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特許7587148スポット溶接部材の製造方法、及びスポット溶接部材
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】スポット溶接部材の製造方法、及びスポット溶接部材
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/11 20060101AFI20241113BHJP
【FI】
B23K11/11 540
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021050389
(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公開番号】P2022148636
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】富士本 博紀
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-052413(JP,A)
【文献】特開2008-290099(JP,A)
【文献】特開2010-172945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属板及び内部金属板に、第1のスポット溶接をして、前記第1の金属板及び前記内部金属板を接合する第1のナゲットを有する第1の接合体を形成する工程と、
前記第1の接合体の前記内部金属板に、前記第1の金属板よりも厚い第2の金属板を重ねあわせて、さらに第2のスポット溶接をして、前記第1の接合体の前記内部金属板及び前記第2の金属板を接合する第2のナゲットを形成する工程と、
を備え、
前記第1のナゲットと、前記第2のナゲットとを結合させる
スポット溶接部材の製造方法。
【請求項2】
前記第1のスポット溶接に供される前記内部金属板の枚数を2以上とする
ことを特徴とする請求項1に記載のスポット溶接部材の製造方法。
【請求項3】
前記第1の接合体の前記内部金属板に、1枚以上の別の内部金属板及び前記第2の金属板を重ねあわせて、前記第2のスポット溶接をする
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のスポット溶接部材の製造方法。
【請求項4】
前記第1のナゲットと前記第2のナゲットとの溶接打点間隔を1.0mm以上とする
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のスポット溶接部材の製造方法。
【請求項5】
前記第1のスポット溶接の前に、前記第1の金属板及び前記内部金属板を、接着剤を用いて接着する工程、及び
前記第2のスポット溶接の前に、前記第1の接合体の前記内部金属板と、これに重ねられた金属板とを、接着剤を用いて接着する工程
の一方又は両方を有することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のスポット溶接部材の製造方法。
【請求項6】
前記スポット溶接部材が有する金属板の合計板厚を、前記第1の金属板の板厚で割った値である板厚比を6.0超とする
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のスポット溶接部材の製造方法。
【請求項7】
前記スポット溶接部材が有する金属板を鋼板とし、
前記第1の金属板の引張強さを440MPa以下とし、
前記第1の金属板以外の金属板のうち1枚以上の引張強さを1350MPa以上とする
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のスポット溶接部材の製造方法。
【請求項8】
スポット溶接部材であって、
前記スポット溶接部材の一方の表面に配された第1の金属板と、
前記スポット溶接部材の他方の表面に配され、前記第1の金属板よりも厚い第2の金属板と、
前記第1の金属板及び前記第2の金属板の間に配された内部金属板と、
前記第1の金属板、及びこれに隣接する前記内部金属板を接合し、前記第2の金属板から離隔された第1のナゲットと、
前記第2の金属板、及びこれに隣接する前記内部金属板を接合する第2のナゲットと、
を備え、
前記第1のナゲットと前記第2のナゲットとが結合されており、
前記第1のナゲットの打痕の中心と、前記第2のナゲットの打痕の中心との間隔が1.0mm以上である
スポット溶接部材。
【請求項9】
前記内部金属板の枚数が2以上である
ことを特徴とする請求項8に記載のスポット溶接部材。
【請求項10】
前記スポット溶接部材が有する金属板の間に配された接着剤をさらに備える
ことを特徴とする請求項8又は9に記載のスポット溶接部材。
【請求項11】
前記スポット溶接部材が有する金属板の合計板厚を、前記第1の金属板の板厚で割った値である板厚比が6.0超である
ことを特徴とする請求項8~10のいずれか一項に記載のスポット溶接部材。
【請求項12】
前記スポット溶接部材が有する金属板が鋼板であり、
前記第1の金属板の引張強さが440MPa以下であり、
前記第1の金属板以外の金属板のうち1枚以上の引張強さが1350MPa以上である
ことを特徴とする請求項8~11のいずれか一項に記載のスポット溶接部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接部材の製造方法、及びスポット溶接部材に関する。
【背景技術】
【0002】
スポット溶接とは、重ね合わせた母材の金属を電極の先端で挟み、加圧力を加えながら電流を流し、発生したジュール熱で金属を溶融して接合する抵抗溶接である。スポット溶接などの重ね抵抗溶接において、溶接部に生じる溶融凝固した部分は、ナゲットと称される。
