(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】金属接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 11/20 20060101AFI20241112BHJP
B23K 11/24 20060101ALI20241112BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20241112BHJP
B23K 11/16 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B23K11/20
B23K11/24 315
B23K11/11 540
B23K11/16 311
(21)【出願番号】P 2023180148
(22)【出願日】2023-10-19
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【氏名又は名称】井川 浩文
(72)【発明者】
【氏名】松岡 秀明
(72)【発明者】
【氏名】尼子 龍幸
(72)【発明者】
【氏名】高橋 康平
(72)【発明者】
【氏名】黒川 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】日置 亨
(72)【発明者】
【氏名】各務 綾加
(72)【発明者】
【氏名】堀田 尚輝
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-149228(JP,A)
【文献】特開2020-006416(JP,A)
【文献】特開2023-66438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00-11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極で挟持された
一枚の鋼板とアルミニウム基体の被接合部へ通電する通電工程を備え、
該鋼板の被接合部は、厚さが
1.4~3.5mmであり、
該通電工程は、3~9.5kAを300~1200ms通電してなされ、
該鋼板と該アルミニウム基体が金属間化合物層を介して接合された金属接合体を得る製造方法。
【請求項2】
前記鋼板は、引張強度が590MPa以上ある高張力鋼板である請求項1に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項3】
前記鋼板は、ホットスタンプ鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板または合金化溶融亜鉛めっき鋼板である請求項1または2に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項4】
前記ホットスタンプ鋼板の被接合部は、少なくとも前記アルミニウム基体側に、Znを含む被覆層を有する請求項3に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項5】
前記アルミニウム基体の被接合部は、厚さが1.4~4mmである請求項1に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項6】
前記アルミニウム基体は、展伸材または鋳造材からなる請求項1または5に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項7】
前記アルミニウム基体は、Mgおよび/またはSiを含む請求項1または5に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項8】
前記通電工程は、3~8kA内で200~400ms通電する第1通電過程と、
5~9kA内で300~700ms通電する第2通電過程と、
を備える請求項1に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項9】
前記第1通電過程は、電流を漸増させつつなされる請求項8に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項10】
前記電極は、前記被接合部を2~7kNで加圧する請求項1に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項11】
前記被接合部は、抵抗スポット溶接される請求項1に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項12】
前記鋼板の被接合部は厚さが1.6~3.5mmであり、
前記通電工程は、3~8kAを400~1200ms通電してなされる
請求項1に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項13】
