は、図1に示すように、紡糸装置2から連続的に紡出されたポリエステル等の溶融繊維材料が固化して形成された複数の糸Yを、紡糸延伸装置3で延伸した後、糸巻取装置4で巻き取る構成となっている。
【0037】
紡糸装置2は、ポリエステル等の溶融繊維材料を連続的に紡出することで複数の糸Yを生成する。紡糸装置2から紡出された複数の糸Yは、油剤ガイド10によって油剤が付与された後、案内ローラ11を経て紡糸延伸装置3に送られる。
【0038】
紡糸延伸装置3は、複数の糸Yを加熱延伸する装置であり、紡糸装置2の下方に配置されている。紡糸延伸装置3は、保温箱20の内部に収容された複数のゴデットローラ31~35を有している。紡糸延伸装置3については、後述にて詳細に説明する。
【0039】
紡糸延伸装置3で延伸された複数の糸Yは、案内ローラ12を経て糸巻取装置4に送られる。糸巻取装置4は、複数の糸Yを巻き取る装置であり、紡糸延伸装置3の下方に配置されている。糸巻取装置4は、ボビンホルダ13やコンタクトローラ14等を有している。ボビンホルダ13は、前後方向に延びる円筒形状を有し、図示しないモータによって回転駆動される。ボビンホルダ13には、その軸方向に複数のボビンBが並んだ状態で装着される。糸巻取装置4は、ボビンホルダ13を回転させることによって、複数のボビンBに複数の糸Yを同時に巻き取り、複数のパッケージPを生産する。コンタクトローラ14は、複数のパッケージPの表面に接触して所定の接圧を付与し、パッケージPの形状を整える。
【0040】
(紡糸延伸装置3)
次に、図2及び図3を参照しつつ、本実施形態の紡糸延伸装置3の構成について説明する。図2は、図1の紡糸延伸装置3を拡大した図である。また、図3は、図2のIII-III断面図であって、紙面手前側が上側となる。紡糸延伸装置3は、保温箱20と、保温箱20の内部に収容された複数(ここでは5つ)のゴデットローラ31~35(本発明の加熱ローラ)とを有している。保温箱20は、上面部21、右側面部22、右下傾斜部23、左側面部24、左下傾斜部25、背面部26(図3参照)、及び、前面部27(図3参照)によって箱状に形成されている。保温箱20の右側面部22の下部には、複数の糸Yを保温箱20の内部に導入するための糸導入口20aが形成され、保温箱20の右側面部22の上部には、複数の糸Yを保温箱20の外部に導出するための糸導出口20bが形成されている。また、保温箱20の前面部27は、左側面部24に不図示のヒンジを介して取り付けられており、ヒンジを中心に前後方向に揺動することで開閉可能な扉部となっている。各ゴデットローラ31~35への糸Yの糸掛け作業は、前面部27が開かれた状態で行われる。
【0041】
各ゴデットローラ31~35は、糸Yを加熱しつつ糸導入口20aから糸導出口20bに向かう糸走行方向に糸を送るローラである。各ゴデットローラ31~35は、前面部27に向かって突出している。また、各ゴデットローラ31~35は、保温箱20内において、糸走行方向の上流側から順にゴデットローラ31~35が配置されている。複数の糸Yは、下側のゴデットローラ31から順に、各ゴデットローラ31~35に対して360度未満の巻き掛け角度で巻き掛けられている。各ゴデットローラ31~35は、図示しないモータによってそれぞれ所定の糸送り速度で回転駆動される(回転方向は図2中の各ゴデットローラ31~35の矢印参照)。また、各ゴデットローラ31~35には、不図示のヒータが内蔵されており、ヒータによって各ゴデットローラ31~35の表面は加熱される。
【0042】
下側3つのゴデットローラ31~33は、複数の糸Yを延伸する前に予熱するための予熱ローラであり、これらのローラ表面温度は、糸Yのガラス転移点以上の温度(例えば90~100℃程度)に設定されている。一方、上側2つのゴデットローラ34、35は、延伸された複数の糸Yを熱セットするための調質ローラであり、これらのローラ表面温度は、下側3つのゴデットローラ31~33のローラ表面温度よりも高い温度(例えば150~200℃程度)に設定されている。また、上側2つのゴデットローラ34、35の糸送り速度は、下側3つのゴデットローラ31~33よりも速くなっている。
【0043】
糸導入口20aを介して保温箱20に導入された複数の糸Yは、まず、ゴデットローラ31~33によって送られる間に延伸可能な温度まで予熱される。予熱された複数の糸Yは、ゴデットローラ33とゴデットローラ34との間の糸送り速度の差によって延伸される。さらに、複数の糸Yは、ゴデットローラ34、35によって送られる間にさらに高温に加熱されて、延伸された状態が熱セットされる。このようにして延伸された複数の糸Yは、糸導出口20bを介して保温箱20の外に導出される。
【0044】
