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特許7587150抵抗スポット溶接方法及び継手の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】抵抗スポット溶接方法及び継手の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/11 20060101AFI20241113BHJP
   B23K 11/16 20060101ALI20241113BHJP
   B23K 11/24 20060101ALI20241113BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20241113BHJP
   C21D 9/50 20060101ALI20241113BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20241113BHJP
   C22C 38/04 20060101ALI20241113BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
B23K11/11 540
B23K11/16
B23K11/24 315
B23K31/00 B
C21D9/50 101B
C22C38/00 301Z
C22C38/04
C22C38/00 302A
C22C38/58
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021053809
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2021154390
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-11-20
(31)【優先権主張番号】P 2020056589
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉永 千智
(72)【発明者】
【氏名】児玉 真二
(72)【発明者】
【氏名】川合 蒼紫
(72)【発明者】
【氏名】今村 高志
(72)【発明者】
【氏名】茅野 松男
(72)【発明者】
【氏名】富士本 博紀
(72)【発明者】
【氏名】岡田 徹
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-055337(JP,A)
【文献】特開2016-068142(JP,A)
【文献】特開平07-068388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/11
B23K 11/16
B23K 11/24
B23K 31/00
C21D 9/50
C22C 38/00
C22C 38/04
C22C 38/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C含有量が、0.30%超、0.70%以下である少なくとも1枚の鋼板を含む2枚以上の鋼板を重ね合わせた板組を、一対の電極で板厚方向に挟み込んで加圧しながら電流値I(kA)で通電してナゲットを形成する第1通電工程と、
前記第1通電工程後、16ms以上200ms以下の時間tc1を無通電とする第1無通電工程と、
前記第1無通電工程後、下記式(1)を満たす電流値I(kA)及び下記式(2)を満たす時間t(ms)で通電する第2通電工程と、
0.6≦I/I≦1.1 ・・・(1)
50≦t≦1000 ・・・(2)
前記第2通電工程後、下記式(3)及び下記式(4)を満たす時間tc2(ms)を無通電とする第2無通電工程と、
3.5×10-3×Ms-3.3×Ms+1100<tc2≦9000 ・・・(3)
Ms(℃)=561-474×[C]-33×[Mn]-17×[Ni]-17×[Cr]-21×[Mo] ・・・(4)
前記第2無通電工程後、下記式(5)を満たす電流値I(kA)及び下記式(6)を満たす時間t(ms)で通電する第3通電工程と、
0.4≦I/I≦1.0 ・・・(5)
200≦t ・・・(6)
を連続して行う、抵抗スポット溶接方法。
前記式(3)におけるMsは、前記式(4)において[元素名]内に前記板組を構成する鋼板に含まれる各元素の質量%を代入して算出されるMs点を意味する。但し、前記板組を構成する少なくとも2枚の鋼板の組成が異なる場合は、前記板組を構成する全ての鋼板について前記式(4)により鋼板ごとに算出したMs点に、それぞれ前記板組の総厚に対する各鋼板の板厚比を乗じた値の加重平均のMs点を式(3)に代入する。
【請求項2】
前記板組のうち、前記少なくとも1枚の鋼板は、質量%で、
P含有量が0.010%未満である、
請求項1に記載の抵抗スポット溶接方法。
【請求項3】
前記板組のうち、前記少なくとも1枚の鋼板は、質量%で、
P含有量が0.010%未満、
S含有量が0.0100%以下、
である
請求項1に記載の抵抗スポット溶接方法。
【請求項4】
前記板組のうち、前記少なくとも1枚の鋼板は、質量%で、
Si含有量が0.10%超、
P含有量が0.010%未満、
S含有量が0.0100%以下、
である
請求項1に記載の抵抗スポット溶接方法。
