(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】自己走行自動車両のための制御デバイス
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20241112BHJP
B60W 30/02 20120101ALI20241112BHJP
【FI】
B62D6/00
B60W30/02
(21)【出願番号】P 2022518636
(86)(22)【出願日】2020-09-29
(86)【国際出願番号】 EP2020077176
(87)【国際公開番号】W WO2021063916
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-08-30
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ゴンサレス バウティスタ, ダビド
(72)【発明者】
【氏名】マハウト, イマン
(72)【発明者】
【氏名】ミラネス, ビセンテ
(72)【発明者】
【氏名】ナヴァス マトス, フランシスコ マーティン
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/208786(WO,A1)
【文献】特開平03-007668(JP,A)
【文献】特開昭62-137276(JP,A)
【文献】特表2002-537549(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0069489(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111332278(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B60W 30/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自律走行または支援走行を備えた自動車両を制
御デバイス(1)であって、計画された軌道に関する情報を記憶することができるルート計画モジュール(5)と、加速アクチュエータおよび制動アクチュエータに対する指令信号(6、7)を出力として生成することができる、前記車両の縦方
向コントローラ(3)と、前記車両が前記計画された軌道を前記車両の支援走行モードまたは自動走行モードで追従するよう、ステアリングアクチュエータに対する指令信号(12)を出力として生成することができる、前記車両の横方
向コントローラ(8)とを備え、前記横方向コントローラ(8)の前記出力は、前記計画された軌道上の道路の曲率から得られる所望のヨー角速度と、前記横方向コントローラ(8)に対する入力とし
てヨー角速度
の推定値
を供給することができる、前記車両の動的挙動のモデル(M)から推定される前記車両の現在のヨー角速度との間の誤差の最小化に基づいており、前記ヨー角速度
の推定値
は、前記車両の測定された縦方向の速度および測定されたステアリング角に基づく、デバイス(1)において、
前記デバイス(1)は、
前記モデルによって前記横方向コントローラに供給された前記推定値が瞬時に修正されるよう、前記モデルと前記車両の実際の動的挙動との間が乖離した場合に
、推定されたヨー角速度値
と、埋設されたセンサ(16)によって測定されたヨー角速度値
との間の比較の関数として前記モデル(M)のパラメータを動的に修正することができる、前記車両の横方向の動力学を補償するためのモジュール(11)
と、
前記車両の前記横方向の動力学を補償するための前記モジュール(11)の出力にリンクされた安全モジュール(13)と
を備え
、
前記安全モジュール(13)は、修正されたモデルの出力と前記車両の前記実際の動的挙動との相違に基づいて、自動モードにおける損なわれた走行状態を検出するように適合され、
前記修正されたモデルは、前記車両の前輪および後輪に加えられる、線形化された横方向の力(F
f_L
、F
r_L
)の推定値を供給することができ、前記安全モジュール(13)は、前記線形化された横方向の力を受け取ることができ、また、前記線形化された横方向の力を、前記車両に埋設されたセンサ(14、15、16)によって供給されたデータを使用して計算された横方向の力(F
f
、F
r
)と比較することができることを特徴とする、デバイス(1)。
【請求項2】
前記補償するためのモジュール(11)は、前記ヨー角速度値
の前記推定された値
と前記測定されたヨー角速度値
との間の差を考慮する適応アルゴリズムによって補償済みステアリング角(δ
