(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】非水系電解液及び非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0568 20100101AFI20241112BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241112BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20241112BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20241112BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241112BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20241112BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20241112BHJP
H01M 50/105 20210101ALI20241112BHJP
H01M 50/119 20210101ALI20241112BHJP
【FI】
H01M10/0568
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/58
H01M10/052
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M50/105
H01M50/119
(21)【出願番号】P 2023509344
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2022014640
(87)【国際公開番号】W WO2022203072
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2021053663
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021057976
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021058557
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021058168
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】松岡 直樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 慎
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-250191(JP,A)
【文献】特表平11-512563(JP,A)
【文献】国際公開第2010/110388(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/054863(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/262670(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 10/052
H01M 10/0568
H01M 10/0569
H01M 50/105
H01M 50/119
H01M 50/124
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水系溶媒及びリチウム塩を含有する非水系電解液であって、
前記非水系溶媒が、アセトニトリルを前記非水系溶媒の全量に対して、3体積%以上97体積%以下含有し、かつ
前記リチウム塩が、下記式(1):
【化1】
{式中、R
fは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又は炭素数4以下のパーフルオロ基を表す}
で表される環状アニオン含有リチウム塩を含有し、
前記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量は、前記アセトニトリルの含有量に対して、モル比で0.001以上5以下である、非水系電解液。
【請求項2】
前記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩が、下記式(1-1)~(1-5):
【化2】
で表される環状アニオン含有リチウム塩のうち一つ以上を含む、請求項1に記載の非水系電解液。
【請求項3】
前記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量は、前記アセトニトリルの含有量に対して、モル比で0.08以上0.79以下である、請求項1又は2に記載の非水系電解液。
【請求項4】
前記アセトニトリルの含有量が、前記非水系溶媒の全量に対して、10体積%以上、66体積%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項5】
前記リチウム塩が、LiPF
6をさらに含有し、かつ
前記LiPF
6と、前記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩とが、LiPF
6≦環状アニオン含有リチウム塩となるモル濃度で含有される、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項6】
前記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量は、前記LiPF
6の含有量に対して、モル比で10より大きい、請求項5に記載の非水系電解液。
【請求項7】
前記LiPF
6の含有量は、前記非水系溶媒1L当たりの量として、0.01モル未満である、請求項5又は6に記載の非水系電解液。
【請求項8】
前記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量は、前記LiPF
6の含有量に対して、モル比で150以下である、請求項5~7のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項9】
前記リチウム塩が、LiPF
6を含まない、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項10】
前記非水系電解液が、下記式(2):
【化3】
{式中、R
1、R
2、及びR
3で表される置換基は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のフッ素置換アルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~4のフッ素置換アルコキシ基、フェニル基、シクロヘキシル基、ニトリル基、ニトロ基、アミノ基、N,N’-ジメチルアミノ基、又はN,N’-ジエチルアミノ基であり、これらの置換基のうち2つ以上は水素原子である}
で表される窒素含有環状化合物をさらに含有することを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項11】
前記式(2)で表される窒素含有環状化合物の含有量は、前記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量に対して、モル比で0.0001以上3以下である、請求項10に記載の非水系電解液。
【請求項12】
前記式(2)で表される窒素含有環状化合物が、ピリジン、及び4-(tert-ブチル)ピリジンから成る群より選ばれる1種以上の化合物である、請求項10又は11に記載の非水系電解液。
【請求項13】
前記式(2)で表される窒素含有環状化合物の含有量が、前記非水系電解液の全量に対して0.01質量%以上10質量%以下である、請求項10~12のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項14】
前記非水系電解液が、下記一般式(3):
X-Si(OR
3)
(3-m)R
4
m・・・・・(3)
{式中、R
3及びR
4は、アリール基若しくはアルコキシシリル基若しくはハロゲン原子で置換されてよいアルキル基、又はアルキル基若しくはアルコキシシリル基若しくはハロゲン原子で置換されてよいアリール基を示し、そしてXは、下記式(L1):
【化4】
(式中、kは0~8の整数であり、そして*はSiとの結合個所を示す)、
下記式(L2):
【化5】
(式中、jは0~8の整数であり、そして*はSiとの結合個所を示す)、
下記式(L3):
【化6】
(式中、hは0~8の整数であり、gは0又は1の整数であり、そして*はSiとの結合個所を示す)、及び
下記式(L4):
【化7】
(式中、*はSiとの結合個所を示す)
で表される基から成る群より選ばれる少なくとも1つを示し、そしてmは0~2の整数である}、
下記一般式(4):
【化8】
{式中、Xは各々独立して、前記式(L1)~(L4)で表される基から成る群より選ばれる少なくとも1つを示し、そしてdは0~10000の整数である。}、
下記一般式(5):
【化9】
{式中、R
5は各々独立して、アリール基若しくはハロゲン原子で置換されてよいアルキル基又はアルキル基若しくはハロゲン原子で置換されてよいアリール基を示し、yは2~8の整数であり、そしてXは前記式(L1)~(L4)で表される基から成る群より選ばれる少なくとも1つを示す。}、
下記一般式(6):
X-Si(OR
3'OR
3)
(3-m)R
4
m・・・・・(6)
{式中、R
3、R
4、X、及びmは、一般式(3)において定義されたとおりであり、かつR
3’は、アリール基、アルコキシシリル基又はハロゲン原子で置換されてよいアルキレン基である}、
下記一般式(7):
【化10】
{式(7)中、Rは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1~20のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数2~20のアルケニル基、置換若しくは無置換の炭素数2~20のアルキニル基、又は置換若しくは無置換の炭素数5~20のアリール基であり;Xは、O、S、又はNHであり;Zは、P、P=O、B、又はSiであり;ZがP又はP=Oのとき、n1は1であって、n2は1~3の整数であり、かつn2+n3=3であり;ZがBのとき、n1は1であってn2は1~3の整数であり、かつn2+n3=3であり;ZがSiのとき、n1は0であってn2は1~4の整数であり、かつn2+n3=4である。}で表される化合物、及び
下記一般式(8):
【化11】
{式(8)中のRは、式(7)中のRと同じ意味である。}で表される繰り返し単位を含む高分子化合物、並びにジフェニルジアルコキシシランから成る群より選ばれる少なくとも1種のシラン系化合物をさらに含有することを特徴とする、請求項1~13のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項15】
前記シラン系化合物の含有量は、前記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量に対して、モル比で0.0001以上1.5以下である、請求項14に記載の非水系電解液。
【請求項16】
前記シラン系化合物が、トリエトキシビニルシラン、リン酸トリス(トリメチルシリル)、亜リン酸トリス(トリメチルシリル)、亜リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)、ジフェニルジメトキシシランより成る群から選択される少なくとも1種である、請求項14又は15に記載の非水系電解液。
【請求項17】
前記シラン系化合物の含有量が、前記非水系電解液の全量に対して0.01質量%以上10質量%以下である、請求項14~16のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項18】
正極活物質を含有する正極、負極活物質を含有する負極、及び、請求項1~17のいずれか1項に記載の非水系電解液を備えた、非水系二次電池。
【請求項19】
前記正極活物質は、鉄(Fe)原子が含まれるオリビン結晶構造を有するリチウムリン金属酸化物を含み、
前記非水系電解液は、
前記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量は、前記リチウム塩の総含有量に対して、モル比で0.9以上であり、
前記リチウム塩がLiPF
6を含有し、
前記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量は、前記LiPF
6の含有量に対して、モル比で20以上150以下であり、
前記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量は、前記アセトニトリルの含有量に対して、モル比で0.08以上0.27以下であり、かつ
前記アセトニトリルの含有量が、前記非水系溶媒の全量に対して、30体積%以上、66体積%以下である、請求項18に記載の非水系二次電池。
【請求項20】
前記正極活物質は、下記一般式(a
t):
Li
pNi
qCo
rMn
sM
tO
u・・・・・(a
t)
{式中、Mは、Al、Sn、In、Fe、V、Cu、Mg、Ti、Zn、Mo、Zr、Sr、及びBaから成る群から選ばれる少なくとも1種の金属であり、且つ、0<p<1.3、0<q<1.2、0<r<1.2、0≦s<0.5、0≦t<0.3、0.7≦q+r+s+t≦1.2、1.8<u<2.2の範囲であり、そしてpは、電池の充放電状態により決まる値である。}
で表されるリチウム含有金属酸化物を含み、
前記非水系電解液は、
前記リチウム塩がLiPF
6を含有し、
前記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量は、前記LiPF
6の含有量に対して、モル比で3以上150以下であり、
前記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量は、前記アセトニトリルの含有量に対して、モル比で0.15以上0.79以下であり、かつ
前記アセトニトリルの含有量が、前記非水系溶媒の全量に対して、10体積%以上、50体積%以下である、請求項18に記載の非水系二次電池。
【請求項21】
前記非水系二次電池は電池外装を備え、前記電池外装が、前記正極側の、前記非水系電解液との接液層の少なくとも一部にアルミニウムを含む、請求項18~20のいずれか1項に記載の非水系二次電池。
【請求項22】
前記非水系二次電池は電池外装を備え、前記電池外
装において、前記正極側の、前記非水系電解液との接触部分の少なくとも一部が、鉄または鉄合金から成る、請求項18~20のいずれか1項に記載の非水系二次電池。
【請求項23】
鉄または鉄合金から成る前記電池外
装の表面が、コートされていない、請求項22に記載の非水系二次電池。
【請求項24】
前記電池外
装において、前記正極側の、前記非水系電解液との接触部分の少なくとも一部が、前記鉄合金から成り、かつ前記鉄合金が、ステンレス(SUS)である、請求項22又は23に記載の非水系二次電池。
【請求項25】
満充電時の前記正極の電位が、Li/Li
+基準で5.1V以下である、請求項22~24のいずれか1項に記載の非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解液及び非水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池をはじめとする非水系二次電池は、軽量、高エネルギー及び長寿命であることが大きな特徴であり、各種携帯用電子機器電源として広範囲に用いられている。近年では、非水系電解液は、電動工具等のパワーツールに代表される産業用、及び電気自動車、電動式自転車における車載用としても広がりを見せており、更には住宅用蓄電システム等の電力貯蔵分野においても注目されている。
【0003】
リチウムイオン電池の非水系電解液としては、環状炭酸エステル等の高誘電性溶媒と、鎖状炭酸エステル等の低粘性溶媒との組み合わせが、一般的に例示される。また、負極表面にSEI(Solid Electrolyte Interface:固体電解質界面)を形成し、これにより非水系溶媒の還元分解を抑制するために、ビニレンカーボネート等の電極保護用添加剤を添加することが望ましい。
【0004】
近年、電気自動車を中心とした大型蓄電産業の拡大に伴い、非水系二次電池の更なる高エネルギー密度化が切望されている。リチウムイオン電池の非水系溶媒として、粘度と比誘電率とのバランスに優れたニトリル系溶媒が高イオン伝導性電解液として提案されている。中でもアセトニトリルは、高いポテンシャルを有する。
【0005】
例えば、特許文献1では、式LiN(SO2CF3)2により表されるリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを濃度が4.2モル/Lとなるようにアセトニトリルに溶解させた電解液を用いると、黒鉛電極への可逆的なリチウム挿入脱離が可能であることが記載されている。
【0006】
特許文献2には、アセトニトリルを非水系溶媒に用いた電解液によって高容量電極で作動する非水系二次電池が開示されており、また、複数の電極保護用添加剤を添加することによって、SEIを強化することが報告されている。
【0007】
特許文献3では、特定の有機リチウム塩を用いることによってSEIが強化され、電解液の分解が抑制され、優れた出力特性を得られることが報告されている。
【0008】
特許文献4では、アセトニトリルとリチウム含有イミド塩を含有する非水系電解液によって、低温域でのイオン伝導率の低減を効果的に抑制でき、優れた低温特性を得られることが報告されている。
【0009】
特許文献5では、アセトニトリルを含有する非水系電解液において、リチウム塩の配合比を制御することによって、高温耐久性が向上することが報告されている。より詳細には、特許文献5では、アセトニトリルとリチウム含有イミド塩とLiPF6を含む非水系電解液について、LiPF6の含有量を0.01モル/L以上に制御し、アルミニウム不働態の形成に必要なフッ化水素(HF)量を発生させることで、アルミニウム(Al)集電体の腐食を回避した電池が報告されている。
【0010】
他方、非水系電解液に特定の有機リチウム塩を用いることで電池性能を向上させる検討も行われている。
【0011】
例えば、特許文献6~7には、特定の有機リチウム塩とエーテル系溶媒を組み合わせることで、電極の腐食のおそれがなく、不燃性及び実用上充分な電気伝導度を兼ね備えた非水系電解液を提供することが可能であると報告されている。
【0012】
特許文献8には、特定の有機リチウム塩とエーテル系溶媒を組み合わせることで、優れた不燃性及びサイクル特性を兼ね備えた非水系電解液を提供することが可能であると報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】国際公開第2013/146714号
【文献】国際公開第2013/062056号
【文献】国際公開第2012/057311号
【文献】国際公開第2018/169029号
【文献】国際公開第2020/262670号
【文献】国際公開第2009/133899号
【文献】国際公開第2010/110388号
【文献】国際公開第2011/052605号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
また、特許文献1~4に記載の技術では、アセトニトリル含有電解液を用いたリチウムイオン電池は、カーボネート溶媒を含有する電解液を用いた既存のリチウムイオン電池と比較して高温耐久性に劣っている。
【0015】
特許文献5に記載の技術では、85℃長期貯蔵試験において既存の電解液を上回る高温耐久性が示されているが、85℃10日貯蔵後回復容量維持率は既存カーボネートより低く、改良の余地が残されている。
【0016】
また、特許文献6~8に記載の技術に関しては高温耐久性の評価が行われていない。
【0017】
本発明者らによる電池の解体解析の結果、電池を高温環境下で長期保存した場合、正極集電体と正極活物質の間に、はく離箇所が生じ、このはく離箇所での電気抵抗が増加し、高温耐久性が低下しているという現象が、特許文献1~8に記載のない新たな課題として判明した。
【0018】
本発明は、上記の事情に鑑みて為されたものである。本発明の目的は、優れた出力特性および低温特性を発揮しながら、長期における高温耐久性を向上させることが可能なアセトニトリルを含有する非水系電解液、及びそれを備える非水系二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上述の課題を解決するために鋭意研究を重ね、その結果、以下の構成を有する非水系電解液又は非水系二次電池を用いることによって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである:
<1>
非水系溶媒及びリチウム塩を含有する非水系電解液であって、
前記非水系溶媒が、アセトニトリルを前記非水系溶媒の全量に対して、3体積%以上97体積%以下含有し、かつ
前記リチウム塩が、下記式(1):
【化1】
{式中、R
fは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又は炭素数4以下のパーフルオロ基を表す}
で表される環状アニオン含有リチウム塩を含有し、
前記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量は、前記アセトニトリルの含有量に対して、モル比で0.001以上5以下である、非水系電解液。
<2>
前記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩が、下記式(1-1)~(1-5):
【化2】
で表される環状アニオン含有リチウム塩のうち一つ以上を含む、項目1に記載の非水系電解液。
<3>
前記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量は、前記アセトニトリルの含有量に対して、モル比で0.08以上0.79以下である、項目1又は2に記載の非水系電解液。
<4>
前記アセトニトリルの含有量が、前記非水系溶媒の全量に対して、10体積%以上、66体積%以下である、項目1~3のいずれか1項に記載の非水系電解液。
<5>
前記リチウム塩が、LiPF
6をさらに含有し、かつ
前記LiPF
6と、前記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩とが、LiPF
6≦環状アニオン含有リチウム塩となるモル濃度で含有される、項目1~4のいずれか1項に記載の非水系電解液。
<6>
前記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量は、前記LiPF
6の含有量に対して、モル比で10より大きい、項目5に記載の非水系電解液。
<7>
前記LiPF
6の含有量は、前記非水系溶媒1L当たりの量として、0.01モル未満である、項目5又は6に記載の非水系電解液。
<8>
前記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量は、前記LiPF
6の含有量に対して、モル比で150以下である、項目5~7のいずれか1項に記載の非水系電解液。
<9>
前記リチウム塩が、LiPF
6を含まない、項目1~4のいずれか1項に記載の非水系電解液。
<10>
前記非水系電解液が、下記式(2):
【化3】
{式中、R
1、R
2、及びR
3で表される置換基は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のフッ素置換アルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~4のフッ素置換アルコキシ基、フェニル基、シクロヘキシル基、ニトリル基、ニトロ基、アミノ基、N,N’-ジメチルアミノ基、又はN,N’-ジエチルアミノ基であり、これらの置換基のうち2つ以上は水素原子である}