本実施形態において、糸走行方向の最上流側に配置されたゴデットローラ31が、本発明の第1加熱ローラに相当する。第1加熱ローラであるゴデットローラ31の周囲には、糸導入口20aから保温箱20内に導入された空気が最初に導かれる。また、ゴデットローラ31よりも糸走行方向の下流側に配置され、ゴデットローラ31よりも糸送り速度が速く且つ高温であるゴデットローラ35が、本発明の第2加熱ローラに相当する。そして、ゴデットローラ31とゴデットローラ35との間に配置された3つのゴデットローラ32~34が、本発明の第3加熱ローラに相当する。
【0045】
保温箱20の内部には、整流部材41~45が配設されている。整流部材41~45は、保温箱20の背面部26から前面部27に向かって突出した板状の部材である。整流部材41~45によって、保温箱20の糸導入口20aから糸導出口20bに流れる空気が、概ね糸走行方向に沿ったものとなる。なお、整流部材45と右側面部22との間には僅かに隙間がある。隙間を設けることによって、保温箱20の外部の低温空気と保温箱20の内部の高温空気との間の熱のやり取りが抑制される。すなわち、整流部材45は、断熱部材としての機能を有する。
【0046】
また、保温箱20の内部には、遮断部材51~53が配設されている。遮断部材51~53は、ゴデットローラ34の外周面に向かって延びており、その先端部はゴデットローラ34の外周面に近接している。遮断部材51~53によって、ゴデットローラ34の外周面に発生する随伴流を遮断し、保温箱20内における随伴流の増幅を抑えている。これにより、随伴流が糸走行方向の下流側に進むことで糸導出口20bから多くの熱が逃げてしまうことを抑制している。
【0047】
ここで、「ゴデットローラの周囲」とは、一のゴデットローラについて、他のゴデットローラよりも当該一のゴデットローラに最も近い領域のことである。本実施形態における各ゴデットローラ31~35の周囲とは、上面部21、右側面部22、右下傾斜部23、左側面部24、左下傾斜部25、整流部材41~45、遮断部材51~53、後述の接続壁部63、仕切板73の何れか複数の部材に囲まれた領域のことである。例えば、ゴデットローラ31の周囲とは、右下傾斜部23と、後述の接続壁部63と、後述の仕切板73と、整流部材41とに囲まれた領域である。また、例えば、ゴデットローラ35の周囲とは、左側面部24と、上面部21と、整流部材44と、整流部材43に囲まれた領域である。
【0048】
紡糸延伸装置3の保温箱20の糸導入口20a付近には、糸導入口20aを通って保温箱20の外部の低温空気が流入する。また、保温箱20内において、糸走行方向最上流側に配置されたゴデットローラ31には、糸導入口20aを通って外部から導入された低温の糸Yが巻き掛けられることとなる。このため、ゴデットローラ31の表面の糸Yの温度を十分に維持するために、より多くのエネルギーが消費される。一方で、ゴデットローラ35の周囲の高温空気は、ゴデットローラ35に巻き掛けられた糸Yの回転に伴って生じる随伴流によって糸導出口20bから保温箱20の外部へと流出してしまい、大きなエネルギー損失となる。
【0049】
そこで、本実施形態の紡糸延伸装置3は、保温箱20内の高温空気の糸導出口20bからの流出を抑制しつつ、ゴデットローラ31の表面の糸Yの温度を維持するためのエネルギー消費を抑制するため、誘導路60を有する構成となっている。
【0050】
保温箱20の内部には、ゴデットローラ31~35のうちゴデットローラ35に最も近い位置に入口61が開口し、且つ、ゴデットローラ31~35のうちゴデットローラ31に最も近い位置に出口62が開口した空気の誘導路60が配設されている。また、図2に示すように、入口61は糸導出口20bよりもゴデットローラ35に近い位置で開口しており、出口62は糸導入口20aよりもゴデットローラ31に近い位置で開口している。
【0051】
誘導路60は、保温箱20の左側面部24の一部と、左下傾斜部25の一部と、背面部26の一部と、左側面部24と背面部26及び左下傾斜部25と背面部26とを繋ぐ接続壁部63とを含む。接続壁部63は、図3に示すように、左右方向に延びる部分と前後方向に延びる部分とを有する。誘導路60の延設方向に直交する断面において、誘導路60は全周が左側面部24又は左下傾斜部25、背面部26及び接続壁部63によって囲まれている。すなわち、誘導路60は、外周が閉じられたダクト形状となっている。なお、本実施形態では、左側面部24、左下傾斜部25、背面部26及び接続壁部63が、本発明の壁部に相当する。
【0052】
誘導路60の入口61付近を除く部分の延設方向に直交する断面の寸法は、例えば、16mm×155mm(断面積は2480mm2)である。また、誘導路60は、入口61付近において、入口61に向かうにつれて延設方向に直交する断面積が拡大しており、入口61の面積が最大(断面積は6300mm2)である。なお、誘導路60の延設方向に直交する断面の断面積は、狭すぎると抵抗が大きくなり、空気が誘導路60を流れなくなるおそれがある。このため、誘導路60の延設方向に直交する断面の寸法は、少なくとも断面の断面積が800mm2以上なるような値であることが好ましい。
