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7586799ウィービング制御方法、溶接制御装置、溶接システム及びウィービング制御プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】ウィービング制御方法、溶接制御装置、溶接システム及びウィービング制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/12 20060101AFI20241112BHJP
   B23K 9/095 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B23K9/12 350F
B23K9/12 350Z
B23K9/095 505B
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021156168
(22)【出願日】2021-09-24
(65)【公開番号】P2023047209
(43)【公開日】2023-04-05
【審査請求日】2023-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】518112321
【氏名又は名称】コベルコROBOTiX株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 尚英
(72)【発明者】
【氏名】矢野 猛
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 博文
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-018478(JP,A)
【文献】特開昭51-128663(JP,A)
【文献】特開昭62-173086(JP,A)
【文献】国際公開第2019/151088(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/12
B23K 9/095
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可搬型溶接ロボット、台車等の駆動部を有する簡易的な溶接装置を制御する溶接制御装置を用いるウィービング制御方法であって、
前記溶接制御装置は、
少なくとも施工情報、溶接条件情報及びウィービング情報を含む情報群を溶接情報とする場合に、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される標準項目ごとに、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御基準項目と、前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御項目とが対応付けて格納されるとともに、
前記制御項目は、前記ウィービング情報のうちウィービング基準軌跡の1周期中におけるあらかじめ定めた少なくとも1点の方向及び距離を変更するためのオフセット量を少なくとも含むように構築されたデータベースを備え、
前記標準項目、前記制御基準項目及び前記制御項目は、互いに前記溶接情報中の前記項目が異なるものであり、
入力される前記制御基準項目の計測値に基づいて、前記データベースから少なくとも前記オフセット量を抽出するステップを有し、
変更する前記オフセット量の方向は、溶接線方向、及び溶接線に対し板厚方向に鉛直になる方向のうち少なくともいずれか一方を含む、
ことを特徴とするウィービング制御方法。
【請求項2】
可搬型溶接ロボット、台車等の駆動部を有する簡易的な溶接装置を制御する溶接制御装置を用いるウィービング制御方法であって、
前記溶接制御装置は、
少なくとも施工情報、溶接条件情報及びウィービング情報を含む情報群を溶接情報とする場合に、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される標準項目ごとに、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御基準項目と、前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御項目とが対応付けて格納されるとともに、
前記制御項目は、前記ウィービング情報のうちウィービング基準軌跡の1周期中におけるあらかじめ定めた少なくとも1点の方向及び距離を変更するためのオフセット量を少なくとも含むように構築されたデータベースを備え、
前記標準項目、前記制御基準項目及び前記制御項目は、互いに前記溶接情報中の前記項目が異なるものであり、
入力される前記制御基準項目の計測値に基づいて、前記データベースから少なくとも前記オフセット量を抽出するステップを有し、
前記ウィービング情報の項目として、少なくとも前記ウィービング基準軌跡において溶接中心線に対して一方の側で隣り合うウィービング端間の距離であるピッチを含み、
前記ピッチを前記標準項目として選択する、
ことを特徴とするウィービング制御方法。
【請求項3】
可搬型溶接ロボット、台車等の駆動部を有する簡易的な溶接装置を制御する溶接制御装置を用いるウィービング制御方法であって、
前記溶接制御装置は、
少なくとも施工情報、溶接条件情報及びウィービング情報を含む情報群を溶接情報とする場合に、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される標準項目ごとに、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御基準項目と、前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御項目とが対応付けて格納されるとともに、
前記制御項目は、前記ウィービング情報のうちウィービング基準軌跡の1周期中におけるあらかじめ定めた少なくとも1点の方向及び距離を変更するためのオフセット量を少なくとも含むように構築されたデータベースを備え、
前記標準項目、前記制御基準項目及び前記制御項目は、互いに前記溶接情報中の前記項目が異なるものであり、
入力される前記制御基準項目の計測値に基づいて、前記データベースから少なくとも前記オフセット量を抽出するステップを有し、
少なくとも、斜め振りのウィービングパターンに対応する前記データベースを含み、
前記斜め振りのウィービングパターンを選択した場合、
前記オフセット量として、前記ウィービング基準軌跡の1周期中におけるウィービング端の少なくとも一点を、任意の距離だけ前記溶接中心線に沿って移動させる、
ことを特徴とするウィービング制御方法。
【請求項4】
前記データベースは、
前記制御項目として、前記オフセット量以外の前記ウィービング情報及び前記溶接条件情報のうち少なくとも1つの項目を含み、
入力される前記制御基準項目の計測値に基づいて、前記データベースから前記項目に係る条件を更に抽出する、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のウィービング制御方法。
【請求項5】
前記ウィービング情報の項目として、少なくとも前記ウィービング基準軌跡において溶接中心線に対して一方の側で隣り合うウィービング端間の距離であるピッチを含み、
前記ピッチを前記標準項目として選択する、
ことを特徴とする請求項1又は3に記載のウィービング制御方法。
【請求項6】
前記施工情報の項目として、少なくともギャップを含み、
前記ギャップを前記制御基準項目として選択する、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のウィービング制御方法。
【請求項7】
前記溶接条件情報の項目として、溶接電流、アーク電圧、送給速度及び溶接速度のうち少なくとも1つを含み、
前記溶接電流、前記アーク電圧、前記送給速度及び前記溶接速度のうち少なくとも1つを前記制御基準項目又は前記制御項目として選択する、
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のウィービング制御方法。
【請求項8】
前記施工情報の項目として、少なくともギャップを含むとともに、
前記溶接条件情報の項目として、溶接電流、アーク電圧、送給速度及び溶接速度のうち少なくとも1つを含み、
前記ギャップ、前記溶接電流、前記アーク電圧、前記送給速度及び前記溶接速度のうち少なくとも1つを前記制御基準項目として選択する場合に、
前記制御基準項目の計測値は、溶接中に随時更新される、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のウィービング制御方法。
【請求項9】
前記施工情報の項目として、少なくともギャップを含み、
前記オフセット量は、少なくとも前記ピッチ及び前記ギャップに基づいて抽出される、ことを特徴とする請求項2又は5に記載のウィービング制御方法。
【請求項10】
前記オフセット量において前記方向及び前記距離を変更する点として、前記ウィービング基準軌跡におけるウィービング端の位置及びウィービング中間位置のうち少なくとも一方が含まれる、
ことを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載のウィービング制御方法。
