(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】フレキシブルなガイドを設けられた打刻機構を備えた時計ムーブメント
(51)【国際特許分類】
G04B 21/06 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
G04B21/06 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023104846
(22)【出願日】2023-06-27
【審査請求日】2023-06-27
(32)【優先日】2022-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】バティスト・イノー
(72)【発明者】
【氏名】ジェローム・ファーヴル
(72)【発明者】
【氏名】ジョナタン・メイエール
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-91287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動要素(11)と、フレキシブルなガイドを形成する少なくとも2つの弾性ストリップ(122)によって、時計ムーブメントの構造に張り出して固定されたハンマ(121)を備える、前記振動要素(11)の打刻装置(120)とを備える、腕時計の打刻機構(10)を備える時計ムーブメントであって、前記打刻機構(10)は、前記弾性ストリップ(122)の
2つが、前記ハンマ(121)の衝撃を受けることが意図された点で前記振動要素(11)に接する軸Tに沿って配置された点Cで交差する方向に延びるように配置され、前記ハンマ(121)は、前記軸Tに垂直な方向D、または前記軸Tに垂直な方向Dに接する方向に移動するように駆動されることを特徴とする、時計ムーブメント。
【請求項2】
前記打刻装置(120)は、延びる方向が前記点Cを通過しないように配置された少なくとも1つの弾性ストリップ(122)を
さらに含む、請求項1に記載の時計ムーブメント。
【請求項3】
前記打刻装置(120)は、複数のグループのストリップを形成するように配置されたストリップ(122)を含み、各グループにおいて、前記ストリップ(122)は、前記軸Tに沿った交点で交差する方向に延び、各グループの前記ストリップ(122)の方向の前記交点は、互いに異なる、請求項2に記載の時計ムーブメント。
【請求項4】
前記打刻装置(120)は、
機械的接続のみによって前記時計ムーブメントの前記構造に固定される、請求項1に記載の時計ムーブメント。
【請求項5】
少なくとも前記ストリップ(122)は、ディープ反応性イオンエッチングによってシリコンで作られる、請求項1に記載の時計ムーブメント。
【請求項6】
少なくとも前記ストリップ(122)は、
レーザ加工または電気侵食によって作られる、請求項1に記載の時計ムーブメント。
【請求項7】
前記打刻装置(120)は一体式である、請求項1に記載の時計ムーブメント。
【請求項8】
前記打刻装置(120)は、成形または熱間形成によって、アモルファス金属から作られる、請求項7に記載の時計ムーブメント。
【請求項9】
前記打刻装置(120)は、LIGA法によって、ニッケルまたはリンニッケルで作られる、請求項7に記載の時計ムーブメント。
【請求項10】
前記ストリップ(122)は、前記ハンマ(121)の厚さよりも薄い厚さを有する、請求項1に記載の時計ムーブメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計ムーブメントのコンプリケーション、特に腕時計の打刻機構の分野に属する。
【0002】
より具体的には、本発明は、フレキシブルなガイドを設けられた打刻機構を備えた時計ムーブメントに関する。
【0003】
そのような打刻機構は、15分、1分、大打刻、小打刻、またはアラームの反復など、あらゆる種類の打刻に適合させることができる。
【背景技術】
【0004】
腕時計の打刻機構は、ゴングなどの振動要素を打刻するように意図されたハンマを含むことが知られている。
【0005】
特に、ハンマは、ばねによって振動要素に向かう動きが制限され、パレットまたは別の専用機構などの作動機構によって巻き上げられる、すなわち、ゴングから距離を置いて保持される。
【0006】
一般に、振動要素は、たとえば腕時計ケースの中心軸の周りに、腕時計ケース内で曲線方向に延びる。ハンマが振動要素に衝撃を与えている間、ハンマは振動要素に力を発生させ、振動を引き起こし、その結果、打刻機構の音を発生させる。これらの力は、法線成分および接線成分を含み、接線成分は、振動要素上のハンマの摩擦を特徴付ける。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特に、振動要素の振動は、本質的にハンマによって加えられる力の法線成分によって生成され、したがって、この法線成分を制御および最大化して、振動要素に対するハンマの衝撃と、この衝撃によって生成される音との有効性を制御する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、この目的のために、振動要素と前記振動要素の打刻装置とを備える腕時計の打刻機構を備える時計ムーブメントを提案することによって、前述の欠点を解決する。打刻装置は、フレキシブルなガイドを形成する少なくとも2つの弾性ストリップによって、時計ムーブメントの構造に張り出して固定されたハンマを備える。2つのストリップは両方とも、ハンマの衝撃を受けることが意図された点で、振動要素に接する軸Tに沿って配置された点Cで交差する方向に延びるように配置され、ハンマは、軸Tに垂直な方向D、または軸Tに垂直な方向Dに接する方向に移動するように駆動される。
