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  • 特許-親水化処理剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】親水化処理剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20241112BHJP
   C09D 133/14 20060101ALI20241112BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20241112BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20241112BHJP
   C08L 39/06 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C09K3/00 R
C09D133/14
C08L33/14
C08L29/04 C
C08L39/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022526900
(86)(22)【出願日】2021-05-17
(86)【国際出願番号】 JP2021018538
(87)【国際公開番号】W WO2021241295
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2024-04-15
(31)【優先権主張番号】P 2020094946
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】315006377
【氏名又は名称】日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】玉本 健
(72)【発明者】
【氏名】金子 宗平
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-74868(JP,A)
【文献】特開2013-79306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内にアルコキシシリル基、及びその加水分解体のうち少なくともいずれかと、ベタイン構造と、を有する親水性ポリマー(A)と、
イオン性官能基を有する親水性ポリマー、及び極性官能基を有するノニオン系親水性ポリマーのうち少なくともいずれかであり、分子内にベタイン構造を有しない親水性ポリマー(B)と、を含み、
前記親水性ポリマー(A)は、少なくともベタインモノマーと、アルコキシシリル基又はシラノール基を含有する化合物と、を重合させることで得られ、
前記ベタインモノマーは、前記ベタイン構造以外に1つ又は複数の重合性官能基を有し、
前記重合性官能基は、アクリロイル基又はメタクリロイル基であり、
前記アルコキシシリル基又はシラノール基を含有する化合物は、分子内に炭素数1~4のアルコキシ基又はシラノール基を少なくとも1つ有するか、又は前記分子内に炭素数1~4のアルコキシ基又はシラノール基を少なくとも1つ有する化合物がアゾ基で連結された化合物であり、
前記親水性ポリマー(A)は、アルコキシシリル基、及びシラノール基のうち少なくともいずれかを有し、
前記親水性ポリマー(A)における前記アルコキシシリル基又はシラノール基を有する化合物の含有量は、親水性ポリマー(A)100質量部あたり0.01~30質量部であり、
前記イオン性官能基は、アニオン性官能基又は両性官能基であり、
前記両性官能基を有する前記親水性ポリマー(B)は、アリルアミン-マレイン酸共重合体、スチレン-アクリル酸-アクリル酸ジアルキルアミノエステル共重合体、アミノエチルメタクリレート-メタクリル酸共重合体、メチルアミノエチルメタクリレート-アクリル酸共重合体、ビニルピリジン-マレイン酸共重合体、ビニルピリジン-イタコン酸共重合体、及びメチルアリルアミン-イタコン酸共重合体、のうち少なくともいずれかであり、
前記極性官能基を有するノニオン系親水性ポリマーは、ポリビニルピロリドン又はポリビニルアルコールであり、
前記親水性ポリマー(B)の重量平均分子量は、1000~1000000であり、
前記親水性ポリマー(A)と前記親水性ポリマー(B)との固形分の合計質量に対する、前記親水性ポリマー(B)の固形分質量比であるB/(A+B)が1.0~51.0%である、親水化処理剤。
【請求項2】
