(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 17/00 20060101AFI20241113BHJP
B60C 13/00 20060101ALI20241113BHJP
B60C 11/00 20060101ALI20241113BHJP
B60C 15/06 20060101ALI20241113BHJP
B60C 9/00 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
B60C17/00 B
B60C13/00 E
B60C11/00 F
B60C15/06 B
B60C9/00 B
(21)【出願番号】P 2021522178
(86)(22)【出願日】2020-05-12
(86)【国際出願番号】 JP2020018952
(87)【国際公開番号】W WO2020241237
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2019099319
(32)【優先日】2019-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】本間 健太
(72)【発明者】
【氏名】新澤 達朗
(72)【発明者】
【氏名】中野 敦人
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-182164(JP,A)
【文献】特開2004-175263(JP,A)
【文献】特開2017-210094(JP,A)
【文献】特開2018-197019(JP,A)
【文献】特開2009-269607(JP,A)
【文献】特開2019-142456(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03287299(EP,A1)
【文献】特開2015-189253(JP,A)
【文献】特表2002-500590(JP,A)
【文献】特開2007-303056(JP,A)
【文献】特開2008-038295(JP,A)
【文献】特開2015-140078(JP,A)
【文献】特開2012-096655(JP,A)
【文献】特開2015-000599(JP,A)
【文献】特開2011-143899(JP,A)
【文献】国際公開第2016/143757(WO,A1)
【文献】特開2007-161068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/00
B60C 11/00
B60C 13/00
B60C 15/06
B60C 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、前記トレッド部の両側に配置されたサイドゴムを備える一対のサイドウォール部と、前記サイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部と、を備え、前記一対のビード部間に装架された少なくとも1層のカーカス層と、前記サイドウォール部の前記カーカス層の内面の側に前記内面に沿ってタイヤ径方向に延びて、前記サイドゴムを補強するサイドゴム補強層と、前記トレッド部における前記カーカス層のタイヤ径方向外側に配置された複数層のベルト層と、を有する空気入りタイヤであって、
前記カーカス層は、有機繊維のフィラメント束を撚り合わせた有機繊維コードからなるカーカスコードで構成され、前記カーカスコードの破断伸びをEbとし、
前記サイドウォール部の、タイヤ径方向
におけるタイヤ最大幅位置と、前記タイヤ最大幅位置から、タイヤ断面高さの15%の長さ分、タイヤ径方向外側に離れた位置との間の、前記サイドウォール部の平均厚さをGsとし、
前記カーカス層に直交し、前記ベルト層のうち最大幅ベルト層の最大幅位置を通る直線が前記トレッド部の表面と交差するショルダー位置と、前記ショルダー位置から、前記最大幅ベルト層の最大ベルト幅の15%の長さ分、タイヤ幅方向の内側に離れた位置との間の、前記トレッド部における平均厚さをGshとしたとき、
前記Eb、前記Gs、及び前記Gshは、
(1)Eb≧ 20%、
(2)Gsh≧ 10mm、
(3)Gs≧ 9mm、
(4)60%≧ Eb・Gsh/Gs≧ 18%
を満足することを特徴とし、
前記カーカスコードの前記サイドウォール部における1.5cN/dtex負荷時の伸びが5.0%以上である、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ビード部のそれぞれには、タイヤ周方向に環状に延びるビードコアと、前記ビードコアから、タイヤ径方向外側に向かって延びるビードフィラーゴムと、を備え、