【0053】
また、図2に示すように、誘導路60の接続壁部63とゴデットローラ31の外周面との間の隙間の大きさd1は20~40mmである。なお、誘導路60を構成する部材(背面部26、左側面部24、左下傾斜部25、接続壁部63)は断熱部材であることが好ましい。これにより、誘導路60の内側と外側との間の熱エネルギーのやり取りを抑制することができ、誘導路60を通る空気のエネルギー損失を抑制することができる。
【0054】
誘導路60の入口61は、左側面部24と背面部26と接続壁部63の上端部とに囲まれた部分である。誘導路60の出口62は、左下傾斜部25と背面部26と接続壁部63の下端部とに囲まれた部分である。
【0055】
誘導路60の入口61は、ゴデットローラ35の軸方向(前後方向)と直交する方向(本実施形態では上下方向)で見たときにゴデットローラ35の軸方向である前後方向に沿った領域と重複するように開口している(図2及び図3参照)。誘導路60の出口62は、ゴデットローラ31の軸方向(前後方向)と直交する方向(本実施形態では上下方向よりも左方に傾いた方向、すなわち、誘導路60の延設方向)で見たときにゴデットローラ31の軸方向である前後方向に沿った領域と重複するように開口している。なお、「ゴデットローラの軸方向である前後方向に沿った領域」とは、上下方向又は左右方向から見たときの、ゴデットローラの前側の端面から後側の端面までのゴデットローラの周辺空間のことである。
【0056】
また、図3に示すように、入口61はゴデットローラ35の軸方向である前後方向にゴデットローラ35の外周面の糸Yの巻掛領域Wを包含する大きさに形成されている。なお、「巻掛領域W」とは、ゴデットローラの外周面において複数の糸Yが巻き掛けられている範囲を指す。具体的には、例えば、ゴデットローラ35の巻掛領域Wとは、前後方向で見たときに、ゴデットローラ35の外周面のうちの糸Yとゴデットローラ35との糸走行方向の上流側の接触点から下流側の接触点までの範囲であって(図2参照)、糸走行方向で見たときに、ゴデットローラ35の外周面のうちの最も前側の糸Yが巻き掛けられたところから最も後側の糸Yが巻き掛けられたところまでの範囲である(図3参照)。
【0057】
さらに、図2に示すように、入口61は、保温箱20の内部空間におけるゴデットローラ35の外周面の糸Yの巻掛領域Wに接する第1空間領域80Aに開口している。また、出口62は、保温箱20の内部空間におけるゴデットローラ31の外周面の糸Yの巻掛領域Wに接する第2空間領域80Bに開口している。なお、「第1空間領域80A」とは、保温箱20の内部空間におけるゴデットローラ35の外周面の糸Yの巻掛領域Wに接する空間であって、ゴデットローラ35の外周面の糸Yの巻掛領域Wよりもゴデットローラ35の径方向外側の空間であって、且つ、他のゴデットローラよりもゴデットローラ35に近い空間を指す。また、「第2空間領域80B」とは、保温箱20の内部空間におけるゴデットローラ31の外周面の糸Yの巻掛領域Wに接する空間であって、ゴデットローラ31の外周面の糸Yの巻掛領域Wよりもゴデットローラ31の径方向外側の空間であって、且つ、他のゴデットローラよりもゴデットローラ31に近い空間を指す。また、第2空間領域80Bのうちの出口62よりも糸走行方向の下流側の領域の一部であって、上述の隙間の大きさd1によって規定される空気通過面積は、出口62とゴデットローラ31の外周面との隙間の面積に対して、狭くなっている。
【0058】
紡糸延伸装置3は、図2に示すように、第1遮蔽板71と、第2遮蔽板72と、仕切板73とをさらに有している。
【0059】
第1遮蔽板71は、第1空間領域80Aに設けられ、ゴデットローラ35から糸導出口20bに向かう空気の量を抑制し、抑制した空気を入口61に導く部材である。第1遮蔽板71は、ゴデットローラ35に対して設けられ、左側面部24から、ゴデットローラ35の巻掛領域Wのうちの、誘導路60の入口61よりも糸走行方向の下流側の部分に向かって延びている。第1遮蔽板71の先端部は、ゴデットローラ35の外周面に近接している。なお、第1遮蔽板71の全部が第1空間領域80Aに設けられていてもよく、一部が第1空間領域80Aに設けられていてもよい。第1遮蔽板71の一部が第1空間領域80Aに設けられている場合、例えば、第1遮蔽板71の残りの部分が、ゴデットローラ35の軸方向と直交する方向で見たときに、ゴデットローラ35の外周面のうちの巻掛領域Wよりもゴデットローラ35の前端面側の領域及び後端面側の領域の少なくともいずれか一方の領域に接する空間領域に設けられていてもよい。また、第1遮蔽板71の一部が第1空間領域80Aに設けられている場合の別の例として、第1遮蔽板71の残りの部分が、ゴデットローラ35の軸方向で見たときに、ゴデットローラ35の外周面の糸Yの巻掛領域Wよりも糸走行方向の下流側の領域に設けられていてもよい。さらに、当然のことながら、第1遮蔽板71の残りの部分が、ゴデットローラ35の軸方向と直交する方向で見たときに、ゴデットローラ35の外周面のうちの巻掛領域Wよりもゴデットローラ35の前端面側の領域及び後端面側の領域の少なくともいずれか一方の領域に接する空間領域に設けられ、且つ、ゴデットローラ35の軸方向で見たときに、ゴデットローラ35の外周面の糸Yの巻掛領域Wよりも糸走行方向の下流側の領域に設けられていてもよい。
