(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】鋼製壁と鉄筋コンクリート部材の結合構造及びその構築方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/20 20060101AFI20241113BHJP
E02D 5/04 20060101ALI20241113BHJP
E02D 5/10 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
E02D5/20
E02D5/04
E02D5/10
(21)【出願番号】P 2021104013
(22)【出願日】2021-06-23
【審査請求日】2024-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000230010
【氏名又は名称】ジオスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】池田 真
(72)【発明者】
【氏名】駄原 剛弘
(72)【発明者】
【氏名】松野 真樹
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-057252(JP,A)
【文献】特開平09-100541(JP,A)
【文献】米国特許第04836718(US,A)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0073888(KR,A)
【文献】特開平09-302665(JP,A)
【文献】特開平11-021896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/20
E02D 5/04
E02D 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造であって、
前記鉄筋コンクリート部材の前記鋼製壁と対向する端部には複数の鋼製の継手部材が埋設され、
前記複数の継手部材は前記鋼製壁の上下方向に延伸し、且つ、互いに平行となるように配置され、当該継手部材の一方の端部は前記鋼製壁の壁面と結合され、
前記複数の継手部材は、前記鉄筋コンクリート部材に埋設された部位においてそれぞれの継手部材に設けられた貫通孔を貫通する連結部材により互いに連結され、
前記鉄筋コンクリート部材の内部には、前記鋼製壁の壁面に垂直な方向に延伸する主鉄筋が前記連結部材を取り囲むように折り返された状態で埋設されることを特徴とする、鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造の構築方法であって、
前記鉄筋コンクリート部材は前記鋼製壁と対向する端部において前記継手部材の端面が露出するように製作されたプレキャスト鉄筋コンクリート部材であり、
当該プレキャスト鉄筋コンクリート部材から露出した前記継手部材の端面を前記鋼製壁と結合させ、
前記鋼製壁と前記プレキャスト鉄筋コンクリート部材との間隙に対し経時性硬化材を打設して接続用コンクリート部材を構成し、
前記鋼製壁と前記プレキャスト鉄筋コンクリート部材とを一体化させることを特徴とする、鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造の構築方法。
【請求項3】
請求項1に記載の鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造の構築方法であって、
前記複数の継手部材を前記鋼製壁の壁面に結合させ、それぞれの継手部材に設けられた貫通孔を貫通する連結部材により当該複数の継手部材同士を連結させ、
前記主鉄筋を、当該主鉄筋が前記連結部材を取り囲むように折り返された状態で配置し、経時性硬化材としての現場打ちコンクリートを打設して前記鋼製壁と一体化した前記鉄筋コンクリート部材を製作することを特徴とする、鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼製壁と鉄筋コンクリート部材の結合構造及びその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な橋梁下部工事や貯水等のための地下構造物、各種土木構造物の工事においては、鋼矢板(シートパイル)等を用いて壁体を構築する場合がある。例えば、特許文献1には、土木構造物を構築する際に、外壁材を鋼矢板によって構成し、鋼矢板に取り付けられた腹起し材や接続金物によって隣接する鋼矢板同士を接続し、腹起し材にアンカー材を挿入することで硬化材(コンクリート)との間に支持力を付与するといった技術が開示されている。
【0003】