前記ビードフィラーゴムの最大高さ位置の、前記ビード部のタイヤ径方向最内部の位置からタイヤ径方向に沿った長さは、前記タイヤ断面高さの40~60%である、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記カーカスコードの前記サイドウォール部における1.5cN/dtex負荷時の伸びが5.0%~6.5%である、請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記カーカスコードの破断伸びEbが22%~24%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記カーカスコードを構成する有機繊維がポリエチレンテレフタレート繊維である、請求項1~4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記カーカスコードのディップ処理後の正量繊度は、4000~8000dtexである、請求項1~5のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記カーカスコードのディップ処理後の下記式に示す撚り係数Kが2000~2500である、請求項1~6のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
K=T×D
1/2
(但し、Tは前記カーカスコードの上撚り数(回/10cm)であり、Dは前記カーカスコードの総繊度(dtex)である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、パンクなどで内圧が低下した状態でも一定距離を安全に走行可能にするランフラットタイヤとして、サイドウォール部をサイド補強ゴム層で補強するサイド補強型のランフラットタイヤが知られている。
このようなタイヤでは、ランフラット走行時、一定の距離を走行することができるように耐久性が確保され、しかもリム外れし難いことが望まれている。
【0003】
例えば、サイド補強型のランフラットタイヤにおいて、リム外れ性が向上したサイド補強型ランフラットタイヤが提案されている(特許文献1)。サイド補強型ランフラットタイヤにおいて、
(1)タイヤ断面高さは115mm以上であり、
(2)L>0.14×SHであり(Lは、タイヤ軸方向の幅が最も大きい傾斜ベルト層(最大幅傾斜ベルト層)とサイド補強ゴム層のタイヤ軸方向の重複幅(片側)であり、SHは、タイヤ断面高さである)、
(3)GD/GA≧0.3である(GDは、最大幅傾斜ベルト層のタイヤ軸方向端部からタイヤ断面高さの14%だけタイヤ軸方向内側の位置におけるサイド補強ゴム層の厚みであり、GAは、カーカスの最大幅位置におけるサイド補強ゴム層の厚みである)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記サイド補強型ランフラットタイヤでは、バックリングの発生の原因となる、上記大きな曲げが発生するトレッド端部近傍の領域に注目して、所定の位置の厚さ及び長さを調整することにより、当該領域の曲げ剛性を十分に向上させることができ、タイヤサイドウォール部のバックリングを抑制してリム外れ性を向上させることができる、とされている。
しかし、サイド補強型ランフラットタイヤでは、ランフラット状態で所定の距離走行できるための耐久性が確保されるように、サイド補強ゴム層の厚さは厚く、重量が増加し、さらに、タイヤとしての縦バネ特性も高くなるため、走行中にタイヤが大きな衝撃を受けて、カーカス層が破壊する、いわゆるショックバーストが生じ易くなる、すなわち、耐ショックバースト性が低下し易い。
【0006】
そこで、本開示は、ランフラット耐久性及び耐ショックバースト性のいずれか一方を少なくとも維持しつつ、他方を向上させることができるサイド補強ゴム層で補強したタイヤ(サイド補強型ランフラットタイヤ)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、前記トレッド部の両側に配置されたサイドゴムを備える一対のサイドウォール部と、前記サイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部と、を備え、前記一対のビード部間に装架された少なくとも1層のカーカス層と、前記サイドウォール部の前記カーカス層の内面の側に前記内面に沿ってタイヤ径方向に延びて、前記サイドゴムを補強するサイドゴム補強層と、前記トレッド部における前記カーカス層のタイヤ径方向外側に配置された複数層のベルト層と、を有するタイヤである。
前記カーカス層は、有機繊維のフィラメント束を撚り合わせた有機繊維コードからなるカーカスコードで構成され、前記カーカスコードの破断伸びをEbとし、
前記サイドウォール部のタイヤ径方向におけるタイヤ最大幅位置と、前記タイヤ最大幅位置から、タイヤ断面高さの15%の長さ分、タイヤ径方向外側に離れた位置との間の、前記サイドウォール部の平均厚さをGsとし、
