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特許7587076微粒子複合酸化物黄色顔料及びその製造方法
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  • 特許-微粒子複合酸化物黄色顔料及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】微粒子複合酸化物黄色顔料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/00 20060101AFI20241112BHJP
   C09C 1/22 20060101ALI20241112BHJP
   C09C 1/36 20060101ALI20241112BHJP
   C09C 1/40 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C01G49/00 A
C09C1/22
C09C1/36
C09C1/40
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2024053254
(22)【出願日】2024-03-28
【審査請求日】2024-04-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】西尾 章
(72)【発明者】
【氏名】本田 泰平
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐介
(72)【発明者】
【氏名】浅井 智裕
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-040288(JP,A)
【文献】特開2016-121038(JP,A)
【文献】特表2022-535269(JP,A)
【文献】特開2012-121739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00
C09C 1/22
C09C 1/36
C09C 1/40
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe、Al、及びTiから構成されるシュードブルッカイト型の微粒子複合酸化物黄色顔料の製造方法であって、
Alの金属塩とアルカリにて、水中でAlの沈殿を生成して、第一反応液を得る工程と、
前記第一反応液と、Fe及びTiの金属塩とアルカリにて、水中で顔料前駆体を生成して、第二反応液を得る工程と、
前記顔料前駆体を、濾過し、水洗し、乾燥した後、600℃以上900℃以下の温度で焼成して、微粒子複合酸化物黄色顔料を得る工程と、を備え、
前記微粒子複合酸化物黄色顔料の平均一次粒子径が80nm以下であり、
前記微粒子複合酸化物黄色顔料が、各構成金属をそれぞれの酸化物の構成単位に変換し、分割し、これらをFe 、Al 、及びTiO としたとき、Fe の割合が30質量%以上40質量%以下であり、Al の割合が20質量%以上30質量%以下であり、TiO の割合が35質量%以上45質量%以下である、
微粒子複合酸化物黄色顔料の製造方法。
【請求項2】
Fe、Al、及びTiから構成されるシュードブルッカイト型の微粒子複合酸化物黄色顔料であって、
各構成金属をそれぞれの酸化物の構成単位に変換し、分割し、これらをFe、Al、及びTiOとしたとき、Feの割合が30質量%以上40質量%以下であり、Alの割合が20質量%以上30質量%以下であり、TiOの割合が35質量%以上45質量%以下であり、
前記微粒子複合酸化物黄色顔料の平均一次粒子径が80nm以下である、
微粒子複合酸化物黄色顔料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、耐熱性、及び耐久性に優れる微粒子複合酸化物黄色顔料、並びに、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