【請求項11】
少なくとも、斜め振りのウィービングパターンに対応する前記データベースを含む、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のウィービング制御方法。
【請求項12】
前記斜め振りのウィービングパターンを選択した場合、
前記オフセット量として、前記ウィービング基準軌跡の1周期中におけるウィービング端の少なくとも一点を、任意の距離だけ前記溶接中心線に沿って移動させる、
ことを特徴とする請求項11に記載のウィービング制御方法。
【請求項13】
前記オフセット量以外の前記ウィービング情報の項目として、ウィービング振幅、ウィービング端における停止時間及びウィービング基準位置のうち少なくとも1つを含み、
前記溶接条件情報の項目として、溶接電流、アーク電圧及び溶接速度のうち少なくとも1つを含む、
ことを特徴とする請求項1~12のいずれか1項に記載のウィービング制御方法。
【請求項14】
可搬型溶接ロボット、台車等の駆動部を有する簡易的な溶接装置を制御する溶接制御装置であって、
前記溶接制御装置は、
少なくとも施工情報、溶接条件情報及びウィービング情報を含む情報群を溶接情報とする場合に、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される標準項目ごとに、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御基準項目と、前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御項目とが対応付けて格納されるとともに、
前記制御項目は、前記ウィービング情報のうちウィービング基準軌跡の1周期中におけるあらかじめ定めた少なくとも1点の方向及び距離を変更するためのオフセット量を少なくとも含むように構築されたデータベースを備え、
前記標準項目、前記制御基準項目及び前記制御項目は、互いに前記溶接情報中の前記項目が異なるものであり、
入力される前記制御基準項目の計測値に基づいて、前記データベースから少なくとも前記オフセット量を抽出する機能を有し、
変更する前記オフセット量の方向は、溶接線方向、及び溶接線に対し板厚方向に鉛直になる方向のうち少なくともいずれか一方を含む
ことを特徴とする溶接制御装置。
【請求項15】
可搬型溶接ロボット、台車等の駆動部を有する簡易的な溶接装置を制御する溶接制御装置を有する溶接システムであって、
前記溶接制御装置は、
少なくとも施工情報、溶接条件情報及びウィービング情報を含む情報群を溶接情報とする場合に、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される標準項目ごとに、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御基準項目と、前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御項目とが対応付けて格納されるとともに、
前記制御項目は、前記ウィービング情報のうちウィービング基準軌跡の1周期中におけるあらかじめ定めた少なくとも1点の方向及び距離を変更するためのオフセット量を少なくとも含むように構築されたデータベースを備え、
前記標準項目、前記制御基準項目及び前記制御項目は、互いに前記溶接情報中の前記項目が異なるものであり、
入力される前記制御基準項目の計測値に基づいて、前記データベースから少なくとも前記オフセット量を抽出する機能を有し、
変更する前記オフセット量の方向は、溶接線方向、及び溶接線に対し板厚方向に鉛直になる方向のうち少なくともいずれか一方を含む
ことを特徴とする溶接システム。
【請求項16】
可搬型溶接ロボット、台車等の駆動部を有する簡易的な溶接装置を制御する溶接制御装置によりウィービング制御を行うためのウィービング制御プログラムであって、
前記溶接制御装置は、
少なくとも施工情報、溶接条件情報及びウィービング情報を含む情報群を溶接情報とする場合に、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される標準項目ごとに、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御基準項目と、前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御項目とが対応付けて格納されるとともに、
前記制御項目は、前記ウィービング情報のうちウィービング基準軌跡の1周期中におけるあらかじめ定めた少なくとも1点の方向及び距離を変更するためのオフセット量を少なくとも含むように構築されたデータベースを備え、
前記標準項目、前記制御基準項目及び前記制御項目は、互いに前記溶接情報中の前記項目が異なるものであり、
入力される前記制御基準項目の計測値に基づいて、前記データベースから少なくとも前記オフセット量を抽出する機能を実行させるものであり、
変更する前記オフセット量の方向は、溶接線方向、及び溶接線に対し板厚方向に鉛直になる方向のうち少なくともいずれか一方を含む
ことを特徴とするウィービング制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可搬型溶接ロボット、台車等の駆動部を有する簡易的な溶接装置を制御するウィービング制御方法、溶接制御装置、溶接システム及びウィービング制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
造船、鉄骨、橋梁等における溶接構造物を製造する際、施工状況に応じて、溶接条件、ウィービング条件等を適切な条件に変更する必要がある。なお、ウィービングは、一般的に溶接継手の開先幅方向に溶接トーチを揺動させることを指し、「オシレート」又は「運棒」とも称される。特に、立向き姿勢や横向き姿勢のような難姿勢の溶接を正常に行う場合、特殊なウィービングパターンを活用しつつ、目違い等の影響による開先のギャップ変動に対して、溶接速度等の各種条件を適切に変更する必要がある。このような繊細な溶接は、手溶接で行われることが多いが、省人化、施工能率向上の観点から自動化が求められている。なお、ウィービングパターンは、一般的に「ウィービング軌跡」や「運棒パターン」とも称されることがあり、ウィービングによって形成される軌跡を指す。
【0003】
この自動化について、例えば特許文献1に記載の発明は、リアルタイム状況変化が発生したとき、ロボットの動作を適切に制御することができる制御装置及びその制御方法を提供することを目的としている。そして特許文献1では、作業空間上のロボットの動作を制御するために、該作業空間上でロボットの主移動経路を決め、決められた主移動経路を構成する単位モーションを発生させ、単位モーションが連結された連続モーションのうちのオフセットを動的に変更するウィービングを発生させ、作業環境により決定される補償変位又は補償回転量を生成し、単位モーション、ウィービング、補償変位及び補償回転量のうち少なくとも一つにより、作業空間上でロボットの位置及び回転量を算出することが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2014-534083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のロボットは、ロボット自体が座標軸を有する多軸ロボットであり、ビル建築等の現場溶接では適用し難いという問題がある。現場溶接の自動化は、可搬型溶接ロボット、台車等の駆動部を有する簡易的な溶接装置を用いることが主流であるが、これらは高精度の座標軸を有さず、かつ高精度なマニピュレーターも有さないため、特殊なウィービングパターンを適用すること又は状況に応じてウィービングパターンを変更することが困難である。
【0006】
また、ウィービング中に端停止を行う場合には、多軸ロボットであっても溶接速度の影響を受け、例えば図10Aに示すような矩形のウィービングパターンとなってしまい、ビード形状に対し、悪影響を与える可能性が生じる。一方、例えば図10Bに示すような三角のウィービングパターンを維持したまま端停止を行うと、溶融池が安定し易くなり、ビード形状の改善に寄与するが、溶接速度の影響に対してウィービングの調整が容易である手溶接でなければ実現は困難である。このため、現状として手溶接を主としている現場溶接の自動化においては、溶接速度の影響に対してウィービングの調整を行い、任意のウィービングパターンを維持する技術が望まれる。
【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、可搬型溶接ロボット、台車等の駆動部を有する簡易的な溶接装置を用いる場合であっても、任意のウィービングパターンで動作することができる、ウィービング制御方法、溶接制御装置、溶接システム及びウィービング制御プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明の上記目的は、ウィービング制御方法に係る下記[1]の構成により達成される。
[1] 溶接装置を制御する溶接制御装置を用いるウィービング制御方法であって、
前記溶接制御装置は、
