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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】電気化学装置及び電子装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20241112BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241112BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20241112BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20241112BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20241112BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20241112BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241112BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20241112BHJP
   H01G 11/24 20130101ALI20241112BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20241112BHJP
   H01G 11/60 20130101ALI20241112BHJP
   H01G 11/64 20130101ALI20241112BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/13
H01M4/587
H01M4/525
H01M10/0569
H01M10/0567
H01M10/052
H01G11/06
H01G11/24
H01G11/30
H01G11/60
H01G11/64
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023518462
(86)(22)【出願日】2021-12-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-22
(86)【国際出願番号】 CN2021138349
(87)【国際公開番号】W WO2023108481
(87)【国際公開日】2023-06-22
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】袁国霞
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-056384(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/13
H01M 4/587
H01M 4/525
H01M 10/0569
H01M 10/0567
H01M 10/052
H01G 11/06
H01G 11/24
H01G 11/30
H01G 11/60
H01G 11/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極片を含む電気化学装置であって、前記正極片は正極材料層を含み、前記正極材料層は正極活物質を含み、
前記正極材料層の断面の走査型電子顕微鏡写真において、面積が5μm超の正極活物質粒子の輪郭の最小外接円の半径をRとし、面積が5μm超の正極活物質粒子の輪郭の最大内接円の半径をRとしたとき、RとRは、1<R/Rの平均値≦3を満たし、
前記面積が5μm 超の正極活物質粒子は、第一粒子及び第二粒子を含み、
前記第一粒子の輪郭の最小外接円の半径をR c1 とし、前記第一粒子の輪郭の最大内接円の半径をR i1 としたとき、R c1 とR i1 は、1<R c1 /R i1 の平均値≦1.5を満たし、
前記第二粒子の輪郭の最小外接円の半径をR c2 とし、前記第二粒子の輪郭の最大内接円の半径をR i2 としたとき、R c2 /R i2 は、1.5<R c2 /R i2 の平均値≦3を満たす、電気化学装置。
【請求項2】
前記正極材料層の断面積に対して、前記第一粒子の面積百分率は、0%超50%以下であり、前記第二粒子の面積百分率Bは、30%~80%であることと、
前記第一粒子の平均断面積は、第二粒子の平均断面積よりも小さいことと、
のうちの少なくとも一つを満たす、請求項に記載の電気化学装置。
【請求項3】
電解液をさらに含み、
前記電解液は、鎖状炭酸エステル及び環状炭酸エステルを含み、
前記電解液の質量に対して、前記鎖状炭酸エステルの質量分率をωとし、前記環状炭酸エステルの質量分率をωとしたとき、ωが25%~50%であり、ω/ωが0.75~2.5である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項4】
(a)前記正極活物質は、マンガン酸リチウムを含むことと、
(b)前記正極活物質は、リチウム元素と遷移金属元素との複合金属酸化物を含み、前記遷移金属元素は、Mn及び金属元素M1を含み、前記金属元素M1は、Ni、Co、及びFeのうちの少なくとも一種を含むことと、
のうちの少なくとも一つの条件を満たす、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項5】
前記第二粒子は、金属元素M2を含み、前記金属元素M2は、Al、Mg、及びNbのうちの少なくとも一種を含む、請求項に記載の電気化学装置。
【請求項6】
前記第二粒子は、金属元素M2を含み、前記第二粒子の質量に対して、前記金属元素M2の質量分率は0.1%~3%である、請求項に記載の電気化学装置。
【請求項7】
前記正極活物質の体積粒度分布は、
(c)9μm≦Dv50≦22μmであることと、
(d)0.9≦(Dv90-Dv10)/Dv50≦2であることと、
のうちの少なくとも一つの条件を満たす、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項8】
前記鎖状炭酸エステルは、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、及びジブチルカーボネートのうちの少なくとも一種を含む、請求項に記載の電気化学装置。
【請求項9】
前記環状炭酸エステルは、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、及びブチレンカーボネートのうちの少なくとも一種を含む、請求項に記載の電気化学装置。
【請求項10】
電解液をさらに含み、
前記電解液は、スルホン酸エステル化合物を含み、前記電解液の質量に対して、前記スルホン酸エステル化合物の質量分率をAとしたとき、AとBは、0.006≦A/B≦0.1を満たす、請求項に記載の電気化学装置。
【請求項11】
0.5%≦A≦10%を満たす、請求項10に記載の電気化学装置。
【請求項12】
前記スルホン酸エステル化合物は、
【化2】
のうちの少なくとも一種を含む、請求項10に記載の電気化学装置。
【請求項13】
負極片をさらに含み、
前記負極片は、負極材料層を含み、前記負極材料層は、負極活物質を含み、前記負極活物質は、人造黒鉛、天然黒鉛、及びハードカーボンのうちの少なくとも一種を含む、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の電気化学装置を含む、電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学分野に関し、特に電気化学装置及び電子装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く、サイクル寿命が長く、及び、メモリー効果なしなどの利点により、着用機器、スマートフォン、ドローン、電気自動車、及び大型エネルギー貯蔵デバイスなどの分野に広く使用されており、現在世界中で最も発展の見込みがある新型グリーン化学電源になっている。リチウムイオン電池が広く適用されていることにつれて、リチウムイオン電池の総合的な性能のさらなる向上が市場に求められている。