また、橋梁下部工事等では、初めに仮設鋼矢板を土留めとして打ち込み、掘削を行った後に構造物本体(基礎杭等)の構築を行い、その後に埋戻しや仮設鋼矢板の撤去といった工程を行う手順が採用されている。このような仮設鋼矢板の使用には手間やコストの面で無駄があることから、例えば、特許文献2には、仮設として用いられてきた鋼矢板を本設として用いることで有効活用し、橋脚基礎構造を構築する技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、予め孔あき鋼板が溶接された複数の鋼矢板を地盤に打ち込み、孔あき鋼板に係止部材を介してアンカー鉄筋を掛着して周囲にコンクリート打設を行い、フーチングを構築する技術が開示されている。この特許文献3では、係止部材やアンカー鉄筋により鋼材(鋼矢板)とコンクリートとの間でせん断力及び引張力を伝達させる構造において作業性の向上が図られている。
【0005】
また、近年では、各種構造物の構築において、施工性や工期短縮化といった観点から、工場などで予め製作された部材を現場に搬入し、既設部材に組み付けるといったいわゆるプレキャストコンクリート部材(単にプレキャスト部材とも呼称される)をコンクリート部材として用いる技術が一般的となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-44119号公報
【文献】特開2010-216150号公報
【文献】特開2006-57252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1においては、アンカー材としての鉄筋を腹起し材の孔に直接挿入して硬化材との間の支持力を得る構成となっている。また、上記特許文献2においては、鋼矢板に取り付けられた孔あき鋼板ジベルの孔に鉄筋を直接引っ掛ける(挿入する)ことでずれ止め効果を得る構成を採っている。
【0008】
このような特許文献1、2に開示された構成において、ジベル性能や剛性の向上を図るために、足が長い鉄筋を密に配置しようとすると、鋼板等に形成された孔に直接鉄筋を挿入するのは施工性等の面から困難である。具体的には、特許文献1では、腹起し材の上下方向ピッチは約100cm(=1000mm)間隔となっており、密な状態で鉄筋を配置する構成とはなっていない。また、特許文献2では、幅900mmの鋼矢板1枚に対し1枚の孔あき鋼板ジベルが取り付けられた構成であるため、そこに引っ掛けられた鉄筋同士の間隔も900mm程度離間していると考えられ、密な状態で鉄筋を配置する構成とはなっていない。
【0009】
特許文献1、2のように、鋼板等に形成された孔に直接鉄筋を挿入する構成では、密な状態で鉄筋を配置することが難しく、応力集中により破壊の原因となる懸念があり、更なるジベル性能や剛性の向上が求められている。また、上述したように、仮設として用いられてきた鋼矢板を本設として用いることは手間やコストの面で優れていることから、仮設鋼矢板を本設鋼矢板として用い、且つ、ジベル用の鉄筋を密に配置することが可能な鋼矢板(鋼製壁)と鉄筋コンクリート部材の結合構造が求められている。
【0010】
また、特許文献3に開示された技術では、アンカー鉄筋を有孔板に掛着する際に孔に係止部材を挿通させ、係止部材にアンカー鉄筋を引っ掛けるとの構成を採ることで作業性の向上が図られているが、一方でアンカー鉄筋の配置に伴う鋼材や係止部材への応力集中については何ら考慮されていない。
【0011】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、鋼製壁と鉄筋コンクリート部材を結合して結合構造を構築するに際し、鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との間のジベル性能を向上させ、優れた剛性を有するように鉄筋を密に配置することが可能な鋼製壁と鉄筋コンクリート部材の結合構造及びその構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するため、本発明によれば、鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造であって、前記鉄筋コンクリート部材の前記鋼製壁と対向する端部には複数の鋼製の継手部材が埋設され、前記複数の継手部材は前記鋼製壁の上下方向に延伸し、且つ、互いに平行となるように配置され、当該継手部材の一方の端部は前記鋼製壁の壁面と結合され、前記複数の継手部材は、前記鉄筋コンクリート部材に埋設された部位においてそれぞれの継手部材に設けられた貫通孔を貫通する連結部材により互いに連結され、前記鉄筋コンクリート部材の内部には、前記鋼製壁の壁面に垂直な方向に延伸する主鉄筋が前記連結部材を取り囲むように折り返された状態で埋設されることを特徴とする、鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、上記記載の鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造の構築方法であって、前記鉄筋コンクリート部材は前記鋼製壁と対向する端部において前記継手部材の端面が露出するように製作されたプレキャスト鉄筋コンクリート部材であり、当該プレキャスト鉄筋コンクリート部材から露出した前記継手部材の端面を前記鋼製壁と結合させ、前記鋼製壁と前記プレキャスト鉄筋コンクリート部材との間隙に対し経時性硬化材を打設して接続用コンクリート部材を構成し、前記鋼製壁と前記プレキャスト鉄筋コンクリート部材とを一体化させることを特徴とする、鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造の構築方法が提供される。
