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7586788モータ制御装置、洗濯機、プログラム、及びモータ制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】モータ制御装置、洗濯機、プログラム、及びモータ制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/185 20160101AFI20241112BHJP
   H02P 21/24 20160101ALI20241112BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
H02P6/185
H02P21/24
H02P27/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021124046
(22)【出願日】2021-07-29
(65)【公開番号】P2023019377
(43)【公開日】2023-02-09
【審査請求日】2023-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100136353
【弁理士】
【氏名又は名称】高尾 建吾
(72)【発明者】
【氏名】賀門 陽子
(72)【発明者】
【氏名】亀田 晃史
(72)【発明者】
【氏名】孫 昊
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 裕智
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 勝
(72)【発明者】
【氏名】川原 亜弥
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/043499(WO,A1)
【文献】特開2009-183063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/185
H02P 21/24
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータを有するモータを制御するモータ制御装置であって、
前記ロータの回転速度の第1速度領域において、前記モータの動作値に基づく第1パラメータを用いた第1方式によって、前記ロータの位相又は角速度を推定する第1推定部と、
前記第1速度領域とは異なる前記ロータの回転速度の第2速度領域において、前記モータの動作値に基づく第2パラメータを用いた第2方式によって、前記ロータの位相又は角速度を推定する第2推定部と、
を備え、
前記第1推定部は、前記第1パラメータを前記第2パラメータに変換する変換部を有し、
前記第1推定部及び前記第2推定部は、前記第1推定部の前記第2パラメータと、前記第2推定部の前記第2パラメータとに基づいて、前記ロータの位相推定値又は角速度推定値を出力する共通の制御部を有し、
前記第1方式において、前記動作値は前記モータの出力電流値であり、前記第1パラメータは前記出力電流値に基づく電流値であり、
前記変換部は、前記電流値に所定係数を乗算することによって、当該電流値を第1の位相ずれ値に変換し、
前記第2方式において、前記動作値は前記モータに接続されたインバータ回路の入力電圧値であり、前記第2パラメータは前記入力電圧値に基づく第2の位相ずれ値であり、
前記所定係数は、前記出力電流値に応じて変動する変動値である、モータ制御装置。
【請求項2】
前記第1方式は、前記インバータ回路への入力電圧に高周波パルスを重畳する高周波重畳方式であり、
前記第1推定部は、
前記出力電流値から高周波成分を抽出し、
前記高周波成分及び前記高周波パルスの一方を遅延させることによって前記高周波成分と前記高周波パルスとの正負を整合させ、
整合後の前記高周波成分と前記高周波パルスとを乗算し、
乗算による出力信号と、当該出力信号を1/2周期遅延させた遅延信号とを加算し、
加算による出力信号の振幅値として前記電流値を得る、請求項に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記所定係数は、前記変動値をローパスフィルタによってフィルタ処理した値である、
請求項に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記制御部には、前記角速度推定値に応じて、前記第1の位相ずれ値及び前記第2の位相ずれ値の一方が選択して入力される、請求項のいずれか一つに記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記制御部には、
