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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】電子顕微鏡および試料の方位合わせ方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/26 20060101AFI20241112BHJP
   H01J 37/09 20060101ALI20241112BHJP
   H01J 37/20 20060101ALI20241112BHJP
   G01N 23/205 20180101ALI20241112BHJP
   G01N 23/2055 20180101ALI20241112BHJP
   G01N 23/04 20180101ALI20241112BHJP
【FI】
H01J37/26
H01J37/09 A
H01J37/20 C
H01J37/20 A
G01N23/205
G01N23/2055 310
G01N23/04 330
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023118351
(22)【出願日】2023-07-20
(65)【公開番号】P2024039605
(43)【公開日】2024-03-22
【審査請求日】2023-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2022143719
(32)【優先日】2022-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100161540
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 良伸
(72)【発明者】
【氏名】西藤 哲史
(72)【発明者】
【氏名】川合 修司
【審査官】後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-092625(JP,A)
【文献】国際公開第2020/217297(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0356729(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
G01N 23/205
G01N 23/2055
G01N 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に電子線を照射する照射光学系と、
前記試料を支持する試料ステージと、
前記試料を透過した電子を結像させる結像光学系と、
前記結像光学系で形成された像を撮影する撮像装置と、
前記電子線の入射方向に対する前記試料の傾きを制御する制御部と、
を含み、
前記照射光学系は、前記試料に照射される前記電子線の一部をカットする絞りを含み、
前記制御部は、
前記絞りの影の領域に現れた菊池バンドを含む画像を取得し、
前記画像の前記絞りの影の領域において、前記菊池バンドを検出し、
検出された前記菊池バンドに基づいて菊池パターンの中心を求め、前記電子線の入射方向に対する前記試料の傾きを制御し、
前記絞りの孔径は、前記菊池バンドを回折スポットよりも明るくするために、前記電子線の入射角が20mrad~100mradとなる孔径であり、
取り込み角が入射角の2~5倍である、電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御部は、前記撮像装置に前記画像を撮影させる、電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項2において、
前記制御部は、フォーカスをずらした状態で前記撮像装置に前記画像を撮影させる、電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項2において、
前記制御部は、前記電子線で前記試料を走査して前記撮像装置に前記画像を撮影させる、電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項2において、
前記制御部は、
前記試料に対する前記電子線の入射方向を、互いに異なる複数の条件に変えて前記撮像装置に前記画像を複数枚撮影させ、
前記複数枚の画像と前記複数の条件に基づいて、前記電子線の入射方向に対する前記試料の傾きを制御する、電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項1において、
前記試料ステージは、前記試料を傾斜させる傾斜機構を有し、
前記制御部は、前記傾斜機構を制御することによって、前記電子線の入射方向に対する前記試料の傾きを制御する、電子顕微鏡。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、
前記制御部は、前記画像において前記菊池パターンの中心と光軸の中心が一致するように、前記電子線の入射方向に対する前記試料の傾きを制御する、電子顕微鏡。
【請求項8】
試料に電子線を照射する照射光学系と、
前記試料を支持する試料ステージと、
前記試料を透過した電子を結像させる結像光学系と、
前記結像光学系で形成された像を撮影する撮像装置と、
前記電子線の入射方向に対する前記試料の傾きを制御する制御部と、
を含み、
前記照射光学系は、前記試料に照射される前記電子線の一部をカットする絞りを含み、
