(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】イオンミラー
(51)【国際特許分類】
H01J 49/40 20060101AFI20241112BHJP
H01J 49/02 20060101ALI20241112BHJP
H01J 49/06 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
H01J49/40 500
H01J49/40 600
H01J49/02 200
H01J49/06
(21)【出願番号】P 2023063345
(22)【出願日】2023-04-10
【審査請求日】2023-04-10
(32)【優先日】2022-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】508306565
【氏名又は名称】サーモ フィッシャー サイエンティフィック (ブレーメン) ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】ドミトリー グリンフェルド
(72)【発明者】
【氏名】ハミッシュ スチュワート
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン ホック
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー ワグナー
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルコ バルシュン
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー マカロフ
【審査官】後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-073837(JP,A)
【文献】特表2007-526596(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 40/00-49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛行時間型質量分析計(ToF)のためのイオンミラーであって、前記イオンミラーは、ドリフト方向(z)に沿って第1の端部から第2の端部まで細長く延びており、前記ドリフト方向に直交する反射方向(y)にイオンを反射するように構成されており、前記イオンミラーは、
複数の細長いミラー電極であって、前記細長いミラー電極の各々は、前記ドリフト方向に延在し、前記複数の細長いミラー電極の各々は、前記イオンミラーの静電界を提供するために、それぞれのミラー電極電圧を受け取るように構成されている、複数の細長いミラー電極と、
前記イオンミラーの前記第1の端部及び/又は前記第2の端部に設けられた少なくとも1つのフリンジ電界補正(FFC)アセンブリであって、前記FFCアセンブリは複数の電極を備え、前記複数の電極は、前記ドリフト方向に直交する平面内に延在し、各電極は、それぞれのFFC電圧を受け取るように構成されている、少なくとも1つのフリンジ電界補正(FFC)アセンブリと、を備え、
前記FFCアセンブリは、前記FFC電圧でバイアスされたときに、前記イオンミラーの前記静電界のフリンジ電界を抑制するように構成され、
前記FFCアセンブリが、前記イオンミラーの前記静電界の前記フリンジ電界の最も長い侵入長を有するK個の高調波を抑制するように構成されており、Kは正の整数である、イオンミラー。
【請求項2】
前記FFCアセンブリのうちの少なくとも2つの電極が、前記複数の細長いミラー電極に印加されたミラー電極電圧の群から選択される電圧を受け取るように構成されている、請求項1に記載のイオンミラー。
【請求項3】
前記FFCアセンブリの各電極が、前記複数の細長いミラー電極に印加されるミラー電極電圧の群から選択される電圧を受け取るように構成されている、請求項2に記載のイオンミラー。
【請求項4】
前記FFCアセンブリが、少なくとも3つの電極を備え、
前記FFCアセンブリの1つの電極が、前記イオンミラーの前記静電界の前記フリンジ電界の少なくとも1つの高調波を低減するために、較正電圧を受け取るように構成されている、請求項2又は3に記載のイオンミラー。
【請求項5】
前記FFCアセンブリが、前記イオンが反射されてドリフトする平面(y-z)に関して対称である、請求項1に記載のイオンミラー。
【請求項6】
前記FFCアセンブリの前記複数の電極が、前記FFCアセンブリの前記平面内に延在する複数の境界ギャップによって、互いに分離されている、請求項1に記載のイオンミラー。
【請求項7】
前記イオンミラーの前記細長いミラー電極が、前記反射方向の長さbと、前記反射方向及び前記ドリフト方向に垂直な方向の幅aと、を有する、前記イオンミラーの矩形の内部断面を規定する、請求項1記載のイオンミラー。
【請求項8】
前記イオンミラーの前記静電界が、前記フリンジ電界及び理想化された電界(Φ
0(x,y))を含み、前記理想化された電界が、前記ドリフト方向(z)に実質的に依存しない、請求項1に記載のイオンミラー。
【請求項9】
前記FFCアセンブリの前記複数の電極が、前記FFCアセンブリの前記平面内に延在する複数の境界ギャップによって、互いに分離され、
前記イオンミラーの前記細長いミラー電極が、前記反射方向の長さbと、前記反射方向及び前記ドリフト方向に垂直な方向の幅aと、を有する、前記イオンミラーの矩形の内部断面を規定し、
前記境界ギャップの形状が、重複しないドメイン(ω)のセットによって規定され、前記重複しないドメインにおいて、中間ドメインに対応するFFC電極に印加される電圧は、V
iであり、外側ドメインに対応するFFC電極に印加される電圧は、V
jであり、式中、
【数1】
式中、
【数2】
及び
【数3】
である、請求項8に記載のイオンミラー。
【請求項10】
前記FFCアセンブリが、前記イオンミラーに取り付けられている、請求項1に記載のイオンミラー。
【請求項11】
前記FFCアセンブリが、複数の導電性取付ピンを備え、前記導電性取付ピンが、前記FFCアセンブリの1つ以上の電極を、それぞれの細長いミラー電極の前記ミラー電極電圧と前記FFC電圧が同じとなる前記1つ以上の細長いミラー電極に電気的に接続するように構成されている、請求項10に記載のイオンミラー。
【請求項12】
飛行時間型質量分析計であって、
イオン源と、
イオン検出器と、
前記イオン源と前記イオン検出器との間の飛行経路上でイオンを反射するように構成されている、請求項1に記載のイオンミラーと、を備える、飛行時間型質量分析計。
【請求項13】
請求項1に記載の更なるイオンミラーを更に備え、
前記イオンミラー及び前記更なるイオンミラーが、互いに対向して配置され、前記イオンミラーと前記更なるイオンミラーとの間でイオンを反射するように構成されている、請求項12に記載の飛行時間型質量分析計。
【請求項14】
前記イオンミラー及び前記更なるイオンミラーの各々が、前記それぞれのイオンミラーの第1の端部に第1のFFCアセンブリを備え、前記それぞれのイオンミラーの第2の端部に第2のFFCアセンブリを備える、請求項13に記載の飛行時間型質量分析計。
【請求項15】
飛行時間型質量分析計のための飛行時間型質量分析法の方法であって、
前記飛行時間型質量分析計内に配置された、請求項1に記載のイオンミラーのそれぞれのミラー電極にミラー電極電圧を印加することと、
前記イオンミラーの前記少なくとも1つのFFCアセンブリにFFC電極電圧を印加することと、
前記飛行時間型質量分析計にイオンを注入することと、
