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特許7586894共有結合リガンドのプロテオームワイドな発見のための方法およびその組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】共有結合リガンドのプロテオームワイドな発見のための方法およびその組成物
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20241112BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20241112BHJP
   C07K 1/13 20060101ALI20241112BHJP
   C12Q 1/37 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N30/72 C
C07K1/13
C12Q1/37
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022505603
(86)(22)【出願日】2020-08-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-13
(86)【国際出願番号】 US2020044897
(87)【国際公開番号】W WO2021026162
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-07-07
(31)【優先権主張番号】62/882,757
(32)【優先日】2019-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521358442
【氏名又は名称】ブリッドジーン バイオサイエンシズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】カオ ピン
(72)【発明者】
【氏名】ユアン ユアン
(72)【発明者】
【氏名】チャン チャオ
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0193831(US,A1)
【文献】国際公開第2017/070611(WO,A1)
【文献】特表2019-501363(JP,A)
【文献】ROBERTS, Allison M., et al.,Chemoproteomic screening of covalent ligands reveals UBA5 as a novel pancreatic cancer target,ACS Chemical Biology,ACS,2017年,12(4),899-904,https://doi.org/10.1021/acschembio.7b00020,ESR D1
【文献】BACKUS, Keriann M., et al.,Proteome-wide covalent ligand discovery in native biological systems,Nature,Springer Nature,2016年,534(7608),570-574,https://doi.org/10.1038/nature18002,ESR D2
【文献】ERDJUMENT-BROMAGE, Hediye; HUANG, Fang-Ke; NEUBERT, Thomas A.,A. Sample preparation for relative quantitation of proteins using tandem mass tags (TMT) and mass spectrometry (MS).,Methods and Protocols,Springer Nature,2018年,1741,135-149,https://doi.org/10.1007/978-1-4939-7659-1_11,ISR D3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質標的を同定するための方法であって、
(a)第1のタンパク質含有試料を、コア構造および求電子部分を含むが末端のクリック可能なタグを欠く競合化合物と接触させて、前記競合化合物で処理した試料を得る工程であって、前記クリック可能なタグが末端アルキン部分であり、前記求電子部分が前記タンパク質標的中の求核性アミノ酸残基に結合する、工程と、
(b)工程(a)の前記競合化合物で処理した試料を、同じコア構造、同じ求電子部分および前記クリック可能なタグを含むプローブ化合物と接触させる工程と、
(c)第2のタンパク質含有試料を前記競合化合物と接触させる工程なく、前記第2のタンパク質含有試料を前記プローブ化合物と接触させる工程と、
(d)前記第1のタンパク質含有試料中のプローブ化合物で修飾されたタンパク質の量を、前記第2のタンパク質含有試料中のプローブ化合物で修飾されたタンパク質の量と比較して検出することによって、前記タンパク質標的を同定する工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
工程(d)が、前記競合化合物と前記タンパク質標的との間の結合相互作用を定量化することをさらに含む、および/または工程(d)が、タンデム質量タグ(TMT)を用いるLC-MS/MSを使用して実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a)の前に、プロテオームを2つの同等のタンパク質含有試料に分割して、前記第1のタンパク質含有試料および前記第2のタンパク質含有試料を得る工程をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記プローブ化合物で修飾されたタンパク質が、記クリック可能なタグを介して検出可能な標識さらに誘導体化されている、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記検出可能な標識が、ビオチンを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記タンパク質標的中の前記求核性アミノ酸残基が、アルギニン、リジン、ヒスチジン、システイン、メチオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、トレオニン、チロシン、およびトリプトファンらなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記求電子部分が、ハロゲン化アルキル、ハロアセチル、マレイミド、アジリジン、アクリロイルハロゲン、マレイミド、イソチオシアネート、イソシアネート、アシルアジド、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、スルホニルクロリド、エポキシド、オキシラン、カルボネート、イミドエステル、カルボジイミド、無水物、ジアゾアルカン、ジアゾアセチル、カルボニジルミダゾール、およびカルボジイミドからなる群から選択される求電子基である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記プローブ化合物上の前記求電子部分が、
