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7587173磁気軸受制御装置、磁気軸受装置及びターボ機械
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】磁気軸受制御装置、磁気軸受装置及びターボ機械
(51)【国際特許分類】
   F16C 32/04 20060101AFI20241113BHJP
【FI】
F16C32/04 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023058886
(22)【出願日】2023-03-31
(65)【公開番号】P2024146153
(43)【公開日】2024-10-15
【審査請求日】2024-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 俊平
(72)【発明者】
【氏名】阪脇 篤
(72)【発明者】
【氏名】日比野 寛
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-139142(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0195772(US,A1)
【文献】特開平11-166532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 32/04
H02K 7/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体(A)と、前記回転体(A)の軸方向(X)及び半径方向(R)のうちの一方である第1方向(D1)に前記回転体(A)を支持する第1磁気軸受(B1)と、前記第1方向(D1)に前記回転体(A)を支持して前記回転体(A)と前記第1磁気軸受(B1)との接触を抑制する第1保護軸受(C1)と、前記回転体(A)の前記軸方向(X)及び前記半径方向(R)のうちの他方である第2方向(D2)に前記回転体(A)を支持する第2保護軸受(C2)と、を備える磁気軸受装置(10)を制御する磁気軸受制御装置(90)であって、
前記第1磁気軸受(B1)は、第1電流(J1)が供給されることによって、前記回転体(A)に対して前記第1方向(D1)に第1電磁力(F1)を作用させるよう構成されており、
前記第1保護軸受(C1)に対する前記回転体(A)の前記第1方向(D1)における位置である第1方向位置(H1)を調整する位置調整時(Q)に、
所定値(J1v)の前記第1電流(J1)を供給してから、前記第1電流(J1)の供給を停止する第1動作(M1)と、
前記第1電流(J1)の供給前から前記回転体(A)の前記第1方向位置(H1)が変化しない場合に、前記所定値(J1v)を増大し、前記第1電流(J1)の供給前から前記回転体(A)の前記第1方向位置(H1)が変化した場合に、前記所定値(J1v)を低減する第2動作(M2)と、を繰り返し実行する、磁気軸受制御装置。
【請求項2】
回転体(A)と、前記回転体(A)の軸方向(X)及び半径方向(R)のうちの一方である第1方向(D1)に前記回転体(A)を支持する第1磁気軸受(B1)と、前記第1方向(D1)に前記回転体(A)を支持して前記回転体(A)と前記第1磁気軸受(B1)との接触を抑制する第1保護軸受(C1)と、前記回転体(A)の前記軸方向(X)及び前記半径方向(R)のうちの他方である第2方向(D2)に前記回転体(A)を支持する第2保護軸受(C2)と、を備える磁気軸受装置(10)を制御する磁気軸受制御装置(90)であって、
前記第1磁気軸受(B1)は、第1電流(J1)が供給されることによって、前記回転体(A)に対して前記第1方向(D1)に第1電磁力(F1)を作用させるよう構成されており、
前記第1保護軸受(C1)に対する前記回転体(A)の前記第1方向(D1)における位置である第1方向位置(H1)を調整する位置調整時(Q)に、
前記回転体(A)の前記第1方向位置(H1)の変化を検出するまで、前記第1電流(J1)を増大させる第3動作(M3)と、
前記回転体(A)の前記第1方向位置(H1)の変化を検出した後に、前記第1電流(J1)をゼロよりも大きな範囲で低減する第4動作(M4)と、を実行する、磁気軸受制御装置。
【請求項3】
回転体(A)と、前記回転体(A)の軸方向(X)及び半径方向(R)のうちの一方である第1方向(D1)に前記回転体(A)を支持する第1磁気軸受(B1)と、前記第1方向(D1)に前記回転体(A)を支持して前記回転体(A)と前記第1磁気軸受(B1)との接触を抑制する第1保護軸受(C1)と、前記回転体(A)の前記軸方向(X)及び前記半径方向(R)のうちの他方である第2方向(D2)に前記回転体(A)を支持する第2保護軸受(C2)と、を備える磁気軸受装置(10)を制御する磁気軸受制御装置(90)であって、
前記第1磁気軸受(B1)は、第1電流(J1)が供給されることによって、前記回転体(A)に対して前記第1方向(D1)に第1電磁力(F1)を作用させるよう構成されており、
前記第1保護軸受(C1)に対する前記回転体(A)の前記第1方向(D1)における位置である第1方向位置(H1)を調整する位置調整時(Q)に、
前記第1磁気軸受(B1)に対して印加する第1電圧(E1)の極性を反転してから前記第1電流(J1)の供給を停止する、磁気軸受制御装置。
【請求項4】
回転体(A)と、前記回転体(A)の軸方向(X)及び半径方向(R)のうちの一方である第1方向(D1)に前記回転体(A)を支持する第1磁気軸受(B1)と、前記第1方向(D1)に前記回転体(A)を支持して前記回転体(A)と前記第1磁気軸受(B1)との接触を抑制する第1保護軸受(C1)と、前記回転体(A)の前記軸方向(X)及び前記半径方向(R)のうちの他方である第2方向(D2)に前記回転体(A)を支持する第2保護軸受(C2)と、前記第2方向(D2)に前記回転体(A)を支持する第2磁気軸受(B2)と、を備える磁気軸受装置(10)を制御する磁気軸受制御装置(90)であって、
前記第1磁気軸受(B1)は、第1電流(J1)が供給されることによって、前記回転体(A)に対して前記第1方向(D1)に第1電磁力(F1)を作用させるよう構成されており、
前記第2磁気軸受(B2)は、第2電流(J2)が供給されることによって、前記回転体(A)に対して前記第2方向(D2)に第2電磁力(F2)を作用させるよう構成されており、
前記第1方向(D1)は、前記軸方向(X)であり、前記第2方向(D2)は、前記半径方向(R)であり、前記第1磁気軸受(B1)は、スラスト磁気軸受(50)であり、前記第2磁気軸受(B2)は、ラジアル磁気軸受(40)であり、
前記軸方向(X)は、水平方向であり、
前記第1保護軸受(C1)に対する前記回転体(A)の前記第1方向(D1)における位置である第1方向位置(H1)を調整する位置調整時(Q)に、
前記第2保護軸受(C2)による前記回転体(A)に対する垂直抗力(N)が、前記第1電流(J1)及び前記第2電流(J2)の供給を停止した時よりも小さくゼロよりも大きな範囲となるように、前記第2磁気軸受(B2)に前記第2電流(J2)を供給する、磁気軸受制御装置。
【請求項5】
回転体(A)と、前記回転体(A)の軸方向(X)及び半径方向(R)のうちの一方である第1方向(D1)に前記回転体(A)を支持する第1磁気軸受(B1)と、前記第1方向(D1)に前記回転体(A)を支持して前記回転体(A)と前記第1磁気軸受(B1)との接触を抑制する第1保護軸受(C1)と、前記回転体(A)の前記軸方向(X)及び前記半径方向(R)のうちの他方である第2方向(D2)に前記回転体(A)を支持する第2保護軸受(C2)と、前記第2方向(D2)に前記回転体(A)を支持する第2磁気軸受(B2)と、を備える磁気軸受装置(10)を制御する磁気軸受制御装置(90)であって、
前記第1磁気軸受(B1)は、第1電流(J1)が供給されることによって、前記回転体(A)に対して前記第1方向(D1)に第1電磁力(F1)を作用させるよう構成されており、
前記第2磁気軸受(B2)は、第2電流(J2)が供給されることによって、前記回転体(A)に対して前記第2方向(D2)に第2電磁力(F2)を作用させるよう構成されており、
前記第1方向(D1)は、前記軸方向(X)であり、前記第2方向(D2)は、前記半径方向(R)であり、前記第1磁気軸受(B1)は、スラスト磁気軸受(50)であり、前記第2磁気軸受(B2)は、ラジアル磁気軸受(40)であり、
前記軸方向(X)は、水平方向であり、
前記第1保護軸受(C1)に対する前記回転体(A)の前記第1方向(D1)における位置である第1方向位置(H1)を調整する位置調整時(Q)に、
前記回転体(A)を周方向(θ)に振動させるように、前記第1電流(J1)又は前記第2電流(J2)を供給する、磁気軸受制御装置。
【請求項6】
前記第4動作(M4)は、前記第1電流(J1)をゼロよりも大きな所定値(J1v)まで低減する、請求項に記載の磁気軸受制御装置。
【請求項7】
前記第4動作(M4)は、前記回転体(A)の前記第1方向(D1)への移動の速度(U)が一定になるように、前記第1電流(J1)を低減する、請求項2又は6に記載の磁気軸受制御装置。
【請求項8】
前記位置調整時(Q)に、前記回転体(A)を磁気浮上制御する場合における最大電流変化率(δ’a)よりも小さな電流変化率(δa)にて前記第1電流(J1)を供給する、請求項1から5のいずれか1つに記載の磁気軸受制御装置。
【請求項9】
前記磁気軸受装置(10)は、前記第2方向(D2)に前記回転体(A)を支持する第2磁気軸受(B2)を備え、
前記第2磁気軸受(B2)は、第2電流(J2)が供給されることによって、前記回転体(A)に対して前記第2方向(D2)に第2電磁力(F2)を作用させる、請求項1から3のいずれか1つに記載の磁気軸受制御装置。
【請求項10】