前記親水性ポリマー(A)は、分子内の少なくとも末端に、アルコキシシリル基、及びシラノール基のうち少なくともいずれかを有する、請求項1に記載の親水化処理剤。
【請求項3】
前記イオン性官能基のうち、少なくとも一部はアニオン性官能基である、請求項1又は2に記載の親水化処理剤。
【請求項4】
前記イオン性官能基は、カルボキシ基、及びスルホ基のうちいずれかである、請求項1から3のいずれかに記載の親水化処理剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水化処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス等の基材に防曇性を付与する親水化処理剤としては、シリケートオリゴマーやシリカゲルを含有するものが知られている。また、ベタイン構造を有する親水化処理剤も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2014/084219号
【0004】
特許文献1には、ベタインモノマー及びアルコキシシリル基含有化合物を含有するモノマー成分を重合させてなる親水性コート剤が開示されている。そして、上記親水性コート剤により形成される被膜は防曇性、耐摩耗性に優れている、とされている。しかし、特許文献1に開示されている技術を含め、従来の親水性コート剤は、形成される親水被膜が、湿熱環境下において防曇性が容易に劣化する問題があった。また、親水被膜の耐擦り傷性についても未だ改善の余地があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、好ましい親水性と防曇性が得られ、かつ耐湿熱性及び耐擦り傷性に優れた親水被膜を形成できる親水化処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、分子内にアルコキシシリル基、及びその加水分解体のうち少なくともいずれかと、ベタイン構造と、を有する親水性ポリマー(A)と、イオン性官能基を有する親水性ポリマー、及び極性官能基を有するノニオン系親水性ポリマーのうち少なくともいずれかである親水性ポリマー(B)と、を含み、前記親水性ポリマー(A)と前記親水性ポリマー(B)との固形分の合計質量に対する、前記親水性ポリマー(B)の固形分質量比であるB/(A+B)が1.0~51.0%である、親水化処理剤に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、好ましい親水性と防曇性が得られ、かつ耐湿熱性及び耐擦り傷性に優れた親水被膜を形成できる親水化処理剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施例及び比較例に係る親水化処理剤を用いた湿熱試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0010】
<親水化処理剤>
本実施形態に係る親水化処理剤は、分子内にアルコキシシリル基、及びその加水分解体のうち少なくともいずれかと、ベタイン構造と、を有する親水性ポリマー(A)と、イオン性官能基を有する親水性ポリマー、及び極性官能基を有するノニオン系親水性ポリマーのうち少なくとも一方を有する親水性ポリマー(B)と、を含む。親水性ポリマー(A)と親水性ポリマー(B)とが、親水化処理剤により形成される親水被膜中でイオン架橋ネットワーク、又は双極子-双極子相互作用によるネットワークを形成することで、親水被膜の好ましい耐湿熱性や耐擦り傷性が得られる。
【0011】
(親水性ポリマー(A))
親水性ポリマー(A)は、ベタイン構造を有し、分子内の少なくとも末端に、アルコキシシリル基又はシラノール基を有することが好ましい。親水性ポリマー(A)は、例えば、ベタインモノマーと、アルコキシシリル基又はシラノール基を含有する化合物と、を重合させることで得られる。
【0012】
ベタインモノマーは、分子内にベタイン構造を有する化合物である。親水性ポリマー(A)が分子内にベタイン構造を有することで、親水化処理剤により形成される親水被膜に好ましい防曇性を付与できる。ベタイン構造は、ベタインモノマーの同一分子内における陽イオン及び陰イオンからなる。上記陽イオンとしては、特に制限されないが、例えば、四級アンモニウム、スルホニウム、ホスホニウム等が挙げられる。上記陰イオンとしては、特に制限されないが、例えば、-SO 、-CO 、-PO、-OPO 等が挙げられる。ベタインモノマーとしては、例えば、四級アンモニウムを陽イオンとすることが好ましい。また、四級アンモニウムを陽イオンとし、スルホキシ基(-SO )を陰イオンとすることがより好ましい。これらのベタインモノマーは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0013】