【0003】
スポット溶接は非常に作業効率が高いので、種々の機械構造部品の製造のために用いられている。例えば、自動車の製造にあたっては、1台当たり数千点ものスポット溶接部が形成される。しかしながらスポット溶接には、板厚比が大きい板組において溶接不良が生じやすいという課題がある。ここで、板組とは、重ねられた複数の金属板のことである。板組の板厚比とは、板組を構成する金属板の合計板厚を、板組の表面に位置する金属板のうち薄い方の板厚で割った値である。
【0004】
金属板を接合するナゲットは、板組の中央およびその近傍に形成される。ナゲットの径が小さかったり、ナゲットが板組表面の薄板から離れた位置に形成されたりすると、ナゲットと板組表面の薄板とが重ならなくなり、この薄板に関する接合不良が生じる。特に、板厚比が6.0超となるような板組において、板組表面の薄板の接合不良が生じる傾向が強い。
【0005】
スポット溶接における接合不良は、例えば自動車部品の製造などにおいて特に問題となりやすい。自動車用部品は例えば、外装となる薄い軟鋼と、骨格部品となる高強度鋼板とから構成される。このような部品のスポット溶接においては、必然的に板組の最表面に、外装となる薄板が配されるのである。
【0006】
さらに、高強度鋼板と軟鋼とのスポット溶接においては、ナゲットが高強度鋼板の方に偏って形成される傾向にある。高強度鋼板は軟鋼よりも多くの合金元素を含んでおり、この合金元素が高強度鋼板の電気抵抗を高めるからである。高強度鋼板と軟鋼とのスポット溶接においては、電気抵抗が高い高強度鋼板において優先的に抵抗発熱が生じる。従って、高強度鋼板と軟鋼とのスポット溶接においては、形成されるナゲットの外縁が軟鋼まで及ばず、軟鋼の接合不良が生じるおそれがある。
【0007】
このように、薄い軟鋼を最表面に配した板組の抵抗スポット溶接においては、接合不良が生じやすい。一般に、板厚比が6.0を超える板組では、特に接合不良が生じやすいと考えられている。接合不良を回避するために、板厚比を小さく抑制することは、機械構造部品の設計の自由度を損なう。従って、高い板厚比の板組のスポット溶接において、接合不良を抑制する技術が待望されている。
【0008】
特許文献1には、重ね合わせた2枚の厚板の被溶接部材の少なくとも一方に薄板の被溶接部材をさらに重ね合わせ、これらを一対の電極で挟み加圧通電することにより、これら被溶接部材をスポット溶接するスポット溶接方法であって、前記薄板の被溶接部材には、溶接すべき部位に部分的に一般部より一段高い座面を形成するとともに、前記一対の電極のうち、薄板の被溶接部材に対向する電極は、先端を球面に形成し、溶接初期は低加圧力で薄板の被溶接部材の座面を押しつぶすようにして、薄板の被溶接部材とこれと隣り合う厚板の被溶接部材とを溶接し、その後、高加圧力で2枚の厚板の被溶接部材同士を溶接することを特徴とするスポット溶接方法が開示されている。
【0009】
特許文献2には、複数枚の金属板を重ね合わせた板組みを抵抗スポット溶接により溶接接合し抵抗スポット溶接継手を製造するにあたり、前記抵抗スポット溶接を第一段および第二段の二段階からなる溶接とし、該第二段の溶接が前記第一段の溶接に比べ、高加圧力、低電流又は同じ電流、長通電時間又は同じ通電時間の溶接とすることを特徴とする抵抗スポット溶接継手の製造方法が開示されている。
【0010】
特許文献1及び2のいずれにおいても、1回のスポット溶接を2段階に分け、前段階と後段階とで溶接条件を変化させることにより、薄板の接合不良を抑制することが試みられている。しかしながら、これら技術によっても、板厚比が高い板組の接合不良を十分に抑制することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2003-71569号公報
【文献】特開2005-262259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記事情に鑑みて、本発明は、薄板が表面に配された板組を母材とする場合であっても接合不良を抑制可能であり、且つ高疲労特性を有するスポット溶接部材の製造方法、及びスポット溶接部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0014】
(1)本発明の一態様に係るスポット溶接部材の製造方法は、第1の金属板及び内部金属板に、第1のスポット溶接をして、前記第1の金属板及び前記内部金属板を接合する第1のナゲットを有する第1の接合体を形成する工程と、前記第1の接合体の前記内部金属板に、前記第1の金属板よりも厚い第2の金属板を重ねあわせて、さらに第2のスポット溶接をして、前記第1の接合体の前記内部金属板及び前記第2の金属板を接合する第2のナゲットを形成する工程と、を備え、前記第1のナゲットと、前記第2のナゲットとを結合させる。
(2)上記(1)に記載のスポット溶接部材の製造方法では、前記第1のスポット溶接に供される前記内部金属板の枚数を2以上としてもよい。
(3)上記(1)又は(2)に記載のスポット溶接部材の製造方法では、前記第1の接合体の前記内部金属板に、1枚以上の別の内部金属板及び前記第2の金属板を重ねあわせて、前記第2のスポット溶接をしてもよい。
(4)上記(1)~(3)のいずれか一項に記載のスポット溶接部材の製造方法では、前記第1のナゲットと前記第2のナゲットとの溶接打点間隔を1.0mm以上としてもよい。
(5)上記(1)~(4)のいずれか一項に記載のスポット溶接部材の製造方法では、前記第1のスポット溶接の前に、前記第1の金属板及び前記内部金属板を、接着剤を用いて接着する工程、及び前記第2のスポット溶接の前に、前記第1の接合体の前記内部金属板と、これに重ねられた金属板とを、接着剤を用いて接着する工程の一方又は両方を有してもよい。