顔料は、塗料、インキ、又は建材等の着色剤として様々な場面で使用され、使用範囲が広いものである。それゆえに、使用場面によっては、色ばかりでなく、耐熱性、耐候性、及び耐薬品性等が要求されることもある。無機黄色顔料は、一般的に耐熱性及び耐候性に優れるが、近年は環境問題からCd、Cr、又はPbを含む顔料を控えようとする動きが強くなり、その使用が制限されつつある。過去カドミウムイエロー又は黄鉛等の黄色系の顔料があったが、現在はほとんど使用されなくなっている。複合酸化物系ではチタンイエローがあるが、Cr、Sb、又はNi等の金属が含まれ、これらを含まない顔料が求められている。一方、有機黄色顔料は、鮮明な色相を呈するが、耐熱性は低く、耐候性も弱い顔料が多く、用途によってはその使用が制限されるものである。また、有害金属を含まない黄色顔料としてゲータイト(α-FeOOH)があり、実使用されているが、この顔料は耐熱性が低く、200℃を超えてくると加熱脱水によりヘマタイト(α-Fe)となり茶褐色に変色してしまう。このことから、用途によっては、使用できない場合がある。この顔料には、微粒子タイプの顔料もあるが、化学構造は同じであるから同様に耐熱性は低い。
このような中、有害金属を含まない耐熱性のある顔料として、FeTiO(シュードブルッカイト)系の顔料が提案されてきている。しかしながら、これらの顔料は微細なものでもサブミクロンの大きさであり、透明性に優れるようなナノサイズの顔料は見当たらない。
【0003】
従来、Fe、及びTiからなる複合酸化物の黄色顔料について種々の試みがなされている。例えば、特許文献1では、Alが固溶したシュードブルッカイト型と酸化チタンのルチル型との混合物からなる黄色顔料が開示されている。この顔料は、含水酸化チタンに鉄塩、及びアルミニウム塩を添加し、アルカリにて中和した後、焼成して顔料を得られるが、この顔料の粒子径は、サブミクロン領域にあるものである。
特許文献2では、Fe、及びTi以外の種々の金属を含むものであり、シュードブルッカイト構造の顔料が開示されている。しかしながら、この顔料の製造方法は、サブミクロンの原料粉末を混合し、それを1000℃以上の高温で焼成していることから、得られるものは、サブミクロンの顔料であり、透明性に優れるような微粒子の顔料ではないことが想定される。
特許文献3は、Fe、Ti、及びAlからなる顔料もしくは、これにその他の金属を導入した顔料が開示されている。この顔料の製造方法は、原料粉末をメカノケミカル的に処理し、発色、及び着色力に優れる顔料とするものであるが、ここでも得られる顔料は、サブミクロンの顔料であり、サブミクロンよりも微細な微粒子の顔料は得られていない。
非特許文献1では、気相法を用いて微粒子が合成されている。ここでは、TiCl-FeClを用い、800℃~1250℃での気相反応によりTiO-Fe系で平均粒子径0.03μm~0.1μmの微粉末を得ている。しかしながら、この微粒子はTiOとFeTiOとαFeからなり、色調はFeの混入から赤みの強い顔料であるため、黄色顔料としては使用できるものではなかった。
このように従来技術では、黄色顔料で、耐熱性、透明性、及び耐久性に優れる微粒子顔料は、得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-73224号公報
【文献】特開平9-221323号公報
【文献】国際公開第2001/070632号
【非特許文献】
【0005】
【文献】陶山容子、加藤昭夫、色材、53,1035-1043(1980)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
環境問題の高まりから、有害金属を含まない顔料の開発が望まれ、無機黄色顔料ではFeTiO系シュードブルッカイト型の顔料が提案されてきている。これらは、耐熱性に優れ、耐久性にも優れていることから、塗料又はプラスチックへの着色に応用されてきている。一方、従来の顔料にはない有害金属を含まないこと、耐熱性、及び耐久性の良い点を生かして応用範囲を広げようとして、例えばインクジェットに応用しようとすると、その比重の大きいこと、又は粒子径の大きいこと等から、インクの安定性を持たせることが困難である。塗料では、メタリック塗料用又はクリアー塗料用に応用しようとすると、隠ぺい性が高く、透明性が劣ることから、メタリック感が得られない等の課題がある。また、ガラス又はフィルムへの着色では、透明感のある着色が望まれる場合では、粒子径が小さいとされるサブミクロンの粒子でも隠ぺい性が高く、透明感が得られない等の課題がある。
