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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】冷却システム及び航空機
(51)【国際特許分類】
   B64D 33/10 20060101AFI20241112BHJP
   B64C 27/26 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B64D33/10
B64C27/26
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021208272
(22)【出願日】2021-12-22
(65)【公開番号】P2023092951
(43)【公開日】2023-07-04
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福地 有一
(72)【発明者】
【氏名】市川 小月
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0105268(US,A1)
【文献】国際公開第2021/222528(WO,A1)
【文献】特開2020-131781(JP,A)
【文献】特開平11-324672(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0267341(US,A1)
【文献】特開2020-114087(JP,A)
【文献】特開2013-060065(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106428580(CN,A)
【文献】独国特許出願公開第102016125656(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 11/02
B60K 11/06
B64C 27/00-29/04
B64D 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴体と、
前記胴体から側方に延設されて、巡航時に揚力を発生する翼体と、
前記翼体により前記胴体から離間して支持された前後方向に延びるブームと、
前記ブーム上に支持されて、離着陸時に鉛直方向の推力を発生する1以上のブレードを有する少なくとも1つのロータと、
前記ブーム内で、前記ブームに設けられたインレット及びアウトレットの間に一方の排気面と他方の吸気面を対向して格納された2つのラジエータを有し、該2つのラジエータのうちの前記インレット側に位置する第1ラジエータ及び前記アウトレット側に位置する第2ラジエータを用いて前記少なくとも1つのロータが有する要素のうちの管理温度の低い要素及び管理温度の高い要素をそれぞれ冷却する冷却システムと、
を備える航空機。
【請求項2】
胴体と、
前記胴体から側方に延設されて、巡航時に揚力を発生する翼体と、
前記翼体により前記胴体から離間して支持された前後方向に延びるブームと、
前記ブーム上に支持されて、離着陸時に鉛直方向の推力を発生する1以上のブレードを有する少なくとも1つのロータと、
前記ブーム内で、前記ブームに設けられたインレット及びアウトレットの間に格納された2つのラジエータを有し、該2つのラジエータのうちの前記インレット側に位置する第1ラジエータ及び前記アウトレット側に位置する第2ラジエータを用いて前記少なくとも1つのロータが有する要素のうちの管理温度の低い要素及び管理温度の高い要素をそれぞれ冷却する冷却システムと、を備え、
さらに、前記第1ラジエータから排出される空気流の少なくとも一部が前記第2ラジエータに吸入されるように前記第1ラジエータ及び前記第2ラジエータが配置される、航空機。
【請求項3】
前記少なくとも1つのロータは、前記ブーム内に格納されて前記1以上のブレードを回転する回転装置及び該回転装置を制御する制御装置を有し、
前記管理温度の低い要素及び高い要素は、それぞれ、前記回転装置及び前記制御装置である、請求項1又は2に記載の航空機。
【請求項4】
前記少なくとも1つのロータは、2つのロータを含み、
前記冷却システムは、前記第1ラジエータを用いて前記2つのロータのそれぞれの前記回転装置を冷却し、前記第2ラジエータを用いて前記2つのロータのそれぞれの制御装置を冷却する、請求項3に記載の航空機。
【請求項5】
前記冷却システムは、前記第1ラジエータ、前記回転装置、及び該回転装置に冷却液を供給する第1ポンプを接続する第1流路と、前記第2ラジエータ、前記制御装置、及び該制御装置に冷却液を供給する第2ポンプを接続する第2流路と、前記第1流路内の前記回転装置と前記第2流路内の前記制御装置とを並列に接続する第3流路と、前記第3流路を前記第1流路及び前記第2流路に対して開閉するバルブと、を有する、請求項3又は4に記載の航空機。
【請求項6】
前記第1ラジエータ、前記第1ポンプ、前記第2ラジエータ、及び前記第2ポンプのうちの少なくとも1つの異常を検知し、該検知結果に基づいて前記バルブを開閉する制御部をさらに備える、請求項5に記載の航空機。
【請求項7】
前記2つのラジエータは、前記少なくとも1つのロータの回転軸に平行な方向に関して重なって配置される、請求項1から6のいずれか一項に記載の航空機。
【請求項8】
前記冷却システムは、前記2つのラジエータに空気流を送る共通のファンをさらに有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の航空機。
【請求項9】
前記インレットは、前記ブームの表面上で前記少なくとも1つのロータの回転面の下方の領域に設けられる、請求項1から8のいずれか一項に記載の航空機。
【請求項10】
胴体と、
前記胴体から側方に延設されて、巡航時に揚力を発生する翼体と、
前記翼体により前記胴体から離間して支持された前後方向に延びるブームと、
前記ブーム上に支持されて、離着陸時に鉛直方向の推力を発生する1以上のブレードを有する少なくとも1つのロータと、
前記ブーム内で、前記ブームに設けられたインレット及びアウトレットの間に格納された2つのラジエータを有し、該2つのラジエータのうちの前記インレット側に位置する第1ラジエータ及び前記アウトレット側に位置する第2ラジエータを用いて前記少なくとも1つのロータが有する要素のうちの管理温度の低い要素及び管理温度の高い要素をそれぞれ冷却する冷却システムと、を備え、
