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特許7586881希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石、その製造方法、および水素化プラセオジムの使用
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  • 特許-希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石、その製造方法、および水素化プラセオジムの使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石、その製造方法、および水素化プラセオジムの使用
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20241112BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20241112BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20241112BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20241112BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241112BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20241112BHJP
   C22C 28/00 20060101ALN20241112BHJP
【FI】
H01F1/057 170
H01F41/02 G
C22C38/00 303D
B22F3/00 F
B22F1/00 Y
B22F1/05
C22C28/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022189055
(22)【出願日】2022-11-28
(65)【公開番号】P2023081336
(43)【公開日】2023-06-09
【審査請求日】2022-11-29
(31)【優先権主張番号】202111442427.3
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520018200
【氏名又は名称】包頭天和磁気材料科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】呉樹傑
(72)【発明者】
【氏名】董義
(72)【発明者】
【氏名】張帥
(72)【発明者】
【氏名】賈祺
(72)【発明者】
【氏名】付▲ゆ▼
(72)【発明者】
【氏名】袁易
(72)【発明者】
【氏名】陳雅
(72)【発明者】
【氏名】袁文傑
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-082040(JP,A)
【文献】国際公開第2018/034264(WO,A1)
【文献】特開2014-130888(JP,A)
【文献】特開2021-158342(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146888(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057
H01F 41/02
C22C 38/00
B22F 3/00
B22F 1/00
B22F 1/05
C22C 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(R1,R2)-T-B-M希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石であって、
前記希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石は、主相結晶粒および粒界相を含有する焼結体から構成されており、
前記主相結晶粒は、(R1,R2)14B相からなり、前記主相結晶粒のエッジのPr濃度Cが前記主相結晶粒の中心のPr濃度Cより高く、
前記粒界相のR1濃度は、主相結晶粒のR1濃度より高く、かつ、前記粒界相の平均厚さが20~40nmであり、
R1は、NdおよびGd元素から選ばれた1種または複数種であり、かつNdがR1の総原子数の50at%以上であり、
R2はPr元素であり、
Tは、Fe、CoおよびNi元素から選ばれた1種または複数種であり、かつCoとNiはTの総原子数の3at%以下であり、
Bはホウ素元素であり、
Mは、Al、Cu、Ga、Zn、Bi、Zr、Ti、Nb、V、MoおよびW元素から選ばれた1種または複数種であり、かつMの総原子数が前記焼結体の5at%以下であり、
前記焼結体の組成として、R1:28~31wt%、R2:0.1~5wt%、B:0.6~1.6wt%、Co:0.1~3.9wt%、Cu:0.05~1.0wt%、Zr:0.06~0.25wt%、Ga:0.1~0.3wt%、残部が実質的にFeであり、
希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の残留磁束密度が14.50kGs以上であり、固有保磁力が14.0kOe以上であり、20~150℃範囲内の残留磁束密度温度係数が0.113%/℃未満であり、かつ20~150℃範囲内の保磁力温度係数が0.573%/℃未満であること
を特徴とする、(R1,R2)-T-B-M希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石。
【請求項2】
前記主相結晶粒のエッジから前記主相結晶粒の中心に向かってPr濃度が徐々に低下することを特徴とする請求項1に記載の希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石。
【請求項3】
前記主相結晶粒のエッジのPr濃度Cが前記主相結晶粒の中心のPr濃度Cより0.25wt%以上高いことを特徴とする請求項1に記載の希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石。
【請求項4】
前記焼結体におけるZrの含有量が0.1~0.16wt%であり、Gaの含有量が0.15~0.25wt%であることを特徴とする請求項に記載の希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石。
【請求項5】
