(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】トイレ用定量噴射型エアゾール製品および液ダレの抑制方法
(51)【国際特許分類】
B65D 83/52 20060101AFI20241112BHJP
A61L 9/14 20060101ALI20241112BHJP
B05B 9/04 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B65D83/52 100
A61L9/14
B05B9/04
(21)【出願番号】P 2023021855
(22)【出願日】2023-02-15
(62)【分割の表示】P 2018102351の分割
【原出願日】2018-05-29
【審査請求日】2023-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀和
【審査官】吉澤 秀明
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-308357(JP,A)
【文献】特開2010-099600(JP,A)
【文献】特開2010-100342(JP,A)
【文献】特開2015-180196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 83/52
A61L 9/14
B05B 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原液および噴射剤を含むエアゾール組成物が充填されたエアゾール容器と、前記エアゾール容器に取り付けられた定量噴射用エアゾールバルブと、前記定量噴射用エアゾールバルブを介して前記エアゾール容器に取り付けられ、前記エアゾール組成物を噴射するための噴口が形成された噴射部材とを備え、
前記原液は、低級アルコールを含み、
前記噴射部材は、前記エアゾール組成物が通過する噴射通路が形成されており、
前記噴射通路の長さは、5.0~70mmであり、
前記噴口の開口面積は、0.0075~7.10mm
2であり、
前記原液と前記噴射剤との配合割合(体積比)をA、前記噴口の噴口径をB(mm)としたときに、A/Bが8.0未満であり、
液ダレの抑制された、トイレ用定量噴射型エアゾール製品。
【請求項2】
20℃における前記定量噴射用エアゾールバルブの内圧は、0.15~0.80MPaである、請求項1記載のトイレ用定量噴射型エアゾール製品。
【請求項3】
前記原液の配合割合は、エアゾール組成物中、70vol%以下である、請求項1または2記載のトイレ用定量噴射型エアゾール製品。
【請求項4】
請求項1または2記載の定量噴射型エアゾール製品を用いてエアゾール組成物を噴射した後に、噴口からのエアゾール組成物の液ダレを抑制する、液ダレの抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレ用定量噴射型エアゾール製品およびトイレ用定量噴射型エアゾール製品の使用方法に関する。より詳細には、本発明は、噴射音が小さく、トイレの個室において使用した場合に、使用したことが他人に気づかれにくいトイレ用定量噴射型エアゾール製品およびトイレ用定量噴射型エアゾール製品の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トイレ等において使用され、空間を消臭するためのエアゾール製品が開発されている。このようなエアゾール製品は、使用したことを他人に気づかれにくいように、使用時の音を小さくする要請がある。特許文献1には、ドアに取り付けることができ、エアゾールをハウジング内のフォルダに収納することにより、騒音レベルを低減したエアフレッシュナーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のエアフレッシュナーは、噴射時における装置全体の作動音を低減することを特徴としており、噴射音そのものを低減する技術ではない。そのため、このエアフレッシュナーは、噴射音が発せられることにより、使用したことが他人に気づかれやすい。