comp)を推定するように適合され、前記モデル(M)の出力は、前記モデルのための入力として供給された前記補償済みステアリング角に基づいて修正されることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記安全モジュール(13)は、前記車両の横方向の加速度の値、ステアリング角の値、および前記埋設されたセンサによって測定されたヨー角速度の値に基づいて、前記前輪および後輪に加えられた前記横方向の力(F
f、F
r)を計算することができる計算モジュール(130)を備えることを特徴とする請求項
1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記安全モジュール(13)は、前記線形化された横方向の力(F
f_L、F
r_L)と前記計算された横方向の力(F
f、F
r)との間の差を確立することができ、また、前記差が予め定めた閾値(ε)を超えると安全モードを起動することができる比較器モジュール(131)を備えることを特徴とする請求項
1または
3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記安全モジュール(13)は、前記縦方向コントローラおよび横方向コントローラに対する車両安全保護指令信号を生成することができ、前記安全保護指令信号は、前記安全モードが起動されると、自動モードにおける走行指令信号より優先されることを特徴とする請求項
4に記載のデバイス。
【請求項6】
前記安全保護指令信号は前記車両の停止を指令するように適合されることを特徴とする請求項
5に記載のデバイス。
【請求項7】
前記安全モジュール(13)は、前記安全モードが起動されると、前記車両のマンマシンインタフェース(17)に対する警報信号を生成することができることを特徴とする請求項
4から
6のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
請求項1から
7のいずれか一項に記載の制御デバイス(1)を備えることを特徴とする自動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律走行を備えた車両の制御デバイスに関する。
【0002】
本発明は、とりわけ、車両をその車線に維持するための機能、ならびに車両の速度およびステアリングを調整するための機能を必要とする自動車両走行の分野に適用する。
【背景技術】
【0003】
自動車両走行の目的は、とりわけ、運動の安全性および効率を改善することである。自動車両走行は、詳細には、自動車両の軌道の安定性をとりわけ制動作用を介して制御する機能を満たすESP(電子安定性プログラム)などの、重大な状況における車両の動的挙動を修正するように適合された走行支援システムを組み込んだ能動安全システムに頼っている。例えば自動車両が過度に速い縦方向の速度での方向転換に遭遇すると、道路の曲率を堅持することは困難であり、自動車両はアンダーステアを開始し得る。次に、自動的にESPシステムが介入し、運転者が希望する軌道上に車両を維持する。一般に、運転者が希望する軌道から車両が逸脱すると、ESPシステムは、車両の軌道を修正するためにエンジントルク設定点信号および/または制動トルク設定点信号を送る。
【0004】
ESPシステムのような車両の制御システムの場合、車両のヨー角速度は、車両の横方向の安定性を維持することができるように、知るべきキーパラメータである。
【0005】
車両の横方向の安定性は、実際、極端な横方向の操縦の際の、または好ましくない走行状態、例えば雪または氷の上の横方向の操縦の際の、あるいはタイヤの圧力の突然の損失、さらには突然の横風の場合における乗員の安全のために極めて重要である。したがって車両安定性制御システムは、このような好ましくない状態における車両の横方向の安定性を改善するために使用されている。そのためには、既に示したように、ヨー角速度は、車両の安定性制御システムが知るべき不可欠の変数である。この変数は、車両に埋設された専用のセンサによって測定することができる。また、この変数は、横方向加速度計および車輪速度センサなどの他の埋設センサを使用して推定することも可能である。次に車両の安定性制御システムは状態オブザーバを備えており、この状態オブザーバは、測定されないが制御のために必要なヨー角速度情報の推定を可能にしている。車両の動力学をモデル化するモデルに基づいて構築される状態オブザーバは、車両の速度および横方向の加速度を受け取ってヨー角速度を推定する。
【0006】
