(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】耐窒化性にすぐれる耐熱合金
(51)【国際特許分類】
C22C 30/00 20060101AFI20241112BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20241112BHJP
C22C 27/06 20060101ALI20241112BHJP
C01B 3/04 20060101ALI20241112BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20241112BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C22C30/00
C22C19/05 Z
C22C27/06
C01B3/04 B
C22C38/00 302Z
C22C38/58
(21)【出願番号】P 2024075573
(22)【出願日】2024-05-08
【審査請求日】2024-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2023077778
(32)【優先日】2023-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】弁理士法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 優
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 拓也
(72)【発明者】
【氏名】橋本 国秀
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-500910(JP,A)
【文献】特開平03-236448(JP,A)
【文献】特開2016-113673(JP,A)
【文献】特表2006-505694(JP,A)
【文献】特開平05-239599(JP,A)
【文献】特開平10-183282(JP,A)
【文献】特公昭50-008005(JP,B1)
【文献】特公昭50-008004(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 30/00
C22C 19/05
C22C 27/06
C22C 38/00-38/60
C01B 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%にて、
C:0.2%~0.6%、
Si:0%を超えて2.5%以下、
Mn:0%を超えて2.0%以下、
P:0.03%以下、
S:0.03%以下、
Ni:33.0%~50.0%、
Cr:24.0%~50.0%、
残部Fe及び不純物からなり、
選択的に、Nb:0%を越えて1.8%以下、
選択的に、希土類元素:0%を越えて0.5%以下、
選択的に、Ti:0%を越えて0.5%以下及び/又はZr:0%を越えて0.5%以下、
選択的に、W:0%を超えて2.0%以下及び/又はMo:0%を超えて0.5%以下、を含む、
耐窒化性にすぐれる耐熱合金
から形成される、
アンモニアガス熱分解装置用の分解管。
【請求項2】
前記耐熱合金は、
C:0.45%~0.55%、
Si:0%を越えて1.5%以下、
Ni:33.0%~50.0%、
Cr:24.0%~27.0%
Nb:0%を越えて1.0%である、
請求項1に記載の
アンモニアガス熱分解装置用の分解管。
【請求項3】
前記耐熱合金は、
C:0.4%~0.6%、
Si:0%を越えて2.0%以下、
Ni:40.0%~50.0%、
Cr:24.0%~38.0%、
Nb:0.5%~1.8%である、
請求項1に記載の
アンモニアガス熱分解装置用の分解管。
【請求項4】
前記耐熱合金は、
C:0.2%~0.5%、
Ni:40.0%~50.0%、
Cr:30.0%~50.0%であり、
選択的に、Ti:0%を越えて0.4%以下である、
請求項1に記載の
アンモニアガス熱分解装置用の分解管。
【請求項5】
前記耐熱合金は、
クリープ破断強度は、900℃・1000時間で20MPa以上である、
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の
アンモニアガス熱分解装置用の分解管。