【0060】
第1遮蔽板71の先端部は、ゴデットローラ35の外周面と対向していることが好ましい。これにより、ゴデットローラ35の外周面に沿って流れ、保温箱20の外部に流出しようとする空気の量をより多く遮蔽することができる。また、第1遮蔽板71の先端部は、左側面部24側の基端部よりも上方に位置していることが好ましい。これにより、ゴデットローラ35の外周面に発生する随伴流によって糸走行方向の上流側から下流側に送られる空気を、誘導路60に導きやすくなる。本実施形態においては、第1遮蔽板71は、前後方向から見たときゴデットローラ35の下側半円部分の外周面に向かって延びている。そして、図2に示すように、第1遮蔽板71の先端部はゴデットローラ35の外周面と対向しており、第1遮蔽板71の先端部は基端部よりも上方に位置している。なお、第1遮蔽板71の先端部とゴデットローラ35の外周面との間の隙間の大きさは約2mmである。
【0061】
第2遮蔽板72は、第2空間領域80Bに設けられ、出口62から糸導入口20aに向かう空気の量を抑制し、抑制した空気をゴデットローラ31の外周面の糸Yの巻掛領域Wに導く部材である。第2遮蔽板72は、ゴデットローラ31に対して設けられ、右下傾斜部23から、ゴデットローラ31の巻掛領域Wのうちの、誘導路60の出口62よりも糸走行方向の上流側の部分に向かって延びている。第2遮蔽板72の先端部とゴデットローラ31の外周面との間の隙間の大きさは約2mmである。なお、第2遮蔽板72の全部が第2空間領域80Bに設けられていてもよく、一部が第2空間領域80Bに設けられていてもよい。第2遮蔽板72の一部が第2空間領域80Bに設けられている場合、例えば、第2遮蔽板72の残りの部分が、ゴデットローラ31の軸方向と直交する方向で見たときに、ゴデットローラ31の外周面のうちの巻掛領域Wよりもゴデットローラ31の前端面側の領域及び後端面側の領域の少なくともいずれか一方の領域に接する空間領域に設けられていてもよい。また、第2遮蔽板72の一部が第2空間領域80Bに設けられている場合の別の例として、第2遮蔽板72の残りの部分が、ゴデットローラ31の軸方向で見たときに、ゴデットローラ31の外周面の糸Yの巻掛領域Wよりも糸走行方向の上流側の領域に設けられていてもよい。さらに、当然のことながら、第2遮蔽板72の残りの部分が、ゴデットローラ31の軸方向と直交する方向で見たときに、ゴデットローラ31の外周面のうちの巻掛領域Wよりもゴデットローラ31の前端面側の領域及び後端面側の領域の少なくともいずれか一方の領域に接する空間領域に設けられ、且つ、ゴデットローラ31の軸方向で見たときに、ゴデットローラ31の外周面の糸Yの巻掛領域Wよりも糸走行方向の上流側の領域に設けられていてもよい。
【0062】
仕切板73は、ゴデットローラ31とゴデットローラ33との間に設けられている。仕切板73は、背面部26から前面部27に向かって突出し、且つ、誘導路60の接続壁部63からゴデットローラ32の外周面に向かって延びた板状の部材である。仕切板73の先端部は、ゴデットローラ32の外周面に近接している。
【0063】
さらに、本実施形態において、背面部26に片側支持されたゴデットローラ31~35の前側の端面と開閉可能な扉部である前面部27の内面との間の距離d2(図3参照)は9mm以下となっている。
【0064】
(実施例)
次に、比較例、実施例1及び実施例2の紡糸延伸装置3について、ゴデットローラ31~35による糸Yの加熱に伴うヒータの消費電力(kW)の比較を行った。比較例1は、誘導路60を有していない構成の紡糸延伸装置3である。実施例1は、誘導路60、第1遮蔽板71、第2遮蔽板72及び仕切板73が保温箱20の内部に配設された紡糸延伸装置3であって、上記実施形態の紡糸延伸装置3である。実施例2は、誘導路60、第1遮蔽板71及び仕切板73が保温箱20の内部に配設された紡糸延伸装置3であって、上記実施形態のうちの第2遮蔽板72が配設されていない構成の紡糸延伸装置3である。各ゴデットローラ31~35のそれぞれの表面温度は、比較例、実施例1及び実施例2ともに同様である。
【0065】
図4に示すように、比較例の紡糸延伸装置3の消費電力は3.69kWであった。これに対し、実施例1の紡糸延伸装置3の消費電力は2.87kW、実施例2の紡糸延伸装置3の消費電力は3.16kWであり、比較例と比べて消費電力は削減されていた。特に、第2遮蔽板72が配設されている実施例1の紡糸延伸装置3では、消費電力がより大きく削減されていることがわかった。
【0066】
(効果)
