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特許7586936混入DNAをより効果的に除去するための、アデノ随伴ウイルスの精製の強化
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】混入DNAをより効果的に除去するための、アデノ随伴ウイルスの精製の強化
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/01 20060101AFI20241112BHJP
   C12N 7/02 20060101ALI20241112BHJP
   C12N 15/864 20060101ALN20241112BHJP
【FI】
C12N7/01
C12N7/02
C12N15/864 100Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022574843
(86)(22)【出願日】2021-06-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-07
(86)【国際出願番号】 EP2021065034
(87)【国際公開番号】W WO2021245248
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2023-02-06
(31)【優先権主張番号】20178584.7
(32)【優先日】2020-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521262714
【氏名又は名称】ザルトリウス ビーアイエー セパレーションズ ディー.オー.オー.
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ギャニオン、ピーター、スタンリー
(72)【発明者】
【氏名】レスコヴェツ、マーヤ
(72)【発明者】
【氏名】プレビル、サラ ドルモタ
(72)【発明者】
【氏名】ストランカー、アレス
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第02/012455(WO,A1)
【文献】特表2012-529917(JP,A)
【文献】特表2019-524101(JP,A)
【文献】国際公開第03/097797(WO,A2)
【文献】国際公開第2019/006390(WO,A1)
【文献】T. Krober et al.,DNA Depletion by Precipitation in the Purification of Cell Culture‐Derived Influenza Vaccines,Chemical Engineering & Technology,2010年05月28日,第33巻,第6号,p.941-959
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/00
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップを含む、AAVカプシド及び混入DNAを含む調製物の混入DNA含量を低減する方法:
(a)表面に正電荷を担持する固相を用いてDNAの抽出を行って、第1の画分を得ることであって、ここで、前記固相は、pH7.0±1.0、塩濃度10mM~200mMで調製物と接触させられ;
(b)前記第1の画分を、第1のタンジェンシャルフローフィルトレーション(tangential flow filtration)によりダイアフィルトレーションして(diafiltering)第2の画分を得ること;
(c)前記第2の画分をDNAseで処理すること;及び
(d)ステップ(c)で得られた、DNAse処理された第2の画分を、pH7.0±1.0及び塩濃度10mM~30mMを有する緩衝液に、第2のタンジェンシャルフローフィルトレーションによりダイアフィルトレーションして第3の画分を得ること。
【請求項2】
ステップ(d)の後に、(e)第3の画分をタンジェンシャルフローフィルトレーションにより濃縮すること、及びステップ(e)の後に、クロマトグラフィを行うことをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固相が、ばらの嵩高粒子(loose bulk particles)又はフロースルーデバイス(flow-through device)の形態である、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記タンジェンシャルフローフィルトレーションが、単一中空糸の膜若しくは束状の膜などの中空糸膜(hollow-fiber membranes)、又は、単一の膜若しくは積層した若しくは筒状に巻いた膜などの平坦膜からなる群から選択される膜を用いて行われる、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1のタンジェンシャルフローフィルトレーションが、DNAseによるDNA消化を促進するよう調合された緩衝液中で行われる、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
タンジェンシャルフローフィルトレーション膜の多孔率が、10kDa~300kDa、30kDa~300kDa、60kDa~300kDa、100kDa~300kDa、200kDa~300kDa、又は250kDa~300kDaの範囲である、請求項又は請求項に記載の方法。
【請求項7】
AAVカプシド及び混入DNAを含む調製物が、AAVセロタイプ1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、及び、2つ以上のセロタイプの特徴を有する組み換えセロタイプからなる群から選択されるAAV粒子を含む、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(d)又はステップ(e)の後に、以下の精製ステップの少なくとも1つが用いられる、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の方法:
(i)陽イオン交換クロマトグラフィステップ、又は、
(ii)アフィニティクロマトグラフィステップ、又は、
(iii)陰イオン交換クロマトグラフィステップ。
