(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】空間浮遊映像表示装置および光源装置
(51)【国際特許分類】
G02B 30/56 20200101AFI20241112BHJP
【FI】
G02B30/56
(21)【出願番号】P 2023523353
(86)(22)【出願日】2022-04-20
(86)【国際出願番号】 JP2022018282
(87)【国際公開番号】W WO2022249800
(87)【国際公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2021086984
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021086987
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平田 浩二
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】杉山 寿紀
(72)【発明者】
【氏名】谷津 雅彦
【審査官】横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-164196(JP,A)
【文献】特開2017-156466(JP,A)
【文献】特開2018-031925(JP,A)
【文献】特開2020-134843(JP,A)
【文献】特開2019-070776(JP,A)
【文献】特開2005-186730(JP,A)
【文献】国際公開第2017/141956(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/128097(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/00-30/60
G09F 9/00
H04N 13/00-17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間浮遊映像を形成する空間浮遊映像表示装置であって、
前記空間浮遊映像を形成する特定偏波の映像光が通過する開口部と、
前記開口部に配置され前記映像光が通過する透明部材と、
映像源としての液晶表示パネルと、
前記映像源に特定の偏光方向の光を供給する光源装置と、
再帰反射面に位相差板が設けられた再帰反射光学部材と、
前記映像源と前記再帰反射光学部材とを結んだ空間内に設けられた偏光分離部材と、
を備え、
前記映像源からの一方の偏波の映像光を前記偏光分離部材によって透過させ、
前記偏光分離部材を透過した映像光を前記再帰反射光学部材および前記位相差板に入射させて偏光変換し、
前記偏光変換後の他方の偏波の映像光を前記偏光分離部材によって前記開口部に向けて反射させ、
前記偏光分離部材で反射した映像光に基づいて、前記開口部の前記透明部材の外側に実像である前記空間浮遊映像を表示し、
前記液晶表示パネルは、表示面から特定偏波の映像光を出射し、前記表示面の一方の領域にはλ/2板が設けられることで前記表示面が複数の領域に分割され、前記表示面の他方の領域からは前記特定偏波の映像光を出射し、前記一方の領域からは前記λ/2板を通じて前記特定偏波とは異なる偏波の映像光を出射し、
前記映像源の前記複数の領域に対応させて、領域ごとに、前記位相差板が設けられた前記再帰反射光学部材が配置され、前記領域と前記再帰反射光学部材とを結んだ空間内に前記偏光分離部材が配置され、
前記映像源の第1の領域からの一方の偏波の映像光を、第1の偏光分離部材で反射させ、第2の偏光分離部材で透過させ、第1の再帰反射光学部材および第1の位相差板によって偏光変換し、偏光変換後の他方の偏波の映像光を前記第2の偏光分離部材で反射させて、第1の空間浮遊映像を形成するとともに、
前記映像源の第2の領域からの他方の偏波の映像光を、前記第2の偏光分離部材で反射させ、前記第1の偏光分離部材で透過させ、第2の再帰反射光学部材および第2の位相差板によって偏光変換し、偏光変換後の一方の偏波の映像光を前記第1の偏光分離部材で反射させて、第2の空間浮遊映像を形成し、
前記映像源の前記複数の領域に対応させた前記第1の空間浮遊映像および前記第2の空間浮遊映像の合成によって、前記開口部の前記透明部材の外側に前記空間浮遊映像を表示する、
空間浮遊映像表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の空間浮遊映像表示装置において、
前記映像源は、ユーザが前記空間浮遊映像を視認する方向から前記開口部を視認する場合に前記映像源から出射する映像光が視認できない位置に配置されている、
空間浮遊映像表示装置。
【請求項3】
立体的な空間浮遊映像を形成する空間浮遊映像表示装置であって、
前記立体的な空間浮遊映像を形成する特定偏波の映像光が通過する開口部と、
前記開口部に配置され前記映像光が通過する透明部材と、
平面映像の映像源としての液晶表示パネルと、
前記映像源に特定の偏光方向の光を供給する光源装置と、
再帰反射面に位相差板が設けられた再帰反射光学部材と、
前記映像源と前記再帰反射光学部材とを結んだ空間内に設けられた偏光分離部材と、
前記映像源の画素ごとに出射した映像光束が通過する位置として前記開口部の近傍の位置に配置された光学素子と、
を備え、
前記映像源からの一方の偏波の映像光を前記偏光分離部材によって透過させ、
前記偏光分離部材を透過した映像光を、前記再帰反射光学部材および前記位相差板に入射させて偏光変換し、
前記偏光変換後の他方の偏波の映像光を前記偏光分離部材によって前記開口部に向けて反射させ、
前記偏光分離部材で反射した映像光に基づいて、前記映像源の表示映像の各画素から発散した映像光束を、前記光学素子を通過させて、前記開口部の外側に実像である前記立体的な空間浮遊映像を表示し、
前記立体的な空間浮遊映像の結像位置は、前記光学素子のレンズ面に略平行で前記レンズ面を拡大した面積を有する仮想面と対応しており、
前記光学素子の前記映像光束が通過する領域に対応した前記仮想面内の平面座標情報に、前記映像源と前記再帰反射光学部材との間隔で決まる前記立体的な空間浮遊映像の高さ方向の座標情報を加え、前記光学素子の前記領域内における厚さが設定されることで、前記立体的な空間浮遊映像を形成し、
前記液晶表示パネルは、表示面から特定偏波の映像光を出射し、前記表示面の一方の領域にはλ/2板が設けられることで前記表示面が複数の領域に分割され、前記表示面の他方の領域からは前記特定偏波の映像光を出射し、前記一方の領域からは前記λ/2板を通じて前記特定偏波とは異なる偏波の映像光を出射し、
前記映像源の前記複数の領域に対応させて、領域ごとに、前記位相差板が設けられた前記再帰反射光学部材が配置され、前記領域と前記再帰反射光学部材とを結んだ空間内に前記偏光分離部材が配置され、
前記映像源の第1の領域からの一方の偏波の映像光を、第1の偏光分離部材で反射させ、第2の偏光分離部材で透過させ、第1の再帰反射光学部材および第1の位相差板によって偏光変換し、偏光変換後の他方の偏波の映像光を前記第2の偏光分離部材で反射させて、第1の空間浮遊映像を形成するとともに、
前記映像源の第2の領域からの他方の偏波の映像光を、前記第2の偏光分離部材で反射させ、前記第1の偏光分離部材で透過させ、第2の再帰反射光学部材および第2の位相差板によって偏光変換し、偏光変換後の一方の偏波の映像光を前記第1の偏光分離部材で反射させて、第2の空間浮遊映像を形成し、
前記映像源の前記複数の領域に対応させた前記第1の空間浮遊映像および前記第2の空間浮遊映像の合成によって、前記開口部の前記透明部材の外側に前記立体的な空間浮遊映像を表示する、
空間浮遊映像表示装置。
【請求項4】
請求項3に記載の空間浮遊映像表示装置において、
前記光学素子は、前記映像源の映像表示領域の中心と前記再帰反射光学部材の外形中心とを結んだ光軸に対して前記光学素子の中心を偏心して配置され、
前記立体的な空間浮遊映像の高さ中心が、偏心した前記光学素子の中心の延長線上に存在する、
空間浮遊映像表示装置。
【請求項5】
請求項3に記載の空間浮遊映像表示装置において、
前記映像源は、ユーザが前記空間浮遊映像を視認する方向から前記開口部を視認する場合に前記映像源から出射する映像光が視認できない位置に配置されている、
空間浮遊映像表示装置。
【請求項6】
請求項3に記載の空間浮遊映像表示装置において、
前記光源装置は、前記液晶表示パネルの光線発散角が±15度以内となるように、光束の発散角の一部または全部を、前記光源装置の前記反射面の形状と面粗さによって制御する、
空間浮遊映像表示装置。
【請求項7】
請求項3に記載の空間浮遊映像表示装置において、
前記光源装置は、前記液晶表示パネルの光線発散角が、水平発散角と垂直発散角とで異なるように、光束の発散角の一部または全部を、前記光源装置の前記反射面の形状と面粗さによって制御する、
空間浮遊映像表示装置。
【請求項8】
請求項3に記載の空間浮遊映像表示装置に用いられる光源装置であって、
発散角が±30度以内である、
光源装置。
【請求項9】
請求項8に記載の光源装置において、
発散角が±10度以内である、
光源装置。
【請求項10】
請求項8に記載の光源装置において、
水平拡散角と垂直拡散角とが異なる、
光源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、明るい使用環境下においても視認性の高い空間浮遊映像を表示する空間浮遊映像表示装置の技術に関し、空間浮遊映像の画像を複数の観視者に同時に実像として観察できるようにした光学系を用いた空間浮遊映像表示装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
空中に画像を表示する空間浮遊画像表示装置の小型化と空間映像の突出距離を大きくする技術として、特許第6632747号(特許文献1)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の映像表示装置においては、空間浮遊像映像表示装置からの空間浮遊映像の突出量(言い換えると浮遊量)を大きくして空中像の視認範囲の拡大が望まれる。一方、空間浮遊映像を大型化するためには、画像表示部(表示装置)の表示画像の大型化が必須である。その場合、従来技術では、空間浮遊映像表示装置(セット)が大型化してしまう。
【0005】
本発明の目的は、より好適に空間浮遊映像を表示することが可能な空間浮遊映像表示技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。本願は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、一例を挙げるならば以下の通りである。空間浮遊映像を形成する空間浮遊映像表示装置は、空間浮遊映像を形成する特定偏波の映像光が通過する開口部と、開口部に配置され前記映像光が通過する透明部材と、映像源としての液晶表示パネルと、映像源に特定の偏光方向の光を供給する光源装置と、再帰反射面に位相差板が設けられた再帰反射光学部材と、映像源と再帰反射光学部材とを結んだ空間内に設けられた偏光分離部材と、を備え、映像源からの一方の偏波の映像光を偏光分離部材によって透過させ、偏光分離部材を透過した映像光を再帰反射光学部材および位相差板に入射させて偏光変換し、偏光変換後の他方の偏波の映像光を偏光分離部材によって開口部に向けて反射させ、偏光分離部材で反射した映像光に基づいて、開口部の透明部材の外側に実像である空間浮遊映像を表示し、液晶表示パネルは、表示面から特定偏波の映像光を出射し、表示面の一方の領域にはλ/2板が設けられることで表示面が複数の領域に分割され、表示面の他方の領域からは特定偏波の映像光を出射し、一方の領域からはλ/2板を通じて特定偏波とは異なる偏波の映像光を出射し、映像源の複数の領域に対応させて、領域ごとに、位相差板が設けられた再帰反射光学部材が配置され、領域と再帰反射光学部材とを結んだ空間内に偏光分離部材が配置され、映像源の第1の領域からの一方の偏波の映像光を、第1の偏光分離部材で反射させ、第2の偏光分離部材で透過させ、第1の再帰反射光学部材および第1の位相差板によって偏光変換し、偏光変換後の他方の偏波の映像光を第2の偏光分離部材で反射させて、第1の空間浮遊映像を形成するとともに、映像源の第2の領域からの他方の偏波の映像光を、第2の偏光分離部材で反射させ、第1の偏光分離部材で透過させ、第2の再帰反射光学部材および第2の位相差板によって偏光変換し、偏光変換後の一方の偏波の映像光を第1の偏光分離部材で反射させて、第2の空間浮遊映像を形成し、映像源の前記複数の領域に対応させた第1の空間浮遊映像および第2の空間浮遊映像の合成によって、開口部の透明部材の外側に空間浮遊映像を表示する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、より好適に空間浮遊映像を表示することが可能な空間浮遊映像表示技術を提供することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施例に係る空間浮遊映像表示装置の原理を説明するための主要部構成と再帰反射光学部構成の一例を示す図である。
【
図2】空間浮遊映像表示装置の課題として再帰反射光学部材を示す説明図である。
【
図3】再帰反射光学部材の表面粗さと再帰反射像のボケ量との関係を表す特性図である。
【
図4】一実施例の空間浮遊映像表示装置のゴースト像低減手段の原理を示す図である。
【
図5】空間浮遊映像表示装置の奥行き低減手段の第一の実施例に係る原理を示す図である。
【
図6】空間浮遊映像表示装置の奥行き低減手段の第二の実施例に係る原理を示す図である。
【
図7】空間浮遊映像表示装置のセット容積低減手段の第三の実施例に係る原理を示す図である。
【
図8】空間浮遊映像表示装置のセット容積低減手段の第四の実施例に係る原理を示す図である。
【
図9】空間浮遊映像表示装置のセット容積低減手段の第五の実施例に係る原理を示す図である。
【
図10】空間浮遊映像表示装置のセット容積低減手段の第六の実施例に係る原理を示す図である。
【
図11】空間浮遊映像表示装置のセット容積低減手段の第七の実施例に係る原理を示す図である。
【
図12】空間浮遊映像表示装置の光学素子の原理を示す図である。
【
図13】空間浮遊映像表示装置のセット容積低減手段の第一の実施例に係る原理を示す図である。
【
図14】空間浮遊映像表示装置のセット容積低減手段の第二の実施例に係る原理を示す図である。
【
図15】空間浮遊映像表示装置のセット容積低減手段の第三の実施例に係る原理を示す図である。
【
図16】空間浮遊映像表示装置の光学部品の第一の構造を示す上面図である。
【
図17】空間浮遊映像表示装置により得られる第一の空間浮遊映像の像面形状を示す図である。
【
図18】空間浮遊映像表示装置の光学部品の第二の構造を上面図である。
【
図19】空間浮遊映像表示装置により得られる空間浮遊映像の第二の像面形状を示す図である。
【
図20】空間浮遊映像表示装置の空間浮遊映像を拡大する原理の説明図である。
【
図21】映像表示装置からの光出力の角度特性を示す特性図である。
【
図22】光源装置の具体的な構成の一例を示す図である。
【
図23】光源装置の具体的な構成の一例を示す断面図である。
【
図24】光源装置の具体的な構成の一例を示す断面図である。
【
図25】光源装置の具体的な構成の一例を示す断面図である。
【
図26】光源装置の具体的な構成の一例を示す断面図である。
【
図27】光源装置の具体的な構成の一例を示す断面図である。
【
図28】光源装置の具体的な構成の一例を示す断面図である。
【
図31】光源装置の具体的な構成の一例を示す断面図である。
【
図32】光源装置の具体的な構成の一例を示す図である。
【
図33】一実施例に係る空間浮遊映像表示装置の使用形態の一例を示す図である。