(6)上記(1)~(5)のいずれか一項に記載のスポット溶接部材の製造方法では、前記スポット溶接部材が有する金属板の合計板厚を、前記第1の金属板の板厚で割った値である板厚比を6.0超としてもよい。
(7)上記(1)~(6)のいずれか一項に記載のスポット溶接部材の製造方法では、前記スポット溶接部材が有する金属板を鋼板とし、前記第1の金属板の引張強さを440MPa以下とし、前記第1の金属板以外の金属板のうち1枚以上の引張強さを1350MPa以上としてもよい。
(8)本発明の別の態様に係るスポット溶接部材は、前記スポット溶接部材の一方の表面に配された第1の金属板と、前記スポット溶接部材の他方の表面に配され、前記第1の金属板よりも厚い第2の金属板と、前記第1の金属板及び前記第2の金属板の間に配された内部金属板と、前記第1の金属板、及びこれに隣接する前記内部金属板を接合し、前記第2の金属板から離隔された第1のナゲットと、前記第2の金属板、及びこれに隣接する前記内部金属板を接合する第2のナゲットと、を備え、前記第1のナゲットと前記第2のナゲットとが結合されている。
(9)上記(8)に記載のスポット溶接部材では、前記内部金属板の枚数が2以上であってもよい。
(10)上記(8)又は(9)に記載のスポット溶接部材では、前記第1のナゲットの打痕の中心と、前記第2のナゲットの打痕の中心との間隔が1.0mm以上であってもよい。
(11)上記(8)~(10)のいずれか一項に記載のスポット溶接部材は、前記スポット溶接部材が有する金属板の間に配された接着剤をさらに備えてもよい。
(12)上記(8)~(11)のいずれか一項に記載のスポット溶接部材では、前記スポット溶接部材が有する金属板の合計板厚を、前記第1の金属板の板厚で割った値である板厚比が6.0超であってもよい。
(13)上記(8)~(12)のいずれか一項に記載のスポット溶接部材では、前記スポット溶接部材が有する金属板が鋼板であり、前記第1の金属板の引張強さが440MPa以下であり、前記第1の金属板以外の金属板のうち1枚以上の引張強さが1350MPa以上であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、薄板が表面に配された板組を母材とする場合であっても接合不良を抑制可能であり、且つ高疲労特性を有するスポット溶接部材の製造方法、及びスポット溶接部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】第1のスポット溶接S1の概略図である。
図1B】第2のスポット溶接S2の概略図である。
図1C】第2のスポット溶接S2の終了後のスポット溶接部材の断面模式図である。
図2A】比較例1の断面写真である。
図2B】本発明例2の断面写真である。
図2C】本発明例4の断面写真である。
図2D】本発明例8の断面写真である。
図3】本発明例の破断試験後の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態において、板組とは、スポット溶接によって接合される、重ねられた複数の金属板のことである。板組の板厚比とは、板組を構成する金属板の合計板厚を、板組の表面に位置する金属板のうち薄い方の板厚で割った値である。
【0018】
本発明者らは、薄板が表面に配された板組を母材とするスポット溶接の方法について鋭意検討を重ねた。その結果、以下の手段を組み合わせることが良い旨を本発明者らは知見した。
【0019】
(1)溶接対象となる全ての金属板のうち一部のみを接合する第1のスポット溶接と、これにより得られた第1の接合体と残りの金属板とを接合する第2のスポット溶接とを行う。ここで、スポット溶接部材の表面に位置する2枚の金属板のうち薄い方である第1の金属板を、第1のスポット溶接において内部金属板と接合する。
第1のスポット溶接の対象である第1の板組の合計板厚は、全ての金属板からなる板組の合計板厚より小さい。従って、第1の板組の板厚比(第1の板組を構成する金属板の合計板厚を、上述の第1の金属板の板厚で割った値)は、全ての金属板からなる板組の板厚比より小さい。そのため、第1のスポット溶接をすることにより、第1の金属板と内部金属板の接合不良を抑制することができる。
【0020】
(2)第1のスポット溶接によって得られる第1のナゲットと、第2のスポット溶接によって得られる第2のナゲットとを結合させる。
スポット溶接を単に2回行うだけでは、スポット溶接部材の強度、特に疲労強度を十分に向上させることができなかった。本発明者らがその原因を調査したところ、第1のナゲットと第2のナゲットとが離隔されているスポット溶接部材に振動が印可されると、接合部における振動が著しくなることがわかった。このようなスポット溶接部材の疲労寿命は、1回のスポット溶接によって全ての金属板を接合する通常のスポット溶接によって得られた溶接部材の疲労寿命よりも低かった。一方、第1のナゲットと第2のナゲットとを結合させ、全ての金属板を同一箇所で接合した場合、スポット溶接部材の疲労強度が十分に確保された。
【0021】
ただし、第1のナゲットと第2のナゲットとを結合させるためには、第1のスポット溶接の溶接点と、第2のスポット溶接の溶接点とを近づける必要がある。そのため、第2のスポット溶接においては、溶接位置の制御精度を高める必要がある。
【0022】
また、第1のスポット溶接をした後の第1の金属板の表面には圧痕が生じている。圧痕とは、スポット溶接等の重ね抵抗溶接において、溶接の結果、電極チップ及び円板電極によって生じた母材表面のくぼみのことである。第2のスポット溶接を、第1のスポット溶接と同一箇所で実施する場合、この圧痕が外乱となり、散りを発生させたりするおそれがある。そのため、第2のスポット溶接においては、第1のスポット溶接よりも加圧力を高める等、圧痕による悪影響を緩和することが好ましい。