【請求項9】
精製ステップ(i)において、ステップ(d)又は(e)の画分が、pH4~6(特に約pH5)で、陽イオン交換クロマトグラフィ材料上にロードされた後に、
陽イオン交換クロマトグラフィ材料を約pH3.5±0.5へ再平衡化すること、
塩勾配を用いた溶出を行うこと、及び
その後、陰イオン交換クロマトグラフィ処理を行うこと、
が行われる、請求項に記載の方法。
【請求項10】
精製ステップ(ii)において、ステップ(d)又は(e)の画分が、アフィニティクロマトグラフィ材料上にロードされ、溶出後に、陰イオン交換クロマトグラフィ処理が行われる、請求項に記載の方法。
【請求項11】
精製ステップ(iii)において、ステップ(d)又は(e)の画分が、陰イオン交換クロマトグラフィにかけられる、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AAVカプシド及び混入DNA(contaminating DNA)を含む調製物の混入DNA含量を低減するための方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
アデノ随伴ウイルス(Adeno-associated virus)(AAV)は、ヒトの遺伝子治療の分野において、治療用DNAの送達ビヒクルとして広く用いられている。このウイルスは、最も一般的には哺乳類又は昆虫の宿主細胞を用いて、細胞培養法により製造される。細胞培養は、所望の治療用DNAプラスミドがAAVカプシドの内部に存在するように操作される。細胞培養物を採取し、DNA含有AAVカプシドを、アフィニティークロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、及び疎水性相互作用クロマトグラフィ等の標準的なクロマトグラフィ法により精製する。
【0003】
ヒトに投与可能な治療薬の場合と同様に、安全性を確保するためには、混入DNAを非常に低いレベルにまで減らす必要がある。これは予想以上に困難なことであることが分かっている。最近開発された分析技術によれば、この困難さは、AAVカプシドの外側に結合している残留DNAに起因している可能性がある。AAVカプシドは陽イオン交換体に強く結合することが知られているので、これはおそらく当然といえば当然である。陽イオン交換体への強い結合は、AAVカプシドの外装が強い正電荷を帯びていることを示す。DNAは電気陰性であり、正に帯電した表面と強く結合する。どのようなメカニズムであれ、これらの知見はDNAを除去することの難しさを浮き彫りにしている。
【0004】
現在、AAVハーベストには、単にDNase酵素を添加することが業界の常識となっている。この方法によるDNA低減は残念ながらわずかであり、混入DNAを非常に低いレベルまで低減させるという課題を解決することはできない。これは、ハーベストのろ過性(filterability)を絶望的から可能なものへと改善するという副次的な利点があるが、フィルターの目詰まりは未だに日常的な問題であり、過剰なろ過媒体(filtration media)を必要とし、AAVカプシドの損失を引き起こしている。また、タンジェンシャルフローフィルトレーション(tangential flow filtration)のような処理方法では、ハーベストをかなりの程度まで濃縮することができない。濃縮倍率は2倍まで可能な場合があるが、それ以上はほとんど可能ではない。
【0005】
国際公開公報WO02/12455 A1には、感染性アデノウイルスの非存在下で産生された組換えAAV(rAAV)ビリオンの大規模精製のための方法が開示されている。好ましくは、rAAVは、宿主細胞株において、アクセサリ機能ベクター、AAVベクター、及びAAVヘルパーベクターとのトリプルトランスフェクションを介して産生される。この方法は、宿主細胞株からライセートを調製し、そのライセートをイオン交換クロマトグラフィ媒体及び/又はアフィニティークロマトグラフィ媒体の様々な組み合わせにかけることを含む。アフィニティークロマトグラフィ媒体は、AAV受容体又はAAVに対する結合親和性を有する抗体、例えば、ヘパリン硫酸である。様々な陽イオン交換及び陰イオン交換媒体が企図される。特定の実施形態では、ライセートを1つ以上のフィルターでろ過する、又はライセートをヌクレアーゼで処理する等、任意の精製工程が含まれてもよい。
【0006】
国際公開公報WO2010/148143 A1には、遺伝子導入に、特に遺伝子治療又はワクチン接種に使用できる組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターの精製方法が開示されている。組換えAAVベクターは、細胞核酸、細胞タンパク質、ヘルパーウイルス、及び培地成分等の生産成分を含む、プロセス内不純物(in-process impurities)を実質的に含まない。
【0007】
国際公開公報WO03/097797 A2には、ウイルス粒子、特に再組み換えアデノウイルスベクター粒子を精製するためのプロセスが開示されている。このプロセスは、細胞溶解、ウイルスから離れた宿主細胞の汚染物質の洗剤ベースの沈殿、深層ろ過又は遠心分離、限外ろ過、ヌクレアーゼ消化及びクロマトグラフィの様々な組み合わせに依存して、強固かつ経済的に高純度製品を製造している。このプロセスにより、混入DNAのレベルは一貫して検出不可能なレベル以下となる。
【0008】
国際公開公報WO2019/006390 A1には、少なくとも2つのカラムクロマトグラフィステップを含む、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター粒子の精製、生成及び製造方法が開示されている。カラムクロマトグラフィステップは、例えば、陽イオン交換クロマトグラフィ、陰イオン交換クロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィ(size exclusion chromatography)、及び/又はAAVアフィニティークロマトグラフィを単独で又は組み合わせで、任意の順序で含む。
【0009】
本明細書で引用された全ての文献は、本明細書において提示された教示と矛盾しない範囲で、参照により組み込まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