【0014】
また、本発明によれば、上記記載の鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造の構築方法であって、前記複数の継手部材を前記鋼製壁の壁面に結合させ、それぞれの継手部材に設けられた貫通孔を貫通する連結部材により当該複数の継手部材同士を連結させ、前記主鉄筋を、当該主鉄筋が前記連結部材を取り囲むように折り返された状態で配置し、経時性硬化材としての現場打ちコンクリートを打設して前記鋼製壁と一体化した前記鉄筋コンクリート部材を製作することを特徴とする、鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との結合構造の構築方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、鋼製壁と鉄筋コンクリート部材を結合して結合構造を構築するに際し、鋼製壁と鉄筋コンクリート部材との間のジベル性能を向上させ、優れた剛性を有するように鉄筋を密に配置することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係る鋼製壁と鉄筋コンクリート部材の結合構造の概略説明図である。
【
図2】本実施形態に係る結合構造の構築方法を示す概略説明図である。
【
図3】本実施形態に係る結合構造の構築方法を示す概略説明図である。
【
図4】本実施形態に係る結合構造の構築方法を示す概略説明図である。
【
図5】本実施形態に係る結合構造の構築方法を示す概略説明図である。
【
図6】本実施形態に係る結合構造の構築方法を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する場合がある。また、本明細書では、説明のために鉄筋構造や配筋構成について、一部図示を省略する場合や、あるいは、通常は可視されないコンクリート内部等の鉄筋構成を図示する場合がある。
【0018】
(本発明の実施の形態に係る結合構造の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る鋼製壁と鉄筋コンクリート部材の結合構造(以下、単に結合構造とも記載)1の概略説明図である。
図1に示すように、結合構造1は、鋼製壁10と、鋼製壁10に固着された継手部材15を有する。鋼製壁10は、例えば鉛直方向(上下方向、図中Z方向))に延伸する鋼矢板杭等でも良い。継手部材15は鋼製の板状部材でも良く、鋼製壁10の壁面(内面)に一方の端部が固定手段によって結合されても良い。
図1のように、継手部材15は所定の間隔でもって互いに平行に複数(例えば図中の15a~15c)配置されても良い。また、継手部材15の幅長さ(図中X方向長さ)は、各継手部材15(15a~15c)が固定される鋼製壁10の位置によって調整されても良く、鋼製壁10に固定された際に、各継手部材15(15a~15c)の他方の端部位置が揃うような幅長さに設計されても良い。また、継手部材15の鋼製壁10に対する固定手段は例えば溶接やボルト止め等でも良い。なお、本実施の形態では、1枚の鋼矢板である鋼製壁10に3枚の継手部材15(15a~15c)が結合された構成を例示して図示している。
【0019】
また、継手部材15(15a~15c)には、それぞれに貫通孔17(図中の17a~17c)が設けられており、各継手部材15a~15c同士は、複数の継手部材15a~15cに亘って貫通孔17を貫通して配置される連結部材20により互いに連結されている。貫通孔17の数や配置構成は任意であり、例えば水平方向(図中Y方向)に延伸する連結部材20が各継手部材15a~15cのそれぞれに設けられた貫通孔17を挿通することが可能な配置構成であっても良い。また、連結部材20は貫通孔17の数に合わせて複数配置されても良い。なお、連結部材20の断面形状や貫通孔17の形状は任意であり、連結部材20が種々の棒鋼である場合には、その断面形状に合わせた貫通孔17の形状とすればよい。本実施の形態に係る構成では、連結部材20は水平方向に延伸する所定の径を有する丸鋼であり、各継手部材15a~15cの上下2ヶ所に設けられた貫通孔17に挿通する2本の連結部材20が配置された場合を例示して図示している。
【0020】
また、結合構造1には、鋼製壁10の壁面(内面)に対し垂直な方向(図中X方向)に延伸し、連結部材20を取り囲むように折り返され、折り返し部分(U字部分)31においていわゆるU字形状を成すように構成される第1主鉄筋30が配置されている。
図1のように、第1主鉄筋30は例えば所定の間隔でもって互いに平行に複数配置されても良く、その間隔aは150mm~300mmでも良い。第1主鉄筋30は、折り返し点(折り返し部31の中央)を起点とし、両端部への延伸長さ(図中X方向の長さ)が同じ長さとなるように均等に折り返されることが好ましい。これは、第1主鉄筋30に外力がかかった際にその外力が均等になることで鉄筋の破断等が抑えられるからである。なお、第1主鉄筋30の種類は特に限定されるものではなく、例えば異形鉄筋でも良い。