【請求項5】
前記板組のうち、前記少なくとも1枚の鋼板は、質量%で、
Si含有量が0.10%超、
Mn含有量が15.00%以下、
P含有量が0.010%未満、
S含有量が0.0100%以下、
である
請求項1に記載の抵抗スポット溶接方法。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の抵抗スポット溶接方法を用いた継手の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抵抗スポット溶接方法及び継手の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車体の組立や部品の取付け等の工程においては主としてスポット溶接が使われている。
近年、自動車分野では、低燃費化やCO排出量削減を達成するための車体の軽量化や、衝突安全性を向上させるための車体の高剛性化がより求められており、その要求を満たすために、車体や部品等に高強度鋼板を使用するニーズが高まっている。
一方、高強度鋼板はその強度を達成するために母材の炭素当量が大きくなっており、スポット溶接では溶接部は加熱後直ちに急冷されるために、溶接部はマルテンサイト組織となり、溶接部及び熱影響部において硬度が上昇し、靭性が低下するようになる。
【0003】
スポット溶接部の靭性を改善して継手強度を確保する方法として、本通電の後にさらに後加熱通電を行う方法が提案されている。
例えば、2段通電によるスポット溶接方法として、特許文献1には、炭素を0.15質量%以上含み、引張強さが980MPa以上である高強度鋼板を重ね合わせスポット溶接する方法であって、スポット溶接工程を、ナゲットを形成する第1通電工程、第1通電工程に続いて無通電とする冷却工程、冷却工程に続いてナゲットを軟化させる第2通電工程の3工程に分けて行い、その際、第1通電工程の電流をI、第2通電工程の電流をIとするとき、I/Iを0.5~0.8とし、さらに冷却工程の時間tc(sec)を、鋼板板厚H(mm)に応じて、tmin=0.2×Hで計算される0.8×tmin以上、2.5×tmin以下の範囲とし、また第2通電工程の通電時間t(sec)を、0.7×tmin以上、2.5×tmin以下の範囲とし、前記第1通電工程までの電極の加圧力よりも、前記冷却工程以降における電極の加圧力を大きくして溶接してスポット溶接継手を得るスポット溶接方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、3段通電によるスポット溶接方法として、2枚以上の鋼板を重ね合わせた板組を、一対の電極で狭持し、加圧しながら通電して接合する抵抗スポット溶接方法であって、電流値I(kA)で通電する主通電工程を行い、その後、焼き戻し後熱処理工程として、式(1)に示す冷却時間tct(ms)で冷却した後、式(2)に示す電流値I(kA)で、式(3)に示す通電時間t(ms)の間通電を行い、
800≦tct ・・・式(1)
0.5×I≦I≦I ・・・式(2)
500≦t ・・・式(3)
前記板組のうち少なくとも1枚の鋼板は、
0.08≦C≦0.3(質量%)、
0.1≦Si≦0.8(質量%)、
2.5≦Mn≦10.0(質量%)、
P≦0.1(質量%)
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分を有する抵抗スポット溶接方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/060848号
【文献】国際公開第2019/156073号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スポット溶接に用いる鋼板の炭素量を高くすることで継手母材(鋼板)の高強度化を図ることができる。しかし、特許文献1の実施例では、C含有量が0.22%以下の鋼板が使用されており、さらにC含有量が高い鋼板を用い、継手強度(靭性)も高い継手を製造することが望ましい。
また、特許文献2では、C含有量が0.08~0.3%の鋼板を用いることを必須としており、比較例として、C含有量が0.3%を超える鋼板を用いて3段通電を行った場合には継手強度が低下することが記載されている。
【0007】
本開示は、炭素量が0.3%を超える鋼板を含む板組を用いる場合でも、単通電による抵抗スポット溶接を行う場合に比べ、継手強度を大きく向上させることができる抵抗スポット溶接方法及び継手の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本開示の要旨は次の通りである。
<1> 質量%で、C含有量が、0.30%超、0.70%以下である少なくとも1枚の鋼板を含む2枚以上の鋼板を重ね合わせた板組を、一対の電極で板厚方向に挟み込んで加圧しながら電流値I(kA)で通電する第1通電工程と、
前記第1通電工程後、16ms以上200ms以下の時間tc1を無通電とする第1無通電工程と、
前記第1無通電工程後、下記式(1)を満たす電流値I(kA)及び下記式(2)を満たす時間t(ms)で通電する第2通電工程と、
0.6≦I/I≦1.1 ・・・(1)
50≦t≦1000 ・・・(2)
前記第2通電工程後、下記式(3)及び下記式(4)を満たす時間tc2(ms)を無通電とする第2無通電工程と、
