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特許7587093プラズマエッチング装置用パルス電源装置及びバイアス制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】プラズマエッチング装置用パルス電源装置及びバイアス制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 9/02 20060101AFI20241113BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20241113BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
H02M9/02
H05H1/46 R
H01L21/302 101G
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024098237
(22)【出願日】2024-06-18
【審査請求日】2024-06-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】392026888
【氏名又は名称】京都電機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤吉 敏一
(72)【発明者】
【氏名】小西 庸平
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-530078(JP,A)
【文献】特表2023-533841(JP,A)
【文献】特表2023-533840(JP,A)
【文献】特開2022-007165(JP,A)
【文献】特開2021-013265(JP,A)
【文献】特表2023-542779(JP,A)
【文献】特開2021-175250(JP,A)
【文献】特開2023-145583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 9/02
H05H 1/46
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマエッチング装置において処理対象物を含むプラズマリアクタにバイアスを供給するために、パルス電源装置の出力端にパルス状の電圧波形を形成するバイアス制御方法であって、
所定の電流値を有する直流電流と、接地電位を基準とする、第3の電圧値を有する第3直流電圧と、第4の電圧値を有する第4直流電圧と、該第3の電圧値及び該第4の電圧値よりも低い第1の電圧値を有する第1直流電圧とを前記出力端に選択的に供給するステップを含み、
a)後記第4ステップにおける半波共振によって電圧が下降し、該電圧が前記第3の電圧値及び前記第4の電圧値よりも低くなったときに、前記第1直流電圧を前記出力端に結合させることで前記出力端における出力電圧を第1の電圧値まで下降させ、該第1の電圧値をプラズマリアクタのコンデンサ負荷に保持することで前記出力電圧を低いレベルに維持する第1ステップと、
b)前記第1直流電圧に代えて前記第3直流電圧を前記出力端に結合させ、前記コンデンサ負荷と、当該パルス電源装置と前記プラズマリアクタとの間の配線を含むインダクタと、を少なくとも含む共振ループで半波共振による電流を流すことで、前記出力電圧を上昇させる第2ステップと、
c)前記第2ステップにおける電圧上昇によって前記出力電圧が前記第3の電圧値よりも高い所定の第5電圧値である電位になったときに、前記直流電流を前記出力端に結合し、該直流電流によって前記出力電圧を更に時間経過に伴い直線的に上昇させる第3ステップと、
d)前記第3ステップにおいて前記出力電圧が所定の第6電圧値である電位まで上昇したあと、前記直流電流に代えて前記第4直流電圧を前記出力端に結合し、前記コンデンサ負荷と前記インダクタとを少なくとも含む共振ループで半波共振による電流を流すことで前記出力電圧を下降させる第4ステップと、
を有するバイアス制御方法。
【請求項2】
ΔV、Vcをそれぞれ所定の正極性の電圧値としたとき、前記第3の電圧値が0、前記第4の電圧値が-Vc/2、前記第1の電圧値が+ΔV/2、前記第5の電圧値が-ΔV/2、前記第6の電圧値が-(ΔV/2)-Vc、である、請求項1に記載のバイアス制御方法。
【請求項3】
ΔV、Vcをそれぞれ所定の正極性の電圧値としたとき、前記第3の電圧値が+ΔV/2、前記第4の電圧値が(ΔV-Vc)/2、前記第1の電圧値が+ΔV、前記第5の電圧値が0、前記第6の電圧値が-Vc、である、請求項1に記載のバイアス制御方法。
【請求項4】
ΔV、Vcをそれぞれ所定の正極性の電圧値としたとき、前記第3の電圧値が-ΔV/2、前記第4の電圧値が-(ΔV+Vc)/2、前記第1の電圧値が0、前記第5の電圧値が-ΔV、前記第6の電圧値が-ΔV-Vc、請求項1に記載のバイアス制御方法。
【請求項5】
プラズマエッチング装置において処理対象物を含むプラズマリアクタにバイアスを供給するために、配線を介して前記プラズマリアクタに接続される出力端と接地端との間にパルス状の電圧波形を形成するパルス電源装置であって、
a)接地電位を基準とする、第1の電圧値を有する第1直流電圧を生成する第1電圧源と、
b)接地電位を基準とする、第3の電圧値を有する第3直流電圧を生成する第3電圧源と、
c)接地電位を基準とする、第4の電圧値を有する第4直流電圧を生成する第4電圧源と、
d)前記第1電圧源を前記出力端に結合する第1スイッチと、
e)前記第3電圧源を前記出力端に結合する第3スイッチと、
f)前記第4電圧源を前記出力端に結合する第4スイッチと、
g)電流の流入端と流出端とを有し、前記第3スイッチを介して前記出力端に前記流入端が結合される一方、前記流出端が前記接地端に結合され、所定の電流値の直流電流を供給する電流源と、
h)前記第3スイッチと前記第3電圧源との間、又は該第3電圧源と前記接地端との間に配置され、該接地端側から前記第3スイッチ側への電流の流れを阻止する逆阻止用の第3ダイオードと、
i)前記第4スイッチ及び前記第4電圧源に直列に接続され、前記出力端から前記接地端側への電流の流れを阻止する逆阻止用の第4ダイオードと、
j)前記第1スイッチをオンすることで前記第1電圧源を前記出力端に結合させ、該第1電圧源による第1の電圧値の電圧を前記プラズマリアクタのコンデンサ負荷に保持することで、前記出力端における出力電圧を低いレベルに維持した状態で、前記第3スイッチをオンさせて前記第3電圧源を前記出力端に結合させることで、前記コンデンサ負荷と前記配線を含むインダクタとを少なくとも含む共振ループで第1の半波共振による電流を流すことで、前記出力電圧を上昇させ、その電圧上昇によって前記出力電圧が前記第3の電圧値よりも高い所定の第5の電圧値の電位になり、さらに前記第3ダイオードが導通状態から逆阻止状態へ変化することにより前記電流源による直流電流が負荷に流れることで前記出力電圧が所定の第6の電圧値の電位まで上昇したとき、前記第4スイッチをオンさせて前記第4電圧源を前記出力端に結合し、前記コンデンサ負荷と前記インダクタとを少なくとも含み、前記第4ダイオードを含む共振ループで第2の半波共振による電流を流すことで前記出力電圧を下降させ、該出力電圧が前記第3の電圧値及び前記第4の電圧値よりも低くなったときに、前記第1スイッチをオンして前記第1電圧源を前記出力端に結合させ、前記出力電圧を第1の電圧値まで低下させるように、前記第1スイッチ、前記第3スイッチ、及び前記第4スイッチのオンオフ動作をそれぞれ制御する制御部と、