【0003】
リチウムイオン電池中の正極活物質、負極活物質、及び電解液は、リチウムイオン電池の性能に影響を与える重要なパラメータである。中には、正極活物質の選択は、リチウムイオンの輸送効率に影響を与え、それによって、電気化学装置の電気化学性能、例えば、レート特性に影響を与える。しかし、従来の正極活物質には、さらに最適化し、電気化学装置のレート特性を向上させる必要がある。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、電気化学装置の低温及び常温下でのレート特性を向上させる電気化学装置及び電子装置を提供することを目的とする。
【0005】
本発明の第一態様は、正極片を含む電気化学装置であって、正極片は正極材料層を含み、正極材料層は正極活物質を含み、正極材料層の断面の走査型電子顕微鏡写真において、面積が5μm超の正極活物質粒子の輪郭の最小外接円の半径をRとし、面積が5μm超の正極活物質粒子の輪郭の最大内接円の半径をRとしたとき、RとRは、1<R/Rの平均値≦3を満たす、電気化学装置を提供する。例えば、R/Rの平均値は、1.1、1.5、1.8、2、2.3、2.5、2.8、3であってもよく、又はこれらの値のいずれか2つからなる範囲にあってもよい。何の理論にも限定されず、本発明に提供される電気化学装置において、正極材料層中の正極活物質が1<R/Rの平均値≦3を満たすことで、充放電過程中のリチウムイオンの輸送効率を効果的に向上させることができ、それによって、電気化学装置の常温及び低温(例えば、温度が0℃以下)下でのレート特性を向上させる。これは、R/Rの平均値が上記の範囲にある正極材料層の形態により、正極活物質が大きいレートでのサイクルに安定な結晶構造を維持し、正極活物質のリチウムイオン吸蔵、放出動態を効果的に改善し、良好なリチウムイオン輸送特性を提供することができ、それによって、電気化学装置のレート特性を向上させるためであると推察される。本発明において、正極材料層の断面とは、正極材料層の厚み方向に沿って横截することによって得られたものをいう。
【0006】
本発明のいくつかの実施案において、面積が5μm超の正極活物質粒子は、第一粒子及び第二粒子を含み、第一粒子の輪郭の最小外接円の半径をRc1とし、第一粒子の輪郭の最大内接円の半径をRi1としたとき、Rc1とRi1は、1<Rc1/Ri1の平均値≦1.5を満たし、第二粒子の輪郭の最小外接円の半径をRc2とし、第二粒子の輪郭の最大内接円の半径をRi2としたとき、Rc2とRi2は、1.5<Rc2/Ri2の平均値≦3を満たす。
【0007】
正極材料層の断面積に対して、第一粒子の面積百分率は、0%超50%以下であり、第二粒子の面積百分率Bは、30%~80%である。例えば、Rc1/Ri1の平均値は、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5であってもよく、又はこれらの値のいずれか2つからなる範囲にあってもよい。Rc2/Ri2の平均値は、1.6、2、2.5、3であってもよく、又はこれらの値のいずれか2つからなる範囲にあってもよい。第一粒子の面積百分率は、1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%であってもよく、又はこれらの値のいずれか2つからなる範囲にあってもよい。第二粒子の面積百分率Bは、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%であってもよく、又はこれらの値のいずれか2つからなる範囲にあってもよい。
【0008】
第一粒子及び第二粒子は、上記の割合で正極材料層に分布し、圧縮プロセス後に、正極材料層にR/R値の異なる粒子間の交錯分布を実現し、正極活物質及び導電剤の分布ネットワークを改善することで、正極材料層内の界面での副反応を効果的に低減するとともに、リチウムイオンの輸送効率及び正極片内部の電気伝導率を改善し、電気化学装置レート特性及びサイクル特性に対する効果的な改善を実現する。第二粒子の面積百分率Bが小さすぎる場合(例えば、30%未満)、第一粒子の面積百分率が大きすぎ、正極片の圧縮密度(Compaction density)が減少し、リチウムイオンの輸送効率に影響を与える。第二粒子の面積百分率Bが大きすぎる場合(例えば、80%超)、同様に、正極片の圧縮密度の減少を招き、リチウムイオンの輸送効率に影響を与え、それによって、電気化学装置の常温及び低温下でのレート特性に影響を与える。第一粒子の面積百分率及び第二粒子の面積百分率を本発明の範囲内に調整することで、電気化学装置の常温及び低温下でのレート特性の向上に有利である。本発明において、正極片の圧縮密度とは、正極片における正極材料層の圧縮密度をいう。
【0009】
本発明のいくつかの実施案において、第一粒子の平均断面積は、第二粒子の平均断面積よりも小さく、それによってリチウムイオン輸送経路の低減、電気化学装置のレート特性の改善に有利である。
【0010】
本発明のいくつかの実施案において、電気化学装置は、条件(a)~(b)の少なくとも一つを満たす。
(a)正極活物質は、マンガン酸リチウムを含み、マンガン酸リチウムは、ドープされたマンガン酸リチウム及び/又は被覆層を含有するマンガン酸リチウムを含む。本発明では、ドープされたマンガン酸リチウムにおけるドープ元素は、本発明の目的が実現可能であれば、特に制限されず、例えば、ドープ元素は、Al、Nb、Mg、Ti、F、B、Zr、W、Sr、Y、Ce、及びLaのうちの少なくとも一種を含んでもよいが、これらに限定されない。本発明では、被覆層を含有するマンガン酸リチウムにおける包覆層の元素は、本発明の目的が実現可能であれば、特に制限されず、例えば、包覆層の元素はAl、Sr、Zr、Ti、及びBのうちの少なくとも一種を含んでもよいが、これらに限定されない。
(b)正極活物質は、リチウム元素と遷移金属元素との複合金属酸化物を含み、遷移金属元素は、Mn及び金属元素M1を含み、金属元素M1は、Ni、Co、及びFeのうちの少なくとも一種を含む。正極活物質の質量に対して、Mnの質量分率は、30%~65%であり、金属元素M1の質量分率は、2%~25%である。
電気化学装置が条件(a)~(b)のうちの少なくとも一つを満たすことで、電気化学装置のサイクル特性及び低温レート特性の改善に有利である。
【0011】
本発明のいくつかの実施案において、第二粒子は、金属元素M2を含み、金属元素M2は、Al、Mg、及びNbのうちの少なくとも一種を含む。
【0012】
本発明のいくつかの実施案において、第二粒子の質量に対して、金属元素M2の質量分率は0.1%~3%である。例えば、金属元素M2の質量分率は、0.1%、0.3%、0.5%、0.8%、1%、1.3%、1.5%、1.8%、2%、2.5%、3%であってもよく、又はこれらの値のいずれか2つからなる範囲にあってもよい。
【0013】
関連する技術において、マンガン含有正極活物質(例えば、マンガン酸リチウム)は電気化学装置、例えばリチウムイオン電池に広く適用されている。しかし、マンガン酸リチウムに存在するMn3+は、不均化反応しやすいため、マンガン(Mn2+)の溶出をもたらし、そして、電解液を通って負極に移動し、負極の固体電解質界面(SEI)膜を壊すが、SEI膜を修復するには、活性リチウムが失われ、それによって、リチウムイオン電池のサイクル特性及びレート特性に影響を与える。本発明において、負極は負極片を意味してもよい。
【0014】
本発明の発明者は、マンガン含有正極活物質を含む電気化学装置について、正極活物質が金属元素M1を含む場合、上記の金属元素M1を選択することで、マンガンの溶出現象の改善に有利であり、それによって、負極SEI膜に対する破壊、及びSEI膜を修復するためのリチウムの消耗による活性リチウムの損失を減少することで、電気化学装置のサイクル特性及びレート特性を向上させることを見出した。
【0015】
本発明の発明者は、第二粒子が金属元素M2を含む場合、上記の金属元素M2を選択することで、低温充放電過程中に第二粒子と電解液との界面副反応を低減し、それによって、正極片の内部抵抗を改善し、電気化学装置の低温レート特性を向上させることを見出した。