前記制御部は、
前記絞りの影の領域に現れた菊池バンドを含む画像を取得し、
前記画像の前記絞りの影の領域において、前記菊池バンドを検出し、
検出された前記菊池バンドに基づいて、前記電子線の入射方向に対する前記試料の傾きを制御し、
前記制御部は、前記撮像装置に前記画像を撮影させ、
前記制御部は、
前記試料に対する前記電子線の入射方向を、互いに異なる複数の条件に変えて前記撮像装置に前記画像を複数枚撮影させ、
前記複数枚の画像と前記複数の条件から前記試料の傾きを算出し、前記電子線の入射方向に対する前記試料の傾きを制御する、電子顕微鏡。
【請求項9】
試料に電子線を照射する照射光学系と、
前記試料を支持する試料ステージと、
前記試料を透過した電子を結像させる結像光学系と、
前記結像光学系で形成された像を撮影する撮像装置と、
を含み、前記照射光学系は、前記試料に照射される前記電子線の一部をカットする絞りを含む電子顕微鏡における試料の方位合わせ方法であって、
前記絞りの孔径を、菊池バンドを回折スポットよりも明るくするために、前記電子線の入射角が20mrad~100mradとなる孔径とし、取り込み角を入射角の2~5倍とする工程と、
前記絞りの影の領域に現れた前記菊池バンドを含む画像を取得する工程と、
前記画像の前記絞りの影の領域において、前記菊池バンドを検出する工程と、
検出された前記菊池バンドに基づいて菊池パターンの中心を求め、前記電子線の入射方向に対する前記試料の傾きを制御する工程と、
を含む、試料の方位合わせ方法。
【請求項10】
試料に電子線を照射する照射光学系と、
前記試料を支持する試料ステージと、
前記試料を透過した電子を結像させる結像光学系と、
前記結像光学系で形成された像を撮影する撮像装置と、
を含み、前記照射光学系は、前記試料に照射される前記電子線の一部をカットする絞りを含む電子顕微鏡における試料の方位合わせ方法であって、
前記絞りの影の領域に現れた菊池バンドを含む画像を取得する工程と、
前記画像の前記絞りの影の領域において、前記菊池バンドを検出する工程と、
検出された前記菊池バンドに基づいて、前記電子線の入射方向に対する前記試料の傾きを制御する工程と、
を含み、
前記画像を取得する工程において、前記試料に対する前記電子線の入射方向を、互いに異なる複数の条件に変えて前記画像を複数枚撮影させ、
前記試料の傾きを制御する工程において、前記複数枚の画像と前記複数の条件から前記試料の傾きを算出し、前記電子線の入射方向に対する前記試料の傾きを制御する、試料の方位合わせ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡および試料の方位合わせ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶性を有する試料のTEM観察では、通常、電子線の入射方向を晶帯軸に合わせて観察を行う。また、単結晶基板上の非晶質試料を観察する場合でも、撮影条件を担保するために、一般的に電子線の入射方向を基板の晶帯軸に合わせて観察を行う場合が多い。
【0003】
電子線の入射方向が試料の晶帯軸に一致するように、試料の傾斜角度を調整する方法(以下、「試料の方位合わせ方法」ともいう)として、電子回折パターンを利用する方法や菊池パターンを利用する方法が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、電子回折パターンを利用した試料の方位合わせ方法が開示されている。また、特許文献2には、菊池パターンを利用した試料の方位合わせ方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-212067号公報
【文献】特開2010-92625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
菊池パターンを利用して試料の方位合わせを行う場合、試料像や回折スポットと菊池バンドが重なってしまい、機械的に菊池バンドを検出することが一般的には難しい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電子顕微鏡の一態様は、
試料に電子線を照射する照射光学系と、
前記試料を支持する試料ステージと、
前記試料を透過した電子を結像させる結像光学系と、
前記結像光学系で形成された像を撮影する撮像装置と、
前記電子線の入射方向に対する前記試料の傾きを制御する制御部と、
を含み、
前記照射光学系は、前記試料に照射される前記電子線の一部をカットする絞りを含み、
前記制御部は、
前記絞りの影の領域に現れた菊池バンドを含む画像を取得し、
前記画像の前記絞りの影の領域において、前記菊池バンドを検出し、
検出された前記菊池バンドに基づいて菊池パターンの中心を求め、前記電子線の入射方向に対する前記試料の傾きを制御し、
前記絞りの孔径は、前記菊池バンドを回折スポットよりも明るくするために、前記電子線の入射角が20mrad~100mradとなる孔径であり、
取り込み角が入射角の2~5倍である
本発明に係る電子顕微鏡の一態様は、
試料に電子線を照射する照射光学系と、
前記試料を支持する試料ステージと、
前記試料を透過した電子を結像させる結像光学系と、
前記結像光学系で形成された像を撮影する撮像装置と、
前記電子線の入射方向に対する前記試料の傾きを制御する制御部と、
を含み、
前記照射光学系は、前記試料に照射される前記電子線の一部をカットする絞りを含み、
前記制御部は、
