(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】車内環境設定装置、車両および車内環境設定方法
(51)【国際特許分類】
B60R 16/037 20060101AFI20241113BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20241113BHJP
B60Q 3/80 20170101ALI20241113BHJP
B60R 16/02 20060101ALI20241113BHJP
B60R 11/04 20060101ALN20241113BHJP
【FI】
B60R16/037
G06N20/00
B60Q3/80
B60R16/02 660B
B60R11/04
(21)【出願番号】P 2020128534
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】田中 真
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-169704(JP,A)
【文献】特開2018-151684(JP,A)
【文献】特開2018-086135(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0332902(US,A1)
【文献】特開2019-123434(JP,A)
【文献】特開2020-068973(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0074506(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 16/037
G06N 20/00
B60Q 3/80
B60R 16/02
B60R 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の乗員に関する乗員情報を取得する乗員情報取得部と、
前記乗員情報取得部により取得された乗員情報に基づいて、前記乗員の感情を推定するとともに、推定した前記乗員の感情を数値化した、感情値を算出する感情推定部と、
車内環境を設定する環境設定部と、
前記環境設定部により設定された車内環境と前記乗員の感情との対応関係を学習する学習部と、
前記感情推定部により推定された前記乗員の感情と、前記学習部により学習された対応関係とに基づいて、目標車内環境を決定する環境決定部と、を有し、
前記環境設定部は、前記車内環境が前記環境決定部により決定された目標車内環境になるように、前記車両に搭載された機器に設定変更指令を出力し、
前記感情推定部は、前記乗員情報取得部により取得された乗員情報に基づいて、前記乗員の感情を表す複数のパラメータのそれぞれに対応する感情を推定し、
前記環境決定部は、前記複数のパラメータのうち予め前記乗員により指定された任意のパラメータを基準パラメータとして、前記基準パラメータに対応する前記乗員の感情の前記感情値が閾値未満であるとき、該感情値が前記閾値以上になるように前記目標車内環境を決定
し、
前記機器には、前記車両の車内に設けられた照明装置が含まれ、
前記設定変更指令には、前記照明装置から発せられる光の色、および、前記光の強さのいずれかの設定値が含まれ、
前記環境決定部は、前記基準パラメータに対応する前記乗員の感情が喜びであるとき、第1時点において前記環境設定部により前記設定変更指令が送信された後、第2時点において前記感情値が前記閾値未満である場合に、前記光の色が高揚効果のあるオレンジ系の色になるように第1の前記目標車内環境を決定し、
前記環境決定部はさらに、前記第1の前記目標車内環境に対応した第1の前記設定変更指令が前記環境設定部により出力された後、前記感情値が低下した場合には、前記光の色が沈静効果のある緑系の色になるように第2の前記目標車内環境を決定し、
前記学習部は、前記第1の前記設定変更指令、または、前記第2の前記目標車内環境に対応した第2の前記設定変更指令が前記環境設定部により出力された後に、前記感情値が前記閾値以上になると、前記第2の前記設定変更指令に含まれる前記光の色の前記設定値と、前記第1時点における前記感情値とに基づいて、前記対応関係を学習することを特徴とする車内環境設定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車内環境設定装置において、
前記乗員情報には、前記乗員の表情、体動、声色または前記乗員が発した単語のうちのいずれかを示す情報が含まれ
、
前記感情推定部は、前記車両の前記乗員が複数である場合に、複数の前記乗員の各々の感情値に基づいて、複数の前記乗員の全体の感情を表す前記感情値を算出することを特徴とする車内環境設定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車内環境設定装置において、
前記乗員情報は、前記乗員の顔を含む画像であることを特徴とする車内環境設定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車内環境設定装置において、
前記感情推定部が設けられた外部のサーバと、
前記サーバとの通信を行う通信部とをさらに有し、
前記乗員情報取得部は、前記車両に搭載され前記乗員の顔を撮像するカメラの撮影画像を前記乗員情報として取得し、
前記通信部は、前記乗員情報取得部により取得された前記乗員情報を前記サーバに送信し、
前記感情推定部は、前記通信部から送信された前記乗員情報に基づいて前記乗員の感情を推定し、
前記環境決定部は、前記通信部を介して前記サーバから受信された前記感情推定部の推定結果と、前記学習部により学習された対応関係とに基づいて、前記目標車内環境を決定することを特徴とする車内環境設定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車内環境設定装置において、
前記環境決定部は、前記通信部が前記サーバから前記感情推定部の推定結果を受信できたか否かを判定し、前記通信部が前記感情推定部の推定結果を取得できた場合に、前記目標車内環境を決定することを特徴とする車内環境設定装置。
【請求項6】
請求項1から5のうちのいずれか1項に記載の車内環境設定装置において、
前記環境決定部は、前記乗員により携帯される携帯通信端末から、前記基準パラメータを指定する指令を取得し、該指令により指定された基準パラメータに関する前記感情値が前記閾値以上になるように前記目標車内環境を決定することを特徴とする車内環境設定装置。
【請求項7】
請求項
1から6のうちのいずれか1項に記載の車内環境設定装置において、
前記機器にはさらに、前記車両の車内に設けられたスピーカが含まれ、
前記スピーカから発せられる音には、音楽が含まれ
前記環境設定部は、前記音楽を含む前記設定変更指令を前記機器に送信したとき、該設定変更指令を送信してから前記機器による前記音楽の再生が終わるまでの間、前記車内環境の新たな設定を行わないことを特徴とする車内環境設定装置。
【請求項8】
請求項1から
7のうちのいずれか1項に記載の車内環境設定装置を備えることを特徴とする車両。
【請求項9】
車両の乗員に関する乗員情報を取得する取得ステップと、
取得された乗員情報に基づいて、前記乗員の感情を推定するとともに、推定した前記乗員の感情を数値化した、感情値を算出する推定ステップと、