車両の安定性制御システムで実現される、適切に機能するためのアルゴリズムの場合、アルゴリズムが入力として受け取るデータは、詳細にはシステムのあらゆる誤動作および非安定性を回避するために修正する必要がある。ここまでのところで、ヨー角速度を含む特定の数のこれらのデータは、車両に特化された動的モデルに基づいてオブザーバによって計算されることは既に明らかであり、これは、これらのオブザーバが常に適切に機能していなければならないこと、すなわち車両の動作範囲は、常に、その車両モデルが検証された応答限界内に存在していなければならないことを意味している。言い換えると、車両がモデルの検証範囲内で依然として機能しているかどうかを恒久的に決定することができること、したがって制御システムが依然として車両を自動走行モードで管理することができるかどうかを恒久的に決定することができることが不可欠である。
【発明の概要】
【0007】
したがって自動走行車両には、車両を適切に制御することできる適切な入力が必要であるが、制御システムの公称挙動がもはや保証されない重大な状況を検出することができることが同じく必要である。
【0008】
本出願人の名前で出願した、出願番号第FR1909681号を担っている、未だ公開されていない本特許出願は、車両の物理的限界に到達し得る非安定状況に反応するように車両の制御システムが設計される自動走行車両のためのアプリケーションを目的としている。典型的な例は、旋回時にタイヤと地面との間のグリップによって課される物理的限界を考慮すると、車両が明らかに速すぎる速度で突入し得る急旋回である。本文書は、車両モデルが自律モードにおける車両の、その前方に位置しているルート全体にわたる将来の位置を予知することができ、車両の運転限界に違反する状況に対応する車両の将来の位置を前もって識別し、したがってこれらの状況を防止するための決定を早期に下すことができるシステムを記述している。
【0009】
しかしながらこのシステムは、事実上、早期の反応を可能にし、車両が車両の運転限界を越えて制御不可能な状況に至るのを防止しているが、このシステムは、自動走行モードにおける車両の操作を損なう可能性のある車両の運転状態の突然で、かつ、予知不可能な変化に実時間で反応するようには設計されていない。詳細には、特定の運転状況では、車両の横方向安定性制御システムによって使用される車両モデルの応答と車両の実際の挙動との間には不一致が存在することがあり、これは、車両の極めて不安定な状態をもたらし得る。車両が自動走行モードにおけるその軌道をもはや修正することができない危険にさらされるこのような状況は、例えばタイヤ-道路接触の性質が突然に、かつ、予知不可能に変化する場合(例えば車輪のグリップを危うくする可能性のある油、砂または砂利が道路上に存在する場合)に生じ、さらにはタイヤが突然に破裂する場合に生じ得る。これらの状況では、制御システムによって使用される車両のモデルはもはや有効ではあり得ず、これは、車両の安定性制御システムのすべての制御論理がモデルの使用に頼っている限り、潜在的な危険を表す。
【0010】
また、説明した状況におけるこれらの運転状態の突然で、かつ、予知不可能な変化を含む、自動走行モードの車両のあらゆる運転状態における横方向安定性制御の頑丈性を強化する必要性が同じく存在している。
【0011】
別の必要性は、車両の挙動と車両モデルの応答との間の不一致のために制御の安定性がもはや保証され得ない状況を実時間で検出することができることである。
【0012】
そのために、本発明は、自律走行または支援走行を備えた自動車両の制御デバイスであって、計画された軌道に関する情報を記憶することができるルート計画モジュールと、加速アクチュエータおよび制動アクチュエータに対する指令信号を出力として生成することができる、車両の縦方向の運動のコントローラと、車両が計画された軌道を車両の支援走行モードまたは自動走行モードで追従するよう、ステアリングアクチュエータに対する指令信号を出力として生成することができる、車両の横方向の運動のコントローラとを備え、前記横方向コントローラの出力は、計画された軌道上の道路の曲率から得られる所望のヨー角速度と、前記横方向コントローラのための入力として供給することができる、車両の動的挙動のモデルに基づいて推定される車両の現在のヨー角速度との間の誤差の最小化に基づき、ヨー角速度の推定値は、車両の測定された縦方向の速度および測定されたステアリング角に基づく制御デバイスにおいて、制御デバイスは、モデルによって横方向コントローラに供給された前記推定値が瞬時に修正されるよう、モデルと車両の実際の動的挙動との間が乖離した場合に、ヨー角速度の推定された値と、埋設されたセンサによって測定されたヨー角速度値との間の比較の関数としてモデルのパラメータを動的に修正することができる、車両の横方向の動力学を補償するためのモジュールを備えることを特徴とする制御デバイスに関する。