で表される窒素含有環状化合物をさらに含有することを特徴とする、項目1~9のいずれか1項に記載の非水系電解液。
<11>
前記式(2)で表される窒素含有環状化合物の含有量は、前記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量に対して、モル比で0.0001以上3以下である、項目10に記載の非水系電解液。
<12>
前記式(2)で表される窒素含有環状化合物が、ピリジン、及び4-(tert-ブチル)ピリジンから成る群より選ばれる1種以上の化合物である、項目10又は11に記載の非水系電解液。
<13>
前記式(2)で表される窒素含有環状化合物の含有量が、前記非水系電解液の全量に対して0.01質量%以上10質量%以下である、項目10~12のいずれか1項に記載の非水系電解液。
<14>
前記非水系電解液が、下記一般式(3):
X-Si(OR
3)
(3-m)R
4
m・・・・・(3)
{式中、R
3及びR
4は、アリール基若しくはアルコキシシリル基若しくはハロゲン原子で置換されてよいアルキル基、又はアルキル基若しくはアルコキシシリル基若しくはハロゲン原子で置換されてよいアリール基を示し、そしてXは、下記式(L1):
【化4】
(式中、kは0~8の整数であり、そして*はSiとの結合個所を示す)、
下記式(L2):
【化5】
(式中、jは0~8の整数であり、そして*はSiとの結合個所を示す)、
下記式(L3):
【化6】
(式中、hは0~8の整数であり、gは0又は1の整数であり、そして*はSiとの結合個所を示す)、及び
下記式(L4)
【化7】
(式中、*はSiとの結合個所を示す)
で表される基から成る群より選ばれる少なくとも1つを示し、そしてmは0~2の整数である}、
下記一般式(4):
【化8】
{式中、Xは各々独立して、前記式(L1)~(L4)で表される基から成る群より選ばれる少なくとも1つを示し、そしてdは0~10000の整数である。}、
下記一般式(5):
【化9】
{式中、R
5は各々独立して、アリール基若しくはハロゲン原子で置換されてよいアルキル基又はアルキル基若しくはハロゲン原子で置換されてよいアリール基を示し、yは2~8の整数であり、そしてXは前記式(L1)~(L4)で表される基から成る群より選ばれる少なくとも1つを示す。}、
下記一般式(6):
X-Si(OR
3'OR
3)
(3-m)R
4
m・・・・・(6)
{式中、R
3、R
4、X、及びmは、一般式(3)において定義されたとおりであり、かつR
3’は、アリール基、アルコキシシリル基又はハロゲン原子で置換されてよいアルキレン基である}、
下記一般式(7):
【化10】
{式(7)中、Rは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1~20のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数2~20のアルケニル基、置換若しくは無置換の炭素数2~20のアルキニル基、又は置換若しくは無置換の炭素数5~20のアリール基であり;Xは、O、S、又はNHであり;Zは、P、P=O、B、又はSiであり;ZがP又はP=Oのとき、n1は1であって、n2は1~3の整数であり、かつn2+n3=3であり;ZがBのとき、n1は1であってn2は1~3の整数であり、かつn2+n3=3であり;ZがSiのとき、n1は0であってn2は1~4の整数であり、かつn2+n3=4である。}で表される化合物、及び
下記一般式(8):
【化11】
{式(8)中のRは、式(7)中のRと同じ意味である。}で表される繰り返し単位を含む高分子化合物、並びにジフェニルジアルコキシシランから成る群より選ばれる少なくとも1種のシラン系化合物をさらに含有することを特徴とする、項目1~13のいずれか1項に記載の非水系電解液。
<15>
前記シラン系化合物の含有量は、前記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量に対して、モル比で0.0001以上1.5以下である、項目14に記載の非水系電解液。
<16>
前記シラン系化合物が、トリエトキシビニルシラン、リン酸トリス(トリメチルシリル)、亜リン酸トリス(トリメチルシリル)、亜リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)、ジフェニルジメトキシシランより成る群から選択される少なくとも1種である、項目14又は15に記載の非水系電解液。
<17>
前記シラン系化合物の含有量が、前記非水系電解液の全量に対して0.01質量%以上10質量%以下である、項目14~16のいずれか1項に記載の非水系電解液。
<18>
正極活物質を含有する正極、負極活物質を含有する負極、及び、項目1~17のいずれか1項に記載の非水系電解液を備えた、非水系二次電池。
<19>
前記正極活物質は、鉄(Fe)原子が含まれるオリビン結晶構造を有するリチウムリン金属酸化物を含み、
前記非水系電解液は、
前記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量は、前記リチウム塩の総含有量に対して、モル比で0.9以上であり、
前記リチウム塩がLiPF
6を含有し、
前記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量は、前記LiPF
6の含有量に対して、モル比で20以上150以下であり、
前記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量は、前記アセトニトリルの含有量に対して、モル比で0.08以上0.27以下であり、かつ
前記アセトニトリルの含有量が、前記非水系溶媒の全量に対して、30体積%以上、66体積%以下である、項目18に記載の非水系二次電池。
<20>
前記正極活物質は、下記一般式(a
t):
Li
pNi
qCo
rMn
sM
tO
u・・・・・(a
t)
{式中、Mは、Al、Sn、In、Fe、V、Cu、Mg、Ti、Zn、Mo、Zr、Sr、及びBaから成る群から選ばれる少なくとも1種の金属であり、且つ、0<p<1.3、0<q<1.2、0<r<1.2、0≦s<0.5、0≦t<0.3、0.7≦q+r+s+t≦1.2、1.8<u<2.2の範囲であり、そしてpは、電池の充放電状態により決まる値である。}
で表されるリチウム含有金属酸化物を含み、
前記非水系電解液は、
前記リチウム塩がLiPF
6を含有し、
前記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量は、前記LiPF
6の含有量に対して、モル比で3以上150以下であり、
前記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量は、前記アセトニトリルの含有量に対して、モル比で0.15以上0.79以下であり、かつ
前記アセトニトリルの含有量が、前記非水系溶媒の全量に対して、10体積%以上、50体積%以下である、項目18に記載の非水系二次電池。
<21>
前記非水系二次電池は電池外装を備え、前記電池外装が、前記正極側の、前記非水系電解液との接液層の少なくとも一部にアルミニウムを含む、項目18~20のいずれか1項に記載の非水系二次電池。
<22>
前記電池外装体において、前記正極側の、前記非水系電解液との接触部分の少なくとも一部が、鉄または鉄合金から成る、項目18~20のいずれか1項に記載の非水系二次電池。
<23>
鉄または鉄合金から成る前記電池外装体の表面が、コートされていない、項目22に記載の非水系二次電池。
<24>
前記電池外装体において、前記正極側の、前記非水系電解液との接触部分の少なくとも一部が、前記鉄合金から成り、かつ前記鉄合金が、ステンレス(SUS)である、項目22又は23に記載の非水系二次電池。
<25>
満充電時の前記正極の電位が、Li/Li
+基準で5.1V以下である、項目22~24のいずれか1項に記載の非水系二次電池。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、優れた出力特性および低温特性を発揮しながら、長期における高温耐久性を向上した非水系電解液、及びそれを備える非水系二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施形態の非水系二次電池の一例を概略的に示す平面図である。
【
図2】
図1の非水系二次電池のA-A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。本明細書において「~」を用いて記載される数値範囲は、その前後に記載される数値を含む。
【0023】
<1.非水系電解液>
非水系電解液とは、非水系電解液の全量に対し、水が1質量%以下の電解液を指す。本実施形態に係る非水系電解液は、水分を極力含まないことが好ましいが、本発明の課題解決を阻害しない範囲であれば、ごく微量の水分を含有してよい。そのような水分の含有量は、非水系電解液の全量当たり、300質量ppm以下であり、好ましくは200質量ppm以下である。非水系電解液については、本発明の課題解決を達成するための構成を具備していれば、その他の構成要素については、リチウムイオン電池に用いられる既知の非水系電解液における構成材料を、適宜選択して適用することができる。
【0024】
本実施形態の非水系電解液は、非水系溶媒に、リチウム塩と、更に、所望により下記に示す各種添加剤(本明細書では、単に「添加剤」ということもある)とを、任意の手段で混合して製造することができる。なお、各種添加剤とは、電極保護用添加剤及びその他の任意的添加剤の総称であり、それらの含有量は、下記に示したとおりである。
【0025】
なお、非水系溶媒の各化合物の含有量は、特に断りが無い限り、<2-1.非水系溶媒>に記載の各成分、及び<2-3.電極保護用添加剤>に記載の電極保護用添加剤については非水系溶媒を構成する各成分の合計量に対する体積%で混合比を規定し、<2-2.リチウム塩>に記載のリチウム塩については、非水系溶媒1L当たりのモル数で混合比を規定し、<2-4.その他の任意的添加剤>についてはリチウム塩及び非水系溶媒全体を100質量部としたときの質量部で混合比を規定する。
【0026】
また、本実施形態において、下記<2-1>~<2-4>の各項目で具体的に示した化合物以外の化合物を電解液に含む場合は、該化合物が常温(25℃)で液体の場合は非水系溶媒に準じて取り扱い、非水系溶媒を構成する各成分(該化合物を含む)の合計量に対する体積%で混合比を表す。他方、該化合物が常温(25℃)で固体の場合はリチウム塩及び非水系溶媒全体を100質量部としたときの質量部で混合比を表す。
【0027】
各種検証実験の結果から、アセトニトリルを含有する非水系電解液を用いたリチウムイオン二次電池が高温耐久性に劣る理由は以下のように考察される。
(1)アセトニトリルが持つニトリル基は、高い金属配位能を持つため、正極活物質中の遷移金属と錯体を形成し、安定化することで金属溶出を促進する。非水系電解液中に溶出した金属イオンは、負極側で還元析出し、負極のSEIに損傷を与える。そのため、負極での溶媒の還元分解が促進され、不可逆容量が増加するとともに、還元分解された溶媒が負極に堆積し、内部抵抗が増加する。この現象は、高温かつ長期であるほど促進される。
(2)アセトニトリルを含有する電解液を用いたリチウムイオン二次電池の解体解析の結果、高温環境下で長期保存した場合、正極Al集電体-正極活物質間に物理的なはく離箇所が生じることが判明した。このはく離箇所での電気抵抗が増加することで、高温耐久性が低下しているものと推測される。解体解析の結果に裏付けされたこれらの現象は、本発明者らによって新たに判明した課題であり、特許文献1~8には一切記載されていない。
【0028】
これら現象は、45℃を超える高温環境下において顕著であり、60℃を超える高温環境下においてより顕著であり、80℃を超える高温環境下においては、更に顕著である。また、このような傾向は、高温下に曝される時間が4時間以上であるときに顕著であり、100時間以上であるときにより顕著であり、200時間以上であるときにより顕著であり、300時間以上であるときにより顕著であり、400時間以上であるときに更に顕著である。
【0029】
<2-1.非水系溶媒>
本実施形態でいう「非水系溶媒」とは、非水系電解液中から、リチウム塩及び各種添加剤を除いた要素をいう。非水系電解液に電極保護用添加剤が含まれている場合、「非水系溶媒」とは、非水系電解液中から、リチウム塩と、電極保護用添加剤以外の添加剤とを除いた要素をいう。非水系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類;非プロトン性溶媒等が挙げられる。中でも、非水系溶媒としては、非プロトン性溶媒が好ましい。本発明の課題解決を阻害しない範囲であれば、非水系溶媒は、非プロトン性溶媒以外の溶媒を含有してよい。
【0030】
本実施形態の非水系電解液に係る非水系溶媒は、非プロトン性溶媒としてアセトニトリルを含有する。非水系溶媒がアセトニトリルを含有することにより、非水系電解液のイオン伝導性が向上することから、電池内におけるリチウムイオンの拡散性を高めることができる。そのため、特に正極活物質層を厚くして正極活物質の充填量を高めた正極においても、高負荷での放電時にはリチウムイオンが到達し難い集電体近傍の領域にまで、リチウムイオンが良好に拡散できるようになる。よって、高負荷放電時にも十分な容量を引き出すことが可能となり、負荷特性に優れた非水系二次電池を得ることができる。
【0031】
また、非水系溶媒がアセトニトリルを含有することにより、非水系二次電池の急速充電特性を高めることができる。非水系二次電池の定電流(CC)-定電圧(CV)充電では、CV充電期間における単位時間当たりの充電容量よりも、CC充電期間における単位時間当たりの容量の方が大きい。非水系電解液の非水系溶媒にアセトニトリルを使用する場合、CC充電できる領域を大きく(CC充電の時間を長く)できる他、充電電流を高めることもできるため、非水系二次電池の充電開始から満充電状態にするまでの時間を大幅に短縮できる。
【0032】
なお、アセトニトリルは、電気化学的に還元分解され易い。そのため、アセトニトリルを用いる場合、非水系溶媒としてアセトニトリルとともに他の溶媒(例えば、アセトニトリル以外の非プロトン性溶媒)を併用すること、及び/又は、電極への保護被膜形成のための電極保護用添加剤を添加すること、を行うことが好ましい。
【0033】
アセトニトリルの含有量は、非水系溶媒の全量に対して、3体積%以上、97体積%以下である。アセトニトリルの含有量は、非水系溶媒の全量に対して、5体積%以上又は10体積%以上又は20体積%以上又は30体積%以上であることがより好ましく、35体積%以上であることが更に好ましい。この値は、85体積%以下又は66体積%以下であることがより好ましく、60体積%以下であることが更に好ましい。アセトニトリルの含有量が、非水系溶媒の全量に対して3体積%以上である場合、イオン伝導度が増大して高出力特性および優れた低温特性を発現できる傾向にあり、更に、リチウム塩の溶解を促進することができる。アセトニトリルの含有量が、非水系溶媒の全量に対して97体積%以下である場合、アセトニトリルが正極活物質中の遷移金属に配位することで起こる遷移金属の溶出を抑制するとともに、正極Al集電体-正極活物質間の物理的なはく離を抑制し、優れた高温耐久性を発現できる傾向にある。後述の添加剤が電池の内部抵抗の増加を抑制するため、非水系溶媒中のアセトニトリルの含有量が上記の範囲内にある場合、アセトニトリルの優れた性能を維持しながら、高温サイクル特性及びその他の電池特性を一層良好なものとすることができる傾向にある。
【0034】
なお、併用する正極活物質の種類によって、アセトニトリルの含有量の好ましい範囲は異なる。
【0035】
アセトニトリル以外の非プロトン性溶媒としては、例えば、環状カーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ラクトン、硫黄原子を有する有機化合物、鎖状カーボネート、環状エーテル、アセトニトリル以外のモノニトリル、アルコキシ基置換ニトリル、ジニトリル、環状ニトリル、短鎖脂肪酸エステル、鎖状エーテル、フッ素化エーテル、ケトン、前記非プロトン性溶媒のH原子の一部または全部をハロゲン原子で置換した化合物等が挙げられる。
【0036】
環状カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、トランス-2,3-ブチレンカーボネート、シス-2,3-ブチレンカーボネート、1,2-ペンチレンカーボネート、トランス-2,3-ペンチレンカーボネート、シス-2,3-ペンチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、4,5-ジメチルビニレンカーボネート、及びビニルエチレンカーボネート;
【0037】
フルオロエチレンカーボネートとしては、例えば、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、シス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、トランス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5-トリフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5,5-テトラフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、及び4,4,5-トリフルオロ-5-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オン;
【0038】
ラクトンとしては、γ-ブチロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、δ-カプロラクトン、及びε-カプロラクトン;
【0039】
硫黄原子を有する有機化合物としては、例えば、エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、ブチレンサルファイト、ペンテンサルファイト、スルホラン、3-スルホレン、3-メチルスルホラン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1-プロペン1,3-スルトン、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、及びエチレングリコールサルファイト;
【0040】
鎖状カーボネートとしては、例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート;
【0041】
環状エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、及び1,3-ジオキサン;
【0042】
アセトニトリル以外のモノニトリルとしては、例えば、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、及びアクリロニトリル;
【0043】
アルコキシ基置換ニトリルとしては、例えば、メトキシアセトニトリル及び3-メトキシプロピオニトリル;
【0044】
ジニトリルとしては、例えば、マロノニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,4-ジシアノヘプタン、1,5-ジシアノペンタン、1,6-ジシアノヘキサン、1,7-ジシアノヘプタン、2,6-ジシアノヘプタン、1,8-ジシアノオクタン、2,7-ジシアノオクタン、1,9-ジシアノノナン、2,8-ジシアノノナン、1,10-ジシアノデカン、1,6-ジシアノデカン、及び2,4-ジメチルグルタロニトリル;
【0045】
環状ニトリルとしては、例えば、ベンゾニトリル;
【0046】
短鎖脂肪酸エステルとしては、例えば、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、イソ酪酸メチル、酪酸メチル、イソ吉草酸メチル、吉草酸メチル、ピバル酸メチル、ヒドロアンゲリカ酸メチル、カプロン酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、イソ酪酸エチル、酪酸エチル、イソ吉草酸エチル、吉草酸エチル、ピバル酸エチル、ヒドロアンゲリカ酸エチル、カプロン酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸プロピル、イソ酪酸プロピル、酪酸プロピル、イソ吉草酸プロピル、吉草酸プロピル、ピバル酸プロピル、ヒドロアンゲリカ酸プロピル、カプロン酸プロピル、酢酸イソプロピル、プロピオン酸イソプロピル、イソ酪酸イソプロピル、酪酸イソプロピル、イソ吉草酸イソプロピル、吉草酸イソプロピル、ピバル酸イソプロピル、ヒドロアンゲリカ酸イソプロピル、カプロン酸イソプロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル、イソ酪酸ブチル、酪酸ブチル、イソ吉草酸ブチル、吉草酸ブチル、ピバル酸ブチル、ヒドロアンゲリカ酸ブチル、カプロン酸ブチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸イソブチル、イソ酪酸イソブチル、酪酸イソブチル、イソ吉草酸イソブチル、吉草酸イソブチル、ピバル酸イソブチル、ヒドロアンゲリカ酸イソブチル、カプロン酸イソブチル、酢酸tert-ブチル、プロピオン酸tert-ブチル、イソ酪酸tert-ブチル、酪酸tert-ブチル、イソ吉草酸tert-ブチル、吉草酸tert-ブチル、ピバル酸tert-ブチル、ヒドロアンゲリカ酸tert-ブチル、及びカプロン酸tert-ブチル;
【0047】
鎖状エーテルとしては、例えば、ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、1,3-ジオキソラン、ジグライム、トリグライム、及びテトラグライム;
【0048】
フッ素化エーテルとしては、例えば、Rf
aa-ORbb{式中、Rf
aaはフッ素原子を含有するアルキル基、Rbbはフッ素原子を含有してよい有機基};
【0049】
ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、及びメチルイソブチルケトン;
【0050】
前記非プロトン性溶媒のH原子の一部または全部をハロゲン原子で置換した化合物としては、例えば、ハロゲン原子がフッ素である化合物;
を挙げることができる。
【0051】
ここで、鎖状カーボネートのフッ素化物としては、例えば、メチルトリフルオロエチルカーボネート、トリフルオロジメチルカーボネート、トリフルオロジエチルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、メチル2,2-ジフルオロエチルカーボネート、メチル2,2,2-トリフルオロエチルカーボネート、メチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルカーボネートなどが挙げられる。上記のフッ素化鎖状カーボネートは、下記の一般式:
Rcc-O-C(O)O-Rdd
{式中、Rcc及びRddは、CH3、CH2CH3、CH2CH2CH3、CH(CH3)2、及びCH2Rf
eeから成る群より選択される少なくとも一つであり、Rf
eeは、少なくとも1つのフッ素原子で水素原子が置換された炭素数1~3のアルキル基であり、そしてRcc及び/又はRddは、少なくとも1つのフッ素原子を含有する}
で表すことができる。
【0052】
また、短鎖脂肪酸エステルのフッ素化物としては、例えば、酢酸2,2-ジフルオロエチル、酢酸2,2,2-トリフルオロエチル、酢酸2,2,3,3-テトラフルオロプロピルに代表されるフッ素化短鎖脂肪酸エステルなどが挙げられる。フッ素化短鎖脂肪酸エステルは、下記の一般式:
Rff-C(O)O-Rgg
{式中、Rffは、CH3、CH2CH3,CH2CH2CH3、CH(CH3)2、CF3CF2H、CFH2、CF2Rf
hh、CFHRf
hh、及びCH2Rf
iiから成る群より選択される少なくとも一つであり、Rggは、CH3、CH2CH3、CH2CH2CH3、CH(CH3)2、及びCH2Rf
iiから成る群より選択される少なくとも一つであり、Rf
