(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】浮体構造物支持構造、浮体構造物の設置方法
(51)【国際特許分類】
B63B 35/00 20200101AFI20241112BHJP
B63B 39/03 20060101ALI20241112BHJP
B63B 35/44 20060101ALI20241112BHJP
B63B 73/00 20200101ALI20241112BHJP
【FI】
B63B35/00 T
B63B39/03 Z
B63B35/44 Z
B63B73/00
(21)【出願番号】P 2021085258
(22)【出願日】2021-05-20
【審査請求日】2023-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】100156410
【氏名又は名称】山内 輝和
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】柵瀬 信夫
(72)【発明者】
【氏名】岩前 伸幸
(72)【発明者】
【氏名】大橋 彩
(72)【発明者】
【氏名】林田 宏二
(72)【発明者】
【氏名】辻本 宏
(72)【発明者】
【氏名】土谷 学
(72)【発明者】
【氏名】新川 隆夫
【審査官】中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-160109(JP,A)
【文献】特表2017-505262(JP,A)
【文献】特開昭53-029205(JP,A)
【文献】特開2021-011124(JP,A)
【文献】米国特許第10087915(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0184071(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 35/00 - 35/70
B63B 39/00 - 39/14
B63B 73/00 - 73/74
F03D 1/00 - 80/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮体構造物用の支持構造であって、
上下方向の長さが水平方向の幅よりも長い複数の浮体と、
前記浮体上に配置され、浮体構造物が固定されるベース部と、
を具備し、
前記浮体は、上下方向の断面において、少なくとも上部と下部が曲面で構成され、内部に空間が形成されたプレキャストコンクリート製であり、
前記浮体の内部に、バラストの導入及び排出が可能であ
り、
前記ベース部の下方には、揺動防止部材が配置され、前記揺動防止部材は、前記ベース部の下方へ降下可能であり、
前記揺動防止部材は、略全面が曲面で構成された形状であり、複数の前記浮体の中央部に配置され、前記ベース部又は前記浮体構造物と棒状部材で連結されることを特徴とする浮体構造物支持構造。
【請求項2】
前記浮体は、上部曲面部材と、下部曲面部材と、前記上部曲面部材と前記下部曲面部材との間に挟み込まれるリング状部材とを有し、
前記上部曲面部材と前記下部曲面部材とが、前記リング状部材を介して接合され、
前記上部曲面部材と前記下部曲面部材との間の前記リング状部材の数に応じて、前記浮体のサイズを調整可能であることを特徴とする請求項1記載の浮体構造物支持構造。
【請求項3】
前記揺動防止部材は内部が中空のプレキャストコンクリート製であり、
前記揺動防止部材の内部へバラストを導入可能であることを特徴とする
請求項1または請求項2に記載の浮体構造物支持構造。
【請求項4】
前記浮体構造物は、洋上風力発電用風車であり、
前記棒状部材は、前記洋上風力発電用風車の支柱の内部に挿入されることを特徴とする請求項
1から3のいずれかに記載の浮体構造物支持構造。
【請求項5】
浮体構造物用の支持構造であって、
上下方向の長さが水平方向の幅よりも長い複数の浮体と、
前記浮体上に配置され、浮体構造物が固定されるベース部と、
を具備し、
前記浮体は、上下方向の断面において、少なくとも上部と下部が曲面で構成され、内部に空間が形成されたプレキャストコンクリート製であり、
前記浮体の内部に、バラストの導入及び排出が可能であ
り、