前記第1の位相ずれ値と、前記角速度推定値の上昇に応じて減少する第1の重み値との乗算結果と、
前記第2の位相ずれ値と、前記角速度推定値の上昇に応じて増大する第2の重み値との乗算結果と、
の加算結果が入力される、請求項のいずれか一つに記載のモータ制御装置。
【請求項6】
モータと、
請求項1~のいずれか一つに記載のモータ制御装置と、
を備える、洗濯機。
【請求項7】
ロータを有するモータを制御するモータ制御装置に搭載される情報処理装置を、
前記ロータの回転速度の第1速度領域において、前記モータの動作値に基づく第1パラメータを用いた第1方式によって、前記ロータの位相又は角速度を推定する第1推定手段と、
前記第1速度領域とは異なる前記ロータの回転速度の第2速度領域において、前記モータの動作値に基づく第2パラメータを用いた第2方式によって、前記ロータの位相又は角速度を推定する第2推定手段と、
前記第1パラメータを前記第2パラメータに変換する変換手段と、
前記変換手段の前記第2パラメータと、前記第2推定手段の前記第2パラメータとに基づいて、前記ロータの位相推定値又は角速度推定値を出力する制御手段と、
として機能させるためのプログラムであって、
前記第1方式において、前記動作値は前記モータの出力電流値であり、前記第1パラメータは前記出力電流値に基づく電流値であり、
前記変換手段は、前記電流値に所定係数を乗算することによって、当該電流値を第1の位相ずれ値に変換し、
前記第2方式において、前記動作値は前記モータに接続されたインバータ回路の入力電圧値であり、前記第2パラメータは前記入力電圧値に基づく第2の位相ずれ値であり、
前記所定係数は、前記出力電流値に応じて変動する変動値である、プログラム。
【請求項8】
ロータを有するモータを制御するモータ制御装置に搭載される情報処理装置が、
第1推定手段によって、前記ロータの回転速度の第1速度領域において、前記モータの動作値に基づく第1パラメータを用いた第1方式によって、前記ロータの位相又は角速度を推定し、
第2推定手段によって、前記第1速度領域とは異なる前記ロータの回転速度の第2速度領域において、前記モータの動作値に基づく第2パラメータを用いた第2方式によって、前記ロータの位相又は角速度を推定し、
変換手段によって、前記第1パラメータを前記第2パラメータに変換し、
制御手段によって、前記変換手段の前記第2パラメータと、前記第2推定手段の前記第2パラメータとに基づいて、前記ロータの位相推定値又は角速度推定値を出力し、
前記第1方式において、前記動作値は前記モータの出力電流値であり、前記第1パラメータは前記出力電流値に基づく電流値であり、
前記変換手段は、前記電流値に所定係数を乗算することによって、当該電流値を第1の位相ずれ値に変換し、
前記第2方式において、前記動作値は前記モータに接続されたインバータ回路の入力電圧値であり、前記第2パラメータは前記入力電圧値に基づく第2の位相ずれ値であり、
前記所定係数は、前記出力電流値に応じて変動する変動値である、モータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ制御装置、洗濯機、プログラム、及びモータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、速度領域に応じて複数の制御方式を切り替えて適用するモータ制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-137911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、複数の制御方式の制御回路を共通化することについては、何ら考慮されていない。
【0005】
