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  • 特許-シーラント材組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】シーラント材組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/10 20060101AFI20241113BHJP
   B60C 19/12 20060101ALI20241113BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20241113BHJP
   B29C 73/22 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
C09K3/10 A
C09K3/10 J
B60C19/12 Z
B60C1/00 Z
B29C73/22
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020132458
(22)【出願日】2020-08-04
(65)【公開番号】P2022029223
(43)【公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 清人
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-162847(JP,A)
【文献】特開2018-069978(JP,A)
【文献】特開2018-003007(JP,A)
【文献】特開昭55-022591(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0144491(US,A1)
【文献】特開2018-080343(JP,A)
【文献】特表2010-513120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/10-3/12
B29C73/00-73/34
B60C1/00-19/12
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤの内表面に配置されたシーラント層を構成するシーラント材組成物であって、
ブチルゴムを10質量%以上含むゴム成分100質量部に対して、有機過酸化物1質量部~40質量部、硫黄0.1質量部~40質量部、架橋助剤0質量部超1質量部未満、可塑剤成分50質量部~400質量部が配合され、
前記シーラント材組成物の加硫物の20℃における剪断弾性率が5kPa~30kPaであり、80℃における剪断弾性率が1kPa~10kPaであり、20℃~100℃の温度領域で測定されるtanδの最大値が1.0以下であることを特徴とするシーラント材組成物。
【請求項2】
前記シーラント材組成物の加硫物の40℃における剪断弾性率が5kPa~30kPaであり、100℃における剪断弾性率が1kPa~10kPaであることを特徴とする請求項1に記載のシーラント材組成物。
【請求項3】
前記ブチルゴムが塩素化ブチルゴムを含み、前記ゴム成分100質量%に対する前記塩素化ブチルゴムの配合量が5質量%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のシーラント材組成物。
【請求項4】
前記可塑剤成分が液状ポリマーであることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のシーラント材組成物。
【請求項5】
前記可塑剤成分がパラフィンオイル、ポリブテンオイル、ポリイソプレンオイル、ポリブタジエンオイル、アロマオイルから選ばれることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のシーラント材組成物。
【請求項6】
前記可塑剤成分がパラフィンオイルであることを特徴とする請求項に記載のシーラント材組成物。
【請求項7】
前記パラフィンオイルの分子量が800以上であることを特徴とする請求項に記載のシーラント材組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載のシーラント材組成物を加硫してなる粘着性シーラント材で構成された前記シーラント層を備えたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記粘着性シーラント材が、加硫温度150℃以上、加硫時間5分~60分の条件で加硫されていることを特徴とする請求項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ内表面にシーラント層を備えたセルフシールタイプの空気入りタイヤのシーラント層を構成するシーラント材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいて、トレッド部におけるインナーライナー層のタイヤ径方向内側にシーラント層を設けることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような空気入りタイヤ(所謂、セルフシールタイプの空気入りタイヤ)では、釘等の異物がトレッド部に突き刺さった際に、その貫通孔にシーラント層を構成するシーラント材が流入することにより、空気圧の減少を抑制し、走行を維持することが可能になる。
【0003】
