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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】人工関節用ステム及び人工関節
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/32 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
A61F2/32
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2023187704
(22)【出願日】2023-11-01
【審査請求日】2023-11-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501046420
【氏名又は名称】HOYA Technosurgical株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】523413688
【氏名又は名称】伊藤 雅之
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(74)【代理人】
【識別番号】100168206
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 健二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅之
(72)【発明者】
【氏名】小久保 安朗
(72)【発明者】
【氏名】宮下 高利
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-301092(JP,A)
【文献】特開平10-043218(JP,A)
【文献】特開2019-171119(JP,A)
【文献】特開平05-212068(JP,A)
【文献】特開昭63-164946(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0299485(US,A1)
【文献】仏国特許出願公開第02633509(FR,A1)
【文献】欧州特許出願公開第01070490(EP,A1)
【文献】米国特許第05755811(US,A)
【文献】仏国特許出願公開第02868689(FR,A1)
【文献】国際公開第93/008770(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0172996(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/32
A61F 2/40
A61F 2/36
A61F 2/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネックと、ステム胴部とを有する人工関節用ステムであって、
前記ステム胴部は、前記ネックと接続する側の端部に位置する近位部と、前記近位部の長手方向反対側の端部に位置する遠位部と、前記近位部と前記遠位部との間に設けられた中央部とを含み、
前記ネックの中心軸は、前記ステム胴部の長手方向軸に対して、前記ステム胴部の内側面の方向に傾斜しており、
前記近位部の長手方向長さは、前記ステム胴部の長手方向長さの10~30%であり、
前記中央部の長手方向長さは、前記ステム胴部の長手方向長さの30~70%であり、
前記遠位部の長手方向長さは、前記ステム胴部の長手方向長さの20~50%であり、
前記近位部及び前記中央部において、前記ステム胴部の前記内側面と前記内側面の反対側に位置する外側面との内外方向の幅は、前記ステム胴部の前記内側面及び前記外側面の両側に位置する前側面と後側面との前後方向の幅よりも大きく、
前記ステム胴部は、前記前側面及び前記後側面にそれぞれ長手方向に延在する少なくとも1つのリブを有し、前記内側面及び前記外側面にはリブが設けられておらず、
前記リブは前記中央部の長手方向の全長に亘って設けられ、前記近位部及び前記遠位部には設けられていないことを特徴とする人工関節用ステム。
【請求項2】
前記ネックと前記ステム胴部との接続部は、前記近位部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の人工関節用ステム。
【請求項3】
前記近位部において、前記ステム胴部の内外方向の幅が最大値を有し、
前記ステム胴部の内外方向の幅は、前記ステム胴部の内外方向の幅が最大となる長手方向位置から前記遠位部に向けて、小さくなっていることを特徴とする請求項1に記載の人工関節用ステム。
【請求項4】
前記近位部における前記ステム胴部の内外方向の幅の最大値は、前記ステム胴部の内外方向の幅が最大となる長手方向位置における前記ステム胴部の前後方向の幅の1.5~3.0倍であることを特徴とする請求項3に記載の人工関節用ステム。
【請求項5】
前記リブは、前記ステム胴部の前記前側面及び前記後側面にそれぞれ1つずつ設けられていることを特徴とする請求項1に記載の人工関節用ステム。
【請求項6】
前記近位部の長手方向長さは、前記中央部の長手方向長さの30~70%であることを特徴とする請求項1に記載の人工関節用ステム。
【請求項7】
前記リブの高さ及び/又は幅は、前記リブの中心部から前記ステム胴部の前記近位部及び前記遠位部の方向に向かうにつれて、それぞれ小さくなっていることを特徴とする請求項1に記載の人工関節用ステム。
【請求項8】
ネックと、ステム胴部とを有する人工関節用ステムであって、
前記ステム胴部は、前記ネックと接続する側の端部に位置する近位部と、前記近位部の長手方向反対側の端部に位置する遠位部と、前記近位部と前記遠位部との間に設けられた中央部とを含み、
前記ネックの中心軸は、前記ステム胴部の長手方向軸に対して、前記ステム胴部の内側面の方向に傾斜しており、
前記近位部の長手方向長さは、前記ステム胴部の長手方向長さの10~30%であり、