【化1】
からなる群から選択される求電子基である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1のタンパク質含有試料および前記第2のタンパク質含有試料をそれぞれ、検出可能な標識および前記プローブ化合物中の前記クリック可能なタグとの反応性を有する基を含む化合物と反応させて、検出可能な標識をタグ付けされたタンパク質標的を形成することをさらに含む、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記検出可能な標識をタグ付けされたタンパク質標的を富化することをさらに含む、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記富化したタンパク質標的のプロテアーゼ消化を実施することをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)の下で、2019年8月5日出願の米国特許第62/882,757号(その全内容は、参照によりその全体が組み込まれる)の優先権の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、概して、標的発見、より具体的には、プロテオーム中のタンパク質と求電子化合物との共有結合相互作用を同定および定量化するための、比較質量分析法分析に基づくプロファイリング方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景情報
多くの薬物および薬物候補は、細胞内の特定のタンパク質中のアミノ酸残基の共有結合修飾によって作用する。かかる共有結合修飾の主な形態は、薬物または薬物候補中の求電子部分と、タンパク質中の求核性アミノ酸との間で生じる。特定のタンパク質を共有結合的に修飾することができるさらなる化学プローブおよび薬物の発見は、天然の生物学的系における様々なタンパク質との化合物反応性を全体的にマッピングする一般的な方法から利益を得るであろう。
【0004】
全細胞プロテオーム中の様々な構成要素との反応性化学プローブの結合相互作用を同定および定量化するための改善された方法に対する需要が存在する。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、数百または数千のタンパク質を用いる、求電子化合物の結合相互作用を並行して同定および定量化することによる、リガンド発見のための方法および組成物を提供する。
【0006】
したがって、一実施形態では、開示は、目的のプローブ化合物に共有結合するタンパク質標的を同定するための方法を提供する。方法は、(a)プロテオミック試料(例えば、生細胞、細胞溶解物、または生きた動物)を、求電子部分、およびアルキン部分またはアジド部分などのクリック可能なタグを有するプローブ化合物と接触させることであって、求電子部分が、タンパク質標的中の求核性アミノ酸残基に共有結合する、ことと、(b)プロテオミック試料を分析して、プローブ化合物によって共有結合されるタンパク質を検出し、それによってタンパク質標的を同定することと、を含む。一態様では、クリック可能なタグは、検出可能な標識に共有結合的に連結し、求核性アミノ酸残基は、アルギニン、リジン、ヒスチジン、システイン、メチオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、トレオニン、チロシン、トリプトファン、およびそれらの誘導体から選択される。クリック可能なタグは、アルキン基であり得る。
【0007】
別の実施形態では、開示は、タンパク質標的を同定するための方法を提供する。方法は、(a)第1のタンパク質含有試料を、求電子部分を有しかつ末端のクリック可能なタグを欠く競合化合物と接触させることと、(b)(a)の試料を、求電子部分および末端のクリック可能なタグを含むプローブ化合物と接触させることと、(c)第2のタンパク質含有試料をプローブ化合物と接触させることであって、求電子部分が、タンパク質標的中の求核性アミノ酸残基に結合する、ことと、(d)第1のタンパク質含有試料中のプローブ化合物で修飾されたタンパク質の量を、第2のタンパク質含有試料中のものと比較して検出することによって、タンパク質標的を同定することと、を含む。一実施形態では、プローブ化合物は、共有結合的に誘導体化されてクリック可能なタグから外れた検出可能な標識をさらに含む。いくつかの実施形態では、検出可能な標識は、ビオチンであり得る。求電子反応性アミノ酸残基は、アルギニン、リジン、ヒスチジン、システイン、メチオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、トレオニン、チロシン、トリプトファン、およびそれらの誘導体から選択され得る。クリック可能なタグは、アルキン基であり得る。
【0008】
いくつかの実施形態では、方法は、第1のタンパク質含有試料および第2のタンパク質含有試料を、プローブ化合物中のクリック可能なタグとの反応性を有するリンカー基を含む検出可能な標識と反応させることをさらに含む。方法はまた、検出可能な標識をタグ付けされたタンパク質標的を富化することを含み得る。いくつかの実施形態では、方法は、富化したタンパク質標的のプロテアーゼ消化を実施することをさらに含み得る。いくつかの実施形態では、方法は、第1のタンパク質含有試料および第2のタンパク質含有試料中の、様々なプローブ化合物に結合したタンパク質の量を定量化し、かつ比較することを含み得る。定量化および比較は、タンデム質量タグ(TMT)を用いる液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC-MS)を使用して実施することができる。
【0009】
様々な実施形態では、方法は、(a)および(b)のプロテオミック試料を、タグ、例えば、ビオチンを有する化合物と反応させて、ビオチンタグをタンパク質標的にコンジュゲートすることをさらに含む。本化合物は、プローブ分子のクリック可能なタグと共有結合を形成することができる反応性基を有するであろう。タグがビオチンである場合、例えば、ビオチンで標識されたタンパク質標的は、次いで、ストレプトアビジンによって富化され、プロテアーゼ消化を施され得る。次いで、生じたペプチドを、等圧質量タグで化学標識し、比較質量分析法分析を容易にする。
【0010】
いくつかの実施形態では、プローブ化合物上の求電子基は、ハロゲン化アルキル、ハロアセチル、マレイミド、アジリジン、アクリロイルハロゲン、マレイミド、イソチオシアネート、イソシアネート、アシルアジド、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、スルホニルクロリド、エポキシド、オキシラン、カルボネート、イミドエステル、カルボジイミド、無水物、ジアゾアルカン、ジアゾアセチル、カルボニジルミダゾール(carbonydilmidazole)、およびカルボジイミドからなる群から選択され得る。いくつかの実施形態では、プローブ化合物上の求電子基は