黄色顔料として、耐熱性、及び耐久性に優れたFeTi系シュードブルッカイト型顔料であるが、その応用範囲を広げようとすると上記のような課題がある。従来技術では、サブミクロンよりも微細な微粒子顔料は得られておらず、試みられても赤みの強いものでしかなく、黄色の顔料として上記のような課題を解決する発色の良好な微粒子の黄色顔料が強く求められている。
【0007】
本発明は、耐熱性、透明性、及び耐久性に優れる微粒子複合酸化物黄色顔料、並びに、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下に示す微粒子複合酸化物黄色顔料及びその製造方法が提供される。
[1] Fe、Al、及びTiから構成されるシュードブルッカイト型の微粒子複合酸化物黄色顔料の製造方法であって、
Alの金属塩とアルカリにて、水中でAlの沈殿を生成して、第一反応液を得る工程と、
前記第一反応液と、Fe及びTiの金属塩とアルカリにて、水中で顔料前駆体を生成して、第二反応液を得る工程と、
前記顔料前駆体を、濾過し、水洗し、乾燥した後、600℃以上900℃以下の温度で焼成して、微粒子複合酸化物黄色顔料を得る工程と、を備え、
前記微粒子複合酸化物黄色顔料の平均一次粒子径が80nm以下である、
微粒子複合酸化物黄色顔料の製造方法。
[2] 前記微粒子複合酸化物黄色顔料が、各構成金属をそれぞれの酸化物の構成単位に変換し、分割し、これらをFe、Al、及びTiOとしたとき、Feの割合が30質量%以上40質量%以下であり、Alの割合が20質量%以上30質量%以下であり、TiOの割合が35質量%以上45質量%以下である、請求項1に記載の微粒子複合酸化物黄色顔料の製造方法。
[3] Fe、Al、及びTiから構成されるシュードブルッカイト型の微粒子複合酸化物黄色顔料であって、
各構成金属をそれぞれの酸化物の構成単位に変換し、分割し、これらをFe、Al、及びTiOとしたとき、Feの割合が30質量%以上40質量%以下であり、Alの割合が20質量%以上30質量%以下であり、TiOの割合が35質量%以上45質量%以下であり、
前記微粒子複合酸化物黄色顔料の平均一次粒子径が80nm以下である、
微粒子複合酸化物黄色顔料。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、耐熱性、透明性、及び耐久性に優れる微粒子複合酸化物黄色顔料、並びに、その製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例2及び比較例5の黄色顔料のTEM画像を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<微粒子複合酸化物黄色顔料の製造方法>
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。本実施形態に係る微粒子複合酸化物黄色顔料の製造方法(以下、本実施形態に係る製造方法とも記す)は、Fe、Al、及びTiから構成されるシュードブルッカイト型の微粒子複合酸化物黄色顔料の製造方法である。
そして、本実施形態に係る製造方法は、Alの金属塩とアルカリにて、水中でAlの沈殿を生成して、第一反応液を得る工程(以下、第一工程とも記す)と、前記第一反応液と、Fe及びTiの金属塩とアルカリにて、水中で顔料前駆体を生成して、第二反応液を得る工程(以下、第二工程とも記す)と、前記顔料前駆体を、濾過し、水洗し、乾燥した後、600℃以上900℃以下の温度で焼成して、微粒子複合酸化物黄色顔料を得る工程(以下、第三工程とも記す)と、を備えている。また、得られる微粒子複合酸化物黄色顔料の平均一次粒子径が80nm以下であることが必要である。
【0012】
