(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】自動車構造部材用めっき鋼板
(51)【国際特許分類】
C23C 2/06 20060101AFI20241113BHJP
C23C 2/26 20060101ALI20241113BHJP
C22C 18/04 20060101ALI20241113BHJP
C22C 18/00 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
C23C2/06
C23C2/26
C22C18/04
C22C18/00
(21)【出願番号】P 2022575510
(86)(22)【出願日】2021-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2021048191
(87)【国際公開番号】W WO2022153840
(87)【国際公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2021004012
(32)【優先日】2021-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】光延 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】高橋 武寛
(72)【発明者】
【氏名】竹林 浩史
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特許第5253090(JP,B2)
【文献】国際公開第2021/039971(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00
C21D 1/76
C22C 18/00、38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と、
前記鋼板の表面の少なくとも一部に形成されためっき層と、
前記めっき層の表面の少なくとも一部に形成された酸化物層と、
を有し、
前記めっき層が、質量%で、
Al:0.5~35.0%、
Mg:0.5~15.0%、
Si:0~2.0%、
Ca:0~2.0%、
Fe:0~2.0%、
La+Ce:合計で0~0.5%、
Sb:0~0.5%、
Pb:0~0.5%、
Sr:0~0.5%、
Sn:0~1.0%、
Cu:0~1.0%、
Ti:0~1.0%、
Ni:0~1.0%、
Mn:0~1.0%、
Cr:0~1.0%、
Nb:0~1.0%、
Zr:0~1.0%、
Mo:0~1.0%、
Li:0~1.0%、
Ag:0~1.0%、
B:0~0.5%、
Y:0~0.5%、及び
P:0~0.5%、
を含有し、残部がZn及び不純物からなる化学組成を有し、
前記酸化物層の、表面から厚み方向に5.0nmの位置においてXPSで測定を行ったとき、Mgの酸化物または水酸化物の最大検出強度に対するMgの最大検出強度の比であるI
Mg/I
MgOxが、0.00以上、1.20以下であ
り、
前記酸化物層の、前記表面から厚み方向に5.0nmの位置においてXPSで測定を行ったとき、Alの酸化物または水酸化物の最大検出強度に対するAlの最大検出強度の比であるI
Al
/I
AlOx
が、0.77以上である、
自動車構造部材用めっき鋼板。
【請求項2】
前記めっき層の前記化学組成が、質量%で、
Al:6.0~30.0%、
Mg:3.0~11.0%、
を含有する、請求項1に記載の自動車構造部材用めっき鋼板
。
【請求項3】
前記I
Mg/I
MgOxが、0.00以上、0.80以下である、
請求項
1または2に記載の自動車構造部材用めっき鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車構造部材用めっき鋼板に関する。