前記イオンミラーを使用して、前記イオンを反射することと、
前記イオンを検出することと、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、飛行時間型質量分析に関する。具体的には、本開示は、飛行時間型質量分析計のためのイオンミラーに関する。
【背景技術】
【0002】
イオンミラーは、イオンを反射させるためのデバイスである。イオンミラーは、飛行時間型(Time of Flight、ToF)質量分析計の一部として提供されてもよい。英国特許第2,580,089(B)号は、一対のイオンミラーを備える多重反射ToF(Multiple Reflection ToF、MR ToF)を開示している。
図1は、一対の細長いイオンミラーが設けられた、英国特許第2,580,089(B)号のMR ToFの略図を示し、ミラーの対は、ドリフト方向に沿って、互いに対向して配置されている。イオンは、ドリフト方向に沿ってドリフトしながら、ミラー間で(ドリフト方向に対して概ね横方向に)反射される。イオンミラーの長さは、少なくとも部分的に、MR ToFによって調整し得る反射回数、したがって、MR ToFを使用して達成され得る総飛行経路長を決定する。MR ToFによって達成可能な分解能は、MR-ToFの飛行経路長に比例する。したがって、イオンミラーの長さを(ドリフト方向に)増加させることによって、MR-ToFによって達成可能な最大分解能を増加させることができる。
【0003】
イオンミラーのイオン反射静電界は、MR ToFで使用するイオンを正確に反射するために、面対称でなければならない。イオンミラーの(ドリフト方向における)細長い端部では、静電界が平面対称性から逸脱する。したがって、イオンミラーの使用可能領域は、中間領域のみに限定される。相当の長さを有し得るイオンミラーの端部は、面対称ではない静電界のために、イオン反射に使用可能ではない場合がある。
【0004】
フリンジ電界補正器(Fringe Field Corrector、FFC)を使用して、イオンミラーのフリンジ電界摂動を最小限に抑えることができる。米国特許第9,082,602(B)号は、イオンが、複数の静電セクタを形成するように配置された電極のセットによって規定された三次元閉軌道をたどる、三次元ToFを開示している。複数のワイヤ軌道を有するPCBを含むFFCが、補正対象セクタの2つの主電極間に設けられる。PCBのワイヤ軌道には、抵抗分圧器を使用して、個々に電圧が供給される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、先行技術のフリンジ電界補正電極に関する1つの問題は、それらが比較的多数の電極を必要とし、各電極に、十分な精度で所望の電界を提供するために、抵抗器チェーンを介して正確な電圧を供給することである。
【0006】
そのような電圧を提供するために使用される分圧器に関する1つの問題は、連続して接続された抵抗器(及び経時的な任意の抵抗ドリフト)が、抵抗器の誤差が加算される長い公差チェーンを表すことである。したがって、イオンミラーのフリンジ電界を正確に補正する、フリンジ電界補正電極、及び関連付けられた制御回路を提供することは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様によれば、飛行時間型質量分析計(ToF)のためのイオンミラーが提供される。イオンミラーは、ドリフト方向(z)に沿って第1の端部から第2の端部まで細長く延びており、ドリフト方向に直交する反射方向(y)にイオンを反射するように構成されている。イオンミラーは、複数の細長いミラー電極と、少なくとも1つのフリンジ電界補正(FFC)アセンブリと、を備える。細長いミラー電極の各々は、ドリフト方向に延在する。複数の細長いミラー電極の各々は、イオンミラーの静電界を提供するために、それぞれのミラー電極電圧を受け取るように構成されている。少なくとも1つのFFCアセンブリは、イオンミラーの第1端部及び/又は第2の端部に設けられる。FFCアセンブリは複数の電極を備え、複数の電極は、ドリフト方向に直交する平面内に延在し、各電極は、それぞれのFFC電圧を受け取るように構成されている。FFCアセンブリは、FFC電圧でバイアスされたときに、イオンミラーの静電界のフリンジ摂動を抑制するように構成されている。
【0008】
本開示の第1の態様のイオンミラーは、FFC電圧でバイアスされたときに、イオンミラーの静電界のフリンジ電界を抑制するように構成されている、FFCアセンブリを備える。イオンミラーの静電界は、イオンを反射するための理想化された面対称静電界と、フリンジ電界との組み合わせと考えることができる。したがって、イオンミラーのフリンジ電界は、イオンミラーの端部における細長いミラー電極の終端から生じる、理想化された面対称静電界の摂動である。
【0009】
第1の態様によれば、FFCアセンブリは、イオンミラーの一端又は両端に設けられてもよい。FFCアセンブリは、イオンミラーの(ドリフト方向における)使用可能な長さが増加するように、静電界が略平面対称であるイオンミラーの割合を増加させる。このことは、次に、イオンミラーがより多くの数の反射を受け入れることを可能にし、その結果、イオンミラーの外形寸法を増加させることなく、より大きな最大飛行長を受け入れることを可能にし得る。したがって、最大分解能の増加は、1つ以上のFFCアセンブリをイオンミラーに組み込むことによって、達成され得る。代替的に、1つ以上のFFCアセンブリをイオンミラーに組み込むことによって、同じ最大分解能を維持しながら、ToF機器の全体寸法を減少させることができ、占有空間、重量及びコストの低減を伴う。
【0010】
いくつかの実施形態では、FFCアセンブリは、イオンミラーの静電界のフリンジ電界の最も長い侵入長を有する、K個の高調波を抑制するように構成され、Kは正の整数である。他の高調波は完全には抑制されないことが理解されよう。例えば、Kは、少なくとも3、5、7又は9であってもよい。最も長い侵入長を有するフリンジ電界の高調波を抑制することによって、FFCアセンブリは、フリンジ電界がイオンミラー内に(ドリフト方向に)侵入する長さを低減することができる。いくつかの実施形態では、Kは、31、25、19又は15以下であってもよい。したがって、FFCアセンブリは、(イオンミラー内に深く侵入しない)高次高調波に対するフリンジ電界を抑制しない可能性がある。すなわち、FFCアセンブリは、ミラー延長の限定された範囲(「完全な」フリンジ電界ではない)において、すなわち、フリンジから特定の距離だけ離れて、フリンジ電界を補正するように構成されている。次に、これにより、FFCアセンブリ、及びFFCアセンブリに供給されるFFC電圧の構造が簡略化される。
【0011】
いくつかの実施形態では、FFCアセンブリの少なくとも2つの電極は、複数の細長いミラー電極に印加されるミラー電極電圧の群から選択される電圧を受け取るように構成されている。FFC電圧のうち、全てとは言わないまでも少なくともいくつかに対し、ミラー電極電圧を利用することによって、第1の態様のイオンミラーに、簡易化された設計を提供することができる。具体的には、FFCアセンブリは、時間とともにドリフトする傾向があり得る一連の中間電圧を提供するための、追加の抵抗器チェーンなどを必要とせずに、提供され得る。したがって、いくつかの実施形態では、FFCアセンブリの各電極は、複数の細長いミラー電極に印加されるミラー電極電圧の群から選択される電圧を受け取るように構成されている。
【0012】