ベタインモノマーは、上記ベタイン構造以外に、アクリロイル基又はメタクリロイル基(以下、「(メタ)アクリロイル基」と記載する場合がある)等の1つ又は複数の重合性官能基を有する。上記重合性官能基としては、特に制限されないが、例えば、アルキル基の炭素数が1~4の(メタ)アクリロイルアミノアルキル基、アルキル基の炭素数が1~4の(メタ)アクリロイルオキシアルキル基等が挙げられる。
【0014】
上記炭素数が1~4の(メタ)アクリロイルアミノアルキル基としては、例えば、(メタ)アクリロイルアミノメチル基、(メタ)アクリロイルアミノエチル基、(メタ)アクリロイルアミノプロピル基、(メタ)アクリロイルアミノブチル基等が挙げられる。上記アルキル基の炭素数が1~4の(メタ)アクリロイルオキシアルキル基としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシメチル基、(メタ)アクリロイルオキシエチル基、(メタ)アクリロイルオキシプロピル基、(メタ)アクリロイルオキシブチル基等が挙げられる。
【0015】
上記四級アンモニウムを陽イオンとし、スルホキシ基(-SO )を陰イオンとするベタインモノマーとしては、特に制限されないが、例えば、N-(メタ)アクリロイルオキシアルキル-N,N-ジメチルアンモニウムアルキル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシアルコキシアネルコキシ-N,N-ジメチルアンモニウムアルキル-α-スルホベタイン、N,N-ジ(メタ)アクリロイルオキシアルキル-N-メチルアンモニウムアルキル-α-スルホベタイン、N,N,N-トリ(メタ)アクリロイルオキシアルキルアンモニウムアルキル-α-スルホベタイン等が挙げられる。
【0016】
上記四級アンモニウムを陽イオンとし、カルボキシレート基(-CO )を陰イオンとするベタインモノマーとしては、特に制限されないが、例えば、N-(メタ)アクリロイルオキシアルキル-N,N-ジメチルアンモニウム-α-カルボキシルベタイン、N,N-ジ(メタ)アクリロイルオキシアルキル-N-メチルアンモニウム-α-カルボキシルベタイン、N,N,N-トリ(メタ)アクリロイルオキシアルキルアンモニウム-α-カルボキシルベタイン等が挙げられる。
【0017】
アルコキシシリル基を含有する化合物としては、特に制限されないが、例えば、分子内に炭素数1~4のアルコキシ基を少なくとも1つ有することが好ましい。また、上記に加えて、分子内に(-R-SH)で表されるメルカプト基を有することが好ましい。上記の場合、Rは炭素数1~12のアルキレン基を示す。このような化合物の具体例としては、例えば、2-メルカプトメチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトプロルトリメトキシシラン、2-メルカプトブチルトリメトキシシラン、2-メルカプトメチルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、2-メルカプトプロルトリエトキシシラン、2-メルカプトブチルトリエトキシシラン、2-メルカプトメチルトリプロポキシシラン、2-メルカプトエチルトリプロポキシシラン、2-メルカプトプロルトリプロポキシシラン、2-メルカプトブチルトリプロポキシシラン、2-メルカプトメチルトリブトキシシラン、2-メルカプトエチルトリブトキシシラン、2-メルカプトプロルトリブトキシシラン、2-メルカプトブチルトリブトキシシラン等が挙げられる。
【0018】