【
図34】空間浮遊映像表示装置を自動車に設置した場合の主要部構成の第2の実施例を示す図である。
【
図35】偏光成分の違いによる光線入射角度に対するガラスの反射特性を示す特性図である。
【
図36】太陽光の分光放射照度を示す特性図である。
【
図37】高輝度白色LEDの分光放射輝度の相対値を示す特性図である。
【
図38】高輝度白色LEDの放射特性を示す特性図である。
【
図39】光源の青色光を選択するフィルタ―特性を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<従来の空間浮遊映像表示装置>
従来の空間浮遊映像表示装置は、高解像度なカラー映像表示源として映像光が拡散する特性を有する有機ELパネルや液晶表示パネルを使用し、再帰反射光学部材と組み合わせて構成される。この空間浮遊映像表示装置では、カラー映像表示源と同一サイズの平面空間浮遊映像が得られる。
【0010】
また、再帰反射光学部材で反射された映像光は、映像表示源と同様に広角な拡散特性を持つ。再帰反射光学部材の表面には、
図1(B)に示すような6面体の反射部材が整列配置されている。
図2に示すように、再帰反射光学部材2の反射面が6面体であるために、正規な映像光(映像光の主光線)6001によって生じる反射光6002の他に、再帰反射光学部材2(反射部材2a,2b,2c等)に斜めから入射する映像光(映像光の斜め光線)6003によって発生する反射光6004が原因でゴースト像が発生し、空間浮遊映像の画質を損ねていた。
【0011】
従来技術例として示した再帰反射光学部材2の反射部材が6面体であるために、正規な空間浮遊映像の他に、第1ゴースト像から第6ゴースト像(図示せず)まで複数のゴースト像が発生する。このため、観視者(ユーザ)以外の人にも、同一の空間浮遊映像であるゴースト像が観視され、空間浮遊映像の見かけ上の解像度が大幅に低下する等の大きな課題があった。なお、ここでは、
図1(B)に示す6面体による反射によって再帰反射を実現する構造の例を示した。これに限らず、再帰反射を起こす少なくとも2回以上の反射により再帰反射像を得る光学部材において、同様の理由でゴースト像が発生する課題がある。以上、反射面が突起形状の6面体の場合について説明したが、周囲に対して凹面形状の反射面による6面体としても、同様の効果が得られる。
【0012】
また、後述する狭角な指向特性を有する表示装置からの映像光を再帰反射光学部材によって反射させ、それにより空間浮遊映像を得る構成がある。発明者の実験によれば、それにより得られた空間浮遊映像は、上述したゴースト像の他に、
図3に示したように、液晶表示パネルの画素ごとにボケが視認された。
【0013】
<空間浮遊映像表示装置の概要>
図1を用いて、本実施例の空間浮遊映像表示装置の構成をより具体的に説明する。
図1(A)に示すように、ガラス等の透明部材100の斜め方向(光軸5001の方向)には、特定偏波の映像光を挟角に発散させる表示装置1を備える。この斜め方向は、図示のように透明部材100の平面の方向およびそれに垂直な方向に対し斜めになるように角度を持つ所定の方向である。表示装置1は、映像源であり映像光を出射する表示パネル11と、挟角な拡散特性を有する特定偏波の光を生成する光源装置13(言い換えるとバックライト)とを備える。本実施形態における表示パネルは、液晶表示パネルを用いて説明する。
【0014】
表示装置1からの特定偏波の映像光は、透明部材100に設けた特定偏波の映像光を選択的に反射する膜を有する偏光分離部材101によって反射され、反射光が光軸5002の方向で再帰反射光学部材2に入射する。図面中では、偏光分離部材101はシート状に形成され、透明部材100の面(図示のように下側の面)に粘着されている。再帰反射光学部材2の映像光入射面には、λ/4板21が設けられている。映像光は、再帰反射光学部材2への入射のときと出射のときとで計2回、λ/4板21を通過させられることで、特定(一方)の偏波から他方の偏波へ偏光変換される。
【0015】
ここで、特定偏波の映像光を選択的に反射する偏光分離部材101は、偏光変換された他方の偏波の偏光を透過する性質を有する。よって、光軸5002の方向で、偏光変換後の特定偏波の映像光は、偏光分離部材101を透過する。偏光分離部材101を透過した映像光は、光軸5002と対応した光軸5003の方向で、透明部材100の外側(図面では上側)の所定の位置に、実像である空間浮遊映像220を形成する。
【0016】
なお、空間浮遊映像220を形成する光は、再帰反射光学部材2から空間浮遊映像220の光学像へ収束する光線の集合であり、これらの光線は、空間浮遊映像220の光学像を通過後も直進する。よって、空間浮遊映像220は、一般的なプロジェクタ等でスクリーン上に形成される拡散映像光とは異なり、高い指向性を有する映像である。よって、図示の構成では、矢印Aの方向からユーザ(対応するアイポイント)が視認する場合には、空間浮遊映像220は好適な明るい映像として視認されるが、矢印Aとは異なる例えば矢印Bの方向から他の人物が視認する場合には、空間浮遊映像220は映像として一切視認することはできない。
【0017】
この高い指向性という特性は、例えば運転者(方向Aに対応したアイポイントの位置を持つユーザ)のみに対し必要な映像情報を表示するシステムや、その運転者に対向する車外の他の人物(例えば方向Bに対応するアイポイントを持つ人)や車内の他の位置にいる人物には秘匿したい秘匿性の高い映像を表示するシステム等に採用する場合には、非常に好適である。
【0018】
<本願発明による空間浮遊映像表示装置の性能改善>
従来技術による空間浮遊映像表示装置では、再帰反射光学部材2の性能によっては、反射後の映像光の偏光軸が不揃いになる場合がある。この場合、偏光軸が不揃いになった一部の映像光は、上述した偏光分離部材101で反射されて表示装置1に戻る。この光が、表示装置1を構成する液晶表示パネル11の映像表示面で再反射し、前述のようなゴースト像を発生させて、空間浮遊映像220の画質を低下させる可能性がある。そこで、本実施例では、表示装置1の映像表示面には吸収型偏光板12が設けられている。表示装置1から出射する映像光は、吸収型偏光板12を透過させ、偏光分離部材101から戻ってくる反射光は、吸収型偏光板12で吸収させる。これにより、上記再反射等を抑制でき、空間浮遊映像220のゴースト像による画質低下を防止することができる。
【0019】
上述した偏光分離部材101は、例えば反射型偏光板や特定偏波を反射させる金属多層膜などで形成されたものを適用できる。
【0020】
次に、
図1(B)に、代表的な再帰反射光学部材2として、今回の検討に用いた日本カ-バイト工業株式会社製の再帰反射光学部材の表面形状を示す。この再帰反射光学部材は、面内において規則的に配列された6角柱(再帰部)を有する。規則的に配列された6角柱の内部に入射した光線は、6角柱の壁面と底面で反射されて、再帰反射光として、入射光に対応した方向に出射して、
図1(A)に示す空間浮遊映像220の正規像R1(所定の位置に形成される像)を形成する。再帰反射光学部材2は、
図1(B)に示すように、6角柱を空気に接する面となるように底面に反射面を設け、反射面の上部に6角コーナー面を形成し、6面体と6角柱を中空とし、残りの部分に樹脂を充填した構成としても、同様の効果が得られる。
【0021】
一方、
図2に示したように、表示装置1からの映像光のうちで、再帰反射光学部材2に斜めに入射した映像光によっては、正規像R1とは別にゴースト像が形成される。本発明の空間浮遊映像表示装置は、表示装置1に表示した映像に基づいて実像である空間浮遊映像を表示する。この空間浮遊映像の解像度は、液晶表示パネル11の解像度の他に、
図1(B)で示す再帰反射光学部材2を構成する6角柱(再帰部)の外形DとピッチPに大きく依存する。例えば、7インチのWUXGA(1920×1200画素)液晶表示パネルを用いる場合には、1画素(1トリプレット)が約80μmであっても、例えば6角柱の直径Dが240μmでピッチPが300μmであれば、空間浮遊映像の1画素は300μm相当となる。このため、空間浮遊映像の実効的な解像度は、1/3程度に低下する。
【0022】
そこで、空間浮遊映像の解像度を表示装置1の解像度と同等にするためには、再帰反射光学部材2の6角柱の直径DとピッチPを液晶表示パネル11の1画素に近づけることが望まれる。他方、再帰反射光学部材2の6角柱と液晶表示パネル11の画素とによるモアレの発生を抑えるために、それぞれのピッチ比を1画素の整数倍から外して設計すると良い。また、形状は、再帰反射光学部材2の6角柱のいずれの一辺も液晶表示パネル11の1画素のいずれの一辺とも重ならないように配置すると良い。
【0023】
さらに、
図2に示すように、再帰反射光学部材2に斜め方向から外光6000が入ると、再帰反射光学部材2の表面(6角柱2a,2b,2c等)で反射し、様々な方向にゴースト像を発生させ、空間浮遊映像の画質を大幅に低下させる。発明者は、空間浮遊映像の画質と視認性を向上するために許容できる空間浮遊映像の像のボケ量l(エル)と画素サイズLとの関係を実験により求めた。その際、発明者は、画素ピッチ40μmの液晶表示パネルと、本実施例の狭発散角(例えば発散角が15°)の特性を持つ光源装置とを組み合わせた表示装置1を作成して、その関係を求めた。
【0024】
視認性が悪化するボケ量lは、画素サイズの40%以下が望ましく、15%以下であれば、殆ど目立たないことが分かった。このときのボケ量lが許容量となる反射面の面粗さ(
図2での再帰面の表面粗さ6010)は、測定距離40μmの範囲において平均粗さが160nm以下であり、より目立たないボケ量lとなるには、その反射面の面粗さは120nm以下が望ましいことが分かった。このため、前述した再帰反射光学部材2の表面粗さを軽減するとともに、反射面を形成する反射膜とその保護膜とを含めた面粗さを、上述した値以下とすることが望まれる。
【0025】
一方、再帰反射光学部材2を低価格で製造するためには、ロールプレス法を用いて成形すると良い。具体的には、複数の再帰部(
図2での6角柱)を整列させてフィルム上に賦形する方法である。この方法では、賦形する形状の逆形状をロール表面に形成し、固定用のベース材の上に紫外線硬化樹脂を塗布し、ロール間を通過させることで、必要な形状を賦形し、紫外線を照射して硬化させることで、所望形状の再帰反射光学部材2を得る。
【0026】
図1に示した本実施例の表示装置1は、液晶表示パネル11と、後に詳述する挟角な拡散特性を有する特定偏波の光を生成する光源装置13とにより、上述した再帰反射光学部材2に対して斜め(
図2)から映像光が入射する可能性を小さくすることができる。これにより、ゴースト像が発生したとしてもゴースト像の輝度が低いので見えにくいという構造的に優れた装置となる。
【0027】
更に、再帰反射光学部材2の表面には、
図4に示すような、視野角を狭角化する映像光制御フィルム(外光制御フィルム、光学シート)250を設けると良い。この光学シート250は、面方向に、光透過部材である透明部分251と光吸収部材である黒色部分255(図面ではドットパターン領域)とが交互に配列されている。光吸収部材は
図4の奥行方向に延伸している。この光学シート250は、映像源からの拡散光が再帰反射光学部材2に斜め方向から入射した場合には黒色部分255で遮蔽し、同時に、再帰反射光学部材2の表面粗さ起因で映像光が散乱(
図4中、例えば散乱253、散乱254)した場合でも黒色部分255で吸収される。そのため、空間浮遊映像のゴースト像の発生を抑えることができる。再帰反射光学部材2に正規に入射した映像光4001(垂直入射に近い映像光)のうち散乱しない正規反射光(再帰反射光4002)は、透明部分251を通過して、空間浮遊映像を形成する。
【0028】
この再帰反射光学部材2の散乱光を抑制する光学シート250としては、例えば信越ポリマー(株)の視野角制御フィルム(VCF:View Control Film)が適している。このフィルムの構造は、透明シリコンとルーバー形状の遮蔽性の高い黒色シリコンを交互に配置している構造であるので、斜め方向から入射した光は黒色シリコンで吸収される。よって、本実施例(
図4)の光学シート250と同様の効果が期待できる。
【0029】
空間浮遊像のゴースト像の発生を軽減するには、上述した映像光制御フィルム250を用いる場合に、光透過部材(透明部分251)と光吸収部材(黒色部分255)のピッチPsは、映像源で表示する映像の画素に対して10倍以下であることが望ましく、映像光制御フィルム250の厚さTは、視野角αを45度より小さくしたい場合には、h/wを1.0より大きくすれば良い。言い換えると、映像光制御フィルム250は、0.5<Ps/T<2.0という関係を有する物を選択すれば、好適である。また、黒色部分255の傾斜角は、再帰反射光学部材2に対して垂直(傾斜角0)に配置すると良く、後述の
図33及び
図34に示す実施例においても、再帰反射光学素子2100の表面に上記映像光制御フィルム250を設けることで、ゴースト像の発生を大幅に軽減できる。
【0030】
<空間浮遊映像表示装置の小型化の原理1>
図5及び
図6を用いて、空間浮遊映像表示装置を小型化する第一の技術手段について説明する。
図5は、小型化の原理の説明図である。表示装置1は、狭角な拡散特性を有する光源装置13と、映像表示素子としての液晶表示パネル11とを有して構成され、液晶表示パネル11の映像表示面の右側の半分の領域にはλ/2板111(半波長板)が設けられている。この結果、
図5の右半分の領域と左半分の領域から出射される映像光は、異なる偏光方向となり、左側の偏光分離部材101と右側の偏光分離部材102に分割してそれぞれの偏波方向に対応して反射と透過を分割することで、空間浮遊映像表示装置の厚さ方向(奥行き方向。
図5での上下方向。)の寸法を短縮できる。
【0031】
より具体的には、液晶表示パネル11の図面右側(右側の半分の領域)の映像光を、λ/2板111を設けることで、S偏波(図面では実線で表示)とし、一方(右側)の偏光分離部材102は、S偏波を反射しP偏波(図面では破線で表示)を透過する特性とする。逆に、液晶表示パネル11の図面左側(左側の半分の領域)の映像光を、λ/2板111を設けないことでP偏波とし、他方(左側)の偏光分離部材101は、S偏波を透過しP偏波を反射する特性とする。そうすれば、右側の偏光分離部材102で反射後のS偏波の映像光は、左側の偏光分離部材101を透過して、左側の再帰反射光学部材2(2A)に入射して反射することで、空間浮遊映像を形成する。逆に、左側の偏光分離部材101で反射後のP偏波の映像光は、右側の偏光分離部材102を透過して、右側の再帰反射光学部材2Bに入射して反射することで、空間浮遊映像を形成する。
【0032】
左右のそれぞれの再帰反射光学部材2(2A,2B)の表面にはλ/4板21(位相差板、1/4波長板)が設けられている。左側の再帰反射光学部材2Aで反射後の映像光は、λ/4板21を計2回通過することで、P偏光に変換される。変換後のP偏光の映像光は、左側の偏光分離部材101で反射され、透明部材100を透過して、上方に空間浮遊映像2201(破線で示す左側の領域の空間浮遊映像)を所定の位置に表示する。同様に、右側の再帰反射光学部材2Bで反射後の映像光は、λ/4板21を計2回通過することで、S偏光に変換される。変換後のS偏光の映像光は、右側の偏光分離部材102で反射され、透明部材100を透過して、上方に空間浮遊映像2202(実線で示す右側の領域の空間浮遊映像)を所定の位置に表示する。
【0033】
また、本実施例の構成では、再帰反射光学部材2(2A,2B)の位置を図面の矢印の左右方向に移動可能な構造とする。再帰反射光学部材2(2A,2B)を移動させることで、空間浮遊映像220(像面とも記載)の表示位置を厚さ方向(