【0016】
本発明の発明者は、金属元素M2の質量分率が低すぎる場合(例えば、0.1%未満)、第二粒子と電解液との間の副反応の改善は明らかではないことを見出した。金属元素M2の質量分率が高すぎる場合(例えば、3%超)、第二粒子と電解液との間の副反応のさらなる改善が実現できないとともに、正極活物質のグラムあたりの容量が低下することを見出した。金属元素M2の質量分率を上記の範囲内に調整することで、第二粒子と電解液との間の界面副反応の低減、電気化学装置のサイクル特性の向上に有利であることを見出した。本発明において、負極は負極片を意味してもよい。
【0017】
本発明のいくつかの実施案において、正極活物質の体積粒度分布は、(c)9μm≦Dv50≦22μmであることと、(d)0.9≦(Dv90-Dv10)/Dv50≦2であることとのうちの少なくとも一つの条件を満たす。例えば、正極活物質のDv50は、9μm、10μm、11μm、12μm、13μm、14μm、15μm、16μm、17μm、18μm、19μm、20μm、21μm、22μmであってもよく、又はこれらの値のいずれか2つからなる範囲にあってもよい。例えば、(Dv90-Dv10)/Dv50の値は、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2であってもよく、又はこれらの値のいずれか2つからなる範囲にあってもよい。正極活物質の体積粒度分布を調整して条件(c)~(d)のうちの少なくとも一つを満たすようにすることで、電気化学装置の常温及び低温下でのレート特性の向上に有利である。本発明では、正極活物質のDv90及びDv10は、(Dv90-Dv10)/Dv50の値が上記の範囲内にあればよく、特に制限されず、例えば、正極活物質のDv90は15μm~40μmであり、正極活物質のDv10は0.5μm~6μmである。ここで、(Dv90-Dv10)/Dv50の値は主に正極活物質の粒径分布を反映する。
【0018】
本発明のいくつかの実施案において、電気化学装置はさらに電解液を含み、電解液は、鎖状炭酸エステル及び環状炭酸エステルを含み、電解液の質量に対して、鎖状炭酸エステルの質量分率をωとし、環状炭酸エステルの質量分率をωとしたとき、ωは25%~50%であり、ω/ωが0.75~2.5である。例えば、環状炭酸エステルの質量分率ωは、25%、30%、35%、40%、45%、50%であってもよく、又はこれらの値のいずれか2つからなる範囲にあってもよい。ω/ωの値は、0.75、1、1.25、1.5、1.75、2、2.25、2.5であってもよく、又はこれらの値のいずれか2つからなる範囲にあってもよい。
【0019】
何の理論にも限定されず、正極活物質中のR/R平均値を調整するとともに、電解液中に鎖状炭酸エステル及び環状炭酸エステルが含まれることで、正極活物質と電解液との間に相乗効果が生じ、リチウムイオンの輸送経路、特に正極活物質と電解液との界面でのリチウムイオン輸送効率を改善することができ、それによって電気化学装置のレート特性を改善する。
【0020】
何の理論にも限定されず、環状炭酸エステルの質量分率ωが低すぎる場合(例えば、25%未満)、環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルとの間にリチウムイオンの輸送効率を改善するための良好な相乗効果が形成できず、環状炭酸エステルの質量分率ωが高すぎる場合(例えば、50%超)、電解液の粘度が増大し、リチウムイオンの輸送に不利であり、それによって、電気化学装置のレート特性に影響を与える。ω/ωの値が0.75未満又は2.5超である場合、いずれも環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルとの間の相乗効果に影響を与え、それによって、リチウムイオンの輸送効率に影響を与える。環状炭酸エステルの質量分率ω及びω/ωの値を本発明の範囲内に調整することで、正極活物質を十分に浸潤することができ、それによって、正極活物質と電解液との界面でのリチウムイオンの輸送効率を向上させ、さらに電気化学装置のレート特性を向上させる。
【0021】
本発明のいくつかの実施案において、ωは、35%≦ω≦65%を満たす。例えば、鎖状炭酸エステルの質量分率ωは、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%であってもよく、又はこれらの値のいずれか2つからなる範囲にあってもよい。何の理論にも限定されず、鎖状炭酸エステルの質量分率ωを本発明の範囲内に調整することで、環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルとの間の良好な相乗効果の形成に有利であり、リチウムイオンの輸送効率を改善し、それによって、電気化学装置のレート特性を向上させる。
【0022】
本発明のいくつかの実施案において、鎖状炭酸エステルは、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(EMC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルイソプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、及びジブチルカーボネート(DBC)のうちの少なくとも一種を含む。何の理論にも限定されず、上記の鎖状炭酸エステルを選択することで、リチウムイオンの輸送効率の改善、電気化学装置のレート特性の向上に有利である。
【0023】
本発明のいくつかの実施案において、環状炭酸エステルは、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、及びブチレンカーボネート(BC)のうちの少なくとも一種を含む。何の理論にも限定されず、上記の環状炭酸エステルを選択することで、リチウムイオンの輸送効率の改善、電気化学装置のレート特性の向上に有利である。
【0024】
本発明のいくつかの実施案において、電解液は、スルホン酸エステル化合物を含み、電解液の質量に対して、スルホン酸エステル化合物の質量分率をAとしたとき、Aは、0.006≦A/B≦0.1を満たす。例えば、A/Bの値は、0.006、0.008、0.01、0.02、0.04、0.06、0.08、0.1であってもよく、又はこれらの値のいずれか2つからなる範囲にあってもよい。何の理論にも限定されず、スルホン酸エステル化合物における硫黄酸素二重結合は、SEI膜の安定性の向上、溶出したマンガンの負極での堆積の減少に有利であり、それによって、電気化学装置のサイクル特性を向上させる。同時に、A/Bの値が本発明の範囲内にある場合、スルホン酸エステル化合物と正極活物質との間の相乗効果が生じることに有利であり、SEI膜の安定性を向上させるとともに、リチウムイオンの輸送効率を改善し、さらに電気化学装置のレート特性を向上させる。
【0025】
本発明のいくつかの実施案において、Aは、0.5%≦A≦10%を満たす。例えば、スルホン酸エステル化合物の質量分率Aは、0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%であってもよく、又はこれらの値のいずれか2つからなる範囲にあってもよい。何の理論にも限定されず、スルホン酸エステル化合物の質量分率Aが低すぎる場合(例えば、0.5%未満)、SEI膜の安定性に対する改善が明らかではなく、スルホン酸エステル化合物の質量分率Aが高すぎる場合(例えば、10%超)、厚すぎた、又は緻密すぎたSEI膜が形成され、リチウムイオンの輸送を阻害し、電気化学装置のレート特性の低下を招く。
【0026】
好ましくは、スルホン酸エステル化合物は、下記の構造の化合物I-1~I-14のうちの少なくとも一種を含む。下記の構造のスルホン酸エステル化合物を選択することで、SEI膜の安定性の向上、溶出したマンガンの負極での堆積の減少に有利であり、それによって、電気化学装置のサイクル特性を向上させる。
【化1】
【0027】