前記カーカス層に直交し、前記ベルト層のうち最大幅ベルト層の最大幅位置を通る直線が前記トレッド部の表面と交差するショルダー位置と、前記ショルダー位置から、前記最大幅ベルト層の最大ベルト幅の15%の長さ分、タイヤ幅方向の内側に離れた位置との間の、前記トレッド部における平均厚さをGshとしたとき、
前記Eb、前記Gs、及び前記Gshは、
(1)Eb≧ 20%、
(2)Gsh≧ 10mm、
(3)Gs≧ 9mm、
(4)60%≧ Eb・Gsh/Gs≧ 18%
を満足する。
【0008】
前記ビード部のそれぞれには、タイヤ周方向に環状に延びるビードコアと、前記ビードコアから、タイヤ径方向外側に向かって延びるビードフィラーゴムと、を備え、
前記ビードフィラーゴムの最大高さ位置の、前記ビード部のタイヤ径方向最内部の位置からタイヤ径方向に沿った長さは、前記タイヤ断面高さの40~60%である、ことが好しい。
【0009】
前記カーカスコードの前記サイドウォール部における1.5cN/dtex負荷時の伸びが5.0%以上である、ことが好ましい。
【0010】
前記カーカスコードの前記サイドウォール部における1.5cN/dtex負荷時の伸びが5.0%~6.5%である、ことが好ましい。
【0011】
前記カーカスコードの破断伸びEbが22%~24%である、ことが好ましい。
【0012】
前記カーカスコードを構成する有機繊維がポリエチレンテレフタレート繊維である、ことが好ましい。
【0013】
前記カーカスコードのディップ処理後の正量繊度は、4000~8000dtexである、ことが好ましい。
【0014】
前記カーカスコードのディップ処理後の下記式に示す撚り係数Kが2000~2500である、ことが好ましい。
K=T×D1/2
(但し、Tは前記カーカスコードの上撚り数(回/10cm)であり、Dは前記カーカスコードの総繊度(dtex)である。)
【発明の効果】
【0015】
上述のタイヤによれば、ランフラット耐久性及び耐ショックバースト性のいずれか一方を少なくとも維持しつつ、他方を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】実験例で作製するタイヤのトレッドパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示のタイヤについて詳細に説明する。
以降で説明するタイヤ周方向とは、タイヤ回転軸を中心にタイヤを回転させたとき、トレッド面の回転する方向をいい、タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸に対して直交して延びる放射方向をいい、タイヤ径方向外側とは、タイヤ回転軸から離れる側をいう。タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸方向に平行な方向をいい、タイヤ幅方向外側とは、タイヤのタイヤセンターラインから離れる両側をいう。タイヤ周方向は、例えば、
図1に示す紙面に対して垂直方向の向きである。
また、タイヤにおける内面とは、タイヤをリム組みして空気を充填するときの空気を充填するタイヤ空洞領域に面する面をいう。
以降の説明において、タイヤの寸法は、タイヤを正規リムにリム組みし、かつ正規内圧を充填したときのものである。正規リムとは、タイヤがJATMA(Japan Automobile Tyre Manufacturers Association)の規格に準拠する場合は、JATMAで規定する「標準リム」、タイヤがTRA(Tire and Rim Association)の規格に準拠する場合は、TRAで規定する「Design Rim」、あるいは、タイヤがETRTO(European Tyre and Rim Technical Organisation)の規格に準拠する場合は、ETRTOで規定する「Measuring Rim」である。また、正規内圧とは、タイヤが準拠する規格に対応して、JATMAで規定する「最高空気圧」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、あるいはETRTOで規定する「INFLATION PRESSURES」である。
また、本開示のタイヤは、空気を充填して使用する空気入りタイヤの他に、窒素、アルゴン、あるいはヘリウム等の不活性ガスを充填したタイヤであってもよい。本開示のタイヤは、空気や不活性ガスを充填しなくても走行可能なランフラットタイヤである。
【0018】
図1は、一実施形態のタイヤ10のタイヤ断面図である。タイヤ10は、タイヤ周方向に延在して環状をなす、トレッドパターンを有するトレッド部10Tと、トレッド部10Tの両側に配置されたサイドゴム20を備える一対のサイドウォール部10Sと、サイドウォール部10Sのタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部10Bと、を備える。