図5の上下方向)で所定の範囲内で任意の位置に変更できる。図示の間隔(距離)Lは、厚さ方向での透明部材100と空間浮遊映像220(2201,2202)の像面との距離である。移動によってこの距離Lが変更可能である。このとき、空間浮遊映像表示装置の厚さ方向(
図5の上下方向)の寸法を変える必要は無い。像面の位置を変更する際には、例えば、左右の2つの再帰反射光学部材2(2A,2B)を互いに離れるように移動した場合、透明部材100の下側で映像光の光路長が長くなるので、その分、像面の位置が厚さ方向でより下方の位置になる。左右の2つの再帰反射光学部材2(2A,2B)を互いに近付くように移動した場合、透明部材100の下側で映像光の光路長が短くなるので、その分、像面の位置が厚さ方向でより上方の位置になる。
【0034】
また、本実施例の構成では、表示装置1の位置を図面の矢印の上下方向に移動可能な構造としてもよい。表示装置1を移動させることで、同様に、空間浮遊映像220の表示位置を厚さ方向で所定の範囲内で任意の位置に変更できる。このとき、空間浮遊映像表示装置の左右方向の寸法を変える必要は無い。例えば、表示装置1を偏光分離部材から離れるように下方に移動した場合、透明部材100の下側で映像光の光路長が長くなるので、その分、像面の位置が厚さ方向でより下方の位置になる。
【0035】
再帰反射光学部材2や表示装置1を移動可能な構造としては、例えばモータ等の駆動機構を用いてもよい。空間浮遊映像表示装置のコントローラは、その駆動機構を制御してもよい。あるいは、ユーザが手動でこの構造を操作して構成要素を移動できるようにしてもよい。
【0036】
図5に示したように、本実施例では、液晶表示パネル11に表示する映像は、2つの偏光分離部材(101、102)がミラーとして機能する。そのため、空間浮遊映像220は、液晶表示パネル11上の映像に対して左右反転する。具体的には、λ/2板111がある右側の領域の映像は、S偏波からP偏波に変換されて、左側の領域の空間浮遊映像2201となり、λ/2板111が無い左側の領域の映像は、P偏波からS偏波に変換されて、右側の領域の空間浮遊映像2202となる。このため、上記左右反転を考慮して、液晶表示パネル11に表示する映像は、分割数や方法などにより、映像表示のスタート位置と表示順を適宜選択すると良い。
【0037】
本実施例(
図5)では、液晶表示パネル11から出射する映像光は、P偏光とし、液晶表示パネル11の映像表示面において右半分の領域にはλ/2板111を設けることで、右半分の領域からの出射光をS偏光とした。これに限らずに可能であり、液晶表示パネル11から出射する映像光をS偏光としてもよい。
【0038】
なお、
図5の空間浮遊映像表示装置は、表示装置1の上側で、1セットの左右の2つの再帰反射光学部材2(左側の再帰反射光学部材2A、右側の再帰反射光学部材2B)の間において、所定の位置に、1セットの左右の2つの偏光分離部材(左側の偏光分離部材101、右側の偏光分離部材102)が斜めに配置されている。図示の一点鎖線で示す液晶表示パネル11の左右の中心位置(λ/2板111の有無の境界)に対し、左右の2つの偏光分離部材および左右の2つの再帰反射光学部材2が対称に配置されている。λ/2板111がある右側の領域の上側には右側の偏光分離部材102が配置され、λ/2板111が無い左側の領域の上側には左側の偏光分離部材101が配置されている。
【0039】
表示装置1に対向して、それらの上側には、透明部材100(開口部を構成する)が配置されている。左側の偏光分離部材101は、左側の領域からの映像光を右側の偏光分離部材102および再帰反射光学部材2Bへ向けて反射(
図5では概略90度の反射)させるように、主面が斜め方向に配置されている。右側の偏光分離部材102は、右側の領域からの映像光を左側の偏光分離部材101および再帰反射光学部材2Aへ向けて反射(
図5では概略90度の反射)させるように、偏光分離部材101とは異なる斜め方向に配置されている。
図5のように、再帰反射光学部材2(2A,2B)は、空間浮遊映像表示装置の開口部の透明部材100に対してほぼ垂直に配置されている。これにより、再帰反射光学部材2へ外光が入射することで発生するゴースト像を軽減できる。
【0040】
図6を用いて、空間浮遊映像表示装置を更に小型化する第二の技術手段について説明する。
図5の第一の実施例では、映像源である液晶表示パネル11の画面を2分割している。それに対し、
図6に示す第二の実施例では、映像源である液晶表示パネル11の画面の分割数を4分割とする。これにより、より小型化が実現できる。
【0041】
図6で、第二の実施例では、
図5の第一の実施例に対し、2つの再帰反射光学部材2を画面中央部(破線Aの位置)に配置している。第二の実施例では、第一の実施例のような構成を、表示装置1の画面における図示の左右方向において2つ並列して設けている。これにより、液晶表示パネル11の表示画面を4分割し、空間浮遊映像220として、それぞれの分割領域に対応した空間浮遊映像(2201,2202,2203,2204)を得ることができる。本実施例では、液晶表示パネル11から出射する映像光は、P偏光(破線)とする。
図6の左右方向(表示平面を構成する方向)において、最も右の1/4画面601と中央左の1/4画面603は、λ/2板111を液晶表示パネル11の映像表示面に設けることで、出射光をS偏光(実線)とすることができる。
【0042】
このように、第二の実施例では、画面(映像表示面)の方向において、再帰反射光学部材2(2A,2B)および偏光分離部材(101,102)のセットを並列に設ける構成である。この結果、それぞれの偏波方向に対応して反射と透過を分割することで、空間浮遊映像表示装置の厚さ方向(
図6の上下方向)の寸法を更に短縮できる。
図5と
図6の構成で、画面(映像表示面)の大きさを同じとした場合に、
図6の構成要素(2セットの再帰反射光学部材2および2セットの偏光分離部材)は、
図5の構成要素(1セットの再帰反射光学部材2および1セットの偏光分離部材)に対し、図示のように寸法がより小さい。そのため、
図6の構成は、
図5の構成よりも、厚さ方向の寸法が短縮される。
【0043】
また、第二の実施例でも、第一の実施例と同様に、再帰反射光学部材2の位置を
図6の左右方向に移動可能な構造としてもよいし、表示装置1の位置を
図6の上下方向に移動可能な構造としてもよい。これらにより、空間浮遊映像220の表示位置を
図6の上下方向で所定の範囲内で任意の位置に変更可能である。このとき、空間浮遊映像表示装置の厚さ方向の寸法を変える必要は無い。
【0044】
<空間浮遊映像表示装置の小型化の原理2>
図7及び
図12を用いて、空間浮遊映像表示装置を小型化する第三の技術手段について説明する。
図7は、小型化の原理の説明図である。表示装置1は、狭角な拡散特性を有する光源装置13と、映像表示素子としての液晶表示パネル11とを有して構成される。
図7の構成は、
図5と同様の構成要素に加え、透明部材100の近傍の上側の位置に光学素子2150が配置されている。光学素子2150は、空間浮遊映像を拡大する作用を有する。映像源である液晶表示パネル11の映像表示面積に対し、光学素子2150のレンズ作用により、空間浮遊映像220の結像位置(仮想面700)での面積を大きくする。また、本実施例では、表示装置1を図面での上下方向に移動させることで、空間浮遊映像220の結像位置を適宜選択できる。
【0045】
光学素子2150は、例えば
図21に示す狭角な拡散特性(「基準配光」、「例1」、「例2」)を持つテレセントリックな出射光とすることで発散作用を有する光学素子が用いられる。このとき、液晶表示パネル11からの映像光は、光学素子2150により、本来の空間浮遊映像の大きさ220a1(実線)及び大きさ220a2(破線)に対して、仮想面700に想定した画素ごとに対応した領域に向けて映像光束の出射方向を制御する。これにより、仮想面700における所望の位置に、空間浮遊映像220として拡大像220b1及び拡大像220b2を得る。
【0046】
本来の位置における右側の領域(実線)の空間浮遊映像(大きさ220a1)は、光学素子2150によって拡大され、仮想面700の位置において、右側の領域(実線)の拡大像220b1となる。左側の領域(破線)の空間浮遊映像(大きさ220a2)は、光学素子2150によって拡大され、左側の領域(破線)の拡大像220b2となる。光学素子2150を設けない場合の本来の空間浮遊映像の位置は、厚さ方向で透明部材100から距離701の位置である。光学素子2150を設ける場合の拡大像としての空間浮遊映像220の位置は、本来の位置からさらに上方に距離702にある仮想面700の位置である。
【0047】
本実施例は、映像源と再帰反射光学部材2との光学距離を変更可能な構造を有する。具体的には、表示装置1を上下に移動させる構造を有する。この構造によって光学距離を変更することで、空間浮遊映像220(拡大像)が形成される位置と大きさを変更することができる。
【0048】
図8を用いて、空間浮遊映像表示装置を小型化する第四の技術手段について説明する。
図8に示す第四の実施例では、表示装置1の上側で、光学素子2150との間に、マイクロレンズアレイ300が配置されている。映像源である表示装置1の液晶表示パネル11のそれぞれの画素から発散した狭角な発散光を持つ映像光は、マイクロレンズアレイ300においてマトリックス状に配置されたマイクロレンズの作用により、それぞれの画素に対応した像を空間に映し出す。このとき、本実施例は、マイクロレンズの焦点距離により、空間浮遊映像220が結像する位置(結像点の集合体)を制御する。このため、
図8の第四の実施例では、前述の再帰反射光学部材2と偏光分離部材(101及び102)を用いた三つの方式(
図5、
図6、
図7)よりも、空間浮遊映像表示装置の小型化が実現できる。
【0049】
本実施例では、マイクロレンズアレイ300の焦点距離を大きくして空間浮遊映像220の浮遊量(突出量。厚さ方向での距離。)を大きくし、空間浮遊映像220とマイクロレンズアレイ300との間に配置された、映像光束の方向を制御する作用(発散作用)を持つ光学素子2150により、本来の空間浮遊映像の大きさに対して映像光束の出射方向を画素ごとに変えて空間浮遊映像220の拡大像(仮想面700の位置における拡大像801)を得る。
【0050】
光学素子2150は、液晶表示パネル11の映像表示面のそれぞれの画素に対応した空間浮遊像の画素を所望の位置に向ける作用を有している。この作用について、
図20を用いて詳細に説明する。光学素子2150は、上述した実施例では映像源である液晶表示パネル11と空間浮遊映像220(仮想面700)との間に設けられ、液晶表示パネル11のマトリックス状に配置された画素(
図20中では実線で表示)と対応する空間浮遊映像220の画素(
図20中では破線で表示)のXY平面上の結像位置を制御する。一方、Z軸方向(厚さ方向)の結像位置は、第一の実施例から第三の実施例については、再帰反射光学部材2と液晶表示パネル11との間隔(距離)Lにより一義的に決まり、再帰反射光学部材2で反射後の所定の位置で結像する。また、
図8の第四の実施例でのマイクロレンズアレイ300を用いた方式では、マイクロレンズの焦点距離により、結像位置を制御することができる。
【0051】
図20で、座標軸は、液晶表示パネル11の表示領域の中央座標をXY平面の原点とし、対応する空間浮遊映像220の画面中央座標を同じくXY平面の原点として示している。液晶表示パネル11の画素は画面水平方向(X)及び画面垂直方向(Y)にマトリックス状に配置され、それぞれの画素(RGBの3色で1画素として以下説明する)は、アドレス(Onn)を持つ。他方、空間浮遊映像220に対応した仮想面700にも、液晶表示パネル11の画素それぞれに対応したアドレス(Inn)を持たせ、光学素子2150のレンズ作用により、表示映像のXY平面上で対応する所望の位置に映像光束を向かわせる。
【0052】
具体的には、液晶表示パネル11のそれぞれの画素から狭角な拡散特性を有する映像光束を再帰反射光学部材2に入射させ反射させることで空間浮遊映像を得る第一の実施例から第三の実施例に示した本願発明の光学システムにおいて、空間浮遊映像を拡大する最も有効な技術手段は、以下とすれば良い。すなわち、それぞれの画素に対応した映像光束(各画素から発散した映像光)を個別な映像光束として光学素子2150に入射させ、光学素子2150の入射面と出射面の形状により得られるレンズ作用によって、XY平面上の所望の位置に向かわせる構成とすればよい。このとき、空間浮遊映像220の結像位置は、前述の再帰反射光学部材2と液晶表示パネル11との間隔Lにより一義的に決まり、再帰反射光学部材2で反射後の所定の位置で結像する。他方、第四の実施例のマイクロレンズアレイ300を用いた方式では、マイクロレンズの焦点距離により、結像位置を制御することができる。
【0053】
次に、
図21を用いて、映像源である液晶表示パネル11のそれぞれの画素から出射される映像光の最適な拡散特性について説明する。
図21に示した「基準配光」に示される±2度以下の狭角な特性であれば、再帰反射光学部材2によって発生するゴースト像を大幅に低減できる。他方、空間浮遊映像の周辺まで均一な明るさを得るためには、適度な拡散特性が必要になる。観視者の両眼の間隔が平均的に65mmであるため、画面水平方向の寸法が65mm以下であれば、
図21に示す基準配光でも、再帰反射光学部材2で反射した空間浮遊像であれば、画面周辺でも実用上問題無い明るさが得られる。また、空間浮遊映像の拡大倍率を大きくするには、上述したように、光学素子2150のレンズ作用により映像光束の曲げ量、または空間浮遊量を大きくすることによって制御する。このとき、拡大率を大きくして映像源である液晶表示パネル11に対して2倍以上とする場合には、「例2」に示す裾広がりの拡散特性を持たせると、画面周辺まで実用上問題無い明るさが得られるばかりでなく、空間浮遊映像を斜め方向から見た場合でも、画面周辺まで実用上問題無い明るさを実現できる。
【0054】
更に、本願発明の空間浮遊映像の拡大方式では、拡大像の画素そのものを拡大するのではなく、それぞれの画素を所望の位置で結像させるため、画素間の間隔が広がる。
図21に示した「基準配光」特性では、それぞれの画素間に画素以上の空間が生じる。これを低減するためにも、「例1」、「例2」に示すような裾広がりの拡散特性を持たせる必要がある。この目安として、上述した拡散特性による画素の広がりが空間浮遊映像の画素間距離の30%を超えると、画像の連続性に違和感が無く、80%を超えると、画素が重なり空間浮遊像のフォーカス感が低下する。
【0055】
また、本実施例の光学素子2150は、映像源(表示装置1)と空間浮遊映像の結像位置との間に配置されて、液晶表示パネル11の画素から発散する映像光束を広げる作用を有する。すなわち、空間浮遊映像の結像点そのものを像が拡大する方向(
図20のXY平面内で座標値が大きくなる方向)に向けて制御する。さらに、この光学素子2150の光軸を映像源(表示装置1)の中心軸からずらして配置することで、空間浮遊映像220の拡大像の部分的な拡大率や結像位置を制御できるので、疑似的な立体映像の空間浮遊映像を得ることができる。
【0056】
図9は、第五の実施例の空間浮遊映像表示装置の構成を示す。この実施例では、映像源(図示しない表示装置)の各画素から出射した挟角拡散特性(ほぼ平行光)を有する映像光束901(破線矢印)を、光学素子2150である第一の光学素子2150で拡大(光束を拡散)し、その拡大された映像光束902(一点鎖線矢印)を、仮想面700に配置された第二の光学素子2160で集光して、平行光である映像光束903(破線矢印)に変換する。この平行光である映像光束903によって、所定の位置705に、拡大像としての空間浮遊映像220bが表示される。この結果、空間浮遊映像220bを正面視した場合や斜め方向から見た場合においても、映像光束が画面中央から画面周辺までの全領域で実用上十分な明るさを得ることができる。このとき、空間浮遊映像は、第一の光学素子2150の位置に対応した本来の空間浮遊像220aの大きさに対して拡大された空間浮遊映像220bとなる。