前記第2通電過程は、5~8kA内で400~700ms通電される請求項8に記載の金属接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板とアルミニウム基体からなる金属接合体の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量化、高機能化、構造変化等へ対応するために、異種金属を接合した部材(「金属接合体」という。)が用いられる。例えば、骨格やフレームをなす鋼板に、外装面を構成する軽量なアルミニウム合金板を接合したルーフ、アウターパネル等が自動車に用いられる。
【0003】
異種金属は、これまで主に、リベット接合(Self-Pirecing Rivet接合等)やカシメ接合(クリンチング)等されてきた。このような機械的な接合法は、副資材(リベット等)や専用設備を必要とし、接合体の重量やコストを増大させる。また、機械的に接合された部位にできる突起は、周辺部材との干渉や作業性の低下等を招く。
【0004】
そこで最近では、異種金属(例えば鋼板とアルミニウム合金板)も抵抗溶接(例えばスポット溶接)する提案が多くなされており、例えば、下記の特許文献に関連する記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2022-63070
【文献】特開2023-66438
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
両特許文献とも、13kA程度を通電して、鋼板とアルミニウム合金板を接合している(特許文献1の[0057]/特許文献2の[0076])。また、アルミニウム合金板に接合される鋼板はいずれも、薄い低炭素鋼板(270MPa級/板厚:0.8mm)である(特許文献1の[0051]/特許文献2の[0054])。
【0007】
上記の電流値は、従来のように、アルミニウム合金板自体を抵抗加熱だけで直接溶融させる大電流値(15kA超)よりは十分に小さい。しかし、両特許文献に記載されている電流値で、例えば、厚いハイテン材やホットスタンプ材をAl合金板とスポット溶接すると、スパッタ(電極と被接合材との間から溶球が飛散する表チリ、被接合材同士の接合間から溶球が飛散する中チリ等)を生じ得ることが新たにわかった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、鋼板とアルミニウム基体の金属接合体を得る新たな製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、抵抗加熱された鋼板からの伝熱によりアルミニウム基体の被接合面付近を溶融させて、両者を接合することを着想し、その具現化に成功した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成させるに至った。
【0010】
《金属接合体の製造方法》
本発明は、電極で挟持された鋼板とアルミニウム基体の被接合部へ通電する通電工程を備え、該鋼板の被接合部は、厚さが1~3.5mmであり、該通電工程は、3~9.5kAを300~1200ms通電してなされ、該鋼板と該アルミニウム基体が金属間化合物層を介して接合された金属接合体を得る製造方法である。
【0011】
本発明の製造方法によれば、厚くて電気抵抗の大きい鋼板をアルミニウム基体に抵抗溶接する際に、スパッタの発生を抑制しつつ、強度や信頼性に優れる金属接合体が得られる。このような優れた効果が発現される理由または機序は、現状、次のように考えられる。
【0012】
被接合材への通電による発熱量(Q)は、その電気抵抗(R)、電流値(I)および通電時間(t)により略定まる(Q=I2×R×t)。電気抵抗(R)は、被接合材の材質(成分、組織等)と厚さにより定まる。特に鋼板は、略同厚のアルミニウム基体よりも電気抵抗が遙かに大きく、高強度になるほど電気抵抗も大きくなり得る。
【0013】
電気抵抗が大きい厚い鋼板へ、従来レベルの高電流値で通電すると、鋼板は急速に過熱されて、スパッタが生じ易くなる。本発明では、そのような鋼板に対して、相対的に低い電流値で長い通電を行なうため、スパッタは生じ難い。
【0014】
そして、その通電により、被接合材は溶融しなくても、鋼板と接触するアルミニウム基体の被接合面付近は、抵抗加熱されて高温になった鋼板(特に中央付近)からの伝導熱により溶融し得る。この溶融開始により、その被接合面付近で溶融反応(例えば、固液相互拡散反応:SLID)が生じて、鋼板とアルミニウム基体の間に金属間化合物層が生成され、両者は強固に接合(溶接)され得る。
【0015】
《金属接合体》
本発明は、金属接合体としても把握される。例えば、本発明は、厚さが1~3.5mmある鋼板がアルミニウム基体に抵抗溶接された金属接合体でもよい。その製造方法の一例は、上述した通りである。
【0016】
被接合材(鋼板とアルミニウム基体)の接合層は、必ずしも全体が金属間化合物(層)でなくてもよい。その一部に、被接合材の一部(例えば鉄基材やアルミニウム基材)が残存または混在していてもよい。さらに接合層は、被接合部にあった被覆層の成分(例えば、Zn、O等)を含んでもよい。
【0017】
《その他》
(1)本明細書でいう「被接合部」の厚さや電気抵抗は、特に断らない限り、接合前(通電工程前)の状態で特定される。被接合部の直接測定等ができないとき(例えば接合後)なら、接合前の状態が略維持されている領域(接合部や熱影響部(HAZ)の外周域)で測定して、被接合部の特徴を推定するとよい。