前記少なくとも1つのロータは、前記ブーム内に格納されて前記1以上のブレードを回転する回転装置及び該回転装置を制御する制御装置を有し、前記管理温度の低い要素及び高い要素は、それぞれ、前記回転装置及び前記制御装置であり、
前記冷却システムは、前記第1ラジエータ、前記回転装置、及び該回転装置に冷却液を供給する第1ポンプを接続する第1流路と、前記第2ラジエータ、前記制御装置、及び該制御装置に冷却液を供給する第2ポンプを接続する第2流路と、前記第1流路内の前記回転装置と前記第2流路内の前記制御装置とを並列に接続する第3流路と、前記第3流路を前記第1流路及び前記第2流路に対して開閉するバルブと、を有する、航空機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却システム及び航空機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、胴体の左右に配置される離着陸用(VTOL)ロータにより鉛直方向に昇降することで離着陸し、胴体の後部に配置される巡航用ロータにより水平方向に飛行する垂直離着陸型航空機(垂直離着陸機又は単に航空機とも呼ぶ)が知られている。斯かる航空機では、VTOLロータにより生成される空気流(ダウンウォッシュ)を利用してVTOLロータのコントローラのような電気要素を冷却する。例えば特許文献1には、翼体の上面に設けられたインレットを介して空気流を翼体内の熱交換器に導引して熱交換させ、その熱交換器を用いてVTOLロータの電気要素を冷却する冷却システムが開示されている。ここで、効率良くVTOLロータの電気要素を冷却することが要求される。
特許文献1 独国特許発明第102016125656号明細書
【発明の概要】
【0003】
本発明の一態様においては、胴体と、胴体から側方に延設されて、巡航時に揚力を発生する翼体と、翼体により胴体から離間して支持された前後方向に延びるブームと、ブーム上に支持されて、離着陸時に鉛直方向の推力を発生する1以上のブレードを有する少なくとも1つのロータと、ブーム内で、ブームに設けられたインレット及びアウトレットの間に格納された2つのラジエータを有し、2つのラジエータのうちのインレット側に位置する第1ラジエータ及びアウトレット側に位置する第2ラジエータを用いて少なくとも1つのロータが有する要素のうちの管理温度の低い要素及び管理温度の高い要素をそれぞれ冷却する冷却システムと、を備える航空機が提供される。
【0004】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】本実施形態に係る航空機の構成を上面視において示す。
図2A】ブームの内部構成を示す。
図2B】ラジエータの構成を正面視において示す。
図2C】ラジエータの構成を側面視において示す。
図2D】冷却システムにより構成される冷却回路の一例を示す。
図3図2Aにおける基準線CCに関する空気流導引構造の断面構造を示す。
図4A】空気流導引構造の上側の構成及びインレットの配置を示す。
図4B】空気流導引構造の下側の構成及びアウトレットの配置を示す。
図5A】冷却システムにより構成される冷却回路の別の例を示す。
図5B】冷却システムの制御系の構成を示す。
図6A図5Aの冷却回路の動作の一例(上昇時の動作)を示す。
図6B図5Aの冷却回路の動作の一例(上昇時において異常が発生した際の動作)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0007】
図1に、本実施形態に係る航空機100の構成を上面視において示す。航空機100は、電動モータを駆動源として有するロータを備え、離着陸用(VTOL)ロータを用いて推力を発生して鉛直方向に離着陸するとともに巡航用ロータ(クルーズロータとも呼ぶ)を用いて推力を発生して水平方向に飛行する垂直離着陸機であり、バッテリ及びモータジェネレータのそれぞれから供給される電力で電動モータを動作させるとともにモータジェネレータによりバッテリを充電することができるハイブリッド機でもある。本実施形態に係る航空機100は、特にVTOLロータが発生する空気流(すなわち、ダウンウォッシュ)を利用して、VTOLロータを構成するモータと制御機器とを効率良く冷却することができる冷却システムを有するものであり、胴体12、前翼14、後翼16、2つのブーム18、8つのVTOLロータ20、2つの巡航用ロータ29、冷却システム60、及び空気流導引構造70を備える。
【0008】
胴体12は、乗員、乗客が搭乗し、貨物等を搭載するためのスペースを提供するとともに、バッテリ、モータジェネレータ(いずれも不図示)等の装置を格納する構造体である。胴体12は、中心軸Lに対して左右対称であり、中心軸Lに平行な前後方向に延び且つ水平面内で中心軸Lに直交する左右方向に細い形状を有する。ここで、中心軸Lに平行な方向を前後方向、図面左方及び図面右方をそれぞれ前方(F)及び後方(B)、水平面内で中心軸Lに直交する方向を幅方向(又は左右方向)、図面上方及び図面下方をそれぞれ右方(R)及び左方(L)とする。また、鉛直方向は、これらの前後方向及び幅方向のそれぞれに直交し、鉛直方向上向き及び下向きをそれぞれ上方(U)及び下方(L)とも呼ぶ。胴体12は、上面視において丸く湾曲した前端、胴部に対して幾らか細く絞られた幅方向に平行な後端を有する。
【0009】
前翼14は、胴体12から側方に延設されて、巡航時に、すなわち前方へ移動することにより揚力を発生する翼体であり、航空機100の先尾翼として機能する。前翼14は、中心部から2つの翼体をそれぞれ左前方及び右前方に延ばしたV字形状を有し、V字形状の開きを前方に向けて中心部にて胴体12の胴部前側の上部に固定される。前翼14は、2つの翼体のそれぞれの複線に配置されるエレベータ14aを含む。
【0010】
後翼16は、胴体12から側方に延設されて、巡航時に、すなわち前方へ移動することにより揚力を発生する翼体であり、空気抵抗を小さくする後退翼として機能する。後翼16は、中心部から2つの翼体をそれぞれ左後方及び右後方に延ばしたV字形状を有し、V字形状の開きを後方に向けて中心部にて胴体12の後端の上部にパイロン32を介して固定される。後翼16は、2つの翼体のそれぞれの複線に配置されるエレボン16a、翼端に配置される垂直尾翼16bを含む。
【0011】
ここで、後翼16の翼面積は前翼14よりも大きく、後翼16の翼幅は前翼よりも長い。それにより、前方へ移動することにより後翼16が発生する揚力は前翼14が発生する揚力よりも大きく、後翼16は、航空機100の主翼として機能する。なお、前翼14及び後翼16の翼面積、長さ等は、それぞれが発生する揚力のバランス、重心位置、巡航時の機体の姿勢等に基づいて定めてよい。