本願は、2021年01月14日に、日本に出願された特願2021-004012号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車構造部材には、防錆の観点からめっき鋼板が使用され、主に日本国内市場では合金化溶融亜鉛めっき鋼板等の溶融亜鉛めっき鋼板が適用されている。合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板に溶融亜鉛めっきを施した後に合金化熱処理し、めっき層内に鋼板(下地鋼板)からFeを拡散させることによって、溶接性や塗装後耐食性を向上させためっき鋼板である。しかしながら、溶融亜鉛めっき鋼板に対しては、塗装後耐食性や耐赤錆性などの更なる耐食性の向上が求められている。
【0003】
溶融亜鉛めっき鋼板の耐食性を向上させる方法として、Znを含むめっき層へのAlの添加が挙げられる。例えば建材分野では高耐食性めっき鋼板として溶融Al-Zn系めっき鋼板が広く実用化されている。こうした溶融Al-Zn系めっきのめっき層は、溶融状態から最初に晶出したデンドライト状のα-(Zn,Al)相(Al初晶部:Al-Zn系二元状態図等において、初晶として晶出するα-(Zn,Al)相。必ずしもAlリッチな相ではなく、ZnとAlの固溶体として晶出。)と、デンドライト状のAl初晶部の隙間に形成したZn相とAl相とからなる組織(Zn/Al混相組織)から形成される。Al初晶部は不動態化しており、かつ、Zn/Al混相組織はAl初晶部に比べZn濃度が高いため、腐食はZn/Al混相組織に集中する。結果として、腐食はZn/Al混相組織を虫食い状に進行し、腐食進行経路が複雑になるので、腐食が容易に下地鋼板に到達しにくくなる。これにより、溶融Al-Zn系めっき鋼板は、めっき層の厚みが同一の溶融亜鉛めっき鋼板に比べ優れた耐食性を有する。また、耐食性向上を目的に、Al-Zn系めっきへさらにMg等の元素を添加した、Zn-Al-Mg系めっき鋼板とすることも検討されている。
【0004】
一方、自動車構造部材に適用されるめっき鋼板には加工性が求められる。特に、プレス成形は無塗装のまま行われるので、金型とめっき鋼板との間の潤滑性が重視される。そのため、プレス成形が行われる自動車構造部材に適用される鋼板には、優れた潤滑性が求められる。
【0005】
このような課題に対し、特許文献1では、鋼板の表面に、Al:4~22質量%、Mg:1~5質量%、Ti:0.1質量%以下、Si:0.5質量%以下を含有し残部がZn及び不可避的不純物よりなるZn合金めっき層を形成させ、その上にクロメート皮膜もしくはりん酸塩被膜、又は、水性樹脂を含む樹脂系皮膜による下地処理層を形成させ、更にその上に、水性樹脂(a)の固形分100質量%に対して、シリカ粒子(b)を5~50質量%、固形潤滑剤(c)を1~40質量%含有する水性潤滑塗料を塗布、乾燥することにより得られる皮膜が0.2~5g/m2の付着量で形成されていることを特徴とする、加工性に優れた潤滑めっき鋼板が開示されている。
【0006】
また、特許文献2では、Al:0.05~10質量%を含有し、必要に応じてMg:0.01~5質量%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなる亜鉛めっき層を有する溶融亜鉛めっき鋼板において、該めっき鋼板表面の中心線平均粗さRaが0.5~1.5μm,PPI(1インチ(2.54cm)あたりに含まれる1.27μm以上の大きさのピークの数)が150~300,Pc(1cmあたりに含まれる0.5μm以上の大きさのピークの数)がPc≧PPI/2.54+10であることを特徴とする成形性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板が開示されている。特許文献2では、Pc≧PPI/2.54+10とすることで、摺動性が向上すると示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特開2004-338397号公報
