(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】腎臓疾患のミトコンドリア増強療法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20241112BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20241112BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241112BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20241112BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20241112BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20241112BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241112BHJP
C12N 5/0789 20100101ALN20241112BHJP
C12N 5/0775 20100101ALN20241112BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20241112BHJP
C12N 5/0735 20100101ALN20241112BHJP
A61K 35/545 20150101ALN20241112BHJP
【FI】
A61K35/28
A61K35/12
A61K45/00
A61P13/12
A61P3/00
A61P37/06
A61P43/00 121
C12N5/0789
C12N5/0775
C12N5/10
C12N5/0735
A61K35/545
(21)【出願番号】P 2021502765
(86)(22)【出願日】2019-07-22
(86)【国際出願番号】 IL2019050821
(87)【国際公開番号】W WO2020021534
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-07-19
(32)【優先日】2018-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522384293
【氏名又は名称】ミノヴィア セラピューティクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】イヴギ オハナ,ナタリエ
(72)【発明者】
【氏名】ハラヴィー,ウリエル
(72)【発明者】
【氏名】ブクスファン,シュムエル
(72)【発明者】
【氏名】ブルムキン,モリヤ
(72)【発明者】
【氏名】シェール,ノア
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/088874(WO,A1)
【文献】特表2013-506681(JP,A)
【文献】特表2018-507690(JP,A)
【文献】North American Journal of Medical Sciences,2010年,Vol.2, No.4,pp.170-173
【文献】ビタミン,2016年,Vol.90, No.10,pp.502-507
【文献】日腎会誌,2007年,Vol.49, No.2,pp.82-87
【文献】Am J Physiol Renal Physiol,2014年,Vol.306,pp.F367-F378
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腎臓疾患、障害、またはそれらの症状の治療を必要とするヒト患者において腎臓疾患、障害、またはそれらの症状の治療に使用するための医薬組成物であって、前記組成物が、ヒト骨髄幹細胞の生存能力を支援することができる薬学的に許容可能な液体培地中、前記患者の体重1キログラムあたり少なくとも10
5~2×10
7個のヒト骨髄幹細胞を含み、前記ヒト骨髄幹細胞は、
凍結解凍したヒト外因性ミトコンドリアで富化されており、前記疾患または障害は、腎症、腎炎、ネフローゼ、腎炎症候群、ネフローゼ症候群、ファンコニ症候群、および腎不全からなる群から選択され
、
前記疾患または障害は、ミトコンドリア機能障害に関連しているか、あるいは前記疾患または障害は、老化に関連している、
医薬組成物。
【請求項2】
前記富化が、百万個の細胞あたり0.88~最大17.6ミリユニットのCS活性のミトコンドリアの用量と前記骨髄幹細胞を接触させることを含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記ヒト外因性ミトコンドリアが、同系または同種異系である、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記症状が、低血中アルカリホスファターゼレベル、低血中マグネシウムレベル、高血中クレアチニンレベル、低血中重炭酸塩レベル、低血中塩基過剰レベル、高尿中グルコース/クレアチニン比、高尿中塩化物/クレアチニン比、高尿中ナトリウム/クレアチニン比、高血中乳酸レベル、高尿中マグネシウム/クレアチニン比、高尿中カリウム/クレアチニン比、高尿中カルシウム/クレアチニン比、および高血中尿素レベルからなる群から選択される;
請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記医薬組成物が、腎臓系に直接投与される;または
前記医薬組成物が、全身投与によって投与される;
請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記患者の体重1キログラムあたり約10
6個のミトコンドリア富化ヒト骨髄幹細胞を含む;または
ヒトミトコンドリアで富化された合計5×10
5~5×10
9個のヒト骨髄幹細胞を含む;
請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記ミトコンドリア富化ヒト骨髄幹細胞が、
(i)ミトコンドリア富化前の前記骨髄幹細胞におけるミトコンドリアDNA含有量レベルに比べて増加したミトコンドリアDNA含有量、
(ii)ミトコンドリア富化前の前記骨髄幹細胞におけるCS活性レベルに比べて増加したCS活性レベル、
(iii)ミトコンドリア富化前の前記骨髄幹細胞における含有量に比べて増加したSDHAおよびCOX1から選択された少なくとも1つのミトコンドリアタンパク質の含有量、
(iv)ミトコンドリア富化前の前記骨髄幹細胞におけるO
2消費率に比べて増加したO
2消費率、
(v)ミトコンドリア富化前の前記骨髄幹細胞におけるATP産生率に比べて増加したATP産生率、または
(vi)それらの任意の組み合わせ
のうちの少なくとも1つを有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記ヒト骨髄幹細胞が、前記外因性ミトコンドリアで富化される前の前記患者から得られるかまたは由来する、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記ヒト骨髄幹細胞が、前記外因性ミトコンドリアで富化される前の前記患者とは異なるドナーから得られるかまたは由来する、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記ドナーが、少なくとも部分的に前記患者とHLA適合する;または
前記治療が、移植片対宿主病(GvHD)などの前記患者と前記ミトコンドリア富化ヒト幹細胞との間の有害な免疫原性反応を防止、遅延、最小化、または無効化する薬剤を前記患者に投与するステップをさらに含む;
請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記ヒト骨髄幹細胞が、造血幹細胞である;または
前記ヒト骨髄幹細胞が、間葉系幹細胞である;または
前記ヒト骨髄幹細胞が、多能性幹細胞(PSC)または人工多能性幹細胞(iPSC)である;または
前記ヒト骨髄幹細胞が、CD34
+である;
請求項1~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記ヒト骨髄幹細胞が、ヒト外因性ミトコンドリアを前記ヒト骨髄幹細胞に導入する前に、少なくとも1回の凍結-解凍サイクルを受けている;または
前記ヒト骨髄幹細胞が、前記ヒト外因性ミトコンドリアでの富化後に、少なくとも1回の凍結-解凍サイクルを受けている;
請求項2~11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記ヒト外因性ミトコンドリアが、胎盤、培養で成長させた胎盤細胞、または血液細胞から単離されるかまたは得られる;
請求項1~12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記ヒト外因性ミトコンドリアが、前記ミトコンドリア富化ヒト幹細胞中の全ミトコンドリアの少なくとも1%を構成する;または
前記ヒト外因性ミトコンドリアが、前記ミトコンドリア富化ヒト幹細胞中の全ミトコンドリアの少なくとも3%を構成する;または
前記ヒト外因性ミトコンドリアが、前記ミトコンドリア富化ヒト幹細胞中の全ミトコンドリアの少なくとも10%を構成する、
請求項1~13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
非富化幹細胞、巨核球、赤血球、肥満細胞、骨髄芽球、好塩基球、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、小リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、形質細胞、細網細胞、またはそれらの任意の組み合わせから選択される細胞をさらに含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
増加したミトコンドリアDNA含有量が、内因性および/または外因性のミトコンドリアからのものである、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項17】
非富化幹細胞、巨核球、赤血球、肥満細胞、骨髄芽球、好塩基球、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、小リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、形質細胞、細網細胞、またはそれらの任意の組み合わせが前記
患者にさらに投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能的ミトコンドリアで富化された幹細胞、ならびにヒトにおける腎臓に関連する疾患、障害、および状態を治療するためのミトコンドリア増強療法を使用する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
腎症としても知られる腎臓疾患(kidney disease)または腎臓疾患(renal disease)は、腎臓の損傷または疾患である。腎炎は炎症性腎臓疾患である。ネフローゼは非炎症性腎臓疾患である。腎炎およびネフローゼは、それぞれ、腎炎症候群およびネフローゼ症候群を引き起こし得る。腎臓疾患は、通常はある程度の腎臓機能の喪失を引き起こし、また腎不全、つまり腎臓機能の完全な喪失をもたらし得る。腎不全は腎臓疾患の末期として知られており、透析または腎臓移植が唯一の治療選択肢となる。
【0003】
腎臓疾患の原因には、糸球体への免疫グロブリンA抗体の沈着、鎮痛剤の投与、キサンチンオキシダーゼ欠損症、化学療法剤の毒性、および/または鉛もしくはその塩への長期曝露が含まれる。腎症を生じさせ得る慢性状態には、全身性エリテマトーデス、真性糖尿病、および高血圧(high blood pressure)(高血圧症(hypertension))が含まれ、これらは、それぞれ、糖尿病性腎症と高血圧性腎症に繋がる。敗血症は、急性腎臓疾患を誘発することも知られている。
【0004】
ミトコンドリア病は、ミトコンドリアDNA(mtDNA)または核DNA(nDNA)の突然変異によって引き起こされる遺伝的に異質なグループの障害であり、広範囲の重症度および表現型を示す(Wallace,D.C.and Chalkia,D.,Cold Spring Harb.Perspect.Biol.2013;5:a021220)。mtDNA関連疾患の有病率は、人口約8500人に1人であるが(Elliott,H.R.et al.,American Journal of Human Genetics,83,254-260,2008)が、これまでのところ、支持療法を除けば、大部分のミトコンドリア病に対して効果的な治療はない。様々な治療が臨床試験で評価されているものの、画期的な結果を導いたものはない(Kanabus,M.et al.,British journal of pharmacology,171,1798-1817,2014)。
【0005】
高血圧の原因の1つは腎臓疾患である。寿命にも関連付けられているJミトコンドリアハプロタイプは、血圧の低下と相関していることが以前に示唆されている(Rea et al.AGE 34:4(2013)1445-1456)。VおよびJハプロタイプは、腎臓移植後に慢性腎臓同種移植片機能不全を発症する可能性が低いことと相関していることが示された(Jimenez-Sousa et al.Int J Med Sci 11:11(2014)p1129-1132)。
【0006】
本発明者らに対するWO2013/035101は、ミトコンドリア組成物およびそれを使用する治療方法に関し、部分的に精製された機能的なミトコンドリアの組成物、および組成物を使用して、組成物を必要とする対象に組成物を投与することによってミトコンドリア機能の増加から恩恵を受ける病態を治療する方法を開示する。
【0007】
WO2016/008937は、ドナー細胞の集団から単離されたミトコンドリアのレシピエント細胞の集団への細胞間移動のための方法に関する。本方法は、ある量のミトコンドリアの移動の改善された有効性を示す。
【0008】
US2012/0107285は、細胞のミトコンドリア増強を対象としている。ある特定の実施形態には、幹細胞を改変する方法、または改変された幹細胞を少なくとも1つの生体組織に投与する方法が含まれるが、これらに限定されない。
【0009】
本発明者らに対するWO2016/135723は、機能的ミトコンドリアで少なくとも50%富化されたヒト骨髄細胞、それらの産生方法、およびかかる細胞を利用する治療方法に関する。
【0010】
腎臓疾患、例えば、原発性ミトコンドリア病とは関係のない腎臓疾患の療法の分野では、効果的かつ長期的な療法が長い間必要とされてきた。
【発明の概要】
【0011】
本発明の原理に従い、健康で機能的なミトコンドリアで富化されたヒト幹細胞が、腎臓疾患または腎不全に罹患している対象に導入される。このプロセスは、一般に「ミトコンドリア増強療法」と称され、これらの幹細胞内の健康で機能的なミトコンドリアの数を増加させるものである。健康で機能的なミトコンドリアで富化された幹細胞は、腎臓関連の疾患および障害を患う患者に投与されて、腎臓機能不全に関連付けられる症状の緩和をもたらし、腎臓機能のパラメーターを改善する。ある特定の実施形態では、疾患または障害は、後天性ミトコンドリア機能障害に関連している。他の実施形態では、疾患または障害は、後天性ミトコンドリア機能障害に関連していない。
【0012】
本発明は、健康な機能的ミトコンドリアで富化された幹細胞を用いた、ミトコンドリアDNAの突然変異によって引き起こされる先天性疾患であるピアソン症候群(PS)を有する若年者の単回の治療が、腎臓機能に関係する様々なパラメーターを大きく改善するのに十分であったという発見に一部基づく。
【0013】
理論や機序に制限されるものではないが、ミトコンドリアを増強したヒト幹細胞の全身投与により、患者の腎臓系内のミトコンドリア活性が強化され、この強化が、ミトコンドリアDNA突然変異から直接的または間接的に由来する腎臓の症状を含むピアソン症候群の症状の重症度を改善したと仮定される。
【0014】
本発明は、一態様では、腎臓疾患、障害、またはそれらの症状の治療を、かかる治療を必要とするヒト患者において行うための方法を提供し、本方法は、患者に医薬組成物を非経口投与するステップを含み、医薬組成物は、少なくとも約5×105~5×109個のヒト幹細胞を含み、ヒト幹細胞は、凍結-解凍した健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアで富化され、腎臓疾患または障害は、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異によってまたはミトコンドリア分子をコードする核DNAの病原性突然変異によって引き起こされる原発性ミトコンドリア病または障害ではない。
【0015】
別の態様では、本発明は、腎臓疾患、障害、またはそれらの症状の治療を必要とするヒト患者において、かかる治療に使用するための医薬組成物を提供し、本組成物は、細胞の生存能力を支援することができる薬学的に許容可能な液体培地中、患者の体重1キログラムあたり少なくとも105~2×107個のヒト幹細胞を含み、ヒト幹細胞は、凍結解凍した健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアで富化され、腎臓疾患または障害は、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異によってまたはミトコンドリアタンパク質をコードする核DNAの病原性突然変異によって引き起こされる原発性ミトコンドリア病または障害ではない。
【0016】