【0005】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたものであり、噴射音が小さく、トイレの個室内等において使用した場合に、使用したことが他人に気づかれにくい、トイレ用定量噴射型エアゾール製品およびトイレ用定量噴射型エアゾール製品の使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討した結果、噴射後の所定時間(たとえば10秒間)において変動する騒音の時間平均値(等価騒音レベル)に着目し、このような等価騒音レベルが一定以下である場合に、使用者が、たとえばトイレの個室内で使用したとしても、使用したことが他人に気づかれにくいことを見出し、本発明を完成させた。すなわち、上記課題を解決する本発明のトイレ用定量噴射型エアゾール製品およびトイレ用定量噴射型エアゾール製品の使用方法には、以下の構成が主に含まれる。
【0007】
(1)原液および噴射剤を含むエアゾール組成物が充填されたエアゾール容器と、前記エアゾール容器に取り付けられた定量噴射用エアゾールバルブとを備え、1回あたりの噴射量が0.2~0.4mLであり、普通騒音計におけるA特性での噴射音の10秒間の等価騒音レベル62dB以下である、トイレ用定量噴射型エアゾール製品。
【0008】
(2)普通騒音計におけるA特性での噴射音の最大騒音レベルが78dB以下である、(1)記載のトイレ用定量噴射型エアゾール製品。
【0009】
(3)前記原液と前記噴射剤との配合割合(体積比)は、5/95~95/5である、(1)または(2)記載のトイレ用定量噴射型エアゾール製品。
【0010】
(4)前記定量噴射用エアゾールバルブを介して前記エアゾール容器に取り付けられ、前記エアゾール組成物を噴射するための噴口が形成された噴射部材をさらに備え、前記原液と前記噴射剤との配合割合(体積比)をA、前記噴口の噴口径をB(mm)としたときに、A/Bが8.0未満である、(1)~(3)のいずれかに記載のトイレ用定量噴射型エアゾール製品。
【0011】
(5)(1)~(4)のいずれかに記載の定量噴射型エアゾール製品を用いて、普通騒音計におけるA特性での噴射音の10秒間の等価騒音レベルが62dB以下となるよう噴射音を発生させる、トイレ用定量噴射型エアゾール製品の使用方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、噴射音が小さく、トイレの個室内等において使用した場合に、使用したことが他人に気づかれにくい、トイレ用定量噴射型エアゾール製品およびトイレ用定量噴射型エアゾール製品の使用方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<トイレ用定量噴射型エアゾール製品>
本発明の一実施形態のトイレ用定量噴射型エアゾール製品(以下、単にエアゾール製品ともいう)は、原液および噴射剤を含むエアゾール組成物が充填されたエアゾール容器と、エアゾール容器に取り付けられた定量噴射用エアゾールバルブ(以下、単にエアゾールバルブともいう)と、エアゾールバルブを介してエアゾール容器に取り付けられる噴射部材とを備える。エアゾール製品は、1回あたりの噴射量が0.2~0.4mLであり、普通騒音計におけるA特性での噴射音の10秒間の等価騒音レベルが62dB以下である。以下、それぞれについて説明する。なお、以下の説明は例示であり、エアゾール容器、エアゾールバルブおよび噴射部材は、適宜設計変更され得る。
【0014】
(エアゾール容器)
エアゾール容器は、エアゾール組成物を加圧充填するための耐圧容器である。エアゾール容器は、内部にエアゾール組成物が充填される空間が形成された概略筒状の容器である。エアゾール容器の上部には開口が設けられている。開口は、後述するエアゾールバルブによって密封される。
【0015】
エアゾール容器の材質は特に限定されない。一例を挙げると、エアゾール容器は、耐圧性を有する各種金属製、樹脂製、ガラス製等であってもよい。
【0016】
(エアゾール組成物)
エアゾール組成物は、エアゾール製品の内容物であり、原液および噴射剤を含む。
【0017】
・原液
原液は、噴射剤とともにエアゾール組成物を構成し得る成分である。原液は、エアゾール組成物が調製される際に、エアゾール容器に充填される。原液は、有効成分を含むことができる。有効成分とは、たとえば、消臭成分、芳香成分、殺菌成分(防黴成分)等である。
【0018】
消臭成分の種類は、特に限定されない。消臭成分は、たとえば、ツバキ、バラ、キク、マツ、スギ、オオバコ等の植物抽出エキス;茶抽出物、カテキン、植物ポリフェノール、リナロール、メントール、ボルネオール等の植物精油;ラウリルメタクリレート、メチル化サイクロデキストリン、ゲラニルクロトネート、ミリスチル酸アセトフェノン、パラメチルアセトフェノンベンズアルデヒド等である。