前記絞りの影の領域に現れた菊池バンドを含む画像を取得し、
前記画像の前記絞りの影の領域において、前記菊池バンドを検出し、
検出された前記菊池バンドに基づいて、前記電子線の入射方向に対する前記試料の傾き
を制御し、
前記制御部は、前記撮像装置に前記画像を撮影させ、
前記制御部は、
前記試料に対する前記電子線の入射方向を、互いに異なる複数の条件に変えて前記撮像装置に前記画像を複数枚撮影させ、
前記複数枚の画像と前記複数の条件から前記試料の傾きを算出し、前記電子線の入射方向に対する前記試料の傾きを制御する。
【0008】
このような電子顕微鏡では、制御部は、絞りの影の領域に現れた菊池パターンを含む画像を取得し、画像の絞りの影の領域において菊池バンドを検出するため、容易に菊池バンドを検出できる。
【0009】
本発明に係る試料の方位合わせ方法の一態様は、
試料に電子線を照射する照射光学系と、
前記試料を支持する試料ステージと、
前記試料を透過した電子を結像させる結像光学系と、
前記結像光学系で形成された像を撮影する撮像装置と、
を含み、前記照射光学系は、前記試料に照射される前記電子線の一部をカットする絞りを含む電子顕微鏡における試料の方位合わせ方法であって、
前記絞りの孔径を、菊池バンドを回折スポットよりも明るくするために、前記電子線の入射角が20mrad~100mradとなる孔径とし、取り込み角を入射角の2~5倍とする工程と、
前記絞りの影の領域に現れた前記菊池バンドを含む画像を取得する工程と、
前記画像の前記絞りの影の領域において、前記菊池バンドを検出する工程と、
検出された前記菊池バンドに基づいて菊池パターンの中心を求め、前記電子線の入射方向に対する前記試料の傾きを制御する工程と、
を含む。
本発明に係る試料の方位合わせ方法の一態様は、
試料に電子線を照射する照射光学系と、
前記試料を支持する試料ステージと、
前記試料を透過した電子を結像させる結像光学系と、
前記結像光学系で形成された像を撮影する撮像装置と、
を含み、前記照射光学系は、前記試料に照射される前記電子線の一部をカットする絞りを含む電子顕微鏡における試料の方位合わせ方法であって、
前記絞りの影の領域に現れた菊池バンドを含む画像を取得する工程と、
前記画像の前記絞りの影の領域において、前記菊池バンドを検出する工程と、
検出された前記菊池バンドに基づいて、前記電子線の入射方向に対する前記試料の傾きを制御する工程と、
を含み、
前記画像を取得する工程において、前記試料に対する前記電子線の入射方向を、互いに異なる複数の条件に変えて前記画像を複数枚撮影させ、
前記試料の傾きを制御する工程において、前記複数枚の画像と前記複数の条件から前記試料の傾きを算出し、前記電子線の入射方向に対する前記試料の傾きを制御する。
【0010】
このような試料の方位合わせ方法では、絞りの影の領域に現れた菊池パターンを含む画像を取得し、画像の絞りの影の領域において菊池バンドを検出するため、容易に菊池バンドを検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る電子顕微鏡の構成を示す図。
図2】試料を保持している試料ステージを模式的に示す斜視図。
図3】撮影された画像を示す図。
図4】菊池パターンの中心を検出する処理を説明するための図。
図5】菊池パターンの中心を検出する処理を説明するための図。
図6】菊池パターンの中心を検出する処理を説明するための図。
図7】菊池パターンの中心を検出した結果を示す図。
図8】制御部の方位合わせ処理の一例を示すフローチャート。
図9】第3変形例における画像処理を説明するための図。
図10】制御部の方位合わせ処理の変形例を示すフローチャート。
図11】制御部の方位合わせ処理の変形例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0013】
1. 電子顕微鏡
まず、本発明の一実施形態に係る電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る電子顕微鏡100の構成を示す図である。
【0014】
電子顕微鏡100は、図1に示すように、電子源10と、照射光学系20と、試料ステージ30と、結像光学系40と、撮像装置50と、検出器52(環状検出器520および検出器522)と、制御部60と、操作部70と、表示部72と、記憶部74と、を含む。
【0015】
電子顕微鏡100は、TEMモードと、STEMモードと、を切り替え可能である。TEMモードでは、試料Sを透過あるいは回折した電子で試料像(TEM像)および電子回折パターンを形成し、これらを撮像装置50で撮影できる。STEMモードでは、細く絞った電子線で試料Sを走査し、各走査位置における透過あるいは散乱した電子線の強度を検出器52で検出してSTEM像を取得する。試料Sで散乱された電子を環状検出器520で検出することによって、または試料Sを透過した電子を検出器522で検出することによって、走査透過電子顕微鏡像(STEM像)を取得できる。ロンキグラム像を得る場
合は、STEMモードで走査せずに、試料Sを透過した電子を撮像装置50で検出することによって、ロンキグラム像を撮影する。
【0016】
電子源10は、電子線を発生させる。電子源10は、例えば、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線を放出する電子銃である。
【0017】