上述したセルフシールタイプの空気入りタイヤにおいて、シーラント材の粘度が低いと、シーラント材が貫通孔内に流入し易くなるという点でシール性の向上が見込めるが、走行中に加わる熱や遠心力の影響によりシーラント材がタイヤセンター側に向かって流動し、その結果、貫通孔がタイヤセンター領域から外れると、シーラント材が不足して、シール性が充分に得られない虞がある。一方、シーラント材の粘度が高いと、前述のシーラント材の流動は防止することができるが、シーラント材が貫通孔内に流入しにくくなり、シール性が低下する虞がある。そのため、シーラント材を構成するシーラント材組成物としては、走行に伴うシーラント材の流動の抑制と、良好なシール性の確保とをバランスよく両立することが求められている。
【0004】
更に、シーラント材は、パンクが発生した際に初めて機能するものであるので、パンクが発生するまではタイヤ内に設置されたままになる。即ち、上述のシール性や流動性を長期に亘って維持することが求められる。これに加えて、シーラント材がタイヤ内に長期に亘って設置されたままになると、シーラント材に含まれる成分(可塑剤成分など)がタイヤを構成するゴムに移行する虞がある。このようにシーラント材中の成分がタイヤに移行すると、タイヤに対するシーラント材の接着性が損なわれて走行中にシーラント材の剥離が生じたり、タイヤ性能(例えば、タイヤの耐久性)に影響を及ぼす虞がある。そのため、長期に亘って、タイヤに対するシーラント材の接着性を維持し、且つ、タイヤの耐久性を良好に維持することも求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006‐152110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、良好なシール性を発揮し、走行中のシーラント材の流動を抑制し、且つ、タイヤに対する十分な接着性を確保し、更に、これら性能を長期に亘って良好に維持しながら、タイヤの耐久性を良好に維持することを可能にしたシーラント材組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明のシーラント材組成物は、空気入りタイヤの内表面に配置されたシーラント層を構成するシーラント材組成物であって、ブチルゴムを10質量%以上含むゴム成分100質量部に対して、有機過酸化物1質量部~40質量部、硫黄0.1質量部~40質量部、架橋助剤0質量部超1質量部未満、可塑剤成分50質量部~400質量部が配合され、前記シーラント材組成物の加硫物の20℃における剪断弾性率が5kPa~30kPaであり、80℃における剪断弾性率が1kPa~10kPaであり、20℃~100℃の温度領域で測定されるtanδの最大値が1.0以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のシーラント材組成物は、上述の配合で構成されているので、良好なシール性を発揮し、走行中のシーラントの流動を抑制し、且つ、タイヤに対する十分な接着性を確保することができる。具体的には、硫黄を含む(硫黄によって架橋される)ため、タイヤ内面への接着性を高めることができ、且つ、上述の配合であることで、良好なシール性を得るのに充分な粘性を確保しながら、走行中あるいは保管中に流動しない適度な弾性を得て、これら性能をバランスよく両立するには有利になる。これに加えて、本発明のシーラント材組成物は、上述の特性を有しているので、シーラント材に適度な弾性が確保され、可塑剤成分の他部材(タイヤ)への移行を抑制することができるので、シーラント材の物性(シール性、流動性、接着性)の経時的な変化を抑制し、且つ、タイヤ性能(耐久性)への影響を抑制することができる。特に、20℃における剪断弾性率が上述の範囲であることで室温程度の環境下における経時的な可塑剤成分の移行を抑制することができる。また、80℃における剪断弾性率が上述の範囲であることで走行中に可塑剤成分が移行することを抑制することができる。
【0009】
本発明のシーラント材組成物においては、40℃における剪断弾性率が5kPa~30kPaであり、100℃における剪断弾性率が1kPa~10kPaであることが好ましい。これにより、シーラント材に適度な弾性が確保され、可塑剤成分の他部材(タイヤ)への移行を抑制することができるので、シーラント材の物性(シール性、流動性、接着性)の経時的な変化を抑制し、且つ、タイヤ性能(耐久性)への影響を抑制するには有利になる。特に、40℃における剪断弾性率が上述の範囲であることで高温地域における経時的な可塑剤成分の移行を抑制することができる。また、100℃における剪断弾性率が上述の範囲であることで高速走行中に可塑剤成分が移行することを抑制することができる。
【0010】
本発明のシーラント材組成物は、ゴム成分100質量部に対して、有機過酸化物1質量部~40質量部が配合されていることが好ましい。このように有機過酸化物を含み、上述の硫黄と有機過酸化物の併用によって架橋が行われることで、良好なシール性を得るのに充分な粘性を確保しながら、走行中あるいは保管中に流動しない適度な弾性を得て、これら性能をバランスよく両立するには有利になる。
【0011】
本発明のシーラント材組成物は、ゴム成分100質量%に対して、ブチルゴムを10質量%以上含むことが好ましい。更に、ブチルゴムが塩素化ブチルゴムを含み、ゴム成分100質量%に対する塩素化ブチルゴムの含有量が5質量%以上であることが好ましい。このような配合にすることで、タイヤ内面に対する接着性を向上することができる。
【0012】
本発明のシーラント材組成物においては、可塑剤成分が液状ポリマーであることが好ましい。特に、この液状ポリマーがパラフィンオイルであることが好ましい。更に、パラフィンオイルの分子量が800以上であることが好ましい。これにより、粘着性シーラント材の物性の温度依存性を低くすることができ、低温環境下におけるシール性を良好に確保するには有利になる。また、タイヤへの移行を抑えて、タイヤ性能への影響を抑制するには有利になる。
