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  • 特許-歯車の歯面潤滑構造 図1
  • 特許-歯車の歯面潤滑構造 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】歯車の歯面潤滑構造
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20241112BHJP
   F16H 1/32 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
F16H57/04 L
F16H1/32 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023574896
(86)(22)【出願日】2022-01-18
(86)【国際出願番号】 JP2022001567
(87)【国際公開番号】W WO2023139636
(87)【国際公開日】2023-07-27
【審査請求日】2024-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】城越 教夫
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-178017(JP,A)
【文献】特開2021-167650(JP,A)
【文献】特開平7-98051(JP,A)
【文献】特開2005-188740(JP,A)
【文献】実開平3-94455(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互にかみ合う一対の歯車のうち、少なくとも一方の歯車における各歯の歯先に、歯筋方向に沿って所定の間隔で複数の潤滑剤流通溝が形成されており、
前記潤滑剤流通溝のそれぞれは、前記の各歯の一方の歯面から他方の歯面まで延びており、
前記潤滑剤流通溝には、前記歯筋方向に対して一方の側に傾斜した方向に延びている傾斜溝と、前記歯筋方向に対して前記傾斜溝とは逆方向に傾斜した逆傾斜溝とが含まれており、
前記傾斜溝は、前記の各歯において前記歯筋方向における一方の歯筋端から他方の歯筋端に向かって所定の間隔で形成されている複数本の前記潤滑剤流通溝であり、
前記逆傾斜溝は、前記の各歯において前記歯筋方向における前記傾斜溝が位置していない前記他方の歯筋端の側に位置し、前記他方の歯筋端に最も近い位置に形成されている1本の前記潤滑剤流通溝、または、当該他方の歯筋端の側から数えて複数本の前記潤滑剤流通溝である歯車の歯面潤滑構造。
【請求項2】
請求項1において、
前記一対の歯車は、波動歯車装置の剛性の内歯歯車および半径方向に撓み可能な可撓性の外歯歯車である歯車の歯面潤滑構造。
【請求項3】
請求項2において、
前記外歯歯車はカップ形状あるいはシルクハット形状をしており、半径方向の撓み可能な円筒状胴部と、この円筒状胴部の一端から半径方向に延びるダイヤフラムと、このダイヤフラムの内周縁あるいは外周縁に形成した剛性の円環状のボスと、前記円筒状胴部の他端の側に形成した外歯とを備えている歯車の歯面潤滑構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車の歯面に潤滑剤を供給する歯面潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車のかみ合い部分においては潤滑剤が押し出されて歯面に効率良く潤滑剤を供給できない場合がある。例えば、波動歯車装置、はすば歯車、スパイラルベベルギヤ等のように、歯車のかみ合いが軸直角方向に対して斜めに進行する場合には、相互にかみ合う歯の間の潤滑剤が歯筋方向の端部に押し出され、歯面に留まり難い。特に、グリース潤滑を行う場合には、グリースが歯面に留まり難い。
【0003】
しかしながら、一方において、メンテナンス性の良さ、油漏れ信頼性の面から、グリース潤滑、さらには稠度番号の大きいグリースに対する要求がある。グリース潤滑の場合における歯面の潤滑信頼性の確保が課題となる。
【0004】
波動歯車装置における潤滑構造としては、特許文献1において、波動歯車装置の内歯歯車と外歯歯車の歯面に潤滑剤を保持するために、歯面の全体に亘って一定の間隔で微細な凸部を形成することが提案されている。特許文献2においては、内歯歯車および外歯歯車の歯に、潤滑油の流通を促進させるための溝を付けることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2021-167650号公報
