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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】シミュレーション装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/25 20200101AFI20241112BHJP
   G06F 30/23 20200101ALI20241112BHJP
   G06F 111/10 20200101ALN20241112BHJP
   G06F 119/14 20200101ALN20241112BHJP
【FI】
G06F30/25
G06F30/23
G06F111:10
G06F119:14
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021143071
(22)【出願日】2021-09-02
(65)【公開番号】P2023036179
(43)【公開日】2023-03-14
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】大西 良孝
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-011612(JP,A)
【文献】特開2020-173185(JP,A)
【文献】特開2017-211887(JP,A)
【文献】特開2007-011601(JP,A)
【文献】国際公開第2013/058215(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 - 30/398
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
解析対象物の解析条件が入力される入力部と、
前記入力部に入力された解析条件に基づいて、解析対象物の解析を行う処理部と、
前記処理部の解析結果を出力する出力部と
を備え
前記処理部は、
前記入力部に入力された解析モデルを第1メッシュで分割し、有限要素法または粒子法を用いて解析を行い、
前記解析モデルの一部の領域をズーミング領域として選択し、前記ズーミング領域を前記第1メッシュより細かい第2メッシュで分割し、前記第2メッシュの複数の節点のそれぞれに粒子を配置し、
前記第1メッシュを用いて解析して得られた変位に基づいて、前記第2メッシュの節点に配置した粒子を変位させ、
前記第2メッシュの節点に配置した粒子の変位後の位置に基づいて、前記ズーミング領域の境界条件を設定し、
前記ズーミング領域において、前記境界条件の下で粒子法を用いて粒子を変位させ、
粒子法を用いて前記ズーミング領域の粒子を変位させた後の粒子の位置に基づいて、前記ズーミング領域に作用する応力を求め、
前記ズーミング領域に作用する応力の解析結果を前記出力部の出力するシミュレーション装置。
【請求項2】
前記解析モデルは、相互に力を及ぼしあう複数の部材をモデル化したものであり、
前記ズーミング領域は、前記複数の部材のうち1つの部材をモデル化して得られる領域に一致する請求項1に記載のシミュレーション装置。
【請求項3】
前記境界条件は、前記ズーミング領域の表面を構成する前記第2メッシュのポリゴン要素の位置を解析空間内において固定するという条件を含む請求項2に記載のシミュレーション装置。
【請求項4】
前記ズーミング領域において、前記境界条件の下で粒子法を用いて粒子を変位させるときに、固定された前記第2メッシュのポリゴン要素で囲まれた領域の外側に出た粒子に対して、前記第2メッシュのポリゴン要素で囲まれた領域の内側に戻す力を作用させる請求項3に記載のシミュレーション装置。
【請求項5】
解析条件を取得する機能と、
取得された解析条件に基づいて、解析モデルを第1メッシュで分割し、有限要素法または粒子法を用いて解析を行う機能と、
前記解析モデルの一部の領域をズーミング領域として選択し、前記ズーミング領域を前記第1メッシュより細かい第2メッシュで分割し、前記第2メッシュの複数の節点のそれぞれに粒子を配置する機能と、
前記第1メッシュを用いて解析して得られた変位に基づいて、前記第2メッシュの節点に配置した粒子を変位させる機能と、
前記第2メッシュの節点に配置した粒子の変位後の位置に基づいて、前記ズーミング領域の境界条件を設定する機能と、
前記ズーミング領域において、前記境界条件の下で粒子法を用いて粒子を変位させ、
粒子法を用いて前記ズーミング領域の粒子を変位させた後の粒子の位置に基づいて、前記ズーミング領域に作用する応力を求める機能と、
前記ズーミング領域に作用する応力の解析結果を出力する機能と