前記浮体は、卵型の形状であることを特徴とする浮体構造物支持構造。
【請求項6】
浮体構造物支持構造を用いた浮体構造物の設置方法であって、
前記浮体構造物用の支持構造は、
上下方向の長さが水平方向の幅よりも長い複数の浮体と、
前記浮体上に配置され、浮体構造物が固定されるベース部と、
を具備し、
前記浮体は、上下方向の断面において、少なくとも上部と下部が曲面で構成され、内部に空間が形成されたプレキャストコンクリート製であり、
前記浮体の内部に、バラストの導入及び排出が可能であり、
前記ベース部の下方には、揺動防止部材が配置され、前記揺動防止部材は、前記ベース部又は前記浮体構造物と棒状部材で連結され、前記ベース部の下方へ降下可能であり、
前記揺動防止部材を上昇させた状態で設置場所まで前記浮体構造物支持構造を曳航する工程と、
設置場所において、前記揺動防止部材を
水底につけずに海中に降下させるとともに、前記浮体構造物支持構造を海底に係留する工程と、
を具備することを特徴とする浮体構造物の設置方法。
【請求項7】
請求項
1から4のいずれかに記載の浮体構造物支持構造を用いた浮体構造物の設置方法であって、
前記揺動防止部材を上昇させた状態で設置場所まで前記浮体構造物支持構造を曳航する工程と、
設置場所において、前記揺動防止部材を海中に降下させるとともに、前記浮体構造物支持構造を海底に係留する工程と、
を具備することを特徴とする浮体構造物の設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋上などの浮体構造物を支持する支持構造と、浮体構造物の設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
洋上風力発電風車などの洋上構造物としては、浮体式でタワー等を支持する方式が提案されている。このような浮体構造物の支持構造としては、一般的に鋼製の浮体が用いられる。しかし、鋼製の浮体は、時間経過に伴って錆等の劣化が生じるため定期的な点検や修理が必要であり、20~30年間の使用の中で、船舶等と同様のドッグなどでの検査や補修作業が必要となる。
【0003】
これに対し、コンクリート製の浮体を用いた方法が提案されている(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2014-503424号公報
【文献】特開2017-129061号公報
【文献】特表2018-502761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、このようなコンクリート製の浮体を用いて浮体構造物を支持する際には、浮体と浮体上の構造物を安定させる必要がある。このため、例えば特許文献1、2のように、深さ方向の寸法(厚み)に対して、これと直交する寸法(幅や径)を大きくした平坦な浮体を用いる方法や、特許文献3のように、所定の長さの浮体要素を水平方向に倒して使用する方法が一般的である。
【0006】
しかし、発明者らは、特許文献1~3のような形態は、必ずしも十分に波や潮流の影響が考慮されておらず、波や潮流などの影響を受けやすいことを知見した。このため、より波等の影響を受けにくく、かつ、安定して構造物を支持することが可能な浮体構造物支持構造が望まれる。
【0007】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、安定して浮体構造物を支持することが可能な浮体構造物支持構造等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するための第1の発明は、浮体構造物用の支持構造であって、上下方向の長さが水平方向の幅よりも長い複数の浮体と、前記浮体上に配置され、浮体構造物が固定されるベース部と、を具備し、前記浮体は、上下方向の断面において、少なくとも上部と下部が曲面で構成され、内部に空間が形成されたプレキャストコンクリート製であり、前記浮体の内部に、バラストの導入及び排出が可能であり、前記ベース部の下方には、揺動防止部材が配置され、前記揺動防止部材は、前記ベース部の下方へ降下可能であり、前記揺動防止部材は、略全面が曲面で構成された形状であり、複数の前記浮体の中央部に配置され、前記ベース部又は前記浮体構造物と棒状部材で連結されることを特徴とする浮体構造物支持構造である。