【文献】特開2017-72234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、相互にかみ合う一対の歯車の歯面に効率良く潤滑剤を供給する歯車の歯面潤滑構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、相互にかみ合う一対の歯車のうち、少なくとも一方の歯車における各歯の歯先に、歯筋方向に沿って所定の間隔で複数の潤滑剤流通溝が形成されており、
前記潤滑剤流通溝のそれぞれは、各歯の一方の歯面から他方の歯面まで、歯筋方向に対して一方の側に傾斜した方向に延びている傾斜溝であることを特徴としている。
【0008】
ここで、各歯における一方の歯筋端に最も近い位置に形成した1本の前記潤滑剤流通溝、または当該歯筋端の側から数えて複数本の前記潤滑剤流通溝は、前記歯筋方向に対して前記傾斜溝とは逆方向に傾斜した逆傾斜溝とする場合がある。
【発明の効果】
【0009】
相互にかみ合う歯の歯先に付けた傾斜溝によって、歯の頂隙に閉じ込められたグリース等の潤滑剤の流動が促進されるので、歯面に効率よく潤滑剤を供給できる。
【0010】
また、歯筋方向の端に逆傾斜溝を設けた場合には、歯筋方向の端に向かって流れる潤滑剤の流れ方向を、逆傾斜溝によって歯筋方向の中央側に向けて押し戻すことができるので、歯面に潤滑剤を長く留まらせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)は本発明を適用したカップ型波動歯車装置の全体構成を示す概略縦断面図であり、(b)はその概略端面図である。
図2】(a)はかみ合い状態にある一対の内歯と外歯を示す説明図であり、(b)は外歯の歯先に形成した潤滑剤流通溝を示す説明図であり、(c)は潤滑剤流通溝として傾斜溝と逆傾斜溝を形成した場合の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照して本発明を適用した実施の形態に係る波動歯車装置を説明する。図1を参照して説明すると、波動歯車装置1は、環状の剛性の内歯歯車2と、この内側に同軸に配置されたカップ形状の可撓性の外歯歯車3と、この内側にはめ込まれた楕円状輪郭の波動発生器4から構成されている。
【0013】
外歯歯車3は、胴部31、ダイヤフラム32およびボス33を備え、全体としてカップ形状をしている。胴部31は円筒形状をしており、半径方向に撓み可能である。胴部31の一方の端は開口端34となっており、開口端34の側における胴部外周面部分に、外歯30が形成されている。胴部31の他方の端に連続して、ダイヤフラム32が半径方向の内側に延びている。ダイヤフラム32の内周縁に連続して、円環状のボス33が形成されている。ボス33は、外歯歯車3を他の部材(図示せず)に取り付けるための剛体部分である。内歯歯車2は、外歯歯車3の外歯30を取り囲む状態に配置されている。内歯歯車2の内周面に形成されている内歯20に、外歯30がかみ合い可能である。
【0014】
波動発生器4は、中空ハブ41と、その外周に、オルダム継手42を介して、装着した剛性の波動発生器プラグ43と、波動発生器プラグ43の楕円形のプラグ外周面44に嵌めた波動発生器軸受45から構成されている。波動発生器4によって、外歯歯車3の胴部31における外歯30が形成されている部分は、初期形状の真円から楕円形に撓められている。外歯30は、楕円形の長軸Lmaxの両端の位置で、内歯歯車2の内歯20にかみ合っている。
【0015】
波動発生器軸受45は、半径方向に撓み可能な円形の外輪46および内輪47と、これらの間に転動可能な状態で装着されている複数個のボール48とを備えている。波動発生器軸受45は、波動発生器プラグ43によって楕円形に撓められた状態で外歯歯車3の内側に嵌め込まれ、外歯歯車3と波動発生器プラグ43を相対回転可能な状態で保持している。波動発生器プラグ43は高速回転入力軸(図示せず)に連結される。
【0016】