前記中央部の長手方向長さは、前記ステム胴部の長手方向長さの30~70%であり、
前記遠位部の長手方向長さは、前記ステム胴部の長手方向長さの20~50%であり、
前記近位部及び前記中央部において、前記ステム胴部の前記内側面と前記内側面の反対側に位置する外側面との内外方向の幅は、前記ステム胴部の前記内側面及び前記外側面の両側に位置する前側面と後側面との前後方向の幅よりも大きく、
前記ステム胴部は、前記前側面及び前記後側面にそれぞれ長手方向に延在する少なくとも1つのリブを有し、前記内側面及び前記外側面にはリブが設けられておらず、
前記リブは前記中央部の長手方向の全長に亘って設けられ、
前記リブの90体積%以上が前記中央部に設けられていることを特徴とする人工関節用ステム。
【請求項9】
前記ネックと前記ステム胴部との接続部は、前記近位部に設けられていることを特徴とする請求項8に記載の人工関節用ステム。
【請求項10】
前記リブの高さ及び/又は幅は、前記リブの中心部から前記ステム胴部の前記近位部及び前記遠位部の方向に向かうにつれて、それぞれ小さくなっていることを特徴とする請求項8又は9に記載の人工関節用ステム。
【請求項11】
前記近位部において、前記ステム胴部の内外方向の幅が最大値を有し、
前記ステム胴部の内外方向の幅は、前記ステム胴部の内外方向の幅が最大となる長手方向位置から前記遠位部に向けて、小さくなっていることを特徴とする請求項8に記載の人工関節用ステム。
【請求項12】
前記近位部における前記ステム胴部の内外方向の幅の最大値は、前記ステム胴部の内外方向の幅が最大となる長手方向位置における前記ステム胴部の前後方向の幅の1.5~3.0倍であることを特徴とする請求項11に記載の人工関節用ステム。
【請求項13】
前記リブは、前記ステム胴部の前記前側面及び前記後側面にそれぞれ1つずつ設けられていることを特徴とする請求項8に記載の人工関節用ステム。
【請求項14】
前記近位部の長手方向長さは、前記中央部の長手方向長さの30~70%であることを特徴とする請求項8に記載の人工関節用ステム。
【請求項15】
前記リブの短手方向断面が曲線状に山なりになっていることを特徴とする請求項1又は8に記載の人工関節用ステム。
【請求項16】
前記リブの内外方向最大幅は、前記リブの内外方向最大幅を有する部分における前記ステム胴部の内外方向幅の30~60%であることを特徴とする請求項1又は8に記載の人工関節用ステム。
【請求項17】
前記リブの最大高さは0.5 mm~5.0 mmであることを特徴とする請求項1又は8に記載の人工関節用ステム。
【請求項18】
前記ステム胴部の表面に、複数の微細な凹凸、複数の細孔、及び1つ又は複数の溝のうち1つ以上がさらに設けられていることを特徴とする請求項1又は8に記載の人工関節用ステム。
【請求項19】
前記ステム胴部の表面に、複数の微細な凹凸又は複数の細孔を備えたコーティング層が設けられていることを特徴とする請求項1又は8に記載の人工関節用ステム。
【請求項20】
請求項1又は8に記載の人工関節用ステムと、前記ネックの先端に接続するステムヘッドと、前記ステムヘッドを摺動可能に保持するための凹部を有するカップとを有することを特徴とする人工関節。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工関節用ステム及びそれを用いた人工関節に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、疾患や事故等で機能が低下した関節の機能を回復させるために、関節の一部又は全部を人工関節に置換する人工関節置換術が行われている。人工関節の主な例としては股関節の置換手術に用いる人工股関節が挙げられ、関節の全部を置換する全人工関節置換術に用いる人工股関節は、臼蓋側コンポーネントと大腿骨側の人工関節用コンポーネントとを有する。人工関節用コンポーネントは、大腿骨の近位側から髄腔内に挿入して固定される人工関節用ステム(以下、「ステム」と呼ぶこともある。)と、ステムのネック部に固定された人工骨頭(インナーヘッド)とを有する。インナーヘッドは臼蓋側コンポーネントのライナーの内側に配置され、大腿骨の動きに合わせてインナーヘッドがライナーに対して摺動することで、股関節の機能を果たす。
【0003】
人工関節は、大別して、髄腔内にセメントを充填し、挿入したステムと骨との隙間をセメントで埋めて固めるセメント方式の人工関節と、セメントを使用せずに人工関節のステムと骨とを直接的に接合させるセメントレス方式の人工関節とに分けられる。セメントレス方式の人工関節の場合、ステムと海綿骨とが結合することにより、ステムと骨とを安定的に結合することができる。
【0004】
近年、特許文献1(特開2007-202797号公報)の人工股関節用大腿骨コンポーネントのように、ステムの遠位側をテーパー状に細くした、いわゆるテーパーウェッジ型ステムが用いられている。大腿骨近位部骨組織を温存するとともに、遠位部から大腿骨への荷重が作用するのを抑え、近位部の大腿骨への荷重が作用するようにしている。
【0005】
また人工股関節ステムとして、非特許文献1に開示されているように、ショート型のステムが開発されている。ショート型の人工股関節ステムは、一般的に用いられる人工股関節ステムと比べて、全長(特に遠位部)が短くされている。このため、ショート型の人工股関節ステムは、患者の大腿骨に挿入される部分の長さが短く、大腿骨への装着作業が容易であり、患者の負担が少ない。
【0006】
またセメントレス方式の人工股関節ステムにおいてステムと海綿骨との定着を確実にするために、特許文献2(特表2001-505468)は、大腿骨の近位部においてできるだけ多くの容積の海綿骨が定着に利用されるように、ステムの近位部の前後面に複数の縦方向リブを設けた人工股関節ステムを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-202797号公報