車内環境と前記乗員の感情との対応関係を学習する学習ステップと、
推定された前記乗員の感情と学習された前記対応関係とに基づいて、目標車内環境を決定する決定ステップと、
前記車内環境が決定された目標車内環境となるように、前記車両に搭載された機器に設定変更指令を出力する出力ステップとを、コンピュータにより実行することを含み、
前記推定ステップにおいて、前記乗員情報に基づいて、前記乗員の感情を表す複数のパラメータのそれぞれに対応する感情が推定され、
前記決定ステップにおいて、前記複数のパラメータのうち予め前記乗員により指定された任意のパラメータを基準パラメータとして、前記基準パラメータに対応する前記乗員の感情の前記感情値が閾値未満であるとき、該感情値が前記閾値以上になるように前記目標車内環境が決定され
、
前記機器には、前記車両の車内に設けられた照明装置が含まれ、
前記設定変更指令には、前記照明装置から発せられる光の色、および、前記光の強さのいずれかの設定値が含まれ、
前記決定ステップにおいて、前記基準パラメータに対応する前記乗員の感情が喜びであるとき、第1時点において前記設定変更指令が送信された後、第2時点において前記感情値が前記閾値未満である場合に、前記光の色が高揚効果のあるオレンジ系の色になるように第1の前記目標車内環境を決定し、前記第1の前記目標車内環境に対応した第1の前記設定変更指令が出力された後、前記感情値が低下した場合には、前記光の色が沈静効果のある緑系の色になるように第2の前記目標車内環境を決定し、
前記学習ステップにおいて、前記第1の前記設定変更指令、または、前記第2の前記目標車内環境に対応した第2の前記設定変更指令が出力された後に、前記感情値が前記閾値以上になると、前記第2の前記設定変更指令に含まれる前記光の色の前記設定値と、前記第1時点における前記感情値とに基づいて、前記対応関係を学習することを特徴とする車内環境設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車内の明るさ等の環境を設定する車内環境設定装置、車両および車内環境設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、従来、朝、昼間、夜間など一日の時間帯によって変化する生体リズムに合わせて車内の明るさを設定するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1記載の装置では、乗員が快適と感じる色温度や明るさになるように、車内の照明装置を自動制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、乗員が快適と感じる明るさは、同じ時間帯であってもそのときの乗員の感情によって異なる場合がある。したがって、上記特許文献1記載の装置のように、単に生体リズムに合わせて車内の明るさを設定したのでは、車内環境と乗員の感情とが良好に適応しないことがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様である車内環境設定装置は、車両の乗員に関する乗員情報を取得する乗員情報取得部と、乗員情報取得部により取得された乗員情報に基づいて、乗員の感情を推定するとともに、推定した乗員の感情を数値化した、感情値を算出する感情推定部と、車内環境を設定する環境設定部と、環境設定部により設定された車内環境と乗員の感情との対応関係を学習する学習部と、感情推定部により推定された乗員の感情と、学習部により学習された対応関係とに基づいて、目標車内環境を決定する環境決定部と、を有する。環境設定部は、車内環境が環境決定部により決定された目標車内環境になるように、車両に搭載された機器に設定変更指令を出力し、感情推定部は、乗員情報取得部により取得された乗員情報に基づいて、乗員の感情を表す複数のパラメータのそれぞれに対応する感情を推定し、環境決定部は、複数のパラメータのうち予め乗員により指定された任意のパラメータを基準パラメータとして、基準パラメータに対応する乗員の感情の感情値が閾値未満であるとき、該感情値が閾値以上になるように目標車内環境を決定する。機器には、車両の車内に設けられた照明装置が含まれる。設定変更指令には、照明装置から発せられる光の色、および、光の強さのいずれかの設定値が含まれる。環境決定部は、基準パラメータに対応する乗員の感情が喜びであるとき、第1時点において環境設定部により設定変更指令が送信された後、第2時点において感情値が閾値未満である場合に、光の色が高揚効果のあるオレンジ系の色になるように第1の目標車内環境を決定する。環境決定部はさらに、第1の目標車内環境に対応した第1の設定変更指令が環境設定部により出力された後、感情値が低下した場合には、光の色が沈静効果のある緑系の色になるように第2の目標車内環境を決定する。学習部は、第1の設定変更指令、または、第2の目標車内環境に対応した第2の設定変更指令が環境設定部により出力された後に、感情値が閾値以上になると、第2の設定変更指令に含まれる光の色の設定値と、第1時点における感情値とに基づいて、対応関係を学習する。
【0006】
本発明の他の態様である車両は、上記の車内環境設定装置を備える。
【0007】
本発明の他の態様である車内環境設定方法は、車両の乗員に関する乗員情報を取得するステップと、取得された乗員情報に基づいて、乗員の感情を推定とともに、推定した乗員の感情を数値化した、感情値を算出する推定するステップと、車内環境と乗員の感情との対応関係を学習する学習ステップと、推定された乗員の感情と学習された対応関係とに基づいて、目標車内環境を決定する決定ステップと、車内環境が決定された目標車内環境となるように、車両に搭載された機器に設定変更指令を出力する出力ステップとを、コンピュータにより実行することを含み、推定ステップにおいて、乗員情報に基づいて、乗員の感情を表す複数のパラメータのそれぞれに対応する感情が推定され、決定ステップにおいて、複数のパラメータのうち予め乗員により指定された任意のパラメータを基準パラメータとして、基準パラメータに対応する乗員の感情の感情値が閾値未満であるとき、該感情値が閾値以上になるように目標車内環境が決定される。機器には、車両の車内に設けられた照明装置が含まれる。設定変更指令には、照明装置から発せられる光の色、および、光の強さのいずれかの設定値が含まれる。決定ステップにおいて、基準パラメータに対応する乗員の感情が喜びであるとき、第1時点において設定変更指令が送信された後、第2時点において感情値が閾値未満である場合に、光の色が高揚効果のあるオレンジ系の色になるように第1の目標車内環境を決定し、第1の目標車内環境に対応した第1の設定変更指令が出力された後、感情値が低下した場合には、光の色が沈静効果のある緑系の色になるように第2の目標車内環境を決定する。学習ステップにおいて、第1の設定変更指令、または、第2の目標車内環境に対応した第2の設定変更指令が出力された後に、感情値が閾値以上になると、第2の設定変更指令に含まれる光の色の設定値と、第1時点における感情値とに基づいて、対応関係を学習する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、車内環境を乗員の感情に良好に適応させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る車内環境設定システムの概略構成を示すブロック図。