【請求項6】
前記耐熱合金は、
窒素拡散の活性化エネルギーが、35kJ/mol以上である、
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の
アンモニアガス熱分解装置用の分解管。
【請求項7】
前記耐熱合金の遠心力鋳造体である、
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の
アンモニアガス熱分解装置用の分解管。
【請求項8】
500℃以上の高温雰囲気で使用される、
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の
アンモニアガス熱分解装置用の分解管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐窒化性にすぐれる耐熱合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンニュートラルの実現に向けて脱炭素が求められている。二酸化炭素を発生しない次世代エネルギーとして水素ガスの活用が注目されている。しかしながら、水素ガスは安全かつ効率的に貯蔵・輸送することに課題がある。
【0003】
そこで、アンモニアに期待が寄せられている。アンモニアは、水素密度の高い水素キャリアであり、液化して輸送・貯蔵することが容易であり、海外からも安定的に輸入できる。このアンモニアは、分解しなくても燃焼するため、燃料として使用可能ではあるが、アンモニアを熱分解して得られる水素ガスは、水素発電タービンや燃料電池、水素還元製鉄など利用する技術が多い。このため、アンモニアを熱分解して水素を製造することは非常に有用である。
【0004】
特許文献1では、触媒を利用したアンモニアガス熱分解装置を開示している。このアンモニアガス熱分解装置では、予め300℃~700℃程度に加熱されたアンモニアガスを、触媒を内装する反応器に導入することで、アンモニアガスを水素ガスと窒素ガスに熱分解している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アンモニアガスは、熱分解により生ずる窒素原子が、分解管を形成する合金中へ拡散し、合金を窒化させる。このため、分解管を構成する耐熱合金には耐窒化性が求められる。一般的に、Al、Cr、Mo、Tiは、窒素と結びついて窒化物を形成し易い元素、Niは含有量が多いほど窒化し難くなる。
【0007】
たとえば、金属のガス窒化を行なう窒化設備(ガス窒化炉)では、Niの含有量が多いステンレス鋼やNi基合金が炉材として使用されている。
【0008】
アンモニア分解による水素製造プロセスは、高圧プロセスであることが望ましい。これは、大量生産設備の体積の低減や、発電用途などの後流プロセスへの供給のために有利であるためである。ここで言う高圧とは、1.0MPa程度より高い圧力であり、より高圧であるほど望ましい。しかしながら、高圧での操業を行なうには、分解管に高温クリープ破断強度が求められる。
【0009】
本発明の目的は、耐窒化性、高温クリープ破断強度にすぐれる耐熱合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の耐熱合金は、
質量%にて、
C:0.2%~0.6%、
Si:0%を超えて2.5%以下、
Mn:0%を超えて2.0%以下、
P:0.03%以下、
S:0.03%以下、
Ni:33.0%~50.0%、
Cr:24.0%~50.0%、
残部Fe及び不純物からなり、
選択的に、Nb:0%を越えて1.8%以下、
選択的に、希土類元素:0%を越えて0.5%以下、
選択的に、Ti:0%を越えて0.5%以下及び/又はZr:0%を越えて0.5%以下、
選択的に、W:0%を超えて2.0%以下及び/又はMo:0%を超えて0.5%以下、を含む。
【0011】
上記耐熱合金は、
C:0.45%~0.55%、
Si:0%を越えて1.5%以下、
Ni:33.0%~50.0%、
Cr:24.0%~27.0%
Nb:0%を越えて1.0%である、
ことが好適である。
【0012】
上記耐熱合金は、
C:0.4%~0.6%、
Si:0%を越えて2.0%以下、
Ni:40.0%~50.0%、
Cr:24.0%~38.0%、
Nb:0.5%~1.8%である、
ことが好適である。
【0013】
上記耐熱合金は、
C:0.2%~0.5%、