照射光学系20は、電子源10から放出された電子線を試料Sに照射する。照射光学系20は、例えば、複数の電子レンズ22(コンデンサーレンズ)と、偏向器24と、絞り26と、を含む。複数の電子レンズ22は、電子源10から放出された電子線を集束して試料Sに照射する。電子顕微鏡100では、電子レンズ22および対物レンズ42の前方磁場によって、電子線が細く絞られて電子プローブが形成される。すなわち、STEMモードでは、照射光学系20は、対物レンズ42の前方磁場によってつくられるレンズを含む。偏向器24は、試料Sに入射する電子線を二次元的に偏向させる。
【0018】
電子顕微鏡100では、電子レンズ22および対物レンズ42の前方磁場によって電子線を細く絞って電子プローブを形成し、当該電子プローブを偏向器24で二次元的に偏向させる。これにより、電子プローブで試料Sを走査できる。
【0019】
絞り26(コンデンサー絞り)は、試料Sに照射される電子線の一部をカットする。例えば、絞り26は、互いに孔径が異なる複数の絞り孔を有している。この絞り孔を切り替えることで、電子線の開き角および照射量を調整できる。
【0020】
試料ステージ30は、試料Sを保持している。試料ステージ30は、試料ホルダー32と、ゴニオメータ34と、を含む。試料ホルダー32は、試料Sを支持している。ゴニオメータ34は、試料Sを傾斜させる傾斜機構を有している。試料ステージ30は、試料Sを光軸OAまわりに回転させる回転機構を有していてもよい。
【0021】
試料ステージ30は、駆動回路36を介して、制御部60によって制御される。例えば、制御部60は、試料Sを傾斜させる指示を受け付けると、当該指示に応じた制御信号を生成し、駆動回路36に送る。駆動回路36は、制御信号に応じて傾斜機構(ゴニオメータ34)を動作させる。試料ステージ30のその他の動作も同様に行われる。
【0022】
結像光学系40は、試料Sを透過した電子を結像させる。結像光学系40は、対物レンズ42と、中間レンズ44と、投影レンズ46と、を含む。結像光学系40は、TEMモードでは、試料Sを透過した電子(透過電子)で電子回折パターンおよび試料像(TEM像)を形成する。例えば、対物レンズ42によって作られる試料像(TEM像)に中間レンズ44の焦点を合わせることで、投影レンズ46の物面に試料像を作ることができる。これにより、撮像装置50で試料像を撮影できる。また、中間レンズ44の焦点距離を変えて、対物レンズ42によって作られる電子回折パターンに焦点を合わせることで、投影レンズ46の物面に電子回折パターンを作ることができる。これにより、撮像装置50で電子回折パターンを撮影できる。
【0023】
また、結像光学系40は、STEMモードでは、試料Sで所定の角度で散乱された電子を、検出器52に導く。ロンキグラムは、撮像装置50で撮影する。
【0024】
撮像装置50は、結像光学系40によってつくられた試料像や電子回折パターンを撮影する。撮像装置50は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)カメラ等のデジタルカメラである。撮像装置50で撮影されたTEM像や電子回折パターンの画像データは、制御部60に送られ、記憶部74に記憶される。
【0025】
なお、電子顕微鏡100は、TEM像や、電子回折パターンなどを可視化するための蛍光板と、当該蛍光板に可視化された像を撮影するための撮像装置と、を備えていてもよい。また、ロンキグラムも蛍光板で撮影できる。
【0026】
検出器52は、試料Sで散乱された電子を検出する。例えば、検出器52で検出された電子線の強度を電子プローブの走査と同期させて、STEM像を得ることができる。
【0027】
操作部70は、ユーザーが操作情報を入力するためのものであり、入力された操作情報を制御部60に出力する。操作部70の機能は、キーボード、マウス、ボタン、タッチパネル、タッチパッドなどのハードウェアにより実現することができる。
【0028】
表示部72は、制御部60によって生成された画像を表示する。表示部72には、例えば、撮影された試料像や電子回折パターンが表示される。表示部72の機能は、LCD、CRT、操作部70としても機能するタッチパネルなどにより実現できる。
【0029】
記憶部74は、制御部60としてコンピュータを機能させるためのプログラムや各種データを記憶している。また、記憶部74は、制御部60のワーク領域としても機能する。記憶部74の機能は、ハードディスク、RAM(Random Access Memory)などにより実現できる。
【0030】
制御部60は、電子源10や、照射光学系20、試料ステージ30、結像光学系40、撮像装置50、検出器52などの電子顕微鏡100の各部を制御する。制御部60は、試料Sに入射する電子線に対する試料Sの傾きを制御する。すなわち、制御部60は、試料Sの方位合わせを行う。試料Sの方位合わせについては後述する。
【0031】
制御部60(コンピュータ)の機能は、各種プロセッサ(CPU、DSP等)などのハードウェアで、プログラムを実行することにより実現できる。
【0032】
2. 試料の方位合わせ方法
2.1. 菊池パターンを用いた試料の方位合わせ方法
試料の方位合わせとは、電子線の入射方向が試料の晶帯軸に一致するように、電子線の入射方向に対する試料の傾きを調整することをいう。電子顕微鏡100では、菊池パターンを用いて、試料Sの方位合わせを行う。
【0033】
図2は、試料Sを保持している試料ステージ30を模式的に示す斜視図である。
【0034】