【0012】
2つのブーム18は、前翼14及び後翼16により胴体12からそれぞれ左右に離間して支持される構造体であり、後述するVTOLロータ20及び冷却システム60の構成各部を支持又は格納する機能を果たす。2つのブーム18は、上面視において前後方向に延びる筒形状を有し且つ正面視において上側が丸く湾曲し、下側が先細る翼型の断面形状を有し、対をなして胴体12(すなわち、中心軸L)に対して左右対称に配置される。なお、2つのブーム18は、前後方向に延び且つ幅方向に弧状に湾曲するように形成されてもよい。2つのブーム18は、前側端部を前翼14より前方に位置して、前側胴部(前側の2つのVTOLロータ20a,20bの間)にて前翼14の先端に支持されるとともに後側端部を後翼16より後方に位置して、後側胴部(後側の2つのVTOLロータ20c,20dの間)にて後翼16に支持される。
【0013】
図2Aに、ブーム18の内部構成を示す。ブーム18は、スキン18a、リブ18b、スパー18cを含む。スキン18aは、ブーム18の表面を構成する部材であり、翼型の断面形状を有して前後方向に延びる筒状に成形されている。スキン18aは、VTOLロータ20が配置される箇所において上方に高く盛り上がるとともに左右方向に拡がって空間18dを形成し、冷却システム60が配置される箇所において幾らか上方に高く盛り上がるとともに左右方向に拡がって空間18eを形成する。リブ18bは、翼型の板状部材であり、前後方向の複数個所に配置されてスキン18aを内側から保持する。なお、リブ18bによりブーム18内の空間18d,18eが区画される。スパー18cは、前後方向に延びる棒状部材であり、リブ18b、その他の部材を支持する骨格を構成する。
【0014】
8つのVTOLロータ20(20a~20d)は、2つのブーム18に支持されて、離着陸時に鉛直方向の推力を発生するロータである。8つのVTOLロータ20のうちの4つのVTOLロータ20a~20dが左側のブーム18に略等間隔に支持され、残りの4つのVTOLロータ20a~20dが右側のブーム18に略等間隔に支持される。ここで、VTOLロータ20aが最前に、2つのVTOLロータ20b,20cが前翼14及び後翼16の間でそれぞれ前後に、VTOLロータ20dが最後に配置される。左側のVTOLロータ20a~20d及び右側の4つのVTOLロータ20a~20dのうち、前後方向に関する位置が等しい各2つの左右のVTOLロータ20a~20dは対をなし、互いに逆方向に回転するよう制御される。特に断らない限り、8つのVTOLロータ20a~20dのそれぞれを単にVTOLロータ20と称する。
【0015】
VTOLロータ20は、1以上のブレード23、モータ21、及びインバータ22を有する。なお、モータ21及びインバータ22を電気要素とも呼ぶ。
【0016】
1以上のブレード23は、図2Aに示すようにブーム18上に支持されて、回転することで鉛直方向に推力を発生する羽根状部材である。本実施形態では、ブレード23の数は2つとするが、1又は3以上の任意の数でよい。1以上のブレード23は、前翼14及び後翼16より高い位置に支持される。なお、図1において、各VTOLロータ20の1以上のブレード23の回転面を、2点鎖線を用いて示している。
【0017】
モータ(回転装置の一例)21は、上下方向に向けられた回転軸21aを有し、これを介して先端に固定されたブレード23を回転する電動モータであり、支持部材を介してスパー18cに支持されて、ブーム18の空間18dに収容される。
【0018】
インバータ(制御装置の一例)22は、バッテリから直流電力供給を受け、交流電力に変換してモータ21に供給する装置であり、スパー18cによりモータ21の下方に支持される。インバータ22は、モータ21の回転速度を制御することができる。
【0019】
2つの巡航用ロータ29は、胴体12の後端に支持されて、巡航時に推力を発生するロータである。巡航用ロータ29は、胴体12の後端に固定された円筒形のダクト54内で中心軸Lに対して左右に並んで配置され、ダクト54内に支持されて、回転することで前方に推力を発生する1以上のブレード、前後方向に向けられた回転軸を有し、これを介して先端に固定された1以上のブレードを回転するモータ、及びバッテリから直流電力供給を受け、交流電力に変換してモータに供給するインバータ(いずれも不図示)を有する。インバータは、モータの回転速度を制御することができる。
【0020】
冷却システム60は、ブーム18内に配置されたラジエータ61を用いてVTOLロータ20を構成するモータ21及びインバータ22を液冷方式で冷却するシステムである。本実施形態では、1つのVTOLロータ20に対して1つの冷却システム60、全8つの冷却システム60を設けることとするが、これに限らず、複数(例えば2つ)のVTOLロータ20に対して1つの冷却システム60を設けることとしてもよい。冷却システム60は、ラジエータ61、2つのポンプ62L,62H、冷却液タンク63、及び配管64L,64H,65L,65Hを含む。なお、冷却液として水を使用することができる。
【0021】
図2B及び図2Cに、それぞれ正面視及び側面視において、ラジエータ61の構成を示す。ラジエータ61は、モータ21及びインバータ22を冷却するための冷却液を冷却する熱交換器であり、2つのラジエータ61L,61H及び2つのファン61eを含む。なお、これらは、支持部材61fを用いて2つのリブ18bの間に支持されるとともに、後述する空気流導引構造70によりブーム18内に格納される。ラジエータ61のブーム18内の配置については後述する。
【0022】
2つのラジエータ61L,61Hは、それぞれ、冷却液を上下に流す複数のチューブ61a,61a、複数のチューブ61a,61aのそれぞれに固定されて空気流が接触する表面積を増大する複数のフィン61b,61b、複数のチューブ61a,61aに冷却液を送る上側タンク61c,61c、複数のチューブ61a,61aから冷却液を受ける下側タンク61d,61dを有する。
【0023】