【0023】
以上の知見に基づいて得られた、本発明の一態様に係るスポット溶接部材の製造方法は、第1の金属板111及び内部金属板11nに、第1のスポット溶接をして、第1の金属板111及び内部金属板11nを接合する第1のナゲット141を有する第1の接合体13を形成する工程と、第1の接合体13の内部金属板11nに、第1の金属板111よりも厚い第2の金属板112を重ねあわせて、さらに第2のスポット溶接をして、第1の接合体の内部金属板11n及び第2の金属板112を接合する第2のナゲット142を形成する工程と、を備え、第1のナゲット141と、第2のナゲット142とを結合させる。以下、本実施形態に係るスポット溶接部材の製造方法について詳細に説明する。
【0024】
(S1 第1のスポット溶接)
まず図1Aに示されるように、溶接対象となる複数の金属板11の一部である第1金属板111と内部金属板11nとを重ね合わせた、第1の板組12を準備する。第1の板組12に第1のスポット溶接を実施する。第1のスポット溶接によって、第1の金属板111と、内部金属板11nとを接合する第1のナゲット141を形成する(図1B参照)。第1の金属板111は、スポット溶接部材の一方の表面に配される金属板である。
【0025】
第1の金属板111は、後述する第2の金属板112より薄い。全ての金属板を一度に溶接する通常のスポット溶接においては、薄い第1の金属板111は、内部金属板11nと接合されないおそれがある。そこで、本実施形態においては、薄い第1の金属板111を第1の板組12に組み込んで、第1の板組12に第1のスポット溶接をする。第1の板組12は総板厚が小さいので、第1の板組12の板厚比は、溶接対象となる複数の金属板11全てからなる板組の板厚比よりも小さい。第1のスポット溶接によれば、第1の金属板111と、これに隣接する内部金属板11nとを確実に接合することができる。
【0026】
この条件が満たされる限り、第1のスポット溶接の条件は特に制限されない。第1の板組12を構成する金属板11の材質、厚さ、及びスポット溶接部材に必要とされる強度等に応じたスポット溶接条件を、適宜採用することができる。図1Aにおいて、第1の板組12は2枚の金属板11から構成されているが、第1の板組12が、3枚以上の金属板11から構成されていてもよい。換言すると、第1のスポット溶接の前に第1の金属板111と重ね合わせられる内部金属板11nの枚数を2以上としてもよい。ただし、このときは、3枚以上の板組12を構成する金属板の合計板厚を第1の金属板111の板厚で割った板厚比は6.0以下とすることが望ましい。なお、第1の金属板111と、これに隣接する内部金属板11nとが接合されている限り、内部金属板11n同士の間で生じる接合不良は許容される。後続の第2のスポット溶接の際に、第1のナゲット141と結合した第2のナゲット142が形成され、この接合不良は解消されるからである。第1のナゲット141は、第1の金属板111と、少なくともこれに隣接する内部金属板11nとを接合するものであればよい。
【0027】
(S2 第2のスポット溶接)
次いで、図1Bに示されるように、溶接対象となる複数の金属板11のうち第1の板組12に含まれなかったものを、第1の接合体13に接合する。具体的には、第1の接合体13の内部金属板11nに第2の金属板112を重ねあわせて、これらに第2のスポット溶接をする。第2のスポット溶接によって、第1の接合体13の内部金属板11nと、第2の金属板112とを接合する第2のナゲット142を形成する(図1C参照)。第2の金属板112は、第1の金属板111と反対側の、スポット溶接部材1の表面に配される金属板である。
【0028】
第1の金属板111は、スポット溶接部材の表面に位置する2枚の金属板のうち薄い方である。従って、第1の接合体13に別の金属板11を重ねあわせる際に、第1の金属板111と別の金属板11とを隣接させてはならない。第1の接合体13の表面のうち、第1の金属板111の反対側の面に、他の金属板111を重ねる必要がある。
【0029】
また、第2のスポット溶接にあたっては、第1のナゲット141と第2のナゲット142とを結合させる必要がある。第1のナゲット141と第2のナゲット142とが離隔しているスポット溶接部材1において第1の金属板111と第2の金属板112間に荷重が加わった場合、荷重伝達位置のずれによるモーメントが生じて溶接部における応力集中が著しくなる。そのため、第1のナゲット141と第2のナゲット142とが離隔している場合、スポット溶接部材1の強度、特に疲労強度が損なわれる恐れがある。
【0030】
2つのナゲットが重なっているか否かは、スポット溶接部材1を、ナゲットを通る面で切断し、その切断面を観察することにより判定することができる。また、第2のスポット溶接の溶接点を、第1のスポット溶接の溶接点に近づけることにより、2つのナゲットを結合させることができる。
【0031】
この条件が満たされる限り、第2のスポット溶接の条件は特に制限されない。金属板11の材質、厚さ、及び溶接部材に必要とされる強度等に応じたスポット溶接条件を、適宜採用することができる。図1Bに例示される方法において、第1の板組12と接合される金属板は1枚のみである。一方、第2のスポット溶接において、2枚以上の金属板を第1の板組12に接合してもよい。具体的には、第1の接合体の内部金属板11nに、第2の金属板112を重ねあわせる際に、これらの間に別の内部金属板11nを挟み込んでもよい。2つのナゲットを結合させることができる限り、第1の接合体の内部金属板11nと第2の金属板112との間に挟み込まれる内部金属板11nの枚数を2以上としてもよい。
【0032】
