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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】2液型水系塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/00 20060101AFI20241112BHJP
   C09D 179/02 20060101ALI20241112BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20241112BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D179/02
C09D7/61
C09D5/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023051278
(22)【出願日】2023-03-28
(65)【公開番号】P2024140236
(43)【公開日】2024-10-10
【審査請求日】2023-12-25
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】尾西 志央
(72)【発明者】
【氏名】澤口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 由佳
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/261071(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/110601(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)エポキシ樹脂と反応する樹脂、(C)顔料、及び(D)水を含む2液型水系塗料組成物であって
前記(A)エポキシ樹脂は、芳香環を有し、前記2液型水系塗料組成物の不揮発分において、30~70質量%の割合で含まれ、
前記(B)エポキシ樹脂と反応する樹脂は、
i)活性水素当量が80~350g/eqであるポリアミン樹脂を含み、かつ、
ii)少なくとも、芳香環に由来する環状構造を有する変性ポリアミンを含むものであって、前記芳香環に由来する環状構造を有する変性ポリアミンは、前記(B)エポキシ樹脂と反応する樹脂の全質量に対して50~100質量%の割合で含まれ、
前記(C)顔料は、顔料体積濃度(PVC)が25~35%であって、防錆顔料、体質顔料、着色顔料からなる群から選ばれる1種類以上を含み、前記2液型水系塗料組成物の不揮発分における、前記防錆顔料、前記体質顔料、及び着色顔料の含量は、それぞれ1~20質量%、10~50質量%、1~20質量%であり、
前記2液型水系塗料組成物中において、不揮発分の量は、40~80質量%であり、
アプリケーターを用いてポリプロピレン板上に乾燥膜厚が50~70μmとなるように前記塗料組成物を塗装し、23℃湿度50%条件下で7日乾燥させた際の塗膜の弾性率が600~2400N/mmであり、
ここで、塗膜の弾性率は、50mm×10mmの短冊状の塗膜を試験片として切り出した後、当該試験片に対して23℃湿度50%の環境下、速度5mm/minの条件にて引張試験を行い、応力とひずみが比例する範囲内における傾き(比例定数)から算出される塗料組成物。
【請求項2】
アプリケーターを用いてポリプロピレン板上に乾燥膜厚が50~70μmとなるように前記塗料組成物を塗装し、23℃湿度50%条件下で7日間乾燥させた際の塗膜のゲル分率が80%以上であり、
ここで、塗膜のゲル分率は、20mm×50mmの短冊状の塗膜を試験片として切り出し、得られた塗膜(試験片)の質量(W0)を測定した後、塗膜(試験片)をテトラヒドロフラン(THF)中に23℃で1日浸漬させ、浸漬後、THF中から取り出した塗膜(試験片)をTHFで洗浄した後に完全に乾燥させて、その質量(Wd)を測定し、下記算出式:
算出式: ゲル分率=100-(W0-Wd)/W0×100より算出されることを特徴とする、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
アプリケーターを用いてポリプロピレン板上に乾燥膜厚が50~70μmとなるように前記塗料組成物を塗装し、23℃湿度50%条件下で7日間乾燥させた際の塗膜の溶媒残存量が8.0%未満であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記(C)顔料が、鱗片状顔料を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【請求項5】
前記鱗片状顔料が、タルク、マイカ、カオリンクレー、ガラスフレーク、雲母状酸化鉄、アルミニウム及びアルミニウム以外の金属顔料からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする、請求項に記載の塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2液型水系塗料組成物に関し、特には、付着性及び防食性に優れた塗膜を形成可能な2液型水系塗料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、建築・土木構造物におけるコーティング分野では塗装作業者や居住者の健康被害軽減や臭気の観点から溶剤系から水系への転換が行われており、金属用の被覆材に対して塗膜強度、付着性、防錆性等に優れた常温硬化型2液水系エポキシ樹脂塗料が開発されている。
【0003】
特開2021-1314号公報(特許文献1)には、被膜形成成分、及び粉体成分を含む水性被覆材であって、上記被膜形成成分は、樹脂成分として水性エポキシ樹脂エマルションを含み、かつ形成被膜のゲル分率が10%以上であり、上記粉体成分は、防錆顔料、及び炭酸カルシウムを含み、上記樹脂成分100重量部に対し、上記粉体成分を50~300重量部含み、上記粉体成分中に、上記炭酸カルシウムを30~90重量%含むことを特徴とする水性被覆材の発明が記載され、この水性被覆材は、塗膜強度、密着性、防錆性等に優れているとしている。また、特開2021-1315号公報(特許文献2)では、特許文献1に記載された水性被覆材に酸化チタン及び赤色酸化鉄顔料を含む着色顔料が配合された発明が記載されている。
