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特許7587134インピーダンス及び位相角差測定用プローブ、及びそれを用いた転炉におけるスラグ組成制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】インピーダンス及び位相角差測定用プローブ、及びそれを用いた転炉におけるスラグ組成制御方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/46 20060101AFI20241113BHJP
   C21C 5/30 20060101ALI20241113BHJP
   C21C 5/36 20060101ALI20241113BHJP
   F27D 21/00 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
C21C5/46 D
C21C5/30 Z
C21C5/36
F27D21/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021005617
(22)【出願日】2021-01-18
(65)【公開番号】P2022110303
(43)【公開日】2022-07-29
【審査請求日】2023-09-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】原田 祐亮
(72)【発明者】
【氏名】宗岡 均
(72)【発明者】
【氏名】柿本 昌平
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-207473(JP,A)
【文献】特開2012-251884(JP,A)
【文献】特開2014-092545(JP,A)
【文献】米国特許第06340418(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 1/00-7/10
G01N 27/00-27/10
G01N 27/14-27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3本の金属若しくは導電性耐火物から形成される電極端子と温度測定センサーとを備え、
前記電極端子間の距離を変化させて測定されるスラグのインピーダンスを、時間経過によるスラグ組成の変化の影響を受けにくい1工程で得るため、
前記電極端子間の距離が、
前記電極端子から形成される多角形の辺を形成する電極端子を選択して得られる距離でそれぞれ異なるように配置されている、
高温溶融物のインピーダンス及び位相角差測定用プローブ。
【請求項2】
前記電極端子の数が5本以上である請求項1に記載の高温溶融物のインピーダンス及び位相角差測定用プローブ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のプローブを用いた転炉におけるスラグの組成制御方法であって、 測定対象である前記スラグと同種であって、それぞれ異なる塩基度を有する複数の試験用スラグを用意する第1工程と、
前記試験用スラグのうち1種を選択し、前記試験用スラグに前記プローブを浸漬し、前記プローブの電極端子のうち電圧を印加する2本の前記電極端子を選択し、周波数を変化させながら通電することによりインピーダンスを測定し、該インピーダンスに基づいてそれぞれの前記試験用スラグのナイキストプロットを作成し、該ナイキストプロットと下記式(1)とから前記試験用スラグの合成抵抗を得る第2工程と、
前記第2工程のうち、電圧を印加する2本の前記電極端子の組み合わせを替えて、前記試験用スラグの前記合成抵抗を得ることを繰り返す第3工程と、
前記第2工程及び前記第3工程により得られた前記試験用スラグの前記合成抵抗と測定に用いた前記電極端子の電極端子間距離との関係から、前記試験用スラグの溶液抵抗及び電荷移動抵抗を算出する第4工程と、
前記試験用スラグの種類を替えて、前記第2工程~前記第4工程と同様の方法により、前記試験用スラグの前記溶液抵抗及び前記電荷移動抵抗を算出することを繰り返す第5工程と、
前記試験用スラグの塩基度と前記第4工程及び前記第5工程により得られた前記溶液抵抗及び前記電荷移動抵抗とに基づいて塩基度検量線を得る第6工程と、
測定対象である前記スラグについて、前記第2及び第3工程と同様の方法で、前記スラグの前記合成抵抗を得る第7工程と、
前記第7工程において得られた前記スラグの前記合成抵抗と測定に用いた前記電極端子の電極端子間距離との関係から、前記スラグの前記溶液抵抗及び前記電荷移動抵抗を算出する第8工程と、
前記第8工程において得られた前記前記溶液抵抗及び前記電荷移動抵抗から、前記塩基度検量線に基づいて、前記スラグの塩基度を推定する第9工程と、
前記第9工程において推定された前記スラグの塩基度を含む転炉の操業情報に基づいて、前記スラグに投入するCaO源の添加量を調整する第10工程と、を備える、
スラグ組成制御方法。
【数1】
ここで、Z:インピーダンス、V:電極端子間電圧、I:電極端子間電流、Rsol:溶液抵抗、Rct:電荷移動抵抗、C:二重層容量、ω:角周波数、j:虚数単位を表す。
【請求項4】