本開示は、ロータの回転速度の速度領域に応じた複数の制御方式を有するセンサレスのモータの制御において、複数の制御方式の制御回路の一部を共通化することが可能な、モータ制御装置、洗濯機、プログラム、及びモータ制御方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係るモータ制御装置は、ロータを有するモータを制御するモータ制御装置であって、前記ロータの回転速度の第1速度領域において、前記モータの動作値に基づく第1パラメータを用いた第1方式によって、前記ロータの位相又は角速度を推定する第1推定部と、前記第1速度領域とは異なる前記ロータの回転速度の第2速度領域において、前記モータの動作値に基づく第2パラメータを用いた第2方式によって、前記ロータの位相又は角速度を推定する第2推定部と、を備え、前記第1推定部は、前記第1パラメータを前記第2パラメータに変換する変換部を有し、前記第1推定部及び前記第2推定部は、前記第1推定部の前記第2パラメータと、前記第2推定部の前記第2パラメータとに基づいて、前記ロータの位相推定値又は角速度推定値を出力する共通の制御部を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、ロータの回転速度の速度領域に応じた複数の制御方式を有するセンサレスのモータの制御において、複数の制御方式の制御回路の一部を共通化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係るモータ制御装置の構成を概略的に示す図である。
図2】推定部の構成を示す図である。
図3】第1推定部における振幅演算処理を示す図である。
図4】第2実施形態に係る推定部の構成を示す図である。
図5】重み値の関係を示す図である。
図6】電流値と位相誤差との関係を示す図である。
図7】d軸電流値とd軸インダクタンスとの関係を示す図である。
図8】q軸電流値とq軸インダクタンスとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本開示の基礎となった知見)
上記特許文献1に示されるように、背景技術に係るセンサレスのモータ制御装置では、モータの回転速度の低速領域では高周波重畳方式(インダクタンス方式)を採用し、高速領域では誘起電圧方式を採用することにより、モータの回転速度の速度領域に応じて二つの制御方式を瞬時に切り替えることによってモータを制御する。
【0010】
ここで、背景技術に係るモータ制御装置では、二つの制御方式の制御回路は、互いに独立に構成されており、また、モータの制御に必要な制御パラメータを独立に保有している。従って、速度領域に応じて制御方式を切り替える際に、電流振動又はトルク振動等によって振動及び騒音が発生する。また、各制御回路が制御パラメータを独立に保有するため、全体として制御パラメータの数が多くなるとともに、制御方式を切り替える際に両制御回路間で制御パラメータを受け渡す処理が複雑になる。
【0011】
かかる課題を解決するために、本発明者は、第1方式のパラメータを第2方式と共通の第2パラメータに変換して制御部に入力することで、第1方式と第2方式とで制御部を共通化できるとの知見を得て、本開示を想到するに至った。
【0012】
次に、本開示の各態様について説明する。
【0013】
本開示の一態様に係るモータ制御装置は、ロータを有するモータを制御するモータ制御装置であって、前記ロータの回転速度の第1速度領域において、前記モータの動作値に基づく第1パラメータを用いた第1方式によって、前記ロータの位相又は角速度を推定する第1推定部と、前記第1速度領域とは異なる前記ロータの回転速度の第2速度領域において、前記モータの動作値に基づく第2パラメータを用いた第2方式によって、前記ロータの位相又は角速度を推定する第2推定部と、を備え、前記第1推定部は、前記第1パラメータを前記第2パラメータに変換する変換部を有し、前記第1推定部及び前記第2推定部は、前記第1推定部の前記第2パラメータと、前記第2推定部の前記第2パラメータとに基づいて、前記ロータの位相推定値又は角速度推定値を出力する共通の制御部を有する。
【0014】
本態様によれば、変換部は、第1方式の第1パラメータを第2方式の第2パラメータに変換して制御部に入力する。このように、第1方式及び第2方式のいずれにおいても制御部への入力を第2パラメータとすることで、第1方式と第2方式とで制御部を共通化できる。その結果、第1方式及び第2方式をシームレスに結合させることが可能となる。
【0015】
上記態様において、前記モータに接続されたインバータ回路をさらに備え、前記第1方式において、前記動作値は前記モータの出力電流値であり、前記第1パラメータは前記出力電流値に基づく電流値であり、前記変換部は、前記電流値に所定係数を乗算することによって、当該電流値を第1の位相ずれ値に変換し、前記第2方式において、前記動作値は前記インバータ回路の入力電圧値であり、前記第2パラメータは前記入力電圧値に基づく第2の位相ずれ値である。
【0016】