を備えるプラズマ処理装置用パルス電源装置。
【請求項6】
前記第1の電圧値又は第3の電圧値のいずれか一方を0として前記第1電圧源又は前記第3電圧源を短絡し、それに対応して、それ以外の電圧値をそれぞれ所定の電圧に定める構成とした、請求項5に記載のプラズマ処理装置用パルス電源装置。
【請求項7】
前記電流源と並列に高速定電流電源を備える、請求項5又は6に記載のプラズマ処理装置用パルス電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造等のためのプラズマエッチング装置に用いられるパルス電源装置及びそのバイアスの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程では、プラズマを利用して半導体基板に対するエッチング処理を行うプラズマエッチング装置が広く用いられている。反応性イオンエッチング装置では一般に、チャンバ内で高周波誘導結合方式や電子サイクロトロン共鳴方式などによってエッチングガスからプラズマを生成すると共に、該チャンバ内に設置した基板に高周波電圧等のバイアス電圧を印加する。これにより、基板とプラズマとの間に自己バイアス電位が生じ、プラズマ中のイオン種やラジカル種が基板に向かって加速され、その表面に衝突してエッチングが行われる。
【0003】
プラズマエッチング装置において精度の良いエッチングを行うには、基板表面におけるイオンエネルギ分布(Ion Energy Distribution:IED)を適切に制御することが重要である。一般に、基板表面のIEDは、そのピーク幅ができるだけ狭い単一なIEDが望ましいとされている。そうしたIEDを実現するには、基板表面電圧をほぼ一定とする必要があるが、プラズマに由来するイオン電流は誘電性の基板の表面を常に帯電させるため、たとえ一定の電圧を基板に印加しても基板表面電圧は一定とならない。これに対し、特許文献1に記載の従来のパルス電源装置では、処理期間中に直流電流を供給することでイオン電流を補償し、基板表面電圧を略一定にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2022-530078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の従来のパルス電源装置は、一定の直流電流を供給するための電流源のほか、基板によるコンデンサや浮遊コンデンサの充放電を促進させる転流動作時の充電補助用の電圧源を備える。また、このパルス電源装置は、基板コンデンサ等を含むコンデンサと配線等による浮遊インダクタとのLC直列回路に充電補助電圧の略1/2の電圧を予め印加する共振転流手段を備えており、これによって、転流動作時における損失の低減とバイアスの波形改善とを図っている。
【0006】
しかしながら、上記従来のパルス電源装置は、電流源を形成するための電圧源、充電補助用の電圧源に加えて、パルスオンの転流時及びパルスオフの転流時のために電圧源をそれぞれ追加的に有し、それら電圧源をそれぞれ出力に接続するためのスイッチも必要である。そのため、回路の規模が大きく、それだけコストが高くなる。また、多数のスイッチのオンオフ動作をそれぞれ制御する必要があり、半波共振期間の正確な管理を必要とするために制御が複雑である。
【0007】
なお、一般に、プラズマエッチング装置におけるパルスバイアス電圧の波形は、負の方向(通常の波形図では下方向)に電圧が変化する負極性のパルス波形であり、その負極性のパルス波形の頂部において実質的なエッチング処理が行われる。そこで、本明細書中では、パルス波形において、そのエッチング処理が行われるパルス波形の頂部に向かう電圧の変化(負方向への変化)を電圧の上昇(又は増加)、逆に、エッチング処理が行われるパルス波形の頂部から正方向への電圧の変化を電圧の降下(又は下降、減少)ということとする。また、この電圧の上昇又は降下に合わせて電圧の高低の関係を定義するものとする。つまり、或る電圧Aから他の電圧Bへ電圧が上昇する場合、電圧Aは電圧Bよりも低い(逆に電圧Bは電圧Aよりも高い)と表現する。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、回路構成や制御を簡素化しつつ、良好な波形形状のパルスバイアスを基板等に与えることができるプラズマエッチング装置用のパルス電源装置、及びそのバイアス制御方法を提供する
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るバイアス制御方法の一態様は、プラズマエッチング装置において処理対象物を含むプラズマリアクタ(Pr)にバイアスを供給するために、パルス電源装置の出力端にパルス状の電圧波形を形成するバイアス制御方法であって、
所定の電流値を有する直流電流と、接地電位を基準とする、第3の電圧値(V3)を有する第3直流電圧と、第4の電圧値(V4)を有する第4直流電圧と、該第3の電圧値(V3)及び該第4の電圧値(V4)よりも低い第1の電圧値(V1)を有する第1直流電圧とを前記出力端に選択的に供給するステップを含み、
a)後記第4ステップにおける半波共振によって電圧が下降し、該電圧が前記第3の電圧値(V3)及び前記第4の電圧値(V4)よりも低くなったときに、前記第1直流電圧を前記出力端に結合させることで前記出力端における出力電圧を第1の電圧値(V1)まで下降させ、該第1の電圧値をプラズマリアクタのコンデンサ負荷に保持することで前記出力電圧を低いレベルに維持する第1ステップと、
b)前記第1直流電圧に代えて前記第3直流電圧を前記出力端に結合させ、前記コンデンサ負荷と、当該パルス電源装置と前記プラズマリアクタとの間の配線を含むインダクタと、を少なくとも含む共振ループで半波共振による電流を流すことで、前記出力電圧を上昇させる第2ステップと、
c)前記第2ステップにおける電圧上昇によって前記出力電圧が前記第3の電圧値(V3)よりも高い所定の第5電圧値(V5)である電位になったときに、前記直流電流を前記出力端に結合し、該直流電流によって前記出力電圧を更に時間経過に伴い直線的に上昇させる第3ステップと、
d)前記第3ステップにおいて前記出力電圧が所定の第6電圧値(V6)である電位まで上昇したあと、前記直流電流に代えて前記第4直流電圧を前記出力端に結合し、前記コンデンサ負荷と前記インダクタとを少なくとも含む共振ループで半波共振による電流を流すことで前記出力電圧を下降させる第4ステップと、
を有する。
【0010】
本発明に係るバイアス制御方法の上記態様では、一例として、ΔV、Vcをそれぞれ所定の正極性の電圧値としたとき、前記第3の電圧値(V3)が0、前記第4の電圧値(V4)が-Vc/2、前記第1の電圧値(V1)が+ΔV/2、前記第5の電圧値(V5)が-ΔV/2、前記第6の電圧値(V6)が-(ΔV/2)-Vc、であるものとすることができる。
【0011】
また、本発明に係るバイアス制御方法の上記態様では、他の例として、ΔV、Vcをそれぞれ所定の正極性の電圧値としたとき、前記第3の電圧値(V3)が+ΔV/2、前記第4の電圧値(V4)が(ΔV-Vc)/2、前記第1の電圧値(V1)が+ΔV、前記第5の電圧値(V5)が0、前記第6の電圧値(V6)が-Vc、であるものとすることができる。
【0012】
本発明に係るバイアス制御方法の上記態様では、さらに他の例として、ΔV、Vcをそれぞれ所定の正極性の電圧値としたとき、前記第3の電圧値(V3)が-ΔV/2、前記第4の電圧値(V4)が-(ΔV+Vc)/2、前記第1の電圧値(V1)が0、前記第5の電圧値(V5)が-ΔV、前記第6の電圧値(V6)が-ΔV-Vc、であるものとすることができる。
【0013】