【0018】
(2)特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。また、特に断らない限り、本明細書でいう「x~ykA」はxkA~ykAを意味する。他の単位系(ms等)についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】スポット溶接の概要を例示する模式図である。
【
図2】そのスポット溶接に係るタイムチャート例である。
【
図3】接合部の破断面(試料1)を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、製造方法の他、物(金属接合体等)にも適宜該当し得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0021】
《鋼板》
本発明に係る鋼板は、次のような特徴を有するとよい。
【0022】
(1)厚さ
鋼板の厚さ(板厚)は、例えば、1~3.5mm、1.4~3.2mm、1.6~3mmまたは1.8~2.6mmである。本明細書でいう板厚は、接合に供される前の被接合部の厚さである。
【0023】
板厚が過大になると、通電時の発熱量も過大となりスパッタが発生し易くなる。板厚が過小であると、発熱量の低下や放熱量の増加により、アルミニウム基体の被接合面付近を十分に加熱できない。
【0024】
(2)引張強度/成分組成
鋼板は、例えば、高張力鋼板(いわゆるハイテン/High Tensile Strength Steel Sheets)やホットスタンプ鋼板である。高張力鋼板の引張強度は、例えば、590MPa以上、780MPa、980MPa以上または1180MPa以上である。焼入れ成形後のホットスタンプ鋼板の引張強度は、例えば、780MPa、980MPa以上、1180MPa以上、1380MPa以上または1580MPa以上である。
【0025】
このような鋼板は、Cの他、Ni、SiまたはMn等の合金元素を相応に多く含み、通常、強度の他に成形性等も考慮して成分調整される。また鋼板は、強化機構(固溶強化、析出強化、焼入れ等)に応じた金属組織を有する。
【0026】
(3)被覆層
鋼板は、少なくとも、被接合部のアルミニウム基体側に被覆層(または表面処理層)を有してもよい。勿論、被覆層が鋼板の片面または両面の全体に設けられていてもよい。本明細書でいう鋼板(接合前)の板厚や電気抵抗には、その被覆層分が含まれる。被覆層の厚さは、通常、1~30μmである。
【0027】
被覆層は、例えば、亜鉛めっき層、酸化亜鉛層、Zn-Fe合金層等である。このような被覆層を有する鋼板として、例えば、Znを含む被覆層(Zn-Fe合金層等)を有するホットスタンプ鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板等の亜鉛めっき鋼板がある。合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、アルミニウム-亜鉛合金めっき鋼板(いわゆるガルバリウム鋼板(登録商標))でもよい。
【0028】
ちなみに、被覆層は、合金化や酸化等が進行しているものほど、電気抵抗が大きく、発熱し易い傾向にある。本発明のように相対的に低い電流値で長い通電を行なう場合、そのような被覆層があっても、スパッタの発生は抑制され得る。逆に、そのような被覆層は、被接合面付近における溶融反応や金属間化合物層の形成を助長し得る。
【0029】
《アルミニウム基体》
アルミニウム基体は、展伸材でも鋳造材でもよい。展伸材は、例えば、圧延材、(熱間)押出材、鍛造材等である。鋳造材は、例えば、ダイキャスト材、金型鋳造材、砂型鋳造材等である。アルミニウム基体は、形態(形状、大きさ)、被接合部の厚さ、電気抵抗率、強度、組成、被覆処理等を問わない。
【0030】
アルミニウム基体は、MgやSiを含むアルミニウム合金からなるとよい。このようなアルミニウム合金は、鋼板との被接合界面で溶融し易い。展伸材なら、例えば、A4000系、A5000系、A6000系(JIS)等である。鋳造材なら、例えば、ADC10系、ADC12系、AC4系(JIS)等である。アルミニウム合金は、その他の合金元素(Cu、Mn、Zn、Fe、Ti等)を含んでもよい。
【0031】
アルミニウム基体は、板材には限らない。少なくともアルミニウム基体の被接合部が板状であると、抵抗溶接が容易になる。その被接合部の厚さは問わないが、例えば、1.4~4mm、1.8~3.6mmまたは2.2~3.2mmである。
【0032】
《金属接合体》
金属接合体は、上述した特徴を有する一枚の鋼板とアルミニウム基体とが接合されたものには限らない。金属接合体は、上述した鋼板の裏側(アルミニウム基体の反対面側)に、別基体(例えば鋼板)を有してもよい。別基体は、形態、板厚、電気抵抗率、強度、組成、被覆処理等を問わない。別基体は、鋼板(熱間圧延鋼板、冷間圧延鋼板、高強度鋼板、ホットスタンプ鋼板等)でもよいし、鋼板と異なる金属体(板)でもよい。
【0033】