アルコキシシリル基を含有する化合物としては、上述の分子内に炭素数1~4のアルコキシ基を少なくとも1つ有する2つの化合物の分子が、アゾ基で連結された化合物であることが好ましい。これにより、形成される親水被膜の耐摩耗性が向上する。上記化合物は、他にメチレン基、-O-基、-C(O)O-基、-O(O)C-基、-NH-基、-CO-基、アリーレン基、ウレタン結合、1,2-イミダゾリン基等を有していてもよい。このような化合物の具体例としては、例えば、2,2’-アゾビス[2-(1-(トリメトキシシリルプロピルカルバモイル)-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス[2-(1-(トリエトキシシリルプロピルカルバモイル)-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス[2-(1-(トリプロポキシシリルプロピルカルバモイル)-2-イミダゾリン-2‐イル)プロパン]、2,2’-アゾビス[N-[2-(トリメトキシシリルプロピルカルバモイル)エチル]イソブチルアミド]、2,2’-アゾビス[N-[2-(トリエトキシシリルプロピルカルバモイル)エチル]イソブチルアミド]、2,2’-アゾビス[N-[2-(トリプロポキシリルプロピルカルバモイル)エチル]イソブチルアミド]等が挙げられる。
【0019】
シラノール基を含有する化合物は、特に制限されないが、例えば、上記アルコキシシリル基を含有する化合物のアルコキシシリル基が、加水分解されてシラノール基を形成することで得られる。シラノール基を含有する化合物は、上記以外に、トリメチルシリルクロリドやジメチル(t-ブチル)クロリド等のシリルクロリドを、活性水素含有化合物と反応させることにより得られる。
【0020】
上記アルコキシシリル基又はシラノール基を有する化合物は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0021】
親水性ポリマー(A)におけるアルコキシシリル基又はシラノール基を有する化合物の含有量は、親水性ポリマー(A)100質量部あたり0.01~30質量部であることが好ましい。
【0022】
親水性ポリマー(A)は、本発明の効果が阻害されない範囲内で、上記ベタインモノマー、及びアルコキシシリル基又はシラノール基を有する化合物以外の化合物が含有されていてもよい。このような化合物としては、特に制限されず、従来公知のものが用いられる。
【0023】
上記ベタインモノマー、及びアルコキシシリル基又はシラノール基を有する化合物等を重合させて、親水性ポリマー(A)を得る方法としては、特に制限されず、溶媒に各成分を溶解させて、必要に応じて重合開始剤を加えて重合させる、溶液重合法等の方法が挙げられる。溶媒の量は、特に限定されないが、例えば、溶液におけるモノマー成分の濃度が10~80質量%となるように調整できる。
【0024】
(親水性ポリマー(B))
親水性ポリマー(B)は、イオン性官能基を有するイオン化可能な親水性ポリマー、及び極性官能基を有するノニオン系親水性ポリマーのうち少なくともいずれかであればよい。親水化処理剤に親水性ポリマー(B)が含有されることで、得られる親水被膜の好ましい耐湿熱性及び耐擦り傷性が得られる。親水性ポリマー(B)は、イオン性官能基を有するイオン化可能な親水性ポリマーであることが好ましい。
【0025】
親水性ポリマー(B)が親水化処理剤に含有されることで、上記の効果が得られる理由については定かではないが、親水性ポリマー(A)とイオン性官能基を有するイオン化可能な親水性ポリマー(B)とが含有される本実施形態に係る親水化処理剤により形成される親水被膜のFT-IR測定を行ったところ、上記親水性ポリマー(A)及び上記親水性ポリマー(B)間でイオン架橋ネットワークが形成されていることが確認された。従って、従来の親水化処理剤と比較し、形成される親水被膜の好ましい耐擦り傷性が得られるものと考えられる。更に、このイオン架橋ネットワークを主とする被膜には、湿熱環境下、化学反応により親水性の低下を引き起こすと考えられる官能基を含まないため、湿熱環境下での親水性低下も起こり難いものと考えられる。また、親水性ポリマー(A)と極性官能基を有するノニオン系親水性ポリマー(B)とが含有される親水化処理剤についても、双極子-双極子相互作用によるネットワークが形成されることで、上記と同様の効果が得られると考えられる。
【0026】
イオン性官能基を有する親水性ポリマー(B)が有するイオン性官能基は、アニオン性官能基又は両性官能基であることが好ましく、アニオン性官能基であることがより好ましい。アニオン性官能基としては、特に制限されないが、カルボキシ基、及びスルホ基のうちいずれかであることが好ましい。
【0027】
カルボキシ基を有する親水性ポリマー(B)としては、特に制限されないが、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アンモニウム、無水マレイン酸共重合体、イタコン酸共重体及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0028】