【文献】特表2001-505468号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】永芳郁文ら、「変形性股関節症に対するショートテーパーウェッジ型人工股関節の短期成績」、整形外科と災害外科、65巻、p13~18、2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1のテーパーウェッジ型ステムは、高い生存率を保持しているが、ステムを髄腔内に装着する際にステム遠位部を髄腔内の中心に挿入するのが難しい上に、ステム全体が髄腔内で前傾位、後傾位等になりやすく、それによりステムの遠位部での骨に対する荷重(応力)が大きくなるために、症例によっては、近位部で骨密度が減少し、新たな骨折に至る場合もある。また非特許文献1のショート型の人工股関節ステムは、大腿骨との固定力が低く、人工骨頭の初期安定性が低下する傾向にある。そのため、それぞれ一長一短であり、患者の状態に合わせて適宜選択されている。
【0010】
また特許文献2の人工股関節ステムは、骨粗鬆症患者のように大腿骨の近位側の骨が薄い場合などでは、ステムの大腿骨の近位側への荷重に骨が耐えられないという問題がある。そのため、人工関節ステムの近位部及び遠位部と、近位部と遠位部の中間部(中央部)においてバランス良く骨への荷重が作用する人工関節ステムが望まれている。
【0011】
従って、本発明の目的は、人工関節用ステムを髄腔内に埋め込んだ際に、人工関節用ステムにおけるステム胴部の中央部において髄腔内占拠率の向上をもたらすことで、人工関節用ステムの回旋および極端な沈下の抑制により確実な固定が期待でき、さらに、人工関節用ステムにおけるステム胴部の中央部の骨への荷重(応力)を高め、ステム胴部の近位部から遠位部にかけて骨への荷重をバランス良く分散させることにより、初期の骨折の予防が期待できる人工関節用ステム及びそれを用いた人工関節を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、人工関節用ステムにおけるステム胴部の中央部に少なくとも1つのリブを設け、近位部及び遠位部には設けない(又は90体積%以上を中央部に設ける)ことにより、人工関節用ステムにおけるステム胴部の中央部において髄腔内占拠率の向上をもたらし、人工関節用ステムの回旋および極端な沈下の抑制により確実な固定が期待でき、さらに、人工関節用ステムにおけるステム胴部の中央部の骨への荷重(応力)を高め、ステム胴部の近位部から遠位部にかけて骨への荷重をバランス良く分散させることにより、初期の骨折の予防が期待できることを見出し、本発明に想到した。
【0013】
すなわち、本発明の一実施態様による人工関節用ステムは、ネックと、ステム胴部とを有する人工関節用ステムであって、
前記ステム胴部は、前記ネックと接続する側の端部に位置する近位部と、前記近位部の長手方向反対側の端部に位置する遠位部と、前記近位部と前記遠位部との間に設けられた中央部とを含み、
前記近位部の長手方向長さは、前記ステム胴部の長手方向長さの10~30%であり、
前記中央部の長手方向長さは、前記ステム胴部の長手方向長さの30~70%であり、
前記遠位部の長手方向長さは、前記ステム胴部の長手方向長さの20~50%であり、
前記ステム胴部は、長手方向に延在する少なくとも1つのリブを有し、
前記リブは前記中央部の長手方向の全長に亘って設けられ、前記近位部及び前記遠位部には設けられていないことを特徴とする。
【0014】
前記ネックの中心軸は、前記ステム胴部の長手方向軸に対して、前記ステム胴部の内側に傾斜しており、前記ネックと前記ステム胴部との接続部は、前記近位部に設けられているのが好ましい。
【0016】
前記近位部において、前記ステム胴部の内外方向の幅が最大値を有し、前記ステム胴部の内外方向の幅は、前記ステム胴部の内外方向の幅が最大となる長手方向位置から前記遠位部に向けて、小さくなっているのが好ましい。
【0017】
前記リブは、前記ステム胴部の前側面及び後側面にそれぞれ設けられているのが好ましく、前記ステム胴部の前側面及び後側面にそれぞれ1つずつ設けられているのが好ましい。
【0019】
前記近位部の長手方向長さは、前記中央部の長手方向長さの30~70%であるのが好ましい。
【0021】
前記リブの高さ及び/又は幅は、前記リブの中心部から前記ステム胴部の前記近位部及び前記遠位部の方向に向かうにつれて、それぞれ小さくなっているのが好ましい。
【0022】
本発明の他の実施態様による人工関節用ステムは、ネックと、ステム胴部とを有する人工関節用ステムであって、
前記ステム胴部は、前記ネックと接続する側の端部に位置する近位部と、前記近位部の長手方向反対側の端部に位置する遠位部と、前記近位部と前記遠位部との間に設けられた中央部とを含み、
前記近位部の長手方向長さは、前記ステム胴部の長手方向長さの10~30%であり、
前記中央部の長手方向長さは、前記ステム胴部の長手方向長さの30~70%であり、
前記遠位部の長手方向長さは、前記ステム胴部の長手方向長さの20~50%であり、
前記ステム胴部は、長手方向に延在する少なくとも1つのリブを有し、
前記リブは前記中央部の長手方向の全長に亘って設けられ、
前記リブの90体積%以上が前記中央部に設けられていることを特徴とする
【0023】
前記リブの横手方向断面が曲線状に山なりになっているのが好ましい。
【0024】
前記リブの内外方向最大幅は、前記リブの内外方向最大幅を有する部分における前記ステム胴部の内外方向幅の30~60%であるのが好ましい。
【0025】
前記リブの最大高さは0.5 mm~5.0 mmであるのが好ましい。
【0026】
前記ステム胴部の表面に、複数の微細な凹凸、複数の細孔、及び1つ又は複数の溝のうち1つ以上がさらに設けられているのが好ましい。
【0027】
前記ステム胴部の表面に、複数の微細な凹凸又は複数の細孔を備えたコーティング層が設けられているのが好ましい。
【0028】