AAVの精製、特にDNA混入の低減について、驚くほど強化された新規の方法を開発した。細胞培養のハーベスト又はライセートを、正に帯電した表面(単数又は複数)にさらして、AAV粒子と結合していないDNAと結合させる。正に帯電した表面(単数又は複数)で処理することにより、DNAの初期低減が達成され、10~20以上の濃縮因子を可能とする程度までタンジェンシャルフローフィルトレーション(tangential flow filtration)(TFF)が促進される。細胞ハーベスト又はライセートのDNase処理ではこのようなろ過性の向上は望めないことを考えると、正に帯電した表面による固相抽出が可能であることは驚くべきことである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の方法によれば、AAVカプシド及び混入DNAを含む調製物(preparation)における混入DNA含量が低減され、当該方法は以下のステップを含む:
(a)表面に正電荷を担持する固相を用いてDNAの抽出を行って、第1の画分を得ることであって、ここで、上記固相は、pH7.0±1.0、塩濃度10mM~200mMで調製物と接触させられ;
(b)上記第1の画分を、第1のタンジェンシャルフローフィルトレーション(tangential flow filtration)によりダイアフィルトレーションして(diafiltering)第2の画分を得ること;
(c)上記第2の画分をDNAseで処理すること;
(d)ステップ(c)で得られた、DNAse処理された第2の画分を、pH7.0±1.0及び塩濃度10mM~20mMを有する緩衝液に、第2のタンジェンシャルフローフィルトレーションによりダイアフィルトレーションして第3の画分を得ること;及び
任意に(optionally)、
(e)補足的なクロマトグラフィの前に、第3の画分をタンジェンシャルフローフィルトレーションにより濃縮すること。
【0012】
本発明の方法の一実施形態において、固相は、ばらの嵩高粒子(loose bulk particles)又はフロースルーデバイス(flow-through device)の形態であり得る。
【0013】
本発明の方法の別の実施形態において、タンジェンシャルフローフィルトレーションは、単一中空糸の膜若しくは束状の膜などの中空糸膜(hollow-fiber membranes)、又は、単一の膜若しくは積層した若しくは筒状に巻いた膜などの平坦膜からなる群から選択される膜を用いて行われてよい。
【0014】
本発明の方法のさらに別の実施形態において、第1のフィルトレーションは、DNaseによるDNA消化を促進するよう調合された緩衝液中で行われ得る。
【0015】
本発明の方法のさらに別の実施形態において、タンジェンシャルフローフィルトレーション膜の多孔率は、10kDa~300kDa、30kDa~300kDa、60kDa~300kDa、100kDa~300kDa、200kDa~300kDa、又は250kDa~300kDaの範囲であり、好ましくは分画分子量で100kDa以上の分画分子量(molecular weight cutoff)を有し得る。
【0016】
本発明の方法の更なる実施形態において、AAVカプシド及び混入DNAを含む調製物は、AAVセロタイプ1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は、2つ以上のセロタイプの特徴を有する組み換えセロタイプなど、他のセロタイプからなる群から選択されるAAV粒子を含んでいてよい。
【0017】
本発明の方法のさらに別の実施形態において、ステップ(d)又はステップ(e)の後に得られ得る分画は、以下のオプション(i)から(iii)に沿ってさらに進められ得る:
オプション(i)陽イオン交換クロマトグラフィ、
オプション(ii)アフィニティークロマトグラフィ、又は、
オプション(iii)陰イオン交換クロマトグラフィ。
【0018】
本発明の方法の第2の態様のさらに別の実施形態において、精製ステップ(i)において、ステップ(d)又は(e)の画分は、pH4~6(特に約pH5)で、陽イオン交換クロマトグラフィ材料上にロードされた後に、
陽イオン交換クロマトグラフィ材料を約pH3.5±0.5へ再平衡化すること、
塩勾配を用いた溶出を行うこと、及び
その後、陰イオン交換クロマトグラフィ処理を行うこと、
が行われる。このプロセスにより、例えば、臨床品質のAAVが得られる。
【0019】
本発明の方法の別の実施形態において、精製ステップ(ii)において、ステップ(d)又は(e)の画分は、アフィニティークロマトグラフィ材料上にロードされ、溶出後に、陰イオン交換クロマトグラフィ処理が行われる。このプロセスにより、例えば、精製AAVが得られる。
【0020】
本発明の方法のさらに別の実施形態において、精製ステップ(iii)において、ステップ(d)又は(e)の画分は、陰イオン交換クロマトグラフィカラムに供される。このプロセスにより、例えば、研究用グレードのAAVが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の方法の概要を示す図である。
図2図2は、本発明の方法の適用を示す陽イオン交換クロマトグラフィを示す図である。
図3図3は、標準条件と本発明の方法の条件とを比較した分析用還元型SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)を示す図である。
図4図4は、細胞ライセートからのAAVのアフィニティークロマトグラフィによる捕捉を示す図である。
図5図5は、図4に示したアフィニティクロマトグラムから示される画分の分析用還元SDS-PAGEを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の態様を、精製対象物(entity to be purified)としてAAVを使用する例によって、より詳細に説明する。同様に、本発明の開示を読み、理解した当業者によって容易に認識される類似の方法で、他の物体(entities)を精製してもよい。
【0023】