【
図2】本発明の実施形態に係る車載装置の要部構成を示すブロック図。
【
図3】本発明の実施形態に係る情報処理装置の要部構成を示すブロック図。
【
図4】本発明の実施形態に係る車内環境設定装置の他の構成例を説明するためのブロック図。
【
図5】本発明の実施形態に係る情報処理装置のCPUで実行される処理の一例を示すフローチャート。
【
図6】本発明の実施形態に係る情報処理装置における処理を説明するための図。
【
図7】第1変形例に係る車載装置の要部構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、
図1~
図6を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る車内環境設定システム100の概略構成を示すブロック図である。この車内環境設定システム100は、車内の環境設定を行うことが可能なシステムであり、情報処理装置1と、車両2に搭載された車載装置3とを備える。情報処理装置1と車載装置3とは、通信網4を介して互いに通信可能に構成される。通信網4は、携帯電話網やインターネット回線等の無線公衆回線である。なお、本実施形態に係る車内環境設定装置は、情報処理装置1と車載装置3とを含んで構成される。また、
図1には、車載装置3が1つ例示されているが、情報処理装置1には複数の車載装置3が接続されてもよい。すなわち、情報処理装置1は、複数の車両のそれぞれに搭載された車載装置3と通信可能に構成されてもよい。
【0011】
車両2は、自動運転機能を有する自動運転車両として構成される。すなわち、車両2は、車両2の周囲の状況を検出するカメラ、レーダ、ライダ等の各種センサと、走行モータ、ステアリングモータ等の各種アクチュエータとを有し、各種センサからの信号に基づいて各種アクチュエータが制御される。それにより、車両2が目的地に向けて自動走行される。
【0012】
図2は、本実施形態に係る車載装置3の要部構成を示すブロック図である。
図2に示すように、車載装置3には、車両2に搭載された入力部32、センサ群33、通信部34、マイク35、スピーカ36、ディスプレイ37、照明装置38、および駆動部39が接続される。
【0013】
入力部32は、車両2の乗員(運転者など)により操作される装置の総称であり、各種スイッチを含む。なお、ディスプレイ37の表示画面上にタッチパネルを設け、タッチパネルを入力部32として構成することもできる。車載装置3には、入力部32の操作に応じた各種指令や情報が入力される。各種スイッチには、自動運転モードおよび手動運転モードのいずれかを指令する手動自動切換スイッチが含まれる。
【0014】
手動自動切換スイッチは、例えば車両2の乗員が手動操作可能なスイッチとして構成され、スイッチ操作に応じて、自動運転機能を有効化した自動運転モードまたは自動運転機能を無効化した手動運転モードへの切換指令を出力する。手動自動切換スイッチの操作によらず、所定の走行条件が成立したときに、手動運転モードから自動運転モードへの切換、あるいは自動運転モードから手動運転モードへの切換が指令されてもよい。すなわち、手動自動切換スイッチが自動的に切り換わることで、モード切換が手動ではなく自動で行われてもよい。
【0015】
センサ群33は、カメラ331と、着座センサ332と、心拍センサ333と、測位センサ334とを含む。カメラ331は、CCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子を有し、乗員の顔を含む上半身を撮像する。カメラ331は、全ての乗員の表情や姿勢を撮像可能なように、乗車位置(シート位置)に対応して複数設けられる。着座センサ332は、車内の各シートに配置された圧力センサであり、例えば、シートベルトリマインダー用のセンサ(圧力センサ)である。着座センサ332の検出値により、各シートの乗員の有無を判別できる。したがって、着座センサ332の検出値により、車内の乗員の人数を検出するとともに、乗員の体格や性別、年齢(大人か子供か等)などを判別できる。心拍センサ333は、各シートに配置され、各シートの乗員の心拍を検出する。測位センサ334は、例えばGPSセンサであり、GPS衛星から送信された測位信号を受信し、車両2の絶対位置(緯度、経度など)を検出する。なお、測位センサ334には、GPSセンサだけでなく準天頂軌道衛星から送信される電波を利用して測位するセンサも含まれる。センサ群33により取得された撮像画像および検出値等の情報は、車載装置3に入力される。また、センサ群33には、上記レーダ、ライダ等の自動走行に必要なセンサが含まれる。
【0016】
通信部34は、通信網4との間で通信を行う。なお、通信部34は、車内に存在するスマートフォン等の携帯通信端末との間で短距離無線通信を行うこともできる。マイク35は、乗員の発話した音声を取得する。マイク35からの音声信号は、例えばA/D変換器を介し音声データとして車載装置3に入力される。マイク35は、狭指向性を有し、方向によって音声を取得する感度が異なる。マイク35は、乗員の乗車位置に対応して車内に複数設置され、これにより各乗員の発話の有無を特定することができる。
【0017】
スピーカ36は、車載装置3からの指令により、記憶部31に記憶された地図情報、話題、音楽等を内容とした音声を出力する。スピーカ36は、入力部32やマイク35を介して乗員から音声出力の要求があったとき、その要求に応答して音声を提供する。スピーカ36は、乗員からの音声出力の要求がなくても、車載装置3からの指令により自動的に音声を提供することもできる。
【0018】
ディスプレイ37は、目的地設定に関する情報、目的地までの経路案内情報、および経路上の現在位置情報等を表示する。ディスプレイ37の表示内容は、車載装置3により制御される。
【0019】
駆動部39は、乗員の快適性に影響を与える装置を駆動するアクチュエータの総称である。駆動部39は、例えば、車両2に搭載された空調装置(不図示)のモータやコンプレッサと、窓やサンルーフを開閉するためのモータとを含む。また、駆動部39は、上記走行モータ、ステアリングモータ等を含む。
【0020】
車載装置3は、CPU等の演算部30と、ROM、RAM等の記憶部31と、I/Oインターフェース等の図示しないその他の周辺回路とを有するコンピュータを含んで構成される。演算部30は、機能的構成として、情報送信部301と、環境設定部302とを有する。
【0021】
情報送信部301は、センサ群33からの情報(以下、センサ情報と呼ぶ。)とマイク35からの音声データを、通信部34を介して情報処理装置1へ送信する。環境設定部302は、通信部34を介して情報処理装置1から受信した環境設定情報に従って、対象機器に設定変更指令を出力する。設定変更指令には、対象機器の設定を変更するための各種指令や各種データが含まれる。環境設定情報は、車両2の車内環境の設定に関する情報であり、車内環境には、車両2の車内に設けられた照明装置38から発せられる光の色および明るさ(強さ)、車内に設けられたスピーカから発せられる音のいずれかが含まれる。なお、車内環境には、空調装置の設定温度などが含まれてもよい。
【0022】