前記第6工程において、前記試験用スラグの酸化鉄含有量と前記第4工程及び前記第5工程により得られた前記溶液抵抗及び前記電荷移動抵抗とに基づいて酸化鉄含有量検量線を得て、 前記第9工程において、前記第8工程において得られた前記溶液抵抗及び前記電荷移動抵抗から、前記酸化鉄含有量検量線に基づいて、前記スラグの酸化鉄含有量を推定し、
前記第10工程において、前記第9工程において推定された前記スラグの酸化鉄含有量を前記転炉の操業情報に含めて、前記スラグに投入するCaO源の添加量を調整する、
請求項に記載のスラグ組成制御方法。
【請求項5】
前記第2工程、前記第3工程、前記第5工程、及び前記第7工程のうち少なくとも1つの工程において、前記電極端子に通電する電流の周波数が10kHzであるときに、測定されるインピーダンスが10mΩ~100kΩである、請求項又はに記載のスラグ組成制御方法。
【請求項6】
前記第10工程において、前記転炉の操業情報に前記スラグの温度を含めて、前記スラグに投入するCaO源の添加量を調整する、請求項3~5のいずれか1項に記載のスラグ組成制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願はインピーダンス及び位相角差測定用プローブ、及びそれを用いた転炉におけるスラグ組成制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼精錬プロセスにおいて、溶銑中に含まれるP、S、Cの濃度を、その鋼材の要求特性に応じて制御することは、極めて重要である。特に、Pは、鋼材の割れ感受性に大きな影響を及ぼし、近年の低温靭性が要求される海洋構造物の需要の高まりを受けて、鋼中のP濃度を0.010質量%以下まで安定的に、低減させることが要求される。
【0003】
一般的に、鋼中のPは、高炉から出銑された溶銑の中に0.1~0.2質量%含まれており、このPの除去は、熱力学的に脱りん反応の進行に有利な溶銑段階で、生石灰などのCaO源を添加することで、(1)式のスラグ・メタル反応を促進させることで行われる。ここで、(1)式中の[]は鋼中、()はスラグ中の成分であることを表している。また、鋼中のPは、スラグ中にPとして取り込まれる。
2[P]+3(CaO)+5(FeO)→(3CaO・P)+5Fe・・・(1)
【0004】
(1)式を進行させる反応容器としては、トーピードカー、鍋、転炉があり、これらは製鋼プロセスにおける一貫製造能力に応じて決定される。一般的には、反応容器の容積が大きく、強攪拌が可能で、より反応速度論的に、短時間で脱りん反応を進行させることができる転炉が選択される。その場合、その製造能力は、短時間処理を前提とした転炉の吹錬時間によって決まるため、転炉において効率的に精錬反応を進行させることが重要となる。
【0005】
ここで、熱力学的に、効率的に脱りん反応を進行させるためには、(1)式から、スラグ中のCaO濃度、FeO濃度を上昇させること、スラグ中のP濃度を低下させることが挙げられる。
【0006】
このCaO濃度を上昇させる方法として、例えば、転炉の炉上から、生石灰を大量に添加することが考えられるが、過剰な生石灰の投入は、製造コストの増大を招くとともに、脱りん吹錬末期におけるスラグフォーミングを抑制し、MURC(Multi-Refining Converter)プロセスの中間排滓の不良を招き、脱炭吹錬中に復りん反応が進行してしまう。また、製鋼スラグが多量に発生し、そのスラグ処理にもコストがかかる。あるいは、生石灰の粒径を小さくした粉状の生石灰を火点に吹き付ける、もしくは鋼中に吹込む等の方法があるが、一括添加に対して、副原料の供給速度が小さくなるため、短時間処理では十分にスラグ中のCaO濃度を上昇させることはできない。また、粉状の生石灰の製造によって製鋼コストが高くなる問題がある。
【0007】
上記より、脱りん反応を促進するためには、供給したCaO源を、過剰な供給を行わずに、できるだけ早期にスラグ中に溶融させることが重要となる。実プロセスにおいては、吹錬者が、スラグのCaO/SiO(塩基度)を推定し、CaO源の添加量を調整させることで行われる。
【0008】
より詳しく記述すると、鋼材の目標P濃度に応じて、吹錬末期のスラグのCaO/SiO(塩基度)を、完全液相組成から過剰に固相が晶出しない範囲(例えば、塩基度=1.3)となるように、さまざまな情報をもとに生石灰の添加量を調整している。ここで、さまざまな情報とは、転炉に添加した生石灰等の副原料、精錬反応によって生成する反応物質の量や組成から、計算されるスラグのCaO/SiO(塩基度)、炉口からスラグが流出するスロッピング現象のタイミング、前回のチャージ(1回の転炉吹錬操業)における目標Pと実績Pの差などの様子を見て決定している。
【0009】
しかしながら、これらの情報は、吹錬者の感覚的な判断が多分に含まれており、目標と実績の塩基度が乖離した場合、鋼中のP濃度が目標組成に対して高くなるため、吹錬者は、そのばらつきを考慮して、過剰に生石灰を添加している。すなわち、ある程度、製鋼コストを上昇させて脱りん処理が行われている。
【0010】