【0004】
特開2009-149791号公報(特許文献3)は、(I)エポキシ樹脂エマルジョン及び顔料分を含む主剤と(II)アミン硬化剤の組み合わせからなり、それらを使用直前に混合して塗装する2液型の水性防食塗料であって、主剤(I)中の顔料分が、その成分の一部としてリン酸系防錆顔料を含んでなり、アミン硬化剤(II)が、その成分の一部として活性水素当量が80以上で且つ1000未満の範囲内にある環状構造を有するポリアミン(IIa)を含むことを特徴とする2液型水性防食塗料の発明を記載し、この2液型水性防食塗料によれば、常温乾燥の条件でも硬化性が良好であり、また、鉄、亜鉛めっきなどの鋼材や非鉄材などの基材に対する防食性に優れた防食塗膜を形成することができるので、厳しい環境下においても被塗物の美観を長期にわたって維持することができるとしている。
【0005】
特開2019-515991号公報(特許文献4)は、二成分エポキシ樹脂塗料であって、(a)エポキシ樹脂成分と、(b)エポキシ樹脂成分を硬化させるためのアミン成分とを含み、このアミン成分は、(i)少なくとも1つのポリアミド硬化剤と、(ii)少なくとも1つのマンニッヒ塩基硬化剤とを含み、ポリアミド硬化剤およびマンニッヒ塩基硬化剤のうち少なくとも1つが、少なくとも1つの脂環式多官能アミンを含む1つ以上の多官能アミンから誘導され、この脂環式多官能アミンが、多官能アミンの総量に対して30重量%以上の量で存在し、エポキシ樹脂成分(a)とアミン成分(b)との重量比が、100:8~100:20である、二成分エポキシ樹脂塗料の発明を記載し、これにより、長いポットライフと速い乾燥速度のバランスがとれた二成分エポキシ樹脂塗料が提供できることを記載している。
【0006】
特開2018-53028号公報(特許文献5)は、エポキシ樹脂と、アミン樹脂とを含む下塗り塗料用二液反応硬化型水性塗料組成物であって、前記エポキシ樹脂において、エポキシ当量400~1000g/eqのエポキシ樹脂とエポキシ当量150~300g/eqのエポキシ樹脂との重量比が90:10~60:40である塗料組成物の発明を記載し、これによって、耐薬品性に優れる下塗り塗膜を与える下塗り塗料用二液反応硬化型水性塗料組成物を提供できることを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2021-1314号公報
【文献】特開2021-1315号公報
【文献】特開2009-149791号公報
【文献】特開2019-515991号公報
【文献】特開2018-53028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のようにエポキシ樹脂系の水性塗料組成物が提案されている。しかしながら、エポキシ樹脂は、一般に付着性に優れる樹脂として知られているところ、水性塗料へ使用した場合、有機溶剤系塗料に使用した場合と比べると、エポキシ樹脂が持つ付着性が十分に発揮できていないと考えられた。
【0009】
そこで、本発明の目的は、付着性及び防食性に優れた塗膜を形成可能な2液型水系塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために検討したところ、エポキシ樹脂系の2液型水系塗料組成物から形成される塗膜の弾性率を600~2400N/mmに調整したところ、水性塗料であっても付着性に優れた塗膜を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
従って、本発明の塗料組成物は、(A)エポキシ樹脂、(B)エポキシ樹脂と反応する樹脂、(C)顔料、及び(D)水を含む2液型水系塗料組成物であって、当該塗料組成物を塗装し、23℃湿度50%条件下で7日乾燥させた際の塗膜の弾性率が600~2400N/mmである塗料組成物である。
【0012】
本発明の塗料組成物の好適例においては、前記塗料組成物を塗装し、23℃湿度50%条件下で7日間乾燥させた際の塗膜のゲル分率が80%以上である。
【0013】
本発明の塗料組成物の他の好適例においては、前記塗料組成物を塗装し、23℃湿度50%条件下で7日間乾燥させた際の塗膜の溶媒残存量が8.0%未満である。
【0014】
本発明の塗料組成物の他の好適例において、前記(B)エポキシ樹脂と反応する樹脂は、少なくとも、環状構造を有する変性ポリアミンを含む。
【0015】
本発明の塗料組成物の他の好適例において、前記(B)エポキシ樹脂と反応する樹脂は、少なくとも、環状構造を有する変性ポリアミンを含み、前記(B)エポキシ樹脂と反応する樹脂中に占める環状構造を有する変性ポリアミンの含有量が50~100質量%の割合である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、付着性及び防食性に優れた塗膜を形成可能な2液型水系塗料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明は、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂と反応する樹脂、顔料、及び水を含む2液型水系塗料組成物に関する。本明細書では、この塗料組成物を「本発明の2液型水系塗料組成物」又は「本発明の塗料組成物」とも称する。また、「エポキシ樹脂」を(A)成分とし、「(A)エポキシ樹脂」とも称する。「エポキシ樹脂と反応する樹脂」を(B)成分とし、「(B)エポキシ樹脂と反応する樹脂」とも称する。「顔料」を(C)成分とし、「(C)顔料」とも称する。「水」を(D)成分とし、「(D)水」とも称する。
【0018】
本明細書において、水系塗料組成物とは、主溶媒として水を含有する塗料組成物である。本発明の塗料組成物に用いる水は、特に制限されるものではないが、水道水やイオン交換水、蒸留水等の純水等が好適に挙げられる。また、塗料組成物を長期保存する場合には、カビやバクテリアの発生を防止するため、紫外線照射等により滅菌処理した水を用いてもよい。本発明の塗料組成物中において、水の量は、20~60質量%であることが好ましく、30~50質量%であることがより好ましい。
【0019】