第2の発明は、浮体構造物用の支持構造であって、上下方向の長さが水平方向の幅よりも長い複数の浮体と、前記浮体上に配置され、浮体構造物が固定されるベース部と、を具備し、前記浮体は、上下方向の断面において、少なくとも上部と下部が曲面で構成され、内部に空間が形成されたプレキャストコンクリート製であり、前記浮体の内部に、バラストの導入及び排出が可能であり、前記浮体は、卵型の形状であることを特徴とする浮体構造物支持構造である。
【0009】
前記浮体は、上部曲面部材と、下部曲面部材と、前記上部曲面部材と前記下部曲面部材との間に挟み込まれるリング状部材とを有し、前記上部曲面部材と前記下部曲面部材とが、前記リング状部材を介して接合され、前記上部曲面部材と前記下部曲面部材との間の前記リング状部材の数に応じて、前記浮体のサイズを調整可能であってもよい。
【0010】
前記揺動防止部材は内部が中空のプレキャストコンクリート製であり、前記揺動防止部材の内部へバラストを導入可能であってもよい。
【0011】
前記揺動防止部材は、前記ベース部又は前記浮体構造物と棒状部材で連結されてもよい。
【0012】
前記浮体構造物は、洋上風力発電用風車であり、前記棒状部材は、前記洋上風力発電用風車の支柱の内部に挿入されてもよい。
【0013】
第1の発明によれば、浮体がプレキャストコンクリート製であるため、鋼製のように錆等の問題がない。また、鋼製の浮体のように、特殊な造船所での溶接等の作業が不要であるため、設置場所に近い沿岸部で組み立てることができる。このため、支持構造の組立作業及び運搬等の作業が容易である。
【0014】
また、浮体の外面が曲面で構成されるため、潮流や波の影響を受けにくい。また、複数の浮体を用い、それぞれの浮体の上下方向の長さが水平方向の幅よりも長い形状であるため、同じ体積(浮力)の通常の形態(例えば特許文献1~3のような平坦な形状や、長手方向を水平方向にした形態)と比較して、水面を横切る断面積を小さくすることができる。このため、さらに波等の影響を受けにくくすることができる。
【0015】
例えば、完全な球状の浮体と、上下方向の断面が楕円、長円又は卵型などのように上下方向に断面形状を偏平させた形態の浮体とでは、同じ体積であれば、水面を横切る浮体の断面積を小さくすることができる。このため、特に水面近傍における波や潮流から浮体が受ける力を抑制することができる。
【0017】
また、ベース部の下方に、揺動防止部材を配置し、組立時及び曳航時には揺動防止部材を上方に引き上げておくことで、揺動防止部材が作業や曳航の妨げとなることを抑制することができる。また、浮体構造物の設置場所において、揺動防止部材を水中に降下させることで、浮体構造物支持構造全体の重心を下方に移動させることができる。また、揺動防止部材が水中における抵抗となるため、揺動防止ダンパとして機能して、より安定に浮体構造物を支持することができる。
【0018】
この際、揺動防止部材をプレキャストコンクリート製とすることで、浮体と同様に錆等の問題がなく、組立作業性も良好である。また、揺動防止部材の内部へバラストを導入可能とすることで、浮体構造物を設置した際には、内部にバラストを導入し、浮力を最小化することができる。このため、浮体構造物支持構造全体の重心をより下方に移動させて安定化させることができる。
【0019】
また、揺動防止部材を、ベース部又は浮体構造物と棒状部材で連結することで、例えば、ワイヤーやチェーンのように可撓性を有する部材によって連結する場合と比較して、上部の浮体構造物との間で直接力を伝達することができるため、効率よく浮体構造物の揺動や上下動を抑制することができる。
【0020】
また、浮体構造物が洋上風力発電用風車である場合には、棒状部材を洋上風力発電用風車の支柱の内部に挿入して収容可能である。また、支柱と棒状部材とを連結することで、洋上風力発電設備に対する揺動防止ダンパとしての機能をより効率よく発揮させることができる。
【0021】