本発明の一実施態様による人工関節は、上述の人工関節用ステムと、前記ネックの先端に接続するステムヘッドと、前記ステムヘッドを摺動可能に保持するための凹部を有するカップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明の人工関節用ステムは、人工関節用ステムにおけるステム胴部の中央部に少なくとも1つのリブを設け、近位部及び遠位部には設けない(又は90体積%以上を中央部に設ける)ことにより、従来の人工関節用ステムと比較して前後方向においてより立体的(三次元的)な形状を有している。このような形状は、人工関節用ステムにおけるステム胴部の中央部において髄腔内占拠率の向上をもたらし、また、ステム胴部内外側の接触に加え、リブ部での接触が加わることで、三次元的なステムの接触形態となり、人工関節用ステムの回旋および極端な沈下の抑制が期待できる。すなわち、人工関節用ステムのより確実な固定が期待できる。さらに、人工関節用ステムのステム胴部の中央部における髄腔内占拠率の向上は、人工関節用ステムにおけるステム胴部の中央部の骨への荷重(応力)を高め、ステム胴部の近位部から遠位部にかけて骨への荷重をバランス良く分散させることにより、初期の骨折の予防が期待できる。従って、かかる人工関節用ステムを用いた人工関節は、術後、ステムの周囲における骨折を抑制できることが期待でき、特にステム胴部の近位部に相当する骨が薄くなっている骨粗鬆症の患者に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の第一の実施態様による人工関節用ステムを示す正面図である。
図2図1のA-A断面図である。
図3】本発明の第一の実施態様による人工関節用ステムを示す側面図である。
図4】本発明の第一の実施態様による人工関節用ステムを示す上面図である。
図5(a)】図3のB-B断面図である。
図5(b)】図3のC-C断面図である。
図5(c)】図3のD-D断面図である。
図5(d)】図3のE-E断面図である。
図5(e)】図3のF-F断面図である。
図6】本発明の第一の実施態様による人工関節用ステムを示す部分断面図である。
図7(a)】リブの一例を示す部分断面図である。
図7(b)】リブの別の例を示す部分断面図である。
図7(c)】リブのさらに別の例を示す部分断面図である。
図8】本発明の第一の実施態様による人工関節用ステムを示す断面図である。
図9】本発明の第一の実施態様による人工関節用ステムの一変形例を示す正面図である。
図10】本発明の第一の実施態様による人工関節用ステムの別の変形例を示す正面図である。
図11】本発明の第一の実施態様による人工関節用ステムのさらに別の変形例を示す正面図である。
図12(a)】本発明の第二の実施態様による人工関節用ステムを示す正面図である。
図12(b)】図12(a) のG-G断面図である。
図13(a)】本発明の第一の実施態様による人工関節用ステムのさらに別の変形例を示す正面図である。
図13(b)】図13(a) のH-H断面図である。
図14】本発明の第一の実施態様による人工関節用ステムのさらに別の変形例を示す正面図である。
図15】本発明の第一の実施態様による人工関節用ステムのさらに別の変形例を示す正面図である。
図16】本発明の別の実施態様による人工関節用ステムを示す正面図である。
図17】本発明のさらに別の実施態様による人工関節用ステムを示す正面図である。
図18】本発明の第一の実施態様による人工関節を示す概略図である。
図19】本発明の第一の実施態様による人工関節用ステムを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[1] 人工関節用ステム
(1) 第一の実施態様
本発明の第一の実施態様による人工関節用ステムは、ネックと、ステム胴部とを有する人工関節用ステムであって、前記ステム胴部は、前記ネックと接続する側の端部に位置する近位部と、前記近位部の長手方向反対側の端部に位置する遠位部と、前記近位部と前記遠位部との間に設けられた中央部とを含み、前記ステム胴部は、長手方向に延在する少なくとも1つのリブを有し、前記リブは前記中央部の長手方向全体に設けられ、前記近位部及び前記遠位部には設けられていないことを特徴とする。
【0032】
第一の実施態様の一実施例である人工関節用ステムを図1~5に示す。図1~5に示す人工関節用ステム1は、ネック2と、ステム胴部3とを有し、ステム胴部3は、ネック2と接続する側の端部に位置する近位部4と、近位部4の長手方向反対側の端部に位置する遠位部6と、近位部4と遠位部6との間に設けられた中央部5とを含む。
【0033】
人工関節用ステム1を股関節に適用する場合、すなわち、人工関節用ステム1を大腿骨に埋め込む場合を例にとって以下説明する。人工関節用ステム1を大腿骨に埋め込んだときに、人体の正中に近い側を「内側」とし、正中から遠い側を「外側」とし、顔が向いている方を「前側」、背部が向いている方を「後側」とする。
【0034】
ネック2の中心軸2aは、ステム胴部3の長手方向軸3aに対して、ステム胴部3の内側に傾斜している。そのため、ネック2とステム胴部3との接続部(接続面)8は、内側から外側に向けて近位方向(上方)に傾斜している。ここで、人工関節用ステム1を人体に埋め込んだときに、ステム胴部3の長手方向軸3aに沿って体幹に近い側を「近位」とし、遠い側を「遠位」としている。ネック2の先端には後述するステムヘッドを固定するための円柱状のヘッド固定部21が設けられている。ここで、ネック2の中心軸2aは、ネック2のヘッド固定部21の中心軸とする。
【0035】