【0013】
上述の本発明のシーラント材組成物を加硫してなる粘着性シーラント材で構成されたシーラント層を備えた空気入りタイヤでは、上述のシーラント材組成物の優れた物性によって、走行に伴うシーラント材の流動を抑制しながら良好なシール性を発揮することができ、且つ、タイヤに対する十分な接着性を確保することができる。また、上述の配合および物性によって、シーラント材に含まれる可塑剤成分がタイヤを構成するゴムへ経時的に移行することが防止されるので、長期に亘ってシーラント材の性能を良好に維持し、また、タイヤ性能(耐久性)への影響を抑制することができる。
【0014】
このとき、粘着性シーラント材が、加硫温度150℃以上、加硫時間5分~60分の条件で加硫されていることが好ましい。この条件で加硫を行うことで、粘着性シーラント材中に未反応の硫黄が残存することを抑制することができ、長期に亘って粘着性シーラント材の性能を良好に維持するには有利になる。
【0015】
尚、本発明において、「剪断弾性率」は、シーラント材組成物を所定の金型中で160℃で10分間プレス加硫して作製した試験片を用いて、粘弾性測定装置を使用して、各温度条件(20℃、40℃、80℃、100℃)で、剪断歪み10%の条件で測定した値である。また、「tanδ」は、JIS K6394に準拠して、粘弾性スペクトロメーターを用いて、20℃~100℃の温度領域で、伸長変形歪率10%±2%、振動数20Hzの条件で測定した値である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の空気入りタイヤの一例を示す子午線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
本発明の空気入りタイヤ(セルフシールタイプの空気入りタイヤ)は、例えば図1に示すように、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。図1において、符号CLはタイヤ赤道を示す。尚、図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。また、子午線断面図における他のタイヤ構成部材についても、特に断りがない限り、タイヤ周方向に延在して環状を成している。
【0019】
図1の例において、左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。カーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5およびビードフィラー6の廻りに車両内側から外側に折り返されている。ビードフィラー6はビードコア5の外周側に配置され、カーカス層の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。
【0020】
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(図1では2層)のベルト層7が埋設されている。これら複数層のベルト層7のうち、ベルト幅が最も小さい層を最小ベルト層7a、ベルト幅が最も大きい層を最大ベルト層7bという。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。トレッド部1におけるベルト層7の外周側にはベルト補強層8が設けられている。図示の例では、ベルト層7の全幅を覆うフルカバー層とフルカバー層の更に外周側に配置されてベルト層7の端部のみを覆うエッジカバー層の2層のベルト補強層8が設けられている。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含み、この有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°~5°に設定されている。
【0021】
タイヤ内面にはカーカス層4に沿ってインナーライナー層9が設けられている。このインナーライナー層9は、タイヤ内に充填された空気がタイヤ外に透過することを防ぐための層である。インナーライナー層9は、例えば、空気透過防止性能を有するブチルゴムを主体とするゴム組成物で構成される。或いは、熱可塑性樹脂をマトリクスとする樹脂層で構成することもできる。樹脂層の場合、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマー成分を分散させたものであってもよい。
【0022】
図1に示すように、トレッド部1におけるインナーライナー層9のタイヤ径方向内側には、シーラント層10が設けられている。特に、走行時に釘等の異物が刺さる可能性がある領域、即ち、トレッド部1の接地領域に対応するタイヤ内面にシーラント層10は設けられる。特に、最小ベルト層7aの幅よりも広い範囲にシーラント層10を設けるとよい。本発明のシーラント材組成物は、このシーラント層10に用いられる。シーラント層10は、上述の基本構造を有する空気入りタイヤの内表面に貼付されるものであり、例えば釘等の異物がトレッド部1に突き刺さった際に、その貫通孔にシーラント層10を構成する粘着性シーラント材が流入し、貫通孔を封止することにより、空気圧の減少を抑制し、走行を維持することを可能にするものである。
【0023】
シーラント層10は、例えば0.5mm~5.0mmの厚さを有する。この程度の厚さを有することで、シール性を良好に確保しながら、走行時のシーラントの流動を抑制することができる。また、シーラント層10をタイヤ内面に貼付する際の加工性も良好になる。シーラント層10の厚さが0.5mm未満であると充分なシール性を確保することが難しくなる。シーラント層10の厚さが5.0mmを超えるとタイヤ重量が増加して転がり抵抗が悪化する。尚、シーラント層10の厚さとは平均厚さである。