第3の発明は、浮体構造物支持構造を用いた浮体構造物の設置方法であって、前記浮体構造物用の支持構造は、上下方向の長さが水平方向の幅よりも長い複数の浮体と、前記浮体上に配置され、浮体構造物が固定されるベース部と、を具備し、前記浮体は、上下方向の断面において、少なくとも上部と下部が曲面で構成され、内部に空間が形成されたプレキャストコンクリート製であり、前記浮体の内部に、バラストの導入及び排出が可能であり、前記ベース部の下方には、揺動防止部材が配置され、前記揺動防止部材は、前記ベース部又は前記浮体構造物と棒状部材で連結され、前記ベース部の下方へ降下可能であり、前記揺動防止部材を上昇させた状態で設置場所まで前記浮体構造物支持構造を曳航する工程と、設置場所において、前記揺動防止部材を水底につけずに海中に降下させるとともに、前記浮体構造物支持構造を海底に係留する工程と、を具備することを特徴とする浮体構造物の設置方法である。
第4の発明は、第1の発明にかかる浮体構造物支持構造を用いた浮体構造物の設置方法であって、前記揺動防止部材を上昇させた状態で設置場所まで前記浮体構造物支持構造を曳航する工程と、設置場所において、前記揺動防止部材を海中に降下させるとともに、前記浮体構造物支持構造を海底に係留する工程と、を具備することを特徴とする浮体構造物の設置方法である。
【0022】
第3、4の発明によれば、組立時及び曳航時には揺動防止部材を上方に引き上げて置くことで、揺動防止部材が作業や曳航の妨げとなることを抑制し、浮体構造物の設置場所において、揺動防止部材を海中に降下させることで、浮体構造物支持構造の重心を下方に移動させて安定化させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、安定して浮体構造物を支持することが可能な浮体構造物支持構造等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図2】(a)、(b)は、ベース部7の形態を示す図。
【
図3】(a)、(b)は、ベース部7に対する浮体構造物の配置を示す図。
【
図5】(a)、(b)は、浮体構造物支持構造1を設置する状態を示す図。
【
図6】(a)、(b)は、浮体5の組立構造を示す図。
【
図7】(a)、(b)は、浮体5の組立構造を示す図。
【
図8】(a)、(b)は、浮体5の組立構造を示す図。
【
図9】(a)~(d)は、揺動防止部材11を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、浮体構造物支持構造1を示す図である。浮体構造物支持構造1は、浮体構造物3を水上に浮かべた状態で支持するための支持構造である。
【0026】
なお、本実施形態では、浮体構造物3が洋上風力発電用風車である場合を示すが、浮体構造物3としては他の構造であってもよい。例えば、浮桟橋などのように水上に浮かべて使用される構造物であれば、いずれの構造物にも適用可能である。
【0027】
浮体構造物支持構造1は、主に、浮体構造物3、浮体5、ベース部7、下部連結部9、揺動防止部材11等によって構成される。複数の浮体5は水平方向に併設される。例えば、本実施形態では、4体の浮体5が略等間隔に配置される。
【0028】
浮体5は、上下方向の長さが水平方向の幅よりも長い。例えば、浮体5の水平方向の断面は略円形であり、これと直交する鉛直方向の断面は略楕円又は略長円などの上下に偏平した形状である。すなわち、浮体5は、外周面の略全面が曲面で構成される。
【0029】
ここで、浮体5の外面が曲面で構成されるとは、後述するベース部7や下部連結部9との接合部やバラストの導入口等、以外の部位が曲面で形成されていることをいう。すなわち、外面の一部に、機能上又は製造上の理由から、部分的に平坦部や凹凸構造である部位がある場合も、その他の大部分が曲面で構成されていれば、浮体5の外面が曲面で構成されるものに含まれる。
【0030】
浮体5は、内部に空間13が形成されたプレキャストコンクリート製である。浮体5の内部には、図示を省略した導入口又は排出口から、海水などのバラストの導入及び排出が可能である。なお、浮体5の内部には、仕切り15が設けられる。仕切り15によって、浮体5の下部にバラストを導入することができる。このように、浮体5の下部にバラストを導入することで、安定して、浮体5の長手方向を上下方向に向けて水上に浮かべることができる。また、浮体5が揺れた際に、仕切り15によって空間13内のバラスト水のスロッシングを抑制することができる。なお、仕切り15としては、空間13内に完全な閉空間を形成するものではなく、通水用の複数の孔を設けてもよい。このようにしても、通水時の抵抗によりスロッシングを抑制することができる。また、仕切り15としては、浮体5の内部を水平方向に仕切るものであってもよく、鉛直方向に仕切るものであってもよい。
