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7587180光導波路デバイスの製造方法および製造システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】光導波路デバイスの製造方法および製造システム
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/136 20060101AFI20241113BHJP
【FI】
G02B6/136
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023501998
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2021007524
(87)【国際公開番号】W WO2022180838
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 慶太
(72)【発明者】
【氏名】太田 雅
(72)【発明者】
【氏名】柳原 藍
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 賢哉
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-206016(JP,A)
【文献】国際公開第2015/111600(WO,A1)
【文献】特開2001-244254(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0216474(US,A1)
【文献】特開2003-232948(JP,A)
【文献】特開2019-060988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12-6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光導波路デバイスの製造方法であって、
ウェハに光導波路のパターンをエッチングする工程よりも前のフォトレジスト現像工程において前記ウェハに形成された前記光導波路のフォトレジストパターンの幅の観察データを取得することであって、前記観察データは、前記フォトレジスト現像工程において前記ウェハに形成されたマーカのレジストパターンの幅の観察データを含み、前記マーカは、前記光導波路中の加工情報を得られる要素構造を模擬した要素を集約したものであり、前記マーカのレジストパターンは、前記ウェハに形成された前記光導波路のフォトレジストパターンと別に前記ウェハに形成したものである、ことと、
前記ウェハの前記取得した観察データに基づいて、前記ウェハに前記光導波路のパターンをエッチングする工程以前の1つまたは複数の工程における1つまたは複数の工程データを調整して、前記光導波路のパターンをエッチングする工程において形成されることになる前記光導波路のコアの幅を調整することと、
を含む、光導波路デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記ウェハに前記光導波路のパターンをエッチングする工程以前の1つまたは複数の工程における1つまたは複数の工程データを調整することは、前記光導波路の前記フォトレジストパターンの幅の前記観察データに基づいて、前記光導波路のパターンをエッチングする工程におけるエッチング条件を調整することを含む、
請求項1に記載の光導波路デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記マーカは、前記光導波路中の加工情報を得られる要素構造を模擬した要素を、異なる複数の角度で配置したもの、または向きまたは角度を異ならせて配置したものである、請求項1に記載の光導波路デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記エッチング条件を調整することは、
前記ウェハに形成された前記フォトレジストパターンの幅が所定値より太いことを条件に、エッチング時間を長くおよび/またはエッチング強度を強くすること、または
前記ウェハに形成された前記フォトレジストパターンの幅が所定値より細いことを条件に、エッチング時間を短くおよび/またはエッチング強度を弱くすること
を含む、請求項2に記載の光導波路デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記ウェハの前記取得した観察データに基づいて、前記光導波路デバイスの特性を予測することをさらに含み、
前記ウェハの前記取得した観察データに基づいて、前記ウェハに前記光導波路のパターンをエッチングする工程以前の1つまたは複数の工程における1つまたは複数の工程データを調整することは、前記光導波路デバイスの前記予測した特性に基づいて、前記ウェハに前記光導波路のパターンをエッチングする工程以前の1つまたは複数の工程における1つまたは複数の工程データを調整することを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の光導波路デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記ウェハに前記光導波路のパターンをエッチングする工程よりも前の前記1つまたは複数の工程は、コア堆積工程を含み、
前記観察データは、前記コア堆積工程において前記ウェハに形成されたコア膜の厚さおよび屈折率の観察データを含み、
前記ウェハの前記取得した観察データに基づいて、前記光導波路デバイスの特性を予測することは、前記コア膜の厚さおよび前記屈折率の観察データに基づいて、前記光導波路のデバイス特性を予測することを含む、請求項5に記載の光導波路デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記光導波路デバイスの特性を予測することは、機械学習システムへ前記ウェハの前記取得した観察データを入力することと、前記機械学習システムからの出力を前記光導波路デバイスの特性とすることを含む、請求項5または6に記載の光導波路デバイスの製造方法。
【請求項8】
プロセッサおよびメモリを備えた光導波路デバイス製造システムであって、
前記メモリは、前記プロセッサに、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法を実行させるプログラムを記録した、光導波路デバイス製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路デバイスに関する。より詳細には、光導波路デバイスの製造方法および製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザ、フォトダイオード、光波長合分波器、光スイッチなどは光ファイバ通信のキーとなる光デバイスである。半導体レーザは、光の発振器として、情報信号を重畳するためのキャリアとなる光波を生成する。フォトダイオードは、光信号の強度を電気信号に変換する素子として動作する。また、アレイ導波路格子に代表される光波長合分波器は、異なる光の波長を合波・分波する素子として波長分割多重通信に用いられる。さらに光スイッチは、光の経路をルーティングする素子としてROADM(Reconfigurable Optical Add/Drop Multiplexing)システムにおいて重要な機能を持つ。これらの光デバイスは、光集積回路として構成され得る。光ファイバ通信においては、伝送媒体である光ファイバはもちろん、光信号処理を行うこれら光デバイスの光集積回路が重要な役割を果たす(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
光集積回路は、一般に基板上に形成された光導波路により構成される。光導波路は、光信号が伝搬するコアとそれを取り囲むクラッドからなる。半導体レーザやフォトダイオードは、InPなどの半導体材料により構成され、アレイ導波路格子や光スイッチは、主に石英ガラスからなる光導波路材料により構成される。
【0004】
図1は、従来技術の光導波路の製造方法を示す図である。ここでは、石英系ガラスからなる石英系平面光波回路を例に典型的な製造工程を説明する。最初に、1:下部クラッド堆積工程において、シリコン基板(ウェハ)11上に下部クラッド12となるガラス膜を堆積する。下部クラッド12は、火炎堆積法(FHD:Flame Hydrolysis Deposition)により堆積されたPやBを添加したSiOからなる。FHD法で堆積されたスート状のガラス粒子を1000℃以上の高温で加熱し、透明な下部クラッド12を得る。次に2:コア堆積工程において、同じくFHD法を用いて、下部クラッド12よりも高い屈折率を有するコア13となる薄膜ガラスを堆積する。コア13の堆積にあたっては、GeOをSiOに添加することにより、所望の屈折率値を得ることができる。1:下部クラッド堆積工程と同様に1000℃以上の高温で加熱し、透明なコア13を形成する。
【0005】
3:フォトレジスト成膜工程において、スピンコートにより基板上にフォトレジスト膜14を成膜する。次に、4:回路パターン露光工程において、フォトマスク15を介してUV光16をフォトレジスト膜に照射することにより、マスクパターンに応じた回路パターンを露光する。そして、5:フォトレジスト現像工程において、フォトレジスト膜の回路パターンを現像し、フォトレジストパターン17を得る。
【0006】
次に、6:エッチング工程において、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)により、フォトレジストパターン17をコアに転写し、コアパターン18を得る。さらに、7:レジスト除去工程において、コア上に残ったフォトレジストをアッシングにより除去する。最後に、8:上部クラッド堆積工程において、上述の1:下部クラッド堆積工程における下部クラッド堆積と同様の方法によって、上部クラッド19を堆積する。
【0007】
上述の製造工程によって得られる光導波路に対して、光回路のパターンサイズや光学特性など種々の検査が行われる。従来、これらの検査結果を製造工程に反映するにあたっては、上述の図1の一連の工程が全て終了した後、それぞれの工程に対して、検査結果を反映した製造条件を設定していた。検査結果のこのような反映方法では、それぞれの工程における製造誤差が累積していく。この累積誤差のため、図1に示した工程の後工程になるほど、各工程で得られる検査結果の精度が低くなり、検査結果の反映が不正確になる問題があった。一工程が終了した時点で得られた検査結果から、当該工程の製造条件を再設定することにより、製造誤差の累積を抑えることもできる。しかしながらこのような反映方法では、製造中のデバイスの特性を補正できない問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】T. Miya, "Silica-based planar lightwave circuits: passive and thermally active devices," in IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics, vol. 6, no. 1, pp. 38-45, Jan.-Feb. 2000, doi: 10.1109/2944.826871
【文献】Marcatili, E. A. J.: “Dielectric Rectangular Waveguide and Directional Coupler for Integrated Optics”, 1969年 Bell Syst. Tech. J., 48, p.2071-2102
【文献】Fundamentals of Optical Waveguides 2版 (2010/8/4), P. 425)
【文献】A. Himeno, K. Kato and T. Miya, "Silica-based planar lightwave circuits," in IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics, vol. 4, no. 6, pp. 913-924, Nov.-Dec. 1998年, doi: 10.1109/2944.736076.