【0024】
シーラント層10は、加硫済みの空気入りタイヤの内面に後から貼り付けることで形成することができる。例えば、後述のシーラント材組成物を加硫してなる粘着性シーラント材をタイヤ内面に貼り付けてシーラント層10を形成するとよい。粘着性シーラント材を貼り付ける際には、シート状に成型された粘着性シーラント材をタイヤ内表面の全周に亘って貼付したり、紐状または帯状に成型された粘着性シーラント材をタイヤ内表面に螺旋状に貼付することができる。
【0025】
尚、上述の粘着性シーラント材を得るために後述のシーラント材組成物を加硫する際の加硫条件は特に限定されないが、後述のシーラント材組成物の組成や物性を考慮すると、加硫温度が好ましくは150℃以上、より好ましくは150℃~180℃であるとよく、加硫時間は好ましくは5分~60分、より好ましくは10分~30分であるとよい。この条件で加硫を行うことで、粘着性シーラント材中に未反応の硫黄が残存することを抑制することができ、長期に亘って粘着性シーラント材の性能を良好に維持するには有利になる。
【0026】
本発明は、主として、上述のセルフシールタイプの空気入りタイヤのシーラント層10(粘着性シーラント材)を構成するシーラント材組成物に関するものであるので、空気入りタイヤの基本構造や、シーラント層10の構造は上述の例に限定されない。
【0027】
本発明のシーラント材組成物について、20℃における剪断弾性率をG20、80℃における剪断弾性率をG80とすると、本発明のシーラント材組成物は、剪断弾性率G20が5kPa~30kPa、好ましくは10kPa~20kPaであり、剪断弾性率G80が1kPa~10kPa、好ましくは3kPa~7kPaであるという物性を有する。更に、本発明のシーラント材組成物は、20℃~100℃の温度領域におけるtanδの最大値が1.0以下であるという特徴を有する。本発明のシーラント材組成物は、このような物性の協働により、シーラント材として用いたときに、適度な弾性が確保され、可塑剤成分が他部材(タイヤ)へ移行することを抑制できるので、シーラント材の物性(シール性、流動性、接着性)の経時的な変化を抑制し、且つ、タイヤ性能(耐久性)への影響を抑制することができる。特に、剪断弾性率G20が上述の範囲であることで室温程度の環境下における経時的な可塑剤成分の移行を抑制することができる。また、剪断弾性率G80が上述の範囲であることで走行中に可塑剤成分が移行することを抑制することができる。更に、20℃~100℃の温度領域で測定されるtanδの最大値が上述の範囲にあることで流動性を向上することができる。
【0028】
このとき、剪断弾性率G20が5kPa未満であると、室温程度の環境下における経時的な可塑剤成分の移行を十分に抑制することができず、長期に亘るシール性の確保や、タイヤの耐久性の低下を抑制する効果を得ることが難しくなる。また、シーラント材の流動を抑制することも難しくなる。剪断弾性率G20が30kPaを超えると、シール性が低下する。剪断弾性率G80が1kPa未満であると、走行中に可塑剤成分の移行を十分に抑制することができず、長期に亘るシール性の確保や、タイヤの耐久性の低下を抑制する効果を得ることが難しくなる。剪断弾性率G80が10kPaを超えると、タイヤ耐久性が低下する。上述の温度領域におけるtanδの最大値が1.0を超えると、流動性が低下する。尚、上述の関係を満たしていれば、上述の温度領域内の各温度でのtanδは特に限定されない。但し、温度領域の下限である20℃におけるtanδは、好ましくは0.2~0.8、より好ましく0.4~0.6であるとよい。また、温度領域の上限である100℃におけるtanδは、好ましくは0.2~0.8、より好ましくは0.4~0.6であるとよい。
【0029】
本発明のシーラント材組成物について、更に、40℃における剪断弾性率をG40、100℃における剪断弾性率をG100とすると、本発明のシーラント材組成物は、剪断弾性率G40が好ましくは5kPa~30kPa、より好ましくは10kPa~20kPaであり、剪断弾性率G100が好ましくは1kPa~10kPa、より好ましくは3kPa~7kPaであるとよい。これによりシーラント材組成物の物性が更に良好になり、シーラント材として用いたときに、シーラント材に適度な弾性が確保され、可塑剤成分の他部材(タイヤ)への移行を効果的に抑制することができる。その結果、シーラント材の物性(シール性、流動性、接着性)の経時的な変化を抑制し、且つ、タイヤ性能(耐久性)への影響を抑制する効果を高めることができる。特に、剪断弾性率G40が上述の範囲であることで高温地域における経時的な可塑剤成分の移行を抑制することができる。また、剪断弾性率G100が上述の範囲であることで高速走行中に可塑剤成分が移行することを抑制することができる。
【0030】
このとき、剪断弾性率G40が5kPa未満であると、高温地域における経時的な可塑剤成分の移行を十分に抑制することができない。剪断弾性率G40が30kPaを超えると、シール性が低下する。剪断弾性率G100が1kPa未満であると、高速走行中の可塑剤成分の移行を十分に抑制することができない。剪断弾性率G100が10kPaを超えると、タイヤ耐久性が低下する。
【0031】
本発明のシーラント材組成物は、上述の物性を有することに加えて、以下の配合で構成される。
【0032】