正に帯電した固相材料の代わりに、正に帯電した可溶性ポリマーを添加することによって、プロセス溶液からDNAを代替的に除去し得るということは、当業者であれば認識するであろう。これは臨床上の安全性の観点から非常に不安定であり、in vitroにおける精製カプシドの生物学的挙動を変え、結果の誤解を招き、AAVを代表するものではなく、正に帯電したポリマーによって引き起こされる結果を引き起こす可能性がある。また、DNase酵素による溶解から一部のDNAを保護する効果もあるかもしれない。DNAはAAVカプシドの外面に積極的に結合することが知られている。正に帯電したポリマーがこのようなAAVカプシドを含む調製物に加えられた場合、正に帯電したポリマーは、カプシド外面に結合したDNA(capsid-exterior-associated DNA)上に被膜を作り得る。DNAと正に帯電したタンパク質との間の強い結合は、DNase酵素に干渉することが知られている。正に荷電したポリマーは、より大きくそれを行う可能性がある。精製後に正電荷ポリマーがAAVカプシドと結合したままであれば、その後、in vitro試料中に溶出するか、又は、実験動物若しくはヒトなどの生きた対象中に徐々に放出され得る。正電荷ポリマーはすべて化学的刺激物であり、炎症を引き起こす。精製AAVカプシドは、最終的にはすでに病気の人に投与されることを考慮すると、既知の炎症性物質を不用意に投与することは、不必要かつ潜在的に重大なリスクとなる。本発明は、プロセス後にAAVカプシド調製物から完全に除去可能である固相材料を用いてDNAを抽出する方法を提供するため、本技術革新の発明的性質を強調するものである。
【0024】
濃縮TFFステップ用の緩衝液は、後続のプロセスステップにおける選択されたDNase酵素によるDNA消化を促進するように調合されている。選択されたDNase酵素を添加し、適切な時間インキュベートするが、日常的に実施されるDNA溶解とは2つの顕著な違いがある:(1)TFF濃縮が可能であることにより、より少ない体積なのでより少量の酵素で済む;(2)インヒビタの除去、及び選択したDNase酵素に最適な溶解条件に緩衝液交換することで、生の細胞ハーベスト又はライセートに単に添加する標準的な方法よりもはるかに効果的な低減を達成し得る。
【0025】
TFF膜の多孔率(porosity)は、カプシドを保持したまま可能な限り大きくすることが有効である。多孔率は製造者及び膜素材によって多少異なるが、一般的には、分画分子量(molecular weight cutoff)が250kDa~300kDaである膜が理想的である。MWCO値が低いと、混入物の除去効果は低くなるが、それでも処理した調製物の混入物含量は実質的に低減される。全体として、TFF膜は、10kDa~300kDa、30kDa~300kDa、60kDa~300kDa、100kDa~300kDa、200kDa~300kDa、又は250kDa~300kDaのMWCO値で使用され得るが、100kDaより大きいことが好ましい。
【0026】
TFF膜は、研究開発(R&D)、スケールアップ、及び製造の様々なニーズに対応するため、様々な物理的形状及びサイズで市販されている。TFF膜には、単一又は積層状若しくはロール状の平坦膜;及び、単一又は束状の中空糸がある。
【0027】
タンジェンシャルフローフィルトレーション(TFF)の技術は、一般的に、本発明の方法におけるように、3つの原理モードのいずれか1つ又は任意の組み合わせで実行される。それらのモードのうちの1つ目は濃縮であり、その目的は、後続の処理操作をより効率的にするために余分な流体を除去することである。第2のモードは、ダイアフィルトレーション(diafiltration)である。ダイアフィルトレーション中、元の液体、塩類、糖類、及び緩衝液成分はろ過され、それらの成分を含まない新しい流体が導入される。これは、試料が存在する流体を「緩衝液交換(buffer exchanging)」し、その後の処理に備えるという効果がある。ダイアフィルトレーションという用語は、透析(dialysis)とろ過(filtration)という2つの単語の組み合わせである。第3のモードは、サイズに基づく精製(size-based purification)である。濃縮及びダイアフィルトレーションは、分画分子量が10kDa以下の膜などの、目的物質を保持する任意の多孔率を有するタンジェンシャルフローフィルトレーション膜を使用して行うことができる。精製ツールとしてTFFを使用することで、大孔径膜を使用して、特に、目的物質よりも小さい生体分子混入物を除去することを可能とする拡張を意味する。多孔率は目的物質を保持するのに十分小さくなければならないことを考えると、この条件を満たす最大の孔を有する膜は、最も広いサイズ範囲の混入生体分子を除去できるという利点がある。本願の場合、AAVカプシドは生物学的産物の規模からするとかなり大きいので、分画分子量が最大300kDaまでなどの、非常に大きな孔の膜を使えば、大部分のタンパク質及びその他の生体分子を除去することができる。混入生体分子が小さければ小さいほど、より効果的に除去することができる。このため、DNA溶解後のDNase酵素の除去、及びそれまで結合していたDNAの溶解により宿主細胞DNAから遊離したヒストンタンパク質の除去に特に適している。
【0028】
多くのDNase酵素が市販されているが、最良の結果を得るためには、それぞれ独自の条件を必要とする。予備的な実験データによると、いわゆる塩耐性DNase酵素は優れた結果をもたらす可能性がある。DNase酵素の中にはRNAも溶解するものもあり、RNAが大きなDNAヘテロ凝集体を安定化させる程度には有用であると思われる。DNase酵素がこの能力を欠いている場合、RNase酵素をDNase酵素に加えてもよい。しかし、溶解調合物(lysis formulation)がRNAを消化する能力を有することは、本発明の方法を実施するために必須ではない。
【0029】
溶解後、試料を再度TFFで処理して、溶解酵素を除去し、DNAフラグメントを除去し、宿主DNAの溶解により遊離した宿主ヒストンタンパク質を除去する。
【0030】
特に予想外だった実験結果は、溶解条件を完全に最適化した場合であっても、DNAの溶解だけでは問題を完全に解決するのには十分ではないことである。実験データからは、残留ヒストンがクロマトグラフィ法に干渉して、DNAなどの混入物を除去する能力を低下させることが示唆されている。クロマトグラフィに先立ってヒストンを除去することで、全てのクラスの混入物の除去が強化され、混入DNAの除去もさらに強化される。
【0031】
第2のTFFステップでは、pH6.5~7.5及び塩化ナトリウム濃度25~200mMなどの、ほぼ生理学的な条件を示す緩衝液を使用する。ほぼ生理学的な条件を維持することは、本発明の方法によって得られる強化に寄与する貴重な要素であると考えられる。