また、本発明の塗料組成物中において、不揮発分の量は、40~80質量%であることが好ましく、50~70質量%であることがより好ましい。本明細書において、不揮発分とは、溶媒等の揮発する成分を除いた成分を指し、最終的に塗膜を形成することになる成分であるが、本発明においては、塗料組成物を110℃のオーブンで3時間乾燥させた際に残存する成分を不揮発分として取り扱う。
【0020】
本明細書において、2液型の塗料組成物とは、主剤と硬化剤とからなる塗料組成物である。2液型の塗料組成物は、主剤、硬化剤及び必要に応じて選択される添加剤を塗装時に混合することで調製することができる。本発明では、(A)エポキシ樹脂を含む剤が主剤であり、(B)エポキシ樹脂と反応する樹脂を含む剤が硬化剤である。(C)顔料は、主剤と硬化剤のいずれに配合されていてもよいが、通常、主剤に含まれる。(D)水は、通常、主剤及び硬化剤に含まれるが、主剤のみに使用される場合もある。また、(D)水の一部が、主剤と硬化剤の混合時に添加剤として使用される場合もある。
【0021】
エポキシ樹脂は、分子内にエポキシ基を有する樹脂であり、エポキシ基の反応により硬化させることが可能な樹脂である。エポキシ樹脂は、一般に、基材、特に金属基材に対する付着性が高く、また、基材、特に金属基材の腐食に影響する環境因子(例えば、水、酸素等)から基材を遮蔽する効果(遮蔽効果)もあるため、防食性に優れる樹脂として知られている。一方、水系塗料組成物での使用においては、このエポキシ樹脂による付着性や防食性の向上効果が十分に発揮できているとは言えない状況であった。しかし、本発明によれば、形成される塗膜の弾性率やゲル分率を調整することによって、水系塗料組成物であっても、付着性や防食性を十分に向上させることができる。
【0022】
エポキシ樹脂は、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する樹脂であることが好ましく、例えば、多価アルコール又は多価フェノールとハロヒドリンとを反応させて得られるものであり、具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリグリコール型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ化油、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル及びネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。また、エポキシ樹脂は、得られる塗膜の弾性率を高くする観点から、芳香環といった剛直性構造を有するものが好ましい。
【0023】
エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂エマルジョン、エポキシ樹脂ディスパージョン及びエポキシ樹脂水溶液のいずれかの形態で配合されることが好ましい。本明細書において、樹脂エマルジョンとは、樹脂が水を主成分とする水性媒体中で分散してなる乳濁液を意味し、樹脂ディスパージョンとは、樹脂が水を主成分とする水性媒体中で分散してなる分散液を意味し、樹脂水溶液とは、樹脂が水を主成分とする水性媒体中に溶解している溶液を意味する。エポキシ樹脂エマルジョンは、特に制限されないが、通常の強制乳化方式(乳化剤及び高速撹拌機等を使用する方式)によって、水を主成分とする水性媒体中でエポキシ樹脂を乳化させることにより調製される。ここで、乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル系ノニオン界面活性剤、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体等のポリエーテル類;該ノニオン界面活性剤及び該ポリエーテル類の少なくとも一方とジイソシアネート化合物との付加物等が挙げられる。なお、乳化剤は、1種単独で用いても、2種以上のブレンドとして用いてもよい。また、エポキシ樹脂エマルジョンの市販品としては、例えば、エポルジョンEA-1、2、3、7、12、20、55、及びHD2(ヘンケルジャパン社製);ユカレジンKE-002、KE-116、E-1022、KE-301C(吉村油化学社製);アデカレジンEM-101-50(アデカ社製);jER W1155R55、jER W3435R67、jER W2821R70(三菱化学社製)等がある。一方、エポキシ樹脂ディスパージョンの市販品としては、例えば、Beckpox EP2381(オルネクス社製);EPI-REZ6530-WH-53(モメンティブ社製)等がある。
【0024】
エポキシ樹脂は、変性エポキシ樹脂であってもよい。変性エポキシ樹脂としては、例えば、ウレタン変性エポキシ樹脂、アミン変性エポキシ樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂、アクリル変性エポキシ樹脂、ポリエステル変性エポキシ樹脂、ダイマー酸変性エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0025】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、100~1,000g/eqであることが好ましく、200~700g/eqであることがより好ましく、300~600g/eqであることが更に好ましい。エポキシ当量が100g/eq以上であると、十分な塗膜物性が得られやすい。一方で、エポキシ当量が1,000g/eq以下であると、レベリング性が低下しにくく、均一な塗膜が得られやすい。複数のエポキシ樹脂を併用する場合は、各エポキシ樹脂混合物の平均エポキシ当量が上記特定した範囲内にあることが好ましい。エポキシ樹脂のエポキシ当量は、JIS K 7236:2001「エポキシ樹脂のエポキシ当量の求め方」に従って求めることができる。
【0026】
本発明の塗料組成物において、不揮発分中のエポキシ樹脂の量は、30~70質量%であることが好ましい。エポキシ樹脂は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