【0031】
複数の浮体5の下部には、下部連結部9が配置され、浮体5の上部には、ベース部7が配置される。すなわち、複数の浮体5は、下部が下部連結部9で連結され、上部がベース部7によって連結される。なお、ベース部7及び下部連結部9は、鋼製であってもよく、プレキャストコンクリート製であってもよい。また、ベース部7とは別に、浮体5の上部の連結を行う上部連結部材を配置してもよい。
【0032】
ベース部7の下方であって、複数の浮体5の中央部には、揺動防止部材11が配置される。揺動防止部材11も、浮体5と同様に、内部が中空のプレキャストコンクリート製であり、揺動防止部材11の内部へバラストを導入可能である。
【0033】
浮体構造物3は、ベース部7上に固定される。揺動防止部材11は、ベース部7又は浮体構造物3と棒状部材17で連結される。例えば、前述したように、浮体構造物3が洋上風力発電用風車である場合には、棒状部材17が洋上風力発電用風車の支柱の内部に挿入されて固定される。なお、揺動防止部材11は、ベース部7の下方へ降下可能である。揺動防止部材11の作用については後述する。
【0034】
図2(a)は、ベース部7に対する浮体5等の配置を示す平面図である。図示したように、4体の浮体5を用いる場合には、ベース部7は、略正方形とし、それぞれの浮体5をベース部7の頂点近傍に配置する。このようにすることで、浮体5によって安定してベース部7及び浮体構造物3を支持することができる。
【0035】
なお、揺動防止部材11は、浮体5及びベース部7の重心位置(浮体5及びベース部7の中心)に配置されることが望ましい。また、この場合、浮体構造物3も、揺動防止部材11の上方(浮体5及びベース部7の重心位置)に配置される。
【0036】
なお、ベース部7及び浮体5の配置は、
図2(a)に示す例には限られない。例えば、
図2(b)に示すように、浮体5は、3体であってもよい。この場合には、ベース部7を略正三角形とし、ベース部7の頂点に浮体5を配置してもよい。このように、浮体5は少なくとも3体を略等間隔で配置することで、安定してベース部7等を支持することができる。
【0037】
なお、浮体構造物3の配置は、必ずしもベース部7等の中央でなくてもよい。例えば、
図3(a)に示すように、略矩形のベース部7の一辺上に浮体構造物3を配置してもよい。また、
図3(b)に示すように、略三角形のベース部7の一辺上に浮体構造物3を配置してもよい。なお、この場合には、それぞれの浮体5に導入するバラスト量を調整すし、それぞれの浮体5の浮力を調整することで全体のバランスを調整することができる。
【0038】
次に、浮体構造物支持構造1を用いた浮体構造物3の設置方法について説明する。浮体構造物支持構造1は、浮体構造物3を設置する海洋の近傍の沿岸にて組み立てることができる。
図4は、仮設桟橋19を用いて、浮体構造物支持構造1を組み立てる状態を示す図である。
【0039】
まず、プレキャストコンクリート製の浮体5を組み立てて連結し、ベース部7を固定する。浮体5の組立方法については詳細を後述する。さらに、ベース部7上に浮体構造物3を組み立てて固定する。また、揺動防止部材11を浮体構造物3と連結する。なお、浮体構造物3の組立の際には、浮体5等の内部にバラストを導入して浮体5(ベース部7)を沈下させることで、上部での作業が容易となる。
【0040】
なお、前述したように、揺動防止部材11は、ベース部7の下方において上下動が可能である。浮体構造物支持構造1を組み立てる際には、揺動防止部材11は上昇させた状態で固定する。
【0041】
次に、
図5(a)に示すように、揺動防止部材11を上昇させた状態で設置場所まで浮体構造物支持構造1を曳航する。この際には、浮体5及び揺動防止部材11のバラストを排出して、全体を上昇させた状態で曳航する。このようにすることで、浮体構造物支持構造1の下部が海底と接触することを抑制することができる。
【0042】
浮体構造物支持構造1を設置場所まで曳航した後、揺動防止部材11を海中に降下させて固定する(図中矢印A)。なお、揺動防止部材11は海底22まで降下させる必要はなく、海面と海底との間の水中に位置すればよい。また、浮体構造物支持構造1を海底22に係留索21によって係留する。例えば、緊張係留式としてもよい。