本実施形態の紡糸延伸装置3は、糸導入口20aと糸導出口20bとを有する保温箱20と、保温箱20内にそれぞれ収容されたゴデットローラ31~35とを備える。ゴデットローラ31~35は、糸走行方向の最上流側に配置されたゴデットローラ31(第1加熱ローラ)と、ゴデットローラ31よりも糸走行方向の下流側に配置され、ゴデットローラ31よりも糸送り速度が速く且つ高温であるゴデットローラ35(第2加熱ローラ)と、糸走行方向におけるゴデットローラ31とゴデットローラ35との間に配置されたゴデットローラ32~34(第3加熱ローラ)とを有する。そして、保温箱20の内部空間においてゴデットローラ31~35のうちゴデットローラ35に最も近い位置に入口61が開口し、且つ、ゴデットローラ31~35のうちのゴデットローラ31に最も近い位置に出口62が開口した空気の誘導路60をさらに備えている。入口61は、ゴデットローラ35の軸方向(前後方向)と直交する方向で見たときにゴデットローラ35の軸方向に沿った領域と重複するように開口しており、出口62は、ゴデットローラ31の軸方向(前後方向)と直交する方向で見たときにゴデットローラ31の軸方向に沿った領域と重複するように開口している。
【0067】
保温箱20のゴデットローラ31が配置された部分には糸導入口20aを通って外部の低温空気が流入する。また、ゴデットローラ31には、外部から導入された低温の糸Yが巻き掛けられることとなる。このため、ゴデットローラ31の温度を維持するために、より多くのエネルギーが消費される。一方で、ゴデットローラ35の周囲の高温空気は、ローラの回転及びローラに巻き掛けられた糸Yの走行によって生じる随伴流により糸導出口20bから保温箱20の外部へと流出してしまい、大きなエネルギー損失となる。本実施形態によれば、ゴデットローラ35の外周面に沿って流れ、随伴流によって保温箱20の外部に流出しようとする高温空気を誘導路60に導くことができる。そして、誘導路60によって、ゴデットローラ35の周囲の高温空気をゴデットローラ31の周囲に導くことができる。これにより、高温空気の保温箱20の外部への流出によるエネルギー損失を抑制しつつ、ゴデットローラ31の周囲の空気の温度を高めることができ、保温箱20内において熱エネルギーを効率的に利用することができる。また、入口61は、ゴデットローラ35の軸方向と直交する方向で見たときにゴデットローラ35の軸方向に沿った領域と重複するように開口しており、且つ、出口62は、ゴデットローラ31の軸方向と直交する方向で見たときにゴデットローラ31の軸方向に沿った領域と重複するように開口している。このため、ゴデットローラ35の周囲の高温空気は糸Yの走行方向と平行な向きで誘導路60に導かれ、さらに、糸Yの走行方向と平行な向きでゴデットローラ31の周囲に送られる。これにより、ゴデットローラ31及びゴデットローラ35の外周面に巻き掛けられた糸Yの軸方向(前後方向)への糸揺れを抑制することができ、その結果、糸Yの品質低下を抑制することができる。
【0068】
また、本実施形態では、入口61は糸導出口20bよりもゴデットローラ35に近い位置で開口しており、出口62は糸導入口20aよりもゴデットローラ31に近い位置で開口している。誘導路60の入口61及び出口62付近は空気の流れが乱れやすい。誘導路60の入口61が糸導出口20bに近い位置で開口していると、糸導出口20bから保温箱20の外部に導出される糸Yの糸揺れが発生しやすくなる。また、誘導路60の出口62が糸導入口に近い位置で開口していると、糸導入口20aから保温箱20の内部に導入される糸Yの糸揺れが発生しやすくなる。本実施形態によれば、誘導路60の入口61は糸導出口20bよりもゴデットローラ35に近い位置で開口しており、誘導路60の出口62は糸導入口20aよりもゴデットローラ31に近い位置で開口している。このため、糸導入口20aから保温箱20の内部に導入される糸Yの糸揺れの発生及び糸導出口20bから保温箱20の外部に導出される糸Yの糸揺れを抑制することができる。また、誘導路60の入口61が糸導出口20bに近い位置で開口していると、誘導路60の入口61から誘導路60に誘導される空気の一部は、糸Yの走行によって生じる随伴流により糸導出口20bから保温箱20の外部へと流出してしまうおそれがある。本実施形態では、誘導路60の入口61が糸導出口20bよりもゴデットローラ35に近い位置で開口しているため、誘導路60の入口61から誘導路60に誘導される空気の一部が糸導出口20bから保温箱20の外部へと流出することを抑制することができる。
【0069】
また、本実施形態では、誘導路60の全体は、保温箱20の内部に設けられている。本実施形態によれば、誘導路60を通る空気は、保温箱20の内部において保温されるため、高温空気のエネルギー損失をより小さくできる。
【0070】