Ni:40.0%~50.0%、
Cr:30.0%~50.0%であり、
選択的に、Ti:0%を越えて0.4%以下である、
ことが好適である。
【0014】
上記耐熱合金のクリープ破断強度は、900℃・1000時間で20MPa以上であることが望ましい。
【0015】
上記耐熱合金の窒素拡散の活性化エネルギーが、35kJ/mol以上であることが望ましい。
【0016】
上記耐熱合金は、遠心力鋳造体であることが好適である。
【0017】
上記耐熱合金は、500℃以上の高温雰囲気で使用することが好適である。
【0018】
本発明のアンモニアガス熱分解装置用の分解管は、
上記記載の耐熱合金から形成することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る耐熱合金は、耐窒化性にすぐれ、また、高温クリープ破断強度にすぐれる。従って、500℃以上の高温で使用されるアンモニアガス熱分解装置の分解管に好適である。分解管は、とくに、高圧プロセスで使用されるアンモニアガス熱分解装置への適用が好適であり、大量生産設備による体積の低減や発電用途などの後流プロセスへの供給に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、比較例1の試験片の組織断面写真である。
【
図2】
図2は、第1実施例の試験片のクリープ破断強度と窒化層の厚さをプロットしたグラフである。
【
図3】
図3は、第2実施例の試験片のクリープ破断強度と活性化エネルギーをプロットしたグラフである。
【
図4】
図4は、発明例1と比較例1の試験片のEPMA画像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、特に明記しない限り、「%」は質量%を意味する。
【0022】
本発明の耐窒化性にすぐれる耐熱合金は、たとえば、アンモニアガス熱分解装置の分解管として使用される。分解管は、内部に原料となるアンモニアガスが流通し、無触媒環境下にて、外部から500℃~1000℃に加熱され、
2NH3 → N2 + 3H2
で示される熱分解が行なわれて、窒素ガスと水素ガスが製造される。
【0023】
本発明の耐窒化性にすぐれる耐熱合金は、
質量%にて、
C:0.2%~0.6%、
Si:0%を超えて2.5%以下、
Mn:0%を超えて2.0%以下、
P:0.03%以下、
S:0.03%以下、
Ni:33.0%~50.0%、
Cr:24.0%~50.0%、
残部Fe及び不純物からなる。
【0024】
以下、成分限定理由について説明する。
【0025】
C:0.2%~0.6%
Cは、鋳造性を良好にし、高温クリープ破断強度を高める作用がある。また、Cr、或いは、選択元素のTi、Nb等と結合して炭化物を形成し、高温強度を高める効果がある。このため、少なくとも0.2%を含有させる。しかし、含有量があまり多くなると、Cr7C3の一次炭化物が幅広く形成され易くなり、また、熱処理で二次炭化物が過剰に析出するため、延性、靱性の低下を招く。このため、上限は0.6%とする。なお、Cの含有量の下限は0.20%、0.25%が好適であり、0.30%がより望ましい。Cの含有量の上限は0.60%、0.55%が好適であり、0.50%がより望ましい。
【0026】
Si:0%を超えて2.5%以下
Siは、溶湯合金の脱酸剤として、また溶湯合金の流動性を高め、耐酸化性を向上させるために含有させる。しかしながら、過度のSiの添加は、延性の低下、高温クリープ破断強度の低下、鋳造後の表面品質の悪化、溶接性の低下を招く。このため、Siの含有量は、上限を2.5%とする。なお、Siの含有量は2.0%が好適であり、1.7%がより望ましい。
【0027】
Mn:0%を超えて2.0%以下
Mnは、溶湯合金の脱酸剤となり、また、溶湯中のSを固定させて、溶接性を向上させると共に、延性を向上させるために含有させる。しかしながら、過度のMnの添加は、高温クリープ破断強度の低下を招き、耐酸化性を低下させるため、上限を2.0%とする。なお、Mnの含有量は1.5%以下がより望ましい。
【0028】
P:0.03%以下、S:0.03%以下
P、Sは、溶製上不可避的に混入する不純物であり、0.03%以下の混入は許容される。これら不純物の混入量は少ない方が好適であり、ゼロであっても構わない。
【0029】
Ni:33.0%~50.0%