【化1】
からなる群から選択され得る。
【0011】
さらに別の実施形態では、開示は、検出可能な標識に共有結合的に連結したクリック可能なタグを含むプローブに共有結合した求核性アミノ酸残基を含む、修飾された非天然型タンパク質を提供する。いくつかの実施形態では、検出可能な標識は、ビオチンであり得る。様々な実施形態では、求電子反応性アミノ酸残基は、アルギニン、リジン、ヒスチジン、システイン、メチオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、トレオニン、チロシン、トリプトファン、およびそれらの誘導体から選択される。
【0012】
なお別の実施形態では、開示は、ハロゲン化アルキル、ハロアセチル、マレイミド、アジリジン、アクリロイルハロゲン、マレイミド、イソチオシアネート、イソシアネート、アシルアジド、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、スルホニルクロリド、エポキシド、オキシラン、カルボネート、イミドエステル、カルボジイミド、無水物、ジアゾアルカン、ジアゾアセチル、カルボニジルミダゾール、およびカルボジイミドからなる群から選択される求電子部分と、アルキン部分またはアジド部分などのクリック可能なタグとを有するプローブを提供し、クリック可能なタグは、任意選択的に、検出可能な標識に共有結合的に連結している。いくつかの実施形態では、検出可能な標識は、ビオチンであり得る。本明細書にさらに開示されるのは、生物学的アッセイを実施するためのプローブ化合物の使用である。
[本発明1001]
タンパク質標的を同定するための方法であって、
(a)プロテオミック試料を、求電子部分およびクリック可能なタグを含むプローブ化合物と接触させることであって、前記求電子部分が、前記タンパク質標的中の求核性アミノ酸残基に共有結合する、ことと、
(b)前記プロテオミック試料を分析して、前記タンパク質標的を検出し、それによって前記タンパク質標的を同定することと
を含む、前記方法。
[本発明1002]
前記クリック可能なタグが、検出可能な標識にさらに共有結合的に連結される、本発明1001の方法。
[本発明1003]
タンパク質標的を同定するための方法であって、
(a)第1のタンパク質含有試料を、求電子部分を有しかつ末端のクリック可能なタグを欠く競合化合物と接触させることと、
(b)(a)の前記試料を、前記求電子部分および前記末端のクリック可能なタグを含むプローブ化合物と接触させることと、
(c)第2のタンパク質含有試料を前記プローブ化合物と接触させることであって、前記求電子部分が、前記タンパク質標的中の求核性アミノ酸残基と結合する、ことと、
(d)前記第1のタンパク質含有試料中のプローブ化合物で修飾されたタンパク質の量を、前記第2のタンパク質含有試料中のプローブ化合物で修飾されたタンパク質の量と比較して検出することによって、前記タンパク質標的を同定することと
を含む、前記方法。
[本発明1004]
前記プローブ化合物が、共有結合的に誘導体化されて前記クリック可能なタグから外れた検出可能な標識をさらに含む、本発明1003の方法。
[本発明1005]
前記検出可能な標識が、ビオチンを含む、本発明1002または1004の方法。
[本発明1006]
前記求核性アミノ酸残基が、アルギニン、リジン、ヒスチジン、システイン、メチオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、トレオニン、チロシン、トリプトファン、およびそれらの誘導体からなる群から選択される、本発明1001~1005のいずれかの方法。
[本発明1007]
前記クリック可能なタグが、アルキン基である、本発明1001~1006のいずれかの方法。
[本発明1008]
前記プローブ化合物上の前記求電子基が、ハロゲン化アルキル、ハロアセチル、マレイミド、アジリジン、アクリロイルハロゲン、マレイミド、イソチオシアネート、イソシアネート、アシルアジド、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、スルホニルクロリド、エポキシド、オキシラン、カルボネート、イミドエステル、カルボジイミド、無水物、ジアゾアルカン、ジアゾアセチル、カルボニジルミダゾール、およびカルボジイミドからなる群から選択される、本発明1001~1007のいずれかの方法。
[本発明1009]
前記プローブ化合物上の前記求電子基が、
[化1]
からなる群から選択される、本発明1001~1008のいずれかの方法。
[本発明1010]
前記第1のタンパク質含有試料および前記第2のタンパク質含有試料を、前記プローブ化合物中の前記クリック可能なタグとの反応性を有するリンカー基を含む検出可能な標識と反応させることをさらに含む、本発明1003の方法。
[本発明1011]
前記検出可能な標識をタグ付けされたタンパク質標的を富化することをさらに含む、本発明1010の方法。
[本発明1012]
前記富化したタンパク質標的のプロテアーゼ消化を実施することをさらに含む、本発明1011の方法。
[本発明1013]
前記第1のタンパク質含有試料および前記第2のタンパク質含有試料中の、プローブ化合物に結合したタンパク質の量を定量化および比較することをさらに含む、本発明1012の方法。
[本発明1014]
前記定量化および比較を、タンデム質量タグ(TMT)を用いる液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC-MS)を使用して実施する、本発明1013の方法。
[本発明1015]
クリック可能なタグを含むプローブ化合物に共有結合した求核性アミノ酸残基を含む、修飾された非天然型タンパク質。
[本発明1016]
前記求核性アミノ酸残基が、アルギニン、リジン、ヒスチジン、システイン、メチオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、トレオニン、チロシン、トリプトファン、およびそれらの誘導体からなる群から選択される、本発明1015のタンパク質。
[本発明1017]
ハロゲン化アルキル、ハロアセチル、マレイミド、アジリジン、アクリロイルハロゲン、マレイミド、イソチオシアネート、イソシアネート、アシルアジド、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、スルホニルクロリド、エポキシド、オキシラン、カルボネート、イミドエステル、カルボジイミド、無水物、ジアゾアルカン、ジアゾアセチル、カルボニジルミダゾール、およびカルボジイミドからなる群から選択される求電子部分と、クリック可能なタグとを含む、プローブ化合物。
[本発明1018]
前記クリック可能なタグが、検出可能な標識に共有結合的に連結される、本発明1017のプローブ化合物。
[本発明1019]
前記検出可能な標識が、ビオチンである、本発明1018のプローブ化合物。
[本発明1020]
