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  • 特許-プラスチック容器 図1
  • 特許-プラスチック容器 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】プラスチック容器
(51)【国際特許分類】
   B65D 1/02 20060101AFI20241113BHJP
   B65D 1/40 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
B65D1/02 110
B65D1/40
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020218989
(22)【出願日】2020-12-28
(65)【公開番号】P2022104023
(43)【公開日】2022-07-08
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000104674
【氏名又は名称】キョーラク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】磯野 晃
(72)【発明者】
【氏名】山崎 芳裕
【審査官】二ッ谷 裕子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-82033(JP,A)
【文献】特開2002-293317(JP,A)
【文献】特開2002-52668(JP,A)
【文献】米国特許第5164258(US,A)
【文献】特開平11-348958(JP,A)
【文献】特開2022-73322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 1/02
B65D 1/40
B29C 49/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンと木質系バイオマス粉砕物とを含んでなる複合層と、
ガスバリア層と、
を備えるプラスチック容器であって、
前記複合層と前記ガスバリア層が隣接していることを特徴とし、
前記複合層における前記木質系バイオマス粉砕物の含有率は、30質量%以上、かつ、51質量%以下である、プラスチック容器。
【請求項2】
前記複合層が、前記ガスバリア層の外側に配置されている、
請求項1に記載のプラスチック容器。
【請求項3】
前記複合層のさらに外側に、ポリオレフィン層が配置されている、
請求項2に記載のプラスチック容器。
【請求項4】
前記ガスバリア層が、エチレン-ビニルアルコール共重合体を含む、
請求項1から3のいずれかに記載のプラスチック容器。
【請求項5】
前記木質系バイオマス粉砕物の大きさは、30μm以下である、
請求項1から4のいずれかに記載のプラスチック容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質系バイオマス粉砕物を含有するプラスチック容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、合成樹脂の成形品の分野においても、環境対応の1つとして、バイオマス材料(紙粉、木粉、竹粉等)と合成樹脂とを含有する複合材料が用いられている。
【0003】
特許文献1には、前記バイオマス材料中に含まれるセルロースを混合したプラスチック容器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-234443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたプラスチック容器は、ポリオレフィン層/セルロース含有ポリオレフィン層/ポリオレフィン層の三層構成となっている。
【0006】
一方、市場に流通しているプラスチック容器の多くは、大気中の酸素による内容物の劣化を防止するため、エチレン-ビニルアルコール共重合体のようなガスバリア性樹脂を中間層として設けている。従って、特許文献1に記載のようなバイオマス含有プラスチック容器についても、同様にガスバリア層を設けてやることが望ましい。
【0007】
しかしながら、エチレン-ビニルアルコール共重合体やポリアミドといったガスバリア性樹脂の多くは、ポリオレフィン層と隣接した際の接着強度が十分でないため、両者の間に接着層、例えば酸変性ポリオレフィン、を設けてやる必要があり、成形機の複雑化及び製造コストの増加に繋がる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、層構成の複雑化を抑えつつ、木質系バイオマス含有プラスチック容器にガスバリア層を導入することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、ポリオレフィンと木質系バイオマス粉砕物とを含んでなる複合層と、ガスバリア層と、を備えるプラスチック容器であって、前記複合層と前記ガスバリア層が隣接していることを特徴とするプラスチック容器が提供される。
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、ポリオレフィンと木質系バイオマス粉砕物とを含んでなる複合層が、ガスバリア層に対して高い接着性を有していることを発見した。そして、ガスバリア層を有するプラスチック容器において、複合層とガスバリア層とを隣接させることで、接着層を設けることなく十分な接着強度を確保することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
好ましくは、前記複合層が、前記ガスバリア層の外側に配置されている。
好ましくは、前記複合層のさらに外側に、ポリオレフィン層が配置されている。