また、本実施形態では、誘導路60は、誘導路60の延設方向に直交する断面において、誘導路60は全周が左側面部24、左下傾斜部25、背面部26及び接続壁部63によって囲まれている。本実施形態によれば、誘導路60を通る空気が、途中で保温箱20の内部に漏れ出すことを防ぐことができる。このため、効率良く高温空気をゴデットローラ31の周囲に導くことができ、より効率良く熱エネルギーを利用することができる。
【0071】
さらに、本実施形態では、入口61は、ゴデットローラ35の軸方向(前後方向)と直交する方向で見たときに、ゴデットローラ35の軸方向(前後方向)にゴデットローラ35の外周面の糸Yの巻掛領域Wを包含する大きさに形成されている。本実施形態によれば、誘導路60の入口61付近における空気の流れを複数の糸Yの間で均一化しやすくなる。これにより、空気の流れが乱れることによる誘導路60の入口61付近での糸揺れの発生をさらに抑制でき、糸Yの品質に悪影響を与えることを抑えることができる。
【0072】
また、本実施形態では、保温箱20の内部空間におけるゴデットローラ35の外周面の糸Yの巻掛領域Wに接する第1空間領域80Aに設けられ、ゴデットローラ35から糸導出口20bに向かう空気の量を抑制し、抑制した空気を誘導路60の入口61に導く第1遮蔽板71をさらに備えている。本実施形態によれば、ゴデットローラ35の外周面に沿って流れ、保温箱20の外部に流出しようとする空気の量を抑制することができる。また、ゴデットローラ35の外周面に発生する随伴流によって糸走行方向の上流側から下流側に送られる空気を、より多く誘導路60に導くことができる。これにより、さらに効率良く熱エネルギーを利用することができる。
【0073】
また、本実施形態では、保温箱20の内部空間におけるゴデットローラ31の外周面の糸Yの巻掛領域Wに接する第2空間領域80Bに設けられ、誘導路60の出口62から糸導入口20aに向かう空気の量を抑制し、抑制した空気をゴデットローラ31の外周面の糸Yの巻掛領域に導く第2遮蔽板72をさらに備えている。本実施形態によれば、誘導路60によって導かれた高温空気が糸導入口20aから保温箱の外部に流出することを抑制し、さらに、当該空気をゴデットローラ31の外周面の糸Yの巻掛領域Wに導くことができる。これにより、ゴデットローラ31の温度を維持する際のエネルギー消費をより抑制することができ、さらに効率良く熱エネルギーを利用することができる。
【0074】
また、本実施形態では、ゴデットローラ31とゴデットローラ33との間に設けられた仕切板73をさらに備えている。ゴデットローラ33の周囲には、保温箱20の内部において温められた空気が存在しており、ゴデットローラ33には既に高温となった糸Yが巻き掛けられる。このようなゴデットローラ33の周囲に、誘導路60を通ってゴデットローラ31の周囲に導かれた高温空気が移動すると、ゴデットローラ33が過剰に高温となることがあり、糸の品質が損なわれるおそれがある。本実施形態によれば、仕切板73によってゴデットローラ31の周囲の高温空気がゴデットローラ33の周囲に移動するのを抑制することができる。これにより、ゴデットローラ33が過剰に高温となるのを抑制することができる。
【0075】
また、本実施形態では、誘導路60の入口61は保温箱20の内部空間におけるゴデットローラ35の外周面の糸Yの巻掛領域Wに接する第1空間領域80Aに開口しており、出口62は保温箱20の内部空間におけるゴデットローラ31の外周面の糸Yの巻掛領域Wに接する第2空間領域80Bに開口している。誘導路60の入口61及び出口62付近は空気の流れが乱れやすい。誘導路60の入口61及び出口62が、糸走行方向に送られる糸Yのうちのゴデットローラに巻き掛けられていない部分に向かって開口している場合、空気の乱れによって糸揺れが発生し、糸Yの品質に影響を与えるおそれがある。本実施形態によれば、誘導路60の入口61は第1空間領域80Aに開口しており、出口62は第2空間領域80Bに開口しているため、糸揺れが発生するのをより抑制することができる。
【0076】
また、本実施形態では、第2空間領域80Bのうちの、出口62よりも糸走行方向の下流側の領域の少なくとも一部の空気通過面積が、出口62とゴデットローラ31の外周面との隙間の面積に対して、狭められている。空気通過面積が狭い部分ではゴデットローラ31の回転により発生する随伴流の流速が速くなる。その結果、圧力(静圧)が低下し、誘導路60からゴデットローラ31へ空気を導きやすくなる。つまり、空気通過面積が狭い部分は、空気が流入しやすくなる。本実施形態によれば、誘導路60を通ってゴデットローラ31の周囲に誘導された空気は、上記の空気通過面積が狭い部分に空気が流入しやすくなることによって、誘導路60の入口61から多くの高温空気を誘導路60に流入させることができ、すなわち、多くの高温空気をゴデットローラ31の周囲に導くことができる。以上により、さらに効率良く熱エネルギーを利用することができる。
【0077】