【文献】日本国特開2003-13192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1ではめっき工程後の後処理として水性潤滑塗料の塗布、乾燥を行う必要があり製造コストが大きいという課題がある。また特許文献2では、粗さの改善のみでは十分な摺動性が得られないという問題があった。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされた。本発明は、耐食性に優れるZn-Al-Mg系めっき鋼板(Zn、Al、Mgを含むめっきを備える鋼板)であって、潤滑性に優れる自動車構造部材用めっき鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、Zn-Al-Mg系めっき鋼板において、潤滑性を向上させる方法を検討した。その結果、めっき層に含まれるMgが、酸化物[MgO]または水酸化物[Mg(OH)2]として存在する割合を高めることで、めっき層の潤滑性が高まることを見出した。
また、加えて、めっき層に含まれるAlが、酸化物[Al2O3]または水酸化物[Al(OH)3]として存在する割合を低くすることで、化成処理性も高めることができることを見出した。
【0011】
本発明は、上記の知見に基づいてなされた。本発明の要旨は以下の通りである。
[1]本発明の一態様に係る自動車構造部材用めっき鋼板は、鋼板と、前記鋼板の表面の少なくとも一部に形成されためっき層と、前記めっき層の表面の少なくとも一部に形成された酸化物層と、を有し、前記めっき層が、質量%で、Al:0.5~35.0%、Mg:0.5~15.0%、Si:0~2.0%、Ca:0~2.0%、Fe:0~2.0%、La+Ce:合計で0~0.5%、Sb:0~0.5%、Pb:0~0.5%、Sr:0~0.5%、Sn:0~1.0%、Cu:0~1.0%、Ti:0~1.0%、Ni:0~1.0%、Mn:0~1.0%、Cr:0~1.0%、Nb:0~1.0%、Zr:0~1.0%、Mo:0~1.0%、Li:0~1.0%、Ag:0~1.0%、B:0~0.5%、Y:0~0.5%、及びP:0~0.5%、を含有し、残部がZn及び不純物からなる化学組成を有し、前記酸化物層の、表面から厚み方向に5.0nmの位置においてXPSで測定を行ったとき、Mgの酸化物または水酸化物の最大検出強度に対するMgの最大検出強度の比であるIMg/IMgOxが、0.00以上、1.20以下であり、前記酸化物層の、前記表面から厚み方向に5.0nmの位置においてXPSで測定を行ったとき、Alの酸化物または水酸化物の最大検出強度に対するAlの最大検出強度の比であるI
Al
/I
AlOx
が、0.77以上である。
[2]上記[1]に記載の自動車構造部材用めっき鋼板は、前記めっき層の前記化学組成が、質量%で、Al:6.0~30.0%、Mg:3.0~11.0%、を含有してもよい。
[3]上記[1]または[2]に記載の自動車構造部材用めっき鋼板は、前記IMg/IMgOxが、0.00以上、0.80以下であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の上記態様によれば、Zn、Al、Mgを含むめっきを有する鋼板(Zn-Al-Mg系めっき鋼板)であって、潤滑性に優れる自動車構造部材用めっき鋼板を提供することができる。また、本発明の好ましい態様によれば、潤滑性に加え、化成処理性にも優れる自動車構造部材用めっき鋼板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係る自動車構造部材用めっき鋼板(本実施形態に係るめっき鋼板)は、鋼板と、鋼板の表面の少なくとも一部に形成されためっき層と、めっき層の表面の少なくとも一部に形成された酸化物層とを有する。また、本実施形態に係るめっき鋼板では、めっき層の化学組成は、質量%で、Al:0.5~35.0%(好ましくは6.0~30.0%)、Mg:0.5~15.0%(好ましくは3.0~11.0%)、Si:0~2.0%、Ca:0~2.0%、Fe:0~2.0%、La+Ce:合計で0~0.5%、Sb:0~0.5%、Pb:0~0.5%、Sr:0~0.5%、Sn:0~1.0%、Cu:0~1.0%、Ti:0~1.0%、Ni:0~1.0%、Mn:0~1.0%、Cr:0~1.0%、Nb:0~1.0%、Zr:0~1.0%、Mo:0~1.0%、Li:0~1.0%、Ag:0~1.0%、B:0~0.5%、Y:0~0.5%、及びP:0~0.5%、を含有し、残部がZn及び不純物からなる。