このような生石灰の過剰投入を抑制する方法として、スラグの成分濃度を推定することが検討されている。例えば、特許文献1は、精錬設備より排出される排ガスの流量および排ガス中の成分濃度の計測結果等からスラグ中の成分濃度を推定することを特徴とする技術を開示している。また、特許文献2は、一次吹錬スラグの転炉からの排出開始角度等を説明変数としてスラグ中の成分濃度を推定することを特徴とする技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第6579136号公報
【文献】国際公開第2019/117200号
【非特許文献】
【0012】
【文献】Y.Harada et.al.,“Structural Evaluation of Molten Aluminosilicate by Combining Impedance Measurements and Cell Model Calculations”,ISIJ International, Vol.60(2020),No.1,pp.42-50
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように、特許文献1はスラグ中の成分濃度を排ガス中の成分濃度から間接的に推定する方法を開示している。しかし、一般的に排ガスについて計測された情報は誤差が大きい。例えば、排ガスの流量は、ベンチュリー効果に基づいて、断面積の異なる流路における排ガス圧力差から推定されることが多いが、この排ガスの圧力、温度および流量は、操業中において大きな変動を繰り返しており、これによって測定誤差が大きくなる傾向がある。したがって、測定誤差が大きい排ガス情報から推定したスラグ中の成分濃度も、推定誤差が大きくなってしまうという問題がある。特許文献2は、統計的に、予測と実績とのばらつきが小さいモデルによる予測によってCaO源の添加量を決定する方法である。しかし、このような統計的分布では、その予測値と実績値にばらつきが生じ得る。また、異常吹錬等、予測モデルの元となるデータに含まれない操業を行った場合、その統計モデルでは予測することが出来ない虞がある。その場合、CaO源の添加量は、吹錬者の感覚的情報に基づいて決定される。これらは、一定のばらつきをもち、精度よく適正な量のCaO源を添加することは困難である。
【0014】
よって、特許文献1、2に記載されている方法では、スラグの組成を精度良く推定することが困難であり、転炉中のスラグにCaO源の添加量を精度良く調整することも困難であった。そのため、転炉におけるスラグの組成を精度良く制御することも困難であった。
【0015】
そこで、本願の目的は、上記実情を鑑み、スラグの組成を精度良く制御するために用いるインピーダンス及び位相角差測定用プローブ及び当該プローブを用いたスラグ組成制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述のように、転炉内吹錬中に添加するCaO源の添加量は、吹錬者の感覚的情報に左右され、過剰なCaO源の投入は製鋼コストが上昇するとともに、その処理で発生する製鋼スラグ処理費用も増大する。本発明者らはこのような課題に対して、CaO源の添加量を決定するうえで特に重要となるスラグの塩基度を、その吹錬中に推定することで、CaO源の添加量を精度よく調整することができると考えた。
【0017】
ここで、本発明者らは、非特許文献1において報告されている、SiO-Al-MO(M:Ca又はMg)系溶融スラグのNBO/Tを、溶融スラグのインピーダンス情報等によって推定する手法に着目した。本手法では、白金坩堝内で溶融したスラグに、白金電極を浸漬し、交流電圧を印加することによって得られたインピーダンス情報(ナイキストプロット)の等価回路解析を行うことで得られる、複数のインピーダンス成分の値と、既知の熱力学モデルとを組み合わせてNBO/Tを予測する方法である。ここで、NBO/Tとは、その温度における非架橋酸素の割合を示す指標である。非架橋酸素はCaイオンと結合可能であるため、この結果はインピーダンス情報によって、スラグの塩基度を予測できる可能性を示すと考えられる。
【0018】
そこで、本発明者らは、このインピーダンス測定技術を吹錬中に変化するスラグ塩基度の測定に活用することを検討した。具体的には、異なる塩基度を有する複数のスラグのインピーダンス情報からナイキストプロットを作成し、当該ナイキストプロット、および所定の式からスラグの抵抗(後述の合成抵抗)を求める。次いで、スラグの塩基度と抵抗との関係に基づく検量線を作成する。そして、測定対象であるスラグのインピーダンスを別途測定し、当該ナイキストプロット、および所定の式から抵抗を求め、当該抵抗の値を検量線に当てはめることで、測定対象のスラグの塩基度を推定することを検討した。
【0019】
その結果、このような方法によりスラグの塩基度を推定した場合、ある程度の精度を保てるがまだまだ改善の余地があることが分かった。なぜならば、このような方法により得られるスラグの抵抗は溶液抵抗と電荷移動抵抗との合成抵抗であり、溶液抵抗及び電荷移動抵抗はどちらも、スラグの塩基度(CaO/SiO)、および酸化鉄(FeO)の含有量に関係するものであるため、合成抵抗からスラグの塩基度のみを分離して推定することが困難であったためである。
【0020】