hhは、少なくとも1つのフッ素原子で水素原子が置換されてよい炭素数1~3のアルキル基であり、Rf
iiは、少なくとも1つのフッ素原子で水素原子が置換された炭素数1~3のアルキル基であり、そしてRff及び/又はRggは、少なくとも1つのフッ素原子を含有し、RffがCF2Hである場合、RggはCH3ではない)で表すことができる。
【0053】
本実施形態におけるアセトニトリル以外の非プロトン性溶媒は、1種を単独で使用することができ、又は2種以上を組み合わせて使用してよい。
【0054】
本実施形態における非水系溶媒は、アセトニトリルとともに、環状カーボネート及び鎖状カーボネートのうちの1種以上を併用することが、非水系電解液の安定性向上の観点から好ましい。この観点から、本実施形態における非水系溶媒は、アセトニトリルとともに環状カーボネートを併用することがより好ましく、アセトニトリルとともに環状カーボネート及び鎖状カーボネートの双方を使用することが、更に好ましい。
【0055】
アセトニトリルとともに環状カーボネートを使用する場合、かかる環状カーボネートが、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート及び/又はフルオロエチレンカーボネートを含むことが特に好ましい。
【0056】
<2-2.リチウム塩>
(環状アニオン含有リチウム塩)
本実施形態に係る非水系電解液は、
下記一般式(1):
【化12】
{式中、R
fは、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、フッ素原子又は炭素数4以下のパーフルオロ基を表す}
で表される環状アニオン含有リチウム塩を含有する。
【0057】
アセトニトリルを含有する非水系電解液において、式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩を用いることによって、長期的な高温耐久性が向上する。その機構は以下のように推察される。
【0058】
式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩(以下、化合物(1)ともいう)は、アセトニトリルを含有する非水系電解液中でリチウムイオンと環状アニオンに解離する。環状アニオンは、アセトニトリルと電気的に相互作用し、アセトニトリルの持つニトリル基の金属配位能を弱める。それによって、高温下でアセトニトリルが正極活物質中の遷移金属と錯体を形成することで起こる金属溶出を抑制でき、金属錯体の負極への移動が抑制される。従って、金属錯体の負極での還元析出による負極SEIの劣化が抑制され、長期的な高温耐久性が向上する。
【0059】
それに加えて、環状アニオンが負極で還元分解して生成した分解物は、負極に堆積してSEIとして働き、金属錯体の負極での還元析出に対する負極SEIの耐久性を向上させ、負極での溶媒の還元分解を抑制できる。
【0060】
また、アセトニトリルを含有する非水系電解液において、式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩を用いることによって、正極Al集電体-正極活物質間の物理的なはく離現象を抑制できる。このはく離現象は、以下の機構によって引き起こされると推測される。
非水系電解液中の各種リチウム含有イミド塩のイミドアニオンが、正極Al集電体表面のAlに配位して安定なAl-イミド錯体が形成される。このAl-イミド錯体は、極性の高いアセトニトリルに溶解し易いため、アセトニトリルを含有する非水系電解液中で溶出が促進される。その結果、Al集電体表面が削れ、正極Al集電体-正極活物質間の物理的なはく離現象が生じる。
アセトニトリル中での各種リチウム含有イミド塩及び環状アニオン含有リチウム塩の挙動に関する解析シミュレーション結果から、LiN(SO2F)2及びLiN(SO2CF3)に代表される鎖状のリチウム含有イミド塩と比較して、環状アニオン含有リチウム塩は、リチウムイオンとイミドアニオンの窒素原子が解離し難いことが判明した。この結果から、環状アニオン含有リチウム塩は、リチウム塩由来のイミドアニオンの窒素原子の近くにリチウムが留まるため、イミドアニオンの窒素原子が正極Al集電体表面のAlに配位し難くなることで、Al-イミド錯体の形成が抑制される。その結果、正極Al集電体-正極活物質間の物理的なはく離が抑制されたと推測される。
【0061】
解析シミュレーションの詳細な結果を下記に示す。
【0062】
(Li塩とアセトニトリル溶媒からなる非水系電解液の分子動力学シミュレーション)
LiXとアセトニトリル溶媒の溶液モデルを作成し(X=CTFSI、TFSI,FSIであり、下記構造式により表される)、溶液分子の運動をシミュレーションした。Liイオンと窒素原子(イミドアニオンX由来)の距離の存在確率分布(動径分布関数)を解析し、Li塩の解離状態を評価した。その結果、CTFSIはTFSI、FSIよりも、Liイオンと窒素原子が解離し難く、Liイオンがイミドアニオンの窒素原子の近くに留まることがわかった。
【化13】
次に、溶液モデル中の特定のLi塩に注目し、Liイオンの運動をより詳細に解析した。その結果、TFSI、FSIではLiイオンがイミドアニオンの窒素原子付近から酸素原子付近へ移動することがわかった。一方、CTFSIではLiイオンの移動が生じ難く、Liイオンがイミドアニオンの窒素原子の近くに留まり続けることがわかった。TFSIとFSIでは、分子内回転に伴いLiイオンが窒素原子付近から酸素原子付近へ移動すると考えられる。一方で、環状のCTFSIは分子内回転の自由度が小さいため、Liイオンの窒素原子付近から酸素原子付近への移動が生じ難いと考えられる。
【0063】
運動シミュレーションの詳細な条件を下記に示す。
(共通条件)
シミュレーションには、Materials studio 2019を用いた。力場にはCOMPASSIIを用いた。原子電荷には、COMPASSIIの力場パラメータで割り当てられた値を用いた。静電相互作用の計算にはEwald法を用いた。Van der Waals相互作用のカットオフ半径rcはrc=9.5Åとした。温度制御にはNose-Hoover Langevin dynamics、圧力制御にはBerendsenの方法を用いた。
(i.溶液モデルの作成)
溶液モデルは、Materials studio 2019のAmorphous Cellモジュールを用いて作成した。溶液モデルには3次元周期境界条件を課し、単位セル中にアセトニトリル分子が570個、LiX分子(X=CTFSI、TFSI、FSI)が30個含まれるように設定した。初期構造は密度0.5g/cm3で作成した。
(ii.溶液モデルの構造緩和)
溶液モデルのシミュレーションには、Materials studio 2019の Forciteモジュールを用いた。初期構造を構造最適化した後、アニーリング計算と、それに続くNPTアンサンブル(粒子数,圧力,温度一定)でのMDシミュレーションにより、構造緩和を行った。アニーリングは300K~500Kの温度範囲で昇温・降温を5サイクル繰り返し、総シミュレーション時間は500ps、時間刻み幅は1fsとした。NPTシミュレーションは温度298K、圧力1013hPaとし、総シミュレーション時間は500ps、時間刻み幅は1.0fsとした。
(iii.データ取得のためのシミュレーション)
先述と同様の条件で、データ取得のためのNPTシミュレーションを500ps実施した。得られた構造トラジェクトリーに対し、Liイオンとイミドアニオンの窒素原子間の動径分布関数を求めた。
【0064】
式(1)中のR
fについて、炭素数4以下のパーフルオロ基は、例えば、炭素数1~4のパーフルオロアルキル基などでよい。化合物(1)の具体例としては、下記式(1-1)~(1-5)で表される化合物(以下、それぞれ化合物(1-1)~化合物(1-5)ともいう)が挙げられる。式(1)において、フッ素原子の1個以上は、炭素数4以下のパーフルオロアルキル基に置換されていてもよい。フッ素原子がパーフルオロアルキル基に置換される場合、パーフルオロアルキル基に置換されるフッ素原子の数は、2個以下が好ましく、1個がより好ましい。パーフルオロアルキル基の炭素数は、2以下が好ましく、パーフルオロアルキル基としてはトリフルオロメチル基が好ましい。式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩は、化合物(1-1)~(1-5)で表される化合物が好ましく、化合物(1-1)~(1-3)で表される化合物がより好ましく、化合物(1-2)で表される化合物がさらに好ましい。
【化14】
【0065】
検討を重ねた結果、アセトニトリルを含有する電解液において、式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩は、下記式(9)で表される環状アニオン含有リチウム塩を用いた場合よりも高温耐久性が大きく向上することが明らかになった。各種検証実験の結果から、その理由は以下のように考察される:
【化15】
式(9)で表される6員環の環状アニオン含有リチウム塩では、スルホニル基と隣接していないジフルオロメチレン基中のフッ素原子と炭素原子の結合が弱いため、充電時に負極で還元されることでフッ素アニオンが脱離する。脱離したフッ素アニオンは、極性の高いアセトニトリルを含む非水系電解液中で安定化され易いため、上記脱離反応が継続的に進行することで高温耐久性が低下する。一方、化合物(1)は、化合物(9)よりも充電時にフッ素アニオンが脱離しないため、高温耐久性が低下しない。特に、式(1-2)で表される5員環の環状アニオン含有リチウム塩では、2つのジフルオロメチレン基中のフッ素原子と炭素原子の結合が強く、充電時にフッ素アニオンが脱離しないため、高温耐久性が低下しない。
【0066】
また、リチウム塩の分子量が大きくなるにつれ、一定のモル濃度のリチウムイオンを含む非水系電解液を調製するために必要なリチウム塩の重量が増加するため、非水系電解液の粘度が上昇して出力特性が低下する傾向にある。そのため、式(9)に比べて環を構成する原子数が少ない、化合物(1)、特に、式(1-2)で表される環状アニオン含有リチウム塩を用いることで、優れた出力特性を発現することができる。
【0067】
式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量は、非水系溶媒1L当たりの量として、0.1モル以上であることが好ましく、0.5モル以上であることがより好ましく、0.8モル以上であることがさらに好ましい。上述の範囲内にある場合、イオン伝導度が増大し、高出力特性を発現できる傾向にある。また、式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量は、非水系溶媒1L当たりの量として、3モル未満であることが好ましく、2.5モル以下であることがより好ましく、1.5モル以下であることがさらに好ましい。式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量が上述の範囲内にある場合、非水系電解液のイオン伝導度が増大し、電池の高出力特性を発現できると共に、非水系電解液の低温での粘度上昇に伴うイオン伝導度の低下を抑制できる傾向にあり、非水系電解液の優れた性能を維持しながら、電池の高温サイクル特性及びその他の特性を一層良好なものとすることができる傾向にある。
【0068】
また、非水系二次電池の体積エネルギー密度を向上するため、正極に含まれる正極活物質層の目付量が24~200mg/cm2の範囲に調整されている場合、式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量は、1モル以上であることが好ましく、1.2モル以上であることがより好ましく、1.5モル以上であることがさらに好ましく、2モル以上であることが特に好ましい。式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量が上述の範囲内にある場合、正極-電解液界面から離れた正極深部においても素早いイオン伝導が可能になり、非水系二次電池における出力性能とのバランスを保ちながら体積エネルギー密度を向上することができる傾向にある。
【0069】
非水系電解液において、アセトニトリルの含有量に対する式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量は、モル比で0.001以上5以下である。高温下でのアセトニトリルによる正極金属溶出を抑制し、負極での溶媒分解を抑制する観点から、アセトニトリルの含有量に対する環状アニオン含有リチウム塩の含有量のモル比は、0.001以上であることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.08以上であることがより好ましく、0.1以上であることがさらに好ましい。アセトニトリルの含有量に対する環状アニオン含有リチウム塩の含有量のモル比が上述の範囲にある場合、高温下でのアセトニトリルによる正極金属溶出、および、正極Al集電体-正極活物質間の物理的なはく離を効果的に抑制するとともに、負極での溶媒分解を抑制することで、優れた高温耐久性を得ることができる。
【0070】
また、環状アニオン含有リチウム塩の含有量を電解液から測定する方法としては、例えば、パーフルオロベンゼンなどを内部標準に用いた19F-NMRによる環状アニオン含有量の測定、及び、イオンクロマトグラフィによるリチウムイオン含有量の測定を組み合わせる方法などが挙げられる。
【0071】
また、非水系電解液の粘度上昇に伴うイオン伝導度の低下を抑制する観点から、アセトニトリルの含有量に対する環状アニオン含有リチウム塩の含有量のモル比は、5以下であることが好ましく、1以下であることがより好ましく、0.79以下であることがより好ましく、0.5以下であることがより好ましく、0.27以下であることがさらに好ましい。アセトニトリルの含有量に対する環状アニオン含有リチウム塩の含有量のモル比が上述の範囲にある場合、常温及び低温-10℃又は-40℃のような低温域でのイオン伝導率の低減を効果的に抑制でき、優れた出力特性および低温特性を得ることができる。
【0072】
なお、併用する正極活物質の種類によって、アセトニトリルの含有量に対する式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量の好ましい範囲は異なる。
【0073】
また、アセトニトリルに対する式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の飽和濃度がLiPF6の飽和濃度よりも高いことから、LiPF6≦環状アニオン含有リチウム塩となるリチウム塩のモル濃度が好ましい。低温でのリチウム塩とアセトニトリルの会合及び析出を抑制できるという観点から、非水系電解液において、LiPF6の含有量に対する環状アニオン含有リチウム塩の含有量のモル比は、3以上であることが好ましく、10より大きいことが好ましく、15以上であることがより好ましく、20以上であることが更に好ましく、25以上であることが特に好ましい。LiPF6の含有量に対する環状アニオン含有リチウム塩の含有量のモル比が上述の範囲内にある場合、-10℃又は-40℃のような低温域でのイオン伝導率の低減を効果的に抑制でき、優れた低温特性を得ることができる。
【0074】
また、アセトニトリル含有電解液において、過剰なLiPF6は、高温下での電池性能低下をもたらす原因となる一方、環状アニオン含有リチウム塩は、上述の正極金属溶出抑制効果または負極SEIへの寄与などと推測される機構によって高温下での電池性能低下を抑制することから、LiPF6の含有量に対する環状アニオン含有リチウム塩の含有量のモル比を上述の範囲内に制御することで、より効果的に長期における高温耐久性を向上させることができる。
【0075】
また、非水系電解液において、LiPF6の含有量に対する環状アニオン含有リチウム塩の含有量のモル比は、150以下であることが好ましい。LiPF6の含有量に対する環状アニオン含有リチウム塩の含有量のモル比が上述の範囲内にある場合、環状アニオン含有リチウム塩由来の有機成分と、LiPF6由来の無機成分のバランスに優れた負極SEIを形成することで、常温および低温におけるリチウムイオンの挿入脱離が容易になるとともに、低温での負極SEIの収縮による容量劣化および抵抗増加が抑制され、出力性能および低温性能が向上する。
【0076】
なお、併用する正極活物質の種類によって、LiPF6の含有量に対する環状アニオン含有リチウム塩の含有量のモル比の好ましい範囲は異なる。
【0077】
本実施形態におけるリチウム塩は、環状アニオン含有リチウム塩とともに、リチウム含有イミド塩、フッ素含有無機リチウム塩、有機リチウム塩、及びその他のリチウム塩から選択される1種以上を、更に含んでよい。
【0078】
本実施形態におけるリチウム塩の含有量を測定する方法は、先述した環状アニオン含有リチウム塩の測定方法と同じ方法である。
【0079】
(LiPF6)
本実施形態の非水系電解液は、リチウム塩として、LiPF6をさらに含有してもよい。本実施形態の非水系電解液におけるLiPF6の含有量については、非水系溶媒1L当たりの量として、0.5モル未満であることが好ましく、0.1モル未満であることがより好ましく、0.01モル未満であることが更に好ましい。
【0080】
また、本実施形態の非水系電解液におけるLiPF6の含有量については、非水系溶媒1L当たりの量として、0.01ミリモル以上であることが好ましい。
【0081】
LiPF6は高温下で熱分解し、酸成分が生成することが知られている。特に、このような傾向は、60℃を超える高温環境下において顕著であり、80℃を超える高温環境下においては、更に顕著である。また、このような傾向は、高温下に曝される時間が4時間以上であるときに顕著であり、100時間以上であるときにより顕著であり、200時間以上であるときにより顕著であり、300時間以上であるときにより顕著であり、400時間以上であるときに更に顕著である。LiPF6の含有量が上述の範囲内にある場合、60℃を超える高温下に4時間以上曝された場合でのLiPF6の熱分解反応による酸成分の生成を抑えることができる。さらに、アセトニトリルのα位から水素が引き抜かれることによってPF6アニオンから発生するフッ化水素(HF)量も低減することができる。電解液中に発生するHF量が多いと、電池部材から金属成分が溶出し、部材の腐食が起こるだけでなく、溶出した金属イオンとアセトニトリルとから形成される錯体カチオンが生成し、電池の劣化が加速する。特に、このような傾向は、45℃を超える高温環境下において顕著であり、60℃を超える高温環境下においてより顕著であり、80℃を超える高温環境下においては、更に顕著である。また、このような傾向は、高温下に曝される時間が4時間以上であるときに顕著であり、100時間以上であるときにより顕著であり、200時間以上であるときにより顕著であり、300時間以上であるときにより顕著であり、400時間以上であるときに更に顕著である。しかしながら、LiPF6の含有量が上述の範囲内にあると、45℃を超える高温下に4時間以上曝された場合でも、アセトニトリルのα位から水素が引き抜かれることによってPF6アニオンから発生するHF量も低減することができ、このような劣化の進行を抑えることができる。結果として、正極活物質層、正極集電体の腐食、又は電解液の劣化反応に起因する電池性能の低下を最小限に留めることが出来る。
【0082】
例えば特許文献5に報告されるアセトニトリルとリチウム含有イミド塩とLiPF6を含む非水系電解液について、LiPF6の含有量を0.01モル/L以上に制御することとは対照的に、アセトニトリルと式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩とLiPF6を含む非水系電解液については、LiPF6の含有量を0.01モル/L未満に制御した場合でも、アルミニウム(Al)集電体の腐食を回避できることが、本発明者らの検討によって明らかになった。その機構は以下のように推察される:
式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩は、アセトニトリル含有電解液中でリチウムイオンと環状アニオンに解離する。環状アニオンはアセトニトリルと電気的に相互作用し、アセトニトリルの持つニトリル基の金属配位能を弱める。それによって、高温下でアセトニトリルが正極集電体のAlイオンと錯体を形成することで起こる金属溶出を抑制できる。
【0083】
LiPF6の含有量が0.01モル/L未満にある場合、45℃を超える高温下に4時間以上曝された場合でのLiPF6の熱分解反応による酸成分の生成を抑えることができるとともに、アセトニトリルのα位から水素が引き抜かれることによってPF6アニオンから発生するHF量も低減することができ、結果として、正極活物質層、正極集電体の腐食、又は電解液の劣化反応に起因する電池性能の低下を最小限に留めることが出来る。
【0084】
本実施形態の非水系電解液は、別の態様として、リチウム塩としてLiPF6を含まないことが好ましい。ここで「リチウム塩としてLiPF6を含まない」とは上記非水系溶媒1L当たりの量として0.01ミリモル未満、または上記測定方法にて検出されない場合を指す。
【0085】
非水系電解液がリチウム塩としてLiPF6を含まないと、45℃を超える高温下に4時間以上曝された場合でも、長期における高温耐久性を有することができる。これは、リチウム塩由来の正極活物質層、正極集電体の腐食、又は電解液の劣化反応に起因する電池性能の低下が最小限となったためと考えられる。
【0086】
(リチウム含有イミド塩)
リチウム含有イミド塩としては、具体的には、LiN(SO2F)2、及びLiN(SO2CF3)2のうち少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0087】
非水系溶媒にアセトニトリルが含まれる場合、アセトニトリルに対するリチウム含有イミド塩の飽和濃度がLiPF6の飽和濃度よりも高いことから、LiPF6≦リチウム含有イミド塩となるモル濃度でリチウム含有イミド塩を含むことが、低温でのリチウム塩とアセトニトリルの会合及び析出を抑制できるため好ましい。また、リチウム含有イミド塩の含有量が、非水系溶媒1L当たりの量として、0.5モル以上3.0モル以下であることが、本実施形態に係る非水系電解液へのイオン供給量を確保する観点から好ましい。
【0088】
LiN(SO2F)2、及びLiN(SO2CF3)2のうち少なくとも1種を含むアセトニトリル含有非水系電解液によれば、-10℃又は-30℃のような低温域でのイオン伝導率の低減を効果的に抑制でき、優れた低温特性を得ることができる。本実施形態では、このように、リチウム含有イミド塩の含有量を限定することで、より効果的に、高温加熱時の抵抗増加を抑制することも可能となる。
【0089】
(フッ素含有無機リチウム塩)
本実施形態の非水系電解液で用いるリチウム塩は、LiPF6以外のフッ素含有無機リチウム塩を含んでもよく、例えば、LiBF4、LiAsF6、Li2SiF6、LiSbF6、Li2B12FbH12-b〔式中、bは0~3の整数である〕等のフッ素含有無機リチウム塩を含んでもよい。ここで「無機リチウム塩」とは、炭素原子をアニオンに含まず、アセトニトリルに可溶なリチウム塩をいう。また、「フッ素含有無機リチウム塩」とは、炭素原子をアニオンに含まず、フッ素原子をアニオンに含み、アセトニトリルに可溶なリチウム塩をいう。フッ素含有無機リチウム塩は、正極集電体であるアルミニウム箔の表面に不働態被膜を形成し、正極集電体の腐食を抑制する点で優れている。これらのフッ素含有無機リチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。フッ素含有無機リチウム塩として、LiFとルイス酸との複塩である化合物が好ましく、中でも、リン原子を有するフッ素含有無機リチウム塩を用いると、遊離のフッ素原子を放出し易くなることからより好ましい。フッ素含有無機リチウム塩として、ホウ素原子を有するフッ素含有無機リチウム塩を用いた場合には、電池劣化を招くおそれのある過剰な遊離酸成分を捕捉し易くなることから好ましく、このような観点からはLiBF4が特に好ましい。
【0090】