【0057】
図9で、光学素子2150の光線入射面には、ARコートを設けると良い。
【0058】
<空間浮遊像を拡大する光学素子の具体例>
図10を用いて、空間浮遊映像を拡大する光学素子の第一の具体例を説明する。
図10は、光学素子2150に関する第1の具体例としての光学素子1100を示す。
図10の実施例の構成は、
図9と同様に、映像源(図示しない表示装置)の各画素から出射した映像光束1001(破線)を拡散させる作用を有する光学素子1100によって、所望の位置に向けて映像光束を屈折させる。この光学素子1100は、基材(基盤)2152の空間浮遊像生成側(
図10での上面側)にサーキュラーフレネル形状(言い換えるとサーキュラーフレネルレンズ)2151が設けられ、このレンズ作用により、所望の位置に映像光束1002を向かわせて、空間浮遊映像220(拡大像1101、立体的な空間浮遊映像)を形成させる。
【0059】
このとき、サーキュラーフレネル形状2151によるフレネルレンズ面での反射光は、基材2152の出射面に戻り、再び反射し、この反射光が、空間浮遊映像を形成する本来の光束に重畳することで、ゴースト像が発生する。このゴースト像を低減するために、基材2152の映像光束入射側(
図10での下面側)に反射防止膜2153が形成されると良い。このとき、基材2152に設けたサーキュラーフレネルレンズのフレネル角度は、
図12に示すように、フレネル中心(一点鎖線)からの距離l(例えばl1,l2,l3)によって変化する。そのため、入射面に設ける反射防止膜2153は、フレネルレンズ全体の平均的なフレネル角度に対する反射光が反射後に基材2152の入射面に入射する角度での反射率が最小となるようにすると良い。更に、比視感度が最大の緑光領域(530nm~570nm)での反射率を最小とすると良い。
【0060】
光学素子1100は、映像源(液晶表示パネル11)の映像表示領域の中心と再帰反射光学部材2の外形中心とを結んだ光軸に対して光学素子1100の中心が偏心して配置され、立体的な空間浮遊映像(拡大像1103)の高さ中心が、偏心した光学素子1100の中心の延長線上に存在する。立体的な空間浮遊映像220の結像位置は、光学素子1100のレンズ面に略平行でレンズ面を拡大した面積を有する仮想面と対応している。光学素子1100は、レンズ面の傾きに応じてレンズ面を通過する映像光束の出射方向を制御する作用を有する。光学素子1100の映像光束が通過する領域に対応した仮想面内の平面座標情報に、映像源と再帰反射光学部材2との間隔で決まる空間浮遊映像の高さ方向の座標情報を加え、光学素子1100の領域内における厚さが設定されることで、立体的な空間浮遊映像220(拡大像1103)を形成する。
【0061】
上述した空間浮遊映像220を得るための具体的な技術を用いて、拡大光学素子である光学素子2150(光学素子1100)によって空間浮遊映像220を高倍率で拡大すると、
図10に示すように、空間浮遊像220(拡大像1103)の像面は湾曲する。光学素子2150単体でこの湾曲(像面湾曲)を軽減するには、
図11に示す光学素子2155の構成が適用できる。
図11の構成では、空間浮遊映像220の像面湾曲を補正するため、光学素子2155の中心厚さt
9に対して周辺部の厚さt
5をレンズ作用にあわせて変化させ、画素に対応した映像光束が通過する光路において光学素子2155の入射面から空間浮遊映像220の像面までの光路長(屈折率と物理長の積)が等しくなるように、厚さを最適化することで、像面湾曲を補正する。このとき、厚みの変更は、光学素子2155の入射面がレンズ作用を持たないように、図示のように厚さの異なる平面(平面部)t
6、t
7、t
8等を重ねた形状とすると良い。
【0062】
上述したサーキュラーフレネルレンズ形状を得るためには、例えば金型もしくはレプリカを作成して成形により光学素子2155を成形する。このとき、光学素子2155の最外周におけるフレネル形状によっては、金型からの離形抵抗が大きくなり、基材が変形したり、レンズ面が荒れたりといった光学的な弊害が生じる。このため、離形性を向上させるには、サーキュラーフレネル形状2151に図示のような抜き勾配θ0を設ける必要がある。抜き勾配θ0は、経験的には2度以上とすればよく、5度を超えると正規の方向に光を屈折できない領域が増え、ゴースト像の発生や空間浮遊像の明るさ低下となる。
【0063】
図10で、光学素子2150の光線入射面には、ARコートを設けると良い。
【0064】
<空間浮遊像の表示位置と拡大倍率に関して設計自由度を高める技術手段>
次に、
図13、
図14及び
図15を用いて、空間浮遊映像の表示位置に対する自由度を高める技術手段について説明する。
【0065】
図13は、空間浮遊映像の表示位置と拡大倍率に対する自由度を高める本願発明の第一の実施例を示す。
図13は、再帰反射光学部材2を用いた空間浮遊映像表示装置の構造を示す。映像源である表示装置1は、画像表示装置としての液晶表示パネル11と光源装置13とから構成される。液晶表示パネル11からは特定の偏波の映像光が出射される。このとき、映像光の発散角は、前述したように再帰反射光学部材2で発生するゴースト像を軽減するために、狭発散角を持つ光源装置13を選ぶと良い。この結果、表示装置1から図面の左方向に出射された映像光は、広がることなく反射ミラー2120で上方に反射されて偏光分離部材2140aに向かう。その特定の偏波の映像光は、偏光分離部材2140aでまず反射されて、左方向にある再帰反射光学部材2等に入射し反射される。再帰反射光学部材2の表面にはλ/4板21が配置されている。偏光分離部材2140aからの特定の偏波の映像光は、再帰反射光学部材2の反射面で反射し同時にλ/4板21の通過によって偏光変換される。変換後の他方の偏波の映像光は、右方向に向かって偏光分離部材2140aを透過し、空間浮遊映像220が表示される。
【0066】
このとき、本実施例では、空間浮遊映像220を拡大する作用を持つ光学素子2150が、再帰反射光学部材2と空間浮遊映像220(拡大像1301が形成される仮想面)との間に配置されている。この光学素子2150により、空間浮遊映像220を所望の大きさに拡大する。仮想面の位置には拡大像1301としての空間浮遊映像220が表示される。また、本実施例では、表示装置1を図面の左右方向(光軸の方向)に移動可能な構造とする。表示装置1を左右方向に移動させることで、映像光の光路長(表示装置1と再帰反射光学部材2との光学距離)が変わるので、空間浮遊映像220の結像位置を変更できる。例えば表示装置1を左に移動した場合、変更後の仮想面1302のようになる。そして、光路の途中に配置された光学素子2150により映像光束を広げることで、所望の結像位置に応じて拡大された空間像を得ることができる。あるいは、再帰反射光学部材2の位置を図面の左右方向に移動可能な構造としてもよく、同様の効果が得られる。
【0067】
図14は、空間浮遊映像の表示位置と拡大倍率に対する自由度を高める第二の実施例を示す。
図14は、再帰反射光学部材2を用いた空間浮遊映像表示装置の構造を示す。映像源である表示装置1は、画像表示装置としての液晶表示パネル11と光源装置13とから構成される。液晶表示パネル11からは特定の偏波の映像光が出射される。このとき、映像光の発散角は、前述したように再帰反射光学部材2で発生するゴースト像を軽減するために、狭発散角を持つ光源装置13を選ぶと良い。この結果、表示装置1から上方に出射された映像光は、広がることなく反射ミラー2120と反射ミラー2110でそれぞれ反射される。反射ミラー2110で反射された特定の偏波の映像光は、上方の偏光分離部材2140aに向かう。その映像光は、偏光分離部材2140aをまず透過して、上方の再帰反射光学部材2等に入射し反射する。再帰反射光学部材2の表面にはλ/4板21が配置されている。偏光分離部材2140aからの特定の偏波の映像光は、再帰反射光学部材2の反射面で反射し同時にλ/4板21によって偏光変換される。変換後の他方の偏波の映像光は、偏光分離部材2140aで反射され、斜め上方向に向かい、光学素子2150を通じて、拡大像220bとしての空間浮遊映像が表示される。
【0068】
図14の第二の実施例では、反射ミラー(反射光学素子)として2枚の反射ミラー(2120、2110)を設ける場合を示したが、これに限られない。空間浮遊映像の結像位置と偏光分離部材2とを結ぶ光路内に、反射ミラーとして少なくとも1枚の反射ミラーを備えればよい。第二の実施例では、反射ミラーの枚数を増やして光路の折り返し回数を増やすことで、空間浮遊映像装置の形状や設置の自由度を増やすことができる。このとき、空間浮遊映像を拡大する作用を持つ光学素子2150の光学作用の中心(例えばフレネルレンズの中心)を、一点鎖線で示した光軸1401から偏心させ、再帰反射光学部材2と空間浮遊映像(拡大像220bが形成される仮想面)との間に配置する。この結果、光軸に対して倍率の異なる空間浮遊映像を所望の大きさに拡大することができる。また、第二の実施例では、第一の実施例と同様に、表示装置1の位置を図面の上下方向(光軸の方向)に移動可能な構造とする。表示装置1を上下に移動させることで、空間浮遊映像の結像位置を光軸1401に対応した映像光の方向で変更でき、光軸1401に対して偏心配置された光学素子2150により映像光束を広げることで、結像位置に応じて画面の上下方向で偏心された拡大空間像を得ることができる。
【0069】
反射ミラーのうち、空間浮遊映像の結像位置に対し光路上で最も近くに配置された反射ミラー(本実施例では反射ミラー2110)は、映像光の一方の偏波を反射し他方の偏波を透過する金属多層膜から形成される構成とすれば、好適である。
【0070】
図15は、同様に、空間浮遊映像の表示位置と拡大倍率に対する自由度を高める第三の実施例を示す。
図15は、再帰反射光学部材2を用いた空間浮遊映像表示装置の構造を示す。映像源である表示装置1は、液晶表示パネル11と光源装置13とから構成される。液晶表示パネル11からは特定の偏波の映像光が出射される。このとき、映像光の発散角は、前述したように再帰反射光学部材2で発生するゴースト像を軽減するために狭発散角を持つ光源装置13を選ぶと良い。この結果、映像光は、広がることなく反射ミラー2120と反射ミラー2110で反射され、偏光分離部材2140aを透過して、再帰反射光学部材2等に入射する。再帰反射光学部材2の表面にはλ/4板21が配置されている。偏光分離部材2140aからの特定の偏波の映像光は、再帰反射光学部材2の反射面で反射し同時にλ/4板21によって偏光変換される。変換後の他方の偏波の映像光は、偏光分離部材2140aで反射され、斜め上方向に向かい、光学素子2150を通じて、拡大像220bとしての空間浮遊映像が表示される。
図15の第三の実施例でも同様に、反射ミラーの枚数を増やして光路の折り返し回数を増やすことで、空間浮遊映像装置の形状や設置の自由度を増やすことができる。
【0071】
このとき、空間浮遊映像を拡大する作用を持つ光学素子2150の光学作用の中心(例えばフレネルレンズの中心)を、一点鎖線で示した光軸1501から偏心させ、再帰反射光学部材2と空間浮遊映像(拡大像220bが形成される仮想面)との間に配置する。
図15の第三の実施例は、第二の実施例との違いとして、第二の光学素子2160が、光学素子2150である第一の光学素子2150と空間浮遊映像(仮想面)との間に配置されている。この第二の光学素子2160の作用は、
図9で示した第五の実施例で第二の光学素子2160として詳細に説明した通りである。この第三の実施例では、第一の光学素子2150の光学作用の中心が外形中心に対して偏心されているので、空間浮遊映像は、
図15に示すように、拡大の中心が光軸1501とは異なる位置に配置されることで、面倍率の異なる空間浮遊映像を所望の大きさに拡大することができる。
【0072】
また、この第三の実施例では、再帰反射光学部材2を図面での上下方向(斜め方向)に移動可能な構造とする。再帰反射光学部材2の位置を上下方向(斜め方向)に移動させることで、空間浮遊映像の結像位置を変更でき、光軸1501に対して偏心配置した光学素子2150により映像光束を広げることで、結像位置に応じて画面上下方向で偏心された拡大空間像を得ることができる。
【0073】
<空間浮遊像を拡大するメリット>
再帰反射光学部材2を用いた空間浮遊映像表示装置の構成を示す前述の
図7を用いて、空間浮遊映像を拡大するメリットについて説明する。
図7では、映像源である表示装置1からの映像光束を再帰反射光学部材2で反射させ、空間浮遊映像表示装置本体と外部を仕切る透明部材100を通過させた後、拡大された空間浮遊映像220(220b1,220b2)を得る。なお、
図7で、透明部材100は、光学素子2150と兼用の構成、言い換えると一体の構成としてもよい。
【0074】
このため、
図7の構成では、拡大空間浮遊映像の表示時には、観視者が図面の上から下への方向で拡大空間浮遊映像(220b1,220b2)を観視する際に、透明部材100を介して再帰反射光学部材2を直接見ることはない。再帰反射光学部材2の表面は、鏡面の反射面の多面体であり(
図2)、外光が入射すると、ゴースト像や散乱光が発生し、映像の品位や装置そのものの品位を低下させる。このため、空間浮遊映像表示装置の開口部(例えば透明部材100が配置される部分)は、可能な限り小さくすることが望ましい。そのためには、光学素子2150の拡大率を大きくすると良い。発明者は、実験により、外光による画質低下を実用上問題無いレベルに抑えるために必要な空間浮遊映像の輝度を求めた。その結果、装置周辺の明るさ(輝度)に対して10倍以上の輝度が必要であり、1000(nt)以上あれば、実用上問題無く、更に良好な画質を得るためには、30倍の輝度3000(nt)が必要となることが分かった。同様に、空間浮遊映像を斜め方向から見た場合に十分な空間浮遊感を持たせるには、装置本体の外光反射の100倍以上が必要であり、装置の外装部(光学部材等を組み込む図示しない構造体)は、光を吸収する黒色系の色とすることが望まれる。
【0075】
<立体的な空間浮遊映像を得る技術手段>
上述した空間浮遊映像の表示位置と拡大倍率に関して設計自由度を高める技術手段について、空間浮遊映像を拡大する光学素子2150としてフレネルレンズについて説明した。本実施例の光学素子2150の本来の作用は、映像源である表示装置1を構成する映像表示素子としての液晶表示パネル11の各画素から射出した映像光束を所望の方向に屈折させる作用である。このため、光学素子2150の出射面には、前述した各画素からの映像光束が入射面で屈折後に到達する場所に対応した屈折面を設ける。このため、理想的には、多面体を繋げた形で構成すると良い。しかしながら、この多面体形状である場合には、成型金型の加工に多大な時間が必要となる。このため、実用化に向けては、隣り合った面の傾きを考慮して、面内の座標を求め、例えば自由曲面式に回帰して出射面の形状を得ると良い。更に、金型の加工時間を低減するためには、
図16に示したように、同心円のフレネル形状2152aとすれば、更に加工性が向上する。
【0076】
図17は、
図16に示した光学素子2150の作用により得られる空間浮遊映像220baが立体的に見える原理の説明図である。空間浮遊映像を得るための方式としては、(1)映像の浮遊量を光学システムの構造で任意に決定できる再帰反射方式と、(2)マイクロレンズの焦点距離により一義的に決まるマイクロレンズ方式とがある。
説明の簡略化のために、再帰反射方式を例として以下に説明する。
【0077】