そこで、本発明者らは、さらに検討し、スラグの合成抵抗について、溶液抵抗と電荷移動抵抗とを分離して得ることに思い至った。具体的には、スラグの溶液抵抗はプローブの電極端子間距離に依存し、一方で電荷移動抵抗は電極端子間距離には依存しないため、電極端子間距離を変化させて、スラグの合成抵抗を得ることにより、溶液抵抗及び電荷移動抵抗を分離して得ることができることに思い至った。
【0021】
さらに、本発明者らは、上記の方法により適したプローブとして、電極端子を少なくとも3本備え、かつ、それぞれの電極端子間の距離が異なるように設置されたプローブを開発した。これにより、測定に用いる2本の電極端子の組み合わせを変化させることにより、電極端子間を変化させて、インピーダンス等を測定し、スラグの合成抵抗を得ることができるため、スラグの溶液抵抗と電荷移動抵抗を分離して得ることができる。そして、スラグの溶液抵抗及び電荷移動抵抗を用いることにより、スラグの塩基度のみを分離して、さらに精度よく測定することが可能となり、スラグ組成もさらに精度よく制御可能となる。本発明は、以上知見に基づいて完成されたものである。以下本発明の各態様について説明する。
【0022】
第1の態様は、少なくとも3本の金属若しくは導電性耐火物から形成される電極端子を備え、電極端子間の距離がそれぞれ異なるように配置されている、高温溶融物のインピーダンス及び位相角差測定用プローブである。
【0023】
上記プローブにおいて、電極端子間の距離が2mm~100mmであり、電極端子の長さが1mm~100mmであってもよい。また、温度測定センサーを有していてもよい。さらに、転炉サブランス若しくはサンプリング装置に取り付け可能であってもよい。
【0024】
また、第2の態様は、第1の態様のプローブを用いた転炉におけるスラグの組成制御方法であって、測定対象であるスラグと同種であって、それぞれ異なる塩基度を有する複数の試験用スラグを用意する第1工程と、試験用スラグのうち1種を選択し、試験用スラグにプローブを浸漬し、プローブの電極端子のうち電圧を印加する2本の電極端子を選択し、周波数を変化させながら通電することによりインピーダンスを測定し、該インピーダンスに基づいてそれぞれの試験用スラグのナイキストプロットを作成し、該ナイキストプロットと下記式(1)とから試験用スラグの合成抵抗を得る第2工程と、第2工程のうち、電圧を印加する2本の電極端子の組み合わせを替えて、試験用スラグの合成抵抗を得ることを繰り返す第3工程と、第2工程及び第3工程により得られた試験用スラグの合成抵抗と測定に用いた電極端子の電極端子間距離との関係から、試験用スラグの溶液抵抗及び電荷移動抵抗を算出する第4工程と、試験用スラグの種類を替えて、第2工程~第4工程と同様の方法により、試験用スラグの溶液抵抗及び電荷移動抵抗を算出することを繰り返す第5工程と、試験用スラグの塩基度と第4工程及び第5工程により得られた溶液抵抗及び電荷移動抵抗とに基づいて塩基度検量線を得る第6工程と、測定対象であるスラグについて、第2及び第3工程と同様の方法で、スラグの合成抵抗を得る第7工程と、第7工程において得られたスラグの合成抵抗と測定に用いた電極端子の電極端子間距離との関係から、スラグの溶液抵抗及び電荷移動抵抗を算出する第8工程と、第8工程において得られた溶液抵抗及び電荷移動抵抗抗から、塩基度検量線に基づいて、スラグの塩基度を推定する第9工程と、第9工程において推定されたスラグの塩基度を含む転炉の操業情報に基づいて、スラグに投入するCaO源の添加量を調整する第10工程と、を備える、スラグ組成制御方法である。
【0025】
【数1】

ここで、Z:インピーダンス、V:電極端子間電圧、I:電極端子間電流、Rsol:溶液抵抗、Rct:電荷移動抵抗、C:二重層容量、ω:角周波数、j:虚数単位を表す。
【0026】
上記のスラグ組成制御方法において、第6工程において、試験用スラグの酸化鉄含有量と第4工程及び第5工程により得られた溶液抵抗及び電荷移動抵抗とに基づいて酸化鉄含有量検量線を得て、第9工程において、第8工程において得られた溶液抵抗及び電荷移動抵抗から、酸化鉄含有量検量線に基づいて、スラグの酸化鉄含有量を推定し、第10工程において、第9工程において推定されたスラグの酸化鉄含有量を転炉の操業情報に含めて、スラグに投入するCaO源の添加量を調整してもよい。また、第2工程、第3工程、第5工程、及び第7工程のうち少なくとも1つの工程において、電極端子に通電する電流の周波数が10kHzであるときに、測定されるインピーダンスが10mΩ~100kΩであってもよい。さらに、第10工程において、転炉の操業情報にスラグの温度を含めて、スラグに投入するCaO源の添加量を調整してもよい。
【発明の効果】
【0027】
第1の態様であるプローブによれば、測定に用いる2本の電極端子の組み合わせを変化させることにより、電極端子間の距離を変化させて測定されるインピーダンスを1工程で測定することができる。言い換えると、時間経過による高温溶融物の組成の変化の影響を抑制しつつ、電極端子間の距離を変化させて測定されたインピーダンスを得ることができる。
【0028】