エポキシ樹脂と反応する樹脂は、エポキシ樹脂、特にそのエポキシ基と反応し、硬化反応を促進又は制御するために用いられる樹脂である。エポキシ樹脂と反応する樹脂としては、エポキシ基と反応する活性水素を有する樹脂が好ましく、ポリアミン樹脂がより好ましい。ポリアミン樹脂は、1分子中に少なくとも2個のアミノ基を有する樹脂である。ポリアミン樹脂には、例えば、アミン類とアルデヒド類の縮重合によって、アルコール類によるアミン類のエーテル化によって、ヘテロ環構造を持つアミン類(エチレンイミン等)の開環重合によって、アミン類とカルボン酸類の縮合によって、又はアミン類とホルムアルデヒドとケトン類若しくはフェノール類のマンニッヒ反応によって作られる樹脂等がある。ここで、アミン類とカルボン酸類の縮合によって作られる樹脂のように、分子中にアミド結合も有するポリアミン樹脂を「ポリアミドアミン樹脂」又は「ポリアミドアミン」とも称する。また、アルコール類によるアミン類のエーテル化には、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドの開環重合を利用することができる。
【0028】
ポリアミン樹脂の製造に使用できるアミン類としては、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、トリアミノプロパン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イソホロンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン等の脂肪族ポリアミン;フェニレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ポリアミン;エチレンイミン等のヘテロ環構造を持つアミン類等が挙げられる。
【0029】
また、ポリアミン樹脂は、変性ポリアミン樹脂であってもよい。変性ポリアミン樹脂とは、アミノ基の一部が変性されたポリアミン樹脂である。アミノ基の変性には、公知の方法が利用でき、例えば、アミノ基のアミド化、アミノ基とカルボニル化合物のマンニッヒ反応、アミノ基とエポキシ基の付加反応等が挙げられる。
【0030】
エポキシ樹脂と反応する樹脂は、少なくとも、環状構造を有する変性ポリアミンを含むことが好ましい。エポキシ樹脂と反応する樹脂として環状構造を有する変性ポリアミンを用いることで、得られる塗膜の弾性率を高くすることができる。変性ポリアミンとは、アミノ基の一部が変性されたポリアミン樹脂であり、その変性には、例えば、アミノ基のアミド化、アミノ基とカルボニル化合物のマンニッヒ反応、アミノ基とエポキシ基の付加反応等が挙げられる。変性ポリアミンとしては、マンニッヒ変性ポリアミドアミンが好ましい。
【0031】
エポキシ樹脂と反応する樹脂中に占める環状構造を有する変性ポリアミンの含有量は、50~100質量%の割合であることが好ましく、60~90質量%の割合であることがより好ましい。
【0032】
エポキシ樹脂と反応する樹脂は、少なくとも、環状構造を有する変性ポリアミンを含むことがより好ましい。環状構造を有する変性ポリアミンを用いると、弾性率を高くする効果を大きくすることができる。環状構造を有する変性ポリアミンは、その製造の際に環状構造を有する物質を使用することによって得ることが可能である。ポリアミン樹脂の製造に使用できる環状構造を有するアミン類としては、例えば、N-アミノエチルピペラジン等のピペラジン類、1,3-ビスアミノエチルシクロヘキサン、イソホロンジアミン、1-シクロヘキシルアミノ-3-アミノプロパン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ジ(アミノシクロヘキシル)メタン、1,3-ジ-(アミノシクロヘキシル)プロパン、2,4-ジアミノ-シクロヘキサンN,N’-ジエチル-1,4-ジアミノシクロヘキサン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノシクロヘキシルメタン等の脂肪族ポリアミン;フェニレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ポリアミン等が挙げられる。なお、環状構造を有する脂肪族ポリアミンを脂環式ポリアミンと称する場合もある。また、ポリアミン樹脂の製造に使用できる環状構造を有するアルコール類としては、例えば、フェノール及びその誘導体等が挙げられる。フェノール誘導体としては、例えば、ベンゼン環が炭化水素基で置換されたフェノール、特には、1つ又は複数の不飽和結合を有していてもよい線状又は分岐状の炭化水素基で置換されたフェノール等が挙げられる。ここで、炭化水素基は、炭素数が10~20の長鎖炭化水素基、特にアルキル基であることが好ましい。フェノール誘導体の具体例としては、カルダノール等がある。なお、エポキシ樹脂と反応させる樹脂は環状構造をもつものが好ましく、得られる塗膜の弾性率を高くする観点から、芳香環といった剛直性構造を有するものがより好ましい。
【0033】
塗膜の弾性率を高くする観点から、環状構造を有する変性ポリアミンは、アミン類とホルムアルデヒドとフェノール誘導体のマンニッヒ反応によって得られるポリアミン樹脂であることが好ましい。ここで、環状構造は、フェノール誘導体に由来するものであり、アミン類は、エチレンジアミン等の鎖式化合物(又は非環式化合物)であることが好ましい。フェノール誘導体は、上記したとおりであり、特にカルダノールが好ましい。このような変性ポリアミン樹脂は、フェナルカミン系の硬化剤とも称される。
【0034】
上述のとおり、変性ポリアミン、特に環状構造を有する変性ポリアミンの使用により、塗膜の弾性率を高くする効果が得られる。他方で、変性ポリアミン、特に環状構造を有する変性ポリアミンは、エポキシ樹脂との反応性が低い傾向にある。そこで、エポキシ樹脂と反応する樹脂は、変性ポリアミン、特に環状構造を有する変性ポリアミンと、当該変性ポリアミンに該当しない樹脂とを併用することが好ましい。これによって、エポキシ樹脂と反応する樹脂の反応性を確保することができる。ここで、変性ポリアミンと併用し得る樹脂は、特に制限されるものではなく、例えば、ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン等のポリオキシエチレンアミン(又はポリエーテルアミンともいう)等を使用することができる。
【0035】