金属接合体は、複数の鋼板とアルミニウム基体が、本発明の方法により接合されたものでもよい。複数の鋼板間の接合の有無は問わない。予め接合された鋼板同士の接合部に、アルミニウム基体を本発明の方法により接合する場合なら、その鋼板同士の接合部(厚さ)を本発明でいう「鋼板の被接合部(厚さ)」と考えればよい。
【0034】
《製造方法》
金属接合体は、圧接された鋼板とアルミニウム基体へ、次のような通電をしてなされる(通電工程)。具体的には次の通りである。
【0035】
(1)電流値
鋼板の被接合部へ流す電流値は、例えば、3~9.5kA、4~9kA、4.5~8kAまたは5~7.5kAである。ちなみに、鋼板側にある電極の先端面積で電流値を除して求まる電流密度を、例えば、26.5~84.0A/mm2または44.2~66.3A/mm2としてもよい。
【0036】
(2)通電時間
通電時間(接合部一箇所あたりの合計時間)は、例えば、300~1200ms、400~1000mmまたは500~900msである。通電時間が過少では、アルミニウム基体の被接合面において接合強度を担う金属間化合物が十分に生成されない。通電時間が過多では、電極とアルミニウム基体との間で溶着が発生して生産性が低下したり、接合品質が低下したりする。
【0037】
(3)通電パターン
通電工程は、複数過程で構成されてもよい。例えば、通電開始時の電流値が相対的に小さい第1通電過程後に、電流値が相対的に大きい第2通電過程を行なうと、スパッタを効果的に抑止しつつ、十分な接合部(ナゲット)の形成が可能となる。
【0038】
第1通電過程の電流値は、例えば、3~8kA、3.5~7.5kAまたは4~7kAである。第1通電過程の通電時間は、例えば、200~400msまたは250~350msである。
【0039】
第2通電過程の電流値は、例えば、5~9kAまたは6~8kAである。第2通電過程の通電時間は、例えば、300~700msまたは400~600msである。
【0040】
第1通電過程の電流値は、電流を漸増させるアップスロープ通電でもよい。アップスロープは、直線状でも曲線状でもよい。第1通電過程の開始時と終了時の電流値が上述した範囲内にあり、第1通電過程の終了時の電流値が第2通電過程の開始時の電流値に略一致するとよい。このようなアップスロープ通電により、第1通電過程の短縮化とスパッタの抑止が図られ、効率的な接合が可能となる。第1通電過程は、鋼板とアルミニウム基体の接触状態を馴染ませるプレ通電工程を兼ねてもよい。
【0041】
(4)冷却工程
通電工程後の被接合部は、自然放冷される他、電極を通じて冷却されてもよい(冷却工程)。後者の冷却工程は、通電を遮断(非通電)してなされてもよいし、僅かな電流値を通電しつつなされてもよいし、電流値を単調減少(ダウンスロープ通電)させてなされてもよい。ホットスタンプ鋼板を接合する場合なら、通電工程後の被接合部を急冷してもよい。
【0042】
《電極》
通電は、通常、鋼板とアルミニウム基体へ圧接された電極からなされる。電極は、鋼板やアルミニウム基体の被接合部の特性(材質や形態等)に応じて選択される。一例である抵抗スポット溶接用の電極について以下説明する。
【0043】
(1)形態
電極は、シャンクに着脱できるもの(キャップチップ型)でも、シャンクと一体化したもの(一体型)でもよい。通常、コストを低減するため、キャップチップ型の電極(「チップ」ともいう。)が用いられる。
【0044】
電極(チップ)は、例えば、有底略円筒状の先端部と、その先端部から連なる略円筒状の胴部とを有する。先端部の外表面(圧接面)は、凸状の他、窪んだ凹状でもよい。電極の大きさは問わない。胴部の外径(呼び径/D2)は、例えば、φ10~20mmさらにはφ12~18mmである。先端径(D1)は、例えば、φ6~14mmさらにはφ8~12mmである。
【0045】
電極は、その先端部内側にある内筒部に冷媒(冷却液/冷却水)が導入されるとよい。冷媒が強制的に循環されると、電極の昇温抑制や電極を通じた板材の冷却を安定して行える。
【0046】
電極(特に凸状電極)の先端部の基本形状は、JIS C9304(1999)に規定されている。例えば、平面形(F形)、ラジアス形(R形)、ドーム形(D形)、ドームラジアス形(DR形)、円錐台形(CF形)、円錐台ラジアス形(CR形)等がある。鋼板とアルミニウム基体のスポット溶接には、汎用性の観点から、例えばDR形、R形の電極を用いるとよい。
【0047】
(2)材質
電極(少なくとも先端部)は、熱伝導性、導電性、強度等に優れる材質からなるとよい。例えば、導電率が75~95%IACSさらには80~90%IACSである銅合金からなる電極が用いられる。銅合金は、例えば、クロム銅、ジルコニウム銅、クロム・ジルコニウム銅、アルミナ分散銅、ベリリウム銅等である。
【0048】
なお、鋼板に接する電極とアルミニウム基体に接する電極は、形態(形状、サイズ(径))や材質が同じでも異なってもよい。
【0049】
(3)加圧力
電極は、鋼板とアルミニウム基体を、例えば2~7kNさらには3~6kNで挟持する。この加圧力が過小であると、スパッタ(チリ)が発生し易くなる。加圧力が過大になると、電極による深い打痕(陥没)が生じたり、電極の変形や摩耗が生じ易くなる。加圧力は、通常、略一定に保持されるが、工程中に変化してもよい。