スルホ基を有する親水性ポリマー(B)としては、特に制限されないが、例えば、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリ2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、及びこれらとポリアクリル酸との共重合体や、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸等が挙げられる。
【0029】
両性官能基を有する親水性ポリマー(B)としては、特に制限されないが、例えば、アリルアミン-マレイン酸共重合体、スチレン-アクリル酸-アクリル酸ジアルキルアミノエステル共重合体、アミノエチルメタクリレート-メタクリル酸共重合体、メチルアミノエチルメタクリレート-アクリル酸共重合体、ビニルピリジン-マレイン酸共重合体、ビニルピリジン-イタコン酸共重合体、メチルアリルアミン-イタコン酸共重合体等が挙げられる。
【0030】
ノニオン系極性官能基を有する親水性ポリマー(B)は、非イオン性の親水基を有する親水性ポリマーである。ノニオン系極性官能基を有する親水性ポリマー(B)としては、ポリビニルピロリドン、及びビニルピロリドンと酢酸ビニルとの共重合体、ビニルピロリドンとビニル基を有する化合物との共重合体等が挙げられる。上記以外に、親水性ポリマー(B)は、水酸基を有する親水性ポリマー(B)であってもよい。水酸基を有する親水性ポリマー(B)としては、例えば、ポリビニルアルコール等が挙げられる。ノニオン系極性官能基を有する親水性ポリマーは、ポリビニルピロリドン又はポリビニルアルコールであることが好ましい。
【0031】
親水性ポリマー(B)は、上記例示した1種類を用いてもよいし、2種以上の親水性ポリマー(B)を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
親水性ポリマー(B)の分子量は、特に制限されないが、重量平均分子量で1000~1000000であることが好ましい。重量平均分子量で5000~800000であることがより好ましく、得られる親水被膜の優れた耐湿熱性が発現する。また、重量平均分子量で5000~50000であることが更に好ましい。これにより、得られる親水被膜の好ましい耐擦り傷性と耐湿熱性が得られる。
【0033】
親水性ポリマー(A)と親水性ポリマー(B)との固形分の合計質量に対する、親水性ポリマー(B)の固形分質量比であるB/(A+B)は、1.0%~51.0%であることが好ましい。上記B/(A+B)は、得られる親水被膜の好ましい耐湿熱性が得られる観点から、5.0%~23.8%であることがより好ましい。また、上記B/(A+B)は、得られる親水被膜の好ましい耐擦り傷性が得られる観点から、5.0%~38.5%であることがより好ましい。即ち、上記を総合すると、上記B/(A+B)は、5.0%~23.8%であることが最も好ましい。
【0034】
(界面活性剤)
本実施形態に係る親水化処理剤は、界面活性剤を含有していてもよい。親水化処理剤に界面活性剤が含有されることで、各成分の分散性が良好となり、親水化処理剤の塗装時において、より均一な塗装が可能となる。上記界面活性剤としては、特に制限されず、公知のアニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等を用いることができる。
【0035】
(その他の成分)
本実施形態に係る親水化処理剤は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、上記以外の成分を含有していてもよい。例えば、他の種類のポリマー成分、水等の溶媒、及びNaCl、NaSO、KCl、KBr、KNO、KSO、CaCl、Si、Ti、アルミナ等の無機塩を含有していてもよい。
【0036】
<親水化処理剤の調製方法>
本実施形態に係る親水化処理剤の調製方法としては、特に制限されないが、例えば、上記親水性ポリマー(A)及び親水性ポリマー(B)、並びにその他の成分を所定量配合し、必要に応じて水等の溶媒を加えて撹拌することで得られる。
【0037】
<親水化処理剤の塗装方法>
親水化処理剤の塗装方法は、上記により得られた親水化処理剤を基材に塗装し、基材表面に親水被膜を形成する方法である。親水化処理剤が塗装される対象の基材としては、特に制限されないが、例えば車両等に用いられるガラス、アルミ等の無機基材や、PET、PC、PMMA等の有機基材が挙げられる。