また、第2の態様であるスラグ組成制御方法によれば、第1の態様のプローブを用いることにより、スラグの溶液抵抗と電荷移動抵抗とを分離して得ることができるため、スラグの塩基度を酸化鉄含有量と分離して推定可能であり、同時に推定精度を向上することができ、従来よりもスラグ組成の制御を精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】プローブ10の模式図である。
図2】プローブ10の測定表面側の模式図である。
図3】プローブ10の側面の模式図である。
図4】実施例における試験用スラグの合成抵抗と電極間距離との関係の一例を示した図である。
図5】実施例において、試験用スラグの溶液抵抗及び電荷移動抵抗に基づいて、重回帰分析を行った結果である。(a)は溶液抵抗及び電荷移動抵抗に基づくスラグ塩基度の重回帰分析の結果である。(b)は溶液抵抗及び電荷移動抵抗に基づく酸化鉄含有量の重回帰分析の結果である。
図6】従来のプローブを用いて得られる、スラグの塩基度(CaO+FeO)/SiOと合成抵抗との関係の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[インピーダンス及び位相角差測定用プローブ]
第1の態様である高温溶融物のインピーダンス及び位相角差測定用プローブについて、図1を参照しつつ説明する。図1は一実施形態であるインピーダンス及び位相角差測定用プローブ10の模式図である。
【0031】
高温溶融物のインピーダンス及び位相角差測定用プローブ10(以下、「プローブ10」ということがある。)は、基材1と、3本の電極端子2を備えている。ただし、第1の態様のプローブにおいて、電極端子2の数は少なくとも3本であればよく、4本以上あってもよい。好ましくは5本以上である。電極端子2の数が多いほど、電極端子間の距離を変化させて測定された高温溶融物のインピーダンスを1工程で多く得ることができる。
【0032】
ここで、「高温溶融物」とは、高温の酸化物から構成される溶融物であり、主にスラグを意味する。本明細書に記載される「スラグ」は「高温溶融物」と読み替えることができる。また、位相角差の測定はインピーダンス測定において行われるものであるため、本明細書において、インピーダンス及び位相角差を単に「インピーダンス」ということがある。
【0033】
基材1は円筒状の形状をしており、外側が金属で形成されており、内部に耐火物が充填されている。外側を構成する金属としては、例えば鉄やモリブデン等を挙げることができる。内部に充填する耐火物としては、例えばAl系やMgO系等の耐火物を挙げることができる。基部1の電極端子2を除く測定側の表面は、耐熱性の絶縁物質(例えばスピネル等の酸化物)の溶射等によってコーティングされ、絶縁性が確保されていることが好ましい。これにより、電極端子2間のみで電流が通電し、インピーダンスの測定値のばらつきを抑制することができる。また、これにより、安定してバラつきの小さなナイキストプロットの作成が可能となり、精緻な測定が可能になる。なお、第1の態様のプローブの基材1の形状は特に限定されず、円筒状でなくてもいい。また、基材1の寸法等は目的に応じて適宜設定することができる。
【0034】
電極端子2は、電圧を印加して電極端子2間のスラグのインピーダンスを測定するための部材であり、一端は基材1から突出するように設けられ、他端はインピーダンス等を測定するための装置に接続されている。電極端子2は金属若しくは導電性耐火物から形成される。電極端子2を形成する金属としては、例えばタングステンを挙げることができる。導電性耐火物としては、例えばジルコニア系耐火物やマグネシアカーボン系耐火物を挙げることができる。
【0035】
次に、電極端子2の位置関係について説明する。図2はプローブ10の測定表面側の模式図であり、図3はプローブ10の側面の模式図である。
【0036】
図2の通り、プローブ10は電極端子2間の距離(d、d、d)がそれぞれ異なるように配置されている。これは、電極端子2間の距離を変化させて測定されるスラグのインピーダンスを1工程で得るためである。ここで、電極端子2間の距離とは、各電極端子の中心間の距離である。また、電極端子2間の距離は、電極端子2から形成される多角形の辺を形成する電極端子2を選択して得られる距離であることが好ましい。例えば、図2のように、電極端子2から形成される多角形が三角形である場合、三角形の各辺に対応した電極端子2のペアを測定に用いることが好ましいためである。
【0037】
電極端子2間の距離(d、d、d)は2mm~100mmであることが好ましい。電極端子2間の距離が2mm未満の場合、例えばスラグ中に気泡が発生し、その気泡が電極端子2間に存在すると測定精度が低下する虞がある。電極端子2間の距離が100mmを超えると、対となる電極端子2への放電の他に、ルツボや炉壁、ランス等へ放電し、測定精度が低下する虞がある。測定精度が低下するとナイキストプロットの作成が困難となる虞がある。本発明者らが確認したところによれば、測定精度をさらに向上させる観点から、電極端子2間の距離は10mm~30mmであることがより好ましい。
【0038】
また、電極端子2間の距離の値を順に並べたとき、隣接する電極端子2間の距離の値の差が1~10mmであることが好ましい。後述のスラグ組成制御方法において、溶液抵抗及び電荷移動抵抗の算出精度を向上させるためである。
【0039】