Niは、耐窒化性にすぐれるため、また、繰返し耐酸化性及び金属組織の安定性の確保、高温クリープ強度の確保、及び、耐熱合金のオーステナイト化の安定化に必要な元素である。また、Cr、或いは、選択的に添加されるW、Ti、Zrとの複合添加により、高温強度、耐酸化性の向上に寄与する。また、耐窒化性の向上にも寄与する元素として知られる。それは、Ni中には窒素がほとんど固溶せず、材料中の窒素の拡散を阻害する効果が期待される。このため、少なくとも33.0%以上含有させる。一方、過度にNiを添加しても、その効果は飽和し、また、経済的にも不利であるため、その上限を50.0%とする。なお、Niの含有量の下限は37.0%が好適であり、40.0%がより望ましい。
【0030】
Cr:24.0%~50.0%
Crは、高温強度及び繰返し耐酸化性の向上に寄与する。また、Crは、Ni、Feと共に1000℃を超えるような高温域ですぐれた耐熱性を発揮する。さらに、Crは、Cと結合して炭化物を形成し、高温強度を高める効果があるほか、窒化に対しては、微細な窒化物を形成することで窒素原子をピン止めし、窒素拡散による窒化層の成長を抑制する効果があると期待される。従って、少なくとも24.0%以上含有させる。しかしながら、Crは、Nと結びつき易い元素であり、Cr炭化物(Cr23C6)中のCとNが置換され、合金を窒化させる。また、Cr炭化物やCr窒化物の過剰な生成は延性低下を招くため、含有量は少ない方が好ましく、その上限は50.0%とする。なお、Crの含有量の下限は24.0%、Crの含有量の上限は50.0%、46.0%が好適であり、43.0%がより望ましい。
【0031】
残部Fe及び不純物
残部はFe及び不純物である。不純物は、溶製上不可避的に混入する不純物を含む。Feは材料中の窒素の侵入と拡散を促進する元素であり、耐窒化性に対しては少ないほど望ましい。残部となるものの、Feは、40.0%以下であることが望ましい。
【0032】
上記構成の耐熱合金には、下記元素を選択的に含有することができる。
【0033】
Nb:0%を越えて1.8%以下
Nbは、炭化物を形成し易い元素であり、クリープ破断強度の向上、高温引張強度の向上に寄与する。また、Nbは、時効延性の向上にも寄与する。耐窒化性に対してはCrと同様に、窒化物を形成することで窒素原子をピン止めし、窒素拡散による窒化層の成長を抑制する効果があると期待される。従って、Nbを選択的に含有することが好適である。Nbの下限は0.3%が好適である。一方で、Nbの過度の添加は、延性を招くため、上限は1.8%以下、望ましくは1.5%以下とする。
【0034】
希土類元素(REM):0%を越えて0.5%以下
REMは、周期律表のLaからLuに至る15種類のランタン系列に、Y、Hf及びScを加えた18種類の元素を意味する。耐熱合金に含有させるREMは、Ce、La、Ndが主体とすることができ、これら3元素が合計量で希土類元素全体の約80%以上を占めることが好ましく、より好ましくは約90%以上である。REMは、母材に固溶して耐酸化性の向上に寄与するため選択的に含有することが望ましい。これらの効果を発揮するために、REMを添加する場合には、その上限を0.5%として適量含有させることが好適である。
【0035】
Ti:0%を越えて0.5%以下及び/又はZr:0%を越えて0.5%以下
Ti及びZrは、耐酸化性向上や高温圧縮クリープ強度を高めるために選択的に一方又は両方を添加する。Tiは、炭化物を形成し易い元素であり、高温引張り強度の向上にも寄与する。耐窒化性に対してはCrと同様に、窒化物を形成することで窒素原子をピン止めし、窒素拡散による窒化層の成長を抑制する効果があると期待される。Zrは、脱窒効果も有する。これらの効果を得るために、Ti、Zrを選択的に添加することができる。一方、Tiは、Nと結びつき易い元素でもあり、また、合金の湯流れ性の低下に伴う鋳造性の悪化を招き、また、機械加工が困難になる虞があるため、添加する場合には、その上限を0.5%、望ましくは0.3%とする。Zrは、熱間塑性加工性(たとえば曲げ加工)を低下させるため、添加する場合には、その上限を0.5%、望ましくは0.4%とする。
【0036】
W:0%を超えて2.0%以下及び/又はMo:0%を超えて0.5%以下