上述した方法によってスポット溶接を行うことにより、薄板が表面に配された板組を母材とする場合であっても接合不良を抑制可能であり、且つ高疲労特性を有するスポット溶接部材を製造することができる。一方、以下に例示される条件に従うことにより、スポット溶接部材を一層好適に製造することができる。
【0033】
(第1のナゲット141と、第2のナゲット142との間の距離d)
第1のナゲット141と、第2のナゲット142とは、重ねられる必要がある。即ち、第2のスポット溶接の溶接点を、第1のスポット溶接の溶接点に近づける必要がある。一方、第2のスポット溶接の溶接点と、第1のスポット溶接の溶接点とを完全に一致させる必要はない。また、本発明者らが行った実験の結果によれば、第1のナゲット141と第2のナゲット142との打痕の中心間隔dを1.0mm以上とすることにより、スポット溶接部材1の接合強度を一層高められることがわかった。すなわち、第1のスポット溶接と第2のスポット溶接との溶接打点間隔dを1.0mm以上とすることにより、スポット溶接部材1の接合強度を一層高められることがわかった。換言すると、第2のスポット溶接の溶接点と、第1のスポット溶接の溶接点とは、若干ずれていることが好ましい。この原因は現時点で明らかではないが、本発明者らは、第2のスポット溶接の際に第1のナゲット141に生じる分流電流が、第2のナゲット142の形成に良好な影響を及ぼしていると推定している。
なお、JIS Z 3001-6:2013では、用語「溶接打点間隔」は「近接した溶接点間の各溶接点中心位置間の距離」と定義されている。本実施形態に係る溶接打点間隔dは、第1のナゲット141の溶接点及び第2のナゲット142の溶接点の間の、各溶接点中心位置間の距離を意味する。図1Cに記載された「×」印は、溶接点の中心位置を示す。また、分流電流とは、主な溶接電流のほかに、既溶接点及び被溶接物が形成する並列回路に流れる電流のことである。
【0034】
なお、打痕の中心間隔d及び溶接打点間隔dは、第1のナゲット141の打痕の中心、及び第2のナゲット142の打痕の中心を含み、且つ、スポット溶接部材1の板厚方向に平行な断面において、板厚方向に直交する方向に沿って測定される値である。以下、dについて、図1Cを例示して説明する。図1Cは、第1のナゲット141の打痕の中心、及び第2のナゲット142の打痕の中心を含み、且つ、スポット溶接部材1の板厚方向に平行な断面におけるスポット溶接部材1の模式図である。図1Cにおける「×」印が打痕の中心であり、紙面上下方向が板厚方向である。打痕の中心間隔d及び溶接打点間隔dは、図1Cにおいて紙面左右方向に沿って測定される。
【0035】
(第2のスポット溶接の際の加圧力)
一般に、スポット溶接の際には、溶接母材である金属板の表面は平滑であることが好ましく、また金属板の表面と溶接電極の中心軸とは垂直であることが好ましい。金属板の表面の凹凸、及び溶接電極の傾きなどは、スポット溶接において外乱となり、散りを生じさせる。なお、散りとは、スポット溶接等の重ね抵抗溶接において,母材が局部的に過熱されて溶融飛散する現象又はその金属を意味する。
【0036】
一方、本実施形態に係るスポット溶接部材の製造方法においては、第1の接合体13の表面に打痕が形成されている。さらに、2つのナゲットを結合させるために、第2のスポット溶接の溶接点は、この打痕に重ねられる必要がある。従って、第1のスポット溶接に起因する打痕が、第2のスポット溶接における外乱となり、散りなどの予期せぬ不具合を生じさせるおそれがある。
【0037】
散りの発生が許容されない場合は、第2のスポット溶接の際の加圧力を350kgf(3.432kN)以上とすることが好ましい。これにより、散りの発生を抑制し、スポット溶接部材の品位を一層高めることができる。
【0038】
本実施形態に係るスポット溶接部材の製造方法においては、スポット溶接以外の手段を併用して金属板111を接合してもよい。これにより、スポット溶接部材1の接合強度を一層高めることができる。
【0039】
(接着剤)
スポット溶接以外の接合手段の一例は、接着剤である。例えば、第1のスポット溶接の前に、第1の金属板111及び内部金属板11nを、接着剤を用いて接着してもよい。また、第2のスポット溶接の前に、第1の接合体13の内部金属板11nと、これに重ねられた金属板11(第2の金属板112、又は内部金属板11n)とを、接着剤を用いて接着してもよい。第1のスポット溶接の前、及び第2のスポット溶接の前の両方において接着剤による接着をしてもよい。
【0040】
上述したように、本実施形態に係るスポット溶接部材の製造方法において用いられる金属板11の種類は特に限定されない。また、第1の金属板111が第2の金属板112より薄ければ、複数の金属板11それぞれの板厚も特に限定されない。本実施形態に係るスポット溶接部材の製造方法によれば、薄い第1の金属板111の接合不良を抑制することができるので、材料の選択の余地が拡大される。以下に、材料の好適な一例について説明する。
【0041】
(板厚比)
板組の板厚比とは、板組を構成する金属板の合計板厚を、板組の表面に位置する金属板のうち薄い方の板厚で割った値である。スポット溶接部材1を板組とみなした場合、スポット溶接部材1の板厚比とは、スポット溶接部材1が有する金属板11の合計板厚を、第1の金属板111の板厚で割った値である。本実施形態に係るスポット溶接部材の製造方法では、スポット溶接部材1の板厚比を6.0超としてもよい。通常のスポット溶接においては、薄板の接合不良を抑制するために、板厚比を6.0以下にすることが通常である。しかし本実施形態に係るスポット溶接部材の製造方法では、第1のスポット溶接を行うことにより、薄板の接合不良を抑制している。そのため、スポット溶接部材1の板厚比を6.0超にしても、接合不良は生じない。
【0042】
(金属板の材質及び引張強さ)