ラジエータ61Lは、複数のチューブ61aを横方向に配列し、複数のフィン61bとともに正面視矩形状に組み立て、その上側に上側タンク61c、下側に下側タンク61dを固定することで構成される。ラジエータ61Lは、後述するように、ブーム18内でインレット70a側に配置され、VTOLロータ20が有する電気要素のうち、管理温度の低い要素、例えばモータ21に接続される。後述するポンプ62Lが作動することにより、モータ21を巡回して加熱された冷却液が配管64Lを介して上側タンクに61cに送り込まれ、複数のチューブ61aのそれぞれを下方に流れて冷却されて下側タンク61dに送られ、配管65Lを介してモータ21に送られる。
【0024】
同様に、ラジエータ61Hは、複数のチューブ61aを横方向に配列し、複数のフィン61bとともに正面視矩形状に組み立て、その上側に上側タンク61c、下側に下側タンク61dを固定することで構成される。ラジエータ61Hは、後述するように、ブーム18内でアウトレット70b側に配置され、VTOLロータ20が有する電気要素のうち、管理温度の高い要素、例えばインバータ22に接続される。後述するポンプ62Hが作動することにより、インバータ22を巡回して加熱された冷却液が配管64Hを介して上側タンクに61cに送り込まれ、複数のチューブ61aのそれぞれを下方に流れて冷却されて下側タンク61dに送られ、配管65Hを介してインバータ22に送られる。
【0025】
なお、管理温度とは、VTOLロータ20の電気要素が連続動作可能な温度範囲又はその限界温度であり、例えば電気要素の通常動作時の上限温度であってよい。
【0026】
2つのファン61eは、2つのラジエータ61L,61Hの複数のフィン61b,61bに空気流を送る共通のファンである。2つのファン61eを作動して、インレット70aから取り込まれる空気流をラジエータ61の一側(図2Cにおける右側)から送り込んで順にラジエータ61L,61Hの複数のフィン61b,61bに接触させ、それにより空気流とラジエータ61L,61Hとの間で熱交換させる。加熱された空気流はラジエータ本体の他側(図2Cにおける左側)から抜け出て排気される。
【0027】
2つのポンプ62L,62Hは、それぞれ、配管65L,65Hを介してラジエータ61L,61Hに接続され、それから冷却された冷却液を受けてモータ21及びインバータ22に送り込む。これに伴い、モータ21及びインバータ22を通って加熱された冷却液はそれぞれ配管64L,64Hを介してラジエータ61L,61Hに送り込まれる。
【0028】
冷却液タンク63は、冷却液を蓄える容器である。例えば冷却液が不足した場合に、冷却液タンク63から冷却液が冷却回路に送られて冷却液が補充される。
【0029】
配管64L,64H,65L,65Hは、冷却液を輸送するための部材であり、ラジエータ61L,61H及びポンプ62L,62Hをモータ21及びインバータ22に接続して、冷却液が巡回する冷却回路を構成する。
【0030】
図2Dに、冷却システム60により構成される冷却回路の一例を示す。本実施形態では、2つのラジエータ61L,61Hにより1つのVTOLロータ20のモータ21及びインバータ22をそれぞれ冷却する並列式の冷却回路が構成される。2つの配管64L,64Hにより、ラジエータ61L,61Hの上側タンク61c,61cがそれぞれモータ21及びインバータ22に接続される。また、2つの配管65L,65Hにより、ラジエータ61L,61Hの下側タンク61d,61dがそれぞれポンプ62L,62Hを介してモータ21及びインバータ22に接続される。冷却液タンク63は2つの配管65L,65Hに接続される。ここで、ラジエータ61L,61Hは、ラジエータ61Lの排気面とラジエータ61Hの吸気面を対向して重なり合って、それぞれインレット70a側及びアウトレット70b側に配置される。
【0031】
ポンプ62Lを作動すると、モータ21において加熱された冷却液が配管64Lを介してラジエータ61Lに送られ、ラジエータ61Lで冷却された冷却液が配管65Lを介してモータ21に送られる。一方、ポンプ62Hを作動すると、インバータ22において加熱された冷却液が配管64Hを介してラジエータ61Hに送られ、ラジエータ61Hで冷却された冷却液が配管65Hを介してインバータ22に送られる。
【0032】
ここで、2つのファン61eを作動すると、インレット70aから取り込まれる空気流が、先にインレット70a側に位置するラジエータ61Lに接触して熱交換することで加熱され、次いでアウトレット70b側に位置するラジエータ61Hに接触して熱交換することでさらに加熱され、そしてアウトレット70bから排気される。このとき、先に空気流に接触して冷却されることで相対的に作動温度が低くなるラジエータ61Lが管理温度の低い電気要素を冷却し、後に空気流に接触して冷却されることで相対的に作動温度が高くなるラジエータ61Hが管理温度の高い電気要素を冷却することで、VTOLロータ20の電気要素、すなわちモータ21及びインバータ22を効率良く冷却することができる。
【0033】
なお、冷却システム60と同様に構成される冷却システムを、巡航用ロータ29の電気コンポーネントを冷却するために設けてもよい。
【0034】
図3に、図2Aにおける基準線CCに関する空気流導引構造70の断面構造を示す。なお、空気流導引構造70の幅方向に関する中心軸を中心軸L70とする。中心軸L70は、VTOLロータ20の回転軸21aと平行であり、幅方向に関して同じ位置で前後方向に回転軸21aと重畳する。空気流導引構造70は、ブーム18の一部に設けられて、1以上のブレード23の回転により生ずる空気流をブーム18内のラジエータ61に導引する構造であり、上側構造体71及び下側構造体72を有する。
【0035】
上側構造体71は、ブーム18の胴部に挿入されて上辺及び右側辺を形成する略逆L字状の断面を有する部材である。上側構造体71は、中実に成形してよく、上辺の先端は左斜め上方に傾斜し、上辺の下面に斜め下向きの前後方向に延びる凹部71bが形成され、右側辺の内面(すなわち左面)は、前後方向に直交する面上において凹部71bから右方に膨らみ、幾らか左方に戻りつつ下方に延びる流線形状に成形されている。上側構造体71の上辺は、上側構造体71及び下側構造体72の間に形成されるインレット70aの上側に架設される梁体71aとして機能する。それにより、空気流導引構造70を含むブーム18に加わる曲げ応力に抗することができる。
【0036】
下側構造体72は、ブーム18の胴部に挿入されて下辺及び左側辺を形成する略L字状の断面を有する部材である。下側構造体72は、中実に成形してよく、下辺の上面に斜め上向きの前後方向に延びる凹部72bが形成され、下辺の右先端は下方を向き、左側辺の上端は左斜め上方に傾斜し、左側辺の内面(すなわち右面)は、前後方向に直交する面上において上端から右方に幾らか膨らみ、そして幾らか左方に戻りつつ下方に延びる流線形状に成形されている。下側構造体72の下辺は、上側構造体71及び下側構造体72の間に形成されるアウトレット70bの下側に架設される梁体72aとして機能する。それにより、空気流導引構造70を含むブーム18に加わる曲げ応力に抗することができる。