【0009】
特定の実施形態では、本発明はさらに、単独で、または技術的に可能な任意の組合せにしたがって、以下の特徴の1つまたは複数を含むことができる。
【0010】
特定の実施形態では、打刻装置は、延びる方向が点Cを通過しないように配置された少なくとも1つの弾性ストリップを含む。
【0011】
特定の実施形態では、打刻装置は、複数のグループのストリップを形成するように配置されたストリップを含み、各グループにおいて、ストリップは、軸Tに沿った交点で交差する方向に延び、各グループのストリップの方向の前記交点は、互いに異なる。
【0012】
特定の実施形態では、打刻装置は、設定タイプの機械的接続のみによって時計ムーブメントの構造に固定される。
【0013】
特定の実施形態では、少なくともストリップは、ディープ反応性イオンエッチングによってシリコンで作られる。
【0014】
特定の実施形態では、少なくともストリップは、レーザ加工、特にフェムト秒レーザ、または電気侵食によって作られる。
【0015】
特定の実施形態では、打刻装置は一体式である。
【0016】
特定の実施形態では、打刻装置は、成形または熱間形成によって、アモルファス金属から作られる。
【0017】
特定の実施形態では、打刻装置は、LIGA法によって、ニッケルまたはリンニッケルで作られる。
【0018】
特定の実施形態では、ストリップは、ハンマの厚さよりも薄い厚さを有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図面を参照して、非限定的な例として与えられる以下の詳細な説明を読めば明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態の好ましい例による、静止状態の打刻装置を備える打刻機構の概略上面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態の別の例による、静止状態の打刻装置を備える打刻機構の概略上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面は、明確にするために、必ずしも一定の縮尺で描かれている訳ではないことに留意されたい。
【0022】
図1は、本発明の実施形態の好ましい例における腕時計における時計ムーブメントの打刻機構10を示す。
【0023】
打刻機構10は、振動要素11と、音を発生させるために前記振動要素11を打刻するように意図された打刻装置120とを備える。振動要素11は、時計ムーブメントの構造、たとえばバー、プレートなどに固定され、
図1に示される実施形態の例では、ゴングによって形成される。
【0024】
打刻装置120は、フレキシブルなガイドを形成する複数のストリップ122によって、時計ムーブメントの構造に張り出して固定されたハンマ121を備える。ストリップ122は、弾性的に変形する能力を有し、ハンマ121を案内および駆動するために本発明において使用される。好ましくは、2つのストリップ122がある。特に、各ストリップ122は、打刻装置120が静止状態、すなわち平衡位置にあるとき、直線形状を有する。ストリップ122によって形成されるフレキシブルなガイドは、リモートセンタコンプライアンス(RCC)タイプのものである。
【0025】
当業者によって知られている方式で、要するに、打刻装置120は、パレットまたは他の任意の専用機構などの作動機構(図示せず)によって巻かれ、すなわち、ハンマ121が振動要素11から離れて駆動され、ストリップ122が、巻かれた状態に達するまで、徐々に変形するように強制する。続いて、現在の時間の所定の時間値の経過、またはユーザの指示に応じて、作動機構がハンマ121を解放し、ハンマ121はストリップ122の弾性復元力の影響下で、振動要素11において打撃的に駆動され、打刻装置120は、その後、打撃状態となる。
【0026】
有利なことに、ストリップ122は、従来の時計のピボットに比べ、時計ムーブメントの構造に対して、特に振動要素11に対して、機械的な遊びや潤滑なしに、ハンマ121を非常に正確に位置決めすることを可能にする。さらに、ストリップ122は、振動要素11に対する打刻装置120の各打撃中に、ハンマ121を動かすための一定量のエネルギを提供する。
【0027】
図1~
図3に概略的に示すように、ストリップ122は、2つの長手方向端部の間を延びる。したがって、各ストリップ122は、その長手方向端部の一方によって時計ムーブメントの構造に機械的に接続され、他方の長手方向端部によってハンマ121に機械的に接続される。言い換えれば、打刻装置120は、設定タイプの機械的接続によってのみ時計ムーブメントの構造に固定され、すなわち、ストリップ122が、ハンマ121と構造との間の唯一の機械的接続を構成する。
【0028】