いくつかの実施形態では、富化は、百万個の細胞あたり少なくとも0.088~最大176ミリユニットのCS活性のミトコンドリアの用量を幹細胞に導入することを含む。
【0017】
さらなる実施形態では、富化は、百万個の細胞あたり0.88~最大17.6ミリユニットのCS活性のミトコンドリアの用量と幹細胞を接触させることを含む。いくつかの実施形態では、単離されたミトコンドリアの用量は、所望の濃度でレシピエント細胞に添加される。ミトコンドリアドナー細胞の数とミトコンドリアレシピエント細胞の数との比率は、2:1(ドナー細胞対レシピエント細胞)を超える比率である。典型的な実施形態では、比率は、少なくとも5、あるいは少なくとも10以上である。特定の実施形態では、ミトコンドリアが収集されるドナー細胞とレシピエント細胞との比率は、少なくとも20、50、100、またはおそらくさらに高い。各可能性は、別個の実施形態である。
【0018】
ある特定の実施形態では、健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアは、同系または同種異系である。ある特定の実施形態では、健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアは、同系である。ある特定の実施形態では、健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアは、自家、すなわち、同じ母系血統である。ある特定の実施形態では、健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアは、同種異系である。
【0019】
ある特定の実施形態では、疾患または障害は、後天性ミトコンドリア機能障害に関連している。他の実施形態では、疾患または障害は、後天性ミトコンドリア機能障害に関連していない。
【0020】
ある特定の実施形態では、疾患または障害は、腎症、腎炎、ネフローゼ、腎炎症候群、ネフローゼ症候群、ファンコニ症候群、および腎不全からなる群から選択される。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。
【0021】
ある特定の実施形態では、症状は、低血中アルカリホスファターゼレベル、低血中マグネシウムレベル、高血中クレアチニンレベル、低血中重炭酸塩レベル、低血中塩基過剰レベル、高尿中グルコース/クレアチニン比、高尿中塩化物/クレアチニン比、高尿中ナトリウム/クレアチニン比、高血中乳酸レベル、高尿中マグネシウム/クレアチニン比、高尿中カリウム/クレアチニン比、高尿中カルシウム/クレアチニン比、および高血中尿素レベルからなる群から選択される。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。
【0022】
ある特定の実施形態では、医薬組成物は、全身投与によって投与される。代替的な実施形態では、医薬組成物は、腎臓系に直接投与される。ある特定の実施形態において、医薬組成物は、腎臓、腎盂、副腎、腎動脈、下大静脈、腹部大動脈、総腸骨動脈、または総腸骨静脈に直接投与される。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。
【0023】
ある特定の実施形態では、医薬組成物は、患者の体重1キログラムあたり約106個のミトコンドリア富化ヒト幹細胞を含む。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、ヒトミトコンドリアで富化された合計5×105~5×109のヒト幹細胞を含む。
【0024】
ある特定の実施形態では、ミトコンドリア富化ヒト幹細胞は、ミトコンドリア富化前の幹細胞における対応するレベルと比較した(i)増加したミトコンドリアDNA含有量、(ii)増加したCS活性レベル、(iii)増加したSDHAおよびCOX1から選択された少なくとも1つのミトコンドリアタンパク質の含有量、(iv)増加したO2消費率、(v)増加したATP産生率、または(vi)それらの任意の組み合わせのうちの少なくとも1つを有する。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。
【0025】
ある特定の実施形態では、ヒト幹細胞は、外因性ミトコンドリアで富化される前に、患者から得られるかまたは由来する。
【0026】
ある特定の実施形態では、ヒト幹細胞は、外因性ミトコンドリアで富化される前の患者とは異なるドナーから得られるかまたは由来する。ある特定の実施形態では、幹細胞のドナーは、少なくとも部分的に患者とHLA適合する。ある特定の実施形態では、上記の方法は、患者とミトコンドリア富化ヒト幹細胞との間の有害な免疫原性反応を防止、遅延、最小化、または無効化する薬剤を患者に投与するステップをさらに含む。ある特定の実施形態では、有害な免疫原性反応は、移植片対宿主病(GvHD)である。
【0027】
ある特定の実施形態では、ヒト幹細胞は、CD34+である。ある特定の実施形態では、ヒト幹細胞は、造血幹細胞である。ある特定の実施形態では、ヒト幹細胞は、間葉系幹細胞である。ある特定の実施形態では、ヒト幹細胞は、多能性幹細胞(PSC)または人工多能性幹細胞(iPSC)である。
【0028】
ある特定の実施形態では、上記の方法は、ヒト幹細胞を単離する、由来する、または得る前ステップ、および健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアをヒト幹細胞に導入し、したがってミトコンドリア富化ヒト幹細胞を産生する前ステップをさらに含む。ある特定の実施形態では、本方法は、(a)ヒト幹細胞を凍結すること、(b)ヒト幹細胞を解凍すること、および(c)健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアをヒト幹細胞に導入することを含む。ある特定の実施形態では、ヒト幹細胞は、骨髄の細胞から単離されるか、由来するか、または得られる。他の実施形態では、ヒト幹細胞は、脂肪組織、口腔粘膜、皮膚線維芽細胞、血液、または臍帯血から単離されるか、由来するか、または得られる。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。
【0029】
ある特定の実施形態では、ヒト幹細胞は、健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアを該ヒト幹細胞に導入する前に、少なくとも1回の凍結-解凍サイクルを受けている。ある特定の実施形態では、本方法は、(a)健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアを凍結すること、(b)健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアを解凍すること、および(c)健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアをヒト幹細胞に導入することを含む。ある特定の実施形態では、ヒト幹細胞は、骨髄、脂肪組織、口腔粘膜、皮膚線維芽細胞、血液、または臍帯血の細胞から単離されるか、由来するか、または得られる。ある特定の実施形態では、健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアは、胎盤、培養で成長させた胎盤細胞、または血液細胞から単離されるかまたは得られる。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。
【0030】
ある特定の実施形態では、ヒト幹細胞は、健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアで富化された後、少なくとも1回の凍結-解凍サイクルを受けている。ある特定の実施形態では、本方法は、(a)健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアで富化されたヒト幹細胞を凍結し、(b)健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアで富化されたヒト幹細胞を解凍してから、健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアで富化されたヒト幹細胞を患者に投与する追加ステップをさらに含む。
【0031】
ある特定の実施形態では、健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアは、ミトコンドリア富化ヒト幹細胞中の全ミトコンドリアの少なくとも3%を構成する。ある特定の実施形態では、健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアは、ミトコンドリア富化ヒト幹細胞中の全ミトコンドリアの少なくとも10%を構成する。ある特定の実施形態では、健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアは、ミトコンドリア富化ヒト幹細胞中の全ミトコンドリアの少なくとも1%を構成する。
【0032】
ある特定の実施形態では、医薬組成物は、非富化幹細胞、巨核球、赤血球、肥満細胞、骨髄芽球、好塩基球、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、小リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、形質細胞、細網細胞、またはそれらの任意の組み合わせをさらに含む。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。
【0033】
本発明は、別の態様では、腎臓障害を治療することに使用するための、健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアで富化された複数のヒト幹細胞をさらに提供する。
【0034】
本発明は、別の態様では、上記のような腎臓障害を治療することに使用するための健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアで富化された複数のヒト幹細胞を治療有効量含む医薬組成物をさらに提供する。
【0035】
ある特定の実施形態では、上記の医薬組成物は、腎臓疾患もしくは腎臓障害またはその症状を治療することに使用するためのものであり、腎臓疾患または障害は、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異によって、または例えばタンパク質もしくはペプチドなどのミトコンドリア分子をコードする核DNAの病原性突然変異によって引き起こされる原発性ミトコンドリア病または障害ではない。ある特定の実施形態では、症状は、低血中アルカリホスファターゼレベル、低血中マグネシウムレベル、高血中クレアチニンレベル、低血中重炭酸塩レベル、低血中塩基過剰レベル、高尿中グルコース/クレアチニン比、高尿中塩化物/クレアチニン比、高尿中ナトリウム/クレアチニン比、高血中乳酸レベル、高尿中マグネシウム/クレアチニン比、高尿中カリウム/クレアチニン比、高尿中カルシウム/クレアチニン比、および高血中尿素レベルからなる群から選択される。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。
【0036】
本発明は、患者に上記の医薬組成物を投与することを含む、腎臓疾患もしくは腎臓障害またはその症状を治療することを必要とする患者においてそれらを治療するための方法をさらに提供し、腎臓疾患または障害は、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異によって、または例えばタンパク質もしくはペプチドなどのミトコンドリア分子をコードする核DNAの病原性突然変異によって引き起こされる原発性ミトコンドリア病または障害ではない。
【0037】
本発明のさらなる実施形態および適用可能性の全範囲は、以下に与えられる詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、本発明の趣旨および範囲内での様々な変更および修正がこの詳細な説明から当業者には明らかとなるため、詳細な説明および具体的な実施例は、本発明の好ましい実施形態を示してはいるものの、単に例示として与えられているにすぎないことを理解されたい。従来および伝統的なアプローチのさらなる制限および不利な点は、かかるシステムを、図面を参照して本出願の残りの部分に記載される本発明のいくつかの態様と比較することによって、当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】マウス細胞の投与後の時間の関数として、マウスの骨髄中の突然変異mtDNA(FVB/N mtDNA)の量を図示する棒グラフである。
【
図2】富化された骨髄細胞(MNV-BM-PLC)、未処理の骨髄細胞(MNV-BM)、および対照(VEHICLE)の投与後の時間の関数として、胎盤ミトコンドリアで富化された骨髄細胞で治療された老齢マウス(12ヶ月齢)の血中尿素窒素(BUN)レベルを図示する折れ線グラフである。
【
図3A】本発明によって提供される、ピアソン症候群(PS)患者の異なる治療段階のスキームである。
【
図3B】療法前後の時間の関数として、本発明で提供される方法によって治療されたPS患者の体重および身長の標準偏差スコアを図示する折れ線グラフである。
【
図3C】療法前後の時間の関数として、本発明で提供される方法によって治療されたPS患者のアルカリホスファターゼ(ALP)レベルを示す折れ線グラフである。
【
図3D】療法前後の時間の関数として、本発明で提供される方法によって治療されたPS患者の血中乳酸レベルを図示する棒グラフである。
【
図3E】療法前後の時間の関数として、本発明で提供される方法によって治療されたPS患者の糸球体濾過率(GFR)を示す折れ線グラフである。
【
図3F】療法前後、マグネシウム補給前後の時間の関数として、本発明で提供される方法によって治療されたPS患者の血中マグネシウムのレベルを示す棒グラフである。
【
図3G】治療前後の時間の関数として、本発明で提供される方法によって治療されたPS患者の血中重炭酸塩レベルを示す折れ線グラフである。
【
図3H】療法前後の時間の関数として、本発明で提供される方法によって治療されたPS患者のクレアチニンレベルを示す折れ線グラフである。
【
図3I】療法前後の時間の関数として、本発明で提供される方法によって治療されたPS患者の血中塩基過剰レベルを示す折れ線グラフである。
【
図3J】本発明により提供される療法前後のPS患者の血中赤血球(RBC)レベルの長期的な上昇を示す折れ線グラフである。
【
図3K】本発明により提供される療法前後のPS患者の血中ヘモグロビン(HGB)レベルの長期的な上昇を示す折れ線グラフである。
【
図3L】本発明により提供される療法前後のPS患者の血中ヘマトクリット(HCT)レベルの長期的な上昇を示す折れ線グラフである。
【
図3M】療法前後の時間の関数として、本発明で提供される方法によって治療されたPS患者の尿中グルコース対クレアチニン比を示す棒グラフである。
【
図3N】療法前後の時間の関数として、本発明で提供される方法によって治療されたPS患者の尿中カリウム対クレアチニン比を示す棒グラフである。
【
図3O】療法前後の時間の関数として、本発明で提供される方法によって治療されたPS患者の尿中塩化物対クレアチニン比を示す棒グラフである。
【
図3P】療法前後の時間の関数として、本発明で提供される方法によって治療されたPS患者の尿中ナトリウム対クレアチニン比を示す棒グラフである。
【
図4】細胞あたりの正常なmtDNAの数を表す18SゲノムDNAと比較した、欠失領域(各患者)のデジタルPCRによって測定され、ベースラインごとに正規化された、療法前後の時間の関数として、本発明で提供される方法によって治療された3人のPS患者(Pt.1、Pt.2、およびPt.3)の正常なmtDNA含有量を図示する折れ線グラフである。
【
図5A】本発明によってさらに提供される、ピアソン症候群(PS)患者の異なる治療段階の別のスキームである。
【
図5B】療法前後の時間の関数として、本発明で提供される方法によって治療されたPS患者の血中乳酸レベルを図示する棒グラフである。
【
図5C】治療前後の時間の関数として、本発明で提供される方法によって治療されたPS患者における尿中マグネシウム対クレアチニン比を示す棒グラフである。
【
図5D】治療前後の時間の関数として、本発明で提供される方法によって治療されたPS患者における尿中カリウム対クレアチニン比を示す棒グラフである。
【
図5E】治療前後の時間の関数として、本発明で提供される方法によって治療されたPS患者における尿中カルシウム対クレアチニン比を示す棒グラフである。
【
図5F】治療前後の時間の関数として、本発明で提供される方法によって治療されたPS患者の尿中ATP8対18Sのコピー数比を示す棒グラフである。
【
図5G】治療前後の時間の関数として、本発明で提供される方法によって治療されたPS患者のリンパ球におけるATPレベルを図示する棒グラフである。
【
図6A】本発明によってさらに提供される、ピアソン症候群(PS)患者の異なる治療段階のまた別のスキームである。
【
図6B】療法前後の時間の関数として、本発明で提供される方法によって治療されたPS患者の血中乳酸レベルを図示する棒グラフである。
【
図6C】治療前後の時間の関数として、本発明で提供される方法によって治療されたPS患者のヘモグロビンA1C(HbA1C)スコアを示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
健康な機能的外因性ミトコンドリアをロードされたヒト幹細胞が、多様な病因のミトコンドリア病および障害を患う患者の器官、組織、および細胞への健康な機能的ミトコンドリアのインビボ全身送達を達成できることがここで初めて示された。