【0037】
上述の構成の上側構造体71及び下側構造体72を用いて空気流導引構造70を組み立てることで、上側に空気流を取り込むためのインレット70a及び下側に空気流を吐き出すためのアウトレット70bがブーム18内に形成される。まず、2つのラジエータ61L,61H及びファン61eを重ね、次いで、上側構造体71をスパー18cに固定し、上側構造体71の凹部71bに2つのラジエータ61L,61Hの上側タンク61c,61cを嵌入し且つ上側タンク61c,61cに設けられたブラケットをスパー18cに固定し、次いで、下側構造体72をスパー18cに固定し、そして、下側構造体72の凹部72bにラジエータ61L,61Hの下側タンク61d,61dを嵌入し且つ下側タンク61d,61dに設けられたブラケットをスパー18cに固定することで、空気流導引構造70がブーム18の胴部に一体的に組み立てられる。このとき、2つのラジエータ61L,61H及びファン61eは支持部材61fを用いてブーム18内の2つのリブ18bの間に支持される。
【0038】
それにより、上側構造体71の上辺及び下側構造体72の左側辺の間にインレット70aがラジエータ61L,61Hの一面(吸引面)側に位置して形成され、上側構造体71の右側辺及び下側構造体72の下辺の間にアウトレット70bがラジエータ61L,61Hの他面(排気面)側に位置して形成される。それとともに、ラジエータ61L,61Hは、ブーム18内でインレット70aとアウトレット70bとの間でそれぞれインレット70a側及びアウトレット70b側に配置され、VTOLロータ20の回転軸21a(すなわち、中心軸L70)に平行な方向に関して重なるとともに、中心軸L70に対して吸引面をインレット70a側に向け、排気面をアウトレット70b側に向けて傾設されることとなる。さらに、2つのファン61eがラジエータ61Hの排気面側に配置される。なお、2つのファン61eはラジエータ61Lの吸気面側に配置されてもよい。それにより、インレット70aから取り込まれる空気流が2つのラジエータ61L,61Hに順に接触することとなる。
【0039】
図4Aに、ブーム18に設けられた空気流導引構造70の上側の構成を示す。空気流導引構造70は、一例として、右側のVTOLロータ20bを冷却するラジエータ61を含む構造であり、2つのVTOLロータ20a,20bの回転軸21aの間(すなわち、VTOLロータ20bの前側)のブーム胴部に設けられる。空気流導引構造70により、インレット70aは、ブーム18の表面上で2つのVTOLロータ20a,20bの回転軸21aの間に設けられ、2つのVTOLロータ20a,20bのうちの一方、本例では特にVTOLロータ20bの1以上のブレード23の回転面の下方に位置するブーム18の表面のうち、正面視においてVTOLロータ20bの回転軸21a(中心軸L70)に対して1以上のブレード23の回転方向(本例では右方)に向かう側、すなわち回転方向に対する逆側(本例では左側)に設けられている。
【0040】
ここで、VTOLロータ20のブレード23は、推力を発生するために回転面に対してピッチ角を有する(図2A参照)。そのため、ブレード23が例えば図4Aに示すように時計回りに回転すると、下方に対してブレード23の回転移動方向に傾いた方向、すなわち右斜め下方(図3の白抜き矢印の方向)に空気流が発生する。そこで、空気流導引構造70において、インレット70aが、正面視においてVTOLロータ20bの回転軸21a(中心軸L70)に対して左側に設けられることで、2つのVTOLロータ20a,20bが起動した際に少なくとも一方のロータ、本例では特にVTOLロータ20bの1以上のブレード23の回転により生じる空気流をインレット70aを介して効率良くブーム18内のラジエータ61に導くことができる。
【0041】
また、図3に示すように、空気流導引構造70の上側構造体71の上辺の先端は左斜め上方に傾斜し、下側構造体72の左側辺の上端は左斜め上方に傾斜しているため、空気流導引構造70において上側構造体71の上辺の先端と下側構造体72の左側辺の上端とが対向することで、インレット70aは、中心軸L70に対してVTOLロータ20bのブレード23の回転方向(図3では右方)に対向して左斜め上向きに傾設される。それにより、VTOLロータ20bの1以上のブレード23の回転により生じる空気流をインレット70aを介して効率良くブーム18内のラジエータ61に導くことができる。
【0042】
なお、VTOLロータ20bに対する空気流導引構造70は、2つのVTOLロータ20a,20bの回転軸21aの間のブーム胴部に代えて又はこれとともにさらに、2つのVTOLロータ20b,20cの回転軸21aの間(すなわち、VTOLロータ20bの後側)のブーム胴部に設けられもよい。斯かる場合、2つのVTOLロータ20b,20cのうちの一方、本例では特にVTOLロータ20bの1以上のブレード23の回転面の下方に位置するブーム18の表面のうち、正面視においてVTOLロータ20bの回転軸21a(中心軸L70)に対して1以上のブレード23の回転方向(本例では左方)に向かう側、すなわち回転方向に対する逆側(本例では右側)に設けられる。また、インレット70aは、中心軸L70に対してVTOLロータ20bのブレード23の回転方向(本例では左方)に向かって右斜め上向きに傾設される。それにより、VTOLロータ20bの1以上のブレード23の回転により生じる空気流をインレット70aを介して効率良くブーム18内のラジエータ61に導くことができる。
【0043】
図4Bに、先述の空気流導引構造70の下側の構成を示す。空気流導引構造70により、アウトレット70bが、ブーム18の下側でインレット70aに対向する位置に設けられる。それにより、上側のインレット70aを介して導入された空気流がブーム18内部を通って下側のアウトレット70bから下方に排出されることで、空気流を効率良くブーム18内部に通すことができる。
【0044】