特に、各ストリップ122は、溶接、ねじ止め、接着、締め付け調整、または当業者の能力に適合する他の任意の手段によって、時計ムーブメントの構造に固定することができる。
【0029】
ストリップ122は両方とも、
図1に示すように、振動要素11に接する軸Tの周りに配置された瞬間的な回転中心を実現する点Cで交差する方向に延びるように配置される。より具体的には、軸Tは、図示するように、ハンマ121の衝撃を受けることを意図した点、すなわちハンマ121の打刻点で振動要素11に接している。それにより、ハンマ121は、軸Tに垂直な方向D、または軸Tに垂直な方向Dに接する方向に移動するように駆動される。
【0030】
この特徴は、複数の利点を有する。
【0031】
実際、この特徴により、打撃中にハンマ121によって振動要素11に加えられる力の法線成分を最大化すること、または接線成分を除去することさえ可能になる。それにより、打撃は、前記打撃によって生成されるより高い音量を生成する、ストリップ122の所与の弾性特性について振動要素11に伝達される力に関してより効果的である。
【0032】
さらに、この特徴は、振動要素11の表面上のハンマ121の打刻点の位置をより良く制御することを可能にし、それにより、前記振動要素11の、したがって、打撃中に生成される効果音の振動反応を、より良く制御することを可能にする。より具体的には、打刻点が振動要素11の振動モードの振動の節に位置するか腹に位置するかによって、打撃中に発生する音響効果が異なる。
【0033】
最後に、フレキシブルなガイドとその特定の構成を使用することにより、打刻装置120のサイズを縮小することと、前記フレキシブルなガイドが、ピボットの役割と、弾性復元の役割との両方を果たしている限り、前記装置を構成する部品の数を大幅に削減することとが可能になる。
【0034】
打刻装置120は、軸Tに沿って同じ点Cで交差する方向に延びるように配置された3つ以上の弾性ストリップ122を含み得ることに留意されたい。この特徴により、所与の移動に対して、振動要素に対するハンマ121の衝撃力を増加させることが可能となる。
【0035】
代替的または追加的に、少なくとも1つのストリップ122は、延びる方向が点Cを通過しないように配置され得る。特に、
図2に示されるように、打刻装置120は、ストリップ122の複数のグループを形成するように配置されたストリップ122を含み、各グループにおいて、ストリップ122は、軸Tに沿った交点で交差する方向に延び、各グループのストリップ122の方向の交点は互いに異なると想定できる。この特徴により、ハンマ121の移動量を増やすことができる。
【0036】
好ましくは、打刻装置120は一体式である。それにより、打刻装置120は製造が特に簡単であり、その製造コストは制限される。さらに、打刻装置120が様々な部品を組み立てることによって設計された場合に存在する可能性のある機械的遊びに関して、打撃中に機構が動力損失を被る可能性は低い。
【0037】
特に、打刻装置120は、たとえば成形または熱間形成によるアモルファス金属、またはたとえばLIGA法によるニッケルまたはリンニッケルから作られ得る。
【0038】
あるいは、打刻装置120、特にストリップ122は、たとえばドライエッチング、より具体的には、頭字語DRIEで当業者に知られている製造方法であるディープリアクティブイオンエッチングによって、シリコンから作られ得る。ストリップ122はまた、代わりに、鋼で作られ、レーザ加工、特にフェムト秒レーザ、または電気侵食によって形成され得る。
【0039】
特に、ハンマ121は、金属材料、たとえばタングステンまたは鋼で作られた1つまたは複数の重りを含むことができ、それにストリップ122が、打ち込み、接着、ねじまたはピンによって固定される。
【0040】
有利なことに、ストリップ122は、
図3の断面概略図に見られるように、ハンマ121の厚さよりも薄い厚さを有する。この特徴は、ストリップ122の重量に対してハンマ121の重量を増加させることを可能にし、したがって、振動要素11に対する打撃中にストリップ122によって提供されるエネルギを増加させる。
【0041】
なお、厚さは、打刻装置120および振動要素11が移動可能である面に対して、垂直な方向に延びる大きさとして定義されることに留意されたい。
【0042】
より一般的には、上記で考慮された実施および実施形態は、非限定的な例として説明されており、したがって、他の代替が可能であることに留意されたい。
【0043】
特に、ハンマは、
図1および
図2に示される実施形態の例では台形の形状を有するが、代わりに、打撃を達成するのに適した任意の形状を有し得る。
【0044】
さらに、
図1および
図2に示される実施形態の例では、振動要素11は、内部に打刻装置120が配置される円方向に延びるストランドを備えるゴングによって形成される。あるいは、打刻装置120は、ゴングのストランドの外側に配置することができる。
【0045】
さらに、振動要素11は、ベルまたはゴングのように、ハンマの打撃に追従して振動し、振動によって音を生成することを可能にする任意の適切な形状を採用することができる。
【符号の説明】
【0046】
10 打刻機構
11 振動要素
120 打刻装置
121 ハンマ
122 ストリップ
C 点
D 方向
T 軸