重希土類元素を含有しないことを特徴とする請求項1~のいずれの1項に記載の希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石、その製造方法、および水素化プラセオジムの使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車、電気自動車、省エネエアコンコンプレッサーの需要量が高まるに伴い、高保磁力、低温度係数の永久磁石材料の需要量が高まっている。多量の重希土類元素の使用は、永久磁石材料の保磁力と温度係数を改善できる。しかし、これはコストの大幅な増加をもたらし、残留磁束密度と磁気エネルギー積が一部犠牲になる。各元素の原子組成がNd14.1Co1.34Cu0.04Febal5.84である合金シートを製造し、合金シートを粒子径10~100μmの粗粉に水素粉砕した後、粗粉を窒素雰囲気中でジェットミリングにて平均粒子径3.38μmの微細粉末とし、平均粒子径1.8μmのD粉末を微細粉末と混合し、1800kA/mの磁界および300MPaで静水等方圧成形し、グリーン体を真空条件下で1040~1060℃で2h焼結し、次にガス冷却して焼入れし、次にそれぞれ900℃と500℃で2h焼き戻す。当該方法では、重希土類Dyを使用する必要があり、D粉末を微細粉末と直接混合する。当該方法では、磁石の保磁力を大幅に向上させることができるが、残留磁束密度が低下しすぎて、保磁力と残留磁束密度のバランスが取れなくなる。
【0003】
Co、Ni元素を添加することで磁石の温度係数を改善できるが、Co、Ni元素の過剰添加は磁石性能の低下につながり、かつ、Co、Ni元素は戦略元素で、価格が比較的高いものである。CN111696742Aには、異方性磁石材料(Nd、Pr)Fe(100-x-y-z)、補助相材料PrNi100-bを用意して、異方性磁石材料と補助相材料を均一に混合して混合磁性粉末とした後、配向プレス成形、焼結および焼戻し処理を順に行って、重希土類を含まない高性能ネオジム-鉄-ボロン材料を得る、重希土類を含まない高性能ネオジム-鉄-ボロン永久磁石材料の製造方法が開示されている。CN104575899Aには、主合金粉末と希土類コバルト化合物粉末を直接混合してから成形することにより、得られた磁石の粒界相の平均厚さが大きくなる焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の製造方法が開示されている。これらの方法では、磁石の保磁力を向上させることができるが、残留磁束密度の低下を抑えることができず、保磁力と残留磁束密度のバランスをうまく取ることができない。
【発明の概要】
【0004】
一態様において、本発明は、希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の保磁力と残留磁気が良好なバランスを達成できる、(R1、R2)-T-B-M希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石を提供しる。さらに、本発明に係る希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石は、低い残留磁束密度温度係数および保磁力温度係数を有する。
【0005】
もう一つの態様において、本発明は、(R1、R2)-T-B-M希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の製造方法を提供する。当該製造方法は、従来の方法とは異なり、残留磁束密度の低下を抑えるため、希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の保磁力と残留磁束密度が良好なバランスを取ることができる。
【0006】
もう一つの態様において、本発明は、水素化プラセオジムの使用を提供する。
【0007】
一つの態様において、本発明は、(R1,R2)-T-B-M希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石であって、
前記希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石は、主相結晶粒および粒界相を含有する焼結体から構成されており、
前記主相結晶粒は、(R1,R2)14B相からなり、前記主相結晶粒のエッジのPr濃度Cが前記主相結晶粒の中心のPr濃度Cより高く、
前記粒界相のR1濃度は、主相結晶粒のR1濃度より高く、かつ、前記粒界相の平均厚さが20~60nmであり、
R1は、NdおよびGd元素から選ばれた1種または複数種であり、かつNdがR1の総原子数の50at%以上であり、
R2はPr元素であり、
Tは、Fe、CoおよびNi元素から選ばれた1種または複数種であり、かつCoとNiはTの総原子数の3at%以下であり、
Bはホウ素元素であり、
Mは、Al、Cu、Ga、Zn、Bi、Zr、Ti、Nb、V、MoおよびW元素から選ばれた1種または複数種であり、かつMの総原子数が前記焼結体の5at%以下である(R1,R2)-T-B-M希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石を提供する。
【0008】
本発明に係る希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石によれば、好ましくは、前記主相結晶粒のエッジから前記主相結晶粒の中心に向かってPr濃度が徐々に低下する。
【0009】
本発明に係る希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石によれば、好ましくは、前記主相結晶粒のエッジのPr濃度Cが前記主相結晶粒の中心のPr濃度Cより0.25wt%以上高い。
【0010】
本発明に係る希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石によれば、好ましくは、前記焼結体の組成として、R1:28~31wt%、R2:0.1~5wt%、B:0.6~1.6wt%、Co:0.1~3.9wt%、Cu:0.05~1.0wt%、Zr:0.06~0.25wt%、Ga:0.1~0.3wt%、残部が実質的にFeである。
【0011】
本発明に係る希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石によれば、好ましくは、前記焼結体におけるZrの含有量が0.1~0.16wt%であり、Gaの含有量が0.15~0.25wt%である。
【0012】
本発明に係る希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石によれば、好ましくは、重希土類元素を含有しない。
【0013】
本発明に係る希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石によれば、好ましくは、希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の残留磁束密度が14.50kGs以上であり、固有保磁力が14.0kOe以上であり、20~150℃範囲内の残留磁束密度温度係数が0.113%/℃未満であり、かつ20~150℃範囲内の保磁力温度係数が0.573%/℃未満である。