【0013】
有利には、補償モジュールは、推定されたヨー角速度値と測定されたヨー角速度値との間の差を考慮する適応アルゴリズムによって補償済みステアリング角を推定するように適合され、モデルの出力は、モデルのための入力として供給された補償済みステアリング角に基づいて修正される。
【0014】
有利には、デバイスは、車両の横方向の動力学を補償するためのモジュールの出力にリンクされた安全モジュールを備えており、前記安全モジュールは、修正されたモデルの出力と車両の実際の動的挙動との相違に基づいて、自動モードにおける損なわれた走行状態を検出するように適合される。
【0015】
有利には、修正されたモデルは、車両の前輪および後輪に加えられる、線形化された横方向の力の推定値を供給することができ、前記安全モジュールは、前記線形化された横方向の力を受け取ることができ、また、前記線形化された横方向の力を、車両に埋設されたセンサによって供給されたデータを使用して計算された横方向の力と比較することができる。
【0016】
好ましくは、安全モジュールは、車両の横方向の加速度の値、ステアリング角の値、および埋設されたセンサによって測定されたヨー角速度の値に基づいて、前輪および後輪に加えられた横方向の力を計算することができる計算モジュールを備えている。
【0017】
好ましくは、安全モジュールは、線形化された横方向の力と計算された横方向の力との間の差を確立することができ、また、前記差が予め定めた閾値を超えると安全モードを起動することができる比較器モジュールを備えている。
【0018】
有利には、前記安全モジュールは、縦方向コントローラおよび横方向コントローラに対する車両安全保護指令信号を生成することができ、前記安全保護指令信号は、前記安全モードが起動されると、自動モードにおける指令信号より優先される。
【0019】
好ましくは、前記安全保護信号は車両の停止を指令するように適合される。
【0020】
有利には、前記安全モジュールは、前記安全モードが起動されると、車両のマンマシンインタフェースに対する警報信号を生成することができる。
【0021】
本発明は、同じく、上で説明した制御デバイスを備えることを特徴とする自動車両に関している。
【0022】
本発明の他の特徴および利点は、例証および非制限の例として与えられ、また、添付の図面を参照して与えられている以下の説明を読めばより明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の制御デバイスのアーキテクチャを示す線図である。
【
図2】坂道に対応する運転状態で、車両に埋設されたセンサによって測定され、かつ、車両のモデルを使用して計算されたヨー角速度の時間の関数としての傾向を示すグラフである。
【
図3】
図2のグラフと同様であるが、よく滑る道路に対応する異なる運転状態におけるグラフである。
【
図4】
図1に示されている車両の横方向の動力学を補償するためのモジュールの動作を示すブロック図である。
【
図5】
図1に示されている安全モジュールの動作を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1を参照すると、車両の制御デバイス1は自律走行制御モジュール2を備えている。この制御モジュール2は、縦方向コントローラと呼ばれる、車両に埋設された速度センサ4から得られる車両の現在の速度値を入力として受け取り、また、とりわけ、計画されたルートに沿って計画された基準速度値を含む、車両のための計画されたルートに関連する情報を記憶しているルート計画モジュール5から得られる基準速度値を入力として受け取る第1のコントローラ3を備えている。縦方向コントローラ3は、現在の値と基準値との間の速度誤差を最小化するために、車両の対応する加速アクチュエータおよび制動アクチュエータに対するエンジントルク指令信号および制動指令信号6、7を生成するように適合されている。
【0025】