本発明のシーラント材組成物において、ゴム成分はブチル系ゴムを含むとよい。ゴム成分中に占めるブチル系ゴムの割合は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%~90質量%であるとよい。このようにブチル系ゴムを含むことで、タイヤ内面に対する良好な接着性を確保することができる。ブチル系ゴムの割合が10質量%未満であると、タイヤ内面に対する接着性を十分に確保することができない。
【0033】
本発明のシーラント材組成物においては、ブチル系ゴムとして、ハロゲン化ブチルゴムを含むことが好ましい。ハロゲン化ブチルゴムとしては、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴムを例示することができ、特に塩素化ブチルゴムを好適に用いることができる。塩素化ブチルゴムを用いる場合、ゴム成分100質量%に占める塩素化ブチルゴムの割合は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%~85質量%である。ハロゲン化ブチルゴム(塩素化ブチルゴム)を含むことで、ゴム成分と後述の架橋剤や有機過酸化物との反応性が高まり、シール性の確保とシーラントの流動の抑制とを両立するには有利になる。また、シーラント材組成物の加工性を向上することもできる。塩素化ブチルゴムの割合が5質量%未満であると、ゴム成分と後述の架橋剤や有機過酸化物との反応性が充分に向上せず、所望の効果が充分に得られない。
【0034】
本発明のシーラント材組成物において、ブチル系ゴムの全量がハロゲン化ブチルゴム(塩素化ブチルゴム)である必要はなく、非ハロゲン化ブチルゴムを併用することもできる。非ハロゲン化ブチルゴムとしては、シーラント材組成物に通常用いられる未変性のブチルゴム、例えば、JSR社製BUTYL‐065、LANXESS社製BUTYL‐301などが挙げられる。ハロゲン化ブチルゴムと非ハロゲン化ブチルゴムとを併用する場合、非ハロゲン化ブチルゴムの配合量はゴム成分100質量%中に、好ましくは20質量%未満、より好ましくは10質量%未満にするとよい。
【0035】
本発明のシーラント材組成物においては、ブチル系ゴムとして2種以上のゴムを併用することが好ましい。即ち、塩素化ブチルゴムに対して、他のハロゲン化ブチルゴム(例えば、臭素化ブチルゴム)または非ハロゲン化ブチルゴムを組み合わせて用いることが好ましい。塩素化ブチルゴム、他のハロゲン化ブチルゴム(臭素化ブチルゴム)、非ハロゲン化ブチルゴムの3種は、加硫速度が互いに異なるため、少なくとも2種類を組み合わせて用いると、加硫速度の違いに起因して、加硫後のシーラント材組成物の物性(粘度や弾性等)は均質にならない。即ち、シーラント材組成物内での加硫速度の異なるゴムの分布(濃度のばらつき)によって、加硫後のシーラント層において相対的に硬い部分と相対的に柔らかい部分とが混在することになる。その結果、相対的に硬い部分では流動性が抑制され、相対的に柔らかい部分ではシール性が発揮されて、これら性能をバランスよく両立するには有利になる。
【0036】
本発明のシーラント材組成物においては、ゴム成分としてブチル系ゴム以外の他のジエン系ゴムを配合することもできる。他のジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のシーラント材組成物に一般的に用いられるゴムを使用することができる。これら他のジエン系ゴムは、単独または任意のブレンドとして使用することができる。
【0037】
本発明のシーラント材組成物においては、架橋剤として硫黄が必ず配合される。硫黄の配合量は、上述のゴム成分100質量部に対して、0.1質量部~40質量部、好ましくは0.5質量部~20質量部である。これにより、粘着性シーラント材は硫黄によって架橋されるので、タイヤに対する接着性を向上することができる。硫黄の配合量が0.1質量部未満であると、実質的に架橋剤が含まれないのと同等になり、適切な架橋を行うことができない。硫黄の配合量が40質量部を超えると、シーラント材組成物の架橋が進みすぎてシール性が低下する。尚、硫黄以外の架橋剤(例えば、キノンジオキシム、酸化亜鉛など)を用いてもタイヤに対する接着性を十分に確保することができない。
【0038】
本発明のシーラント材組成物においては、上述の架橋剤(硫黄)と共に有機過酸化物を配合することが好ましい。このように硫黄と有機過酸化物を併用して配合することで、シール性の確保とシーラントの流動の防止とを両立するために好適な架橋を実現できる。有機過酸化物の配合量は、上述のゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部~40質量部、より好ましくは1.0質量部~20質量部である。有機過酸化物の配合量が1質量部未満であると、有機過酸化物が過少であり架橋を十分に行うことができず、所望の物性を得ることができない。有機過酸化物の配合量が40質量部を超えると、シーラント材の架橋が進みすぎてシール性が低下する。
【0039】
このように硫黄と有機過酸化物とを併用するにあたって、硫黄の配合量Aと有機過酸化物の配合量Bとの質量比A/Bを、好ましくは5/1~1/200、より好ましくは1/10~1/20にするとよい。このような配合割合とすることで、シール性の確保とシーラント材の流動の防止とを、よりバランスよく両立することが可能になる。
【0040】