【0040】
理論または機序に限定されるものではないが、機能的外因性ミトコンドリアがヒト幹細胞に進入し、それによってそれらのミトコンドリアの活性およびエネルギー産生を増加させることができるという仮説がここで立てられる。かかる細胞は、仮定上、循環を介して遠位器官に到達し、それらの機能的ミトコンドリアの少なくとも一部を他の器官の細胞に移送し得る。
【0041】
再び理論または機序に限定されるものではないが、以下に記載の増強された幹細胞が損傷または罹患した器官に補充され、例えば、ミトコンドリア移送、種々の因子の分泌、分化などのいずれかによってそれらの機能を改善するという仮説がここでさらに立てられる。
【0042】
より具体的には、驚くべきことに、ミトコンドリア増強療法を受けた自家幹細胞による若年のピアソン症候群(PS)患者の単回の治療は、多岐にわたる有害なPS関連性およびPS非依存性腎臓関連症状を顕著に改善するのに十分であることがわかった。
【0043】
本発明は、一態様では、腎臓疾患、障害、またはそれらの症状の治療を、かかる治療を必要とする対象において行うための方法を提供し、腎臓疾患または障害は、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異によってまたはミトコンドリア分子をコードする核DNAの病原性突然変異によって引き起こされる原発性ミトコンドリア病または障害ではなく、本方法は、複数の幹細胞を含む医薬組成物を患者に投与するステップを含み、これらの幹細胞は、健康な機能的外因性ミトコンドリアで富化されている。いくつかの実施形態では、対象は哺乳類対象であり、幹細胞は哺乳類幹細胞である。ある特定の実施形態では、対象はヒト対象であり、幹細胞はヒト幹細胞である。
【0044】
いくつかの実施形態では、本発明は、腎臓疾患、障害、またはそれらの症状の治療を、かかる治療を必要とするヒト患者において行うための方法を提供し、腎臓疾患または障害は、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異によってまたはミトコンドリア分子をコードする核DNAの病原性突然変異によって引き起こされる原発性ミトコンドリア病または障害ではなく、本方法は、複数のヒト幹細胞を含む医薬組成物を患者に投与するステップを含み、これらのヒト幹細胞は、健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアで富化されている。
【0045】
本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、「ミトコンドリア病」および「原発性ミトコンドリア病」という用語は、交換可能に使用され得る。「ミトコンドリア病」および「原発性ミトコンドリア病」という用語は、ミトコンドリアDNAの既知のもしくは明白な病原性突然変異によって、または遺伝子産物がミトコンドリアに取り込まれる核DNAの遺伝子の突然変異によって診断される先天性ミトコンドリア病を指す。「腎臓疾患または障害が原発性ミトコンドリア病ではない」という句は、腎臓疾患または障害が、ミトコンドリアDNAの既知のもしくは明白な病原性突然変異によって、または遺伝子産物がミトコンドリアに取り込まれる核DNAの遺伝子の突然変異によって最初に診断されないことを意味する。本発明の治療の目的である腎臓疾患または障害は、ミトコンドリア分子をコードするミトコンドリアまたは核DNAのコード領域の突然変異または一群の突然変異に作動可能に関連している必要はない。
【0046】
いくつかの実施形態では、腎臓疾患または障害は、後天性ミトコンドリア機能障害に関連している。他の実施形態では、疾患または障害は、後天性ミトコンドリア機能障害に関連していない。いくつかの実施形態では、腎臓疾患または障害は、続発性ミトコンドリア機能障害に関連している。他の実施形態では、腎臓疾患または障害は、続発性ミトコンドリア機能障害に関連していない。
【0047】
本明細書で使用される場合、「続発性ミトコンドリア機能障害」および「後天性ミトコンドリア機能障害」という用語は交換可能に使用され、多くの非原発性ミトコンドリア病に付随し得、酸化的リン酸化(OXPHOS)タンパク質の機能も産生もコードしない遺伝子によって引き起こされてもよい、後天性ミトコンドリア機能障害を指す。続発性ミトコンドリア機能障害は、酸化ストレスを引き起こし得る環境要因によっても引き起こされ得る。
【0048】
別の態様では、本発明は、腎臓疾患、障害、またはそれらの症状の治療を必要とするヒト患者において、かかる治療に使用するための医薬組成物を提供し、本組成物は、細胞の生存能力を支援することができる薬学的に許容可能な液体培地中、複数のヒト幹細胞を含み、ヒト幹細胞は、凍結解凍した健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアで富化され、腎臓疾患または障害は、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異によってまたはミトコンドリアタンパク質をコードする核DNAの病原性突然変異によって引き起こされる原発性ミトコンドリア病または障害ではない。
【0049】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、患者の体重1キログラムあたり少なくとも105~4×107個のミトコンドリア富化ヒト幹細胞を含む。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、患者の体重1キログラムあたり少なくとも105~2×107個のミトコンドリア富化ヒト幹細胞を含む。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、患者の体重1キログラムあたり少なくとも5×105~1.5×107個のミトコンドリア富化ヒト幹細胞を含む。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、患者の体重1キログラムあたり少なくとも106~107個のミトコンドリア富化ヒト幹細胞を含む。他の実施形態では、医薬組成物は、患者の体重1キログラムあたり少なくとも105個または少なくとも106個のミトコンドリア富化ヒト幹細胞を含む。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、合計少なくとも5×105~最大5×109個のミトコンドリア富化ヒト幹細胞を含む。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、合計少なくとも106~最大109個のミトコンドリア富化ヒト幹細胞を含む。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、合計少なくとも2×106~最大5×108個のミトコンドリア富化ヒト幹細胞を含む。
【0050】
ある特定の実施形態では、健康な機能的ヒトミトコンドリアは、自家または同種異系である。ある特定の実施形態では、健康な機能的ヒトミトコンドリアは、自家である。ある特定の実施形態では、健康な機能的ヒトミトコンドリアは、同種異系である。
【0051】
ある特定の実施形態では、腎臓疾患、障害、またはそれらの症状の治療を、かかる治療を必要とするヒト患者において行うための方法を提供し、本方法は、複数のヒト幹細胞を含む医薬組成物を患者に投与するステップを含み、これらのヒト幹細胞は、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異がなく、かつ核DNAによってコードされる突然変異したミトコンドリアタンパク質がない、健康で機能的な自家または同種異系ミトコンドリアで富化され、腎臓疾患または障害は、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異によってまたはミトコンドリア分子(タンパク質、ペプチド、核酸、および同様のものなど)をコードする核DNAの病原性突然変異によって引き起こされる原発性ミトコンドリア病または障害ではない。
【0052】
いくつかの実施形態では、腎臓疾患、障害、またはそれらの症状の治療を、かかる治療を必要とするヒト患者において行うための方法が提供され、本方法は、複数のヒト幹細胞を含む医薬組成物を患者に投与するステップを含み、これらのヒト幹細胞は、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異がない健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアで富化され、腎臓疾患または障害は、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異によってまたは核DNAの病原性突然変異によって引き起こされる原発性ミトコンドリア病または障害ではない。
【0053】
本明細書で使用する場合、「方法」という用語は、所与の課題を達成するための様式、手段、技法、および手順を指し、これには、化学、薬理学、生物学、生化学、医学の関係者によって、既知であるか、既知の様式、手段、技法、および手順から容易に発展されるかのいずれかである、様式、手段、技法、および手順を含むが、これらに限定されない。
【0054】
本明細書で使用される場合、「治療する」という用語は、疾患または状態に関連するかまたは誘導される少なくとも1つの症状の縮小、軽減、または寛解を含む。本明細書で使用される場合、「治療する」という用語はまた、防止的(例えば、予防的)、姑息的、および治癒的治療を含む。
【0055】
本明細書で使用される場合、「医薬組成物」という用語は、少なくとも1つの生物学的に活性な薬剤を含む任意の組成物を指す。本明細書で使用される場合、「医薬組成物」という用語はさらに、例えば、治療、予防、診断、防止、または予後の作用のために対象に送達される活性医薬成分を含む組成物を指す。本明細書で使用される場合、「医薬組成物」という用語はさらに、ヒト幹細胞を含む任意の組成物を指し、任意選択で、細胞が生存可能な状態に維持される培地または担体をさらに含む。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、活性医薬成分および薬学的に許容される担体を含む。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、生理学的に適合性のあるあらゆるすべての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを含む。薬学的に許容される担体の例には、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなどのうちの1つ以上、ならびにそれらの組み合わせが含まれる。ある特定の実施形態では、医薬組成物は凍結される。ある特定の実施形態では、医薬組成物は解凍される。ある特定の実施形態では、医薬組成物は投与前に解凍される。ある特定の実施形態では、医薬組成物は投与の最大24時間前に解凍される。ある特定の実施形態では、富化されたヒト幹細胞は、医薬組成物中の唯一の活性成分である。
【0056】
本明細書で使用される場合、「生物学的に活性な薬剤」という用語は、例えば、生細胞(複数可)、組織(複数可)、器官(複数可)、およびヒト(複数可)などの生物学的システムにおいて応答を誘発することができる任意の分子を指す。本発明による生物学的に活性な薬剤の非限定的な例には、細胞、無傷ミトコンドリア、ミトコンドリアDNA、およびミトコンドリアタンパク質が含まれる。本発明の原理によれば、ミトコンドリアDNAに病原性突然変異がない健康な機能的ヒトミトコンドリアで富化された複数のヒト幹細胞は、生物学的に活性な薬剤である。
【0057】
本明細書で使用される場合、「腎臓疾患(renal disease)または腎臓障害」および「腎臓疾患(kidney disease)」という句は、腎臓への損傷またはその疾患を指す。
【0058】
「治療有効量」または「有効量」という用語は、治療された患者に治療効果を与えるために必要とされる活性剤または組成物の量を指す。有効用量は、例えば、投与経路、賦形剤の使用、および他の治療的処置との併用の可能性に応じて、当業者によって認識されるように変化することになる。
【0059】
本明細書で使用される場合、「幹細胞」という用語は、一般に、任意のヒト幹細胞を指す。幹細胞は、他の種類の細胞に分化することができ、分裂してほぼ同じ種類の幹細胞を産生することができる未分化細胞である。幹細胞は、全能性または多能性のいずれかであり得る。本明細書で使用される場合、「ヒト幹細胞」という用語は、一般に、ヒトに自然に見出されるすべての幹細胞、およびエクスビボで産生または誘導され、ヒトと適合性のあるすべての幹細胞を指す。幹細胞のような「前駆細胞」は、特定の種類の細胞に分化する傾向があるが、すでに幹細胞よりも特異的であり、その「標的」細胞に分化させられる。幹細胞と前駆細胞の最も重要な違いは、幹細胞は無制限に複製することができるのに対し、前駆細胞は限られた回数しか分裂することができないことである。本明細書で使用される場合、「ヒト幹細胞」という用語は、「前駆細胞」および「完全に分化していない幹細胞」をさらに含む。
【0060】
本発明の原理によれば、幹細胞は、それら中のミトコンドリアの数および/または機能を増加させるために、必要としている患者に投与される前に、健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアで濃縮される。いかなる理論または機構に限定されることなく、投与された幹細胞におけるミトコンドリアの数および/または機能の増加は、ヒト患者において初めて本明細書に例示される様々な治療作用に関与している。本明細書で使用される場合、「富化」という用語は、哺乳動物細胞の、ミトコンドリア含有量、例えば、無傷のミトコンドリアの数、またはミトコンドリアの機能を増加させるように設計された任意の作用を指す。特に、機能的ミトコンドリアで富化された幹細胞は、富化前の同じ幹細胞と比較して、ミトコンドリア機能の強化を示すことになる。本明細書で使用される場合、「富化」という用語は、ヒト細胞の、ミトコンドリア含有量、例えば、無傷の機能的で健康なミトコンドリアの数を増加させる、エクスビボで実行される任意の作用をさらに指す。本発明の原理によれば、健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアがヒト幹細胞に導入され、したがってこれらの細胞を健康な機能的ヒトミトコンドリアで富化する。
【0061】
かかる富化はヒト幹細胞のミトコンドリア含有量を変化させることを理解するべきである。ナイーブヒト幹細胞は、実質的に、宿主/自家ミトコンドリアの1つの集団を有するが、外因性ミトコンドリアで富化されたヒト幹細胞は、実質的に、宿主/自家/内因性ミトコンドリアの1つの集団と、導入されたミトコンドリアの別の集団(すなわち、外因性ミトコンドリア)とのミトコンドリアの2つの集団を有する。よって、「濃縮された」という用語は、外因性ミトコンドリアを受け取った/組み込んだ後の細胞の状態に関する。ミトコンドリアの2つの集団間の数および/または比率を決定することは、2つの集団がいくつかの態様、例えばミトコンドリアDNAにおいて異なり得るため、簡単である。したがって、「健康な機能性ヒトミトコンドリアで富化されたヒト幹細胞」という句は、「内因性ミトコンドリアと健康な機能的外因性ミトコンドリアとを含むヒト幹細胞」という句と等しい。例えば、全ミトコンドリアの少なくとも1%かつ33%未満の健康な機能的外因性ミトコンドリアを含むヒト幹細胞は、99:1の比率~67:33の比率の宿主/自家/内因性ミトコンドリアおよび健康な機能的外因性ミトコンドリアを含むと見なされる。例えば、「全ミトコンドリアの3%」は、富化後、元の(内因性)ミトコンドリア含有量が全ミトコンドリアの97%であり、導入された(外因性)ミトコンドリアが全ミトコンドリアの3%であることを意味し、これは(3/97=)3.1%の富化と等しい。別の例として、「全ミトコンドリアの33%」は、富化後、元の(内因性)ミトコンドリア含有量が全ミトコンドリアの67%であり、導入された(外因性)ミトコンドリアが全ミトコンドリアの33%であることを意味し、これは(33/67=)49.2%の富化と等しい。
【0062】
本明細書で使用される場合、「健康な機能的外因性ミトコンドリアで富化されたヒト幹細胞」という句は、健康な機能的ミトコンドリアを含むヒト幹細胞を指し、健康な機能的ミトコンドリアは、ヒト幹細胞とは異なる起源のものである、すなわち、これらのミトコンドリアは、外因性の供給源から得られる/由来する/単離されると理解されるべきである。ヒト幹細胞内の「外因性」、「外来性」、または「非原型」の健康な機能的ミトコンドリアの存在は、これらの細胞が該ミトコンドリアで富化されるという証拠として働く。平均的な当業者であれば、当技術分野に周知の方法に基づいて、ヒト幹細胞が異なる起源からの外因性同種異系ミトコンドリアを含むことを決定する方法を知っているであろう(例えば、Zander J.et al.,Forensic Sci.Int.Genet.,2017,Vol.29,242-249ページを参照されたい)。かかる方法は、ヒト幹細胞内または複数のヒト幹細胞内の異なるミトコンドリア集団間の、例えば遺伝的差異に基づき得る。例えば、ヒトでは、ミトコンドリアDNAは37個の遺伝子をコードするため(Nature.290(5806):457-65)、mtDNAを配列決定することにより、ヒト幹細胞または複数のヒト幹細胞におけるmtDNAの1つ、2つ以上の異なる集団の存在を容易に決定することができる。
【0063】