生物学的アッセイを実施するための、本発明1017~1019のいずれかのプローブ化合物の使用。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】開示の一実施形態でのプローブを示す図形表現である。
図2】本開示のいくつかの態様による、SK-Mel-28細胞内のプロテオームにおける化合物1のトップヒットとして同定されるグアノシン一リン酸合成酵素(GMPS)を示すグラフである。
図3】化合物1の分子量に対応する、329ダルトン(Da)のはっきりとした質量シフトを誘導した、化合物1との組換えGMPSのインキュベーションを示すグラフである。
図4】蛍光に基づくアッセイを使用した、SK-Mel-28細胞における、化合物1によるGMPSの用量依存的係合を示すグラフである。
図5】290nmでの吸光度の減少を監視することによる分光アッセイを使用した、化合物1のIC50の決定を示すグラフである。
図6】SK-ML-28腫瘍増殖の化合物1阻害を示すグラフである。
図7】本開示のいくつかの態様による、タンパク質標的を同定する方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の詳細な説明
本発明は、複合体プロテオーム中の様々なタンパク質との共有結合相互作用について、求電子化合物をプロファイリングするための革新的な方法に基づく。本方法は、全細胞プロテオーム中の数千のタンパク質との共有結合薬物または共有結合薬物候補の相互作用を同時に並行して同定および定量化することができる。
【0015】
本組成物および方法について記載する前に、かかる組成物、方法、および条件は変動し得るので、本発明が、記載される特定の方法および実験条件に限定されないことが理解されるものである。本発明の範囲が添付の特許請求の範囲にのみ限定されるので、本明細書で使用される用語が、単に特定の実施形態を記載する目的のためであり、限定することを意図しないことも理解されるものである。
【0016】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明示的に別途示されない限り、複数への言及を含む。したがって、例えば、「方法」への言及は、本開示などを閲読する際に当業者には明らかになるであろう、本明細書に記載の1つ以上の種類の方法および/またはステップを含む。
【0017】
求電子基または求電子剤は、タンパク質またはポリペプチド中に存在するものを含む、多くの官能基と反応することができる。いくつかの実施形態では、チオール基を含有するN末端システインは、ハロゲンまたはマレイミドと反応し得る。チオール基は、ハロゲン化アルキル、ハロアセチル誘導体、マレイミド、アジリジン、アクリロイル誘導体、ハロゲン化アリールなどのアリール化剤などの多数のカップリング剤との反応性を有することが知られている。これらは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるG.T.Hermanson,”Bioconjugate Techniques”(Academic Press,San Diego,1996),pp.146-150に記載されている。いくつかの実施形態では、マレイミドは、特により高いpH範囲で、リジンの側鎖のε-アミノ基、またはアルギニンの5-グアニジノ基などのアミノ基と反応することができる。ハロゲン化アリールは、かかるアミノ基とも反応することができる。ハロアセチル誘導体は、ヒスチジンのイミダゾリル側鎖窒素、メチオニンの側鎖のチオエーテル基、リジンの側鎖のε-アミノ基、およびアルギニンの5-グアニジノ基と反応することができる。限定されないが、イソチオシアネート、イソシアネート、アシルアジド、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、スルホニルクロリド、エポキシド、オキシラン、カルボネート、イミドエステル、カルボジイミド、および無水物を含む、リジンの側鎖のε-アミノ基またはアルギニンの5-グアニジノ基と反応する、多くの他の求電子試薬を使用することができる。これらは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるG.T.Hermanson,”Bioconjugate Techniques”(Academic Press,San Diego,1996),pp.137-146に記載されている。加えて、いくつかの求電子試薬は、ジアゾアルカンおよびジアゾアセチル化合物、カルボニジルミダゾール、ならびにカルボジイミドなどの、アスパルテートおよびグルタメートのものなどのカルボキシレート側鎖と反応することができる。これらは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるG.T.Hermanson,”Bioconjugate Techniques”(Academic Press,San Diego,1996),pp.152-154に記載されている。さらに、反応性ハロアルカン誘導体を含む、セリン、トレオニン、およびチロシンの側鎖におけるものなどの、ヒドロキシル基と反応するであろう求電子試薬が知られている。これらは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるG.T.Hermanson,”Bioconjugate Techniques”(Academic Press,San Diego,1996),pp.154-158に記載されている。
【0018】
いくつかの態様では、求電子剤または求電子基としては、限定されないが、ハロゲン化アルキル、ハロアセチル、マレイミド、アジリジン、アクリロイルハロゲン、マレイミド、イソチオシアネート、イソシアネート、アシルアジド、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、スルホニルクロリド、エポキシド、オキシラン、カルボネート、イミドエステル、カルボジイミド、無水物、ジアゾアルカン、ジアゾアセチル、カルボニジルミダゾール、およびカルボジイミドを挙げることができる。いくつかの態様では、求電子基は、
【化2】
からなる群から選択され得る。
【0019】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと同様または同等の任意の方法および材料を、本発明の実施または試験に使用することができるが、好ましい方法および材料を以下に記載する。
【0020】
本明細書で使用される場合、単独でまたは組み合わせた「アルキル」または「アルカン」という用語は、1~20個の炭素原子を含有する直鎖または分岐鎖アルキル基を指す。ある特定の実施形態では、当該アルキルは、1~10個の炭素原子を含むであろう。さらなる実施形態では、当該アルキルは、1~6個の炭素原子を含むであろう。アルキル基は、任意選択的に、本明細書で定義されるように置換され得る。アルキル基の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソ-アミル、ヘキシル、オクチル、ノイルなどが挙げられる。本明細書で使用される場合、単独でまたは組み合わせた「アルキレン」という用語は、メチレン(-CH-)などの2つ以上の位置に結合した直鎖または分岐鎖飽和炭化水素に由来する飽和脂肪族基を指す。別途指定されない限り、「アルキル」という用語は、「アルキレン」基を含み得る。