波動発生器4が中心軸線1aを中心として回転すると、両歯車2、3のかみ合い位置が円周方向に回転する。この回転によって、外歯30と内歯20の歯数差に応じて、外歯歯車3と内歯歯車2の間には相対回転が発生する。例えば、内歯歯車2を固定し、波動発生器4を高速回転入力要素とすれば、外歯歯車3は減速回転出力要素となり、両歯車2、3の歯数差に応じて減速された回転出力が取り出される。
【0017】
図2(a)はかみ合い状態にある一対の内歯20と外歯30を示す説明図であり、図2(b)は外歯30に歯先に形成した潤滑剤流通溝を示す説明図である。内歯20の歯形は、外歯30とのかみ合いに関与する左右のかみ合い歯面201L、201Rと、かみ合い歯面201L、201Rの歯末側の端の間を繋ぐかみ合いに関与しない凸円弧状の歯先面202と、かみ合い歯面201L、201Rの歯元側の端の間を繋ぐかみ合いに関与しない凹円弧状の歯底面203とによって規定されている。同様に、外歯30の歯形は、内歯20とのかみ合いに関与する左右のかみ合い歯面301L、301Rと、かみ合い歯面301L、301Rの歯末側の端の間を繋ぐかみ合いに関与しない凸円弧状の歯先面302と、かみ合い歯面301L、301Rの歯元側の端の間を繋ぐかみ合いに関与しない凹円弧状の歯底面303とによって規定されている。
【0018】
内歯20の歯先面202には、複数本の微細な潤滑剤流通溝204が形成されている。また、外歯30の歯先面302にも、歯筋方向に沿って一定の間隔で、潤滑剤流通溝304が形成されている。
【0019】
図2(b)に示すように、外歯30に形成された潤滑剤流通溝304は、歯先面302において、一方のかみ合い歯面301Lの側から他方のかみ合い歯面301Rまで延びている。本例の潤滑剤流通溝304は、歯筋方向に沿って一定の間隔で形成されており、各潤滑剤流通溝304は同一の溝(同一幅、同一深さ、同一の断面形状)であり、歯筋方向に対する傾斜角も同一であり、歯先面302の頂点を通る接線に平行な方向に延びている。例えば、各潤滑剤流通溝304は、歯筋方向に対して、同一方向に45度傾いた方向に延びる溝である。
【0020】
本例では、内歯20の潤滑剤流通溝204も同様に形成されている。すなわち、潤滑剤流通溝204は、歯先面202において、一方のかみ合い歯面201Lの側から他方のかみ合い歯面201Rまで延びている。また、潤滑剤流通溝204は、歯筋方向に沿って一定の間隔で形成されている。各潤滑剤流通溝204は、同一の溝(同一幅、同一深さ、同一の断面形状)であり、歯筋方向に対する傾斜角も同一であり、歯先面202の頂点を通る接線に平行な方向に延びている。例えば、各潤滑剤流通溝204は、歯筋方向に対して、同一方向に45度傾いた方向に延びる溝である。
【0021】
潤滑剤流通溝204、304によって、内歯20と外歯30の間の頂隙5、6に閉じ込められた潤滑剤が移動しやすくなり、かみ合い歯面201L、201R、301L、301Rに効率良く潤滑剤を供給できる。なお、このような傾斜溝は、例えば、歯車素材の歯切り前の旋盤工程において形成することができる。
【0022】
ここで、潤滑剤流通溝204、304として、歯筋方向Aに対して同一方向に角度θだけ傾斜した方向Bに延びる傾斜溝が形成されている場合、内歯20と外歯30のかみ合い部分において、グリース等の潤滑剤に、歯筋方向の一方に向かう流れが生じる。内歯20、外歯30における歯筋方向の端の部分に、傾斜溝として、逆方向に傾斜した逆傾斜溝を形成しておくことができる。
【0023】
例えば、図2(c)に示すように、外歯30において、潤滑剤流通溝304として、歯筋方向の一方の端30aから他方の端30bに向かって一定の間隔で同一方向に傾斜した傾斜溝304aを形成し、端30bの側においては、一定の間隔で逆傾斜溝304bを複数本形成しておく。内歯20においても同様に潤滑剤流通溝204を形成することができる。
【0024】
このようにすれば、歯筋方向の端に向かう潤滑剤の流れ、逆傾斜溝によって逆方向に押し戻され、内歯20、外歯30の歯面に潤滑剤をより長く留めることができる。歯面に対する潤滑効果を高めることができる。
【0025】
(その他の実施の形態)
なお、本発明は、波動歯車装置に限らず、それ以外の歯車装置にも適用可能である。特に、波動歯車装置を含め、はすば歯車、スパイラルベベルギヤ等のように、かみ合いが軸直角方向に対して斜めに進行する歯車を備えた歯車装置においては、潤滑剤がかみ合い部分において歯筋方向の端に向かって排出され、歯面に留まり難い。このような歯車装置に対して本発明の歯面潤滑構造が有効である。
図1
図2