【0050】
《その他》
(1)金属接合体(特に接合部)は、溶接後に熱処理(焼鈍、焼戻し等)がなされてもよい。熱処理により、接合部(ナゲット)やその近傍(熱影響部)の組織調整、残留応力除去等がなされ得る。加熱温度や加熱時間は、鋼板の組成や厚さ等に応じて調整されるとよい。
【0051】
(2)金属接合体は、種々の部材や構造物となる。例えば、車両用の骨格、パネル、筐体、収容室等の少なくとも一部(金属接合体)が、本発明の製造方法により得られる。
【実施例】
【0052】
鋼板とアルミニウム基体を抵抗スポット溶接した金属接合体を製作し、その接合強度や破断面等を評価した。このような具体例を例示しつつ、本発明をさらに詳しく説明する。
【0053】
スポット溶接の概要を
図1に示した。被溶接材として、鋼板と、Al合金板を積層した板組を用いた。スポット溶接は、板組の各表面(Al合金板の上面と鋼板の下面)に圧接された一対の同電極へ通電してなされる。本実施例では、説明の便宜上、特に断らない限り、
図1に示した矢印の方向を、上下方向または左右方向とする。
【0054】
《試料の製作》
(1)被溶接材
鋼板には、亜鉛めっき層を有するボロン鋼を熱間成形したホットスタンプ材(板厚:2.2mm)を用いた。その両面は、Fe-Zn合金層(平均厚さ:15μm)でおおわれていた。
【0055】
Al合金板には、ダイキャスト材(ADC10/JIS)と、熱間押出材(A6005C/JIS)を用いた。いずれも板厚:3.0mmとした。ダイキャスト材は、融点(固相線温度):565℃であった。熱間押出材は、融点(固相線温度):590℃であった。
【0056】
各板材を短冊状(30mm×100mm)に切断加工して、表面研磨等を行わず、そのままスポット溶接に供した。
【0057】
(2)電極
電極にはDR形(JIS C9304)の市販チップ(OBARA株式会社製)を用いた。チップの内側(内円筒部)には強制循環された冷却水(流量:2.7L/min)を供給して、チップを強制冷却した。電極はクロム銅(Cr:1質量%、Cu:残部)製であり、その電気伝導度は80%IACSであった。
【0058】
電極のサイズは、
図1の拡大図に示すように、チップ径(呼び径D2):φ16mm、先端底部の厚さは12mm、先端肩部の曲率半径(R):8mm、先端面の曲率半径(R1):40mmとし、先端径(D1)は12mmとした。
【0059】
(3)溶接
スポット溶接はサーボ加圧式スポット溶接機(ARO社製PA235KVAMF)を用いて行った。通電パターン例を
図2に示した。電極による板組の加圧力(F)は4kNで一定とした。通電は、直流電流を制御して次のように行った。
【0060】
第1電流値:4~7kA、第1通電時間:300msとする第1通電過程を行った。第1電流値は、通電開始時の4kAから、その通電終了時の7kAまで、時間変化率を一定にして単調増加させた(直線状のアップスロープ通電)。
【0061】
第1通電過程に続けて、第2電流値:7kA(一定)、第2通電時間:500msとする第2通電過程を行なった。
【0062】
第2通電過程後、通電を遮断して、200ms経過後に被溶接材から電極を離した。こうして、ホットスタンプ材とダイキャスト材の接合体(試料1)と、ホットスタンプ材と熱間押出されたAl合金材(A6005C)との接合体(試料2)とを得た。
【0063】
《測定》
各試料を引張せん断試験(JIS Z 3136)に供して、破断時の荷重を測定した。この測定を3回繰り返して、引張せん断強度(平均値)を求めた。例えば、試料1:3894N(-3σ:277N)であった。引張せん断強さを破断部面積で除すと、いずれの試料でも、80~100MPaを超える十分な接合強度が確保されていた。
【0064】
《観察》
引張試験後の試料1の接合面(鋼板側の破断面)を、倒立金属顕微鏡(オリンパス株式会社製GX53)で観察した写真を
図3に示した。接合面には、金属間化合物層があった(外円域)。その接合面の中央付近には、破断したダイキャスト材の残部も観察された(内円域)。
図3からわかるように、鋼板とAl合金板は、十分に大きな金属間化合物層(ナゲット)で接合されており、その接合強度は被接合材(Al合金板)の強度以上であることも確認された。
【0065】
以上から、本発明の製造方法によれば、電気抵抗率が大きく厚い鋼板でも、アルミニウム基体と強固に接合された異種金属接合体が得られることが確認された。
【要約】
【課題】高張力鋼板やホットスタンプ鋼板等とアルミニウム基体とを強固に接合した金属接合体が得られる新たな製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、電極で挟持された鋼板とアルミニウム基体の被接合部へ通電する通電工程を備える金属接合体の製造方法である。鋼板は、被接合部の厚さが1~3.5mmである。通電工程は、3~9.5kAを300~1200ms通電してなされる。通電工程は、3~8kA内で200~400ms通電する第1通電過程と、5~9kA内で300~700ms通電する第2通電過程とにより構成されてもよい。本発明の製造方法により、鋼板とアルミニウム基体が金属間化合物層を介して接合された金属接合体が得られる。
【選択図】
図3