W、Moは、母材に固溶し、母材のオーステナイト相を強化しクリープ破断強度を向上させる同等の特性を有する元素であり、何れか一方又は両方を選択的に含有することができる。しかしながら、W、Moの過度の含有は延性や耐浸炭性の低下を招く。また、W、Moの過度の含有は、母材の耐酸化性の低下を招き、Moは、当量的にWに比して2倍の作用を発揮する。従って、Wを添加する場合の上限は2.0%、Moを添加する場合の上限は0.5%とする。Wの上限は1.8%がより望ましく、Moの上限は0.4%がより望ましい。
【0037】
Ta:0%~0.5%
Taは、Ni基合金中に含まれる不可避的不純物のCと炭化物を形成し、Ni基合金内の結晶粒を微細化させることによりNi基合金の高温強度を向上させ、また、耐食性を向上させるために選択的に含有させることができる。但し、過度の含有は、Ni基合金の加工性の阻害、強度低下などを招くことがある。従って、Taを添加する場合、その含有量は、上限を0.5%とし、0.3がより望ましい。
【0038】
具体的実施形態として、本発明の耐熱合金は、
C:0.45%~0.55%、
Si:0%を超えて1.5%以下、
Mn:0%を超えて2.0%以下、
P:0.03%以下、
S:0.03%以下、
Ni:33.0%~50.0%、
Cr:24.0%~27.0%、
Nb:0%を越えて1.0%以下、
残部Fe及び不純物からなり、
選択的に、希土類元素:0%を越えて0.5%以下、
選択的に、Ti:0%を越えて0.5%以下、
選択的に、W:0%を超えて1.0%以下及び/又はMo:0%を超えて0.5%以下、を含む。
【0039】
具体的実施形態として、本発明の耐熱合金は、
C:0.4%~0.6%、
Si:0%を超えて2.0%以下、
Mn:0%を超えて2.0%以下、
P:0.03%以下、
S:0.03%以下、
Ni:40.0%~50.0%、
Cr:24.0%~38.0%、
Nb:0.5%~1.8%以下、
残部Fe及び不純物からなり、
選択的に、希土類元素:0%を越えて0.5%以下、
選択的に、Ti:0%を越えて0.5%以下、
選択的に、W:0%を超えて1.0%以下及び/又はMo:0%を超えて0.5%以下、を含む。
【0040】
具体的実施形態として、本発明の耐熱合金は、
C:0.2%~0.5%、
Si:0%を超えて2.5%以下、
Mn:0%を超えて2.0%以下、
P:0.03%以下、
S:0.03%以下、
Ni:40.0%~50.0%、
Cr:30.0%~50.0%、
残部Fe及び不純物からなり、
選択的に、Nb:0%を越えて1.8%以下、
選択的に、希土類元素:0%を越えて0.5%以下、
選択的に、Ti:0%を越えて0.5%以下、
選択的に、W:0%を超えて1.0%以下及び/又はMo:0%を超えて0.5%以下、を含む。
【0041】
本発明の耐熱合金は、耐窒化性にすぐれる。これは、合金中に窒化し難いNiを多く含有し、安定したオーステナイト相を形成しているためである。および、窒素原子と結合して窒素加工物を生成しやすい元素を多く含まないためである。耐窒化性は、たとえば実施例に示す窒化環境下で鋳造体に形成される窒化層の厚さで判断することができる。
【0042】
また、本発明の耐熱合金は、上記記載の元素を含んでいることで、窒素拡散に対する活性化エネルギーが高く、耐窒化性にすぐれる。これにより、窒化環境下鋳造体に侵入する窒素を低減でき、窒化層の厚肉化を防止できる。窒素拡散に対する活性化エネルギーは、35kJ/mol以上であることが好適であり、38kJ/mol以上、さらに40kJ/mol以上であることがより望ましい。窒素拡散に対する活性化エネルギーは高い方が好ましいが、第2実施例を参照すると、上限は100kJ/mol、好ましくは80kJ/molである。
【0043】
なお、窒素拡散の活性化エネルギーの導出方法は次のとおりである。耐熱合金を温度の異なる窒化雰囲気に暴露させて、拡散における放物線則に従って、各温度における拡散係数Dを導出する。次に、温度の逆数と拡散係数Dの自然対数からアレニウスプロットを作成する。そして、アレニウスプロットの傾きから当該耐熱合金の活性化エネルギーを導出した。なお、拡散係数Dの導出は、600℃~950℃の範囲で複数点のデータをとることで実施した。
【0044】
本発明の耐熱合金は、クリープ破断強度、とくに高温クリープ破断強度にすぐれる。これは、C、Ni、また、選択的にNb、Tiを含有するためである。クリープ破断強度は、アンモニアガス熱分解装置の分解管として使用する場合には、試験温度900℃において応力20MPaで破断時間が1000時間以上であることが好適であり、試験温度900℃において応力25MPaで破断時間が1000時間以上であることが望ましく、試験温度900℃において応力30MPaで破断時間が1000時間以上であることが望ましい。