タイヤ10は、骨格材または骨格材の層として、カーカス層12と、ベルト層14と、ビードコア16とを有し、これらの骨格材の周りに、トレッドゴム18と、サイドゴム20と、ビードフィラーゴム22と、リムクッションゴム24と、インナーライナゴム26と、サイド補強ゴム層28と、を主に有する。
【0019】
カーカス層12は、一対のビード部10B間に設けられ、具体的には、一対の円環状のビードコア16の間を巻きまわしてトロイダル形状を成している。カーカス層12は、有機繊維のフィラメント束を撚り合わせた有機繊維コードからなるカーカスコードをゴムで被覆した少なくとも1層のカーカスプライ材で構成されている。カーカスプライ材は、ビードコア16の周りに巻きまわされてタイヤ径方向外側に延びている。カーカス層12のタイヤ径方向外側に2枚のベルト材14a,14bで構成されるベルト層14が設けられている。ベルト材14a,14bは、タイヤ周方向に対して、所定の角度、例えば20~30度傾斜して配されたスチールコードにゴムを被覆した部材であり、下層のベルト材14aは上層のベルト材14bに比べてタイヤ幅方向の幅が広い。2層のベルト材14a,14bのスチールコードの傾斜方向はタイヤ赤道線CLの延びるタイヤ周方向に対して互いに逆方向である。このため、ベルト材14a,14bは、交錯層となっており、充填された空気圧によるカーカス層12の膨張を抑制する。
【0020】
ベルト層14のタイヤ径方向外側には、トレッドゴム18が設けられ、トレッドゴム18の両端部には、サイドゴム20が接続されてサイドウォール部10Sを形成している。サイドゴム20のタイヤ径方向内側の端には、リムクッションゴム24が設けられ、タイヤ10を装着するリムと接触する。ビードコア16のタイヤ径方向外側には、ビードコア16の周りに巻きまわす前のカーカス層12の部分と、ビードコア16の周りに巻きまわした後のカーカス層12の部分との間に挟まれるようにビードフィラーゴム22が設けられている。タイヤ10とリムとで囲まれる空気を充填するタイヤ空洞領域に面するタイヤ10の内表面には、インナーライナゴム26が設けられている。
【0021】
サイド補強ゴム層28は、サイドウォール部10Sのカーカス層12の内面の側に内面に沿ってタイヤ径方向に延びて、サイドゴム20を補強する、断面形状が三日月状の部材である。サイド補強ゴム層28は、トレッド部10Tのショルダー側からサイドウォール部10Sを経てビード部10Bまで、カーカス層12に対してタイヤ空洞領域の側に、カーカス層12とインナーライナゴム26との間に挟まれるように設けられる。サイド補強ゴム層28には、ランフラット走行時、サイドウォール部10Sが必要以上に撓まず、同時にタイヤの変形に伴う発熱を抑えるために、高モジュラスかつ低発熱性のゴム材料が用いられる。すなわち、タイヤ10は、サイドウォール部10Sがサイド補強ゴム層28で補強されたランフラットタイヤである。
【0022】
また、タイヤ10では、
図1に示されないが、ベルト層14のタイヤ径方向外側からベルト層14を覆う、有機繊維あるいはスチールコードをゴムで被覆したベルトカバー層が設けられる。この他に、タイヤ10は、ビードコア16の周りに巻きまわしたカーカス層12とビードフィラーゴム22との間にビード補強材を備えてもよい。
本開示のタイヤ構造は上記の通りであるが、タイヤ構造は、特に限定されず、公知のタイヤ構造を適用することができる。
【0023】
このようなタイヤ10において、カーカス層12に用いるカーカスコードの破断伸びをEbとし、サイドウォール部10Sの、タイヤ径方向におけるタイヤ最大幅位置Pmaxと、タイヤ最大幅位置Pmaxから、タイヤ断面高さSHの15%の長さ分、タイヤ径方向外側に離れた位置P1との間の、サイドウォール部10Sの領域R1における平均厚さをGsとし、ベルト層14のうち最大幅ベルト層、
図1に示す例ではベルト材14aの最大幅位置を通り、カーカス層12(の面)に直交する直線がトレッド部の表面と交差するショルダー位置P2と、ショルダー位置P2から、最大幅ベルト層(ベルト層14a)の最大ベルト幅(ベルト幅方向に沿った長さ)の15%の長さ分、タイヤ幅方向の内側に離れた位置P3との間の領域R2における、トレッド部10Tにおける平均厚さをGshとしたとき、
Eb、Gs、及びGshは、
・Eb≧ 20%、
・Gsh≧ 10mm、
・Gs≧ 9mm、
・60%≧ Eb・Gsh/Gs≧ 18%
を満足する。
【0024】
破断伸びEbは、JIS L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、つかみ間隔250mm、引張速度300±20mm/分の条件にて引張試験を実施して測定される試料コードの伸び率(%)であり、「破断伸び」はコード破断時に測定される伸び率の値である。