再帰反射方式での光学素子2150は、液晶表示パネル11のそれぞれの画素に対応した空間浮遊像の画素を所望の位置に向ける作用を有している。この作用については、
図20を用いて詳述したが、光学素子2150は、
図20等に示したように、映像源である液晶表示パネル11と空間浮遊映像220(仮想面)との間に設けられ、
図20の液晶表示パネル11のマトリックス状に配置された画素(実線)と対応する空間浮遊映像220の画素(破線)のXY平面上の結像位置を制御する。一方、Z軸方向の結像位置は、再帰反射光学部材2と液晶表示パネル11との間隔Lにより一義的に決まるため、再帰反射光学部材2で反射後の所定の位置で結像する。この結果、画面中央は、基準平面(
図17でのxy平面)から最も遠い位置で結像し、画面中央から離れた場所の結像点は基準平面に近くなるので、
図17に示すように、空間浮遊像の結像点を結ぶと半球状(断面では半円状)になり、映像源である液晶表示パネル11に表示した平面の映像情報であっても、空間浮遊映像220を疑似的に立体映像(立体的な空間浮遊映像220ba)として形成することができる。
【0078】
図18は、光学素子2150の光学的な中心(フレネルレンズの中心)を偏心させた状態を示している。このとき、得られる疑似的な立体像は、
図19に示すように、頂点O(画面中央)は基準平面(
図19のxy平面)から最も遠い位置で結像し、画面頂点から離れた場所の結像点は基準平面に近くなるので、空間浮遊映像の結像点を結ぶと楕円球面状になる。映像源である液晶表示パネル11に表示した平面の映像情報でも、空間浮遊映像を疑似的に立体映像(立体的な空間浮遊映像220bb)として形成することができる。以上述べたように、
図15のような実施例では、光学素子2150を偏心させることで得られる疑似的な立体像を画面内で偏心させて形成できる。このとき、再帰反射光学部材2と液晶表示パネル11との距離で決まる再帰反射像の結像位置は、光学素子2150の作用により一義的に決定される。
【0079】
更に、空間浮遊映像を形成する他の技術手段として、映像源である表示装置1の各画素に対応したマイクロレンズアレイにより空間像を形成するマイクロレンズアレイ方式においても同様であり、マイクロレンズ個別の焦点距離を最適化することで、画素ごとの結像位置を制御する。加えて、前述した光学素子2150の作用により、空間浮遊映像の結像位置と形状を制御して、所望の空間浮遊映像を得る。以上、光学素子2150について、説明を簡略化するために発散作用を前提に説明したが、所望の形状によっては一部集光作用を有するレンズ形状を合わせ持つ、いわゆる自由曲面レンズ形状としても良い。
【0080】
<車載用途の空間浮遊映像表示装置>
図33は、本発明の空間浮遊映像または疑似的に立体的な空間浮遊映像220を得る空間浮遊映像表示装置を車載用途に用いる場合の優位性を説明するための概略構成図である。ここでは、その一例として、特に、自動車のフロントガラス6を使用しないで拡大空間浮遊映像を得られる空間浮遊映像表示装置1000について説明する。空間浮遊映像表示装置1000は、運転者の視線に対応するアイポイント8(後に詳述する)において自車両の内部空間に拡大空間浮遊映像である空間浮遊映像220を得る。これにより、自車両の前方に疑似的に拡大虚像である虚像V1を形成したことと同様の視覚効果が得られる。更に、この構成では、光学素子2150の形状により、疑似的に立体映像とすることも可能であり、映像処理と合わせ、表示した空間映像に奥行き感を持たせることができることを、実験により確認した。以下、疑似的に立体的な空間浮遊映像を表示する例を代表して詳細に説明する。
【0081】
図33に示すように、アイポイント8から拡大空間浮遊映像220を観視した場合には、従来のヘッドアップディスプレイ(HUD)で被投影部材(本実施例ではフロントガラス6の内面。車両内の運転者に向いた面。)にて反射された虚像V1を見ている場合と同様に、運転者が視認している実景に前述した技術手段により疑似的に立体的な空間浮遊映像220(対応する虚像V1)を重ねることができる。疑似的に立体的な空間浮遊映像(立体的な空間映像などとも記載する)220として表示する情報としては、例えば、車両情報や、監視カメラやアラウンドビュアー等のカメラ(図示せず)で撮影した前景情報や、始動前の車両周辺の景観や、速度計、エンジンの回転計、エネルギー残量表示などの他に、画面周辺部にキャラクターを表示して音声による注意喚起(図示せず)を行う等の映像情報および音声情報による安全運転の支援システムが挙げられる。
【0082】
また、本実施例では、空間浮遊映像表示装置1000は、情報に対応する立体映像を平面に表示してそれに対応する映像光を投射する表示装置1と、表示装置1に表示された映像を反射させ立体的な空間浮遊映像220を形成する再帰反射光学部材2100(言い換えると再帰反射光学素子)とを備える。また、表示装置1を、空間的に移動可能な構造とする(図面では左右に移動可能として表示)。表示装置1を左右に移動させることで、立体的な空間浮遊映像220が形成される位置を、光学素子2150を通る光軸3301に沿った斜め上下方向(概略的には上下方向)に移動させることができる。この結果、運転者がアイボックス(アイポイント8が含まれる所定の空間をいう)から観視する立体的な空間浮遊映像220が形成される位置を、概略的に上下に移動することで、虚像V1に係わる伏角θeが変化する。これにより、従来のHUDにおいて虚像の表示位置を変化させることと同等の効果が得られる。また、運転者の視線(アイポイント8)の移動を例えば車両内のモニターカメラ(図示せず)で検出することで、この視線の動きに合わせて、この立体的な空間浮遊映像220の表示位置を上下左右に移動させることもできる。
【0083】
本実施例では、立体的な空間浮遊映像220が形成される位置を、車両のダッシュボード(後述の
図34)の上面(図示せず)よりも高い位置とする。そのため、本実施例では、表示装置1と再帰反射光学部材2100との光路上に設けた反射ミラー(言い換えると折り返しミラー)2110によって、表示装置1からの映像光を一旦下方へ折り返すことで、表示装置1から再帰反射光学部材2100までの光学距離を長くした構成である。この構成で、再帰反射光学部材2100で反射後に得られる立体空間浮遊映像220の位置を、運転者からみて遠方の位置の虚像V1に対応付けられた、図面での斜め上下方向でより高い位置にすることができる。
【0084】
<空間浮遊映像を得る空間浮遊映像表示装置の具体例1>
図33を用いて、本願発明の車載用途の空間浮遊映像表示装置の実施例について説明する。この実施例では、空間浮遊映像表示装置1000がHUDとしてダッシュボード(
図34と同様)に内蔵されている。空間浮遊映像表示装置1000は、表示装置1、再帰反射光学部材2100等を備える。表示装置1に表示する映像は、奥行き方向を強調するために表示映像の陰影を強調して表示すると良い。映像表示素子としては、光源装置13から供給された光を映像信号に合わせて変調し特定の偏波の光として出射する液晶表示パネル11を用いる。
【0085】
液晶表示パネル11で変調された特定の偏波、本例ではS偏波の映像(実線)は、S偏光を透過しP偏光を反射させる特性を持つビームスプリッタ(または反射型偏光板)2140を透過して、反射ミラー2110に入射する。反射ミラー2110で下方へ反射された映像光は、空間浮遊映像表示装置1000の底面の付近に配置された再帰反射光学部材2100等により反射されて、空間浮遊映像220を形成する。再帰反射光学部材2100の映像光入射面にはλ/4板が設けられている。このS偏波の映像光は、再帰反射光学部材2100に入射し反射してλ/4板を2度通過することでP偏光(破線)に変換される。そのP偏光の映像光は、反射ミラー2110で再度反射されて光路を折り返し、ビームスプリッタ2140で上方へ反射される。その反射されたP偏光の映像光は、空間浮遊映像表示装置1000の上部に設けられた反射光学素子(反射ミラー)2120で斜め上方向へ反射され、光学素子2150の作用によって、空間浮遊映像または疑似的に立体的な空間浮遊像220を得る。
【0086】
必要に応じて、光学素子2150の透過面形状を、例えば、運転者側に凹形状(光線を発散させる作用を有する形状)とすれば、空間浮遊映像220を形成する映像光束を発散させるため、結像面で拡大されると同時に、得られる空間浮遊映像220も画面中央に対して周辺部では手前に結像点が湾曲するため、運転者から見た場合に奥行き方向の情報が疑似的に付与された空間映像が得られる。このとき、前述したように、表示装置1に奥行き方向を強調するため陰影を強調して表示すると良い。更に、表示映像が人物などの場合では、影の部分を追加することで、立体映像が強調されるので、好適である。以上述べたように、本実施例の車載の空間浮遊映像表示装置1000は、空間浮遊映像または立体的な空間浮遊映像220を形成し、運転者はそれに対応した虚像V1を視認できる。
【0087】
光学素子2150からの映像光は、
図34にも示すように、ダッシュボード48に設けられた開口部41から外に出射し、図示する位置(車両内でフロントガラス6よりも手前の位置)に空間浮遊映像または立体的な空間浮遊映像220を得ることができる。
図33に戻り、このときに得られる空間浮遊映像または立体的な空間浮遊映像220の結像位置は、光学素子2150とアイポイント8とを結ぶ線分上に形成され、光学素子2150の上端部より上部に結像する。これにより、従来技術のAR-HUDと同様に、運転者が運転中に観視する実景に実像として立体映像を重ねることができる。このとき、本実施例では、従来のHUDとは異なり、ウィンドシールド(フロントガラス6)を光学系として使用しないため、自動車のデザインによりウィンドシールドの曲率半径や傾きが変化しても、その影響を受けることが無く、異なる車種への展開性に優れる。
【0088】
反射光学素子2120は、金属反射膜をコートまたはステッパで成膜した反射膜や、特定の偏波を選択的に反射するビームスプリッタ、または反射型偏光板を用いることができる。これにより以下の作用を有する。フロントガラス6から入射する太陽光等の外光の成分は、入射角度が大きい場合には、
図35に示すように、S偏波の光の反射率が高い。そのため、車内にはP偏光成分が入射する。反射光学素子2120は、このP偏光成分を選択的に反射する。そのため、反射光学素子2120の後段(図面での下側)の光学部品(空間浮遊映像表示装置1000の構造体内にある各部品として、表示装置1、ビームスプリッタ2140、再帰反射光学部材2100等)に外光が入射することが無い。これにより、光学部品や表示装置1および液晶表示パネル11の映像光出射側に配置された偏光板(図示せず)等の信頼性を損なうことが無い。
【0089】
さらに、反射光学素子2120は、
図36に示す太陽光の分光放射エネルギーのうち、温度上昇に寄与する800nm以上の波長の光と紫外線を反射する特性であれば、さらに良い。また、この実施例でも、表示装置1を図面での左右方向(光軸の方向)に移動可能な構造とすることで、空間浮遊映像220が形成される位置を斜め上下に移動することができる。この結果、運転者のアイポイント8から見える空間浮遊映像220(対応する虚像V1)の俯角が変化し、運転者が視認している実景に対して疑似的にその空間浮遊映像220の映像表示距離と大きさを変化させることができる。更に、この実施例でも、運転者の視線を感知するためのカメラ(図示せず)を設け、運転者の視線を追尾・検知することで、視線位置に合わせて空間浮遊映像220の表示位置を連動させてもよい。また、このときに、空間浮遊映像220として表示する映像は、運転者が見ている実景にマッチしたアラート情報などとすることで、運転中の注意喚起を実現すると良い。
【0090】
<空間浮遊映像を得る空間浮遊映像表示装置の具体例2>
図34を用いて、本願発明の車載用途の空間浮遊映像表示装置の第二の例について説明する。第二の例での表示装置1を構成する表示素子としては、第一の例と同様に、光源装置13から供給された光を映像信号に合わせて変調し特定の偏波の光として出射する液晶表示パネル11を用いる。液晶表示パネル11で変調された特定の偏波(ここではS偏波)の映像は、S偏光を透過しP偏光を反射させる特性を持つビームスプリッタ(または反射型偏光板)2140を透過して、再帰反射光学部材2100により反射され、空間浮遊映像220を形成する。再帰反射光学部材2100の映像光入射面にはλ/4板が設けられている。S偏波の映像光は、再帰反射光学部材2100に入射し反射してλ/4板を2度通過することでP偏光に変換される。P偏光の映像光は、ビームスプリッタ(または反射型偏光板)2140で反射され、さらに空間浮遊映像表示装置1000の上部に設けられた反射ミラー(反射光学素子)2120で反射される。その反射光は、光学素子2150を通じて、斜め上方向に、空間浮遊映像220を表示する。
【0091】
光学素子2150の面形状は、例えば運転者側に凹形状(光線を発散させる作用を有する形状)とすれば、空間浮遊映像を形成する映像光束を発散させるため、結像面で拡大されると同時に、画面中央に対して周辺部では手前に結像点が湾曲するため、運転者から見た場合に奥行き方向の情報が疑似的に付与された空間映像が得られる。このとき、前述したように、表示装置1に奥行き方向を強調するため陰影を強調して表示すると良い。更に、表示映像が人物などの場合では、影の部分を追加することで、立体映像が強調される。
【0092】
以上述べた空間浮遊映像220を形成する映像光は、車両のダッシュボード48に設けられた開口部41から出射する。これにより、所定の位置に空間浮遊映像220を得ることができる。また、前述した光学素子2150を、開口部41の形状に合わせて映像光束が通過する窓として使用すれば、部品点数を低減できるので、更に良い。このとき、得られる空間浮遊映像220の結像位置は、再帰反射光学部材2100と光学素子2150とアイポイント8とを結ぶ線分上に形成され、光学素子2150の上端部より上部に結像する。これにより、従来技術のHUDと同様に、運転者が運転中に観視する実景の一部に実像として映像を重ねることができる。このとき、この空間浮遊映像表示装置1000は、従来のHUDとは異なり、ウィンドシールド(フロントガラス6)を光学系として使用しないため、自動車のデザインによりウィンドシールドの曲率半径や傾きが変化しても影響を受けることが無く、異なる車種への展開性に優れる。
【0093】
開口部41の透明部材の映像光入射面には、反射防止膜または吸収型偏光板を設けると、好適である。
【0094】
また、液晶表示パネル11に表示される映像は、空間浮遊映像220を形成する光学系で発生する像の歪を補正する映像とすると、好適である。制御装置40(
図33)は、液晶表示パネル11に表示する映像を、像の歪を補正する映像とするように、その映像を作成する映像処理等を行う。
【0095】
反射光学素子(反射ミラー)2120は、第一の例と同様のものを用いることができる。これにより、反射光学素子2120は、前述のように、車内に入射するP偏光成分を選択的に反射する。そのため、反射光学素子2120の後段の光学部品には外光が入射せず、光学部品や液晶表示パネル11等の信頼性を損なうことが無い。また、前述の例と同様に、表示装置1(あるいは再帰反射光学部材2100)を図面での左右方向(光軸の方向。映像表示面に垂直な方向。)に移動可能な構造とする。これにより、本実施例では、空間浮遊映像または立体的な空間浮遊映像220が形成される位置を、光学素子2150を通る光軸3401に沿った斜め上下方向に移動することができる。この結果、運転者のアイポイント8から見える空間浮遊映像220(対応する虚像)の俯角が変化し、運転者が視認している実景に対して空間浮遊映像または疑似的に立体的な空間浮遊映像220の映像表示距離と大きさを変化させることができる。
【0096】