【0019】
芳香成分の種類は、特に限定されない。芳香成分は、たとえば、じゃ香、ベルガモット油、シンナモン油、シトロネラ油、レモン油、レモングラス油、ハッカ油、ペパーミント油、スペアミント油、オレンジ油、ユーカリ油、ラベンダー油、イグサ、ヒノキ等の天然香料;ピネン、リモネン、リナロール、メントール、ボルネオール、オイゲノール、シトラール、シトロネラール、ゲラニオール、ウンデカラクトン、フェネチルアルコール等の人工香料等である。
【0020】
殺菌成分の種類は、特に限定されない。殺菌成分は、たとえば、イソプロピルメチルフェノール、トリクロサン、チモール、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、銀イオン等である。
【0021】
有効成分が含有される場合、有効成分の含有量は、有効成分の効果(たとえば、消臭成分であれば消臭効果)を示す含有量であればよく、有効成分の含有量の上限は特に限定されない。有効成分の含有量は、たとえば、エアゾール組成物中に0.01質量/容量%(w/v%)以上であることが好ましく、0.1質量/容量%(w/v%)以上であることがより好ましい。また、有効成分の含有量は、たとえば、エアゾール組成物中に10質量/容量%(w/v%)以下であることが好ましく、5.0質量/容量%(w/v%)以下であることがより好ましい。上記の配合量であれば、充分な消臭効果や芳香が得られ得る。
【0022】
原液は、溶剤が配合されてもよい。溶剤は、たとえば消臭成分等の有効成分を均一に配合するために好適に含有される。一例を挙げると、溶剤は、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール、グリセリン、エチレングリコール等の多価アルコール、直鎖、分岐鎖または環状のパラフィン類、灯油等の石油類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル類、水、ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル等のエステル類等である。
【0023】
溶剤の含有量は、有効成分1質量部に対して0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましい。また、溶剤の含有量は、有効成分1質量部に対して1000質量部以下であることが好ましく、500質量部以下であることがより好ましい。上記範囲内であれば、原液は、有効成分を均一に配合しやすい。
【0024】
原液には、上記有効成分のほか、非イオン、陰イオンまたは陽イオン界面活性剤、ブチルヒドロキシトルエン等の抗酸化剤;クエン酸、アスコルビン酸等の安定化剤;タルク、珪酸等の無機粉体、色素等の任意成分が適宜含有されてもよい。
【0025】
・噴射剤
噴射剤は、上記原液を噴射するための媒体であり、原液とともにエアゾール容器に加圧充填される。噴射剤は特に限定されない。一例を挙げると、噴射剤は、ハイドロフルオロオレフィン、ジメチルエーテル(DME)、液化石油ガス(LPG)等である。なお、上記噴射剤は、2以上の噴射剤を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
ハイドロフルオロオレフィンは、ハイドロフルオロ-1-プロペンが例示される。具体的には、ハイドロフルオロプロペンは、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、2,3,3-トリフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン等が例示される。1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンは、(E)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン等が例示される。
【0027】
なお、本実施形態のエアゾール組成物は、上記噴射剤に加えて、エアゾール組成物の圧力を調整するために、炭酸ガス、窒素ガス、圧縮空気、酸素ガス等の圧縮ガスが併用されてもよい。
【0028】