3.5×10-3×Ms-3.3×Ms+1100<tc2≦9000 ・・・(3)
Ms(℃)=561-474×[C]-33×[Mn]-17×[Ni]-17×[Cr]-21×[Mo] ・・・(4)
前記第2無通電工程後、下記式(5)を満たす電流値I(kA)及び下記式(6)を満たす時間t(ms)で通電する第3通電工程と、
0.4≦I/I≦1.0 ・・・(5)
200≦t ・・・(6)
を連続して行う、抵抗スポット溶接方法。
前記式(3)におけるMsは、前記式(4)において[元素名]内に前記板組を構成する鋼板に含まれる各元素の質量%を代入して算出されるMs点を意味する。但し、前記板組を構成する少なくとも2枚の鋼板の組成が異なる場合は、前記板組を構成する全ての鋼板について前記式(4)により鋼板ごとに算出したMs点に、それぞれ前記板組の総厚に対する各鋼板の板厚比を乗じた値の加重平均のMs点を式(3)に代入する。
<2> 前記板組のうち、前記少なくとも1枚の鋼板は、質量%で、
P含有量が0.010%未満、
である
<1>に記載の抵抗スポット溶接方法。
<3> 前記板組のうち、前記少なくとも1枚の鋼板は、質量%で、
P含有量が0.010%未満、
S含有量が0.0100%以下、
である
<1>に記載の抵抗スポット溶接方法。
<4> 前記板組のうち、前記少なくとも1枚の鋼板は、質量%で、
Si含有量が0.10%超、
P含有量が0.010%未満、
S含有量が0.0100%以下、
である
<1>に記載の抵抗スポット溶接方法。
<5> 前記板組のうち、前記少なくとも1枚の鋼板は、質量%で、
Si含有量が0.10%超、
Mn含有量が15.00%以下、
P含有量が0.010%未満、
S含有量が0.0100%以下、
である
<1>に記載の抵抗スポット溶接方法。
<6> <1>~<5>のいずれか1つに記載の抵抗スポット溶接方法を用いた継手の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、炭素量が0.3%を超える鋼板を含む板組を用いる場合でも、単通電による抵抗スポット溶接を行う場合に比べ、継手強度を大きく向上させることができる抵抗スポット溶接方法及び継手の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】重ね合わせた鋼板に行ったスポット溶接条件と継手のCTS(十字引張強さ)との関係を示す図である。
図2】スポット溶接後のナゲット付近のSEM―EBSD解析画像であり、(A)は単通電のみ、(B)は単通電の後に第2通電を行った場合である。
図3】本開示に係る抵抗スポット溶接方法における各工程における電流及び時間の一例を概略的に示す図である。
図4】2枚の鋼板を重ね合わせた板組に対して抵抗スポット溶接を行った場合に形成されるナゲット及び熱影響部(HAZ)の一例を概略的に示す図である。
図5】鋼板の炭素量を変化させて単通電によってスポット溶接した場合のCTS(単通電CTS)と本開示による通電(3段通電)によってスポット溶接した場合のCTSを比較した図である。
図6】単通電によってスポット溶接した場合のCTS(単通電CTS)に対して、本開示による通電(3段通電)によってスポット溶接した場合のCTSの上昇率を示す、図5を加工した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の一例である実施形態について説明する。
なお、本開示において、各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。また、本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、特に断りの無い限り、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。また、「~」の前後に記載される数値に「超」又は「未満」が付されている場合の数値範囲は、これら数値を下限値又は上限値として含まない範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階的な数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよく、また、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
また、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0012】
本発明者らは、鋼板のC量が0.30質量%超であっても抵抗スポット溶接を行った場合の継手強度(十字引張強さ:CTS)を向上できる方法を鋭意研究した。図1は、鋼板のC量が0.34%で、P量が、0.015%(通常P材)と0.0007%(極低P材)の2種類の鋼板を同じ種類の鋼板同士を2枚重ね合わせて、抵抗スポット溶接した継手のCTSとの関係を示している。なお、C量、P量以外の成分は、S:0.0008%、Si:0.25%、Mn:1.25%で共通である。また、「単通電」は板組にナゲットを形成する1回の通電による抵抗スポット溶接を行ったこと、「テンパー通電」は板組に対してナゲットを形成する単通電を行った後、ナゲットを軟化させる焼き鈍し処理に相当する後通電(テンパー通電)を行った(2段通電した)ことを意味する。3段通電は、ナゲットを形成する単通電の後に、テンパー通電よりも多い電流値の通電を行い、次いで、テンパー通電を行ったことを意味する。