前記回転体(A)の前記第1方向位置(H1)を変化させた後に、前記第2保護軸受(C2)による前記回転体(A)に対する垂直抗力(N)が、前記第1電流(J1)及び前記第2電流(J2)の供給を停止した時よりも大きくなるように、前記第2電流(J2)を供給する、請求項又はに記載の磁気軸受制御装置。
【請求項11】
前記第1方向(D1)は、前記軸方向(X)であり、前記第2方向(D2)は、前記半径方向(R)であり、前記第1磁気軸受(B1)は、スラスト磁気軸受(50)であり、前記第2磁気軸受(B2)は、ラジアル磁気軸受(40)である、請求項に記載の磁気軸受制御装置。
【請求項12】
請求項1から5のいずれか1つに記載の磁気軸受制御装置(90)を備える、磁気軸受装置。
【請求項13】
請求項12に記載の磁気軸受装置(10)を備える、ターボ機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気軸受制御装置、磁気軸受装置及びターボ機械に、関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、保護軸受(タッチダウン軸受)を備える磁気軸受装置が、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-173823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気軸受装置では、保護軸受は、回転体が移動した時に、磁気軸受よりも先に回転体に接触することによって、磁気軸受と回転体との接触を抑制する。保護軸受を有効に機能させるためには、保護軸受に対する回転体の基準位置を調整する必要がある。通常、回転体の磁気浮上制御を行う前に、磁気軸受により回転体に対して電磁力を作用させながら、保護軸受に対する回転体の位置調整を行う。
【0005】
保護軸受に対する回転体の位置調整時に、磁気軸受によって回転体に対して電磁力を作用させると、回転体が勢いよく動き出して保護軸受に対して強く接触してしまい、保護軸受やその固定部品が破損してしまうことがある。
【0006】
本開示の目的は、磁気軸受装置において、保護軸受に対する回転体の位置調整時に保護軸受やその固定部品が破損するのを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様は、磁気軸受制御装置(90)を対象とする。磁気軸受制御装置(90)は、磁気軸受装置(10)を制御する。磁気軸受装置(10)は、回転体(A)と、前記回転体(A)の軸方向(X)及び半径方向(R)のうちの一方である第1方向(D1)に前記回転体(A)を支持する第1磁気軸受(B1)と、前記第1方向(D1)に前記回転体(A)を支持して前記回転体(A)と前記第1磁気軸受(B1)との接触を抑制する第1保護軸受(C1)と、前記回転体(A)の前記軸方向(X)及び前記半径方向(R)のうちの他方である第2方向(D2)に前記回転体(A)を支持する第2保護軸受(C2)と、を備える。前記第1磁気軸受(B1)は、第1電流(J1)が供給されることによって、前記回転体(A)に対して前記第1方向(D1)に第1電磁力(F1)を作用させるよう構成されている。磁気軸受制御装置(90)は、前記第1保護軸受(C1)に対する前記回転体(A)の前記第1方向(D1)における位置である第1方向位置(H1)を調整する位置調整時(Q)に、前記回転体(A)と前記第1保護軸受(C1)との接触時における前記回転体(A)の速度(U)を抑制するように、前記第1電流(J1)を制御する。
【0008】
第1の態様によれば、磁気軸受制御装置(90)は、第1保護軸受(C1)に対する回転体(A)の第1方向位置(H1)の位置調整時(Q)に、回転体(A)と第1保護軸受(C1)との接触時における回転体(A)の速度(U)を抑制する。磁気軸受装置(10)において、第1保護軸受(C1)に対する回転体(A)の第1方向位置(H1)の位置調整時(Q)に、第1保護軸受(C1)やその固定部品が破損するのを抑制することができる。
【0009】
本開示の第2の態様では、第1の態様において、磁気軸受制御装置(90)は、所定値(J1v)の前記第1電流(J1)を供給してから、前記第1電流(J1)の供給を停止する第1動作(M1)と、前記第1電流(J1)の供給前から前記回転体(A)の前記第1方向位置(H1)が変化しない場合に、前記所定値(J1v)を増大し、前記第1電流(J1)の供給前から前記回転体(A)の前記第1方向位置(H1)が変化した場合に、前記所定値(J1v)を低減する第2動作(M2)と、を繰り返し実行する。
【0010】
第2の態様によれば、第1動作(M1)と第2動作(M2)とが繰り返し実行されることによって、第1保護軸受(C1)に対する回転体(A)の第1方向位置(H1)が小刻みに変化する。回転体(A)と第1保護軸受(C1)との接触時における回転体(A)の速度(U)を抑制する上で、より有利になる。
【0011】
本開示の第3の態様では、第1の態様において、磁気軸受制御装置(90)は、前記回転体(A)の前記第1方向位置(H1)の変化を検出するまで、前記第1電流(J1)を増大させる第3動作(M3)と、前記回転体(A)の前記第1方向位置(H1)の変化を検出した後に、前記第1電流(J1)をゼロよりも大きな範囲で低減する第4動作(M4)と、を実行する。
【0012】
第3の態様によれば、第1磁気軸受(B1)に対する第1電流(J1)をゼロよりも大きな範囲で低減するので、回転体(A)の移動を停止させることなく、回転体(A)と第1保護軸受(C1)との接触時における回転体(A)の速度(U)を抑制することができる。
【0013】
本開示の第4の態様によれば、第3の態様において、前記第4動作(M4)は、前記第1電流(J1)をゼロよりも大きな所定値(J1v)まで低減する。
【0014】
第4の態様によれば、接触時における回転体(A)の速度(U)を抑制することが容易になる。
【0015】
本開示の第5の態様では、第3又は第4の態様において、前記第4動作(M4)は、前記回転体(A)の前記第1方向(D1)への移動の速度(U)が一定になるように、前記第1電流(J1)を低減する。
【0016】
第5の態様によれば、回転体(A)の第1方向(D1)への移動を停止させることなく、回転体(A)と第1保護軸受(C1)との接触時における回転体(A)の速度(U)を抑制できる。
【0017】
本開示の第6に態様では、第1から第5のいずれか1つの態様において、磁気軸受制御装置(90)は、前記位置調整時(Q)に、前記回転体(A)を磁気浮上制御する場合における最大電流変化率(δ’a)よりも小さな電流変化率(δa)にて前記第1電流(J1)を供給する。
【0018】
第6の態様によれば、位置調整時(Q)における電流変化率(δa)を小さくすることによって、第1磁気軸受(B1)に対する第1電流(J1)が急激に増大することが抑制されるので、回転体(A)が急速に移動することを抑制することができる。
【0019】
本開示の第7の態様では、第1から第6のいずれか1つの態様において、磁気軸受制御装置(90)は、前記第1磁気軸受(B1)に対して印加する第1電圧(E1)の極性を反転してから前記第1電流(J1)の供給を停止する。
【0020】
第7の態様によれば、第1磁気軸受(B1)に対して印加する第1電圧(E1)の極性を反転しなかった場合に比較して、(絶対値として)大きな電流変化率にて、第1磁気軸受(B1)に対する第1電流(J1)を低減することができる。
【0021】
本開示の第8の態様では、第1から第7のいずれか1つの態様において、前記磁気軸受装置(10)は、前記第2方向(D2)に前記回転体(A)を支持する第2磁気軸受(B2)を備え、前記第2磁気軸受(B2)は、第2電流(J2)が供給されることによって、前記回転体(A)に対して前記第2方向(D2)に第2電磁力(F2)を作用させる。
【0022】
本開示の第9の態様では、第8の態様において、磁気軸受制御装置(90)は、前記第2保護軸受(C2)による前記回転体(A)に対する垂直抗力(N)が、前記第1電流(J1)及び前記第2電流(J2)の供給を停止した時よりも小さくゼロよりも大きな範囲となるように、前記第2磁気軸受(B2)に前記第2電流(J2)を供給する。
【0023】
第9の態様によれば、第2保護軸受(C2)による回転体(A)に対する垂直抗力(N)が、第1電流(J1)及び第2電流(J2)の供給を停止した時よりも小さくなるため、第1電流(J1)を供給し回転体(A)の移動を開始するとき、回転体(A)に作用する最大静止摩擦力を小さくすることができる。その結果、回転体(A)に作用させる第1電磁力(F1)を小さくすることができ、第1方向(D1)への急速な移動が抑制されるので、回転体(A)と第1保護軸受(C1)との接触時における回転体(A)の速度(U)を抑制する上で有利になる。
【0024】
本開示の第10の態様では、第8又は第9の態様において、磁気軸受制御装置(90)は、前記回転体(A)を周方向(θ)に振動させるように、前記第1電流(J1)又は前記第2電流(J2)を供給する。
【0025】
第10の態様によれば、回転体(A)を周方向(θ)に振動させることによって、回転体(A)に発生する摩擦が静摩擦から動摩擦になるため、第1磁気軸受(B1)に対して第1電流(J1)を供給し回転体(A)の移動を開始するとき、回転体(A)に作用する摩擦力を小さくすることができる。その結果、回転体(A)に作用させる第1電磁力(F1)を小さくすることができ、回転体(A)の第1方向(D1)への急速な移動が抑制されるので、回転体(A)と第1保護軸受(C1)との接触時における回転体(A)の速度(U)を抑制する上で有利になる。
【0026】
本開示の第11の態様では、第8から第10のいずれか1つの態様において、磁気軸受制御装置(90)は、前記回転体(A)の前記第1方向位置(H1)を変化させた後に、前記第2保護軸受(C2)による前記回転体(A)に対する垂直抗力(N)が、前記第1電流(J1)及び前記第2電流(J2)の供給を停止した時よりも大きくなるように、前記第2電流(J2)を供給する。
【0027】