【0025】
ここで、上記破断伸びEbを持つカーカスコードを構成する有機繊維の種類は特に限定されないが、例えばポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維などを用いることができ、なかでもポリエステル繊維を好適に用いることができる。また、ポリエステル繊維としては、ポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維)、ポリエチレンナフタレート繊維(PEN繊維)、ポリブチレンテレフタレート繊維(PBT)、ポリブチレンナフタレート繊維(PBN)を例示することができ、PET繊維を好適に用いることができる。
【0026】
ここで、タイヤ断面高さSHは、ビード部10Bのタイヤ径方向最内部の位置P4からタイヤ最大外径位置P5までのタイヤ径方向に沿った長さである。
サイドウォール部10Sの平均厚さをGs及びトレッド部10Tにおける平均厚さGshを求めるときの各位置における厚さは、カーカス層12(2層以上の場合は、最も内側の層)に対して直交する方向に沿ったタイヤ内面とタイヤ外面(タイヤ10が大気に接する側の面)の間の距離である。平均厚さの算出は、例えば、所定の距離毎に(例えば、1mm毎に)厚さを計測して平均値を算出する。
【0027】
破断伸びEbを20%以上とすることにより、タイヤ10において、走行中にタイヤ10が大きな衝撃を受けても、カーカス層12が破壊するショックバーストの発生は抑制される。破断伸びEbは、22%~24%であることが耐ショックバースト性向上の点から好ましい。
しかし、破断伸びEbを大きくすると、カーカスコードの剛性(引っ張り伸びに対する引っ張り応力)が低下し易いので、ランフラット走行時に、カーカスコードが伸びてサイドウォール部10Sあるいはトレッド部10Tのショルダー領域の変形し易い部分がより大きく変形して、ランフラット耐久性が低下し易い。
ここで、耐ショックバースト性は、室内試験により評価することができる。例えば、プランジャー破壊試験によって判定することができる。プランジャー破壊試験は、トレッド中央部に所定の大きさのプランジャーを押し付けてタイヤが破壊する際の破壊エネルギーを測定する試験である。したがって、プランジャー破壊試験による破壊エネルギーは、タイヤ10が凹凸路面における突起を乗り越す際の破壊エネルギー(トレッド部10Tの突起入力に対する破壊耐久性)の指標とすることができる。
一方、ランフラット耐久性は、例えば、タイヤ10に空気圧を充填することなく、予め定めた速度でランフラット走行して、タイヤ10が故障するまでの走行距離で評価する。
【0028】
このように破断伸びEbを20%以上とすることにより、従来問題となっていた耐ショックバースト性を向上することができるが、ランフラット耐久性が低下し易いことから、ランフラット耐久性を維持し、あるいはさらに向上させるために、タイヤ10の平均厚さGs,Gshの範囲を定めている。
【0029】
さらに、破断伸びEbを20%以上として耐ショックバースト性をより向上させるために、本開示では、サイド補強ゴム層28を備えるタイヤ10において、平均厚さGsh,Gsに制限が設けられる。
すなわち、Gsh≧10mm及びGsh≧9mmであって、60%≧Eb・Gsh/Gs≧18%である。
破断伸びEbが20%以上であるが20%に近い値である場合、耐ショックバースト性の向上幅は大きくないことから、耐ショックバースト性の向上のために、平均厚さGshを大きくする。
耐ショックバースト性は、サイドウォール部10Sの縦バネ特性とトレッド部10Tのショルダー領域の剛性のバランスによって定まり、平均厚さGsが薄くなるほどサイドウォール部10Sの縦バネ特性が小さくなり、ショルダー領域の剛性が相対的に大きくなってトレッド部10Tのショルダー領域が受けて吸収すべき衝撃が小さくなる。これより、耐ショックバースト性の指標として平均厚さGsと平均厚さGshの比率を用いることが好ましい。この場合、平均厚さGsを維持あるいは小さくし、平均厚さGshを大きくしてショルダー領域の剛性を相対的に高くすることが耐ショックバースト性向上の点から好ましい。
【0030】
一方、破断伸びEbが20%に比べて相対的に大きい数値の場合、耐ショックバースト性は向上するが、カーカスコードの剛性は低くなり易いことから、ランフラット耐久性は低下し易い。ランフラット耐久性も、サイドウォール部10Sの縦バネ特性とトレッド部10Tのショルダー領域の剛性のバランスによって定まり、平均厚さGsが厚くなるほどタイヤ10の縦バネ特性が大きくなり、ショルダー領域の剛性が相対的に小さくなって、ランフラット走行時のサイドウォール部10Sの縦撓み変形が減少してサイドウォール部10Sのランフラット時の損傷は生じ難くなる。したがって、ランフラット耐久性の指標として平均厚さGsと平均厚さGshと間の比率を用いることが好ましい。この場合、ランフラット耐久性を向上させるために、平均厚さGshを維持あるいは小さくし、平均厚さGsを大きくすることが好ましい。