さらに、本実施形態では、空気通過面積の一部を規定する、誘導路60とゴデットローラ31の外周面との間の隙間の大きさd1は20~40mmである。本実施形態によれば、誘導路60とゴデットローラ31の外周面との間の隙間の大きさ(空気通過面積の一部を規定する値)を、ゴデットローラ31への糸掛けの際に用いられ糸Yを吸引するためのサクションガンの先端が通ることのできる大きさの範囲内において、できるだけ狭くすることができる。隙間が狭い部分では、ゴデットローラ31の回転により発生する随伴流の流速が速くなる。その結果、圧力(静圧)が低下し、誘導路60からゴデットローラ31へ空気を導きやすくなる。よって、誘導路60を通ってゴデットローラ31の周囲に誘導された高温空気の多くは、上記隙間を通って糸走行方向の下流側へと送られることとなる。このため、誘導路60によって導かれた高温空気が糸導入口20aから保温箱20の外部に流出することを抑制することができる。また、上記隙間に空気が流入しやすくなることによって、誘導路60の入口61からより多くの高温空気を誘導路60に流入させることができ、すなわち、より多くの高温空気をゴデットローラ31の周囲に導くことができる。以上により、さらに効率良く熱エネルギーを利用することができる。
【0078】
また、本実施形態では、保温箱20の前面部27が開閉可能な扉部であって、ゴデットローラ31~35は、背面部26に片側支持されており、且つ、前側の端面と前面部27の内面との間の距離d2が4mm以下である。ゴデットローラ31~35の前側の端面と前面部27との間の距離が大きいと、ゴデットローラ31~35の前側の端面と前面部27との間を空気が流動してしまうため、誘導路60による高温空気の誘導を効率良く行うことができない。本実施形態によれば、ゴデットローラ31~35の前側の端面と前面部27との間から空気出入りし難くなるため、誘導路60による高温空気の誘導を効率良く行うことができる。
【0079】
(変形例)
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は、これらの例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。以下に、前記実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0080】
上記実施形態では、誘導路60はゴデットローラ35の周囲の空気を、ゴデットローラ32~34の周囲に導くことなくゴデットローラ31の周囲に導くものである。しかしながら、例えば、ゴデットローラ34の周囲の空気を、ゴデットローラ32及び33に導くことなくゴデットローラ31の周囲に導くものでもよい。この場合、第1加熱ローラに相当するゴデットローラ31よりも糸走行方向の下流側に配置され、ゴデットローラ31よりも糸送り速度が速く且つ高温であるゴデットローラ34が第2加熱ローラに相当する。また、ゴデットローラ31とゴデットローラ34との間に配置されたゴデットローラ32及び33が第3加熱ローラに相当する。
【0081】
上記実施形態では、誘導路60は、保温箱20の左側面部24の一部と、左下傾斜部25の一部と、背面部26の一部と、左側面部24と背面部26及び左下傾斜部25と背面部26とを繋ぐ接続壁部63とを含んでいる。そして、誘導路60の延設方向に直交する断面において、誘導路60は全周が左側面部24又は左下傾斜部25、背面部26及び接続壁部63によって囲まれている。しかしながら、誘導路60は、保温箱20の左側面部24の一部と、左下傾斜部25の一部と、背面部26の一部と、前面部27の一部と、背面部26から前面部27に向かって延びる板状部材と、板状部材の前端に取り付けられたシール部材とを含む構成でもよい。シール部材は、板状部材と前面部27との間の隙間に配置される。この場合、誘導路60の延設する方向に直交する断面において、誘導路60は全周が左側面部24又は左下傾斜部25、背面部26、前面部27、板状部材及びシール部材によって囲まれている。そして、この場合、入口61の一部が、ゴデットローラ35の軸方向と直交する方向で見たときにゴデットローラ35の軸方向に沿った領域と重複するように開口しており、且つ、出口62の一部が、ゴデットローラ31の軸方向と直交する方向で見たときにゴデットローラ31の軸方向に沿った領域と重複するように開口していることとなる。
【0082】
さらにシール部材は、第1遮蔽板71、第2遮蔽板72、仕切板73、整流部材41~45及び遮断部材51~53の前端に取り付けられていてもよい。これにより、第1遮蔽板71、第2遮蔽板72、仕切板73、整流部材41~45及び遮断部材51~53のそれぞれと、閉じられた状態の前面部27との間の隙間がなくなる。そうすると、当該隙間を通ろうとする空気が遮蔽され、保温箱20の内部空間において意図しない気流の流れが生じることを防ぐことができる。なお、シール部材は、第1遮蔽板71、第2遮蔽板72、仕切板73、整流部材41~45及び遮断部材51~53の前端のすべてに取り付けられていなくてもよく、少なくともいずれか一箇所又は複数箇所に取り付けられていてもよい。