図2では、試料Sの晶帯軸Aが電子線EBの入射方向からずれている。試料Sの方位合わせを行うことで、電子線EBの入射方向を試料Sの晶帯軸Aに一致させることができる。すなわち、電子線EBの入射方向(光軸OA)に対する晶帯軸Aの角度θをθ=0°にできる。
【0035】
ここで、試料に入射した電子が結晶性試料内で原子の熱振動による非弾性散乱(熱散漫散乱)を受けた後にブラッグ反射(弾性散乱)を起こすことによって菊池パターンが生じる。菊池パターンは、STEMやTEMで観察したときに得られる電子回折パターンの一種であり、試料が厚いほど現れやすい。菊池パターンは、結晶面に対応した菊池バンドから構成される。菊池パターンでは、結晶面が向いている方向に関連したバンド(菊池バンド)が出現し、晶帯軸が向いている方向に相当する位置を中心として、バンドが放射状に広がる。すなわち、晶帯軸方向に相当する位置で、菊池バンドが密に交差する。
【0036】
2.2. 方位合わせの手順
(1)画像の撮影
試料ホルダー32に試料Sを装着し、試料ホルダー32をゴニオメータ34に挿入して、試料Sを電子顕微鏡100の鏡筒内の試料室に導入する。そして、例えば、観察する領域が視野に含まれるようにTEMモードで視野の調整を行う。観察対象が非晶質の場合には、単結晶基板などの方位合わせを行う領域が視野に含まれるように視野の調整を行う。
【0037】
次に、TEMモードであれば、これをSTEMモードに切り替える。そして、絞り26を光軸OA上に挿入する。このとき、絞り26で決まる取り込み角が入射角の2~5倍程度となるようにカメラ長を調整する。これにより、視野の大部分が絞り26の影となる。
【0038】
ここで適切な絞りの大きさについて説明する。本実施形態では、試料中での非弾性散乱や回折によって生じる菊池パターンの内、直接透過光と重ならず絞りの影にはみ出した部分を用いて試料の方位ずれを検出する。そのためには影の部分が多い方が望ましい。
【0039】
視野内の影を大きくするには2つの方法がある。1つは絞りの孔径を小さくする方法で、もう1つはカメラ長を小さくする方法である。どちらも視野上の絞り径は小さくなるが、信号強度の高い菊池パターンを利用するためには絞りの孔径を小さくする方が望ましい。
【0040】
菊池パターンは散乱や回折によって生じるために、視野の中心から離れた散乱角、回折角が大きい領域ではその強度が弱くなる。カメラ長を小さくすると取り込み角が広がるため、視野の中心から離れた強度の弱い菊池パターンを多く撮影できる。しかし、視野中心近くの強度の強い菊池パターンが絞り径内に入って解析に使えない状況は変わらない。
【0041】
一方、絞り径を小さくすると視野中心近くの強度の強い菊池パターンが絞り径内からはみ出るようになるため、強度の強い菊池パターンを解析に用いることができる。
【0042】
そのため、強度の強い菊池パターンを撮像するという観点からは、絞り径は極力小さい方が望ましい。
【0043】
しかし、絞り径を小さくしすぎると弊害も生じる。菊池パターンは試料中であらゆる方向に非弾性散乱した照射電子が、更に結晶によって回折を起こすことにより生成される。そのため、回折を起こす方向は結晶の向きによってのみ決まり、照射電子線の向きには依存しない。
【0044】
そのため、絞り径を大きくすると入射角の異なる電子が照射されるようになるが、生成される菊池パターンの位置は変わらないので菊池パターンは強くなる。逆に絞り径を小さくすると菊池パターンは弱くなる。
【0045】
一方、照射電子が直接回折することにより回折スポットも同時に生成される。回折スポットの位置は電子の入射方向と結晶の向きの両方に依存するため、絞り径を大きくして入射角の異なる電子を照射すると、回折スポットがその分広がって回折ディスクとなる。回折スポットや回折ディスクの強度の積算値は絞り径に応じて強くなるが、輝度は高くならない。逆に絞り径を小さくしても回折スポットや回折ディスクの面積が小さくなるものの、輝度は低くならない。
【0046】
そのため、絞り径を小さくしすぎると菊池パターンが暗くなり、回折スポットや回折ディスクと重畳して解析しにくくなる。
【0047】
これらの事由を鑑みると絞り径には適切な範囲があり、入射角として20mrad~1
00mrad程度にするのが好ましい。
【0048】
次に、対物レンズ42の励磁を変えることによって、フォーカスをずらす。通常、STEM像を撮影する際には、試料S上で電子線EBを非常に細く絞って電子プローブを形成している。フォーカスをずらすことによって、電子線EBが試料S上で収束せずに試料S上の広い範囲に照射される。これにより、電子線EBの照射による試料Sのダメージを低減できる。フォーカスをずらす量(デフォーカス量)は、試料Sの電子線EBに対するダメージの受けやすさや電子線EBの照射量、露光時間などによって適宜設定される。
【0049】
なお、上記では対物レンズ42の励磁を変えてフォーカスをずらしたが、加速電圧を変えてフォーカスをずらしてもよいし、試料ステージ30によって試料Sの上下方向の位置(高さ)を変えることでフォーカスをずらしてもよい。
【0050】
次に、撮像装置50で菊池パターンを撮影する。撮影時には、例えば、露光時間を1秒程度とする。このように、長時間の露光を行うことによって、撮影された画像の絞り26の影の部分に菊池バンドが現れる。
【0051】
露光時間は、例えば、絞り26の内側の明るい部分の輝度の平均値が飽和値の8割程度になるように設定する。これにより、例えば、色深度が16bitの場合、1/100の輝度であっても輝度値は500程度になるため、菊池バンドを十分に検出できる。なお、試料Sが厚くて菊池バンドが現れやすい試料では、色深度を8bitに下げたり、露光時間を短くしたりしても十分に菊池バンドを検出できる。