有機過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、ブチルヒドロパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロパーオキサイド等が挙げられる。特に、1分間半減期温度が100℃~200℃である有機過酸化物が好ましく、前述の具体例の中では、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイドが特に好ましい。尚、本発明において、「1分間半減期温度」は、一般に、日本油脂社の「有機過酸化物カタログ第10版」に記載された値を採用し、記載のない場合は、カタログに記載された方法と同様に、有機溶媒中における熱分解から求めた値を採用する。
【0041】
本発明のシーラント材組成物には、上述の架橋剤(硫黄)と共に架橋助剤が必ず配合される。架橋助剤とは、硫黄成分を含む架橋剤と共に配合することで架橋反応触媒として作用する化合物である。架橋剤(硫黄)および架橋助剤を配合することで、加硫速度を早めることができ、シーラント材の生産性を高めることができる。架橋助剤の配合量は、上述のゴム成分100質量部に対して好ましくは0質量部超1質量部未満、より好ましく0.1質量部~0.9質量部である。このように架橋助剤の配合量を抑えることで、触媒として架橋反応を促進させつつシーラント材の劣化(熱劣化)を抑制することができる。架橋助剤の配合量が1質量部以上であると熱劣化を抑制する効果が十分に得られない。尚、架橋助剤は、上記のように硫黄成分を含む架橋剤と共に配合することにより架橋反応触媒として作用するものであるので、硫黄成分の代わりに有機過酸化物と共存させても架橋反応触媒としての作用は得られず、架橋助剤を多く使用しなければならず、熱劣化を促進してしまう。
【0042】
架橋剤(硫黄)と架橋助剤を併用するにあたって、架橋剤(硫黄)の配合量は、架橋助剤の配合量の好ましく50質量%~400質量%、より好ましくは100質量%~200質量%であるとよい。このように架橋剤(硫黄)と架橋助剤をバランスよく配合することで、架橋助剤の触媒としての機能を良好に発揮することができ、シール性の確保とシーラント材の流動の防止とを両立するには有利になる。架橋剤(硫黄)の配合量が架橋助剤の配合量の50質量%未満であると流動性が低下する。架橋剤(硫黄)の配合量が架橋助剤の配合量の400質量%を超えると耐劣化性が低下する。
【0043】
架橋助剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオ尿素系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸塩系、アルデヒド‐アミン系、アルデヒド‐アンモニア系、イミダゾリン系、キサントゲン酸系の化合物(加硫促進剤)を例示することができる。これらの中でも、チアゾール系、チウラム系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸塩系の加硫促進剤を好適に用いることができる。チアゾール系の加硫促進剤としては、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド等を挙げることができる。チウラム系の加硫促進剤としては、例えば、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等を挙げることができる。グアニジン系の加硫促進剤としては、例えば、ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン等を挙げることができる。ジチオカルバミン酸塩系の加硫促進剤としては、例えば、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム等を挙げることができる。特に、本発明においては、チアゾール系またはチウラム系の加硫促進剤を用いることが好ましく、得られるシーラント材組成物の性能のばらつきを抑えることができる。
【0044】
尚、例えばキノンジオキシムのような実際は架橋剤として機能する化合物を便宜的に架橋助剤と呼称する場合があるが、本発明における架橋助剤は、上述のように架橋剤(硫黄)による架橋反応の触媒として機能する化合物であるので、キノンジオキシムは本発明における架橋助剤には該当しない。
【0045】
本発明のシーラント材組成物には、可塑剤成分(例えば、液状ポリマー)が必ず配合される。このように可塑剤成分を配合することで、粘着性シーラント材の粘性を高めてシール性を向上することができる。可塑剤成分の配合量は、上述のゴム成分100質量部に対して、50質量部~400質量部、好ましくは70質量部~200質量部である。可塑剤成分の配合量が50質量部未満であると、粘着性シーラント材の粘性を高める効果が充分に得られないことがある。可塑剤成分の配合量が400質量部を超えると、シーラントの流動を充分に防止することができない。
【0046】
可塑剤成分としては、上述のように液状ポリマーを例示できるが、特にシーラント材組成物中のゴム成分(ブチルゴム)と共架橋可能である液状ポリマー好ましい。そのような液状ポリマーとしては、例えば、パラフィンオイル、ポリブテンオイル、ポリイソプレンオイル、ポリブタジエンオイル、ポリイソブテンオイル、アロマオイル、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。シーラント材組成物の物性の温度依存性を低く抑えて、低温環境下におけるシール性を良好に確保する観点から、これらの中でも、パラフィンオイル、ポリブテンオイル、ポリイソプレンオイル、ポリブタジエンオイル、アロマオイル、ポリプロピレングリコールが好ましく、特にパラフィンオイルを用いることが好ましい。パラフィンオイルを用いることで、低温環境下の粘度を適切な範囲に設定するには有利になる。液状ポリマーの分子量は好ましくは800以上、より好ましくは1000以上、更に好ましくは1200以上3000以下であるとよい。このように分子量の大きいものを用いることで、タイヤ内面に設けたシーラント層からタイヤ本体に可塑剤成分(オイル分)が移行してタイヤに影響を及ぼすことを防止することができる。