エアゾール組成物の原液と噴射剤の配合割合(体積比)は、5/95~95/5であることが好ましく、10/90~90/10であることがより好ましく、20/80~80/20であることがさらに好ましい。このような体積比とすることで、エアゾール製品は、吐出時の噴射音の10秒間の等価騒音レベルが62dB以下となるよう調整しやすい。その結果、エアゾール製品は、トイレの個室内等において使用された場合に、使用されたことが他人に気づかれにくい。
【0029】
(エアゾールバルブ)
エアゾールバルブは、エアゾール容器内に充填されたエアゾール組成物を取り出すための機構であり、エアゾール容器の開口を閉止する。また、本実施形態のエアゾールバルブは、エアゾール容器から取り出されたエアゾール組成物を一時的に貯留するための定量室が形成されている。定量室の容積は、1回の噴射によって噴射されるエアゾール組成物の容量に相当する。本実施形態の定量室の容積は、0.2~0.4mLである。
【0030】
エアゾールバルブは、噴射部材が使用者により操作されることによりエアゾールバルブの定量室の内部と外部との連通および遮断を切り替えるための開閉部材と、開閉部材が取り付けられるハウジングと、ハウジングをエアゾール容器の所定の位置に保持するためのマウント部材を備える。また、開閉部材は、噴射部材と連動して上下に摺動するステムを含む。ステムの摺動によりエアゾール組成物の連通(噴射状態)および遮断(非噴射状態)が切り替えられる。エアゾールバルブには、エアゾール容器からエアゾール組成物を取り込むためのハウジング孔と、取り込まれたエアゾール組成物を噴射部材に送るためのステム孔とが形成されている。ハウジング孔は、ハウジングに形成されている。ステム孔は、ステムに形成されている。ハウジング孔からステム孔までの経路は、エアゾール組成物が通過する内部通路を構成する。
【0031】
ステムは、エアゾールバルブに取り付けられる部位であり、エアゾールバルブに取り込まれたエアゾール組成物を、噴射ボタンに送るための内部通路が形成されている。内部通路は、ステムラバーによって適宜開閉される。
【0032】
原液および噴射剤が充填された状態において、20℃におけるエアゾールバルブの内圧は、0.15Pa以上であることが好ましく、0.16MPa以上であることがより好ましい。また、20℃におけるエアゾールバルブの内圧は、0.80MPa以下であることが好ましく、0.70MPa以下であることがより好ましい。このような範囲にエアゾールバルブの内圧を調整することで、エアゾール製品は、吐出時の噴射音の10秒間の等価騒音レベルが62dB以下となるよう調整しやすい。その結果、エアゾール製品は、トイレの個室内等において使用された場合に、使用されたことが他人に気づかれにくい。なお、エアゾールバルブの内圧が0.15MPa未満である場合、エアゾール製品は、極端に噴射音が小さくなりやすく、他人だけではなく使用者本人も使用したことを実感しにくい。また、エアゾール組成物は、噴射後に、噴口から液ダレする可能性がある。一方、エアゾールバルブの内圧が0.80MPaを超える場合、エアゾール組成物は、エアゾール容器から漏洩する可能性がある。なお、エアゾールバルブの内圧は、たとえば20℃でWGA-710C計装用コンディショナ((株)共和電業製)に取り付けたPGM-10KE小型圧力センサ((株)共和電業製)をエアゾールバルブに接続することにより測定することができる。
【0033】
(噴射部材)
噴射部材は、エアゾール容器から取り込まれた原液を、噴射剤とともに噴射するための部材である。噴射部材には、エアゾール組成物を噴射するための噴口が形成されている。噴口の数、寸法、形状および断面積は、後述する等価騒音レベルが62dB以下となるように、必要に応じて適宜選択され得る。そのため、本実施形態のエアゾール製品は、等価騒音レベルが62dB以下となる範囲において、種々の噴口が形成された噴射部材を採用し得る。
【0034】
噴口の数、寸法および形状は特に限定されない。一例を挙げると、噴口の数は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。また、噴口の寸法(噴口直径)は、0.1mm以上であることが好ましく、0.2mm以上であることがより好ましく、0.3mm以上であることがさらに好ましい。また、噴口直径は、3.0mm以下であることが好ましく、2.0mm以下であることがより好ましく、1.0mm以下であることがさらに好ましい。噴口の形状(断面形状)は、円形、楕円形、角形、各種不定形であってもよい。