本発明のいくつかの実施案において、電気化学装置はさらに負極片を含み、負極片は負極材料層を含み、負極材料層は負極活物質を含み、負極活物質は、人造黒鉛、天然黒鉛、及びハードカーボンのうちの少なくとも一種を含む。何の理論にも限定されず、上記の負極活物質を選択することで、前記正極活物質及び/又は電解液の間の相乗効果の形成により有利であり、電気化学装置のサイクル特性及びレート特性を向上させる。
【0028】
本発明において、正極活物質は、複合酸化物、並びに、複合酸化物の硫化物、セレン化物、及びハロゲン化物のうちの少なくとも一種を含んでもよいが、これらに限定されない。複合酸化物は、LiMn、Li(Nia1Cob1Mnc1)O(0<a1<1、0<b1<1、0<c1<1、a1+b1+c1=1)、LiNi1-y1Coy1(0<y1<1)、LiNi2-y3Mny3(0<y3<2)、Li(Nia3Cob3Alc3)O(0<a3<1、0<b3<1、0<c3<1、a3+b3+c3=1)、及びLiMnFePO(0<p<1、0<q<1、p+q=1)、及びLiFePOのうちの少なくとも一種を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0029】
任意に、複合酸化物の表面には、非晶質化合物又は結晶質化合物が存在してもよく、非晶質又は結晶質化合物は、元素Zの酸化物、元素Zの水酸化物、元素Zのオキシ水酸化物、元素Zのオキシカーボネート、及び元素Zの塩基性炭酸塩のうちの少なくとも一種を含んでもよいが、これらに限定されない。ここで、元素Zは、Mg、Al、Co、K、Na、Ca、Si、Ti、V、Sn、Ge、Ga、B、As、及びZrのうちの少なくとも一種を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0030】
本発明では、表面に非晶質化合物又は結晶質化合物が含まれる複合酸化物の調製方法は、本発明の目的が実現可能であれば、特に制限されず、例えば、スプレー法又はディープ法などが挙げられる。
【0031】
本発明において、正極材料層はさらに導電剤を含んでもよく、本発明では、導電剤は、本発明の目的が実現可能であれば、特に制限されず、例えば、導電カーボンブラック(SuperP)、カーボンナノチューブ(CNTs)、カーボンファイバー、ケッチェンブラック、グラフェン、金属材料、及び導電性重合体のうちの少なくとも一種を含んでもよいが、これらに限定されず、上記のカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、及び多層カーボンナノチューブを含んでもよいが、これらに限定されない。上記のカーボンファイバーは、気相成長カーボンファイバー(VGCF)、及び/又はナノカーボンファイバーを含んでもよいが、これらに限定されない。上記の金属材料は、金属粉及び金属ファイバーを含んでもよいが、これらに限定されなく、具体的に、金属は、銅、ニッケル、アルミニウム、及び白金のうちの少なくとも一種を含んでもよいが、これらに限定されない。上記の導電性重合体は、ポリフェニレン誘導体、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、及びポリピロールのうちの少なくとも一種を含んでもよいが、これらに限定されない。本発明において、正極材料層の質量に対して、導電剤の質量分率は0.5%~5%である。
【0032】
本発明において、正極材料層は正極バインダーを含んでもよく、本発明では、正極バインダーは、本発明の目的が実現可能であれば、特に制限されず、例えば、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、カルボキシル化されたポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、エチレンオキシを含むポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、アクリル酸(エステル)化されたスチレンブタジエンゴム、エポキシ樹脂、及びナイロンのうちの少なくとも一種を含むが、これらに限定されない。
【0033】
本発明において、正極片は、正極集電体を含む。ここで、正極集電体は、本発明の目的が実現可能であれば、特に制限されず、例えば、アルミニウム箔、アルミニウム合金箔、及び複合集電体などを含んでもよいが、これらに限定されない。本発明において、正極集電体の厚みは、本発明の目的が実現可能であれば、特に制限されず、例えば、厚みは8μm~20μmである。
【0034】
任意に、正極片はさらに導電層を含んでもよく、導電層は、正極集電体と正極材料層との間に位置する。本発明では、導電層の組成は特に制限されず、当分野で一般的な導電層であってもよく、例えば、上記の導電剤及び上記の正極バインダーを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0035】
本発明において、負極材料層は導電剤を含んでもよく、本発明では、導電剤は、本発明の目的が実現可能であれば、特に制限されず、例えば、上記の導電剤のうちの少なくとも一種を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0036】
本発明において、負極材料層はさらに負極バインダーを含んでもよく、本発明では、負極バインダーは、本発明の目的が実現可能であれば、特に制限されず、例えば、ジフルオロエチレン一ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリ塩化ビニル、カルボキシル化されたポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、エチレンオキシを含むポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、アクリル酸(エステル)化されたスチレンブタジエンゴム、エポキシ樹脂、及びナイロンのうちの少なくとも一種を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0037】
本発明において、負極片は、負極集電体を含む。ここで、負極集電体は、本発明の目的が実現可能であれば、特に制限されず、例えば、銅箔、銅合金箔、ニッケル箔、ステンレス鋼箔、チタン箔、ニッケルフォーム、銅フォーム、及び複合集電体などを含んでもよいが、これらに限定されない。本発明において、負極の集電体の厚みは、本発明の目的が実現可能であれば、特に制限されず、例えば、厚みは4μm~12μmである。
【0038】
任意に、負極片はさらに導電層を含んでもよく、導電層は、負極集電体と負極材料層との間に位置する。本発明では、導電層の組成は特に制限されず、当分野で一般的な導電層であってもよく、導電層は、上記の導電剤及び上記の負極バインダーを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0039】
本発明において、電解液はさらに非水溶媒を含んでもよく、本発明では、非水溶媒は、本発明の目的が実現可能であれば、特に制限されず、例えば、カルボン酸エステル化合物、エーテル化合物、及びその他の有機溶媒のうちの少なくとも一種を含んでもよいが、これらに限定されない。上記のカルボン酸エステル化合物は、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸n-ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸ブチル、γ-ブチロラクトン、酢酸2,2-ジフルオロエチル、バレロラクトン、ブチロラクトン、2-フルオロ酢酸エチル、2,2-ジフルオロ酢酸エチル、トリフルオロ酢酸エチル、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピオン酸エチル、2,2,3,3,4,4,4,4-ヘプタフルオロ酪酸メチル、4,4,4-トリフルオロ-3-(トリフルオロメチル)酪酸メチル、2,2,3,3,4,4,5,5,5,5-ノナフルオロ吉草酸エチル、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9-ヘプタデカフルオロノナン酸メチル、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9-ヘプタデカフルオロノナン酸エチルのうちの少なくとも一種を含んでもよいが、これらに限定されない。上記のエーテル化合物は、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、及びビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテルのうちの少なくとも一種を含むが、これらに限定されない。上記のその他の有機溶媒は、エチルビニルスルホン、メチルイソプロピルスルホン、イソプロピルsec-ブチルスルホン、ジメチルスルホキシド、1,2-ジオキソラン、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチル-2-ピロリドン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル、及びリン酸エステルのうちの少なくとも一種を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0040】