【0047】
本発明のシーラント材組成物は、上述の物性と配合の組み合わせによって、良好なシール性を発揮し、走行中のシーラント材の流動を抑制し、且つ、タイヤに対する十分な接着性を確保し、更に、これら性能を長期に亘って良好に維持するものである。また、タイヤに使用した際に、可塑剤成分が経時的にタイヤに移行しにくく、タイヤの耐久性を良好に維持することができる。そのため、本発明のシーラント材組成物は、セルフシールタイプの空気入りタイヤのシーラント層10(粘着性シーラント材)に好適に用いることができる。そして、本発明のシーラント材組成物を加硫してなる粘着性シーラント材で構成されたシーラント層10を備えたタイヤは、上述の物性と配合の協働に基づく優れた性能によって、タイヤの耐久性を損なうことなく、パンクによって生じた貫通孔を長期に亘って確実に塞ぐことができる。
【0048】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0049】
表1に記載の組成からなるシーラント材組成物(比較例1~7、実施例1~2)を調製した。具体的には、ゴム成分とカーボンブラックを1.7Lのバンバリーミキサーで10分間混練し、次いで、可塑剤成分(液状ポリマー)を投入、最後に架橋剤(硫黄)と有機過酸化物とを投入して更に10分間混練することにより各シーラント材組成物を調整した。このシーラント材組成物を表1に記載の条件で加硫することで粘着性シーラント材を得た。
【0050】
表1には、シーラント材組成物の剪断弾性率とtanδを併せて記載した。剪断弾性率G0,G20,G40,G80,G100はいずれも、シーラント材組成物を所定の金型中で160℃で10分間プレス加硫して作製した試験片を用いて、粘弾性測定装置(アルファテクノロジー社製RPA2000)を使用して、剪断歪み10%の条件で測定した。尚、剪断弾性率G0は温度0℃の条件で測定した値であり、剪断弾性率G20は温度20℃の条件で測定した値であり、剪断弾性率G40は温度40℃の条件で測定した値であり、剪断弾性率G80は温度80℃の条件で測定した値であり、剪断弾性率G100は温度100℃の条件で測定した値である。また、tanδは、JIS K6394に準拠して、粘弾性スペクトロメーターを用いて、伸長変形歪率10%±2%、振動数20Hzの条件で測定し、「tanδ(最大値)」は20℃~100℃の温度領域で測定された最大値であり、「tanδ(20℃)」は20℃の温度条件で測定した値であり、「tanδ(100℃)」は100℃の温度条件で測定した値である。
【0051】
これらシーラント材組成物について、下記試験方法により、シール性、走行中の流動性、荷重耐久性、高速耐久性、接着性を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0052】
シール性(条件1)
加硫直後の各粘着性シーラント材を、図1に示す基本構造を有する空気入りタイヤ(タイヤサイズ:255/40R20)のトレッド部におけるインナーライナー層のタイヤ径方向内側に貼り付けて試験タイヤを製作した。そして、各試験タイヤをリムサイズ20×9Jのホイールに組み付けて試験車両に装着し、初期空気圧250kPa、荷重8.5kNの条件で、直径4.0mmの釘をトレッド部に打ち込み、更に、その釘を抜いた状態で1時間タイヤを静置した後の空気圧を測定した。評価結果は、以下の5段階で示した。尚、評価結果の点数が「3」以上であれば十分なシール性を発揮しており、点数が大きいほどより優れたシール性を発揮したことを意味する。
5:静置後の空気圧が240kPa以上かつ250kPa以下
4:静置後の空気圧が230kPa以上かつ240kPa未満
3:静置後の空気圧が215kPa以上かつ230kPa未満
2:静置後の空気圧が200kPa以上かつ215kPa未満
1:静置後の空気圧が200kPa未満
【0053】
シール性(条件2)
各粘着性シーラント材を、図1に示す基本構造を有する空気入りタイヤ(タイヤサイズ:255/40R20)のトレッド部におけるインナーライナー層のタイヤ径方向内側に貼り付けて試験タイヤを製作し、そのタイヤを30℃環境下で2週間保管した。そして、各試験タイヤをリムサイズ20×9Jのホイールに組み付けて試験車両に装着し、初期空気圧250kPa、荷重8.5kNの条件で、直径4.0mmの釘をトレッド部に打ち込み、更に、その釘を抜いた状態で1時間タイヤを静置した後の空気圧を測定した。評価結果は、以下の5段階で示した。尚、評価結果の点数が「3」以上であれば十分なシール性を発揮しており、点数が大きいほどより優れたシール性を発揮したことを意味する。
5:静置後の空気圧が240kPa以上かつ250kPa以下
4:静置後の空気圧が230kPa以上かつ240kPa未満
3:静置後の空気圧が215kPa以上かつ230kPa未満
2:静置後の空気圧が200kPa以上かつ215kPa未満
1:静置後の空気圧が200kPa未満
【0054】
走行時の流動性
加硫直後の各粘着性シーラント材を、図1に示す基本構造を有する空気入りタイヤ(タイヤサイズ:255/40R20)のトレッド部におけるインナーライナー層のタイヤ径方向内側に貼り付けて試験タイヤを製作した。そして、試験タイヤをリムサイズ20×9Jのホイールに組み付けてドラム試験機に装着し、空気圧220kPa、荷重8.5kN、走行速度100km/hの条件で1時間走行し、走行後の粘着性シーラント材の流動状態を調べた。評価結果は、走行前にシーラント層の表面に5mm方眼罫20×40マスの線を引き、走行後に形状が歪んだマスの個数を数えて、粘着性シーラント材の流動が全く認められない場合(歪んだマスの個数が0個)を「良」で示し、歪んだマスの個数が全体の1/4未満である場合を「可」で示し、歪んだマスの個数が全体の1/4以上である場合を「不可」で示した。