【0035】
また、噴口の総断面積(総開口面積)は特に限定されない。総断面積は、後述する等価騒音レベルが62dB以下となるように、必要に応じて適宜調整される。一例を挙げると、総断面積は、0.0075mm2以上であることが好ましく、0.03mm2以上であることがより好ましい。また、総断面積は、7.10mm2以下であることが好ましく、3.20mm2以下であることがより好ましい。なお、本実施形態において、「総断面積」とは、噴口の断面積(開口面積)の合計面積である。すなわち、噴口が1個である場合、総断面積は、噴口の断面積そのものであり、噴口が2個以上である場合、総断面積は、すべての噴口の断面積の和である。
【0036】
また、本実施形態のエアゾール製品は、上記エアゾール組成物の原液と噴射剤の配合割合(体積比)をA、噴口の噴口径をB(mm)としたときに、A/Bが8.0未満であることが好ましく、4.3以下であることがより好ましい。A/Bが上記範囲内であることにより、エアゾール製品は、使用後に噴口の周囲から液ダレを生じにくい。
【0037】
噴射部材内の噴射通路の長さは特に限定されない。噴射通路の長さは、後述する等価騒音レベルが62dB以下となるように、必要に応じて適宜調整される。一例を挙げると、噴射通路の長さは、5.0mm以上であることが好ましく、8.0mm以上であることがより好ましい。また、噴射通路の長さは、70mm以下であることが好ましく、65mm以下であることがより好ましい。なお、本実施形態において、「噴射通路の長さ」とは、ステム先端から噴口までの長さである。
【0038】
本実施形態のエアゾール製品は、使用者によって噴射ボタンが操作されることにより、ステム機構およびエアゾールバルブが作動し、バルブの定量室内と外部とが連通する。これにより、バルブの定量室内のエアゾール組成物は、バルブの定量室内と外部との圧力差に従ってエアゾール容器から一定量が取り出され、噴射部材の噴口から噴射される。
【0039】
本実施形態のエアゾール製品は、1回あたりの噴射量が0.2~0.4mLとなるよう調整されている。1回あたりの噴射量が0.2mL未満である場合、エアゾール製品は、極端に噴射音が小さくなりやすく、他人だけではなく使用者本人も使用したことを実感しにくい。一方、1回あたりの噴射量が0.4mLを超える場合、エアゾール製品は、噴射音が大きくなりやすく、他人にエアゾール製剤を使用したことが実感されやすい。
【0040】
本実施形態のエアゾール製品は、普通騒音計におけるA特性での噴射音の10秒間の等価騒音レベル)が62dB以下である。等価騒音レベルは、62dB以下となるよう調整されていればよく、60dB以下であることが好ましく、58dB以下であることがより好ましい。なお、等価騒音レベルの下限は特に限定されない。使用者本人が、エアゾール製品を使用したことを実感しやすい観点から、等価騒音レベルは、50dB以上であることが好ましい。等価騒音レベルが62dB以下である場合、エアゾール製品は、噴射音が小さく、トイレの個室内等において使用された場合に、使用されたことが他人に気づかれにくい。なお、等価騒音レベルは、時間的に変動する場合の騒音レベルを定量的に把握するための数値であり、JIS Z8731-1999に基づき、ある一定の測定時間内(本実施形態では10秒間)における変動騒音の平均2乗音圧に等しい平均2乗音圧を与える連続定常音の騒音レベルとして定義される。等価騒音レベルの値が小さいほど、騒音が少なく静かであるといえる。また、A特性とは、騒音計による測定につかわれる人間の聴覚を考慮した周波数の重み付け特性をいう。本実施形態の等価騒音レベルは、たとえば、普通騒音計NL-21(リオン(株)製)にて、エアゾール製品の噴口の真横10cmの距離から、A特性にて測定することにより算出することができる。また、本実施形態の等価騒音レベルは、バックグラウンドの等価騒音レベルが35.6dBである場合の騒音レベルである。本実施形態のエアゾール製品は、上記等価騒音レベルを達成していることにより、トイレの個室等(この場合のバックグラウンドは、35.6dB程度である)において使用された場合であっても、使用されたことが他人に気づかれにくい。なお、本実施形態のエアゾール製品が示す等価騒音レベルが、いかに小さい音であるかを説明するために、種々の環境における等価騒音レベルを例示する。たとえば、タクシー等の静かな乗用車の車内は60dB程度であり、地下鉄の車内は80dB程度であり、2m離れたセミの鳴き声の音量は70dB程度である。そのため、本実施形態のエアゾール製品が達成しているような62dB以下という等価騒音レベルは、たとえばトイレの洗浄音と同程度若しくはそれ以下であるといえ、非常に小さな音であることが分かる。すなわち、本実施形態のエアゾール製品は、たとえばトイレで用を足した後に、トイレを流す際に使用すれば、外部にはトイレを流している音が聞こえるに過ぎず、エアゾール組成物を噴射したことは認識されにくい。