少なくとも施工情報、溶接条件情報及びウィービング情報を含む情報群を溶接情報とする場合に、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される標準項目ごとに、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御基準項目と、前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御項目とが対応付けて格納されるとともに、
前記制御項目は、前記ウィービング情報のうちウィービング基準軌跡の1周期中におけるあらかじめ定めた少なくとも1点の方向及び距離を変更するためのオフセット量を少なくとも含むように構築されたデータベースを備え、
前記標準項目、前記制御基準項目及び前記制御項目は、互いに前記溶接情報中の前記項目が異なるものであり、
入力される前記制御基準項目の計測値に基づいて、前記データベースから少なくとも前記オフセット量を抽出するステップを有する、
ことを特徴とするウィービング制御方法。
【0009】
また本発明の上記目的は、溶接制御装置に係る下記[2]の構成により達成される。
[2] 溶接装置を制御する溶接制御装置であって、
前記溶接制御装置は、
少なくとも施工情報、溶接条件情報及びウィービング情報を含む情報群を溶接情報とする場合に、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される標準項目ごとに、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御基準項目と、前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御項目とが対応付けて格納されるとともに、
前記制御項目は、前記ウィービング情報のうちウィービング基準軌跡の1周期中におけるあらかじめ定めた少なくとも1点の方向及び距離を変更するためのオフセット量を少なくとも含むように構築されたデータベースを備え、
前記標準項目、前記制御基準項目及び前記制御項目は、互いに前記溶接情報中の前記項目が異なるものであり、
入力される前記制御基準項目の計測値に基づいて、前記データベースから少なくとも前記オフセット量を抽出する機能を有する、
ことを特徴とする溶接制御装置。
【0010】
また本発明の上記目的は、溶接システムに係る下記[3]の構成により達成される。
[3] 溶接装置を制御する溶接制御装置を有する溶接システムであって、
前記溶接制御装置は、
少なくとも施工情報、溶接条件情報及びウィービング情報を含む情報群を溶接情報とする場合に、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される標準項目ごとに、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御基準項目と、前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御項目とが対応付けて格納されるとともに、
前記制御項目は、前記ウィービング情報のうちウィービング基準軌跡の1周期中におけるあらかじめ定めた少なくとも1点の方向及び距離を変更するためのオフセット量を少なくとも含むように構築されたデータベースを備え、
前記標準項目、前記制御基準項目及び前記制御項目は、互いに前記溶接情報中の前記項目が異なるものであり、
入力される前記制御基準項目の計測値に基づいて、前記データベースから少なくとも前記オフセット量を抽出する機能を有する、
ことを特徴とする溶接システム。
【0011】
また本発明の上記目的は、ウィービング制御プログラムに係る下記[4]の構成により達成される。
[4] 溶接装置を制御する溶接制御装置によりウィービング制御を行うためのウィービング制御プログラムであって、
前記溶接制御装置は、
少なくとも施工情報、溶接条件情報及びウィービング情報を含む情報群を溶接情報とする場合に、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される標準項目ごとに、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御基準項目と、前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御項目とが対応付けて格納されるとともに、
前記制御項目は、前記ウィービング情報のうちウィービング基準軌跡の1周期中におけるあらかじめ定めた少なくとも1点の方向及び距離を変更するためのオフセット量を少なくとも含むように構築されたデータベースを備え、
前記標準項目、前記制御基準項目及び前記制御項目は、互いに前記溶接情報中の前記項目が異なるものであり、
入力される前記制御基準項目の計測値に基づいて、前記データベースから少なくとも前記オフセット量を抽出する機能を実行させる、
ことを特徴とするウィービング制御プログラム。
【発明の効果】
【0012】
本発明のウィービング制御方法、溶接制御装置、溶接システム及びウィービング制御プログラムによれば、可搬型溶接ロボット、台車等の駆動部を有する簡易的な溶接装置を用いる場合であっても、任意のウィービングパターンで溶接することができ、立向き姿勢や横向き姿勢のような難姿勢における溶接といった様々な施工状況に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明に係る溶接システムの一実施形態の概略図である。
図2図2は、図1に示す可搬型溶接ロボットの概略側面図である。
図3図3は、図2に示す可搬型溶接ロボットの斜視図である。
図4図4は、本実施形態に係るウィービング制御プログラムのフローチャートの一例である。
図5図5は、ウィービング基準軌跡を説明するための説明図である。
図6図6は、上位の分類及び下位の分類で整理された、標準項目、制御基準項目及び制御項目の各種項目に係るデータベースの一例を示す表である。
図7図7は、ウィービング基準軌跡に対して、一方のウィービング端をX軸方向マイナス側にオフセットした場合の斜め振りタイプのウィービングパターンを示す図である。
図8A図8Aは、斜め特殊ウィービングを説明する際の標準ウィービングパターンを示す図である。
図8B図8Bは、下板側のウィービング端をX軸方向プラス側にオフセットした場合の、斜め特殊ウィービングパターンを示す図である。
図8C図8Cは、下板側のウィービング端をX軸方向マイナス側にオフセットした場合の、斜め特殊ウィービングパターンを示す図である。
図9A図9Aは、V字型特殊ウィービングを説明する際の標準ウィービングパターンを示す図である。
図9B図9Bは、標準ウィービングパターンにおけるウィービング中間位置をX軸方向マイナス側にオフセットした場合の、V字型特殊ウィービングパターンを示す図である。
図9C図9Cは、標準のウィービングパターンにおけるウィービング中間位置をZ軸方向プラス側にオフセットした場合の、V字型特殊ウィービングパターンを示す図である。
図10A図10Aは、ウィービング中に端停止を行う場合の、溶接速度の影響により形成される矩形のウィービングパターンを示す図である。
図10B図10Bは、熟練技能士により行われる三角のウィービングパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るウィービング制御方法に関する実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本実施形態は、溶接装置として「可搬型溶接ロボット」を用いた場合の一例であるが、本発明は本実施形態の構成に限定されるものではない。例えば、溶接装置として可搬型溶接ロボットの代わりに、台車等の駆動部を有する簡易的な溶接装置を用いてもよい。
【0015】
<溶接システムの構成>
図1は、本実施形態に係る溶接システムの構成を示す概略図である。溶接システム50は、図1に示すように、溶接装置の一例である可搬型溶接ロボット100と、送給装置300と、溶接電源400と、シールドガス供給源500と、溶接制御装置600と、を備えている。
【0016】
[溶接制御装置]
溶接制御装置600は、ロボット用制御ケーブル610によって可搬型溶接ロボット100と接続され、電源用制御ケーブル620によって溶接電源400と接続されている。溶接制御装置600は、溶接情報として、可搬型溶接ロボット100の動作パターン、溶接開始位置、溶接終了位置といった施工情報、溶接条件情報、ウィービング情報及び後述するウィービング制御用データベース(以降、「ウィービング制御用DB」とも称する。)等のデータを保持するデータ保持部601を有する。そして、このデータに基づいて可搬型溶接ロボット100及び溶接電源400に対して指令を送り、可搬型溶接ロボット100の動作及び溶接条件を制御する。
【0017】
また、溶接制御装置600は、後述するセンシングにより得られる検知データから開先形状情報を算出する開先形状情報算出部602と、該開先形状情報とデータ保持部601の各種データをもとに、ウィービングを決定するウィービング条件取得部603を有する。そして、上記開先形状情報算出部602とウィービング条件取得部603を含む制御部604が構成されている。なお、制御部604には、該開先形状情報をもとに、上記データの溶接条件を補正して取得する溶接条件取得部が含まれていてもよいし、ウィービング条件取得部603と溶接条件取得部とが一体となって構成されてもよい。