をコンピュータに実現させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレーション方法、シミュレーション装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
構造体の変形や応力の解析に、有限要素法が用いられる。計算時間の増大を抑制し、かつ分解能を向上させるために、ズーミング解析の手法が用いられる(特許文献1参照)。ズーミング解析においては、まず解析対象の構造物を粗いメッシュで分割した解析モデルに対して有限要素法を用いて変形及び応力の解析を行う。さらに、解析モデルの一部の領域であるズーミング領域を細かいメッシュで分割して、ズーミング領域に境界条件を設定し、ズーミング領域の変形及び応力の解析を行う。
【0003】
粗いメッシュで分割した解析モデルの解析結果を、細かいメッシュで分割したズーミング領域の解析に引渡し、細かいメッシュで分割されたズーミング領域の解析においては、構造体全体の解析を行うことなく、ズーミング領域のみの解析を行う。このため、計算負荷が軽減されるとともに、ズーミング領域の解析の分解能が高められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-207476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
構造体の変形及び応力の解析手法として、粒子法が用いられる場合がある。例えば、複数の部材が相互に離れた状態から接触する状態に変位するような場合、または複数の部材が相互に接触して力を及ぼしあっている状態等の解析には、有限要素法より粒子法の方が破綻なく計算できる場合が多い。適用される粒子法として、例えばMPS法(Moving Particle Semi-implicit)、SPH法(Smoothed Particle Hydrodynamics)、RMD法(Renormalization Molecular Dynamics)等が挙げられる。
【0006】
ズーミング解析の手法を用いて、ズーミング領域の細かいメッシュの節点にそれぞれ粒子を配置し、粗いメッシュでの解析結果を各粒子に引渡して応力の分布を求めたところ、応力分布に不規則なムラ(まだら模様)が発生してしまうことが判明した。このため、従来のズーミング解析の手法を粒子法に適用することはできない。これは、粒子法が、各粒子の変位から応力を求める手法ではなく、粒子間相互作用に基づく手法であるためである。
【0007】
本発明の目的は、ズーミング解析の手法を粒子法に適用して変位及び応力の解析を行うシミュレーション装置、及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一観点によると、
解析対象物の解析条件が入力される入力部と、
前記入力部に入力された解析条件に基づいて、解析対象物の解析を行う処理部と、
前記処理部の解析結果を出力する出力部と
を備え
前記処理部は、
前記入力部に入力された解析モデルを第1メッシュで分割し、有限要素法または粒子法を用いて解析を行い、
前記解析モデルの一部の領域をズーミング領域として選択し、前記ズーミング領域を前記第1メッシュより細かい第2メッシュで分割し、前記第2メッシュの複数の節点のそれぞれに粒子を配置し、
前記第1メッシュを用いて解析して得られた変位に基づいて、前記第2メッシュの節点に配置した粒子を変位させ、
前記第2メッシュの節点に配置した粒子の変位後の位置に基づいて、前記ズーミング領域の境界条件を設定し、
前記ズーミング領域において、前記境界条件の下で粒子法を用いて粒子を変位させ、
粒子法を用いて前記ズーミング領域の粒子を変位させた後の粒子の位置に基づいて、前記ズーミング領域に作用する応力を求め、
前記ズーミング領域に作用する応力の解析結果を前記出力部の出力するシミュレーション装置が提供される。
【0010】
本発明の他の観点によると、
解析条件を取得する機能と、
取得された解析条件に基づいて、解析モデルを第1メッシュで分割し、有限要素法または粒子法を用いて解析を行う機能と、
前記解析モデルの一部の領域をズーミング領域として選択し、前記ズーミング領域を前記第1メッシュより細かい第2メッシュで分割し、前記第2メッシュの複数の節点のそれぞれに粒子を配置する機能と、
前記第1メッシュを用いて解析して得られた変位に基づいて、前記第2メッシュの節点に配置した粒子を変位させる機能と、
前記第2メッシュの節点に配置した粒子の変位後の位置に基づいて、前記ズーミング領域の境界条件を設定する機能と、
前記ズーミング領域において、前記境界条件の下で粒子法を用いて粒子を変位させ、