【0083】
また、誘導路60の延設方向に直交する断面において、誘導路60は全周が壁部に囲まれていなくてもよい。例えば、誘導路60は、保温箱20の左側面部24と、左下傾斜部25と、背面部26と、背面部26から前面部27側に突出した板状部材とを含む構成でもよい。この場合、誘導路60は、延設方向に直交する断面において、前側が壁部に囲まれていない形状となっている。
【0084】
上記実施形態では、誘導路60は保温箱20の内部に配設されているが、保温箱20の外部に配設されていてもよい。この場合、誘導路60は断熱部材であって、外周が閉じられたダクト形状である。
【0085】
上記実施形態において、第2遮蔽板72の先端部とゴデットローラ31の外周面との間の隙間の大きさは約2mmである。しかしながら、第2遮蔽板72の先端部とゴデットローラ31の外周面との間の隙間の大きさは約2mmより大きくてもよい。第2遮蔽板72は、誘導路60によってゴデットローラ31の周囲に導かれた高温空気が糸導入口20aから保温箱の外部に流出することを抑制するとともに、糸導入口20aから保温箱20の内部に導入される低温空気を遮蔽する役割も有する。第2遮蔽板72の先端部がゴデットローラ31の外周面に近接しすぎていると、高温空気が保温箱20の内部により多くため込まれることなる。この場合、ゴデットローラ31よりも糸走行方向の下流側に存在するゴデットローラ32~35の周囲の空気の温度が想定よりも高くなってしまうことがある。そうすると、ゴデットローラ32~35の表面温度が高くなりすぎてしまい、糸Yの品質に影響を及ぼすおそれがある。この場合は、むしろ、糸導入口20aから保温箱20の内部に低温空気を流入させる必要がある。よって、第2遮蔽板72の先端部とゴデットローラ31の外周面との間の距離は、各ゴデットローラ32~35の表面温度が高くなりすぎない範囲内において、誘導路60によってゴデットローラ31の周囲に導かれた空気が糸導入口20aを通って保温箱の外部へ流出することを最も抑制できる値であることが好ましい。第2遮蔽板72の先端部とゴデットローラ31の外周面との間の隙間の大きさは、例えば、2mm~35mmの間で調整される。
【0086】
また、本発明の紡糸延伸装置は、第2遮蔽板72の先端部とゴデットローラ31の外周面との間の距離を調整するために、第2遮蔽板72を移動させる第2遮蔽板駆動装置を備えていてもよい。この場合、保温箱20の内部の温度や各ゴデットローラの表面温度などに応じて第2遮蔽板72の先端部とゴデットローラ31の外周面との間の距離を自動調整する。これにより、ゴデットローラ31よりも糸走行方向の下流側に存在するゴデットローラ32~35の周囲の空気の温度が想定よりも高くなってしまうことを防ぐことができる。
【0087】
また、上記実施形態において、第1遮蔽板71は、ゴデットローラ35の外周面に接近した近接位置と、近接位置よりもゴデットローラ35の外周面から離れた退避位置とで移動可能であってもよい。第2遮蔽板72は、ゴデットローラ31の外周面に接近した近接位置と、近接位置よりもゴデットローラ31の外周面から離れた退避位置とで移動可能であってもよい。遮断部材51及び52は、ゴデットローラ34の外周面に接近した近接位置と、近接位置よりもゴデットローラ34の外周面から離れた退避位置とで移動可能であってもよい。この場合、例えば、ゴデットローラに糸Yの糸掛けの際に第1遮蔽板71、第2遮蔽板72、遮断部材51、52を退避位置に移動させて、それぞれの部材をゴデットローラ35に対して一時的に離すことができるため、ゴデットローラへの糸掛けが容易になる。
【0088】
上記実施形態において、第1遮蔽板71、第2遮蔽板72、仕切板73のいずれか又は複数は配置されていなくてもよい。
【0089】
上記実施形態において、誘導路60の入口61に、スライド式のシャッターが取り付けられていてもよい。シャッターが入口61に沿ってスライドすることで、入口61の面積が変動する。これにより、誘導路60に流入する空気の流量を調整可能である。なお、シャッターのスライドは、オペレータによって手動で行われてもよく、シャッターを移動させるためのシャッター駆動装置によって自動で行われてもよい。
【符号の説明】
【0090】
1 紡糸引取機
3 紡糸延伸装置
20 保温箱
20a 糸導入口
20b 糸導出口
24 左側面部(壁部)
25 左下傾斜部(壁部)
26 背面部(壁部)
31 ゴデットローラ(第1加熱ローラ)
32 ゴデットローラ(第3加熱ローラ)
33 ゴデットローラ(第3加熱ローラ)
34 ゴデットローラ(第3加熱ローラ)
35 ゴデットローラ(第2加熱ローラ)
60 誘導路
61 入口
62 出口
63 接続壁部(壁部)
71 第1遮蔽板
72 第2遮蔽板
73 仕切板
80A 第1空間領域
80B 第2空間領域
図1
図2
図3
図4