また、本実施形態に係るめっき鋼板では、前記酸化物層の表層部(例えば厚み方向に表面から5.0nmの位置)においてXPSで測定を行ったとき、Mgの酸化物または水酸化物の最大検出強度に対するMgの最大検出強度の比であるIMg/IMgOxが、0.00以上、1.20以下(好ましくは0.00以上0.80以下)である。
また、本実施形態に係るめっき鋼板は、好ましくは、前記酸化物層の、前記表面から厚み方向に5.0nmの位置においてXPSで測定を行ったとき、Alの酸化物または水酸化物の最大検出強度(IAlOx)に対するAlの最大検出強度(IAl)の比であるIAl/IAlOxが、0.77以上である。
【0014】
<鋼板>
本実施形態に係るめっき鋼板はめっき層及び酸化物層が重要である。そのため、鋼板(母材鋼板)の種類については特に限定されず、適用される製品や要求される強度や板厚等によって決定すればよい。例えば、JIS G3193:2008に記載された熱延鋼板やJIS G3141:2017に記載された冷延鋼板を用いることができる。
【0015】
<めっき層>
本実施形態に係るめっき鋼板は、鋼板の表面の少なくとも一部にめっき層を備える。めっき層は鋼板の片面に形成されていてもよく、両面に形成されていてもよい。
めっき層の付着量は、片面あたり15~250g/m2が好ましい。
【0016】
[化学組成]
本実施形態に係るめっき鋼板のめっき層の化学組成について説明する。以下、化学組成に関する%は、いずれも質量%である。
【0017】
Al:0.5~35.0%
Alは、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)を含むめっき層において、塗装後耐食性を確保するために有効な元素である。上記効果を十分に得るため、Al含有量を0.5%以上とする。Al含有量は、好ましくは1.0%以上、より好ましくは6.0%以上である。
一方、Al含有量が35.0%超であると、塗装後耐食性やめっき層の切断端面の耐食性が低下する。また、Al酸化物の生成が多くなり、酸化物層のMgO、Mg(OH)2の生成が阻害される。そのため、Al含有量は35.0%以下とする。Al含有量は、好ましくは30.0%以下である。
【0018】
Mg:0.5~15.0%
Mgは、めっき層の耐食性を高める効果を有する元素である。上記効果を十分に得るため、Mg含有量を0.5%以上とする。Mg含有量は、好ましくは1.0%以上、より好ましくは3.0%以上である。
一方、Mg含有量が15.0%超であると、塗装後耐食性が低下する上、めっき層の加工性が低下する。また、Mg系化合物がめっき層中の表面付近ではなく内側に形成することによって、表面付近でのMgO及びMg(OH)2(酸化物及び水酸化物)の生成が阻害される。また、めっき浴のドロス発生量が増大する等、製造上の問題が生じる。そのため、Mg含有量を15.0%以下とする。Mg含有量は、好ましくは11.0%以下である。
【0019】
Si:0~2.0%
Siは、Mgとともに化合物を形成して、めっき層の塗装後耐食性の向上に寄与する元素である。また、Siは、鋼板上にめっき層を形成するにあたり、鋼板とめっき層との間に形成される合金層が過剰に厚く形成されることを抑制して、鋼板とめっき層との密着性を高める効果を有する元素でもある。そのため含有させてもよい。Siは必ずしも含有させる必要はなく、下限は0%であるが、上記効果を得る場合、Si含有量を0.1%以上とすることが好ましい。
一方、Si含有量を2.0%超にすると、めっき層中に過剰なSiが晶出したり、ラメラ組織が十分に形成されない、等によって、塗装後耐食性が低下する。また、めっき層の加工性が低下する。従って、Si含有量を2.0%以下とする。Si含有量は、より好ましくは1.5%以下である。
【0020】
Ca:0~2.0%
Caがめっき層中に含有されると、Mg含有量の増加に伴ってめっき操業時に形成されやすいドロスの形成量が減少し、めっき製造性が向上する。そのため、Caを含有させてもよい。Caは必ずしも含有させる必要はなく、下限は0%であるが、上記効果を得る場合、Ca含有量を0.1%以上とすることが好ましい。