ネック2とステム胴部3との接続部8は、近位部4に設けられているのが好ましい。すなわち、接続部8の外側端8a及び内側端8bが近位部4に含まれているのが好ましい。ステム胴部3は、人工関節用ステム1のうち大腿骨に埋め込まれることを想定された部分であり、ネック2とステム胴部3との接続部(接続面)8の内外方向角度は骨切り角度(大腿骨頸部を骨切りするときの内外方向角度)と同一となる。例えば図1に示す人工関節用ステム1では、ネック2の下部における内側の湾曲線と、ステム胴部3の上部における内側の湾曲線との交点を接続部8の内側端8bとすることができる。ネック2とステム胴部3との接続部(接続面)8は、前記内側端8bを起点として骨切り角度と略同一に延伸される面として規定することができ、接続面8におけるステム胴部3の最外側が外側端8aとなる。接続部(接続面)8と垂直断面(横手方向断面)のなす角は、典型的には30~50度である。ステム胴部3における近位部4、中央部5及び遠位部6は、長手方向軸3aの垂直断面(横手方向断面)によって分けられており、接続部8の外側端8a及び内側端8bが近位部4に含まれているとは、接続部8の外側端8a及び内側端8bの長手方向位置が近位部4の範囲内にあることを意味する。
【0036】
長手方向軸3aは、ステム胴部3の遠位部6の中心軸であるのが望ましい。長手方向軸3aの求め方の一例を図19を用いて説明する。図19に示す人工関節用ステム1は、ネック2のヘッド固定部21にステムヘッド11が固定されている。図19に示すように、長手方向軸3aは、ステム胴部3の遠位部6において、前後方向から見て、内側面33が直線となる部分及び外側面34が直線となる部分(すなわち、遠位部の先端3bを含まない。)をそれぞれ遠位方向へ延長した直線33a及び34aのなす角を2等分する直線であって、当該部分の前後方向の中間地点を通る直線である。
【0037】
近位部4の長手方向上端部には、人工関節用ステム1の埋め込みを行うためのツールを取り付けるためのねじ孔35が設けられている。ねじ孔35の孔軸は、長手方向軸3aと同じ方向であるのが好ましく、長手方向軸3aの同軸上にあっても良い。
【0038】
本実施態様の人工関節用ステム1は、近位部4においてステム胴部3の内外方向の幅(前側面31と後側面32との間の最大の内外方向距離)が、最大値を有する。ステム胴部3の内外方向の幅はステム胴部3の内外方向の幅が最大となる長手方向位置から遠位部6に向けて小さくなる。近位部4におけるステム胴部3の内外方向の幅の最大値は、ステム胴部3の内外方向の幅が最大となる長手方向位置におけるステム胴部3の前後方向の幅(内側面33と外側面34との間の前後方向距離)の1.5~3.0倍であるのが好ましく、1.8~2.5倍であるのがより好ましい。図1及び図3図5(a)~5(d) に示すように、近位部4及び中央部5においてステム胴部3の前側面31及び後側面32の幅は内側面33及び外側面34の幅よりも大きく、遠位部6においてステム胴部3の前側面31及び後側面32の幅は下方(遠位方向)に向けて徐々に小さくなっており、図5(e) のF-F断面図に示すように、内側面33及び外側面34の幅と同程度になる。
【0039】
ステム胴部3の中央部5における前側面31及び後側面32にそれぞれリブ7a、7bが設けられている。リブ7a、7bはステム胴部3の中央部5の長手方向全体に設けられている。本実施態様の人工関節用ステム1では、リブ7a、7bの上端から下端までの範囲を中央部5としている。このようにステム胴部3の中央部5における前側面31及び後側面32にそれぞれリブ7a、7bが設けることにより、人工関節用ステム1を大腿骨に埋め込んだとき、リブ7a、7bが設けられている部分において人工関節用ステム1の髄腔内占拠率が高くなり、また、ステム胴部3の内外側の接触に加え、リブ7a、7b部分での接触が加わることで、三次元的なステムの接触形態となり、人工関節用ステムの回旋および極端な沈下の抑制が期待できる。すなわち、人工関節用ステム1のより確実な固定が期待できる。また、人工関節用ステム1の髄腔内占拠率が高くなることにより、人工関節用ステム1が大腿骨内で沈む方向(遠位方向)及び人工関節用ステム1が大腿骨内で回転する方向に、ステム胴部3の中央部5の大腿骨に対する抵抗力(大腿骨への応力)が高まる。従って、このようにステム胴部3の中央部5にリブ7a、7bを設け、近位部4及び遠位部6にリブを設けないことにより、人工関節用ステム1を大腿骨に埋め込んだとき、ステム胴部3の中央部5の大腿骨への応力(荷重)を高めて、ステム胴部3の近位部4及び遠位部6の大腿骨への応力(荷重)を抑制し、ステム胴部3の近位部4から遠位部6にかけて骨への荷重をバランス良く分散させることにより、初期の骨折の予防が期待できる。
【0040】
中央部5の長手方向長さLcは、ステム胴部3の長手方向長さLの30~70%であるのが好ましい。中央部5の長手方向長さLcがステム胴部3の長手方向長さLの30%未満であると、ステム胴部3の中央部5における人工関節用ステム1の髄腔内占拠率が十分に高くならず、大腿骨に対する抵抗力が不十分となり、大腿骨の近位側及び遠位側へのステム胴部3の応力を十分抑制できない。また中央部5の長手方向長さLcがステム胴部3の長手方向長さLの70%超であると、ステム胴部3の長手方向の広範において髄腔内占拠率が高くなるため、ステム胴部の近位部から遠位部にかけて骨への荷重をバランス良く分散させることができない恐れがある。中央部5の長手方向長さLcはステム胴部3の長手方向長さLの30~65%であるのがより好ましく、32~60%であるのがさらに好ましく、35~55%であるのが特に好ましい。
【0041】
近位部4の長手方向長さLpは、ステム胴部3の長手方向長さLの10~30%であるのが好ましい。近位部4の長手方向長さLpがステム胴部3の長手方向長さLの10%未満であると、ステム胴部3の長手方向の近位側においても髄腔内占拠率が高くなり過ぎるため、大腿骨の近位側へのステム胴部3の応力(荷重)の増大をかえって招いてしまう恐れがある。近位部4の長手方向長さLpがステム胴部3の長手方向長さLの30%超であると、ステム胴部3の長手方向の近位側における髄腔内占拠率の向上が不十分となり、大腿骨の近位側へのステム胴部3の応力を十分抑制できない。近位部4の長手方向長さLpはステム胴部3の長手方向長さLの12~28%であるのがより好ましく、15~25%であるのがさらに好ましい。
【0042】