本実施形態に係る製造方法により、耐熱性、透明性、及び耐久性に優れる微粒子複合酸化物黄色顔料が得られる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。
すなわち、FeTiOのシュードブルッカイトは少し赤みのものであることから、本実施形態ではこれにAlが固溶したものが色相黄みで黄色顔料として良好なものとなるものと推察している。また、本実施形態においては、Alの固溶によっても耐熱性等の物性に問題がないことから、Fe、Al、及びTiの3成分系での微粒子顔料を作製している。顔料の合成では、一般に乾式法と呼ばれる原料粉末を混合し、これを焼成して顔料とする方法があるが、原料に微粒子の材料を用いたとしても焼成時には粒成長を起こし、透明感に優れるような微粒子を作製するには不適である。このことから、本実施形態においては、湿式法と呼ばれる水中にて、金属塩にアルカリを作用させて沈殿を生成し、これを濾過水洗、乾燥後焼成する方法にて作製することとしている。
【0013】
本実施形態において、合成方法は湿式法と呼ばれる金属塩にアルカリを作用させて沈殿を作製し、合成する手法を採るが、単に3成分の金属塩の混合溶液にアルカリを作用させて沈殿を生成させてもこの条件では赤みの強い顔料しか得られず、目的とする発色の良好な黄色の微粒子顔料を得られないことが判明した。さらに、AlとTiの沈殿を作製した後、Feの沈殿を作製しても同様であり、AlとFeの沈殿を作製した後Tiの沈殿を生成しても同様の傾向であった。本発明者らによる鋭意検討の結果、FeとTiが反応性の良い状態で、ナノ領域で混合状態にある沈殿生成が必要であり、Fe及びTiの結晶化とともに、これにAlが固溶していく状態とすることが、微粒子でありながら黄色の発色の良い顔料となる条件であることから、Alの沈殿と、Fe及びTiの沈殿は別々に作製する必要があることを見出した。なお、この系統の顔料では、赤みの強い顔料が得られやすい傾向にあるが、黄色の発色の良い微粒子顔料は特定の合成条件でしか得られず、これがこれまで微粒子黄色顔料が提案されてこなかった原因ではないかと、本発明者らは推察する。
以上のことから、本実施形態に係る製造方法で得られる微粒子複合酸化物黄色顔料は、耐熱性、透明性、及び耐久性に優れているものと本発明者らは推察している。
【0014】
(第一工程)
第一工程においては、Alの金属塩とアルカリにて、水中でAlの沈殿を生成して、第一反応液を得る。
本実施形態で使用するAlの金属塩としては、硫酸塩、塩化物、及び硝酸塩が利用できる。これらの中でも、入手の容易さ等から、塩化物及び硫酸塩のうちの少なくとも1つが好ましい。
本実施形態で使用するアルカリとしては、苛性ソーダ及びソーダ灰が利用できる。これらの中でも、分散性の観点から、ソーダ灰が好ましい。
【0015】
第一工程の一例をあげてみると、塩化アルミニウムの溶液とソーダ灰の溶液をpH4に調整しながら水中に添加し、Alの沈殿を生成して、第一反応液を得る。
このときの温度としては、25℃以上50℃以下であることが好ましく、35℃以上45℃以下であることがより好ましい。
【0016】
(第二工程)
第二工程においては、第一工程で得られた第一反応液と、Fe及びTiの金属塩とアルカリにて、水中で顔料前駆体を生成して、第二反応液を得る。
本実施形態で使用するFe及びTiの金属塩としては、前述したAlの金属塩と同様である。また、本実施形態で使用するアルカリについても、前述したアルカリと同様である。
【0017】
第二工程の一例をあげてみると、まず、第一工程で得られた第一反応液に、アルカリを添加しながら、温度を上げ、pHを調整する。このときの温度としては、45℃以上75℃以下であることが好ましく、55℃以上65℃以下であることがより好ましい。また、調整後のpHは、5以上7以下であることが好ましく、5.5以上6.5以下であることがより好ましい。
次に、この反応液に、四塩化チタンと硫酸鉄とを混合した溶液とソーダ灰の溶液をpH6に維持しながら、添加し、FeとTiの沈殿を生成し、顔料前駆体を生成して、第二反応液を得る。
【0018】