また、本発明に係るプラズマ処理装置用パルス電源装置の一態様は、上記態様のバイアス制御方法を具現化するための装置であり、プラズマエッチング装置において処理対象物を含むプラズマリアクタ(Pr)にバイアスを供給するために、配線を介して前記プラズマリアクタに接続される出力端(10)と接地端(9)との間にパルス状の電圧波形を形成するパルス電源装置であって、
a)接地電位を基準とする、第1の電圧値(V1)を有する第1直流電圧を生成する第1電圧源(11)と、
b)接地電位を基準とする、第3の電圧値(V3)を有する第3直流電圧を生成する第3電圧源(13)と、
c)接地電位を基準とする、第4の電圧値(V4)を有する第4直流電圧を生成する第4電圧源(14)と、
d)前記第1電圧源を前記出力端に結合する第1スイッチ(S1)と、
e)前記第3電圧源を前記出力端に結合する第3スイッチ(S3)と、
f)前記第4電圧源を前記出力端に結合する第4スイッチ(S4)と、
g)電流の流入端と流出端とを有し、前記第3スイッチを介して前記出力端に前記流入端が結合される一方、前記流出端が前記接地端に結合され、所定の電流値の直流電流を供給する電流源(12)と、
h)前記第3スイッチと前記第3電圧源との間又は該第3電圧源と前記接地端との間に配置され、該接地端側から前記第3スイッチ側への電流の流れを阻止する逆阻止用の第3ダイオード(Da)と、
i)前記第4スイッチ及び前記第4電圧源に直列に接続され、前記出力端から前記接地端側への電流の流れを阻止する逆阻止用の第4ダイオード(Db)と、
j)前記第1スイッチをオンすることで前記第1電圧源を前記出力端に結合させ、該第1電圧源による第1の電圧値の電圧を前記プラズマリアクタのコンデンサ負荷に保持することで、前記出力端における出力電圧を低いレベルに維持した状態で、前記第3スイッチをオンさせて前記第3電圧源を前記出力端に結合させることで、前記コンデンサ負荷と前記配線を含むインダクタとを少なくとも含む共振ループで第1の半波共振による電流を流すことで、前記出力電圧を上昇させ、その電圧上昇によって前記出力電圧が前記第3の電圧値よりも高い所定の第5の電圧値の電位になり、さらに前記第3ダイオードが導通状態から逆阻止状態へ変化することにより前記電流源による直流電流が負荷に流れることで前記出力電圧が所定の第6の電圧値の電位まで上昇したとき、前記第4スイッチをオンさせて前記第4電圧源を前記出力端に結合し、前記コンデンサ負荷と前記インダクタとを少なくとも含み、前記第4ダイオードを含む共振ループで第2の半波共振による電流を流すことで前記出力電圧を下降させ、該出力電圧が前記第3の電圧値及び前記第4の電圧値よりも低くなったときに、前記第1スイッチをオンして前記第1電圧源を前記出力端に結合させ、前記出力電圧を第1の電圧値まで低下させるように、前記第1スイッチ、前記第3スイッチ、及び前記第4スイッチのオンオフ動作をそれぞれ制御する制御部(20)と、
を備える。
【0014】
なお、上記態様のプラズマ処理装置用パルス電源装置では、前記第1の電圧値又は第3の電圧値のいずれか一方を0とし、それに応じて、他の電圧値をそれぞれ所定の電圧に定めるものとすることができる。
【0015】
上記態様のプラズマ処理装置用パルス電源装置では、前記電流源と並列に高速定電流電源を備える構成とすることができる。
【0016】
なお、ここでいう「接地電位を基準とする」との記載における「接地電位」は必ずしも厳密に0Vを意味するものでないことは、当業者には明らかである。例えば、この種の装置では、接地端又は出力端(通常は低電圧側である接地端)に繋がる線路上に直列に限流抵抗(制限抵抗)を挿入する場合がしばしばある。その場合、その限流抵抗による電圧降下があるため、接地端の電位が0Vであったとしても、接地端とは反対側の限流抵抗の端部における電位は当然0Vとはならないが、本発明では、この電位を装置内部では基準とすることができる。
【0017】
特許文献1に記載の従来のパルス電源装置では、電流源を出力端に結合するための専用のスイッチを設け、本発明に係るバイアス制御方法の上記態様における第3ステップに対応するステップにおいて、該スイッチをオンさせることで電流源を出力端に接続していた。これに対し、本発明者は、第1の半波共振電流を流す逆阻止用の第3ダイオード(Da)が導通状態と阻止状態とで切り替わり得ることを利用し、該第3ダイオード又は該第3ダイオードと第3電圧源との直列回路に並列に接続されている電流源の電流経路を、該第3ダイオードの逆流による短絡と負荷(出力端)との2経路に対し選択スイッチ無く切り替えることで、従来のパルス電源装置において電流源を出力端に接続する専用のスイッチと第3電圧源を出力端に結合するスイッチとを兼ねる構成に想到した。これにより、スイッチの数を減らしながら、第2ステップから第3ステップに移行する際における電圧や電流の振動を抑えた良好な転流を実現することが可能となった。
【発明の効果】
【0018】
このようにして本発明によれば、従来のパルス電源装置に比べて、スイッチ等のデバイスを減らして回路構成を簡素化しながら、さらには、半波共振の期間とスイッチの切替えタイミングとを一致させる煩雑な制御を省略しながら、良好な波形形状のパルスバイアスを処理対象物に与えることができる。これによって、基板等の処理対象物に対するエッチング処理を良好に達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係るパルス電源装置を含むプラズマエッチング装置の全体構成の一例を示す概念図。
図2】第1実施形態であるパルス電源部の概略回路図。
図3】基板表面電圧Vsub、出力電圧Vop1、及びステージ電圧Vop2の電圧波形の一例を示す図。
図4】第1実施形態のパルス電源部における転流期間Taの各部の波形の一例を示すタイムチャート。
図5】第1実施形態のパルス電源部における転流期間Tbの各部の波形の一例を示すタイムチャート。
図6】第1実施形態のパルス電源部における転流期間Ta(時刻t0~t1)の電流経路を示す概略図。
図7】第1実施形態のパルス電源部における転流期間Tb(時刻t2~t3)の電流経路を示す概略図。
図8】第1実施形態のパルス電源部における転流期間Tb(時刻t3~t4)の電流経路を示す概略図。
図9】第1実施形態のパルス電源部における転流期間Tb(時刻t4~t5)の電流経路を示す概略図。
図10】第1実施形態のパルス電源部における転流期間Tbの各部の波形の他の例を示すタイムチャート。
図11】一変形例であるパルス電源部の概略回路図。
図12】他の変形例であるパルス電源部の概略回路図。
図13】他の変形例であるパルス電源部の概略回路図。
図14】他の変形例であるパルス電源部の概略回路図。
図15】他の変形例であるパルス電源部の概略回路図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[プラズマエッチング装置の構成]
図1は、本発明に係るパルス電源装置を用いたプラズマエッチング装置の全体構成を示す典型的な一例を示す概念図である。
図1に示すように、このプラズマエッチング装置は、プロセス制御部1、イオン源用プラズマ電源部2、バイアス用パルス電源部3、及び、処理室4、を備える。
【0021】
図示しないが、処理室4は、イオン源用プラズマ電源部2から供給される電力を受け、例えば誘導性結合プラズマ(ICP)、電子サイクロン共振(ECR)プラズマ、ヘリコン波プラズマ(HWP)などの様々な方式によって、導入されたエッチングガスからプラズマ5を生成するイオン源、を備える。
【0022】