近位部4の長手方向長さLpは、中央部5の長手方向長さLcの30~70%であるのが好ましい。近位部4の長手方向長さLpが中央部5の長手方向長さLcの30%未満であると、ステム胴部3の長手方向の近位側においても髄腔内占拠率が高くなり過ぎるため、大腿骨の近位側へのステム胴部3の応力(荷重)の増大をかえって招いてしまう恐れがある。近位部4の長手方向長さLpが中央部5の長手方向長さLcの70%超であると、ステム胴部3の長手方向の近位側における髄腔内占拠率の向上が不十分となり、大腿骨の近位側へのステム胴部3の応力(荷重)を十分抑制できない。近位部4の長手方向長さLpは中央部5の長手方向長さLcの31~65%であるのがより好ましく、33~60%であるのがさらに好ましい。
【0043】
遠位部6の長手方向長さLdは、ステム胴部3の長手方向長さLの20~50%であるのが好ましい。遠位部6の長手方向長さLdがステム胴部3の長手方向長さLの20%未満であると、ステム胴部3の長手方向の遠位側においても髄腔内占拠率が高くなり過ぎるため、大腿骨の近位側でのステム胴部3と大腿骨との結合の安定性が損なわれる恐れがある。遠位部6の長手方向長さLdがステム胴部3の長手方向長さLの50%超であると、ステム胴部3の長手方向の遠位側における髄腔内占拠率の向上が不十分となり、大腿骨の遠位側へのステム胴部3の応力(荷重)の増大を招いてしまう恐れがある。遠位部6の長手方向長さLdはステム胴部3の長手方向長さLの22~48%であるのがより好ましく、25~45%であるのがさらに好ましい。
【0044】
遠位部6の長手方向長さLdは、中央部5の長手方向長さLcの30~150%であるのが好ましい。遠位部6の長手方向長さLdが中央部5の長手方向長さLcの30%未満であると、ステム胴部3の長手方向の遠位側においても髄腔内占拠率が高くなり過ぎるため、大腿骨の近位側でのステム胴部3と大腿骨との結合の安定性が損なわれる恐れがある。遠位部6の長手方向長さLdが中央部5の長手方向長さLcの150%超であると、ステム胴部3の長手方向の遠位側における髄腔内占拠率の向上が不十分となり、大腿骨の遠位側へのステム胴部3の応力(荷重)の増大を招いてしまう恐れがある。遠位部6の長手方向長さLdは中央部5の長手方向長さLcの40~140%であるのがより好ましく、45~130%であるのがさらに好ましく、48~120%であるのがさらに好ましく、50~110%であるのが特に好ましい。
【0045】
図6に示すように、リブ7a、7bの前後方向の高さ(ステム胴部3からリブ7a、7bの先端までの前後方向の距離)を高さHとし、リブ7a、7bの内外方向の幅を幅Wとする。図1~5に示すように、リブ7a、7bの高さH及び幅Wは、リブ7a、7bの中心部からステム胴部3の近位部4及び遠位部6の方向に向かうにつれて、それぞれ小さくなっている。これにより、ステム胴部3の中央部5の大腿骨に対する抵抗力(大腿骨への応力)を高めつつ、人工関節用ステム1の大腿骨への挿入をしやすくすることで、リブ7a、7bが大腿骨に当たることにより大腿骨が破損するのを抑えることができる。本発明の人工関節用ステムのリブの形状はこれに限らず、長手方向にほぼ均一の高さ及び幅を有するものでも良い。
【0046】
図5及び図6に示すように、リブ7a、7bの横手方向断面が曲線状に山なりになっているのが好ましい。それにより、ステム胴部3の中央部5の大腿骨に対する抵抗力(大腿骨への応力)を高めつつ、リブ7a、7bが大腿骨に当たることにより大腿骨が破損するのを抑えることができる。本発明の人工関節用ステムのリブの形状はこれに限らず、横手方向断面が図7(a) に示すような略矩形状のものや、図7(b) に示すような略台形状のものや、図7(c) に示すような略三角形状のものなど、略多角形状のものでも良い。
【0047】
リブ7a、7bの高さHは、人工関節用ステム1の長手方向長さや幅等によって適宜設定可能である。リブ7a、7bの最大高さHMAXは、0.5 mm~5.0 mmであるのが好ましい。リブ7a、7bの最大高さHMAXが0.5 mm未満であると、リブ7a、7bによる人工関節用ステム1の髄腔内占拠率の向上が不十分となり、ステム胴部3の中央部5の大腿骨に対する抵抗力(大腿骨への応力)を十分に高めることができない。リブ7a、7bの最大高さHMAXが5.0 mm超であると、リブ7a、7bによる人工関節用ステム1の髄腔内占拠率が高くなり過ぎて、大腿骨に対する応力が強くなりすぎる恐れがある。リブ7a、7bの最大高さHMAXは、0.8 mm~4.0 mmであるのがより好ましく、1.0 mm~3.0 mmであるのがさらに好ましい。リブ7a、7bの最大高さHMAXは、リブ7a、7bの最大高さHMAXを有する部分におけるステム胴部3の前後方向の幅(リブ7a、7bの高さを除く)の8~20%であるのが好ましい。
【0048】
リブ7a、7bの内外方向幅Wは、人工関節用ステム1の前後方向の幅や内外方向の幅等によって適宜設定可能である。図8に示すように、リブ7a、7bの内外方向最大幅WMAXは、リブ7a、7bの内外方向最大幅WMAXを有する横手方向断面におけるステム胴部3の内外方向幅Wsの30~60%であるのが好ましい。
【0049】
また、人工関節用ステムを大腿骨に挿入するのに先立ち、当該ステムの形状に即したラスプにより大腿骨を掘削する。この際、ラスプにもリブ7a、7bに相当するリブを設けることにより、掘削された穴にラスプのリブによる溝状部分が形成される。当該溝状部分にリブ7a、7bを添わせるようにして人工関節用ステムを大腿骨に挿入することができるため、挿入の方向がより確実となることが期待できる。
【0050】
さらに、人工関節用ステムを挿入する際の方向性から、挿入された人工関節用ステムはその近位部においては前方寄り、遠位部においては後方寄りとなりやすい(ステムが前傾しやすい)傾向がある。本実施態様の人工関節用ステムでは、リブ7a、7bを中央部に設け、遠位部を細くしていることにより、挿入した際に当該リブ7a、7bが大腿骨に接触することで、大腿骨内におけるステムの挿入位置が術前計画の挿入位置から前後方向にずれることを抑制できる。したがって、上述のようなステムの前傾の防止が期待できる。
【0051】