本発明の特徴の一つは、前述の第一工程及び第二工程という2段階での沈殿生成を行うことにある。なお、2段階での沈殿生成が実施されたとしても、もしこの中でアルミニウムの溶液にチタンの溶液を入れて混合溶液とし、第一段の沈殿を生成した後、鉄の沈殿を第2段階で生成させて合成した場合は、赤みの色相となり、微粒子で、黄色の発色の良い顔料は得られてこない。ただし、焼成温度を上げる等の焼成を進ませて反応させれば、色相的には黄みになってくるが、粒子径は大きくなってしまう。サブミクロンもしくはそれ以上の大きさの顔料を作製する場合には、2段階の沈殿生成でなくても顔料の作製は可能であるが、透明感のある顔料の作製は困難となる。特許文献1でも、一部の成分をアルカリで沈殿を生成させ、これを焼成して顔料を得る手法が述べられているが、Tiの加水分解物を利用し、その他成分の沈殿生成により顔料を作製する方法であり、Tiの加水分解生成物がある程度の大きさを持っている。そのため、これを焼成して発色の良い顔料としてもせいぜいサブミクロンの粒子となってしまう。微粒子かつ黄色の発色の良い顔料を得るためには、単なる沈殿反応を利用することだけでは不十分であり、本発明の意義もここにある。
【0019】
(第三工程)
第三工程においては、第二工程で得られた顔料前駆体を、濾過し、水洗し、乾燥した後、600℃以上900℃以下の温度で焼成して、微粒子複合酸化物黄色顔料を得る。
焼成は、酸化雰囲気である空気中でよく、特別の雰囲気調整をする必要はない。焼成温度については、シュードブルッカイト型の結晶が得られる温度にあればよく、本実施形態において、焼成温度は、600℃以上900℃以下である。
本実施形態においては、各金属成分の混合状態がナノの領域で均一であるため、焼成温度も通常のサブミクロンで適用される温度である800℃から1200℃より低い温度で、シュードブルッカイト型の結晶が得られてくる。本実施形態においては、色相、及び透明性等の観点から、焼成温度は、700℃以上850℃以下であることが好ましい。この焼成温度は、従来のこの系統の顔料の焼成温度より、100℃以上低い温度であり、ここからも沈殿物中の各金属の均一性が高いことが示唆される。
【0020】
本実施形態に係る製造方法で得られる微粒子複合酸化物黄色顔料の平均一次粒子径は、80nm以下であることが必要であり、60nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。一次粒子径が80nmを超えてしまうと、満足する透明性は得られない。下限については特に制限はないが、10nm未満だと、顔料の凝結性が高く、樹脂組成物又は溶媒に分散させる際に多大な分散エネルギーを必要とするため、現実的でない。
【0021】
本実施形態に係る製造方法で得られる微粒子複合酸化物黄色顔料は、各構成金属をそれぞれの酸化物の構成単位に変換し、分割し、これらをFe、Al、及びTiOとしたとき、Feの割合が30質量%以上40質量%以下であり、Alの割合が20質量%以上30質量%以下であり、TiOの割合が35質量%以上45質量%以下であることが好ましい。Fe、Al、及びTiOの割合がそれぞれ前記範囲内であれば、発色の良い黄色が得られやすい傾向にある。
【0022】
<微粒子複合酸化物黄色顔料>
本実施形態に係る微粒子複合酸化物黄色顔料は、Fe、Al、及びTiから構成されるシュードブルッカイト型の微粒子複合酸化物黄色顔料である。
そして、この微粒子複合酸化物黄色顔料は、各構成金属をそれぞれの酸化物の構成単位に変換し、分割し、これらをFe、Al、及びTiOとしたとき、Feの割合が30質量%以上40質量%以下であり、Alの割合が20質量%以上30質量%以下であり、TiOの割合が35質量%以上45質量%以下である。また、この微粒子複合酸化物黄色顔料の平均一次粒子径が80nm以下であることが必要である。
【0023】
本実施形態に係る微粒子複合酸化物黄色顔料が、色相が好ましい黄色顔料であって、耐熱性、透明性、及び耐久性に優れる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。