環境設定部302は、環境設定情報に照明装置38の光の色および強さの設定値に関する情報が含まれる場合には、その設定値に応じた指令を照明装置38に出力する。また、環境設定情報に音楽の楽曲名が含まれる場合には、環境設定部302は、通信部34を介してその楽曲名に対応する音楽データを情報処理装置1(後述する音楽データベース113)から取得して、これをD/A変換器を介してスピーカ36に出力する。さらに、環境設定情報に音声に関する情報が含まれる場合には、環境設定部302は、その音声に対応した音声データを生成し、これをD/A変換器を介してスピーカ36に出力する。さらにまた、環境設定情報に空調装置の設定温度に関する情報が含まれる場合には、環境設定部302は、その設定温度に応じた制御信号を駆動部39に出力する。
【0023】
図3は、本実施形態に係る情報処理装置1の要部構成を示すブロック図である。情報処理装置1は、例えばサーバ装置により構成される。情報処理装置1は、CPU等の演算部10と、ROM、RAM等の記憶部11と、I/Oインターフェース等の図示しないその他の周辺回路とを有するコンピュータを含んで構成される。情報処理装置1は、通信網4との間で通信を行う通信部12を有する。演算部10は、機能的構成として、乗員情報取得部101と、感情推定部102と、環境決定部103と、学習部104とを有する。
【0024】
記憶部11は、地図情報が記憶された地図データベース111と、各種の話題に関する情報が記憶された話題データベース112と、音楽が記憶された音楽データベース113とを有する。地図データベース111には、道路地図データや施設データなどを含む地図情報が記憶される。話題データベース112には、交通情報、天気、時事ネタ等の話題や食べ物、趣味、旅行、仕事、家族に関する話題など、乗員同士の会話に登場すると予想される種々の話題に関する情報が記憶される。音楽データベース113には、洋楽、邦楽、ジャズ、クラシック等、種々のジャンルの音楽データが記憶される。情報処理装置1は、記憶部11に記憶された情報を必要に応じて読み込む。具体的には、情報処理装置1は、車載装置3からの指令に応じて、各データベース111~113の情報を記憶部11から読み出し、読み出した情報を車載装置3に送信する。また、情報処理装置1は、通信部12を介して、外部のサーバ等から受信した話題データや音楽データなどを定期的に取り込み、記憶部11に記憶された情報を更新することもできる。
【0025】
乗員情報取得部101は、通信部12を介して車載装置3から受信したセンサ情報および音声データに基づいて、乗員に関する情報(以下、乗員情報と呼ぶ)を取得する。より具体的には、乗員情報取得部101は、センサ情報に含まれる撮像画像に基づいて車両2の各乗員の表情(口角等)を特定する。また乗員情報取得部101は、センサ情報に含まれる心拍センサ333の検出値に基づいて、乗員の心拍数を特定する。さらに乗員情報取得部101は、センサ情報に含まれる着座センサ332の検出値に基づいて、乗員の着座位置を特定したり、乗員の体動を特定したりする。また乗員情報取得部101は、音声データに基づいて、各乗員の声色や発話の内容を特定する。乗員情報取得部101は、記憶部11の辞書データベース(不図示)に登録された単語を参照することで、音声データに含まれる音声信号を認識し、これにより発話内容を特定する。さらに乗員情報取得部101は、認識した音声信号の音周波数スペクトルに基づいて声色を特定する。
【0026】
乗員情報取得部101は、センサ情報および音声データに基づいて特定したこれらの情報を乗員情報として取得する。なお、乗員情報取得部101は、特定した着座位置に対応するマイク35から音声信号が入力されたか否かを判定することにより各乗員の発話の有無を判定してもよい。また、乗員情報取得部101は、センサ情報に含まれる撮像画像に基づいて乗員の体動を特定してもよい。また、車載装置3が、センサ群33からの情報やマイク35からの音声信号に基づいて乗員情報を生成し、その乗員情報を情報処理装置1に送信し、乗員情報取得部101は、車載装置3から送信された乗員情報を通信部12を介して取得してもよい。
【0027】
感情推定部102は、乗員情報取得部101により取得された乗員情報に基づいて、乗員の感情を推定する。例えば、感情推定部102は、プルチック(Plutchik)の感情の和を用いて、乗員の感情を8つの基本感情(期待(anticipation)、喜び(joy)、受容(trust)、不安(fear)、驚き(surprise)、悲しみ(sadness)、嫌悪(disgust)、怒り(anger))に分類する。感情推定部102は、乗員の表情だけでなく、乗員の発話内容や乗員の発話した音声のアクセントや発音等も考慮して、乗員の感情を感情の輪のいずれかのパターンに当てはめてもよい。そして、感情推定部102は、感情の輪への当てはめに応じて乗員の感情を数値化して、乗員の感情の度合いを表す感情値を導出する。
【0028】
感情推定部102は、喜びなどの好ましい感情(正の感情)に対応する感情値をプラスの値で、悲しみなどの好ましからぬ感情(負の感情)に対応する感情値をマイナスの値で表す。具体的には、正の感情に対応する感情値を0~+10の整数で表し、負の感情に対応する感情値を-10~0の整数で表す。このように、感情が強いほど(感情の輪の中心に近づくほど)、感情値の程度(絶対値)を大きい値で表す。なお、乗員情報に含まれる各乗員の体動に関する情報に基づいて各乗員に動きがあるか否かを判定し、動いていないときにその乗員は睡眠中であると判定することもできる。このとき、感情推定部102は、睡眠中の乗員の各感情に対応する感情値を0としてもよい。また、感情推定部102は、話題データベース112を参照し、乗員同士の発話内容から話題を特定し、車内全体が共通の話題で盛り上がっていると想定されるときには、その話題を考慮して、各乗員の感情を感情の輪のいずれかのパターンに当てはめてもよい。また、各感情の感情値のスケールは、10以外であってもよいし(例えば、100)、感情ごとに異なってもよい。
【0029】
なお、Microsoft社のFACE API(Application Programing Interface)等、外部サーバにより提供されるAPIを使用して乗員の感情を推定することもできる。すなわち、感情推定部を外部サーバに設けることもできる。なお、FACE APIは、Web APIの一種でありMicrosoft社のサーバにより提供される。FACE APIは、入力された人物の顔画像に基づいてその人物の感情を推定し、8つの感情(喜び(happiness)、驚き(surprised)、中立(neutral)、悲しみ(sadness)、恐怖(fear)、怒り(anger)、軽蔑(contempt)、嫌悪(disgust))それぞれのスコア(パーセンテージ)を推定結果として出力する。
【0030】
ここで、感情推定部が外部のサーバに設けられた車内環境設定装置について説明する。
図4は、本実施形態に係る車内環境設定装置の他の構成例を説明するためのブロック図である。
図4の情報処理装置1は、
図3の情報処理装置1の構成と同様であるが、感情推定部102の代わりに感情取得部105を有する。なお、
図4では、データベース111~113を省略して記載している。通信部12には、通信網4を介してサーバ5が接続されている。サーバ5は、CPU等の演算部50と、ROM、RAM等の記憶部51と、I/Oインターフェース等の図示しないその他の周辺回路とを有するコンピュータを含んで構成される。またサーバ5は、通信網4との間で通信を行う通信部52を有する。演算部50は、機能的構成として感情推定部501を有する。サーバ5は、FACE APIを提供するMicrosoft社のサーバであり、感情推定部501は、FACE APIによって構成される。