いくつかの実施形態では、健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアによる幹細胞の富化は、ヒト幹細胞を該健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアとインキュベートした後に、ミトコンドリア富化幹細胞を洗浄することを含む。このステップは、細胞片またはミトコンドリア膜の残遺物および幹細胞に入らなかったミトコンドリアを実質的に欠いているミトコンドリア富化幹細胞の組成物を提供する。いくつかの実施形態では、洗浄は、ヒト幹細胞を該健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアとインキュベートした後に、ミトコンドリア富化幹細胞を遠心分離することを含む。いくつかの実施形態によれば、ミトコンドリア富化ヒト幹細胞を含む医薬組成物は、遊離ミトコンドリア、すなわち、幹細胞に入らなかったミトコンドリア、または他の細胞片から分離される。いくつかの実施形態によれば、ミトコンドリア富化ヒト幹細胞を含む医薬組成物は、検出可能な量の遊離ミトコンドリアを含まない。
【0064】
「健康な機能的ミトコンドリア」、「健康な機能的ヒトミトコンドリア」、「健康な機能的外因性ミトコンドリア」、「健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリア」、「ミトコンドリアDNAまたはミトコンドリアタンパク質の病原性突然変異がない健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリア」、および「ミトコンドリアDNAまたはミトコンドリア分子の病原性突然変異がない健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリア」という用語は、交換可能に使用され、正常な非病原レベルの活性を示すミトコンドリアを指してもよい。ミトコンドリアの活性は、テトラメチルローダミンエチルエステル過塩素酸塩(TMRE)染色、O2消費、ATP産生、およびCS活性レベルなど、当技術分野で周知の様々な方法で測定することができる。
【0065】
ある特定の実施形態では、健康な機能的外因性ミトコンドリアで富化されたヒト幹細胞は、異なる起源の健康な機能的ミトコンドリアの混合物を含む。ある特定の実施形態では、健康な機能的ミトコンドリアの混合物の起源のうちの1つは、ヒト幹細胞の起源と同じである。ある特定の実施形態では、健康な機能的ミトコンドリアの混合物の起源のうちのいずれも、ヒト幹細胞の起源ではない。ある特定の実施形態では、健康な機能的ミトコンドリアで富化されたヒト幹細胞は、ヒト幹細胞の起源とは異なる単一起源の健康な機能的ミトコンドリアを含む。
【0066】
健康な機能的外因性ミトコンドリアをヒト幹細胞に導入すると、これらの細胞中の健康な機能性ミトコンドリアの総数/含有量が増加し得るため、本明細書で使用される「健康な機能的ミトコンドリアで富化されたヒト幹細胞」という句は、ある特定の実施形態では、幹細胞からの内因性であるか、異なる供給源もしくは起源からの外因性であるかのいずれかである、増加した量の健康な機能的ミトコンドリアを含むヒト幹細胞を指す。
【0067】
「健康なミトコンドリア」または「機能的ミトコンドリア」という用語は、正常に機能しているミトコンドリアを指す。「健康なミトコンドリアDNA」または「正常なミトコンドリアDNA」という用語は、ミトコンドリアの正常な機能に影響を与える突然変異を含まないミトコンドリアDNAを指す。本明細書で使用される場合、「機能的ミトコンドリア」という用語は、正常な非病原レベルの活性を示すミトコンドリアを指す。ミトコンドリアの活性は、膜電位、O2消費、ATP産生、およびCS活性レベルなど、当技術分野で周知の様々な方法で測定することができる。「機能的ミトコンドリア」および「健康なミトコンドリア」という用語は、交換可能に使用され、さらに、正常なmtDNA、正常なレベルの酸素消費およびATP産生を示すパラメーターを呈するミトコンドリアを指す。
【0068】
ミトコンドリアDNAの突然変異と疾患または障害との関係に関して「関連付けられる」という用語は、概して、ミトコンドリアDNAの突然変異が、疾患または障害の症状のうちの少なくとも1つについて、直接的にまたは間接的に、単独でまたは他の因子と組み合わせて、任意の生物学的機序により、少なくとも部分的に原因となることを意味する。本明細書で使用される場合、「突然変異」という用語は、DNAによってコードされる分子、例えば、RNA分子またはタンパク質分子の構造および/または機能に影響を与える欠失、挿入、または点突然変異を指す。
【0069】
ある特定の実施形態では、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異または核DNAの病原性突然変異は、ミトコンドリア分子をコードする遺伝子にはない。ある特定の実施形態では、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異または核DNAの病原性突然変異は、ミトコンドリアタンパク質をコードする遺伝子にはない。ある特定の実施形態では、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異または核DNAの病原性突然変異は、ミトコンドリア酵素をコードする遺伝子にはない。ある特定の実施形態では、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異または核DNAの病原性突然変異は、ミトコンドリアペプチドをコードする遺伝子にはない。ある特定の実施形態では、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異または核DNAの病原性突然変異は、ミトコンドリアRNA分子をコードする遺伝子にはない。
【0070】
ある特定の実施形態では、疾患または障害は、腎症、腎炎、ネフローゼ、腎炎症候群、ネフローゼ症候群、ファンコニ症候群、および腎不全からなる群から選択される。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。
【0071】
遺伝的異常に関連するまたはそれによって引き起こされる疾患について、本発明の方法および組成物は、原因となる病状を治療するのではなく、疾患の症状を軽減するのに有用となることを明確に理解されたい。
【0072】
ある特定の実施形態では、症状は、体重増加不能、低血中アルカリホスファターゼレベル、低血中マグネシウムレベル、高血中クレアチニンレベル、低血中重炭酸塩レベル、低血中塩基過剰レベル、高尿中グルコース/クレアチニン比、高尿中カリウム/クレアチニン比、高尿中塩化物/クレアチニン比、高尿中ナトリウム/クレアチニン比、高血中乳酸レベル、高尿中マグネシウム/クレアチニン比、高尿中カルシウム/クレアチニン比、高血中尿素レベル、およびリンパ球中の低ATP含有量からなる群から選択される。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。ある特定の実施形態では、症状は複数の症状である。症状を「高」および「低」と定義することは、それぞれ「正常より検出可能に高い」および「正常より検出可能に低い」に対応し、正常レベルは、複数の健康な対象における対応するレベルであることを理解されたい。
【0073】
ある特定の実施形態では、幹細胞は、単一の起源のミトコンドリアDNAを実質的に含む。ある特定の実施形態では、幹細胞は、単一のミトコンドリアDNAハログループのミトコンドリアを実質的に含む。ヒト遺伝学では、「ヒトミトコンドリアDNAハプログループ」という用語は、ヒトミトコンドリアDNAの差異によって定義されるハプログループを指すように使用される。本明細書で使用される場合、「ハプログループ」という用語は、母系で共通の祖先を共有する人々の遺伝的集団群をさらに指す。ミトコンドリアハプログループは、シーケンシングによって決定される。
【0074】
ある特定の実施形態では、幹細胞は、2つ以上の起源のミトコンドリアDNAを含む。ある特定の実施形態では、幹細胞は、2つ以上のミトコンドリアDNAハプログループのミトコンドリアを含む。ある特定の実施形態では、幹細胞は、ハプログループJおよびハプログループVからなる群から選択されるミトコンドリアDNAハプログループの機能的ミトコンドリアを含む。
【0075】
ある特定の実施形態では、患者は、有酸素METテスト、IPMDS/QoL質問票、30秒立ち上がりテスト、または6分間歩行テスト(SMWT)によって決定される、身体能力障害を経験する。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。
【0076】
ある特定の実施形態では、医薬組成物は、腎臓系に直接投与される。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、腎臓、腎盂、尿管、膀胱、尿道、副腎、腎動脈、腎静脈、下大静脈、腹部大動脈、総腸骨動脈、または総腸骨静脈に直接投与される。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。
【0077】
ある特定の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも1×104、少なくとも1×105、少なくとも1×106、または少なくとも1×107個のミトコンドリア富化ヒト幹細胞を含む。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも104個のミトコンドリア富化ヒト幹細胞を含む。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、約1×104~約1×108個のミトコンドリア富化ヒト幹細胞を含む。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、約1×104~1×109、1×105~1×109、1×106~1×109、または1×107~1×109個のミトコンドリア富化ヒト幹細胞を含む。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも105個のミトコンドリア富化ヒト幹細胞を含む。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、患者の体重1キログラムあたり少なくとも約105個のミトコンドリア富化ヒト幹細胞を含む。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、非経口投与によって投与される。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、全身投与によって投与される。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、患者に静脈内投与される。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、静脈内注入によって投与される。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも1×105、少なくとも1×106、または少なくとも1×107個のミトコンドリア富化ヒト幹細胞を含む。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、約1×106~約1×108個のミトコンドリア富化ヒト幹細胞を含む。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、患者の体重1キログラムあたり少なくとも約1×105、少なくとも1×106、または少なくとも1×107個のミトコンドリア富化ヒト幹細胞を含む。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、患者の体重1キログラムあたり約1×105~約1×107個のミトコンドリア富化ヒト幹細胞を含む。
【0078】
ある特定の実施形態では、ミトコンドリア富化ヒト幹細胞におけるミトコンドリアの富化のレベルは、(i)宿主(内因性)ミトコンドリアDNAおよび外因性ミトコンドリアDNAのレベル、(ii)クエン酸シンターゼのレベルもしくはクエン酸シンターゼ活性のレベル、または(iii)(i)と(ii)との両方によって決定される。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。
【0079】
ある特定の実施形態では、本方法は、治療有効量の患者の体重1キログラムあたり少なくとも約1×104個の幹細胞を含む医薬組成物を患者に投与することを含む。ある特定の実施形態では、本方法は、治療有効量の患者の体重1キログラムあたり少なくとも約1×105個の幹細胞を含む医薬組成物を患者に投与することを含む。ある特定の実施形態では、本方法は、治療有効量の患者の体重1キログラムあたり少なくとも約1×106個の幹細胞を含む医薬組成物を患者に投与することを含む。
【0080】
ある特定の実施形態では、本方法は、治療有効量の患者の体重1キログラムあたり少なくとも約1×104~約1×108個の幹細胞を含む医薬組成物を患者に投与することを含む。ある特定の実施形態では、本方法は、治療有効量の患者の体重1キログラムあたり少なくとも約1×105~約1×107個の幹細胞を含む医薬組成物を患者に投与することを含む。ある特定の実施形態では、本方法は、治療有効量の患者の体重1キログラムあたり少なくとも約5×104~約5×106個の幹細胞を含む医薬組成物を患者に投与することを含む。
【0081】
ある特定の実施形態では、本方法は、治療有効量の患者の体重1キログラムあたり少なくとも約1×104~約4×108個の幹細胞を含む医薬組成物を患者に投与することを含む。ある特定の実施形態では、本方法は、治療有効量の患者の体重1キログラムあたり少なくとも約1×105~約4×107個の幹細胞を含む医薬組成物を患者に投与することを含む。ある特定の実施形態では、本方法は、治療有効量の患者の体重1キログラムあたり少なくとも約1×106~約4×106個の幹細胞を含む医薬組成物を患者に投与することを含む。
【0082】
ある特定の実施形態では、ミトコンドリア富化ヒト幹細胞は、外因性機能的ミトコンドリアで富化される前に、患者自身から得られるかまたは由来する。
【0083】
ある特定の実施形態では、ミトコンドリア富化ヒト幹細胞は、外因性ミトコンドリアによる細胞の富化前に、患者とは異なるドナーから得られるかまたは由来する。ある特定の実施形態では、ドナーは、少なくとも部分的に患者とヒト白血球抗原(HLA)適合する。ある特定の実施形態では、上記の方法は、患者とミトコンドリア富化ヒト幹細胞との間の有害な免疫原性反応を防止、遅延、最小化、または無効化する薬剤を患者に投与するステップをさらに含む。ある特定の実施形態では、有害な免疫原性反応は、移植片対宿主病(GvHD)である。
【0084】
ある特定の実施形態では、幹細胞は、多能性幹細胞(PSC)である。ある特定の実施形態では、幹細胞は、人工多能性幹細胞(iPSC)である。本明細書で使用される場合、「多能性幹細胞(PSC)」という用語は、無制限に増殖することができ、また体内に複数の細胞型を生じさせることができる細胞、例えば神経細胞を指す。全能性幹細胞は、体内の他のすべての細胞型を生じさせることができる細胞である。胚性幹細胞(ESC)は全能性幹細胞であり、人工多能性幹細胞(iPSC)は多能性幹細胞である。本明細書で使用される場合、「人工多能性幹細胞(iPSC)」という用語は、ヒト成体体細胞から生成することができる一種の多能性幹細胞を指す。いくつかの実施形態では、PSCは非胚性幹細胞である。本明細書で使用される場合、「胚性幹細胞(ESC)」という用語は、胚盤胞の内部細胞塊に由来する一種の全能性幹細胞を指す。
【0085】
ある特定の実施形態では、幹細胞は、間葉系幹細胞である。ある特定の実施形態では、幹細胞は、CD34+細胞である。本明細書で使用される場合、「CD34+細胞」という用語は、それらの起源に関係なく、CD34陽性であると特徴付けられる幹細胞を指す。この用語はさらに、幹細胞から得られるか、または骨髄から動員されるか、または臍帯血から得られるCD34陽性であると特徴付けられる造血幹細胞を指す。本明細書で使用される場合、「CD34+細胞」という用語は、表面マーカータンパク質CD34を発現する細胞を意味する。CD34の発現は、CD34に対する抗体を使用した免疫蛍光分析またはFACS分析によって決定することができる。CD34抗原としても知られる造血前駆細胞抗原CD34は、ヒトではCD34遺伝子によってコードされているタンパク質である。
【0086】
ある特定の実施形態では、CD34+細胞は、臍帯細胞である。ある特定の実施形態では、CD34+細胞は、骨髄細胞である。ある特定の実施形態では、CD34+細胞は、造血細胞である。ある特定の実施形態では、CD34+細胞は、間葉系幹細胞である。ある特定の実施形態では、CD34+細胞は、内皮前駆細胞である。ある特定の実施形態では、CD34+細胞は、血管の内皮細胞である。ある特定の実施形態では、CD34+細胞は、肥満細胞である。ある特定の実施形態では、CD34+細胞は、亜集団樹状細胞(第XIIIa因子陰性である)である。ある特定の実施形態では、CD34+細胞は、長期造血幹細胞(LT-HSC)である。ある特定の実施形態では、CD34+細胞は、ヒトHSC細胞である。ある特定の実施形態では、CD34+細胞は、患者に対してHLA適合である。ある特定の実施形態では、CD34+細胞は、患者とHLA適合である。ある特定の実施形態では、CD34+細胞は、患者に対して自家である。
【0087】
ある特定の実施形態では、幹細胞は、脂肪組織、口腔粘膜、末梢血、または臍帯血から由来する。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。ある特定の実施形態において、幹細胞は、骨髄細胞から由来する。本明細書で使用される場合、「骨髄細胞」という用語は、一般に、ヒトの骨髄に自然に見出されるすべてのヒト細胞、およびヒトの骨髄に自然に見出されるすべての細胞集団を指す。「骨髄幹細胞」という用語は、骨髄から由来する幹細胞集団を指す。