エポキシ樹脂と反応する樹脂が、変性ポリアミンと、変性ポリアミンに該当しない樹脂とを含む場合、エポキシ樹脂と反応する樹脂全体における変性ポリアミンの割合は50~99質量%であり、変性ポリアミンに該当しない樹脂の割合は1~50質量%であることが好ましい。
【0036】
エポキシ樹脂と反応する樹脂は、エマルジョン、ディスパージョン及び水溶液のいずれかの形態で配合されることが好ましい。
【0037】
エポキシ樹脂と反応する樹脂の活性水素当量は、80~350g/eqであることが好ましく、100~250g/eqであることがより好ましい。エポキシ樹脂と反応する樹脂の活性水素当量は、活性水素1当量を含む樹脂のグラム数[g/eq]であり、エポキシ樹脂と反応する樹脂の分子量を1分子当たりのアミノ基の水素原子数で除した値である。
【0038】
本発明の塗料組成物において、不揮発分中のエポキシ樹脂と反応する樹脂の量は、5~20質量%であることが好ましい。エポキシ樹脂と反応する樹脂は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
顔料は、特に限定されず、防錆顔料、体質顔料、着色顔料等の、塗料業界において通常使用されている顔料が使用できる。顔料は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
防錆顔料としては、例えば、亜鉛粉末、酸化亜鉛、メタホウ酸バリウム、珪酸カルシウム、リン酸アルミニウム、縮合リン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、亜リン酸カリウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛カルシウム、リン酸亜鉛アルミニウム、リンモリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム、バナジン酸/リン酸混合顔料等が挙げられる。これらの中でも、防食性の観点から、リン酸系の防錆顔料が好ましい。リン酸系の防錆顔料としては、例えば、リン酸、亜リン酸、ポリリン酸等のリン酸系化合物の塩(マグネシウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、アルミニウム塩、リンモリブデン酸塩等)が挙げられる。本発明の塗料組成物において、不揮発分中の防錆顔料の量は、例えば1~20質量%である。
【0041】
体質顔料としては、例えば、シリカ、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等が挙げられる。これらの中でも、耐薬品性の観点から、炭酸カルシウムが好ましい。本発明の塗料組成物において、不揮発分中の体質顔料の量は、例えば10~50質量%である。
【0042】
着色顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック、黄鉛、モリブデートオレンジ、群青、紺青、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドンレッド、ナフトールレッド、ベンズイミダゾロンイエロー、ハンザイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ジオキサジンバイオレット等が挙げられる。本発明の塗料組成物において、不揮発分中の着色顔料の量は、例えば1~20質量%である。
【0043】
顔料は、その少なくとも一部に、鱗片状顔料を用いることができる。鱗片状顔料は、その鱗片形状に基づき、水、酸素、塩化物等の腐食因子の侵入を阻害する効果や、塗膜の内部応力を小さくする効果を示す。塗膜の内部応力を小さくすることにより、塗膜の付着性を更に向上でき、また、厚膜の塗膜を有利に形成することができる。鱗片状顔料としては、タルク、マイカ、カオリンクレー、ガラスフレーク、雲母状酸化鉄、アルミニウム及びその他金属顔料等が挙げられる。鱗片状顔料は、上述の防錆顔料、体質顔料又は着色顔料に分類されるものもある。本発明の塗料組成物において、不揮発分中の鱗片状顔料の量は、例えば0~50質量%である。
【0044】
本発明において、得られる塗膜の弾性率を高くする観点から、アスペクト比が1よりも大きく120未満である鱗片状顔料を用いることが好ましい。鱗片状顔料は、弾性率を上げる観点からは30よりも大きいものが好ましいが分散性に劣るため、平均アスペクト比が1から30までであることが好ましい。
【0045】
本明細書において、鱗片状顔料の平均アスペクト比は、鱗片状顔料の平均粒子径(D)と平均厚み(T)との比(D/T)をいう。ここで、平均粒子径とは、体積基準粒度分布の50%粒子径(D50)を指し、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定される粒度分布から求められる。鱗片状顔料の粒子径は、レーザ回折・散乱法による球相当径で表される。また、平均厚みとは、SEM(走査電子顕微鏡)を用いて100個以上の鱗片状顔料の厚みを測定し、これらの厚みの平均値をいう。
【0046】
鱗片状顔料は、平均粒子径が3~40μmであることが好ましく、3~20μmであることがより好ましい。
【0047】
本発明の塗料組成物は、顔料体積濃度(PVC)が10~40%であることが好ましく、25~35%であることがより好ましい。本発明において、得られる塗膜の弾性率を高くする観点から、PVCは高いことが好ましく、このような観点から、PVCは28%以上であることが好ましい。
【0048】
本明細書において、顔料体積濃度(PVC:Pigment Volume Concentration)は、塗料組成物中の不揮発分全体の容積の中で、顔料全体の容積が占める割合であり、不揮発分を構成する成分の組成および比重から計算により求めることができる。
【0049】
本発明の塗料組成物は、当該塗料組成物を塗装し、23℃湿度50%条件下で7日乾燥させた際の塗膜の弾性率が600~2400N/mmであり、900~2400N/mmであることが好ましく、1300~2400N/mmであることがより好ましい。本発明者は、塗膜の弾性率を600N/mm以上にすることで、塗膜の付着性を向上できることを見出した。弾性率は、変形に対する抵抗を示す物性値である。このため、弾性率が高くなれば、変形に対する抵抗も高くなり、これによって、塗膜の付着性を向上させていると考えられる。また、塗膜の弾性率が2400N/mm以下であれば、付着性に優れながら、塗膜の成膜不良が生じることなく優れた防食性を示す。