以上述べた実施例によれば、例えば、ダッシュボード48上の開口部41の延長線(光学素子2150を通過する光軸3401)上に、高解像度な映像または立体映像を、空間浮遊した状態で見える空間浮遊映像220として表示可能となる。このとき、本実施例では、空間浮遊映像表示装置1000の開口部41から出射する映像光の発散角を小さく、即ち鋭角とし、さらに特定の偏波に揃える構成とする。これにより、再帰反射光学部材2100に対して正規の反射光だけを効率良く反射させる。このため、本実施例によれば、光の利用効率が高く、従来の再帰反射方式で課題となっていた前述のゴースト像を抑えることができ、鮮明な空間浮遊映像を得ることができる。また、本実施例の光源(光源装置13)を含む構成により、消費電力を大幅に低減可能な、新規で利用性に優れた空間浮遊映像表示装置を提供できる。また、上述したように、車両のフロントガラス6を介して、車両内部または外部において視認可能である、いわゆる、一方向性の拡大した空間浮遊映像または立体的な空間浮遊映像の表示が可能な車両用空間浮遊映像表示装置を提供できる。
【0097】
以上の実施例では、空間浮遊映像を拡大するため映像光束を発散させる作用を持たせた光学素子2150について説明したが、この光学素子2150の具備に代わって、反射ミラー(反射光学素子)2120に光学素子2150と同様の作用を持たせた構成としても良い。言い換えると、反射光学素子2120と光学素子2150とを一体の素子としてもよい。但し、空間浮遊映像表示装置1000の構造体の内部に、拡大作用を有する光学素子を設けると、開口窓41の面積を大きくする必要が生じるため、空間浮遊映像表示装置内部に外光が入射する可能性が大きくなり、部品の信頼性や映像の画質を低下させるため、設計上の配慮が必要となる。
【0098】
<反射型偏光板>
上述した実施例において、ビームスプリッタ2140として、グリッド構造の反射型偏光板を用いる場合、この反射型偏光板は、偏光軸に対して垂直方向からの光についての特性は低下する。このため、この反射型偏光板は、偏光軸に沿った使用が望ましく、液晶表示パネル11からの出射映像光を挟角で出射可能である本実施例の光源装置13が理想的な光源となる。また、水平方向の特性も、同様に、斜めからの光については特性低下がある。以上の特性を考慮して、以下、液晶表示パネル11からの出射映像光をより挟角に出射可能な光源(光源装置13)を液晶表示パネル11のバックライトとして使用する実施例について説明する。これにより、高コントラストな空間浮遊映像が提供可能となる。
【0099】
<表示装置>
図22等を用いて、本実施例の表示装置1について説明する。本実施例の表示装置1は、映像表示素子である液晶表示パネル11と共に、液晶表示パネル11の光源を構成する光源装置13を備え、
図22では、光源装置13を液晶表示パネル11と共に展開斜視図として示している。
【0100】
この映像表示素子である液晶表示パネル11は、
図22に矢印(出射光束)30で示すように、バックライト装置である光源装置13からの光により、挟角な拡散特性を有する、即ち、指向性(言い換えると直進性)が強く、かつ、偏光面を一方向に揃えたレーザ光に似た特性の照明光束を得て、入力される映像信号に応じて変調をかけた映像光を出射する。そして、その映像光を、再帰反射光学部材2により反射させ、ウィンドシールド(フロントガラス)を透過させて、実像である空間浮遊映像を形成する。また、本実施例の表示装置1は、
図22では、液晶表示パネル11と、更に、光源装置13からの出射光束の指向特性を制御する光方向変換パネル54、および、必要に応じて挟角拡散板(図示せず)を備えて構成されている。即ち、液晶表示パネル11の両面には偏光板が設けられ、特定の偏波の映像光が映像信号により光の強度を変調して矢印(出射光束)30のように出射する構成となっている。これにより、本実施例の表示装置1は、所望の映像を指向性(直進性)の高い特定偏波の光として、光方向変換パネル54を介して、再帰反射光学部材2に向けて投射し、再帰反射光学部材2で反射後、車両の空間の内部/外部の観視者の眼に向けて透過して空間浮遊映像を形成する。なお、上述した光方向変換パネル54の表面には保護カバーを設けてもよい。
【0101】
本実施例では、光源装置13からの出射光束30の利用効率を向上させ、消費電力を大幅に低減するために、光源装置13と液晶表示パネル11を含んで構成される表示装置1において、以下の構成とすることができる。すなわち、表示装置1は、光源装置13からの光(出射光束30)を、再帰反射光学部材2に向けて投射し、再帰反射光学部材2で反射後、ウィンドシールドの表面に設けた透明シート(図示せず)により、空間浮遊映像を所望の位置に形成するよう指向性を制御することもできる。具体的には、この透明シートは、フレネルレンズやリニアフレネルレンズ等の光学部品によって高い指向性を付与したまま空間浮遊映像の結像位置を制御する。このことによれば、表示装置1からの映像光は、レーザ光のように、ウィンドシールドの外側(例えば歩道)にいる観察者に対して高い指向性(直進性)で効率良く届くこととなる。その結果、高品位な空間浮遊映像を高解像度で表示すると共に、光源装置13のLED素子201を含む表示装置1による消費電力を著しく低減可能となる。
【0102】
<表示装置の例1>
図23には、表示装置1の具体的な構成の一例を示す。
図23では、
図22の光源装置13の上に液晶表示パネル11と光方向変換パネル54が配置されている。この光源装置13は、例えば、プラスチック等により形成され、内部にLED素子201、導光体203を収納して構成されている。導光体203の端面には、それぞれのLED素子201からの発散光を略平行光束に変換するために、受光部に対して対面に向かって徐々に断面積が大きくなる形状を有し、内部を伝搬する際に複数回全反射することで発散角が徐々に小さくなるような作用を有するレンズ形状が設けられている。その導光体203の上面には、液晶表示パネル11が取り付けられている。また、光源装置13のケースのひとつの側面(本例では左側の端面)には、半導体光源であるLED素子201や、そのLED素子201の制御回路を実装したLED基板202が取り付けられている。それと共に、LED基板202の外側面には、LED素子201および制御回路で発生する熱を冷却するための部材であるヒートシンクが取り付けられてもよい。
【0103】
また、光源装置13のケースの上面に取り付けられる液晶表示パネル11のフレーム(図示せず)には、そのフレームに取り付けられた液晶表示パネル11と、更に、その液晶表示パネル11に電気的に接続されたフレキシブル配線基板(FPC:Flexible Printed Circuits、図示せず)等が取り付けられて構成される。即ち、液晶表示素子である液晶表示パネル11は、固体光源であるLED素子201と共に、電子装置を構成する制御回路(図示せず)からの制御信号に基づいて、透過光の強度を変調することによって表示映像を生成する。この時、生成される映像光は、拡散角度が狭く特定の偏波成分のみとなるため、映像信号により駆動された面発光レーザ映像源に近い、従来に無い新しい表示装置が得られる。なお、現状では、レーザ装置により、上述した表示装置1で得られる画像と同等のサイズのレーザ光束を得ることは、技術的にも安全上からも不可能である。そこで、本実施例では、例えば、LED素子を備えた一般的な光源からの光束から、上述した面発光レーザ映像光に近い光を得る。
【0104】
続いて、光源装置13のケース内に収納されている光学系の構成について、
図23と共に
図24を参照しながら詳細に説明する。
図23および
図24は断面図であるため、光源を構成する複数のLED素子201が1つだけ示されている。これらの複数のLED素子201からの光は、導光体203の受光端面203aの形状により、略コリメート光(平行光)に変換される。このため、導光体203の端面の受光部とLED素子201は、所定の位置関係を保って取り付けられている。なお、この導光体203は、各々、例えば、アクリル等の透光性の樹脂により形成されている。そして、この導光体203の端部のLED受光面は、例えば、放物断面を回転して得られる円錐凸形状の外周面を有し、その外周面の頂部では、その頂部の中央部に凸部(即ち、凸レンズ面)を形成した凹部を有し、その導光体203の受光端面203aの平面部の中央部には、外側に突出した凸レンズ面(あるいは内側に凹んだ凹レンズ面でもよい)を有する(後述の
図26等と同様)。なお、LED素子201を取り付ける導光体203の受光部の外形形状は、円錐形状の外周面を形成する放物面形状を成し、LED素子201から周辺方向に出射する光をその外周面の内部で全反射することが可能な角度の範囲内において設定され、あるいは反射面が形成されている。
【0105】
他方、LED素子201は、回路基板であるLED基板202の表面上の所定の位置にそれぞれ配置されている。このLED基板202は、LEDコリメータである受光端面203aに対して、表面上のLED素子201が、それぞれ、前述した凹部の中央部に位置するように配置されて固定されている。かかる構成によれば、導光体203の受光端面203aの形状によって、LED素子201から放射される光を略平行光として取り出すことが可能となり、発生した光の利用効率を向上することができる。
【0106】
以上述べたように、
図22等の光源装置13は、導光体203の端面に設けた受光部である受光端面203aに、光源であるLED素子201を複数並べた光源ユニットを取り付けて構成されている。これにより、LED素子201からの発散光束を導光体203の受光端面203aのレンズ形状によって略平行光として、矢印で示すように(
図23等での左右方向)、導光体203内部を導光し、光束方向変換部材204によって、導光体203に対して略平行に配置された液晶表示パネル11に向かう方向(
図23等での上下方向)に出射する(
図22での出射光束30)。導光体203内部または表面の形状によって、この光束方向変換部材204の分布(言い換えると密度)を最適化することで、液晶表示パネル11に入射する光束の均一性を制御できる。上述した光束方向変換部材204は、導光体203の表面の形状や、導光体203内部に例えば屈折率の異なる部分を設けることで、導光体203内を伝搬した光束を、導光体203に対して略平行に配置された液晶表示パネル11に向かって出射する。このとき、液晶表示パネル11を画面中央に正対し画面対角寸法と同じ位置に視点を置いた状態で画面中央と画面周辺部の輝度を比較した場合の相対輝度比が20%以上あれば、実用上問題無く、30%を超えていれば、更に優れた特性となる。
【0107】
なお、
図23は、
図22と同様に、上述した導光体203とLED素子201を含む光源装置13において、偏光変換する本実施例の光源(光源装置13)の構成とその作用を説明するための断面配置図である。
図23で、光源装置13は、例えば、プラスチック等により形成される表面または内部に光束方向変換部材204を設けた導光体203、光源としてのLED素子201、反射シート205、位相差板206、レンチキュラーレンズ等から構成されている。光源装置13の上面には、光源光入射面と映像光出射面に偏光板を備える液晶表示パネル11が取り付けられている。
【0108】
また、表示装置1は、以下の構成としてもよい。
図23で、光源装置13に対応した液晶表示パネル11の光源光入射面(図面での下面)には、フィルムまたはシート状の反射型偏光板49を設ける。光源装置13は、LED素子201から出射した自然光束210のうち、片側の偏波(例えばP波)212を選択的に反射させ、導光体203の一方(図面での下方)の面に設けた反射シート205で反射して、再度、液晶表示パネル11に向かわせる。そこで、反射シート205と導光体203の間、もしくは導光体203と反射型偏光板49の間に、位相差板であるλ/4板を設ける。この構成で、光を反射シート205で反射させ、λ/4板を2回通過させることで、反射光束をP偏光からS偏光に変換し、映像光としての光源光の利用効率を向上する。液晶表示パネル11で映像信号により光強度を変調された映像光束(
図23の矢印213)は、例えば
図33に示したように、再帰反射光学部材2100に入射して反射後に、反射ミラー2110および反射ミラー2120を経由して、フロントガラス6の手前の車内の空間、または車外の空間に、実像である立体的な空間浮遊映像を得る。
【0109】
また、表示装置1は、以下の構成としてもよい。
図23で、光源装置13に対応した液晶表示パネル11の光源光入射面(図面での下面)には、フィルムまたはシート状の反射型偏光板49を設ける。光源装置13は、LED素子201から出射した自然光束210のうち、片側の偏波(例えばS波)211を選択的に反射させ、導光体203の一方(図面での下方)の面に設けた反射シート205で反射して、再度、液晶表示パネル11に向かわせる。反射シート205と導光体203の間、もしくは導光体203と反射型偏光板49の間に、位相差板であるλ/4板を設ける。この構成で、光を反射シート205で反射させ、λ/4板を2回通過させることで、反射光束をS偏光からP偏光に変換し、映像光として光源光の利用効率を向上する。液晶表示パネル11で映像信号により光強度変調された映像光束(
図24の矢印214)は、例えば
図33に示したように、再帰反射光学部材2100に入射して反射後に、反射ミラー2110および反射ミラー2120を経由して、フロントガラス6の手前の車内の空間、または車外の空間に、実像である空間浮遊映像を得る。
【0110】
図23や
図24に示す光源装置13においては、対応する液晶表示パネル11の光入射面に設けた偏光板の作用の他に、反射型偏光板で片側の偏光成分を反射するため、理論上得られるコントラスト比は、反射型偏光板のクロス透過率の逆数と液晶表示パネルに付帯した2枚の偏光板により得られるクロス透過率の逆数とを乗じたものとなる。これにより、高いコントラスト性能が得られる。実際には表示画像のコントラスト性能が10倍以上向上することを実験により確認した。この結果、自発光型の有機ELに比較しても遜色ない高品位な映像が得られた。
【0111】
<表示装置の例2>
続いて、
図25を用いて、表示装置1の具体的な構成の他の例を説明する。この表示装置1の光源装置は、LED14からの自然光(P偏波とS偏波が混在)の発散光束を、LEDコリメータ18により略平行光束(図面での上下方向の光束19)に変換し、反射型導光体304により、液晶表示パネル11に向けて図面での左右方向の光束として反射する。この反射型導光体304での反射光は、液晶表示パネル11と反射型導光体304との間に配置された波長板206と反射型偏光板49に入射する。その入射光は、反射型偏光板49で特定の偏波(例えばS偏波)が反射され、その反射光は、波長板206で位相が変換され、反射型導光体304の反射面に戻り、反射され、再び波長板206を通過して、反射型偏光板49を透過する偏波(例えばP偏波)に変換される。
【0112】
この結果、LED14からの自然光は、特定の偏波(例えばP偏波)に揃えられて、液晶表示パネル11に入射し、映像信号に合わせて輝度変調され、液晶表示パネル11の映像表示面に映像を表示する。
図25では、前述の例と同様に、光源を構成する複数のLED14(
図25では断面のため1個のみ図示)を備え、これらのLED14はLEDコリメータ18に対して所定の位置に取り付けられている。なお、このLEDコリメータ18は、各々、例えばアクリル等の透光性の樹脂またはガラスにより形成されている。そして、前述の例と同様に、このLEDコリメータ18は、放物断面を回転して得られる円錐凸形状の外周面を有すると共に、その外周面の頂部では、その頂部の中央部に凸部(即ち凸レンズ面)を形成した凹部を有する。また、そのLEDコリメータ18の平面部の中央部には、外側に突出した凸レンズ面(あるいは内側に凹んだ凹レンズ面でもよい)を有している。なお、LEDコリメータ18の円錐形状の外周面を形成する放物面は、LED14から周辺方向に出射する光をその外周面の内部で全反射することが可能な角度の範囲内において設定され、あるいは反射面が形成されている。