本発明において、電解液はさらにリチウム塩を含んでもよく、本発明では、リチウム塩は、本発明の目的が実現可能であれば、特に制限されず、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiB(C)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiBF(C))、リチウムヘキサフルオロアンチモネート(LiSbF)、リチウムパーフルオロブチルスルホネート(LiCSO)、過塩素酸リチウム(LiClO)、アルミン酸リチウム(LiAlO)、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl)、リチウムビススルホンイミド(LiN(C2x+1SO)(C2y+1SO)、ここで、x及びyはそれぞれ4以下の自然数である)、塩化リチウム(LiCl)、フッ化リチウム(LiF)のうちの少なくとも一種を含んでもよいが、これらに限定されない。好ましくは、リチウム塩は、LiPFを含む。本発明では、リチウム塩の濃度は、本発明の目的が実現可能であれば、特に制限されず、例えば、濃度は0.5mol/L~3mol/Lであり、好ましくは0.5mol/L~2mol/Lであり、さらに好ましくは0.6mol/L~1.5mol/Lである。
【0041】
本発明の電気化学装置はさらにセパレータを含み、本発明では、セパレータは、本発明の目的が実現可能であれば、特に制限されず、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレンを主とするポリオレフィン(PO)類のセパレータ、ポリエステルフィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム)、セルロースフィルム、ポリイミドフィルム(PI)、ポリアミドフィルム(PA)、スパンデックスやアラミドフィルム、織フィルム、不織フィルム(不織布)、微孔質フィルム、複合フィルム、セパレータペッパー、プレスフィルム、及び紡糸フィルムなどのうちの少なくとも一種を含んでもよいが、これらに限定されない。本発明のセパレータは、多孔質構造を有してもよく、孔径のサイズは、本発明の目的が実現可能であれば、特に制限されず、例えば、孔径のサイズは0.01μm~1μmであってもよい。本発明において、セパレータの厚みは、本発明の目的が実現可能であれば、特に制限されず、例えば、厚みは5μm~500μmであってもよい。
【0042】
例えば、セパレータは、セパレータ基材層及び表面処理層を含んでもよい。セパレータ基材層は多孔質構造を有する不織布、膜、又は複合膜であってもよく、セパレータ基材層の材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、及びポリイミドなどのうちの少なくとも一種を含んでもよいが、これらに限定されない。任意に、ポリプロピレン多孔質膜、ポリエチレン多孔質膜、ポリプロピレン不織布、ポリエチレン不織布、又はポリプロピレン-ポリエチレン-ポリプロピレン多孔質複合膜を使用してもよい。任意に、セパレータ基材層の少なくとも一つの表面上に表面処理層が設けられており、表面処理層は、重合体層または無機物層であってもよく、重合体と無機物とを混合してなる層であってもよい。
【0043】
重合体層は重合体を含み、重合体の材料は、フッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピル共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、アクリル酸-スチレン共重合体、ポリジメチルシロキサン、ポリアクリル酸ナトリウム、及びカルボキシメチルセルロースのうちの少なくとも一種を含んでもよいが、これらに限定されない。無機物層は無機粒子及び無機物バインダーを含んでもよいが、これらに限定されなく、本発明では、無機粒子は、特に制限されず、例えば、セラミック、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化チタン、二酸化ハフニウム、酸化スズ、二酸化セリウム、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化イトリウム、炭化ケイ素、ベーマイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、及び硫酸バリウムのうちの少なくとも一種を含んでもよいが、これらに限定されない。本発明では、無機物層バインダーは、特に制限されず、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリメタクリル酸メチル、ポリテトラフルオロエチレン、およびポリヘキサフルオロプロピレンのうちの少なくとも一種を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0044】
本発明の電気化学装置は、特に制限されず、電気化学反応が発生する任意の装置を含んでもよい。いくつかの実施案において、電気化学装置は、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池(リチウムイオン電池)、リチウム重合体二次電池、及びリチウムイオン重合体二次電池などを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0045】
電気化学装置の調製過程は当業者に熟知されているものであり、本発明では、特に制限されず、例えば、下のステップを含むが、これらに限定されない。正極片、セパレータ、及び負極片を順次重ね、必要に応じて、それを巻き取り、折り畳みなどして、捲回構造の電極群が得られ、電極群を包装袋に置き、電解液を包装袋に注ぎ、封口し、電気化学装置が得られた。或いは、正極片、セパレータ、及び負極片を順次重ね、そしてテープで積層構造全体の四つの角を固定し、積層構造の電極群が得られ、電極群を包装袋におき、電解液を包装袋に注ぎ、封口し、電気化学装置が得られる。また、電気化学装置の内部の圧力上昇、過充放電を防止するために、必要に応じて過電流防止素子、リード板などを包装袋に設けてもよい。
【0046】
本発明の第二態様は、本発明のいずれかの実施案における電気化学装置を含む、電子装置を提供する。本発明に提供された電気化学装置は、良好なレート特性及びサイクル特性を有し、それによって、本発明に提供された電子装置は、長い使用寿命を有する。
【0047】