一方、Ca含有量が過剰になると塗装後耐食性が低下する。また、めっき層の平面部の塗装後耐食性そのものが劣化する傾向にあり、溶接部周囲の耐食性も劣化することがある。そのため、Ca含有量は2.0%以下とする。Ca含有量は、好ましくは1.0%以下である。
【0021】
Fe:0~2.0%
Feはめっき層を製造する際に、めっき基材である鋼板等から不純物としてめっき層に混入する。2.0%程度まで含有されることがあるが、この範囲であれば本実施形態に係るめっき鋼板の特性への悪影響は小さい。そのため、Fe含有量を2.0%以下とすることが好ましい。Fe含有量は、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。
一方、上述の通り、Feは不純物としてめっき層に混入する。Feの混入を完全に防ぐには著しくコストがかかるので、Fe含有量を0.1%以上としてもよい。
【0022】
本実施形態に係るめっき鋼板のめっき層の化学組成は、上記の化学組成を有し、残部がZn及び不純物であることを基本とする。
しかしながら、本実施形態に係るめっき鋼板のめっき層は、更にZnの一部に代えて、例えば、La、Ce、Sb、Pb、Cu、Sn、Ti、Sr、Ni、Mn、Cr、Nb、Zr、Mo、Li、Ag、B、Y、Pを以下の範囲で含んでもよい(意図的な添加であるか、不純物としての含有であるかは問わない)。これらの元素は必ずしも含まなくてもよいので含有量の下限は0%である。
不純物の含有量は、合計で5.0%以下であることが好ましく、3.0%以下であることがより好ましい。
【0023】
La+Ce:合計で0~0.5%
La及びCeは、めっき層の耐食性向上に寄与する元素である。そのため、La、Ceの1種または2種を含有させてもよい。La及び/またはCeを含有させる必要はなく、下限は0%であるが、上記効果を得る場合、LaとCeの合計含有量が0.01%以上であることが好ましい。
一方、LaとCeの合計含有量が0.5%を超えると、めっき浴の粘性が上昇し、めっき浴の建浴そのものが困難となることが多く、めっき性状が良好なめっき鋼板を製造できない。そのため、LaとCeの合計含有量を0.5%以下とする。
【0024】
Sb:0~0.5%
Sr:0~0.5%
Pb:0~0.5%
Sr、Sb、Pbがめっき層中に含有されると、めっき層の外観が変化し、スパングルが形成されて、金属光沢の向上が確認される。そのため含有させてもよい。しかしながら、これらの元素の含有量が0.5%超になると、様々な金属間化合物相が形成され、加工性および耐食性が悪化する。また、これらの元素の含有量が過剰になるとめっき浴の粘性が上昇し、めっき浴の建浴そのものが困難となることが多く、めっき性状が良好なめっき鋼板を製造できない。そのため、Sr含有量を0.5%以下、Sb含有量を0.5%以下、Pb含有量を0.5%以下とする。
【0025】
Sn:0~1.0%
Snは、Zn、Al、Mgを含むめっき層において、Mg溶出速度を上昇させる元素である。Mgの溶出速度が上昇すると、平面部耐食性が悪化する。そのため、Sn含有量を1.0%以下とする。
【0026】
Cu:0~1.0%
Ti:0~1.0%
Ni:0~1.0%
Mn:0~1.0%
Cr:0~1.0%
Nb:0~1.0%
Zr:0~1.0%
Mo:0~1.0%
Li:0~1.0%
Ag:0~1.0%
B:0~0.5%
Y:0~0.5%
P:0~0.5%
これらの元素は、耐食性の向上に寄与する元素である。そのため、含有させてもよい。一方、これらの元素の含有量が過剰になるとめっき浴の粘性が上昇し、めっき浴の建浴そのものが困難となることが多く、めっき性状が良好なめっき鋼板を製造できない。そのため、各元素の含有量をそれぞれ1.0%以下とする。
【0027】
めっき層の化学組成は、次の方法により測定する。
まず、地鉄(鋼板)の腐食を抑制するインヒビターを含有した酸でめっき層を剥離溶解した酸液を得る。次に、得られた酸液をICP分析で測定することで、めっき層の化学組成(めっき層と鋼板との間に合金層が形成されている場合には、めっき層と合金層との合計の化学組成となるが合金層は薄いので影響は小さい)を得ることができる。酸種は、めっき層を溶解できる酸であれば、特に制限はない。化学組成は、平均化学組成として測定される。