【0013】
単通電継手とテンパー通電継手は、ともに、通常P材および極低P材を用いた。3段通電は、通常P材を用いたが、極低P材にテンパー通電を施した場合のCTSをはるかに超えた。極低P材は、偏析緩和の後通電をしなくてもCTSが高いので、この3段通電によるCTSの向上は、偏析緩和とテンパー通電による焼戻しの効果だけでは説明できないと、本発明者らは推測した。
そこで、本発明者らは、3段通電における2段目の通電の影響を調べるために、スポット溶接後の鋼板を板厚に垂直に切断、研磨し、金属組織を観察した。
【0014】
図2は、スポット溶接した場合のナゲットおよびその付近についてSEM―EBSD解析をした画像である。(A)は単通電のみ行ったもの、(B)は、単通電の後に2段目の通電を0.1秒行ったものである(テンパー通電はしない)。(B)では、ナゲット内でナゲット端部付近(溶融境界付近)において、(A)においてはあまり見られない整粒がみられる。これは、一旦凝固したのちに再度加熱されδ変態し、再び冷却されγ変態をしたことによる粒径形状の変化と考えられるが、この整粒化によって靭性が向上し、CTSが向上したものと考えられる。
【0015】
一般的に、C含有量を高くするほど鋼板の引張強度が高くなる反面、溶接部の靭性は低下して継手強度が低下するが、本発明者らは、C含有量が0.30%超の鋼板では、偏析緩和だけではなく、整粒化も重要と考えた。そして、C含有量が0.30%超、0.70%以下である鋼板を含む板組であっても、特定の条件でナゲットを形成する通電工程と、整粒化通電工程とテンパー通電工程を組み合わせた3段階の通電を行えば、CTS試験において、最も剥離方向の応力が負荷される部位(ナゲット内でナゲット境界付近)の靭性が向上し、継手強度を大幅に向上させることができることを見出した。
【0016】
すなわち、本開示に係る抵抗スポット溶接方法は、
質量%で、C含有量が、0.30%超、0.70%以下である少なくとも1枚の鋼板を含む2枚以上の鋼板を重ね合わせた板組を、一対の電極で板厚方向に挟み込んで加圧しながら電流値I(kA)で通電する第1通電工程と、
前記第1通電工程後、16ms以上200ms以下の時間tc1を無通電とする第1無通電工程と、
前記第1無通電工程後、下記式(1)を満たす電流値I(kA)及び下記式(2)を満たす時間t(ms)で通電する第2通電工程と、
0.6≦I/I≦1.1 ・・・(1)
50≦t≦1000 ・・・(2)
前記第2通電工程後、下記式(3)及び下記式(4)を満たす時間tc2(ms)を無通電とする第2無通電工程と、
3.5×10-3×Ms-3.3×Ms+1100<tc2≦9000 ・・・(3)
Ms(℃)=561-474×[C]-33×[Mn]-17×[Ni]-17×[Cr]-21×[Mo] ・・・(4)
前記第2無通電工程後、下記式(5)を満たす電流値I(kA)及び下記式(6)を満たす時間t(ms)で通電する第3通電工程と、
0.4≦I/I≦1.0 ・・・(5)
200≦t ・・・(6)
を連続して行う。
前記式(3)におけるMsは、前記式(4)において[元素名]内に前記板組を構成する鋼板に含まれる各元素の質量%を代入して算出されるMs点を意味する。但し、前記板組を構成する少なくとも2枚の鋼板の組成が異なる場合は、前記板組を構成する全ての鋼板について前記式(4)により鋼板ごとに算出したMs点に、それぞれ前記板組の総厚に対する各鋼板の板厚比を乗じた値の加重平均のMs点を式(3)に代入する。
【0017】
図3は、本開示に係る抵抗スポット溶接方法における各工程における電流及び時間の一例を概略的に示している。本開示に係る抵抗スポット溶接方法は、質量%で、C含有量が、0.30%超、0.70%以下である少なくとも1枚の鋼板を含む2枚以上の鋼板を重ね合わせた板組を用い、図3に示すように、第1通電工程、第1無通電工程、第2通電工程、第2無通電工程、及び第3通電工程を連続して、すなわち、他の工程を挟まずに続けて行う。以下、各工程について具体的に説明する。
【0018】
[第1通電工程]
まず、第1通電工程として、質量%で、C含有量が、0.30%超、0.70%以下である少なくとも1枚の鋼板を含む2枚以上の鋼板を重ね合わせた板組を、一対の電極で板厚方向に挟み込んで加圧しながら電流値I(kA)で通電する。
【0019】
第1通電工程ではスポット溶接によって板組を構成する全ての鋼板を接合するナゲットが形成されるように電流値I(kA)及び通電時間t(ms)を設定することが好ましい。図4は、2枚の鋼板を重ねた板組に対して第1通電工程を行った場合に形成されるナゲットの一例を概略的に示している。図4に示すように、鋼板1A、1Bを重ね合わせた板組を板厚方向に挟み込むように電極2A、2Bを押し当てた状態のまま、電極2Aと電極2Bの間で通電を行う。これにより鋼板1Aと鋼板1Bとの通電部にはナゲット13及び熱影響部(いわゆるHAZ)14が形成され、両鋼板が溶接される。