【0031】
乗員情報取得部101は、センサ情報に含まれる乗員の撮影画像を乗員情報として取得し、感情取得部105は、乗員情報取得部101により取得された乗員の撮影画像を通信部12を介してサーバ5(感情推定部102)に送信する。その際、乗員の撮影画像は、FACE APIの送信機能により通信網4を介してサーバ5に送信される。感情推定部501は、通信部52を介して受信した乗員の撮影画像に基づいて乗員の感情を推定し、推定結果、すなわち8つの感情のスコアを通信部52を介して情報処理装置1に送信する。その際、推定結果は、FACE APIの送信機能によりサーバ5から通信網4を介して情報処理装置1に送信される。感情取得部105は、通信部12を介してサーバ5から受信した感情の推定結果(スコア)を感情値に変換して取得する。例えば、喜びなどの正の感情のスコアが40%(0.40)であるとき、その値を感情値の最大値(+10)に乗算して得られる整数値(+4)を感情値として取得する。また例えば、悲しみなどの負の感情のパーセンテージが30%(0.30)である場合、その値を感情値の最小値(-10)に乗算して得られる整数値(-3)を感情値として取得する。このように、本実施形態に係る車内環境設定装置は、情報処理装置1と車載装置3とサーバ5とを含んで構成されてもよい。なお、感情取得部105は、乗員の撮像画像をサーバ5に送信する際に、乗員の撮影画像の画質をFACE APIにおける画像解析に必要な最低限の画質レベルまで下げてもよい。また、感情取得部105は、乗員の撮像画像をサーバ5に送信する際に、乗員の撮影画像から乗員の顔部分の画像を切り抜き、その画像を送信してもよい。
【0032】
環境決定部103は、感情推定部102により推定された乗員の感情の感情値または感情取得部105により取得された乗員の感情の感情値と、学習部104により学習された乗員の感情と車内環境との対応関係とに基づいて、目標車内環境を決定する。学習部104により学習される乗員の感情と車内環境との対応関係については、後述する。
【0033】
環境決定部103は、喜びや驚きなど任意の感情を基準パラメータとして、感情推定部102により推定されたまたは感情取得部105により取得された基準パラメータの感情値αが閾値Th未満であるとき、感情値αが閾値Th以上になるように目標車内環境を決定する。環境決定部103は、決定した目標車内環境を示す情報、すなわち環境設定情報を、通信部12を介して車両2(車載装置3)に送信する。閾値Thは、感情の種別ごとに予め設定され、記憶部11に記憶される。
【0034】
学習部104は、乗員の感情と車内環境との対応関係を学習し、学習結果を含む情報(以下、対応関係情報と呼ぶ。)を記憶部11に記憶する。学習部104は、上記の学習を各感情のそれぞれに対して行い、感情ごとの学習結果を記憶部11に記憶する。また、学習部104は、上記の学習を各乗員に対して行い、乗員ごとの学習結果を記憶部11に記憶する。
【0035】
図5は、予め情報処理装置1のROMに記憶されたプログラムに従って
図3の情報処理装置1のCPUで実行される処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、所定期間(例えば10分)ごとに繰り返し実行される。ここでは、説明を簡単にするため、乗員の感情のみに基づいて車内環境を決定するものとする。
【0036】
まず、ステップS1で、車載装置3から受信したセンサ情報および音声データに基づいて、乗員情報を取得する。次いで、ステップS2で、乗員情報に基づいて車両2の乗員の感情を推定し、推定した結果に基づいて、基準パラメータとして指定された感情の感情値αを取得する。次いで、ステップS3で、ステップS2で取得された感情値αが予め設定された閾値Th未満であるか否かを判定する。ステップS3で否定されると、処理を終了する。ステップS3で肯定されると、ステップS4で、ステップS2で取得された感情値αと、記憶部11に記憶された対応関係情報とに基づいて、目標車内環境を決定する。ステップS5で、決定された目標車内環境となるように車内環境を設定する。より詳細には、ステップS4で決定された目標車内環境に対応した環境設定情報を車両2(車載装置3)に送信する。
【0037】
ステップS6で、所定時間Δt待機する。所定時間Δtは、環境設定情報が車両2に送信されてから車両2の乗員の感情が変化するまでに要する時間(例えば数秒~数十秒程度)に設定される。ステップS7,S8で、ステップS1,S2と同様の処理をおこない乗員の感情を推定して感情値αを取得する。ステップS9で、ステップS8で取得された感情値αが閾値Th以上であるか否かを判定する。ステップS9で否定されると、ステップS10で、目標車内環境を決定し直してから、ステップS5に戻る。ステップS9で肯定されると、ステップS11で、現在の車内環境の設定値、すなわちS5で車両2に送信した環境設定情報により示される設定値を、ステップS2で取得した感情値αに対応付けて対応関係情報に記憶する。このとき、記憶部11に記憶された対応関係情報にステップS2で取得した感情値αに対応する車内環境の設定値がすでに記憶されている場合には、その設定値を現在の車内環境の設定値で上書きする。
【0038】
なお、ステップS4において、ステップS2で取得された感情値αに対応する車内環境の設定値が対応関係情報に記憶されていない場合には、予め設定された初期値に基づいて、目標車内環境を決定する。車内環境の設定値の初期値は、例えば、所定のユーザを対象にして、車内環境の設定値を変更しながらユーザの感情を推定することにより取得されたデータを学習データ(教師データ)として予め学習部104に学習させることで決定する。なお、車内環境の設定値の初期値はその他の方法で決定されてもよい。
【0039】
本実施形態に係る情報処理装置1における処理をまとめると以下のようになる。
図6は、本実施形態に係る情報処理装置1における処理を説明するための図である。ここでは、説明を簡単にするため、車内環境を照明装置38の明るさ(強さ)のみとする。また、乗員の感情のみに基づいて車内環境を決定するものとする。
【0040】
図6の時点t1で、点P1に示すように乗員の感情値αが閾値Th未満である場合、環境決定部103は、目標車内環境を決定し、その目標車内環境(第1車内環境)を示す環境設定情報を車両2に送信する(ステップS1~S5)。環境設定情報が送信されてから所定時間Δt経過後の時点t2で、環境決定部103は、乗員の感情値αが閾値Th以上であるか否かを判定する(ステップS6~S9)。点P2に示すように乗員の感情値αが閾値Th未満である場合、環境決定部103は、感情値αの変化の程度Δα1に応じて、目標車内環境を決定し直す(ステップS10)。例えば、