本発明の人工関節用ステムは一体的に形成されているのが好ましく、人工関節用ステムの材料は生体適合性に優れ、高い強度や靭性を有する材料、例えば、ステンレス合金、純チタン、チタン合金、コバルトクロム合金、タンタル、セラミックス等が好適に用いられ、チタン合金が好ましい。
【0052】
ステム胴部3の表面に、複数の微細な凹凸、複数の細孔、及び1つ又は複数の溝のうち1つ以上をさらに設けても良い。これにより、人工関節用ステム1の埋め込みを安定させ、骨細胞及び軟部組織の成長・増殖を促進させることができる。複数の微細な凹凸、複数の細孔、及び1つ又は複数の溝は、ステム胴部3の近位部4及びその周囲(中央部5又はその一部)に設けるのが好ましい。例えば図9に示すように、複数の溝36をステム胴部3の近位部4及び中央部5の一部に設けても良い。また図10に示すように、1つの溝37を遠位部6に設けても良い。それにより、骨が溝内に入り込むように成長して人工関節用ステム1の埋め込みを安定することや、遠位部6の剛性を低減する効果が得られる。
【0053】
ステム胴部3の表面に、複数の微細な凹凸又は複数の細孔を備えたコーティング層を設けても良い。これにより、所定の複数の微細な凹凸又は複数の細孔をステム胴部3の所望の表面に形成することができ、人工関節用ステムの埋め込みを安定させ、骨細胞及び軟部組織の成長・増殖を促進させることができる。図11に示す実施態様の人工関節用ステム1は、ステム胴部3の近位部4及び中央部5の一部に、複数の微細な凹凸を備えたコーティング層9が設けられている。本実施態様では、コーティング層9はリブ7a、7bの表面にも形成されている。
【0054】
複数の微細な凹凸を備えたコーティング層9としては、ポーラス構造の純チタン、チタン合金、及びコバルトクロム、ファイバー構造の純チタン及びチタン合金、タンタル多孔質体等の生体親和性、化学的安定性に優れた種々のものを採用できるが、純チタンのプラズマ溶射コーティングにより形成してなる多孔質コーティングであるのが好ましい。純チタンのコーティング層9の表面にさらにハイドロキシアパタイト等の生体活性セラミックスの表面被膜を溶射等の方法により形成しても良い。
【0055】
コーティング層9の厚さ(生体活性セラミックスの表面被膜が形成されている場合、コーティング層9と生体活性セラミックスの表面被膜を合わせた厚さ)は800μm以下であるのが好ましい。コーティング層9の表面粗さRaは100μm以下であるのが好ましく、70μm程度であるのが望ましい。
【0056】
(2) 第二の実施態様
本発明の第二の実施態様による人工関節用ステムは、ネックと、ステム胴部とを有する人工関節用ステムであって、前記ステム胴部は、前記ネックと接続する側の端部に位置する近位部と、前記近位部の長手方向反対側の端部に位置する遠位部と、前記近位部と前記遠位部との間に設けられた中央部とを含み、前記ステム胴部は、長手方向に延在する少なくとも1つのリブを有し、前記リブは前記中央部の長手方向全体に設けられ、前記リブの90体積%以上が前記中央部に設けられていることを特徴とする。
【0057】
第二の実施態様の一実施例である人工関節用ステムを図12に示す。第二の実施態様の構成要素について、第一の実施態様と共通する部分は説明を省略する。図12に示す人工関節用ステム1では、リブ7a、7bの高さ及び幅は、リブ7a、7bの中心部からステム胴部3の近位部4及び遠位部6の方向に向かうにつれて、それぞれ小さくなっており、リブ7a、7bの上端部の一部は近位部4に含まれており、リブ7a、7bの下端部の一部は遠位部6に含まれている。
【0058】
このようにリブ7a、7bの上端部及び下端部の一部が近位部4及び遠位部6に含まれていたとしても、リブ7a、7bの大部分が中央部5に含まれていれば、人工関節用ステムにおけるステム胴部の中央部の大腿骨への荷重(応力)を高めて、ステム胴部の近位部及び遠位部の大腿骨への荷重(応力)を抑制する効果が得られる。図12に示す人工関節用ステム1のように、リブ7a、7bの高さ及び幅がリブ7a、7bの中心部からステム胴部3の近位部4及び遠位部6の方向に向かうにつれてそれぞれ小さくなっている場合、特に十分な効果が得られる。本実施態様では、リブ7a、7bのステム胴部3の中央部5に設けられている部分の体積比率は90%以上であり、92%以上であるのが好ましく、95%以上であるのがより好ましい。
【0059】
リブ7a、7bの最大高さや内外方向最大幅は、第一の実施態様のリブ7a、7bの最大高さHMAXや内外方向最大幅WMAXと同じでも良く、リブ7a、7bの形状も第一の実施態様のリブ7a、7bの形状と同様であって良く、第一の実施態様のリブ7a、7bの上端部及び下端部が近位部4及び遠位部6にそれぞれ伸びた形状であっても良い。
【0060】
(3) その他の実施態様
第一及び第二の実施態様では、人工関節用ステム1は前後対称の形状を有しているが、本発明はこれに限らず、前後非対称の形状を有していても良い。図1~5に示す人工関節用ステム1では、ネック2の中心軸2aは、ステム胴部3の長手方向軸3aに対して、ステム胴部3の内側に傾斜しているが、本発明はこれに限らず、ネック2の中心軸2aは、ステム胴部3の長手方向軸3aに対して、ステム胴部3の内側かつ前側又は後側に傾斜していても良い。
【0061】
第一及び第二の実施態様では、リブ7a、7bは同じ大きさ・形状を有しているが、本発明はこれに限らず、リブ7a、7bが互いに異なる大きさ・形状を有していても良い。リブ7a、7bの長手方向長さが互いに異なる場合、中央部5の長手方向にリブ7a、7bのいずれかが設けられていれば良く、リブ7a、7bの両方が中央部5の長手方向全体に設けられているのが望ましい。またリブ7a、7bの各々の90体積%以上が中央部5に設けられていれば良い。
【0062】