粒子法を用いて前記ズーミング領域の粒子を変位させた後の粒子の位置に基づいて、前記ズーミング領域に作用する応力を求める機能と、
前記ズーミング領域に作用する応力の解析結果を出力する機能と
をコンピュータに実現させるプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0011】
第1メッシュを用いて解析して得られた変位に基づいて、第2メッシュの節点に配置した粒子を変位させた後、ズーミング領域内の応力を求める前に、ズーミング領域において、境界条件の下で粒子法を用いて粒子を変位させることにより、不規則なムラの無い応力分布を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1A及び図1Bは、シミュレーションによって変形及び応力の解析を行う対象物の一例を示す斜視図である。
図2図2は、実施例によるシミュレーション方法の手順を示すフローチャートである。
図3図3A及び図3Bは、それぞれ第1部材及び第2部材を第1メッシュで分割した状態を示す斜視図であり、図3Cは、第2部材を第1部材内に挿入した状態の第1メッシュを示す斜視図である。
図4図4Aは、初期状態の解析モデルの第1メッシュの平面図であり、図4Bは、つり合い状態における解析モデルの第1メッシュの平面図である。
図5図5Aは、ステップS03を実行する前の初期状態における複数の第1粒子及び1つの第2粒子の相対位置関係を示す模式図であり、図5Bは、ステップS03を実行して第1粒子を変位させた後の状態における複数の第1粒子及び1つの第2粒子の相対位置関係を示す模式図である。
図6図6Aは、変位前の第1粒子及び第2粒子の位置関係を示す模式図であり、図6Bは、変位後の第1粒子及び第2粒子の位置関係を示す模式図である。
図7図7は、変位後の第2粒子のうち、ズーミング領域(第1部材)の表面に位置するものを示す模式図である。
図8図8は、ズーミング領域、ポリゴン壁、及び第2粒子の相対位置関係を示す模式図である。
図9図9A及び図9Bは、それぞれステップS03において求めた第1粒子の変位量に基づいて計算した応力、及びステップS12において第2粒子の変位量に基づいて計算した応力の分布を、色の濃淡で表す図である。
図10図10Aは、ステップS03において求めた第1粒子の変位量に基づいて計算した応力の分布を、色の濃淡で表す図であり、図10Bは、ステップS06で変位させた第2粒子の位置に基づいて計算した応力の分布を、色の濃淡で表す図である。
図11図11は、本実施例によるシミュレーション装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1Aから図11までの図面を参照しながら、実施例によるシミュレーション方法について説明する。
【0014】
図1A及び図1Bは、シミュレーションによって変形及び応力の解析を行う対象物の一例を示す斜視図である。解析対象物は2つの部材を含む。2つの部材の各々は、ほぼリング状の外形を有している。一方の第1部材21の内径と、他方の第2部材31の外径とがほぼ等しい。第1部材21の内周面に、周方向と直交する方向に延びる2つの溝22が設けられている。第2部材31の外周面に、周方向と直交する方向に延びる凸部32が設けられている。凸部32が溝22にはめ込まれるように、第2部材31が第1部材21内に挿入される。実施例によるシミュレーションでは、第2部材31が第1部材21内に挿入された状態での応力分布を求める。
【0015】
図2は、実施例によるシミュレーション方法の手順を示すフローチャートである。
まず、解析条件を取得する(ステップS01)。解析条件には、解析対象物の幾何学的形状、ヤング率、ポアソン比、密度、解析対象物に作用させる荷重条件等が含まれる。解析対象物の幾何学的形状が決まると、解析対象物を第1メッシュで分割した解析モデルを生成し、第1メッシュの節点に第1粒子を配置する(ステップS02)。
【0016】
図3A及び図3Bは、それぞれ第1部材21(図1A)及び第2部材31(図1B)を第1メッシュで分割した状態を示す斜視図である。図3Cは、第2部材31を第1部材21内に挿入した状態の第1メッシュを示す斜視図であり、この状態の構造体を解析モデルとする。図3Cに示した解析モデルの第1メッシュの各節点に粒子を配置する。
【0017】
図4Aは、初期状態の解析モデルの第1メッシュの平面図である。図4Aの左側に解析モデルの第1メッシュの全体図を示し、右側に第1部材21と第2部材31との接触界面の一部の拡大図を示す。第1部材21内に第2部材31が挿入されており、第2部材31の凸部32が、第1部材21の溝22にはめ込まれている。初期状態では、第1部材21の内周面が、第2部材31の外周面より内側まで食い込んでいる。