第11の態様によれば、回転体(A)の第1方向位置(H1)を変化させた後に、第2保護軸受(C2)による回転体(A)に対する垂直抗力(N)を大きくすることによって、回転体(A)に作用する動摩擦力を大きくすることができ、回転体(A)の第1方向(D1)への急速な移動が抑制されて、回転体(A)と第1保護軸受(C1)との接触時における回転体(A)の速度(U)を抑制する上で有利になる。
【0028】
本開示の第12の態様では、第8から第11のいずれか1つの態様において、前記第1方向(D1)は、前記軸方向(X)であり、前記第2方向(D2)は、前記半径方向(R)であり、前記第1磁気軸受(B1)は、スラスト磁気軸受(50)であり、前記第2磁気軸受(B2)は、ラジアル磁気軸受(40)である。
【0029】
本開示の第13の態様は、磁気軸受装置(10)を対象とする。磁気軸受装置(10)は、第1から第12のいずれか1つの態様の磁気軸受制御装置(90)を備える。
【0030】
本開示の第14の態様は、ターボ機械(1)を対象とする。ターボ機械(1)は、第13の態様の磁気軸受装置(10)を備える。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、第1実施形態に係る磁気軸受装置(10)を断面図で示す。
図2図2は、第1実施形態に係る前側保護軸受(60)に対する回転体(A)の位置調整を示す。
図3図3は、第1実施形態に係る前側保護軸受(60)やその固定部品の破損を抑制するための手法をフローチャートで示す。
図4図4は、第1実施形態に係る前側保護軸受(60)やその固定部品の破損を抑制するための手法をグラフで示す。
図5図5は、第2実施形態に係る図3相当図である。
図6図6は、第2実施形態に係る図4相当図である。
図7図7は、第3実施形態に係る図2相当図である。
図8図8は、第4実施形態に係る図2相当図である。
図9図9は、第5実施形態に係る図2相当図である。
図10図10は、第6実施形態に係る後側保護軸受(70)に対する回転体(A)の位置調整を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
<第1実施形態>
(磁気軸受装置)
図1は、第1実施形態に係る磁気軸受装置(10)を断面図で示す。磁気軸受装置(10)は、ターボ機械としてのターボ圧縮機(1)に適用される。ターボ圧縮機(1)は、空気調和機などの冷凍装置に適用される。冷凍装置は、冷媒が循環する冷媒回路を備える。ターボ圧縮機(1)は、冷媒回路の冷媒を圧縮する。冷媒回路では、冷媒が循環することで蒸気圧縮式の冷凍サイクルが行われる。
【0033】
ターボ圧縮機(1)は、ハウジング(2)と、回転体(A)の一部としてのインペラ(3)と、磁気軸受装置(10)と、を備える。ハウジング(2)及びインペラ(3)については、後述する。
【0034】
磁気軸受装置(10)は、回転体(A)の一部としてのシャフト(20)と、モータ(30)と、第2磁気軸受(B2)としてのラジアル磁気軸受(40)と、第1磁気軸受(B1)としてのスラスト磁気軸受(50)と、第1保護軸受(C1)及び第2保護軸受(C2)としての前側保護軸受(60)と、第2保護軸受(C2)としての後側保護軸受(70)と、軸位置センサ(81)と、半径位置センサ(82)と、磁気軸受制御装置(90)と、を備える。
【0035】
シャフト(20)の軸心(O)は、水平方向に延びる。シャフト(20)の軸心(O)の延びる方向を、第1方向(D1)としての軸方向(X)という。軸方向(X)におけるインペラ(3)側を、軸方向(X)の前側という。軸方向(X)におけるインペラ(3)とは反対側を、軸方向(X)の後側という。シャフト(20)の軸方向(X)に対して直交する方向を、第2方向(D2)としての半径方向(R)という。半径方向(R)におけるシャフト(20)の軸心(O)から離れる側を、半径方向(R)の外(周)側という。半径方向(R)におけるシャフト(20)の軸心(O)に近づく側を、半径方向(R)の内(周側という。半径方向(R)における図1の上側は、鉛直方向(V)の上側に対応しており、単に上側という。半径方向(R)における図1の下側は、鉛直方向(V)の下側に対応しており、単に下側という。シャフト(20)の軸心(O)回りの回転方向を、周方向(θ)という。
【0036】
ハウジング(2)内は、壁部(2a)によって軸方向(O)に区画されている。ハウジング(2)の軸方向(O)の両端部は、閉塞されている。ハウジング(2)内における壁部(2a)よりも前側の前側空間(2b)には、シャフト(20)の前端部と、インペラ(3)と、が収容されている。ハウジング(2)内における壁部(2a)よりも後側の後側空間(2c)には、シャフト(20)の大部分と、モータ(30)と、ラジアル磁気軸受(40)と、スラスト磁気軸受(50)と、前側保護軸受(60)と、後側保護軸受(70)と、軸位置センサ(81)と、半径位置センサ(82)と、が収容されている。
【0037】
インペラ(3)は、シャフト(20)の前端部に回転一体に固定されている。インペラ(3)は、ハウジング(2)内の前側空間(2b)に収容されている。前側空間(2b)には、吸入管及び吐出管が接続されている。吸入管を介して前側空間(2b)に導入されたガスは、前側空間(2b)で圧縮されて高圧となって、吐出管を介して外部へ吐出される。
【0038】
モータ(30)は、ハウジング(2)内の後側空間(2c)に収容されている。モータ(30)は、回転体(A)の一部としてのモータロータ(31)と、モータステータ(32)と、を有する。モータロータ(31)は、シャフト(20)の中間部に回転一体に固定されている。モータステータ(32)は、ハウジング(2)の内周面に固定されている。モータロータ(31)の外周面とモータステータ(32)の内周面とは、半径方向(R)に所定の間隔を隔てて互いに対向している。モータ(30)は、シャフト(20)を回転させる。
【0039】
ラジアル磁気軸受(40)は、2つある。2つのラジアル磁気軸受(40)は、ハウジング(2)内の後側空間(2c)に収容されている。2つのラジアル磁気軸受(40)は、モータ(30)を軸方向(X)に挟んで配置されている。
【0040】
ラジアル磁気軸受(40)は、回転体(A)の一部としてのラジアル磁気軸受ロータ(41)と、上側ラジアル磁気軸受ステータ(42)と、下側ラジアル磁気軸受ステータ(43)と、を含む。ラジアル磁気軸受ロータ(41)は、シャフト(20)に回転一体に固定されている。上側ラジアル磁気軸受ステータ(42)は、ハウジング(2)の内周面における上側部分に固定されている。下側ラジアル磁気軸受ステータ(43)は、ハウジング(2)の内周面における下側部分に固定されている。ラジアル磁気軸受ロータ(41)の外周面と上側ラジアル磁気軸受ステータ(42)の内周面及び下側ラジアル磁気軸受ステータ(43)の内周面とは、半径方向(R)に間隔を隔てて互いに対向している。
【0041】
スラスト磁気軸受(50)は、ハウジング(2)内の後側空間(2c)に収容されている。スラスト磁気軸受(50)は、ラジアル磁気軸受(40)よりも軸方向(X)の前側に配置されている。スラスト磁気軸受(50)は、回転体(A)の一部としてのスラスト磁気軸受ロータ(51)と、前側スラスト磁気軸受ステータ(52)と、後側スラスト磁気軸受ステータ(53)と、を含む。
【0042】
スラスト磁気軸受ロータ(51)は、シャフト(20)に回転一体に固定されている。前側スラスト磁気軸受ステータ(52)及び後側スラスト磁気軸受ステータ(53)は、ハウジング(2)の内周面に固定されている。前側スラスト磁気軸受ステータ(52)及び後側スラスト磁気軸受ステータ(53)は、円環状である。前側スラスト磁気軸受ステータ(52)は、スラスト磁気軸受ロータ(51)よりも軸方向(X)の前側に配置されている。後側スラスト磁気軸受ステータ(53)は、スラスト磁気軸受ロータ(51)よりも軸方向(X)の後側に配置されている。スラスト磁気軸受ロータ(51)の前面と前側スラスト磁気軸受ステータ(52)の後面とは、軸方向(X)に間隔を隔てて互いに対向している。スラスト磁気軸受ロータ(51)の後面と後側スラスト磁気軸受ステータ(53)の前面とは、軸方向(X)に間隔を隔てて互いに対向している。
【0043】
前側保護軸受(60)は、ハウジング(2)内の後側空間(2c)に収容されている。前側保護軸受(60)は、軸方向(X)において、ラジアル磁気軸受(40)とスラスト磁気軸受(50)との間に配置されている。前側保護軸受(60)は、円環状である。前側保護軸受(60)は、タッチダウン軸受とも呼ばれる。前側保護軸受(60)は、ハウジング(2)の内周面における半径方向(R)の内方に突出した突出部(2d)に、固定されている。
【0044】
シャフト(20)の外周部における前側保護軸受(60)に臨む部分には、半径方向(R)の内方に凹んだ凹部(21)が設けられている。凹部(21)は、半径方向(R)の内側に位置する内底面(21a)と、軸方向(R)の前側に位置する前側面(21b)と、軸方向(R)の後側に位置する後側面(21c)と、を含む。前側保護軸受(60)の内周面(61)は、半径方向(R)において、シャフト(20)の凹部(21)における内底面(21a)に臨んでいる。前側保護軸受(60)の前面(62)は、軸方向(R)において、シャフト(20)の凹部(21)における前側面(21b)に臨んでいる。前側保護軸受(60)の後面(63)は、軸方向(R)において、シャフト(20)の凹部(21)における後側面(21c)に臨んでいる。
【0045】
前側保護軸受(60)の前面(62)及び後面(63)と凹部(21)における前側面(21b)及び後側面(21c)との間隔は、前側スラスト磁気軸受ステータ(52)及び後側スラスト磁気軸受ステータ(53)とスラスト磁気軸受ロータ(51)との間隔よりも、小さい。さらに、前側保護軸受(60)の内周面(61)と凹部(21)の内底面(21a)との間隔は、上側ラジアル磁気軸受ステータ(42)及び下側ラジアル磁気軸受ステータ(43)とラジアル磁気軸受ロータ(41)との間隔よりも、小さい。