第一及び第二の実施態様では、リブ7a、7bはステム胴部3の前側面31及び後側面32にそれぞれ1つずつ設けられているが、本発明はこれに限らず、リブ7a、7bがそれぞれ複数設けられていても良い。例えば、図13に示すように、リブ7a、7bをステム胴部3の前側面31及び後側面32にそれぞれ2つずつ設けても良い。リブ7a、7bの一方を1つ設け、他方を2つ以上設けても良い。またリブ7a、7bを複数設ける場合、複数のリブ7a、7bを合わせた内外方向幅をリブ7a、7bの内外方向幅Wとするのが望ましい。
【0063】
第一及び第二の実施態様では、リブ7a、7bは直線状であるが、本発明はこれに限らず、図14に示すように、ステム胴部3の形状に沿って湾曲していても良い。また本実施態様においても、リブ7a、7bが中央部5の長手方向全体に設けられているのが望ましく、リブ7a、7bの各々の90体積%以上が中央部5に設けられていれば良い。
【0064】
第一及び第二の実施態様では、リブ7a、7bは長手方向軸3a上に設けられているが、本発明はこれに限らず、図15に示すように、長手方向軸3aから外れた位置に設けても良い。リブ7a、7bの配置は、髄腔内の空間のうち前後方向の幅が最も大きい部分に対応しているのが望ましい。
【0065】
本発明の人工関節用ステムの形状は、第一及び第二の実施態様の人工関節用ステム1に限らず、種々のものを採用できる。第一及び第二の実施態様の人工関節用ステム1は、セメントレス方式に好適なものであるが、本発明はこれに限らず、セメントレス方式に用いる人工関節用ステムであっても良く、セメント方式に用いる人工関節用ステムであっても良い。
【0066】
本発明の別の実施態様による人工関節用ステムを図16に示す。図16に示す人工関節用ステム1aは、ステム胴部3の表面全体に複数の微細な凹凸を備えたコーティング層9が設けられており、近位部4の上端が、ネック2とステム胴部3との接続部8の外側端8aよりも上方(近位側)に位置している。ステム胴部は、人工関節用ステムのうち大腿骨に埋め込まれることを想定された部分であると言える。図16に示す人工関節用ステム1aのように、ステム胴部の表面に、人工関節用ステムの埋め込みを安定させ、骨細胞及び軟部組織の成長・増殖を促進させるためのコーティング層が形成されている場合、ネック及びステム胴部の近位部におけるコーティング層の境界部を、ネックとステム胴部との接続部とすることができる。
【0067】
本発明のさらに別の実施態様による人工関節用ステムを図17に示す。図17に示す人工関節用ステム1bは、ネックとステム胴部との間に明確な境界部がなく、セメント方式に好適に用いられるものである。ステム胴部は人工関節用ステムのうち大腿骨に埋め込まれることを想定された部分であり、各製品に境界部として設定された部分をネックとステム胴部との接続部とすることができる。ネックとステム胴部との接続部が分かりにくい人工関節用ステムについては、ネックとステム胴部との接続部を表すマーキングが設けられていても良い。
【0068】
[2] 人工関節
人工関節用ステム1を用いた本発明の一実施態様による人工関節を図18に示す。図18の人工関節100は、人工関節用ステム1と、ネック2のヘッド固定部21に固定されるステムヘッド11と、ステムヘッド11を摺動可能に保持するための凹部を有する臼蓋カップ12とを有する。臼蓋カップ12は、ソケット13と、ソケット13の内側にはめ込むライナー14とからなる。
【0069】
ステムヘッド11は、球状又は半球状であり、ネック2のヘッド固定部21を受承するための受承部11aを備え、受承部11aにネック2のヘッド固定部21を嵌合することにより、ネック2のヘッド固定部21に固定される。ステムヘッド11の材料は、人工関節用ステム1と同じもので良く、耐摩耗性に優れているのが好ましい。
【0070】
ソケット13及びライナー14は、全人工関節置換術用の臼蓋カップに用いるものであれば特に限定されず、ライナー14は、ソケット13の内側に取り付けられており、ステムヘッド11を摺動可能に保持するための半球状の凹部を有する。ライナー14は超高分子量ポリエチレン、セラミック等のステムヘッド11が滑らかに摺動可能であって耐摩耗性に優れた材料からなるのが好ましい。ソケット13は、主に人工関節用ステム1と同じ材料で形成され、表面はステム胴部3と同様に、複数の微細な凹凸又は複数の細孔を備えたコーティング層を設けても良い。
【0071】
図18の人工関節100は、全人工関節置換術用の臼蓋カップを備えた人工関節であるが、本発明はこれに限らず、人工関節用ステムと、ステムヘッドと、バイポーラカップとからなる人工骨頭置換術用の人工関節であっても良い。
【0072】
なお、上述した実施態様では人工関節用ステムを股関節に適用する例を用いて説明したが、本発明はこれに限らず、他の関節においても長管骨にステムを挿入する場合、例えば、手指関節、肘関節、肩関節、足関節及び膝関節等に適用することもできる。
【要約】      (修正有)
【課題】人工関節用ステムにおけるステム胴部の中央部において髄腔内占拠率を向上させることで、人工関節用ステムの回旋および極端な沈下の抑制により確実な固定が期待でき、さらに、ステム胴部の骨への荷重(応力)を高め、ステム胴部の近位部から遠位部にかけて骨への荷重をバランス良く分散させることにより、初期の骨折の予防が期待できる人工関節用ステム及びそれを用いた人工関節を提供する。
【解決手段】ネック2と、ステム胴部3とを有する人工関節用ステム1であって、ステム胴部は、ネックと接続する側の端部に位置する近位部4と、近位部の長手方向反対側の端部に位置する遠位部6と、近位部と遠位部との間に設けられた中央部5とを含み、ステム胴部は、長手方向に延在する少なくとも1つのリブ7a,7bを有し、リブは中央部の長手方向全体に設けられ、近位部及び遠位部には設けられていないことを特徴とする人工関節用ステム。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5(a)】
図5(b)】
図5(c)】
図5(d)】
図5(e)】
図6
図7(a)】
図7(b)】
図7(c)】
図8
図9
図10
図11
図12(a)】
図12(b)】
図13(a)】
図13(b)】
図14
図15
図16
図17
図18
図19