【0021】
ところで、異形鉄筋等の鉄筋を例えばU字形等に折り返す場合に、強度や耐力を担保するとの観点から、鉄筋の径や長さ等の諸条件に応じて折り曲げ径が基準として規定されている。その基準を満たすために、折り返し部分31における第1主鉄筋30の曲がりの曲率半径は規定値以上であることが求められる。そこで、本実施の形態に係る構成では、連結部材20を取り囲むように配した第1主鉄筋30の折り返し部分31における曲がりの曲率半径が規定値未満となってしまう場合に、第1主鉄筋30が連結部材20を確実に取り囲むように配置させるための調整治具23が設置されている。調整治具23は、例えば連結部材20に対し外径を調整するために取り付けられる円弧断面を有する部材でも良い。
【0022】
また、結合構造1において、例えば折り返された状態の第1主鉄筋30に挟まれた位置に、鋼製壁10の壁面(内面)に対し垂直な方向(図中X方向)に延伸する第2主鉄筋40と、当該第2主鉄筋40に直交する方向(図中Y方向)に延伸する配力筋42が設けられても良い。これら第2主鉄筋40や配力筋42は例えば所定の間隔でもって互いに平行に複数配置されても良い。第2主鉄筋40及び配力筋42は必須ではないが、設けることで結合構造1全体の剛性や耐力の向上が図られる。
【0023】
なお、結合構造1を構成する各部材や鉄筋等(継手部材15、連結部材20、調整治具23、第1主鉄筋30、第2主鉄筋40、配力筋42)は、
図1には図示していない経時性硬化材(例えばコンクリート)が施工されることで当該経時性硬化材に埋設(内包)され、鉄筋コンクリート部材(後述する鉄筋コンクリート部材50)となる。例えば、鉄筋コンクリート部材の鋼製壁10と対向する端部には、継手部材15が露出した状態で埋設され、当該継手部材15が鋼製壁10の壁面(内面)と結合することで一体化される。なお、鉄筋コンクリート部材は、現場打ちコンクリート、プレキャストコンクリートのいずれから構成されても良い。
【0024】
また、結合構造1において鋼製壁10と鉄筋コンクリート部材とを一体化させるため、鋼製壁10の壁面(内面)に対し図示しない経時性硬化材を打設し接続用コンクリート部材(後述する接続用コンクリート部材52)としても良い。この接続用コンクリート部材には、継手部材15や第1主鉄筋30の一部(例えば折り返し部分31の一部)が内包される。
【0025】
(結合構造の構築方法)
図2~
図6は、本実施形態に係る結合構造1の構築方法を示す概略説明図である。先ず、
図2に示すように、継手部材15(15a~15c)の一方の端部が壁面(内面)に固定された鋼製壁10が鉛直方向(上下方向、図中Z方向))に延伸した状態で地盤等(図示せず)に打ち込まれる。ここでは、鋼製壁10は例えば鋼矢板であり、継手部材15(15a~15c)は貫通孔17(17a~17c)が所定の箇所に設けられた板状部材である。なお、鋼製壁10に対する継手部材15の固定は、予め工場等で行っても良く、あるいは現場での施工時に行っても良い。
【0026】
次いで、
図3に示すように、第1主鉄筋30が所定の間隔でもって互いに平行に複数配置される。第1主鉄筋30は折り返し部分31においていわゆるU字形状を成すように予め折り返された鉄筋であり、折り返し部分31が所定の位置となるように配置される。ここで所定の位置とは、打設された継手部材15に設けられた貫通孔17の位置に対応する位置であることが好ましく、貫通孔17に連結部材20(
図1参照)を挿通させた際にその連結部材20を第1主鉄筋30の折り返し部分31が取り囲むような位置であることが好ましい。
【0027】
そして、
図4に示すように、水平方向(図中Y方向)に延伸する複数(ここでは2本)の連結部材20が各継手部材15(15a~15c)のそれぞれに設けられた貫通孔17を挿通するように配置される。この連結部材20により、各継手部材15(15a~15c)同士が連結される。この時、予め配置された第1主鉄筋30(
図3参照)の折り返し部分31の内側に連結部材20が位置するように配置される。連結部材20と第1主鉄筋30との間には、第1主鉄筋30が連結部材20を取り囲むことができるように調整治具23が設置される。調整治具23を設置することで、第1主鉄筋30と連結部材20とを調整治具23を介して確実に結合させ、且つ、第1主鉄筋30の折り曲げ径を基準内に収めることができる。
【0028】
そして、
図5に示すように、折り返された状態の第1主鉄筋30に挟まれた位置に、鋼製壁10の壁面(内面)に対し垂直な方向(図中X方向)に延伸する第2主鉄筋40と、第2主鉄筋40に直交する方向(図中Y方向)に延伸する配力筋42が配置される。第2主鉄筋40、配力筋42は図示のように所定の間隔で複数配置されても良く、また、第2主鉄筋40と配力筋42は、両者が予め固着された状態で用意されても良い。
【0029】
そして、