【0088】
本明細書で使用される場合、「骨髄造血細胞」という用語は、骨髄造血、例えば、骨髄およびそれから生じるすべての細胞、すなわち、すべての血液細胞の産生に関与する細胞を指す。
【0089】
本明細書で使用される場合、「赤血球生成細胞」という用語は、赤血球生成、例えば、赤血球(red blood cell)(赤血球(erythrocyte))の産生に関与する細胞を指す。
【0090】
本明細書で使用される場合、「多能性造血幹細胞」または「造血芽細胞」という用語は、造血のプロセスを通じて他のすべての血液細胞を生じさせる幹細胞を指す。
【0091】
本明細書で使用される場合、「一般的な骨髄系前駆細胞」という用語は、骨髄系細胞を生成する細胞を指す。本明細書で使用される場合、「一般的なリンパ球系前駆細胞」という用語は、リンパ球を生成する細胞を指す。
【0092】
本明細書で使用される場合、「間葉系幹細胞」という用語は、神経細胞、骨芽細胞(骨細胞)、軟骨細胞(chondrocyte)(軟骨細胞(cartilage cell))、筋細胞(筋肉細胞)、および脂肪細胞(adipocyte)(脂肪細胞(fat cell))を含む、様々な細胞型に分化することができる、多能性間質細胞を指す。
【0093】
ある特定の実施形態では、医薬組成物は、非富化幹細胞、巨核球、赤血球、肥満細胞、骨髄芽球、好塩基球、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、小リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、形質細胞、細網細胞、またはそれらの任意の組み合わせをさらに含んでもよい。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。
【0094】
ある特定の実施形態では、上記の方法は、ヒト幹細胞を単離する、由来する、または得る前ステップ、および健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアをヒト幹細胞に導入し、したがってミトコンドリア富化ヒト幹細胞を産生する前ステップをさらに含む。ある特定の実施形態では、本方法は、(a)ヒト幹細胞を凍結すること、(b)ヒト幹細胞を解凍すること、および(c)健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアをヒト幹細胞に導入することを含む。ある特定の実施形態では、ヒト幹細胞は、骨髄、脂肪組織、口腔粘膜、皮膚線維芽細胞、血液、または臍帯血の細胞から単離されるか、由来するか、または得られる。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。
【0095】
いくつかの実施形態では、上記の方法は、健康な機能的外因性ミトコンドリアを細胞に導入する前に、ヒト幹細胞からCD34陽性細胞を選択するステップをさらに含む。CD34陽性細胞の選択は、CliniMACSまたはProdigyシステム(Miltenyi)を含むがこれらに限定されない、当技術分野で既知の方法によって行うことができる。
【0096】
ある特定の実施形態では、上記の方法は、健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアを好適な供給源から単離または得る前ステップ、および健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアをヒト幹細胞に導入し、したがってミトコンドリア富化ヒト幹細胞を産生する前ステップをさらに含む。ある特定の実施形態では、本方法は、(a)健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアを凍結するステップ、(b)健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアを解凍するステップ、および(c)健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアをヒト幹細胞に導入するステップを含んでもよい。ある特定の実施形態では、健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアは、胎盤、培養で成長させた胎盤細胞、または血液細胞を含むがこれらに限定されない好適な供給源から単離されるかまたは得られる。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。
【0097】
本発明の原理によれば、ヒト幹細胞を富化する前に健康な機能的外因性ミトコンドリアを凍結する可能性は、例えば、ヒト幹細胞を富化する前に、健康な機能的外因性ミトコンドリアの機能性および/もしくはある特定の属性を試験するのに十分な時間を提供する、ならびに健康な機能的外因性ミトコンドリアの貯蔵期間を延長する、かつ/または健康な機能的外因性ミトコンドリアを容易に分布させることができるため、ミトコンドリア増強療法プロセスにとって重要である。
【0098】
いかなる理論または機構によっても拘束されることを望むものではないが、凍結-解凍サイクルを受けたミトコンドリアは、凍結-解凍サイクルを受けていない対照ミトコンドリアと比較して、解凍後に同等の酸素消費率を示す。
【0099】
いくつかの実施形態によれば、凍結-解凍サイクルは、該機能的ミトコンドリアを解凍前に少なくとも24時間凍結することを含む。別の実施形態によれば、凍結-解凍サイクルは、該機能的ミトコンドリアを解凍前に少なくとも1ヶ月間、解凍前に数ヶ月以上凍結することを含む。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。別の実施形態によれば、凍結-解凍サイクル後の機能的ミトコンドリアの酸素消費量は、凍結-解凍サイクル前の機能的ミトコンドリアの酸素消費量と等しいかまたはそれよりも高い。
【0100】
本明細書で使用される場合、「凍結-解凍サイクル」という用語は、機能的ミトコンドリアを0℃を下回る温度に凍結し、ミトコンドリアを0℃を下回る温度で所定の期間維持し、ミトコンドリアを室温または体温またはミトコンドリアによる幹細胞の処理を可能にする0℃超の任意の温度に解凍することを指す。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。本明細書で使用される場合、「室温」という用語は、典型的には、18℃~25℃の温度を指す。本明細書で使用される場合、「体温」という用語は、35.5℃~37.5℃、好ましくは37℃の温度を指す。別の実施形態では、凍結-解凍サイクルを受けたミトコンドリアは、機能的ミトコンドリアである。
【0101】
別の実施形態では、凍結-解凍サイクルを受けたミトコンドリアは、少なくとも-70℃以下の温度で凍結された。別の実施形態では、凍結-解凍サイクルを受けたミトコンドリアは、少なくとも-20℃以下の温度で凍結された。別の実施形態では、凍結-解凍サイクルを受けたミトコンドリアは、少なくとも-4℃以下の温度で凍結された。別の実施形態によれば、ミトコンドリアの凍結は、漸進的である。いくつかの実施形態によれば、ミトコンドリアの凍結は、瞬間凍結による。本明細書で使用される場合、「瞬間凍結」という用語は、ミトコンドリアを低温貯蔵温度に供することによって急速に凍結することを指す。
【0102】
別の実施形態では、凍結-解凍サイクルを受けたミトコンドリアは、解凍前に少なくとも30分間凍結された。別の実施形態によれば、凍結-解凍サイクルは、機能的ミトコンドリアを解凍前に少なくとも30、60、90、120、180、210分間凍結することを含む。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。別の実施形態では、凍結-解凍サイクルを受けたミトコンドリアは、解凍前に少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、24、48、72、96、または120時間凍結された。各凍結時間は、本発明の別個の実施形態を表す。別の実施形態では、凍結-解凍サイクルを受けたミトコンドリアは、解凍前に少なくとも4、5、6、7、30、60、120、365日間凍結された。各凍結時間は、本発明の別個の実施形態を表す。別の実施形態によれば、凍結-解凍サイクルは、解凍前に機能的ミトコンドリアを少なくとも1、2、3週間凍結することを含む。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。別の実施形態によれば、凍結-解凍サイクルは、解凍前に機能的ミトコンドリアを少なくとも1、2、3、4、5、6ヶ月間凍結することを含む。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。
【0103】
別の実施形態では、凍結-解凍サイクルを受けたミトコンドリアは、解凍前に少なくとも30分間-70℃で凍結された。いかなる理論または機構によっても拘束されることを望むものではないが、ミトコンドリアを凍結し、それらを長期間後に解凍する可能性は、長期間の貯蔵後でも再現性のある結果をもって、ミトコンドリアの容易な貯蔵および使用を可能にする。
【0104】
一実施形態によれば、解凍は、室温である。別の実施形態では、解凍は、体温である。別の実施形態によれば、解凍は、本発明の方法によるミトコンドリアの投与を可能にする温度である。別の実施形態によれば、解凍は、漸進的に実行される。
【0105】
別の実施形態によれば、凍結融解サイクルを受けたミトコンドリアは、凍結緩衝液中で凍結された。別の実施形態によれば、凍結-解凍サイクルを受けたミトコンドリアは、単離緩衝液中で凍結された。本明細書で使用される場合、「単離緩衝液」という用語は、本発明のミトコンドリアが単離されている緩衝液を指す。非限定的な例では、単離緩衝液はスクロース緩衝液である。いかなる機構または理論によっても拘束されることを望むものではないが、単離緩衝液中でミトコンドリアを凍結すると、凍結前に単離緩衝液を凍結緩衝液に交換したり、解凍時に凍結緩衝液を交換したりする必要がないため、時間および単離ステップが省ける。
【0106】
別の実施形態によれば、凍結緩衝液は、抗凍結剤を含む。いくつかの実施形態によれば、抗凍結剤は、糖、オリゴ糖、または多糖である。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。別の実施形態によれば、凍結緩衝液中の糖濃度は、ミトコンドリア機能を保存するように作用する十分な糖濃度である。別の実施形態によれば、単離緩衝液は、糖を含む。別の実施形態によれば、単離緩衝液中の糖濃度は、ミトコンドリア機能を保存するように作用する十分な糖濃度である。別の実施形態によれば、糖は、スクロースである。
【0107】
ある特定の実施形態では、健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアは、ミトコンドリア富化細胞中の全ミトコンドリアの少なくとも3%を構成する。ある特定の実施形態では、健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアは、ミトコンドリア富化細胞中の全ミトコンドリアの少なくとも10%を構成する。いくつかの実施形態では、健康な機能的外因性ミトコンドリアは、ミトコンドリア富化細胞中の全ミトコンドリアの少なくとも約3%、5%、10%、15%、20%、25%、または30%を構成する。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。
【0108】
機能的ミトコンドリアによる幹細胞の富化の程度は、酸素(O2)消費率、クエン酸シンターゼの含有量または活性レベル、アデノシン三リン酸(ATP)産生率を含むがこれらに限定されない機能的および/または酵素的アッセイによって決定され得る。別の方法では、健康なドナーミトコンドリアによる幹細胞の富化は、ドナーのミトコンドリアDNAの検出によって確認することができる。いくつかの実施形態によれば、機能的ミトコンドリアによる幹細胞の富化の程度は、ヘテロプラスミーの変化のレベルによって、および/または細胞あたりのmtDNAのコピー数によって決定され得る。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。
【0109】
TMRM(テトラメチルローダミンメチルエステル)または関連するTMRE(テトラメチルローダミンエチルエステル)は、ミトコンドリア膜電位の変化を特定することにより、生細胞のミトコンドリア機能を評価するために一般的に使用される細胞透過性蛍光発生色素である。いくつかの実施形態によれば、富化のレベルは、TMREまたはTMRMで染色することによって決定することができる。
【0110】
別の実施形態によれば、ミトコンドリア膜の無傷性は、当該技術分野で既知の任意の方法によって決定され得る。非限定的な例では、ミトコンドリア膜の無傷性は、テトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)またはテトラメチルローダミンエチルエステル(TMRE)蛍光プローブを使用して測定される。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。顕微鏡下で観察され、TMRMまたはTMRE染色を示すミトコンドリアには、無傷ミトコンドリア外膜を有する。本明細書で使用される場合、「ミトコンドリア膜」という用語は、ミトコンドリア内膜、ミトコンドリア外膜、およびその両方からなる群から選択されるミトコンドリア膜を指す。
【0111】
ある特定の実施形態では、ミトコンドリア富化ヒト幹細胞におけるミトコンドリアの富化のレベルは、細胞中の全ミトコンドリアDNAの少なくとも統計的に代表的な部分を配列決定し、宿主/内因性ミトコンドリアDNAおよび外因性ミトコンドリアDNAの相対レベルを決定することによって決定される。ある特定の実施形態では、ミトコンドリア富化ヒト幹細胞中のミトコンドリアの富化のレベルは、一ヌクレオチド多型(SNP)分析によって決定される。ある特定の実施形態では、最大のミトコンドリア集団および/もしくは最大のミトコンドリアDNA集団は、宿主/内因性ミトコンドリア集団および/もしくは宿主/内因性ミトコンドリアDNA集団であり、かつ/または2番目に大きいミトコンドリア集団および/もしくは2番目に大きいミトコンドリアDNA集団は、外因性ミトコンドリア集団および/もしくは外因性ミトコンドリアDNA集団である。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。
【0112】
ある特定の実施形態によれば、健康な機能的ミトコンドリアによる幹細胞の富化は、当技術分野で認識されている従来のアッセイによって決定することができる。ある特定の実施形態では、ミトコンドリア富化ヒト幹細胞におけるミトコンドリアの富化のレベルは、(i)宿主/内因性ミトコンドリアDNAおよび外因性ミトコンドリアDNAのレベル、(ii)クエン酸シンターゼ(CS)、チトクロームCオキシダーゼ(COX1)、コハク酸デヒドロゲナーゼ複合体フラビンタンパク質サブユニットA(SDHA)、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるミトコンドリアタンパク質のレベル、(iii)CS活性レベル、または(iv)(i)、(ii)、および(iii)の任意の組み合わせよって決定される。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。ある特定の実施形態では、ミトコンドリア富化ヒト幹細胞におけるミトコンドリアの富化のレベルは、(i)同種異系ミトコンドリアの場合、宿主ミトコンドリアDNAおよび外因性ミトコンドリアDNAのレベル、(ii)クエン酸シンターゼ活性のレベル、(iii)コハク酸デヒドロゲナーゼ複合体フラボタンパク質サブユニットA(SDHA)もしくはチトクロームCオキシダーゼ(COX1)のレベル、(iv)酸素(O2)消費率、(v)アデノシン三リン酸(ATP)産生率、または(vi)それらの任意の組み合わせのうちの少なくとも1つによって決定される。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。これらの様々なパラメーターを測定するための方法は、当技術分野で周知である。
【0113】
ある特定の実施形態では、医薬組成物は、非富化幹細胞、巨核球、赤血球、肥満細胞、骨髄芽球、好塩基球、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、小リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、形質細胞、細網細胞、またはそれらの任意の組み合わせをさらに含んでもよい。
【0114】
いくつかの実施形態では、腎臓疾患、障害、またはそれらの症状の治療を、かかる治療を必要とするヒト患者において行うための方法が提供され、腎臓疾患または障害は、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異によってまたはミトコンドリアタンパク質をコードする核DNAの病原性突然変異によって引き起こされる原発性ミトコンドリア病または障害ではなく、本方法は、複数のミトコンドリア富化ヒト幹細胞を含む医薬組成物を患者に投与するステップを含み、これらのヒト幹細胞は、健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアで富化されている。
【0115】