第1通電工程における電流値Iは所望のナゲット径が得られる電流値を用い、板組のうち最も薄い鋼板t(mm)とした場合、通電時間tは10t-5から10t+50cycle(50Hz)などとすればよい。ナゲット径は4√t以上を狙うのが継手強度、散り発生回避の観点からよい。ナゲット径はさらに望ましくは5√t以上である。このような5√t以上のナゲット径を、散りを発生させずに形成するためには、第1通電工程の前に1cycle~80cycle(50Hz)のアップスロープを設定することが望ましい。また、第1通電工程の前に、第1通電工程より低い電流値で2~80cycleのプレ通電を行っても良い。
なおアップスロープ通電を行う場合、アップスロープの終了時の電流値を第1通電工程における電流値I(kA)とし、第一通電工程の通電時間t(ms)にはアップスロープにかかる時間を含めない。
また、板組に対する電極2A、2Bの加圧力は、散り発生を抑え、かつ安定してナゲットが得られるように、例えば2000~8000Nが挙げられる。加圧力は溶接中に一定であっても、変化させても良い。
【0020】
本開示に係る抵抗スポット溶接方法では、板組を構成する鋼板は、少なくとも1枚の鋼板が、質量%で、C含有量が0.30%超、0.70%以下であればよい。このような鋼板は、冷延鋼板、熱延鋼板、ホットスタンプ鋼板が挙げられる。特に、C含有量の高いホットスタンプ鋼板が望ましい。また、鋼板の表面は、非めっき、亜鉛系めっき、アルミ系めっきのいずれであっても良い。板組を構成する鋼板の枚数は2枚以上であれば特に限定されず、製造される継手の用途に応じて選択すればよい。
以下、本開示における板組においてC含有量が0.30%超、0.70%以下である鋼板(以下、単に「鋼板」と称する場合がある。)について説明する。
【0021】
C:0.30%超0.70%以下
Cは、鋼の焼入れ性を高め、強度向上に寄与する元素である。C含有量が0.3%以下の鋼板のみを重ねてスポット溶接を行う場合は、本開示に係る抵抗スポット溶接方法を適用せずとも継手強度の確保が可能なため、本開示に係る抵抗スポット溶接方法では、少なくとも1枚の鋼板のC含有量は0.30%超とする。好ましくは、0.31%以上、さらに好ましくは、0.33%以上、さらに好ましくは0.35%以上である。
ただし、C含有量が0.70%を超えると靱性が低下しすぎ、本開示に係る抵抗スポット溶接方法を適用しても依然低いCTSしか得られないため、C含有量は0.70%以下とする。C含有量は、好ましくは、0.55%以下、さらに好ましくは0.48%以下である。
【0022】
図5は、鋼板の炭素量を変化させて単通電によってスポット溶接した場合のCTS(単通電CTS)と下記条件によってスポット溶接した場合のCTS(本発明通常条件CTS)を比較したグラフである。
第1通電工程/I:6800A、t:500ms
第1無通電工程/tc1:70ms
第2通電工程/I:5800A、t:250ms
第2無通電工程/tc2:700ms
第3通電工程/I:4000A、t:1300ms
【0023】
また、図6は、単通電によってスポット溶接した場合のCTS(単通電CTS)に対して、本開示による通電によってスポット溶接した場合のCTS(本発明通常条件CTS)について、下記式によって求めた上昇率を示すグラフである。
上昇率[%]=[(本発明通常条件CTS-単通電CTS)/単通電CTS]×100[%]
【0024】
図5及び図6に示されるように、C含有量が0.3%以下では、CTSの向上代が少なく(図6)、0.70%を超えるとそもそものCTSがかなり低くなってしまう(図5)。そのため、C含有量が0.3%超~0.7%の鋼板を含む板組に対して特定の条件で3段階通電を行うことでCTSを顕著に向上させることができる。
【0025】
C以外の残部は、Fe及び不純物であってもよいし、Feの一部に代えて任意成分を含んでもよい。なお、不純物とは、鉱石、スクラップ等の原材料に含まれる成分、又は、製造の過程で混入する成分が例示され、意図的に鋼板に含有させたものではない成分を指す。以下、C及びFe以外の好ましい含有量について説明する。なお、以下に説明する成分は不純物又は任意成分であり、下限値は0%であってもよいし、0%超であってもよい。
【0026】
P:0.010%未満
Pは、不純物であり、脆化を起こす元素である。P含有量が0.010%以上になると、継手強度を得ることが難しいので、上限を0.010%未満とすることが好ましい。より好ましくは0.009%以下である。
なお、P含有量は少ないほど好ましいが、P含有量を下げるほど脱Pコストが上昇する。また、本開示に係る抵抗スポット溶接方法によれば、図1に示したように、通常のP含有量である鋼板を用いた場合でも、P含有量を極めて低くした鋼板を用いて通電によってナゲットを形成した後、テンパー通電を行った場合と同等以上にCTSを向上させることができる。そのため、鋼板のP含有量を大きく下げる必要はなく、P含有量の下限値は、0.0005%であってもよい。
【0027】
S:0.0100%以下
Sは、Pと同様に、不純物であり脆化を起こす元素である。また、Sは、鋼中で粗大なMnSを形成し、鋼の加工性を低下させるとともに継手強度も低下させる元素である。S含有量が0.0100%を超えると、所要の継手強度を得ることが難しく、また、鋼の加工性が低下するので、0.0100%以下とすることが望ましい。
なお、S含有量は少ないほど好ましいが、Pと同様の観点から、鋼板のS含有量の下限値は、0.0003%であってもよい。
【0028】
Si:0.10%超