【0046】
後側保護軸受(70)は、ハウジング(2)内の後側空間(2c)に収容されている。後側保護軸受(70)は、ラジアル磁気軸受(40)よりも軸方向(X)の後側に配置されている。後側保護軸受(70)は、円環状である。後側保護軸受(70)は、タッチダウン軸受とも呼ばれる。後側保護軸受(70)は、ハウジング(2)の内周面における半径方向(R)の内方に突出した突出部(2e)に、固定されている。
【0047】
後側保護軸受(70)の内周面(71)は、半径方向(R)において、シャフト(20)の外周面に臨んでいる。後側保護軸受(70)の内周面(71)とシャフト(20)の外周面との間隔は、上側ラジアル磁気軸受ステータ(42)及び下側ラジアル磁気軸受ステータ(43)とラジアル磁気軸受ロータ(41)との間隔よりも、小さい。
【0048】
軸位置センサ(81)は、ハウジング(2)内の後側空間(2c)に収容されている。軸位置センサ(81)は、スラスト磁気軸受(50)の近傍におけるハウジング(2)の壁部(2a)に固定されている。軸位置センサ(81)の検出部は、スラスト磁気軸受ロータ(51)に臨んでいる。軸位置センサ(81)は、軸位置センサ(81)の検出部とスラスト磁気軸受ロータ(51)との隙間を、検出する。
【0049】
半径位置センサ(82)は、2つある。半径位置センサ(82)は、ハウジング(2)内の後側空間(2c)に収容されている。各半径位置センサ(82)は、各ラジアル磁気軸受(40)の近傍におけるハウジング(2)の内周面に固定されている。半径位置センサ(82)の検出部は、シャフト(20)の外周面に臨んでいる。半径位置センサ(82)は、半径位置センサ(82)の検出部とシャフト(20)の外周面との隙間を、検出する。
【0050】
回転体(A)は、インペラ(3)と、シャフト(20)と、モータロータ(31)と、ラジアル磁気軸受ロータ(41)と、スラスト磁気軸受ロータ(51)と、で構成されている。
【0051】
スラスト磁気軸受(50)は、軸方向(X)に回転体(A)を支持する。スラスト磁気軸受(50)は、第1電磁力(F1)としてのスラスト電磁力(Fx)を、回転体(A)に対して軸方向(X)に作用させる。前側スラスト磁気軸受ステータ(52)とスラスト磁気軸受ロータ(51)との間には、スラスト電磁力(Fx)が、軸方向(X)の前方(Xa)に作用する。後側スラスト磁気軸受ステータ(53)とスラスト磁気軸受ロータ(51)との間には、スラスト電磁力(Fx)が、軸方向(X)の後方(Xb)に作用する。
【0052】
ラジアル磁気軸受(40)は、半径方向(R)に回転体(A)を支持する。ラジアル磁気軸受(40)は、第2電磁力(F2)としてのラジアル電磁力(Fr)を、回転体(A)に対して半径方向(R)に作用させる。上側ラジアル磁気軸受ステータ(42)とラジアル磁気軸受ロータ(41)との間には、ラジアル電磁力(Fr)が、半径方向(R)の外方且つ鉛直方向(V)の上方(Va)に作用する。下側ラジアル磁気軸受ステータ(43)とラジアル磁気軸受ロータ(41)との間には、ラジアル電磁力(Fr)が、半径方向(R)の外方且つ鉛直方向(V)の下方(Vb)に作用する。
【0053】
前側保護軸受(60)は、軸方向(X)に回転体(A)を支持して、回転体(A)とスラスト磁気軸受(50)との接触を抑制する。前側保護軸受(60)は、スラスト磁気軸受ロータ(51)と前側スラスト磁気軸受ステータ(52)及び後側スラスト磁気軸受ステータ(53)との接触を、抑制する。前側保護軸受(60)は、回転体(A)が軸方向(X)に移動した時に、スラスト磁気軸受(50)よりも先に、回転体(A)に接触する。
【0054】
さらに、前側保護軸受(60)は、半径方向(X)に回転体(A)を支持して、回転体(A)とラジアル磁気軸受(40)との接触を抑制する。前側保護軸受(60)は、ラジアル磁気軸受ロータ(41)と上側ラジアル磁気軸受ステータ(42)及び下側ラジアル磁気軸受ステータ(43)との接触を抑制する。前側保護軸受(60)は、回転体(A)が半径方向(R)に移動した時に、ラジアル磁気軸受(40)よりも先に、回転体(A)に接触する。
【0055】
後側保護軸受(70)は、半径方向(X)に回転体(A)を支持して、回転体(A)とラジアル磁気軸受(40)との接触を抑制する。後側保護軸受(70)は、ラジアル磁気軸受ロータ(41)と上側ラジアル磁気軸受ステータ(42)及び下側ラジアル磁気軸受ステータ(43)との接触を抑制する。後側保護軸受(70)は、回転体(A)が半径方向(R)に移動した時に、ラジアル磁気軸受(40)よりも先に、回転体(A)に接触する。
【0056】
(磁気軸受制御装置)
磁気軸受制御装置(90)は、磁気軸受装置(10)に内蔵されている。磁気軸受制御装置(90)は、制御部としてのコントローラ(91)と、電源(92)と、を含む。コントローラ(91)は、例えば、マイコン及びプログラムで構成されている。電源(92)は、コントローラ(91)からの指令信号に基づいて、ラジアル磁気軸受(40)及びスラスト磁気軸受(50)に、電流を供給する。電源(92)は、例えば、PWM(Pulse Width Modulation)方式で電力制御される。コントローラ(91)には、軸位置センサ(81)の検出値及び半径位置センサ(82)の検出値が入力される。
【0057】
磁気軸受制御装置(90)は、磁気軸受装置(10)を制御する。磁気軸受制御装置(90)は、第1電流(J1)を、スラスト磁気軸受(50)に供給する。磁気軸受制御装置(90)は、第1電圧(E1)を、スラスト磁気軸受(50)に印加する。第1電流(J1)と第1電圧(E1)とは、互いに対応する。スラスト磁気軸受(50)は、磁気軸受制御装置(90)から第1電流(J1)が供給されることによって、スラスト電磁力(Fx)を、回転体(A)に対して軸方向(X)に作用させる。
【0058】
磁気軸受制御装置(90)は、第1電流(J1)を前側スラスト磁気軸受ステータ(52)に供給することによって、前側スラスト磁気軸受ステータ(52)とスラスト磁気軸受ロータ(51)との間に、スラスト電磁力(Fx)を軸方向(X)の前方(Xa)に作用させて、回転体(A)を軸方向(X)の前方(Xa)に移動させようとする。磁気軸受制御装置(90)は、第1電流(J1)を後側スラスト磁気軸受ステータ(53)に供給することによって、後側スラスト磁気軸受ステータ(53)とスラスト磁気軸受ロータ(51)との間に、スラスト電磁力(Fx)を軸方向(X)の後方(Xb)に作用させて、回転体(A)を軸方向(X)の後方(Xb)に移動させようとする。
【0059】
磁気軸受制御装置(90)は、第2電流(J2)を、ラジアル磁気軸受(40)に供給する。磁気軸受制御装置(90)は、第2電圧(E2)を、ラジアル磁気軸受(40)に印加する。第2電流(J2)と第2電圧(E2)とは、互いに対応する。ラジアル磁気軸受(40)は、磁気軸受制御装置(90)から第2電流(J2)が供給されることによって、ラジアル電磁力(Fr)を、回転体(A)に対して半径方向(R)に作用させる。
【0060】
磁気軸受制御装置(90)は、第2電流(J2)を上側ラジアル磁気軸受ステータ(42)に供給することによって、上側ラジアル磁気軸受ステータ(42)とラジアル磁気軸受ロータ(41)との間に、ラジアル電磁力(Fr)を半径方向(X)の外方且つ鉛直方向(V)の上方(Va)に作用させて、回転体(A)を半径方向(X)の外方且つ鉛直方向(V)の上方(Va)に移動させようとする。磁気軸受制御装置(90)は、第2電流(J2)を下側ラジアル磁気軸受ステータ(43)に供給することによって、下側ラジアル磁気軸受ステータ(43)とラジアル磁気軸受ロータ(41)との間に、ラジアル電磁力(Fr)を半径方向(X)の外方且つ鉛直方向(V)の下方(Vb)に作用させて、回転体(A)を半径方向(X)の外方且つ鉛直方向(V)の下方(Vb)に移動させようとする。
【0061】
磁気軸受制御装置(90)は、第1電流(J1)をスラスト磁気軸受(50)に供給し且つ第2電流(J2)をラジアル磁気軸受(40)に供給する。磁気軸受制御装置(90)は、スラスト電磁力(Fx)及びラジアル電磁力(Fr)を、回転体(A)に対して、軸方向(X)及び半径方向(R)に作用させる。磁気軸受制御装置(90)は、回転体(A)を、軸方向(X)及び半径方向(R)に、磁気浮上制御する。以下、回転体(A)が磁気浮上制御される時を、磁気浮上制御時(L)という場合がある。磁気浮上制御時(L)には、回転体(A)は、前側保護軸受(60)及び後側保護軸受(70)に接触しない。
【0062】
(前側保護軸受に対する回転体の位置調整)
図2は、本実施形態に係る前側保護軸受(60)に対する回転体(A)の位置調整を示す。前側保護軸受(60)を有効に機能させるためには、前側保護軸受(60)に対する回転体(A)の軸方向(X)における位置である第1方向位置(H1)としての軸方向位置(Hx)を、調整(較正)する必要がある。通常、回転体(A)の磁気浮上制御を行う前に、スラスト磁気軸受(50)により回転体(A)に対してスラスト電磁力(Fx)を作用させながら、前側保護軸受(60)に対する回転体(A)の軸方向(X)における軸方向位置(Hx)を調整する。
【0063】
以下、前側保護軸受(60)に対する回転体(A)の軸方向位置(Hx)を調整する時を、位置調整時(Q)という場合がある。図2では、軸方向位置(Hx)を、シャフト(20)の凹部(21)における前側面(21b)と前側保護軸受(60)の前面(62)との距離にて、表現した。
【0064】
位置調整時(Q)において、モータ(30)を停止する。位置調整時(Q)において、前側保護軸受(60)に対する回転体(A)の軸方向位置(Hx)を、調整する。具体的には、位置調整時(Q)において、シャフト(20)の凹部(21)における後側面(21c)が前側保護軸受(60)の後面(63)に接触したときの回転体(A)の位置と、シャフト(20)の凹部(21)における前側面(21b)が前側保護軸受(60)の前面(62)に接触したときの回転体(A)の位置と、の中間位置に、回転体(A)を位置付ける。位置調整時(Q)において、磁気軸受制御装置(90)には、軸位置センサ(81)の検出値が入力される。