【0014】
もう一つの態様において、本発明は、
(a)希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の原料である、R1、T、BおよびMを溶解して母合金シートを得る工程、
(b)母合金シートを平均粒子度D50が20~500μmである合金粗粉に破砕する工程、
(c)合金粗粉をプラセオジム含有粉末とジェットミリングにて平均粒子度D50が1~10μmである磁性粉末に粉砕工程であって、前記プラセオジム含有粉末は水素化プラセオジムまたはPr-M合金粉末である工程、
(d)磁性粉末を、磁界に置いてプレスし、静水等方圧プレス処理を経ってグリーン体を得る工程、
(e)グリーン体を真空熱処理および2段階焼戻しを経て、希土類焼結永久磁石を得る工程、
を含む、前記希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の製造方法を提供する。
【0015】
本発明に係る製造方法によれば、好ましくは、合金粗粉の質量に基づいて、プラセオジム含有粉末の使用量が0.1~5.0wt%である。
【0016】
もう一つの態様において、本発明は、希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の残留磁束密度と保磁力とのバランス係数を改善するための水素化プラセオジムの使用であって、合金粗粉を、水素化プラセオジム粉末とジェットミリングにて磁性粉末に粉砕し、合金粗粉の質量に基づいて、水素化プラセオジム粉末の使用量が0.1~5.0wt%であり、
前記合金粗粉の組成がR1-T-B-Mであり、
R1は、NdおよびGd元素から選ばれた1種または複数種であり、かつNdがR1の総原子数の50at%以上であり、
Tは、Fe、CoおよびNi元素から選ばれた1種または複数種であり、かつCoとNiはTの総原子数の3at%以下であり、
Bはホウ素元素であり、
Mは、Al、Cu、Ga、Zn、Bi、Zr、Ti、Nb、V、MoおよびW元素から選ばれた1種または複数種であり、かつMの総原子数が前記焼結体の5at%以下であり、
前記残留磁束密度と保磁力とのバランス係数Eの計算式は、次のとおりである、
E=X2/X1
X1=(Br1-Br2)/Br1
X2=(Hcj2-Hcj1)/Hcj1
(Br1は、ジェットミリング工程にて水素化プラセオジム粉末を添加せずに得られた希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の残留磁束密度を表し、単位がkGsであり、
Br2は、ジェットミリング工程にて水素化プラセオジム粉末を添加して得られた希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の残留磁束密度を表し、単位がkGsであり、
Hcj1は、ジェットミリング工程にて水素化プラセオジム粉末を添加せずに得られた希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の保磁力を表し、単位がkOeであり、
Hcj2は、ジェットミリング工程にて水素化プラセオジム粉末を添加して得られた希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の保磁力を表し、単位がkOeである。)
希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の残留磁束密度と保磁力とのバランス係数を改善するための水素化プラセオジムの使用を提供する。
【0017】
本発明に係る希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石は、比較的に高い保磁力と残留磁束密度を有し、両者の良好なバランスを達成できる。さらに、本発明に係る希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石は、比較的に低い残留磁束密度温度係数と保磁力温度係数を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施例1で得られた希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれに限られないものである。
【0020】
本発明において、残留磁束密度とは、飽和磁気ヒステリシス線におけるゼロの磁界強さに対応する磁束密度の数値を意味し、通常、BrまたはMrと表記され、単位は、テスラ(T)またはガウス(Gs)である。1Gs=0.0001T。
【0021】
本発明において、保磁力は、固有保磁力とも呼ばれ、磁石の飽和磁化状態から磁界をゼロに単調に減少させ、そして逆方向に増加させ、その磁化強さを飽和磁気ヒステリシス線に沿ってゼロまで減少させる時の磁界強さを指し、通常Hcjと表記され、単位はエルステッド (Oe)またはアン/メートル(A/m)である。1Oe=79.6A/m。Hcjは室温での固有保磁力である。
【0022】
本発明において、不活性ガスは、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、キセノンガスなどを含む。真空とは絶対真空度を意味し、その数値が小さいほど真空度が高いことを示す。
【0023】
本発明において、平均粒子度D50とは、粒子度分布曲線における累積分布が50%であるときの最大粒子の等価直径を指す。
【0024】
本発明において、「at%」とは、原子百分率を指す。
【0025】
本発明は、磁石の残留磁束密度と保磁力との良好なバランスを実現することを目的とする。残留磁束密度と保磁力とのバランス係数Eの計算式は、以下のとおりである。
【0026】
E=X2/X1
X1=(Br1-Br2)/Br1
X2=(Hcj2-Hcj1)/Hcj1
Br1は、改質粉末を添加せずに得られた希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石的残留磁束密度を表し、単位はkGsである。いくつかの実施形態において、Br1は、ジェットミリング工程にて水素化プラセオジム粉末を添加せずに得られた希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の残留磁束密度を表し,単位はkGsである。
【0027】
Br2は、改質粉末を添加して得られた希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の残留磁束密度を表し、単位はkGsである。いくつかの実施形態において、Br2は、ジェットミリング工程に水素化プラセオジム粉末を添加して得られた希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の残留磁束密度を表し、単位はkGsである。