【0041】
本実施形態において、等価騒音レベルとバックグラウンドの騒音レベルとの差は、26.4dB以下であることが好ましく、24.4dB以下であることがより好ましい。等価騒音レベルとバックグラウンドの騒音レベルとの差が22.4dB以下であることにより、エアゾール製品は、トイレの個室等で使用された場合に、使用されたことが他人により気づかれにくい。
【0042】
また、本実施形態のエアゾール製品は、普通騒音計におけるA特性での噴射音の最大騒音レベルが78dB以下であることが好ましく、76dB以下であることがより好ましい。なお、最大騒音レベルの下限は特に限定されない。使用者本人が、エアゾール製品を使用したことを実感しやすい観点から、最大騒音レベルは、60dB以上であることが好ましい。なお、最大騒音レベルは、実測時間内の騒音レベルの最大値を表す。本実施形態の最大騒音レベルは、たとえば、普通騒音計NL-21(リオン(株)製)にて、エアゾール製品の噴口の真横10cmの距離から、A特性にて測定することにより算出することができる。また、本実施形態の最大騒音レベルは、バックグラウンドの最大騒音レベルが39.0dBである場合の騒音レベルである。
【0043】
なお、本実施形態のエアゾール製品は、1回あたりの噴射量を0.2~0.4mLとなるよう調整し、かつ、普通騒音計におけるA特性での噴射音の10秒間の等価騒音レベルが62dB以下となるよう調整されることにより、トイレの個室等で使用された場合に、使用されたことが他人により気づかれにくい。1回あたりの噴射量を上記範囲内に調整する方法や、等価騒音レベルを調整する方法は特に限定されない。また、等価騒音レベルは、上記1回あたりの噴射量を調整する方法のほか、25℃におけるエアゾールバルブの内圧を調整したり、原液と噴射剤との配合割合を調整したり、噴射部材の数や寸法、形状等を調整することにより、適宜調整し得る。
【0044】
本実施形態のエアゾール製品の製造方法は特に限定されない。一例を挙げると、エアゾール製品は、エアゾール容器に原液を充填し、エアゾールバルブによってエアゾール容器の開口を閉止し、噴射部材の噴口またはステムを介して噴射剤を加圧充填することによって製造することができる。
【0045】
以上、本実施形態のエアゾール製品は、1回あたりの噴射量、および、等価騒音レベルが所定の範囲内に調整されていることにより、トイレの個室等で使用された場合に、使用されたことが他人により気づかれにくい。
【0046】
<トイレ用定量噴射型エアゾール製品の使用方法>
本発明の一実施形態のトイレ用定量噴射型エアゾール製品の使用方法は、上記した定量噴射型エアゾール製品を用いて、普通騒音計におけるA特性での噴射音の10秒間の等価騒音レベルが62dB以下となるよう噴射音を発生させる方法である。このような方法によれば、トイレの個室等でエアゾール製品が使用された場合に、使用されたことが他人により気づかれにくい。なお、本実施形態のエアゾール製品の使用方法が実施される際の等価騒音レベルは、バックグラウンドの等価騒音レベルが35.6dBである場合の騒音レベルである。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。なお、特に制限のない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0048】
使用したエアゾール製品の詳細を以下に示す。なお、それぞれのステム孔(St)の噴口直径(mm)および個数、アンダータップ孔(UT)の噴口直径(mm)、ベーパータップ孔(VpT)の噴口直径(mm)に関しては、表1に記載した。
エアゾール製品1:噴射部材(噴口径φ0.3mm、開口面積0.07065mm2、噴口の断面形状が円形の噴口1個、噴射通路の長さ13.0mm)、エアゾールバルブ(定量室の容量0.2mL)