【0032】
TFFによる試料調製には、多くの場合、以下のクロマトグラフィ法の結合条件に近い緩衝液を用いる。アフィニティークロマトグラフィによるAAVの捕捉には、ほぼ生理学的な条件が適しているが、本発明の方法は、アフィニティークロマトグラフィに頼らずに陽イオン交換クロマトグラフィ又は陰イオン交換クロマトグラフィによる捕捉などの代替法が高純度のAAVを生成できる程度に、全体の混入物量(overall contaminant load)を低減する。市販のアフィニティークロマトグラフィ用媒体は低流量であるため処理時間が長く、かつ1.0M NaOHでの洗浄に耐えられないことを考えると、これは重要なポイントである。イオン交換体による捕捉は、高流量、高結合能、1.0M NaOHによる長時間の洗浄消毒に対応するクロマトグラフィ媒体を使用することを可能とする。
【0033】
一実施形態において、上述の方法ステップは、アフィニティクロマトグラフィカラムへロードするための試料の調製に使用される。
【0034】
別の実施形態において、上述の方法ステップは、アニオン交換体などの正電荷クロマトグラフィカラムにロードするための試料の調製に使用される。この場合、試料は、カラムに対するAAVの高性能結合を確実にするために導電率が十分に低くなるように、第2のTFFステップの後に希釈される。また、空及び完全なカプシドをより良く区別しやすくするために、試料のpHをより高い値に調整してもよい。マグネシウム塩及び/又はカルシウム塩を添加して、空-完全分離の選択性を改変し得る。この方法は、研究用グレードの完全カプシドの生成に適し得る。
【0035】
別の実施形態において、上述の方法ステップは、陽イオン交換体にロードするための試料の調製に使用される。陽イオン交換体に結合させるための試料を調製するための通常の準備は、試料のpHをpH3.5に下がるまで滴定することを含む。これにより、カプシドタンパク質表面のアミノ酸残基の滴定状態が変化し、カプシド表面が純水に電気陽性(net electropositive)になる。その表面の正電荷によって、陽イオン交換体の負に帯電した表面に結合するようになる。しかし、これには不利な効果もある。カプシド表面を電気陽性にすると、DNAの強い結合が引き起こされ、もしDNAがすでにカプシド外面に結合している場合には、低いpHによりその結合が安定化されてしまう。いずれにせよ、結合pHが低いと、カプシド外面へのDNA結合が促進されることとなる。
【0036】
この論点のもう一つの態様は、さらに問題を大きくしている。DNAがカプシド外面に結合している場合、システム内の過剰なヒストンタンパク質は、そのカプシド外面と結合したDNA(capsid exterior-associated DNA)と非常に高い確率で結合する。このことは、DNAフラグメントだけでなくヒストンタンパク質も除去するという、第2のTFFステップの価値を際立たせている。この文脈では、pH3.5などの極端に低いpHは、ヒストンタンパク質だけでなく、転写因子及びユビキチンなどの他のDNA結合タンパク質上の正電荷も増幅することを強調することが重要である。
【0037】
本発明の方法は、これらの可能性に対処するための別の特徴を含んでおり、それはまた驚くべき効果をもたらすものである。試料をpH3.5に平衡化する代わりに、陽イオン交換体に結合させるための準備において試料をpH5.0±0.25の、より穏やかなpHに平衡化する。陽イオン交換体も同じ条件で平衡化し、試料を結合させる。試料の結合後、カラムをpH3.5に再平衡化し、増加していく塩勾配でAAVを溶出させる。実験データによると、このアプローチは、陽イオン交換体から溶出するAAV画分の混入を実質的に低減させることが示されている。このアプローチは、特に、DNA結合タンパク質のサイズ範囲にある小さな混入物を除去する。このことは、本発明の方法のそれ以前のステップの後、試料中に未だ残っているヒストン及び他のDNA結合タンパク質が、試料がカラムに付与された際に陽イオン交換体に結合し、AAVが溶出される間、そこに結合したままであることを示唆し得る。これは、ヒストンタンパク質は、NaCl中の陽イオン交換体から溶出しない代わりに、溶出のためにはグアニジン又はNaOHを必要とする、という既知の挙動と一致する。どのようなメカニズムであれ、溶出されたAAVの品質を実質的に向上させるものである。
【0038】
最初の陽イオン交換クロマトグラフィステップの後、AAVを、陰イオン交換体などの正電荷クロマトグラフィ装置に付与してDNAをさらに抽出し、空のカプシドと完全カプシド(所望の治療用DNAプラスミドを含むカプシドを指す)とを分離させる。AAVカプシドを、最初のアフィニティークロマトグラフィステップの後、同様に処理してもよい。
【0039】
陽イオン交換クロマトグラフィ媒体は、様々なリガンド及び様々な物理的形態で、広く市販されている。陽イオン交換体の主な区別特徴は、負に帯電していることである。十分に正電荷を有する生物種は陽イオン交換体に結合し、その後、最も一般的には塩の濃度を上げることにより、溶出させることが可能である。しかし、全ての陽イオン交換体はマルチモーダルであり、静電相互作用は生体分子との結合に寄与する化学的メカニズムの1つでしかないことを意味する。最も一般的な陽イオン交換リガンドは、カルボキシメチル、カルボキシエチル、及びカルボキシプロピル等のカボキシアルカン基、並びに、スルホメチル、スルホエチル、及びスルホプロピル等のスルホアルカン基の2つである。カルボキシアルカン陽イオン交換基は、2つの自由な孤立電子対を有するカルボニル酸素原子と、3つの自由な孤立電子対を有するカルボキシル酸素原子を含んでいる。これらの孤立電子対は水素受容体であり、これらのリガンドに水素結合を形成する可能性を与えている。スルホアルカン陽イオン交換基は3つの酸素原子を含み、そのうちの2つは電荷を有しないが、自由電子の孤立対を2つの有する。3つ目は負電荷を帯びており、リガンドを水素供与体として、水素結合に寄与する能力を与える、孤立電子類を3つ有する。陽イオン交換体には、アルカン-ホスファチジン酸残基が用いられる場合がある。pHに応じて、上記残基は、それぞれ孤立電子対を3つ有する負電荷の酸素原子2つと、孤立電子対を2つ有する非電荷の酸素原子1つと、を有するか、又は、孤立電子対を3つ有る負電荷の酸素原子1つと、それぞれ孤立電子対を2つ有する非電荷の酸素原子を2つと、を有する。また、ホスファチジン酸系陽イオン交換体は、金属の配位結合に寄与する能力を有する。ジ-カルボキシ、トリ-カルボキシ、及びポリカルボキシ陽イオン交換リガンドもまた、金属を結合する能力を有する。また、上記のリガンドは全て、関連するアルカンが1、2、3、又はそれ以上の炭素残基を含むかどうかに応じて、様々なレベルの疎水性を有する。また、いくつかの陽イオン交換リガンドは疎水性環(hydrophobic rings)も含む。したがって、本発明の目的のために、陽イオン交換体は、具現化され得る他のいかなる化学反応性とは関係なく、負電荷を有するクロマトグラフィ固相として定義される。陽イオン交換体は、世界中の複数のサプライヤーから商業的に入手可能である。