【0028】
[組織]
本実施形態に係るめっき鋼板では、めっき組織は、特に限定されない。本実施形態に係るめっき鋼板のめっき層の化学組成によれば、めっき組織は、例えば、(Al-Zn)デンドライト、(Al-Zn)相/MgZn2相のラメラ組織、Zn相/MgZn2相のラメラ組織、Zn/Al/MgZn2の三元共晶組織、MgZn2相、デンドライトまたは不定形のZn相、Mg2Si相、及び/またはその他の金属間化合物相を含む。
【0029】
<酸化物層>
本実施形態に係るめっき鋼板は、めっき層の表面の少なくとも一部に、酸化物層を備える。酸化物層は片面に形成されていてもよく、両面に形成されていてもよい。
【0030】
本発明者らは、Zn-Al-Mg系めっき鋼板において、潤滑性を向上させる方法を検討した。その結果、めっき層に含まれるMgが、酸化物または水酸化物として存在する割合を高めることで、めっき層の潤滑性が高まることを見出した。具体的には、酸化物層の、表面から厚み方向に5.0nmの位置においてXPS(X線光電子分光法)で測定を行ったとき、Mgの酸化物または水酸化物の最大検出強度(IMgOx)に対するMg(金属状態)の最大検出強度(IMg)の比である、IMg/IMgOxが、0.00以上、1.20以下である場合に、潤滑性が向上することを見出した。
その理由は明確ではないが、金型等と接する酸化物層の表層部において、IMg/IMgOxが低くなる、すなわち、MgO(Mgの酸化物)またはMg(OH)2(Mgの水酸化物)の存在割合が高くなることで、MgOまたはMg(OH)2が潤滑材として機能して、潤滑性が向上すると考えられる。潤滑性の点では、MgO、Mg(OH)2のいずれであっても効果が得られるが、本実施形態に係るめっき鋼板では、主にMgOであると考えられる。
従来、表面(または、表面から5nmよりも大幅に薄い範囲)であれば、MgOまたはMg(OH)2が比較的多く形成されていることはあった。しかしながら、本発明者らの検討の結果、表面から厚み方向に5.0nmの位置(後述するようにめっき層の表面を深さ方向に5.0nm削った位置)において、MgO(Mgの酸化物)またはMg(OH)2(Mgの水酸化物)の存在割合が高くなることが重要であることを見出した。
【0031】
一方で、酸化物層において、Al2O3(Al酸化物)またはAl(OH)3(Al水酸化物)が過剰に形成されると化成処理性が低下する場合がある。優れた化成処理性を確保するためには、表面から厚み方向に5.0nmの位置においてXPSで測定を行ったとき、Alの酸化物または水酸化物の最大検出強度(IAlOx)に対するAl(金属状態)の最大検出強度(IAl)の比であるIAl/IAlOxが、0.77以上であることが望ましい。上限を限定する必要はないが、2.00を超えることは少ないと考えられる。
【0032】
酸化物層の、表面から厚み方向に5.0nmの位置のIMg/IMgOx、IAl/IAlOxは、XPSを用いて測定を行う。
具体的には、アルゴンスパッタ等でめっき層の表面を深さ方向に5.0nm(4.0~6.0nmの範囲であれば許容する)削り、その位置(深さ5.0nm(深さ4.0~6.0nmの範囲であればよい)の位置)でXPS測定を行う。XPS測定に際しては、例えば、アルバック・ファイ社製Quantera SXM型XPS分析装置、またはこれと同等の装置を用いて以下の条件を採用する。
X線源:mono-Al Kα (1486.6eV)
真空度:9×10-10torr
イオン種:Ar+
加速電圧:4kV
レート:22.7nm/min(SiO2のとき)
XPS測定を行った結果、エネルギー範囲が304~309eVのピークをMg酸化物またはMg水酸化物から得られたピークであると見做し、300~303eVのピークを金属Mgから得られたピークであると見做し、それぞれのピークの最大検出強度を測定して、IMg/IMgOxを算出する。