【0018】
さらに、溶接制御装置600は、ティーチングを行うためのコントローラと、その他の制御機能をもつコントローラが一体となって構成されている。ただし、溶接制御装置600はこれに限られるものではなく、ティーチングを行うためのコントローラ及びその他の制御機能をもつコントローラの2つに分ける等、役割によって複数に分割してもよいし、可搬型溶接ロボット100に溶接制御装置600を含めてもよい。また、本実施形態においては、ロボット用制御ケーブル610及び電源用制御ケーブル620を用いて信号が送られているが、これに限られるものではなく、無線で送信してもよい。なお、溶接現場における作業性の観点から、ティーチングを行うためのコントローラとその他の制御機能をもつコントローラの2つに分けるのが好ましい。
【0019】
[溶接電源]
溶接電源400は、溶接制御装置600からの指令により、消耗電極(以降、「溶接ワイヤ」とも称する。)211及びワークWoに電力を供給することで、溶接ワイヤ211とワークWoとの間にアークを発生させる。溶接電源400からの電力は、パワーケーブル410を介して送給装置300に送られ、送給装置300からコンジットチューブ420を介して溶接トーチ200に送られる。そして、図2に示すように、溶接トーチ200先端のコンタクトチップを介して、溶接ワイヤ211に供給される。なお、溶接作業時の電流は、直流又は交流のいずれであってもよく、また、その波形は特に問わない。よって、電流は、矩形波や三角波などのパルスであってもよい。
【0020】
また溶接電源400は、例えばパワーケーブル410がプラス(+)電極として溶接トーチ200側に接続され、パワーケーブル430がマイナス(-)電極としてワークWoに接続される。なお、これは逆極性で溶接を行う場合であり、正極性で溶接を行う場合はプラスのパワーケーブルを介してワークWo側に接続され、マイナスのパワーケーブルを介して、溶接トーチ200側と接続されていればよい。
【0021】
[シールドガス供給源]
シールドガス供給源500は、シールドガスが封入された容器及びバルブ等の付帯部材から構成される。シールドガス供給源500から、シールドガスがガスチューブ510を介して送給装置300へ送られる。送給装置300に送られたシールドガスは、コンジットチューブ420を介して溶接トーチ200に送られる。溶接トーチ200に送られたシールドガスは、溶接トーチ200内を流れてノズル210にガイドされ、溶接トーチ200の先端側から噴出する。本実施形態で用いるシールドガスとしては、例えば、不活性ガスとしてアルゴン(Ar)、活性ガスとして炭酸ガス(CO)等が挙げられる。また、単一のガスに限らず、これらの混合ガスを用いてもよい。なお、Ar以外の不活性ガスとしては、ヘリウム(He)等が挙げられ、CO以外の活性ガスとしては、水素(H)、窒素(N)、酸素(O)等が挙げられる。
【0022】
[送給装置]
送給装置300は、溶接ワイヤ211を繰り出して溶接トーチ200に送る。送給装置300により送られる溶接ワイヤ211は、特に限定されず、ワークWoの性質や溶接形態等によって選択され、例えばソリッドワイヤやフラックス入りワイヤが使用される。また、溶接ワイヤの材質も問わず、例えば軟鋼でもよいし、ステンレスやアルミニウム、チタンといった材質でもよい。さらに、溶接ワイヤの線径も特に問わない。
【0023】
本実施形態に係るコンジットチューブ420は、チューブの外皮側にパワーケーブルとして機能するための導電路が形成され、チューブの内部に溶接ワイヤ211を保護する保護管が配置され、シールドガスの流路が形成されている。ただし、コンジットチューブ420は、これに限られるものではなく、例えば溶接トーチ200に溶接ワイヤ211を送給するための保護管を中心にして、電力供給用ケーブルやシールドガス供給用のホースを束ねたものを用いることもできる。また例えば、溶接ワイヤ211及びシールドガスを送るチューブと、パワーケーブルとを個別に設置することもできる。
【0024】
[可搬型溶接ロボット]
可搬型溶接ロボット100は、図2及び図3に示すように、ガイドレール120と、ガイドレール120上に設置され、該ガイドレール120に沿って移動するロボット本体110と、ロボット本体110に載置されたトーチ接続部130と、を備える。ロボット本体110は主に、ガイドレール120上に設置される本体部112と、この本体部112に取り付けられた固定アーム部114と、この固定アーム部114に対し矢印R方向に回転可能な状態で取り付けられた可動アーム部116と、から構成される。
【0025】
トーチ接続部130は、クランク170を介して可動アーム部116に取り付けられている。トーチ接続部130は、溶接トーチ200を固定するトーチクランプ132及びトーチクランプ134を備えている。また、本体部112には、溶接トーチ200が装着される側とは反対側に、送給装置300と溶接トーチ200を繋ぐコンジットチューブ420を支えるケーブルクランプ150が設けられている。
【0026】
また、本実施形態においては、ワークWoと溶接ワイヤ211間に電圧を印加し、溶接ワイヤ211がワークWoに接触したときに生じる電圧降下現象を利用して、開先10の表面等をセンシングするタッチセンサを検知手段とする。検知手段は、本実施形態のタッチセンサに限られず、視覚センサ、アークセンサ若しくはレーザーセンサ等、又はこれら検知手段の組み合わせを用いてもよいが、装置構成の簡便性から本実施形態のタッチセンサを用いることが好ましい。また、溶接途中の施工情報を得るために、タッチセンサに加え視覚センサを用いることが更に好ましい。
なお本実施形態においては、タッチセンサ以外に不図示の視覚センサを用いて、溶接途中の施工情報、具体的には、例えば溶融池の先端幅をギャップの値として制御部604に入力している。
【0027】
ロボット本体110の本体部112は、図2の矢印Xで示すように、ロボット本体110がガイドレール120に沿って移動するX軸方向に駆動可能である。また、本体部112は、X軸方向に対し垂直となる開先10の深さ方向に移動するZ方向にも駆動可能である。また、固定アーム部114は、本体部112に対してスライド支持部113を介して、X軸方向に対し垂直となる開先10の幅方向であるY軸方向へ駆動可能である。
【0028】
さらに、溶接トーチ200が取りつけられたトーチ接続部130は、クランク170が図3の矢印Rに示すように回動することで、X軸方向において前後に首振り駆動が可能である。また、可動アーム部116は、矢印Rに示すように、固定アーム部114に対して回転可能に取り付けられており、最適な角度に調整して固定することができる。
【0029】
上記のように、ロボット本体110は、その先端部である溶接トーチ200を3つの自由度で駆動可能である。ただし、ロボット本体110はこれに限られるものでなく、用途に応じて任意の数の自由度で駆動可能としてもよい。
【0030】
以上のように構成されることで、トーチ接続部130に取り付けられた溶接トーチ200の先端部は、任意の方向に向けることができる。さらに、ロボット本体110は、ガイドレール120上を、図2においてX軸方向に駆動可能である。溶接トーチ200は、Y軸方向に往復移動しながら、ロボット本体110がX軸方向に移動することより、ウィービング溶接を行うことができる。また、クランク170による駆動により、例えば前進角又は後退角を設ける等の施工状況に応じて、溶接トーチ200を傾けることができる。
【0031】
ガイドレール120の下方には、例えば磁石などの取付け部材140が設けられおり、ガイドレール120は、取付け部材140によりワークWoに対して着脱が容易に構成されている。可搬型溶接ロボット100をワークWoにセットする場合、オペレータは可搬型溶接ロボット100の両側把手160を掴むことにより、可搬型溶接ロボット100をワークWo上に容易にセットすることができる。
【0032】
<ウィービング制御方法>
続いて、本実施形態に係る溶接システム50に備えられた溶接制御装置600を用いるウィービング制御方法について詳細に説明する。
【0033】
開先10を溶接する際には、溶接開始前に、溶接時の溶接情報を設定し又は取得し、ガスシールドアーク溶接を実現する。
ここでいう「溶接情報」とは、施工情報、溶接条件情報及びウィービング情報を含む溶接に係る情報群の総称を意味する。また、施工情報、溶接条件情報及びウィービング情報以外では、例えば、気温や湿気といった項目の情報が含まれる環境情報や、スパッタやヒューム量といった項目の情報が含まれる溶接現象情報が挙げられる。
なお、ギャップ、板厚、溶接材料、シールドガス種、母材、溶接長等が、「施工情報」を構成する項目の例として挙げられる。また、溶接電流、アーク電圧、溶接速度、シールドガス流量等が、「溶接条件情報」を構成する項目の例として挙げられる。そして、後述するピッチ、ウィービング幅、ウィービング周期、ウィービング端停止時間、ウィービング基準線の位置、ウィービングパターンに係る要素、後述するオフセット量等が、「ウィービング情報」を構成する項目の例として挙げられる。
ここで、ウィービングパターンに係る要素とは、ウィービングパターンのタイプによって変わり、例えばウィービングパターンのタイプが斜め振りである場合には、後述する傾斜角がその要素として該当する。