図6に示すように、乗員の感情の改善の度合いが低い場合には、照明装置38の明るさの設定値をΔα1に応じて現在より大きい値に設定する。環境決定部103は、決定し直した目標車内環境(第2車内環境)を示す環境設定情報を車両2に送信する(ステップS5)。環境設定情報が送信されてから所定時間Δt経過後の時点t3で、環境決定部103は、乗員の感情値αが閾値Th以上であるか否かを判定する(ステップS6~S9)。点P3に示すように乗員の感情値αが閾値Th以上である場合、学習部104は、時点t1で取得された感情値αと現在の車内環境(第2車内環境)の設定値とを対応付けた情報を学習結果(対応関係情報)として記憶部11に記憶する(ステップS11)。このような学習を繰り返すことで、乗員の感情値α(<Th)に対して設定すべき車内環境の設定値を精度よく導出することができる。
【0041】
一方、時点t2で第2車内環境を設定した後に、乗員の感情値αが悪化(点P2→点P4)した場合、乗員にとって第2車内環境が適さない(照明装置38の明るさが明るすぎる)と判定し、目標車内環境を再度決定し直す(ステップS10)。例えば、照明装置38の明るさの設定値をΔα2に応じて現在より小さい値に設定する。環境決定部103は、Δα2に応じて決定し直した目標車内環境(第3車内環境)を示す環境設定情報を車両2に送信する(ステップS5)。その後、情報処理装置1は、乗員の感情値αが閾値Th以上になるまで同様の処理を繰り返す(ステップS5~S10)。そして、乗員の感情値αが閾値Th以上になると、その時点における車内環境(第n車内環境)の設定値を時点t1で取得された感情値αに対応付けて対応関係情報に記憶する(ステップS11)。
【0042】
本発明の実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)本実施形態に係る車内環境設定装置は、車両2の乗員に関する乗員情報を取得する乗員情報取得部101と、乗員情報取得部101により取得された乗員情報に基づいて、乗員の感情を推定する感情推定部102と、車内環境を設定する環境設定部302と、環境設定部302により設定された車内環境と乗員の感情との対応関係を学習する学習部104と、感情推定部102により推定された乗員の感情と、学習部104により学習された対応関係とに基づいて、目標車内環境を決定する環境決定部103とを有する。環境設定部302は、車内環境が環境決定部103により決定された目標車内環境となるように、車両2に搭載された機器に設定変更指令を出力する車内環境を設定する。このように、乗員の感情と車内環境とを関連付けて学習し、その学習結果と乗員情報から推定された乗員の感情とに基づいて車内環境を設定することで、車内環境を乗員の感情に良好に適応させることができる。
【0043】
(2)感情推定部102は、推定した乗員の感情を数値化し、環境決定部103は、感情推定部102により数値化された乗員の感情が閾値未満であるとき、目標車内環境を決定する。これにより、感情値が閾値未満のときにのみ車内環境の設定が行われるようになり、車内環境設定装置の処理負荷を軽減するできる。
【0044】
(3)感情推定部102は、乗員情報取得部101により取得された乗員情報に基づいて、乗員の感情を表す複数のパラメータのそれぞれに対応する感情を推定し、環境決定部103は、複数のパラメータのうち任意のパラメータを基準パラメータとして、基準パラメータに対応する感情が閾値以上になるように目標車内環境を決定する。これにより、リラックスしたい、集中したいなどの乗員の嗜好に応じた車内環境を設定することができる。
【0045】
(4)乗員情報取得部101は、所定時間ごとに乗員情報を取得する。このように、所定時間ごとに乗員情報を取得することによって、車内環境の変化が煩雑になることを防ぐとともに、車内環境設定装置の処理負荷を軽減することができる。
【0046】
(5)乗員情報には、乗員の表情、体動、声色または乗員が発した単語のうちのいずれかを示す情報が含まれる。これにより、乗員の感情を精度よく推定することができる。
【0047】
(6)車両2の車内には、照明装置38およびスピーカ36が搭載され、設定変更指令には、照明装置38から発せられる光の色、光の強さ、および、スピーカ36から発せられる音のいずれかが含まれる。これにより、車内環境の設定のバリエーションを増やすことができ、車内環境を乗員の感情により良好に適応させることができる。
【0048】
(7)乗員情報は、乗員の顔を含む画像である。本実施形態に係る車内環境設定装置は、感情推定部501が設けられた外部のサーバ5と、サーバ5との通信を行う通信部12とをさらに有する(
図4)。乗員情報取得部101は、車両2に搭載され乗員の顔を撮像するカメラ331の撮影画像を乗員情報として取得する。通信部12は、乗員情報取得部101により取得された乗員情報をサーバ5に送信する。感情推定部501は、通信部12から送信された乗員情報に基づいて乗員の感情を推定する。環境決定部103は、通信部12を介してサーバ5から受信された感情推定部501の推定結果を受信し、受信した推定結果と学習部104により学習された対応関係とに基づいて、目標車内環境を決定する。このように、乗員の顔を含む画像を乗員情報とすることにより、乗員の感情が反映されやすい乗員の表情に基づいて乗員の感情を推定することができ、乗員の感情を精度よく推定することができる。また、感情推定部を外部のサーバ5に設けることで、情報処理装置1の処理負荷を軽減できるとともに、情報処理装置1の製造コストを低減できる。さらに、通信部12はカメラ331の撮影画像をそのまま(加工等せずに)サーバ5に送信するだけでよいので、情報処理装置1の処理負荷をさらに軽減することができる。
【0049】
(8)本実施形態の車内環境設定装置は、車内環境設定方法として用いることもできる。車内環境設定方法においては、車両2の乗員に関する乗員情報を取得するステップ(ステップS1)と、取得された乗員情報に基づいて、乗員の感情を推定するステップ(ステップS2)と、車内環境と乗員の感情との対応関係を学習するステップ(ステップS11)と、推定された乗員の感情と学習された対応関係とに基づいて、目標車内環境を決定するステップ(ステップS4)と、車内環境が決定された目標車内環境となるように、車両2に搭載された機器36,38に設定変更指令を出力するステップ(ステップS5)とを、コンピュータにより実行することを含む。これにより、車内環境を乗員の感情に良好に適応させることができる。
【0050】
上記実施形態は種々の形態に変形することができる。以下、変形例について説明する。<第1変形例>
図7は、第1変形例に係る車載装置3の要部構成を示すブロック図である。なお、
図7では、図面の簡略化のため、車載装置3に接続された機器32~39の記載を省略している。上記実施形態では、情報処理装置1の演算部10が、乗員情報取得部101と、感情推定部102と、環境決定部103と、学習部104とを有するようにしたが、
図7に示すように、これらの機能的構成を車載装置3が有してもよい。すなわち、車両2が、車内環境設定装置を備えるように構成されてもよい。
図7の車載装置3は、例えば車両2に搭載されるナビゲーション装置等をベースとして構成される。
【0051】
図7の車載装置3は、