IAl/IAlOxについては、エネルギー範囲が73.5~76.5eVのピークをAl酸化物またはAl水酸化物から得られたピークと見做し、72.0~73.4eVのピークを金属Alから得られたピークと見做し、それぞれのピークの最大強度からIAl/IAlOxを算出する。
【0033】
酸化物層の厚みは特に限定されないが、例えば5.0nm超、50.0nm以下である。
【0034】
酸化物層の厚みは、以下の方法で測定する。めっき鋼板の表面から1~3nmピッチで深さ方向へXPS測定を行い、酸素の最大強度が最表面の最大強度の1/20になるまでの深さを酸化物層の厚みと定義する。
【0035】
<製造方法>
次に、本実施形態に係るめっき鋼板の好ましい製造方法について説明する。本実施形態に係るめっき鋼板は、製造方法によらず上記の特徴を有していればその効果は得られる。しかしながら、以下の方法によれば安定して製造できるので好ましい。
具体的には、本実施形態に係る鋼板は、以下の工程(I)~(III)を含む製造方法によって製造可能である。
(I)鋼板を還元焼鈍する焼鈍工程、
(II)鋼板をAl、Mg、Znを含むめっき浴に浸漬してめっき原板とするめっき工程、
(III)前記めっき原板を、浴温~380℃の温度域を、露点が-10℃以上の不活性ガス雰囲気中で10.0℃/秒以下の平均冷却速度で冷却し、380~100℃の温度域を、露点が-20℃以下の雰囲気中で15℃/秒以上の平均冷却速度で冷却する、制御冷却工程。
以下、各工程の好ましい条件について説明する。
【0036】
[焼鈍工程]
焼鈍工程では、めっき工程に先立って、公知の方法で得られた鋼板(熱延鋼板または冷延鋼板)に対し、還元焼鈍を行う。焼鈍条件については公知の条件でよく、例えば露点が-10℃以上の5%H2-N2ガス雰囲気下で750~900℃に加熱して、30~240秒保持する。
【0037】
[めっき工程]
めっき工程では、鋼板をめっき浴に浸漬してめっき原板とする。めっき浴は、Al:0.5~35.0%、Mg:0.5~15.0%、Si:0~2.0%、Ca:0~2.0%を含み、残部がZn及び不純物からなることが好ましい。めっき浴はさらに、La、Ce、Fe、Sb、Pb、Cu、Sn、Ti、Sr、Ni、Mn、Cr、Nb、Li、Agを必要に応じて含んでもよい。めっき浴の組成から形成されるめっき層の組成を推定可能であるので、得たいめっき層の化学組成に応じてめっき浴の組成を調整すればよい。
【0038】
[制御冷却工程]
制御冷却工程では、めっき工程後の(めっき浴から引き上げた)めっき原板を、N2などのワイピングガスでめっき付着量を調整した後、冷却する。冷却に際しては、めっき浴から引き上げた鋼板(めっき浴温と同等の温度になっている)を、100℃以下まで冷却する。その際、浴温~380℃までの平均冷却速度を10.0℃/秒以下、また、浴温から380℃までの冷却における雰囲気を不活性ガス雰囲気とし、その露点を-10℃以上とする(第一冷却)。また、380~100℃の平均冷却速度を15℃/秒以上とし、雰囲気の露点を-20℃以下とする(第二冷却)。
【0039】
380℃までの平均冷却速度が10.0℃/秒超であると、酸化が不十分となり、酸化物層において、IMg/IMgOxが大きくなる。
また、雰囲気の露点が-10℃未満であると、MgOやMg(OH)2よりも優先的にAlの酸化物が形成され、酸化物層においてIMg/IMgOxが大きくなる。Alの酸化物が形成されても、潤滑性の向上には寄与しない。また、Alの酸化物または水酸化物の最大検出強度に対するAlの最大検出強度の比を高め、化成処理性を高める場合、雰囲気露点を0℃以上とすることが好ましい。
雰囲気について、メカニズムは必ずしも明らかではないが、大気中では、露点が-10℃以上であっても、所定の酸化物層を得ることができない。そのため、雰囲気を、不活性ガス雰囲気とする。不活性ガス雰囲気は、例えば、N2雰囲気、Ar雰囲気、He雰囲気である。しかしながら、不活性ガスは、単独では露点が低い(-20℃以上にならない)ので、H2Oガスを導入することによって露点を制御する。
【0040】
380~100℃の平均冷却速度が15℃/秒未満であると、酸化が過剰に進行し、ZnO等の酸化物が成長し、酸化物層において、IMg/IMgOxが小さくなる。