【0021】
本明細書で使用される場合、単独でまたは組み合わせた「アシル」という用語は、アルケニル、アルキル、アリール、シクロアルキル、ヘテロアリール、ヘテロ環、またはカルボニルに結合した原子が炭素である任意の他の部分に結合したカルボニルを指す。「アセチル」基は、-C(O)CH基を指す。「アルキルカルボニル」または「アルカノイル」基は、カルボニル基を通じて親分子部分に結合したアルキル基を指す。かかる基の例としては、メチルカルボニルおよびエチルカルボニルが挙げられる。アシル基の例としては、ホルミル、アルカノイル、およびアロイルが挙げられる。
【0022】
本明細書で使用される場合、単独でまたは組み合わせた「ハロ」、「ハロゲン化物」、または「ハロゲン」という用語は、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素を指す。
【0023】
開示は、目的のプローブに共有結合するタンパク質を同定するための、方法、Isobaric Mass Tagged Affinity Characterization(IMTAC(商標))を提供する。方法は、(a)生細胞、または細胞溶解物、または生きた動物などのプロテオミック試料を、求電子部分、およびアルキン部分などのクリック可能なタグを有するプローブと接触させることと、(b)プロテオミック試料を分析して、プローブによって共有結合されるタンパク質を検出し、それによって共有結合タンパク質標的を同定することと、を含み得る。
【0024】
方法は、(a)1つのプロテオミック試料を2つのアリコートに分割することと、(b)第1のアリコートを、求電子部分を有し、クリック可能なタグを欠く競合化合物と接触させることと、(b)試料からの第2のアリコートを、DMSOまたは(a)で使用されるのと異なる量の同じ競合物と接触させることと、(c)試料の両方を、求電子部分およびアルキン部分などの追加の末端のクリック可能なタグを含有するプローブと接触させることと、(d)2つのアリコート中の、プローブに結合したタンパク質の量を比較することによって、タンパク質標的を同定することと、を含み得る。一実施形態では、プローブは、競合物と同一のコア構造および求電子部分を共有し、追加の末端アルキン部分を含有する。第1のアリコートをプローブ化合物と反応させる前に、第1のアリコートを競合化合物で事前に処理することによって、目的のタンパク質標的のみが検出されるであろうように、プローブ化合物と、第2のアリコートの対照として機能し得る、求核性アミノ酸残基を含むタンパク質との間のバックグラウンド相互作用を除去するのに役立つ。
【0025】
求電子化合物のタンパク質標的の同定によって、タンパク質標的は、細胞機能および疾患関連性について評価されるであろう。タンパク質標的が、ヒト疾患、例えば、がんおよび炎症の進行に重要な役割を果たす場合、求電子化合物は、疾患、例えば、がんまたは炎症の治療のための医薬品としてさらに誘導体化され、開発され得る先導化合物とみなすことができる。
【0026】
様々な実施形態では、本発明はまた、本発明の方法によって求電子化合物の標的として同定されるタンパク質を提供する。
C≡CH
式(I)
【0027】
本明細書で使用される場合、クリック可能なタグの例は、式(I)を含む末端アルキン部分である。いくつかの実施形態では、Rは、求電子基を担持するコアであり得、求電子基は、ハロゲン化アルキル、ハロアセチル、マレイミド、アジリジン、アクリロイルハロゲン、マレイミド、イソチオシアネート、イソシアネート、アシルアジド、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、スルホニルクロリド、エポキシド、オキシラン、カルボネート、イミドエステル、カルボジイミド、無水物、ジアゾアルカン、ジアゾアセチル、カルボニジルミダゾール、およびカルボジイミドからなる群から選択され得る。
【0028】
本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」は、アミノ酸で構成され、当業者によってタンパク質として認識される組成物を指す。本明細書では、アミノ酸残基の従来の1文字または3文字のコードが使用される。「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、本明細書では、任意の長さのアミノ酸の重合体を指すように同義的に使用される。重合体は、線状または分岐状であってもよく、修飾アミノ酸を含んでもよく、非アミノ酸によって中断されてもよい。用語はまた、天然に、または介入、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、もしくは標識構成要素とのコンジュゲーションなどの任意の他の操作もしくは修飾によって修飾されている、アミノ酸重合体を包含する。また、定義内に含まれるのは、例えば、アミノ酸の1つ以上の類似体(例えば、不自然なアミノ酸、合成アミノ酸などを含む)を含有するポリペプチド、ならびに当該技術分野において既知の他の修飾物である。
【0029】
場合によっては、ポリペプチドの機能的断片は、約10~約80の長さのアミノ酸残基を含む。場合によっては、機能的断片は、約15~約70、約20~約60、約30~約50、または約40~約80の長さのアミノ酸残基を含む。場合によっては、機能的断片は、約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、70、80、またはそれ以上の長さのアミノ酸残基を含む。
【0030】
タンデム質量分析法(MS/MSまたはMS)は、化学試料を分析する能力を増加するために、追加の反応ステップを使用して2つ以上の質量分析器を一緒に結合させた機器分析における技法を指す。等圧質量タグと称される試薬のファミリーに属するタンデム質量タグ(TMT)は、タンパク質、ペプチド、および核酸などの生物学的巨大分子の質量分析法(MS)に基づく定量化および同定に使用される化学標識を指す。
【化3】
【0031】
スキーム1の例示的なTMTの化学構造によって示されるように、セット内のすべての質量タグ付け試薬は、アミン反応性NHSエステル基、スペーサーアーム(質量正規化剤)、およびMS/MS質量レポーターで構成される同じ公称質量(すなわち、等圧である)および化学構造を有する。高エネルギー衝突解離(HCD)および電子移動解離(ETD)によるMS/MS断片化部位もスキーム1に示されている。試薬は、アミン反応性NHSエステル基を介して、細胞に基づく試料または組織試料から調製されたペプチドを標識することができる。独自のレポーター質量は、MS/MSスペクトルの低質量領域にあるMS/MSスペクトルを生じる。これは、検出可能な標識の使用を介して標的タンパク質を富化した後、プローブ化合物によって標的化されたタンパク質からのペプチド断片化中の相対的なタンパク質発現レベルを報告するために使用することができる。