アウトレット70bは、ブーム18の下部のうち、正面視において、本例ではVTOLロータ20bの回転軸21a(中心軸L70)に対して1以上のブレード23の回転方向(本例では右方)を追う側、すなわち回転方向に対応する側(本例では右側)に設けられている。つまり、アウトレットは、ブーム18の下部のうち、VTOLロータ20bの回転軸21a(中心軸L70)に対してインレット70aの逆側に位置する。それにより、インレット70aを介して導入される空気流のブーム18内の流路が長くなり長距離に亘ってラジエータ61に接触してアウトレット70bから導出されることで、効率良くラジエータ61を冷却することができる。
【0045】
また、図3に示すように、空気流導引構造70の下側構造体72の下辺の右先端は下方を向き、上側構造体71の右側辺の左内面は下方に向かって流線形状に成形されているため、空気流導引構造70において下側構造体72の下辺の右先端と上側構造体71の右側辺の下端とが対向することで、アウトレット70bは、左斜め上向きに傾設されるインレット70aに対してより下方を向く。それにより、インレット70aを介して右斜め下方に向かってブーム18内部に導入される空気流がアウトレット70bを介してより下方を向いて導出されることで、ブーム18(すなわち、航空機100の機体)に加わる鉛直方向の推力を増大することができる。また、このような空気流導引構造70の構造により、ファン61eの出力をブーム18(すなわち、機体)に加わる鉛直方向の推力として利用することもできる。
【0046】
空気流導引構造70(すなわち、ラジエータ61)は、ブーム18内で前後方向に関する任意の位置に設置することができる。例えば、VTOLロータ20a,20bの回転軸21aの間で、VTOLロータ20aの後側にこれを冷却するためのラジエータ61を含む空気流導引構造70、VTOLロータ20bの前側にこれを冷却するためのラジエータ61を含む空気流導引構造70をそれぞれ設けることができる。また、VTOLロータ20b,20cの回転軸21aの間で、VTOLロータ20bの後側にこれを冷却するためのラジエータ61を含む空気流導引構造70、VTOLロータ20cの前側にこれを冷却するためのラジエータ61を含む空気流導引構造70をそれぞれ設けることができる。また、VTOLロータ20c,20dの回転軸21aの間で、VTOLロータ20cの後側にこれを冷却するためのラジエータ61を含む空気流導引構造70、VTOLロータ20dの前側にこれを冷却するためのラジエータ61を含む空気流導引構造70をそれぞれ設けることができる。なお、VTOLロータ20bの前側及び後側の一方のみにこれを冷却するためのラジエータ61を設置してもよい。VTOLロータ20cの前側及び後側の一方のみにこれを冷却するためのラジエータ61を設置してもよい。
【0047】
或いは、VTOLロータ20a,20bの回転軸21aの間の設置位置にこれらを冷却するためのラジエータ61を含む1つの空気流導引構造70、VTOLロータ20b,20cの回転軸21aの間の設置位置にこれらを冷却するためのラジエータ61を含む1つの空気流導引構造70、VTOLロータ20c,20dの回転軸21aの間の設置位置にこれらを冷却するためのラジエータ61を含む1つの空気流導引構造70を設けることができる。これらの設置位置は、隣接する2つのVTOLロータ20を同時に冷却する並列式の冷却回路を構成する場合に2つのラジエータを含む空気流導引構造70を設置する場所として好適である。
【0048】
なお、空気流導引構造70の設置位置は、少なくとも部分的にブーム18が前翼14に接続される箇所にあってよく、それにより空気流導引構造70を前翼14のフレーム等を利用してより安定にブーム18に固定することができる。また、空気流導引構造70の設置位置は、前翼14及び後翼16の間に支持されるブーム18の胴部にあってよく、それにより空気流導引構造70をより安定にブーム18に固定することができる。また、空気流導引構造70の設置位置は、少なくとも部分的にブーム18が後翼16に接続される箇所にあってよく、それにより空気流導引構造70を後翼16のフレーム等を利用してより安定にブーム18に固定することができる。
【0049】
また、空気流導引構造70(すなわち、ラジエータ61)は、回転方向が逆であり、それぞれの回転軸21aの間でブレード23が同方向に回転移動する2つの隣接するVTOLロータ20の回転軸21aの間に設置してもよい。それにより、2つの隣接するVTOLロータ20の少なくとも一方が起動した際にその一方のロータ、好ましくは両方のロータの1以上のブレード23の回転により生じる空気流を効率良く空気流導引構造70のインレット70aを介してブーム18内のラジエータ61に導くことができる。
【0050】
図5Aに、冷却システム60により構成される冷却回路の別の例を示す。本例の冷却システム60は、2つのラジエータ61L,61Hを用いて複数のVTOLロータ20を冷却する、より具体的には、ラジエータ61Lを用いて2つのVTOLロータ20のそれぞれの管理温度の低い電気要素、例えばモータ21を並列に冷却し、ラジエータ61Hを用いて2つのVTOLロータ20のそれぞれの管理温度の高い電気要素、例えばインバータ22を並列に冷却する並列式の冷却回路を構成する。一例として、2つのVTOLロータ20a,20bの回転軸21aの間のブーム18内に配置されたラジエータ61(2つのラジエータ61L,61H)によりそれら2つのVTOLロータ20a,20bのモータ21及びインバータ22を冷却する冷却回路について説明する。ただし、冷却液タンク63は図示省略する。
【0051】
本例の冷却システム60は、ラジエータ61L、2つのVTOLロータ20a,20bのモータ21、2つのモータ21に冷却液を供給するポンプ62L、これらを接続する配管64L,65L(ラジエータ61Lに接続する配管により構成される流路を第1流路66Lとする)、ラジエータ61H、2つのVTOLロータ20a,20bのインバータ22、2つのインバータ22に冷却液を供給するポンプ62H、これらを接続する配管64H,65H(ラジエータ61Hに接続する配管により構成される流路を第2流路66Hとする)、第1流路66L内の2つのモータ21と第2流路66H内の2つのインバータ22とを並列に接続する2つの第3流路66P、2つの第3流路66Pを第1流路66L及び第2流路66Hに対して開閉する4つのバルブ67を含む。
【0052】