【0065】
位置調整時(Q)において、スラスト磁気軸受(50)によって回転体(A)に対して軸方向(X)にスラスト電磁力(Fx)を作用させて、回転体(A)を移動させる。位置調整時(Q)において、回転体(A)に大きなスラスト電磁力(Fx)を作用させると、回転体(A)に大きな加速度がつき、回転体(A)の速度(U)が増大する。その結果、回転体(A)が大きな運動量を持った状態で前側保護軸受(60)に対して接触してしまい、回転体(A)との接触によって前側保護軸受(60)やその固定部品(例えば止め輪など)が破損してしまうことがある。具体的には、位置調整時(Q)において、シャフト(20)の凹部(21)における後側面(21c)が前側保護軸受(60)の後面(63)に強く接触したり、シャフト(20)の凹部(21)における前側面(21b)が前側保護軸受(60)の前面(62)に強く接触したりする。
【0066】
本実施形態では、後述する手法によって、磁気軸受装置(10)において、前側保護軸受(60)に対する回転体(A)の軸方向位置(Fx)を調整するための位置調整時(Q)に、回転体(A)との接触により前側保護軸受(60)やその固定部品が破損するのを抑制する。
【0067】
(回転体に作用する合力)
以下、ラジアル磁気軸受(40)及びスラスト磁気軸受(50)のいずれにも電流(J1,J2)を供給しない状態で回転体(A)に作用する全ての力の合計を、合力(W)という。合力(W)は、主に、重力及び磁化力で構成される。重力は、回転体(A)に対して、半径方向(R)の外方且つ鉛直方向(V)の下方(Vb)に作用する。
【0068】
磁化力は、主に、モータロータ(31)とモータステータ(32)との間、ラジアル磁気軸受ロータ(41)と上側ラジアル磁気軸受ステータ(42)との間、ラジアル磁気軸受ロータ(41)と下側ラジアル磁気軸受ステータ(43)との間、スラスト磁気軸受ロータ(51)と前側スラスト磁気軸受ステータ(52)との間、及びスラスト磁気軸受ロータ(51)と後側スラスト磁気軸受ステータ(53)との間に、作用する。
【0069】
磁化力は、モータロータ(31)、モータステータ(32)、磁気軸受ロータ(41,51)及び磁気軸受ステータ(42,43,52,53)の材料である磁性材料に磁場をかけた後、磁場をゼロにしても磁性材料に残留する磁束密度によって生じるものであり、磁気軸受(40,50)やモータ(30)に電流(J1,J2)を供給しない状態でも作用する。磁化力は、回転体(A)に対して、軸方向(X)、半径方向(R)及び周方向(θ)の様々な方向に作用する。
【0070】
合力(W)の中で、重力は、磁化力よりも支配的な場合が多い。本例では、簡単のため、合力(W)は、半径方向(R)の外方且つ鉛直方向(V)の下方(Vb)に作用するとした。
【0071】
(回転体の移動)
本実施形態では、図2に示すように、位置調整時(Q)において、磁気軸受制御装置(90)は、第1電流(J1)をスラスト磁気軸受(50)に供給する一方、第2電流(J2)をラジアル磁気軸受(40)に供給しない。
【0072】
位置調整時(Q)において、ラジアル磁気軸受(40)に第2電流(J2)が供給されないので、回転体(A)に対して半径方向(R)にラジアル電磁力(Fr)が作用しない。位置調整時(Q)において、回転体(A)は、合力(W)によって、半径方向(R)の外方且つ鉛直方向(V)の下方(Vb)に移動しようとして、前側保護軸受(60)の内周面(61)の下側部分及び後側保護軸受(70)の内周面(71)の下側部分に接触する。
【0073】
回転体(A)には、前側保護軸受(60)から前側垂直抗力(N60)が与えられる。回転体(A)には、後側保護軸受(70)から後側垂直抗力(N70)が与えられる。前側垂直抗力(N60)及び後側垂直抗力(N70)は、半径方向(R)の内方且つ鉛直方向(V)の上方(Va)に作用する。前側垂直抗力(N60)と後側垂直抗力(N70)との和である合計垂直抗力(N)は、合力(W)に等しい(N=W)。
【0074】
ここで、第1電流(J1)をスラスト磁気軸受(50)に供給せず且つ第2電流(J2)をラジアル磁気軸受(40)に供給しない時も、同様に、回転体(A)は、合力(W)によって、半径方向(R)の外方且つ鉛直方向(V)の下方(Vb)に移動して、前側保護軸受(60)の内周面(61)及び後側保護軸受(70)の内周面(71)に接触する。第1電流(J1)及び第2電流(J2)の供給を停止した時における停止時合計垂直抗力(N’)は、合力(W)の鉛直方向(V)におけるベクトルの大きさと等しい。
【0075】
本実施形態では、合計垂直抗力(N)は、停止時合計垂直抗力(N’)に等しい(N=N’)。
【0076】
位置調整時(Q)において、磁気軸受制御装置(90)は、先ず、第1電流(J1)をスラスト磁気軸受(50)の前側スラスト磁気軸受ステータ(52)に供給することによって、スラスト電磁力(Fx)を回転体(A)に対して軸方向(X)の前方(Xa)に作用させて、回転体(A)を軸方向(X)の前方(Xa)に移動させようとする。このとき、スラスト磁気軸受(50)の後側スラスト磁気軸受ステータ(53)には、第1電流(J1)が供給されない。
【0077】
スラスト電磁力(Fx)を回転体(A)に対して軸方向(X)の前方(Xa)に作用し且つ回転体(A)が未だ移動しないとき、回転体(A)には、前側保護軸受(60)による前側静止摩擦力(K60)及び後側保護軸受(70)による後側静止摩擦力(K70)が作用する。前側静止摩擦力(K60)及び後側静止摩擦力(K70)は、回転体(A)が移動しようとする方向とは逆方向に、回転体(A)に対して作用する。前側静止摩擦力(K60)と後側静止摩擦力(K70)との和である合計静止摩擦力(K)は、スラスト電磁力(Fx)に等しい。
【0078】
回転体(A)に対して軸方向(X)の前方(Xa)へ作用するスラスト電磁力(Fx)が、合計静止摩擦力(K)の最大値(最大静止摩擦力)を越えると、回転体(A)が軸方向(X)の前方(Xa)に移動して、前側保護軸受(60)に対する回転体(A)の軸方向位置(Hx)が変化する。
【0079】
詳細な説明を省略するが、第1電流(J1)をスラスト磁気軸受(50)の後側スラスト磁気軸受ステータ(53)に供給して、回転体(A)を軸方向(X)の後方(Xb)に移動させるときも、同様である。なお、以下の説明において、第1電流(J1)をスラスト磁気軸受(50)の前側スラスト磁気軸受ステータ(52)に供給することを、単に、第1電流(J1)をスラスト磁気軸受(50)に供給すると、いう場合がある。
【0080】
(前側保護軸受の破損の抑制)
図3は、本実施形態に係る前側保護軸受(60)やその固定部品の破損を抑制するための手法をフローチャートで示す。図4は、本実施形態に係る前側保護軸受(60)やその固定部品の破損を抑制するための手法をグラフで示す。図4において、横軸は時刻(t)であって単位が例えば[s]、縦軸は第1電流(J1)の値であって単位が例えば[A]である。
【0081】
図4に示すように、本実施形態では、スラスト磁気軸受(50)に対して供給される第1電流(J1)は、ランプ状である。第1電流(J1)では、複数のランプ波(J1p)が連続して形成される。各ランプ波(J1p)の時間当たりの電流増加率(α)は、一定である。本例では、ランプ波(J1p)は、三角波である。各ランプ波(J1p)は、増大したり低減したりする。第1電流(J1)は、ランプ波(J1p)毎に、所定値(J1v)を有する。
【0082】
図3に示すように、磁気軸受制御装置(90)は、第1動作(M1)と、第2動作(M2)と、を繰り返し実行する。第1動作(M1)では、所定値(J1v)の第1電流(J1)をスラスト磁気軸受(50)に対して供給してから、回転体(A)の軸方向位置(Hx)を参照(確認)することなく、スラスト磁気軸受(50)に対する第1電流(J1)の供給を直ぐに停止する。
【0083】
第2動作(M2)では、スラスト磁気軸受(50)に対する第1電流(J1)の供給前から回転体(A)の軸方向位置(Hx)が変化しない場合に、所定値(J1v)を増大する。第2動作(M2)では、スラスト磁気軸受(50)に対する第1電流(J1)の供給前から回転体(A)の軸方向位置(Hx)が変化した場合に、所定値(Jv1)を低減する。
【0084】
図3に示すように、スタートから出発して、第1ステップ(S1)において、第1電流(J1)の所定値(J1v)を、初期値に設定する。具体的には、第1ステップ(S1)において、第1電流(J1)の所定値(J1v)を、第1所定値(J1v1)に設定する。図4に示すように、第1所定値(J1v1)は、第1ランプ波(J1p1)の最大値に対応する。第1所定値(J1v1)は、ゼロよりも大きな所定値(J1v)の中で、最小である。以下、所定値(J1v)は、同じ番号のランプ波(J1p)の最大値に対応するものとする。所定値(J1v)は、番号が大きいほど大きいものとする。
【0085】
第2ステップ(S2)及び第3ステップ(S3)において、第1動作(M1)を行う。第2ステップ(S2)では、第1動作(M1)の一部として、第1電流(J1)を、ランプ波(J1p)によって、スラスト磁気軸受(50)に対して供給する。具体的には、第2ステップ(S2)では、第1動作(M1)の一部として、第1所定値(J1v1)の第1電流(J1)を、第1ランプ波(J1p1)によって、スラスト磁気軸受(50)に対して供給する。
【0086】
第3ステップ(S3)では、第1動作(M1)の一部として、回転体(A)の軸方向位置(Hx)を参照することなく、スラスト磁気軸受(50)に対する第1電流(J1)(第1ランプ波(J1p1))の供給を直ぐに停止する。
【0087】