スポット溶接は、自動車部品の製造において広く用いられている。従って、本実施形態に係るスポット溶接部材の製造方法を、自動車部品に適用してもよい。この場合、例えば第1の金属板111は、高い加工性が求められる自動車の外装部品となる。その他の金属板11は、高強度が求められる自動車の骨格部品となる。従って、金属板11を鋼板とし、第1の金属板111の引張強さを440MPa以下とし、第1の金属板111以外の金属板11のうち1枚以上の引張強さを1350MPa以上としてもよい。これにより、自動車の外装部品の加工を容易とし、且つ、自動車の骨格部品の強度を確保することができる。
【0043】
高強度鋼板と軟鋼とのスポット溶接においては、ナゲットが高強度鋼板の方に偏って形成される傾向にある。高強度鋼板は軟鋼よりも多くの合金元素を含んでおり、この合金元素が高強度鋼板の電気抵抗を高めるからである。高強度鋼板と軟鋼とのスポット溶接においては、電気抵抗が高い高強度鋼板において優先的に抵抗発熱が生じる。従来の手段によって、高強度鋼板と軟鋼とのスポット溶接をする場合、形成されるナゲットの外縁が軟鋼まで及ばず、軟鋼の接合不良が生じるおそれがある。しかし本実施形態に係るスポット溶接部材の製造方法では、第1のスポット溶接を行うことにより、薄板の接合不良を抑制している。そのため、第1の金属板111を軟鋼とし、その他の金属板11を高強度鋼板としても、接合不良は生じない。
一方、金属板の材質を鋼板以外としてもよい。例えばアルミ板、ステンレス板などの種々の材料を、金属板11として用いることができる。スポット溶接部材の表面に配された金属板が薄い場合には、金属板の種類を問わず、接合不良のリスクがある。また、本実施形態に係るスポット溶接部材の接合方法において用いられる、接合不良の抑制方法は、金属板11の材質を問わず適用可能なものである。
【0044】
(ナゲット径)
第1のナゲット141、及び第2のナゲット142の大きさは特に規定されない。上述した要件が満たされる限り、金属板11の材質、厚さ、及び枚数等に応じた適切なナゲット径を採用することができる。例えば、第1の金属板111の板厚を0.4mm~0.9mmとし、スポット溶接部材1が有する金属板11の合計板厚を3.5mm~7.0mmとした場合、第1のナゲット141の径を3√(t1)~8√(t1)とし、第2のナゲット142の径を3√(t2)~8√(t2)とすることが好適である。
ここで、第1のナゲット径とは、第1の金属板111と、これに隣接する内部金属板11nとの重ね面に沿って測定される溶融凝固部の幅のことである。溶融凝固部の幅の測定は、第1のナゲット141の打痕の中心、及び第2のナゲット142の打痕の中心を含み、且つ、スポット溶接部材1の板厚方向に平行な断面(上述した、溶接打点間隔dを測定する際の断面)において行われる。なお、図1Cに示されるように、第1の金属板111と、これに隣接する内部金属板11nとの重ね面において、第1のナゲットと第2のナゲットとが融合している場合がある。この場合、第1のナゲット141及び第2のナゲット142の両方を含めた溶融凝固部の幅を、第1のナゲット141の径とみなす。第2のナゲット径とは、第2の金属板112と、これに隣接する内部金属板11nとの重ね面において測定される溶融凝固部の直径である。溶融凝固部の幅の測定は、上述の断面において行われる。t1は、第1の金属板111の板厚(mm)であり、t2は第2の金属板112の板厚(mm)である。また、ナゲット径は、金属板11の材質、厚さ、及び枚数等に応じた通電条件を適宜変更することによって、制御可能である。
【0045】
(溶接条件)
第1のスポット溶接、及び第2のスポット溶接の条件も特に規定されない。上述した要件が満たされる限り、金属板11の材質、厚さ、及び枚数等に応じた適切な溶接条件を採用することができる。第1のスポット溶接及び第2のスポット溶接のそれぞれにおいて、通電回数は1回でも2回以上の複数回でも良い。また、通電開始時にアップスロープや通電終わりにダウンスロープを用いても良い。溶接条件の好適な一例は、電極先端が5mm~8mmのDR型電極を用い加圧力250kgf~700kgf(2.451kN~6.864kN)、通電時間:12サイクル~60サイクル(240msec~1200msec)、電流値:6kA~12kA、保持時間1サイクル~60サイクル(20msec~1200msec)である。
【0046】
次に、本発明の別の態様に係るスポット溶接部材について説明する。図1Cに示されるように、本実施形態に係るスポット溶接部材1は、スポット溶接部材1の一方の表面に配された第1の金属板111と、スポット溶接部材1の他方の表面に配され、第1の金属板111よりも厚い第2の金属板112と、第1の金属板111及び第2の金属板112の間に配された内部金属板11nと、第1の金属板111、及びこれに隣接する内部金属板11nを接合し、第2の金属板112から離隔された第1のナゲット141と、第2の金属板112、及びこれに隣接する内部金属板11nを接合する第2のナゲット142と、を備え、第1のナゲット141と第2のナゲット142とが結合されている。
【0047】
スポット溶接部材1が有する金属板111は、部材の表面に配される第1の金属板111及び第2の金属板112と、部材の内部に配される内部金属板11nとに大別される。スポット溶接部材1において、接合不良のおそれが最も高いのは、部材の表面に配される金属板(特に、板厚が薄い第1金属板111)である。従って、部材の内部に配される内部金属板11nの厚さ、及び枚数等の諸構成は特に限定されない。例えば、図1Cに例示される内部金属板11nの枚数は1枚だけであるが、内部金属板11nの枚数が2枚以上であってもよい。
【0048】