制御モジュール2は、横方向コントローラと呼ばれる第2のコントローラ8を同じく備えており、この第2のコントローラ8は、ルート計画モジュール5から誘導する、道路の曲率を含む情報、車両の位置モジュール9から誘導する位置情報、およびヨー角速度の推定値を供給することができ、また、本発明に従って、本明細書において以下でより詳細に説明されるように特定の運転状況における車両の公称モデルの誤差を補償するように設計された、車両の横方向の動力学を補償するためのモジュール11によって動的に修正される車両の動的挙動のモデルに基づいて計算された値10に対応する車両の現在のヨー角速度値から得られる所望のヨー角速度値を入力として受け取る。横方向コントローラ8は、所望のヨー角速度(曲率の関数としての道路アライメントに関する情報から得られる)と動的に修正された車両のモデルから誘導する現在のヨー角速度との間のヨー誤差を最小化するために、これらの様々な入力から、車両の駆動輪のステアリング角に作用する車両のステアリングアクチュエータに対するステアリング角指令信号12を生成するように適合されている。
【0026】
補償モジュール11の作用は、車両のモデルを動的に補償して、例えば車輪-地面接触の性質などの車両の運転状態を突然に変更する予期しない状況によってもたらされ、また、車両の公称モデルが検証された応答限界外に存在している動作範囲に車両をもたらす可能性のある、公称モデルにモデル化されていない車両の横方向の動力学を考慮することにより、横方向コントローラ8への適切なヨー角速度値の供給を可能にすることを目的としている。
【0027】
したがって車両の横方向コントローラ8には、しかるべく補償されたモデルの出力を供給することができ、これらの予期しない状態を含むあらゆる運転状態において供給される制御の頑丈性を改善することができる。しかしながら実際の値に対応する車両のヨー角速度を供給するモデルの補償は、車両に加えられる横方向の力の潜在的な飽和には無関係であり、やはり車両の非制御状態をもたらし得る。言い換えると、車両の横方向コントローラには、モデルに適用された補償によって適切なヨー角速度値を供給することができるが、車両の視覚可能な運転限界を超えているため、車両は、やはり、もはや自律モードにおけるその軌道を修正することができない状況にあり得る。これらの状況における車両の乗員の安全を保証する対策を講じることができるためには、車両の横方向の安定性の公称制御がもはや保証されないこれらの重大な状況を検出することができることが必要である。
【0028】
また、モデルの補償モジュール11によって実現されるヨー角速度の修正の第1のステップによって適切な入力が横方向コントローラ8に供給されると、安全モジュール13によって実現される第2のステップは、車両の物理的走行限界を超えているかどうかを検出することにある。最大横方向能力に到達すると、車両および制御のために使用されるモデルは等しく挙動せず、したがってモデルによって推定された横方向の力と、車両に埋設されたセンサによって測定されたデータを使用して計算された横方向の力との間の乖離を検出することができる。したがって安全モジュール13は、それぞれ埋設センサ14、15、16によって測定される車両の横方向の加速度の値、ステアリング角の値、ヨー角速度の値を入力として受け取る。安全モジュール13は補償モジュール11に同じくリンクされている。したがって安全モジュール13は、補償モジュール11の出力における、修正されたモデルから得られる線形化された横方向の力を、車両に埋設されたセンサによって測定された横方向の加速度の値、ステアリング角の値およびヨー角速度の値を使用して計算された横方向の力に対して比較することにより、車両が物理的限界を超えていることを検出するように設計されている。このような比較により、横方向の力の飽和を正確に識別することができる。安全モジュール13の出力は車両のマンマシンインタフェース17に接続されている。したがって比較の結果が所与の閾値を超えている場合、安全モジュール13は、車両のマンマシンインタフェース14に対する音声および/または視覚警報信号の生成を命令する。また、安全モジュール13は、車両の縦方向コントローラ13および横方向コントローラ8に同じく接続されている。安全モジュール13は、車両のアクチュエータに作用するコントローラに対して、例えば運転者が警報信号に応答しない場合に乗員の安全を保証するために、車両を停止することによって車両を安全状態に置くことが意図された安全保護指令信号を生成することができる。
【0029】
要約すると、車両の制御デバイス1は、一方では補償モジュール11を介して、車両のモデルの応答と車両の実際の挙動との間の不一致を修正することにより、車両のモデルに基づいてヨー角速度の適切な推定値および線形化された横方向の力の適切な推定値を供給するように適合され、また、他方では、予防安全手順を適用して、典型的には車両を停止して車両の安全を保護することができるよう、安全モジュール13を介して、突然に生じる、制御の安定性をもはや保証することができない運転状況に対応する、車両の自動モードにおける損なわれた走行の状態を検出するように適合され、これは自動モードにおける公称走行指令に優先する。