第4ステップ(S4)~第6ステップ(S6)において、第2動作(M2)を行う。第4ステップ(S4)では、第2動作(M2)の一部として、直前の第1電流(J1)(第1ランプ波(J1p1))の供給前と比較して、回転体(A)の軸方向位置(Hx)が変化したか否かを判定する。なお、回転体(A)の軸方向位置(Hx)の変化は、軸位置センサ(81)の検出値に基づいて検出される。
【0088】
第4ステップ(S4)において回転体(A)の軸方向位置(Hx)が変化しないと判定された場合、第5ステップ(S5)に進む。第5ステップ(S5)では、第2動作(M2)の一部として、第1電流(J1)の所定値(J1v)を、増大する。具体的には、第5ステップ(S5)では、第1電流(J1)の所定値(J1v)を、第1所定値(J1v1)から第2所定値(J1v2)に増大する。第2所定値(J1v2)は、第2ランプ波(J1p2)の最大値に対応する。第5ステップ(S5)において第1電流(J1)の所定値(J1v)を増大させると、第2ステップ(S2)に戻る。
【0089】
以下、直前の第1電流(J1)の供給前と比較して、回転体(A)の軸方向位置(Hx)が変化するまで、第2ステップ(S2)から第5ステップ(S5)までを繰り返す。
【0090】
第2ステップ(S2)から第5ステップ(S5)までを繰り返すことによって、第1電流(J1)の所定値(J1v)は、第3所定値(J1v3)まで増大したとする(図4参照)。第3所定値(J1v3)は、第3ランプ波(J1p3)の最大値に対応する。
【0091】
第2ステップ(S2)において、第1動作(M1)の一部として、第3所定値(J1v3)の第1電流(J1)を、第3ランプ波(J1p3)によって、スラスト磁気軸受(50)に対して供給する。第3ステップ(S3)において、第1動作(M1)の一部として、回転体(A)の軸方向位置(Hx)を参照することなく、スラスト磁気軸受(50)に対する第1電流(J1)(第3ランプ波(J1p3))の供給を直ぐに停止する。
【0092】
第4ステップ(S4)では、第2動作(M2)の一部として、直前の第1電流(J1)(第3ランプ波(J1p3))の供給前と比較して、回転体(A)の軸方向位置(Hx)が変化したか否かを判定する。
【0093】
第4ステップ(S4)において回転体(A)の軸方向位置(Hx)が変化したと判定された場合、第6ステップ(S6)に進む。第6ステップ(S6)では、第2動作(M2)の一部として、第1電流(J1)の所定値(J1v)を、低減する。具体的には、第6ステップ(S6)では、第1電流(J1)の所定値(J1v)を、第3所定値(J1v3)から、初期値としての第1所定値(J1v1)に低減する。第1所定値(J1v1)は、第1ランプ波(J1p1)の最大値に対応する。第6ステップ(S6)において第1電流(J1)の所定値(J1v)を低減させると、第7ステップ(S7)に進む。
【0094】
第7ステップ(S7)では、回転体(A)が前側保護軸受(60)に接触したか否かを判定する。例えば、第7ステップ(S7)において、シャフト(20)の凹部(21)における後側面(21c)が前側保護軸受(60)の後面(63)に接触したか否かを判定する。例えば、回転体(A)と前側保護軸受(60)との接触は、軸位置センサ(81)の検出値に基づいて検出される。
【0095】
第7ステップ(S7)において回転体(A)が前側保護軸受(60)に接触していないと判定されると、第2ステップ(S2)に戻る。第7ステップ(S7)において回転体(A)が前側保護軸受(60)に接触したと判定されると、エンドに至る。
【0096】
磁気軸受制御装置(90)は、第1動作(M1)(第2ステップ(S2)及び第3ステップ(S3))と第2動作(M2)(第4ステップ(S4)~第6ステップ(S6))とを繰り返し実行する。位置調整時(Q)において、磁気軸受制御装置(90)は、回転体(A)と前側保護軸受(60)との接触時における回転体(A)の速度(U)を抑制するように、スラスト磁気軸受(50)に対する第1電流(J1)の供給を制御する。
【0097】
(作用効果)
本実施形態によれば、磁気軸受制御装置(90)は、前側保護軸受(60)に対する回転体(A)の軸方向位置(Hx)の位置調整時(Q)に、回転体(A)と前側保護軸受(60)との接触時における回転体(A)の速度(U)が抑制される。磁気軸受装置(10)において、前側保護軸受(60)に対する回転体(A)の軸方向位置(Hx)の位置調整時(Q)に、前側保護軸受(60)やその固定部品が破損するの抑制することができる。
【0098】
第1動作(M1)と第2動作(M2)とが繰り返し実行されることによって、前側保護軸受(60)に対する回転体(A)の軸方向位置(Hx)が小刻みに変化する。回転体(A)と前側保護軸受(60)との接触時における回転体(A)の速度(U)を抑制する上で、より有利になる。
【0099】
特に本実施形態によれば、第1動作(M1)において回転体(A)の軸方向位置(Hx)を参照しないので、回転体(A)の軸方向位置(Hx)の変化を、より小刻みにすることができる。
【0100】
<第2実施形態>
図5は、第2実施形態に係る図3相当図であって、前側保護軸受(60)やその固定部品の破損を抑制するための手法をフローチャートで示す。図6は、第2実施形態に係る図4相当図であって、前側保護軸受(60)やその固定部品の破損を抑制するための手法をグラフで示す。図6において、破線は第1パターン(P1)、実線は第2パターン(P2)を示す。なお、以下の第2実施形態の説明において、上記実施形態と同様の構成については、同じ符号を付し、詳細な説明を省略する場合がある。
【0101】
図5,6に示すように、磁気軸受制御装置(90)は、第3動作(M3)と、第4動作(M4)と、を実行する。第3動作(M3)では、前側保護軸受(60)に対する回転体(A)の軸方向位置(Hx)の変化を検出するまで、スラスト磁気軸受(50)に対する第1電流(J1)を増大させる。第4動作(M4)では、前側保護軸受(60)に対する回転体(A)の軸方向位置(Hx)の変化を検出した後に、スラスト磁気軸受(50)に対する第1電流(J1)をゼロよりも大きな範囲で低減する。
【0102】
図6に示すように、第3動作(M3)及び第4動作(M4)は、第1パターン(P1)及び第2パターン(P2)の2種類ある。
【0103】
具体的には、図5に示すように、スタートから出発して、第1ステップ(G1)において、第1電流(J1)を、ゼロに設定する。
【0104】
第2ステップ(G2)において、第3動作(M3)を行う。第2ステップ(G2)において、第3動作(M3)として、第1電流(J1)を増大させる。第1電流(J1)は、例えばランプ状に増大する。
【0105】
第3ステップ(G3)において、回転体(A)の軸方向位置(Hx)の変化を検出する。第3ステップ(G3)において、回転体(A)の軸方向位置(Hx)が変化したか否かを判定する。
【0106】
第3ステップ(G3)において回転体(A)の軸方向位置(Hx)が変化していないと判定された場合、第2ステップ(G2)に戻る。第3ステップ(G3)において回転体(A)の軸方向位置(Hx)が変化したと判定された場合、第4ステップ(G4)に進む。
【0107】
第4ステップ(G4)において、第4動作(M4)を行う。第4ステップ(G4)において、第4動作(M4)として、第1電流(J1)を、ゼロよりも大きな範囲で低減する。そして、エンドに至る。
【0108】
図6に破線に示すように、第1パターン(P1)では、第4動作(M4)は、スラスト磁気軸受(50)に対する第1電流(J1)を、ゼロよりも大きな所定値(J1v)まで低減する。所定値(J1v)は、ゼロよりも大きな一定の値である。
【0109】
図6に実線で示すように、第2パターン(P2)では、第4動作(M4)は、回転体(A)の軸方向(X)への移動の速度(U)が一定になるように(軸方向位置(Hx)の変化率が一定になるように)、スラスト磁気軸受(50)に対する第1電流(J1)を、低減する。
【0110】
図6に示すように、第1パターン(P1)及び第2パターン(P2)では、磁気軸受制御装置(90)は、第3動作(M3)において、回転体(A)を磁気浮上制御する場合(磁気浮上制御時(L))における最大電流変化率(δ’a)(二点鎖線参照)よりも小さな電流変化率(δa)にて、位置調整時(Q)に、スラスト磁気軸受(50)に対して第1電流(J1)を供給する。
【0111】
図6に示すように、第1パターン(P1)及び第2パターン(P2)では、磁気軸受制御装置(90)は、第4動作(M4)において、スラスト磁気軸受(50)に対して印加する第1電圧(E1)の極性を反転してから、スラスト磁気軸受(50)に対する第1電流(J1)の供給を停止する。スラスト磁気軸受(50)に対して印加する第1電圧(E1)の極性を反転することによって、第1電圧(E1)の極性を反転しなかった場合における電流変化率(δ’b)(二点鎖線参照)よりも(絶対値として)大きな電流変化率(δb)にて、スラスト磁気軸受(50)に対する第1電流(J1)が低減する。
【0112】
その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0113】
本実施形態によれば、スラスト磁気軸受(50)に対する第1電流(J1)をゼロよりも大きな範囲で低減するので、回転体(A)の移動を停止させることなく、回転体(A)と前側保護軸受(60)との接触時における回転体(A)の速度(U)を抑制することができる。
【0114】
第1電流(J1)を所定値(J1v)にすることによって、接触時における回転体(A)の速度(U)を抑制することが容易になる。
【0115】
回転体(A)の軸方向(X)への移動の速度(U)が一定になるように、スラスト磁気軸受(50)に対する第1電流(J1)を低減するので、回転体(A)の軸方向(X)への移動を停止させることなく、回転体(A)と前側保護軸受(60)との接触時における回転体(A)の速度(U)を抑制できる。
【0116】