【0050】
(塗膜の弾性率の求め方)
アプリケーターを用いて基材(例えば、ポリプロピレン板)上に乾燥膜厚50~70μmとなるように塗料組成物を塗装し、23℃湿度50%条件下で7日乾燥させる。得られた塗膜から50mm×10mmの短冊状の試験片を切り出し、測定用サンプルを用意する。23℃湿度50%の環境下、速度5mm/minの条件にて引張試験を行い、応力とひずみが比例する範囲内における傾き(比例定数)から算出する。
【0051】
従来のエポキシ樹脂系の水性塗料組成物は、形成される塗膜の弾性率が600N/mmを下回るものであったが、本発明者は、エポキシ樹脂と反応する樹脂として、変性ポリアミン、特に環状構造を有する変性ポリアミンを使用することで、得られる塗膜の弾性率を高くし、600N/mm以上の弾性率を有する塗膜を形成できることを見出した。なお、塗膜の乾燥を高温(例えば50℃以上の温度)で行う場合や、顔料体積濃度(PVC)が40%を超えるような場合には、形成される塗膜の弾性率が2400N/mmを超えることが予想される。弾性率が2400N/mmを超える塗膜は、硬く脆くなる傾向にあり、靭性が失われ、成膜不良や割れの発生が起こり得る。
【0052】
本発明の塗料組成物は、当該塗料組成物を塗装し、23℃湿度50%条件下で7日乾燥させた際の塗膜のゲル分率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることが好ましい。ゲル分率は、エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂と反応する樹脂の反応性の指標となる。本発明において、塗膜のゲル分率が80%未満であると、これら樹脂間の反応性が十分であるとは言えず、該塗膜の上に塗料を塗り重ねた際に再溶解が生じる、十分な耐水性、防食性が発現しない、等の不具合が起こる場合がある。
【0053】
例えば、エポキシ樹脂と反応する樹脂として、変性ポリアミン、特に環状構造を有する変性ポリアミンを使用する場合、弾性率を高くする効果は得られるものの、エポキシ樹脂との反応性が低くなる傾向になり、塗膜のゲル分率が80%を下回る場合がある。このような場合は、エポキシ樹脂と反応する樹脂として環状構造を有する変性ポリアミンに該当しない樹脂を併用することが好ましい。これによって、塗膜の弾性率が600~2400N/mmの範囲内でありながら、塗膜のゲル分率を90%以上とすることも可能である。
【0054】
(塗膜のゲル分率の求め方)
アプリケーターを用いて基材(例えば、ポリプロピレン板)上に乾燥膜厚50~70μmとなるように塗料組成物を塗装し、23℃湿度50%条件下で7日乾燥させた後、基材から剥離し、得られた塗膜の質量を測定し、この質量をW0とする。次に、その塗膜をテトラヒドロフラン(THF)中に23℃で1日浸漬させる。浸漬後、THF中から取り出した塗膜を完全に乾燥させて、その質量を測定する。このときの塗膜の質量をWdとする。
そして、質量減少量ΔW(=W0-Wd)をW0で除した値を百分率に換算して質量減少率を算出する。ゲル分率は、100%と質量減少率の差から算出される値である。
算出式: ゲル分率=100-(W0-Wd)/W0×100
【0055】
本発明の塗料組成物は、当該塗料組成物を塗装し、23℃湿度50%条件下で7日乾燥させた際の塗膜の溶媒残存量が8.0%未満であることが好ましく、7.0%以下であることが好ましく、6.5%以下であることがより好ましい。溶媒が多く残存していると、可塑化効果により弾性率が低下し十分な付着性が発揮されないといった不具合が生じる場合がある。塗料組成物に使用される水や成膜助剤等の揮発分の割合を低くすることで、溶媒残存量を低く抑えることができる。
【0056】
(塗膜の溶媒残存量の求め方)
アプリケーターを用いて基材(例えば、ポリプロピレン板)上に乾燥膜厚50~70μmとなるように塗料組成物を塗装する。塗装に使用した塗料組成物の質量を塗料質量W0とする。次いで、塗装後、23℃湿度50%条件下で7日乾燥させ、得られた塗膜の質量を測定し、これを塗膜質量の実測値Wとする。また、塗装に使用した塗料組成物中の不揮発分の質量から、最終乾燥塗膜質量の理論値を求めて、これを塗膜質量の理論値Wzとする。塗膜質量の実測値と理論値の差(W-Wz)を塗料質量W0で除した値を百分率に換算して溶媒残存量を算出する。
算出式: 溶媒残存量=(W-Wz)/W0×100
【0057】
本発明の塗料組成物には、その他の成分として、(A)成分又は(B)成分に該当しない樹脂、(B)成分に該当しない架橋剤、成膜助剤、凍結防止剤、表面調整剤(又は湿潤剤ともいう)、分散剤、消泡剤、粘性調整剤、増粘剤、防錆顔料に該当しない防錆剤、フラッシュラスト防止剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、たれ防止剤、色分かれ防止剤、ツヤ消剤、密着性付与剤、レベリング剤、乾燥剤、触媒、可塑剤、防カビ剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、防腐剤、殺虫剤、帯電防止剤及び導電性付与剤等を目的に応じて適宜配合することができる。
【0058】
本発明の塗料組成物は、主剤と硬化剤とを予め用意しておき、主剤、硬化剤および必要に応じて添加剤を塗装時に混合することによって調製することができる。主剤及び硬化剤は、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することによって調製することができる。
【0059】
本発明の塗料組成物は、せん断速度0.1(1/s)における粘度が1~1000(Pa・s、23℃)であり、せん断速度1000(1/s)における粘度が0.05~10(Pa・s、23℃)であることが好ましい。
【0060】
本明細書において、粘度は、レオメーター(例えば、TAインスツルメンツ社製レオメーターARES)を用い、液温を23℃に調整した後に測定される。
【0061】
本発明の塗料組成物の塗装手段は、特に限定されず、既知の塗装手段、例えば、刷毛塗装、ローラー塗装、コテ塗装、ヘラ塗装、フローコーター塗装、スプレー塗装(例えばエアースプレー塗装、エアレススプレー塗装)等が利用できる。