【文献】Hida, Y.; Takato, N.; Jinguji, K.: 'Wavelength division multiplexer with wide passband and stopband for 1.3μm/1.55μm using silica-based planar lightwave circuit', Electronics Letters, 1995年, 31, (16), p. 1377-1379, DOI: 10.1049/el: 19950927
【文献】I. Saraf et al., ”Mask undercut in deep silicon etch”Appl. Phys. Lett. 98, 161502, 2011年, DOI: 10.1063/1.3579542
【発明の概要】
【0009】
光集積回路の検査結果を製造工程へ効果的、効率的に反映させる予測システムが求められている。
【0010】
本発明の1つの実施態様は、光導波路デバイスの製造方法であって、ウェハに光導波路のパターンをエッチングする工程よりも前のフォトレジスト現像工程においてウェハに形成された光導波路のフォトレジストパターンの幅の観察データを取得することであって、観察データは、フォトレジスト現像工程においてウェハに形成されたマーカのレジストパターンの幅の観察データを含み、マーカは、光導波路中の加工情報を得られる要素構造を模擬した要素を集約したものであり、マーカのレジストパターンは、ウェハに形成された光導波路のフォトレジストパターンと別にウェハに形成したものである、ことと、ウェハの取得した観察データに基づいて、ウェハに光導波路のパターンをエッチングする工程以前の1つまたは複数の工程における1つまたは複数の工程データを調整して、光導波路のパターンをエッチングする工程において形成されることになる光導波路のコアの幅を調整することと、を含む。
【0011】
光集積回路の製造工程の品質およびスループットを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】従来技術の典型的な光導波路の製造方法の一連の工程を説明する図である。
図2】実施形態1の光回路の製造方法の概要を示す図である。
図3】実施形態1の一般化したフィードフォワードシステムの図である。
図4】実施形態2のAI予測システムおよび関連データを説明する図である。
図5】実施形態2のAI予測システムで取得される特徴量を説明する図である。
図6】実施形態2の光導波路パターンの画像解析の一例を示す図である
図7】AI予測システムの学習による予測精度改善を説明する図である。
図8】実施形態3のマーカの基本構成を説明する図である。
図9】実施形態3の他のマーカを説明する図である。
図10】実施形態3のマーカを用いた製造工程の補正のフローチャートである。
図11】実施形態3のマーカを用いた予測の例を説明する図である。
図12】実施形態3の第2の実施例のマーカを示す図である。
図13】実施形態3の第3の実施例のマーカを示す図である。
図14】実施形態4の製造工程における光導波路のコア幅補正の例を説明する図である。
図15】実施形態4の製造工程における光導波路のコア幅補正の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明者らは、従来技術の光回路の製造工程における検査結果の反映について、検査結果から得られる情報データの利用方法を新しい視点から見直した。図1に示した従来技術の一連の製造方法では、最終段階の検査結果を得た後で、検査結果に基づいた情報を先行する前の工程にフィードバックしていた。その結果として、最終段階で取得される光特性などの検査結果の値は、各工程における累積的な誤差を含んだものであった。またフィードバックによる工程改善の点でも、直接関係の無い工程へも含めて、累積的な誤差を含んだ情報に基づいて工程条件の変更・調整が成されていた。フィードバック量や精度、フィードバックの行き先やタイミングの点で十分に効果的なものとは言えなかった。
【0014】
しかしながら、ある工程で得られる加工結果の情報、例えばフォトリソグラフィ現像工程で得られるレジストパターン幅の情報を、その現像工程の直後に知ることができれば、後工程であるエッチング工程においてパターン幅の情報を反映することができる。また、コア堆積工程で得られるコアの膜厚や屈折率を、その堆積工程の直後に知ることができれば、後のフォトリソグラフィ現像工程やエッチング工程で形成される光導波路の光学特性を予測することもできる。このように、先行する前工程で得られる光導波路構成要素の特性値を、その前工程中または直後に取得することにより、引き続く後工程の加工条件に反映し、その後工程で得られる光学特性の予測に用いることができる。
【0015】
本開示の一連の発明では、複数の製造工程で得られる工程情報、工程データは、それらの情報、データが得られているその工程中、さらに引き続く次の工程へ「フィードフォワード」される。このようなフィードフォワードによる製造工程の改善は、製造工程のスループットの点でも好都合である。
【0016】
以下の実施形態は、光回路の製造工程で取得できる検査結果・データを、より効率的に精度良く工程に反映できる製造システム、製造方法、製造方法を改善する光回路の構成などについて開示する。本明細書では、特に光回路の光学特性を予測する人工知能(AI:Artificial Intelligence)予測システムに焦点を合わせて説明する。最初に、図面を参照しながら、本開示の光回路の製造方法の基本的概念から説明を始める。
【0017】
[実施形態1]
本実施形態の光回路の製造方法では、製造工程における一工程を実施中に形成され、取得される、光デバイスの構成要素または特性についてのデータに着目する。このデータは、リアルデータまたは現在のデータと言うこともできる。光デバイスの構成要素または特性について計測を行い、その計測して得られたデータに基づいて、後工程の製造条件を調整しまたは補正を行う(以下この方式を「フィードフォワードシステム」とも言う)。フィードフォワードシステムにより、光デバイスの光学特性のばらつきを抑制し、最終的に得られる光デバイスについて所望の光学特性を得ることを可能にする。
【0018】
図2は、本開示の実施形態1に係る光導波路を含む光回路の製造方法を示す図である。フィードフォワードシステムは、一工程で形成される光デバイスの構成要素について「計測」を行い、この計測結果に基づいて光学特性推定処理21によって「光学特性推定」を行う。そして、推定結果に基づき、プロセスコントロール処理22によって後工程のプロセスの「制御」を行う。
【0019】
例えば、図2の下部クラッド堆積工程1で形成される下部クラッド膜の屈折率および厚さ、コア堆積工程2において堆積するコア層の屈折率および厚さを「計測」する。この測定結果に基づいて、標準の(ノミナルの)設計値で作製されたデバイスの最終的な光学特性を推定する。そしてこの推定に基づいて、後工程であるエッチング工程6において、エッチングの強度またはエッチング時間を「制御」する。
【0020】
具体的には、「計測」したコア層の膜厚および屈折率、クラッド膜の屈折率に基づいて、光デバイスとして要求される性能を満たすためのパターンの理想的なコア幅を推定(予測)する。そしてエッチング工程6では、この予測値に基づいてエッチングを行う。例えば、標準の(nominal)設計値では「コア加工後の導波路幅が太く」、所望の性能を満たすことができないという予測情報の場合、エッチング工程で、形成されるコア幅を細くする補正を行う。この時の調整(補正)方法としては、エッチング時間を短く/長くするまたはエッチング強度を弱く/強くすることにより、コア幅を太く/細くする方法がある。さらに、エッチング工程6で形成される導波路のパターンにおけるコアの幅や段差を「計測」することができる。この計測結果に基づき、上部クラッド堆積工程8で形成する上部クラッド膜の屈折率などを「制御」し、最終的に得られる光導波路の光学特性を調整することもできる。
【0021】
上述のように本発実施形態のフィードフォワードシステムは、光デバイスを製造する複数の工程のうち、前工程の工程中あるいはその工程後に、形成された光デバイスの構成要素の形状、特性等を測定する。この測定結果に基づいて、後工程における製造条件を調整または補正を行う。
【0022】