位置調整時(Q)における増大時の電流変化率(δa)を小さくすることによって、スラスト磁気軸受(50)に対する第1電流(J1)が急激に増大することが抑制されるので、回転体(A)が軸方向(X)に急速に移動することを抑制することができる。
【0117】
スラスト磁気軸受(50)に対して印加する第1電圧(E1)の極性を反転することによって、第1電圧(E1)の極性を反転しなかった場合における電流変化率(δ’b)よりも(絶対値として)大きな電流変化率(δb)にて、スラスト磁気軸受(50)に対する第1電流(J1)を低減することができる。回転体(A)の軸方向(X)への移動の速度(U)を抑制する上で、有利になる。
【0118】
<第3実施形態>
図7は、第3実施形態に係る図2相当図であって、前側保護軸受(60)に対する回転体(A)の位置調整を示す。以下の第3実施形態の説明において、上記実施形態と同様の構成については、同じ符号を付し、詳細な説明を省略する場合がある。
【0119】
本実施形態では、図7に示すように、位置調整時(Q)において、磁気軸受制御装置(90)は、第1電流(J1)をスラスト磁気軸受(50)に供給するとともに、第2電流(J2)をラジアル磁気軸受(40)にも供給する。特に、磁気軸受制御装置(90)は、第2電流(J2)をラジアル磁気軸受(40)の上側ラジアル磁気軸受ステータ(42)に供給する一方、第2電流(J2)をラジアル磁気軸受(40)の下側ラジアル磁気軸受ステータ(43)には供給しない。
【0120】
磁気軸受制御装置(90)には、軸位置センサ(81)の検出値及び半径位置センサ(82)の検出値が入力される。
【0121】
ラジアル磁気軸受(40)の上側ラジアル磁気軸受ステータ(42)に第2電流(J2)が供給されるので、回転体(A)に対して半径方向(R)の外方且つ鉛直方向(V)の上方(Va)にラジアル電磁力(Fr)が作用する。一方、回転体(A)には、半径方向(R)の外方且つ鉛直方向(V)の下方(Vb)に、合力(W)が作用する。
【0122】
磁気軸受制御装置(90)は、ラジアル磁気軸受(40)による回転体(A)に対する半径方向(R)の外方且つ鉛直方向(V)の上方(Va)へのラジアル電磁力(Fr)が、回転体(A)に対する半径方向(R)の外方且つ鉛直方向(V)の下方(Vb)への合力(W)よりも小さくなるように、第2電流(J2)をラジアル磁気軸受(40)に供給する。
【0123】
下方(Vb)への合力(W)が上方(Va)へのラジアル電磁力(Fr)よりも大きいので、回転体(A)は、前側保護軸受(60)の内周面(61)の下側部分及び後側保護軸受(70)の内周面(71)の下側部分に接触する。
【0124】
回転体(A)には、前側保護軸受(60)から前側垂直抗力(N60)が与えられる。回転体(A)には、後側保護軸受(70)から後側垂直抗力(N70)が与えられる。前側垂直抗力(N60)及び後側垂直抗力(N70)は、半径方向(R)の内方且つ鉛直方向(V)の上方(Va)に作用する。
【0125】
位置調整時(Q)において、前側垂直抗力(N60)と後側垂直抗力(N70)との和である合計垂直抗力(N)は、合力(W)からラジアル電磁力(Fr)を引いた値に、等しい(N=W-Fr)。
【0126】
本実施形態では、合計垂直抗力(N)は、第1電流(J1)及び第2電流(J2)の供給を停止した時の停止時合計垂直抗力(N’)よりも、小さい(N<N’)。
【0127】
回転体(A)には、前側保護軸受(60)による前側静止摩擦力(K60)及び後側保護軸受(70)による後側静止摩擦力(K70)が作用する。前側静止摩擦力(K60)及び後側静止摩擦力(K70)は、回転体(A)が移動しようとする方向とは逆方向に、回転体(A)に対して作用する。前側静止摩擦力(K60)と後側静止摩擦力(K70)との和である合計静止摩擦力(K)は、スラスト電磁力(Fx)に等しい。
【0128】
磁気軸受制御装置(90)は、前側保護軸受(60)及び後側保護軸受(70)による回転体(A)に対する合計垂直抗力(N)が、第1電流(J1)及び第2電流(J2)の供給を停止した時の停止時合計垂直抗力(N’)よりも、小さく且つゼロよりも大きな範囲となるように、ラジアル磁気軸受(40)に第2電流(J2)を供給する。回転体(A)は、磁気浮上しない。
【0129】
その他の構成は、第1実施形態及び第2実施形態と同様である。
【0130】
本実施形態によれば、回転体(A)は、前側保護軸受(60)の内周面(61)及び後側保護軸受(70)の内周面(71)に接触する。前側保護軸受(60)及び後側保護軸受(70)による回転体(A)に対する合計垂直抗力(N)が、第1電流(J1)及び第2電流(J2)の供給を停止した時よりも小さくなるため、第1電流(J1)を供給し回転体(A)の移動を開始するとき、回転体(A)に作用する最大静止摩擦力を小さくすることができる。
【0131】
その結果、回転体(A)に作用させるスラスト電磁力(Fx)を小さくすることができ、軸方向(X)への急速な移動が抑制されるので、回転体(A)と前側保護軸受(60)との接触時における回転体(A)の速度(U)を抑制する上で有利になる。
【0132】
<第4実施形態>
図8は、第4実施形態に係る図2相当図であって、前側保護軸受(60)に対する回転体(A)の位置調整を示す。以下の第4実施形態の説明において、上記実施形態と同様の構成については、同じ符号を付し、詳細な説明を省略する場合がある。
【0133】
本実施形態では、図8に示すように、位置調整時(Q)において、回転体(A)の軸方向位置(Hx)が変化した後、磁気軸受制御装置(90)は、ラジアル磁気軸受(40)の上側ラジアル磁気軸受ステータ(42)に対する第2電流(J2)の供給を停止する一方、ラジアル磁気軸受(40)の下側ラジアル磁気軸受ステータ(43)に対して第2電流(J2)を供給する。
【0134】
回転体(A)に対して半径方向(R)の外方且つ鉛直方向(V)の下方(Vb)にラジアル電磁力(Fr)及び合力(W)が作用する。回転体(A)は、前側保護軸受(60)の内周面(61)の下側部分及び後側保護軸受(70)の内周面(71)の下側部分に接触する。
【0135】
回転体(A)には、前側保護軸受(60)から前側垂直抗力(N60)が与えられる。回転体(A)には、後側保護軸受(70)から後側垂直抗力(N70)が与えられる。前側垂直抗力(N60)及び後側垂直抗力(N70)は、半径方向(R)の内方且つ鉛直方向(V)の上方(Va)に作用する。
【0136】
位置調整時(Q)において、前側垂直抗力(N60)と後側垂直抗力(N70)との和である合計垂直抗力(N)は、合力(W)とラジアル電磁力(Fr)との和に等しい(N=W+Fr)。
【0137】
本実施形態では、合計垂直抗力(N)は、第1電流(J1)及び第2電流(J2)の供給を停止した時の停止時合計垂直抗力(N’)よりも、大きい(N>N’)。
【0138】
回転体(A)には、前側保護軸受(60)による前側動摩擦力(Kv60)及び後側保護軸受(kv70)による後側動摩擦力(Kv70)が作用する。前側動摩擦力(Kv60)及び後側動摩擦力(Kv70)は、回転体(A)が移動する方向とは逆方向に、回転体(A)に対して作用する。前側動摩擦力(Kv60)と後側動摩擦力(Kv70)との和である合計動摩擦力(Kv)は、スラスト電磁力(Fx)に等しい。
【0139】
磁気軸受制御装置(90)は、回転体(A)の軸方向位置(Hx)を変化させた後に、前側保護軸受(60)及び後側保護軸受(70)による回転体(A)に対する合計垂直抗力(N)が、第1電流(J1)及び第2電流(J2)の供給を停止した時の停止時合計垂直抗力(N’)よりも、大きくなるように、ラジアル磁気軸受(40)に第2電流(J2)を供給する。
【0140】
その他の構成は、第3実施形態と同様である。
【0141】
本実施形態によれば、回転体(A)の軸方向位置(Hx)を変化させた後に、前側保護軸受(60)及び後側保護軸受(70)による回転体(A)に対する合計垂直抗力(N)を大きくすることによって、回転体(A)に作用する合計動摩擦力(Kv)を大きくすることができる。回転体(A)の軸方向(X)への急速な移動が抑制されて、回転体(A)と前側保護軸受(60)との接触時における回転体(A)の速度(U)を抑制する上で有利になる。
【0142】
<第5実施形態>
図9は、第5実施形態に係る図2相当図であって、前側保護軸受(60)に対する回転体(A)の位置調整を示す。以下の第5実施形態の説明において、上記実施形態と同様の構成については、同じ符号を付し、詳細な説明を省略する場合がある。
【0143】
本実施形態では、図9に示すように、位置調整時(Q)において、磁気軸受制御装置(90)は、第1電流(J1)をスラスト磁気軸受(50)に供給するとともに、第2電流(J2)をラジアル磁気軸受(40)にも供給する。
【0144】
特に、磁気軸受制御装置(90)は、第2電流(J2)をラジアル磁気軸受(40)の上側ラジアル磁気軸受ステータ(42)に供給してもよいし、第2電流(J2)をラジアル磁気軸受(40)の下側ラジアル磁気軸受ステータ(43)に供給してもよい。また、磁気軸受制御装置(90)は、第1電流(J1)をスラスト磁気軸受(50)の前側スラスト磁気軸受ステータ(52)に供給するのみならず、第1電流(J1)をスラスト磁気軸受(50)の後側スラスト磁気軸受ステータ(53)に供給してもよい。
【0145】
磁気軸受制御装置(90)は、回転体(A)を周方向(θ)に振動させるように、スラスト磁気軸受(50)に対して第1電流(J1)を供給する、又はラジアル磁気軸受(40)に対して第2電流(J2)を供給する。
【0146】
その他の構成は、第3実施形態及び第4実施形態と同様である。
【0147】
本実施形態によれば、回転体(A)に発生する摩擦が静摩擦から動摩擦になるため、スラスト磁気軸受(50)に対して第1電流(J1)を供給し回転体(A)の移動を開始するとき、回転体(A)に作用する摩擦力を小さくすることができる。その結果、回転体(A)に作用させるスラスト電磁力(Fx)を小さくすることができる。回転体(A)の軸方向(X)への急速な移動が抑制されるので、回転体(A)と前側保護軸受(60)との接触時における回転体(A)の速度(U)を抑制する上で有利になる。