Siは、固溶強化により、鋼の強度を高める元素である。Si含有量が0.10%以下であると継手強度が低下してしまうため下限を0.10%超とすることが好ましい。より好ましくは0.80%超である。
一方、Si含有量が高過ぎると、加工性が低下するとともに継手強度も低下するので、上限を3.5%又は3.0%としてもよい。
【0029】
Mn:15.00%以下
Mnは、鋼の強度を高める元素である。Mn含有量が15.00%を超えると、加工性が劣化するとともに継手強度も低下するので、上限を15.00%とすることが好ましい。鋼板の強度と加工性および継手強度をバランスよく確保するには、0.5~7.5%がより好ましい。さらに好ましくは、1.0~2.5%である。
【0030】
Al:3.00%以下
Alは、脱酸作用をなす元素であり、また、フェライトを安定化し、セメンタイトの析出を抑制する元素である。Alは、脱酸、及び、鋼組織の制御のため含有させるが、Alは酸化し易く、Al含有量が3.00%を超えると、介在物が増加して加工性が低下するとともに継手強度も低下するので、3.00%以下とすることが好ましい。加工性を確保する点で、より好ましい上限は1.2%である。
【0031】
N:0.0100%以下
Nは、鋼板の強度を高める元素であるが、鋼中で粗大な窒化物を形成し、鋼の成形性を劣化させる作用をなす元素である。N含有量が0.0100%を超えると、鋼の成形性の劣化、継手強度の低下が顕著となるので、0.0100%以下とすることが望ましい。
なお、鋼板の清浄度を高める観点から、Nは、ゼロ%であってもよい。Nを低減する生産コストの観点から下限値は、0.0001%であってもよい。
【0032】
Ti:0.30%以下
Tiは、析出物を形成し、鋼板組織を細粒とする元素であり、含有してもよい。含有効果を得るため、0.001%以上含有することが好ましい。より好ましくは0.01%以上である。一方、過剰に含有すると、製造性が低下し、加工時に割れが生じるだけでなく継手強度の低下も起こすので、0.30%を上限とすることが好ましく、より好ましくは0.20%以下である。
【0033】
Nb:0.30%以下
Nbは、微細な炭窒化物を形成し結晶粒の粗大化を抑制する元素であり、含有してもよい。含有効果を得るため、0.001%以上含有することが好ましい。より好ましくは0.01%以上である。過剰に含有すると、靭性を阻害し製造困難になるだけでなく継手強度低下を引き起こすため、上限を0.30%とすることが好ましく、より好ましくは0.20%以下である。
【0034】
V:0.30%以下
Vは、微細な炭窒化物を形成し結晶粒の粗大化を抑制する元素であり、含有してもよい。含有効果を得るため、0.001%以上含有することが好ましい。より好ましくは0.03%以上である。過剰に含有すると、靭性を阻害し製造困難になるだけでなく継手強度低下を引き起こすため、上限を0.30%とすることが好ましく、より好ましくは0.25%以下である。
【0035】
Cr:5.00%以下
Mo:2.00%以下
Cr及びMoは、鋼の強度の向上に寄与する元素であり、含有してもよい。含有効果を得るため、それぞれ0.001%以上含有することが好ましい。より好ましくは 0.05%以上である。ただし、Cr含有量が5.00%を超え、又はMo含有量が2.00%を超えると、酸洗時や熱間加工時に支障が生じることがあるだけでなく継手強度の低下を招くので、Cr含有量の上限は5.00%とすることが好ましく、Mo含有量の上限は2.00%とすることが好ましい。
【0036】
Cu:2.00%以下
Ni:10.00%以下
Cu及びNiは、鋼の強度の向上に寄与する元素であり、含有してもよい。含有効果を得るため、それぞれ0.001%以上含有することが好ましい。より好ましくは 0.10%以上である。ただし、Cu含有量が2.00%を超え、Ni含有量が10.00%を超えると、酸洗時や熱間加工時に支障が生じることがあるだけでなく継手強度の低下を招くことがあるので、Cu含有量の上限は2.00%とすることが好ましく、Ni含有量の上限は10.00%とすることが好ましい。
【0037】
Ca:0.0030%以下
REM:0.050%以下
Mg:0.05%以下
Zr:0.05%以下
Ca、REM(rare earth metal)、Mg、及びZrは、脱酸後の酸化物や、熱間圧延鋼板中に存在する硫化物を微細化し、成形性の向上に寄与する元素であり、含有してもよい。ただし、Caの含有量が0.0030%を超え、REMの含有量が0.050%を超え、Mg、又はZrの各含有量が0.05%を超えると、鋼の加工性が低下する。そのため、Ca含有量の上限を0.0030%とし、REM含有量の上限を0.050%とし、Mg、及びZrの各含有量の上限を0.05%とすることが好ましい。
なお、含有効果を得るため、Ca含有量は0.0005%以上、REMは0.001%以上、Mgは0.001%以上、Zrは0.001%以上とすることが好ましい。
【0038】
なお、「REM」とはSc、Y、及びランタノイドの合計17元素の総称であり、REMの含有量はREMのうちの1種又は2種以上の元素の合計含有量を指す。また、REMについては一般的にミッシュメタルに含有される。このため、例えば、REMは、REMの合計含有量が上記の範囲となるように、ミッシュメタルの形で含有させてもよい。
【0039】
B:0.0200%以下