図3は、実施形態1のフィードフォワードシステムを一般化して示した図である。フィードフォワードシステムは、M個の工程からなる光デバイスの製造手順を含み、製造対象物である光デバイスを、工程1、工程2・・・、工程i、・・・工程j、・・・工程Mの順序で実施する。ここで、i<jのとき、工程jは工程iより時間的に後の工程である。フィードフォワードシステムは、計測データ処理部31および制御データ処理部32を含む。計測データ処理部31は、図2で説明した光学特性推定処理21を実行し、制御データ処理部32は、図2で説明したプロセスコントロール処理22を実行する。計測データ処理部31および制御データ処理部32は、CPU、RAM、ROMなどを有して構成されるコンピュータの形態とすることができる。
【0023】
図3のフィードフォワードシステムにおいて、実線は製造対象物の工程に従った流れを示している。また、破線はそれぞれの工程の「計測」によって得られる計測データを、また、一点鎖線はそれぞれの工程に対する「制御」のための制御データを、それぞれ示している。図3のように、本実施形態のフィードフォワードシステムは、工程iで、その工程の製造装置またはその計測装置から計測データを取得し、計測データ処理部31へと転送する。計測データ処理部31は、転送された計測データに基づいて、工程iで形成される光デバイスの構成要素の形状または特性を予測する。また、計測データに基づいて、最終的に得られる光デバイスの光学特性を、工程iにおいて予測することもできる。
【0024】
計測データ処理部31で導出された予測値は、制御データ処理部32に渡される。制御データ処理部32は、予測値に基づいて、後工程である工程jにおける製造条件を求める。制御データ処理部32は、工程jが実施される際に、求めた製造条件に応じて、製造装置に設定する工程j用の制御データを供給する。後工程jを実施する際に供給される、前工程に基づく制御データは、前工程iに基づく制御データのみであっても良いし、前工程のいくつかに基づく複数種類の制御データであっても良い。制御データの形態は、実際に構成される製造装置および製造対象物などの条件に応じて定められることはもちろんである。
【0025】
[実施形態2]
本実施形態では、上述の実施形態1のフィードフォワードシステムで利用できる、光学特性の人工知能(AI:Artificial Intelligence)予測システムについて説明する。実施形態1でも述べたように、図3のフィードフォワードシステムでは、各工程における製造装置またはその計測装置から計測データを取得し、計測データ処理部31へと転送する。計測データ処理部31は、製造条件を更新したり、更新のための光学特性の予測を行ったりして、製造工程にフィードフォワードする。本実施形態では、光導波路を含む光回路の光学特性を予測するAI予測システムが開示される。
【0026】
AIシステムは、機械学習、深層学習およびビックデータを利用して、日常生活から産業界まで既に様々な幅広い分野で利用されており、光集積回路を含む製造ラインにおいても利用が進むものと考えられる。光導波路で構成される光集積回路においては、光学特性評価に際して、光ファイバを介した光信号の入力および出力が必要となる。ウェハレベルでの光ファイバを介した計測にはコストと時間が掛かる。ここで、作製途中の工程データ等から光デバイスの光学特性を予測できれば、例えば工程中に良品選別を行うことができる。良品選別には、ウェハ内での不良品を選別したり、ロットごとにウェハごとに選別したりするなどを含み、不良品に対する無駄な検査・試験コストを減らすことができる。
【0027】
上述の実施形態1の製造方法におけるフィードフォワードシステムでは、各工程で得られる情報データに基づいて、そのままの工程条件でプロセスが進んだ場合、光デバイスの光学特性がどのようになるかを予想することが必要である。図2の光学特性推定処理21の少なくとも一部が本実施形態のAI予測システムにおける処理に対応し、図3の計測データ処理部31の少なくとも一部が本実施形態のAI予測システムに対応することになる。
【0028】
図4は、本開示の光学特性のAI予測システム1000および関連データを説明する図である。本開示のAI予測システム1000では、学習データとして、製造工程1004から取得される工程データ1001が入力される。AIシステム1000の予測精度を上げる学習(training)のために、教師データとして、過去の工程データ、対応するデバイス光学特性値の実測値とを組み合わせたデータセット1003も入力される。AI予測システム1000は、推論の結果として光学特性の予測値データ、予測値1002を出力する。
【0029】
図4のAI予測システム1000は、少なくとも中央演算装置(CPU)を含み、このCPUによって、少なくとも、入力データを受け取る処理と、前記入力データに基づいて学習および推論を行う処理と、光学特性の予測データを生成する処理を実施する。入力の工程データ1001は、製造工程1004から取得されて逐次入力されることもできるし、図4に示していないメモリ装置に一旦蓄積して、適時にCPUへ入力することもできる。また、このメモリ装置には後述する教師データも蓄積され得る。また、学習、推論または光学特性の予測データの生成は、画像処理ユニット(GPU:Graphics Processing Unit)で行われることもある。
【0030】
図4の複数の製造工程1004は、図3に示した工程1~工程Mに対応しており、各工程から「現在の工程データ」がAI予測システム1000へ入力される。図4ではM個の工程が示してあり、各工程から現在の工程データがAI予測システム1000に入力されているが、すべての工程から工程データが供給される必要はない。ここで「現在の」の意味することころは、各工程が稼働中にまたは最終工程が終了するまでに取得されるデータと言う点にあり、工程データ入力に厳密にリアルタイム性は求められないことに留意されたい。
【0031】
教師データ1003は、複数の工程1004から取得された過去の工程データと、この過去の工程データに対応するデバイス光学特性値の実測値とを組み合わせたデータセットである。AI予測システム1000において教師データ1003は、推論の精度を上げるために「学習フェーズ」において利用され、AI予測システム1000における推論モデルのシナプスの重み付け値を最適化するために使用される。教師データのデータセット1003は、過去の工程データであり、現在の工程データ1001とは別にAI予測システム1000に供給される。教師データは、AI予測システム1000内に備えたメモリに蓄積しておくことができる。AI予測システム1000の外の外部メモリに記憶されたデータを、必要に応じて、AI予測システム1000へ伝送することもできる。
【0032】
本開示のAI予測システムにおいて使用される予想アルゴリズムとしては、例を挙げれば多層ニューラルネット、リッジ回帰/Lasso回帰を利用できる。一般のAI予測システムで利用可能なものであれば、予想アルゴリズムには何の限定も無い。一方で本開示のAI予測システムにおいて発明者らは、入力データとして、光導波路を含む光集積回路の製造工程に対して最適な特徴量を見出した。一般にAI予測システムにおいて、学習によって推論モデルの精度を上げるためには、入力データとしていかに適切な特徴量を選ぶかが重要である。機械学習、深層学習において入力データである変数(特徴量)に誤ったものを選択すれば、予測精度が悪くなることは明らかである。また入力データに無駄な特徴量を選択すれば、その特徴量は機械学習、深層学習においてノイズとして作用し、学習時間が伸びてしまう。さらに、不適切な特徴量の選択は過学習にもつながり、製造工程の新しい状態に対する予測精度が低下し得る。
【0033】
[AI予測システムの予測精度に影響する重要なパラメータ]
光集積回路の製造工程の観点からは、光デバイスの光学特性に本質的な影響を与えるパラメータと、予測を行う光学特性とを特定し、適切な特徴量を決定し、AI予測システムに学習させることで、高精度な光学特性の予測が実現される。また、実際の製造工程における現実的な条件や工程全体のスループットを考慮して、光集積回路の製造工程に適した工程データを選択することも重要である。発明者らは、光集積回路の構成要素の機能およびその製造工程が持つ本質的な特徴を熟慮し、光集積回路の製造工程の精度、効率を改善する特徴量が何かについて検討を加えた。以下、本開示のAI予測システムにおいて、(1)予測すべき光学特性に本質的な影響を与える光デバイスのパラメータ、(2)このパラメータに対応し高精度な光学特性の予想に適した特徴量について、詳細に説明する。