【0045】
本発明の耐熱合金は、鋳造性にもすぐれる。これは、NiやCrなどの合金元素含有量を最適化し、湯流れ性を考慮した成分設計のためである。本発明の耐熱合金からなる鋳造体は、上記組成範囲となるように成分元素を配合し、遠心力鋳造や静置鋳造などの鋳造法により作製できる。
【0046】
本発明の耐熱合金は、上記のとおり、耐窒化性、高温クリープ破断強度にもすぐれ、また、鋳造性にもすぐれるから、たとえば500℃以上の高温雰囲気下、高圧のアンモニアガスが供給される窒化環境で使用されるアンモニアガス熱分解装置の分解管への適用が好適である。その中でも、本発明の耐熱合金からなある分解管は、高圧プロセスで使用されるアンモニアガス熱分解装置への適用が好適であり、大量生産設備による体積の低減や発電用途などの後流プロセスへの供給に有利である。
【実施例】
【0047】
<<第1実施例>>
遠心力鋳造により表1に掲げる発明例1~発明例3と比較例1~比較例3の合金組成(単位:質量%、残部Fe及び不純物)の分解管をそれぞれ作製し、鋳造性を確認した。比較例1はSUS310S、比較例2はインコネル625(登録商標)、比較例3はハステロイC276(登録商標)である。
【0048】
【0049】
得られた各分解管から試験片を切り出して、クリープ破断試験とアンモニア暴露試験を実施した。試験の詳細を下記すると共に、結果を表2に示す。
【0050】
【0051】
本発明の耐熱合金は、鋳造性を最適化するために炭素やケイ素をやや多めに添加しており、比較例として挙げた材料と比較しても鋳造性に優れている。遠心力鋳造法で製造されるにあたっては、鋳造性に優れること、即ち湯流れ性がよいことが望ましく、本発明の耐熱合金は理にかなっていると言える。なお、鋳造性の評価は第2実施例で行なっている。
【0052】
また、本発明の耐熱合金は、耐高温酸化性能に優れている。耐高温酸化性能に寄与する元素として、NiやCrが挙げられる。Niはそれ自身が耐高温酸化性能の高い元素である。Crは表面にクロム酸化被膜が生成されることで表面を保護し、材料の酸化を抑制する効果がある。
【0053】
本発明の耐熱合金においては、Ni、Crとも同量程度で構成されていることから、優れた耐高温酸化性能を有していながらも、高いクリープ破断強度など他の性能も併せ持つことが可能である。
【0054】
<クリープ破断強度試験>
試験片に対して、温度900℃、1000時間におけるクリープ破断強度をJIS Z 2271に準拠して測定した。結果を表2に示す。なお、比較例2は927℃の値である。
【0055】
クリープ破断強度は、20MPa以上が好適であり、25MPa以上が望ましく、30MPa以上であることがより望ましい。表2を参照すると、発明例は何れもクリープ破断強度が30MPa以上であり、十分なクリープ破断強度を具備していることがわかる。一方、比較例1、比較例2はクリープ破断強度が低い結果となった。比較例3は、約20MPaであった。
【0056】
<アンモニア暴露試験>
試験片を電気炉内に配置された炉心管に設置し、炉心管内を窒素ガスに置換した。そして、炉心管を600℃まで昇温させた後、アンモニアガスに置換した。試験片はアンモニアガスに100時間暴露した後取り出した。
【0057】
取り出された各試験片に厚さ方向に研磨を行ない、断面を光学顕微鏡により観察して窒化層の厚さを測定した。結果を表2に示している。参考のため、比較例1の試験片の組織断面写真を
図1に示す。符号10で示す部分が窒化層である。
【0058】
窒化性については、アンモニア暴露試験により形成される窒化層の厚さが100μm以下であれば耐窒化性が良好であると判断できる。表2を参照すると、発明例1~発明例3、比較例2、比較例3は窒化層の厚さが100μm以下であり、耐窒化性にすぐれることがわかる。一方、比較例1は
図1に示すように窒化層10の厚さが100μmを越えており、耐窒化性に劣る。発明例どうしを比較すると、発明例3は窒化層が観察されておらず、耐窒化性に非常にすぐれる。発明例1、発明例2には窒化層が形成されたが、発明例2は22.1μmと薄く、また、発明例1も100μm以下であり、耐窒化性は良好であった。
【0059】
<クリープ破断強度と耐窒化性>