本実施形態の非水系電解液に用いるリチウム塩におけるフッ素含有無機リチウム塩の含有量については、非水系溶媒1Lに対して、0.01モル以上であることが好ましく、0.1モル以上であることがより好ましく、0.25モル以上であることが更に好ましい。フッ素含有無機リチウム塩の含有量が上述の範囲内にある場合、イオン伝導度が増大し、高出力特性を発現できる傾向にある。また、この含有量は、非水系溶媒1Lに対して、2.8モル未満であることが好ましく、1.5モル未満であることがより好ましく、1モル未満であることが更に好ましい。フッ素含有無機リチウム塩の含有量が上述の範囲内にある場合、イオン伝導度が増大し、高出力特性を発現できると共に、低温での粘度上昇に伴うイオン伝導度の低下を抑制できる傾向にあり、非水系電解液の優れた性能を維持しながら、高温サイクル特性及びその他の電池特性を一層良好なものとすることができる傾向にある。
【0091】
(有機リチウム塩)
本実施形態におけるリチウム塩は、有機リチウム塩を含んでよい。「有機リチウム塩」とは、炭素原子をアニオンに含み、アセトニトリルに可溶な、リチウム含有イミド塩以外のリチウム塩をいう。
【0092】
有機リチウム塩としては、シュウ酸基を有する有機リチウム塩を挙げることができる。シュウ酸基を有する有機リチウム塩の具体例としては、例えば、LiB(C2O4)2、LiBF2(C2O4)、LiPF4(C2O4)、及びLiPF2(C2O4)2のそれぞれで表される有機リチウム塩等が挙げられ、中でもLiB(C2O4)2及びLiBF2(C2O4)で表されるリチウム塩から選ばれる少なくとも1種のリチウム塩が好ましい。また、これらのうちの1種又は2種以上を、フッ素含有無機リチウム塩と共に使用することがより好ましい。このシュウ酸基を有する有機リチウム塩は、非水系電解液に添加する他、負極(負極活物質層)に含有させてもよい。
【0093】
本実施形態における有機リチウム塩の非水系電解液への添加量は、その使用による効果をより良好に確保する観点から、非水系溶媒1L当たりの量として、0.005モル以上であることが好ましく、0.01モル以上であることがより好ましく、0.02モル以上であることが更に好ましく、0.05モル以上であることが特に好ましい。ただし、上記シュウ酸基を有する有機リチウム塩の非水系電解液中の量が多すぎると析出する恐れがある。よって、上記シュウ酸基を有する有機リチウム塩の非水系電解液への添加量は、非水系溶媒1L当たりの量として、1.0モル未満であることが好ましく、0.5モル未満であることがより好ましく、0.2モル未満であることが更に好ましい。
【0094】
シュウ酸基を有する有機リチウム塩は、極性の低い有機溶媒、特に鎖状カーボネートに対して難溶性であることが知られている。本実施形態に係る非水系電解液における有機リチウム塩の含有量は、非水系溶媒1L当たりの量として、例えば、0.01モル以上0.5モル以下であってよい。
【0095】
なお、シュウ酸基を有する有機リチウム塩は、微量のシュウ酸リチウムを含有している場合があり、更に、非水系電解液として混合するときにも、他の原料に含まれる微量の水分と反応して、シュウ酸リチウムの白色沈殿を新たに発生させる場合がある。したがって、本実施形態に係る非水系電解液におけるシュウ酸リチウムの含有量は、500ppm以下の範囲に抑制することが好ましい。
【0096】
(その他のリチウム塩)
本実施形態におけるリチウム塩は、上記以外に、その他のリチウム塩を含んでよい。
【0097】
その他のリチウム塩の具体例としては、例えば、
LiClO4、LiAlO4、LiAlCl4、LiB10Cl10、クロロボランLi等のフッ素原子をアニオンに含まない無機リチウム塩;
LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li2C2F4(SO3)2、LiC(CF3SO2)3、LiCnF(2n+1)SO3{式中、n≧2}、低級脂肪族カルボン酸Li、四フェニルホウ酸Li、LiB(C3O4H2)2等の有機リチウム塩;
LiPF5(CF3)等のLiPFn(CpF2p+1)6-n〔式中、nは1~5の整数、pは1~8の整数である〕で表される有機リチウム塩;
LiBF3(CF3)等のLiBFq(CsF2s+1)4-q〔式中、qは1~3の整数、sは1~8の整数である〕で表される有機リチウム塩;
多価アニオンと結合されたリチウム塩;
下記式(XXa):
LiC(SO2Rjj)(SO2Rkk)(SO2Rll) (XXa)
{式中、Rjj、Rkk、及びRllは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素数1~8のパーフルオロアルキル基を示す。}、
下記式(XXb):
LiN(SO2ORmm)(SO2ORnn) (XXb)
{式中、Rmm、及びRnnは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素数1~8のパーフルオロアルキル基を示す。}、及び
下記式(XXc):
LiN(SO2Roo)(SO2ORpp) (XXc)
{式中、Roo、及びRppは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素数1~8のパーフルオロアルキル基を示す。}
のそれぞれで表される有機リチウム塩等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を、フッ素含有無機リチウム塩と共に使用することができる。
【0098】
その他のリチウム塩の非水系電解液への添加量は、非水系溶媒1L当たりの量として、例えば、0.01モル以上0.5モル以下の範囲で適宜に設定されてよい。
【0099】
<2-3.電極保護用添加剤>
本実施形態に係る非水系電解液は、電極を保護するための添加剤(電極保護用添加剤)を含んでよい。電極保護用添加剤は、リチウム塩を溶解させるための溶媒としての役割を担う物質(すなわち上記の非水系溶媒)と実質的に重複してよい。電極保護用添加剤は、非水系電解液及び非水系二次電池の性能向上に寄与する物質であることが好ましいが、電気化学的な反応には直接関与しない物質をも包含する。
【0100】
電極保護用添加剤の具体例としては、例えば、
4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、シス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、トランス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5-トリフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5,5-テトラフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、及び4,4,5-トリフルオロ-5-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オンに代表されるフルオロエチレンカーボネート;
ビニレンカーボネート、4,5-ジメチルビニレンカーボネート、及びビニルエチレンカーボネートに代表される不飽和結合含有環状カーボネート;
γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、δ-カプロラクトン、及びε-カプロラクトンに代表されるラクトン;
1,4-ジオキサンに代表される環状エーテル;
エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、ブチレンサルファイト、ペンテンサルファイト、スルホラン、3-スルホレン、3-メチルスルホラン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1-プロペン1,3-スルトン、及びテトラメチレンスルホキシドに代表される環状硫黄化合物;
が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0101】
非水系電解液中の電極保護用添加剤の含有量は、非水系溶媒の全量当たりの量として、0.1~30体積%であることが好ましく、0.3~15体積%であることがより好ましく、0.4~8体積%であることが更に好ましく、0.5~4体積%であることが特に好ましい。
【0102】
本実施形態においては、電極保護用添加剤の含有量が多いほど、非水系電解液の劣化が抑えられる。しかしながら、電極保護用添加剤の含有量が少ないほど、非水系二次電池の低温環境下における高出力特性が向上することになる。したがって、電極保護用添加剤の含有量を上記の範囲内に調整することによって、非水系二次電池としての基本的な機能を損なうことなく、電解液の高イオン伝導度に基づく優れた性能を発揮することができる傾向にあり、そして、このような組成で非水系電解液を調製することにより、非水系二次電池のサイクル性能、低温環境下における高出力性能及びその他の電池特性を、一層良好なものとすることができる傾向にある。
【0103】
アセトニトリルは、電気化学的に還元分解され易い。そのため、アセトニトリルを含む非水系溶媒は、負極への保護被膜形成のための電極保護用添加剤として、環状の非プロトン性極性溶媒を1種以上含むことが好ましく、不飽和結合含有環状カーボネートを1種以上含むことがより好ましい。
【0104】
不飽和結合含有環状カーボネートとしてはビニレンカーボネートが好ましく、ビニレンカーボネートの含有量は、非水系電解液中、0.1体積%以上4体積%以下であることが好ましく、0.2体積%以上3体積%未満であることがより好ましく、0.5体積%以上2.5体積%未満であることが更に好ましい。これにより、低温耐久性をより効果的に向上させることができ、低温性能に優れた二次電池を提供することが可能になる。
【0105】
電極保護用添加剤としてのビニレンカーボネートは、負極表面でのアセトニトリルの還元分解反応を抑制し、他方では、過剰な被膜形成は低温性能の低下を招く。そこで、ビニレンカーボネートの添加量を上記の範囲内に調整することで、界面(被膜)抵抗を低く抑えることができ、低温時のサイクル劣化を抑制することができる。
【0106】
(酸無水物)
本実施形態に係る非水系二次電池は、初回充電のときに非水系電解液の一部が分解し、負極表面にSEIを形成することにより安定化する。このSEIをより効果的に強化するため、非水系電解液、電池部材、又は非水系二次電池に、酸無水物を添加することができる。非水系溶媒としてアセトニトリルを含む場合には、温度上昇に伴いSEIの強度が低下する傾向にあるが、酸無水物の添加によってSEIの強化が促進される。よって、このような酸無水物を用いることにより、効果的に熱履歴による経時的な内部抵抗の増加を抑制することができる。
【0107】
酸無水物の具体例としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水安息香酸に代表される鎖状酸無水物;マロン酸無水物、無水コハク酸、グルタル酸無水物、無水マレイン酸、無水フタル酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸無水物、2,3-ナフタレンジカルボン酸無水物、又は、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物に代表される環状酸無水物;異なる2種類のカルボン酸、又はカルボン酸とスルホン酸等、違う種類の酸が脱水縮合した構造の混合酸無水物が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0108】
本実施形態に係る非水系二次電池は、非水系溶媒の還元分解前にSEIを強化することが好ましいことから、酸無水物としては初回充電のときに早期に作用する環状酸無水物を少なくとも1種含むことが好ましい。これら環状酸無水物は、1種のみ含んでも複数種含んでよい。又は、これらの環状酸無水物以外の環状酸無水物を含んでいてよい。また、環状酸無水物は、無水コハク酸、無水マレイン酸、及び無水フタル酸のうち少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0109】
無水コハク酸、無水マレイン酸、及び無水フタル酸のうち少なくとも1種を含む非水系電解液によれば、負極に強固なSEIを形成でき、より効果的に、高温加熱時の抵抗増加を抑制する。特に、無水コハク酸を含むことが好ましい。これにより、副反応を抑制しつつ、より効果的に、負極に強固なSEIを形成できる。
【0110】
本実施形態に係る非水系電解液が酸無水物を含有する場合、その含有量は、非水系電解液100質量部当たりの量として、0.01質量部以上10質量部以下の範囲であることが好ましく、0.05質量部以上1質量部以下であることがより好ましく、0.1質量部以上0.5質量部以下であることが更に好ましい。
【0111】
酸無水物は、非水系電解液が含有することが好ましい。他方、酸無水物が、非水系二次電池の中で作用することが可能であればよいので、正極、負極、及びセパレータから成る群より選ばれる少なくとも1種の電池部材が、酸無水物を含有していてよい。酸無水物を電池部材含有させる方法としては、例えば、電池部材作製時にその電池部材に含有させてよいし、電池部材への塗布、浸漬又は噴霧乾燥等に代表される後処理によってその電池部材に含浸させてよい。
【0112】
(窒素含有環状化合物)
本実施形態に係る電解液は、非水系溶媒とリチウム塩に加えて、添加剤として、下記式(2):
【化16】
{式中、R
1、R
2、及びR
3で表される置換基は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のフッ素置換アルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~4のフッ素置換アルコキシ基、フェニル基、シクロヘキシル基、ニトリル基、ニトロ基、アミノ基、N,N’-ジメチルアミノ基、又はN,N’-ジエチルアミノ基であり、これらの置換基のうち2つ以上は水素原子である}
で表される化合物(窒素含有環状化合物)をさらに含有してもよい。
【0113】
本実施形態では、非水系溶媒としてのアセトニトリルと、リチウム塩としての上記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩と、上記式(2)で表される窒素含有環状化合物とを併用することによって、例えば85℃または90℃または90℃を超えるような高温環境下で、非水電解液又は非水系二次電池の耐久性を向上させられることが見出された。
【0114】
窒素含有環状化合物の具体例としては、例えば、ピリジン、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2-エチルピリジン、3-エチルピリジン、4-エチルピリジン、2-(n-プロピル)ピリジン、3-(n-プロピル)ピリジン、4-(n-プロピル)ピリジン、2-イソプロピルピリジン、3-イソプロピルピリジン、4-イソプロピルピリジン、2-(n-ブチル)ピリジン、3-(n-ブチル)ピリジン、4-(n-ブチル)ピリジン、2-(1-メチルプロピル)ピリジン、3-(1-メチルプロピル)ピリジン、4-(1-メチルプロピル)ピリジン、2-(2-メチルプロピル)ピリジン、3-(2-メチルプロピル)ピリジン、4-(2-メチルプロピル)ピリジン、2-(tert-ブチル)ピリジン、3-(tert-ブチル)ピリジン、4-(tert-ブチル)ピリジン、2-トリフルオロメチルピリジン、3-トリフルオロメチルピリジン、4-トリフルオロメチルピリジン、2-(2,2,2-トリフルオロエチル)ピリジン、3-(2,2,2-トリフルオロエチル)ピリジン、4-(2,2,2-トリフルオロエチル)ピリジン、2-(ペンタフルオロエチル)ピリジン、3-(ペンタフルオロエチル)ピリジン、4-(ペンタフルオロエチル)ピリジン、2-メトキシピリジン、3-メトキシピリジン、4-メトキシピリジン、2-エトキシピリジン、3-エトキシピリジン、4-エトキシピリジン、2-(n-プロポキシ)ピリジン、3-(n-プロポキシ)ピリジン、4-(n-プロポキシ)ピリジン、2-イソプロポキシピリジン、3-イソプロポキシピリジン、4-イソプロポキシピリジン、2-(n-ブトキシ)ピリジン、3-(n-ブトキシ)ピリジン、4-(n-ブトキシ)ピリジン、2-(1-メチルプロポキシ)ピリジン、3-(1-メチルプロポキシ)ピリジン、4-(1-メチルプロポキシ)ピリジン、2-(2-メチルプロポキシ)ピリジン、3-(2-メチルプロポキシ)ピリジン、4-(2-メチルプロポキシ)ピリジン、2-トリフルオロメトキシピリジン、3-トリフルオロメトキシピリジン、4-トリフルオロメトキシピリジン、2-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)ピリジン、3-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)ピリジン、4-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)ピリジン、2-フェニルピリジン、3-フェニルピリジン、4-フェニルピリジン、2-シクロヘキシルピリジン、3-シクロヘキシルピリジン、4-シクロヘキシルピリジン、2-シアノピリジン、3-シアノピリジン、4-シアノピリジン、2-アミノピリジン、3-アミノピリジン、4-アミノピリジン、2-(N,N’-ジメチルアミノ)ピリジン、3-(N,N’-ジメチルアミノ)ピリジン、4-(N,N’-ジメチルアミノ)ピリジン、2-(N,N’-ジエチルアミノ)ピリジン、3-(N,N’-ジエチルアミノ)ピリジン、及び4-(N,N’-ジエチルアミノ)ピリジンが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。中でも、非水系電解液又は非水系二次電池の高温耐久性を更に向上させるという観点から、窒素含有環状化合物としては、ピリジン、及び4-(tert-ブチル)ピリジンから成る群より選ばれる1種以上の化合物が好ましい。
【0115】
フッ素含有無機リチウム塩として、LiFとルイス酸との複塩である化合物を用いる場合、窒素含有環状化合物における窒素原子周辺には立体障害が存在しないことが望ましい。そのため、上記式(2)中のR1は水素原子であることが好ましく、R1及びR2が共に水素原子であることがより好ましい。上記式(2)中のR1及びR2がともに水素原子である場合、窒素原子上に存在する非共有電子対に及ぼす電子的効果の観点から、上記式(2)中のR3は、水素原子又はtert-ブチル基であることが特に好ましい。本実施形態の電解液が添加剤として上記式(2)で表される窒素含有環状化合物を含有することによって、粘度と比誘電率とのバランスに優れたアセトニトリルと、フッ素含有無機リチウム塩と、を含有する非水系電解液において、遷移金属とアセトニトリルとからなる錯体カチオンの生成を抑制し、優れた負荷特性を発揮するとともに、高温貯蔵時の自己放電を抑制することができる。本実施形態における電解液中の窒素含有環状化合物の含有量については、特に制限はないが、電解液の全量を基準として、0.01~10質量%であることが好ましく、0.02~5質量%であることがより好ましく、0.05~3質量%であることが更に好ましい。
【0116】
非水系電解液において、上記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量に対する上記式(2)で表される窒素含有環状化合物の含有量は、モル比で0.0001以上3以下であることが好ましい。環状アニオン含有リチウム塩の効果によりアセトニトリルの持つニトリル基の配位能を弱めつつ、上記式(2)で表される窒素含有環状化合物、例えばピリジン系化合物などの効果により遷移金属とアセトニトリルとから成る錯体カチオンの生成を抑制する、という両化合物の効果を最大限に得る観点から、非水系電解液において、式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量に対する上記式(2)で表される窒素含有環状化合物の含有量は、モル比で0.0001以上であることが好ましく、0.001以上であることがより好ましく、0.01以上であることがさらに好ましく、またこのモル比は、3以下であることが好ましく、1以下であることがより好ましく、0.1以下であることがさらに好ましい。このモル比が上述の範囲にある場合、金属錯体の負極での還元析出による負極SEIの劣化が抑制され、長期的な高温耐久性が向上する。
【0117】
式(2)で表される窒素含有環状化合物の含有量は、非水系電解液の全量に対して0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.02質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、0.05質量%以上1質量%以下であることが更に好ましい。式(2)で表される窒素含有環状化合物は、非水系電解液又は非水系二次電池の長期的な高温耐久性の観点から、非水系電解液の全量に対して0.01質量%以上で含まれることが好ましい。式(2)で表される窒素含有環状化合物は、非水系二次電池の低温環境下における出力性能の観点から、非水系電解液の全量に対して10質量%以下で含まれることが好ましい。
【0118】
本実施形態においては、窒素含有環状化合物の含有量を上述の範囲内に調整することによって、非水系二次電池としての基本的な機能を損なうことなく、電極表面における反応が抑制できるため、充放電に伴う内部抵抗の増加を低減できる。
【0119】
また、上記のような組成で電解液を調製することにより、非水系二次電池のサイクル性能、低温環境下における高出力性能、及びその他の電池特性のすべてを、一層良好なものとすることができる傾向にある。
【0120】
(シラン系化合物)
本実施形態に係る電解液は、非水系溶媒とリチウム塩に加えて、添加剤として、下記一般式(3):
X-Si(OR
3)
(3-m)R
4
m・・・・・(3)
{式中、R
3及びR
4は、アリール基若しくはアルコキシシリル基若しくはハロゲン原子で置換されてよいアルキル基、又はアルキル基若しくはアルコキシシリル基若しくはハロゲン原子で置換されてよいアリール基を示し、そしてXは、下記式(L1):
【化17】
(式中、kは0~8の整数であり、そして*はSiとの結合個所を示す)、
下記式(L2):
【化18】
(式中、jは0~8の整数であり、そして*はSiとの結合個所を示す)、
下記式(L3):
【化19】
(式中、hは0~8の整数であり、gは0又は1の整数であり、そして*はSiとの結合個所を示す)、及び
下記式(L4):
【化20】
(式中、*はSiとの結合個所を示す)
で表される基から成る群より選ばれる少なくとも1つを示し、そしてmは0~2の整数である}、
下記一般式(4):
【化21】
{式中、Xは各々独立して、前記式(L1)~(L4)で表される基から成る群より選ばれる少なくとも1つを示し、そしてdは0~10000の整数である。}、
下記一般式(5):
【化22】
{式中、R
5は各々独立して、アリール基若しくはハロゲン原子で置換されてよいアルキル基又はアルキル基若しくはハロゲン原子で置換されてよいアリール基を示し、yは2~8の整数であり、そしてXは前記式(L1)~(L4)で表される基から成る群より選ばれる少なくとも1つを示す。}、
下記一般式(6):
X-Si(OR
3'OR
3)
(3-m)R
4
m・・・・・(6)
{式中、R
3、R
4、X、及びmは、一般式(3)において定義されたとおりであり、かつR
3’は、アリール基、アルコキシシリル基又はハロゲン原子で置換されてよいアルキレン基である}、
下記式(7):
【化23】
{式(7)中、Rは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1~20のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数2~20のアルケニル基、置換若しくは無置換の炭素数2~20のアルキニル基、又は置換若しくは無置換の炭素数5~20のアリール基であり;Xは、O、S、又はNHであり;Zは、P、P=O、B、又はSiであり;ZがP又はP=Oのとき、n1は1であって、n2は1~3の整数であり、かつn2+n3=3であり;ZがBのとき、n1は1であってn2は1~3の整数であり、かつn2+n3=3であり;ZがSiのとき、n1は0であってn2は1~4の整数であり、かつn2+n3=4である。}で表される化合物、及び
下記式(8):
【化24】