すなわち、本実施形態における酸化物組成としては、FeTiOのシュードブルッカイト型にAlが固溶した(Fe,Al)TiOが基本である。この中でFeが多くAlが少ないと色相赤みであり、透明性は落ちてくる。Feが少なく、Alが多いと、色相は黄みになり、透明性もあがってくるが、色の強さとしての着色力は下がってきてしまう。また、酸化チタンが多い組成では、透明性が落ちてくる傾向にある。特に色相的にはヘマタイト(Fe)ができてしまうと、赤みの色相になり、発色の良い黄色は得られない。本実施形態においては、Fe、Al、及びTiOの割合がそれぞれ前記範囲内であるときが、色相、及び透明性で優れていることを見出している。なお、耐熱性、及び耐久性に優れる理由は、前述のとおりである。
以上のことから、本実施形態に係る微粒子複合酸化物黄色顔料は、色相が好ましい黄色顔料であって、耐熱性、透明性、及び耐久性に優れるものと本発明者らは推察している。
【0024】
本実施形態に係る微粒子複合酸化物黄色顔料は、金属組成からの影響もあるが、顔料の合成条件からくる影響も大きく、組成、合成条件、及び焼成温度を適切に調整することが、目的の顔料を得るためには重要な要素となる。この系統の顔料はどちらかと言えば条件が整わないと赤みの顔料が得られやすい傾向にある。
顔料の合成法として、湿式法を用いれば、粒子の小さな顔料を作製できるが、前述の本実施形態に係る製造方法のような2段階での合成を行わないと、どうしても赤みの顔料になってしまい、黄みにもっていこうとして焼成温度を上げると、色相は整えられてくるが、透明性の点では劣るものとなってしまう。
【0025】
本実施形態に係る微粒子複合酸化物黄色顔料は、黄色の微粒子でエンジニアリングプラスチック(300℃以上の耐熱性)又はセラミック着色に使用できる耐熱性を持つ。また、この黄色顔料は、塗料としてはメタリック、又はカラークリヤー等の透明性が必要な用途に使用できる特徴を持ち、長期の耐候性を持つ耐久性のある顔料である。このような黄色顔料は、有機、又は無機を含めてほとんどないのが現状である。さらに、この黄色顔料は、Fe、Ti、及びAlからなる顔料で、有害金属を含まないのも利点となる。
【実施例
【0026】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0027】
金属塩については、以下に示す材料を使用した。
(鉄塩)
A1:硫酸第一鉄7水塩の結晶
A2:塩化第二鉄6水塩の結晶
(アルミニウム塩)
B1:塩化アルミニウム6水塩の結晶
B2:硫酸アルミニウム16水塩の結晶
(チタン塩)
C1:四塩化チタン水溶液(Tiとして16.2%含有)
C2:硫酸チタニル結晶(TiOとして33%含有)
【0028】
<実施例1>
塩化アルミニウム94.7gを200mLの水に溶解し、初段の合成用の金属塩水溶液を調整する。ソーダ灰230gを1000mLの水に溶解し、アルカリ水溶液を調整する。塩化アルミニウムとは別の容器に硫酸鉄139.3gと四塩化チタン溶液148.0gを水400mLにあらかじめ溶解しておく。ビーカーに1500mLの水を投入し、攪拌しながら温度を40℃に昇温する。ここに塩化アルミニウムの水溶液とソーダ灰の溶液を滴下しpH4で沈殿の生成を行う(第一段階の合成)。アルミニウムの溶液を滴下し終わったら、温度を60℃まで昇温する。同時にこの時ソーダ灰を滴下し、pHを6に上げておく。
温度が60℃に到達したら、あらかじめ溶解しておいた硫酸鉄と四塩化チタンの混合溶液とソーダ灰を滴下し、pH6で沈殿の生成を行う(第二段階の合成)。金属塩の溶液を滴下し終わったら、pHを6.5まで上げ、温度を70℃まで昇温し、その後1時間熟成を行う。熟成まで終わったスラリーはデカンテーションにより残余の塩を洗い流し、その後濾過して乾燥機で乾燥する。乾燥した顔料前駆体をるつぼに入れ、電気炉にて800℃1時間の焼成を行った。焼成後は粉砕機により粉砕し、黄色顔料を得た。
<実施例2~7>
表1に示す種類の原料を、表1に示す金属の組成比率となるように配合した以外は、実施例1と同様にして、黄色顔料を作製した。
【0029】
<比較例1>
Alの金属塩にTiの金属塩を溶解し、第一段階の合成を行い、その後Feの沈殿を第二段階で合成した以外は、実施例2と同様にして、黄色顔料を作製した。
<比較例2>