【0034】
最初に述べたように、キーとなる光デバイスを集積化した光集積回路では、その重要な構成要素として光導波路を含んでいる。光導波路を含んだ光デバイスは光導波路デバイスと言うこともできる。したがって、光導波路の構造や光学特性を高精度に予測し、製造誤差を抑えるのが有効である。また光集積回路の重要で大規模なものの多くには、マッハツェンダー干渉計(MZI:Mach-Zehnder Interferometer)やアレイ導波路回折格子(AWG:Arrayed Waveguide Grating)が含まれている。MZIやAWGの各機能は、光が通過する1つ以上の光導波路の経路に起因して生じる光の位相差を利用した干渉現象に基づいている。光導波路を伝搬する光信号の位相は、光導波路の伝搬特性によって直接的に影響を受け、この伝搬特性は、等価屈折率nによって決定されると言うことができる。
【0035】
波長λの光信号が、長さLおよび等価屈折率nの光導波路を伝搬するとき、光信号の位相の進み量φは次式で表される。
【0036】
【数1】
【0037】
光導波路の断面形状が矩形の場合、光導波路の等価屈折率nは、光導波路コアの幅および高さと、コアの屈折率およびクラッドの屈折率とで決定される。例えば、非特許文献2、非特許文献3では、矩形コアについて、コア屈折率ncore、クラッド屈折率ncladから、x成分、y成分の各電場の分散方程式を用いて、伝搬定数βおよび等価屈折率nを求める方法が開示されている。
【0038】
上述のように、AWG、MZIなどの光の干渉現象を利用する光集積回路では、光導波路のコアの幅および高さ、コアの屈折率およびクラッドの屈折率を高精度に評価することが光学特性の予測にも重要であることが分かる。本開示の光回路の光学特性のAI予測システムでは、光導波路のコアの物理的な構成(厚さ、幅)およびコアの等価屈折率を、光学特性の予測に最も重要な影響を与えるパラメータとして、このパラメータに対応する特徴量をさらに決定した。
【0039】
[AI予測システムの特徴量]
図5は、本開示のAI予測システムにおいて取得される特徴量を説明する図である。図5は、図2に示した実施形態1の光回路の製造方法を実施するフィードフォワードシステムにおいて、各工程から取得される特徴量を概観している。図5では、AI予測システム1000を含む光学特性推定処理21に対しては、2:コア堆積工程からの「計測」と表示された矢印のみが示されている。AI予測システム1000で取得される特徴量は、各工程において異なる特徴量1~特徴量6が取得される。また後述するように、異物・欠陥解析に関する特徴量6は、太い矢印1014で示したように、すべての工程において取得され、AI予測システム1000に入力され得る。
【0040】
(1)コア・クラッドの膜厚分布、屈折率分布
上述のように、コアの幅および高さ、コアの屈折率およびクラッドの屈折率は、光学特性の予測において最も重要なパラメータである。当然に、光集積回路の各層を堆積する段階で、膜厚分布および屈折率分布がAI予測システムの特徴量となる。具体的には、矢印1010で示した1:下部クラッド堆積工程で取得される下部クラッド屈折率分布が、まず重要な特徴量となる(特徴量1)。下部クラッドの屈折率は、ウェハの面内分布を取得するのが好ましい。
【0041】
次に、矢印1011で示した2:コア堆積工程で取得されるコア膜厚分布およびコア屈折率分布が特徴量となる(特徴量2)。既に述べたように、コアの形状と屈折率が光学特性に強い影響を与える。コアの高さは、2:コア堆積工程におけるコア膜厚と屈折率に対応する。コアの膜厚および屈折率も、それぞれウェハの面内分布を取得するのが好ましい。
【0042】
さらに、矢印1013で示した8:上部クラッド堆積工程で取得される上部クラッド屈折率分布が特徴量となる(特徴量3)。
【0043】
上述の特徴量1~特徴量3においては、コア層のウェハ内の膜厚分布および屈折率分布データが最も重要な特徴量である。コア層の構造は、光導波路の伝搬特性に直接的に影響を与えるからである。光が通るのは主にコアであるので、クラッドの膜厚分布および屈折率分布などの影響はコアと比較すると比較的小さい。したがって、本開示のAI予測システムでは、コア層のウェハ内の膜厚分布および屈折率分布データが、推論モデルの精度を上げるためにも重要である。クラッドの屈折率は、下層クラッドまたは上層クラッドのどちらかの屈折率で代用したり平均値や設計値で代用したりすることもできる。また、上述のコア層の分布は、後述するように、チップ内の部分的または全体の導波路幅の分布情報または、チップ内の部分的または全体の導波路画像情報を含む。
【0044】
上述の各層の膜厚分布および屈折率分布は、光導波路を形成する場所について多層膜を非接触測定するのが好ましい。すなわち、コアの測定に際しては、下部クラッド膜と分離して非接触で測定する。この非接触測定には、光の反射スペクトル解析による多層膜の膜厚・屈折率の非接触評価によって実施できる。この測定方法によれば、コア膜堆積前に下層酸化膜を測定し、コア膜測定時に下層酸化膜を固定して解析することで、コア膜の特性を高精度に評価することができる。同様に、上部クラッド膜の測定に際しては、下部クラッド膜およびコア膜と分離して非接触で測定する。また、上記の各膜の膜厚、屈折率を測定した温度も特徴量として取得するのが好ましい。膜厚、屈折率は測定温度によっても大きな影響を受けるからである。
【0045】
特に、光導波路ではコアに光が閉じ込められるため、伝搬する光は主にコアの部分を通過する。そのため、クラッドに対してコアの屈折率の影響を強く受ける。そのため、下部クラッド膜および上部クラッド膜の屈折率は設計値や代表点の実測値を代用することもできる。
【0046】
(2)導波路パターン測定結果/画像
コアの物理的な構成の内、コアの幅については、エッチング後のコアパターンの出来上がり状態を観測する必要がある。したがって、矢印1012で示した6:エッチング工程が終了した後で取得される導波路測定結果および画像解析結果が特徴量となる(特徴量4)。具体的には、顕微鏡等によるチップ内代表点の導波路構造の測定結果、または、特定の光導波路の全体または一部の導波路画像を取得して特徴量とすることで、コア幅に対応する情報を学習できる。画像データをAI予測システム1000に学習させる前処理として、コアの側壁のみを検出した情報に変換することで、コア幅およびその分布の情報を抜き出し、ノイズを除去することができる。
【0047】
図6は、光導波路パターンの画像解析の一例を示す図である。左側は、エッチングを完了した段階のコア部の顕微鏡写真であり、右側は画像解析技術によって光導波路の側壁を抽出した図である。図6のコア部の顕微鏡写真の画像データをAIに学習させる前処理として、コアの側壁のみを検出した情報に変換することで、コア幅(およびその分布)に関する情報以外の情報、すなわちノイズとなる情報を除去することができる。側壁の抽出図では、導波路幅は約80ピクセルの幅を持ち、少なくとも1.25%程度の分解能でコア幅の変動を検出できる。
【0048】
(3)要素構造集約マーカ画像
上述の特定の光導波路のコア幅のデータを直接に取得するのに加えて、チップ上に、光集積回路のチップ上で使用されている導波路要素が一定の領域内に集積された要素構造集積マーカを備えることができる。チップ上に分散している重要な構造要素のそれぞれに対して個別に測定を行うのに加え、または、個別の測定に代えて、要素構造集積マーカを顕微鏡等で撮像することで、AI予測システム1000へ入力する特徴量を取得できる。
【0049】
図5を再び参照すれば、矢印1012で示した6:エッチング工程が終了した後で取得されるマーカ解析結果や5:フォトレジスト現像工程(図1)が終了した後で取得されるマーカ解析結果が特徴量となる(特徴量5)。光導波路の加工情報の取得ために、光導波路全体を高解像度で撮像していくことは、現実的に困難である。重要な光導波路要素を反映し代表する要素構造集積マーカによって、代替的に、特徴量を取得することで製造工程のスループットの向上にも役立つ。要素構造集積マーカの中に含める構造要素としては、曲げ、テーパ、交差、直線などがある。要素構造集積マーカの詳細は、実施形態3として後述する。
【0050】
(4)異物・欠陥の撮像画像