【0034】
また、溶接情報を取得するまでのプロセスとして、例えば施工情報のうち、溶接ワイヤの種類やシールドガスの種類などの項目について施工状況に合わせて設定することで、溶接モードを決定することができる。そして、溶接制御装置600の動作信号に基づいて、ロボット本体110を駆動し、タッチセンサを用いて開先形状の自動センシングを開始する。さらに、開先形状情報を算出して、該開先形状情報とあらかじめ準備した条件取得・補正用データベース(以降、「条件取得・補正用DB」とも称する。)に基づいて、溶接条件、ウィービング条件等を取得又はあらかじめ設定している溶接条件、ウィービング条件等の補正を行う。
【0035】
以下、図4を参照して具体的な工程について説明する。図4は、本実施形態に係るウィービング制御プログラムのフローチャートの一例である。まず、フロー全体の流れを説明する。
図4において、溶接作業の開始後のステップS1で示すように、溶接前の準備としてプログラム設定・補正が行われる。続いて、ステップS2で示すように、プログラムが開始された後、ステップS3で示すように、溶接開始(アークオン)を行い、ステップS4で示すように、視覚センサやアークセンサ等によって、あらかじめ定めた制御基準項目の計測値を随時取得する。続いて、ステップS5で示すように、得られた制御基準項目の計測値と、後述するあらかじめ定めたウィービング制御用DBに基づいて、該DB上で制御基準項目と関連付けられている制御項目の各情報を抽出する。更に続いて、ステップS6で示すように、制御項目の各情報を抽出後、得られた各情報を反映して溶接を行う。次いで、ステップS7で示すように、溶接完了(アークオフ)の後、ステップS8で示すように、プログラムの完了の判別、すなわち、プログラムで定められた全工程の溶接が完了したかを判別し、完了していなければ、ステップS3に戻り、再びステップS3~S7の操作を繰り返す。
なお、ステップS8における「プログラム完了」とは、あらかじめプログラム上に定めた溶接開始位置から溶接終了位置までのすべて位置における溶接が完了していることである。また、多層盛溶接の場合は、上記各位置において全層の溶接が完了していることであって、全層の溶接が完了するまで、上記ステップS3~S7の操作を繰り返す。そして、ステップS8でプログラム完了と判別した場合、溶接作業を終了する。
【0036】
[プログラム設定・補正]
施工状況に合わせて溶接方法や溶接姿勢を決定し、「施工情報」に含まれる情報の項目として、例えば溶接ワイヤの種類やシールドガスの種類などの設定値を、また「溶接条件情報」に含まれる情報の項目として、例えば溶接電流、アーク電圧、溶接速度などの設定値を、そして「ウィービング情報」に含まれる情報の項目として、例えばピッチ、ウィービング周波数、ウィービングパターンなどの設定値を、それぞれティーチングプログラムに含め、溶接制御装置600におけるデータ保持部601へ、ティーチングプログラムデータとして入力する。
なお、これらの設定値は、作業者が教示器等を介して、ティーチングプログラムに設定してもよいし、CADデータや各種センサを介して設定されてもよい。
【0037】
本実施形態では、可搬型溶接ロボット100のティーチングプログラムの中に各種設定値があらかじめ含まれ、後述するタッチセンサによって得られる情報と条件取得・補正用DBに基づいて、設定値を取得又は補正し、溶接中は視覚センサやアークセンサ等によって、あらかじめ定めた制御基準項目を観測し、該制御基準項目の値に基づいて、あらかじめ定めた制御項目を制御しつつ溶接を行う。
なお、本実施形態においては、「制御基準項目」としてギャップを選択し、「制御項目」として図6で示すギャップ以降の項目、すなわち、溶接電流、アーク電圧、溶接速度、後述するオフセット量、各種ウィービング条件を選択している。つまり、視覚センサで実測したギャップの値によって、これら溶接電流、アーク電圧、溶接速度、後述するオフセット量、各種ウィービング条件を制御する。
【0038】
ウィービングパターンの設定は、上述のとおり、あらかじめティーチングプログラムの中で設定しておけばよく、例えば、横向き姿勢の場合、溶接の初層では斜め振りタイプのウィービングパターンを設定し、溶接の初層以外はウィービング基準軌跡、すなわち、標準のウィービングパターンとして可搬型溶接ロボット100のティーチングプログラムを組んでおけばよい。なお、あらかじめティーチングプログラムの中で設定しておかなくとも、タッチセンサによって得られる情報と条件取得・補正用DBに基づいて、条件を取得させてもよい。
【0039】
ウィービングパターンは、産業用ロボットを用いた場合、ウィービングの振幅、周期及び溶接速度によって決定するのが一般的である。このため、一つの溶接長で速度制御が行われると、制御による速度変化によって、ウィービングパターンは変わり、例えば、図10Aに示すような矩形のウィービングと、図10Bに示すような三角のウィービングパターンが混在してしまうことも生ずる。本実施形態においては、後述する「ウィービング基準軌跡」をあらかじめ決定し、ウィービング基準軌跡に基づいたウィービングパターンを生成し、生成したウィービングパターンになるように、あらかじめ選択した「制御項目」を制御する。
「ウィービング基準軌跡」とは、図5に示すように、可搬型溶接ロボット100におけるX軸方向への一定速度における移動と、溶接トーチ200におけるY軸方向への一定速度における移動の合成軌跡として形成され、ウィービング端A1、A2及びA3を通る二等辺三角形が基本単位となり、該基本単位が連続した軌跡である。溶接中心線CLに対して一方の側で隣り合うウィービング端A1及びA3間の距離がピッチpとなる。したがって、ピッチpと基本単位の繰り返し回数nとの積、すなわちp×nが溶接区間となる。なお、ウィービング基準軌跡を構成する要素であるピッチ等の項目は、上述のとおりウィービング情報に含まれる。
【0040】
[溶接前又は溶接中のセンシング工程]
溶接開始前のセンシング工程は、上述したタッチセンサによって、開先形状、板厚、始終端等をタッチセンシングして行う。センシング工程の後、センシング工程で得た各開先形状検知位置における開先断面形状の検知データから、開先形状情報、例えば、開先形状の開先角度、板厚、ギャップ、ワーク端部間の距離等を算出する、開先形状情報算出工程を取る。この開先形状情報算出工程によって得られたデータと条件取得・補正用DBに基づいて、ティーチングプログラムデータ内の設定条件の補正又は取得がなされる。本実施形態では、例えば、ウィービング基準軌跡の条件や溶接条件を補正又は取得する。
【0041】
溶接途中のセンシング工程は、上述した視覚センサによって、主にギャップ等の開先形状情報をセンシングする。具体的には、溶接進行方向における前方側に視覚センサを設け、溶接ワイヤ及び溶融池が画像内に収まるように撮影し、溶融池の挙動からギャップを算出する。より具体的には、溶融池先端の距離をギャップとして算出するとよい。
本実施形態では、視覚センサで得られたギャップを後述する「制御基準項目」として取り扱い、後述するウィービング制御用DBと視覚センサによって随時入力されるギャップに基づいて、ウィービング制御用DB上に後述する制御項目として、あらかじめ対応付けて記憶させた、選択したウィービングパターンの軌跡を生成するための条件や溶接条件を制御する。
【0042】
溶接前に設定する初期設定条件及びウィービング制御用DB上に含まれる制御項目としては、ウィービング基準軌跡の1周期中におけるあらかじめ定めた少なくとも1点の方向及び距離を変更するための、オフセット量が含まれる。それは、オフセット量がウィービングパターンを生成する上で必須の項目となるためである。
なお、オフセット量に方向及び距離の情報が入る場合は、「特殊ウィービング」と称し、オフセット量がゼロの場合は、あらかじめ定めたウィービング基準軌跡のままであり、「標準ウィービング」と称することとする。
【0043】
[ウィービング制御用DBの構成]
ウィービング制御用DBは、施工情報、溶接条件情報及びウィービング情報を含む情報群である溶接情報のうちから選択される少なくとも1つの項目を「標準項目」として用意し、1つの標準項目又は複数の標準項目の組み合わせごとに、溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択され、制御を行う基準となる「制御基準項目」と、溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択され、制御を行う対応相となる「制御項目」を少なくとも含む。なお、「標準項目」、「制御基準項目、及び「制御項目」は、溶接情報のうちから選択される少なくとも1つの項目が互いに異なるものとする。
【0044】
本実施形態においては、図6に示されるように、「標準項目」として、ウィービング情報に含まれる項目であってウィービングパターンに係る要素である「傾斜角」と「ピッチ」を選択し、「制御基準項目」として、「ギャップ」を選択し、「制御項目」として、「溶接電流」、「アーク電圧」、「溶接速度」、「オフセット量」、「ウィービング振幅」、「端停止時間」が選択されている。