【0018】
図4Aに示した状態は、現実にはあり得ない状態であり、この状態を初期状態としてRMD法を用いて解析を行うことにより、第1部材21と第2部材31とがつり合った状態を求める。具体的には、第1粒子の各々について数値的に運動方程式を解き、つり合い状態(定常状態)になるまで第1粒子を変位させる(ステップS03)。運動方程式を解く際に、粒子の質量及び粒子間の相互作用は、第1部材21及び第2部材31の物性値(密度、ヤング率等)に基づいて設定する。運動方程式を解いて1タイムステップ分第1粒子を変位させたときの変位量がほぼゼロであるとき、定常状態に達したと判定するとよい。
【0019】
図4Bは、定常状態における解析モデルの第1メッシュの平面図である。図4Bの左側に解析モデルの第1メッシュの全体図を示し、右側に第1部材21と第2部材31との接触界面の一部の拡大図を示す。第1部材21及び第2部材31が変形し(第1粒子が変位し)第1部材21の内周面と第2部材31の外周面とがほぼ一致していることがわかる。すなわち、第1部材21の内周面と第2部材31の外周面とが接触した状態でつり合っている。
【0020】
次に、ズーミング領域を設定する(ステップS04)。本実施例では、第1部材21の全体をズーミング領域として設定する。第2部材31は、ズーミング領域として選択しない。
【0021】
ズーミング領域を設定した後、ズーミング領域、すなわち第1部材21を第1メッシュより細かい第2メッシュで分割し、第2メッシュの節点にそれぞれ第2粒子を配置する(ステップS05)。このとき、第2メッシュで分割する第1部材21は、ステップS03で変形させる前の初期状態のものである。
【0022】
ズーミング領域を第2メッシュで分割した後、ステップS03で求められた第1粒子の変位に基づき、すべての第2粒子を変位させる(ステップS06)。以下、図5A及び図5Bを参照して、第2粒子を変位させる手法について説明する。
【0023】
図5Aは、ステップS03を実行する前の初期状態における複数の第1粒子41及び1つの第2粒子42の相対位置関係を示す模式図である。第2粒子42の近傍の4つの第1粒子41を選択する。このとき、4つの第1粒子41が同一平面上に位置しないという条件で、4つの第1粒子41を選択する。例えば、4つの第1粒子41を頂点とする四面体の中に第2粒子42が含まれるように、4つの第1粒子41を選択する。
【0024】
第2粒子42の位置ベクトルをrと標記し、4つの第1粒子41の位置ベクトルを、それぞれr、r、r、rと標記する。位置rを始点とし、位置rを終点とするベクトルをrijと標記する。すなわち、rij=r-rである。第2粒子42の位置ベクトルrを、以下の式で定義する。
【数1】
【0025】
初期状態の第1粒子41及び第2粒子42の位置は既知である。これらの位置から、式(1)の係数α、β、γの値を決定することができる。係数α、β、γの値は、第2粒子42ごとに決定される。
【0026】
図5Bは、ステップS03を実行して第1粒子41を変位させた後の状態における複数の第1粒子41及び1つの第2粒子42の相対位置関係を示す模式図である。図5Bにおいて、変位前の第1粒子41及び第2粒子42を破線で示す。位置r、r、r、rの第1粒子41の変位後の位置ベクトルを、それぞれr’、r’、r’、r’と標記する。ステップS06において変位させた後の第2粒子42の位置ベクトルをr’と標記する。位置ベクトルr’が以下の式を満たすように、第2粒子42を変位させる。
【数2】

式(2)の係数α、β、γの値は、式(1)の係数α、β、γの値と同一である。
【0027】
初期状態において、第1粒子41の位置と同じ位置に配置された第2粒子42については、第1粒子41と同じ向きに同じ変位量だけ変位させればよい。
【0028】
次に、図6A及び図6Bを参照して、二次元に分布する第1粒子41及び第2粒子42の変位前後の相対位置関係の一例について説明する。
【0029】
図6Aは、変位前の3つの第1粒子41及び複数の第2粒子42の位置関係を示す模式図である。3つの第1粒子41が、それぞれ直角二等辺三角形の3つの頂点に対応する位置r、r、rに配置されている。複数の第2粒子42が、直角二等辺三角形の直角の頂点を中心とし、直角を挟む2つの辺の長さを半径とする円周に沿って配置されている。
【0030】
図6Bは、変位後の3つの第1粒子41及び複数の第2粒子42の位置関係を示す模式図である。位置r、r、rの第1粒子41が、それぞれ位置r’、r’、r’に変位している。変位後の位置r’、r’、r’は、不等辺直角三角形の頂点に位置する。位置r’が、直角の頂点に対応する。変位後のベクトルrij’は、変位前のベクトルrijより短くなり、変位後のベクトルrik’は、変位前のベクトルrikより長くなっている。