【0030】
以下、補償モジュール11および安全モジュール13のそれぞれの動作についてより詳細に説明する。
【0031】
補償モジュール11は、一方では、横方向コントローラ8のための適切なヨー速度を供給するように適合され、他方では、安全モジュール13の中で比較されることが意図された、線形化された横方向の力を供給するように適合されている。ここでの目的は、公称モデルと実際の車両との間の差を修正することにより、横方向コントローラおよび安全モジュールのための適切な入力を供給することである。
【0032】
それ自体よく知られている、ヨーおよびドリフトに関する車両の動的挙動を説明することができる自転車モデルが使用されることになる。したがって車両のヨー角速度および横方向の動力学は、以下の微分方程式によって説明することができる。
m[a
y]=F
fcos(δ)+F
r+gsin(θ)cos(Φ)
上式で、a、bは車両の重心からそれぞれ前輪および後輪の軸までの距離であり、mは車両の重量であり、また、lzは垂直軸Zの周りの慣性モーメントである。Ψ、θ、Φはそれぞれ車両のヨー角、車両の傾斜角および車両のピッチ角である。M
z、ayおよびδは、それぞれ専用アクチュエータによって課されるヨーモーメント、横方向の加速度およびステアリング角である。Ff、Frは、車輪/地面接触によって車両の前輪および後輪に加えられ、車両の方向転換を許容する前方および後方の横方向の力である。それらは車両のステアリング角δ、スリップ角および運動の速度で決まる。
【0033】
しかしながら横方向コントローラの設計および運動の予知は、線形車両モデルを使用し、また、安価なセンサを使用して利用することができる信号のみに頼っているため、自律車両における横方向の運動を制御するためには、上で説明したモデルを単純化しなければならない。使用される単純化は、まず最初に、車両が車輪に加えられる力の線形範囲内で使用される場合、前輪および後輪に加えられる横方向の力は横方向のスリップ角に比例することを仮定することによって得られる。さらに、小さいステアリング角は、cos(δ)=1およびsin(δ)=δであるように定義されることが仮定される。
【0034】
βを車両の重心の周りで測定した車両の総速度ベクトルと車両の縦方向との間の角度とする。以下を適用する。
上式で、VxおよびVyは車両の縦方向および横方向の軸上の速度である。
【0035】
既に示したように、車両のヨー角速度は、自律車両における横方向の制御のためのキー変数である。したがってこの変数は正確に分からなければならない。
【0036】
図2および
図3は、車両に埋設されたセンサ
によって測定され、かつ、上で説明したモデル
を使用して計算された、度/秒を単位とする、ヨー角速度の時間の関数としての傾向を示すグラフであり、ステアリング角δは、それぞれ坂道(
図2)およびよく滑る道路の2つの異なる運転状態で測定されている。
図2に示されている、測定されたヨー角速度値と計算されたヨー角速度値との間の乖離は、使用されたモデルが坂すなわち傾斜角の影響を考慮していないことによるものである。平らではあるが、よく滑る道路でデータが取得された
図3では、乖離は横方向の力の飽和によるものである。このような乖離は、詳細には
図3の45秒目あたりに出現している。測定されたヨー角速度値と計算されたヨー角速度値との間の乖離を示しているこれらの2つの例は、頑丈性および操作の安全性を強化することができるよう、車両のモデルを補償して、自律車両における潜在的なあらゆる運転状況を考慮する必要性を明確に例証している。
【0037】
この乖離を補償するために、乖離が車両の実際の挙動に現れるこれらの特定の運転状況における車両のモデルを修正することができ、したがって横方向コントローラに適切なヨー角速度値を供給することができる、車両の横方向の動力学を補償するためのモジュール11が提供されている。
【0038】
図4は、あらゆる運転状態における車両のモデルMの出力にヨー角速度の正確な推定値を得ることができる補償モジュール11の動作を示すブロック図である。
【0039】
車両の横方向の動力学を補償するためのモジュール11は、モデルM上をループし、また、測定されたステアリング角δを修正して、車両に埋設されたヨー角速度センサ16によって測定されたヨー角速度値と、車両の公称モデルMに基づいて計算されたヨー角速度値との間の乖離を最小化するように適合される補償器110を備えている。
【0040】
より詳細には、補償モジュール11は、測定されたヨー角速度