なお、本実施形態の態様に限らず、例えば、図6に示すウィービング制御用DBに対し、ピッチの代わりとして、溶接条件情報に含まれる項目である「溶接速度」を標準項目として選択し、制御項目として溶接速度の代わりに「ピッチ」を選択してもよい。しかしながら、制御の容易性を鑑みると、本実施形態のように標準項目としてウィービングパターンに係る要素及びウィービング基準軌跡に係る要素の2つを選択、具体的には、ウィービングパターンに係る要素として「傾斜角」の項目を、ウィービング基準軌跡に係る要素として「ピッチ」の項目の2つを選択することが好ましく、さらに、制御基準項目には本実施形態のごとく「ギャップ」の項目を選択するといったウィービング制御用DBを構築することが好ましい。
【0045】
ここで、施工情報の項目としては、例えば、製品番号、銘柄等の溶接材料の種類や、組成、線径、メッキの有無等の性質、また、母材の種類や性質、開先形状、突出し長さ、シールドガス種が挙げられる。溶接条件情報の項目としては、例えば、溶接電流、アーク電圧、溶接速度等が挙げられる。ウィービング情報の項目としては、ピッチ、ギャップ、ウィービング振幅、端停止時間、ウィービング基準位置、ウィービング周波数、ウィービングパターンに係る要素、後述するオフセット量が挙げられる。
【0046】
なお、上述のように構成されるウィービング制御用DBは、条件の管理や条件抽出の容易性から、図6において、上位の分類として「斜め振りのウィービングパターン」のタイプにおける<ワイヤA>や<ワイヤB>で示すように、例えば、最上位の分類をウィービングパターンのタイプとし、次の階層として、溶接材料の種類ごとにウィービング制御用DBを分類してもよいし、逆に、溶接材料の種類を最上位の分類とし、次の階層をウィービングパターンのタイプごとに、ウィービング制御用DBを分類してもよい。
【0047】
また、これらの他に、上位の分類として、シールドガス種ごとにウィービング制御用DBを分類してもよい。さらに、ウィービングパターンのタイプ、溶接材料の種類又はシールドガス種等、のうち一つ、又はこれらの組み合わせによって上位の分類を設定すると、条件の管理や条件抽出の容易性からより好ましいといえる。なお、ウィービングパターンのタイプとは、三角振り、正弦波振りや斜め振りといった大まかな型を指す概念である。
【0048】
図4に戻って説明をすると、上述のとおり、溶接中において少なくとも視覚センシングで抽出したギャップの情報を入力し、構築したウィービング制御用DBに基づいて、少なくともオフセット量を制御する。制御項目としては、その他、溶接電流、アーク電圧、溶接速度、オフセット量、ウィービング振幅、端停止時間を用いることが好ましいが、オフセット量に加えて、溶接速度も制御項目として用いることが好ましい。
【0049】
すなわち、図6ではギャップ9mm、7mm、5mm、3mmごとに制御項目の最適値が定められているが、例えば、ギャップ3mmの条件で溶接中、視覚センサによってギャップ5mmを入力した場合に、ギャップ5mmの最適条件に合わせるように制御項目の数値を制御する。このとき、ギャップ変動によって制御する制御項目が「オフセット量」の場合は、オフセット量を制御することによって、あらかじめ定めたウィービングパターンを維持することができる。また、制御する制御項目が「溶接速度」の場合は、溶着物の高さを一定にするように、溶着量を制御でき、溶接品質を高めることができる。よって、制御項目としては、「オフセット量」と「溶接速度」は少なくとも選択するとよい。
【0050】
ここで、本実施形態では、ウィービングパターンのタイプとして、立向き姿勢や横向き姿勢のような難姿勢においても良好な溶接を行うことが可能な「斜め振り」の特殊ウィービングパターンを選択している。斜め振りタイプのウィービングパターンとは、例えば、図7に示す軌跡であって、破線で示すウィービング基準軌跡における一方のウィービング端A2に対し、X軸方向マイナス側、すなわち図7において左方向にオフセットすることで、ウィービング基準軌跡のウィービング端A2がウィービング端A4に変更され、ウィービング端A1、A4及びA3を通る三角形の軌跡となることを指す。なお、予め傾斜角αを決定し、その傾斜角αに対応するオフセット量を設けることによって、傾斜が浅い斜め振りや、傾斜が深い斜め振りが実現できる。この傾斜角αは施工状況によって使い分ければよく、斜め振りタイプのウィービングパターンを決定するための要素の一つとなる。
【0051】
上記を端的にいうと、図7に示すように、斜め振りタイプのウィービングパターンに係る要素として、傾斜角αと、ウィービング基準軌跡に係る要素であるピッチp及びセンサ等によって入力されたギャップに基づいて算出されるウィービング振幅aを与えることで、斜め振りタイプのウィービングパターンが決定可能である。
【0052】
上記の一例としては、図8Aに示す標準ウィービングパターン、すなわちウィービング基準軌跡に基づいて、図8Aの下板側のウィービング端A2をX軸方向プラス側にオフセットして、図8Bのウィービング端A4の位置に変更することで、図8Bに示す斜め振りタイプのウィービングパターンが得られる。また、ウィービング端A2にX軸方向マイナス側にオフセットしてウィービング端A2をウィービング端A5に変更することで、図8Cに示す斜め振りタイプのウィービングパターンが得られる。
【0053】
また、他のウィービングパターンの一例としては、図9Aに示す標準ウィービングパターン、すなわちウィービング基準軌跡に基づいて、図9Aに「◆」で示すウィービング中間位置A6及びA7にX軸方向マイナス側にオフセットして、ウィービング中間位置A6及びA7をそれぞれウィービング中間位置A8及びA9に変更することで、図9Bに示すV字型のウィービングパターンが得られる。
【0054】
なお、上記した各例は、溶接線方向、すなわちX-Y平面におけるウィービング端の移動であるが、状況に応じてZ軸方向にオフセットしてもよい。具体的には、ウィービング中間位置A6及びA7に、Z軸方向プラス側にオフセットして、ウィービング中間位置A6及びA7をウィービング中間位置A10に変更することで、図9Cに示すV字型のウィービングパターンとすることもできる。
【0055】
ここで、オフセット量において、オフセットの方向及び距離を変更する点は、ウィービング基準軌跡におけるウィービング端、すなわち図9AにおけるUL又はDL上の位置、及びウィービング中間位置、すなわち図9AにおけるML上の位置のいずれにおいても変更可能であり、更に上記の位置に限定されず、任意の位置に設定することができる。
【0056】
なお、斜め振りタイプのウィービングでは、可搬型溶接ロボット100のX軸方向における移動速度、溶接トーチ200のY軸方向における移動速度、溶接トーチ200のZ軸方向における移動速度が同期制御され、同一時刻に目標とする位置、例えば図8Bを参照して、ウィービング端A1からA4、A4からA3へのX軸、Y軸及びZ軸の移動が同時に完了するように、X軸、Y軸及びZ軸の移動速度が制御される。
【0057】
以下、本実施形態において、ウィービング制御用DBで主要となる溶接情報の項目と、設定する好ましい条件範囲について説明する。
【0058】
[ピッチ]
ピッチpとは、図5に示すように、1ウィービングに進む距離を指し、可搬型溶接ロボットのウィービングを検討する際に必要な設定値となる。このため、ピッチは標準項目として採用することが好ましい。一般的には、このピッチpの設定値に基づいて、溶接速度、振幅、端停止時間等の他のウィービング条件が決定される。なお、ピッチpと溶接速度に基づいてその他の値を決定してもよい。ピッチpを初期設定又はウィービング制御用DB上に設定する好ましい範囲としては、1mm≦p≦5mm、より好ましくは2.0mm≦p≦3.5mmであるとよい。ピッチpが1mm≦p≦5mmの範囲であれば、ウィービングの速度が適切で、溶融池が形成しやすくなる。また、ピッチpが2.0mm≦p≦3.5mmであればギャップ3~10mmにおいてウィービング速度が適当に変化するため、溶融池の乱れが少なく、より安定した溶接が可能となる。
【0059】
[オフセット量]
オフセット量は、特殊ウィービングを実現させるための重要な項目となる。このため、オフセット量は制御項目として採用することが好ましい。ウィービング基準軌跡は、図8Aに見られるような軌跡を示すが、ウィービング基準軌跡の1周期中におけるあらかじめ定めた少なくとも1点の方向及び距離を変更することによって、種々の軌跡のウィービングを行うことができる。本実施形態では、ウィービング基準軌跡の1周期中におけるあらかじめ定めた少なくとも1点の方向及び距離を変更することを「オフセット量」と称する。
【0060】
可搬型溶接ロボットは溶接線と平行に設置したレール上を走行する。この際、溶接線方向を便宜上X軸方向(以降、「X軸」とも称する。)とし、溶接線に対し開先幅方向に鉛直になる方向を便宜上Y軸方向(以降、「Y軸」とも称する。)とし、溶接線に対し板厚方向に鉛直になる方向を便宜上Z軸方向(以降、「Z軸」とも称する。)とする場合に、レールはX軸方向に沿って配置し、Y軸方向及びZ軸方向のうち少なくとも一方にウィービングする機構(以降、「ウィービング機構」とも称する。)をロボット本体に搭載する。言い換えれば、可搬型溶接ロボットは、少なくとも2軸の駆動機構を有し、好ましくは、少なくともX軸とY軸、より好ましくはX、Y、Z軸の3軸を少なくとも有しているとよく、さらにより好ましくは、X、Y、Z軸の直交駆動機構に加え、図2のクランク170を利用した、X軸方向に移動するコンコイダルの近似直線運動機構を有するとよい。