第1の金属板111は、第1のナゲット141によって、隣接する内部金属板11nと接合されている。また、第1のナゲット141は、第1の金属板111の反対側にある第2の金属板112から離隔されている。これにより、スポット溶接部材1の断面を見ると、第1のナゲット141は第1の金属板111の側に偏った位置に配されている。上述の通り、スポット溶接部材1において、接合不良のおそれが最も高いのは、部材の表面に配される金属板(特に、板厚が薄い第1金属板111)である。しかし本実施形態に係るスポット溶接部材では、第1のナゲット141を第1の金属板111の側に偏らせて配置することにより、第1金属板111の接合不良を抑制することができる。
【0049】
第2の金属板112は、第2のナゲット142によって、隣接する内部金属板11nと接合されている。また、第2のナゲット142は、第1のナゲット141と結合されている。従って、スポット溶接部材1の断面を見ると、全ての金属板111が同一箇所で接合されている。これにより、第1の金属板111と第2の金属板112間に荷重が加わったときに、モーメントの発生による接合部における応力集中を抑制し、スポット溶接部材1の疲労強度を高めることができる。
【0050】
本実施形態に係るスポット溶接部材1の製造方法は特に限定されないが、例えば、上述したスポット溶接部材の製造方法が好適である。またスポット溶接部材1の好適な形態を、上述したスポット溶接部材の製造方法の好適な形態に準じるものとすることができる。以下に、スポット溶接部材1の好適な形態を例示する。
【0051】
(第1のナゲット141と、第2のナゲット142との間の距離d)
本実施形態に係るスポット溶接部材1では、第1のナゲット141の打痕の中心と、第2のナゲット142の打痕の中心との間隔dを1.0mm以上としてもよい。これにより、スポット溶接部材1の接合強度を一層高められることがわかった。本発明者らが行った実験の結果によれば、第1のナゲット141と第2のナゲット142との打痕の中心間隔dを1.0mm以上とすることにより、スポット溶接部材1の接合強度を一層高められることがわかった。換言すると、第2のスポット溶接の溶接点と、第1のスポット溶接の溶接点とは、若干ずれていることが好ましい。
【0052】
(散り)
本実施形態に係るスポット溶接部材1には、好ましくは、散りが含まれない。散りとは、スポット溶接等の重ね抵抗溶接において,母材が局部的に過熱されて溶融飛散する現象又はその金属を意味する。散りはスポット溶接部材1の美観及び強度を損なったり、溶接環境を汚染したりするので、抑制されることが好ましい。本実施形態に係るスポット溶接部材1は、同一箇所に複数のナゲットを有するので、製造の際、特に、2つ目のナゲットを形成する際に、散りが生じやすい。しかし例えば、第2のスポット溶接の際の加圧力を350kgf(3.432kN)以上とすることにより、散りの発生を抑制することができる。
【0053】
(接着剤)
本実施形態に係るスポット溶接部材1は、ナゲット以外の接合手段を有してもよい。例えば本実施形態に係るスポット溶接部材1は、金属板11の間に配された接着剤をさらに備えてもよい。金属板11とは、第1の金属板111、第2の金属板112、及び内部金属板11nの全てを包括的に示す用語である。本実施形態に係るスポット溶接部材1は3枚以上の金属板11を有するので、2以上の接合界面を有する。1以上の接合界面に接着剤を配することにより、スポット溶接部材1の剛性と接合強度を一層高めることができる。
【0054】
(板厚比)
本実施形態に係るスポット溶接部材1では、スポット溶接部材1が有する金属板11の合計板厚を、第1の金属板111の板厚で割った値である板厚比が6.0超であってもよい。通常のスポット溶接部材においては、薄板の接合不良を抑制するために、板厚比を6.0以下にすることが通常である。しかし本実施形態に係るスポット溶接部材1では、第1の金属板111の側に偏って形成される第1のナゲット111により、薄板の接合不良を抑制している。そのため、スポット溶接部材1の板厚比を6.0超にしても、接合不良は生じない。
【0055】
(金属板の材質及び引張強さ)
本実施形態に係るスポット溶接部材1では、金属板11が鋼板であり、第1の金属板111の引張強さが440MPa以下であり、第1の金属板111以外の金属板11のうち1枚以上の引張強さが1350MPa以上であってもよい。これにより、本実施形態に係るスポット溶接部材1を、自動車部品として好適に用いることができる。
【0056】
(ナゲット径)
本実施形態に係るスポット溶接部材1では、第1の金属板111の板厚が0.4mm~0.9mmであり、スポット溶接部材1が有する金属板11の合計板厚が3.5mm~7.0mmであり、第1のナゲット141の径が3√(t1)~8√(t1)であり、第2のナゲット142の径が3√(t2)~8√(t2)であってもよい。t1は、第1の金属板111の板厚(mm)であり、t2は第2の金属板112の板厚(mm)である。これにより、スポット溶接部材1の接合強度を一層高めることができる。
【実施例
【0057】
実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に説明する。ただし、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例に過ぎない。本発明は、この一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。
【0058】