一方、バイアス用パルス電源部(以下、単に「パルス電源部」という)3は、プラズマ5中のイオンに運動エネルギを与えて引き付けるために、処理対象である基板6にパルス状のバイアスを与えるものである。誘電性の基板6の表面6aにおいて所望の(通常は幅狭の単一の)IEDを得るために、パルス電源部3は、所定の処理期間中に基板6の表面6aにおける電圧値が略一定となるように、ステージ7を介して基板6に電流を供給する。本プラズマエッチング装置では、イオン源用プラズマ電源部2とパルス電源部3とを別々に設け、プロセス制御部1が各電源部2、3を独立に制御することで、エッチングプロセスの自由度を高めている。なお、以下の説明では、慣用に従い、プラズマ5を含む処理室4全体をプラズマリアクタPrという。
【0023】
[プラズマリアクタPrの等価回路]
図2の右方の一点鎖線で囲む範囲は、パルス電源部3の負荷であるプラズマリアクタPrの電気的な簡易等価回路を中心とする回路を示す図である。この図では、プラズマリアクタPrにおける基板側イオンシースの等価回路と壁側イオンシースの等価回路とを合成すると共に、その一部を省略して記載している。
【0024】
図2において、Rpはイオンシースの直流抵抗(以下「シース抵抗」という)、Cpは誘導性である基板6のコンデンサ(以下「基板コンデンサ」という)、Dpはイオンシースの整流作用による等価的なダイオード(以下「シースダイオード」という)、Csはイオンシースのコンデンサ(以下「シースコンデンサ」という)、Zpはプラズマバルク抵抗(以下「プラズマ抵抗」という)、Cnは総合浮遊接地間コンデンサ(以下「浮遊コンデンサ」という)である。また、Lnは主としてパルス電源部3とプラズマリアクタPrとを繋ぐ配線に起因するインダクタ(以下「配線インダクタ」という)、Cbは該配線上に設けられるブロッキングコンデンサである。
【0025】
図2では、プラズマ中のイオンと電子の移動度との差に起因したイオンシースの整流作用が、シースダイオードDpとシース抵抗Rpとの並列回路によって表されている。シース抵抗Rpはイオン電流に、またシースダイオードDpの順抵抗は電子電流に、それぞれ直流抵抗として対応する。また、これらにシースコンデンサCsを加えた3つの素子が並列に接続されている。この並列回路の一端にプラズマ抵抗Zpが、他端に基板コンデンサCpがそれぞれ接続され、加えて、この直列回路の両端に浮遊コンデンサCnが接続されている。プラズマ抵抗Zpと浮遊コンデンサCnとの接続点は、パルス電源部3の接地端9に接続されるとともに接地され、基板コンデンサCpと浮遊コンデンサCnとの接続点は、ブロッキングコンデンサCbと配線インダクタLnとの直列回路を介してパルス電源部3の出力端10に接続されている。
【0026】
基板6の表面6aは、シースダイオードDp、シース抵抗Rp、及びシースコンデンサCsの並列回路の他端と基板コンデンサCpとの接続点であり、この接続点と接地との間に生成される電圧が基板表面電圧Vsubである。浮遊コンデンサCn、基板コンデンサCp、及びシースコンデンサCsはコンデンサ負荷を形成するが、典型的な一例として、その容量比は、Cn≒5・Cp、Cp≒20・Cs、である。通常、シースコンデンサCsの容量は相対的に顕著に小さいため、シースコンデンサCsは回路動作のうえで実質的に無視することができる。それ故に、図2ではシースコンデンサCsの接続線を破線で示している。
【0027】
この図2では、パルス電源部3はブロッキングコンデンサCbを含まないが、ブロッキングコンデンサCbをパルス電源部3に含んで考えても構わない。
【0028】
なお、以下の説明において、各構成要素を示す符号や特定の部位の電圧や電流を特定するための符号は、その構成要素自体が持つパラメータの数値を表す符号としても用いられる。例えば、特定のコンデンサを示す符号、例えば後述のCpは、そのコンデンサが有する容量値を示す符号としても用いられ、特定の位置における電圧を示す符号、例えばVop1は、その電圧の電圧値を示す符号としても用いられる。
【0029】
[基板表面電圧Vsub及び出力電圧Vop1の波形形状]
図3(a)~(c)は、図2中に示す基板表面電圧Vsub、出力電圧Vop1、及びステージ電圧Vop2の波形の一例を示す図である。図3(b)の右側に示した括弧[ ]内の数字は、図2に示したパルス電源部3の概略回路図において、波形図(図3)中に示す電圧を生成する電圧源を示す符号に対応している。
【0030】
基板表面電圧Vsubは前述のように、基板6の表面6aと接地との間に生成される電圧である。出力電圧Vop1は、パルス電源部3からの出力によって、出力端10に接続された配線インダクタLnとブロッキングコンデンサCbとの接続点と接地との間に生成される電圧である。また、ステージ電圧Vop2は、ステージ7と接地との間に生成される電圧である。
【0031】
期間Tはパルス波形の一周期期間であり、エッチング処理時には、こうしたパルス状のバイアスが繰り返し基板6に与えられる。パルス波形の繰り返し周波数は適宜に定められるが、一例として繰り返し周波数は数百kHzであり、例えばその周波数が400kHzであるとき期間Tは2.5μsである。この期間Tの中で、後述する転流期間Taを除くTpが基板6に対する実質的なエッチング処理が実施されるエッチング処理期間である。一般に、上述したように基板6上において幅狭の単一IEDが要求される場合、基板表面電圧Vsubは、図3(a)に示すように、エッチング処理期間において或る一定の電圧値に維持されることが必要である。
【0032】
時間的に隣接する2つのエッチング処理期間Tpの間には、エッチング処理の際に基板コンデンサCp及び浮遊コンデンサCnに蓄積された電荷を放電するための放電期間Tdが設けられる。また、Taは、放電期間Tdが終了してからエッチング処理期間Tpへ遷移する転流期間であり、一方、Tbはそのエッチング処理期間Tpが終了してから放電期間Tdへ遷移する転流期間である。一例としてT=2.5μsである場合、エッチング処理期間Tpの最大デューティ比が80%であるとすると、Tp=2μs、Td=0.5μsである。期間Tの長さを一定に保ったまま、つまり繰り返し周波数が一定である下で、エッチング効率を高めるべく幅狭の単一IEDのための有効なエッチング処理期間Tpの幅を広げるには、転流期間Ta、Tbをできるだけ短くすることが望ましい。
【0033】
上述したように、転流期間Taを除くエッチング処理期間Tpの間で基板表面電圧Vsubが一定電圧に保たれるようにするために、本実施形態のパルス電源部3では、その期間Tpにおいて、基板コンデンサCpに流れる電流Icpを一定の負パルス電流とする。この期間Tpの出力電圧Vop1の波形は、出力電流Io(=Ic)によるコンデンサ負荷電圧の増加変化値Vc≒Ic・t/(Cp+Cn)と、パルスオン時の転流期間Ta中に急速に基板表面電圧Vsubの電圧値を得るための充電補助電圧変化値ΔV≒Vsub(共に電位差)と、が合成されたものとなる。前者は、期間Tp中に、略一定傾斜のランプ状の波形となる。
【0034】
基板表面電圧Vsubは、基板コンデンサCpに流れる電流Icpによるシース抵抗Rp及びプラズマ抵抗Zpの降下電圧で表され(但し、シースダイオードDpの順抵抗はゼロ、逆抵抗は∞であるとする)、転流期間Taを除くエッチング処理期間Tpには、電流Icpが一定である下で、Vsub=-Icp・(Rp+Zp)である。また、放電期間TdにおいてシースダイオードDpが導通した後には、Vsub=Icp・Zpである。プラズマ抵抗Zpの抵抗値はたかだか数Ωと小さく、電流Icpによって基板コンデンサCpの蓄積電荷は急速に放電され得る。エッチング処理期間Tpにパルス電源部3から出力される電流Ioは、図2中に示すようにIcnとIcpとに分流し、Icp≒-Io・Cp/(Cp+Cn)となる。