【0040】
陰イオン交換クロマトグラフィ媒体にも同じ一般的論理が適用される。本発明の目的のために、陰イオン交換クロマトグラフィ媒体は、具現化され得る追加の化学反応性とは関係なく、正電荷を有するクロマトグラフィ固相として定義される。弱い陰イオン交換体の帯電した窒素原子は、自由な孤立電子対を1つ有し、水素受容体となる。窒素原子に直接結合している水素原子は、水素供与体として作用し得る。強い陰イオン交換体の帯電した窒素原子は、自由な孤立電子対を有しない。強い陰イオン交換体上及び最も弱い陰イオン交換体上の窒素原子と結合しているアルカン基は、疎水性をもたらす。また、他の疎水性構造を有するものもある。いくつかの陰イオン交換体は、化学的に反応性の特性の他の組み合わせをもたらす、ポリマーベースのリガンドを利用している。全ての陰イオン交換体はマルチモーダルである。陰イオン交換体は、世界中の複数のサプライヤーから商業的に入手可能である。
【0041】
アフィニティークロマトグラフィ用のリガンドは、ペプチド及びタンパク質から成り、抗体又は抗体の部分構造、例えばF(ab)’領域若しくはFab領域、単鎖軽鎖誘導体(scFV)、若しくは抗体の特異性を模倣する組み換え体構造であることが多い。イオン交換体と同様に、多くの市販品バリエーションが世界中のサプライヤーから入手可能である。
【0042】
固相DNA抽出のプロセスは、AAVを含む細胞培養ハーベスト又はライセートを、おおよそ生理学的な条件下で正に帯電した表面(単数又は複数)と接触させたときに開始される。試料は、約1分~4時間の間、正に帯電した表面(単数又は複数)と接触させられる。
【0043】
正に帯電した表面(単数又は複数)が粒子の形態である一実施形態において、試料に対する粒子の体積比率は、0.1%~10%、1%~5%、2%~5%、又は、それよりも高いか、低いか、若しくは中間の比率であってよい。
【0044】
正に帯電した表面(単数又は複数)が粒子の形態である一実施形態において、接触時間は、10分~240分、又は20分~120分、又は30分~60分、又は、それよりも長いか、短いか、若しくは中間の時間量であってよい。
【0045】
正に帯電した表面(単数又は複数)がフロースルーデバイス(flow-through device)の形態である1以上の実施形態において、接触時間は、1分~60分、又は2分~30分、又は5分~15分、又は、それよりも長いか、短いか、若しくは中間の時間量であってよい。
【0046】
場合によっては、正に帯電した粒子を、他の化学的性質を有する粒子と混合してもよい。実験データによると、正電荷粒子と負電荷粒子との混合物は、正電荷粒子単独よりも多くの混入物を除去することが示されている。
【0047】
DNase処理は、15分~24時間、又は30分~16時間、又は1時間~8時間、又は、それよりも長いか、短いか、若しくは中間の時間量で行ってよい。DNAの溶解程度を可能な限り高くすることが特に目的であるため、16時間~24時間などの長い間隔が好ましい場合がある。
【0048】
DNase処理は、DNase処理用の緩衝液の濃縮及び平衡化に使用したのと同じTFFユニット内で行うことが好ましい。膜間圧力(transmembrane pressure)をゼロに設定し、DNase添加後に試料をシステム内で再循環させて、十分に混合する。消化プロセス完了後、TFF緩衝液を、pH約5、塩濃度20mM~100mMの緩衝液に変更する。膜間圧力を正の値に設定し、TFFを再開する。酵素の大部分は、DNAフラグメント及び最も特にはヒストンタンパク質とともに排除される。
【0049】
pH約5という用語は、4.0~6.0、又は4.5~5.5、又は4.75~5.25の範囲内のpH値を意味すると理解される。pH値が低いほど、試料中に存在し得る塩の濃度が高くなるが、それでもAAVを陽イオン交換体によって捕捉することが可能であるということが、当業者には理解されるであろう。陽イオン交換体の結合能力を高める目的で、この時点で試料を希釈してもよい。一般的に、平衡化された試料の視覚的な透明度(visual clarity)は、条件の適合性の指標となり得る。濁り又は白っぽいフィラメント若しくは粒子の出現は、pHが過度に低くなっていることを示すものである。
【0050】
AAV粒子が陽イオン交換体にロードされた状態で、陽イオン交換体は、例えば、20mM~50mMの濃度の、ギ酸、又は酢酸、又はグリシン、又はそれらの種のいくつかの組み合わせを含む緩衝液を用いて、pH約3.5±0.5に再平衡化される。この緩衝液は、AAVカプシドよりも弱陽性である混入物による結合を防ぐために、20mM~200mMのNaClを含んでいてもよい。再平衡化後、カラムは1.0M以上のNaClの塩勾配で溶出される。溶出後、カラムは1.0M NaOH、任意で(optionally)1~3M NaCl及び20mM~50mM EDTAで洗浄する。
【0051】
本発明の方法を実施するためのDNase酵素には、多くの市販の選択肢がある。例としては、エンドヌクレアーゼ(Protean)、デオキシリボヌクレアーゼ(Worthington)、Saltonase(Blirt)、San-HQ及びM-San HQ(ArcticZymes)、Denarase(C-Lecta)、TurboNuclease(Accelagen)、カネカエンドヌクレアーゼ(カネカ)、DNase(New England Biolabs)、及びクリプトナーゼ(BIA Separations)が挙げられる。これらのエンザイムはそれぞれ、DNAを最も効率的に消化するための特徴的な条件を有している。いくつかは塩分に対して他のものより耐性がある。いくつかは、他のものよりも低温で効果的である。いくつかは、DNAだけではなく、RNAも溶解可能である。このような能力を持たないものに、必要に応じてRNase酵素を追加することができる。