【0061】
本実施形態において、レールに沿って走行する走行機構とウィービング機構は独立したものではなく、同一座標軸に沿って連動する機構としている。この機構により、同一時刻に目標とする位置への移動が完了するようにX、Y、Z軸の動作を制御し、ウィービングを行う。要は、あらかじめ定めたウィービングの軌跡になるように、Y軸方向のウィービング機構とX軸方向の走行機構を同時に制御する。なお、ウィービング端でY方向のウィービング機構とX方向の走行機構を同期して停止させるように制御することで、端停止中に溶接速度の影響を受けないようにすることができる。
【0062】
ウィービングパターンに斜め振りタイプを選択した場合、ウィービング制御用DBに適用するオフセット量はX軸方向のオフセット量xとして取り扱い、0.5mm≦x≦15mm、より好ましくは1mm≦x≦12mmの範囲で設定しておくことが好ましい。なお、オフセット量xは次式(1)で表される。
x=p/2+a/tanα ・・・(1)
ここで、式(1)に適用される各項目は、振幅a=0~10mm、ピッチp=1~5mm、傾斜角α=40~90°の範囲内で設定されることが好ましく、より好ましい範囲は振幅a=0~10mm、ピッチp=2~3.5mm、傾斜角α=45~65°となる。
【0063】
[傾斜角]
ウィービングパターンが斜め振りタイプの軌跡を描く場合は、図7に示すように、ウィービングパターンに係る要素として傾斜角αを設定し、その傾斜角α及びその他の設定値に対応したオフセット量xを抽出する。傾斜角αは、ウィービングパターンを決定する上で重要な項目となるため、標準項目として採用することが好ましい。傾斜角αは、初期設定又はウィービング制御用DBを構築させるための範囲として40°≦α≦90°が好ましく、45°≦α≦65°の範囲であることがより好ましい。
【0064】
また、横向き姿勢における溶接においては、溶融池が重力の影響を受けるため、ギャップ方向に鉛直なウィービング方法、すなわちウィービング基準軌跡では、持続可能な安定したアークが得難くなるため、斜め振りタイプのウィービングパターンを選択することが好ましい。ギャップ0mm~10mmにおいては、傾斜角αを40°≦α≦90°にすることが好ましく、更にギャップ3mm~10mmにおいては、45°≦α≦65°とすることが好ましい。これにより、平滑なビード形状が得られるため、次層溶接時に溶接欠陥を誘発するリスクが低減する。
【0065】
[振幅]
振幅aは、ウィービング幅の両端の距離となる。一般的には、ギャップ幅と同等の距離を振幅とすればよいため、ウィービング制御用DBを構築する上でギャップGと同様、振幅aは3mm≦a≦10mmの範囲とすることが好ましく、3mm≦G≦10mmにおいて0.6≦a/G≦0.9を満たすことが好ましい。 ギャップGが3mmより小さい場合は、ウィービングを用いない、すなわち振幅a=0か、1mm程度の振幅としてウィービング制御用DB上に設定することが安定したビード形成のために好ましい。上述のとおり、ギャップ幅に応じて変動すればよいため、制御項目として選択することが好ましい。
【0066】
[溶接速度]
溶接速度Vは、初期設定又はウィービング制御用DBを構築する上で30mm/min≦V≦400mm/minの範囲であるとよく、50mm/min≦V≦180mm/minとすることがより好ましい。溶接速度Vは、制御項目として選択し、ギャップに応じて個々に最適な範囲をウィービング制御用DB上に設定しておくことが好ましい。本実施形態においては3mm~10mmのギャップ変動に追従するための溶接速度Vとして設定を行っている。なお、ギャップ3mmにおいて溶接速度Vが180mm/min以下であると、ルート部を溶融する時間の確保が容易になる。また、溶接速度Vが50mm/min以上となると、溶融金属上にアークが留まる時間が低下し、重力の影響で溶融金属が垂れにくくなり、溶接ビードの形状が良好になる傾向にある。
【0067】
なお、ギャップ0mmにおいては、溶接速度Vを400mm/min以下に設定しておくことで安定したアークと裏ビードが獲得できる。3mm~10mmの任意の大きさのギャップについては、30mm/min≦V≦400mm/minの範囲で初期設定又はウィービング制御用DB上に構築しておくとよい。
【0068】
[端停止時間]
横向きの姿勢の場合は、上方の端停止時間(以降、「上端停止時間」とも称する。)及び下方の端停止時間(以降、「下端停止時間」とも称する。)で、初期設定又はウィービング制御用DB上で構築する好ましい範囲が異なるため、各々について設定する。端停止時間は、ギャップの変化等の溶接状況によって変動させることが好ましい項目であるため、制御項目として取り扱えばよい。
【0069】
上端停止時間Tupは、初期設定又はウィービング制御用DBを構築する上で、好ましくは、0ms≦Tup≦1500ms、より好ましくは、100ms≦Tup≦1200msの範囲内で用いるとよい。上端停止時間Tupはギャップに応じて個々に最適範囲を定めることが好ましい。本実施形態では、3mm~10mmのギャップ変動に追従するのに適した上端停止時間Tupとして好ましい範囲を示す。裏ビード形成のためには、上端停止時間Tupについて特に下限値を設ける必要はないが、上端停止は開先内溶接ビード形状を平坦にするのに必要な溶接金属量を供給する目的も持つ。
【0070】
なお、ギャップ3mmについては100ms以上の上端停止時間Tupを入れることがより好ましい。また、ギャップ10mmにおいて、上端停止時間Tupが1500ms以下の範囲で設定すると、溶融金属上にアークが留まる時間が適度で、溶融金属の垂れを抑制できる効果を有する。さらに、健全な裏ビード形成に加え開先内ビード形状がより平坦化可能となるため、上端停止時間Tupを1200ms以下とするのが更に好ましい。
【0071】
下端停止時間Tdownは、初期設定又はウィービング制御用DBを構築する上で、好ましくは、0ms≦Tdown≦500ms、より好ましくは、0ms≦Tdown≦100msの範囲内で用いるとよい。初層において、裏ビード形成の観点で見ると、下端停止時間Tdownを設けなくとも影響しないことから、下端停止時間Tdownについて特に下限値を設ける必要はない。一方で下端停止時間が500ms以下となると下端でよりオーバーラップ形状を抑制しやすくなる。なお、ギャップが3mm~10mmの範囲で変動した場合に、全ギャップ範囲で安定した開先内ビード形状を得ることができるため、下端停止時間Tdownを0ms≦Tdown≦100msとするのがより好ましいといえる。
【0072】
[ウィービング基準線]
ウィービング基準線は、主にアーク倣い等でウィービング幅の増減等を行う制御を行う際の基準位置として設定される。基本的には、初期設定時に設定しておけばよいが、必要に応じて、制御項目としてウィービング制御用DB上に含めてもよく、例えば、ギャップを制御基準項目として、ギャップ変動に基づいて、ウィービング基準線を制御してもよい。
例えば、横向き姿勢の本実施形態では、図2のWBLで示すように、装置本体から遠い側のウィービング端をウィービング基準線にして、ウィービング幅の増減を行う等のウィービング制御を行う。なお、ウィービングの基準線は、本実施形態に限らず、例えば、ウィービング中央位置をウィービング基準線として両側にウィービング幅を均等に増減するような制御としてもよい。
【0073】
以上、本発明に係るウィービング制御方法に関する実施形態を説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
【0074】
以上のとおり、本明細書には次の事項が開示されている。
【0075】
(1) 溶接装置を制御する溶接制御装置を用いるウィービング制御方法であって、
前記溶接制御装置は、
少なくとも施工情報、溶接条件情報及びウィービング情報を含む情報群を溶接情報とする場合に、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される標準項目ごとに、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御基準項目と、前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御項目とが対応付けて格納されるとともに、
前記制御項目は、前記ウィービング情報のうちウィービング基準軌跡の1周期中におけるあらかじめ定めた少なくとも1点の方向及び距離を変更するためのオフセット量を少なくとも含むように構築されたデータベースを備え、
前記標準項目、前記制御基準項目及び前記制御項目は、互いに前記溶接情報中の前記項目が異なるものであり、
入力される前記制御基準項目の計測値に基づいて、前記データベースから少なくとも前記オフセット量を抽出するステップを有する、
ことを特徴とするウィービング制御方法。
この構成によれば、可搬型溶接ロボット、台車等の駆動部を有する簡易的な溶接装置を用いる場合であっても、任意のウィービングパターンで溶接することができ、立向き姿勢や横向き姿勢のような難姿勢における溶接といった様々な施工状況に適用することができる。
【0076】