【0035】
第1実施形態及び後述するそのほかの実施形態のパルス電源部では、時刻t5における出力電圧Vop1の電圧値が、基板コンデンサCpと浮遊コンデンサCnとを合成したコンデンサ負荷Creに蓄積された電荷による電圧V1である。第1実施形態のパルス電源部では、電圧V1の電圧値は+ΔV/2であり、これは第1電圧源11の出力電圧に等しい。具体的な動作は後述するが、転流期間Taには、半波共振電流をコンデンサ負荷Creに流すことで該コンデンサ負荷を急速に充電する。これにより、出力電圧Vop1は+ΔV/2から-ΔV/2まで急速に上昇する。他方、転流期間Tbには、半波共振電流をコンデンサ負荷Creから流出させることで該コンデンサ負荷を急速に放電させる。これにより、出力電圧Vop1は-ΔV/2-Vcから+ΔV/2付近まで急速に下降し、その下降後に+ΔV/2に固定される。その結果として、出力電圧Vop1は図3(b)に示すような波形形状となる。
【0036】
ステージ電圧Vop2は、ブロッキングコンデンサCbにより直流的に浮動0電位が与えられた出力電圧Vop1の波形が、基板表面電圧Vsubの平均電圧である直流電圧分だけ負方向(又は正方向)にそのままシフトされたものである。従って、図3(b)に示すΔV、Vcの電位差(絶対値)が同一である状態のまま、出力電圧Vop1全体が縦軸方向にシフトした場合であっても、ステージ電圧Vop2は図3(c)に示す波形と同一である。なお、ブロッキングコンデンサCbは、外部電圧から発生する直流電流がパルス電源部3に流入するのを防止するために設けられ、その容量値は例えばCb≒50・Cnに定められる。但し、このブロッキングコンデンサCbは本発明において必須の構成要素ではなく、適宜削除できることは当業者に明らかである。
【0037】
[パルス電源部の構成及び動作の詳細]
次に、図2に示す第1実施形態のパルス電源部3の構成及び動作を詳しく説明する。
第1実施形態のパルス電源部3では、接地端9に繋がる第1ノードN1と出力端10に繋がる第2ノードN2との間に、電圧値V3を出力する第3電圧源13と逆阻止用の第3ダイオードDaと第3スイッチング部S3との直列回路、電圧値V1を出力する第1電圧源11とダンピング抵抗Rdと第1スイッチング部S1との直列回路とがそれぞれ接続されている。但し、後述するように、この第1実施形態では、電圧値V3=0Vであるから、第3電圧源13は実体としては存在せず短絡されているものとみなせる。そのため、図2では、第3電圧源13を破線で示している。また、ダンピング抵抗Rdは必須ではない。
【0038】
第2ノードN2とインダクタLi、第2電流センサCt2を介して繋がる第3ノードN3と出力端10の間には、電圧値V4を出力する第4電圧源14と第4ダイオードDbと第4スイッチング部S4との直列回路が接続されている。インダクタLiが不要である場合には、第3ノードN3と第2ノードN2とが一致しているとすることができ、このとき、第4電圧源14と第4ダイオードDbと第4スイッチング部S4との直列回路は、出力端10と接地端9との間に接続されているとみることができる。第3ダイオードDaと第3スイッチング部S3との接続点である第4ノードN4と第1ノードN1との間には、一定電流Icを供給し得る電流源12が接続されている。即ち、電流源12と、第3ダイオードDaと第3電圧源13との直列回路とは、並列に接続されている。
【0039】
一定電流Icを出力する電流源12は、インダクタLo(インダクタンスは2mH程度)と電圧源15との直列回路で構成される。この直列回路は電流センサCt1も含むが、この電流センサCt1が電流の供給自体に直接関係しないことは明らかである。電流源12は、さらに、インダクタLoと第1電流センサCt1との直列回路に並列に接続された、第5スイッチング部S5とダイオードDcとの直列回路を含む。スイッチング部S1、S3、S4、S5はいずれも電力用MOSFETなどの半導体スイッチング素子からなり、逆並列ダイオードD1、D3、D4、D5はそれぞれ、半導体スイッチング素子の寄生ダイオードである。
【0040】
制御部20は、プロセス制御部1から送られて来る、例えば基板表面電圧Vsubの電圧値、処理周期T(パルス周波数:PW-f)、処理期間Tp等の各値を含む指令信号を受けるとともに、出力電圧Vop1をモニタし、予め決められたアルゴリズムに従って各スイッチング部S1、S3、S4、S5に対してオンオフ動作を制御する制御信号G1、G3、G4、G5を送る。また、制御部20は、インダクタLoに流れる電流を電流センサCt1により検出し、電圧源15の電圧Voを可変することで電流源12による電流Icを可変制御する。また、制御部20は、期間Tpにおける基板表面電圧Vsub、及び本装置の出力電流Io、出力電圧Vop1等の時間経過に対する値を、サンプリングによって検出し、第4電圧源14による電圧V4、及び必要に応じて第3電圧源13による電圧V3(但し、図2の例では第3電圧源13は短絡されている)を最適値に可変制御する。
【0041】
なお、制御部20は、例えばFPGA(Field Programable Gate Arrey)による高速論理回路と、CPU、ROM、タイマなどを含むマイクロコンピュータとADコンバータ等から成る構成とし、予め設定されたプログラムに従った処理を実行することで、後述する処理を行うための制御信号等を生成するものとすることができる。
【0042】
次に、本実施形態のパルス電源部3の動作を、図4図9を参照して詳しく説明する。図4及び図5は、図3中の転流期間Ta及び転流期間Tbの要部の波形を示すタイムチャートである。図6図9は、電流経路を示す概略図である。
【0043】
第1実施形態のパルス電源部3では、図2中にも示しているように、電圧源11、13、14の各電圧V1、V3、V4は、V1=+ΔV/2、V3=0、V4=-Vc/2である。このパルス電源部3において、制御部20は、時間経過に伴って変化する電流源12の出力電流Ioや出力電圧Vop1等の実測値を所定時間間隔で検出し、これらの値と基板表面電圧Vsubの設定値(目標値)とに基いて、出力電流Io、第2電圧源14における電圧V4、第1電圧源11における電圧値V1をそれぞれ最適な値に可変制御する。なお、第2電流センサCt2を用い、放電期間Td中の転流期間Tbにおける出力電流Io(詳しくは第2ノードN2から第3ノードN3に至る経路に流れる電流)の0検出を行うことにより、このタイミングに基いて制御信号G1、G4を調整する方法も採り得る。
【0044】
このパルス電源部3の主たる特徴は、転流時間の管理が不要である新規の共振転流方式を採用したこと、0点浮動に対応した充電補助電圧ΔVの生成を行うこと、電流源12による不要な共振のダンピングを抑えること、電圧源へのエネルギ回生を行うこと、及び、従来のパルス電源装置に対して電圧源及びスイッチング部の総数を削減したこと、である。
【0045】
まず、パルスオン時の転流期間Ta(t0~t1)における動作を図4図6により説明する。図4に示すように、時刻t0の直前には、それより前にハイ(論理「1」)状態である制御信号G1がロー(論理「0」)状態に変化し、その時点から所定のデッドタイムTe経過後の時刻t0において制御信号G3がハイ状態に変化する。その時点でハイ状態である制御信号G5は、制御信号G1とハイ状態の期間がTfだけオーバーラップした後にロー状態に変化する。制御信号G1がロー状態になると第1スイッチング部S1はオフするが、浮遊コンデンサCnの両端電圧(この場合、基板コンデンサCpの電圧に等しい)であるステージ電圧Vop2がブロッキングコンデンサCbの電圧分だけシフトした出力電圧Vop1は、接地点を基準として第1電圧源11の電圧値+ΔV/2だけ高い値(V1)に維持される。