電極端子2の基材1から突出する方向の長さl’は1mm~100mmであることが好ましい。長さl’が1mm未満である場合、電極端子2の端部への電流集中の影響が大きくなることによる測定精度が低下する虞がある。長さl’が500mmを超える場合、電極端子2への外来の電磁気ノイズの影響が大きくなり、測定精度が低下する虞がある。本発明者らが確認したところによれば、測定精度をさらに向上させる観点から、長さlは10m~50mmであることがより好ましい。
【0040】
その他の電極端子2の寸法、配置関係は特に限定されず、目的に応じて適宜設定することができる。
【0041】
プローブ10はこれらの端子のほかに、温度測定センサーを備えていてもよい。これにより、インピーダンス等の測定に加えて、スラグ温度を同時に測定することができる。スラグ温度はスラグの塩基度を制御する際に投入するCaO源の添加量を決定する際に重要な指標となる。
【0042】
プローブ10は転炉サブランス若しくはサンプリング装置に取り付け可能であるように形成される。プローブ10は、特に転炉におけるスラグのインピーダンス及び位相角差の測定に用いられるためである。
【0043】
以上、第1の態様の高温溶融物のインピーダンス及び位相角差測定用プローブについて、一実施形態であるプローブ10を用いて説明した。第1の態様のプローブは少なくとも3本の電極端子を有し、かつ、それぞれの電極間距離が異なるものであるため、測定に用いる2本の電極端子の組み合わせを変化させることにより、電極端子間の距離を変化させて、高温溶融物のインピーダンスを1工程で測定することができる。
【0044】
転炉中のスラグの組成は時間とともに変化するものであるため、電極端子間の距離を変化させて測定されたインピーダンスを1工程で得ることにより、時間経過によるスラグ組成の変化の影響を受けにくい。従来のプローブは電極端子の数が2つであるため、電極端子間の距離を変化させて測定されたインピーダンスを得るためには、異なる電極端子間の距離を有する複数のプローブを用意して、それぞれのプローブをスラグに浸漬させてインピーダンスを測定する必要があるため、ある程度の時間が必要であり、その間にスラグの組成が変化してしまう虞がある。
【0045】
よって、第1の態様のプローブを用いることにより、時間変化によるスラグ組成の変化の影響を抑制して、電極端子間の距離を変化させて測定されたスラグのインピーダンスを得ることができる。そして、これにより後述のスラグ組成制御方法において、スラグ塩基度等を精度よく推定することができる。
【0046】
[スラグ組成制御方法]
次に、第2の態様である転炉におけるスラグの組成制御方法について説明する。第2の態様のスラグ組成制御方法は、第1の態様のプローブを用いて測定されたスラグのインピーダンスからスラグの塩基度を推定し、推定されたスラグの塩基度の情報を含む転炉の操業情報からCaO源の添加量を調整することにより、スラグ組成を制御することを特徴としている。
【0047】
以下、第2の態様のスラグ組成制御方法について、一実施形態を用いて説明する。ただし、第2の態様のスラグ組成制御方法はこれに限定されるものではない。
【0048】
一実施形態のスラグ組成制御方法は第1工程~第10工程を備えている。以下、各工程について説明する。
【0049】
<第1工程>
第1工程は、測定対象であるスラグと同種であって、それぞれ異なる塩基度を有する複数の試験用スラグを用意する工程である。
【0050】
「測定対象であるスラグ」とは、転炉において、組成の制御を目的とするスラグである。測定対象とするスラグの構成要素はCaOを含むことが好ましい。スラグの塩基度を調整する添加物としてCaO源を採用しているためである。例えば、CaO-SiO-FeO系スラグを挙げることができる。
「スラグの塩基度」とは、スラグの構成成分に応じて様々な指標を用いることができる。スラグの組成がCaO-SiO-FeO系である場合、例えば(CaO+FeO)/SiO(重量比)、CaO/SiO(重量比)をスラグ塩基度の指標として用いることができる。中でも実機転炉において重要となる指標はCaO/SiO(重量比)であり、これを高い精度で推定できる。
「試験用スラグ」とは、測定対象であるスラグと同種であって、組成が既知のスラグである。
【0051】
<第2工程>
第2工程は、上記試験用スラグのうち1種を選択し、その試験用スラグに第1の態様のプローブを浸漬し、プローブの電極端子のうち電圧を印加する2本の電極端子を選択し、周波数を変化させながら通電することによりインピーダンスを測定し、該インピーダンスに基づいてそれぞれの試験用スラグのナイキストプロットを作成し、該ナイキストプロットと下記式(2)とから試験用スラグの合成抵抗を得る工程である。
【0052】
【数2】
【0053】
ここで、Z:インピーダンス、V:電極端子間電圧、I:電極端子間電流、Rsol:溶液抵抗、Rct:電荷移動抵抗、C:二重層容量、ω:角周波数、j:虚数単位を表す。Rsol、Rct及びCは等価回路解析によって得られるインピーダンス成分である。
【0054】
インピーダンス測定時にプローブに流す電流の「周波数」は特に限定されず、ナイキストプロットを作成できるように適宜設定することができる。例えば、周波数を50Hz~100kHzに設定し、周波数を変化させながら通電する。