【0113】
図25に示した構成と
図31に示した表示装置1の光源装置の構成とは概略的に同様である。更に、
図31に示したLEDコリメータ18により略平行光に変換された光は、反射型導光体304で反射され、反射型偏光板49の作用により特定の偏波の光が透過させられ、反射された他方の偏波の光は、再度、反射型導光体304を透過して、液晶表示パネル11と接しない反射型導光体304の他方の面に設けられた反射板271で反射される。このとき、その光は、反射板271と液晶表示パネル11との間に配置された位相差板であるλ/4板270を2度通過することで偏光変換され、再び反射型導光体304を透過して、反対面に設けられた反射型偏光板49を透過して、偏光方向を揃えて液晶表示パネル11に入射される。この結果、この構成では、光源の光を全て利用できるので、光の利用効率が2倍になる。
【0114】
液晶表示パネル11からの出射光は、従来のTVセットでは、
図29および
図30に示すように、画面水平方向(
図29(A)および
図30(A)ではX軸で表示)と画面垂直方向(
図29(A)および
図30(B)ではY軸で表示)ともに同様な拡散特性を持っており、輝度は正面視の50%となる角度が60度程度と広角であり、どの位置からもTVセットの映像を見ることができる。これに対して、本実施例の液晶表示パネル11からの出射光束の拡散特性は、例えば
図30(A)の「例1」に示すように、輝度が正面視(角度0度)の50%になる視野角を4度とすることで、従来のTVの指向特性60度に対して1/15となる。同様に、垂直方向の視野角は、上下不均等として上側の視野角を下側の視野角に対して1/3程度に抑えるように、反射型導光体304の反射角度と反射面の面積等を最適化する。この結果に加え、光源光を偏光変換することで、効率が1.8倍化するため、以上の技術手段を併用すれば、従来の液晶TVに比べ、観視方向に向かう映像光量が大幅に向上し、輝度は80倍以上となる。なお
図30でのX,Y方向は
図29(A)と同座標である。
【0115】
更に、
図30の「例2」に示す視野角特性とすれば、輝度が正面視(角度0度)の50%になる視野角を1度とすることで、従来の60度に対して1/60となる。同様に、垂直方向の視野角は、上下均等として視野角を従来に対して1/12程度に抑えるように、反射型導光体304の反射角度と反射面の面積等を最適化する。この結果、本実施例では、従来の液晶TVに比べ、観視方向に向かう映像光量が大幅に向上し、輝度は700倍以上となる。後述する偏光変換を行う偏光変換素子を設け、特定偏波に揃え、発散角が極めて小さいレーザー面光源に近い光源を用い、液晶表示パネルで映像信号に合わせて光の強弱を変調することで、特定の偏波の映像光が得られる映像源を得ることができる。
【0116】
以上述べたように、視野角を挟角とすることで、観視方向に向かう光束量を集中できるので、光の利用効率が大幅に向上する。この結果、実施例によれば、従来のTV用の液晶表示パネルを使用しても、光源装置の光拡散特性を制御することで、同様な消費電力で大幅な輝度向上が実現可能であり、屋外に向けての映像表示が可能な表示装置とすることができる。
【0117】
実施例の基本構成としては、前述の
図34のように、光源装置13により挟角な指向特性の光束を液晶表示パネル11に入射させ、映像信号に合わせて輝度変調することで、液晶表示パネル11の画面上に表示した映像情報を、再帰反射光学部材2100で反射させて得られた空間浮遊映像220を、室内または室外に表示する。
【0118】
<光源装置の例1>
続いて、ケース内に収納されている光源装置等の光学系の構成例について、
図26と共に、
図27(A)および(B)を参照しながら、詳細に説明する。
【0119】
図26および
図27には、光源を構成するLED14(14a,14b)が示されている。これらのLED14は、LEDコリメータ15に対して所定の位置に取り付けられている。なお、このLEDコリメータ15は、各々、例えばアクリル等の透光性の樹脂により形成されている。そして、このLEDコリメータ15は、
図27(B)にも示すように、放物断面を回転して得られる円錐凸形状の外周面156を有すると共に、その外周面156の頂部では、その頂部の中央部に凸部(即ち、凸レンズ面)157を形成した凹部153を有する。また、そのLEDコリメータ15の平面部の中央部には、外側に突出した凸レンズ面(あるいは内側に凹んだ凹レンズ面でも良い)154を有している。なお、LEDコリメータ15の円錐形状の外周面を形成する放物面156は、LED14から周辺方向に出射する光をその外周面の放物面156の内部で全反射することが可能な角度の範囲内において設定され、あるいは反射面が形成されている。
【0120】
また、LED14(14a,14b)は、回路基板であるLED基板102の表面上の所定の位置にそれぞれ配置されている。このLED基板102は、LEDコリメータ15に対して、表面上のLED14が、それぞれ、LEDコリメータ15の凹部153の中央部に位置するように配置されて固定されている。かかる構成によれば、上述したLEDコリメータ15によって、LED14から放射される光のうち、特に、LED14の中央部分から上方(図面での右方向)に向かって放射される光は、LEDコリメータ15の外形を形成する2つの凸レンズ面157,154により集光されて平行光となる。また、その他の部分から周辺方向に向かって出射される光は、LEDコリメータ15の円錐形状の外周面を形成する放物面156によって反射され、同様に、集光されて平行光となる。換言すれば、中央部に凸レンズを構成すると共に、周辺部に放物面を形成したLEDコリメータ15によれば、LED14により発生された光のほぼ全てを平行光として取り出すことが可能となり、発生した光の利用効率を向上可能となる。
【0121】
なお、
図26で、LEDコリメータ15の光の出射側には偏光変換素子21が設けられている。この偏光変換素子21は、
図27(A)からも明らかなように、断面が平行四辺形である柱状(以下、平行四辺形柱)の透光性部材と、断面が三角形である柱状(以下、三角形柱)の透光性部材とを組み合わせ、LEDコリメータ15からの平行光の光軸に対して直交する面に平行に、複数、アレイ状に配列して構成されている。更に、これらアレイ状に配列された隣接する透光性部材間の界面には、交互に、偏光ビームスプリッタ(PBS膜と記載する)2111と反射膜2121とが設けられている。また、偏光変換素子21へ入射してPBS膜2111を透過した光が出射する出射面には、λ/2位相板213が備えられている。
【0122】
この偏光変換素子21の出射面には、更に、
図27(A)にも示す矩形状の合成拡散ブロック16が設けられている。即ち、LED14から出射された光は、LEDコリメータ15の働きにより平行光となって合成拡散ブロック16へ入射し、合成拡散ブロック16の出射側のテクスチャー161により拡散された後、導光体17に到る。
【0123】
導光体17は、例えばアクリル等の透光性の樹脂により断面が略三角形(
図27(B))の棒状に形成された部材である。そして、導光体17は、合成拡散ブロック16の出射面に第1の拡散板18aを介して対向する導光体光入射部(導光体光入射面を含む)171と、斜面を形成する導光体光反射部(導光体光反射面を含む)172と、第2の拡散板18bを介して、液晶表示パネル11と対向する導光体光出射部(導光体光出射面を含む)173とを備えている。
【0124】
この導光体17の導光体光反射部172には、
図26にも示すように、多数の反射面172aと連接面172bとが交互に鋸歯状に形成されている。そして、反射面172a(図面では右上がりの線分)は、図面中において一点鎖線で示す水平面(図面での左右方向)に対して角度αn(n:自然数であり、本例では1~130である)を形成している。一例として、ここでは、角度αnを43度以下(ただし0度以上)に設定している。
【0125】
導光体入射部171は、光源側に傾斜した湾曲の凸形状に形成されている。これによれば、合成拡散ブロック16の出射面からの平行光は、第1の拡散板18aを介して拡散されて導光体入射部171に入射し、図面からも明らかなように、導光体入射部171により上方に僅かに屈曲(言い換えると偏向)しながら、導光体光反射部172に達する。その光は、導光体光反射部172で反射して、図面での上方の導光体光出射部173の上方に設けた液晶表示パネル11に到る。
【0126】
以上に詳述した表示装置1によれば、光利用効率や均一な照明特性をより向上すると同時に、モジュール化されたS偏光波の光源装置を含め、小型かつ低コストで製造が可能となる。なお、上記説明では、偏光変換素子21をLEDコリメータ15の後に取り付けるものとして説明したが、本発明はそれに限定されず、偏光変換素子21を液晶表示パネル11に到る光路中に設けることによっても、同様の作用・効果が得られる。
【0127】
なお、導光体光反射部172には、多数の反射面172aと連接面172bとが交互に鋸歯状に形成されており、照明光束は、各々の反射面172a上で全反射されて上方に向かう。更には、導光体光出射部173に挟角拡散板を設け、照明光束は、略平行な拡散光束として、指向特性を制御する光方向変換パネル54に入射し、指向特性が制御されて、
図26のように斜め方向から液晶表示パネル11へ入射する。本実施例では、光方向変換パネル54を導光体出射面173と液晶表示パネル11の間に設けたが、これに限定されず、光方向変換パネル54を液晶表示パネル11の出射面に設けても、同様の効果が得られる。
【0128】
<光源装置の例2>
光源装置13等の光学系の構成についての他の例を
図28に示す。
図28は、
図26に示した例と同様に、光源を構成する複数(本例では2個)のLED14(14a,14b)が示されている。これらのLED14は、LEDコリメータ15に対して所定の位置に取り付けられている。なお、このLEDコリメータ15は、各々、例えばアクリル等の透光性の樹脂により形成されている。そして、
図26に示した例と同様に、このLEDコリメータ15は、放物断面を回転して得られる円錐凸形状の外周面156を有すると共に、その外周面156の頂部では、その頂部の中央部に凸部(即ち凸レンズ面)157を形成した凹部153を有する。また、そのLEDコリメータ15の平面部の中央部には、外側に突出した凸レンズ面(あるいは内側に凹んだ凹レンズ面でもよい)154を有している。なお、LEDコリメータ15の円錐形状の外周面を形成する放物面156は、LED14から周辺方向に出射する光をその放物面156の内部で全反射することが可能な角度の範囲内において設定され、あるいは反射面が形成されている。
【0129】
また、LED14(14a,14b)は、回路基板であるLED基板102の表面上の所定の位置にそれぞれ配置されている。このLED基板102は、LEDコリメータ15に対して、表面上のLED14(14a,14b)が、それぞれ、凹部153の中央部に位置するように配置されて固定されている。かかる構成によれば、上述したLEDコリメータ15によって、LED14から放射される光のうち、特に、LEDの中央部分から上方(図面での右方向)に向かって放射される光は、LEDコリメータ15の外形を形成する2つの凸レンズ面157,154により集光されて平行光となる。また、その他の部分から周辺方向に向かって出射される光は、LEDコリメータ15の円錐形状の外周面を形成する放物面156によって反射され、同様に、集光されて平行光となる。換言すれば、中央部に凸レンズを構成すると共に、周辺部に放物面を形成したLEDコリメータ15によれば、LED14により発生された光のほぼ全てを平行光として取り出すことが可能となり、発生した光の利用効率を向上可能となる。
【0130】
なお、
図28(A)で、LEDコリメータ15の光の出射側には、第一の拡散板18aを介して、導光体170が設けられている。導光体170は、例えばアクリル等の透光性の樹脂により断面が略三角形の棒状に形成された部材である。そして、導光体170は、
図28(A)からも明らかなように、拡散ブロック16の出射面に第1の拡散板18aを介して対向する導光体170の導光体入射部171と、斜面を形成する導光体光反射部172と、反射式偏光板200を介して液晶表示素子である液晶表示パネル11と対向する導光体光出射部173とを備えている。
【0131】
この反射型偏光板200は、例えばP偏光を反射、S偏光を透過させる特性を有する物が選択される。そうすれば、この反射型偏光板200は、光源であるLEDから発した自然光のうち、P偏光を反射し、
図28(B)に示した導光体光反射部172に設けたλ/4板2802を通過して反射面2801で反射し、再びλ/4板2802を通過することでS偏光に変換される。これにより、液晶表示パネル11に入射する光束は、全てS偏光に統一される。
【0132】
同様に、反射型偏光板200として、S偏光を反射、P偏光を透過させる特性を有する物が選択されてもよい。そうすれば、この反射型偏光板200は、光源であるLEDから発した自然光のうち、S偏光を反射し、
図28(B)に示した導光体光反射部172に設けたλ/4板2802を通過して反射面2801で反射し、再びλ/4板2802を通過することでP偏光に変換される。これにより、液晶表示パネル11に入射する光束は、全てP偏光に統一される。以上述べた構成でも、偏光変換が実現できる。
【0133】
<光源装置の例3>
光源装置等の光学系の構成についての他の例を、
図25を用いて説明する。この例では、
図25に示すように、LED14からの自然光(P偏光とS偏光が混在)の発散光束をコリメータレンズ18により略平行光束に変換し、反射型導光体304により液晶表示パネル11に向けて反射する。反射光は、液晶表示パネル11と反射型導光体304の間に配置された反射型偏光板206に入射する。反射型偏光板206では特定の偏波(例えばS偏波)が反射され、反射光は反射型導光体304の反射面を繋ぐ面を透過し、反射型導光体304の反対面に面して配置された反射板271で反射され、位相板であるλ/4波長板270を2度透過することで偏光変換される。その偏光変換された光(例えばP偏波)は、反射型導光体304と反射型偏光板206を透過して、液晶表示パネル11に入射し、映像光に変調される。このとき、特定偏波と偏光変換された偏波面を合わせることで、光の利用効率が通常の2倍となり、反射型偏光板206の偏光度(言い換えると消光比)もシステム全体の消光比に乗せられる。よって、本実施例の光源装置を用いることで、空間浮遊映像表示装置のコントラスト比が大幅に向上する。
【0134】
この結果、本実施例では、LED14からの自然光は、特定の偏波(例えばP偏波)に揃えられる。前述の例と同様に、本実施例では、光源を構成する複数のLED14が設けられており、これらのLED14は、LEDコリメータ18に対して所定の位置に取り付けられている。なお、このLEDコリメータ18は、各々、例えばアクリル等の透光性の樹脂またはガラスにより形成されている。そして、このLEDコリメータ18は、前述と同様に、放物断面を回転して得られる円錐凸形状の外周面を有すると共に、その外周面の頂部では、中央部に凸部(即ち凸レンズ面)を形成した凹部を有する。また、LEDコリメータ18の平面部の中央部には、外側に突出した凸レンズ面(あるいは、内側に凹んだ凹レンズ面でもよい)を有している。なお、LEDコリメータ18の円錐形状の外周面を形成する放物面は、LED14から周辺方向に出射する光をその放物面の内部で全反射することが可能な角度の範囲内において設定され、あるいは反射面が形成されている。
【0135】