【0148】
<第6実施形態>
図10は、第6実施形態に係る図2相当図であって、後側保護軸受(70)に対する回転体(A)の位置調整を示す。以下の第6実施形態の説明において、上記実施形態と同様の構成については、同じ符号を付し、詳細な説明を省略する場合がある。
【0149】
磁気軸受装置(10)は、第1磁気軸受(B1)としてのラジアル磁気軸受(40)と、第2磁気軸受(B2)としてのスラスト磁気軸受(50)と、第1保護軸受(C1)及び第2保護軸受(C2)としての前側保護軸受(60)と、第1保護軸受(C1)としての後側保護軸受(70)と、を備える。
【0150】
シャフト(20)の軸心(O)は、鉛直方向(V)に延びる。シャフト(20)の軸心(O)の延びる方向を、第2方向(D2)としての軸方向(X)という。シャフト(20)の軸方向(X)に対して直交する方向を、第1方向(D1)としての半径方向(R)という。軸方向(X)の前方(Xa)は、鉛直方向(V)の下方(Vb)に対応する。軸方向(X)の後方(Xb)は、鉛直方向(V)の上方(Va)に対応する。
【0151】
磁気軸受制御装置(90)は、第2電流(J2)を、スラスト磁気軸受(50)に供給する。磁気軸受制御装置(90)は、第2電圧(E2)を、スラスト磁気軸受(50)に印加する。スラスト磁気軸受(50)は、磁気軸受制御装置(90)から第2電流(J2)が供給されることによって、第2電磁力(F2)としてのスラスト電磁力(Fx)を、回転体(A)に対して軸方向(X)に作用させる。
【0152】
磁気軸受制御装置(90)は、第1電流(J1)を、ラジアル磁気軸受(40)に供給する。磁気軸受制御装置(90)は、第1電圧(E1)を、ラジアル磁気軸受(40)に印加する。ラジアル磁気軸受(40)は、磁気軸受制御装置(90)から第1電流(J1)が供給されることによって、第1電磁力(F1)としてのラジアル電磁力(Fr)を、回転体(A)に対して半径方向(R)に作用させる。
【0153】
後側保護軸受(70)に対する回転体(A)の半径方向(R)における位置を、第1方向位置(H1)としての半径方向位置(Hr)という。後側保護軸受(70)に対して回転体(A)の半径方向位置(Hr)を調整する時を、位置調整時(Q)という。図10では、半径方向位置(Hr)を、シャフト(20)の外周面(20a)と後側保護軸受(70)の内周面(71)との距離にて、表現した。
【0154】
重力及び磁化力で主に構成された合力(W)は、軸方向(X)の前方(Xa)且つ鉛直方向(V)の下方(Vb)に作用する。位置調整時(Q)において、回転体(A)は、合力(W)によって、軸方向(X)の前方(Xa)且つ鉛直方向(V)の下方(Vb)に移動しようとする。位置調整時(Q)において、回転体(A)におけるシャフト(20)の凹部(21)の後側面(21c)は、前側保護軸受(60)の後面(63)に接触する。
【0155】
回転体(A)には、前側保護軸受(60)から前側垂直抗力(N60)が与えられる。前側垂直抗力(N60)は、軸方向(X)の後方(Xb)且つ鉛直方向(V)の上方(Va)に作用する。前側垂直抗力(N60)は、合計垂直抗力(N)に等しい。合計垂直抗力(N)は、合力(W)に等しい。
【0156】
位置調整時(Q)において、磁気軸受制御装置(90)は、第1電流(J1)をラジアル磁気軸受(40))に供給することによって、ラジアル電磁力(Fr)を回転体(A)に対して半径方向(R)に作用させて、回転体(A)を半径方向(R)に移動させようとする。
【0157】
ラジアル電磁力(Fr)を回転体(A)に対して半径方向(R)に作用し且つ回転体(A)が未だ移動しないとき、回転体(A)には、前側保護軸受(60)による前側静止摩擦力(K60)が作用する。前側静止摩擦力(K60)は、合計静止摩擦力(K)に等しい。合計静止摩擦力(K)は、ラジアル電磁力(Fr)に等しい。
【0158】
回転体(A)に対して半径方向(R)へ作用するラジアル電磁力(Fr)が、合計静止摩擦力(K)の最大値(最大静止摩擦力)を越えると、回転体(A)が半径方向(R)に移動して、後側保護軸受(70)に対する回転体(A)の半径方向位置(Hr)が変化する。
【0159】
位置調整時(Q)において、磁気軸受制御装置(90)は、回転体(A)と後側保護軸受(70)との接触時における回転体(A)の速度(U)を抑制するように、ラジアル磁気軸受(40)に対する第1電流(J1)の供給を制御する。
【0160】
<その他の実施形態>
第1実施形態において、ランプ波(J1p)は、三角波ではなく、例えばノコギリ波でもよい。また、第1実施形態において、第1電流(J1)は、ランプ波(J1p)で形成されるのではなく、例えば正弦波で形成されてもよい。
【0161】
第1実施形態において、第2動作(M2)では、第1電流(J1)の所定値(J1v)を、初期値(第1所定値(J1v1))まで低減する必要は無く、直前の所定値(J1v)に対して一段階のみ低減するのでもよい。
【0162】
ラジアル磁気軸受(40)として、ベアリングレスモータ(シャフト(20)を非接触で支持する機能を有するモータ)の支持機構を用いてもよい。
【0163】
スラスト磁気軸受ロータ(51)を、前側スラスト磁気軸受ロータと後側スラスト磁気軸受ロータとに分けてもよい。その場合、前側スラスト磁気軸受ステータ(52)及び前側スラスト磁気軸受ロータは、モータ(30)に対して軸方向(X)におけるインペラ(3)側(前側(Xa))に配置され、後側スラスト磁気軸受ステータ(53)及び後側スラスト磁気軸受ロータは、モータ(30)に対して軸方向(X)におけるインペラ(3)側とは反対側(後側(Xb))に配置される。
【0164】
センサレス方式(位置センサ(81,82)を使用せずにシャフト(20)の位置検出を行う方式)の場合には、位置センサ(81,82)は、省略されてもよい。
【0165】
磁気軸受装置(10)(ターボ圧縮機(1))におけるシャフト(20)の軸心(O)は、第1~第5実施形態のように、水平方向に延びてもよいし、第6実施形態のように、鉛直方向(V)に延びてもよい。また、シャフト(20)の軸心(O)は、水平方向(又は鉛直方向(V))に対して、90度未満の角度で傾いてもよい。
【0166】
上記実施形態では、磁気軸受装置(10)(ターボ圧縮機(1))の構成部品の配置について、インペラ(3)をシャフト(20)の軸方向(X)における前側(Xa)の端部に配置し、インペラ(3)から、軸方向(X)における後側(Xb)に向かって、スラスト磁気軸受(50)、前側保護軸受(60)、ラジアル磁気軸受(40)、半径位置センサ(82)、モータ(30)、ラジアル磁気軸受(40)、半径位置センサ(82)、後側保護軸受(70)、軸位置センサ(81)の順に配置したが、これに限定されない。例えば、スラスト磁気軸受(50)は、軸方向(X)におけるインペラ(3)側(前側(Xa))とは反対側(後側(Xb))の端部に配置されてもよい。その他の構成部品も、同様に、任意に配置されてよい。
【0167】
インペラ(3)は、1つに限定されるものではなく、2つ以上あってもよい。また、インペラ(3)の取付位置は、シャフト(20)の前端部に限定されるものではなく、シャフト(20)の後端部や、シャフト(20)の端部以外であってもよい。例えば、2つのインペラ(3)がシャフト(20)の前端部に連続して取り付けられてもよいし、2つのインペラ(3)がシャフト(20)の前端部と後端部とに1つずつ取り付けられてもよい。
【0168】
モータ(30)は、シャフト(20)に対して2つ以上あってもよい。
【0169】
1つの保護軸受(C1,C2)が、第1保護軸受(C1)及び第2保護軸受(C2)の両方の機能を兼ねなくてもよい。その場合、スラスト磁気軸受(50)との接触を抑制する1つの保護軸受(C1,C2)と、ラジアル磁気軸受(40)との接触を抑制する2つの保護軸受(C1,C2)と、を用意するのが好ましい。
【0170】
磁気軸受制御装置(90)は、磁気軸受装置(10)とは別体でもよい。ターボ機械(1)は、ターボ圧縮機に限定されず、例えばポンプなどでもよい。磁気軸受装置(10)は、ターボ機械(1)以外の回転機械(例えば減速機など)に適用されてもよい。
【0171】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。以上の実施形態、変形例、その他の実施形態に係る要素を適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【符号の説明】
【0172】
A 回転体
B1 第1磁気軸受
B2 第2磁気軸受
C1 第1保護軸受
C2 第2保護軸受
D1 第1方向
D2 第2方向
X 軸方向
R 半径方向
θ 周方向
V 鉛直方向
F1 第1電磁力
F2 第2電磁力
Fx スラスト電磁力
Fr ラジアル電磁力
J1 第1電流
J2 第2電流
E1 第1電圧
E2 第2電圧
H1 第1方向位置
Hx 軸方向位置
Hr 半径方向位置
U 速度
W 合力
N 合計垂直抗力(垂直抗力)
K 合計静止摩擦力
Kv 合計動摩擦力
L 磁気浮上制御時
Q 位置調整時
J1v 所定値
J1p ランプ波
δa 電流変化率
δ’a 最大電流変化率
δb 電流変化率
M1 第1動作
M2 第2動作
M3 第3動作
M4 第4動作
1 ターボ圧縮機(ターボ機械)
2 ハウジング
3 インペラ
10 磁気軸受装置
20 シャフト
30 モータ
40 ラジアル磁気軸受
41 ラジアル磁気軸受ロータ
42 上側ラジアル磁気軸受ステータ
43 下側ラジアル磁気軸受ステータ
50 スラスト磁気軸受
51 スラスト磁気軸受ロータ
52 前側スラスト磁気軸受ステータ
53 後側スラスト磁気軸受ステータ
60 前側保護軸受
70 後側保護軸受
90 磁気軸受制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10