【0046】
また、制御信号G5がロー状態に変化するまで第5スイッチング部S5はオン状態であるから、電流源12において、インダクタLoに流れる電流(放電期間Tdにおいて電流源12により供給される一定電流Ic)は、第5スイッチング部S5を通して当該インダクタLoに還流され、その電流は維持される。
【0047】
時刻t0において、制御信号G3がハイ状態に変化したことにより第3スイッチング部S3がオンすると、逆方向ダイオードDaは順方向にバイアスされ、第1ノードN1と第4ノードN4との間の電圧Vpnは略0となる。これにより、図6中に実線矢印で示す経路で、上述したように維持された電圧値(V1=+ΔV/2)である出力電圧Vop1と、各コンデンサCn、Cp、Cs、Cbの容量の合成値Cre≒Cnと、配線インダクタLnとによる共振電流(=-[0.5ΔV/√(Ln/Cre)]・sinθ)が、出力電流Ioとして流れる。
【0048】
同時に、ダイオードDcが逆バイアスされることで電流源12におけるインダクタLoの短絡は解除され、上述したように共振電流が流れることで導通したダイオードDaには、電流源12により供給される一定電流Icが逆流する。制御信号G5がロー状態に変化することで、第5スイッチング部S5は、0電圧を保ちつつ電流スイッチングによりオフする。出力電圧Vop1の電圧値は0.5ΔV・cosθであるため、図4(a)に示すように出力電圧Vop1は、時刻t0における+ΔV/2(V1)から時刻t1における-ΔV/2(V5)まで上昇する。従って、転流期間Taにおける電圧変化(増加)の幅は、第1電圧源11の電圧値+ΔV/2と第3電圧源13の電圧値0との差(=ΔV/2)の2倍に相当するΔVである。
【0049】
ブロッキングコンデンサCbによってステージ電圧Vop2は0点浮動であるため、図3(c)に示すように、ステージ電圧Vop2の波形は、極性に依存せず互いの電圧差でのみ定まる。そのため、転流動作時における充電補助電圧ΔVをΔV/2の電圧から共振によって取得しても何ら問題はない。転流期間Taは、LCの時定数により定まる以下の半波共振期間の式で求まる。
Ta=π√(Ln・Cre)
【0050】
即ち、浮遊コンデンサCnの両端電圧であって共振によって急激に電圧が変化するステージ電圧Vop2と、シース抵抗Rpの作用により緩慢に変化する基板コンデンサCpの両端電圧との差分が、基板表面電圧Vsubとなる。図6中に破線矢印で示す経路を流れる電流Icpは、概ねこのときの基板表面電圧Vsubの電圧値をシース抵抗Rpとプラズマ抵抗Zpとの直列回路の抵抗値で除したものとなり、出力電流Ioから分流して浮遊コンデンサCnを逆流する。
【0051】
時刻t1を過ぎると、上記共振電流による出力電流Ioは方向を反転しようとするものの、ダイオードDaが逆バイアスとなるためにその共振電流は停止する。一方、ダイオードDaを逆流していた、電流源12から供給される一定電流Icが、Io=Icとして上述の共振経路を流れる。このため、その共振経路と直列に、出力インピーダンスの非常に大きな電流源12が接続されることになる。この共振転流の直後において、配線インダクタLn、合成容量Creによる電圧及び電流の振動は全く発生しない。但し、出力電流Ioが共振電流から一定電流Icに切り換わるとき、ダイオードDaの逆回復時間に伴う電流の瞬断が発生し、これによるPNのサージ電圧が生じる可能性がある。このサージ電圧を抑制するために、第1ノードN1と第4ノードN4との間に、電圧クランプ回路又は電圧クランプ素子であるTVS(Transient Voltage Suppressor)等のサージ防護素子を挿入してもよい。
【0052】
以上説明したパルスオン時の転流期間Taにおける回路動作は、従来のパルス電源部が備えていた充電補助電圧ΔVを生成するための電源及びスイッチング素子、並びに半波共振期間に合わせた転流時間の厳密な管理等を要せずに実現可能である。
【0053】
転流期間Taの終了後は、電流源12から供給される一定電流Icが第3スイッチング部S3を通して出力電流Ioとして流れ、基板コンデンサCpに流れる電流Icpと浮遊コンデンサCnに流れる電流Inとに分流する。これにより、出力電圧Vop1はV5=-ΔV/2から負方向に略一定速度で増加してゆき、図3(b)に示すようにランプ形状の電圧波形が生成される。
【0054】
次いで、パルスオフ時の転流期間Tbにおける動作を説明する。図5に示すように、時刻t2の直前には、制御信号G3がハイ状態、他の制御信号G1、G4、G5はロー状態である。この状態から制御信号G5がハイ状態に変化し、その制御信号G5とハイ状態がオーバーラップする期間Tfの経過後、制御信号G3はロー状態に変化する。その後、所定のデッドタイムTeが経過した後の時刻t2において、制御信号G4はハイ状態に変化する。その後、時刻t4において制御信号G4がロー状態に変化すると略同時に制御信号G1はハイ状態になり、以降、制御信号G3、G4がロー、制御信号G1、G5がハイである状態が、上述した時刻t0の直前まで維持される。
【0055】
定常時の処理期間Tpの終了直前には、第3スイッチング部S1はオン状態であり、上述したように、電流源12から供給される一定電流Icが出力電流Ioとして、基板コンデンサCpと浮遊コンデンサCnとによる容量負荷に流れる。時刻t2における出力電圧Vop1(=V6)は、Vop1=-(ΔV/2+Vc)=-[ΔV/2+Ic・(Tp-Ta)/(Cp+Cn)]、により定まる。
【0056】
時刻t2の直前において、制御信号G5がハイ状態に変化して第5スイッチング部S5がオンすると、基板コンデンサCpを含む容量負荷に流れる出力電流Io(=Ic)は停止する。それに代わり、それまでインダクタLoに流れていた一定電流Icは、図7中に一点鎖線矢印で示す経路で還流される。また、時刻t2において制御信号G4がハイ状態に変化し第4スイッチング部S4がオンすると、図7中に実線矢印で示す経路で、合成コンデンサCre(≒Cn)及び合成インダクタ(Ln+Li)による共振電流が浮遊コンデンサCnから流れ出る。ここで、時刻t2における出力電圧Vop1=-(ΔV/2+Vc)が共振によって時刻t4における出力電圧Vop1=ΔV/2近傍にまで変化する共振振幅値により、この場合の共振初期電圧値は(ΔV+Vc)/2である。第4電圧源14の電圧値V4=-Vc/2は、時刻t2における出力電圧Vop1からこの共振初期電圧値を得るための第1ノードN1を基準とした補正値である。共振電流値は、Io=Idb=[{(Vc+ΔV)/2}/√{(Ln+Li)/Cre}]・sinθ、となる。インダクタLiは、時刻t0と時刻t2とにおける共振初期電圧の差異Vc/2が増加したことによる共振電流の増加を、特性インピーダンスの増加によって是正するためのものである。
【0057】
また、浮遊コンデンサCnの電圧値であって共振により急激に変化するステージ電圧Vop2と、シース抵抗Rpの作用により緩慢に変化する基板コンデンサCpの電圧値との差分が、基板表面電圧Vsubとなる。そのため、図7中に破線で示す電流経路に流れる電流Icpは、概ね、この場合の基板表面電圧Vsubを抵抗値(Rp+Zp)で除した値である。
【0058】