光導波路デバイスの作製プロセス中にウェハに異物付着や欠陥が存在すると、光導波路の形状が崩れたり断線や反射が発生したりする。このような異物または欠陥は、光集積回路の不良・故障の原因となる。光集積回路の異物または欠陥による不良モードは、異物・欠陥箇所に光信号が通過する光導波路が形成されてしまうことで発生する。光導波路が異物・欠陥と重なった場合、異物・欠陥箇所での伝搬損失増加、反射の発生、光信号の不通等が発生する。
【0051】
一方、光導波路が形成されない場所の異物・欠陥は不良の原因とはならない。光導波路が異物または欠陥が離れている場合、光信号は光導波路に閉じ込められており、異物・欠陥は光信号に影響を及ぼさない。したがって、光集積回路の品質に影響を与える異物・欠陥を考慮するため、異物または欠陥のウェハ上の位置や形状などを、顕微鏡像等を機械学習に入力する特徴量とする。図5を再び参照すれば、矢印1014で示した任意の工程で取得できる異物・欠陥解析結果が特徴量となる(特徴量6)。異物や欠陥は、すべての工程において生じ得るので、この特徴量の取得はどの工程においても取得可能である。
【0052】
本開示のAI予測システム1000へ特徴量として入力するデータには、2つ形式が考えられる。1つの形式は、光導波路部の画像データそのもの、または、画像の各ピクセルをグレースケールなどに変換したデータである。もう1つの形式は、光導波路と異物・欠陥の重なりを評価する関数による算出値である。異物または欠陥の撮像・評価は、光導波路上の位置に応じて、重みづけを与えて、光集積回路の機能上で重要な箇所だけの評価を行うこともできる。例えば、MZIの位相調整部や、DPOH(Dual Polarization Optical Hybrid)の位相調整部などに重みづけを与えることができる。
【0053】
したがって本開示のAI予測システムは、光集積回路のための人工知能予測システムであって、入力データを受け取る処理と、入力データに基づいて学習および推論を行う処理と、光学特性の予測データを生成する処理を実施する中央処理装置を備え、入力データは、光集積回路の製造工程で取得される工程データであって、コア層のウェハ内の膜厚分布および屈折率分布データを少なくとも含むものとして実施できる。加え、下部クラッド膜および上部クラッド膜の屈折率分布データを含むことが望ましい。
【0054】
次に、本開示のAI予測システムを光学特性の一例としてAWGの中心波長に対して適用した場合の予測精度の改善効果を示す。
【0055】
(実施例1)
AWGでは、各アレイ導波路の光路長差に起因する位相差によって、光合分波作用を生じる。異なる波長の複数の光信号を含む波長多重化光信号を入力すれば、波長毎に光信号を異なるポートへ分離して、出力することができる。AWGにおける各出力ポートの中心波長は、アレイ導波路の光路長差に起因する位相差によって決定される。AWGのアレイ導波路における光路長差は、アレイ導波路を構成する光導波路のコアやクラッドの屈折率、コアの形状により決定される。
【0056】
図5において説明をした特徴量を利用し、AI予測システムの機械学習を回帰問題として処理し、AWGの1つの透過帯域について、その中心波長のバラツキを調べた。本実施例では、AI予測システムにおける予想特性は、「AWGの中心波長」となる。
【0057】
非特許文献4を参照すれば、AWGにおける中心波長λの理論式は次式で表される。
【0058】
【数2】
【0059】
ここで、nはコアの等価屈折率、ΔLは隣接するアーム間の導波路の物理長差、mは回折次数である。推論のために使った特徴量は、アレイ導波路のコア幅、コア屈折率、コアの厚さ、ウェハ内のチップ座標とした。
【0060】
図7は、本開示のAI予測システムの学習による予測精度改善を説明する図である。図7の(a)は、所定の中心波長において、AI予測システムにおいて予測のための学習を行っていない状態での中心波長のバラツキを示している。ここでバラツキとは、中心波長の設計値(理論値)と実測値との差分となる。横軸は中心波長の差分値(nm)を、縦軸は頻度を示しており、600チップについて、AWG中心波長(1299nm)の実測値バラツキのヒストグラムとして示している。
【0061】
一方で図7の(b)は、本開示のAI予測システムにおいて、上述の特徴量とAWG中心波長の実測値とからなるデータセットを教師データとしてAI学習を実施した後の、予測値と実測値との相関関係を示している。横軸にAWG中心波長の実測値を、縦軸にAIシステムによるAWG中心波長の予測値をnmで示している。グラフ上の各点が、異なるAWGチップの1つ1つのサンプルを示している。学習に利用したAWG中心波長のデータセットの数は約1200チップであり、図7の(a)に示した約600のチップセットとは異なるものを用意した。
【0062】
図7の(a)と比較すれば、学習の前後で、予測値(設計値)と実測値の差分のバラツキがより小さい範囲に収束していると見ることができる。図7の(b)によれば、AWGの中心波長の予測値と実測値との間には、明瞭な相関関係が確認できる。すなわち、本開示の光学特性のAI予測システムでは、AWG中心波長の光学特性値に対して、教師データで学習をすることで、AWG中心波長の予測値と実測値の差分の広がりを、半分程度(標準偏差でおおよそ0.1nm)に縮小できることが確認され、予測精度を向上させている。AWGのアレイ導波路に対して、コア幅、コア屈折率、コアの厚さ、ウェハ内のチップ座標を特徴量として利用しただけで、中心波長の予測精度を大幅に改善していることが確認できる。
【0063】
教師データを変更することで、透過スペクトルの特性予測も可能となる。具体的には、透過スペクトルの3dB帯域幅や、ピーク透過率から所定の減衰量となるまでの帯域幅を予測できる。
【0064】
上述の実施例では、光集積回路における予測対象の光学特性として、AWGの中心波長を例として、本開示のAI予測システムの効果を示した。予測対象である光学特性はこれに限定されず、例えばMZIの中心波長を予測する光学特性とすることができる。MZIでは2つのアーム導波路の光路長差に起因する位相差によって、出力ポートが変化する。アームを加熱することによりスイッチとしても活用することもできる。ここで、2つのアーム導波路の光路長差が設計値からずれると消光波長が変化する。MZIにおける光路長差は、光導波路を形成するコアやクラッドの屈折率、コアの形状により決定される(非特許文献4を参照)。
【0065】
非特許文献4には、2入力2出力のMZIスイッチの構造と動作原理が説明されている。MZIスイッチでは、2つのアーム導波路間の光路長差により方向性結合器での干渉状態が変化し、出力強度が変化する。方向性結合器の分岐比が50%であるとすると、2つのアームの光路長差が位相換算で0±2nπのとき入力ポート1に入力された光はすべて出力ポート2から出力される。一方、光路長差が位相換算でπ±2nπのとき入力ポート1に入力された光はすべて出力ポート1から出力される。MZI透過スペクトルの理論式は、非特許文献5に開示されている。
【0066】
実施例1と同様に、アレイ導波路のコア幅、コア屈折率、コアの厚さ、ウェハ内のチップ座標を特徴量として選んで、機械学習を回帰問題として処理することができる。
【0067】
以上詳細に述べたように、本開示の光学特性のAI予測システムにより、精度良く光学特性の予測が可能となる。予測値を実施形態1で説明したフィードフォワードシステムに利用することで、光集積回路の製造工程の効率化、高スループット化を実現できる。
【0068】
図5に示す6:エッチング工程が終了した後で取得される導波路測定結果および画像解析結果が特徴量となる(特徴量4)例を説明したが、図1に示す5:フォトレジスト現像工程が終了した後で取得されるフォトレジストパターン17の測定結果および画像解析を特徴量としてもよい。
【0069】
例えば、フォトレジスト現像工程において形成した「レジストパターンが所定値より太い」という加工情報を取得した場合、後工程のエッチング工程において、「エッチング時間/強度を長く/強くする」という補正を行い、エッチング工程で形成される導波路の幅を所望の値(設計値)にする。逆に、「レジストパターンが所定値より細い」という加工情報を取得した場合、「エッチング時間/強度を短く/弱くする」という補正を行う。また、エッチング工程までに得られた加工情報に加え、通常のエッチング時間/強度を長く/強くすることを仮定した場合にAI予測システムによる光学特性の推定値が設計値に近づく場合には、エッチング時間/強度を長く/強くするという補正を行う。