上記した各試験片のクリープ破断強度と、アンモニア暴露試験により形成された窒化層の厚さについて、縦軸をクリープ破断強度、横軸を窒化層の厚さとしたグラフにプロットした。グラフを
図2に示す。
【0060】
図2のグラフでは、左上に向かうほど、クリープ破断強度にすぐれ、且つ、耐窒化性にすぐれる。発明例1~発明例3は、グラフの左上に位置しており、クリープ破断強度と耐窒化性にすぐれることがわかる。なお、
図2中、耐窒化性を具備すると判断できる窒化層の厚さ100μm以下と、クリープ破断強度のより望ましい下限30MPa以上からなる範囲を点線で示している。発明例は、何れも点線の内側にあり、比較例は何れも点線の外側にある。
【0061】
<<第2実施例>>
第1実施例で作製された発明例1~発明例3と、比較例1、比較例2の試験片について、窒素拡散の活性化エネルギーを導出すると共に、鋳造性等を検証した。
【0062】
<活性化エネルギー>
窒素拡散の活性化エネルギーの導出方法は上掲のとおりである。結果を表3に示す。発明例1~発明例3は、何れも窒素拡散の活性化エネルギーが高いことがわかった。とくに、発明例3は、発明例1、発明例2に比べて高い値を示した。また、比較例2も同様に窒素拡散の活性化エネルギーが高かった。表3に第1実施例の窒化層の厚さを再掲するが、活性化エネルギーが高いほど、窒化層が薄くなることがわかる。
【0063】
【0064】
<クリープ破断強度と活性化エネルギー>
図3は、縦軸をクリープ破断強度、横軸を窒素拡散の活性化エネルギーとしてプロットしたグラフを示す。クリープ破断強度は、第1実施例の測定値を採用している(表3参照)。
図3のグラフでは、右上に向かうほど、クリープ破断強度にすぐれ、且つ、窒素拡散の活性化エネルギーが高いから耐窒化性にすぐれる。発明例1~発明例3は、グラフの右上に位置しており、クリープ破断強度と耐窒化性にすぐれることがわかる。なお、
図3中、耐窒化性を具備すると判断できる窒素拡散の活性化エネルギーの望ましい下限である35kJ/mol以上と、クリープ破断強度のより望ましい下限30MPa以上となる範囲を点線で示している。発明例は、何れも点線の内側にあり、比較例は何れも点線の外側にある。
【0065】
<鋳造性>
鋳造性は、試験片の表面状態を観察することで湯流れ性を判断した。鋳造性の評価は、「○」(良好)、「△」(普通)、「×」(不良)の3段階である。表3を参照すると、発明例1~発明例3は何れも鋳造性が良好である。これは、炭素やケイ素をやや多めに添加したためである。比較例2は、活性化エネルギーは比較的高いが、鋳造性に劣っている。
【0066】
<EPMA分析>
発明例1と比較例1の試験片について、第1実施例のアンモニア暴露試験の温度条件を850℃に変えて実施した。その他の条件は第1実施例と同じである。得られた試験片について、EPMA(電子線プローブマイクロアナライザー)により窒素分布を実施した。
図4に(a)発明例1のEPMA画像と(b)比較例1のEPMA画像を夫々示す。図を参照すると、何れの試験片(窒化層10とその下側が試験片である)にも窒化層10が確認されるが、発明例1は窒素拡散の活性化エネルギーが高いため、形成される窒化層10は、比較例1に比べて十分薄いことがわかる。
【0067】
上記説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或いは範囲を限縮するように解すべきではない。また、本発明の各部構成は、上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【要約】
【課題】本発明は、耐窒化性、高温クリープ破断強度にすぐれる耐熱合金を提供する。
【解決手段】本発明の耐熱合金は、質量%にて、C:0.2%~0.6%、Si:0%を超えて2.5%以下、Mn:0%を超えて2.0%以下、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Ni:33.0%~50.0%、Cr:24.0%~50.0%、残部Fe及び不純物からなり、選択的に、Nb:0%を越えて1.8%以下、選択的に、希土類元素:0%を越えて0.5%以下、選択的に、Ti:0%を越えて0.5%以下及び/又はZr:0%を越えて0.5%以下、選択的に、W:0%を超えて2.0%以下及び/又はMo:0%を超えて0.5%以下、を含む。
【選択図】
図2