また、LED14は、回路基板であるLED基板102の表面上の所定の位置にそれぞれ配置されている。このLED基板102は、LEDコリメータ18に対して、表面上のLED14が、それぞれ、LEDコリメータ18の凹部の中央部に位置するように配置されて固定される。かかる構成によれば、LEDコリメータ18によって、LED14から放射される光のうち、特に、その中央部分から放射される光は、LEDコリメータ18の外形を形成する2つの凸レンズ面により集光されて平行光となる。また、その他の部分から周辺方向に向かって出射される光は、LEDコリメータ18の円錐形状の外周面を形成する放物面によって反射され、同様に、集光されて平行光となる。換言すれば、中央部に凸レンズを構成すると共に、その周辺部に放物面を形成したLEDコリメータ18によれば、LED14により発生された光のほぼ全てを平行光として取り出すことが可能となり、発生した光の利用効率を向上可能となる。
【0136】
<光源装置の例4>
更に、光源装置等の光学系の構成についての他の例を、
図31を用いて説明する。
図31で、LEDコリメータ18の光の出射側には、拡散特性を変換する光学シート(言い換えると拡散シート、拡散フィルム)207を2枚用いて、LEDコリメータ18からの光をこれらの2枚の光学シート207の間に入射させる。この光学シート207は、面を構成する図面での上下方向(画面内垂直方向)と図面での前後方向(画面内水平方向)の拡散特性を変換する。この光学シート207は、1枚で構成する場合には、そのシートの表面と裏面の微細形状によって、垂直方向と水平方向の拡散特性を制御する。また、光学シート207は、光学シートを複数枚使用して作用を分担してもよい。光学シート207の表面形状と裏面形状により、LEDコリメータ18からの光の画面垂直方向の拡散角を光学シート207の反射面の垂直面の幅に合わせ、水平方向については液晶表示パネル11から出射する光束の面密度が均一になるように、LED14の数量と光学素子(光学シート207)からの発散角を設計パラメータとして最適設計すると良い。つまり、本実施例では、前述の導光体304の代わりに、1枚以上の光学シート207の表面形状により、拡散特性を制御する。本実施例では、偏光変換は、前述した光源装置の例3と同様の方法で行われる。これに対し、LEDコリメータ18と光学シート207の間に偏光変換素子21を設けて、偏光変換を行った後、光学シート207に光源光を入射させてもよい。
【0137】
前述した反射型偏光板206は、例えばS偏光を反射、P偏光を透過させる特性を有する物を選択する。そうすれば、光源であるLED14から発した自然光のうち、反射型偏光板206でS偏光を反射し、位相差板270を通過して、反射面271で反射し、再び位相差板270を通過することでP偏光に変換され、液晶表示パネル11に入射する。この位相差板270の厚さは、位相差板270への光線の入射角度により最適値を選ぶ必要があり、λ/16からλ/4の範囲に最適値が存在する。
【0138】
<光源装置の例5>
図32を用いて、光源装置の光学系の構成についての他の例を説明する。本実施例では、光源装置13は、
図32(C)に示すように、LEDコリメータ18の光の出射側に偏光変換素子501を備え、偏光変換素子501によって、LED14(LED素子)からの自然光を特定の偏波に揃えて、拡散特性を制御する光学素子81に入射する。そして、光学素子81では、入射光について、画面垂直方向(
図32(C)での上下方向)と画面水平方向(
図32C)での前後方向)の拡散特性を制御することで、反射型導光体200の反射面に向けての配光特性を最適なものとする。反射型導光体200の表面には、
図32(B)に示すように、凹凸パターン502を設け、光学素子81からの入射光を、反射型導光体200の対向面に配置される映像表示装置(図示せず)に向けて反射し、所望の拡散特性を得る。光源のLED14とLEDコリメータ18の配置精度は、光源の効率に大きく影響する。そのため、通常、光軸精度は50μm程度の精度が必要となる。そのため、発明者は、LED14の発熱によるLEDコリメータ18の膨張により取り付け精度が低下する課題への対策として、以下の構成とした。すなわち、本実施例では、
図32(A)および(B)のように、いくつかのLED14とLEDコリメータ18を一体とした光源ユニット503の構造として、単独または複数(本例では3個)の光源ユニット503を光源装置に用いることで、上記取り付け精度の低下を軽減した。
【0139】
図32(A)(B)(C)に示した実施例では、反射型導光体200の長辺方向(図面での左右方向)の両端部には、それぞれ、LED素子とLEDコリメータ18を一体化した光源ユニット503が複数(合計6個)、組み込まれている。本実施例では、反射型導光体200の左右の片側毎に画面垂直方向(
図32(B)での上下方向)で3個ずつの光源ユニット503が組み込まれている。これにより、光源装置13の輝度均一化を実現している。反射型導光体200の反射面(
図32(B)で凹凸パターン502が形成された面)には、光源ユニット503に略平行の凹凸パターン502が複数形成されている。凹凸パターン502の凹凸が形成される断面は
図32(C)での面であり、凹凸パターン502の凹凸の繰り返しの方向は
図32(B)での左右方向であり、一つの凹凸の延在の方向は
図32(B)での上下方向である。一つの凹凸パターン502においても、その表面には多面体を形成する。これにより、映像表示装置に入射する光量を高精度に制御することができる。
【0140】
本実施例では、反射型導光体200の反射面の形状を凹凸パターン502として説明したが、これに限らず、三角面、波形面などの形状が規則的または不規則的に配列されたパターンとして、そのパターン面形状により反射型導光体200から映像表示装置に向けた配光パターンを制御する構成とすればよい。また、
図32(A)のように、反射型導光体200の側面(光源ユニット503が設けられていない方の側面)には、LEDコリメータ18で制御された光が光源装置13から外部に漏れないように遮光壁504を設け、LED素子(LED14)は外側に設けた金属製の基盤505により放熱性を高めた設計とするとよい。
【0141】
<レンチキュラーレンズ>
以下、表示装置1からの出射光の拡散特性を制御するレンチキュラーレンズによる作用について説明する。レンチキュラーレンズは、レンズ形状を最適化することで、上述した表示装置1から出射し自動車のウィンドシールド(
図33)の前面の車内の空間に、または車外の空間に、空間浮遊映像を得ることが可能となる。即ち、本実施例では、表示装置1からの映像光に対し、2枚のレンチキュラーレンズを組み合わせ、または、マイクロレンズアレイをマトリックス状に配置して拡散特性を制御するシートを設けた構成とすることで、画面内のX軸およびY軸の方向(
図29)において、映像光の輝度(言い換えると相対輝度)を、反射角度(垂直方向を0度)に応じて制御することができる。本実施例では、このようなレンチキュラーレンズにより、従来に比較し、
図29(B)に示すように、垂直方向(Y軸)の輝度特性を急峻にし、更に上下方向(Y軸の正負方向)の指向特性のバランスを変化させることで、反射や拡散による光の輝度(相対輝度)を高める。これにより、本実施例では、面発光レーザ映像源からの映像光のように、拡散角度が狭く(言い換えると直進性が高く)、かつ特定の偏波成分のみの映像光とし、従来技術を用いた場合に再帰反射光学部材で発生していたゴースト像を抑え、効率良く観視者の眼に再帰反射による空間浮遊映像が届くように制御することができる。
【0142】
また、上述した光源装置により、
図30(A)、(B)に示した一般的な液晶表示パネルからの出射光拡散特性(図面では「従来特性」)に対して、X軸方向およびY軸方向ともに大幅に挟角な指向特性とすることで、特定方向に対して平行に近い映像光束を出射する特定偏波の光を出射する表示装置が実現できる。
【0143】
図29には、本実施例で採用するレンチキュラーレンズの特性の一例を示している。この例では、角度θとして、特に、
図29(A)のY軸方向(垂直方向)における特性を示している。
図29(B)で、「特性O」は、光の出射方向のピークが垂直方向(0度)から上方に30度付近の角度であり、上下に対称な輝度特性を示している。また、「特性A」や「特性B」は、更に、30度付近においてピーク輝度の上方の映像光を集光して輝度(相対輝度)を高めた特性の例を示している。このため、これらの特性Aや特性Bでは、30度を超えた角度において、特性Oに比較して、急激に光の輝度(相対輝度)が低減する。
【0144】
即ち、上述したレンチキュラーレンズを含んだ光学系によれば、表示装置1からの映像光束を再帰反射光学部材2に入射させる際、光源装置13で挟角に揃えられた映像光の出射角度や視野角を制御でき、再帰反射光学部材2の設置の自由度を大幅に向上できる。その結果、ウィンドシールドを反射または透過して所望の位置に結像する空間浮遊映像の結像位置の関係の自由度を大幅に向上できる。この結果、拡散角度が狭く(直進性が高く)、かつ特定の偏波成分のみの光として効率良く室外または室内の観視者の眼に届くようにすることが可能となる。このことによれば、表示装置1からの映像光の強度(対応する輝度)が低減しても、観視者は映像光を正確に認識して情報を得ることができる。換言すれば、表示装置1の出力を小さくすることにより、消費電力の低い表示装置を実現することが可能となる。
【0145】
本実施例によれば、従来のHUD装置に代えて、映像をフロントガラスに反射させることなく、車内、特にフロントガラスと運転者に挟まれた空間に、必要な映像を空間浮遊映像として表示することができる空間浮遊映像表示装置を提供できる。これにより、車体のデザインが異なる車種間でも展開可能な空間浮遊映像表示装置を提供できる。
【0146】
また、本実施例によれば、従来技術のHUDに対して、設置上の障害要因となっていたフロントガラスの形状や傾きが異なる車種間での展開が可能であり、視認性の高い空間浮遊映像を表示できる空間浮遊表示装置を実現できる。
【0147】
上述した実施例には以下のような構成が含まれている。空間浮遊映像表示装置は、映像源としての液晶表示パネルと、映像源に特定の偏光方向の光を供給する発散角が狭角な光源装置とを備える。光源装置は、点状または面状の光源と、光源からの光の発散角を低減する光学部材と、映像源に伝搬する反射面を有する導光体と、を備える。導光体は、映像源と対向して配置され、内部または表面には光源からの光を映像源に向けて反射させる反射面を有し、映像源に光を伝搬する。映像源は、映像信号に合わせて光強度を変調する。光源装置は、光源から映像源に入射する光束の発散角の一部または全部を、光源装置に設けられた反射面の形状と面粗さによって制御する。空間浮遊映像表示装置は、映像源からの挟角な発散角を有する映像光束を、再帰反射光学部材で反射または透過させ、空中に空間浮遊映像を形成する。
【0148】
さらに、映像源からの映像光は、挟角な発散特性を持ち、外光が再帰反射光学部材に入射しないように、光学系の配置を考慮することで、ゴースト像の発生を軽減し、加えて、再帰反射光学部材の光出射面、液晶表示パネルの光出射面、または双方の光出射面に、出射光の拡散角を制御する光学シートを設けることで、同時に空間浮遊映像の結像に再帰反射光学部材で発生するゴースト光が寄与しないようにすることで、得られる空間浮遊映像の画質を大幅に改善する。また、再帰反射光学部材へ外光が入射することで発生するゴースト像を軽減するため、再帰反射光学部材は、空間浮遊映像表示装置の開口部に対してほぼ垂直に配置される。
【0149】
一方、空間浮遊映像表示装置は、空間浮遊映像の大きさを空間浮遊映像表示装置の開口部より大きくするために、空間浮遊映像表示装置の開口部を通過する映像光束を制御して空間浮遊映像を拡大する。より具体的には、表示画面を拡大するように画素に応じて出射方向を制御する映像拡大光学素子(映像光制御フィルム)が、再帰反射光学部材と観視者のアイポイント(対応する空間浮遊映像の結像位置)との間に配置される。これにより、空間浮遊映像の寸法や結像面の形状が制御される。
【0150】
加えて、表示装置の画素ごとに対応した再結像映像の結像位置を制御可能となるために、映像情報に立体方向の情報を加味することができる。また、上述の空間映像拡大光学素子の表面粗さを所定の粗さとすることで、空間浮遊拡大映像の画素のフォーカス感を制御する。同様に、空間浮遊映像のボケ量を軽減するために、再帰反射光学部材の反射面の表面粗さを単位長さ当たり所定の数値以下に低減することで、空間浮遊映像のボケ量を軽減して視認性を向上する。
【0151】
他方、空間浮遊映像表示装置の小型化のためには、映像源である液晶表示パネルを画面の垂直方向または水平方向に分割した映像表示領域ごとに出射する映像光の偏波方向を変えて配置する。この結果、画面を複数の領域に分割してそれぞれの領域の画像ごとに空間浮遊映像を形成して得るため、薄型化が可能であり、セットの小型化を実現できる。
【0152】
さらに、空間浮遊映像表示装置により形成される空間浮遊映像の突出量(浮遊量)は、上述した表示装置の画素ごとに対応した再結像映像の結像位置を映像拡大光学素子の作用により制御することで実現される。
【0153】
以上、種々の実施例について詳述したが、本発明は、上述した実施例に限定されず、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために装置全体を詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換が可能である。
【0154】
本実施例に係る技術では、高解像度かつ高輝度な映像情報を空間浮遊した状態で表示することにより、例えば、ユーザは感染症の接触感染に対する不安を感じることなく操作することを可能にする。不特定多数のユーザが使用するシステムに本実施例に係る技術を用いれば、感染症の接触感染のリスクを低減し、不安を感じることなく使用できる非接触ユーザインタフェースを提供することを可能にする。これにより、国連の提唱する持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)の「3すべての人に健康と福祉を」に貢献する。
【0155】
また、本実施例に係る技術では、出射する映像光の発散角を小さく、さらに特定の偏波に揃えることで、再帰反射部材に対して正規の反射光だけを効率良く反射させるため、光の利用効率が高く、明るく鮮明な空間浮遊映像を得ることを可能にする。本実施例に係る技術によれば、消費電力を大幅に低減することが可能な、利用性に優れた非接触ユーザインタフェースを提供することができる。これにより、国連の提唱する持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)の「9産業と技術革新の基盤をつくろう」および「11住み続けられるまちづくりを」に貢献する。
【0156】
さらに、本実施例に係る技術では、指向性(直進性)の高い映像光による空間浮遊映像を形成することを可能にする。本実施例に係る技術では、銀行のATMや駅の券売機等における高いセキュリティが求められる映像や、ユーザに正対する人物には秘匿したい秘匿性の高い映像を表示する場合でも、指向性の高い映像光を表示することで、ユーザ以外に空間浮遊映像を覗き込まれる危険性が少ない非接触ユーザインタフェースを提供することを可能にする。これにより、国連の提唱する持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)の「11住み続けられるまちづくりを」に貢献する。
【符号の説明】
【0157】
1…表示装置、2(2A,2B)…再帰反射光学部材、11…液晶表示パネル、13…光源装置、100…透明部材、101,102…偏光分離部材、111…λ/2板、220…空間浮遊映像(立体的な空間浮遊映像、拡大像)、2150,1100…光学素子。