【0031】
さらにいうと、Eb・Gsh/Gsが18%未満である場合、破断伸びEbが20%に対して極めて大きな値であっても、Gsh/Gsの値が小さな値であるため、耐ショックバースト性は低くなる。一方、Eb・Gsh/Gsが60%を超える場合、破断伸びEbが20%に近い値であっても、Gsh/Gsの値が大きな値であるため、ランフラット耐久性は低くなる。本開示では、破断伸びEbが20%以上である場合、Eb・Gsh/Gsを18%以上60%以下とすることにより、ランフラット耐久性及び耐ショックバースト性の少なくとも一方を維持しつつ、他方を向上させることができる。
Eb・Gsh/Gsは、20%以上40%以下であることが好ましく、22%以上32%以下であることがより好ましい。
【0032】
また、平均厚さGshの上限は、Eb・Gsh/Gsが18%以上60%以下である限り、制限されないが、例えば、28mmであることが好ましい。さらに、平均厚さGshは、13mm~23mmであることが好ましい。
また、平均厚さGsの上限は、Eb・Gsh/Gsが18%以上60%以下である限り、制限されないが、28mmであることが好ましい。さらに、平均厚さGsは、17mm~24mmであることがより好ましい。
なお、平均厚さGshが10mm未満、平均厚さGsが9mm未満である場合、ランフラット走行のみならず非ランフラット走行時におけるタイヤ性能は十分でない。
【0033】
タイヤ10のビード部10Bのそれぞれには、
図1に示すように、タイヤ周方向に環状に延びるビードコア16と、ビードコア16から、タイヤ径方向外側に向かって延びるビードフィラーゴム22と、を備えるが、このビードフィラーゴム22の最大高さ位置の、ビード部10Bのタイヤ径方向最内部の位置からタイヤ径方向に沿った長さHは、タイヤ断面高さSHの40~60%であることが好ましい。長さHがタイヤ断面高さSHの40%未満の場合、耐ショックバースト性は向上するが、タイヤ10の縦バネ特性が低くなって縦撓み変形が大きくなり、ランフラット耐久性が低下し易い。長さHがタイヤ断面高さSHの60%を越える場合、タイヤ10の縦バネ特性が高くなって縦撓み変形が小さくなり、トレッド部10Tのショルダー領域に対する衝撃が大きくなり、耐ショックバースト性は低下し易い。
なお、サイド補強ゴム層28のゴムの破断伸び(JIS K6251(ダンベル状3号形試験片使用)に基づいて測定された破断伸び(%))は、ランフラット耐久性向上の点から、120%以上、好ましくは130%以上であることが好ましい。
その際、
図1に示すように、カーカス層12に沿ってビードフィラーゴム22のタイヤ径方向外側の端部とサイド補強ゴム層28のビードコア16側の端部との中点におけるサイド補強ゴム層28の厚さ(ビードコア16で折り返す前のカーカス層12の法線方向に沿った寸法)が、サイド補強ゴム層28の最大厚さの30~90%であることが好ましく、より好ましくは40~80%である。
【0034】
一実施形態によれば、カーカスコードのサイドウォール部10Sにおける1.5cN/dtex負荷時の伸びが5.0%以上である、ことが好ましい。上記1.5cN/dtex負荷時の伸び(中間伸度)は、5.0%~6.5%であることが好ましい。破断伸びEbを20%以上とした状態で、1.5cN/dtex負荷時の伸びが5.0%未満の場合、ビードコア16周りに巻き回したカーカスコードの端部の圧縮歪が増大し、カーカスコードの破断が生じ易くなり、ランフラット耐久性が低下する。なお、1.5cN/dtex負荷時の伸びも、破断伸びEbと同様に、JIS L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、つかみ間隔250mm、引張速度300±20mm/分の条件にて引張試験を実施して測定される試料コードの伸び率(%)であり、1.5cN/dtex負荷時に測定される値である。
【0035】
また、カーカスコードのディップ処理後の正量繊度(JIS L1017:2002)は、4000~8000dtexである、ことが好ましい。正量繊度を4000~8000dtexとすることにより、カーカスコードの破断伸びEbを20%以上に維持したまま、1.5cN/dtex負荷時の伸びを小さくして、耐ショックバースト性の向上を維持しつつ、ランフラット耐久性を向上させることができる。
【0036】
一実施形態によれば、カーカスコードのディップ処理後の下記式に示す撚り係数Kは2000~2500である、ことが好ましい。
K=T×D1/2
T:カーカスコードの上撚り数(回/10cm)、