Bは、粒界に偏析して粒界強度を高める元素であり、含有してもよい。含有効果を得るため、0.0001%以上含有することが好ましく、より好ましくは0.0008%以上である。一方、過剰に含有すると靭性を阻害し製造困難になるだけでなく継手強度の低下を引き起こすため、上限を0.0200%とすることが好ましく、より好ましくは0.010%以下である。
【0040】
本開示に係る抵抗スポット溶接方法では、2枚以上の鋼板を重ね合わせた板組のうち、少なくとも1枚の鋼板は、質量%で、C含有量が、0.30%超、0.70%以下であり、好ましくは上述した元素から所望の元素を選択し、上述した範囲内の組成を有する鋼板を用いる。
鋼板成分として、
C:0.30%超~0.70%、
Si:0.10%超、
Mn:15.00%以下、
P:0.010%未満、
S:0.0100%以下、
Al:3.00%以下、及び
N:0.0100%以下、を含み、
残部が鉄(Fe)および不純物からなる鋼板であってもよい。
上記成分組成の鋼板が、上記鉄(Fe)の一部に代えて、
Ti:0.30%以下、
Nb:0.30%以下、
V:0.30%以下、
Cr:5.00%以下、
Mo:2.00%以下、
Cu:2.00%以下、
Ni:10.00%以下、
Ca:0.0030%以下、
REM:0.050%以下、
Mg:0.05%以下、
Zr:0.05%以下、及び
B:0.0200%以下
の群から1種または2種以上の元素を含有してもよい。
板組を構成する全ての鋼板のC含有量が0.30%超、0.70%以下でもよいし、板組のうち一部の鋼板は、C含有量が0.30%以下又は0.70%超でもよい。
【0041】
板組を構成する鋼板の板厚は特に限定されないが、例えば、0.5~3.5mmの板厚が挙げられる。
また、板組の総厚tも特に限定されないが、例えば、1.5~8.0mmが挙げられる。
【0042】
[第1無通電工程]
第1通電工程後、16ms以上200ms以下の時間tc1を無通電とする。
無通電時間tc1が16ms未満では第2通電工程の前にナゲット端部が凝固しないおそれがある。一方、無通電時間tc1が200msを超えると、第2通電工程の前にナゲット端部が固まり過ぎるおそれがある。
ナゲット端部の凝固が不足した状態又は過度に凝固した状態での後通電(第2通電工程)を避け、ナゲット端部の凝固を適切に進めるために、第1通電工程後の無通電時間tc1は、16ms以上200ms以下とし、25ms以上160ms以下とすることが好ましく、30ms以上150ms以下とすることがより好ましい。
【0043】
[第2通電工程]
第2通電工程は、本発明者らが、鋼板のC量が0.3%超であっても、CTSを向上させることができることを発見した、重要な工程である。ナゲット内の溶融境界付近の結晶粒を整粒化し、CTS試験において、剥離方向に負荷される応力が最も高くなる部位の靭性を向上させる効果がある。
第1無通電工程後、下記式(1)を満たす電流値I(kA)及び下記式(2)を満たす時間t(ms)で通電する。
0.6≦I/I≦1.1 ・・・(1)
50≦t≦1000 ・・・(2)
第2通電工程では第1通電工程でできた溶融境界を越えずにナゲット中央部を溶融させてナゲット端部付近に適切な熱を入れるために、第1通電工程の電流値(I)に対する比(I/I)及び通電時間(t)がそれぞれ上記の式(1)及び式(2)を満たす条件で通電を行う。
第2通電工程は、結晶粒制御熱処理に相当し、上記の式(1)及び式(2)を満たす電流値I(kA)及び時間t(ms)で通電を行うことでナゲットの結晶粒が変化し、継手強度を向上させることができる。
/Iは0.75~1.05、tは200~600が好ましい。
【0044】
[第2無通電工程]
第2通電工程後、下記式(3)及び下記式(4)を満たす時間tc2(ms)を無通電とする。
3.5×10-3×Ms-3.3×Ms+1100<tc2≦9000 ・・・(3)
Ms(℃)=561-474×[C]-33×[Mn]-17×[Ni]-17×[Cr]-21×[Mo] ・・・(4)
式(3)におけるMsは、式(4)において[元素名]内に板組を構成する鋼板に含まれる各元素の質量%を代入して算出されるMs点を意味する。但し、板組を構成する少なくとも2枚の鋼板の組成が異なる場合は、板厚を考慮し、板組を構成する全ての鋼板について式(4)により鋼板ごとに算出したMs点に、それぞれ板組の総厚(全体の厚み)に対する各鋼板の板厚比を乗じた値の加重平均のMs点を式(3)に代入する。なお、式(4)における元素のうち、鋼板に含まれない元素についてはゼロを代入する。
【0045】
例えば、互いに組成が異なる3枚の鋼板α、β、γを重ね合わせた板組をスポット溶接する場合、各鋼板の組成から式(4)によって算出されるMs点(℃)をそれぞれMsα、Msβ、Msγ、各鋼板の板厚(mm)をそれぞれtα、tβ、tγ、板組の総厚をtとすると、この板組における各鋼板の板厚を考慮した加重平均のMs点(Msave)は以下のように算出される。
Msave=Msα×(tα/t)+Msβ×(tβ/t)+Msγ×(tγ/t)
【0046】
第2無通電工程では、次の第3通電工程においてナゲットおよびHAZの焼き戻しをするために溶接部全体の温度がMs点以下になる必要がある。よって、鋼の成分によって必要な時間が変わる。Ms点を上記式(4)で求めて溶接部全体の温度がMs点以下となるのに必要な時間を計算したところ、3.5×10-3×Ms-3.3×Ms+1100<tc2とする必要がある。