【0070】
[実施形態3]
本実施形態では、上述のAI予測システムにおける特徴量として利用できる要素構造集約マーカの具体例について説明する。以下では、先ず、本発明の実施形態に係る加工情報を取得するための基本構成について説明する。
【0071】
[基本構成]
図8は、本実施形態の基本構成を説明するための図であり、基板上に形成される導波路のパターンとこのパターンと共に形成されるマーカを説明する図である。図8は、導波路の一例としてのAWG導波路パターン100と、このパターンと共に形成されるマーカ200とを示している。
【0072】
図8に示すように、AWG導波路パターン100には、その導波路の形状を定める構成要素として、曲げ部分101、テーパ部分102、直線部分103などが存在する。なお、構成要素はこれらに限定されるものでなく、対象となる導波路パターンの形状等、後述するマーカから得られる加工情報をどのように用いるかに応じて定めることができる。例えば、導波路の形状を定める構成要素としては、上述の曲げ部分、テーパ部分、直線部分以外に交差部分、方向結合器部分などがある。また図8に示す例では、マーカ200は、AWG導波路パターン100のほぼ中央部に、光導波路の図1にて説明した同じ工程で光導波路と共に同じ工程で形成される。このマーカ200は、図8の右側に示すように、約100μm×100μmのサイズを有したほぼ正方形を成すものである。これに対し、導波路パターン100は、図8の左側に示すように、約数10mm×数10mmのサイズを有している。
【0073】
マーカ200は、導波路の構成要素の一部を基本的に同じ形状を有した要素を集積して形成したものである。図8に示す例では、例えば、導波路の構成要素として、導波路のテーパ部分102が示され、これがマーカ200では加工情報要素102Mとして形成される。同様に、導波路の直線部分103は、マーカ200では直線の加工情報要素103Mとして形成される。
【0074】
このように、導波路の構成要素が集積されたマーカ200を導波路の製造工程において形成、撮像することで、その製造工程の加工情報を代表することができる。導波路構成要素の曲げ、テーパ、交差、直線などの加工形状は、導波路の光伝搬特性に影響する。また、製造時の製造ばらつきにより、同一形状であってもその加工結果はウェハ面内でムラができる場合がある。このため、同一工程で形成されるマーカ200に加工情報要素の情報(以下、単に「加工情報」とも言う)を集約することで、この加工情報に基づいて、後工程での補正や光学特性の予測を行うことができる。
【0075】
マーカ200において形成される加工情報要素は、基本的に、製造する導波路パターン100における導波路構成要素のパラメータ値と同一である。例えば、構成要素が「直線」の場合、パラメータとしてその「幅」と同じ幅でマーカ200における直線が形成される。同様に、構成要素が、「曲げ」の場合、パラメータは「幅」および「曲げ半径」、「テーパ」の場合、パラメータは「テーパ率」および「テーパ始点&終点幅」、「交差」の場合、パラメータは「交差角」、「方向性結合器」の場合、パラメータは「導波路幅」および導波路の「間隔」である。マーカ200ではこれらパラメータが導波路パターンと同じ値で加工情報要素が形成される。なお、導波路の構成要素ごとのパラメータは上記の例に限られないことはもちろんである。取得する加工情報およびその使用目的に応じて適宜定めることができることはもちろんである。
【0076】
本実施形態は、以上説明したマーカ200を形成し、そこから加工情報を取得する。これにより、マーカのみを撮像等することによって加工情報を取得することができる。その結果、高スループットで加工情報を取得することが可能となる。本実施形態のマーカを用いない場合、例えば、導波路全体で構成要素を高解像度で撮像する場合は、撮像回数の増加や撮像データのメモリ量の増加といった不都合がある。そして、その結果として、加工状態を判別するためには、加工後の形状をウェハ面内に渡って観測・測定する必要があり、工程が煩雑かつスループットが低下することになる。
【0077】
マーカ200のサイズおよび形状は、導波路パターンに影響を与えないよう可能な限り小さなサイズであることが望ましい。一方で、マーカ全体が撮像視野に収まること、一般的に撮像素子の形状は矩形である。これらの点から、マーカ200もこれに合わせて矩形の範囲に収めることが望ましい。例えば、10mm×10mmのチップサイズに対して、マーカ200のサイズが1mm×1mmであれば、検査に必要な撮像サイズは100分の1に、100μm×100μmであれば、検査に必要な撮像サイズは10000分の1になる。これは、同程度の顕微鏡倍率で測定した際のスループットがそれぞれ、100倍、10000倍になることを示している。スループットを向上させるために、チップの一辺の長さに対してマーカ200の一辺が10分の1以下または面積がチップに対してマーカ200が100分の1以下になることが望ましい。また、チップサイズが500μm × 500μmであったとしても、マーカ200のサイズが100μm×100μmであれば、検査に必要な撮像サイズは25分の1になる。これは、同程度の顕微鏡倍率で測定した際のスループットが25倍になることを示している。
【0078】
なお、導波路の総ての構成要素について、マーカ200における加工情報要素が同一のパラメータ値である必要はない。以下、それらの例を説明する。
【0079】
例えば、構成要素が「曲げ」の場合、形成される導波路パターンの半径はシリカ系導波路などではmmオーダーと大きく撮像に必要な範囲が大きくなる。このような場合は、マーカにおいて、パラメータである「曲げ半径」がより小さな値の加工情報要素を形成する。そして、このマーカ200からの加工情報要素の取得に際しては、小さくした「曲げ半径」の比率に応じた加工情報を取得する。具体的には、導波路パターンにおける実際の曲げ半径よりも小さい値の上記「曲げ半径」に応じて、複数の曲げ半径の導波路を予め用意して、その形成結果(導波路幅など)を、実際の導波路パターンと比較する。そして、その比較結果において、上記曲げ半径の比率に応じて、導波路パターンにおける実際の曲げ半径の形成結果(加工情報)を外挿して推定することができる。なお、「曲げ」部分の特性として、マーカ200における曲げ半径が導波路パターンにおける実際の曲げ半径と異なっていても、マーカ200の異なる曲げ半径に基づいて曲げ部分の形状(加工情報)を推定しても、「曲げ」部分についてはその推定結果が実際に形成される曲げ部分の形状に近いことが分かっている。以上により、実際に形成される導波路パターンの半径が大きくなる場合でも、マーカ200のサイズ内にその加工情報を収めることが可能となる。
【0080】
図9は、本実施形態の他のマーカの構成を説明する図である。他の例として、導波路構成要素の曲げの一部のみを、加工情報要素としてマーカ200内に形成しても良い。図9の(a)は、その構成を示す図である。図9の(a)に示したように、導波路構成要素の曲げ100のうち、その一部のみを加工情報要素100Mとしてーカ200内に形成する。このように、曲げのうち一部の角度に対応して曲げ部分を加工情報要素100Mとすることによってもマーカ200のサイズ内にその加工情報を収めることが可能となる。すなわち、一部のみの加工情報要素100Mは、それによって実際の導波路パターンにおける曲げ部分との位置関係に応じた違い(角度依存性)を知ることはできないが、加工情報要素100Mが持つ代表点(角度)での加工情報要素100Mの形成結から、他の角度でも同一の形成結果(加工情報)であると推定することができる。
【0081】
さらに他の例として、導波路構成要素が、曲げの一種として円弧である場合、それを等分したものを加工情報要素としてマーカ200内に形成しても良い。図9の(b)は、その構成を示す図である。図9の(b)に示したように、導波路構成要素の円弧100を四等分し円弧部分100A、100B、100C、100Dとする。そして、それらに対応する加工情報要素100MA、100MB、100MC、100MDをマーカ200内に形成する。この際、加工情報要素100MA、100MB、100MC、100MDの向きないし角度を異ならせる。具体的には、円周方向において等間隔となるように配置する。これによってその形成範囲をよりコンパクトにできる。このように、曲げを等分して加工情報要素100Mとすることによってマーカ200のサイズ内にその加工情報を収めることが可能となる。すなわち、4つの加工情報要素100MA、100MB、100MC、100MDの代表点(角度)ごとの形成結果(コア幅など)の4つ情報について、これら4つの離散的な情報(値)を内挿することにより、実際の導波路パターンにおける形成結果(加工情報)を推定することができる。