いくつかの実施形態では、FFCアセンブリは、少なくとも3つの電極を備え、FFCアセンブリの1つの電極は、FFCアセンブリを較正するために、較正電圧を受け取るように構成されている。設計簡略化の観点から、ミラー電極電圧をFFC電圧に利用することが好ましい場合があるが、FFCアセンブリを較正することができることも有利である。そのような較正は、例えば、イオンミラー内のFFCアセンブリの機械的構造及びアセンブリにおける公差を考慮することができる。したがって、アセンブリの少なくとも1つの電極は、FFC電圧のある程度の調整を可能にするために、較正電圧に接続され得る。較正電圧は、イオンミラーに接続されたコントローラ(又は、較正電圧を出力する電圧源であって、コントローラによって制御される電圧源)によって、提供されてもよい。いくつかの実施形態では、較正電圧は、FFC電極のうちの少なくとも1つが、較正電圧によって提供された、調整されたオフセット電圧を有するミラー電極電圧を受け取るように、ミラー電極電圧に重畳され得る。
【0013】
いくつかの実施形態では、イオンミラーの細長いミラー電極は、イオンが反射されてドリフトする平面(y-z)(この平面は、FFC電極が位置する平面に直交する)に関して対称に配置される。したがって、イオンの軌道は、主にミラーの対称面内に位置する。イオンミラーの対称面は、FFCアセンブリの中心軸に沿って位置し、FFCアセンブリは、中心軸に対して対称である。したがって、FFCアセンブリ用の電極の設計はまた、ミラーの対称面に対して対称であってもよい。この場合、FFC電極の形状及び電圧の計算は、中心軸の一方の側の半分に集中させることができ、次いで、他方の側に反映される。
【0014】
いくつかの実施形態では、FFCアセンブリの複数の電極は、複数の境界ギャップによって、互いに分離されている。複数の境界ギャップの各々は、FFCアセンブリの平面内に延在する曲線をたどることができる。実際には、各境界ギャップは、FFCアセンブリの隣接する電極間に、絶縁領域又は絶縁ギャップを提供するように作用する。いくつかの実施形態では、境界ギャップのうちの1つ以上は、電気絶縁材料、例えば、誘電体材料で充填され得る。具体的には、境界ギャップは各々、イオンミラーを充填するガスの絶縁耐力よりも高い絶縁耐力を有する、誘電体材料で充填され得る。例えば、大気圧の空気は、約3MV/mの絶縁耐力を有する。いくつかの実施形態では、誘電体材料は、少なくとも5MV/m、7MV/m、10MV/m、12MV/m、15MV/m又は20MV/mの絶縁耐力を有し得る。
【0015】
複数の境界ギャップは各々、FFCアセンブリの電極間の最小分離を規定し得る。そのような最小分離は、隣接する電極間の絶縁破壊を防止又は低減するように、選択され得る。したがって、最小分離は、隣接する電極間の電位差の大きさに応じて、選択され得る。いくつかの実施形態では、隣接する電極間の分離は、関連付けられた最大電位差を有する定数(例えば、1mm)として選択され得、最大許容電位差は、次いで、電極の設計基準として使用され得る。つまり、電極に対する電圧、及び結果として得られる電極の形状は、一定の幅に基づいて隣接する電極間の最大許容電位差で設計され得る。例えば、FFCアセンブリの平面内の電極間の分離が1mmである場合、最大電位差は約8kVであり得る。
【0016】
いくつかの実施形態では、イオンミラーの細長いミラー電極は、反射方向(y)の長さbと、反射方向及びドリフト方向に垂直な方向(x)の幅aと、を有する、イオンミラーの矩形の内部断面を規定する。つまり、イオンミラーは、a×bの矩形の内部断面を有する。いくつかの実施形態では、FFCアセンブリの電極は、内部断面によって境界付けられる。イオンミラー内のイオンの運動面が、FFCアセンブリの中心軸に沿って位置し、FFCアセンブリが中心軸を中心として対称である、実施形態では、FFCアセンブリは、イオンの運動面から、反射方向及びドリフト方向に垂直な方向(x)に、a/2の距離だけ延在してもよい。当然ながら、第1の態様のイオンミラーは、矩形の内部断面を有するイオンミラーに限定されないことが理解されよう。例えば、環状、楕円形状又は円弧状の内部断面(すなわち、FFCアセンブリの中心軸が円形、楕円形状又は円弧状の経路をたどる)を有するイオンミラーが提供されてもよい。
【0017】
いくつかの実施形態では、絶縁ギャップによって分離されたFFC電極のセットは、FFCアセンブリの平面内の重複しないドメインのセット(ω)によって規定される。絶縁ギャップは、これらのドメインの境界δωによって規定される。2つのドメイン間の境界は、曲線x=±δω(y)をたどる。式中、yは、イオンミラーの対称面内の座標であり、xは、座標yに直交する座標である。ミラーの内部断面は、x方向に長さ「a」、及びy方向に長さ「b」の長方形である。
【0018】
したがって、いくつかの実施形態では、「y」に沿ったFFCアセンブリの各部位は、単一ドメインωi内にあるか、又は以下の3つのドメインと交差すると考えられる:電圧Viを有するFFC電極に対応する1つの中間ドメイン、及び電圧Vjを有する電極に対応する2つの外側ドメイン。外側ドメインは、線x=0の両側に対称的に構成されている。したがって、FFC平面(x,y)内の電圧分布は、次式によって表され、
【0019】
【0020】
FFC平面内の電界誤差は、差ΔΦ=U(x,y)-Φ0(x,y)である。式中、Φ0は、フリンジ効果がない場合の理想的な2D電位分布である。
【0021】
いくつかの実施形態では、FFC電極の形状は、境界関数δω(y)によって規定される。境界関数は、電界誤差ΔΦが、タイプcos(πx/a)の空間高調波に、yの任意の関数を掛けたものを含まないように、規定され得る。yの関数によって異なる、このようなタイプの多くの高調波が存在する。これら全ての高調波は、それぞれの振幅がオイラー定数「e」だけ低下する、a/π以下の侵入長を有することが知られている。
【0022】
上記のタイプの全ての高調波を除去するこのような条件は、境界関数の以下の選択によって満たされ得る。
【0023】
【0024】
【数3】
フリンジ効果がない場合の理想的な2D電位分布Φ
0は、任意の利用可能な2D電界シミュレーション法によって、算出され得る。
【0025】
これらの実施形態では、タイプcos(πx/a)の高調波は、FFC電極の形状の上記選択によって除去されるので、残留非ゼロフリンジ電界高調波は、タイプcos(πkx/a)であり、式中、k=3、5、7・・・である。残留非ゼロ高調波の最大侵入長は、a/πkであり、除去された高調波の侵入長より3倍短い。したがって、フリンジ電界の範囲は、少なくとも3分の1に減少する。
【0026】
いくつかの実施形態では、タイプcos(3πx/a)の高調波に、yの任意の関数を掛けたものはまた、yに沿ったFFCアセンブリの全ての部位(すなわち、yが一定である全ての部位)において最大5つのFFC電極を分離する、2つの境界x=±δω1(y)及びx=±δω2(y)を適切に選択することによっても除去され得る。これらの実施形態では、k=5、7・・・を有する残留高調波のみが非ゼロであり、フリンジ電界の侵入長は、少なくとも5分の1に低減される。したがって、そのような実施形態では、各部位「y」は、単一ドメインωi内にあるか、又は以下の最大5つのドメインと交差すると考えられる:電圧Viを有するFFC電極に対応する1つの中央ドメイン、電圧Vjを有する電極に対応する2つの中間ドメイン、及び電圧Vlを有する電極に対応する2つの外側ドメイン。
【0027】
いくつかの実施形態では、電圧Vi及びVjは、細長いミラー電極に印加されるミラー電圧の群から選択され得る。
【0028】