【0062】
本発明の塗料組成物の乾燥手段は、特に限定されず、周囲温度での自然乾燥や乾燥機等を用いた強制乾燥のいずれであってもよい。
【0063】
本発明の塗料組成物は、付着性に優れた塗膜を形成することが可能であり、好ましくは防食性を向上させることもできる。このため、本発明の塗料組成物は、下塗り塗料として好適である。
【0064】
本発明の塗料組成物により塗装される基材は、例えば、エポキシ樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリル樹脂、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリオレフィン、例えばポリプロピレン(PP)等のプラスチック基材、鉄鋼、亜鉛めっき鋼、錫めっき鋼、ステンレス鋼、マグネシウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金等の金属基材、セメント、モルタル、コンクリート、スレート、石膏、ケイ酸カルシウム、ガラス、セラミック、炭酸カルシウム、大理石、人工大理石等の金属以外の無機質基材、木材等の木質基材、紙基材、これら基材の2種以上の材料を組み合わせたような複合基材等が挙げられる。また、複合基材としては、例えば、木繊維補強セメント板、繊維補強セメント板、繊維補強セメント・珪酸カルシウム板等の複合基材、各種表面処理、例えば酸化処理が施された金属基材、その表面が無機物で被覆されているようなプラスチック基材(例えば、ガラス質で被覆されたプラスチック基材)等が挙げられる。
【0065】
本発明の塗料組成物は、付着性に優れ、好ましくは防食性にも優れる塗膜を形成することが可能であることから、塗装対象は金属基材や金属と他の材料からなる複合基材であることが好ましい。
【0066】
基材は、様々な形状のものがあり、例えば、フィルム状、シート状、板状等の二次元形状基材や複雑形状の立体物である三次元形状基材等がある。基材の表面は、平滑であってもよいし、凹凸を有していてもよい。
【0067】
基材は、その表面に、脱脂処理、化成処理、研磨等の前処理や、シーラー、プライマーやジンクリッチペイント等の塗装、めっきや金属溶射等が施されていてもよい。
【0068】
基材は、その表面に、旧塗膜を有していてもよい。旧塗膜は、基材の表面の一部または全部を被覆している場合がある。本明細書において、旧塗膜とは、塗装、特に補修を行う際に既に基材上に存在している塗膜を意味する。
【0069】
基材が表面に旧塗膜を有している場合、旧塗膜を含めた基材表面を本発明の塗料組成物で塗装することができる。旧塗膜が健全であれば、基材表面の旧塗膜を剥離または除去することなく、該旧塗膜上に本発明の塗料組成物を塗布することができる。旧塗膜上には、塵や埃等の汚染物質が付着していることから、汚染物質を除去することで、旧塗膜への新しい塗膜の密着性を向上させることができる。汚染物質の除去方法としては、高圧水洗浄や、カセイソーダ等のアルカリ洗浄、無機酸又は有機酸による酸性洗浄、過塩素酸等の漂白剤を用いた洗浄、ケレン及び布拭き等による洗浄が挙げられる。
【0070】
旧塗膜は、樹脂を含んでいることが好ましく、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、スチレンアクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ふっ素樹脂、ロジン樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、キシレン樹脂、アルキド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂、ビニル樹脂、アミン樹脂、ケチミン樹脂、およびこれらの樹脂を変性した樹脂(変性樹脂)等が挙げられる。樹脂は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
旧塗膜には、その他の成分として、顔料、分散剤、表面調整剤、酸化防止剤、可塑剤、防錆剤、溶剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、粘性調整剤、充填剤、消泡剤、荷電制御剤、応力緩和剤、浸透剤、導光材、光輝材、磁性材、蛍光体、紫外線吸収剤、ラジカル捕捉剤等の各種添加剤が含まれていてもよい。
【0072】
本発明の塗料組成物は、23℃湿度50%条件下で7日乾燥させた際の塗膜の弾性率が600~2400N/mmであることから、外部応力に対する抵抗が大きくなり、結果として基材や旧塗膜に対し付着性に優れ、好ましくは防食性にも優れる塗膜を形成することが可能である。加えて外部環境に合わせて適した中塗り又は上塗り塗料を選択することで、基材や旧塗膜に対して付着性及び防食性を付与することに加え、例えば防汚性や撥水性をはじめとして耐候性、環境遮断性等、その環境に適応した特性を持つ塗膜を作ることが可能となる。
【0073】
本発明の塗料組成物が下塗り塗料として使用される場合、下塗り塗膜の上に、上塗り塗膜を形成したり、中塗り塗膜、上塗り塗膜を順に形成したりすることができる。
【0074】
中塗り塗膜又は上塗り塗膜を形成するための塗料は、本発明の塗料組成物と同様に、水系塗料組成物であることが好ましい。これらの塗料組成物には、樹脂、架橋剤、顔料、水、成膜助剤、凍結防止剤、表面調整剤(又は湿潤剤ともいう)、分散剤、消泡剤、粘性調整剤、増粘剤、防錆剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、たれ防止剤、色分かれ防止剤、ツヤ消剤、密着性付与剤、レベリング剤、乾燥剤、触媒、可塑剤、防カビ剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、防腐剤、殺虫剤、紫外線吸収剤、ラジカル補足剤、帯電防止剤及び導電性付与剤等を目的に応じて適宜配合することができる。
【実施例
【0075】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0076】
<塗料組成物の調製例>
表1~2に示す配合処方に従い原料を混合して、主剤および硬化剤を調製した。得られた主剤と硬化剤を希釈用の水と共に表3に示す混合比率で混合して塗料組成物を調製し、該塗料組成物を評価した。表1~3に示す配合処方及び混合比率は質量基準である。