【0028】
Hcj1は、改質粉末を添加せずに得られた希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の保磁力を表し、単位はkOeである。いくつかの実施形態において、Hcj1は、ジェットミリング工程に添加水素化プラセオジム粉末を添加せずに得られた希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の保磁力を表し、単位はkOeである。
【0029】
Hcj2は、改質粉末を添加して得られた希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の保磁力を表し、単位はkOeである。いくつかの実施形態において、Hcj2は、ジェットミリング工程に水素化プラセオジム粉末を添加して得られた希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の保磁力を表し、単位はkOeである。
【0030】
本発明では、合金粗粉を微細磁性粉末に粉砕するジェットミリング工程にプラセオジム含有粉末を添加することにより、得られた磁石の粒界相の厚さを一定の範囲に維持し、プラセオジムが主相粒子中に勾配分布を示すため、磁石の残留磁束密度と保磁力との良好なバランスを実現できることを見出した。これに基づき、本発明を完了する。
【0031】
<希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石>
本発明に係る希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石は、下式に示す元素組成を有する。
(R1,R2)-T-B-M
【0032】
希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石は、主相結晶粒と粒界相を含有する焼結体から構成される。いくつかの実施形態において、希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石は、焼結体と同じ意味を持つ。
【0033】
R1は、NdとGd元素から選ばれ1種または複数種である。NdはR1総原子数の50at%以上であり、好ましくは、NdがR1総原子数の80at%以上であり、より好ましくはNdがR1総原子数の95at%以上である。本発明の1つの実施形態によれば、R1はNdである。
【0034】
R2はPr元素である。
【0035】
Tは、Fe、CoおよびNi元素から選ばれた1種または複数種である。CoとNiは、Tの総原子数の3at%以下であり、好ましくはCoとNiはTの総原子数の2at%以下であり、より好ましくはCoとNiは、Tの総原子数の1~1.5at%である。本発明の1つの実施形態によれば、TはFeとCoである。
【0036】
Bは、ホウ素元素である。
【0037】
Mは、Al、Cu、Ga、Zn、Bi、Zr、Ti、Nb、V、MoおよびW元素から選ばれた1種または複数種である。好ましくはMがCu、ZrおよびGaである。Mの総原子数は、焼結体の5at%以下であり、好ましくは4at%以下であり、より好ましくは3at%以下であり、最も好ましくは0.1~2at%である。本発明の1つの実施形態によれば、Mの総原子数は焼結体の0.3~1at%である。
【0038】
本発明に係る希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石は、主相結晶粒が、(R1,R2)14B相からなる。本発明者らは、主相結晶粒のエッジのPr濃度Cが主相結晶粒の中心のPr濃度Cより高いことを見出した。主相結晶粒のエッジのPr濃度Cは、前記主相結晶粒の中心のPr濃度Cより0.25wt%以上高い。好ましくは主相結晶粒のエッジのPr濃度Cが前記主相結晶粒の中心のPr濃度Cより0.40wt%以上高く、より好ましくは、主相結晶粒のエッジのPr濃度Cが前記主相結晶粒の中心のPr濃度Cより0.50wt%以上高い。いくつかの実施形態において、主相結晶粒のエッジのPr濃度Cと前記主相結晶粒の中心のPr濃度Cとの濃度差(C-C)は、0.25~0.70wt%の範囲であり、好ましくは0.40~0.70wt%の範囲であり、より好ましくは0.45~0.65wt%の範囲である。本発明の1つの実施形態によれば、主相結晶粒のエッジのPr濃度Cと前記主相結晶粒の中心のPr濃度Cとの濃度差(C-C)は0.53~0.57wt%である。Pr濃度差が小さすぎると、保磁力の向上に不利であり、Pr濃度差が大きすぎると、残留磁束密度、残留磁束密度温度係数および保磁力温度係数に不良な影響を与える。前記範囲のPr濃度差は、磁石の保磁力と残留磁束密度が良好なバランスを達成することに有利である。
【0039】
本発明の1つの実施形態によれば、Pr濃度は、主相結晶粒のエッジから主相結晶粒の中心に沿って徐々に低下する。したがって、Pr濃度は、勾配分布を示す。これにより、磁石の保磁力と残留磁束密度の良好なバランスをさらに確保することができる。
【0040】
粒界相のR1濃度A1は、主相結晶粒のR1濃度A2より高い。粒界相の平均厚さLは20~60nmであり、好ましくは20~40nmであり、より好ましくは22~27nmである。粒界相の厚さが小さすぎると、磁石の保磁力は、明らかに向上できず、粒界相の厚さが大きすぎると、残留磁束密度は大幅に低下し、かつ、残留磁束密度温度係数と保磁力温度係数は、明らかに上昇する。前記範囲の粒界相厚さは、磁石の保磁力と残留磁束密度との良好なバランスを達成することに有利である。
【0041】
本発明に係る焼結体は、R1、R2、B、Co、Cu、Zr、GaおよびFeなどの元素を含む。いくつかの実施形態において、本発明に係る焼結体は、R1、R2、B、Co、Cu、Zr、GaおよびFeからなる。
【0042】
焼結体の質量に基づいて、R1の含有量は28~31wt%であってもよく、好ましくは28~30wt%であり、より好ましくは28~29wt%である。
【0043】
焼結体の質量に基づいて、R2の含有量は0.1~5wt%であってもよく、好ましくは1.0~3wt%であり、より好ましくは1.5~2.5wt%であり、最も好ましくは1.7~2.0wt%である。
【0044】
焼結体の質量に基づいて、Bの含有量は0.6~1.6wt%であってもよく、好ましくは0.7~1.3wt%であり、より好ましくは0.9~1.0wt%である。
【0045】
焼結体の質量に基づいて、Coの含有量は0.1~3.9wt%であってもよく、好ましくは0.7~1.3wt%であり、より好ましくは0.9~1.0wt%である。
【0046】
焼結体の質量に基づいて、Cuの含有量は0.05~1.0wt%であってもよく、好ましくは0.10~0.70wt%であり、より好ましくは0.12~0.20wt%である。