D:カーカスコードの総繊度(dtex)。
撚り係数Kを大きく設定して、2000~2500とするにより、高速耐久性を向上させることができる。撚り係数Kが2000未満の場合、タイヤ転動時のビード部10Bの倒れ込みに起因するカーカス層12のビードコア16周りに折り返した部分の繰り返しの圧縮変形により、カーカス層12に疲労が生じやすくなり、高速耐久性の向上を十分に得られなくなる虞がある。
【0037】
(実施例、比較例)
タイヤ10の効果を確認するために、カーカス層12の材料、タイヤ10のサイド補強ゴム層28の厚さ及び幅を種々変更したタイヤを作製して、Eb・Gsh/Gsの値を調整し、耐ショックバースト性及びランフラット耐久性を室内試験により評価した。
作製したタイヤは、タイヤサイズ265/35RF20であり、
図1に例示する基本構造を有し、
図2に示すトレッドパターンをトレッド部10Tに有する。
図2は、実験例で作製したタイヤのトレッドパターンを示す図である。トレッドパターンは、4本の周方向主溝を有し、4本の周方向主溝に挟まれた3つの陸部の領域にはラグ溝が設けられている。
作製したタイヤは、リムサイズ20×9.5Jのホイールに組み付けた。
【0038】
耐ショックバースト性の評価は、プランジャー破壊試験により行った。プランジャー破壊試験では、上記リムに組み付けたタイヤを、内圧220kPaの空気充填下、プランジャー径19mm、押し込み速度50mm/分にてJIS K 6302に準じたプランジャー破壊試験を行い、タイヤ破壊エネルギーを測定することによって評価した。
タイヤ破壊エネルギーは、表1に示す比較例1のタイヤ破壊エネルギーを基準(指数100)とした指数で表した。指数が大きいほどタイヤ破壊エネルギーが大きく、耐ショックバースト性が優れていることを意味する。
【0039】
ランフラット耐久性の評価は、上記リムに組み付けたタイヤに内圧を充填することなく、最大負荷能力×0.65、速度80km/時、温度38℃の環境下、室内ドラム上で転動させて、タイヤが故障に至るまでの走行距離を測定した。走行距離は、下記表に示す比較例1のタイヤが故障に至るまでの走行距離を基準(指数100)として指数で表した。指数が大きい程、故障に至るまでの走行距離が長く、ランフラット耐久性に優れること意味する。
最大負荷能力とは、タイヤが準拠するJATMAで規定する「最大負荷能力」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、あるいはETRTOで規定する「LOAD CAPACITY」である。
【0040】
下記表1,2に示す比較例1~3、実施例1~8では、平均厚さGshを10mm以上とし、平均厚さGsを9mm以上とし、カーカスコードの破断伸びEbを20%以上とした。
下記表1,2に示す“H/SH”は、
図1に示すビードフィラーゴム22における長さHの、タイヤ断面高さSHに対する比率を示し、“カーカスコード中間伸度”は、1.5cN/dtex負荷時の伸びを示す。
【0041】
【0042】
【0043】
上記表1の実施例1~4及び比較例1~3より、Eb・Gsh/Gsを18%~60%とすることにより、耐ショックバースト性及びランフラット耐久性のいずれか一方を維持しつつ、他方を向上させることができる。
上記表1,2より、ビードフィラーゴム22における長さHの、タイヤ断面高さSHに対する比率が40%以上の実施例2は、比較例1~3に対する耐ショックバースト性の向上を保ちつつ、タイヤ断面高さSHに対する比率が40%未満の実施例5に比べて、ランフラット耐久性が向上することがわかる。また、上記比率が60%超である実施例6は、実施例5に比べて耐ショックバースト性が低下することがわかる。
上記表1,2より、中間伸度(1.5cN/dtex負荷時の伸び)が5%以上である実施例2は、中間伸度が5%未満である実施例7に比べて、ランフラット耐久性が向上することがわかる。
上記表1,2より、正量繊度が4000~8000dtexの範囲内にある実施例8は、正量繊度が4000~8000dtexの範囲外にある実施例2に比べて、耐ショックバースト性を維持しつつ、ランフラット耐久性が向上することがわかる。
【0044】
以上、本開示のタイヤについて詳細に説明したが、本開示は上記実施形態及び実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更してもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0045】
10 タイヤ
10T トレッド部
10S サイドウォール部
10B ビード部
12 カーカス層
14 ベルト層
14a,14b ベルト材
16 ビードコア
18 トレッドゴム
20 サイドゴム
22 ビードフィラーゴム
24 リムクッションゴム
26 インナーライナゴム
28 サイド補強ゴム層