【0055】
荷重耐久性
加硫直後の各粘着性シーラント材を、図1に示す基本構造を有する空気入りタイヤ(タイヤサイズ:255/40R20)のトレッド部におけるインナーライナー層のタイヤ径方向内側に貼り付けて試験タイヤを製作した。そして、試験タイヤをリムサイズ20×9Jのホイールに組み付けてドラム試験機に装着し、空気圧250kPa、初期荷重8.5kN、走行速度80km/hの条件で、1時間毎に荷重を10%ずつ増加し(最大250%まで)、タイヤに故障が発生するまでの走行距離を測定した。評価結果は、以下の5段階で示した。尚、評価結果の点数が「3」以上であれば十分な荷重耐久性を発揮しており、点数が大きいほどより優れた荷重耐久性を発揮したことを意味する。
5:走行距離が1200km以上
4:走行距離が1040km以上1200km未満
3:走行距離が880km以上1040km未満
2:走行距離が640km以上880km未満
1:走行距離が640km未満
【0056】
高速耐久性
加硫直後の各粘着性シーラント材を、図1に示す基本構造を有する空気入りタイヤ(タイヤサイズ:255/40R20)のトレッド部におけるインナーライナー層のタイヤ径方向内側に貼り付けて試験タイヤを製作した。そして、試験タイヤをリムサイズ20×9Jのホイールに組み付けてドラム試験機に装着し、空気圧250kPa、初期荷重8.5kNの条件で、初期速度200km/hで1時間走行した後、更に、速度220km/hで1時間走行し、その後、1時間毎に速度を20km/hずつ増加し、タイヤに故障が発生するまでの走行距離を測定した。評価結果は、以下の5段階で示した。尚、評価結果の点数が「3」以上であれば十分な荷重耐久性を発揮しており、点数が大きいほどより優れた荷重耐久性を発揮したことを意味する。
5:走行距離が2160km以上
4:走行距離が1500km以上2160km未満
3:走行距離が920km以上1500km未満
2:走行距離が660km以上920km未満
1:走行距離が660km未満
【0057】
接着性
加硫直後の各粘着性シーラント材を、図1に示す基本構造を有する空気入りタイヤ(タイヤサイズ:255/40R20)のトレッド部におけるインナーライナー層のタイヤ径方向内側に貼り付けて試験タイヤを製作した。そして、各試験タイヤを、リムサイズ20×9Jのホイールに組み付けて試験車両に装着し、空気圧250kPa、荷重5.0kN、速度80km/hの条件で、100000km走行した後、粘着性シーラント材のスプライス部における粘着性シーラント材の剥離状況を目視で確認した。評価結果は、剥離が発生しなかった場合を「良」、剥離が発生した領域がスプライス部のタイヤ幅方向端部からシーラント層の幅の1/3未満である場合を「可」、剥離が発生した領域がスプライス部のタイヤ幅方向端部からシーラント層の幅の1/3以上である場合を「不可」として示した。
【0058】
【表1】
【0059】
表1において使用した原材料の種類を下記に示す。
・塩素化ブチルゴム:JSR社製CHLOROBUTYL1066
・天然ゴム:SRI TRANG社製 天然ゴム
・カーボンブラック:東海カーボン社製シーストKH
・硫黄:細井化学工業社製小塊硫黄
・キノンジオキシム:大内新興化学工業社製社製バルノックGM
・架橋助剤:チウラム系加硫促進剤、大内新興化学工業社製ノクセラーTT‐P
・有機過酸化物:ジ-(2-t-ブチルパーオキシル)イソプロピルベンゼン、日油社製パーブチルP‐40(1分間半減期温度:175℃)
・液状ポリマー1:アロマオイル、出光興産社製ダイアナプロセスオイルAH‐58(分子量:1000)
・液状ポリマー2:パラフィンオイル、カネダ社製ハイコール K‐350(分子量:850)
【0060】
表1から明らかなように、実施例1~2のシーラント材組成物は、セルフシールタイプの空気入りタイヤのシーラント層として用いた場合に、製造直後および上述の条件で保管した後の両方においてシール性を良好に発揮した。即ち、シール性を長期に亘って良好に維持することができた。また、タイヤに対する接着性を確保し、且つ、走行時のシーラントの流動を抑制することもできた。これに加えて、タイヤの耐久性(荷重耐久性および高速耐久性)も良好に発揮することができた。一方、比較例1は、硫黄を含まず、且つ、剪断弾性率とtanδの条件も満たさないため、上述の条件で保管した後にはシール性が悪化した。また、流動性を抑制することができず、タイヤの耐久性(荷重耐久性および高速耐久性)も悪化した。比較例2は、硫黄の配合量が少なく、可塑剤成分(液状ポリマー)を含まず、且つ、tanδの条件も満たさないため、上述の条件で保管した後にはシール性が悪化した。また、流動性を抑制することができず、タイヤの耐久性(荷重耐久性および高速耐久性)も悪化した。比較例3は、剪断弾性率とtanδの条件を満たさないため、上述の条件で保管した後にはシール性が悪化した。また、流動性を抑制することができず、タイヤの耐久性(荷重耐久性および高速耐久性)も悪化した。比較例5~7は、硫黄の代わりにキノンジオキシムが配合されているため、タイヤに対する接着性を確保することができなかった。
【符号の説明】
【0061】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルト補強層
9 インナーライナー層
10 シーラント層
CL タイヤ赤道
図1