また、この温度域での冷却の際の雰囲気の露点が-20℃超であると、酸化が過剰に進行し、ZnO等の酸化物が成長し、IMg/IMgOxが小さくなる。
第二冷却の冷却開始温度は380℃が好ましい(第一冷却完了後直ちに冷却速度を切り替えることが好ましい)が、100℃までの平均冷却速度が15℃/秒未満になるのであれば、第二冷却の開始温度は380~330℃の範囲であってもよい。
【0041】
上記の製造方法によれば、本実施形態に係るめっき鋼板が得られる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
焼鈍、めっきに供する鋼板として、板厚1.6mmの冷延鋼板(0.2%C-2.0%Si-2.3%Mn)を準備した。
この鋼板を100mm×200mm(×板厚)の大きさに切断した後、バッチ式の溶融めっき試験装置を用いて、焼鈍及び溶融めっきを続けて行った。
焼鈍に際しては、酸素濃度20ppm以下の炉内において、H2ガスを5%含有し、残部がN2からなるガスからなり、露点0℃である雰囲気の下で、860℃で120秒間焼鈍を行った。
焼鈍後、鋼板をN2ガスで空冷して、鋼板温度が浴温+20℃に到達したところで、表1Aに示す浴温のめっき浴に約3秒浸漬させた。
めっき層が形成されためっき原板に対し、浴温~380℃、及び380~100℃の平均冷却速度及び雰囲気(雰囲気ガス、露点)が表1Bに示す条件になるように、室温まで冷却した。鋼板の温度はめっき原板中心部にスポット溶接した熱電対を用いて測定した。
形成されためっき層の組成は、表1に示す通りであった。
【0044】
得られためっき鋼板について、XPSを用いて、上述の方法で、酸化物層の厚み、酸化物層の表面から5nmの位置の、IMg/IMgOx、及びIAl/IAlOxを測定した。
結果を表2に示す。
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
[潤滑性]
また、得られためっき鋼板について、以下の要領でボールオンディスク試験を行い、潤滑性を評価した。本試験では、荷重Pを30Nとして5mmφのSUS球をサンプルに押し付け、荷重Pを負荷したままサンプルを回転半径10mm、回転速度1rpmで回転させ、SUS球とは直角方向への荷重Fを測定し、摺動距離が200mm時点でのFをPで除することで動摩擦係数を求めた。動摩擦係数に応じて、以下のように評価し、AAまたはAであれば潤滑性に優れると判断した。
AA:動摩擦係数0.2以下
A :動摩擦係数0.2超~0.4
B :動摩擦係数0.4超
【0049】
[化成処理性]
また、得られためっき鋼板について、化成処理性を、以下の要領で評価した。
得られためっき鋼板から50×100mm(×板厚)のサンプルを採取し、このサンプルに、りん酸亜鉛処理を(SD5350システム:日本ペイント・インダストリアルコーディング社製規格)に従い実施し、化成処理皮膜を形成させた。化成処理皮膜が形成されためっき鋼板の表面をSEM観察することで、化成処理皮膜のスケの割合(面積%)を測定した。その際、SEM観察視野において、鋼板が露出した領域の面積率をスケの割合と定義した。スケの割合から、化成処理性を以下のように評価した。
AA:スケなし
A :スケ5%以下
【0050】
表1A、表1B、表2から分かるように、発明例であるNo.2~8、10~13、19~22、24、26~30では、優れた潤滑性が得られている。また、これらの内、Al/AlOxの大きい、No.3~8、10~13、19~22、24、26、28、29では、化成処理性にも優れていた。
これに対し、比較例である、No.1、9、14~18、23、25、31、32では、めっき層の化学組成または、浴温~380℃、380~100℃の冷却条件の少なくとも1つが好ましい範囲を外れたことで、酸化物層のIMg/IMgOxが大きくなり、潤滑性が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、Zn-Al-Mg系めっき鋼板であって、潤滑性に優れるめっき鋼板を提供することができる。この鋼板は、プレス成形性が向上するので、自動車構造部材へ好適に適用できる。