図2の情報送信部301の代わりに、乗員情報取得部303と、感情推定部304と、環境決定部305と、学習部306とを有する。乗員情報取得部303、感情推定部304、環境決定部305、および学習部306の構成はそれぞれ、乗員情報取得部101、感情推定部102、環境決定部103、および学習部104と同様である。なお、乗員情報取得部303は、センサ群33により取得された撮像画像および検出値等の情報とマイク35からの音声信号とに基づいて車両2の各乗員の表情や発話の内容等を特定し、乗員情報を取得する。また、環境決定部305は、環境設定情報を記憶部31に記憶し、環境設定部302は、記憶部31に記憶された環境設定情報に従って、対象機器に各種データや各種指令を出力する。このように、センサ群33に直接接続された車載装置3で乗員の感情を推定することで、乗員の感情を即座に推定することが可能となり、より良好に車内環境を乗員の感情に適応させることができる。
【0052】
<第2変形例>
また、上記実施形態では、任意の感情を基準パラメータとしたが、基準パラメータをユーザが指定可能であってもよい。例えば、通信部12を介して、車両2の乗員等のユーザが携帯するスマートフォン等の携帯通信端末から、基準パラメータを指定する指令を取得し、その指令により指定された基準パラメータの感情値が閾値以上になるように目標車内環境を決定してもよい。より具体的には、ユーザは、携帯通信端末の操作部(タッチパネル等)を介して、携帯通信端末にインストールされた基準パラメータを指定するためのプログラムを起動させ、そのプログラムに対して所望の感情を基準パラメータとして指定する。携帯通信端末は、ユーザが基準パラメータに指定した感情を示す情報(以下、基準パラメータ情報と呼ぶ。)を情報処理装置1に対して送信する。情報処理装置1の演算部10は、通信部12を介して受信した基準パラメータ情報を記憶部11に記憶する。環境決定部103は、記憶部11に記憶された基準パラメータ情報により示される感情の感情値に基づいて、目標車内環境を決定する。このような構成により、乗員が基準パラメータを指定することができるので、乗員の嗜好により適した車内環境を設定することができる。
【0053】
<第3変形例>
また、上記実施形態では、感情取得部105が、通信部12を介してサーバ5に乗員情報取得部101により取得された乗員情報を送信し、通信部12を介してサーバ5から乗員の感情の推定結果を受信するようにした。しかし、サーバ5との通信エラーが発生した場合、通信部12は、サーバ5に乗員情報を送信したりサーバ5から乗員の感情の推定結果を受信したりできない可能性がある。したがって、環境設定部302は、通信部12が乗員の感情の推定結果を受信できたか否かを判定し、通信部12が乗員の感情の推定結果を受信できたと判断した場合に、目標車内環境を決定してもよい。これにより、乗員の感情の推定結果が正常に取得された場合にのみ目標車内環境が決定されるので、車内環境が急変したり、乗員の感情を不要に悪化させたりすることを抑制することができる。なお、上記の実施形態では、感情推定部501は、FACE APIによって構成される例を説明したが、感情推定部501は、FACE API以外の感情認識用のAPIによって構成されてもよい。
【0054】
また、上記の実施形態では、情報処理装置1が感情推定部102の代わりに感情取得部105を有する例(
図4)を説明したが、情報処理装置1は、感情推定部102とともに感情取得部105を有してもよい。例えば、感情推定部102は、乗員の発話内容や乗員の発話した音声のアクセントや発音等と、感情取得部105により取得された乗員の感情の推定結果とに基づいて、乗員の感情を推定してもよい。
【0055】
<第4変形例>
また、上記実施形態では、感情推定部102は、乗員の感情を8つの基本感情(期待、喜び、受容、不安、驚き、悲しみ、嫌悪、怒り)に分類する例を示した。しかし、感情推定部102は、乗員の感情を8つの基本感情と、隣り合う2つの基本感情の組み合わせによる8つの応用感情(楽観、愛、服従、畏怖、失望、自責、軽蔑、攻撃性)とに分類してもよい。
【0056】
<第5変形例>
また、上記実施形態では、1つの感情を基準パラメータに指定したが、複数の感情を基準パラメータに指定してもよい。そして、基準パラメータに指定した複数の感情の感情値に基づいて車内環境を設定してもよい。例えば、怒りと軽蔑とが基準パラメータに指定されていて、手動運転モード時に乗員(運転者)の怒りまたは軽蔑の程度(感情値の絶対値)が閾値を越えたときに、環境決定部103は、自動運転モードへの切換指令を含む環境設定情報を車両2に送信してもよい。環境設定部302は、自動運転モードへの切換指令を含む環境設定情報を受信すると、運転モードを自動運転モードに切り換えるように促す情報を乗員に対して報知する。例えば、環境設定部302は、自動運転モードへの切り換えを促す音声データをD/A変換器を介してスピーカ36に出力する。また例えば、環境設定部302は、自動運転モードへの切り換えを促す文字情報等をディスプレイ37に出力する。このように、環境決定部103と環境設定部302とが、乗員の怒りまたは軽蔑の程度が閾値を越えたときに、自動運転モードへの切り換えを乗員に促す情報を報知する報知部として機能してもよい。このような構成により、乗員(運転者)による煽り運転や危険運転を抑制することができる。
【0057】
なお、環境設定部302は、自動運転モードへの切り換えを促す音声データ等を出力する代わりに、運転モードを手動運転モードから自動運転モードへ切り換えてもよい。また、自動運転モードに切り換えた後に、乗員(運転者)の怒りおよび軽蔑の程度が閾値を下回ったときに、運転モードを自動運転モードから手動運転モードへ切り換えてもよい。
【0058】
<第6変形例>
また、乗員にリラックスしてもらうことを目的とした専用シートユニット(以下、単に専用シートと呼ぶ。)が車両2に設けられている場合には、専用シートに着座している乗員の感情に基づいて、専用シートを調整してもよい。より詳細には、乗員の喜びと驚きを基準パラメータとして、喜びのスコアが30%(0.30)以上であり、且つ、驚きのスコアが30%以下(0.30)になるように、すなわち、喜びの感情値が+3以上、且つ、驚きの感情値が-3以上になるように、専用シートのシートバックの傾きやヘッドレストの位置などを調整してもよい。
【0059】
図8は、専用シートの外観を示す図である。
図8に示すように、専用シート7は、乗員が着座可能なシートユニットであり、主に車両2の後部座席に適用される。専用シート7は、シートバック70、シートクッション71、オットマン72、ヘッドレスト73、および支持部材74を有する。なお、シートバック70、シートクッション71、オットマン72、およびヘッドレスト73はそれぞれ、所定の長さ、幅、および厚さを有する。以下では、シートバック70等の長さ方向、幅方向、および厚さ方向をそれぞれ、シートバック70等の上下方向、左右方向、および高さ方向と表現する。
【0060】
図9は、専用シート7の構成を模式的に示す図である。なお、
図9は、専用シート7が適用された車両2の後部座席を車両2の左方向から見たときの模式図であり、
図9における左右方向は車両2の前後方向を表す。