【0031】
第1粒子41の変位に基づいて、式(2)を満たすように第2粒子42を変位させると、変位後の第2粒子42は、円周をベクトルrijの向きに押しつぶし、ベクトルrikの向きに引き延ばした長円周に沿って分布している。この変位は、一般的な部材の変位を反映している。このように、式(2)を満たすように第2粒子42を変位させることは、一般的な部材の変位を十分反映していると考えることができる。
【0032】
図2のステップS06で第2粒子を変位させた後、ズーミング領域の境界条件を設定する(ステップS07)。以下、図7を参照して、ズーミング領域の境界条件について説明する。
【0033】
図7は、変位後の第2粒子42のうち、ズーミング領域(第1部材21)の表面に位置するものを示す模式図である。ズーミング領域の表面に位置する複数の第2粒子42の位置を頂点とする複数のポリゴン要素43からなるポリゴン壁を決定する。ポリゴン壁は、変形後の第1部材21の表面形状に一致する。ポリゴン要素43の各々は、例えば第2粒子42の位置を頂点とする三角形要素である。次の工程で第2粒子42を変位させるときに、このポリゴン壁の位置は解析空間内で固定とする。ズーミング領域の境界条件として、ポリゴン壁の外に変位した第2粒子42に対して、ポリゴン壁よりも内側に引き戻す力を作用させて、第2粒子42がポリゴン壁から外側に飛び出さないという条件を課する。
【0034】
次に、複数の第2粒子42のそれぞれについて、数値的に運動方程式を解くことにより、第2粒子42を1タイムステップ分移動させる(ステップS08)。このとき、粒子系の内部の振動を減衰させる散逸力と、粒子系の並進運動を減衰させる粘性力とを考慮してエネルギを散逸させることにより、定常状態に達するまでのタイムステップ数を低減させることが好ましい。エネルギを散逸させる方法として、例えば、特開2011-233115号公報に記載の方法を用いることができる。
【0035】
運動方程式を解いて第2粒子42を移動させるごとに、定常状態(つり合いの状態)に達したか否かを判定する(ステップS09)。定常状態に達した場合には、第2粒子の変位後の位置に基づいてズーミング領域に作用する応力を計算し、計算結果を出力する(ステップS12)。
【0036】
定常状態に達していない場合には、ステップS07で設定した境界条件を満たさない第2粒子があるか否かを判定する(ステップS10)。すなわち、ポリゴン壁の外側に飛び出した第2粒子があるか否かを判定する。境界条件を満たさない第2粒子が無い場合には、ステップS08~ステップS09の処理を繰り返す。境界条件を満たさない第2粒子が存在する場合には、境界条件を満たさない第2粒子に対して、境界条件を満たすように力を作用させる(ステップS11)。
【0037】
図8を参照して、境界条件を満たさない第2粒子に作用させる力について説明する。
図8は、ズーミング領域45、ポリゴン壁44、及び第2粒子42の相対位置関係を示す模式図である。ポリゴン壁44が、ズーミング領域45の表面を形成している。ズーミング領域45内に複数の第2粒子42が配置されている。図8は、ステップS08で運動方程式を解いて第2粒子42を移動させたとき、1つの第2粒子42Aがポリゴン壁44の外側まで飛び出している例を示している。ポリゴン壁44から第2粒子42Aまでの距離をLeと標記する。
【0038】
ステップS11において、第2粒子42Aに対して、ポリゴン壁44の内側に引き戻す方向の力Fを作用させる。力Fの向きは、第2粒子42Aに最も近いポリゴン要素43に対して垂直であり、力Fの大きさは距離Leに比例する。ステップS08で運動方程式を解くときに、第2粒子42Aに対して力Fを追加的に作用させる。
【0039】
次に、図9A図10Bを参照して、上記実施例の優れた効果について説明する。
図9A及び図9Bは、それぞれステップS03において求めた第1粒子の変位量に基づいて計算した応力、及びステップS12において第2粒子の変位量に基づいて計算した応力の分布を、色の濃淡で表す図である。図9A及び図9Bにおいて、色が濃い領域ほど応力が大きいことを意味する。本実施例によるシミュレーション方法を用いることにより、第1メッシュで分割して求めた応力分布(図9A)と比べて、より高分解能で応力分布が求められていることがわかる。
【0040】
図10Aは、ステップS03において求めた第1粒子41の変位量に基づいて計算した応力の分布を、色の濃淡で表す図であり、図10Bは、ステップS06で変位させた第2粒子42の位置に基づいて計算した応力の分布を、色の濃淡で表す図である。図10A及び図10Bは、第1部材21の同じ箇所の応力分布を表している。図10Bに示した応力分布には、図10Aには表れていない不規則なムラが現れている。この結果から、ステップS06で第2粒子を変位させたのみでは、求めたい応力分布が得られないことがわかる。