時刻t3において、電圧が急速に減少するステージ電圧Vop2と、シース抵抗Rpによって緩慢に変化する基板コンデンサCpの電圧Vcpとが同一値となり、基板表面電圧Vsubは0となる。その後、Vcp>Vop2となった時刻t3以降では、イオンシースの整流作用によるダイオードDpが導通して、図8中に破線矢印で示すように電流Icpが流れる。この電流Icpは基板表面電圧Vsubを抵抗Zpで除したものとなり、大きく増加する。ここで、基板表面電圧Vsubは0を超えて正極方向の電圧となり、放電期間Tdにおける基板コンデンサCpの蓄積電荷の放電に寄与する。また、インダクタLoに流れる電流Icは、上述した場合と同様に維持される。
【0059】
時刻t4において、第4スイッチング部S2がオフすると略同時に第1スイッチング部S1がオンする。このとき、制御部20は、第2電流センサCt2により、第2ノードN2から第3ノードN3に至る経路の電流が0になるのを検出し、第1スイッチング部S1のオン動作をこの電流0のタイミングに同期させることができる。即ち、これは、転流期間Tbにおける半波共振期間(t2~t4)(=π√[(Li+Ln)・Cre])と、Io=Idbの共振電流流通期間(図5(c)参照)とを一致させることを意味する。このとき、出力電圧Vop1の電圧値は理想的にはΔV/2であり、第1電圧源11の電圧値V1と同電位であるので、第1スイッチング部S1の電流であるIrdは流れない。
【0060】
時刻t4において出力電圧Vop1の電圧値が+ΔV/2まで低下していない場合には、図9中に示すように、第1電圧源11から電流Irdが流れる。一方、時刻t4において出力電圧Vop1の電圧値がΔV/2を正極方向に超えてしまっている場合には、電流Irdは逆方向に流れ、出力電圧Vop1は第1電圧源11の電圧値ΔV/2にクランプされる。これにより、出力電圧Vop1の電圧値はいずれにしても第1電圧源11の電圧値ΔV/2(=V1)に短時間で収束し、確実にΔV/2に維持される。ダンピング抵抗Rdはこの電流Irdの余分な振動を抑制する機能を有し、その抵抗値はRd≒2・√(Ln/Cre)に設定することが望ましい。但し、前述のように、ダンピング抵抗Rdは動作上必須の要素ではない。
【0061】
図10のタイムチャートに示すように、制御部20によるタイミング制御の時間的な誤差等の要因によって、第2電流センサCt2による電流Idbの0検出時点よりも時刻t4におけるスイッチング動作が早い場合には、ダイオードD2が導通する。すると、それまで流れていた電流Idbと略同値の電流Id2が、図9中に実線矢印で示す経路で流れ、インダクタLi、Lnの合成インダクタに蓄積されていたエネルギは、第1電圧源11に回生される。これにより、第1スイッチング部S1のオン動作よりも早くオフした第4スイッチング部S4にも過電圧が発生することはなく、この実施形態のパルス電源部3は安全に且つ安定して動作し得る。
【0062】
以上述べたパルスオフ時の転流期間Tbにおける動作は、従来のパルス電源装置において必要であった電流源12を出力端10に結合するための専用のスイッチング部、及び半波共振期間に合わせた転流時間管理等を要することなく達成される。また、図9中に一点鎖線矢印で示すインダクタLoに流れる一定電流Icは、上述した場合と同様に維持される。
【0063】
以上のように本実施形態のパルス電源部3では、パルスオン時、パルスオフ時のいずれの転流期間においても、半波共振期間に合わせた転流時間の厳密な管理等を行うことなく、安定的で良好な動作を実現し得る。また、転流動作時に適切にエネルギを回収し損失を低減することができる。
【0064】
[変形例]
次に、第1実施形態のパルス電源部3に関連する幾つかの変形例について説明する。
図11は、一変形例のパルス電源部3の概略構成図である。この変形例の構成は基本的に第1実施形態と同じであるが、第1電圧源11、第3電圧源13、及び第4電圧源14の電圧V1、V3、V4が異なり、V1=0、V3=-ΔV、V4=-(ΔV+Vc)/2である。従って、第1電圧源11は実体として存在せず短絡状態であり、逆に、第3電圧源13は短絡状態ではなく実体として存在する。制御部20から出力される制御信号G1、G2、G4、G5の動作タイミングに変更はなく、実質的な動作は第1実施形態のそれと同じである。
【0065】
即ち、このときの出力電圧Vop1は、図3(b)に示した波形を、電圧の負極性の方向(つまり縦軸に沿って下方向)にΔV/2だけシフトした形状である。また、このような波形のシフトを反映して、図4図5に示す電圧波形も縦軸の方向に適宜シフトされる。一方で、上述したように、ステージ電圧Vop2は、ブロッキングコンデンサCbにより直流的に浮動0電位が与えられた出力電圧Vop1の波形が、基板表面電圧Vsubの平均電圧である直流電圧分だけ負方向(又は正方向)にそのままシフトされたものであるから、ステージ電圧Vop2の波形は図3(c)に示すものとなる。
【0066】
図12は、他の変形例のパルス電源部3の概略構成図である。この変形例の構成も基本的に第1実施形態と同じであるが、第1電圧源11、第3電圧源13、及び第4電圧源14の電圧V1、V3、V4が異なり、V1=+ΔV、V3=+ΔV/2、V4=-(ΔV-Vc)/2である。従って、この構成では、第1電圧源11及び第3電圧源13がいずれも短絡状態ではなく実体として存在する。制御部20から出力される制御信号G1、G2、G4、G5の動作タイミングに変更はなく、実質的な動作は第1実施形態のそれと同じである。
【0067】
即ち、このときの出力電圧Vop1は、図3(b)に示した波形を、電圧の正極性の方向(つまり縦軸に沿って上方向)にΔV/2だけシフトした形状である。また、このような波形のシフトを反映して、図4図5に示す電圧波形も縦軸の方向に適宜シフトされる。一方で、上述したように、ステージ電圧Vop2は、ブロッキングコンデンサCbにより直流的に浮動0電位が与えられた出力電圧Vop1の波形が、基板表面電圧Vsubの平均電圧である直流電圧分だけ負方向(又は正方向)にそのままシフトされたものであるから、ステージ電圧Vop2の波形は図3(c)に示すものとなる。
【0068】
第1実施形態のパルス電源部3における転流期間Tbの動作では、上述したように、第2ノードN2から第3ノードN3に至る経路の電流の0検出時点よりも時刻t4でのスイッチング動作が早い場合でも、ダイオードD2が導通することによって共振電流の流れを継続できる。また、出力電圧Vop1の電圧が+ΔV/2にまで達しない場合でも、第1電圧源11のクランプ作用によって電圧値を+ΔV/2に補償できる。但し、出力電圧Vop1の電圧値が上記のような補償動作を行える範囲を超えている場合には、第4電圧源14の電圧V4を調整する必要がある。
【0069】
図10に示したタイムチャートでは、電流0の検出時点よりも時刻t4でのスイッチング動作を、極端に早めた状態を示している。スイッチング部S4がオフ状態になったことで出力電流Io(=Idb)である共振電流が遮断されると、ダイオードD2が導通し、図9に実線矢印で示す経路で電流Id2が流れ、共振電流期間が延長される。これは、図10中に示す時刻t4を、図5における時刻t4に相当する図10中の時刻t4aまで移動させることに相当する。また、図9中に示す経路で第1電圧源11から電流Irdが流れ、出力電圧Vop1の電圧ΔV/2を確保できる。即ち、このことは、第1実施形態のパルス電源部3に対し、第2電流センサCt2を除いて、転流期間Tbにおける動作について、第2ノードN2から第3ノードN3に至る経路の電流の0検出、及び、この0検出のタイミングと時刻t4におけるスイッチング動作とを同期させる機能、を共に省略できることを意味している。そこで、そうした機能を省いても構わない。
【0070】