(2) 前記データベースは、
前記制御項目として、前記オフセット量以外の前記ウィービング情報及び前記溶接条件情報のうち少なくとも1つの項目を含み、
入力される前記制御基準項目の計測値に基づいて、前記データベースから前記項目に係る条件を更に抽出する、
ことを特徴とする(1)に記載のウィービング制御方法。
この構成によれば、より最適なウィービングパターンを抽出することができる。
【0077】
(3) 前記ウィービング情報の項目として、少なくとも前記ウィービング基準軌跡において溶接中心線に対して一方の側で隣り合うウィービング端間の距離であるピッチを含み、
前記ピッチを前記標準項目として選択する、
ことを特徴とする(1)又は(2)に記載のウィービング制御方法。
この構成によれば、ピッチに基づいて最適なウィービングパターンを抽出することができる。
【0078】
(4) 前記施工情報の項目として、少なくともギャップを含み、
前記ギャップを前記制御基準項目として選択する、
ことを特徴とする(1)~(3)のいずれか1つに記載のウィービング制御方法。
この構成によれば、ギャップに基づいて最適なウィービングパターンを抽出することができる。
【0079】
(5) 前記溶接条件情報の項目として、溶接電流、アーク電圧、送給速度及び溶接速度のうち少なくとも1つを含み、
前記溶接電流、前記アーク電圧、前記送給速度及び前記溶接速度のうち少なくとも1つを前記制御基準項目又は前記制御項目として選択する、
ことを特徴とする(1)~(4)のいずれか1つに記載のウィービング制御方法。
この構成によれば、溶接条件設定情報として、溶接電流、アーク電圧、送給速度又は溶接速度を選択でき、これらに基づいて最適なウィービングパターンを抽出することができる。
【0080】
(6) 前記施工情報の項目として、少なくともギャップを含むとともに、
前記溶接条件情報の項目として、溶接電流、アーク電圧、送給速度及び溶接速度のうち少なくとも1つを含み、
前記ギャップ、前記溶接電流、前記アーク電圧、前記送給速度及び前記溶接速度のうち少なくとも1つを前記制御基準項目として選択する場合に、
前記制御基準項目の計測値は、溶接中に随時更新される、
ことを特徴とする(1)~(3)のいずれか1つに記載のウィービング制御方法。
この構成によれば、ギャップ、溶接電流、アーク電圧、送給速度及び溶接速度のうち少なくとも1つの計測値を溶接中に随時更新することで、溶接条件の変化に対応して良好な溶接を行うことができる。
【0081】
(7) 前記施工情報の項目として、少なくともギャップを含み、
前記オフセット量は、少なくとも前記ピッチ及び前記ギャップに基づいて抽出される、
ことを特徴とする(3)に記載のウィービング制御方法。
この構成によれば、ピッチ及びギャップに基づいて最適なウィービングパターンを抽出することができる。
【0082】
(8) 前記オフセット量において前記方向及び前記距離を変更する点として、前記ウィービング基準軌跡におけるウィービング端の位置及びウィービング中間位置のうち少なくとも一方が含まれる、
ことを特徴とする(1)~(7)のいずれか1つに記載のウィービング制御方法。
この構成によれば、任意のウィービングパターンが得られる。
【0083】
(9) 少なくとも、斜め振りのウィービングパターンに対応する前記データベースを含む、
ことを特徴とする(1)~(8)のいずれか1つに記載のウィービング制御方法。
この構成によれば、斜め振りのウィービングパターンを適用することで、立向き姿勢や横向き姿勢のような難姿勢においても良好な溶接を行うことができる。
【0084】
(10) 前記斜め振りのウィービングパターンを選択した場合、
前記オフセット量として、前記ウィービング基準軌跡の1周期中におけるウィービング端の少なくとも一点を、任意の距離だけ前記溶接中心線に沿って移動させる、
ことを特徴とする(9)に記載のウィービング制御方法。
この構成によれば、最適なウィービングパターンを設定できる。
【0085】
(11) 前記オフセット量以外の前記ウィービング情報の項目として、ウィービング振幅、ウィービング端における停止時間及びウィービング基準位置のうち少なくとも1つを含み、
前記溶接条件情報の項目として、溶接電流、アーク電圧及び溶接速度のうち少なくとも1つを含む、
ことを特徴とする(1)~(10)のいずれか1つに記載のウィービング制御方法。
この構成によれば、ウィービング条件及び溶接条件の設定により、良好な溶接を行うことができる。
【0086】
(12) 溶接装置を制御する溶接制御装置であって、
前記溶接制御装置は、
少なくとも施工情報、溶接条件情報及びウィービング情報を含む情報群を溶接情報とする場合に、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される標準項目ごとに、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御基準項目と、前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御項目とが対応付けて格納されるとともに、
前記制御項目は、前記ウィービング情報のうちウィービング基準軌跡の1周期中におけるあらかじめ定めた少なくとも1点の方向及び距離を変更するためのオフセット量を少なくとも含むように構築されたデータベースを備え、
前記標準項目、前記制御基準項目及び前記制御項目は、互いに前記溶接情報中の前記項目が異なるものであり、
入力される前記制御基準項目の計測値に基づいて、前記データベースから少なくとも前記オフセット量を抽出する機能を有する、
ことを特徴とする溶接制御装置。
この構成によれば、可搬型溶接ロボット、台車等の駆動部を有する簡易的な溶接装置を用いる場合であっても、任意のウィービングパターンで溶接することができ、立向き姿勢や横向き姿勢のような難姿勢における溶接といった様々な施工状況に適用することができる。
【0087】
(13) 溶接装置を制御する溶接制御装置を有する溶接システムであって、
前記溶接制御装置は、
少なくとも施工情報、溶接条件情報及びウィービング情報を含む情報群を溶接情報とする場合に、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される標準項目ごとに、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御基準項目と、前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御項目とが対応付けて格納されるとともに、
前記制御項目は、前記ウィービング情報のうちウィービング基準軌跡の1周期中におけるあらかじめ定めた少なくとも1点の方向及び距離を変更するためのオフセット量を少なくとも含むように構築されたデータベースを備え、
前記標準項目、前記制御基準項目及び前記制御項目は、互いに前記溶接情報中の前記項目が異なるものであり、
入力される前記制御基準項目の計測値に基づいて、前記データベースから少なくとも前記オフセット量を抽出する機能を有する、
ことを特徴とする溶接システム。
この構成によれば、可搬型溶接ロボット、台車等の駆動部を有する簡易的な溶接装置を用いる場合であっても、任意のウィービングパターンで溶接することができ、立向き姿勢や横向き姿勢のような難姿勢における溶接といった様々な施工状況に適用することができる。
【0088】
(14) 溶接装置を制御する溶接制御装置によりウィービング制御を行うためのウィービング制御プログラムであって、
前記溶接制御装置は、
少なくとも施工情報、溶接条件情報及びウィービング情報を含む情報群を溶接情報とする場合に、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される標準項目ごとに、
前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御基準項目と、前記溶接情報のうち少なくとも1つの項目から選択される制御項目とが対応付けて格納されるとともに、
前記制御項目は、前記ウィービング情報のうちウィービング基準軌跡の1周期中におけるあらかじめ定めた少なくとも1点の方向及び距離を変更するためのオフセット量を少なくとも含むように構築されたデータベースを備え、
前記標準項目、前記制御基準項目及び前記制御項目は、互いに前記溶接情報中の前記項目が異なるものであり、
入力される前記制御基準項目の計測値に基づいて、前記データベースから少なくとも前記オフセット量を抽出する機能を実行させる、
ことを特徴とするウィービング制御プログラム。
この構成によれば、可搬型溶接ロボット、台車等の駆動部を有する簡易的な溶接装置を用いる場合であっても、任意のウィービングパターンで溶接することができ、立向き姿勢や横向き姿勢のような難姿勢における溶接といった様々な施工状況に適用することができる。
【符号の説明】
【0089】
50 溶接システム
100 可搬型溶接ロボット
600 溶接制御装置
A1,A2,A3,A4,A5 ウィービング端
A6,A7 ウィービング中間位置
a ウィービング振幅
CL 溶接中心線
p ピッチ
WBL ウィービング基準位置
x オフセット量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B