本態様によれば、第1方式及び第2方式のいずれにおいても制御部への入力を位相ずれ値とすることにより、第1方式と第2方式とで制御部を共通化することが可能となる。
【0017】
上記態様において、前記第1方式は、前記インバータ回路への入力電圧に高周波パルスを重畳する高周波重畳方式であり、前記第1推定部は、前記出力電流値から高周波成分を抽出し、前記高周波成分及び前記高周波パルスの一方を遅延させることによって前記高周波成分と前記高周波パルスとの正負を整合させ、整合後の前記高周波成分と前記高周波パルスとを乗算し、乗算による出力信号と、当該出力信号を1/2周期遅延させた遅延信号とを加算し、加算による出力信号の振幅値として前記電流値を得る。
【0018】
本態様によれば、高周波重畳方式において、直流値として扱うことができる振幅値を用いることによって、変換部における電流値から第1の位相ずれ値への変換処理を簡素化することが可能となる。
【0019】
上記態様において、前記所定係数は、前記出力電流値に応じて変動する変動値である。
【0020】
本態様によれば、モータの動作状況によって変化する出力電流値に応じて所定係数の値も変動させることにより、第1推定部による推定の精度を向上することが可能となる。
【0021】
上記態様において、前記所定係数は、前記変動値をローパスフィルタによってフィルタ処理した値である。
【0022】
本態様によれば、出力電流値のわずかな変化に追随して所定係数の値が細かく変動することを回避できる。
【0023】
上記態様において、前記制御部には、前記角速度推定値に応じて、前記第1の位相ずれ値及び前記第2の位相ずれ値の一方が選択して入力される。
【0024】
本態様によれば、スイッチを用いた簡易な構成又は処理によって、第1方式と第2方式との切り替えを行うことが可能となる。
【0025】
上記態様において、前記制御部には、前記第1の位相ずれ値と、前記角速度推定値の上昇に応じて減少する第1の重み値との乗算結果と、前記第2の位相ずれ値と、前記角速度推定値の上昇に応じて増大する第2の重み値との乗算結果と、の加算結果が入力される。
【0026】
本態様によれば、第1方式と第2方式との切り替えをシームレスに行うことが可能となる。
【0027】
本開示の一態様に係る洗濯機は、モータと、上記態様に係るモータ制御装置と、を備える。
【0028】
本態様によれば、制御方式を切り替える際に発生する洗濯機の振動及び騒音等を抑制できる。また、モータ制御装置が全体として保有する制御パラメータの数を削減できる。さらに、制御方式を切り替える際に制御パラメータを受け渡す処理を簡素化できる。
【0029】
本開示の一態様に係るプログラムは、ロータを有するモータを制御するモータ制御装置に搭載される情報処理装置を、前記ロータの回転速度の第1速度領域において、前記モータの動作値に基づく第1パラメータを用いた第1方式によって、前記ロータの位相又は角速度を推定する第1推定手段と、前記第1速度領域とは異なる前記ロータの回転速度の第2速度領域において、前記モータの動作値に基づく第2パラメータを用いた第2方式によって、前記ロータの位相又は角速度を推定する第2推定手段と、前記第1パラメータを前記第2パラメータに変換する変換手段と、前記変換手段の前記第2パラメータと、前記第2推定手段の前記第2パラメータとに基づいて、前記ロータの位相推定値又は角速度推定値を出力する制御手段と、として機能させる。
【0030】
本態様によれば、変換手段は、第1方式の第1パラメータを第2方式の第2パラメータに変換して制御手段に入力する。このように、第1方式及び第2方式のいずれにおいても制御手段への入力を第2パラメータとすることで、第1方式と第2方式とで制御手段を共通化できる。その結果、第1方式及び第2方式をシームレスに結合させることが可能となる。
【0031】
本開示の一態様に係るモータ制御方法は、ロータを有するモータを制御するモータ制御装置に搭載される情報処理装置が、第1推定手段によって、前記ロータの回転速度の第1速度領域において、前記モータの動作値に基づく第1パラメータを用いた第1方式によって、前記ロータの位相又は角速度を推定し、第2推定手段によって、前記第1速度領域とは異なる前記ロータの回転速度の第2速度領域において、前記モータの動作値に基づく第2パラメータを用いた第2方式によって、前記ロータの位相又は角速度を推定し、変換手段によって、前記第1パラメータを前記第2パラメータに変換し、制御手段によって、前記変換手段の前記第2パラメータと、前記第2推定手段の前記第2パラメータとに基づいて、前記ロータの位相推定値又は角速度推定値を出力する。