いくつかの実施形態では、Vi及びVjは、δω(y)の解が実現可能な区間0≦δω(y)≦a/2に位置するように選択される。利用可能電圧の数が2つより多い(例えば、2つより多いミラー電極電圧が利用可能である)場合、yに沿ったFFCアセンブリの特定の部位における(すなわち、yが一定である特定の部位における)中間FFC電極及び外側FFC電極に印加される電圧の順序を規定するための、ある程度の自由度が存在する。設計の簡易性及び製造の実現可能性の理由により、座標yに沿って連続する、電圧Vi及びVjの割り当てを維持することは有益である。例えば、別の対の電圧への任意の切り替えは、算出された境界座標δω(y)が区間0≦δω(y)≦a/2を超えるときのみ、行われるべきである。
【0029】
いくつかの実施形態では、FFCアセンブリはイオンミラーに取り付けられる。いくつかの実施形態では、FFCアセンブリは、複数の導電性締結具を備え、導電性締結具は、FFCアセンブリの1つ以上の電極を、それぞれの細長いミラー電極のミラー電極電圧とFFC電圧が同じとなる、1つ以上の細長いミラー電極に電気的に接続するように構成されている。つまり、いくつかの実施形態において、FFCアセンブリの各電極は、所望のFFC電圧/ミラー電極電圧を有する細長いミラー電極に、電気的に接続され得る。導電性締結具は、時間とともにドリフトする抵抗器チェーンを使用することなく、FFC電極が所望の電圧に確実に保持されるようにする手段を提供する。いくつかの実施形態では、誘電体締結具(すなわち、非導電性材料を含む締結具)を使用して、電極を、FFCアセンブリの電極及び細長いミラー電極が異なる電圧に保持される細長いミラー電極に取り付けることができる。
【0030】
本開示の第2の態様によれば、飛行時間型(ToF)質量分析計が提供される。ToF質量分析計は、イオン源と、イオン検出器と、イオン源とイオン検出器との間の飛行経路上でイオンを反射するように構成された、第1の態様によるイオンミラーと、を備える。
【0031】
ToF質量分析計は、上述の第1の態様のイオンミラーの随意の特徴のうちのいずれか、及び任意の関連付けられた利点を組み込み得ることが理解されよう。いくつかの実施形態では、ToF質量分析計は、1つのイオンミラーを備える、単一反射ToF質量分析計であってもよい。したがって、いくつかの実施形態では、ToF質量分析計のイオンミラーは、飛行経路上でイオンを1回だけ反射するように構成され得る。そのような実施形態では、1つ以上のFFCアセンブリを提供することにより、イオンミラーへのイオンの注入角度が増加され得るように、ドリフト方向におけるイオンミラーの使用可能な空間を増加させ得る。第1の態様のイオンミラーはまた、複数の単一反射イオンミラーを備えるToF質量分析計にも適用され得る。
【0032】
いくつかの実施形態では、第2の態様のToF質量分析計は、第1の態様による更なるイオンミラーを更に備え、イオンミラー及び更なるイオンミラーは、互いに対向して配置され、イオンミラーと更なるイオンミラーとの間でイオンを反射するように構成されている。したがって、ToF質量分析計は、MR-ToF質量分析計であってもよい。いくつかの実施形態では、イオンミラー及び更なるイオンミラーは、ドリフト方向に沿って、互いに向かって角度を付けられ得る。そのような場合、各イオンミラーは、各イオンミラーの構造を理解するために、それ自体のドリフト方向、及び関連付けられた座標系を有すると考えられる。
【0033】
MR-ToF質量分析計のいくつかの実施形態では、イオンミラー及び更なるイオンミラーの各々は、それぞれのイオンミラーの第1の端部に第1のFFCアセンブリを備え、それぞれのイオンミラーの第2の端部に第2のFFCアセンブリを備える。2つのイオンミラーの各端部にFFCアセンブリを提供することによって、イオンは、フリンジ電界によって妨害されることなく、イオンミラーに沿って、より長い距離にわたってドリフトし得る。これにより、ミラー間の振動の数が増加し、したがって、飛行の全長が増加する。これにより、次に、MR-ToF質量分析計は、FFCアセンブリがない場合に可能であるよりも、高い分解能を達成することができる。
【0034】
本開示の第3の態様によれば、飛行時間型質量分析計のための飛行時間型質量分析法の方法が提供される。本方法は、
飛行時間型質量分析計内に配置された、第1の態様によるイオンミラーのそれぞれのミラー電極にミラー電極電圧を印加することと、
イオンミラーの少なくとも1つのFFCアセンブリにFFC電極電圧を印加することと、
飛行時間型質量分析計にイオンを注入することと、
イオンミラーを使用して、イオンを反射することと、
イオンを検出することと、を含む。
【0035】
したがって、第1の態様のイオンミラーは、分解能が改善されたToF質量分析を実行するために、ToF質量分析計に組み込まれ得ることが理解されよう。本方法は、上述の第1の態様のイオンミラーの随意の特徴のうちのいずれか、及び任意の関連付けられた利点を組み込み得ることができることが理解されよう。
【0036】
ここで、本発明は、以下の非限定的な図面との関連で説明される。本開示の更なる利点は、図面と組み合わせて考えたとき、詳細な説明を参照することによって、明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】英国特許第2,580,089(B)号で開示された、MR ToF質量分析計の概略図を示す。
【
図2】本開示の一実施形態による、イオンミラーを備えるMR ToFの概略図を示す。
【
図3】
図2のMR ToF用のFFCアセンブリの等角図を示す。
【
図4】
図2のMR ToF用のFFCアセンブリの更なる等角図を示す。
【
図5】5つの細長いミラー電極を備えるイオンミラーの断面図であり、各細長いミラー電極には異なるミラー電圧が供給される。
図5はまた、理想的な静電界分布を構成する2Dラプラス方程式の解を提供する、等電位線も示す。
【
図6】本開示の一実施形態による、FFCアセンブリの平面概略図を示す。
【
図7】ミラー内ドメインにおける、いくつかのラプラス固有関数の略図である。
【
図8】
図6のイオンミラーの異なる対の電圧(i-j)に対する電圧V
i(中間)及びV
j(外側)を有するサブドメインを分割する境界に対して算出された、境界候補の略図を示す。
【
図9】
図9Aは、非補償のフリンジの場合の、静電界誤差、及びFFCアセンブリの公称平面からの距離のグラフを示し、
図9Bは、FFCアセンブリを補正した場合の、静電界誤差、及びFFCアセンブリの公称平面からの距離のグラフを示す。
【
図10】ステアリングデフレクタ電圧、及び補正ストライプに印加された電圧を走査するときの、イオン透過率の強度マップを示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本開示の第1の実施形態によれば、飛行時間型(ToF)質量分析計1が提供される。
図2は、MR-ToF質量分析計の一例である、ToF質量分析計1の概略図を示す。ToF質量分析計1は、イオントラップ2と、コリメータ3と、ステアリングデフレクタ4と、第1の補正ストライプ電極5と、第2の補正ストライプ電極6と、検出器7と、を備える。ToF質量分析計1はまた、一対の対向イオンミラーとして配置されている、第1のイオンミラー10a及び第2のイオンミラー10bも備える。
【0039】
イオントラップ2は、
図1のToF1にイオンを注入するように構成されている。イオンは、イオン源(図示せず)、例えば、エレクトロスプレーイオン化源、又は任意の他の好適なイオン源から生成されてもよい。生成されたイオンは、イオントラップ2に蓄積される。