【0077】
塗料組成物の調製に使用した材料の詳細を以下に示す。
エポキシ樹脂1:アデカレジン EM101-50(ADEKA社製エポキシ樹脂エマルジョン:不揮発分47質量%、エポキシ当量 1075 g/eq)
エポキシ樹脂2:jER W2821R70(三菱化学社製エポキシ樹脂エマルジョン:不揮発分70質量%、エポキシ当量 220~240g/eq)
防錆顔料:トリポリリン酸アルミニウム K-WHITE#84S(テイカ社製)
体質顔料1:炭酸カルシウム(平均粒子径6μm)
体質顔料2:タルク(平均粒子径13μm、アスペクト比20未満)
着色顔料1:二酸化チタン(白色顔料)
着色顔料2:カーボンブラック(黒色顔料)
着色顔料3:酸化鉄(オウカツ色顔料)
着色顔料4:酸化鉄(サビ色顔料)
分散剤:フローレンGW-1640(共栄社化学社製)
成膜助剤:ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル
消泡剤:SN デフォーマー 1312(サンノプコ社製)
増粘剤:SNシックナー665T(サンノプコ社製、ウレタン変性ポリエーテル化合物、不揮発分 30%)
ポリアミン樹脂1:Cardolite NX-8401(Cardolite社製アミン樹脂エマルジョン;不揮発分57質量%、活性水素当量 290g/eq)
ポリアミン樹脂2:ダイトクラール X-7024 (大都産業社製アミン樹脂エマルジョン:不揮発分50%、活性水素当量 392 g/eq)
ポリアミン樹脂3:JEFFAMINE T-403(HUNTSUMAN社製ポリエーテルアミン;不揮発分100質量%、活性水素当量 81 g/eq)
ポリアミン樹脂4:BECKOPOX EH623W(ALLNEX社製水溶性アミン樹脂;不揮発分80質量%、活性水素当量 200 g/eq)
防錆剤1:HALOX650(ICL Phosphate Specialty社製有機防錆剤、不揮発分100質量%)
防錆剤2:亜硝酸ナトリウム
【0078】
<塗膜作製方法1>
上記<塗料組成物の調製例>で調製された塗料をポリプロピレン板(2.0×70×150mm)に、乾燥膜厚が50~70μmとなるようにアプリケーターを用いて塗装し、23℃50%相対湿度環境で7日間乾燥させ、塗板を得た。
【0079】
<塗膜作製方法2>
サンドブラスト板(3.2×70×150mm)に変性エポキシ樹脂塗料弱溶剤形(大日本塗料社製、「エポオールスマイル」)を、乾燥膜厚が55~65μmとなるようにエアースプレー塗装し、23℃50%相対湿度環境で1日間乾燥させ、その後7日間50℃環境下で強制乾燥させ下地を得た。得られた下地の上に乾燥膜厚が50~70μmとなるようにアプリケーターを用いて上記<塗料組成物の調製例>で調製された塗料を塗装し、23℃50%相対湿度環境で7日間乾燥させ、塗板を得た。
【0080】
<塗膜作製方法3>
上記<塗料組成物の調製例>で調製された塗料をサンドブラスト板(3.2×70×150mm)に、乾燥膜厚が55~65μmとなるようにエアースプレー塗装し、23℃50%相対湿度環境で7日間乾燥させ、塗板を得た。なお、塗板の裏面および周囲は同じ塗料で塗装し、シールを行った。
【0081】
<弾性率>
塗膜作製方法1にて作製した塗板から、50mm×10mmの短冊状の塗膜を試験片として切り出した後、当該試験片に対して23℃湿度50%の環境下、速度5mm/minの条件にて引張試験を行い、応力とひずみが比例する範囲内における傾き(比例定数)から弾性率(N/mm)を算出した。結果を表3に示す。
【0082】
<ゲル分率>
塗膜作製方法1にて作製した塗板から、20mm×50mmの短冊状の塗膜を試験片として切り出した。得られた塗膜(試験片)の質量(W0)を測定した後、塗膜(試験片)をテトラヒドロフラン(THF)中に23℃で1日浸漬させた。浸漬後、THF中から取り出した塗膜(試験片)をTHFで洗浄した後に完全に乾燥させて、その質量(Wd)を測定し、下記算出式よりゲル分率を算出し、下記の基準に基づいて評価した。結果を表3に示す。
算出式: ゲル分率=100-(W0-Wd)/W0×100
(基準)
〇:85%以上
△:80%以上、85%未満
×:80%未満
【0083】
<溶媒残存率>
塗膜作製方法1にて作製した塗板上の塗膜の質量(W)と、塗膜作製時に使用した塗料の質量(W0)を計測し、塗料中の不揮発分の質量から完全乾燥時の理論塗膜質量(Wz)を算出し、下記算出式に従い、溶媒残存量を算出し、下記の基準に基づいて評価した。結果を表3に示す。
算出式: 溶媒残存量=(W-Wz)/W0×100
(基準)
〇:6.0%未満
△:6.0%以上、8.0未満
×:8.0%以上
【0084】
<付着性>
23℃RH50%環境下において、塗膜作製方法2にて作製した塗板上の塗膜表面(試験面)に対して基材素地へ到達するようにカッターナイフを用い縦と横方向へ5mm間隔で4本ずつ切り傷をつけ9個の碁盤目を作製した。碁盤目面に対して片側へ折り目を付けたセロテープを強く圧着させ、60~90°の角度で勢いよく引きはがし、残存した塗膜の面積を基に下記基準に従い塗膜の付着性を評価した。結果を表3に示す。残存塗膜の面積がマスが4個以上に相当する場合、付着性に優れた塗膜である。
(基準)
◎:残存塗膜の面積がマス8個以上に相当する。
〇:残存塗膜の面積がマス6個以上、8個未満に相当する。
△:残存塗膜の面積がマス4個以上、7個未満に相当する。
×:残存塗膜の面積がマス4個未満に相当する。
【0085】
<防食性>
塗膜作製方法3にて作製した塗板上の塗膜の下半分に対しカッターナイフを用いてサンドブラスト板(素地)に達するように切りきずを入れて試験片を作製した。JIS Z 2371の中性塩水噴霧試験を336時間行った後のさび・ふくれの状態を評価した。評価基準は以下のとおりであり、結果を表3に示す。カット部のさび・ふくれ幅が3mm以内である場合、防食性に優れた塗膜である。
(基準)
〇:カット部のさび・ふくれ幅が2mm未満
△:カット部のさび・ふくれ幅が2mmより大きく3mm以内
×:カット部のさび・ふくれ幅が3mm以上、または一般部に異常がある
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】