【0052】
陽性電荷粒子は、多くのサプライヤーから多くの形態で市販的に入手可能である。粒子ベースの陰イオン交換クロマトグラフィ媒体は候補の大部分であり、正電荷が粒子表面上のアミン誘導体の様々な形態及び組み合わせに由来し得る。そのような形態及び組み合わせには、ポリアリルアミン及びキトサンなどの、1級アミン基、個々の残基及びポリマー;2級アミン基、個々の残基及びポリマー;DEAE及びDEAEデキストランなどの、3級アミン基、個々の残基及びポリマー;Q、QA及びQ若しくはQAデキストラン、又はコレスチラミンなどの、4級アミン基、個々の残基及びポリマー;1級、2級及び3級アミン基を含む、個々のリガンド及びポリマーが挙げられる。そのような組み合わせを含む個々のリガンドには、1級及び2級アミン基を含む固定化エチレンジアミン、並びに固定化形態が1級、2級、及び3級アミン基を含むトリス(2-アミノエチル)アミンが挙げられる。混合アミノ形態のポリマーには、ポリエチレンイミンが上げられ、これは、ポリマー内の分岐程度に応じて、1級、2級及び3級アミンの割合が異なっている。粒子の物理的マトリックスは、ポリマー系、シリカ系、金属酸化物系、又はその複合体であり得る。粒子は、0.1μm~200μmの範囲などの、任意のサイズであり得る。粒子は、非多孔質であっても、0.1nm~10μmの範囲の多孔質であってもよい。粒子は、球状、スフェロイド状、非球状、不規則状、フィラメント状、又はそれらの混合物状であってもよい。
【0053】
電気陽性粒子は、他の化学反応性を有する他の粒子とブレンドしてもよい。予備的な実験データによれば、電気陽性(エチレンジアミン)粒子と電気陰性(SO3)粒子との組み合わせでは、電気陰性粒子単独よりも多くのタンパク質混入物が除去される場合がある。電気陽性粒子は、上述のようにマルチモーダルであってもよく、電気陽性粒子の所定の種は、静電相互作用を介してだけではなく、水素結合、疎水性、又は金属親和性などの追加の反応性を介して、混入物と相互作用可能である。
【0054】
電気陽性フロースルーデバイスも広く市販で入手可能である。いわゆるデプスフィルター(depth filter)などの形式がますます普及している。その他に、膜吸着ユニットとして知られている、単純な膜形式も含まれ得る。その他、いわゆるハイドロゲル、充填粒子のカラム、充填繊維のカラム、及び複数の物理的形態で正に帯電した表面を含むデバイスが挙げられる。このようなフロースルーデバイスの表面化学は、粒子について説明した表面化学のいずれかを含んでもよい。
【0055】
<実施例1:本発明の方法を用いたAAVの精製>
最初に、AAVセロタイプ8を含む細胞ライセート300mLに、5mLの正電荷粒子を添加した。この粒子は、表面にエチレンジアミンが固定化された、サイズ範囲が20μm~40μmであり、平均孔径が2μmの非球面ポリメタクリレート粒子であった。固相表面に固定化されたエチレンジアミンは、各残基が1級アミン及び2級アミンを有することにより、正に帯電している。この調製物を30分間攪拌した。10,000×gで10分間遠心分離して、0.45μmPES膜でろ過することにより、粒子を除去した。
【0056】
粒子を含まない上清を、分画分子量300kDaの膜を用いたタンジェンシャルフローろ過により、14倍に濃縮した。濃縮と同時に、50mM Tris、0.5M NaCl、5mM 塩化マグネシウム、1% スクロース、0.1% ポロキサマー(poloxamer)、pH8.0に緩衝液交換を行った。
【0057】
耐塩性DNaseを最終濃度が1mL当たり50単位となるように添加して、混合物を室温で16時間インキュベートした。タンジェンシャルフローろ過を再開して、同じ機械ユニットで、同じ元の膜を用いて、20mM HEPES、30mM 塩化ナトリウム、1% スクロース、0.1% ポロキサマー、pH7.0にした。
【0058】
光学的に透明なAAV含有上清を、2M 酢酸を徐々に加えてpH5.25に滴定した。強陽イオン交換体(SO3)を、20mM MES、30mM 塩化ナトリウム、1% スクロース、0.1% ポロキサマー、pH5.25に平衡化した。平衡化した試料をこの平衡化カラムにロードし、平衡化緩衝液で洗浄して、未結合の混入物を排除した。
【0059】
次いで、陽イオン交換カラムを、50mM ギ酸、30mM 塩化ナトリウム、1% スクロース、0.1% ポロキサマー、pH3.5に再平衡化した。再平衡化後、カラムを、塩化ナトリウムの増加する直線勾配を用いて溶出し、1M 水酸化ナトリウム、2M 塩化ナトリウムで洗浄した。クロマトグラムを図2に示す。AAVのピークをSDS-PAGEで評価した(図3)。
【0060】
<実施例2:本発明の方法のステップのうちのいくつかを用いたAAVの精製>
実施例1に記載されたものと同じ材料の試料を、第2のTFFステップを通して同様に処理した。次に、2M ギ酸を徐々に添加することにより、pH3.5に滴定した。
【0061】
同一の陽イオン交換体を50mM ギ酸、0.2M 塩化ナトリウム、1% サッカロース、0.1% ポロキサマー、pH 3.5に平衡化した。試料をロードし、カラムを平衡化緩衝液で洗浄した後、実施例1に記載したのと同じ直線勾配構成で溶出した。カラムを1M NaOH、2M 塩化ナトリウムで洗浄した。
【0062】
図3は、2つの実施例でそれぞれ得られた精製度を比較したものである。最初の3つの試料レーンは、陽イオン交換ステップをpH3.5で実施した実施例2の結果を示している。次の3つの試料レーンは、陽イオン交換体及び試料をpH5.25に初期平衡化し、そのpHで試料をロードし洗浄した後に、カラムをpH3.5に再平衡化し、そのpHで溶出を行った実施例1の結果を示している。その結果、pH5.25で平衡化した試料は、含まれる混入物が少なく、陽イオン交換体はよりクリーンなAAV画分を得ることができることが示されている。pH3.5に平衡化した試料は、混入物量が多く、陽イオン交換によって、より不純物の多い画分が生成された。
【0063】
<実施例3>
アフィニティークロマトグラフィを用いた実験対照を実行して、他のAAV捕捉方法に対する本発明の方法を用いることの潜在的利点を実証した。AAVアフィニティーカラムを50mM リン酸塩、100mM NaCl、pH7.2で平衡化した。試料を、同じpHに平行化し、ろ過した後、カラムにロードした。カラムを平衡化緩衝液で洗浄した後、50mM グリシン、pH3.0へのステップで溶出させた。溶出後、カラムを25mM 水酸化ナトリウムで洗浄した。