本発明の電気化学装置は特に限定されなく、先行技術で既知される任意の電子装置に使用してもよい。いくつかの実施案において、本発明の電子装置は、ノートコンピューター、ペン入力型コンピューター、モバイルコンピューター、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯型ファクシミリ、携帯型コピー機、携帯型プリンター、ステレオヘッドセット、ビデオレコーダー、液晶テレビ、ポータブルクリーナー、携帯型CDプレーヤー、ミニディスク、トランシーバー、電子ノートブック、電卓、メモリーカード、ポータブルテープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、オートバイ、補助自転車、自転車、照明器具、おもちゃ、ゲーム機、時計、電動ツール、閃光灯、カメラ、大型家庭用ストレージバッテリー、及びリチウムイオンコンデンサーなどを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0048】
本発明は、正極片を含む電気化学装置であって、前記正極片は正極材料層を含み、正極材料層は正極活物質を含み、正極材料層の横断面の走査型電子顕微鏡写真において、横断面積が5μm超の正極活物質粒子の輪郭の最小外接円の半径をRとし、横断面積が5μm超の粒子の輪郭の最大内接円の半径をRとしたとき、RとRは、1<R/Rの平均値≦3を満たす、電気化学装置を提供する。本発明に提供される電気化学装置において、正極材料層中の正極活物質が1<R/Rの平均値≦3を満たすことで、正極片のリチウムイオンの輸送効率を効果的に向上させることができ、それによって、電気化学装置の常温及び低温下でのレート特性を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
本発明の実施例および先行技術の技術案をより明らかに説明するため、以下では実施例および先行技術に用いられる図面を簡単に説明するが、明らかに、下記の説明における図面は本発明のいくつかの実施例に過ぎない。
図1図1は、本発明の一つの実施例における正極材料層の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図2図2は、本発明の一つの実施例における正極片の断面模式図である。 図面の符号:10、正極集電体;20、正極材料層;21、正極活物質。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明の目的、技術案、及び利点をよく明らかにするため、以下では、図面を参照し、実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。明らかに、説明された実施例は本発明の一部の実施例のみであり、全部の実施例ではない。本発明の実施例に基づいて、当業者が得られた他のすべての実施例は、本発明の保護範囲に属する。
【0051】
図1は、本発明の一つの実施例における正極材料層の断面の走査型電子顕微鏡写真を示し、図面から分かるように、正極活物質21の粒子のサイズ及び形状には差がある。粒子Cの輪郭の最小外接円はR1であり、粒子Cの輪郭の最大内接円はR2であり、粒子Dの輪郭の最小外接円はR3であり、粒子Dの輪郭の最大内接円はR4である。ここで、粒子Cは本発明における第一粒子の例示であり、粒子Dは本発明における第二粒子の例示である。
【0052】
図2は、本発明の一つの実施例における正極片の断面模式図を示し、正極集電体10の両方の表面上にいずれも正極材料層20が存在し、図の矢印に示された方向は正極材料層20の厚み方向であり、本発明に記載の正極材料層の断面とは、図の矢印方向に沿って横断することで得られるものをいう。
【0053】
なお、本発明の実施するための形態において、第一粒子のRc1/Ri1の平均値及び第二粒子のRc2/Ri2の平均値は、原料の粒子の輪郭の最小外接円の半径と最大内接円の半径との比、及び原料のDv50を制御し、正極活物質の調製過程中の撹拌速度または焼成温度などの条件を総合的に調整することで、制御することができる。
【0054】
なお、本発明の発明を実施するための形態において、リチウムイオン電池を電気化学装置の例として本発明を説明するが、本発明の電気化学装置はリチウムイオン電池に限らない。
【0055】
実施例
以下では、実施例及び比較例を挙げて、本発明の実施形態をより詳しく説明する。各種の試験及び評価は下記の通りに行われる。なお、別に断らない限り、「部」、「%」は質量基準である。
【0056】
測定方法及びデバイス:
及びRの測定:
25℃の条件下で、リチウムイオン電池を0.5C、定電流で4.2Vに充電し、さらに4.2Vの条件下、定電圧で0.05Cに充電し、そして1Cの定電流で2.8Vに放電し、リチウムイオン電池を分解し、DMCで正極片を洗浄し、そして60℃で2h乾燥させた。その後、イオン研磨機により正極片自体の厚み方向に沿って正極片をカットし、平らな正極片断面が得られた。走査型電子顕微鏡(SEM)により断面に測定し、拡大倍率が1000倍のSEM画像を選択した。
【0057】
ソフトウェアImageJを採用し、上記のSEM画像に図形態様認識を行い、断面が完全に画像視野内にあり、且つ断面積が5μm超の粒子をランダムに100個選択し、アルゴリズムを採用し、粒子の最大内接円の半径R及び最小外接円の半径Rをそれぞれ算出した(「Kenneth C.Williams,Wei Chen,Sebastian Weeger,Timothy J.Donohue,Particle shape characterisation and its application to discrete element modelling,Particuology,Volume12,2014,Pages80-89,ISSN1674-2001」参照)。
【0058】
c1、Ri1、Rc2、Ri2の測定方法はR及びRのと同様であった。
【0059】
c3及びRi3の測定は、まず二酸化マンガンをスラリーに調製し、そして基材上に塗工して膜層を形成し、そしてR及びRの測定方法を参照し、測定を行い、ここで、スラリーの固形分(例えば、75wt%)及び基材の種類は、本発明の目的が実現可能であれば、特に制限されない。Rc4及びRi4、Rc5及びRi5の測定は、Rc3及びRi3の測定方法を参照した。
【0060】
第一粒子及び第二粒子の面積の測定及び面積百分率の計算:
ソフトウェアImageJにより粒子の面積を計算し、認識されたR/R比で、粒子が第一粒子と第二粒子のどちらに帰属するかを確定し、帰属が異なる粒子の合計を第一粒子又は第二粒子の面積とし、第一粒子の面積百分率は第一粒子の面積/図像の面積×100%であり、第二粒子面積百分率は第二粒子の面積/図像の面積×100%であった。
【0061】
正極活物質の粒径の測定:
マルバーン粒度計により正極活物質の粒径を測定し、正極活物質をエタノールに分散させ、30min超音波処理した後、マルバーン粒度計に加え、測定を開始した。正極活物質の体積基準の粒度分布において、粒径の小さい側から、累計体積が10%になる粒径は正極活物質のDv10であり、累計体積が50%になる粒径は正極活物質のDv50であり、累積体積が90%になる粒径は正極活物質のDv90であった。
【0062】
元素含有量の測定:
上記によって得られた正極片断面のSEM画像において、画像における粒子の粒径のサイズ及び粒子の面積により第二粒子を確定した。そしてエネルギー分散分光装置(EDS)で測定し、ドープ元素及び元素含有量を確定した。
【0063】
DMCで洗浄された正極片の正極材料層をブレードで取り除き、混合溶媒で溶かし(例えば、0.4gの正極活物質に10mlの王水(硝酸と塩酸が体積比1:1で混合されたもの)と2mlのHFとの混合溶媒を使用する)、100mLに希釈し、そして誘導結合プラズマ(ICP)分析装置で溶液中の元素の含有量を測定した。
【0064】
正極片の圧縮密度の測定:
25℃の条件下で、リチウムイオン電池を0.5C、定電流で4.2Vに充電し、さらに4.2Vの条件下、定電圧で0.05Cに充電し、そして1Cの定電流で2.8Vに放電し、リチウムイオン電池を分解し、DMCで正極片を洗浄し、そして60℃で2h乾燥させた後、5cm×5cmのサイズの正極片を5枚カットし、万分の一のマイクロメーターで正極片の厚みをそれぞれ測定し、d0cmとした。ブレードで正極片の正極材料層を取り除き、天平で正極材料層の質量を量り、mgとし、万分の一のマイクロメーターで正極材料層が除去された正極集電体の厚みをdcmとし、以下の式で正極材料層の圧縮密度を計算した。
圧縮密度P=m/[25×(d0-d)]、単位g/cm
【0065】