【0082】
なお、図9の(b)に示した例のように、導波路構成要素100が形成される向きまたは角度とは異なって加工情報要素100Mがマーカ200内に形成され得るが、この場合、いわゆる角度依存性の影響を考慮したものである。すなわち、マーカ200における異なる角度での加工情報要素の形成結果(コア幅など)の情報から、それぞれの角度依存性を算出し、その算出結果に基づいて他の角度での形成結果(加工情報)を推定することができる。特に、加工情報要素が相互に直交する角度であれば、どのような角度に対しても表現することができる。具体的には、基板における導波路構成要素の向きまたは角度によって、製造工程における影響の度合いが異なることもあり得る。このため、次のような構成をとることができる。
【0083】
第1に、導波路パターンにおいて同じ構成要素の配置方向が一定の場合、マーカに形成する加工情報要素は同一の方向に形成されるのが望ましい。第2に、導波路パターンにおいて同一の構成要素を、マーカでは異なる複数の角度、好ましくは、直交する角度で配置することが望ましい。第3に、構成要素が「円弧」の場合、マーカでは、図9の(b)にて説明したように円弧を等間隔で分割し、向きまたは角度を異ならせて、分割された円弧を配置することが望ましい。
【0084】
また、形成する導波路パターンにおける所定のパターンの分布を計測する必要がある場合がある。このような場合のために同一のパターンが基板内に複数存在することが望ましい。これにより、例えば、複数のパターンそれぞれにおけるマーカ間の形成結果の違いに基づいて、ウェハ上の座標に対応して形成結果(コア幅など)の変化を計算することができる。
【0085】
なお、加工情報としては、上述した導波路構成要素の形状情報に限られない。例えば、以下の情報とすることもできる。
・導波路パターンの所望の導波路幅(設計値)に対して実際に形成された導波路幅の平均値、導波路表面および側面のうねりや粗さ。
・導波路幅の設計値ごとの、実際に形成された導波路幅(設計値と実際値の差の設計導波路幅依存性)
・形成される導波路幅がその曲げ半径によって異なる点、または、使用する曲げ半径での導波路角度での形成される導波路幅が異なる点
・導波路の粗密または近接した状態での導波路幅(平均、うねり、ラフネスなど含む)
・導波路パターンの撮像画像の輝度分布や明暗。これらに基づき、加工表面の粗さや加工高さの情報を取得
【0086】
以上説明したマーク200における加工情報要素は、製造工程中にそれを形成し、取得することによって後工程での補正に用いることができる。また、取得した加工情報に基づいて、最終的に製造される光導波路の光学特性を推定、予測することもできる。なお、以上説明した、取得した加工情報に基づく特性の推定、予測は、最終的に製造される光導波路に限られず、その製造過程の途中で形成されるレジストパターンなどの特性を推定、予測しても良いことは、以下の説明からも明らかである。次に、それらの基本構成について説明する。
【0087】
[加工情報に基づく補正]
本発明の一実施形態は、導波路の製造工程の一工程においてマーカを共に形成しそのマーカから加工情報を取得し、その加工情報を用いてその後の工程の加工の補正を行う。
【0088】
例えば、フォトレジスト現像工程において、形成した「レジストパターンが所定値より太い」という加工情報を、同じ工程で形成したマーク200の加工情報要素から取得した場合、後工程のエッチング工程において、「エッチング時間/強度を長く/強くする」という補正を行い、エッチング工程で形成される導波路の幅を所望の値(設計値)にする。逆に、「レジストパターンが所定値より細い」という加工情報を取得した場合、「エッチング時間/強度を短く/弱くする」という補正を行う。
【0089】
また別の例として、導波路製造のエッチング工程の後に、その工程で形成したマーク200の加工情報要素からコア幅を測定する。また、その測定値から実際に光信号が伝搬する導波路パターンの幅が推定できる。エッチング工程では、追加の工程としてこのコア幅の測定値に基づいてエッチングを行うことができる。例えば、「エッチング後の導波路幅が理想値よりも太い」という情報の場合、追加のエッチングで、形成されるコア幅を細くする補正を行う。なお、所望の値よりも細いときは、例えば、所望の導波路幅よりも太い導波路になるように設計することや、エッチングを2回に分けて、途中状態を取得することなど、によって対応することができる。ここでの導波路幅の理想値は設計値であっても良いし、後述の特性予想から算出される理想的な導波路幅であっても良い。
【0090】
なお、加工情報に基づいてエッチング条件を定める際は、エッチングガスの回り込みを考慮してエッチング時間などを定めることが望ましい。
【0091】
図10は、本発明の実施形態に係る光導波路の製造工程におけるマーカを用いた補正の一例を説明するフローチャートである。図10におけるステップS1~S8は図1にて前述した光導波路製造の各工程を示している。また、ステップ9に示すダイシング工程は、それまでに製造された光導波路のウェハを切断してチップ化する工程である。
【0092】
以上の製造工程において、本例では、ステップS5のフォトレジスト現像工程で導波路パターンを形成すると共にマーカ200を形成する(図1参照)。このマーカ200には、図8において説明したように、導波路パターンの構成要素に対応した加工情報要素が形成されている。そして、次のステップS201において、マーカ200を撮像し、撮像した加工情報要素から加工情報を取得し、この加工情報に基づいて、後工程のエッチング工程(S6)におけるエッチング条件を算出する。その後、ステップS6でエッチング工程を実施する。これにより、上述したように、例えば、形成した「レジストパターンが所定値より太い」場合、エッチング工程のエッチング条件を「エッチング時間/強度を長く/強くする」と算出(補正)する。その結果、エッチング工程で形成される導波路の幅を所望の値(設計値)にすることができる。
【0093】
[加工情報に基づく光学特性予測]
本発明の一実施形態は、導波路の製造工程の一工程においてマーカを共に形成しそのマーカから加工情報を取得し、その加工情報を用いて最終的に得られる光導波路の光学特性を推定、予測する。
【0094】
図11は、本発明の実施形態に係る光導波路の製造工程におけるマーカを用いた予測の例を説明する図である。本例は、光導波路の光学特性が、光が伝搬するコアの形状(幅および厚み)と屈折率に応じて定まることを利用したものである。図11に示したように、コア膜の製膜工程後にコアの膜厚および屈折率を取得する。また、エッチング工程の後に、形成されたマーカ200から、コアパターンの幅を加工情報として取得する。そして、これら取得したコアパターンの幅およびコア膜の厚み、並びに屈折率に基づいて最終的に製造される光導波路の光学特性を予測する。なお、図11に示したように、エッチング工程の後における加工情報の取得(撮像)は、この工程で形成されたコア膜18のマーカ200に対応する領域(本明細書では、この領域も「マーカ」という)で、コアパターンの幅および屈折率を撮像、測定し、取得する。
【0095】
なお、図11にて上述したようにして得られる加工情報に基づいて、後工程で補正をしても良い。例えば、コア膜の製膜工程においてコアの膜厚、屈折率およびエッチング工程において、コアパターン幅の加工情報を取得する。そして、そのエッチング工程の追加工程におけるエッチング条件を定める。これにより、例えば、コアの膜厚、屈折率およびエッチング工程後に測定したコア幅から推定された光学特性よりも、コア幅が細いと仮定した場合に推定された光学特性の方が設計値に近い場合。つまり、上述したように、「導波路パターンのコア幅が理想値よりも太い」という加工情報の場合、エッチング工程で、エッチングガスの回り込みを考慮して形成されるコア幅を細くする補正を行うことができる。
【0096】
また、上述の通り、レジストパターン形成段階でのマーカ200の撮像でも同様の補正が可能である。例えば、コアの膜厚、屈折率およびレジストパターン形成工程後に測定したレジストパターン幅から推定された光学特性よりも、レジストパターン幅が細いと仮定した場合に推定された光学特性の方が設計値に近い場合。つまり、「レジストパターン幅が理想値よりも太い」という加工情報の場合、エッチング工程で、エッチングガスの回り込みを考慮して形成されるコア幅を細くする補正を行うことができる。