Alの金属塩にFeの金属塩を溶解し、第一段階の合成を行い、その後Tiの沈殿を第二段階で合成した以外は、実施例と同様にして、黄色顔料を作製した。
<比較例3>
Al、Fe、及びTiの金属塩を同一溶液中に溶解し、第一段階だけで合成を行った以外は、実施例と同様にして、黄色顔料を作製した。
<比較例4>
合成した顔料前駆体を950℃で焼成した以外は、実施例2と同様にして、黄色顔料を作製した。
<比較例5>
市販品である、同様なFe、Al、及びTiの金属を含むシュードブルッカイト型黄色顔料を用いた。
【0030】
得られた顔料は、以下のような方法で評価した。
<平均一次粒子径及びTEM画像>
一般的には水等の溶媒に顔料を分散させた溶液を動的散乱式の粒度分布測定装置を用いて測定されるが、本発明の顔料は微粒子であり、一次粒子までの分散は難しさがある。そのため、ここでは透過電子顕微鏡画像(TEM画像)から算出することとした。詳細には、作製した顔料の粉体を透過電子顕微鏡で撮影し、画像解析ソフト(Mac-View 株式会社マウンテック社製)を用いて無作為に選択した50個の粒子から平均一次粒子径を算出した。得られた結果は、表1に示す。
なお、実施例2及び比較例5の黄色顔料のTEM画像を、図1に示す。
<色相及び透明性>
評価用の顔料は、塗料化してその色相、及び透明性を評価した。塗料は、メラミンアルキッドの焼き付け塗料を作製し、顔料分はPHR(樹脂100質量部に対する添加物の割合)が20の塗料とした。この時の分散メディアは、1mmφのジルコニアビーズを使用し、分散はペイントシェーカーにて2時間分散して、黒帯付きのアート紙に展色し、120℃の温度で焼き付けを行い、評価用サンプルを作製し、その色相、及び透明性を目視にて判定した。判定は、以下の基準で行った。得られた結果は、表1に示す。
なお、顔料分及び膜厚により、色相は異なって見える。また、透明性は、アート紙の黒帯の部分で下地の黒みがよく見え、白っぽさがないことがより透明感があると評価するが、数値上で判定をすることには難しさがあるため、目視での判定とした。
(色相)
◎:黄み発色に優れている。
〇:黄みであるが、若干赤みの色相になっている。
△:赤みの黄色の色相になっている。
×:まったくの赤みの色相である。
(透明性)
◎:透明性に優れている。
〇:透明性はあるが若干透明性に劣る。
△:やや透明性に劣る。
×:隠ぺい性が出てきて、透明性に劣る。
<色相測定>
色相及び透明性と同様の評価用サンプルを作製し、分光測色計(CM-3600A コニカミノルタ(株)製)にて測色した。なお、測色は、実施例2、比較例1、比較例2、及び比較例4で得られた顔料について行った。得られた結果を表2に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
表1に示す結果から、本発明に係る黄色顔料(実施例1~7)は、色相及び透明性の評価結果が良好であることが分かった。また、表2に示す結果から、本発明に係る黄色顔料(実施例2)は、黒帯部分の明度L*が低く、透明感があること、並びに、白帯部分の彩度a*が低く、赤みの弱い黄色であることが分かった。さらに、本発明に係る黄色顔料(実施例1~7)は、微粒子複合酸化物であるので、耐熱性及び耐久性に優れている。
これらのことから、本発明に係る黄色顔料(実施例1~7)は、耐熱性、透明性、及び耐久性に優れていることが確認された。
【要約】
【課題】耐熱性、透明性、及び耐久性に優れる微粒子複合酸化物黄色顔料の製造方法を提供すること。
【解決手段】Fe、Al、及びTiから構成されるシュードブルッカイト型の微粒子複合酸化物黄色顔料の製造方法であって、Alの金属塩とアルカリにて、水中でAlの沈殿を生成して、第一反応液を得る工程と、前記第一反応液と、Fe及びTiの金属塩とアルカリにて、水中で顔料前駆体を生成して、第二反応液を得る工程と、前記顔料前駆体を、濾過し、水洗し、乾燥した後、600℃以上900℃以下の温度で焼成して、微粒子複合酸化物黄色顔料を得る工程と、を備え、前記微粒子複合酸化物黄色顔料の平均一次粒子径が80nm以下である、微粒子複合酸化物黄色顔料の製造方法。
【選択図】なし
図1