エアゾール製品2:噴射部材(噴口径φ0.35mm、開口面積0.09616mm2、噴口の断面形状が円形の噴口1個、噴射通路の長さ13.0mm)、エアゾールバルブ(定量室の容量0.2mL)
エアゾール製品3:噴射部材(噴口径φ0.5mm、開口面積0.1963mm2、噴口の断面形状が円形の噴口1個、噴射通路の長さ11.5mm)、エアゾールバルブ(定量室の容量0.2mL)
エアゾール製品4:噴射部材(噴口径φ0.6mm、開口面積0.2826mm2、噴口の断面形状が円形の噴口1個、噴射通路の長さ12.2mm)、エアゾールバルブ(定量室の容量0.2mL)
エアゾール製品5:噴射部材(噴口径φ0.6mm、開口面積0.2826mm2、噴口の断面形状が円形の噴口1個、噴口裏面に噴射拡散用の溝を有し、噴口とノズルとの間に隙間を設けた構造を有しており、ストレート噴射と拡散噴射を同時に行うことが可能、噴射通路の長さ10.8mm)、エアゾールバルブ(定量室の容量0.2mL)
エアゾール製品6:噴射部材(噴口径φ0.9mm、開口面積0.6359mm2、噴口の断面形状が円形の噴口1個、噴射通路の長さ11.5mm)、エアゾールバルブ(定量室の容量0.2mL)
エアゾール製品7:噴射部材(噴口径φ0.3mm、開口面積0.07065mm2、噴口の断面形状が円形の噴口1個、噴射通路の長さ13.0mm)、エアゾールバルブ(定量室の容量0.4mL)
エアゾール製品8:噴射部材(噴口径φ0.4mmの半円形状の噴口2個と噴口径φ0.4mmの半円形状とその半円形状に接し、0.4×0.2mmの長方形形状の噴口2組、開口面積0.4112mm2、噴射通路の長さ50.0mm)、エアゾールバルブ(定量室の容量0.4mL)
【0049】
<騒音レベルと噴射音の聞こえやすさとの関係について>
(実施例1)
99.5%エタノール溶液を原液とし、この原液を、容量71mLのエアゾール容器に25mL充填し、エアゾールバルブを取り付けた後、原液と噴射剤との配合割合(体積比)が50/50となるよう噴射剤(液化石油ガス 飽和蒸気圧:0.49MPa(25℃))を加圧充填し、噴射部材を取り付け、エアゾール製品を作製した(エアゾールバルブ、噴射部材はエアゾール製品2を用いた)。エアゾールバルブの内圧(20℃)は0.388MPaであった。なお、バルブの内圧は、20℃でWGA-710C計装用コンディショナ((株)共和電業製)に取り付けたPGM-10KE小型圧力センサ((株)共和電業製)をエアゾールバルブに接続することにより測定した。
【0050】
(実施例66)
以下の表2に記載の原液処方、噴射剤の種類およびガス圧、バルブ内圧、使用したエアゾール製品の種類を変更した以外は、実施例1と同様の方法により、エアゾール組成物およびエアゾール製品を調製した。
【0051】
(比較例1)
比較例1として、市販のトイレ用消臭スプレー(市販品A)を使用した。なお、この市販品Aは、原液(有効成分12.5%および99.5%エタノール87.5%)と、噴射剤(0.49MPa(25℃)のLPG)との配合割合(体積比)が30/70であり、エアゾールバルブの内圧が0.433MPa(20℃)であり、1回噴射量が0.2mLであった。
【0052】
(比較例2)
比較例2として、市販のトイレ用消臭スプレー(市販品B)を使用した。なお、この市販品Bは、原液(有効成分5.7%および99.5%エタノール94.3%)と、噴射剤(0.39MPa(25℃)のLPG)との配合割合(体積比)が7/93(体積比)であり、エアゾールバルブの内圧が0.378MPa(20℃)であり、連続噴射型であった。
【0053】
(比較例3)
比較例3として、市販のトイレ用消臭スプレー(市販品C)を使用した。なお、この市販品Cは、原液(有効成分15%および99.5%エタノール85%)と、噴射剤(組成不明)との配合割合(体積比)が15/85(体積比)であり、エアゾールバルブの内圧が0.354MPa(20℃)であり、連続噴射型であった。
【0054】
(比較例4)
比較例4として、市販のトイレ用消臭スプレー(市販品D)を使用した。なお、この市販品Dは、原液(有効成分15%および99.5%エタノール85%)と、噴射剤(組成不明)との配合割合(体積比)が20/80(体積比)であり、エアゾールバルブの内圧が0.330MPa(20℃)であり、連続噴射型であった。
【0055】