【0052】
一般的に、STEM像を撮影する際には、1つの測定点での電子プローブの滞在時間は、マイクロ秒オーダーである。ここでは、露光時間を、数百ミリ秒から1000ミリ秒程度とする。このように、通常、露光時間を長くすると電子線EBの照射による試料Sのダメージが大きくなり、試料Sが破損する可能性がある。本実施形態では、上述したように、フォーカスをずらしているため、電子線EBの照射による試料Sのダメージを低減でき、試料Sが破損する可能性を低減できる。
【0053】
図3は、絞り26の影の領域に現れた菊池バンドを含む画像I2を示す図である。
【0054】
図3に示すように、画像I2には、絞り26の内側の明るい領域と、絞り26の影の暗い領域と、が含まれる。上述したように、適切な径の絞り26と適切なカメラ長を用いることによって、絞り26の内側の領域を小さくし、絞り26の影の領域を大きくしつつ、回折スポットの影響を抑えることができる。ここでは、入射角が50mradとなる絞り26を用いており、取り込み角200mradとしている。
【0055】
絞り26の内側の領域では、実像(試料像)と菊池バンドが重なっている。これに対して、絞り26の影の領域では、菊池バンドは表れるが実像は現れず、菊池バンドが実像と重なっていない。露光時間を長くすることによって、絞り26の影の領域に菊池バンドが現れる。
【0056】
(2)菊池パターンの中心の検出
次に、画像I2から菊池パターンの中心を検出する。菊池パターンの中心とは、菊池バンドが密に交差している箇所をいう。
【0057】
図4図6は、菊池パターンの中心を検出する処理を説明するための図である。
【0058】
まず、図4に示すように、絞り26の内側の領域を識別する。図4には、絞り26の孔
の輪郭を示す円を図示している。さらに、図4では、絞り26の中心を黒丸で示し、菊池パターンの中心を白丸で示している。
【0059】
次に、絞り26の内側の領域と、絞り26の影の領域の輝度差を補正する。具体的には、ガンマ補正などによって菊池バンドを強調する。
【0060】
次に、画像を二値化し、図5に示すように、二値化された画像においてエッジを検出し、図6に示すように、検出したエッジを延長する。これにより、検出されたエッジを交差させることができる。次に、エッジの交点を特定し、エッジの交点の分布の中心の位置を算出する。例えば、交点分布の重心を求めて中心位置とする。この時、誤検出した線による影響を排除するため、全交点を用いて求めた重心から離れた交点を除外して計算を行って精度を高めてもよい。また、エッジ線の強度や長さに応じて交点に重みを付けることにより、精度を高めてもよい。この結果、菊池バンドが密に交差する位置、すなわち、菊池パターンの中心を検出できる。
【0061】
図7は、菊池パターンの中心を検出した結果を示す図である。
【0062】
図7に示す菊池パターンの中心の位置P2は、真の菊池パターンの中心の位置P1とほぼ同じ位置を示している。このように、上記の方法によって、正確に菊池パターンの中心の位置を求めることができる。
【0063】
次に、菊池パターンの中心の位置P2と絞り26の中心の位置P3のずれを求める。この位置P2と位置P3のずれが試料Sの晶帯軸Aと電子線EBの入射方向(光軸OA)のずれに対応する。すなわち、位置P2と位置P3のずれが、電子線EBの入射方向に対する試料Sの傾きに対応する。このように、検出された菊池パターンの中心の位置P2から、試料Sの傾きを求めることができる。
【0064】
なお、上記では、菊池パターンの中心、すなわち、菊池バンドが密に交差している位置を、菊池バンドのエッジを検出することで求めたが、例えば、適応閾値処理によって周囲より明るい領域を抽出することで菊池バンドを検出し、菊池バンドが密に交差している位置を求めてもよい。
【0065】
(3)試料の傾斜
上記のようにして検出された菊池パターンに基づいて、電子線EBの入射方向に対する試料Sの傾きを制御する。例えば、求めた菊池パターンの中心の位置P2と絞り26の中心の位置P3のずれ、すなわち、試料Sの傾きに基づいて、試料Sを傾斜させる。例えば、画像I2において位置P2が位置P3に一致するように試料Sを傾斜させる。この結果、試料Sの晶帯軸Aを電子線EBの入射方向に一致させることができる。試料Sは、試料ステージ30の傾斜機構を用いて傾斜させる。
【0066】
なお、ここでは、絞り26の中心が光軸OA上に位置しているものとして、菊池パターンの中心の位置P2が絞り26の中心の位置P3に一致するように試料Sを傾斜させた。例えば、光軸OAが画像I2の中心にある場合には、位置P2と光軸OAの位置を一致させてもよい。また、例えば、光軸OAがロンキグラムの中心に一致する場合には、位置P2とロンキグラムの中心を一致させてもよい。
【0067】
また、観察条件としてチャネリングを防ぐためなど、晶帯軸Aから電子線EBの入射方向をずらす必要がある場合には、位置P3からずらした位置に位置P2を合わせればよい。
【0068】
なお、ここでは、試料Sを傾斜させることで晶帯軸Aを電子線EBの入射方向に一致させたが、照射光学系20に組み込まれた偏向器で電子線EBを傾斜させることで電子線EBの入射方向を晶帯軸Aに一致させてもよい。また、傾斜量に上限を設けて、誤検出による発散や振動を抑制してもよい。
【0069】
3. 動作
電子顕微鏡100では、上述した試料Sの方位合わせを自動で行うことができる。図8は、制御部60の方位合わせ処理の一例を示すフローチャートである。