【0038】
親水化処理剤の塗装方法は、例えば、前処理工程と、塗布工程と、焼き付け工程と、を含む。
【0039】
前処理工程は、例えば、親水化処理剤が塗布される基材表面を研磨する研磨工程と、研磨剤等を洗浄する洗浄工程と、を含んでいてもよい。研磨工程は、公知の研磨材や研磨機を用いて行うことができる。洗浄工程は、水洗浄、UV洗浄等の方法により、基材表面に残存した研磨材や有機物を除去する。洗浄工程として水洗浄を行った場合、洗浄工程の後に乾燥工程を設けることが好ましい。基材としてガラス等の無機基材を用いる場合、前処理工程は、研磨工程と、洗浄工程とを含み、研磨工程により研磨を行った後、洗浄工程により水洗浄、及びUV洗浄を行うことが好ましい。基材として上記有機基材を用いる場合、前処理工程は、洗浄工程を含み、洗浄工程によりUV洗浄を行うことが好ましい。また、有機基材を用いる場合は、洗浄工程の代わりに、又は、洗浄工程の後にプライマー処理を行ってもよい。
【0040】
塗布工程は、親水化処理剤を基材表面に塗布する工程である。塗布の方法としては特に制限されず、基材を親水化処理剤に浸漬する方法や、バーコーター、スピンコーターを用いる方法等が挙げられる。
【0041】
焼き付け工程は、親水化処理剤が塗布された基材を焼き付ける工程である。本実施形態に係る親水化処理剤の塗装方法は、焼き付け工程を含んでいなくてもよいが、焼き付け工程が含まれることで、基材と親水化処理剤に含まれるシラノール基等との架橋反応が促進されるため好ましい。焼き付け温度及び時間は特に制限されないが、例えば120℃、15minといった条件で行うことができる。
【0042】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に制限されず、本発明の効果を阻害しない範囲内で適宜変更を加えたものも、本発明の範囲に含まれる。
【実施例
【0043】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を更に詳細に説明する。本発明の内容は以下の実施例の記載に限定されない。
【0044】
[親水化処理剤の調製]
(実施例1)
500mlのデスカップに全長20mm、径7mmのPTFE製回転子を入れ、回転子をゆっくり回転させながら、表1に記載した原料を、固形分含有量を算出して配合した。その後、回転子を400rpmで10分間回転させ撹拌を行うことで実施例1の親水化処理剤を調製した。
【0045】
(実施例2~27、比較例1~9)
配合する原料を表1及び表2に記載した原料としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例2~27、比較例3~9の親水化処理剤を調製した。表1及び表2に示す原料としては、以下に示すものを用いた。また、界面活性剤を各実施例及び比較例において所定量添加した。なお、表1及び表2の数値は、各成分の固形分含有量(質量部)を示し、比較例1及び2は、以下に示す市販のシリケート系親水化処理剤を用いた。
比較例1:サーフコート AF1(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)
比較例2:エクセルピュアBD-S01(中央自動車社製)
【0046】
AMK: アモーゲンK(ラウリンジメチルアミノ酢酸ベタイン、第一工業製薬株式会社製)
1000W: LAMBIC-1000W(ベタイン構造、及びシラノール基含有親水性ポリマー、大阪有機化学工業株式会社製)
771W: LAMBIC-771W(ベタイン構造、及びシラノール基含有親水性ポリマー、大阪有機化学工業株式会社製)
10L: ジュリマー AC-10L(ポリアクリル酸、重量平均分子量50000、東亜合成株式会社製)
10H: ジュリマー AC-10H(ポリアクリル酸、重量平均分子量800000、東亜合成株式会社製)
10SL: アロン A-10SL(ポリアクリル酸、重量平均分子量5000、東亜合成株式会社製)
AN: シャロール AN-103P(ポリアクリル酸ナトリウム、重量平均分子量10000、第一工業製薬株式会社製)
AH: シャロール AH-103P(ポリアクリル酸アンモニウム、重量平均分子量10000、第一工業製薬株式会社製)
PA-PS: アロン A-12SL(アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重合体、重量平均分子量10000、東亞合成株式会社製)