ただし、第2無通電時間tc2が9000msを超えると、十字引張における疲労強度が低下する場合がある。この理由として、第2無通電時間tc2に続く第3通電工程があるものの、溶接部に残留応力が強く残ってしまうことが考えられる。そのため、第2無通電時間tc2は9000ms以下である必要がある。
【0047】
[第3通電工程]
第2無通電工程後、下記式(5)を満たす電流値I(kA)及び下記式(6)を満たす時間t(ms)で通電する。
0.4≦I/I≦1.0 ・・・(5)
200≦t ・・・(6)
第3通電工程は、テンパー熱処理に相当し、電流値I及び通電時間tはMs点以下までに冷やされたナゲットを適切な焼戻し温度まで再加熱できればよい。実験の結果、第3通電工程の電流値(I)では、第1通電工程の電流値(I)に対する比(I/I)及び通電時間(t)が、それぞれ式(5)及び式(6)を満たす条件で通電することで、靭性を向上させることができる。
なお、第3通電工程における通電時間が長過ぎると生産性を落としてしまうため、5000ms以下とすることが好ましい。また、第3通電工程後にダウンスロープを設けてもよい。ダウンスロープにより、液体金属脆性の割れ低減、ブローホール低減、遅れ破壊の抑制の効果により溶接部の特性がさらに向上する。なお、ダウンスロープ通電を行う場合、ダウンスロープの開始時の電流値を第3通電工程における電流値I(kA)とし、第三通電工程の通電時間t(ms)にはダウンスロープにかかる時間を含めない。
第3通電工程の後は、加圧だけで通電しない、いわゆる保持時間を設けることが液体金属脆性の割れ抑制のために好ましい。保持時間は5cycle(50Hz)以上が望ましい。
【0048】
C含有量が、0.30%超、0.70%以下である少なくとも1枚の鋼板を含む2枚以上の鋼板を重ね合わせた板組に対し、上述した各工程からなる抵抗スポット溶接を行うことで、単通電で抵抗スポット溶接を行った場合に比べてCTSを大幅に向上させることができる。また、上記板組では単通電ではナゲット硬さに見合うTSS(引張せん断強さ)が得られない場合がある。本発明によれば、溶接部の靱性向上作用によりTSSも向上させることが可能である。さらに、溶接部の靭性向上と軟化の作用により、スポット溶接部の耐遅れ破壊特性も向上させることが可能である。
このような本開示に係る抵抗スポット溶接方法を適用する分野は特に限定されないが、例えば、車体の組立や部品の取付け等の工程に特に有効と考えられる。
【実施例
【0049】
以下、実施例によって本開示に係る抵抗スポット溶接方法及び継手の製造方法について説明する。尚、本開示に係る抵抗スポット溶接方法及び継手の製造方法はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
表1に示す組成を有する鋼板を用意し、表2に示す条件(板組、加圧力、通電条件など)で抵抗スポット溶接を行った。
表1において、P、S、Nは意図的に添加しなくても、成分分析は実施した。また、「<0.0002%」のように不等号による表記は、分析下限値未満であることを意味する。その他の元素は、意図的に添加しない場合、「-」を記載し、成分分析を実施していない。残部は、Fe及び不純物である。また、表1において、鋼板のC含有量が0.30%以下又は0.70%を超える値には下線を付した。なお、鋼板r及び鋼板sは、C含有量が0.30%以下であるが、鋼板のC含有量が0.30%超、0.70%以下の鋼板と組み合わせる発明例の板組に用いるために用意したものであり、下線は付していない。
【0051】
表2における下線は、本開示の要件を満たさないことを意味する。また、「式(3)の左辺」とは、「3.5×10-3×Ms-3.3×Ms+1100」によって算出される値を意味し、「単通電CTS」は、通電条件のうち第1通電(I,t)のみでサンプルを作製した場合のCTSを意味する。
この単通電CTSと比較して上昇率を取り、10%を超えるものを継手強度の向上効果があるものと判断した。
上昇率[%]=[(本開示の通電条件でのCTS-単通電のCTS)/単通電のCTS]×100
表2に示す条件のほか、No.43では第1通電工程の前に500msのアップスロープ通電を行い、また、No.44では第1通電工程の前に、電流6.7kA、通電時間500msのプレ通電を行った。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】

【0054】
No.1、3~6、8~19、32~44では、少なくとも1枚の鋼板のC含有量が質量%で0.30%超0.70%以下である板組に対し、本開示の条件を満たす抵抗スポット溶接を行っており、いずれも単通電による抵抗スポット溶接を行った場合に比べ、CTSの上昇率が10%を超えていた。
一方、No.2、7、20~31では、本開示の条件を満たさないため、単通電による抵抗スポット溶接を行った場合に比べ、CTSの上昇率が10%に満たず、むしろCTSが低下したものもあった。
【符号の説明】
【0055】
1A、1B 鋼板
2A、2B 電極
13 ナゲット
14 熱影響部(HAZ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6