【0032】
いくつかの実施形態では、プローブ化合物は、標的タンパク質と共有結合した後、クリック可能なタグを介して検出可能な標識とのさらなる連結が可能になり得る。クリック可能なタグは、銅(I)媒介性クリックケミストリーを介したアルキン基とアジド基との間の反応などの官能性である。参照により本明細書に組み込まれるH.C.Kolb and K.B.Sharpless,Drug Discovery Today,2003,8(24);1128-1137を参照されたい。
【0033】
いくつかの実施形態では、小分子化合物は、反応性アミノ酸残基との結合について、本明細書に記載のプローブと競合する。場合によっては、小分子化合物は、化合物と反応性アミノ酸残基との相互作用を促進する断片部分を含む。場合によっては、小分子化合物は、疎水性相互作用、水素結合、またはそれらの組み合わせを促進する小分子断片を含む。多くの場合、リガンドは、非天然型であるか、または反応性アミノ酸残基もしくは反応性アミノ酸残基含有タンパク質のアミノ基との反応後に非天然型生成物を形成する。
【0034】
以下の実施例は、本発明の利点および特色をさらに示すために提供されるが、本発明の範囲を限定することを意図しない。本実施例は、典型的な使用され得るものであるが、当業者に既知の他の手順、方法論、または技法を代替的に使用してもよい。
【実施例
【0035】
実施例1
IMTAC(商標)を使用するプロテオームワイドな共有結合リガンドの発見
複合体プロテオーム中の様々なタンパク質との共有結合相互作用について、求電子小分子をプロファイリングするための方法について記載する。本方法は、求電子化合物と全細胞プロテオーム中の様々なタンパク質との間の共有結合相互作用を同定および定量化し、潜在的な療法を開発するためにさらに利用され得る新しい貴重なデータを提供することができる。
【0036】
以下の方法論を利用して、開示の方法を実施した。
【0037】
生細胞または細胞溶解物のプロテオームを2つの同一の量に分割する。
【0038】
競合物中の求電子剤の反応性に応じて10nM~100μMの範囲であり得る一定濃度で30~240分間、求電子競合物(競合物)で第1の試料を処理する。
【0039】
陰性対照としてDMSOなどの純粋な溶媒で、第2の試料を処理する。第1の試料のように、インキュベーション時間を一貫して維持する(30~240分)。
【0040】
競合物と同じコア構造および求電子部分を共有するが、追加の末端アルキン部分を含有する求電子プローブ(プローブ)で、両方の試料を処理する。
【0041】
アゾ-ビオチン-アジドでクリックケミストリー反応を実施して、ビオチンタグをプローブで修飾されたタンパク質にコンジュゲートする。
【0042】
ストレプトアビジン磁気ビーズで、ビオチン化タンパク質を富化する。
【0043】
ビーズ上トリプシン消化を実施する。
【0044】
生じたトリプシンペプチドをTMT(タンデム質量タグ)で標識し、標識したペプチドを収集し、溶液中で組み合わせる。
【0045】
ジチオナイトナトリウムを使用して、プローブで標識されたペプチドを磁気ビーズから切断し、収集し、別個のチューブ内で組み合わせる。
【0046】
前の2つのステップからの試料に、液体クロマトグラフィー高分解能質量分析法分析を施す。
【0047】
競合物で処理した試料とDMSOで処理した試料との間の1つの対象タンパク質のTMTレポーターイオンの強度の比は、競合物と対象タンパク質との間の結合相互作用の強度を示す。
【0048】
プローブと標的タンパク質との結合親和性(IC50)は、競合物濃度を変動させ、多重TMT(6重または10重)を使用することによって得ることができる。
【0049】
図1は、方法で使用されるプローブを示す概略図であり、一方、添付文書Aは、例えば、トリプシン消化されたペプチドを標識するために利用され得る例示的なタグを示す。
【0050】
図1を参照すると、構造図の「E」は、求電子官能基または求電子剤を示し、「コア」は、プローブ、競合物1、または競合物2分子のコア構造を指し、「-」(競合物2)、「=」(競合物1)、および「≡」(プローブ)は、個々の分子における具体的な追加の官能基を示す。プローブ設計の重要な側面としては、以下が挙げられる:1)すべての反応性プローブ(本明細書ではプローブと称される)は、コア構造、求電子基、およびアルキンタグなどのクリック可能なタグを含有する(以下の説明の例としてアルキンタグが使用されるであろう)、2)対応する競合化合物(本明細書では競合物と称される)は、同じコア構造および求電子基を含有するが、アルキンタグを欠く、3)プローブおよび競合物は、アルキン同等部分を除いて互いに同一の構造を有し得る(図1に示されるように、プローブは、三重結合含有末端アルキンを含有し、競合物1および競合物2は、代わって同等な位置にアルケンおよびアルカンを含有する)。
【0051】
実施例2
SK-MEL-28細胞プロテオームのIMTACスクリーニング
ヒトがん細胞プロテオームの調製。SK-MEL-28細胞を、37℃の5%の二酸化炭素(CO)インキュベーターで、10%のウシ胎仔血清を補充したATCC配合Eagle’s Minimum Essential Medium(カタログ番号30-2003)中で培養した。インビトロ標識実験用に、細胞を90%のコンフルエンシーまで増殖させ、PBSで3回洗浄し、冷たいPBS中で破壊した。1400×gで3分間の遠心分離によって細胞ペレットを単離し、さらなる使用まで、細胞ペレットを-80℃で保管した。収集した細胞ペレットを、PBS緩衝液中での超音波処理によって溶解させた。各実験の前に、凍結細胞パレットから新たにプロテオームを調製した。
【化4】
【0052】
インビトロ化合物処理。スキーム2に示される化合物1および2を、参照により本明細書に組み込まれるWO2020/055504(PCT/US2019/041635)に従って設計および合成した。プロテオーム試料を、PBS中タンパク質1mg/溶液mLに希釈した。各プロファイリング実験用に、プロテオーム試料の一方のアリコート(0.5ml)を、対照として0.5μlのDMSOで処理し、他方のアリコートを、0.1μMの最終濃度のDMSO中0.5μlの化合物2で処理した。室温で60分間処理した後、氷冷したメタノールを試料に添加して、タンパク質を沈殿させた。沈殿物を0.5mlの氷冷したDPBS中に再懸濁させ、1mlのddHO中に溶解させた1錠のRocheプロテアーゼ阻害剤錠剤を5μl添加した。
【0053】
インサイチュ化合物処理。15cmのペトリ皿内で、SK-MEL-28細胞を90%のコンフルエンシーまで増殖させた後、5%のCO下、37℃で30分~1時間、20μlのDMSOを含有する20mlの培地で対照としてプレート1をインキュベートし、0.1μMの最終濃度の化合物2を含有する20mlの培地でプレート2をインキュベートする。細胞を20mlのDPBSで洗浄し、5%のCO下、37℃でさらに30分~1時間、1μMの化合物1を含有する20mlの培地で両方のプレートをインキュベートする。細胞スクレーパーを使用して、10mlのDPBS中で細胞を収集する。Thermo Sorvall XT遠心分離器でスピンダウンした後、ペレットを0.5mlの氷冷したDPBS中に再懸濁させ、1mlのddHO中に溶解させた1錠のRocheプロテアーゼ阻害剤錠剤を5μl添加する。Branson Sonifierプローブソニケーターを使用して細胞を溶解させ、Beckman Coulter Microfuge 20R遠心分離器を使用して溶解物をスピンダウンし、上清を収集した。