【0047】
焼結体の質量に基づいて、Zrの含有量は0.06~0.25wt%であってもよく、好ましくは0.1~0.16wt%であり、より好ましくは0.13~0.15wt%である。
【0048】
焼結体の質量に基づいて、Gaの含有量は0.1~0.3wt%であってもよく、好ましくは0.15~0.25wt%であり、より好ましくは0.18~0.20wt%である。
【0049】
残部はFeである。
【0050】
各元素を上記範囲に制御することにより、保磁力と残留磁束密度とが良好なバランスを達成した希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石を得ることに有利である。
【0051】
本発明の1つの実施形態によれば、本発明に係る希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石は、重希土類元素を含有しない。重希土類元素は、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ルビジウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびルビジウム(Lu)である。これにより、コストを削減し、かつ保磁力と残留磁束密度との良好なバランスをよりよく確保することができる。
【0052】
本発明に係る希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石は、残留磁束密度が14.50kGs以上であり、好ましくは14.60kGs以上であり、より好ましくは14.65kGs以上である。残留磁束密度は、16.1kGs未満であってもよく、好ましくは15.8kGs未満であり、より好ましくは15.5kGsである。固有保磁力は14.0kOe以上であり、好ましくは16.3kOe以上であり、より好ましくは16.5kOe以上である。固有保磁力は、29kOe未満であってもよく、好ましくは25kOe未満であり、より好ましくは19kOe未満である。20~150℃温度範囲内の残留磁束密度温度係数は、0.113%/℃未満であり、好ましくは0.110%/℃未満であり、より好ましくは0.109%/℃未満である。残留磁束密度温度係数は、0を超えてもよく、好ましくは0.05%/℃を超え、より好ましくは0.08%/℃を超える。20~150℃範囲内の保磁力温度係数は、0.573%/℃未満であり、好ましくは0.570%/℃未満であり、より好ましくは0.565%/℃未満である。保磁力温度係数は、0を超え、好ましくは0.1%/℃を超え、より好ましくは0.3%/℃を超える。
【0053】
本発明に係る希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石は、残留磁束密度と保磁力とのバランス係数Eが25以上であってもよく、好ましくは35以上であり、より好ましくは39以上である。バランス係数Eは、150以下であってもよく、好ましくは100以下であり、より好ましくは80以下である。バランス係数Eの定義は、前述したとおりである。
【0054】
<希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の製造方法>
本発明に係る希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の製造方法は、(a)溶解工程、(b)破砕工程、(c)ジェットミリング工程、(d)成形工程、(e)焼結・時効処理工程を含む。これらについて、以下に詳しく説明する。
【0055】
溶解工程
R1、T、BおよびMを含む希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の原料を溶解して母合金シートを得る。好ましくは、希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の原料がR1、T、BおよびMからなる。R1は、NdとGd元素から選ばれた1種または複数種である。NdはR1総原子数の50at%以上であり、好ましくはNdがR1総原子数の80at%以上であり、より好ましくはNdがR1総原子数の95at%以上である。本発明の1つの実施形態によれば、R1はNdである。Tは、Fe、CoおよびNi元素から選ばれた1種または複数種である。CoとNiは、Tの総原子数の3at%以下であり、好ましくはCoとNiがTの総原子数の2at%以下であり、より好ましくはCoとNiがTの総原子数の1~1.5at%である。本発明の1つの実施形態によれば、Tは、FeとCoである。Bは、ホウ素元素である。Mは、Al、Cu、Ga、Zn、Bi、Zr、Ti、Nb、V、MoおよびW元素から選ばれた1種または複数種である。好ましくはMがCu、ZrおよびGaである。Mの総原子数は、原料の5at%以下であり、好ましくは4at%以下であり、より好ましくは3 at%以下、最も好ましくは0.1~2at%である。本発明の1つの実施形態によれば、Mの総原子数は、原料の0.3~1at%である。
【0056】
本発明に係る希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の原料は、R1、B、Co、Cu、Zr、GaおよびFeなどの元素を含む。いくつかの実施形態において、本発明に係る希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の原料は、R1、B、Co、Cu、Zr、GaおよびFeからなる。希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の原料の質量に基づいて、R1の含有量は、28~31wt%であってもよく、好ましくは28~30wt%であり、より好ましくは28~29wt%である。Bの含有量は0.6~1.6wt%であってもよく、好ましくは0.7~1.3wt%であり、より好ましくは0.9~1.0wt%である。Coの含有量は、0.1~3.9wt%であってもよく、好ましくは0.7~1.3wt%であり、より好ましくは0.9~1.0wt%である。Cuの含有量は0.05~1.0wt%であってもよく、好ましくは0.10~0.70wt%であり、より好ましくは0.12~0.20wt%である。Zrの含有量は、0.06~0.25wt%であってもよく、好ましくは0.1~0.16wt%であり、より好ましくは0.13~0.15wt%である。Gaの含有量は、0.1~0.3wt%であってもよく、好ましくは0.15~0.25wt%であり、より好ましくは0.18~0.20wt%である。残部はFeである。本発明の1つの実施形態によれば、本発明に係る希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の原料は、重希土類元素を含有しなくもよい。重希土類元素は、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ルビジウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびルビジウム(Lu)である。