車両の埋設された速度センサ4から誘導された車両の運動の速度、および計画された軌道に対応する道路のアライメントに関する情報を記憶するための手段18によって供給される道路のアライメント(坂、傾斜)に関する情報を入力として使用している。ヨー角速度
は、最初は、車両の縦方向の速度データ、および例えば車輪ステアリング角センサによって測定されたステアリング角に基づいて、モデルMを使用して、道路の坂および傾斜情報を優先的に考慮して計算される。
【0041】
そのために、車両のモデルMのパラメータは、前輪の横方向剛性Cf、後輪の横方向の剛性Cr、車両の重心から前輪までの縦方向の距離a、車両の重心から後輪までの縦方向の距離b、車両の重量、および車両のヨー慣性のモーメントlzを含む。
【0042】
モデル補償器110は、測定されたヨー角速度
および、モデル
を使用して計算されたヨー角速度を考慮して、詳細にはこれらのそれぞれの角速度の間の乖離を最小化するために、それらの間の比較に基づいて補償済みステアリング角δcompを供給する。そのために、モジュール110は適応パラメータアルゴリズムを実現して、以下に従って補償済みステアリング角δcompを計算することにより、モデル化されていない車両の動力学を得る。
上式でC(Q)は、パラメータ適応アルゴリズム(PAA)を使用してオンラインで計算された適合パラメータQに基づく適応コントローラである。
【0043】
次に、モデル
を使用して計算されたヨー角速度が測定されたヨー角速度
に向かって収束するよう、補償済みステアリング角が車両のモデルMに供給される。したがってモデルの出力は補償モジュール11を使用して実時間で修正され、したがって横方向コントローラ8は適切なヨー角速度データを入力として受け取る。
【0044】
ヨー角速度が補償されると、車両の前輪および後輪に加えられる、線形化された横方向の力が推定される。それぞれ前がFf_lであり、後ろがFr_lであるこれらの線形化された横方向の力は以下のように推定される。
【0045】
したがってモデル補償器110によってループされる車両のモデルMにより、線形化されたシステムを有することができる。
【0046】
しかるべく推定され、線形化されたこれらの横方向の力は、車両の横方向の動力学を補償するために、モジュール11によって安全モジュール13の入力として供給され、これらの横方向の力は、安全モジュール13で、車両の埋設されたセンサを使用して計算された横方向の力と比較されることになる。既に説明したように、この比較の目的は、車両のモデルと車両の実際の挙動との間が乖離した場合に、車両の物理的運転限界を超えたかどうかを検出することである。
【0047】
図5は、この比較を実施することができる安全モジュール13の動作を示すブロック図である。
【0048】
安全モジュール13は、埋設されたセンサであるそれぞれ横方向の加速度測定センサ14、ステアリング角測定センサ15およびヨー角速度測定センサ16によって測定された車両の横方向の加速度の値、ステアリング角の値およびヨー角速度の値に基づいて、前輪および後輪に加えられた横方向の力を計算することができる計算モジュール130を備えている。それぞれ前がFfであり、後ろがFrであるこれらの横方向の力は、以下のように推定される。
上式でayは測定された横方向の加速度に対応している。
【0049】
センサデータに基づいて計算モジュール130によって計算された横方向の力、および補償モジュール11によって推定された、線形化された横方向の力は、これらのそれぞれの計算された横方向の力と推定された横方向の力との間の比較を実施することができる安全モジュール13の比較器モジュール131によって入力として供給される。
【0050】
より詳細には、比較器モジュール131は、線形化された横方向の力と計算された横方向の力との間の差を確立し、かつ、この差を予め定めた閾値εに対して比較する。この差が予め定めた閾値より大きい場合、比較器モジュールは、この差から、車両の自動モードにおける走行が、もはや制御の安定性が保証され得ない点まで損なわれたことを推論する。また、予め定めた閾値εを超えると、安全モードが起動されることになる。この安全モードは、一方では、車両のマンマシンインタフェース17に対する、車両が制御不可能な状態であることを運転者に知らせることを目的とした警報信号132の生成を含む。同時に、この閾値を超えると、車両を安全状態にもたらすために、車両のアクチュエータ、とりわけステアリングホイールおよび制動アクチュエータに作用するコントローラに対する安全保護指令信号133の生成および送信がトリガされ、この安全保護指令信号133は、運転者が反応しない場合の車両の停止を含む。