【0054】
クリックケミストリー。模擬試料または化合物で処理したプロテオーム試料(0.5mgの細胞溶解物)の各々を、1mMの最終濃度のTCEP、25mMのTBTA、および1mMのCuSOを添加することによって、クリックケミストリー(アセチレン-アジド環化付加)を使用して、ビオチン-アゾ-アジド(100μMの最終濃度)またはDDE-ビオチン-アジド(250μMの最終濃度)とコンジュゲートした。試料を室温で1時間反応させた。クリックケミストリーステップの後、沈殿したタンパク質に氷冷したメタノールを添加した。
【0055】
酵素による消化。PBS中1.2%の200μlのSDSでタンパク質ペレットを再懸濁させ、DTT溶液(10mMの最終濃度)を添加し、60℃で30分間インキュベートする。室温の暗所で40分間、ヨードアセトアミド溶液(25mMの最終濃度でインキュベートする。事前に洗浄した磁気ビーズに試料を添加し、チューブリボルバーで混合しながら室温で1時間インキュベートする。PBS中4Mの尿素、およびPBS中1.2%のSDS、水、および100mMのTEABで、順次ビーズを洗浄する。100μlの50mMのTEABにビーズを再懸濁させ、1mg/mlの濃度の4μlのLys-Cトリプシンを各試料に添加する。37℃のEppendorf Thermomixerで一晩消化させる。
【0056】
TMT標識化。製造業者の指示書に従って、TMT標識化を実行した。簡潔には、使用直前に、TMT標識試薬を室温に平衡化する。0.8mgのバイアルでは、各バイアルに41μlの無水アセトニトリルを添加する。時折ボルテックスしながら、試薬を5分間溶解させる。チューブを短時間遠心分離して溶液を収集する。各試料に41μlのTMT標識試薬の各々を慎重に添加し、ピペッティングによってしっかりと混合する。室温で1時間、反応物をインキュベートする。8μlの5%のヒドロキシルアミンを試料に添加し、15分間インキュベートして反応をクエンチする。試料を含有するチューブを磁気スタンドに置き、上清を収集し、合わせる。各試料を200μlのDPBSで洗浄し、洗浄液を合わせ、もう一度繰り返す。最後に、上清を1つのチューブに合わせる。チューブを磁気スタンドに数分間置き、新しいチューブに移してビーズの残留物を除去する。
【0057】
LC/MSMS分析。TMTで標識した試料を、Oasis HLB(Waters)固相抽出カラムで脱塩した。溶出した有機試料を乾燥させた後、LC/MSMS分析用に、適切な20μlの5%のACN、0.1%のギ酸中で試料を再構成する。Easy-SprayソースおよびUltimate 3000 Nano-LCシステムを備えたOrbitrap Fusion Lumos Tribrid質量分析器を使用して、TMTで標識したペプチドを分析した。分離には、PepMap(商標)RSLC C18カラム(2μm、100A、75μm×25cm)を使用した。移動相は、勾配溶出液を使用する、水およびアセトニトリルからなった。カラムを平衡化し、0.3μl/分の流量の勾配条件下(表1)で溶出させた。試料注入体積は、6μlであった。
【表1】
【0058】
Orbitrap Fusion Lumos Tribrid質量分析器を以下のように操作した:完全MS分解能をm/z200で120,000に設定し、完全MS AGC目標値は50msの最大ITで4E5であり、RFレンズ値を30に設定した。m/zを375~1575に設定し、MIPS特性をペプチドに設定した。MS2スペクトルでは、強度閾値を1E4に設定し、MS2スペクトルでは、ddMS2 IT HCDモデルを使用し、単離幅を0.7m/zに設定し、活性化種類はHCDであり、HCD衝突エネルギー[%]は38であった。AGC目標値を1E5に設定し、MS2検出用に、分解能30,000でorbitrapを用いた。
【0059】
Proteome Discovererおよび自社開発のソフトウェアを使用して、質量分析データを処理した。TMTタグシグナルをIMTACスコアに変換して、化合物1と標的タンパク質との間の見かけ結合親和性を表した。IMTACスコアが高いほど、化合物1とタンパク質との間の相互作用が強い。
【0060】
化合物1は、SK-MEL-28細胞でのIMATCスクリーニングにおいて、数百のタンパク質を同定した。結合しているタンパク質を含む化合物1間には、結合親和性の広範な分布が存在する。図2に示されるように、グアノシン一リン酸合成酵素(GMPS)を、化合物1のトップヒットとして同定した。図2は、本開示のいくつかの態様による、SK-Mel-28細胞内のプロテオームにおける化合物1のトップヒットとして同定されるグアノシン一リン酸合成酵素(GMPS)を示すグラフである。図2に示されるIMTACスコアは、TMCタグシグナルに由来し、本質的には、試験した小分子と試料中のすべての異なるタンパク質との間の結合強度の相対的な定量値を提供する。ゼロのIMTACスコアは、特定のタンパク質に対する結合親和性がほとんどないことを指摘する。より高いIMTACスコアは、小分子と標的タンパク質との間のより強い結合強度を示す。トップヒットGMPSと2番目ヒットとの間には大きなIMTACスコア差があり、プロテオーム内のGMPSに対する化合物1の高い選択性を示している。
【0061】
GMPSは、キサントシン一リン酸をグアノシン一リン酸に変換する重要な酵素である。これは、プリン生合成デノボ経路の重要な構成要素である。リンパ球細胞は、プリン生合成デノボ経路のみを使用して、DNA合成の原材料を提供することができるので、デノボ経路を特異的に阻害することによって、免疫細胞の増殖を防止することができる。したがって、GMPS阻害剤は、SLE(全身性エリテマトーデス)などの自己免疫疾患の免疫抑制治療として機能し得る。
【0062】
1)質量分析法を使用して、化合物1のGMPSとの共有結合相互作用の確認および結合部位の同定、2)化合物1とGMPSとの係合のゲル内蛍光による測定、3)生化学的IC50の決定、ならびに4)細胞に基づくアッセイを使用して、化合物1の存在下でのGMPSの活性の測定、5)インビボ研究における有効性を含む、異なる生化学的アッセイおよび細胞に基づくアッセイを使用して、化合物1とGMPSとの相互作用を評価した。
【0063】
化合物1とGMPSとの共有結合相互作用を確認するために、37℃で1時間、1:2のモル比で組換えGMPSを化合物1とインキュベートし、質量分析法を使用して、329Daのタンパク質の質量増加を観察し、したがって、図3に示されるように、共有結合を確認した。図3は、化合物1の分子量に対応する、329ダルトン(Da)のはっきりとした質量シフトを誘導した、化合物1との組換えGMPSのインキュベーションを示すグラフである。化合物1の処理後にトリプシン化GMPSのMS/MSを分析することによって、Cys104として結合部位を同定した。