「ナイキストプロット」とは、複素平面上にプロットしたインピーダンススペクトルであり、一般的に実線に対して半円を描くようにプロットされる。そして、ナイキストプロットと横軸との交点のうち原点に遠い方の点が、そのスラグの合成抵抗に対応する。よって、ナイキストプロットを作成し、プロットと横軸との交点のうち原点に遠い方の点のインピーダンスの値を用いて、上記式(2)に適用することにより、スラグの合成抵抗を算出することができる。
「合成抵抗」とは、溶液抵抗及び電解移動抵抗の合成抵抗を意味する。溶液抵抗とは、電極間のスラグの液抵抗であり、電極間距離に依存する。電荷移動抵抗とは電極反応に伴って移動する電荷(電子)の移動抵抗であり、電極間距離に依存しない。
【0055】
<第3工程>
第3工程は、上記第2工程のうち、電圧を印加する2本の電極端子の組み合わせを替えて、試験用スラグの合成抵抗を得ることを繰り返す工程である。第2工程及び第3工程により、1つの試験用スラグについて、電極端子間の距離を変化させて測定されたインピーダンス(合成抵抗)を得ることができる。
【0056】
ここで、繰り返しの回数は、電極端子の組み合わせの数や、目的に応じて適宜設定することができる。また、第2工程及び第3工程は、同じ試験用スラグに対して測定を行うものであるため、1工程と捉えることができる。
【0057】
<第4工程>
第2工程及び第3工程により得られた試験用スラグの合成抵抗と測定に用いた電極端子の電極端子間距離との関係から、試験用スラグの溶液抵抗及び電荷移動抵抗を算出する工程である。これにより、第2工程及び第3工程で用いた試験用スラグの溶液抵抗及び電荷移動抵抗を得ることができる。このように、第2の態様では、第1の態様のプローブを用いることにより、スラグの合成抵抗を溶液抵抗及び電荷移動抵抗に分離して算出することができる。
【0058】
スラグの合成抵抗を溶液抵抗及び電荷移動抵抗に分離して算出する具体的な方法は次のとおりである。縦軸にスラグの合成抵抗、横軸に電極端子の電極端子間距離を取り、結果をプロットし、近似直線を適用する。そして、得られた直線の傾きから溶液抵抗を、縦軸の切片の値から電荷移動抵抗を得ることができる。このように、スラグの合成抵抗(縦軸)と電極間距離(横軸)との関係を用いることにより、溶液抵抗及び電荷移動抵抗を得ることができる。なお、縦軸の切片の値は厳密には電荷移動抵抗と接触抵抗等との和であるが、本明細書においては、これらを合わせて電荷移動抵抗と記載している。
【0059】
<第5工程>
第5工程は、第2工程~第4工程で用いた試験用スラグの種類を替えて、第2工程~第4工程と同様の方法により、試験用スラグの溶液抵抗及び電荷移動抵抗を算出することを繰り返す工程である。これにより、測定に用いたそれぞれの試験用スラグの溶液抵抗及び電荷移動抵抗を算出することができる。繰り返しの回数は、試験用スラグの種類の数や目的に応じて適宜設定することができる。
【0060】
<第6工程>
第6工程は、測定に用いた試験用スラグの塩基度と第4工程及び第5工程により得られた溶液抵抗及び電荷移動抵抗とに基づいて塩基度検量線を得る工程である。塩基度検量線は重回帰分析により得ることができる。具体的にはスラグの塩基度CaO/SiO(重量比)を目的変数とし、溶液抵抗及び電荷移動抵抗を説明変数とした重回帰によって得られた回帰式から、塩基度検量線を作成することができる。
【0061】
従来のプローブを用いた場合、試験用スラグの測定から得られる合成抵抗は、塩基度と同時に酸化鉄含有量の影響を含むものであるため、塩基度の指標から酸化鉄含有量を分離できず、指標として(CaO+FeO)/SiO(重量比)を用いることになる。
【0062】
一方で、第1の態様のプローブを用いると、スラグの合成抵抗から溶液抵抗及び電荷移動抵抗を分離し、2つの抵抗によって推定することができるため、スラグの塩基度の指標としてより実機転炉で重要度及び精度の高いCaO/SiOを用いることができる。よって、より精度の高い塩基度検量線を得ることができる。
【0063】
ここで、第6工程において、試験用スラグの酸化鉄含有量(重量%)と第4工程及び第5工程により得られた試験用スラグの溶液抵抗及び電荷移動抵抗とに基づいて、酸化鉄含有量検量線を得てもよい。酸化鉄含有量検量線を得る方法は、塩基度検量線を得る方法と同様に、重回帰分析により得ることができる。具体的には、試験用スラグの酸化鉄含有量(重量%)を目的変数とし、溶液抵抗及び電荷移動抵抗を説明変数とした重回帰によって得られた回帰式から、酸化鉄含有量検量線を作成することができる。
【0064】
<第7工程>
第7工程は、測定対象であるスラグについて、上記第2工程及び第3工程と同様の方法で、測定対象のスラグの合成抵抗を得る工程である。
【0065】
<第8工程>
第8工程は、第7工程により得られた測定対象のスラグの合成抵抗と測定に用いた電極端子の電極端子間距離との関係から、測定対象のスラグの溶液抵抗及び電荷移動抵抗を算出する工程である。具体的な方法は、第4工程と同様である。
【0066】
<第9工程>
第9工程は、第8工程により得られた測定対象のスラグの溶液抵抗及び電荷移動抵抗から、第6工程において得られた塩基度検量線に基づいて、測定対象のスラグの塩基度を推定する工程である。