正極材料層の圧縮密度は、上記のカットによって得られた5枚の正極片の正極材料層の圧縮密度の平均値である。
【0066】
正極材料層における粒子の粒径の測定:
25℃の条件下で、リチウムイオン電池を0.5C、定電流で4.2Vに充電し、さらに4.2Vの条件下、定電圧で0.05Cに充電し、そして1Cの定電流で2.8Vに放電し、リチウムイオン電池を分解し、分解された正極片又は負極片を真空、400℃で、粉状に焼いた後、粒度分析装置で粒度を測定し、Dv10、Dv50、Dv90の値が得られた。
【0067】
ここで、Dv90とは、体積基準の粒度分布において、粒径の小さい側から、累積体積が90%になる粒径をいい、Dv50とは、体積基準の粒度分布において、粒径の小さい側から、累積体積が50%になる粒径をいい、Dv10とは、体積基準の粒度分布において、粒径の小さい側から、累積体積が10%になる粒径をいう。
【0068】
レート特性及び25℃サイクル特性の測定:
(1)25℃ 2C常温レート特性及び25℃サイクル特性
25℃の条件下で、リチウムイオン電池を0.5Cの定電流で4.2Vに充電し、さらに4.2Vの条件下、定電圧で0.05Cに充電し、そして0.2Cの定電流で2.8Vに放電し、放電容量をD01として記録した。リチウムイオン電池を0.5Cの定電流で4.2Vに充電し、さらに4.2Vの条件下、定電圧で0.05Cに充電し、そして2Cの定電流で2.8Vに放電し、放電容量をDとして記録した。25℃ 2Cレート維持率(%)=D/D01×100%。
【0069】
上記の操作ステップに従って、リチウムイオン電池に「0.5C充電-2C放電」というサイクルの流れを数回行い、1000回サイクルし、1000回目のサイクル後の放電容量をD10として測定した。25℃1000回サイクル後の容量維持率(%)=D10/D01×100%。
【0070】
(2)-10℃ 1C低温レート特性
25℃の条件下で、リチウムイオン電池を0.5Cの定電流で4.2Vに充電し、さらに4.2Vの条件下、定電圧で0.05Cに充電し、そして1Cの定電流で2.8Vに放電し、放電容量をD02として記録した。25℃の条件下で、リチウムイオン電池を0.5Cの定電流で4.2Vに充電し、さらに4.2Vの条件下、定電圧で0.05Cに充電し、温度を-10℃に調整し、セルを30min放置した後、1Cの定電流で2.8Vに放電し、放電容量をDとして記録した。-10℃ 1Cレート維持率(%)=D/D02×100%。
【0071】
サイクル特性の測定:
40℃ 500回サイクル容量維持率:
リチウムイオン電池を40℃、0.5C定電流で4.2Vに充電し、そして定電圧で電流が0.05Cになるまで充電し、5min放置し、そして1Cの定電流で2.8Vに放電し、一回の充放電サイクルとし、放電容量をD03として記録した。上記の操作ステップに従って、リチウムイオン電池に500回サイクルを行い、500回目のサイクル後の放電容量をDとして測定した。40℃サイクル500回後の容量維持率(%)=D/D03×100%。
【0072】
負極片のマンガン含有量の測定:
40℃ 500回サイクル後、完全放電後のリチウムイオン電池を分解し、負極片を取り、DMCで洗浄し、そして60℃で2h乾燥処理を行った後、負極片の負極材料層をブレードで取り除き、混合溶媒で溶かし(例えば、0.4gの負極活物質に10mlの王水(硝酸と塩酸が体積比1:1で混合されたもの))、100mlに希釈し、そしてICP分析装置で溶液中のマンガン元素の含有量を測定した。
【0073】
実施例1-1
<正極片の調製>
炭酸リチウム203.3kg(ここで、リチウム元素の質量分率は18.71%である)、Rc3/Ri3の平均値が2.9であり、Dv50が17.2μmである二酸化マンガン1000kg(ここで、Mn元素の質量分率は60.22%である)、M2金属元素含有化合物である酸化アルミニウム56.2kg(Al、アルミニウム元素の質量分率は52.91%である)を量り、高速混合機で回転速度300r/minで20min混合し、混合物が得られ、混合物を空気窯に置き、5℃/minで790℃に昇温し、24h維持し、自然冷却後に取り出し、300メッシュの篩にかけ、マンガン含有複合金属酸化物、即ちLMOが得られた。ここで、Rc3は二酸化マンガン粒子の輪郭の最小外接円の半径であり、Ri3は二酸化マンガン粒子の輪郭の最大内接円の半径である。
【0074】
正極活物質LMO、導電剤SuperP、バインダーであるポリフッ化ビニリデンを質量比96:2.4:1.6で混合し、N-メチルピロリドン(NMP)を入れ、真空撹拌機で均一になるまで撹拌し、正極スラリーが得られ、ここで、正極スラリーの固形分は75wt%であった。正極スラリーを均一に厚みが10μmの正極集電体であるアルミニウム箔の一つの表面上に塗工し、アルミニウム箔を85℃で乾燥させ、塗工層の厚みが110μmである、片面に正極材料層が塗工された正極片が得られた。アルミニウム箔のもう一方の表面上に上記のステップを繰り返し、両面に正極材料層が塗布された正極片が得られた。そして冷間圧延、カット、スリットを経て、85℃の真空条件下で4h乾燥させ、サイズが74mm×867mmである正極片が得られた。ここで、正極活物質のR/Rの平均値は2.9であり、Dv50は17.9μmであった。
【0075】
<負極片の調製>
負極活物質である人造黒鉛、導電剤であるSuperP、増粘剤であるカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、バインダーであるスチレンブタジエンゴム(SBR)を質量比96.4:1.5:0.5:1.6で混合し、脱イオン水を入れ、真空撹拌機により負極スラリーが得られ、ここで、負極スラリーの固形分は70wt%であった。負極スラリーを均一に厚みが10μmの負極集電体である銅箔の一つの表面上に塗工し、銅箔を85℃で乾燥させ、塗工層の厚みが130μmである、片面に負極材料層が塗工された負極片が得られた。銅箔のもう一方の表面上に上記のステップを繰り返し、両面に負極材料層が塗布された負極片が得られた。そして冷間圧延、カット、スリットを経て、120℃の真空条件下で12h乾燥させ、サイズが79mm×972mmである負極片が得られた。
【0076】
<電解液の調製>
含水量<10ppmのアルゴン雰囲気グローブボックスに、鎖状炭酸エステルであるDEC及び環状炭酸エステルであるECを質量比57.5:30で混合し、ベース溶媒が得られ、そしてベース溶媒にリチウム塩であるLiPFを入れて溶かし、均一に混合した。ここで、電解液の質量に対して、LiPFの質量分率は12.5%であり、残りはベース溶媒であった。
【0077】
<セパレータの調製>
水系ポリフッ化ビニリデン、酸化アルミニウム、ポリプロピレンを質量比1:8:1で混合し、脱イオン水に入れ、撹拌して、固形分が50wt%である塗工層スラリーが得られた。塗工層スラリーを厚みが5μmのPEフィルム(Celgard社によるもの)の一つの表面に均一に塗工し、85℃で乾燥させ、塗工層の厚みが5μmである、片面に塗工層が塗工されたセパレータが得られた。セパレータのもう一方の表面上に上記のステップを繰り返し、両面に塗工層が塗布されセパレータが得られた。そして、乾燥、冷間圧延を経て、セパレータが得られた。ここで、セパレータの孔隙率は39%であった。
【0078】
<リチウムイオン電池の調製>
セパレータが正極と負極との間に介在して隔離の役割を果たすように、上記の調製で得られた正極片、セパレータ、負極片を順次重ね、巻取り、電極群が得られた。電極群をアルミニウムプラスチックフィルム包装袋に置き、乾燥した後に電解液を注ぎ、真空パッケージ、静置、フォーメーション(化成)、脱気、カットなどの工程を経て、リチウムイオン電池が得られた。ここで、フォーメーション条件は、0.02Cの定電流で3.3Vに充電し、さらに0.1Cの定電流で3.6Vに充電することであった。
【0079】
実施例1-2~実施例1-4
実施例1-2~実施例1-4は、正極活物質のR/Rの平均値及びDv50を表1に示す値となるように二酸化マンガンのRc3/Ri3の平均値及びDv50を調整したこと以外、実施例1-1と同様であった。
【0080】
実施例1-5及び実施例1-6