図1の実施形態では、イオントラップ2は、例えば、直線イオントラップ(R-トラップ)などの線形イオントラップ、又は曲線イオントラップ(C-トラップ)である。イオンビームは、線形イオントラップ2から捕集され熱化されたイオンのパケットを抽出し、それを高エネルギー(例えば、正イオンでは約+4kV)で2つの対向イオンミラー10a、10bの間の空間内に、適切な加速/抽出電圧をイオントラップ2の電極に印加することにより、注入することによって、形成される。コリメータ3は、第1のイオンミラー10bに入射するイオンビームを成形するように構成されている。
【0040】
第1の補正ストライプ電極5及び第2の補正ストライプ電極6は、イオンミラー10a、10bのミラー間隔が一定でないことによって誘発されたToF収差を補正するために設けられる。
図2に示すこの配置により、イオンビームの散乱が回避され、複雑なミラー構造及び第3のイオンミラーの両方が不要になる。ストライプ電極を補正することは、例えば国際公開第2008/047891号で更に説明されるように、当業者に知られている。代替的に、ToFには、ドリフト方向(z)のイオンビームの空間的広がりが、0.25N~0.75Nの回数の反射時に又は反射直後に単一の最小値を通過するように、対向する第1のイオンミラー10aと第2のイオンミラー10bとの間に少なくとも部分的に配置され、ドリフト方向(z)のイオンビームの集束を提供するように構成されたイオン集束装置(図示せず)が設けられており、イオンは、イオンミラー間で同じ数N回の反射が完了した後に検出器によって検出される。好適なイオン集束装置は、少なくとも英国特許第2,580,089(B)号に更に記載されている。
【0041】
図2に示すように、第1のイオンミラー10a及び第2のイオンミラー10bは、互いに対向して配置される。各イオンミラーは、それぞれの第1の端部12a、12bからそれぞれの第2の端部14a、14bまで細長く延びている。
図2の実施形態における第1のイオンミラー10a及び第2のイオンミラー10bは、小角度(Ω)だけ互いに向かって傾斜している。他の実施形態では、イオンミラー10a、10bは、平行に、又は細長い第1のイオンミラー10a及び第2のイオンミラー10bの任意の他の配置で提供されてもよい。
【0042】
第1のイオンミラー10a及び第2のイオンミラー10bは各々、1つ以上のFFC電極アセンブリ100を備える。
図2に示すように、第1のイオンミラー10a及び第2のイオンミラー10bの各々は、第1の端部12a、12b及び第2の端部14a、14bの各々に配置された、FFCアセンブリ100を有する。
【0043】
図2の実施形態では、第1のイオンミラー10a及び第2のイオンミラー10bの各々は、実質的に同じ方式で構築され得る。したがって、イオンミラー10の以下の説明は、
図2の実施形態における第1のイオンミラー10a及び第2のイオンミラー10bに等しく適用され得ることが理解されよう。
【0044】
図3は、イオンミラー10の第1の端部12の等角図を示す。イオンミラー10は、各々ドリフト方向(Z)に細長く延びている、5対の細長いミラー電極15、16、17、18、19を備える。細長いミラー電極の各対は、例えば、
図4の等角図に示すように、X方向に離隔される。
図4は、イオンミラーの更なる等角図を示し、第1の細長いミラー電極15は示されていない。細長いミラー電極15、16、17、18、19の各対では、1つの電極がイオンビームの上方に位置決めされ、1つの電極がビームの下方に位置決めされる(すなわち、細長いミラー電極はX方向に離隔される)。
【0045】
図5は、イオンミラー10の第1の端部12と第2の端部14との間のドリフト方向に沿った点におけるX-Y平面内のイオンミラーの断面図を示す。イオンミラー10は、細長いミラー電極15、16、17、18、19の内面によって規定された、概ね矩形の内部断面を有することが理解されよう。
【0046】
図5に示すように、細長いミラー電極15、16、17、18、19の各々には、イオンを反射するための静電界を提供するために、それぞれの電圧V
0、V
1、V
2、V
3、V
4が提供される。例えば、表1は、正に帯電したイオンを反射するためにイオンミラー10によって使用され得る、電圧の1つの好適なセットを示す。
【0047】
【0048】
負に帯電したイオンに対しては、上記電圧の極性が反転され得ることが理解されよう。
【0049】
イオンミラー10は、
図5に示されたY軸に沿って移動するイオンを反射するように構成されている。
図5及び
図2から、イオンは、第1の細長いミラー電極15の間に設けられた開口部を通って、イオンミラー10に入ることが理解されよう。イオンの横方向運動(Y方向で)は、次いで、イオンミラー10の静電界によって反射され、イオンは、第1の細長いミラー電極15間の開口部を通って、イオンミラーを出る。イオンがイオンミラーを通って移動する間、ドリフト方向におけるイオンの速度はほとんど影響を受けないので、イオンはドリフト方向(Z)にドリフトし続けることが理解されるであろう。したがって、イオンミラー10を通過するときのイオンの運動は、実質的にイオンミラー10のY-Z平面内である。
【0050】
図2の実施形態では、イオンは、対向する第1のイオンミラー10aと第2のイオンミラー10bとの間で反射され得ることが理解されよう。したがって、イオンは、第1のイオンミラーと第2のイオンミラーとの間の振動する経路、つまりジグザグ経路をたどる。
【0051】
イオンミラーを通るイオンの略平面運動に従って、細長いミラー電極15、16、17、18、19によって提供された静電界は、第1のイオンミラー10aと第2のイオンミラー10bとの間のドリフト方向に対して概ね横方向の方向(y)にイオンを反射するために、略平面対称である。
【0052】
この例では、ミラー間の利用可能な空間(すなわち、各ミラー10a、10bの第1の細長いミラー電極15間の方向yの距離)は約300mmであり、MR-ToF分析計の全有効幅(すなわち、ミラー内のイオンの平均転換点間の方向yの有効距離)は約650mmである。全長(すなわち、方向z)は、適度にコンパクトな分析器を形成するために、550mmである。当然ながら、他の実施形態では、異なる寸法を有するイオンミラー10が提供されてもよい。
【0053】
イオンミラー10内の細長いミラー電極15、16、17、18、19の配置は、当該技術分野でよく理解されていることが理解されよう。例えば、米国特許第9,136,101(B)号及び英国特許第2,580,089(B)号は各々、MR-ToFのイオンミラー10a、10b用の細長いミラー電極15、16、17、18、19の更なる考察を提供する。
【0054】
図2に示すように、第1のイオンミラー10a及び第2のイオンミラー10bの各々は、少なくとも1つのFFCアセンブリ100を備える。
図3は、イオンミラー10の第1の端部12に配置された、FFCアセンブリ100の概略図を示す。
図3に示すように、FFCアセンブリ100は、イオンミラー10の細長いミラー電極15、16、17、18、19のドリフト方向(Z方向)に直交する平面(
図3のX-Y平面)内に配置される。
【0055】
FFCアセンブリ100は、複数の電極102、104、106、108を備える。
図3及び
図4に示すように、複数の電極102、104、106、108の各々は、概ね平坦な(すなわち、板状の)電極である。つまり、複数の電極102、104、106、108の各々は、平面内に延在する、それぞれの電極表面を有する。FFCアセンブリ100の複数の電極102、104、106、108は、これらの電極が、イオンミラーのドリフト方向(Z)に直交する同じ平面内に延在するように配置される。
図3及び