いくつかの実施形態では、腎臓疾患、障害、またはそれらの症状の治療を、かかる治療を必要とするヒト患者において行うための方法が提供され、本方法は、複数のヒト幹細胞を含む医薬組成物を患者に投与するステップを含み、これらのヒト幹細胞は、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異がない健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアで富化され、腎臓疾患または障害は、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異によってまたは核DNAの病原性突然変異で引き起こされる原発性ミトコンドリア病または障害ではない。
【0116】
本発明は、別の態様では、腎臓疾患、障害、またはそれらの症状を治療する方法において使用するための、健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアで富化された複数のヒト幹細胞を含む医薬組成物をさらに提供し、腎臓疾患または障害は、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異によってまたはミトコンドリア分子をコードする核DNAの病原性突然変異によって引き起こされる原発性ミトコンドリア病または障害ではない。
【0117】
ある特定の実施形態では、本方法は、(a)治療有効量の健康な機能的外因性ミトコンドリアで富化されたヒト幹細胞を含む凍結医薬組成物を解凍することと、(b)解凍した医薬組成物を患者に投与することとを含む。
【0118】
いくつかの実施形態では、腎臓疾患、障害、またはそれらの症状を治療する方法において使用するための、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異がない健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアで富化された複数のヒト幹細胞を含む医薬組成物が提供され、腎臓疾患または障害は、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異によってまたはミトコンドリアタンパク質をコードする核DNAの病原性突然変異で引き起こされる原発性ミトコンドリア病または障害ではない。
【0119】
本発明は、別の態様では、腎臓疾患、障害、またはそれらの症状を治療する方法において使用するための、健康な機能的ヒトミトコンドリアで富化された複数のヒト幹細胞を含む医薬組成物をさらに提供し、腎臓疾患または障害は、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異によってまたはミトコンドリア分子をコードする核DNAの病原性突然変異によって引き起こされる原発性ミトコンドリア病または障害ではない。
【0120】
本発明は、別の態様では、腎臓疾患、障害、またはそれらの症状を治療する方法において使用するための、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異がない健康な機能的外因性ミトコンドリアで富化された複数のヒト幹細胞を含む医薬組成物をさらに提供し、腎臓疾患または障害は、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異によってまたは核DNAの病原性突然変異によって引き起こされる原発性ミトコンドリア病または障害ではない。
【0121】
本発明は、別の態様では、健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアでヒト幹細胞を富化するためのエクスビボ法を提供し、本方法は、(i)ミトコンドリアDNAの病原性突然変異によって、またはミトコンドリア分子をコードする核DNAの病原性突然変異で引き起こされる原発性ミトコンドリア病または障害ではない腎臓疾患もしくは腎臓障害またはそれらの症状に罹患している患者から単離されたまたは部分的に精製された複数のヒト幹細胞、あるいは健康なドナーから単離されたまたは部分的に精製された複数のヒト幹細胞を含む、第1の組成物を提供するステップと、(ii)ミトコンドリアDNAまたはミトコンドリア分子(タンパク質など)の病原性突然変異がないドナーから得られた複数の単離された健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアを含む、第2の組成物を提供するステップと、(iii)第1の組成物のヒト幹細胞を第2の組成物の健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアと接触させ、それにより第3の組成物を提供するステップと、(iv)健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアがヒト幹細胞に入るのを可能にする条件下で第3の組成物をインキュベートし、それにより該ヒト幹細胞を該健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアで富化し、よってミトコンドリアDNAまたはミトコンドリア分子の病原性突然変異がない健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアで富化されたヒト幹細胞を含む第4の組成物を提供するステップと、を含み、ここで、ステップ(iv)の富化されたヒト幹細胞は、ステップ(i)のヒト幹細胞と比較して、検出可能に高い健康な機能的ヒトミトコンドリアの総含有量を有する。
【0122】
本明細書で使用される場合、「エクスビボ法」という用語は、人体外でのみ実行されるステップを含む任方法を指す。特に、エクスビボ法は、後に治療される対象に再導入または移植される体外の細胞の操作を含む。
【0123】
「健康なドナー」および「健康な対象」という用語は、交換可能に使用され、治療されている疾患または状態を患っていない対象を指す。
【0124】
「接触する」という用語は、ミトコンドリアおよび細胞の組成物を十分に近接させて、ミトコンドリアが細胞に入るのを促進することを指す。ミトコンドリアを幹細胞に「導入する」という用語は、接触するという用語と交換可能に使用される。
【0125】
本明細書で使用される場合、「単離されたヒトの健康な機能的ミトコンドリア」という用語は、ミトコンドリア病に罹患していない健康な対象から得られた細胞から単離されたか、得られたか、または由来する無傷のミトコンドリアを指す。いくつかの実施形態では、かかるミトコンドリアは外因性ミトコンドリアである。ミトコンドリアの文脈において、本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、「単離された」という用語は、該供給源に見出される他の構成要素から少なくとも部分的に精製されたミトコンドリアを含む。ある特定の実施形態では、複数の単離された健康な機能的外因性ミトコンドリアを含む第2の組成物中のミトコンドリアタンパク質の総量は、試料内の細胞タンパク質の総量の20%~80%、20~70%、40~70%、20~40%、または20~30%である。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。ある特定の実施形態では、複数の単離された健康な機能的外因性ミトコンドリアを含む第2の組成物中のミトコンドリアタンパク質の総量は、試料内の細胞タンパク質の総量の20%~80%である。ある特定の実施形態では、複数の単離された健康な機能的外因性ミトコンドリアを含む第2の組成物中のミトコンドリアタンパク質の総量は、ミトコンドリアおよび他の細胞内分画の合計重量の20%~80%である。他の実施形態では、複数の単離された健康な機能的外因性ミトコンドリアを含む第2の組成物中のミトコンドリアタンパク質の総量は、ミトコンドリアおよび他の細胞内分画の合計重量の80%を超える。
【0126】
いくつかの実施形態では、その様々な実施形態における上記の方法は、第1の組成物の幹細胞を、幹細胞を拡大させることができる増殖培地中で該幹細胞を培養することによって、拡大させることをさらに含む。他の実施形態では、本方法は、第4の組成物のミトコンドリア富化幹細胞を、幹細胞を拡大させることができる培養または増殖培地中で該細胞を培養することによって、拡大させることをさらに含む。本出願を通して使用される場合、「培養または増殖培地」という用語は、細胞培養培地、細胞成長培地、細胞に栄養を提供する緩衝液などの流体培地である。本出願を通して、および特許請求の範囲で使用される場合、「医薬組成物」という用語は、細胞培養培地、細胞成長培地、細胞に栄養を提供する緩衝液などの流体担体を含む。
【0127】
追加の実施形態では、ヒト幹細胞は、ミトコンドリア増強の前または後に拡大される。
【0128】
いくつかの実施形態によれば、健康な機能的外因性ミトコンドリアでヒト幹細胞を富化するための方法は、細胞の膜電位を測定することを含まない。
【0129】
いくつかの実施形態では、健康な機能的外因性ミトコンドリアによる幹細胞の富化は、百万個の細胞あたり少なくとも0.044~最大176ミリユニットのCS活性のミトコンドリアの用量を幹細胞に導入することを含む。いくつかの実施形態では、健康な機能的外因性ミトコンドリアによる幹細胞の富化は、百万個の細胞あたり少なくとも0.088~最大176ミリユニットのCS活性のミトコンドリアの用量を幹細胞に導入することを含む。他の実施形態では、健康な機能的外因性ミトコンドリアによる幹細胞の富化は、百万個の細胞あたり少なくとも0.2~最大150ミリユニットのCS活性のミトコンドリアの用量を幹細胞に導入することを含む。他の実施形態では、健康な機能的外因性ミトコンドリアによる幹細胞の富化は、百万個の細胞あたり少なくとも0.4~最大100ミリユニットのCS活性のミトコンドリアの用量を幹細胞に導入することを含む。いくつかの実施形態では、健康な機能的外因性ミトコンドリアによる幹細胞の富化は、百万個の細胞あたり少なくとも0.6~最大80ミリユニットのCS活性のミトコンドリアの用量を幹細胞に導入することを含む。いくつかの実施形態では、健康な機能的外因性ミトコンドリアによる幹細胞の富化は、百万個の細胞あたり少なくとも0.7~最大50ミリユニットのCS活性のミトコンドリアの用量を幹細胞に導入することを含む。いくつかの実施形態では、健康な機能的外因性ミトコンドリアによる幹細胞の富化は、百万個の細胞あたり少なくとも0.8~最大20ミリユニットのCS活性のミトコンドリアの用量を幹細胞に導入することを含む。いくつかの実施形態では、健康な機能的外因性ミトコンドリアによる幹細胞の富化は、百万個の細胞あたり少なくとも0.88~最大17.6ミリユニットのCS活性のミトコンドリアの用量を幹細胞に導入することを含む。いくつかの実施形態では、健康な機能的外因性ミトコンドリアによる幹細胞の富化は、百万個の細胞あたり少なくとも0.44~最大17.6ミリユニットのCS活性のミトコンドリアの用量を幹細胞に導入することを含む。
【0130】
ミトコンドリアの用量は、本明細書で説明するように、健康な機能的ミトコンドリアの量の他の定量化可能な測定値のCS活性ユニットまたはmtDNAコピー数で表すことができる。「CS活性の単位」は、1mLの反応体積で1分間に1マイクロモルの基質の変換を可能にする量として定義される。
【0131】
本発明は、別の態様では、上記の方法によって得られた、健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアで富化された複数のヒト幹細胞をさらに提供する。
【0132】
本発明は、別の態様では、上記のような健康な機能的ヒト外因性ミトコンドリアで富化された複数のヒト幹細胞を治療有効量含む医薬組成物をさらに提供する。
【0133】
ある特定の実施形態では、上記の医薬組成物は、腎臓疾患もしくは腎臓障害またはその症状を治療するための方法に使用されるものであり、腎臓疾患または障害は、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異によってまたは核DNAの病原性突然変異で引き起こされる原発性ミトコンドリア病または障害ではない。
【0134】
本発明は、患者に上記の医薬組成物を投与することを含む、腎臓疾患もしくは腎臓障害またはその症状を治療することを必要とする患者においてそれらを治療するための方法をさらに提供し、腎臓疾患または障害は、ミトコンドリアDNAの病原性突然変異によってまたは核DNAの病原性突然変異で引き起こされる原発性ミトコンドリア病または障害ではない。
【0135】
ある特定の実施形態では、第1の組成物は新鮮である。ある特定の実施形態では、第1の組成物は、凍結され、次いでインキュベーションの前に解凍された。ある特定の実施形態では、第2の組成物は新鮮である。ある特定の実施形態では、第2の組成物は、凍結され、次いでインキュベーションの前に解凍された。ある特定の実施形態では、第4の組成物は新鮮である。ある特定の実施形態では、第4の組成物は、凍結され、次いで投与の前に解凍された。
【0136】
ある特定の実施形態では、複数の単離された健康な機能的外因性ミトコンドリアを含む第2の組成物中のミトコンドリアタンパク質の総量は、試料内の細胞タンパク質の総量の20%~80%である。ある特定の実施形態では、複数の単離された健康な機能的外因性ミトコンドリアを含む第2の組成物中のミトコンドリアタンパク質の総量は、試料内の細胞タンパク質の総量の20%~70%、20%~60%、または30%~50%である。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。ある特定の実施形態では、複数の単離された健康な機能的外因性ミトコンドリアを含む第2の組成物中のミトコンドリアタンパク質の総量は、ミトコンドリアおよび他の細胞内分画の合計重量の20%~80%である。他の実施形態では、複数の単離された健康な機能的外因性ミトコンドリアを含む第2の組成物中のミトコンドリアタンパク質の総量は、ミトコンドリアおよび他の細胞内分画の合計重量の80%を超える。
【0137】
真核生物のNADPH-チトクロームCレダクターゼ(チトクロームCレダクターゼ)は、小胞体に局在するフラボタンパク質である。それは電子をNADPHからいくつかのオキシゲナーゼに移動し、その中で最も重要なのは生体異物の解毒に関与するチトクロームP450ファミリーの酵素である。チトクロームCレダクターゼは、小胞体マーカーとして広く使用されている。ある特定の実施形態では、第2の組成物は、チトクロームCレダクターゼまたはチトクロームCレダクターゼ活性を実質的に含まない。ある特定の実施形態では、第4の組成物は、第1の組成物と比較して、チトクロームCレダクターゼまたはチトクロームCレダクターゼ活性で富化されていない。
【0138】
いくつかの実施形態では、第4の組成物中の幹細胞は、第1の組成物中の幹細胞と比較して、(i)増加したミトコンドリアDNA含有量、(ii)CS、COX1、およびSDHAからなる群から選択された少なくとも1つのミトコンドリアタンパク質の増加した含有量、(iii)増加した酸素(O2)消費率、(ii)増加したクエン酸シンターゼの活性レベル、(iii)増加したアデノシン三リン酸(ATP)産生率、または(iv)それらの任意の組み合わせのうちの少なくとも1つを有する。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。
【0139】
本明細書で使用される場合、「増加したミトコンドリアDNA含有量」という用語は、ミトコンドリア富化前の、第1の組成物中のミトコンドリアDNA含有量よりも検出可能に高いミトコンドリアDNAの含有量を指す。ミトコンドリアDNA含有量は、核遺伝子に対して正規化された、ミトコンドリア富化の前後のミトコンドリア遺伝子の定量的PCRを実行することによって測定され得る。
【0140】
本明細書で使用される場合、「増加した少なくとも1つのミトコンドリアタンパク質含有量」という用語は、ミトコンドリア富化前の第1の組成物中の該ミトコンドリアタンパク質の含有量よりも検出可能に高い、核コード化またはミトコンドリアコード化のいずれかのミトコンドリアタンパク質、例えば、CS、COX1、およびSDHAの含有量を指す。
【0141】
本明細書で使用される場合、「増加した酸素(O2)消費率」という用語は、ミトコンドリア富化前の第1の組成物における酸素(O2)消費率よりも検出可能に高い酸素(O2)消費率を指す。
【0142】
本明細書で使用される場合、「増加したクエン酸シンターゼ含有量または活性レベル」という用語は、ミトコンドリア富化前の第1の組成物中のクエン酸シンターゼの含有量値または活性レベルよりも検出可能に高いクエン酸シンターゼの含有量または活性レベルを指す。
【0143】
本明細書で使用される場合、「増加したアデノシン三リン酸(ATP)産生率」という用語は、ミトコンドリア富化前の第1の組成物中のアデノシン三リン酸(ATP)産生率よりも検出可能に高いアデノシン三リン酸(ATP)産生率を指す。
【0144】
ある特定の実施形態では、本明細書で使用される場合、「検出可能に高い」という用語は、正常値と増加した値との間の統計的に有意な増加を指す。ある特定の実施形態では、本明細書で使用される場合、「検出可能に高い」という用語は、非病理学的増加、すなわち、実質的に高い値に関連する病理学的症状が明らかにならないレベルを指す。ある特定の実施形態では、本明細書で使用される場合、「増加した」という用語は、複数の健康な対象の対応する細胞もしくは対応するミトコンドリア、またはミトコンドリア富化前の第1の組成物の幹細胞に見られる対応する値よりも1.05倍、1.1倍、1.25倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍以上高い値を指す。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。
【0145】