実施例1-5及び実施例1-6は、LMOの調製において原料である二酸化マンガンを四三酸化マンガンに変更し、正極活物質のR/Rの平均値及びDv50を表1に示す値となるように四三酸化マンガンのRc4/Ri4の平均値及びDv50を調整したこと以外、実施例1-1と同様であった。ここで、Rc4は四三酸化マンガン粒子の輪郭の最小外接円の半径であり、Ri4は四三酸化マンガン粒子の輪郭の最大内接円の半径である。
【0081】
実施例2-1
実施例2-1は、<正極片の調製>において、正極活物質であるLMO、正極活物質であるLiNi0.55Co0.15Mn0.3(NCM5515)、導電剤であるSuperP、バインダーであるポリフッ化ビニリデンを採用して、質量比76.8:19.2:2.4:1.6で混合し、NMPを入れ、真空撹拌機で均一になるまで撹拌し、固形分が75wt%である正極スラリーが得られ、そして第二粒子のR/Rの平均値及び正極活物質のDv50を表2に示す値となるように二酸化マンガンのRc3/Ri3の平均値及びDv50を調整したこと以外、実施例1-1と同様であった。
【0082】
上記のNCM5515は以下の方法によって得られた。炭酸リチウム(ここで、リチウム元素の質量分率は18.71%である)、及びRc5/Ri5の平均値が1.2であり、Dv50が16.3μmであるNi0.55Co0.15Mn0.3(OH)前駆体を、Liのモル数と遷移金属元素のモル数(Ni、Co、及びMnのモル数の合計)の比が1.05:0.997になるように、高速混合機により回転速度300r/minで20min混合し、混合物が得られ、混合物を酸素ガス窯に置き、5℃/minで890℃に昇温し、12h維持し、自然冷却後に取り出し、300メッシュの篩にかけ、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、NCM5515が得られた。ここで、Rc5はNi0.55Co0.15Mn0.3(OH)前駆体粒子の輪郭の最小外接円の半径であり、Ri5はNi0.55Co0.15Mn0.3(OH)前駆体粒子の輪郭の最大内接円の半径である。
【0083】
実施例2-2~実施例2-4、実施例2-7
実施例2-2~実施例2-4、実施例2-7は、表2に従い、対応する正極活物質を混合し、二酸化マンガンのRc3/Ri3の平均値とDv50、及び/又は、Ni0.55Co0.15Mn0.3(OH)前駆体のRc5/Ri5の平均値とDv50を調整し、得られたRc1/Ri1の平均値、Rc2/Ri2の平均値、第一粒子の面積百分率、第二粒子の面積百分率、正極活物質のDv50及び正極活物質の粒径分布(Dv90-Dv10)/Dv50の値を表2に示し、それ以外は実施例2-1と同様であった。ここで、表2におけるNCM6010はLiNi0.6Co0.1Mn0.3であり、NCM8309はLiNi0.83Co0.09Mn0.08であった。NCM6010及びNCM8309が上記の化学式を満たすようにNCM5515の調製におけるLiのモル数と遷移金属元素のモル数の比を調整した。
【0084】
実施例2-5及び実施例2-6
実施例2-5及び実施例2-6は、第一粒子LMOの調製において、原料である二酸化マンガンを四三酸化マンガンに変更し、四三酸化マンガンのRc4/Ri4の平均値及びDv50を調整し、そして、第二粒子LMOの調製において、二酸化マンガンのRc3/Ri3の平均値及びDv50を調整し、得られたRc1/Ri1の平均値、Rc2/Ri2の平均値、第一粒子の面積百分率、第二粒子の面積百分率、正極活物質のDv50及び正極活物質の粒径分布(Dv90-Dv10)/Dv50の値を表2に示し、それ以外は実施例2-1と同様であった。
【0085】
実施例3-1~実施例3-7
実施例3-1~実施例3-7は、表3に従い、鎖状炭酸エステル及び環状炭酸エステルの種類及び含有量を調整してベース溶媒を得たこと以外、実施例2-1と同様であった。
【0086】
実施例4-1~実施例4-9
実施例4-1~実施例4-9は、<電解液の調製>において、電解液にさらにスルホン酸エステル化合物を入れ、そして表4に従い、スルホン酸エステル化合物の種類及び質量分率を調整すること以外、実施例2-1と同様であった。
【0087】
実施例5-1~実施例5-6
実施例5-1~実施例5-6は、LMOの調製過程中において、表5に従い、M2金属元素含有化合物を入れ、金属元素M2の質量分率を表5に示す値となるようにその含有量を調整したこと以外、実施例2-1と同様であった。
【0088】
実施例5-7
実施例5-7は、NCM5515に代えて、市販の、Dv50が1.0μmであるLiFePO(LFPと記す)を使用したこと以外、実施例5-3と同様であった。
【0089】
実施例5-8
実施例5-8は、NCM5515に代えて、市販の、Dv50が1.0μmであるLiMn0.75Fe0.25PO(LMFPと記す)を使用したこと以外、実施例5-3と同様であった。
【0090】
実施例5-9
実施例5-9は、NCM5515の一部に代えて、市販の、Dv50が1.0μmであるLFPを使用し、LMO、NCM5515、LFP、SuperP、ポリフッ化ビニリデンの質量比が76.8:9.2:10:2.4:1.6になるようにすること以外、実施例5-3と同様であった。
【0091】
比較例1
比較例1は、R/Rの平均値及び正極活物質のDv50が表1に示されたようにすること以外、実施例1-1と同様であった。
【0092】
各実施例及び比較例の調製パラメータ及び性能測定を表1~表5に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
実施例1-1~実施例1-6、比較例1から分かるように、R/Rの値が本発明の範囲内にあると、得られたリチウムイオン電池は、良好な低温レート特性及び常温レート特性を同時に備える。
【0095】
【表2】
【0096】
第一粒子の面積百分率、第二粒子の面積百分率、正極活物質のDv50、及び(Dv90-Dv10)/Dv50の値は、通常、リチウムイオン電池の性能に影響を与える。実施例2-1~実施例2-7から分かるように、第一粒子の面積百分率、第二粒子の面積百分率、正極活物質のDv50及び(Dv90-Dv10)/Dv50の値が本発明の範囲内にある場合、得られたリチウムイオン電池は、良好な低温レート特性及び常温レート特性を備える。
【0097】
【表3】
【0098】
電解液中の鎖状炭酸エステル及び環状炭酸エステルの種類及び質量分率、並びに、ω/ωの値は、通常、リチウムイオン電池の性能に影響を与える。実施例2-1、実施例3-1~実施例3-7から分かるように、鎖状炭酸エステル及び環状炭酸エステルの種類及び質量分率、並びに、ω/ωの値が本発明の範囲内にあると、得られたリチウムイオン電池は、良好な低温レート特性を備える。
【0099】
【表4】
【0100】
実施例2-1、実施例4-1~実施例4-9から分かるように、電解液にスルホン酸エステル化合物を入れると、リチウムイオン電池の高温下でのサイクル特性および負極片上でのマンガン溶出現象を改善することができる。実施例4-1~実施例4-9から分かるように、スルホン酸エステル化合物の種類及び質量分率が本発明の範囲内にある場合、得られたリチウムイオン電池は、良好な高温サイクル特性を備え、且つ負極片上でのマンガン溶出量が少ない。加えて、A/Bの値が本発明の範囲内にあると、得られたリチウムイオン電池は、良好な高温サイクル特性を備え、且つ負極片上でのマンガン溶出量が少ない。
【0101】
【表5】
【0102】
正極活物質中の元素の種類は、通常、リチウムイオン電池の性能に影響を与える。実施例2-1、実施例5-1~実施例5-9から分かるように、正極活物質がMn及び金属元素M1を含むと、得られたリチウムイオン電池は、良好な低温レート特性を備える。また、第二粒子が金属元素M2を含み、且つその種類及び質量分率が本発明の範囲内にある場合、得られたリチウムイオン電池は、良好な低温レート特性を備えることが分かる。
【0103】
上記のものは本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明を限定するためではなく、本発明の主旨と原則の範囲内で行われた変更、同等の代替、改善などは、本発明の保護の範囲に含まれるものとする。
図1
図2