{式(8)中のRは、式(7)中のRと同じ意味である。}で表される繰り返し単位を含む高分子化合物、並びにジフェニルジアルコキシシランから成る群より選ばれる少なくとも1種のシラン系化合物をさらに含有してもよい。
【0121】
本実施形態では、非水系溶媒としてのアセトニトリルと、リチウム塩としての上記式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩と、上記シラン系化合物とを併用することによって、例えば85℃または90℃または90℃を超えるような高温環境下で、非水電解液又は非水系二次電池の耐久性を向上させられることが見出された。
【0122】
一般式(3)~(8)で表される化合物、並びにジフェニルジアルコキシシランには、非水系電解液を酸化劣化させる活性点(正極活物質の活性点)を抑制する効果がある。このような化合物を用いることによって、優れた負荷特性を発揮するとともに、高温貯蔵又は充放電サイクルを繰り返したときの各種劣化現象を抑制することができる、非水系電解液及び非水系二次電池を提供することができる。また、ジフェニルジアルコキシシランのフッ化水素(HF)トラップ効果によって、ニッケル(Ni)比率の高い正極活物質の劣化が抑制されるとともに、LiPF6に含まれるPF5のルイス酸触媒活性を下げ、高イオン伝導度化に寄与するアセトニトリル溶媒の分解を抑制することもできる。
【0123】
一般式(3)~(6)で表される化合物の具体例としては、例えば、トリエトキシビニルシラン、アリルトリエトキシシラン、トリエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)シラン、2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサン、アリルトリス(トリメチルシリルオキシ)シラン、1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン、1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチル-3-(3-グリシジルオキシプロピル)トリシロキサン、2,4,6-トリメチル-2,4,6-トリビニルシクロトリシロキサン、アリルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、[8-(グリシジルオキシ)-n-オクチル]トリメトキシシラン、トリメトキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリメトキシ(7-オクテン-1-イル)シラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ジエトキシメチルビニルシラン、ジエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、3-グリシジルオキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、ビニル基末端ジメチルポリシロキサン、アリル基末端ジメチルポリシロキサン、エポシキ基末端ジメチルポリシロキサン、グリシジル基末端ジメチルポリシロキサン、シクロエポキシ基末端ジメチルポリシロキサン、アルキルシクロエポキシ基末端ジメチルポリシロキサン等が挙げられる。
【0124】
上記式(7)におけるRは、置換若しくは無置換の炭素数1~20のアルキル基であることが好ましく、無置換の炭素数1~20のアルキル基、又はハロゲン原子で置換された炭素数1~20のアルキル基であることがより好ましく、更に好ましくは炭素数1~6若しくは1~4のアルキル基、又は炭素数1~6若しくは1~4のフルオロアルキル基であり、特に好ましくはメチル基又は2,2,2-トリフルオロエチル基である。
Xとして好ましくは酸素原子である。
【0125】
上記式(7)におけるZがPである化合物として、具体的には例えば、亜リン酸モノ(トリメチルシリル)、亜リン酸トリス(トリメチルシリル)、亜リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)等が挙げられる。
ZがP=Oである化合物として、具体的には例えば、リン酸トリス(トリメチルシリル)等が挙げられる。
ZがBである化合物として、具体的には例えば、ホウ酸トリス(トリメチルシリル)、ホウ酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチルシリル)等が挙げられる。
ZがSiである化合物として、具体的には例えば、トリス(トリメチルシリル)シラン等が挙げられる。
【0126】
上記式(8)で表される繰り返し単位を含む高分子化合物として、具体的には例えば、ポリリン酸トリメチルシリル等が挙げられる。
【0127】
ジフェニルジアルコキシシランは、非水系電解液を非水系二次電池に使用するときに、電極保護用添加剤として働くことができる。ジフェニルジアルコキシシランの具体例としては、例えば、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジプロポキシシラン、ジフェニルジブトキシシランが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。中でも、分子量が最も小さいジフェニルジメトキシシランを用いると、単位重量当たりのモル数が増えることからより好ましい。
【0128】
これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。上記で列挙されたシラン系化合物の中でも、非水系電解液又は非水系二次電池の高温耐久性を更に向上させるという観点から、上記式(3)で表される化合物、リン酸トリス(トリメチルシリル)、亜リン酸トリス(トリメチルシリル)、亜リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)およびジフェニルジアルコキシシランが好ましく、トリエトキシビニルシランおよびジフェニルジメトキシシランがより好ましい。
【0129】
非水系電解液において、式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量に対するシラン系化合物の含有量は、モル比で0.0001以上1.5以下であることが好ましい。環状アニオン含有リチウム塩の効果によりアセトニトリルの持つニトリル基の配位能を弱めつつ、シラン系化合物の効果により非水系電解液を酸化劣化させる活性点(正極活物質の活性点)を抑制する、という両化合物の効果を最大限に得る観点から、非水系電解液において、式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量に対するシラン系化合物の含有量は、モル比で0.0001以上であることが好ましく、0.001以上であることがより好ましく、0.01以上であることがさらに好ましく、また、このモル比は、1.5以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましく、0.1以下であることがさらに好ましい。式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量に対するシラン系化合物の含有量のモル比が上述の範囲にある場合、金属錯体の負極での還元析出による負極SEIの劣化が抑制され、長期的な高温耐久性が向上する。
【0130】
一般式(3)~(8)で表される化合物、並びにジフェニルジアルコキシシランから成る群から選択されるシラン系化合物の含有量は、非水系電解液の全量(すなわち、非水系電解液100質量%)に対して、0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、0.075質量%以上3質量%以下であることが更に好ましい。この範囲にあることによって、非水系二次電池の内部抵抗を低い状態に保ちながら、非水系電解液を酸化劣化させる正極活物質の活性点を効果的に抑制することができる。
【0131】
<2-4.その他の任意的添加剤>
本実施形態においては、非水系二次電池の充放電サイクル特性の改善、高温貯蔵性、安全性の向上(例えば過充電防止等)等の目的で、非水系電解液に、任意的添加剤(酸無水物、及び電極保護用添加剤以外の添加剤)を適宜含有させることもできる。
【0132】
任意的添加剤としては、例えば、スルホン酸エステル、ジフェニルジスルフィド、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、フルオロベンゼン、tert-ブチルベンゼン、リン酸エステル〔エチルジエチルホスホノアセテート(EDPA);(C2H5O)2(P=O)-CH2(C=O)OC2H5、リン酸トリス(トリフルオロエチル)(TFEP);(CF3CH2O)3P=O、リン酸トリフェニル(TPP);(C6H5O)3P=O、リン酸トリアリル;(CH2=CHCH2O)3P=O等〕等が挙げられる。特に、リン酸エステルは、貯蔵時の副反応を抑制する作用があり、任意的添加剤として効果的である。
【0133】
本実施形態に係る非水系電解液がその他の任意的添加剤を含有する場合、その含有量は、非水系電解液の全量当たりの量として、0.01質量%以上10質量%以下の範囲であることが好ましく、0.02質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、0.05~3質量%であることが更に好ましい。その他の任意的添加剤の含有量を上記の範囲内に調整することによって、非水系二次電池としての基本的な機能を損なうことなく、より一層良好な電池特性を付加することができる傾向にある。
【0134】
<3.非水系二次電池>
本実施形態の非水系電解液は、非水系二次電池に用いることができる。
本実施形態に係る非水系二次電池は、特に制限を与えるものではないが、正極、負極、セパレータ、及び非水系電解液が、適当な電池外装中に収納されて構成される。
【0135】
本実施形態に係る非水系二次電池としては、具体的には、
図1及び2に図示される非水系二次電池100であってよい。ここで、
図1は非水系二次電池を概略的に表す平面図であり、
図2は
図1のA-A線断面図である。
【0136】
図1、
図2に示す非水系二次電池100は、パウチ型セルで構成される。非水系二次電池100は、電池外装110の空間120内に、正極150と負極160とをセパレータ170を介して積層して構成した積層電極体と、非水系電解液(図示せず)とを収容している。電池外装110は、例えばアルミニウムラミネートフィルムで構成されており、2枚のアルミニウムラミネートフィルムで形成された空間の外周部において、上下のフィルムを熱融着することにより封止されている。正極150、セパレータ170、及び負極160を順に積層した積層体には、非水系電解液が含浸されている。ただし、この
図2では、図面が煩雑になることを避けるために、電池外装110を構成している各層、並びに正極150及び負極160の各層を区別して示していない。
【0137】
電池外装110を構成するアルミニウムラミネートフィルムは、アルミニウム箔の両面をポリオレフィン系の樹脂でコートしたものであることが好ましい。
【0138】
正極150は、非水系二次電池100内で正極リード体130と接続している。図示していないが、負極160も、非水系二次電池100内で負極リード体140と接続している。そして、正極リード体130及び負極リード体140は、それぞれ、外部の機器等と接続可能なように、片端側が電池外装110の外側に引き出されており、それらのアイオノマー部分が、電池外装110の1辺とともに熱融着されている。
【0139】
図1及び2に図示される非水系二次電池100は、正極150及び負極160が、それぞれ1枚ずつの積層電極体を有しているが、容量設計により正極150及び負極160の積層枚数を適宜増やすことができる。正極150及び負極160をそれぞれ複数枚有する積層電極体の場合には、同一極のタブ同士を溶接等により接合したうえで1つのリード体に溶接等により接合して電池外部に取り出してよい。上記同一極のタブとしては、集電体の露出部から構成される態様、集電体の露出部に金属片を溶接して構成される態様等が可能である。
【0140】
正極150は、正極集電体と、正極活物質層とから構成される。負極160は、負極集電体と、負極活物質層とから構成される。
【0141】
正極活物質層は正極活物質を含み、負極活物質層は負極活物質を含む。
【0142】
正極150及び負極160は、セパレータ170を介して正極活物質層と負極活物質層とが対向するように配置される。
以下、本実施形態に係る非水系二次電池を構成する各要素について、順に説明する。
【0143】
<4.正極>
正極150は、正極合剤から作製した正極活物質層と、正極集電体とから構成される。正極合剤は、正極活物質を含有し、必要に応じて、導電助剤及びバインダーを含有する。
【0144】
正極活物質層は、正極活物質として、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な材料を含有する。このような材料は、高電圧及び高エネルギー密度を得ることができる。
【0145】
正極活物質としては、例えば、Ni、Mn、及びCoから成る群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含有する正極活物質が挙げられ、下記一般式(at):
LipNiqCorMnsMtOu・・・・・(at)
{式中、Mは、Al、Sn、In、Fe、V、Cu、Mg、Ti、Zn、Mo、Zr、Sr、及びBaから成る群から選ばれる少なくとも1種の金属であり、且つ、0<p<1.3、0<q<1.2、0<r<1.2、0≦s<0.5、0≦t<0.3、0.7≦q+r+s+t≦1.2、1.8<u<2.2の範囲であり、そしてpは、電池の充放電状態により決まる値である。}
で表されるリチウム(Li)含有金属酸化物から選ばれる少なくとも1種のLi含有金属酸化物が好適である。
【0146】
正極活物質の具体例としては、例えば、LiCoO2に代表されるリチウムコバルト酸化物;LiMnO2、LiMn2O4、及びLi2Mn2O4に代表されるリチウムマンガン酸化物;LiNiO2に代表されるリチウムニッケル酸化物;LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、LiNi0.8Co0.2O2に代表されるLizMO2(式中、Mは、Ni、Mn、Al、及びMgから成る群より選ばれる2種以上の金属元素を示し、そしてzは、0.9超1.2未満の数を示す)で表されるリチウム含有複合金属酸化物等が挙げられる。
【0147】
特に、一般式(at)で表されるLi含有金属酸化物のNi含有比qが、0.5<q<1.2であると、レアメタルであるCoの使用量削減と、高エネルギー密度化の両方が達成されるため好ましい。そのような正極活物質としては、例えば、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.75Co0.15Mn0.15O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2、LiNi0.85Co0.075Mn0.075O2、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2、LiNi0.81Co0.1Al0.09O2、LiNi0.85Co0.1Al0.05O2、等に代表されるリチウム含有複合金属酸化物が挙げられる。
【0148】
他方、Li含有金属酸化物のNi含有比が高まるほど、低電圧で劣化が進行する傾向にある。一般式(at)で表される層状岩塩型の正極活物質には、電解液を酸化劣化させる活性点が本質的に存在する。この活性点が電極保護用添加剤を意図せず消費してしまうことがある。
【0149】
また、正極側に取り込まれ堆積したこれらの添加剤分解物は非水系二次電池の内部抵抗増加要因となるだけでなく、リチウム塩の劣化も加速させる。特に、リチウム塩としてLiPF6が含まれる場合、劣化によりHFが生成し、遷移金属の溶出が促進されることが考えられる。非水系溶媒としてアセトニトリルを含有する非水系電解液では、金属カチオンとアセトニトリルの錯体が形成され、電池の劣化が加速する。
【0150】
更に、電極保護用添加剤、又はリチウム塩の劣化により、本来の目的であった負極表面の保護も不十分にしてしまう。特に、非水系溶媒としてアセトニトリルを含有する非水系電解液では、負極表面の保護が十分でない場合にアセトニトリルの還元分解が進行し、電池性能が急激に悪化するため、致命的な課題となる。
【0151】
非水系電解液を本質的に酸化劣化させる活性点を失活させるにはヤーンテラー歪みの制御又は中和剤的な役割を担う成分の共存が重要である。そのため、正極活物質にはAl、Sn、In、Fe、V、Cu、Mg、Ti、Zn、Mo、Zr、Sr、及びBaから成る群より選ばれる少なくとも1種の金属を含有することが好ましい。
【0152】
同様の理由により、正極活物質の表面が、Zr、Ti、Al、及びNbから成る群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有する化合物で被覆されていることが好ましい。また、正極活物質の表面が、Zr、Ti、Al、及びNbから成る群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有する酸化物で被覆されていることがより好ましい。更に、正極活物質の表面が、ZrO2、TiO2、Al2O3、NbO3、及びLiNbO2から成る群より選ばれる少なくとも1種の酸化物で被覆されていることが、リチウムイオンの透過を阻害しないため特に好ましい。
【0153】
上記一般式(at)で表されるリチウム(Li)含有金属酸化物から選ばれる少なくとも1種のLi含有金属酸化物を用いた場合、LiPF6の含有量に対する環状アニオン含有リチウム塩の含有量のモル比は、3以上であることが好ましく、150以下であることが好ましい。LiPF6の含有量に対する環状アニオン含有リチウム塩の含有量のモル比が上述の範囲にあると、Niを含むLi含有金属酸化物を正極に用いた場合に、正極金属溶出を抑制しながら、環状アニオン含有リチウム塩由来の有機成分と、LiPF6由来の無機成分のバランスに優れた負極SEIを形成することで、優れた高温耐久性を得ることができるとともに、優れた出力特性および低温特性を得ることができる。
【0154】
上記一般式(at)で表されるリチウム(Li)含有金属酸化物から選ばれる少なくとも1種のLi含有金属酸化物を用いた場合であって、一般式(at)で表されるLi含有金属酸化物のNi含有比qが、q≦0.5である場合、アセトニトリルの含有量は、前記非水系溶媒の全量に対して、10体積%以上であることが好ましく、49体積%以下であることが好ましい。また、一般式(at)で表されるLi含有金属酸化物のNi含有比qが、0.5<q<1.2である場合、アセトニトリルの含有量は、前記非水系溶媒の全量に対して、10体積%以上であることが好ましく、35体積%以下であることが好ましい。アセトニトリルの含有量が上述の範囲にあると、Niを含むLi含有金属酸化物を正極に用いた場合に、イオン伝導度が増大しながら、アセトニトリルが正極活物質中の遷移金属に配位することで起こる遷移金属の溶出を抑制するとともに、正極Al集電体-正極活物質間の物理的なはく離を抑制し、優れた出力特性および低温特性を得ることができるとともに、優れた高温耐久性を得ることができる。
【0155】
上記一般式(at)で表されるリチウム(Li)含有金属酸化物から選ばれる少なくとも1種のLi含有金属酸化物を用いた場合であって、一般式(at)で表されるLi含有金属酸化物のNi含有比qが、q≦0.5である場合、アセトニトリルの含有量に対する式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量は、モル比で0.06以上であることが好ましく、0.075以上であることがより好ましく、0.1以上であることがさらに好ましく、0.15以上であることがさらに好ましく、0.79以下であることが好ましく、0.75以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましく、0.25以下であることがさらに好ましい。上述の範囲にあると、Niを含むLi含有金属酸化物を正極に用いた場合に、高温下でのアセトニトリルによる正極金属溶出、および、正極Al集電体-正極活物質間の物理的なはく離を効果的に抑制することで、優れた高温耐久性を得ることができるとともに、優れた出力特性および低温特性を得ることができる。また、一般式(at)で表されるLi含有金属酸化物のNi含有比qが、0.5<q<1.2である場合、アセトニトリルの含有量に対する式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量は、モル比で0.1以上であることが好ましく、0.15以上であることがより好ましく、0.17以上であることがさらに好ましく、1.5以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましく、0.4以下であることがさらに好ましい。上述の範囲にあると、Ni含有比が高く高温下での正極金属溶出が起こり易いLi含有金属酸化物を正極に用いた場合でも、高温下でのアセトニトリルによる正極金属溶出、および、正極Al集電体-正極活物質間の物理的なはく離を効果的に抑制することで、優れた高温耐久性を得ることができるとともに、優れた出力特性および低温特性を得ることができる。
【0156】
本実施形態に係る非水系二次電池では、鉄(Fe)原子が含まれるオリビン結晶構造を有するリチウムリン金属酸化物を使用することが好ましく、下記式(Xba):
LiwMIIPO4 (Xba)
{式中、MIIは、Feを含む少なくとも1種の遷移金属元素を含む1種以上の遷移金属元素を示し、そしてwの値は、電池の充放電状態により決まり、0.05~1.10の数を示す}
で表されるはオリビン構造を有するリチウムリン金属酸化物を用いることがより好ましい。これらのリチウム含有金属酸化物は、構造を安定化させる等の目的から、Al、Mg、又はその他の遷移金属元素により遷移金属元素の一部を置換したもの、これらの金属元素を結晶粒界に含ませたもの、酸素原子の一部をフッ素原子等で置換したもの、正極活物質表面の少なくとも一部に他の正極活物質を被覆したもの等であってもよい。
【0157】
正極活物質としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸金属酸化物、及びリチウムと遷移金属元素とを含むケイ酸金属酸化物が挙げられる。より高い電圧を得る観点から、リチウム含有金属酸化物としては、特に、リチウムと、Co、Ni、Mn、Fe、Cu、Zn、Cr、V、及びTiから成る群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素と、を含むリン酸金属酸化物が好ましく、上記式(Xba)で表されるリチウムリン金属酸化物の観点から、LiとFeを含むリン酸金属酸化物がより好ましい。
【0158】
上記式(Xba)で表されるリチウムリン金属酸化物とは異なるリチウムリン金属酸化物として、下記式(Xa):
LivMID2 (Xa)
{式中、Dは、カルコゲン元素を示し、MIは、少なくとも1種の遷移金属元素を含む1種以上の遷移金属元素を示し、そしてvの値は、電池の充放電状態により決まり、0.05~1.10の数を示す}、
で表される化合物を使用してもよい。
【0159】
上記式(Xba)で表されるオリビン構造を有するリチウムリン金属酸化物を用いた場合、アセトニトリルの含有量は、前記非水系溶媒の全量に対して、30体積%以上であることが好ましく、66体積%以下であることが好ましい。アセトニトリルの含有量が上述の範囲にあると、正極結晶構造の安定性に優れ、高温下での正極金属溶出が比較的起こり難いリチウムリン金属酸化物を正極に用いた場合でも、イオン伝導度が増大しながら、アセトニトリルが正極活物質中の遷移金属に配位することで起こる遷移金属の溶出を抑制するとともに、正極Al集電体-正極活物質間の物理的なはく離を抑制し、優れた出力特性および低温特性を得ることができるとともに、優れた高温耐久性を得ることができる。
【0160】