好ましくは、前記ガスバリア層が、エチレン-ビニルアルコール共重合体を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポリオレフィンと木質系バイオマス粉砕物とを含んでなる複合層と、ガスバリア層とを有するプラスチック容器において、前記複合層と前記ガスバリア層とを隣接させることで、これらの間に接着層を設けることなく十分な接着強度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施形態として示したプラスチック容器の概略図である。
図2図2は、本発明の実施形態として示したプラスチック容器の層構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0015】
図1は、本発明の実施形態として示したプラスチック容器の概略図である。本実施形態に係るプラスチック容器1は、例えば、飲料や調味料等の食品、あるいは、洗剤や医薬品等の薬剤等が充填されて用いられる。
【0016】
プラスチック容器1は、後述する多層構成を有するパリソンのブロー成形によって形成することができる。ブロー成形は、ダイレクトブロー成形であってもよく、インジェクションブロー成形であってもよい。ダイレクトブロー成形では、押出機から押し出された溶融状態のパリソンを一対の分割金型で挟んでパリソン内部にエアーを吹き込むことによって容器を製造する。インジェクションブロー成形では、プリフォームと呼ばれる試験管状の有底パリソンを射出成形によって形成し、このパリソンを用いてブロー成形を行うことによって容器を製造する。
プラスチック容器1を成形する際の成形温度は、後述する複合層中に含まれる木質系バイオマス粉砕物の変色を防ぐため、200℃以下であることが好ましく、180℃以下であることがより好ましい。
【0017】
プラスチック容器1は、多層構成を有する。図2は、プラスチック容器1における層構成の代表例を示すものであり、プラスチック容器1の内面側から順に、内層2と、ガスバリア層3と、複合層4と、外層5を備える。
【0018】
<内層2>
内層2は、単層構成であっても多層構成であってもよい。本実施形態では、内層2は、プラスチック容器1の内面側から順に、最内層2aと、接着層2bを備える。内層2は、ここで示した層以外の層を備えてもよく、ここで示した層の一部を備えてなくてもよい。例えば、最内層2aとガスバリア層3の間の接着性が高い場合には、接着層2bは省略可能である。
【0019】
最内層2aを構成する原料としては、ポリオレフィン(例:ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリエステル(例:PET)、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ナイロンなどが挙げられる。最内層2aは、ここに挙げた原料の他に添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、滑剤やフィラーなどが挙げられる。
【0020】
接着層2bは、接着性樹脂で構成される。接着性樹脂としては、酸変性ポリオレフィン樹脂(例:無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン)等が挙げられる。接着層2bを設けることによって、接着層2bに隣接する層間の接着性が向上する。
【0021】
<ガスバリア層3>
ガスバリア層3は、ガスバリア性樹脂を含む樹脂組成物で構成される。ガスバリア性樹脂としては、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。これらの中でも、酸素や香気成分に対するバリア性に特に優れた樹脂として、エチレン-ビニルアルコール共重合体を用いるのが好ましい。なお、ガスバリア層3を構成する樹脂組成物は、ガスバリア性樹脂のみを含有するものであってもよく、樹脂成分として、ガスバリア性樹脂の他にポリオレフィン等を含んでいても良い。
【0022】
エチレン-ビニルアルコール共重合体としては、それ自体公知の任意のものを用いることができ、例えば、エチレン含有量が20~60mol%、特に25~50mol%であるエチレン-酢酸ビニル共重合体を、ケン化度が96mol%以上、特に99mol%以上となるようにケン化して得られる共重合体ケン化物が使用できる。
【0023】
<複合層4>
複合層4は、ポリオレフィンに木質系バイオマス粉砕物を配合した樹脂組成物から構成される。
【0024】
複合層4を構成するポリオレフィンとしては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)等のポリエチレンや、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリブテン-1、エチレン-ブテン-1共重合体、プロピレン-ブテン-1共重合体等を挙げることができる。これらは、単独でも、或いは2種以上のブレンド物の形でも使用することができる。
【0025】
複合層4に配合される木質系バイオマス粉砕物としては、広葉樹パルプと針葉樹パルプのうちの少なくとも一方を原料として、それらを粉砕機によって粉状に微粉砕したセルロース主体の粉末、紙の製造中に発生する破紙や損紙を粉砕機によって粉状に微粉砕した粉末、古紙を粉砕機によって粉状に微粉砕した粉末、または、それらを所定の割合で混合した粉末などが使用できる。木質系バイオマス粉砕物の大きさは特に限定されるものではないが、例えば30μm以下のものを用いる。パルプは、機械的パルプ、化学的機械パルプ、半化学的パルプ、化学的パルプのいずれであってもよい。古紙には、新聞古紙や雑誌古紙、印刷古紙、包装古紙、段ボール古紙、OA古紙を使用することができる。
【0026】