2つの配管64L,64Hにより、ラジエータ61L,61Hの上側タンク61c,61cがそれぞれVTOLロータ20a,20bのモータ21及びインバータ22に接続される。また、2つの配管65L,65Hにより、ラジエータ61L,61Hの下側タンク61d,61dがそれぞれポンプ62L,62Hを介してVTOLロータ20a,20bのモータ21及びインバータ22に接続される。それにより、VTOLロータ20a,20bの2つのモータ21はポンプ62Lを介して並列にラジエータ61Lに接続され、VTOLロータ20a,20bの2つのインバータ22はポンプ62Hを介して並列にラジエータ61Hに接続される。ここで、ラジエータ61L,61Hは、ラジエータ61Lの排気面とラジエータ61Hの吸気面とを対向して重なり合って、それぞれインレット70a側及びアウトレット70b側に配置される。
【0053】
さらに、第1流路66Lの配管64L及び第2流路66Hの配管64Hの間にバルブ67を介して第3流路66Pが接続され、第1流路66Lの配管65L及び第2流路66Hの配管65Hの間にバルブ67を介して第3流路66Pが接続される。それにより、バルブ67を開閉して第3流路66Pを介して、第1流路66L内のモータ21にインバータ22を並列に接続する又は第2流路66H内のインバータ22にモータ21を並列に接続することができ、ラジエータ61L及びポンプ62Lとラジエータ61H及びポンプ62Hとのうちの一方のラジエータ又はポンプが故障した場合に他方のラジエータ及びポンプによりモータ21及びインバータ22を冷却することができる。
【0054】
図5Bに、本例に係る冷却システム60の制御系の構成を示す。制御系は、2つのラジエータ61L,61Hのそれぞれに備えられたセンサ、2つのポンプ62L,62Hのそれぞれに備えられたセンサ、4つのバルブ67、及び制御部69を含む。
【0055】
4つのセンサは、例えばラジエータ61L,61H及びポンプ62L,62Hの停止を検知するセンサであってよい。また、それらを流れる冷却液の圧力、温度、流速等、冷却液の状態を検出することで異常を判定するセンサであってよい。なお、検出結果は制御部69に送信される。
【0056】
4つのバルブ67は、配管64L,64H,65L,65H、第3流路66Pの配管、及びモータ21又はインバータ22を切換え可能に接続する切換弁であり、例えば3方向切換弁を採用することができる。バルブ67は、制御部69に制御されて動作する。
【0057】
制御部69は、制御プログラムを起動することにより冷却システム60の制御機能を発現するコンピュータ装置である。制御部69は、2つのラジエータ61L,61H及び2つのポンプ62L,62Hのそれぞれに備えられたセンサから検出信号を受信し、異常が検知されない場合にはバルブ67を開閉して2つの第3流路66Pを閉じて第1流路66L及び第2流路66Hを切り離し、2つのラジエータ61L,61H及び2つのポンプ62L,62Hのいずれかの異常が検知された場合には4つのバルブ67を開閉して2つの第3流路66Pを開き且つ第2流路66Hを閉じて、第1流路66L内のモータ21にインバータ22を並列に接続する又は第1流路66Lを閉じて、第2流路66H内のインバータ22にモータ21を並列に接続する。
【0058】
図6Aに、本例の冷却システム60の冷却回路の動作の一例を示す。航空機100は8つのVTOLロータ20を稼働して上昇中であるとする。制御部69によりポンプ62Lが作動して、VTOLロータ20a,20bのモータ21において加熱された冷却液(例えば73.9℃)が配管64Lを介してラジエータ61Lに送られ、ラジエータ61Lで冷却された冷却液(例えば47.4℃)が配管65Lを介してVTOLロータ20a,20bのモータ21に例えば流速8リットル/分で送られる。同時に、制御部69によりポンプ62Hが作動して、VTOLロータ20a,20bのインバータ22において加熱された冷却液(例えば76.4℃)が配管64Hを介してラジエータ61Hに送られ、ラジエータ61Hで冷却された冷却液(例えば63.2℃)が配管65Hを介してVTOLロータ20a,20bのインバータ22に例えば流速10リットル/分で送られる。
【0059】
ここで、2つのファン61eが作動して、インレット70aから取り込まれる空気流(例えば37℃)が、先にインレット70a側に位置するラジエータ61Lに接触して熱交換することで(例えば55.3℃に)加熱され、次いでアウトレット70b側に位置するラジエータ61Hに接触して熱交換することでさらに加熱され、そしてアウトレット70bから排気される。このとき、先に空気流に接触して冷却されることで相対的に作動温度が低くなるラジエータ61Lが管理温度の低い電気要素、すなわちモータ21を冷却し、後に空気流に接触して冷却されることで相対的に作動温度が高くなるラジエータ61Hが管理温度の高い電気要素、すなわちインバータ22を冷却することで、VTOLロータ20の電気要素、すなわちモータ21及びインバータ22を効率良く冷却することができる。
【0060】
図6Bに、本例の冷却システム60の冷却回路の動作の別の例を示す。航空機100が8つのVTOLロータ20を稼働して上昇している間にラジエータ61Lが異常停止したとする。ラジエータ61Lの異常を検知すると、制御部69は、ポンプ62Lを停止するとともに、4つのバルブ67を開閉して2つの第3流路66Pを開き且つ第1流路66Lを閉じて、第2流路66H内のインバータ22にモータ21を並列に接続する。そして、制御部69によりポンプ62Hが作動して、VTOLロータ20a,20bのモータ21及びインバータ22において加熱された冷却液(例えば85.4℃)が配管64Hを介してラジエータ61Hに送られ、ラジエータ61Hで冷却された冷却液(例えば66.2℃)が配管65Hを介してVTOLロータ20a,20bのモータ21及びインバータ22に例えば流速8リットル/分及び10リットル/分でそれぞれ送られる。この場合、ラジエータ61Hを流れる冷却水の流量が増え、ラジエータ内部での熱伝達率が改善するため、ラジエータ61Lの異常が発生したとしてもモータ21及びインバータ22の温度上昇を最小限に抑えることができる。
【0061】
ここで、2つのファン61eが作動して、インレット70aから取り込まれる空気流(例えば37℃)が、停止しているインレット70a側のラジエータ61Lを熱交換することなく通過し、次いでアウトレット70b側のラジエータ61Hに接触して熱交換することで加熱され、そしてアウトレット70bから排気されることとなる。
【0062】