但し、図10に示したタイムチャートにおける時刻t4と時刻t4aとの乖離が大きくなるに伴って電流Irdが増加し、ダンピング抵抗Rdにおける電力消費も増加する。そのため、ダンピング抵抗Rdの電力耐量に注意を要する。また、このダンピング抵抗Rdの電力消費の増加に対応して、時刻t4における制御信号G1のハイ状態への変化によりスイッチング部S1がオンするタイミングを、電流Id2が0となる点である時刻t4a近辺に移動させることで、電流Irdを減少させることもできる。
【0071】
一方、上記実施形態及び各変形例のパルス電源部3では、プラズマのアーク放電等によって処理期間Tpにおいてコンデンサ負荷が短時間短絡した場合、上述したような制御部20における電流0検出と時刻t4でのスイッチング動作との同期制御に乱調を生じ、制御の制定時間が増加したり長い時間に亘って制定しない状況が生じたりするおそれがある。しかしながら、プラズマエッチングプロセスの特異性により、微小なアーク放電であればパルス電源部を停止させることなく継続して動作させることもあるので、敢えて上述したような同期的な制御を実行せず、非同期制御とすることもあり得る。
【0072】
こうしたことから、パルス電源部3の動作の開始直後に、電流0検出と時刻t4のスイッチング動作との同期的制御を実施し、この同期的制御によって確定した時刻t4に対応するデューティ比をごく僅か(例えば0.01程度)だけ小さくして進み余裕を持たせた固定値を時刻t4として以降の制御(実質的な非同期制御)を行ってもよい。即ち、上記の同期的な制御は、本発明に係るパルス電源部において必須の事項ではない。
【0073】
第1実施形態のパルス電源部3において、第2ノードN2と第3ノードN3との間に配置されたインダクタLiは、時刻t0及び時刻t2(転流期間Ta、Tbにおける開始時点)における共振初期電圧値の差異による共振電流の増加を、特性インピーダンスの増加によって補償する機能を有する。従って、仮に時刻t2における共振経路の電流増加にスイッチング素子等の回路デバイスが対応可能であれば、インダクタLiを省略する構成を採ることが可能である。これは転流期間Tbを短縮するうえでも望ましい。
【0074】
図13は、インダクタLiを省略した一変形例のパルス電源部の概略構成図である。図示するように、第1実施形態において第2ノードN2と第4ノードN4との間に接続されていたスイッチング部S3は実質的に第2ノードN2と同じである第3ノードN3と第4ノードN4との間に移動される。このときダイオードD2は不要であり、スイッチング部S3の逆並列ダイオードD3がダイオードD2の代わりとして機能し得る。また、前述の計算式等で示した合成インダクタ(Li+Ln)のインダクタンス値は、配線インダクタLnのインダクタンス値のみとなる。
【0075】
図14は、図13に示した構成をさらに簡素化したパルス電源部の概略回路図である。このパルス電源部3では、共振初期電圧値を得るための第1ノードN1を基準とした補償電圧である電圧V4を出力する第4電圧源14を省略している。これは第4電圧源14の電圧を0(短絡)としたのと実質的に同じであり、V4=0であるとみることができる。
【0076】
このようにV4=0である場合、パルスオフ時の転流期間Tbの共振初期電圧は、Vop1(t2)=-{(ΔV/2)+Vc}であり、半波共振期間終了後には、Vop1(t4)={(ΔV/2)+Vc}となる。これにより、出力電圧Vop1は、第1電圧源11の電圧+ΔV/2よりもVcだけ高くなってしまい+ΔV/2と大きく乖離するので、前述したように電圧クリップの作用によって+ΔV/2に補償することはできない。そこで、この場合には、半波共振期間に相当する第2ノードN2から第3ノードN3に至る経路の電流0検出点よりもスイッチング部S2がオフするタイミングである時刻t4を、例えば図10に示す時刻t4に比べても更に一層早め、共振電流Idbの流れる期間をより短縮して、時刻t4における出力電圧Vop1≒ΔV/2となるようにする。また、時刻t4における制御信号G1のハイ状態への変化によってスイッチング部S1がオンするタイミングを、電流Id2が0となる点である時刻t4a付近に移動させ、電流Irdを減少させるとよい。これにより、図14に示すパルス電源部3においても、良好な転流動作を実現することができる。
【0077】
図15は、さらに他の変形例によるパルス電源部3の概略回路図である。この実施形態の基本的な構成は第1実施形態と同じであるが、高速定電流電源Apを電流源12と並列に設けている。
【0078】
この高速定電流電源Apは、制御部20による設定電流値+Icの指示に応じて、電流源12による電流Icに+Icだけ電流を加算するものである。この加算される電流+Icは、プラズマリアクタPrのガス圧の変化やイオン源用プラズマ電源部2の出力変動によってシースの条件が変化し、基板表面電圧Vsubが変化する場合に、プロセス制御部1からの基板表面電圧Vsubの修正指令に応じて適用され得る。従って、電流+Icはこの基板表面電圧Vsubの変化分のみに対応するための電流値であり、電流源12による電流Icに比較して小電流であるので、高速定電流電源Apの出力は小電力容量でよい。そのため、小容量で高周波特性の良いスイッチング素子、例えばガリウムナイトライド(GAN)等による素子を用いることができ、PWMスイッチング周波数の高周波化と位相シフトマルチレベルカスケードコンバータ等によるマルチフェーズ化を採用することで高速制御が可能となる。
【0079】
なお、以上の説明に用いた数式等により得られた各値等は、回路抵抗等を含まない理想値であるから、設定値V1、V3、V4等を含めて、全ての設定値は実動状態に応じて適宜に是正することが望ましいことは言うまでもない。
【0080】
また、上記実施形態や変形例はあくまでも本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜修正、変更、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【符号の説明】
【0081】
1…プロセス制御部
2…イオン源用プラズマ電源部
3…バイアス用パルス電源部
4…処理室
5…プラズマ
6…基板
7…ステージ
9…接地端
10…出力端
12…電流源
11、13、14、15…電圧源
20…制御部
S1、S2、S4、S5…スイッチング部
D1、D2、D3、D4、D5、Da、Db、Dc…ダイオード
N1、N2、N3、N4…ノード
Ct1、Ct2…電流センサ
Cb…ブロッキングコンデンサ
Cn…浮遊コンデンサ
Cp…基板コンデンサ
Cs…シースコンデンサ
Dp…シースダイオード
Lo、Li…インダクタ
Ln…配線インダクタ
Rd…ダンピング抵抗
Rp…シース抵抗
Zp…プラズマ抵抗
【要約】      (修正有)
【課題】回路構成及び制御を簡単化しながら良好な転流を実現する。
【解決手段】電圧V1を出力する電圧源11、電圧V3を出力する電圧源13、電圧V4を出力する電圧源14、を各々出力端10に選択するスイッチS1、S3、S4と、スイッチS3を介して出力端10と接地端9との間に結合される電流源12と、を備える。制御部20は、第2の半波共振によって電圧V1近傍まで下降したあとスイッチS1をオンして出力電圧Vop1を低いレベルに維持し、スイッチS3をオンさせてコンデンサ負荷、インダクタLn等を含む共振ループで第1の半波共振の電流を流して出力電圧Vop1を上昇させる。出力電圧Vop1が電圧V5になり、電流源12の直流電流を流すことで電圧V6まで上昇したときスイッチS4をオンさせ、コンデンサ負荷、インダクタLn等を含む共振ループで第2の半波共振の電流を流して出力電圧Vop1を電圧V1まで下降させる。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15