【0032】
本態様によれば、変換手段は、第1方式の第1パラメータを第2方式の第2パラメータに変換して制御手段に入力する。このように、第1方式及び第2方式のいずれにおいても制御手段への入力を第2パラメータとすることで、第1方式と第2方式とで制御手段を共通化できる。その結果、第1方式及び第2方式をシームレスに結合させることが可能となる。
【0033】
本開示は、このような方法又は装置に含まれる特徴的な各構成をコンピュータに実行させるプログラム、或いはこのプログラムによって動作するシステムとして実現することもできる。また、このようなコンピュータプログラムを、CD-ROM等のコンピュータ読取可能な非一時的な記録媒体あるいはインターネット等の通信ネットワークを介して流通させることができるのは、言うまでもない。
【0034】
(本開示の実施形態)
以下、図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が必要以上に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0035】
なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0036】
(第1実施形態)
図1は、本開示の第1実施形態に係るモータ制御装置の構成を概略的に示す図である。モータ制御装置は、整流回路12、インバータ回路13、及び制御回路1を備えて構成されている。モータ制御装置は交流電源11より受電する。整流回路12は受電した交流電力を直流電力に変換し、直流電力の平滑コンデンサCを介しインバータ回路13に電力を供給する。インバータ回路13は2個直列にした3組合計6個のスイッチング素子SWU、SWV、SWW、SWX、SWY、SWZを含んで構成される。このインバータ回路13は後述の制御回路1によりスイッチング素子のON/OFFをPWM駆動することでモータ14の駆動を行っている。モータ14は、例えば、凸極構造のロータを有するブラシレスモータである。インバータ回路13の2個直列のスイッチング素子の下側、すなわちスイッチング素子SWX、SWY、SWZのエミッタ側には抵抗RU、RV、RWの一端が接続されており、抵抗RU、RV、RWの他端は整流回路12及び平滑コンデンサCの各出力のマイナス側に接続されている。
【0037】
制御回路1は、電流変換部2、速度制御部3、電流制御部4、及び推定部5を備えている。推定部5は、第1推定部51及び第2推定部52を有している。
【0038】
第1推定部51は、ロータの回転速度の第1速度領域(低速領域)において、モータ14の動作値(出力電流値)に基づく第1パラメータ(電流値)を用いた第1方式(高周波重畳方式)によって、ロータの位相θ又は角速度ωをセンサレスで推定する。高周波重畳方式は、ブラシレスモータの凸極構造のロータの凸極性を利用して磁極の位相を推定する方式である。第2推定部52は、第1速度領域とは異なるロータの回転速度の第2速度領域(中高速領域)において、モータ14の動作値(インバータ回路13の入力電圧値)に基づく第2パラメータ(位相誤差Δθ)を用いた第2方式(誘起電圧方式)によって、ロータの位相θ又は角速度ωをセンサレスで推定する。誘起電圧方式は、ブラシレスモータの回転時の逆起電力を利用して磁極の位相を推定する方式である。第1推定部51及び第2推定部52の構成の詳細については後述する。
【0039】
抵抗RU、RV、RWの両端の電圧は、制御回路1内の電流変換部2に入力される。この電流検知情報を用いて後述する各種制御を行っている。制御回路1は、専用のハードウェアを用いて構成されても良いし、所定のプログラムを実行することによって実現されるCPUの機能として構成されても良い。
【0040】
図2は、推定部5の構成を示す図である。高周波重畳方式の第1推定部51は、高周波パルス発生部11、ローパスフィルタ12、遅延部13、減算部14、乗算部15、振幅演算部16、乗算部17、スイッチ18、PI制御部19、及び積分処理部20を有している。誘起電圧方式の第2推定部52は、軸誤差推定部21、スイッチ18、PI制御部19、及び積分処理部20を有している。スイッチ18、PI制御部19、及び積分処理部20は、第1推定部51及び第2推定部52で共通化されている。
【0041】