図9に示すように、専用シート7は、各種アクチュエータ80~83と、乗員検知センサ84とをさらに有する。シートバック70は、シートバック可動機構80により、シートクッション71に対して後傾可能である。シートクッション71は、シートクッション可動機構81によりその前端部が上下方向に昇降するように回動可能である。つまり、シートクッション71は、チルト角を変更可能である。オットマン72は、左右方向に沿って延出した回動軸を介してシートクッション71の前端部に支持され、オットマン可動機構82により回動軸周りに回動可能である。オットマン可動機構82は、オットマン72が垂下している収納状態から、オットマン72がシートクッション71の前端よりも前側に張り出している展開状態へ、あるいは展開状態から収納状態へ、オットマン72を移動(回動)させる。ヘッドレスト73は、下方に延出する支柱(ピラー)を有し、ピラーは、シートバック70の上端部に差し込まれる。ヘッドレスト73は、ヘッドレスト可動機構83により、シートバック70の長手方向に移動可能である。乗員検知センサ84は、シートクッション71の内部に設けられ、シートクッション71に乗員が着座していることを検知するセンサであり、
図2の着座センサ332によって構成される。
【0061】
第6変形例に係る情報処理装置1における処理をまとめると以下のようになる。なお、ここでは、説明の簡単のため、設定対象の車内環境を専用シート7の状態のみとする。環境決定部103は、目標車内環境を決定し、その目標車内環境を示す環境設定情報を車両2に送信する(S1~S5)。環境設定情報が送信されてから所定時間経過後に、環境決定部103は、乗員Pの喜びの感情値が+3以上であり、かつ、乗員Pの驚きの感情値が-3以上であるか否かを判定する(S6~S9)。喜びの感情値が+3以上であり、かつ、乗員Pの驚きの感情値が-3以上でない場合には、環境決定部103は、乗員Pがさらにリラックスできるように、各種アクチュエータ80~83の設定値を変更する(S10)。例えば、シートバック70がさらに後傾するようにシートバック可動機構80の設定値を変更する。このとき、環境決定部103は、乗員Pの大腿部の角度(車両2の長さ方向に対する角度)が所定の角度(例えば30度)になるように、シートクッション71のチルト角度やオットマン72の展開度合いを調整してもよい。すなわち、環境決定部103は、シートクッション可動機構81やオットマン可動機構82の設定値を変更してもよい。さらに、環境決定部103は、シートバック70の傾斜角度に合わせてヘッドレスト73の位置を調整してもよい。すなわち、環境決定部103は、ヘッドレスト可動機構83の設定値を変更してもよい。なお、車内環境の設定(S5)は、乗員検知センサ84により専用シートに乗員の着座が検知されているときにのみ実行されてもよい。
【0062】
なお、本変形例において、喜びの感情値(スコア)と驚きの感情値(スコア)とに優先度を設定してもよい。例えば、驚きの感情値を第1優先感情値、喜びの感情値を第2優先感情値として、驚きの感情値に対して喜びの感情値よりも高い優先度を設定してもよい。そして、驚きの感情値および喜びの感情値がともに好ましくない値であった場合、すなわち驚きの感情値および喜びの感情値がともに閾値に満たない場合に、驚きの感情値が優先的に改善されるように車内環境の設定値を変更してもよい(S9,S10)。例えば、シートバック70がさらに後傾するように、かつ、沈静効果のある音楽がスピーカ36から出力されるように、車内環境の設定値を変更してもよい。
【0063】
<第7変形例>
また、上記実施形態では、ステップS5で環境設定情報を車両2に送信した後、ステップS6において、所定時間Δt待機するようにした。しかし、ステップS5で音楽の楽曲名が含まれる環境設定情報を車両2に送信したときには、ステップS6でその音楽(1曲分)の再生時間に合わせて、すなわちその音楽の再生が終わるまで待機してもよい。それにより、乗員の感情が変化する前に車内環境が再設定されることを抑制でき、車内環境を乗員の感情により良好に適応させることができる。
【0064】
また、上記実施形態では、照明装置38から発せられる光の明るさ(強さ)を乗員の感情に適応させる例を示したが(
図6)、照明装置38から発せられる光の色も同様にして乗員の感情に適応させることができる。具体的には、乗員の喜びの感情値αが閾値Th未満である場合に(点P2)、環境決定部103は、例えばオレンジ色など高揚効果のある色を指定した環境設定情報を車両2に送信する。また、乗員の感情値αが悪化した場合には(点P2→P4)、環境決定部103は、例えば緑色など沈静効果のある色を指定した環境設定情報を車両2に送信する。そして、感情値αが閾値Th以上になると、その時点において照明装置38に設定されている光の色を時点t1で取得された感情値αに対応付けて対応関係情報に記憶する。
【0065】
また、その他の車内環境の設定も同様にして乗員の感情に適応させることができる。より具体的には、乗員の喜びの感情値αが閾値Th未満である場合に(点P2)、環境決定部103は、高揚効果のある音楽がスピーカ36から出力されるように、例えば明るい曲調や激しい曲調の音楽の楽曲名を含む環境設定情報を車両2に送信する。また、乗員の感情値αが悪化した場合には(点P2→P4)、環境決定部103は、沈静効果のある音楽がスピーカ36から出力されるように、例えば穏やかな曲調やきれいな曲調の音楽の楽曲名を含む環境設定情報を車両2に送信する。そして、感情値αが閾値Th以上になると、その時点においてスピーカ36から出力されている音楽の楽曲名を時点t1で取得された感情値αに対応付けて対応関係情報に記憶する。
【0066】
また、上記実施形態では、学習部104が、乗員ごとの学習結果を記憶部11に記憶するようにしたが、着座センサ332の検出値により判別した乗員の特性(性別、年齢(大人か子供か)など)ごとに学習結果を記憶部11に記憶してもよい。また、車両2の乗員が複数である場合に、感情推定部102は、各々の乗員の感情に基づいて、乗員全体の感情(全体感情)を推定してもよい。より具体的には、感情推定部102は、数値化した各乗員の感情値の総和を乗員の人数で除算して全体感情の感情値を算出し、その感情値に基づいてステップS3およびS9の判定を行うようにしてもよい。それにより、車内全体の雰囲気に適した車内環境を設定することができる。
【0067】
また、上記実施形態では、ステップS3で感情値αが閾値Th未満であるときに、ステップS4~S10の処理を実行するようにしたが、ステップS3の判定を閾値Thと異なる値で判定するようにしてもよい。具体的には、各感情の感情値αの下限値を設定し、ステップS3で感情値αがその下限値未満であるときに、ステップS4~S10を実行してもよい。例えば、喜びの感情値αの下限値を+5(50%)に設定し、ステップS9の判定に用いる喜びの感情値αの閾値Th(目標値)を+8(80%)に設定する。これにより、車内環境の設定が行われる頻度を低減することができ、車内環境の変化が煩雑になることをさらに防ぐことができる。なお、下限値は、感情の種別ごとに予め設定され、記憶部11に記憶される。
【0068】
さらに、上記実施形態では、車両2が自動運転車両である場合を例にしたが、車両2は、自動運転機能を有さない手動運転車両であってもよい。
【0069】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の一つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 情報処理装置、10 演算部、11 記憶部、12 通信部、101 乗員情報取得部、102 感情推定部、103 環境決定部、104 学習部、105 感情取得部、2 車両、3 車載装置、30 演算部、31 記憶部、33 センサ群、34 通信部、36 スピーカ、38 照明装置、302 環境設定部、501 感情推定部、100 車内環境設定システム