実施例1、実施例66、比較例1~4の製品を、それぞれ男性トイレの個室にて、1回噴射(連続噴射型の製品は1秒噴射)し、個室外に漏れ聞こえる音について、以下の評価基準にしたがって6名の試験者が評価し、平均を算出した。また、それぞれの製品を、普通騒音計NL-21(リオン(株)製)にて、製品の噴口の真横10cmの距離から、A特性にて、等価騒音レベルおよび最大騒音レベルを測定した。測定時における、バックグラウンドの等価騒音レベルは35.6Bであった。測定時における、バックグラウンドの最大騒音レベルは39.0dBであった。結果を表1に示す。
【0056】
(評価基準)
5:噴射音が大きく漏れ聞こえた。
4:噴射音が漏れ聞こえ、気になる程度であった。
3:噴射音が漏れ聞こえたが、気にならない程度であった。
2:噴射音がわずかに漏れ聞こえ、気にならない程度であった。
1:噴射音が漏れ聞こえなかった。
【0057】
【0058】
表1に示されるように、実施例1および実施例66の製品が示した等価騒音レベルが62dB程度を境として、等価騒音レベルが62dBよりも大きな噴射音であった場合に評価結果が3.5を超える(噴射音が気になると評価した評価者が半数以上となる)ことが分かった。これより、等価騒音レベルが62dB以下であることが、トイレの個室内においてエアゾール製品を使用した場合に、使用したことが他人に気づかれにくいための騒音レベルであることが判明した。同様に、最大騒音レベルは、78dB以下であることにより、トイレの個室内においてエアゾール製品を使用した場合に、使用したことが他人に気づかれにくいための騒音レベルとしてより適切であることが判明した。また、トイレの洗浄音に関しても同様の評価を行ったところ、評価結果が3.6となった。このことから、実施例1および実施例66のエアゾール製品は、トイレの洗浄時に使用することにより、噴射音が外部で認識されにくいことが分かった。
【0059】
<種々のエアゾール製品における騒音レベルと、聞こえやすさおよび液ダレ防止効果の確認>
(実施例2~85、比較例5~12)
以下の表2に記載の原液処方、噴射剤の種類およびガス圧、バルブ内圧、使用したエアゾール製品の種類(エアゾール製品1~8のいずれか)を変更した以外は、実施例1と同様の方法により、エアゾール組成物およびエアゾール製品を調製した。得られた製品に関して、以下の評価方法により、噴射時の等価騒音レベル、最大騒音レベルおよび液ダレ防止効果を確認した。試験は、いずれも25℃で行った。結果を表2に示す。なお、表2において、それぞれの実施例および比較例に記載の数値結果は、上段が最大騒音レベルであり、下段が等価騒音レベルである。また、液ダレ防止効果の評価結果は等価騒音レベルの下欄に記載されている。
【0060】
(騒音レベルの確認方法)
普通騒音計NL-21(リオン(株)製)にて、エアゾール製品の噴口の真横10cmの距離から、A特性にて、等価騒音レベルおよび最大騒音レベルを測定した。測定時における、バックグラウンドの等価騒音レベルが35.6dB、バックグラウンドの最大騒音レベルが39.0dBであった。
【0061】
(液ダレ防止効果の確認方法)
エアゾール製品を1回噴射し、噴口廻りを目視で確認し、以下の評価基準にしたがって、液ダレ防止効果を確認した。
(評価基準)
○:液ダレは生じなかった。
△:わずかに液ダレが生じたが、許容範囲内であった。
×:液ダレが生じた。
【0062】
【0063】
表2に示されるように、実施例1~85のエアゾール製品は、1回あたりの噴射量が0.2~0.4mLであり、かつ、等価騒音レベルが62dB以下であった。そのため、実施例1~85のエアゾール製品は、種々のエアゾール組成物や噴射部材を用いた場合であっても、表1に関連して説明したように、トイレの個室内において製品を使用した場合に、使用したことが個室外の他人に気づかれにくいと考えられた。また、これらの傾向は、最大騒音レベルを参照した場合も、同様であった。一方、比較例5~12の製品は、いずれも等価騒音レベルが62dBを超えたため、トイレの個室内において製品を使用した場合に、使用したことが個室外の他人に気づかれ得るか、気づかれやすいと考えられた。したがって、トイレの個室内において製品を使用した場合に、使用したことが個室外の他人に気づかれにくいためには、単に等価騒音レベルが62dB以下であるかだけでなく、1回あたりの噴射量が0.2~0.4mLに調整されていることも重要であることが示された。