【0057】
希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の組成に応じて原料を配合する。いくつかの実施形態において、原料は、Nd、B、Co、Cu、Zr、GaおよびFeからなる。Ndの含有量は28~31wt%であってもよく、好ましくは28~30wt%であり、より好ましくは28~29wt%である。Bの含有量は、0.6~1.6wt%であってもよく、好ましくは0.7~1.3wt%であり、より好ましくは0.9~1.0wt%である。Coの含有量は、0.1~3.9wt%であってもよく、好ましくは0.7~1.3wt%であり、より好ましくは0.9~1.0wt%である。Cuの含有量は、0.05~1.0wt%であってもよく、好ましくは0.10~0.70wt%であり、より好ましくは0.12~0.20wt%である。Zrの含有量は、0.06~0.25wt%であってもよく、好ましくは0.1~0.16wt%であり、より好ましくは0.13~0.15wt%である。Gaの含有量は0.1~0.3wt%であってもよく、好ましくは0.15~0.25wt%であり、より好ましくは0.18~0.20wt%である。残部はFeである。
【0058】
溶解は、真空溶解炉に行ってもよい。得られた母合金シートの平均厚さは、0.05~1.00mmであってもよく、好ましくは0.1~0.8mmであり、より好ましくは0.2~0.5mmである。
【0059】
破砕工程
母合金シートを合金粗粉に破砕する。合金粗粉の平均粒子度D50は、20~500μmであり、好ましくは50~300μmであり、より好ましくは80~150μmである。水素破砕という方法を採用して合金粗粉を得ることができ、例えば、母合金シートを水素破砕炉にて合金粗粉を形成するように水素吸蔵・脱水素処理を行ってもよい。
【0060】
ジェットミリング工程
伝統的なジェットミリング工程において、合金粗粉を直接合金微細粉末に粉砕する。本発明では、ジェットミリング工程にプラセオジム含有粉末を添加することにより、プラセオジム含有粉末で合金微細粉末の少なくとも一部を被覆することを促進する。合金粗粉とプラセオジム含有粉末をジェットミリングにて磁性粉末に粉砕する。磁性粉末の平均粒子度D50は1~10μmであり、好ましくは2~7μmであり、より好ましくは3~5μmである。
【0061】
本発明に係るプラセオジム含有粉末は、水素化プラセオジムまたはPr-M合金粉末であってもよい。Pr-M合金粉末において、Mは、Al、Cu、Ga、Zn、Bi、Zr、Ti、Nb、V、MoおよびW元素から選ばれた1種または複数種である。好ましくはMがCu、ZrおよびGaである。Pr-M合金粉末はPr-Ni合金粉末またはPr-Co合金粉末ではない。これら2種類の合金粉末は、高価である一方、磁石の残留磁束密度と保磁力とのバランスの改善には効果が顕著ではなく、本発明のPr-M合金粉末よりもさらに劣っている。
【0062】
本発明の1つの実施形態によれば、プラセオジム含有粉末は水素化プラセオジム粉末である。このような粉末は、安価で入手しやすいだけでなく、磁石の残留磁束密度と保磁力とのバランスを改善する効果が非常に顕著である。このような技術的効果は予想できない。
【0063】
本発明のもう1つの実施形態によれば、Pr-M合金粉末は、Pr-Cu合金粉末である。Pr-Cu合金粉末におけるPrは50at%以上であり、好ましくは60at%以上であり、より好ましくは65~75at%である。
【0064】
合金粗粉の質量に基づいて、プラセオジム含有粉末の使用量は0.1~5.0wt%であり、好ましくは1.0~4.0wt%であり、より好ましくは1.5~2.5wt%である。
【0065】
ジェットミリング工程は、窒素雰囲気中で行ってもよい。
【0066】
成形工程
磁性粉末を磁界に置いてプレスし、そして静水等方圧プレス処理を経ってグリーン体を得る。
【0067】
成形工程は、成形プレスでプレス成形してもよい。好ましくは、窒素保護下で行う。
【0068】
磁界強さは、1.0Tを超え、好ましくは1.5Tを超え、より好ましくは1.7Tを超える。
【0069】
グリーン体の密度は2.5~5.5g/cmであってもよく、好ましくは3.5~5.0g/cmであり、より好ましくは4.0~4.5g/cmである。
【0070】
焼結・時効処理工程
グリーン体を真空熱処理および2段階焼き戻し処理を経って希土類焼結永久磁石を得る。
【0071】
真空熱処理の真空条件とは、絶対真空度が0.5Pa未満であり、好ましくは0.3Pa未満であり、より好ましくは0.1Pa未満であることを意味する。熱処理温度は、850~1300℃であってもよく、好ましくは950~1200℃であり、より好ましくは1000~1100℃である。熱処理時間は、2~10hであってもよく、好ましくは3~8hであり、より好ましくは4~7hである。
【0072】
一次焼戻し温度は、600~1050℃であってもよく、好ましくは700~1000℃であり、より好ましくは800~950℃である。一次焼戻し時間は、1~6hであってもよく、好ましくは2~5hであり、より好ましくは3~4hである。一次焼戻しは、真空条件で行う。真空条件とは、絶対真空度が0.5Pa未満であることを意味し、好ましくは0.3Pa未満であり、より好ましくは0.1Pa未満である。
【0073】
二次焼戻し温度は、300~700℃であってもよく、好ましくは400~600℃であり、より好ましくは450~550℃である。二次焼戻し時間は、3~10hであってもよく、好ましくは4~8hであり、より好ましくは5~7hである。二次焼戻しは、真空条件で行う。真空条件とは、絶対真空度が0.5Pa未満であることを意味し、好ましくは0.3Pa未満であり、より好ましくは0.1Pa未満である。
【0074】
<水素化プラセオジムの使用>
本発明は、希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の残留磁束密度と保磁力とのバランス係数を改善するための水素化プラセオジムの使用を提供する。残留磁束密度と保磁力とのバランス係数は、Eとして表すことができ、下記の式で計算される。
【0075】
E=X2/X1
X1=(Br1-Br2)/Br1
X2=(Hcj2-Hcj1)/Hcj1
Br1は、ジェットミリング工程にて水素化プラセオジム粉末を添加せずに得られた希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の残留磁束密度を表し、単位がkGsであり、