上記式(Xba)で表されるオリビン構造を有するリチウムリン金属酸化物を用いた場合、アセトニトリルの含有量に対する式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩の含有量は、モル比で0.05以上であることが好ましく、0.075以上であることがより好ましく、0.08以上であることがより好ましく、0.1以上であることがさらに好ましく、0.4以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましく、0.27以下であることがより好ましく、0.2以下であることがさらに好ましい。アセトニトリルの含有量に対する環状アニオン含有リチウム塩の含有量のモル比が上述の範囲にあると、正極結晶構造の安定性に優れ、高温下での正極金属溶出が比較的起こり難いリチウムリン金属酸化物を正極に用いた場合でも、高温下でのアセトニトリルによる正極金属溶出、および、正極Al集電体-正極活物質間の物理的なはく離を効果的に抑制することで、優れた高温耐久性を得ることができるとともに、優れた出力特性および低温特性を得ることができる。
【0161】
上記式(Xba)で表されるオリビン構造を有するリチウムリン金属酸化物を用いた場合、LiPF6の含有量に対する環状アニオン含有リチウム塩の含有量のモル比は、3以上であることが好ましく、150以下であることが好ましい。LiPF6の含有量に対する環状アニオン含有リチウム塩の含有量のモル比が上述の範囲にあると、正極結晶構造の安定性に優れ、高温下での正極金属溶出が比較的起こり難いリチウムリン金属酸化物を正極に用いた場合でも、正極金属溶出を抑制しながら、環状アニオン含有リチウム塩由来の有機成分と、LiPF6由来の無機成分のバランスに優れた負極SEIを形成することで、優れた高温耐久性を得ることができるとともに、優れた出力特性および低温特性を得ることができる。
【0162】
本実施形態における正極活物質としては、上記のようなリチウム含有金属酸化物のみを用いてもよいし、該リチウム含有金属酸化物と共にその他の正極活物質を併用してもよい。その他の正極活物質としては、例えば、トンネル構造及び層状構造を有する金属酸化物又は金属カルコゲン化物;イオウ;導電性高分子等が挙げられる。トンネル構造及び層状構造を有する金属酸化物、又は金属カルコゲン化物としては、例えば、MnO2、FeO2、FeS2、V2O5、V6O13、TiO2、TiS2、MoS2、及びNbSe2に代表されるリチウム以外の金属の酸化物、硫化物、セレン化物等が挙げられる。導電性高分子としては、例えば、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、及びポリピロールに代表される導電性高分子が挙げられる。
【0163】
上述のその他の正極活物質は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。リチウムイオンを可逆安定的に吸蔵及び放出することが可能であり、且つ、高エネルギー密度を達成できることから、正極活物質層がNi、Mn、及びCoから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含有することが好ましい。
【0164】
正極活物質として、リチウム含有金属酸化物とその他の正極活物質とを併用する場合、両者の使用割合としては、正極活物質の全部に対するリチウム含有金属酸化物の使用割合として、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましい。
【0165】
正極活物質層は、正極活物質と、必要に応じて導電助剤及びバインダーとを混合した正極合剤を溶剤に分散した正極合剤含有スラリーを、正極集電体に塗布及び乾燥(溶媒除去)し、必要に応じてプレスすることにより形成される。このような溶剤としては、公知のものを用いることができる。例えば、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、水等が挙げられる。
【0166】
導電助剤としては、例えば、グラファイト;アセチレンブラック、及びケッチェンブラックに代表されるカーボンブラック;並びに炭素繊維が挙げられる。導電助剤の含有量は、正極活物質100質量部当たりの量として、1質量部~20質量部とすることが好ましく、より好ましくは2質量部~15質量部である。
【0167】
導電助剤の含有量は、多すぎると体積エネルギー密度が低下するが、少なすぎると電子伝導パスの形成が不十分となる。特に、正極活物質層は負極活物質層と比べて電子伝導性が低いため、導電助剤の量が不足している場合は、非水系二次電池を高い電流値で放電または充電した際に、所定の電池容量を取り出すことができなくなる。そのため、高出力及び/又は急速充電が必要な用途では、電子の移動に基づく反応が律速とならない範囲に導電助剤の含有量を増やした方が好ましい。
【0168】
バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム、及びフッ素ゴムが挙げられる。バインダーの含有割合は、正極活物質100質量部に対して、6質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5~4質量部である。
【0169】
正極集電体は、例えば、アルミニウム箔、ニッケル箔、ステンレス箔等の金属箔により構成される。正極集電体は、表面にカーボンコートが施されていてもよく、メッシュ状に加工されていてもよい。正極集電体の厚さは、5~40μmであることが好ましく、7~35μmであることがより好ましく、9~30μmであることが更に好ましい。
【0170】
正極集電体を除く正極片面当たりの目付量は、非水系二次電池における体積エネルギー密度を向上させるという観点から、15mg/cm2以上であることが好ましく、17.5mg/cm2以上であることがより好ましく、24mg/cm2以上であることがさらに好ましい。また、正極集電体を除く正極片面当たりの目付量は、200mg/cm2以下であることが好ましく、100mg/cm2以下であることがより好ましく、60mg/cm2以下であることが更に好ましい。正極集電体を除く正極片面当たりの目付量を上記の範囲に制限することによって、体積エネルギー密度の高い電極活物質層を設計した場合においても、高出力性能を実現する非水系二次電池を提供することができる。
【0171】
ここで、目付量とは、集電体の片面に電極活物質層を形成する場合は、電極面積1cm2あたりに含まれる電極活物質の質量を示し、集電体の両面に電極活物質層を形成する場合は、各片面の電極面積1cm2あたりに含まれる電極活物質の質量を示す。電極集電体に電極活物質を多く塗布すると、電池の単位体積あたりの電極活物質量が、電池容量に関係しない他の電池材料、例えば集電箔やセパレータよりも相対的に多くなるため、電池としては高容量化することになる。
集電体の片面に電極活物質層を形成する場合の目付量は、下記式(12)により算出することができる。
目付量[mg/cm2]=(電極質量[mg]-電極集電体質量[mg])÷電極面積[cm2] ・・・・・(12)
【0172】
<5.負極>
負極160は、負極合剤から作製した負極活物質層と、負極集電体とから構成される。負極160は、非水系二次電池の負極として作用することができる。
【0173】
負極合剤は、負極活物質を含有し、必要に応じて導電助剤及びバインダーを含有する。
【0174】
負極活物質としては、例えば、アモルファスカーボン(ハードカーボン、ソフトカーボン)、黒鉛(人造黒鉛、天然黒鉛)、熱分解炭素、コークス、ガラス状炭素、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭、炭素コロイド、及びカーボンブラックに代表される炭素材料、金属リチウム、金属酸化物、金属窒化物、リチウム合金、スズ合金、シリコン合金、金属間化合物、有機化合物、無機化合物、金属錯体、有機高分子化合物等を用いることができる。負極活物質は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0175】
本実施形態の負極活物質としては、黒鉛、またはTi、V、Sn、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Al、Si、及びBから成る群から選択される1種以上の元素を含有する化合物を用いることが好ましい。
【0176】
負極活物質層は、電池電圧を高められるという観点から、負極活物質としてリチウムイオンを0.4V vs.Li/Li+よりも卑な電位で吸蔵することが可能な材料を含有することが好ましい。
【0177】
負極活物質層は、負極活物質と必要に応じて導電助剤及びバインダーとを混合した負極合剤を溶剤に分散した負極合剤含有スラリーを、負極集電体に塗布及び乾燥(溶媒除去)し、必要に応じてプレスすることにより形成される。このような溶剤としては、公知のものを用いることができ、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、水等が挙げられる。
【0178】
導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、及びケッチェンブラックに代表されるカーボンブラック;炭素繊維;並びに黒鉛が挙げられる。導電助剤の含有割合は、負極活物質100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは0.1~10質量部である。
【0179】
バインダーとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース、PVDF、PTFE、ポリアクリル酸、及びフッ素ゴムが挙げられる。また、ジエン系ゴム、例えばスチレンブタジエンゴム等も挙げられる。バインダーの含有割合は、負極活物質100質量部に対して、10質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5~6質量部である。
【0180】
負極集電体は、例えば、銅箔、ニッケル箔、ステンレス箔等の金属箔により構成される。また、負極集電体は、表面にカーボンコートが施されていてもよいし、メッシュ状に加工されていてもよい。負極集電体の厚さは、5~40μmであることが好ましく、6~35μmであることがより好ましく、7~30μmであることが更に好ましい。
【0181】
<6.セパレータ>
本実施形態における非水系二次電池100は、正極150及び負極160の短絡防止、シャットダウン等の安全性付与の観点から、正極150と負極160との間にセパレータ170を備えることが好ましい。セパレータ170としては、イオン透過性が大きく、機械的強度に優れる絶縁性の薄膜が好ましい。セパレータ170としては、例えば、織布、不織布、合成樹脂製微多孔膜等が挙げられ、これらの中でも、合成樹脂製微多孔膜が好ましい。
【0182】
合成樹脂製微多孔膜としては、例えば、ポリエチレン又はポリプロピレンを主成分として含有する微多孔膜、又は、これらのポリオレフィンの双方を含有する微多孔膜等のポリオレフィン系微多孔膜が好適に用いられる。不織布としては、例えば、ガラス製、セラミック製、ポリオレフィン製、ポリエステル製、ポリアミド製、液晶ポリエステル製、アラミド製等の耐熱樹脂製の多孔膜が挙げられる。
【0183】
セパレータ170は、1種の微多孔膜を単層又は複数積層した構成でよく、2種以上の微多孔膜を積層したものであってもよい。セパレータ170は、2種以上の樹脂材料を溶融混錬した混合樹脂材料を用いて単層又は複数層に積層した構成であってもよい。
【0184】
機能付与を目的として、セパレータの表層又は内部に無機粒子を存在させてもよく、その他の有機層を更に塗工又は積層してもよい。また、セパレータは、架橋構造を含むものであってもよい。非水系二次電池の安全性能を高めるため、これらの手法は必要に応じ組み合わせてもよい。
【0185】
このようなセパレータ170を用いることで、特に上記の高出力用途のリチウムイオン電池に求められる良好な入出力特性、低い自己放電特性を実現することができる。セパレータの厚さは、セパレータ強度の観点から1μm以上であることが好ましく、透過性の観点より500μm以下であることが好ましく、5μm以上30μm以下であることがより好ましく、10μm以上25μm以下であることが更に好ましい。なお、耐ショート性能を重視する場合には、セパレータの厚さは、15μm以上20μm以下であることが更に好ましいが、高エネルギー密度化を重視する場合には、10μm以上15μm未満であることが更に好ましい。セパレータの気孔率は、高出力時のリチウムイオンの急速な移動に追従する観点から、30%以上90%以下が好ましく、35%以上80%以下がより好ましく、40%以上70%以下が更に好ましい。なお、安全性を確保しつつ出力性能の向上を優先に考えた場合には、50%以上70%以下が特に好ましく、耐ショート性能と出力性能の両立を重視する場合には、40%以上50%未満が特に好ましい。セパレータの透気度は、セパレータの厚さ、気孔率とのバランスの観点から、1秒/100cm3以上400秒/100cm3以下が好ましく、100秒/100cm3以上350/100cm3以下がより好ましい。なお、耐ショート性能と出力性能の両立を重視する場合には、透気度は、150秒/100cm3以上350秒/100cm3以下が特に好ましく、安全性を確保しつつ出力性能の向上を優先に考えた場合には、100/100cm3秒以上150秒/100cm3未満が特に好ましい。他方では、イオン伝導度の低い非水系電解液と上記範囲内のセパレータを組み合わせた場合、リチウムイオンの移動速度がセパレータの構造ではなく、電解液のイオン伝導度の高さが律速となり、期待したような入出力特性が得られない傾向がある。そのため、非水系電解液の25℃におけるイオン伝導度は、10mS/cm以上であることが好ましく、15mS/cm以上であることがより好ましく、20mS/cm以上であることが更に好ましい。ただし、セパレータの厚さ、透気度及び気孔率、並びに非水系電解液のイオン伝導度は上記の例に限定されない。
【0186】
<7.電池外装>
本実施形態における非水系二次電池100の電池外装110の構成は、例えば、電池缶(図示せず)、及びラミネートフィルム外装体のいずれかの電池外装を用いることができる。電池缶としては、例えば、スチール、ステンレス(SUS)、アルミニウム、又はクラッド材等から成る角型、角筒型、円筒型、楕円型、扁平型、コイン型、又はボタン型等の金属缶を用いることができる。ラミネートフィルム外装体としては、例えば、熱溶融樹脂/金属フィルム/樹脂の3層構成から成るラミネートフィルムを用いることができる。
【0187】
ラミネートフィルム外装体は、熱溶融樹脂側を内側に向けた状態で2枚重ねて、又は熱溶融樹脂側を内側に向けた状態となるように折り曲げて、端部をヒートシールにより封止した状態で外装体として用いることができる。ラミネートフィルム外装体を用いる場合、正極集電体に正極リード体130(又は正極端子及び正極端子と接続するリードタブ)を接続し、負極集電体に負極リード体140(又は負極端子及び負極端子と接続するリードタブ)を接続してもよい。この場合、正極リード体130及び負極リード体140(又は正極端子及び負極端子のそれぞれに接続されたリードタブ)の端部が外装体の外部に引き出された状態でラミネートフィルム外装体を封止してもよい。
【0188】
本実施形態における非水系二次電池の電池外装は、正極側の、非水系電解液との接液層の少なくとも一部にアルミニウムを含むことが好ましい。このような電池外装を用いることで、電池外装の腐食劣化を最大限に抑えて、電池の高温耐久性およびサイクル特性を向上させることができる。前記接液層は、本体と同じ素材、即ち本体の接液層、であってもよく、本体に別の素材をコーティングした層であってもよい。
【0189】
前記接液層に含まれるアルミニウムは、非水系電解液との接液層の一部に存在する態様であってもよく、接液層の全部であってもよいが、電池外装の腐食劣化を最大限に抑えて、そして電池のサイクル特性を最大限に向上させるために、接液層の全部がアルミニウムであることがより好ましい。
【0190】
また、本実施形態における非水系二次電池の電池外装は、本体がアルミニウム以外の金属からなり、非水電解液との接液層の少なくとも一部にアルミニウムを含有するものでもよい。前記アルミニウムを含む接液層は、メッキ、クラッドなどにより設けることができる。より好ましくはアルミニウムクラッドにより構成されるものである。クラッドとは、二種類以上の異なる金属を貼り合わせた材料のことであり、一般的には異種金属の境界面が拡散結合している(合金層を持っている)ものとされている。クラッドはプレス加工や爆発圧接により作製することができる。
【0191】
コイン型非水系二次電池の場合、電池外装は正極側の接液層の少なくとも一部にアルミニウムを含有するものが好ましく、正極側の接液層の少なくとも一部にアルミニウムがクラッドされたものがより好ましい。
【0192】
電池外装の本体金属層がアルミニウム以外の金属からなる場合、その本体金属については特に限定されないが、容器の外側の腐食を防止する観点から、SUS304やSUS316、SUS316Lなどのオーステナイト系ステンレス、SUS329J1、SUS329J3Lなどのオーステナイト・フェライト系ステンレス、SUS405、SUS430などのフェライト系ステンレス、SUS403、SUS410などのマルテンサイト系ステンレスであることが好ましい。
【0193】
また、本実施形態における電池外装体は、正極側の、非水系電解液との接触部分の少なくとも一部が、鉄または鉄合金からなるものでもよい。電池外装体を鉄または鉄合金とすることで、耐衝撃性に優れた安全性を備えた電池を提供することができる。電池外装体と正極集電体は、個別であってもよく、一体となっていてもよい。また、本実施形態における非水系二次電池100の電池外装110の構成は、例えば、電池缶(図示せず)、及びラミネートフィルム外装体のいずれかの電池外装を用いることができる。電池缶としては、例えば、スチール、ステンレス(SUS)、又はクラッド材等から成る角型、角筒型、円筒型、楕円型、扁平型、コイン型、又はボタン型等の金属缶を用いることができる。ラミネートフィルム外装体としては、例えば、熱溶融樹脂/金属フィルム/樹脂の3層構成から成るラミネートフィルムを用いることができる。
【0194】
本実施形態において、鉄または鉄合金から成る前記電池外装体の表面が、コートされていなくとも良い。非水系二次電池の高エネルギー密度化は、電池の発火リスクを高めることになるため、さらなる安全対策が求められる。そのため、耐衝撃性の観点から、軽量なアルミニウム製の電池外装ではなく、強度の高い鉄又は鉄合金製の電池外装を用いることは、有用な手法である。
【0195】
また、アルミニウムに比べて鉄又は鉄合金はコストが低いため、電気自動車など多量の電池を搭載する場合、鉄又は鉄合金製の電池外装を用いることで大幅なコスト削減が可能である。
【0196】
アセトニトリル含有電解液を用いたリチウムイオン電池は、正極側の、非水系電解液との接触部分の少なくとも一部を含む電池外装体の材質が鉄または鉄合金であった場合、充電時に電池外装体の金属成分を腐食し過充電を引き起こすことが、本発明者らの検討によって明らかになった。この現象は、本発明者らによって新たに判明した課題であり、特許文献1~8には一切記載されていない。
【0197】
アセトニトリルを含有する非水系電解液において、式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩を用いることによって、鉄または鉄合金製の電池外装体の腐食による過充電を抑制できる。その機構は以下のように推察される:
式(1)で表される環状アニオン含有リチウム塩は、アセトニトリルを含有する非水系電解液中でリチウムイオンと環状アニオンに解離する。環状アニオンは、アセトニトリルと電気的に相互作用し、アセトニトリルの持つニトリル基の金属配位能を弱める。それによって、アセトニトリルが鉄または鉄合金中の遷移金属と錯体を形成することで起こる金属溶出を抑制でき、金属錯体の負極への移動が抑制される。従って、金属錯体の負極での継続的な還元析出による過充電を抑制できる。
【0198】
電池外装体の材質がステンレス(SUS)である場合、容器の内側または外側の腐食を防止する観点から、SUS304やSUS316、SUS316Lなどのオーステナイト系ステンレス、SUS329J1、SUS329J3Lなどのオーステナイト・フェライト系ステンレス、SUS405、SUS430などのフェライト系ステンレス、SUS403、SUS410などのマルテンサイト系ステンレスであることが好ましい。
【0199】
<8.電池の作製方法>
本実施形態における非水系二次電池100は、上述の非水系電解液、集電体の片面又は両面に正極活物質層を有する正極150、集電体の片面又は両面に負極活物質層を有する負極160、及び電池外装110、並びに必要に応じてセパレータ170を用いて、公知の方法により作製される。
【0200】
先ず、正極150及び負極160、並びに必要に応じてセパレータ170から成る積層体を形成する。例えば、長尺の正極150と負極160とを、正極150と負極160との間に該長尺のセパレータを介在させた積層状態で巻回して巻回構造の積層体を形成する態様;正極150及び負極160を一定の面積と形状とを有する複数枚のシートに切断して得た正極シートと負極シートとを、セパレータシートを介して交互に積層した積層構造の積層体を形成する態様;長尺のセパレータをつづら折りにして、該つづら折りになったセパレータ同士の間に交互に正極体シートと負極体シートとを挿入した積層構造の積層体を形成する態様;等が可能である。
【0201】
次いで、電池外装110(電池ケース)内に上述の積層体を収容して、本実施形態に係る電解液を電池ケース内部に注液し、積層体を電解液に浸漬して封印することによって、本実施形態における非水系二次電池を作製することができる。代替的には、電解液を高分子材料から成る基材に含浸させることによって、ゲル状態の電解質膜を予め作製しておき、シート状の正極150、負極160、及び電解質膜、並びに必要に応じてセパレータ170を用いて積層構造の積層体を形成した後、電池外装110内に収容して非水系二次電池100を作製することもできる。
【0202】
なお、電極の配置が、負極活物質層の外周端と正極活物質層の外周端とが重なる部分が存在するように、又は負極活物質層の非対向部分に幅が小さすぎる箇所が存在するように設計されている場合、電池組み立て時に電極の位置ずれが生じることにより、非水系二次電池における充放電サイクル特性が低下するおそれがある。よって、該非水系二次電池に使用する電極体は、電極の位置を予めポリイミドテープ、ポリフェニレンスルフィドテープ、ポリプロピレン(PP)テープ等のテープ類、接着剤等により、固定しておくことが好ましい。
【0203】
本実施形態において、アセトニトリルの高いイオン伝導性に起因して、非水系二次電池の初回充電時に正極から放出されたリチウムイオンが負極の全体に拡散する可能性がある。非水系二次電池では、正極活物質層よりも負極活物質層の面積を大きくすることが一般的である。しかしながら、負極活物質層のうち正極活物質層と対向していない箇所にまでリチウムイオンが拡散して吸蔵されてしまうと、このリチウムイオンが初回放電時に放出されずに負極に留まることとなる。そのため、該放出されないリチウムイオンの寄与分が不可逆容量となってしまう。こうした理由から、アセトニトリルを含有する非水系電解液を用いた非水系二次電池では、初回充放電効率が低くなってしまう場合がある。
【0204】
他方、負極活物質層よりも正極活物質層の面積が大きいか、又は両者が同じである場合には、充電時に負極活物質層のエッジ部分に電流の集中が起こり易く、リチウムデンドライトが生成し易くなる。
【0205】
正極活物質層と負極活物質層とが対向する部分の面積に対する、負極活物質層全体の面積の比について特に制限はないが、上記の理由により、1.0より大きく1.1未満であることが好ましく、1.002より大きく1.09未満であることがより好ましく、1.005より大きく1.08未満であることが更に好ましく、1.01より大きく1.08未満であることが特に好ましい。アセトニトリルを含有する非水系電解液を用いた非水系二次電池では、正極活物質層と負極活物質層とが対向する部分の面積に対する、負極活物質層全体の面積の比を小さくすることにより、初回充放電効率を改善できる。
【0206】