PAA: PAA-1151(アリルアミン-マレイン酸共重合体、ニットボーメディカル株式会社製)
PVA: PVA-105MC(ポリビニルアルコール系樹脂、けん化度:98~99%、重合度:500、株式会社クラレ製)
PVP: ピッツコール K-90L(ポリビニルピロリドン、重量平均分子量1200000、第一工業製薬株式会社製)
NaCl: 塩化ナトリウム(鹿1級、関東化学株式会社製)
KCl: 塩化カリウム(和光1級、富士フイルム和光純薬株式会社製)
KBr: 臭化カリウム(純正1級、純正化学株式会社製)
Si: スノーテックスO(コロイダルシリカ、日産化学製)
Ti: タイノック M-6(酸化チタンゾル、多木化学製)
アルミナ: アルミナゾル 520-A(アルミナゾル、日産化学製)
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
[親水化処理剤の塗装]
親水化処理剤を塗装する基材として、実施例1~18、実施例22~27、及び比較例1~9はガラス基材(松浪硝子工業社製 S9213(76×52mm)を用いた。実施例19はPET基材、実施例20はPC基材、実施例21はPMMA基材をそれぞれ用いた。実施例1~18、実施例22~27、及び比較例1~9に用いたガラス基材は、塗装前にキイロビンゴールド(プロスタッフ社製)により前処理した。該前処理は、PROXXONマイクロポリッシャー(日式ウールパッド50装着)を用いて研磨前処理を実施し、その後、純水によりキイロビンゴールドを洗浄し、基材をドライヤーで乾燥させることで行った。実施例19~21に用いた基材は、UV洗浄により前処理を行った。上記前処理後、基材の接触角を以下に示す方法で測定した。接触角が10°以下であることを確認し、各基材に親水化処理剤の塗装を行った。接触角が10°を超える場合、再度、上記前処理を行った。
【0050】
上記前処理した各基材を、上記調製した実施例及び比較例の親水化処理剤に浸漬することで塗装した。セッティング時間は、1minとした。その後、実施例1~18、実施例22~27、及び比較例1~9のガラス基材に塗装したサンプルは、120℃、15minの条件で焼き付けを行った。実施例19~21のPET、PC、PMMA基材にそれぞれ塗装したサンプルは、80℃、30minの条件で焼き付けを行った。以上により、実施例及び比較例の親水化処理剤が塗装されたサンプルを作製した。
【0051】
上記作製した実施例及び比較例のサンプルを、以下に示す方法で評価した。結果を表3に示す。
【0052】
(親水性)
25℃、50%RH環境下で各サンプル基材表面に5μlの純水を滴下し、接触角を測定した。測定装置は、自動接触角計DM501:協和界面科学製を用いた。以下の基準により親水性を評価し、3を合格とした。
3 接触角が10°以下
2 接触角が10°超~20°以下
1 接触角が20°超
【0053】
(防曇性)
各サンプル基材表面に、25℃、50%RH環境下で呼気をかけた際の曇り具合を以下の基準により評価し、3以上を合格とした。
4 曇らない
3 曇らないが濡れ広がった水膜にややムラがある
2 曇らないが濡れ広がった水膜にかなりムラがある
1 曇る
【0054】
(耐擦り傷性試験)
実施例及び比較例の各サンプル基材表面に不織布(商品名:エリエール プロワイプ ストロングタオル E50、大王製紙社製)を接触させ、500g荷重をかけて100回往復移動させた。試験後の各サンプルを、上記親水性評価及び防曇性評価の方法により評価した。
【0055】
(耐湿熱性試験)
実施例及び比較例の各サンプルを60℃、90%RHの湿熱環境下で24時間暴露した。試験後の各サンプルを、上記親水性評価及び防曇性評価の方法により評価した。また、実施例2、比較例1、及び比較例4のサンプルについて、上記の条件で曝露した日数をそれぞれ5日間、10日間、15日間、20日間として耐湿熱性試験を行った。試験後の各サンプルについて、上記親水性評価における方法で接触角(°)測定を行った。結果を図1に示した。
【0056】
【表3】
【0057】
実施例及び比較例の評価結果から明らかなように、実施例の親水化処理剤により形成される親水被膜は、比較例の親水化処理剤により形成される親水被膜と比較して、好ましい親水性及び防曇性が得られ、かつ耐湿熱性試験後及び耐擦り傷性試験後においても、好ましい親水性及び防曇性が維持されることが確認された。
図1