特定の状況では、ミトコンドリア富化前の同じ細胞は、CSおよびATP活性を測定し、富化レベルを決定するための対照として機能する。
【0146】
本明細書で使用される場合、「ヒト機能的外因性ミトコンドリアがヒト幹細胞に入るのを可能にする条件」という句は、一般に、時間、温度、および外因性ミトコンドリアとヒト幹細胞との間の近接性などのパラメーターを指す。これらの条件の特定は、当業者であればいずれの者であってもその能力の範囲内であるが、かかる条件は、本発明によって提供される。例えば、ヒト細胞およびヒト細胞株は、37℃および5%CO2雰囲気で、無菌環境において、液体培地中のミトコンドリアとともに慣習的にインキュベートされる。ある特定の実施形態では、幹細胞は、4.5%HSA(ヒト血清アルブミン)を含有する生理食塩水中で、室温で24時間、ミトコンドリアとともにインキュベートされた。
【0147】
ある特定の実施形態では、ヒト幹細胞は、16~37℃の範囲の温度で、0.5~30時間の範囲の時間にわたって、健康な機能的外因性ミトコンドリアとともにインキュベートされる。ある特定の実施形態では、ヒト幹細胞は、1~30または5~25時間の範囲の時間にわたって、健康な機能的外因性ミトコンドリアとともにインキュベートされる。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。特定の実施形態では、インキュベーションは、20~30時間である。いくつかの実施形態では、インキュベーションは、室温(18℃~30℃)で少なくとも1、5、10、15、または20時間である。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。他の実施形態では、インキュベーションは、最大1、5、10、15、20、または30時間である。各可能性は、本発明の個別の実施形態を表す。特定の実施形態では、インキュベーションは24時間である。いくつかの実施形態では、インキュベーションは、室温(20℃~30℃)である。ある特定の実施形態では、インキュベーションは37℃であるいくつかの実施形態では、インキュベーションは、5%CO2雰囲気で、少なくとも1、5、10、15、または20時間、および/または最大1、5、10、15、または20時間である。他の実施形態では、インキュベーションは、空気中に見られるレベルを超える追加のCO2を含まない。いくつかの実施形態では、インキュベーションは、細胞の生存を支援する培地中である。いくつかの実施形態では、培地は、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)である。他の実施形態では、培地は、HSA(ヒト血清アルブミン)を含有する生理食塩水である。いくつかの実施形態では、生理食塩水は、2%~10%のHSAを含有する。さらなる実施形態では、生理食塩水は、3~6%のHSAを含有する。さらに別の実施形態では、生理食塩水は、4.5%のHSAを含有する。特定の実施形態では、幹細胞と健康な機能的ミトコンドリアとのインキュベーションは、16~30℃の範囲の温度で、15~30時間の範囲の時間、3~6%のHSAを含有する生理食塩水中であり、空気中で見られるレベルを超える追加のCO2を含まない。
【0148】
ある特定の実施形態では、その様々な実施形態における上記の方法は、幹細胞と外因性ミトコンドリアとのインキュベーションの前、インキュベーション中、またはインキュベーションの後に遠心分離をさらに含む。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。いくつかの実施形態では、その様々な実施形態における上記の方法は、幹細胞と外因性ミトコンドリアとのインキュベーションの前、インキュベーション中、またはインキュベーションの後に単一遠心分離ステップを含む。いくつかの実施形態では、遠心力は1000g~8500gの範囲である。いくつかの実施形態では、遠心力は2000g~4000gの範囲である。いくつかの実施形態では、遠心力は2500gを超える。いくつかの実施形態では、遠心力は2500g~8500gの範囲である。いくつかの実施形態では、遠心力は2500g~8000gの範囲である。いくつかの実施形態では、遠心力は3000g~8000gの範囲である。他の実施形態では、遠心力は4000g~8000gの範囲である。特定の実施形態では、遠心力は7000gである。他の実施形態では、遠心力は8000gである。いくつかの実施形態では、遠心分離は2分~30分の範囲の時間にわたって実行される。いくつかの実施形態では、遠心分離は3分~25分の範囲の時間にわたって実行される。いくつかの実施形態では、遠心分離は5分~20分の範囲の時間にわたって実行される。いくつかの実施形態では、遠心分離は8分~15分の範囲の時間にわたって実行される。
【0149】
いくつかの実施形態では、遠心分離は、4~37℃の範囲の温度で実行される。ある特定の実施形態では、遠心分離は、4~10℃または16~30℃の範囲の温度で実行される。各可能性は、本発明の別個の実施形態を表す。特定の実施形態では、遠心分離は2~6℃で実行される。特定の実施形態では、遠心分離は4℃で実行される。いくつかの実施形態では、その様々な実施形態における上記の方法は、幹細胞と外因性ミトコンドリアとのインキュベーションの前、インキュベーション中、またはインキュベーションの後に単一遠心分離、続いて細胞を30℃より低い温度で静止させることを含む。いくつかの実施形態では、ヒト機能的ミトコンドリアがヒト幹細胞に入るのを可能にする条件は、幹細胞と外因性ミトコンドリアとのインキュベーションの前、インキュベーション中、またはインキュベーションの後に単一遠心分離、続いて16~28℃の範囲の温度で細胞を静止させることを含む。
【0150】
インキュベーションの条件を操作することにより、産物の特徴を操作することができる。ある特定の実施形態では、インキュベーションは、37℃で実行される。ある特定の実施形態では、インキュベーションは、少なくとも6時間実行される。ある特定の実施形態では、インキュベーションは、少なくとも12時間実行される。ある特定の実施形態では、インキュベーションは、12~24時間実行される。ある特定の実施形態では、インキュベーションは、4.4ミリユニットのCSを有するかまたは示す外因性ミトコンドリアの量あたり1×105~1×107個のナイーブ幹細胞の比率で実行される。ある特定の実施形態では、インキュベーションは、4.4ミリユニットのCSを有するかまたは示す外因性ミトコンドリアの量あたり1×106個のナイーブ幹細胞の比率で実行される。ある特定の実施形態では、条件は、CS活性によって決定して、ナイーブ幹細胞のミトコンドリア含有量を約5%~約100%増加させるのに十分である。ある特定の実施形態では、条件は、CS活性によって決定されるように、ナイーブ幹細胞のミトコンドリア含有量を少なくとも約5%増加させるのに十分である。
【0151】
ヘテロプラスミーとは、細胞または個体内に2種以上のミトコンドリアDNAが存在することである。ヘテロプラスミーレベルは、変異mtDNA分子対野生型/機能的mtDNA分子の比率であり、ミトコンドリア病の重症度を考慮するのに重要な要素である。低レベルのヘテロプラスミー(十分な量のミトコンドリアが機能している)は、健康な表現型に関連しているが、高レベルのヘテロプラスミー(十分な量のミトコンドリアが機能していない)は病状に関連している。ある特定の実施形態では、第4の組成物中の幹細胞のヘテロプラスミーレベルは、第1の組成物中の幹細胞のヘテロプラスミーレベルよりも少なくとも1%低い。ある特定の実施形態では、第4の組成物中の幹細胞のヘテロプラスミーレベルは、第1の組成物中の幹細胞のヘテロプラスミーレベルよりも少なくとも3%低い。ある特定の実施形態では、第4の組成物中の幹細胞のヘテロプラスミーレベルは、第1の組成物中の幹細胞のヘテロプラスミーレベルよりも少なくとも5%低い。ある特定の実施形態では、第4の組成物中の幹細胞のヘテロプラスミーレベルは、第1の組成物中の幹細胞のヘテロプラスミーレベルよりも少なくとも10%低い。ある特定の実施形態では、第4の組成物中の幹細胞のヘテロプラスミーレベルは、第1の組成物中の幹細胞のヘテロプラスミーレベルよりも少なくとも15%低い。ある特定の実施形態では、第4の組成物中の幹細胞のヘテロプラスミーレベルは、第1の組成物中の幹細胞のヘテロプラスミーレベルよりも少なくとも20%低い。ある特定の実施形態では、第4の組成物中の幹細胞のヘテロプラスミーレベルは、第1の組成物中の幹細胞のヘテロプラスミーレベルよりも少なくとも25%低い。ある特定の実施形態では、第4の組成物中の幹細胞のヘテロプラスミーレベルは、第1の組成物中の幹細胞のヘテロプラスミーレベルよりも少なくとも30%低い。
【0152】
本明細書で使用される場合、「ミトコンドリア含有量」という用語は、細胞内のミトコンドリアの量を指す。本明細書で使用される場合、「ミトコンドリア含有量」という用語はまた、細胞内の機能的ミトコンドリアの量、または複数の細胞内の機能的ミトコンドリアの平均量を指す。
【0153】
「富化されたヒト幹細胞」という用語は、ヒト幹細胞、およびヒト幹細胞の集団であって、それらのミトコンドリア含有量が、それらのナイーブな対応物と比較して、方法の能動的ステップによって平均して増加した、ヒト幹細胞の集団を指す。本明細書で使用される場合、「増加したミトコンドリア含有量」という用語は、さらに、ミトコンドリア富化前の細胞のミトコンドリア含有量よりも検出可能に高い、ミトコンドリアとのインキュベーション後における細胞のミトコンドリア含有量を指す。
【0154】
本明細書で使用される場合、対象/患者から「得られた」幹細胞という句は、該対象/患者から単離された時点で対象/患者の幹細胞であった細胞を指す。
【0155】
本明細書で使用される場合、対象/患者に「由来する」幹細胞という句は、患者の幹細胞ではなく、幹細胞になるように操作された細胞を指す。この句はさらに、異なる種類の幹細胞になるように操作されたある特定の種類の幹細胞を含む。本明細書で使用される場合、「操作された」という用語は、体細胞を未分化状態に再プログラミングし、人工多能性幹細胞(iPSc)になり、任意選択で、骨髄細胞(Xu Y.et al.,2012,PLoS ONE,Vol.7(4),e34321ページ)などの所望の系統または集団の細胞になるようにiPScをさらに再プログラミングする(Chen M.et al.,IOVS,2010,Vol.51(11),5970~5978ページ)ための、この分野で既知の方法のいずれか1つ(Yu J.et al.,Science,2007,Vol.318(5858),1917~1920ページ)を使用することを指す。
【0156】
本明細書で使用される場合、「末梢血」という用語は、血液系中を循環する血液を指す。本明細書で使用される場合、「末梢血から単離する」という用語は、血液中に見出される他の成分からの幹細胞の単離を指す。
【0157】
クエン酸シンターゼ(CS)は、ミトコンドリアマトリックスに局在するが、核DNAによってコードされている。クエン酸シンターゼは、クレブス回路の第1のステップに関与し、無傷のミトコンドリアの存在の定量的酵素マーカーとして一般的に使用される(Larsen S.et al.,2012,J.Physiol.,Vol.590(14),3349~3360ページ、Cook G.A.et al.,Biochim.Biophys.Acta.,1983,Vol.763(4),356~367ページ)。ある特定の実施形態では、第1の組成物または第4の組成物中の幹細胞のミトコンドリア含有量は、クエン酸シンターゼの含有量を決定することによって決定される。ある特定の実施形態では、第1の組成物または第4の組成物中の幹細胞のミトコンドリア含有量は、クエン酸シンターゼの活性レベルを決定することによって決定される。ある特定の実施形態では、第1の組成物または第4の組成物中の幹細胞のミトコンドリア含有量は、クエン酸シンターゼの含有量と相関する。ある特定の実施形態では、第1の組成物または第4の組成物中の幹細胞のミトコンドリア含有量は、クエン酸シンターゼの活性レベルと相関する。CS活性は、市販のキット、例えば、CS活性キットCS0720(Sigma)を使用することによって測定することができる。
【0158】
ミトコンドリアDNA含有量は、核遺伝子に対して正規化された、ミトコンドリア富化の前後のミトコンドリア遺伝子の定量的PCRを実行することによって測定され得る。
【0159】
ある特定の実施形態では、HLA適合幹細胞のドナーは患者である。ある特定の実施形態では、HLA適合幹細胞のドナーは患者の家族親戚である。本明細書で使用される場合、「HLA適合」という用語は、患者および幹細胞のドナーが、少なくとも患者がドナーの幹細胞に対する急性免疫応答を発症しない程度まで可能な限り厳密にHLA適合であるようにという望みを指す。かかる免疫応答の予防および/または治療は、免疫抑制剤の急性的または慢性的使用により達成されても、それによらずに達成されてもよい。ある特定の実施形態では、ドナーからの幹細胞は、患者が幹細胞を拒絶しない程度まで患者に対してHLA適合である。ある特定の実施形態では、患者は、幹細胞移植片の免疫拒絶を防ぐために免疫抑制療法によってさらに治療される。
【0160】
本明細書で使用される場合、「自家細胞」または「自家である細胞」という用語は、患者自身の細胞であることを指す。「自家ミトコンドリア」という用語は、患者自身の細胞または母性的に関連する細胞から得られたミトコンドリアを指す。「同種異系細胞」または「同種異系ミトコンドリア」という用語は、異なるドナー個体からの細胞またはミトコンドリアを指す。
【0161】
本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、「同系」という用語は、拒絶なく個体間の移植を可能にするのに十分な遺伝的同一性または遺伝的近同一性を指す。ミトコンドリアの文脈における同系という用語は、本明細書では、同じ母体の血統を意味する自家ミトコンドリアという用語と交換可能に使用される。
【0162】
「外因性ミトコンドリア」という用語は、細胞の外部にある供給源から標的細胞(すなわち、幹細胞)に導入されるミトコンドリアを指す。例えば、いくつかの実施形態では、外因性ミトコンドリアは、標的細胞とは異なる細胞に由来するかまたは単離され得る。例えば、外因性ミトコンドリアは、ドナー細胞で産生/作製され、ドナー細胞から精製/単離、得られ、その後、標的細胞に導入され得る。
【0163】
「内因性ミトコンドリア」という用語は、細胞によって作製/発現/産生されており、外部供給源から細胞に導入されないミトコンドリアを指す。いくつかの実施形態では、内因性ミトコンドリアは、細胞のゲノムによってコードされているタンパク質および/または他の分子を含有する。いくつかの実施形態では、「内因性ミトコンドリア」という用語は、「宿主ミトコンドリア」という用語と等しい。
【0164】
いくつかの実施形態では、内因性ミトコンドリアの外因性ミトコンドリアからの特定/区別は、後者が標的細胞に導入された後、例えば、限定されないが、ミトコンドリアDNA(mtDNA)配列の差異、例えば、内因性ミトコンドリアと外因性ミトコンドリアとの間の異なるハプロタイプを特定すること、外因性ミトコンドリアの組織に由来する特定のミトコンドリアタンパク質、例えば、胎盤からのチトクロームp450コレステロール側鎖切断(P450SCC)、褐色脂肪組織からのUCP1などを特定すること、またはそれらの任意の組み合わせを含む、様々な手段によって実行され得る。
【0165】
ある特定の実施形態では、上記の方法は、ミトコンドリア生合成を促進する薬剤を患者に投与するステップをさらに含む。本明細書で使用される場合、「ミトコンドリア生合成」という用語は、ミトコンドリアの成長および分裂を指す。ある特定の実施形態では、ミトコンドリア生合成を促進する薬剤は、エリスロポエチン(EPO)またはその塩である。ある特定の実施形態では、薬剤は、組換えヒトエリスロポエチンおよび単離されたヒトエリスロポエチンからなる群から選択される。
【0166】
本明細書で使用される場合、「移植前コンディショニング剤」という用語は、ヒト対象の骨髄内の骨髄細胞を殺傷することができる任意の薬剤を指す。
【0167】
本明細書で使用される場合、「瞬間凍結」という用語は、ミトコンドリアを低温貯蔵温度に供することによって急速に凍結することを指す。
【0168】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、示される整数、数、または量より10%未満から10%超の範囲を意味する。例えば、「約1×105」という句は、「1.1×105~9×104」を意味する。典型的には、本明細書で使用される場合、数値は、示された数値の±10%を指す。
【0169】
本発明はある特定の実施形態を参照して説明されてきたが、当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができ、同等物に置き換えることができることを理解するだろう。さらに、その範囲から逸脱することなく、特定の状況または材料を本発明の教示に適合させるために多くの修正を行うことができる。したがって、本発明は、開示された特定の実施形態に限定されないが、本発明は、添付の特許請求の範囲に含まれるすべての実施形態を含むことが意図される。
【0170】
以下の実施例は、本発明のいくつかの実施形態をさらに詳しく示すために提示される。しかしながら、それらは決して本発明の広い範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0171】
実施例1.マウス細胞におけるミトコンドリア増強療法。
ミトコンドリアの含有量および活性を増加させるために、異なるマウス細胞を、単離されたマウスまたはヒトのミトコンドリアとともに、DMEM(24時間、37℃、5%CO
2)中でインキュベートした。表1は、プロセス前の細胞のCS活性と比較した、プロセス後の細胞のCS活性の相対的な増加によって決定される、ミトコンドリア増強療法プロセスの代表的な結果を示す。