複合層4における木質系バイオマス粉砕物の含有率は、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。含有率が30質量%未満では、ガスバリア層3と複合層4が十分な接着強度を示さないばかりか、木質系バイオマス粉砕物を配合することによる環境負荷低減効果が減少する。また、木質系バイオマス粉砕物の含有率が70質量%を超えると、プラスチック容器1をブロー成形する際に、パリソンに穴や裂け目が生じるおそれがあり、好ましくない。したがって、木質系バイオマス粉砕物の含有率は、70質量%以下であることが好ましい。以上のことから、木質系バイオマス粉砕物の含有率は、30~70質量%であることが好ましく、40~60質量%であることがより好ましい。
【0027】
ガスバリア層3と、複合層4とは、接着層等を介さず隣接して構成される。ガスバリア層3と複合層4の接着強度は、プラスチック容器1の使用環境や用途によって異なるが、例えば150gf/15mm以上であることが好ましく、200gf/15mm以上であることがより好ましい。
【0028】
<外層5>
外層5は、ポリオレフィンを含む樹脂組成物から構成される。外層5を構成するポリオレフィンとしては、ポリエチレンやポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体等を挙げることができる。特に、複合層4と外層5の接着強度の観点から、外層5を構成するポリオレフィンとしては、複合層4を構成するポリオレフィンと同一のものを用いることが好ましい。
【0029】
上述した各種の層構成において、各層の厚みは、各層の特性が十分に発揮されるように、プラスチック容器1の用途に応じて適宜設定してよい。
【0030】
本発明において、上記のような複合層とガスバリア層とが高い接着性を有していることは、多くの実験の結果、現象として見出されたものであり、特許文献1や他の公知技術からは予測不能なものである。その正確な理由は解明されているわけではないが、本発明者等は、次のように推定している。
【0031】
一般に、多層プラスチック容器中のガスバリア層と、該ガスバリア層に隣接する樹脂層との間の接着性は、両者の間に化学的な相互作用が働くことで、より強固なものとなる。とりわけ、前記ガスバリア層に隣接する前記樹脂層がOH基のような極性基を有している場合、前記極性基と、前記ガスバリア層中に含まれる極性基との間に水素結合が形成されることにより、接着強度が大きく向上する。
【0032】
即ち、本発明においては、複合層4中に含まれる木質系バイオマス粉砕物の構成要素であるセルロース、ヘミセルロース、リグニンが多数のOH基を有しているため、これらのOH基と、ガスバリア層3中に含まれる極性基との間に水素結合が形成されることで、高い接着性を得ることが可能となっているものと推定される。
【0033】
本発明のプラスチック容器においては、ポリオレフィンと木質系バイオマス粉砕物とを含んでなる複合層とガスバリア層が隣接している限り、上記の実施形態における構成要素を任意の構成要素に置き換えてもよい。例えば、上記の実施形態においては、複合層4がガスバリア層3の外側に配置されていることで、プラスチック容器1内に充填された内容物に、複合層4を構成する木質系バイオマス由来の臭いが移ることを防止するという効果を有していた。しかしながら、複合層4がガスバリア層3の内側に配置されていてもよい。
【実施例
【0034】
以下、本発明を次の実施例及び比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0035】
(1)プラスチック容器1の作製
<実施例1>
ダイレクトブロー成形によって、190℃の成形温度で、図2に示す層構成のプラスチック容器1を作製した。
【0036】
プラスチック容器1の各層は、以下の材料で作製した。
最内層2a/外層5:ポリプロピレン1(住友化学社製 ノ-ブレン FSX16E9)
接着層2b:酸変性ポリプロピレン(三菱ケミカル社製 モディック P674V)
ガスバリア層3:エチレン-ビニルアルコール共重合体(三菱ケミカル社製 ソアノール D2908)
複合層4:紙粉含有ポリプロピレン(環境経営総合研究所社製 MAPKA KM-MB51-WP、紙粉含有率(重量比):51%)
【0037】
<実施例2>
複合層4として、紙粉含有ポリプロピレン 59質量%、ポリプロピレン2(住友化学社製 ノ-ブレン FH3315) 41質量%の混合樹脂を用いた(紙粉含有率(重量比)を30%とした)以外は、実施例1と同様の方法でプラスチック容器1を作製した。
【0038】
<比較例1>
複合層4の配合比率を、紙粉含有ポリプロピレン 39質量%、ポリプロピレン2 61質量%にした(紙粉含有率(重量比)を20%とした)以外は、実施例2と同様の方法でプラスチック容器1を作製した。
【0039】
<比較例2>
複合層4として、ポリプロピレン2を用いた以外は、実施例1と同様の方法でプラスチック容器1を作製した。
【0040】
(2)評価
上記実施例・比較例について以下の評価を行った。その結果を表1に示す。この結果から、複合層4として紙粉含有ポリプロピレンを用いることで、ガスバリア層3との接着強度が向上しており、紙粉含有率は30質量%以上であることが好ましいことが分かる。
【0041】
【表1】
【0042】
<接着強度>
作製したプラスチック容器1の胴部から測定サンプルを切り取り、テンシロン万能材料試験機(エー・アンド・デイ社製)を用いて、ガスバリア層3と複合層4を剥離させた際の試験力を測定した。接着強度は、端部を剥離させたサンプルの、剥離面を境にした両側をそれぞれチャックで挟み、300mm/分の速度で40mm剥離させたときのT形剥離における試験力を示す。
○:150gf/15mm以上
×:150gf/15mm未満
【符号の説明】
【0043】
1 :プラスチック容器
2 :内層
2a :最内層
2b :接着層
3 :ガスバリア層
4 :複合層
5 :外層
図1
図2