【0043】
ここで、揺動防止部材11の内部にはバラストが導入されて内部の空気は略全て排出される。なお、揺動防止部材11内に導入するバラストは、海水でなくてもよい。揺動防止部材11は、浮体構造物支持構造1の全体の重心を下方に下げる役割を持つ。また、波や潮流の影響で、浮体構造物3の揺動や上下動に対して、揺動防止部材11が水中での抵抗部として働くため、揺動防止部材11を揺動防止ダンパとして機能させることができる。すなわち、揺動防止部材11によって、浮体構造物3の揺動や上下動を抑制することができる。
【0044】
以上のように、本実施形態の浮体構造物支持構造1によれば、外面の略全面が曲面からなる浮体5によって支持されるため、浮体5が波や潮流を受け流すことができるため、波等の影響を抑制することができる。また、浮体5が上下方向に長いため、例えば球体の場合(すなわち上下方向と水平方向のサイズが略同一)よりも、同一の体積(浮力)であれば、水面を横切る断面積を小さくすることができる。このため、最も波や潮流の影響を受けやすい水面近傍において、浮体5を小型化したのと同様の効果を得ることができる。例えば、漂流物等を受け流す効果も大きい。
【0045】
また、浮体5の内部に仕切り15を設け、バラストを浮体5の下部に配置することで、浮体5を安定して起立させる(長手方向を上下方向へ向ける)ことができる。また、仕切り15によって、バラスト水のスロッシングを抑制することができる。
【0046】
また、揺動防止部材11が浮体構造物3と連結されるため、浮体構造物支持構造1の重心を下げることができる。また、揺動防止部材11が水中ダンパとして機能し、浮体構造物3の揺動や上下動を抑制することができる。なお、揺動防止部材11による揺動等の防止効果を得るためには、可撓性を有するワイヤー等によって浮体構造物3(又はベース部7)と連結されるのではなく、ある程度の剛性を有する棒状の部材で連結することが望ましい。
【0047】
また、棒状部材17を洋上風力発電用風車の支柱の内部に収容することで、揺動防止部材11を上昇させた際にも、棒状部材17が上方に露出することがない。また、揺動防止部材11を上昇させた際にも降下させた際にも、確実に支柱に固定することができる。
【0048】
なお、棒状部材17と浮体構造物3との連結部においては、上下方向に対しては両者に確実に力を伝達することができるとともに、水平方向に対しては両者の間での力を減衰させることが可能な緩衝部材等を用いたジョイント構造としてもよい。例えば、揺動防止部材11に対して、水平方向に潮流による力が付与された際に、その力が全て浮体構造物3に伝達されずに減衰させることで、係留索21への負担を小さくすることができる。この場合でも、高波等による上下動や揺動を抑制するダンパ機能は確実に確保することができる。
【0049】
なお、前述したように、浮体5は、プレキャストコンクリート(例えば比重2.0以上)によって構成される。この際、例えば、
図6(a)に示すように、上部曲面部材23と下部曲面部材25とを止水部材27を介して連結して構成することができる。なお、内部の仕切りやバラストの導入口や排水口等は図示を省略する。
【0050】
上部曲面部材23と下部曲面部材25は、略楕円形状を半割した形態であり、いずれの位置における断面形状も円形であり、開口部を最大径とした形状である。なお、上部曲面部材23と下部曲面部材25は、いずれも、開口部の半径よりも、高さが高い。
【0051】
この場合、上部曲面部材23と下部曲面部材25との連結部には、互いに嵌合可能な段差を形成しておき、止水部材27を介して段差を嵌合させることで、より確実に連結することができる。この際、
図6(b)に示すように、緊張材29によってプレストレスを付与してもよい。なお、緊張材29は、図示したように、浮体5の中心を上下に貫通させてもよく、上部曲面部材23と下部曲面部材25のコンクリートの肉厚内部に配置してもよい。
【0052】
このように、上部曲面部材23と下部曲面部材25とを水密に組み合わせることで、上下方向の略中央が最大径となり、上下に行くにつれて徐々に径が小さくなるような軸対称な形状とすることができる。すなわち、浮体5の略全面を曲面で構成することができる。なお、前述したように、浮体5の一部(例えば上下端等)において、平坦部や凹凸部を形成してもよい。