速度制御部3は、目標角速度ωを入力し、推定角速度ωハットに基づいて、目標d軸電流値I 及び目標q軸電流値I を出力する。電流制御部4は、目標d軸電流値I 及び目標q軸電流値I を入力し、現在d軸電流値I及び現在q軸電流値Iに基づいて、目標d軸電圧値V 及び目標q軸電圧値V を出力する。電圧変換部23は、目標d軸電圧値V 及び目標q軸電圧値V を入力し、推定位相θハットに基づいて、目標u相電圧値V 、目標v相電圧値V 、及び目標w相電圧値V を出力する。目標u相電圧値V 、目標v相電圧値V 、及び目標w相電圧値V は、インバータ回路13に入力される。
【0042】
電流変換部2は、モータ14の出力電流値である現在u相電流値I、現在v相電流値I、及び現在w相電流値Iを入力し、推定位相θハットに基づいて、現在d軸電流値I及び現在q軸電流値Iを出力する。
【0043】
電圧変換部24は、目標u相電圧値V 、目標v相電圧値V 、及び目標w相電圧値V を入力し、推定位相θハットに基づいて、現在d軸電圧値V及び現在q軸電圧値Vを出力する。
【0044】
図3は、第1推定部51における振幅演算処理を示す図である。図2,3を参照して、高周波パルス発生部11は、高周波パルスVを発生する。加算部22は、目標d軸電圧値V に高周波パルスVを重畳する。ローパスフィルタ12は、目標q軸電流値I を入力し、低周波成分のq軸電流値Iq_lpfを出力する。減算部14は、現在q軸電流値Iからq軸電流値Iq_lpfを減算することにより、電流値Iq_lを出力する(図3の(A)参照)。これにより、出力電流値(I)から高周波成分(Iq_l)が抽出される。遅延部13は、高周波パルスVを入力し、サンプリング周期Tの2周期分(z-2)遅延して出力する(図3の(A)及び(B)参照)。サンプリング周期Tの2周期分(z-2)は、電流値Iq_lの1/4周期に相当する。これにより、高周波成分(Iq_l)と高周波パルス(V)との符号の正負が整合される。乗算部15は、電流値Iq_lと遅延部13の出力信号とを乗算する(図3の(C)参照)。振幅演算部16は、乗算部15の出力信号を入力し、電流値Iq_hを出力する。振幅演算部16は、乗算部15の出力信号をサンプリング周期Tの2周期分(z-2)遅延して出力し(図3の(C)参照)、その信号と乗算部15の出力信号とを加算することによって直流の振幅値を得る。サンプリング周期Tの2周期分(z-2)は、乗算部15の出力信号の1/2周期に相当する。
【0045】
乗算部17は、電流値Iq_hを入力し、係数Kを乗算することにより、電流値Iq_hを位相誤差Δθに変換して出力する。
【0046】
電流値Iq_hと高周波パルスVとの関係を、式(1)で表す。
【0047】
【数1】
【0048】
ここで、Lはモータ14のd軸インダクタンスであり、Lはモータ14のq軸インダクタンスである。また、L=(L-L)/2である。
【0049】
電流値Iq_h及び高周波パルスVがともに正となる区間で積分すると、電流値Iq_hは式(2)で表される。Tは重畳信号の周期である。
【0050】
【数2】
【0051】
式(2)を位相誤差Δθの式へ変形すると、式(3)が得られる。
【0052】
【数3】
【0053】
sin-1の引数を-π/4から+π/4までの範囲でリミット処理を行い、その範囲での近似直線の傾きとして、係数Kは式(4)で与えられる。
【0054】
【数4】
【0055】
第2推定部52に関し、軸誤差推定部21は、現在d軸電圧値V及び現在q軸電圧値Vを入力し、式(5)及び式(6)で示すように、推定角速度ωハット、現在d軸電流値I、及び現在q軸電流値Iに基づいて、位相誤差Δθを出力する。
【0056】
【数5】
【0057】
【数6】
【0058】
ここで、eは誘起電圧であり、Rはモータ14の抵抗値であり、-pは微分を意味している。
【0059】
スイッチ18は、推定角速度ωハットが所定のしきい値未満である場合は位相誤差Δθを選択し、推定角速度ωハットが当該しきい値以上である場合は位相誤差Δθを選択して、選択した位相誤差Δθ又は位相誤差ΔθをPI制御部19に入力する。PI制御部19は、位相誤差Δθ又は位相誤差Δθに基づいて、比例制御(P)及び積分制御(I)を行うことにより、推定角速度ωハットを出力する。積分処理部20は、推定角速度ωハットを入力し、推定位相θハットを出力する。
【0060】
本実施形態によれば、乗算部17(変換部)は、高周波重畳方式(第1方式)のq軸電流値I(第1パラメータ)を誘起電圧方式(第2方式)の位相誤差Δθ(第2パラメータ)に変換してPI制御部19に入力する。このように、高周波重畳方式及び誘起電圧方式のいずれにおいてもPI制御部19への入力を位相誤差Δθとすることで、高周波重畳方式と誘起電圧方式とでPI制御部19を共通化できる。その結果、高周波重畳方式及び誘起電圧方式をシームレスに結合させることが可能となる。