Br2は、ジェットミリング工程にて水素化プラセオジム粉末を添加して得られた希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の残留磁束密度を表し、単位がkGsであり、
Hcj1は、ジェットミリング工程にて水素化プラセオジム粉末を添加せずに得られた希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の保磁力を表し、単位がkOeであり、
Hcj2は、ジェットミリング工程にて水素化プラセオジム粉末を添加して得られた希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の保磁力を表し、単位がkOeである。
【0076】
本発明に係る希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の残留磁束密度と保磁力とのバランス係数Eは、25以上であってもよく、好ましくは35以上であり、より好ましくは39以上である。バランス係数Eは、150以下であってもよく、好ましくは100以下であり、より好ましくは80以下である。
【0077】
本発明に係る使用において、合金粗粉と水素化プラセオジム粉末をジェットミリングにて粗粉に粉砕する。合金粗粉の質量に基づいて、水素化プラセオジム粉末の使用量は0.1~5.0wt%であり、好ましくは1.0~4.0wt%であり、より好ましくは2.0~3.0wt%である。ジェットミリング工程の他、本発明に係る使用は、さらに溶解工程、破碎工程、成形工程および焼結・時効処理工程を含んでもよい。具体的なプロセス条件は、前述したとおりである。
【0078】
本発明に係る合金粗粉の組成は、R1-T-B-Mを有し、好ましくはR1-T-B-Mである。
【0079】
R1は、NdおよびGd元素から選ばれた1種または複数種である。NdはR1総原子数の50at%以上であり、好ましくはNdがR1総原子数の80at%以上であり、より好ましくはNdがR1総原子数の95at%以上である。本発明の1つの実施形態によれば、R1はNdである。
【0080】
Tは、Fe、CoおよびNi元素から選ばれた1種または複数種である。CoとNiは、Tの総原子数の3at%以下であり、好ましくはCoとNiがTの総原子数の2at%以下であり、より好ましくはCoとNiがTの総原子数の1~1.5at%である。本発明の1つの実施形態によれば、Tは、FeとCoである。
【0081】
Bは、ホウ素元素である。
【0082】
Mは、Al、Cu、Ga、Zn、Bi、Zr、Ti、Nb、V、MoおよびW元素から選ばれた1種または複数種である。好ましくはMがCu、ZrおよびGaである。Mの総原子数は、合金粗粉の5at%以下であり、好ましくは4at%以下であり、より好ましくは3 at%以下であり、最も好ましくは0.1~2at%である。本発明の1つの実施形態によれば、Mの総原子数は合金粗粉の0.3~1at%である。
【0083】
本発明に係る合金粗粉は、R1、B、Co、Cu、Zr、GaおよびFeなどの元素を含む。いくつかの実施形態において、本発明に係る合金粗粉は、R1、B、Co、Cu、Zr、GaおよびFeからなる。合金粗粉の質量に基づいて、R1の含有量は、28~31wt%であってもよく、好ましくは28~30wt%であり、より好ましくは28~29wt%である。Bの含有量は、0.6~1.6wt%であってもよく、好ましくは0.7~1.3wt%であり、より好ましくは0.9~1.0wt%である。Coの含有量は、0.1~3.9wt%であってもよく、好ましくは0.7~1.3wt%であり、より好ましくは0.9~1.0wt%である。Cuの含有量は、0.05~1.0wt%であってもよく、好ましくは0.10~0.70wt%であり、より好ましくは0.12~0.20wt%である。Zrの含有量は0.06~0.25wt%であってもよく、好ましくは0.1~0.16wt%であり、より好ましくは0.13~0.15wt%である。Gaの含有量は、0.1~0.3wt%であってもよく、好ましくは0.15~0.25wt%であり、より好ましくは0.18~0.20wt%である。残部はFeである。本発明の1つの実施形態によれば、本発明に係る合金粗粉は、重希土類元素を含有しない。重希土類元素は、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ルビジウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびルビジウム(Lu)である。
【0084】
本発明の1つの実施形態によれば、合金粗粉は、Nd、B、Co、Cu、Zr、GaおよびFeからなってもよい。Ndの含有量は28~31wt%であってもよく、好ましくは28~30wt%であり、より好ましくは28~29wt%である。Bの含有量は、0.6~1.6wt%であってもよく、好ましくは0.7~1.3wt%であり、より好ましくは0.9~1.0wt%である。Coの含有量は、0.1~3.9wt%であってもよく、好ましくは0.7~1.3wt%であり、より好ましくは0.9~1.0wt%である。Cuの含有量は、0.05~1.0wt%であってもよく、好ましくは0.10~0.70wt%であり、より好ましくは0.12~0.20wt%である。Zrの含有量は0.06~0.25wt%であってもよく、好ましくは0.1~0.16wt%であり、より好ましくは0.13~0.15wt%である。Gaの含有量は、0.1~0.3wt%であってもよく、好ましくは0.15~0.25wt%であり、より好ましくは0.18~0.20wt%である。残部はFeである。
【0085】
ジェットミリング工程において、合金粗粉と水素化プラセオジム粉末を含む原料をジェットミリングにて磁性粉末に粉砕する。磁性粉末の平均粒子度D50は1~10μmであってもよく、好ましくは2~7μmであり、より好ましくは3~5μmである。ジェットミリング工程は、窒素雰囲気で行ってもよい。
【0086】
実施例1
溶解工程:質量パーセントで、Nd 29.0%、B 1.0%、Co 1.0%、Cu 0.15%、Zr 0.15%、Ga0.2%および残量のFeで原料を配合し、原料を真空製錬急速凝固炉にて溶解し、平均厚さ0.3mmの合金シートを作製した。
【0087】
水素破砕工程:合金シートを水素破砕炉にて水素吸蔵・脱水素処理を行って、平均粒子度D50が100μmである合金粗粉とした。
【0088】
ジェットミリング工程:合金粗粉をベースとし、2.0wt%の水素化プラセオジム粉末を添加し、均一に混合した後、窒素ガスを媒体とするジェットミリングにて平均粒子度D50が4.0μmである磁性粉末に粉砕した。
【0089】
成形工程:磁性粉末を窒素保護成形プレスに適用して、1.8T磁場を印加して配向させてグリーン体に成形し、グリーン体の密度は4.3g/cmでした。
【0090】