図4から、FFCアセンブリ100は、イオンミラー10の細長いミラー電極15、16、17、18、19の間の領域内に収まるように成形されていることが理解されよう。つまり、FFCアセンブリ100は、イオンミラー10の細長いミラー電極15、16、17、18、19によって境界付けられる。
【0056】
FFCアセンブリ100の平面図が
図6に示されている(FFCアセンブリ100をZ方向に見ている)。
図6に示すように、各電極102、104、106、108が成形され、1つ以上の境界ギャップ110a、110b、110cによって、他の電極102、104、106、108から分離されている。境界ギャップ110a、110b、110cは各々、FFCアセンブリ100の平面内に延在する、それぞれの曲線(x=±δω(y))をたどる。各境界ギャップの各曲線を決定するために使用される式は、以下でより詳細に考察される。境界ギャップ110a、100b、110cは、細長いミラー電極15、16、17、18、19によって規定された境界と組み合わせて、電極102、104、106、108の各々の形状を規定する。
【0057】
各境界ギャップ110a、110b、110cは、FFCアセンブリ100の平面内の曲線をたどるが、各境界ギャップは、FFCアセンブリ100の平面内の曲線に垂直な方向に非ゼロ幅(すなわち、FFCアセンブリ100の平面内の曲線の厚さ)を有することが理解されよう。各境界ギャップ110a、110b、110cの幅は、電極102、104、106、108の各々の間の最小分離を提供するように、選択され得る。そのような最小分離は、電極102、104、106、108の間で絶縁破壊が起こらないことを確実にするために、提供され得る。例えば、約8kVの電位差が、隣接する電極102、104、106、108間に提供され得る場合、各境界ギャップ110a、110b、110cの幅は、少なくとも1mm幅であり得る。
【0058】
上述のように、電極102、104、106、108の各々は、略板状の電極であってもよい。
図3、
図4、及び
図6の実施形態では、電極は、少なくとも5mmのほぼ一定の厚さ(Z方向)を有する材料から形成される。電極は、平板電極として使用するのに好適な任意の材料から形成され得る。
図3、
図4及び
図6に示すように、電極102、104、106、108の各々の縁部は、補償電極間のギャップを通る電極電圧のフリンジ侵入を低減するために、任意選択的に、面取りされ得る。
【0059】
いくつかの実施形態では、境界ギャップ110a、110b、110cのうちの1つ以上は、電気絶縁材料、例えば、誘電体材料で充填され得る。具体的には、境界ギャップ110a、110b、110cは各々、イオンミラー10を充填するガスの絶縁耐力よりも高い絶縁耐力を有する、誘電体材料で充填され得る。例えば、大気圧の空気は、約3MV/mの絶縁耐力を有する。いくつかの実施形態では、誘電体材料は、少なくとも5MV/m、7MV/m、10MV/m、12MV/m、15MV/m又は20MV/mの絶縁耐力を有し得る。
【0060】
図6に示すように、FFCアセンブリ100の電極102、104、106、108は、導電性締結具120及び/又は誘電体締結具122によってイオンミラー10に取り付けられる。したがって、FFC電極アセンブリの導電性締結具120及び誘電体締結具122は、FFCアセンブリ100をイオンミラー10に直接取り付けるために使用される。
【0061】
以下でより詳細に説明されるように、FFCアセンブリ100の1つの利点は、電極102、104、106、108に提供された電圧が、イオンミラー10の細長いミラー電極15、16、17、18、19に提供された電圧と同じであり得ることである。したがって、導電性締結具120及び誘電体締結具(すなわち、非導電性締結具)の適切な使用は、電極102、104、106、108に適切なFFC電圧を提供するための、単純な設計解を提供する。
【0062】
例えば、
図6に示すように、電極102は、V
0のFFC電圧が供給されるように設計されている。したがって、電極102は、導電性締結具120を使用して、V
0のミラー電圧を有する細長いミラー電極15に接続される。電極102、104、106、108の各々を安定させるために、各電極は、複数の締結具を使用して、イオンミラー10に取り付けられ得る。同様に、導電性締結具120を使用して、電極104及び電極106を、ミラー電圧V
1を有する細長いミラー電極16に接続し、電極108を、ミラー電圧V
4を有する細長いミラー電極19に接続する。異なる電圧の細長いミラー電極(例えば、V
3のミラー電極18)に電極102を接続することが望ましい場合、誘電体締結具122を使用し得る。
【0063】
導電性締結具120は、導電性であり、板状の電極をイオンミラー10に取り付けるために使用され得る、任意の好適な締結具であってもよい。例えば、導電性締結具120は、金属ねじ又は金属ボルトなどを含み得る。誘電体締結具は、電気絶縁性であり、板状の電極をイオンミラー10に取り付けるために使用され得る、任意の好適な締結具であってもよい。例えば、誘電体締結具は、プラスチックねじ、プラスチックボルト、セラミックねじ又はセラミックボルトなどを含み得る。
【0064】
上で考察されたように、境界ギャップ110a、110b、110cは各々、電極15、16、17、18、19の形状を少なくとも部分的に規定する、1つ以上の曲線をたどる。各境界ギャップ110a、110b、110cの湾曲形状は、細長いミラー電極の形状(X-Y平面内)、及び細長いミラー電極に印加される電圧と組み合わせて、イオンミラーのフリンジ電界のK個の第1の高調波(すなわち、最も長い侵入長を有するK個の高調波)を抑制するように設計されている。したがって、本開示は、
図3、
図4及び
図6で示された境界ギャップ110a、110b、110cの形状に限定されないことが理解されよう。むしろ、本開示によれば、境界ギャップ110a、110b、110c(及び、したがって、結果として得られるFFCアセンブリ100の電極形状)は、以下の設計解析に従って提供され得る。
【0065】
以下の解析では、
図3に示されたイオンミラーは、軸zの正方向に細長く延びていると考えられ、また、半空間z>0内のzに沿った並進に関して対称であると考えられる。上記の半空間において、電極の幾何学的形状は、軸zに直交する平面(x,y)のドメインΩの境界∂Ωによって完全に記述される。x,y及びzの方向を示す軸のセットが、イオンミラー10に対する軸の配向を示すために、
図3の略図に追加されている。実際の用途は、ドメインΩが閉じており、Ωにおける2Dラプラス方程式の解が、その境界∂Ω上の細長いミラー電極電圧(例えば、
図5の実施形態における電圧V
0~V
4)によって規定される場合に最も当てはまる。以下、この解をΦ
0(x,y)とする。当然ながら、実際の場合は、厳密に閉じたドメインΩに限定されるだけでなく、電場Φ
0が境界条件によってほぼ完全に規定され、かつ誤差が許容レベル未満であるという条件によって(厳密にではなく)特徴付けられた、ほぼ閉じたドメインを有する場合もある。
【0066】
図3に示すように、ドメインz≦0内の幾何学的形状は、並進対称性を有さない。対照的に、電極はz=0で終端する。
【0067】
3Dドメイン内の電場Ω+=Ω×R+(式中、R+は正の半軸z>0)は、「理想的な」電界Φ0と、一連の高調波との和として記述され得、
【0068】
【数4】
式中、ψ
kは、∂Ωのゼロ境界条件付きの、ドメインΩにおける2Dラプラス方程式の正規直交固有関数であり、ν
kは、対応する固有値である。ドメインΩが閉じていない場合、ψ
kのゼロ境界条件は無限大であると仮定される。
上記の高調波の和は、フリンジからの距離zとともに指数関数的に減少するフリンジ電界摂動を表し、λ