【0070】
まず、制御部60は、撮像装置50に菊池パターンを撮影させる(S10)。制御部60は、絞り26を光軸OA上に挿入し、対物レンズ42の励磁を調整してフォーカスをずらす。制御部60は、試料Sに電子線を照射し、試料Sの菊池パターンを撮像装置50に撮影させる。このとき、制御部60は、あらかじめ設定された菊池パターン撮影用の絞り径の絞り26を用い、菊池パターン撮影用の露光時間で撮影する。上述したように、菊池パターン撮影用の絞り26は、絞り26の内側の領域が狭くなるように適切な絞り径の絞り26を用いる。また、菊池パターン撮影用の露光時間は、通常のSTEM像を取得するときの露光時間よりも長く設定されている。
【0071】
制御部60が撮像装置50に菊池パターンを撮影させることによって、図3に示す絞り26の影に現れた菊池パターンを含む画像I2が得られる。画像I2は、絞り26の影の領域を含み、絞り26の影の領域には、実像は現れず、菊池バンドが現れる。
【0072】
次に、制御部60は、撮影された画像I2を取得し(S12)、画像I2の絞り26の影の領域において菊池パターンの中心を検出し(S14)、検出された菊池パターンの中心に基づいて試料ステージ30の傾斜機構を制御する(S16)。
【0073】
制御部60は、画像I2に対して、上述した菊池パターンの中心を検出する方法で菊池パターンの中心を検出し、図7に示す菊池パターンの中心の位置P2と絞り26の中心の位置P3とのずれ、すなわち、試料Sの傾きを求める。そして、制御部60は、このずれが補償されるように、試料ステージ30の傾斜機構を制御する。この結果、試料Sの晶帯軸Aを電子線EBの入射方向に一致させることができる。制御部60は、試料ステージ30の傾斜機構を制御した後、方位合わせ処理を終了する。
【0074】
なお、電子顕微鏡100が、試料Sに入射する電子線EBを偏向して電子線EBの入射方向を変更する偏向器を備えている場合には、制御部60は、菊池パターンの中心の位置P2と絞り26の中心の位置P3とのずれが補償されるように偏向器を制御して、電子線EBの入射方向を晶帯軸Aに一致させてもよい。
【0075】
4. 効果
電子顕微鏡100は、電子線EBの入射方向に対する試料Sの傾きを制御する制御部60を含む。また、制御部60は、絞り26の影の領域に現れた菊池パターンを含む画像I2を取得し、画像I2の絞り26の影の領域において菊池パターンを検出し、検出された菊池パターンに基づいて電子線EBの入射方向に対する試料Sの傾きを制御する。そのため、電子顕微鏡100では、菊池バンドを容易に検出することができ、容易に試料Sの方位合わせができる。
【0076】
例えば、実像(試料像)と菊池バンドが重なってしまうと、菊池バンドを検出できない場合がある。ここで、画像I2の絞り26の影の領域では、菊池パターンは現れるが、実像は現れない。電子顕微鏡100では、画像I2の絞り26の影の領域において菊池パターンを検出するため、菊池バンドが実像と重なることなく、菊池バンドを容易に検出でき
る。
【0077】
電子顕微鏡100では、制御部60は、フォーカスをずらした状態で撮像装置50に画像I2を撮影させる。そのため、電子顕微鏡100では、電子線EBの照射による試料Sのダメージを低減できる。
【0078】
電子顕微鏡100では、制御部60は、試料ステージ30の傾斜機構を制御することによって、電子線EBの入射方向に対する試料Sの傾きを制御する。そのため、電子顕微鏡100では、試料Sの方位合わせを自動で行うことができる。
【0079】
5. 変形例
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0080】
5.1. 第1変形例
上述した実施形態では、1つの画像I2から試料Sの傾きを算出したが、例えば、電子線EBの入射方向が異なる条件で得られた画像セットISから試料Sの傾きを算出してもよい。
【0081】
具体的には、まず、試料Sに対する電子線EBの入射方向を変更しながら、複数の画像I2i(i=1~n)を撮影して、画像セットISを得る。得られた各画像I2iは、電子線EBの入射方向が互いに異なる条件で得られたものである。次に、各画像I2iにおいて、試料Sの傾きを求める。ここで、各画像I2iは電子線EBの入射方向が異なる条件で得られたものであるため、この入射方向の違いを考慮して試料Sの傾きを求める。そして、各画像I2iで求められた試料Sの傾きの平均値を計算する。この平均値を試料Sの傾きとして、試料ステージ30の傾斜機構、または偏向器を制御して、電子線EBの入射方向を晶帯軸Aに一致させる。
【0082】
例えば、特定の画像I2iにおいて菊池バンドが暗く明瞭に確認できない場合、エッジやバンドの検出に失敗したり、大きな誤差が生じたりする場合がある。上記のように、画像セットISを取得し、複数の画像I2iから求められた試料Sの傾きの平均値に基づいて方位合わせを行うことによって、より正確に試料Sの方位合わせができる。
【0083】
第1変形例に係る電子顕微鏡100では、制御部60は、試料Sに対する電子線EBの入射方向が互いに異なる条件となるように撮像装置50に画像I2を撮影させ、入射方向が互いに異なる条件で撮影された画像I2に基づいて、電子線EBの入射方向に対する試料Sの傾きを制御する。そのため、第1変形例に係る電子顕微鏡100では、正確に試料Sの方位合わせができる。
【0084】
5.2. 第2変形例