焼結・時効処理工程:グリーン体を絶対真空度0.1Pa未満の真空焼結炉に入れ、1070℃で5h焼結して焼結磁石を得、そして焼結磁石を絶対真空度0.1Pa未満の条件下で900℃、3hの一段焼戻しおよび500℃、5hの二段焼戻しを行って希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石を得た。
【0091】
前記希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石をD10×10mmの試料柱を加工し、BHテスターで室温と150℃での磁石の磁気特性を測定し、かつ、20~150℃範囲内の残留磁束密度温度係数αと保磁力温度係数βを計算した。
【0092】
前記希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石を、sigma500電界放出型走査電子顕微鏡で微細構造を観察し(図1参照)、EDS検出器を用いて組成分析を行った。
【0093】
希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の粒界相の平均厚さL、主相結晶粒エッジと主相結晶粒中心とのPr濃度差(C-C)および磁気性能パラメータを表1と表2に示した。
【0094】
実施例2~3および比較例1~2
ジェットミリング工程において、水素化プラセオジム粉末の使用量を変更し、他の工程は実施例1と同じとした。希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の粒界相の平均厚さL、主相結晶粒エッジと主相結晶粒中心とのPr濃度差(C-C)および磁気性能パラメータを表1と表2に示した。
【0095】
実施例4
ジェットミリング工程において、3.0%wtの Pr68Cu32合金を添加し、他の工程は、実施例1と同じであった。希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の粒界相の平均厚さL、主相結晶粒エッジと主相結晶粒中心とのPr濃度差(C-C)および磁気性能パラメータを表1と表2に示した。
【0096】
比較例3
溶解工程において、質量パーセントでNd 29.0% 、Pr 2.0%、B 1.0%、Co 1.0%、Cu 0.15%、Zr 0.15%、Ga 0.2%および残量のFeに従って原料を配合し、ジェットミリング工程において水素化プラセオジム粉末を添加せず、他の工程は、実施例1と同じであった。希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の粒界相の平均厚さL、主相結晶粒エッジと主相結晶粒中心とのPr濃度差(C-C)および磁気性能パラメータを表1と表2に示した。
【0097】
【0098】
比較例4~9
CN111696742Aの実施例1~実施例6に従って焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石を製造した。希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の粒界相の平均厚さL、主相結晶粒エッジと主相結晶粒中心とのPr濃度差(C-C)および磁気性能パラメータを表2に示した。
【0099】
比較例10~13
CN104575899Aの実施例一~実施例四に従って焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石を製造した。希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の粒界相の平均厚さL、主相結晶粒エッジと主相結晶粒中心とのPr濃度差(C-C)および磁気性能パラメータを表2に示した。
【0100】
注:Br1は、改質粉末を添加せずに得られた希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の残留磁束密度を表し,単位がkGsであり、Br2は、改質粉末を添加して得られた希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の残留磁束密度を表し、単位がkGsであり、Hcj1は、改質粉末を添加せずに得られた希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の保磁力を表し、単位がkOeであり、Hcj2は、改質粉末を添加して得られた希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石の保磁力を表し、単位がkOeである。
【0101】
表1~2から分かるように、本発明は、合金粗粉をプラセオジム含有粉末とジェットミリングにて磁性粉末に粉砕し、そして成形および焼結などの工程を経って希土類焼結ネオジム-鉄-ボロン磁石を得、これにより、磁石の残留磁束密度と保磁力を両立させることができ、両者の完璧なバランスを達成でき、バランス係数は、25以上であった。この場合、主相結晶粒のエッジのPr濃度C1は、前記主相結晶粒の中心のPr濃度C2より0.25wt%以上高く、粒界相の平均厚さは20~60nmであった。適切な使用量の水素化プラセオジム粉末を用いると、残留磁束密度と保磁力とのバランス係数は35以上と高くなる(実施例1を参照)。
【0102】
表3から分かるように、比較例1~13の磁石は、以下の条件を同時に満たすことができない。(1)主相結晶粒のエッジのPr濃度C1は、前記主相結晶粒の中心のPr濃度C2より0.25wt%以上高い。(2)粒界相の平均厚さは20~60nmである。
【0103】
表2から分かるように、比較例1では、水素化プラセオジム粉末を添加しておらず、残留磁束密度よび保磁力が比較的に低くなった。比較例2では、水素化プラセオジム粉末の使用量が多すぎで、残留磁束密度が減少しすぎているため、バランス係数が比較的に低くなった。比較例3では、原料混合工程にてPrを添加しても、保磁力が明らかに向上せず、バランス係数が比較的に低くなった。比較例4~9では、PrNi合金粉末を微細磁性粉末と直接混合したものであり、保磁力が大幅に向上したが、残留磁束密度が低下しすぎて、バランス係数が20未満であった。比較例11と12では、(PrNd)Co合金粉末を微細磁性粉末と直接混合したものであり、保磁力を向上させることができるが、残留磁束密度が低下しすぎて、バランス係数が10以下になった。比較例10と13では、DyCoまたはTbCo合金粉末を微細磁性粉末と直接混合したものであり、保磁力が明らかに向上したが、残留磁束密度がさらに低下し、バランス係数が非常に低くなった。
【0104】
【0105】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、当業者が想到し得るあらゆる変形、改良、置換等が本発明の範囲に含まれるものとする。
図1