kは、k番目の高調波が数「e」の係数だけ減少する、対応する侵入長である。固有値が昇順ν
1≦ν
2≦・・・であると仮定すると、侵入長λ
kは降順である。より小さい数値kを有する高調波は、軸zに沿って更に侵入する。振幅C
1非ゼロである場合、フリンジ電界は、フリンジから十分に大きな距離における漸近的挙動~exp(-z/λ
1)を有する。固有値の特性により、最大侵入距離λ
1は、ドメインΩの横方向のサイズと同じオーダーを有し、厳密式はその形状に依存する。辺a及びbを有する矩形のドメインの場合、侵入長は、以下のとおりであり、
【0069】
【数5】
式中、m及びnは、いくつかの自然数であって、そのうちの最大のものλ
1=π
-1(a
-2+b
-2)
-1/2は、m=n=1に対応する。
【0070】
上で考察されたように、イオンミラーの細長いミラー電極15、16、17、18、19の終端は、平面対称の静電界に混乱をもたらす。このような混乱、フリンジ電界は、平面対称の静電界とは別に考えることができる。z=0でのフリンジ電界は、差U(x,y)-Φ0(x,y)である。式中、Uは、Ω+の境界z=0に対する境界電位である。正規直交固有関数の特性に従って、係数は以下のとおりである。
【0071】
【0072】
フリンジ電界高調波を最小限に抑えるための1つの可能な方法は、Φ0の等電位線と一致する電流誘導ストライプを有するPCB、及び、例えば、抵抗分圧器又は均一な高抵抗導電面によって提供された個々の電圧を用いて、境界条件U(x,y)=Φ0(x,y)を設定することである。そのような方法は、作用ドメインにおけるフリンジ電界摂動の完全な補償が可能であるが、それぞれを実際に実施することは困難である。例えば、各電流誘導ストライプの電圧を規定するために使用される各抵抗器の抵抗のわずかな変化は、フリンジ電解補償効果に大きな影響を与える可能性がある。同様に、抵抗値が時間とともにドリフトするため、補償効果の結果として生じる変化は、そのような設計の有効性を低下させる。
【0073】
実施形態によれば、FFCアセンブリ100の電極102、104、106、108は、係数C1=C2=・・・=CKが消滅するように、平面z=0に特定の電位分布U(x,y)を形成するように構成されている。和(1)における第1の非ゼロ高調波は、λ1より短い侵入長λK+1を有し、したがって、フリンジ電界の侵入長は、λK+1/λ1だけ減少する。十分に大きいKの場合。この比は、実用上許容できるフリンジ電界侵入の減少をもたらす一方で、所要の境界電界U(x,y)は、少数の特殊形状の補償電極で実装することがより容易である。したがって、FFCアセンブリ100は、イオンミラー10への(ドリフト方向の)フリンジ電界の侵入における、関連付けられた低減をもたらすために、フリンジ電界の最も重要な高調波を補償するように設計され得る。
【0074】
FFCアセンブリ100の電極102、104、106、108の適切な形状を数学的に規定するために、ドメインΩは、境界が決定される重複しないサブドメインω
iのセットに分割される。z=0における電位分布は、以下の形式で求められ、
U(x,y)=V
i このとき (x,y)∈ω
i (4)
式中、電圧のセットV
iは、予め選択され固定される。
図3、
図4及び
図6の実施形態では、電圧のセットV
iは、電圧V
0~V
4である。
【0075】
いくつかの係数C
1~C
Kが消滅するように、ω
i間の滑らかな境界を決定するために、計算が必要である。式の数Kは有限であり、ドメインω
i間の境界は連続体を構成するため、問題の解決策は、かなり一般的な条件下で存在する。十分条件は、電圧区間min{V}・・・max{V}が、∂Ωで全ての境界電圧を含むことであり、これは、電圧V_iのセットが、細長いミラー電極15、16、17、18、19の最小電圧及び最大電圧を含むときに満たされる。例えば、
図3、
図4及び
図6の実施形態では、最小電圧は-7350Vで、最大電圧は+6000Vである。実際の制約は、設計の実現可能性を確保するために、再分割ω
iが位相的に単純であることである。
【0076】
図3、
図4及び
図6のFFCアセンブリ100は、FFCアセンブリ100のための適切な形状の電極102、104、106、108を設計するための、プロセスの例解を提供する。したがって、イオンミラー10は、辺a及びbを有する矩形の内部断面のイオンミラー10であると考えられ、b≫aであり、電圧は、軸x=0の両側に対称的に印加されるものとする。矩形のドメインにおけるラプラス方程式の正規直交固有関数は以下のとおりであり、
【0077】
【数7】
式中、x対称性が仮定される。最大侵入長は、m=n=1の場合に
【0078】
【数8】
となり、その後に、m=1及びn=2,3・・・Kを有する数列が続く。式中、Kは、数
【0079】
【数9】
の整数部分である。次の数列はm=2に属し、この数列における最大侵入長は、λ
1よりも約3倍短い、a/3π未満である。
【0080】
関数cos(πx/a)に対するフリンジ電位分布U(x,y)の直交度は、C1・・・CKを全てゼロにするための十分な条件である。以下を規定する。
【0081】
【数10】
式中、±δω(y)は、電圧V
iが印加される中間ドメインω
iと、電位V
jを有する(2つの非接続部分に分割された)外側ドメインω
jとの間の境界である。したがって、FFCアセンブリ100に沿った各点yについて、重複しないドメインは、中間ドメイン(ω
i)及び外側ドメイン(ω
j)を含む。中間ドメイン(ω
i)は、(FFCアセンブリ100に直交する)イオン運動面と交差する。各中間ドメインが、イオン運動面に直交して(すなわち、x方向に)延在する範囲は、δω(y)に依存する。したがって、各電極を分離する境界ギャップ110a、110b、110cは、上記の式に従って中間ドメインと外側ドメインとを分離する、x=±δω(y)によって規定された曲線をたどる。
【0082】
2つの電圧Vi及びVjは、座標yに応じて選択されるべきである。直交度の条件は以下のとおりであり、
【0083】
【数11】
全てに対して、y∈(0・・・b)である。δω(y)に対する陽解は以下のとおりであり、
【0084】
【0085】
【数13】
は、y部位の理想的な電界Φ
0の加重平均である。V
i及びV
jの選択により、実現可能な区間0≦δω(y)≦a/2に解が位置することを保証する必要がある。利用可能電圧の数が2つより多い(例えば、2つより多いミラー電極電圧が利用可能である)場合、反射方向に延在する複数のドメイン部位を規定するための、ある自由度が存在する。各ドメイン部位は、中間ドメイン及び外側ドメインを有し、中間ドメイン及び外側ドメインのそれぞれに印加される電圧(V
i及びV
j)は、ドメイン部位によって異なり得る。したがって、数値i=i(y)及びj=j(y)は、ドメイン部位ごとに規定され得る。これらの数値は、境界δω(y)の不連続点の数をできるだけ少なくするために、δω(y)が実現可能な区間の境界、ゼロ又はa/2に到達する場合に限り、再割り当てされなければならない。例えば、いくつかの実施形態では、2つ以上のドメイン部位を有するFFCアセンブリ100が提供されてもよく、2つのドメイン部位の間の境界は、FFCアセンブリの反射方向に沿った点に形成される(例えば、y=y
*)。1つのドメイン部位の中間ドメイン(例えばy<y
*)は、隣接するドメイン部位(y>y
*))の外側ドメインと連続した領域を形成することができ、上記のドメイン部位は、同じ電圧(すなわち、
【0086】
【0087】
図5は、異なる電圧を有する5対の細長いミラー電極15、16、17、18、19を備える、イオンミラー10の断面を示す。等電位線は、理想的な静電界分布Φ