【0041】
これに対してステップS08~ステップS11の運動方程式を解く処理を繰り返して定常状態に達した状態で応力を計算すると、図9Bに示したように、不規則なムラが現れない応力分布が得られる。このように、上記実施例によるシミュレーション方法では、粗い第1メッシュの節点の第1粒子の変位を、細かい第2メッシュの節点の第2粒子に引き継いだ後、第2粒子について運動方程式を解いて定常状態に達するまで変位させることにより、応力分布の不規則なムラを解消することができる。
【0042】
言い換えると、粗い第1メッシュの節点の第1粒子の変位を、細かい第2メッシュの節点の第2粒子に引き継いだのみでは、第2粒子の位置が定常状態に達していないと考えられる。上記実施例では、第1粒子の変位量を第2粒子に引き継いだ後、さらに第2粒子に対して運動方程式を解くことにより、定常状態に達した状態の応力分布を求めることができる。
【0043】
さらに、上記実施例では、第1部材21及び第2部材31の両方を細かい第2メッシュで分割して解析する場合と比べて、計算負荷を軽減することができる。
【0044】
次に、図11を参照して、実施例によるシミュレーション装置について説明する。
図11は、本実施例によるシミュレーション装置のブロック図である。本実施例によるシミュレーション装置は、入力部50、処理部51、出力部52、及び記憶部53を含む。入力部50に解析条件等が入力される。さらに、ユーザから入力部50に各種指令(コマンド)等が入力される。入力部50は、例えば通信装置、リムーバブルメディア読取装置、キーボード、ポインティングデバイス等で構成される。出力部52は、通信装置、リムーバブルメディア書込み装置、ディスプレイ等を含む。
【0045】
処理部51は、入力された解析条件及び指令に基づいて図2に示したフローチャートに従ってシミュレーションを実行する。例えば、ステップS01では、入力部50に入力された解析条件を、処理部51が取得する。ステップS12では、処理部51が計算結果を出力部52に出力する。解析結果には、解析対象物に作用する応力の分布等を示す情報が含まれる。一例として、図9Bに示したように、応力分布を色の濃淡で表した図形を表示する。処理部51は、例えばコンピュータの中央処理ユニット(CPU)を含む。実施例によるシミュレーションをコンピュータに実行させるためのプログラムが、記憶部53に記憶されている。
【0046】
次に、上記実施例の変形例について説明する。
上記実施例では、第1部材21と第2部材31とが接触している構造体を解析対象としているが、他の構造体の変形や応力分布を求めることも可能である。また、上記実施例では、ステップS04(図2)において設定するズーミング領域を、第1部材21内の領域に一致させたが、その他の領域をズーミング領域として設定してもよい。例えば、第1部材21のうち溝22の近傍の領域をズーミング領域として設定してもよい。
【0047】
上記実施例では、ステップS06において第1粒子の変位を第2粒子に引き渡す手法として、式(2)を用いたが、その他の手法を用いてもよい。例えば、変位させる第2粒子の近傍に位置する第1粒子の変位が、第2粒子の変位に反映されるように第2粒子を変位させるとよい。
【0048】
上記実施例では、ステップS03において、第1メッシュの節点に配置された第1粒子を、RMD法を用いて変位させるが、MPS法、SPH法等の他の粒子法を適用して第1粒子を変位させてもよい。また、第1メッシュに対して有限要素法を適用して、第1メッシュを変形させてもよい。この場合、ステップS06において、変形後の第1メッシュの節点の変位に基づいて、第2メッシュの節点に配置した第2粒子を変位させればよい。
【0049】
上記実施例では、ステップS08において、RMD法を用いて第2粒子を変位させるが、MPS法、SPH法等の他の粒子法を適用して第2粒子を変位させてもよい。
【0050】
上記実施例は例示であり、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0051】
21 第1部材
22 溝
31 第2部材
32 凸部
41 第1粒子
42 第2粒子
42A ポリゴン壁から飛び出した第2粒子
43 ポリゴン要素
44 ポリゴン壁
50 入力部
51 処理部
52 出力部
53 記憶部
図1
図2
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