【0053】
また、
図7に示すように、さらにリング状部材31を追加してもよい。
図7(a)は、組立前の状態を示す図、
図7(b)は、組立後の浮体5を示す図である。なお、仕切り及び緊張材等の図示は省略する。
【0054】
図示した例では、浮体5は、上部曲面部材23と、下部曲面部材25と、上部曲面部材23と下部曲面部材25との間に挟み込まれるリング状部材31等から構成される。すなわち、上部曲面部材23と下部曲面部材25とが、リング状部材31を介して接合される。なお、リング状部材31の端面にも、上部曲面部材23と下部曲面部材25の端面に形成された段差と嵌合可能な段差を形成し、それぞれの接合部において互いに嵌合させることができる。また、各部材の間には止水部材27が配置されて止水性が確保される。
【0055】
浮体5をこのように形成しても、浮体5の上下方向の略中央が最大径となり、上下端部の近傍において、上下端に行くにつれて徐々に径が小さくなるような軸対称な形状とすることができ、浮体5の外周面を曲面で構成することができる。
【0056】
また、
図8(a)、
図8(b)に示すように、上部曲面部材23と下部曲面部材25との間に挟み込まれるリング状部材31の数をさらに増やしてもよい。例えば、図示したように、複数のリング状部材31を用いることで、浮体5のサイズを大きくする(長くする)ことができる。すなわち、上部曲面部材23と下部曲面部材25との間のリング状部材31の数に応じて、浮体5のサイズを調整可能である。
【0057】
このように、リング状部材31を用いることで、上部曲面部材23と下部曲面部材25を共通して使用して、複数のサイズの浮体5を形成することができる。このため、部材を共有化して、浮体構造物に応じて、適切なサイズの浮体5を形成することができる。この際、前述したように、上下方向の長さが水平方向のサイズよりも長く、外面が略全面にわたって曲面で構成することができるため、波等の影響を受けにくい浮体5を得ることができる。
【0058】
なお、浮体5の使用時において、水面近傍(潮間帯)に位置する部位は、作用する波力が大きく、漂流物等の衝突による衝撃力が作用しやすいため、他の部位よりも強度が大きく耐久性も高い超高強度コンクリート製のプレキャスト部材(リング状部材)を使用してもよい。
【0059】
なお、揺動防止部材11については、形状は特に限定されない。例えば、浮体5と同様に、
図9(a)に示すような略全面が曲面で構成された形状としてもよい。この場合、浮体5と部材を共有化してもよい。
【0060】
また、
図9(b)~
図9(d)に示すように、揺動防止部材11を、平坦面を有する断面多角形状としてもよい。例えば、揺動防止部材11は、上方の浮体構造物3の揺動に対して抵抗となることが望ましいため、あえて平坦面を有する多角形の断面形状とすることが望ましい。特に、上下面に平坦面を有するような三角形状や、四角形状等とすることで、浮体構造物3の上下動に対する抵抗を高めることができる。
【0061】
また、揺動防止部材11は、中空形状でなくてもよい。
図10(a)は、揺動防止部材11の平面図、
図10(b)は正面図である。図示したように、揺動防止部材11としては、複数の通水用の孔14を有する板状部材であってもよい。このようにすることで、高波等による上下動に対しては、ダンパ機能を発揮させることができるとともに、潮流等の水平方向の力に対しては、揺動防止部材11が抵抗になりにくく、係留索21への負担を小さくすることができる。なお、この場合、下面側に脚部12を形成することで、供用後は棒状部材17を切断することで、揺動防止部材を海底に沈め、漁礁として利用することができる。
【0062】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0063】
1………浮体構造物支持構造
3………浮体構造物
5………浮体
7………ベース部
9a………下部連結部
11………揺動防止部材
13………空間
15………仕切り
17………棒状部材
19………仮設桟橋
21………係留索
22………海底
23………上部曲面部材
25………下部曲面部材
27………止水部材
29………緊張材
31………リング状部材