一方、航空機100が8つのVTOLロータ20を稼働して上昇している間にラジエータ61Hが異常停止し、ラジエータ61Hの異常を検知すると、制御部69は、ポンプ62Hを停止するとともに、4つのバルブ67を開閉して2つの第3流路66Pを開き且つ第2流路66Hを閉じて、第1流路66L内のモータ21にインバータ22を並列に接続する。そして、制御部69によりポンプ62Lが作動して、VTOLロータ20a,20bのモータ21及びインバータ22において加熱された冷却液が配管64Lを介してラジエータ61Lに送られ、ラジエータ61Lで冷却された冷却液が配管65Lを介してVTOLロータ20a,20bのモータ21及びインバータ22に送られる。
【0063】
ここで、2つのファン61eが作動して、インレット70aから取り込まれる空気流が、インレット70a側のラジエータ61Lに接触して熱交換することで加熱され、次いで、停止しているアウトレット70b側のラジエータ61Hを熱交換することなく通過し、そしてアウトレット70bから排気されることとなる。
【0064】
このように、バルブ67を開閉して第3流路66Pを介して、第1流路66L内のモータ21にインバータ22を並列に接続する又は第2流路66H内のインバータ22にモータ21を並列に接続することで、ラジエータ61L及びポンプ62Lとラジエータ61H及びポンプ62Hとのうちの一方のラジエータ又はポンプが故障した場合に他方のラジエータ及びポンプにより2つのVTOLロータ20のモータ21及びインバータ22を冷却することができる。
【0065】
同様に、2つのVTOLロータ20b,20cの回転軸21aの間のブーム18内に配置されるラジエータ61(2つのラジエータ61L,61H)によりそれら2つのVTOLロータ20b,20cのモータ21及びインバータ22を冷却する冷却回路を構成してもよい。また、2つのVTOLロータ20c,20dの回転軸21aの間のブーム18内に配置されるラジエータ61(2つのラジエータ61L,61H)によりそれら2つのVTOLロータ20c,20dのモータ21及びインバータ22を冷却する冷却回路を構成してもよい。
【0066】
なお、冷却システム60と同様に構成される冷却システムを巡航用ロータ29の電気要素を冷却するために設けてもよい。
【0067】
本実施形態に係る冷却システム60は、離着陸時に鉛直方向の推力を発生する少なくとも1つのVTOLロータ20を備える航空機100において、少なくとも1つのVTOLロータ20が有する1以上のブレード23の回転により生ずる空気流を利用してVTOLロータ20を冷却するシステムであって、1以上のブレード23を上方に支持するブーム18内で、ブーム18に設けられたインレット70a及びアウトレット70bの間に格納された2つのラジエータ61L,61Hを有し、2つのラジエータ61L,61Hのうちのインレット70a側に位置するラジエータ61L及びアウトレット70b側に位置するラジエータ61Hを用いて少なくとも1つのVTOLロータ20が有する電気要素のうちの管理温度の低い要素及び管理温度の高い要素をそれぞれ冷却する。これによれば、冷却システム60により、ブーム18内でブーム18に設けられたインレット70a及びアウトレット70bの間に格納された2つのラジエータ61L,61Hのうち、インレット70a側に位置してインレット70aから取り込まれた空気流が最初に接触して冷却されることで作動温度が低くなるラジエータ61Lが管理温度の低い電気要素、例えばVTOLロータ20のモータ21を冷却し、アウトレット70b側に位置してラジエータ61Lを通過した空気流が次いで接触して冷却されることで相対的に作動温度が高くなるラジエータ61Hが管理温度の高い電気要素、例えばインバータ22を冷却することで、VTOLロータ20のモータ21及びインバータ22を効率良く冷却することができる。
【0068】
また、本実施形態に係る航空機100は、胴体12と、胴体12から側方に延設されて、巡航時に揚力を発生する前翼14及び後翼16と、前翼14及び後翼16により胴体12から離間して支持された前後方向に延びるブーム18と、ブーム18上に支持されて、離着陸時に鉛直方向の推力を発生する1以上のブレード23を有する少なくとも1つのVTOLロータ20と、ブーム18内で、ブーム18に設けられたインレット70a及びアウトレット70bの間に格納された2つのラジエータ61L,61Hを有し、2つのラジエータ61L,61Hのうちのインレット70a側に位置するラジエータ61L及びアウトレット70b側に位置するラジエータ61Hを用いて少なくとも1つのVTOLロータが有する電気要素のうちの管理温度の低い要素及び管理温度の高い要素をそれぞれ冷却する冷却システム60を備える。これによれば、冷却システム60により、ブーム18内でブーム18に設けられたインレット70a及びアウトレット70bの間に格納された2つのラジエータ61L,61Hのうち、インレット70a側に位置してインレット70aから取り込まれた空気流が最初に接触して冷却されることで作動温度が低くなるラジエータ61Lが管理温度の低い電気要素、例えばVTOLロータ20のモータ21を冷却し、アウトレット70b側に位置してラジエータ61Lを通過した空気流が次いで接触して冷却されることで相対的に作動温度が高くなるラジエータ61Hが管理温度の高い電気要素、例えばインバータ22を冷却することで、VTOLロータ20のモータ21及びインバータ22を効率良く冷却することができる。
【0069】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0070】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0071】
12…胴体、14…前翼、14a…エレベータ、16…後翼、16a…エレボン、16b…垂直尾翼、18…ブーム、18a…スキン、18b…リブ、18c…スパー、18d,18e…空間、20,20a,20b,20c,20d…VTOLロータ、21…モータ、21a…回転軸、22…インバータ、23…ブレード、29…巡航用ロータ、32…パイロン、54…ダクト、60…冷却システム、61,61H,61L…ラジエータ、61a,61a…チューブ、61b,61b…フィン、61c,61c…上側タンク、61d,61d…下側タンク、61e…ファン、61f…支持部材、62L,62H…ポンプ、63…冷却液タンク、64H,64L,65H,65L…配管、67…バルブ、69…制御部、70…空気流導引構造、70a…インレット、70b…アウトレット、71…上側構造体、71a…梁体、71b…凹部、72…下側構造体、72a…梁体、72b…凹部、100…航空機、L…中心軸、L70…中心軸。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B