【0067】
ここで、第9工程において、第8工程において得られた測定対象のスラグの電荷移動抵抗から、第6工程において得られた酸化鉄含有量検量線に基づいて、測定対象のスラグの酸化鉄含有量を推定してもよい。
【0068】
<第10工程>
第10工程は、第9工程において推定されたスラグの塩基度を含む転炉の操業情報に基づいて、転炉中のスラグに投入するCaO源の添加量を調整する工程である。これにより、精度よくスラグ組成を制御することができる。CaO源としては、例えば生石灰等を挙げることができる。
【0069】
スラグの塩基度はCaO源の添加量を調整するうえで重要な指標となるが、最終的にはそのほかの転炉の情報も考慮したうえで判断されることとなる。転炉の操業情報とは、スラグの塩基度の他に、炉口からのフレームやスラグフォーミング高さ等を挙げることができる。また、酸化鉄含有量の推定(第9工程)、スラグの温度の測定を行っている場合は、転炉の操業情報にそれらの情報を含めて、スラグに投入するCaO源の添加量を調整してもよい。これにより、スラグ組成の制御精度が更に向上する。
【0070】
転炉の操業情報に基づいてCaO源の添加量を調整する場面としては、例えば、スラグ塩基度が想定より低い場合、脱りん反応が進行しにくくなるため(上記式(1))、CaO源を追装することが挙げられる。
【0071】
以上、第2の態様のスラグ組成制御方法について一実施形態であるスラグ組成制御方法100を用いて説明した。第2の態様のスラグ組成制御方法によれば、第1の態様のプローブを用いることにより、スラグの合成抵抗から溶液抵抗及び電荷移動抵抗を分離して算出することができるため、スラグの塩基度を酸化鉄含有量と分離しての推定でき、かつ推定精度を向上することができる。従って、スラグの組成制御を従来よりも精度良く行うことができる。
【0072】
<補足事項>
ここで、第2の態様のスラグ組成制御方法について補足する。すなわち、第2の態様のスラグ組成制御方法は、第2、第3、第5、及び第7工程のうち少なくとも1つの工程において、プローブの電極端子に通電する電流の周波数が10kHzであるときに、測定されるインピーダンスが10mΩ~100kΩであることが好ましい。これにより、安定的にスラグのインピーダンスを測定できる。周波数が10kHzであるときのインピーダンスが10mΩ未満であると、インピーダンスが小さいことから、印加可能な電圧が小さくなり、その結果、測定される電流値が微小になることによって測定精度が悪化する。また、インピーダンスが100kΩを超えると、インピーダンスが大きいことから、十分な測定電流値を得るために、印加電圧を大きくする必要があり、それによって電極自体が反応し、電極が溶損するといった問題がある。より好ましくは、周波数が10kHzであるときのインピーダンスが100mΩ~10kΩである。
【実施例
【0073】
上記に説明したスラグ制御方法に倣って、スラグの塩基度及び酸化鉄含有量の推定を行った。以下の条件に基づいて、試験用スラグのインピーダンス測定を行った。
【0074】
試験用スラグとして、CaO-SiO-FeO系のスラグを複数用いた。組成としては、CaO/SiOが0.6~1.2の範囲であり、かつ、FeO含有量が35%又は40%であるものを用いた。プローブとしては、電極端子の数が5本、各電極端子間の距離が15mm、17.5mm、20mm、22.5mm、25mm、電極端子の長さが20mmのものを用いた。電極端子に通電する周波数としては、4Hz~1MHzの範囲に変化させた周波数を用いた。
【0075】
得られた結果から、それぞれの試験用スラグの溶液抵抗及び電荷移動抵抗を算出した。ここで、一例として、CaO/SiOが0.6、FeO含有量が40%である試験用スラグについて、得られた合成抵抗と電極間距離との関係を図4に示した。図4のように、得られた近似直線の傾きが溶液抵抗であり、縦軸の切片が電解移動抵抗となる。
【0076】
そして、試験用スラグについて、このような方法でそれぞれの溶液抵抗及び電荷移動抵抗を得て、重回帰分析により、スラグの塩基度(CaO/SiO:C/S)及び酸化鉄含有量(FeO(%))の推定精度について検討した。結果を図5に示した。(a)は溶液抵抗に基づくスラグ塩基度の重回帰分析の結果であり、回帰係数Rは0.94であった。(b)は電荷移動抵抗に基づく酸化鉄含有量の重回帰分析の結果であり、回帰係数Rは0.97であった。これらの結果から、スラグの塩基度及び酸化鉄含有量の推定精度が非常に高いことが確認できた。
【0077】
なお、従来のプローブ(電極端子:2本)を用いた場合、得られる抵抗は塩基度の影響と同時に酸化鉄含有量の影響を含む合成抵抗であるため、塩基度の指標から酸化鉄含有量を分離できず、CaO/SiOよりも精度の低い指標(CaO+FeO)/SiO(重量比)を用いることになる。一例として、図6に、従来のプローブを用いて得られる、(CaO+FeO)/SiOと合成抵抗(R)との関係を図6に示した。
【符号の説明】
【0078】
1 基材
2 電極端子
10 プローブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6