表1に示す種々の板組をスポット溶接して、スポット溶接部材を製造した。具体的には、まず鋼板1及び鋼板2に第1のスポット溶接(第1溶接)をして、第1のナゲットを有する第1の接合体を形成した。次いで、鋼板2に鋼板3(又は鋼板3及び鋼板4)を重ねあわせて、第2のスポット溶接(第2溶接)をして、第2のナゲットを形成した。これにより得られた種々のスポット溶接部材に破壊試験を行った。ただし、例1においては第2溶接を行わず、鋼板1~3をこの順番に重ねて作成した板組に第1溶接だけを行った。例7においても第2溶接を行わず、鋼板1~4をこの順番に重ねて作成した板組に第1溶接だけを行った。
【0059】
表1の「鋼板1」~「鋼板4」の列には、鋼板の引張強さ(単位MPa)、めっき種、及び厚さt(単位mm)を順に記載した。GAとは合金化溶融亜鉛めっきのことである。めっきを有しない鋼板については、めっき種の記載を省略した。参考のために、表1には、鋼板1~鋼板4から構成される板組の板厚比を記載した。これらを溶接して得られたスポット溶接部材のうち、鋼板3枚を接合したものにおいては、鋼板1が第1の金属板111とみなされ、鋼板3が第2の金属板112とみなされ、鋼板2が内部金属板11nとみなされる。鋼板4枚を接合した溶接部材においては、鋼板1が第1の金属板111とみなされ、鋼板4が第2の金属板112とみなされ、鋼板2及び3が内部金属板11nとみなされる。
【0060】
表2の「第1溶接」及び「第2溶接」の列には、第1のスポット溶接における電極加圧力(単位kgf、1kgfは約9.8N)、溶接電流値(単位kA)、及び溶接時間(溶接電流を通じる時間、単位サイクル、1サイクルは1/50秒)を順に記載した。なお、例9及び10においては、第2溶接を2回通電で実施した。2回通電とは、1回の溶接加圧中に2回の通電をする溶接である。表2には、2回の通電の間に設けられた無通電時間(単位サイクル)も記載した。2回通電において、加圧力は一定とした。また、例1及び例7においては第2溶接を行わなかったので、「第2溶接」の列には溶接条件を記載しなかった。
【0061】
表2の「第2溶接位置の距離」の列には、第1溶接及び第2溶接の溶接打点間隔(単位mm)を記載した。溶接打点間隔とは、近接した溶接点間の各溶接点中心位置間の距離のことである。
【0062】
破壊試験は、JIS Z 3144:2013「スポット及びプロジェクション溶接部の現場試験方法」に規定されるたがね試験によって実施した。具体的には、溶接部近傍の鋼板1と鋼板2との間にたがねを圧入することによって溶接部の板厚方向に引張力を働かせ、鋼板1と鋼板2との間の接合強度が良好であるか否かを判断した。
たがねの打ち込みによって、各試験片の鋼板1と鋼板2との間で溶接部を破断させた。そして、JIS Z 3144:2013の7.2「溶接径及びプラグ径の測定」に記載された方法に準拠して、溶接部の径(破断後に鋼板2に残存した鋼板1の径)を測定した。溶接部の径が4.25√t(tは鋼板1の厚さ)以上であるスポット溶接部材に関しては、「第1鋼板側破壊試験結果」の列に「◎」と記載した。溶接部の径が3√t以上4.25√t未満であるスポット溶接部材に関しては、「○」と記載し、溶接部の径が3√t未満であるスポット溶接部材に関しては、「×」と記載した。なお、例5においては第1溶接及び第2溶接の溶接打点間隔が大きく、第1のナゲットと第2のナゲットとが結合していなかった。この例5の破壊試験は、第2のナゲットに対して実施した。
また、鋼板1と鋼板3との間(4枚重ねの場合は、鋼板1と鋼板4との間)に荷重を加えて、十字引張疲労試験を実施した。疲労試験は、JIS Z 3138:1989「スポット溶接継手の疲れ試験方法」に準拠して実施した。疲労試験が合格のものを「○」と記載し、不合格のものを「×」と記載した。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
例1及び例7は、スポット溶接を1回しか行わない従来のスポット溶接部材の製造方法によって得られたものである。例1及び例7は、板厚比が非常に大きかったので、スポット溶接部材の表面に配された薄板である鋼板1に関して接合不良が生じた。
【0066】
例5は、スポット溶接を2回行うが、2つのナゲットを結合させないスポット溶接部材の製造方法によって得られたものである。例5も、板厚比が非常に大きかったので、第2のナゲットにおいて、スポット溶接部材の表面に配された薄板である鋼板1に関して接合不良が生じた。例5の第1のナゲットにおいては接合不良が生じていなかった可能性があるが、全ての鋼板が同一箇所で接合されていないので、例5の溶接部材は耐疲労性が不足した。
【0067】
一方、2回のスポット溶接を行い、かつ2つのナゲットを結合させる本発明の製造方法によって得られたスポット溶接部材は、薄板が表面に配されており、板厚比が非常に高いにもかかわらず、高い接合強度を有した。さらに、全ての鋼板が同一箇所で接合されているので、これらスポット溶接部材は高い耐疲労性を有する。
【0068】
参考のために、例1、例2、例4、及び例8のナゲットの断面写真を図2A図2Dに示す。例1の断面写真(図2A)においては、ナゲットが鋼板1に及んでいないことが確認できる。一方、例2(図2B)、例4(図2C)、及び例8(図2D)のスポット溶接部材においては、第1のナゲットと第2のナゲットとが重なっており、また、第1のナゲットが鋼板1まで及んでいた。
【0069】
また、破壊試験後の断面写真例を図3に示す。このスポット溶接部材においては、鋼板1が隣接する鋼板2と良好に接合されていたので、破壊試験後に多くの鋼板1が溶接部に残存した。
【符号の説明】
【0070】
1 スポット溶接部材
11 金属板
111 第1の金属板
112 第2の金属板
11n 内部金属板
12 第1の板組
13 第1の接合体
141 第1のナゲット
142 第2のナゲット
A 電極
d 第1のナゲットの打痕の中心と第2のナゲットの打痕の中心との間隔
t1 第1の金属板の板厚
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図3