上述した実施形態では、画像I2を取得する際に、電子線EBを試料Sの所定の領域に照射し、フォーカスをずらすことで電子線EBの照射による試料Sのダメージを低減した。これに対して、電子線EBで試料Sを走査して画像I2を撮影してもよい。電子線EBが照射される位置がわずかに変わったとしても、試料Sの結晶方位が同じであれば菊池パターンは変わらないので問題ない。例えば、1点あたりの照射時間をマイクロ秒オーダーとすることによって、電子線EBが試料S上で収束していても、電子線EBの照射による試料Sのダメージを低減できる。
【0085】
第2変形例に係る電子顕微鏡100では、制御部60は、電子線で試料Sを走査して撮像装置50に画像I2を撮影させる。そのため、第2変形例に係る電子顕微鏡100では
、電子線EBの照射による試料Sのダメージを低減できる。
【0086】
5.3. 第3変形例
図9は、第3変形例における画像処理を説明するための図である。
【0087】
図9に示すように、制御部60は、画像I2の菊池パターンを検出する処理において、画像I2から絞り26の内側の領域、すなわち、実像(試料像)が現れる領域を、菊池バンドを検出する処理から除く処理を行う。これにより、実像(試料像)を菊池バンドと誤って処理することなく、菊池バンドを正確に検出できる。図9に示す例では、白く塗りつぶされた領域が除かれた領域である。
【0088】
また、例えば、絞り26の内側にロンキグラムが確認できる場合がある。このような場合にも、同様に画像I2から絞り26の内側の領域を除くことで、ロンキグラムを菊池バンドと誤って処理することなく、菊池バンドを正確に検出できる。
【0089】
5.4. 第4変形例
上記の実施形態では、制御部60は、図8に示す処理を行って試料Sの方位合わせを行ったが、例えば、試料Sの傾きが大きい場合には、1回の処理で正確に方位合わせを行うことができない場合がある。そのため、制御部60は、図8に示す処理を繰り返すことによって、正確に方位合わせを行う。
【0090】
図10は、制御部60の方位合わせ処理の変形例を示すフローチャートである。以下、図8に示す方位合わせ処理と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0091】
制御部60が、試料ステージ30の傾斜機構を制御した後(処理S16の後)、電子線EBの入射方向に対する晶帯軸Aの角度θが許容量Vより小さい、すなわち|θ|<Vを満たしているか否かを判定する(S17)。制御部60は、|θ|<Vを満たしていないと判定した場合(S17のNo)、処理S10に戻って、処理S10、処理S12、処理S14、処理S16、処理S17を行う。
【0092】
制御部60は、|θ|<Vを満たすまで、処理S10、処理S12、処理S14、処理S16、処理S17を繰り返す。制御部60は、|θ|<Vを満たしていると判定した場合(S17のYes)、処理を終了する。このように、制御部60は、角度θが許容量Vよりも小さくなるまで、処理S10、処理S12、処理S14、処理S16、処理S17を繰り返すため、正確に方位合わせを行うことができる。
【0093】
5.5. 第5変形例
第5変形例では、上述した第4変形例と同様に、図8に示す処理を繰り返すことによって、正確に方位合わせを行う。
【0094】
図11は、制御部60の方位合わせ処理の変形例を示すフローチャートである。以下、図8および図10に示す方位合わせ処理と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0095】
制御部60が、試料ステージ30の傾斜機構を制御した後(処理S16の後)、方位合わせ処理の繰り返し回数Nが1か否かを判定する(S18)。制御部60は、N=1と判定した場合(S18のYes)、処理S10に戻って、処理S10、処理S12、処理S14、処理S16、処理S18を行う。
【0096】
N>1の場合、制御部60は、N回目の処理で求めた電子線EBの入射方向に対する晶帯軸Aの角度θとN-1回目の処理で求めた電子線EBの入射方向に対する晶帯軸Aの角度θN-1が共に許容量Vより小さい、すなわち|θ|<V、かつ、|θ-1|<Vを満たし収束したと判定した場合(S20のYes)、方位合わせ処理を終了し、これを満たさないと判定した場合(S20のNo)、処理S10に戻り、処理S10、処理S12、処理S14、処理S16、処理S18を行う。このように、制御部60は、角度θの値が収束するまで、処理を繰り返す。したがって、正確に方位合わせができる。
【0097】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0098】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成を含む。実質的に同一の構成とは、例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成である。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0099】
10…電子源、20…照射光学系、22…電子レンズ、24…偏向器、26…絞り、30…試料ステージ、32…試料ホルダー、34…ゴニオメータ、36…駆動回路、40…結像光学系、42…対物レンズ、44…中間レンズ、46…投影レンズ、50…撮像装置、52…検出器、60…制御部、70…操作部、72…表示部、74…記憶部、100…電子顕微鏡、520…環状検出器、522…検出器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11