図6に示すように、継手部材15、連結部材20、調整治具23、第1主鉄筋30、第2主鉄筋40、及び、配力筋42が埋設(内包)されるように例えばコンクリートである経時性硬化材Uが打設される。ここで打設される経時性硬化材Uは継手部材15、連結部材20、調整治具23、第1主鉄筋30、第2主鉄筋40、及び、配力筋42を埋設(内包)させることで一体化させて鉄筋コンクリート部材50を構成するために打設される経時性硬化材U1と、この鉄筋コンクリート部材50を鋼製壁10と固着させ結合構造1全体を一体化させるための接続用コンクリート部材52を構成するために打設される経時性硬化材U2と、に分けて打設されても良い。あるいは、経時性硬化材Uは、鉄筋コンクリート部材50と接続用コンクリート部材52とを一体的に構成するように打設されても良い。
【0030】
このように、継手部材15、連結部材20、調整治具23、第1主鉄筋30、第2主鉄筋40、及び、配力筋42を内包して構成される鉄筋コンクリート部材50と、地盤(図示せず)に打ち込まれた鋼製壁10と、それらを接続させるための接続用コンクリート部材52と、が一体化され本実施の形態に係る結合構造1が構築される。
【0031】
(作用効果)
本実施の形態に係る結合構造1及びその構築方法によれば、複数の足が長い(長さの長い)第1主鉄筋30を結合構造1の内部に設けるにあたり、継手部材15に貫通するように配置される連結部材20を介して当該継手部材15に応力を伝達させるような構成で鉄筋を配筋している。これにより、鋼板等に形成された孔に直接鉄筋を通すといった構成を採らず、応力集中による部材や鉄筋の破断を防止しつつ、鋼製壁10と鉄筋コンクリート部材50や接続用コンクリート部材52との間のジベル性能を向上させ、優れた剛性や耐力を有するように鉄筋を密に配置した結合構造1が実現される。
【0032】
また、橋梁下部工事等では、初めに仮設鋼矢板を土留めとして打ち込み、掘削を行った後に構造物本体(基礎杭等)の構築を行い、その後に仮設鋼矢板の撤去を行う場合があるが、本実施の形態に係る構築方法では、鋼製壁10及び継手部材15を本設利用して結合構造1を構築している。これにより、工期の短縮やコスト削減が図られる。また、仮設鋼矢板を用いた場合、仮設鋼矢板と構造物との離隔を確保しなくてはならないが、本実施形態に係る構築方法では仮設鋼矢板を用いないため、狭隘地での施工が可能となる。
【0033】
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変形例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0034】
(結合構造の他の構築方法)
例えば、上記実施の形態に係る構築方法おいては、継手部材15、連結部材20、調整治具23、第1主鉄筋30、第2主鉄筋40、及び、配力筋42を内包する鉄筋コンクリート部材50を構成するために経時性硬化材U1を現場において打設する場合について説明したが、本発明に係る結合構造1の構築方法はこれに限られるものではない。
【0035】
具体的には、鉄筋コンクリート部材50を工場などで予め製作された部材(以下、プレキャスト鉄筋コンクリート部材)とし、現場において鋼製壁10とプレキャスト鉄筋コンクリート部材である鉄筋コンクリート部材50を配置し、両者の間隙部に接続用コンクリート部材52としての経時性硬化材U2を打設することで接続させて結合構造1を構築しても良い。この場合、継手部材15が予め鋼製壁10に固着された構成は採られず、プレキャスト鉄筋コンクリート部材としての鉄筋コンクリート部材50は、継手部材15、連結部材20、調整治具23、第1主鉄筋30、第2主鉄筋40、及び、配力筋42を内包させた状態で製作される。その際、プレキャスト鉄筋コンクリート部材としての鉄筋コンクリート部材50は、継手部材15の一部端面が露出した状態で製作されても良く、更に、第1主鉄筋30の一部(例えば折り返し部分31)が露出するように製作されても良い。
【0036】
プレキャスト鉄筋コンクリート部材としての鉄筋コンクリート部材50を用いて結合構造1を構築することで、上記実施の形態で説明した作用効果に加え、現場での施工性の向上や工期短縮が図られる。即ち、施工性等の効率化と、耐力の確保の両立を実現させることが可能となる。
【0037】
また、上記実施の形態では、鋼製壁10として鋼矢板を用いる場合を挙げて図示・説明したが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、鋼製壁10として鋼管杭や各種形鋼等、地盤に打ち込むことで壁体を構成可能な種々の杭部材を用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、鋼製壁と鉄筋コンクリート部材の結合構造及びその構築方法に適用できる。
【符号の説明】
【0039】
1…結合構造
10…鋼製壁
15(15a~15c)…継手部材
17(17a~17c)…貫通孔
20…連結部材
23…調整治具
30…第1主鉄筋
31…折り返し部分
40…第2主鉄筋
42…配力筋
50…鉄筋コンクリート部材
52…接続用コンクリート部材
U、U1、U2…経時性硬化材