正極活物質層と負極活物質層とが対向する部分の面積に対する、負極活物質層全体の面積の比を小さくするということは、負極活物質層のうち、正極活物質層と対向していない箇所の面積の割合を制限することを意味している。これにより、初回充電時に正極から放出されたリチウムイオンのうち、正極活物質層とは対向していない負極活物質層の箇所に吸蔵されるリチウムイオンの量(すなわち、初回放電時に負極から放出されずに不可逆容量となるリチウムイオンの量)を可及的に低減することが可能となる。よって、正極活物質層と負極活物質層とが対向する箇所の面積に対する、負極活物質層全体の面積の比を上記の範囲に設計することによって、アセトニトリルを使用することによる電池の負荷特性向上を図りつつ、電池の初回充放電効率を高め、更にリチウムデンドライトの生成も抑えることができるのである。
【0207】
本実施形態における非水系二次電池100は、初回充電により電池として機能し得るが、初回充電のときに電解液の一部が分解することにより安定化する。初回充電の方法について特に制限はないが、初回充電は0.001~0.3Cで行われることが好ましく、0.002~0.25Cで行われることがより好ましく、0.003~0.2Cで行われることが更に好ましい。初回充電は、定電圧充電を経由して行われることも好ましい結果を与える。リチウム塩が電気化学的な反応に関与する電圧範囲を長く設定することによって、安定強固な負極SEIが電極表面に形成され、内部抵抗の増加を抑制すると共に、反応生成物が負極160のみに強固に固定化されることなく、正極150、セパレータ170等の、負極160以外の部材にも良好な効果を与える。このため、非水系電解液に溶解したリチウム塩の電気化学的な反応を考慮して初回充電を行うことは、非常に有効である。
【0208】
本実施形態における非水系二次電池100は、複数個の非水系二次電池100を直列又は並列に接続した電池パックとして使用することもできる。電池パックの充放電状態を管理する観点から、正極において上記式(Xba)で表される正極活物質を用いる場合には、電池1個当たりの使用電圧範囲は1.5~4.0Vであることが好ましく、2.0~3.8Vであることが特に好ましい。
【0209】
また、一般式(at)で表される正極活物質を用いる場合、電池1個当たりの使用電圧範囲は2~5Vであることが好ましく、2.5~5Vであることがより好ましく、2.75V~5Vであることが特に好ましい。
【実施例】
【0210】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0211】
(1)非水系電解液の調製
不活性雰囲気下、各種非水系溶媒を、それぞれが所定の濃度になるよう混合した。更に、各種リチウム塩をそれぞれ所定の濃度になるよう添加することにより、非水系電解液(S01)~(S13)、(S20)、(S22)~(S36)、(S40)を調製した。また、これらの非水系電解液を母電解液とし、母電解液100質量部に対し、各種添加剤が所定の質量部になるよう添加することにより、非水系電解液(S14)~(S19)、(S21)、(S37)~(S39)を調製した。これらの非水系電解液組成を表1に示す。
【0212】
なお、表1における非水系溶媒、リチウム塩、及び各種添加剤の略称は、それぞれ以下の意味である。
(非水系溶媒)
AN:アセトニトリル
EMC:エチルメチルカーボネート
EC:エチレンカーボネート
ES:エチレンサルファイト
VC:ビニレンカーボネート
(リチウム塩)
(1-2):上記式(1-2)で表される化合物
(9):上記式(9)で表される化合物
LiFSI:リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SO2F)2)
LiPF6:ヘキサフルオロリン酸リチウム
(各種添加剤)
Py:ピリジン
TMSPi:亜リン酸トリス(トリメチルシリル)
DPDMS:ジフェニルジメトキシシラン
TEVS:トリエトキシビニルシラン
SN:スクシノニトリル
【0213】
【0214】
(2)Fe系正極を備えた小型非水系二次電池の作製
(2-1)正極(P1)の作製
正極活物質としてオリビン型構造を有するリン酸鉄リチウム(LiFePO4)と、導電助剤として、カーボンブラック粉末と、バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、89:3:8の質量比で混合し、正極合剤を得た。
【0215】
得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを投入してさらに混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に、この正極合剤含有スラリーを目付量が11.0mg/cm2になるように調節しながら塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が1.8g/cm3になるよう圧延して、正極活物質層と正極集電体から成る正極(P1)を得た。
【0216】
(2-2)負極(N1)の作製
負極活物質として、黒鉛粉末と、導電助剤としてカーボンブラック粉末と、バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、90:3:7の固形分質量比で混合し、負極合剤を得た。
【0217】
得られた負極合剤に溶剤として水を固形分45質量%となるように投入して更に混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。負極集電体となる厚さ8μm、幅280mmの銅箔の片面に、この負極合剤含有スラリーの目付量を調節しながら、塗工幅240~250mm、塗工長125mm、無塗工長20mmの塗布パターンになるよう3本ロール式転写コーターを用いて塗布し、熱風乾燥炉で溶剤を乾燥除去した。得られた電極ロールは、両サイドをトリミングカットし、80℃12時間の減圧乾燥を実施した。その後、ロールプレスで負極活物質層の密度が1.3g/cm3になるよう圧延して、負極活物質層と負極集電体から成る負極(N1)を得た。負極集電体を除く目付量は5.4mg/cm2であった。
【0218】
(2-3)Fe系正極を備えた小型非水系二次電池の組み立て
上述のようにして得られた正極(P1)を直径15.958mmの円盤状に打ち抜いたものと、上述のようにして得られた負極(N1)を直径16.156mmの円盤状に打ち抜いたものとをポリエチレン製微多孔膜セパレータ(膜厚21μm、透気度285s/100cm3、気孔率41%))の両側に重ね合わせて積層体を得た。その積層体をSUS製の円盤型電池ケースに挿入した。次いで、その電池ケース内に非水系電解液(S01~S22)を200μL注入し、積層体を非水系電解液に浸漬した後、電池ケースを密閉して25℃で12時間保持し、積層体に非水系電解液を十分馴染ませて小型非水系二次電池を得た。
【0219】
(3)Fe系正極を備えた小型非水系二次電池の評価
上述のようにして得られた小型非水系二次電池について、まず、下記(3-1)の手順に従って初回充放電処理、及び初回充放電の容量測定を行った。次に下記(3-2)の手順に従って、それぞれの小型非水系二次電池を評価した。別の評価では、下記(3-1)を行った後に、下記(3-3)または(3-4)の手順に従って出力試験を行なった。なお、充放電はアスカ電子(株)製の充放電装置ACD-M01A(商品名)、及びヤマト科学(株)製のプログラム恒温槽IN804(商品名)を用いて行った。
【0220】
本明細書では、1Cとは満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0221】
具体的には、小型非水系二次電池では、1Cは、3.5Vの満充電状態から定電流で2.0Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
上記(2-3)の手順に従って組み立てられた小型非水系二次電池は、3mAh級セルであり、満充電状態となる電池電圧を3.5Vと定め、1C相当の電流値は3.0mAとする。以降、特に断らない限り、便宜上、電流値、電圧の表記は省略する。
【0222】
(3-1)初回充放電処理
小型非水系二次電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する定電流で充電して満充電状態、即ち、3.5V、に到達した後、定電圧で1.5時間充電を行った。その後、0.1Cに相当する定電流で2.0Vまで電池を放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。また、このときの放電容量を初期容量とした。その後、負極SEIを安定的に形成するため、上記と同様の充放電を1回行った。
【0223】
初回効率は、初回充電容量に対する初回放電容量の割合を示すが、一般的に2回目以降の充放電効率より低い。これは、初回充電時にLiイオンが利用されて負極SEIが形成するためである。それによって放電できるLiイオンが少なくなる。ここで、初回効率は84%以上であれば問題はない。
【0224】
(3-2)85℃100時間及び200時間満充電保存試験
上記(3-1)に記載の方法で初回充放電処理を行った小型非水系二次電池について、周囲温度を25℃に設定し、1C相当の定電流で充電して満充電状態、即ち、3.5V、に到達した後、定電圧で1.5時間充電を行った。次に、この小型非水系二次電池を85℃の恒温槽に100時間保存した。その後、周囲温度を25℃に戻し、0.1C相当の電流値で2.0Vまで電池を放電した。このときの残存放電容量を100時間後残存放電容量とした。85℃100時間満充電保存試験の測定値として、以下の式に基づき、残存容量維持率を算出した。なお、市販の電池を測定する場合は、(3-1)の手順に従って初回充放電処理を行って初期容量を測定した後に、(3-2)の手順に従って残存放電容量を測定し、残存容量維持率を算出する。
100時間後残存容量維持率=(100時間後残存放電容量/初期容量)×100[%]
【0225】
その後、1C相当の定電流で小型非水系二次電池を充電して3.5Vの満充電状態に到達した後、定電圧で1.5時間充電を行った。次に、この小型非水系二次電池を85℃の恒温槽に100時間保存した。その後、周囲温度を25℃に戻し、0.1C相当の電流値で2.0Vまで放電した。このときの残存放電容量を200時間後残存放電容量とした。85℃200時間満充電保存試験の測定値として、以下の式に基づき、残存容量維持率を算出した。
200時間後残存容量維持率=(200時間後残存放電容量/初期容量)×100[%]
【0226】
残存容量維持率は、85℃満充電保存試験における自己放電の大きさの指標となる。この値が大きいほど、高温下における自己放電が小さく、多くの電流が使用可能となる。100時間後残存容量維持率は、35%以上であることが好ましく、45%以上であることがより好ましく、55%以上であることがさらに好ましく、60%以上であることが特に好ましい。200時間後残存容量維持率は、12%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましく、40%以上であることがさらに好ましく、50%以上であることが特に好ましい。
【0227】
85℃100時間及び200時間満充電保存試験の結果を表2に示す。
【0228】
(3-3)-40℃出力試験
上記(3-1)に記載の方法で初回充放電処理を行った電池について、電池の周囲温度を25℃に設定し、1Cに相当する3mAの定電流で充電して3.5Vに到達した後、3.5Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、0.1Cに相当する0.3mAの電流値で2.0Vまで放電した。次に、電池の周囲温度を25℃に設定し、1Cに相当する3mAの定電流で充電して3.5Vに到達した後、3.5Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、電池の周囲温度を-40℃に設定し、1Cに相当する3mAの電流値で2.0Vまで放電し、下記の容量維持率を算出した。
1C容量維持率=(―40℃での1C放電時の容量/25℃での0.1C放電時の容量)×100[%]
【0229】
1C容量維持率は、-40℃における出力性能の指標となる。この値が大きいほど、低温下における非水系二次電池の内部抵抗が小さく、多くの電流が使用可能となる。特に、Fe系正極含有非水系二次電池は、電気自動車の補機用バッテリーとしての需要が高まっており、寒冷地でも安定作動するために高い低温性能が求められる。1C容量維持率は、10%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。
-40℃出力試験の結果を表2に示す。
【0230】
(3-4)25℃出力試験
上記(3-1)に記載の方法で初回充放電処理を行った電池について、電池の周囲温度を25℃に設定し、1Cに相当する3mAの定電流で充電して3.5Vに到達した後、3.5Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、0.1Cに相当する0.3mAの電流値で2.0Vまで放電した。次に、定電流放電時の電流値を20Cに相当する60mAに変更した以外は、上記と同様の充放電を行い、下記の容量維持率を算出した。
20C容量維持率=(20C放電時の容量/0.1C放電時の容量)×100[%]
【0231】
ここで、各試験の解釈について述べる。
【0232】
20C容量維持率は、25℃における出力性能の指標となる。この値が大きいほど、非水系二次電池の内部抵抗が小さく、多くの電流が使用可能となる。特に、Fe系正極含有非水系二次電池は、電気工具など高出力用途での需要が高まっており、高い出力性能が求められる。20C容量維持率は、30%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。
25℃出力試験の結果を表2に示す。
【0233】
【0234】
表2に示すように、実施例1~18では、初回効率が好ましい数値以上の結果となった。一方、比較例4は、初回効率が84%未満となる値を示した。
【0235】
表2に示すように、実施例1~18では、100時間満充電保存試験、200時満充電保存試験後の残存容量維持率が好ましい数値以上の結果となった。一方、比較例1および比較例4は、100時間後残存容量維持率が35%未満、200時間後残存容量維持率が12%未満となる値を示した。
【0236】
また、実施例1~18では、-40℃出力試験における1C容量維持率が好ましい数値以上の結果となった。一方、比較例2~3は、1C容量維持率が10%未満となる値を示した。
【0237】
また、実施例1~18では、25℃出力試験における20C容量維持率が好ましい数値以上の結果となった。一方、比較例2~3は、20C容量維持率が30%未満となる値を示した。
【0238】
実施例1と比較例1を比較すると、リチウム塩をLiFSIから上記式(1-2)で表される化合物に置換することで、100時間及び200時間後残存容量維持率が向上している。これは、環状アニオン含有リチウム塩を用いることでアセトニトリル含有電解液の課題である正極金属溶出および正極Al集電体-正極活物質間の物理的なはく離を抑制するとともに、環状アニオンの分解物が負極SEI成分として働いたためだと考えられる。
【0239】
また、実施例1~3を比較すると、環状アニオン含有リチウム塩/LiPF6のモル比を上昇させるに従って、100時間及び200時間後残存容量維持率が向上している。これは、アセトニトリル含有電解液において高温下での電池性能低下をもたらす原因となるLiPF6の量を低減しつつ、アセトニトリル含有電解液において正極金属溶出および正極Al集電体-正極活物質間の物理的なはく離を抑制するとともに、負極SEIへの寄与などにより高温下での電池性能低下を抑制できる環状アニオン含有リチウム塩の量を増加させることで、より効果的に高温における電池性能の低下を抑制出来たためだと推測される。
【0240】
また、実施例1~3を比較すると、LiPF6の量を低減するに従って、100時間及び200時間後残存容量維持率が向上している。これは、高温下でのLiPF6の熱分解による酸成分の生成を抑制するとともに、アセトニトリルのα位から水素が引き抜かれることによってPF6アニオンから発生するHF量も低減することができ、結果として正極活物質層、正極集電体の腐食、又は電解液の劣化反応に起因する電池性能の低下を最小限に留めることが出来たためだと推測される。
【0241】
また、実施例1と比較例4を比較すると、リチウム塩を上記式(9)で表される化合物から上記式(1-2)で表される化合物に置換することで、100時間及び200時間後残存容量維持率が向上している。これは、6員環ではなく5員環の環状アニオン含有リチウム塩を用いることで環状アニオンの分解が抑制されたためだと考えられる。
【0242】
また、実施例2~3と実施例1を比較すると、環状アニオン含有リチウム塩の含有量が、LiPF6の含有量に対して、20以上の範囲に収まることで、100時間後残存容量維持率が50%以上の値を示すとともに、200時間後残存容量維持率が30%以上の値を示した。これは、アセトニトリル含有電解液において高温下での電池性能低下をもたらす原因となるLiPF6の量を低減しつつ、アセトニトリル含有電解液において正極金属溶出および正極Al集電体-正極活物質間の物理的なはく離を抑制するとともに、負極SEIへの寄与などにより高温下での電池性能低下を抑制できる環状アニオン含有リチウム塩の量を増加させることで、より効果的に高温における電池性能の低下を抑制出来たためだと推測される。
【0243】
また、実施例2と実施例3を比較すると、環状アニオン含有リチウム塩の含有量が、LiPF6の含有量に対して、150以下の範囲に収まることで、-40℃出力試験における1C容量維持率が30%以上の値を示すとともに、25℃出力試験における20C容量維持率の値が60%以上の値を示した。これは、環状アニオン含有リチウム塩由来の有機成分と、LiPF6由来の無機成分のバランスに優れた負極SEIを形成することで、常温および低温におけるリチウムイオンの挿入脱離が容易になるとともに、低温での負極SEIの収縮による容量劣化が抑制されたためだと推測される。
【0244】
また、実施例2と実施例6を比較すると、アセトニトリルの含有量が30%以上の範囲に収まることで、-40℃出力試験における1C容量維持率が30%以上の値を示すとともに、25℃出力試験における20C容量維持率の値が60%以上の値を示した。これは、非水系電解液のイオン伝導度が増大したためだと推測される。
【0245】
また、実施例13~14と実施例12を比較すると、添加剤として窒素含有環状化合物を含有することで、100時間及び200時間後残存容量維持率が向上している。これは、遷移金属とアセトニトリルとからなる錯体カチオンの生成を抑制したためだと考えられる。
【0246】
また、実施例15~18と実施例12を比較すると、添加剤としてシラン系化合物を含有することで、100時間及び200時間後残存容量維持率が向上している。これは、非水系電解液を酸化劣化させる活性点(正極活物質の活性点)を抑制したためだと考えられる。
【0247】
また、実施例2と実施例6~7を比較すると、環状アニオン含有リチウム塩の含有量が、アセトニトリルの含有量に対して、モル比で0.27以下の範囲に収まることで、-40℃出力試験における1C容量維持率が30%以上の値を示すとともに、25℃出力試験における20C容量維持率の値が60%以上の値を示した。これは、常温及び低温でのイオン伝導率の低減を効果的に抑制できたためだと推測される。
【0248】
(4)Ni系正極を備えた小型非水系二次電池の作製
(4-1)Ni系正極の作製
(4-1-1)Ni系正極(P2)の作製
正極活物質として、リチウム、ニッケル、マンガン及びコバルトの複合酸化物(LiNi0.8Mn0.1Co0.1O2)と、導電助剤として、カーボンブラック粉末と、バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、94:3:3の質量比で混合し、正極合剤を得た。
【0249】
得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを投入してさらに混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に、この正極合剤含有スラリーを目付量が8.4mg/cm2になるように調節しながら塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が2.7g/cm3になるよう圧延して、正極活物質層と正極集電体から成る正極(P2)を得た。
【0250】
(4-1-2)Ni系正極(P3)の作製
正極活物質として、リチウム、ニッケル、マンガン及びコバルトの複合酸化物(LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2)と、導電助剤として、カーボンブラック粉末と、バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、94:3:3の質量比で混合し、正極合剤を得た。
【0251】
得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを投入してさらに混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に、この正極合剤含有スラリーを目付量が10.2mg/cm2になるように調節しながら塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が2.8g/cm3になるよう圧延して、正極活物質層と正極集電体から成る正極(P3)を得た。
【0252】
(4-1-3)Ni系正極(P4)の作製
正極活物質として、リチウム、ニッケル、マンガン及びコバルトの複合酸化物(LiNi0.33Mn0.33Co0.33O2)と、導電助剤として、カーボンブラック粉末と、バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、94:3:3の質量比で混合し、正極合剤を得た。
【0253】
得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを投入してさらに混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に、この正極合剤含有スラリーを目付量が11.4mg/cm2になるように調節しながら塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が2.7g/cm3になるよう圧延して、正極活物質層と正極集電体から成る正極(P4)を得た。
【0254】
(4-2)負極(N1)の作製
(2-2)と同様にして負極(N1)を作製した。
【0255】
(4-3)Ni系正極含有小型非水系二次電池の組み立て
上述のようにして得られた正極(P2~P4)を直径15.958mmの円盤状に打ち抜いたものと、上述のようにして得られた負極(N1)を直径16.156mmの円盤状に打ち抜いたものとをポリエチレン製微多孔膜セパレータ(膜厚21μm、透気度285s/100cm3、気孔率41%))の両側に重ね合わせて積層体を得た。その積層体をSUS製の円盤型電池ケースに挿入した。次いで、その電池ケース内に非水系電解液(S07、S10、S20、S23~S36)を200μL注入し、積層体を非水系電解液に浸漬した後、電池ケースを密閉して25℃で12時間保持し、積層体に非水系電解液を十分馴染ませて小型非水系二次電池を得た。
【0256】
(5)Ni系正極含有小型非水系二次電池の評価
上述のようにして得られた小型非水系二次電池について、まず、下記(5-1)の手順に従って初回充放電処理、及び初回充放電容量測定を行った。次に下記(5-2)の手順に従って、それぞれの小型非水系二次電池を評価した。別の評価では、下記(5-1)を行なった後に、下記(5-3)または(5-4)の手順に従って出力試験を行なった。なお、充放電はアスカ電子(株)製の充放電装置ACD-M01A(商品名)、及びヤマト科学(株)製のプログラム恒温槽IN804(商品名)を用いて行った。
【0257】
本明細書では、1Cとは満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0258】