【表1】
【0172】
実施例2.前臨床生体内分布試験。
ミトコンドリアはC57/BLマウス(野生型mtDNAのドナー)の胎盤から単離された。骨髄細胞はFVB/Nマウス(ATP8にmtDNA突然変異を担持する)から単離された。FVB/N細胞は、C57/BL外因性ミトコンドリア(1×106個の細胞あたり4.4ミリユニットのミトコンドリア)をロードされ、その後、FVB/NマウスにI.V.注射で戻された。その後、FVB/Nマウスは種々の時点で屠殺され、器官の生体内分布が試験された。
【0173】
図1は、I.V.注射後の時間の関数としての骨髄中に見られるFVB/N mtDNAのレベルを示す。データは、骨髄中の突然変異したmtDNAのレベルが経時的に大幅に低下したことを教示する。
【0174】
実施例3.ミトコンドリア増強療法によりマウスの腎臓機能が改善する。
ミトコンドリアは、終末C57BLマウス胎盤から単離された。12ヶ月齢のC57BLマウスの骨髄細胞が得られた。ミトコンドリアで富化された骨髄細胞(MNV-BM-PLC、1×106細胞)、骨髄細胞のみ(BM、1×106細胞)、または対照ビヒクル溶液(VEHICLE、0.9%w/vのNaCl中4.5%のアルブミン)が、実験開始時に12ヶ月齢のC57BLマウスの尾静脈にIV注射され、約15ヶ月、18ヶ月、21ヶ月齢で繰り返した。BUN血液検査が、最初のIV注射の1、3、4、および6ヶ月後に実施された。
【0175】
図2に見られるように、健康なミトコンドリア(MNV-BM-PLC)で富化された骨髄細胞を移植された老齢マウス(12ヶ月)は、MATの6ヶ月後の血中尿素窒素レベルの低下によって示される腎臓の悪化を停止させた。
【0176】
実施例4.ピアソン症候群(PS)およびPS関連腎臓ファンコニ症候群(FS)を有する若年患者に対するMNV-BLD(血液由来ミトコンドリア)で富化された自家CD34+細胞を使用した人道的治療。
患者1は、ピアソン症候群と診断された6.5歳の男児患者であり、mtDNAのヌクレオチド5835~9753が欠失している。ミトコンドリア増強療法(MAT)の前の彼の体重は14.5KGであった。彼の成長は治療前の3年間大幅に遅れ、1年以上胃瘻管(G-チューブ)によって栄養補給されていたにもかかわらず、改善しなかった。患者は腎不全(GFR 22ml/分)、電解質補給を必要とする近位尿細管症、およびカルシウム補給を必要とする副甲状腺機能低下症を有した。
【0177】
患者からの造血幹細胞および前駆細胞(HSPC)の動員は、GCSFを5日間単独で皮下投与することによって実行された。白血球アフェレーシスは、Spectra Optiaシステム(TerumoBCT)を使用して、施設のガイドラインに従って末梢静脈アクセスを介して実行された。CD34陽性選択は、CliniMACS CD34試薬を製造元の指示に従って使用することにより、動員された末梢血由来細胞で実行された。ミトコンドリアは、250mMスクロース緩衝液pH7.4を使用して、母体の末梢血単核細胞(PBMC)から分画遠心分離によって単離された。
【0178】
MATの場合、自家CD34+細胞は、患者の母親からの健康なミトコンドリア(4.4ミリユニットのクエン酸シンターゼ(CS)を有するミトコンドリアの量あたり1×106個の細胞)とともにインキュベートされ、細胞ミトコンドリア含有量が1.56倍増加した(CS活性によって示されるようにミトコンドリア含有量の56%の増加)。ミトコンドリアとのインキュベーションは、4.5%HSAを含有する生理食塩水中で、室温で24時間行われた。富化された細胞は、生理食塩水中の4.5%HSAに懸濁された。
【0179】
図3Aに示されるタイムラインに従って、患者は、IV注入により、体重1キログラムあたり、健康なミトコンドリアで富化された1.1×10
6個の自家CD34
+細胞の単回の治療を受けた。
【0180】
表2は、細胞療法後の時間の関数としての患者の小児ミトコンドリア病尺度(IPMDS)-生活の質(QoL)質問票の結果を示す。「苦情と症状」および「身体検査」の両方のカテゴリで、0は関連する属性の「正常」を表す一方で、悪化した状態は重症度に応じて1~5のスコアが付けられる。
【表2】
【0181】
患者は治療前の3年間は体重が増えていない、すなわち、3.5歳から体重が増えていないことに留意するべきである。
図3Bは、患者の体重および身長の標準偏差スコアによって測定された成長を示し、データは、MAT前の4年間およびフォローアップ期間中に開始されている。データは、1回の治療から約9ヶ月または15ヶ月後に、それぞれ患者の体重および身長が増加したことを示す。
【0182】
患者の成長の別の証拠は、アルカリホスファターゼレベルから来ている。アルカリホスファターゼレベルテスト(ALPテスト)は、血流中のアルカリホスファターゼ酵素の量を測定する。血中のALPレベルが正常よりも低い場合は、栄養失調を示している可能性があり、これは、ある特定のビタミンおよびミネラルの不足が原因である可能性がある。
図3Cに示されるデータは、患者のアルカリホスファターゼレベルをわずか12ヶ月で159から486 IU/Lに上げるには、1回の治療で十分であることを示す。
【0183】
血中乳酸は、ミトコンドリアが損傷した場合、または組織への酸素輸送がミトコンドリア機能障害の特徴の1つである正常な代謝要求を支援するには不十分である場合に、嫌気性代謝の結果として血中に現れる乳酸である。
図3Dは、I.V.注射後の時間の関数としての患者の血中に見られる乳酸のレベルを示す。
図3Dに見られるように、MAT後、患者1の血中乳酸レベルは正常値に低下した。
【0184】
MATの前に、糸球体機能と尿細管機能との両方の腎臓機能障害が患者1で認められた。MATの後、糸球体濾過率の安定化(
図2E)、血清マグネシウムレベル(
図3F)および重炭酸塩レベル(
図3G)の改善を伴って、両方の機能が改善された。マグネシウムを補給せずに高レベルのマグネシウムを達成することは、マグネシウム吸収の改善ならびに腎臓近位尿細管での再吸収の証拠である。
【0185】
図3Hは、細胞療法前後の時間の関数としての患者の血中クレアチニンのレベルを示す。データは、患者のクレアチニンレベルが最初は正常(1mg/dL未満)であったが、経時的に、治療の約12ヶ月前に、状態が悪化した。高レベルのクレアチニンに到達することは腎不全のマーカーである。細胞療法を開始した後、彼の状態は安定し、さらなる悪化(点線で示される)が防止された。
【0186】
図3Iにさらに見られるように、細胞治療はまた、重炭酸塩を補給することなく、血中塩基過剰のレベルの顕著な改善をもたらした。まとめると、データは、少なくとも患者の状態のさらなる悪化を防止するのにも、単回の細胞治療で十分であったことを示す。
【0187】
図3J~3Kに見られるように、治療は赤血球レベル(
図3J)、ヘモグロビンレベル(
図3K)、およびヘマトクリットレベル(
図3L)の顕著な改善をもたらした。これらの結果は、貧血の症状を寛解させるには1回の治療で十分であったことを示す。
【0188】
図3M~3Pに見られるように、1回の治療で、尿中のグルコースレベル(
図3M)およびある特定の塩分レベル(
図3N-カリウム;
図3O-塩化物;
図3P-ナトリウム)などのいくつかの腎尿細管症指標のレベルが顕著に低下した。まとめると、データは、さらに、ファンコニ症候群の症状を改善するには、単回の細胞治療で十分であったことを示す。
【0189】
使用された療法の成功の遺伝的指標は、総mtDNAと比較した正常なmtDNAの普及率である。
図4(Pt.1)に示されるように、患者の正常なmtDNAの普及率は、ベースラインの約1からわずか4ヶ月で1.6(+60%)にまで、治療の20ヶ月後に1.9(+90%)に増加した。特に、正常なmtDNAレベルは、ほとんどの時点でベースラインレベルを上回った。
【0190】
上に示されたデータが示すように、本発明によって提供される1回の治療方法は、PS、FSの治療、腎機能の改善、および末梢血における正常なmtDNAの普及率の増加に成功した。有益な作用のかかる組み合わせの証拠は、彼の年齢の健康な対象にとっては正常である患者の体重増加においてさらに見出される。
【0191】
実施例5.ピアソン症候群(PS)およびPS関連ファンコニ症候群(FS)を有する若年患者に対するMNV-BLD(血液由来ミトコンドリア)で富化された自家CD34+細胞を使用した人道的治療。
患者2は、ピアソン症候群と診断された7歳の女児患者であり、mtDNAの4977ヌクレオチドが欠失している。患者はまた、貧血、内分泌膵機能不全を患っており、かつ糖尿病である(ヘモグロビンA1C 7.1%)。患者は、乳酸値が高く(>25mg/dL)、体重が少なく、食事および体重増加に問題がある。患者はさらに高マグネシウム尿症(高レベルの尿中マグネシウム、低レベルの血中マグネシウム)を患っている。患者は、記憶および学習の問題、乱視があり、TMRE、ATP含有量、およびO2消費率(健康な母親と比較して)によって決定される末梢リンパ球のミトコンドリア活性が低い。
【0192】
自家造血幹細胞および前駆細胞(HSPC)の動員、白血球アフェレーシス、ならびにCD34陽性選択は、白血球アフェレーシス前の-1日目にプレリキサフォル(n=2)を添加して患者1(実施例4)と同様に実行された。ミトコンドリアは、250mMスクロース緩衝液pH7.4を使用して、母体の末梢血単核細胞(PBMC)から分画遠心分離によって単離された。
【0193】
MATの場合、自家CD34+細胞は、患者の母親からの健康なミトコンドリア(4.4ミリユニットのクエン酸シンターゼ(CS)を有するミトコンドリアの量あたり1×106個の細胞)とともにインキュベートされ、細胞ミトコンドリア含有量が1.62倍増加した(CS活性が示すようにミトコンドリアDNA含有量の62%の増加)。ミトコンドリアとのインキュベーションは、4.5%HSAを含有する生理食塩水中で、室温で24時間行われた。ミトコンドリア富化後、患者からのCD34+細胞はコロニー形成率を26%増加させたことに留意するべきである。
【0194】
患者2(治療日15KG)は、
図5Aに示されるタイムラインに従って、IV注入により、体重1キログラムあたり、健康なミトコンドリアで富化された1.8×10
6個の自家CD34
+細胞で治療された。
【0195】
図5Bは、I.V.注射後の時間の関数としての患者の血中に見られる乳酸のレベルを示す。血中乳酸は、ミトコンドリアが損傷した場合、または組織への酸素輸送がミトコンドリア機能障害の特徴の1つである正常な代謝要求を支援するには不十分である場合に、嫌気性代謝の結果として血中に現れる乳酸である。データは、血中乳酸レベルが経時的に大幅に低下したことを示す。
【0196】
図5C、5D、および5Eは、それぞれ、I.V.注射後の時間の関数としての患者の尿中に見られるクレアチニンと比較したマグネシウム、カリウム、およびカルシウムの比率を示す。データは、割当量が経時的に大幅に低下したことを示す。
【0197】
図5Fは、I.V.注射後の時間の関数としての患者の尿中のATP8と18Sとの間の遺伝的比率を示す。データは、患者のATP8/18S比が経時的に改善されたことを教示する。
【0198】
図5Gは、I.V.注射後の時間の関数としての患者のリンパ球のATP含有量を示す。対照は、ミトコンドリアのドナーである患者の母親のリンパ球のATP含有量である。データは、患者のATP含有量が経時的に改善されたことを示す。
【0199】
図4(Pt.2)は、I.V.注射後の時間の関数としての正常なmtDNAの普及率を示す。
図4(Pt.2)に見られるように、正常なmtDNAの普及率は、ベースラインの約1からわずか1ヶ月で2(+100%)にまで増加し、治療後10ヶ月まで比較的高いままであった。特に、正常なmtDNAレベルは、すべての時点でベースラインレベルを上回った。
【0200】
実施例6.ピアソン症候群(PS)を有する若年患者に対するMNV-BLD(血液由来ミトコンドリア)で富化された自家CD34+細胞を使用した人道的治療。
患者3は、ピアソン症候群と診断された10.5歳の女児患者であり、mtDNAのヌクレオチド12113~14421が欠失している。患者は、貧血、および腎不全ステージ4に発展したファンコニ症候群も患っていた。患者は週に3回透析で治療された。過去2ヶ月で、患者は、重度の視力障害、視野の狭小化、および近見視力の喪失も患っていた。患者は身体活動をまったく行うことができなかった(歩くことはなく、ベビーカーに座っている)。患者の乳酸レベルは高く(>50mg/dL)、インスリンで治療された膵臓障害を有した。脳MRIは多くの病変および萎縮領域を示した。患者は、胃瘻造設術によってのみ栄養補給された。患者には記憶および学習の問題があった。患者は、テトラメチルローダミンエチルエステル(TMRE)、ATP含有量、およびO2消費率(健康な母親と比較して)試験によって決定される末梢リンパ球のミトコンドリア活性が低かった。
【0201】
自家造血幹細胞および前駆細胞(HSPC)の動員、ならびに白血球アフェレーシス、およびCD34陽性選択は、白血球アフェレーシス前の-1日目にプレリキサフォル(n=1)を添加して患者1(実施例4)と同様に実行された。白血球アフェレーシスは、恒久的な透析カテーテルを介して実行された。ミトコンドリアは、250mMスクロース緩衝液pH7.4を使用して、母体の末梢血単核細胞(PBMC)から分画遠心分離によって単離された。
【0202】
MATの場合、自家CD34+細胞は、患者の母親からの健康なミトコンドリア(4.4ミリユニットのクエン酸シンターゼ(CS)を有するミトコンドリアの量あたり1×106個の細胞)とともにインキュベートされ、細胞ミトコンドリア含有量が1.14倍増加した(CS活性によって示されるようにミトコンドリア含有量の14%の増加)。細胞は、4.5%HSAを含有する生理食塩水中で、室温で24時間、ミトコンドリアとともにインキュベートされた。ミトコンドリア富化後、患者からのCCD34+細胞はコロニー形成率を52%増加させたことに留意するべきである。
【0203】
患者3(21KG)は、
図6Aに示されるタイムラインに従って、IV注入により、体重1キログラムあたり、母親からの健康なミトコンドリアで富化された2.8×10
6個の自家CD34
+細胞で治療された。
【0204】
図6Bは、療法前後の時間の関数としての患者の血中に見られる乳酸レベルを示す。データは、血中乳酸レベルが経時的に大幅に低下したことを示す。
【0205】
図4(Pt.3)は、I.V.注射後の時間の関数としての正常なmtDNAの普及率を示す。
図4(Pt.3)に見られるように、正常なmtDNAの普及率は、治療7か月後に50%増加した。特に、正常なmtDNAレベルは、ほとんどの時点でベースラインレベルを上回った。
【0206】
糖化ヘモグロビン(ヘモグロビンA1c、HbA1c、A1C、Hb1c、Hb1c、またはHGBA1Cとも呼ばれることがある)は、主に3ヶ月の平均血漿グルコース濃度を特定するために測定される一形態のヘモグロビンである。赤血球の寿命は4ヶ月(120日)であるため、検査は平均3ヶ月に制限される。
図6Cは、治療前後の時間の関数としての患者のHbA1C検査の結果を示す。
【0207】
実施例7.腎臓疾患および障害のためのミトコンドリア増強療法。
標題:腎臓疾患および障害を有する患者におけるミトコンドリアで富化された幹細胞の移植の安全性、生着、および治療効果を評価するための第I/II相非盲検単回投与臨床試験。
【0208】
デザイン:登録されたすべての患者は、腎臓疾患または障害の確定診断を有する。ミトコンドリアのドナーは、mtDNAの異常を担持していないことが確認されている。適格患者は、試験に登録され、短期間入院し、治療手順を受ける。治療の安全性、有害事象(AE)、および疾患の評価は、治療期間中および治療後のフォローアップ期間を通じて記録される。
【0209】
治療用量:体重1kgあたり最大4^106細胞の治療用細胞用量が、臨床科の所定の標準手順に従ってIV注入によって移植される。
【0210】
主要安全性評価項目の評価:対象は、登録から開始して、CTCAE v4.03に従い、細胞による治療後の有害事象について評価される。
【0211】
主要有効性評価項目の評価:代謝危機の年間発生率の変化、野生型mtDNAの相対的存在量の変化。
【0212】
副次的有効性評価項目の評価:MNV-BM-BLD(血液由来ミトコンドリアで富化した骨髄細胞)の全身的利益および遠位器官への影響(治療の前年における増加率と比較した、入院回避、輸血回避、標準成長曲線上の体重増加)。追加の患者固有の個別の転帰は、疾患標的器官の変化(試験の前年と比較した、クレアチニンクリアランスによって測定された腎糸球体機能;カリウムおよびマグネシウムの血清および尿中レベルによって測定された腎尿細管機能;インスリン必要量、C-ペプチドおよびヘモグロビンA1cによって評価された内分泌膵臓機能;外分泌膵臓機能および下痢の割合;ベースラインと比較した脳MRI所見の変化;生活の質(QoL)質問票/PEDI-CAT(子どもの能力低下評価法-コンピューター適応型テスト)スコア)を含む。
【0213】
予備的有効性評価:機能評価(全体的運動機能測定によって評価された神経筋機能);6分間の歩行テスト;ストレステスト;発達テスト;WIPSSI(ウェクスラー式幼児用知能検査);記憶テスト;反応時間;ボックス&ブロックテスト;30秒椅子立ち上がり;支えなしでの立ち上がり);病理学的評価(心エコー検査;骨髄穿刺+生検;リンパ球O2消費、ATP含有量、TMRE/MTG)。
【0214】
本発明は、本明細書に記載の特定の実施形態によって範囲が限定されない。実際、本明細書に記載されたものに加えて、本発明の様々な修正が、前述の説明および添付の図面から当業者に明らかになるであろう。かかる修正は、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図される。