【0064】
実施例3
化合物1とGMPSとの間の結合の特徴評価
GMPSに対する化合物1の標的係合を測定するために、HEK293細胞を、10%のFBSを含有する適切な培地を含む6ウェルプレート中で約90%のコンフルエンスまで増殖させた。増殖培地を除去し、様々な濃度のプローブ(DMSO中1,000倍のストック溶液)またはビヒクル対照を含有する新鮮な培地で30分間、細胞を処理した。IC50測定のために、まず、30分間間隔で3回1nM~1000nMの37℃の化合物2でインキュベートし、次いで、さらに20分間37℃の100nMの化合物1で細胞を処理した。プローブ処理後、培地を除去し、細胞を氷冷したDulbeccoのPBS(DPBS)で2回洗浄した。細胞を収集し、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche)を含む80μLのNP40溶解緩衝液(50mMのHEPES、pH7.4、1%のNP-40、150mMのNaCl)に、ペレットを再懸濁させた。溶解物を氷上で20分間インキュベートし、18,000×gで10分間、4℃で遠心分離することによって分画した。BCAアッセイ(Pierce)によって上清試料の各々からタンパク質濃度を測定し、1mg/mlに調節した。100μLの総体積中、25μMのTAMRA-アジド(Click Chemistry Tools)、1mMのトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP、Thermo-Scientific)、100μMのトリス[(1-ベンジル-1H-1,2,3-トリアゾール-4-イル)メチル]アミン(TBTA、TCI)、および1mMのCuSO4(Sigma-Aldrich)の最終濃度で、CuACCを実施した。反応を室温の暗所で1時間実施した後、40μlの4×Laemmli試料緩衝液(Bio-Rad)を添加し、5分間煮沸することによって終了させた。30μlの試料を、4~20%のSDS-PAGEに充填し、分解した後、ChemiDoc MP画像化システム(Bio-Rad)で、532nmで励起させ、610nmで発光させて可視化した。図4に示されるように、蛍光画像を灰色スケールで表示し、ChemiDoc定量化ソフトウェアを使用して、蛍光シグナルの強度を定量化した。図4は、蛍光に基づくアッセイを使用した、SK-Mel-28細胞における、化合物1によるGMPSの用量依存的係合を示すグラフである。GraphPad Prismソフトウェア(GraphPad Software、La Jolla,CA)を用いて、EC50(16nM)値を計算した。
【0065】
生化学的IC50決定のために、EPPS(pH7.8)、EDTA(100μM)、MgCl(10mM)、ATP(2mM)、XMP(200μM)、グルタミン(5mM)を含有する反応緩衝液を調製した。ブランク緩衝液は、XMPが存在しないことを除いて、同じ成分を等濃度で調製した。EPPS(pH7.8)中の変動する濃度(0.1μM~100μMの範囲)で、タンパク質溶液を調製した。UV-visを動態モードに設定し、吸光度波長を290nMに設定した。ブランク緩衝液での自動零点規正に続いて、495μlの反応緩衝液を5μLの各タンパク質溶液でインキュベートし、所望の濃度の1000倍の0.5μLの薬物を反応混合物に添加し、30分間にわたって290nMでの吸光度の減少を観察した。Prism 7ソフトウェア(GraphPad Software、La Jolla,CA)での非線形回帰「用量応答阻害」モデルを使用して、プローブおよび競合物分子のIC50値を計算した。図5に示されるように、化合物1は、6.6nMのIC50を有し、非常に強力であることが示された。図5は、290nmでの吸光度の減少を監視することによる分光アッセイを使用した、化合物1のIC50の決定を示すグラフである。
【0066】
実施例4
化合物1の療法的効果のインビボ特徴評価
メラノーマCDXモデルを使用して、プリンサルベージデノボ経路を標的化することを通じて、化合物1の療法的潜在性のインビボ確認を提供した。このモデルには、SK-MEL-28腫瘍細胞(0.1mLのPBSおよびMatigel中5×10、1:1)をBALB/cヌードマウスに皮下接種(sc)した。腫瘍サイズがおよそ150mm(100~250mm)に達したら、化合物1の治療を開始し、5日間1日2回、続いて9日間1日1回、皮下で与えた。治療期間を通じて、腫瘍サイズを記録した。対照と比較して、化合物1は腫瘍サイズを低減することが可能であり、開始した8日目には、図7に示されるように、治療期間の終わりまで低減増加に差がある。化合物1は、SK-ML-28腫瘍増殖を阻害した。60mg/kgの化合物1を、5日間1日2回、続いて9日間1日1回皮下で与えた。ビヒクル対照は、5%のDMSOおよび95%の20%の2-ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン溶液からなった。各群は8匹の雌マウスを含んだ。t検定は、GraphPad Softwareを使用して行った。図6は、SK-ML-28腫瘍増殖の化合物1阻害を示すグラフである。図6に示される全体的な傾向は、インビトロ活性がインビボ環境に転換した証拠を提供し、インビボ有効性の統計的に顕著な実証を達成するために化合物1の効力を向上させる必要があることを示した。
【0067】
図7は、本開示のいくつかの態様による、タンパク質標的を同定する方法を示すフローチャートである。ステップ701は、生細胞、細胞溶解物、または生きた動物のプロテオームを、試料1および試料2として2つの同一の試料に分割する。ステップ702は、試料1を競合化合物でインキュベートする。ステップ703は、プローブ化合物を、競合化合物で処置した試料1および試料2でインキュベートする。ステップ704は、検出可能な標識をそれぞれ、試料1および試料2と反応させ、これによって、標的タンパク質の富化が可能になる。ステップ705は、富化した標的タンパク質のプロテアーゼ消化を実施する。また、ステップ706は、タンデム質量タグ(TMT)を使用するタンデム質量分析法(MS/MS)を実施して、試料1および試料2からの富化された標的タンパク質を比較し、これによって、プローブ化合物を共有結合する標的タンパク質の同定および定量化が可能になる。
【0068】
本発明は、上の実施例を参照しながら説明されてきたが、修正および変形が、本発明の趣旨および範囲内に包含されることが理解されるであろう。本発明の例示的な実施例は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる添付文書Aとして本明細書に添付される。したがって、本発明は、以下の特許請求の範囲によってのみ限定される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7