【0064】
クロマトグラムを図4に示す。図2のクロマトグラムと図4のクロマトグラムとを比較すると、アフィニティークロマトグラフィには、陽イオン交換クロマトグラフィと同様に、過剰な混入物の結合について問題があることが示されている。
【0065】
SDS-PAGEによる分析結果を図5に示す。図3のPAGEゲルと図5のクロマトグラムとを比較すると、陽イオン交換クロマトグラフィを用いる本発明のその方法は、本発明の方法の利点を有しないアフィニティークロマトグラフィよりも良好な精製をもたらすことが示されている。
【0066】
アフィニティークロマトグラフィは、一般的に、全てのクロマトグラフィ法の中で最も優れた捕捉精製をもたらすと考えられている。陽イオン交換クロマトグラフィなどの一般的な精製方法が明らかに優れた精製を得ることを可能にするという本発明の方法の性能は、本発明の方法の性能が精製能力を強化するということを強調している。また、これは、捕捉方法としてのアフィニティークロマトグラフィの精製性能を大幅に向上させるものであると言え、場合によっては、実施例2に記載したように、本方法の初期ステップ後に、陰イオン交換クロマトグラフィによる精製を行うことにより、少なくとも研究用グレードのAAVの精製を可能にするであろう。
【0067】
<実施例4:アフィニティークロマトグラフィにより初期捕捉に対する本方法の適用>
第2のTFFステップまでの本発明のステップは行うが、その後のpHを下げるステップ及び陽イオン交換体に試料を付与するステップは行わない。その代わりに、試料をアフィニティークロマトグラフィカラムに直接付与する。その後、カラムを洗浄し、本発明の強化を用いない場合と同様に溶出する。
【0068】
<実施例5:陰イオン交換クロマトグラフィによる初期捕捉に対する本発明の適用>
第2のTFFステップまでの本発明のステップは行うが、その後のpHを下げるステップ及び陽イオン交換体に試料を付与するステップは行わない。その代わりに、試料を、AAVが同じ条件に平衡化された陰イオン交換体に結合するように、十分に低い伝導度(塩濃度)に希釈される。その後、カラムを洗浄し、本発明の強化を用いない場合と同様に溶出する。
【0069】
<実施例6:正に帯電した粒子のフロースルーデバイスの正に帯電した内表面との置換>
上述の実施例のいずれも、正に帯電した粒子を、大きな正に帯電した表面に置換することによって実施することができる。このような表面は、デプスフィルタなどの、多くの市販のろ過媒体に見られる。
本発明は以下の態様を含む。
<1>
以下のステップを含む、AAVカプシド及び混入DNAを含む調製物の混入DNA含量を低減する方法:
(a)表面に正電荷を担持する固相を用いてDNAの抽出を行って、第1の画分を得ることであって、ここで、前記固相は、pH7.0±1.0、塩濃度10mM~200mMで調製物と接触させられ;
(b)前記第1の画分を、第1のタンジェンシャルフローフィルトレーション(tangential flow filtration)によりダイアフィルトレーションして(diafiltering)第2の画分を得ること;
(c)前記第2の画分をDNAseで処理すること;
(d)ステップ(c)で得られた、DNAse処理された第2の画分を、pH7.0±1.0及び塩濃度10mM~20mMを有する緩衝液に、第2のタンジェンシャルフローフィルトレーションによりダイアフィルトレーションして第3の画分を得ること;及び
任意に(optionally)、
(e)補足的なクロマトグラフィの前に、第3の画分をタンジェンシャルフローフィルトレーションにより濃縮すること。
<2>
前記固相が、ばらの嵩高粒子(loose bulk particles)又はフロースルーデバイス(flow-through device)の形態である、<1>に記載の方法。
<3>
前記タンジェンシャルフローフィルトレーションが、単一中空糸の膜若しくは束状の膜などの中空糸膜(hollow-fiber membranes)、又は、単一の膜若しくは積層した若しくは筒状に巻いた膜などの平坦膜からなる群から選択される膜を用いて行われる、<1>又は<2>に記載の方法。
<4>
前記第1のフィルトレーションが、DNAseによるDNA消化を促進するよう調合された緩衝液中で行われる、<1>~<3>のいずれか1項に記載の方法。
<5>
タンジェンシャルフローフィルトレーション膜の多孔率が、10kDa~300kDa、30kDa~300kDa、60kDa~300kDa、100kDa~300kDa、200kDa~300kDa、又は250kDa~300kDaの範囲であり、好ましくは分画分子量で100kDa以上の分画分子量(molecular weight cutoff)を有する
、<3>又は<4>に記載の方法。
<6>
AAVカプシド及び混入DNAを含む調製物が、AAVセロタイプ1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は、2つ以上のセロタイプの特徴を有する組み換えセロタイプなど、他のセロタイプからなる群から選択されるAAV粒子を含む、<1>~<5>のいずれか1項に記載の方法。
<7>
ステップ(d)又はステップ(e)の後に、以下の精製ステップの少なくとも1つが用いられる、<1>~<6>のいずれか1項に記載の方法:
(i)陽イオン交換クロマトグラフィステップ、又は、
(ii)アフィニティクロマトグラフィステップ、又は、
(iii)陰イオン交換クロマトグラフィステップ。
<8>
精製ステップ(i)において、ステップ(d)又は(e)の画分が、pH4~6(特に約pH5)で、陽イオン交換クロマトグラフィ材料上にロードされた後に、
陽イオン交換クロマトグラフィ材料を約pH3.5±0.5へ再平衡化すること、
塩勾配を用いた溶出を行うこと、及び
その後、陰イオン交換クロマトグラフィ処理を行うこと、
が行われる、<7>に記載の方法。
<9>
精製ステップ(ii)において、ステップ(d)又は(e)の画分が、アフィニティクロマトグラフィ材料上にロードされ、溶出後に、陰イオン交換クロマトグラフィ処理が行われる、<7>に記載の方法。
<10>
精製ステップ(iii)において、ステップ(d)又は(e)の画分が、陰イオン交換クロマトグラフィにかけられる、<7>に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5