【0061】
また、本実施形態によれば、高周波重畳方式及び誘起電圧方式のいずれにおいてもPI制御部19への入力を位相誤差Δθ(位相ずれ値)とすることにより、高周波重畳方式と誘起電圧方式とでPI制御部19を共通化することが可能となる。
【0062】
また、本実施形態によれば、高周波重畳方式において、直流値として扱うことができる電流値Iq_h(振幅値)を用いることによって、乗算部17(変換部)における電流値Iから位相誤差Δθへの変換処理を簡素化することが可能となる。
【0063】
また、本実施形態によれば、スイッチ18を用いた簡易な構成又は処理によって、高周波重畳方式と誘起電圧方式との切り替えを行うことが可能となる。
【0064】
本実施形態に係るモータ制御装置は、例えば、洗濯機の洗濯槽用のモータを制御するための制御装置に適用できる。洗濯機は、ドラム式洗濯機であっても良いし、縦型洗濯機であっても良い。また、洗濯機が乾燥機能を備えることによって洗濯乾燥機として構成されていても良い。これにより、制御方式を切り替える際に発生する洗濯機の振動及び騒音等を抑制できる。また、モータ制御装置が全体として保有する制御パラメータの数を削減できる。さらに、制御方式を切り替える際に制御パラメータを受け渡す処理を簡素化できる。
【0065】
(第2実施形態)
図4は、本開示の第2実施形態に係る推定部5の構成を示す図である。推定部5は、図2に示したスイッチ18に代えて、乗算部31,32及び加算部33を備える。乗算部31は、位相誤差Δθに重み値Wを乗算する。乗算部32は、位相誤差Δθに重み値Wを乗算する。
【0066】
図5は、重み値W,Wの関係を示す図である。重み値W,Wの範囲はいずれも0以上1以下であり、W+W=1の関係を有する。重み値Wは、推定角速度ωハットの上昇に応じて(図5の横軸の時間が大きくなるほど)減少する。一方、重み値Wは、推定角速度ωハットの上昇に応じて増大する。加算部33は、乗算部31の乗算結果と乗算部32の乗算結果とを加算し、その加算結果をPI制御部19に入力する。
【0067】
本実施形態によれば、高周波重畳方式と誘起電圧方式との切り替えをさらにシームレスに行うことが可能となる。
【0068】
(変形例)
上記実施形態では、係数K(所定係数)の値は近似直線の傾きとして一定値として扱ったが、モータ14の出力電流値(I、I、I)に応じて変動する変動値であっても良い。
【0069】
図6は、変動値である係数Kを用いた場合の電流値Iq_hと位相誤差Δθとの関係を示す図である。係数Kが変動値であることにより、位相誤差Δθは非線形となっている。
【0070】
図7は、d軸電流値Iとd軸インダクタンスLとの関係を示す図であり、図8は、q軸電流値Iとq軸インダクタンスLとの関係を示す図である。図7,8に示すように、d軸電流値I及びq軸電流値Iに対してd軸インダクタンスL及びq軸インダクタンスLは非線形の特性を有しており、これらの特性を示すテーブル情報又は関数情報等が予め作成及び記憶されている。電流変換部2から出力されたd軸電流値I及びq軸電流値Iに基づいてインダクタンスL,L,Lが算出され、上記式(4)に基づいて係数Kが算出される。これにより、d軸電流値I及びq軸電流値Iに応じて変動する変動値として、係数Kを求めることができる。
【0071】
また、係数Kの過剰な変動を抑制すべく、この変動値を所定のカットオフ周波数を有するローパスフィルタによってローパスフィルタ処理した値として、係数Kを算出しても良い。これにより、d軸電流値I及びq軸電流値Iのわずかな変化に追随して係数Kが細かく変動することを回避できる。
【0072】
また、上記実施形態では、ロータの回転速度に応じて高周波重畳方式と誘起電圧方式とを切り替えたが、PI制御部19への入力を共通化できれば、他の任意の方式に適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本開示は、洗濯機の洗濯槽用のモータを制御するためのモータ制御装置への適用が特に有用である。
【符号の説明】
【0074】
1 制御回路
13 インバータ回路
14 モータ
17,31,32 乗算部
33 加算部
18 スイッチ
19 PI制御部
51 第1推定部
52 第2推定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8