具体的には、小型非水系二次電池では、1Cは、4.2Vの満充電状態から定電流で3.0Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
上記(4-3)の手順に従って組み立てられた小型非水系二次電池は、3mAh級セルであり、満充電状態となる電池電圧を4.2Vと定め、1C相当の電流値は3.0mAとする。以降、特に断らない限り、便宜上、電流値、電圧の表記は省略する。
【0259】
(5-1)初回充放電処理
小型非水系二次電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する定電流で充電して満充電状態、即ち、4.2V、に到達した後、定電圧で1.5時間充電を行った。その後、0.1Cに相当する定電流で3.0Vまで電池を放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。また、このときの放電容量を初期容量とした。その後、負極SEIを安定的に形成するため、上記と同様の充放電を2回行った。
【0260】
(5-2)50℃サイクル試験
上記(5-1)に記載の方法で初回充放電処理を行った小型非水系二次電池について、周囲温度を50℃に設定し、0.5Cに相当する1.5mAの定電流で電池を充電して、電池電圧が4.2Vに到達するまで充電を行った後、4.2Vの定電圧で1.5時間充電を行った。その後、0.5Cに相当する1.5mAの定電流で電池電圧3.0Vまで放電した。充電と放電とを各々1回ずつ行うこの工程を1サイクルとし、100サイクルの充放電を行った。以下の式に基づき、50℃サイクル容量維持率を算出した。
50℃サイクル容量維持率=(50℃サイクル試験での100サイクル目の放電容量/50℃サイクル試験での1サイクル目の放電容量)×100[%]
【0261】
初回効率は、初回充電容量に対する初回放電容量の割合を示すが、一般的に2回目以降の充放電効率より低い。これは、初回充電時にLiイオンが利用されて負極SEIが形成するためである。それによって放電できるLiイオンが少なくなる。ここで、初回効率は84%以上であれば問題はない。
【0262】
50℃サイクル容量維持率は、繰り返し使用による電池劣化の指標となる。この値が大きいほど、繰り返し使用による容量低下が少なく、長期使用を目的とする用途に使用可能であると考えられる。
それに加えて、50℃サイクル容量維持率は、高温での自己放電の大きさの指標とすることができる。この値が大きいほど、高温下における自己放電が小さく、電池からより多くの電流を目的とする用途に使用可能であると考えられる。
従って、50℃サイクル容量維持率は80%以上であることが望ましい。
【0263】
得られた評価結果を表3に示す。
【0264】
(5-3)-40℃出力試験
上記(5-1)に記載の方法で初回充放電処理を行った電池について、電池の周囲温度を25℃に設定し、1Cに相当する3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、0.1Cに相当する0.3mAの電流値で3.0Vまで放電した。次に、電池の周囲温度を25℃に設定し、1Cに相当する3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、電池の周囲温度を-40℃に設定し、1Cに相当する3mAの電流値で3.0Vまで放電し、下記の容量維持率を算出した。
1C容量維持率=(―40℃での1C放電時の容量/25℃での0.1C放電時の容量)×100[%]
【0265】
1C容量維持率は、-40℃における出力性能の指標となる。この値が大きいほど、低温下における非水系二次電池の内部抵抗が小さく、多くの電流が使用可能となる。Ni系正極含有非水系二次電池においては、1C容量維持率は、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。
-40℃出力試験の結果を表3に示す。
【0266】
(5-4)25℃出力試験
上記(5-1)に記載の方法で初回充放電処理を行った電池について、電池の周囲温度を25℃に設定し、1Cに相当する3mAの定電流で充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で合計1.5時間充電を行った。その後、0.1Cに相当する0.3mAの電流値で3.0Vまで放電した。次に、定電流放電時の電流値を20Cに相当する60mAに変更した以外は、上記と同様の充放電を行い、下記の容量維持率を算出した。
20C容量維持率=(20C放電時の容量/0.1C放電時の容量)×100[%]
【0267】
20C容量維持率は、25℃における出力性能の指標となる。この値が大きいほど、非水系二次電池の内部抵抗が小さく、多くの電流が使用可能となる。Ni系正極含有非水系二次電池においては、20C容量維持率は、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。
25℃出力試験の結果を表3に示す。
【0268】
【0269】
表3に示すように、実施例19~31では、初回効率が好ましい数値以上の結果となった。
【0270】
また、実施例19~31では、50℃サイクル試験における50℃サイクル容量維持率が好ましい数値以上の結果となった。一方、比較例5~7では、50℃サイクル容量維持率が80%未満となる値を示した。
【0271】
また、実施例19~31では、-40℃出力試験における1C容量維持率が好ましい数値以上の結果となった。一方、比較例8は、1C容量維持率が5%未満となる値を示した。
【0272】
また、実施例19~31では、25℃出力試験における20C容量維持率が好ましい数値以上の結果となった。一方、比較例8は、20C容量維持率が10%未満となる値を示した。
【0273】
実施例19と比較例6を比較すると、リチウム塩をLiFSIから上記式(1-2)で表される化合物に置換することで、50℃サイクル容量維持率が80%以上となる値を示した。これは、環状アニオン含有リチウム塩を用いることでアセトニトリル含有電解液の課題である正極金属溶出および正極Al集電体-正極活物質間の物理的なはく離を抑制するとともに、環状アニオンの分解物が負極SEI成分として働いたためだと考えられる。
【0274】
また、実施例19~21を比較すると、LiPF6の量を低減するに従って、50℃サイクル容量維持率が向上している。これは、高温下でのLiPF6の熱分解による酸成分の生成を抑制するとともに、アセトニトリルのα位から水素が引き抜かれることによってPF6アニオンから発生するHF量も低減することができ、結果として正極活物質層、正極集電体の腐食、又は電解液の劣化反応に起因する電池性能の低下を最小限に留めることが出来たためだと推測される。
【0275】
また、実施例20と実施例21を比較すると、環状アニオン含有リチウム塩の含有量が、LiPF6の含有量に対して、150以下の範囲に収まることで、-40℃出力試験における1C容量維持率が10%以上の値を示すとともに、25℃出力試験における20C容量維持率の値が20%以上の値を示した。これは、環状アニオン含有リチウム塩由来の有機成分と、LiPF6由来の無機成分のバランスに優れた負極SEIを形成することで、常温および低温におけるリチウムイオンの挿入脱離が容易になるとともに、低温での負極SEIの収縮による容量劣化が抑制されたためだと推測される。
【0276】
また、実施例20と実施例25を比較すると、環状アニオン含有リチウム塩の含有量が、アセトニトリルの含有量に対して、モル比で0.79以下の範囲に収まることで、-40℃出力試験における1C容量維持率が10%以上の値を示すとともに、25℃出力試験における20C容量維持率の値が20%以上の値を示した。これは、常温及び低温でのイオン伝導率の低減を効果的に抑制できたためだと推測される。
【0277】
(6)90℃保存試験用小型非水系二次電池の作製
(6-1)正極(P1)の作製
(2-1)と同様にして正極(P1)を作製した。
【0278】
(6-2)負極(N1)の作製
(2-2)と同様にして負極(N1)を作製した。
【0279】
(6-3)90℃評価用小型非水系二次電池の組み立て
上述のようにして得られた正極(P1)を直径15.958mmの円盤状に打ち抜いたものと、上述のようにして得られた負極(N1)を直径16.156mmの円盤状に打ち抜いたものとをポリエチレン製微多孔膜セパレータ(膜厚21μm、透気度285s/100cm3、気孔率41%))の両側に重ね合わせて積層体を得た。その積層体をSUS製の円盤型電池ケースに挿入した。次いで、その電池ケース内に非水系電解液(S20、S36、S37)を200μL注入し、積層体を非水系電解液に浸漬した後、アルミニウム製プランジャーで正極集電体を押さえ、電池ケースを密閉して25℃で12時間保持し、積層体に非水系電解液を十分馴染ませて小型非水系二次電池を得た。
【0280】
(7)90℃保存試験用小型非水系二次電池の評価
上述の(6-3)のようにして得られた小型非水系二次電池について、まず、下記(7-1)の手順に従って初回充放電処理、及び初回充放電容量測定を行った。次に下記(7-2)の手順に従って、それぞれの小型非水系二次電池を評価した。なお、充放電はアスカ電子(株)製の充放電装置ACD-M01A(商品名)、及びヤマト科学(株)製のプログラム恒温槽IN804(商品名)を用いて行った。
【0281】
本明細書では、1Cとは満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0282】
具体的には、小型非水系二次電池では、1Cは、3.5Vの満充電状態から定電流で2.0Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
上記(6-3)の手順に従って組み立てられた小型非水系二次電池は、3mAh級セルであり、満充電状態となる電池電圧を3.5Vと定め、1C相当の電流値は3.0mAとする。以降、特に断らない限り、便宜上、電流値、電圧の表記は省略する。
【0283】
(7-1)初回充放電処理
小型非水系二次電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する定電流で充電して3.5Vに到達した後、定電圧で1.5時間充電を行った。その後、0.1Cに相当する定電流で2.0Vまで電池を放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。また、このときの放電容量を初期容量とした。
【0284】
(7-2)90℃4時間満充電保存試験
上記(7-1)に記載の方法で初回充放電処理を行った小型非水系二次電池について、周囲温度を25℃に設定し、1C相当の定電流で充電して3.5Vに到達した後、定電圧で1.5時間充電を行った。次に、この小型非水系二次電池を90℃の恒温槽に4時間保存した。その後、周囲温度を25℃に戻し、0.1C相当の電流値で2.0Vまで電池を放電した。このときの残存放電容量を4時間後残存放電容量とした。90℃4時間満充電保存試験の測定値として、以下の式に基づき、残存容量維持率を算出した。
4時間後残存容量維持率=(4時間後残存放電容量/初期容量)×100[%]
【0285】
残存容量維持率は、90℃満充電保存試験における自己放電の大きさの指標となる。この値が大きいほど、高温下における自己放電が小さく、多くの電流が使用可能となる。4時間貯蔵後残存容量維持率は、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましいので、下記基準に従って評価した。
A:85%以上
B:75%以上85%未満
C:75%未満
【0286】
90℃4時間の満充電保存試験の結果を表4に示す。
【0287】
【0288】
(8)100℃評価用小型非水系二次電池の作製
(8-1)正極(P1)の作製
(2-1)と同様にして正極(P1)を作製した。
【0289】
(8-2)負極(N1)の作製
(2-2)と同様にして負極(N1)を作製した。
【0290】
(8-3)小型非水系二次電池の組み立て
上述のようにして得られた正極(P1)を直径15.958mmの円盤状に打ち抜いたものと、上述のようにして得られた負極(N1)を直径16.156mmの円盤状に打ち抜いたものとをポリエチレン製微多孔膜セパレータ(膜厚21μm、透気度285s/100cm3、気孔率41%))の両側に重ね合わせて積層体を得た。その積層体をSUS製の円盤型電池ケースに挿入した。次いで、その電池ケース内に非水系電解液(S20、S36、S38、S39)を200μL注入し、積層体を非水系電解液に浸漬した後、アルミニウム製プランジャーで正極集電体を押さえ、電池ケースを密閉して25℃で12時間保持し、積層体に非水系電解液を十分馴染ませて小型非水系二次電池を得た。
【0291】
(9)100℃評価用小型非水系二次電池の評価
上述の(8-3)のようにして得られた小型非水系二次電池について、まず、下記(9-1)の手順に従って初回充放電処理、及び初回充放電容量測定を行った。次に下記(9-2)の手順に従って、それぞれの小型非水系二次電池を評価した。なお、充放電はアスカ電子(株)製の充放電装置ACD-M01A(商品名)、及びヤマト科学(株)製のプログラム恒温槽IN804(商品名)を用いて行った。
【0292】
本明細書では、1Cとは満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0293】
具体的には、小型非水系二次電池では、1Cは、3.5Vの満充電状態から定電流で2.0Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0294】
上記(8-3)の手順に従って組み立てられた小型非水系二次電池は、3mAh級セルであり、満充電状態となる電池電圧を3.5Vと定め、1C相当の電流値は3.0mAとする。以降、特に断らない限り、便宜上、電流値、電圧の表記は省略する。
【0295】
(9-1)初回充放電処理
小型非水系二次電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する定電流で充電して3.5Vに到達した後、定電圧で1.5時間充電を行った。その後、0.1Cに相当する定電流で2.0Vまで電池を放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。また、このときの放電容量を初期容量とした。
【0296】
(9-2)100℃4時間満充電保存試験
上記(9-1)に記載の方法で初回充放電処理を行った小型非水系二次電池について、周囲温度を25℃に設定し、1C相当の定電流で充電して満充電状態、即ち、3.5V、に到達した後、定電圧で1.5時間充電を行った。次に、この小型非水系二次電池を100℃の恒温槽に4時間保存した。その後、周囲温度を25℃に戻し、0.1C相当の電流値で2.0Vまで電池を放電した。このときの残存放電容量を4時間後残存放電容量とした。100℃4時間満充電保存試験の測定値として、以下の式に基づき、残存容量維持率を算出した。
4時間後残存容量維持率=(4時間後残存放電容量/初期容量)×100[%]
【0297】
残存容量維持率は、100℃満充電保存試験における自己放電の大きさの指標となる。この値が大きいほど、高温下における自己放電が小さく、多くの電流が使用可能となる。4時間貯蔵後残存容量維持率は、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましいので、下記基準に従って評価した。
A:85%以上
B:75%以上85%未満
C:75%未満
【0298】
100℃4時間の満充電保存試験の結果を表5に示す。
【0299】
【0300】
(10)コイン型非水系二次電池の作製
(10-1)正極(P5)の作製
正極活物質として、リチウム、ニッケル、マンガン及びコバルトの複合酸化物(LiNi0.8Mn0.1Co0.1O2)と、導電助剤として、カーボンブラック粉末と、バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、94:3:3の質量比で混合し、正極合剤を得た。
【0301】
得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを投入してさらに混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に、この正極合剤含有スラリーを目付量が16.6mg/cm2になるように調節しながら塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が2.91g/cm3になるよう圧延して、正極活物質層と正極集電体から成る正極(P5)を得た。
【0302】
(10-2)負極(N2)の作製
負極活物質として、グラファイト粉末と、導電助剤として、カーボンブラック粉末と、バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、90:3:7の質量比で混合し、負極合剤を得た。
【0303】
得られた負極合剤に溶剤として水を投入してさらに混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。このスラリーを、負極集電体となる厚さ8μmの銅箔の片面に、この負極合剤含有スラリーを目付量が10.3mg/cm2になるように調節しながら塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、ロールプレスで負極活物質層の密度が1.36g/cm3になるよう圧延して、負極活物質層と負極集電体から成る負極(N2)を得た。
【0304】
(10-3)コイン型非水系二次電池の組み立て
CR2032タイプの電池ケース(SUS304)にポリプロピレン製ガスケットをセットし、その中央に上述のようにして得られた正極(P5)を直径15.958mmの円盤状に打ち抜いたものを、正極活物質層を上向きにしてセットした。その上からガラス繊維濾紙(アドバンテック社製、GA-100)を直径16.156mmの円盤状に打ち抜いたものをセットして、非水系電解液(S33,S34、S40)を150μL注入した後、上述のようにして得られた負極(N2)を直径16.156mmの円盤状に打ち抜いたものを、負極活物質層を下向きにしてセットした。更にスペーサーとスプリングをセットした後に電池キャップをはめ込み、カシメ機でかしめた。あふれた電解液はウエスでふきとった。25℃で12時間保持し、積層体に非水系電解液を十分馴染ませてコイン型非水系二次電池を得た。
【0305】
(11)コイン型非水系二次電池の評価
上述の(10-3)のようにして得られたコイン型非水系二次電池について、まず、下記(11-1)の手順に従って初回充放電処理、及び初回充放電容量測定を行った。なお、充放電はアスカ電子(株)製の充放電装置ACD-M01A(商品名)、及びヤマト科学(株)製のプログラム恒温槽IN804(商品名)を用いて行った。
【0306】
ここで、1Cとは、満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。下記(11-1)の評価では、1Cは、具体的には、4.2Vの満充電状態から定電流で3.0Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0307】
上記(10-3)の手順に従って組み立てられた小型非水系二次電池は、6mAh級セルであり、満充電状態となる電池電圧を4.2Vと定め、1C相当の電流値は6.0mAとする。以降、特に断らない限り、便宜上、電流値、電圧の表記は省略する。
【0308】
(11-1)初回充放電処理
コイン型非水系二次電池の周囲温度を25℃に設定し、0.025Cに相当する0.15mAの定電流で充電して3.1Vに到達した後、3.1Vの定電圧で1.5時間充電を行った。続いて3時間休止後、0.05Cに相当する0.3mAの定電流で電池を充電して4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で1.5時間充電を行った。その後、0.15Cに相当する0.9mAの定電流で3.0Vまで電池を放電した。このときの放電容量を充電容量で割ることによって、初回効率を算出した。
【0309】
なお、電池外装体の腐食が起こらないよう、電池ケースをSUS304/アルミクラッドに変更した以外は上記(10-3)と全く同じ手順で作成したコイン型非水系二次電池について、初回充電容量が7.20mAhであったことから、その1.1倍(7.92mAh)以上の初回充電容量を示した非水系二次電池については過充電と判定し、放電処理は行わなかった。
【0310】
(12)初回充放電後の金属溶出量解析
上記(11-1)の初回充放電処理後のコイン型非水系二次電池を解体し、取り出した負極をテフロン(登録商標)分解容器に取り、68%硝酸3mLおよび98%硝酸5mLを加えてマイクロウェーブ(出力:1000W)による220℃45分の加熱分解(1段目反応)を行った。その後、68%硝酸2mLを追添して再度マイクロウェーブ(出力:1000W)による230℃40分の加熱分解後(2段目反応)、超純水で全量を約100gにした。この試料についてICP発光分光分析(ICP発光分光分析装置:SPS3520UV-DD(エスアイアイ社製))を行い、負極1枚当たりの溶出金属量を算出した。
【0311】
測定対象の元素としては、電池外装体の構成成分であるSUS304に含有される、Fe、Ni、Mo、Co、Mnを選んだ。
【0312】
ここで、各試験の解釈について述べる。
【0313】
初回効率は、初回充電容量に対する初回放電容量の割合を示すが、一般的に2回目以降の充放電効率より低い。これは、初回充電時にLiイオンが利用されて負極SEIが形成するためである。それによって放電できるLiイオンが少なくなる。ここで、初回効率は80%以上が好ましく、84%以上がより好ましい。
【0314】
負極上金属溶出量は、初回充放電による金属外装体からの金属溶出量の指標となる。この値が大きい場合、電池外装体から溶出した金属イオンが負極側で継続的に還元析出することによる過充電や負極のSEI損傷によって、電池性能が劣化する傾向にある。
【0315】
初回充放電試験及びその後の金属溶出量解析結果を表6に示す。
【0316】
【0317】
表6に示すように、実施例35~36では、初回充放電効率が好ましい数値以上の結果となった。一方、比較例13は過充電を引き起こしたため、その後の放電処理は行わなかった。
【0318】
また、比較例13は、実施例35~36に比べて負極上金属溶出量が多いことからも、電池外装体から溶出した金属イオンが負極側で継続的に還元析出することで、過充電が引き起こされたと推測される。
【0319】
次に、実施例35~36を比較すると、実施例35は、実施例36に比べて初回効率が高い。これは、LiPF6の量が減少し、環状アニオン含有リチウム塩/LiPF6のモル比が上昇したことで、電池外装体金属溶出抑制または負極SEIへの寄与などによって、電池性能の低下を抑制できたためだと推測される。
【0320】
また、実施例35は、実施例36に比べて負極上金属溶出量が少ない。これは、LiPF6の量が減少し、環状アニオン含有リチウム塩/LiPF6のモル比が上昇したことで、過充電または負極SEIの損傷による電池性能の低下を抑制できたためだと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0321】
本発明に係る構成要件の範囲内の非水系電解液は、優れた出力特性、低温特性および高温耐久性の両立が求められる電池に利用できる為、特に本発明の非水系電解液を用いた非水系二次電池は、例えば、携帯電話機、携帯オーディオ機器、パーソナルコンピュータ、IC(Integrated Circuit)タグ等の携帯機器用の充電池;ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車等の自動車用充電池;12V級電源、24V級電源、48V級電源等の低電圧電源;住宅用蓄電システム、IoT機器等としての利用等が期待される。また、本発明の非水系電解液を用いた非水系二次電池は、寒冷地用の用途、及び夏場の屋外用途等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0322】
100 非水系二次電池
110 電池外装
120 電池外装の空間
130 正極リード体
140 負極リード体
150 正極
160 負極
170 セパレータ