0を構成する2Dラプラス方程式の解を示す。解は、境界要素法(Boundary-Element method、BEM)を使用して、数値的に見出された。電極の電圧は、V
0=0、V
1=-7350V、V
2=4565V、V
3=3700V、V
4=6000Vと算出された。
【0088】
図7は、最大侵入を有するミラー内ドメインにおける、いくつかのラプラス固有関数を示す。この例によれば、FFCアセンブリ100は、最大振幅を有する上位10個の固有関数を補償するように設計されている。
図7は、k個の固有関数の各々と関連付けられた侵入長λ
kを示す。
図7はまた、固有関数の一部の図解も示す。
【0089】
利用可能電圧の数が2つより多い(例えば、2つより多いミラー電極電圧が利用可能である)場合、提供されるドメイン部位の数、したがって、中間ドメイン及び外側ドメインの総数を規定するための、ある程度の自由度が存在し得る。
図8は、異なる対の電圧(i-j)に対する電圧V
i(中間)及びV
j(外側)を有する、サブドメイン間の境界に対して算出された候補を示す。電圧対の選択は一意的なものではなく、実際の実現可能性及び設計の簡易性を考慮すべきである。そのようにして、最小電圧及び最大電圧V
1及びV
4のみを使用する、(
図8で(4-1)とラベル付けされた)1つの可能な解は、反射方向yでFFCアセンブリ100にわたって延在する単一の中間ドメインを、(x対称性により)関連付けられた外側ドメインとともに規定する。したがって、解(4-1)について中間ドメインと2つの外側ドメインとの間の境界によって規定された曲線は、以下の3つの電極を備えるFFCアセンブリ100を規定する:V
4としてバイアスされた中間ドメイン、及びV
1としてとしてバイアスされた、(x対称性により両側にある)2つの外側電極。場合によっては、そのような設計は、ミラー自体の電極を含む、高い電圧差を有する隣接する電極の存在のため、実用的でないことがある。
【0090】
図8はまた、2つのドメイン部位を使用して、2つの可能な解も示す。例えば、
図3、
図4及び
図6に示されたFFCアセンブリ100は、ドメインy<y
*の電圧対(V
0-V
1)と、ドメインy>y
*の電圧対(V
4-V
0)との組み合わせに基づいている。この解は、対応する電圧を有する3つのドメインω
0、ω
1及びω
4で実現される。ドメインω
1は接続されておらず、x軸の両側の2つの部分からなるため、補正電極の数は4つである。電圧対(1-3)及び(4-3)に対する、更なる可能な解も示されている。
【0091】
したがって、上記の設計原理に従うことによって、FFCアセンブリ100の境界ギャップ110a、110b、110cの形状を選択することができ、ドメインω0、ω1及びω4間の境界を規定する線は、各境界ギャップ110a、110b、110cの中心線を規定する。その結果、適切な形状の電極102、104、106、108を設けることができる。電極102、104、106、108が、細長いミラー電極15、16、17、18、19と同じ電圧を有する場合、それぞれの電極102、104、106、108は、導電性締結具120で細長いミラー電極15、16、17、18、19に接続される。異なる電圧を有するFFC電極とミラー電極との間の接続が(例えば、機械的安定性のために)所望される場合、誘電体締結具122が使用され得る。
【0092】
電極102、104、106、108は、当該技術分野で知られているPCB又は抵抗コーティングから形成された電極よりも、良好な精度で製造され得ることが理解されよう。好ましくは、FFCアセンブリ100の電極102、104、106、108は、他の目的のためにイオン光学系に既に存在する電圧で活性化される。より好ましくは、これらの電圧は、イオンミラー10の細長いミラー電極15、16、17、18、19に印加されたミラー電圧のサブセットである。
【0093】
いくつかの実施形態では、小さな調整可能な較正電圧を使用して、例えば、接地された補償電極電圧を、較正電圧を印加するように構成されたコントローラで置き換える構造における、小さな誤差を補償することができる。いくつかの実施形態では、較正電圧は、コントローラ(図示せず)等からの+/-50V範囲のDC供給によって提供されてもよい。代替的に、コントローラからの較正電圧は、FFC電位を調整するために、別のFFC電圧に重畳され得る。
【0094】
上で考察されたように、電極102、104、106、108の正確な位置決めと、公差チェーンの短縮とを確実にするために、電極102、104、106、108は、導電性締結具120及び電体締結具122を使って、細長いミラー電極15、16、17、18、19上に直接取り付けられる。
【0095】
当然ながら、本開示は、FFCアセンブリ100のそのような設計に限定されないことが理解されよう。いくつかの実施形態では、FFCアセンブリの電極102、104、106、108は、基板(例えば、平坦なセラミック板又はPCB板)に正確に取り付けられ得、次いで、その基板は、細長いミラー電極15、16、17、18、19に切り込まれたスロットに挿入され得る。いくつかの実施形態では、電極は、PCB上に印刷され得るが、そのような実装は、PCBベースの電極の構造の性質のため、ドリフトする傾向があり得る。
【0096】
本開示によれば、飛行時間型質量分析計のための飛行時間型質量分析法の方法が提供され得る。例えば、本方法は、
図2に示されたMR ToFによって実行されてもよい。本方法は、イオンミラー10a、10bのそれぞれのミラー電極15、16、17、18、19に、ミラー電極電圧(例えば、ミラー電極電圧V
0~V
4)を印加することを含む。次いで、FFC電圧が、FFCアセンブリ100の電極に印加される。
図2の実施形態では、FFC電圧は、導電性締結具120を介したミラー電極電圧によって規定される。
【0097】
図9A及び
図9Bは、非補償のイオンミラー(
図9A)、及び本開示のFFCアセンブリ100を含むイオンミラー(
図9B)について、フリンジからの距離に対する電界誤差のグラフを示す。補正を行わずに、誤差は、約800
*exp(-z/13mm)の漸近線に従う。補正電位を含めて、誤差は、約1000
*exp(-z/5.3mm)の漸近線に従う。したがって、FFCアセンブリ100は、13mm/5.3mm=2.5分の1に有効侵入長を減少させることがわかる。つまり、補正の結果、電界誤差は、90mm(補正なし)と比較して、40mm(補正あり)の距離で1Vまで低下し、加速度的に減少し続ける。したがって、FFCアセンブリ100は、イオンミラー10のドリフト方向において、イオンが反射されるために利用可能な空間を増加させることが理解されよう。
【0098】
本方法によれば、イオントラップ2からMR-ToFにイオンが注入される。次いで、イオンは、検出器7によって検出される前に、2つのイオンミラー10a、10bの間で反射される。
図10は、イオン注入の角度を規定するステアリングデフレクタ4の電圧と、補正ストライプ5、6に印加された電圧と、を走査したときに、
図2のMR-ToFで測定されたイオン(透過率)の強度マップを示す。この一対の電圧は、イオンミラーに沿ったイオンの最大ドリフトを、ドリフトが反転する点まで規定する。透過率は、フリンジ電界摂動によってイオンが分散されるミラー端部に、イオンが近づきすぎる高い注入角度で、明らかに消滅する。したがって、FFCアセンブリ100の使用を通してフリンジ電界摂動を低減することによって、イオンは、より長い距離にわたって、イオンミラー10a、10bに沿ってドリフトし得ることが理解されよう。これにより、ミラー10a、10b間の振動の数が増加し、したがって、飛行の全長が増加する。