【0097】
以上説明したように、マーカ200は、図1に示した光導波路を製造する工程と同じ工程で形成される。そして、マーカ200の加工情報要素から加工情報を取得するタイミングはその使用目的に応じて異なる。上述した例で示したように、エッチング工程、フォトレジスト現像工程の後に加工情報を取得しても良い。また、加工情報を上部クラッド堆積工程の後に取得しても良いし、この場合は最終の導波路パターンに近い加工情報を取得することができる。
【0098】
また、このような一部の工程において加工情報を取得するのではなく、図1に示した総ての工程でマーカ200から加工情報を取得しても良い。
【0099】
より好ましいのは、コア堆積工程の後で、かつ上部クラッド堆積工程までである。光導波路構造において、ほとんどの光が通るのがコアであり、コアの形状が一番特性に影響するからであり、また、上部ラッドが堆積された後は、上部クラッド内の構造を撮像する必要があり、この場合は取得するデータにノイズが入る場合があるからである。
【0100】
以下、これまで説明した要素構造集約マーカのより具体的な実施例について説明する。
【0101】
(実施例1)
本発明の第1の実施例として、AWG導波路を製造するときの導波路構成要素とそれに対応するマーカの加工情報要素について、基本構成で説明した図8を参照しながら説明する。AWG導波路を構成する導波路構成要素である、曲げ101、テーパ102および直線103は、マーカ200の加工情報要素101M、102Mおよび103Mにそれぞれ対応している。
【0102】
導波路構成要素のパラメータは、曲げ101については、導波路幅、曲げ半径および間隔である。テーパ102については、テーパ率、テーパ開始/終了導波路幅である。直線103については、導波路幅である。これらのパラメータに関し、マーカ200において、加工情報要素102Mおよび103Mは、対応するテーパ102および直線103とそれぞれ同じ値(テーパ率およびテーパ開始/終了導波路幅、導波路幅)で形成される。加えて、加工情報要素102Mおよび103Mは、少なくとも直交した2つの向きまたは角度で形成される。
【0103】
一方、マーカ200において、加工情報要素101Mは、対応する曲げ101と異なるパラメータ値を有することもできる。詳しくは、図9の(b)にて上述したように、曲げ半径が実際の導波路構成要素より小さな値とする。導波路幅および間隔は、対応する曲げ101と同じパラメータ値である。加えて、加工情報要素101Mは向きないし角度を異ならせた4か所に形成される。これにより、曲げ101に対応する加工情報要素101Mをマーカ200のサイズ内で形成することができる。
【0104】
なお、テーパ102は、テーパ率が小さく、テーパ開始/終了導波路幅の差が大きい場合は、テーパが長くなり、加工情報要素102Mサイズが大きくなる。この場合は、パラメータ値を同じにせずに、例えば、テーパ開始/終了導波路幅の差を小さくする。以上のように、導波路構成要素と加工情報要素の総てのパラメータ値が同一でなくても良いことは上述した通りである。
【0105】
(実施例2)
図12は、第2の実施例に係るマーカを示す図である。MZIスイッチを構成する導波路を製造するときの導波路構成要素とそれに対応するマーカの加工情報要素を示している。MZIスイッチ導波路を構成する導波路構成要素である、曲げ101、直線103、交差104および方向性結合器105は、マーカ200の加工情報要素101M、103M、104Mおよび105Mにそれぞれ対応している。
【0106】
導波路構成要素のパラメータは、曲げ101は、導波路幅、曲げ半径であり、直線103は、導波路幅である。また、交差104は、交差角であり、方向性結合器105は、結合部の直線およびそれらの間隔である。これらのパラメータに関し、マーカ200において、これら加工情報要素103M、104Mおよび105Mは、対応する直線、交差および方向性結合器105とそれぞれ同じ値で形成される。加えて、加工情報要素103Mおよび105Mは、少なくとも直交する異なる2つの向きないし角度で形成され、加工情報要素104Mは、異なる2つの向きないし角度で形成される。
【0107】
一方、マーカ200において、加工情報要素101Mは、対応する曲げ101と異なるパラメータ値を有する。詳しくは、図9の(b)において説明したように、曲げ半径が実際の導波路構成要素より小さな値とする。加えて、加工情報要素101Mは、向きまたは角度を異ならせた4か所に形成される。これにより、曲げに対応する加工情報要素101Mをマーカ200のサイズ内で形成することができる。
【0108】
(実施例3)
図13は、第3の実施例に係るマーカを示す図であり、MZIスイッチを構成する導波路を製造するときの導波路構成要素とそれに対応するマーカの加工情報要素を示している。図12において説明した第3の実施例に係るマーカとほぼ同様であり、以下では異なる点について説明する。
【0109】
MZIスイッチでは、例えば、PILOSS構成のように、MZI導波路や交差104は同じ方向に沿って配置されることが多い。そのため、マーカ200の加工情報要素も、実際に配置される方向と同一にするのが望ましい。MZIスイッチの特性である、ON/OFFの消光比とその波長依存性、他ポートへの漏れ光などを、MZIの構成と交差によって決定できるからである。
【0110】
[実施形態4]
本実施形態では、上述したフィードフォワードシステムによる導波路製造工程のうち、図1に示した5:フォトレジスト現像工程が終了した後の6:エッチング工程において、コア幅を補正する構成を説明する。
【0111】
図14及び図15は、本実施形態の製造工程における光導波路のコア幅補正の例を説明する図である。基本的に、6:エッチング工程において、5:フォトレジスト現像工程で形成したフォトレジストパターン17と同一のパターンのコアが形成される。エッチングの方法には、イオンエッチングのように薬液を用いないドライエッチングの他、薬液を用いるウェットエッチングがある。
【0112】
しかしながら、図14の右側に示すように、エッチング工程においては、エッチングガスの回り込みなどにより(イオンエッチングの場合)、コア側面もエッチングされる。この結果、形成されたコア幅は、フォトレジストパターン17の幅よりも狭くなる。
【0113】
したがって、5:フォトレジスト現像工程において形成したフォトレジストパターン17が所定値より太い場合は、6:エッチング工程において、エッチング時間を長くおよび/またはエッチング強度を強くすることで、コア幅を補正することができる。逆に、フォトレジストパターン17が所定値より細い場合は、エッチング時間を短くおよび/またはエッチング強度を弱くすることでコア幅を補正することができる。また、エッチング工程までに得られた加工情報に加え、通常のエッチング時間/強度を長く/強くすることを仮定した場合にAI予測システムによる光学特性の推定値が設計値に近づく場合には、エッチング時間/強度を長く/強くするという補正を行うことで最終的なデバイスの光学特性を補正することができる。
【0114】
ドライエッチングやウェットエッチングにより6:エッチング工程におけるコアの加工量を調整すると、下部クラッドが所定量よりも多く削られてしまう場合がある。
【0115】
しかしながら、図15の右側に示すように、上部クラッド19および下部クラッドにおいて屈折率が同一となるように、8:上部クラッド堆積工程にいて上部クラッド19を堆積することで、最終的にコアの等価屈折率や伝搬特性に影響することがなくなる。
【0116】
上述したように、本開示の種々の実施形態を組み合わせることで、上述したフィードフォワードシステムによる導波路製造工程のうち、6:エッチング工程において、コア幅によりデバイスの特性を補正することが可能となる。なお、5:フォトレジスト現像工程以前に取得できる種々のデータを活用して、形成されるコアの幅もしくは最終的なデバイスの特性を予測して調整する例を説明したが、5:フォトレジスト現像工程よりも前の工程で取得できる種々のデータを活用して形成されるコアの幅を予測して調整してもよい。例えば、2:コア堆積工程において取得したデータ(コア膜厚およびコアの屈折率の測定データ)のみを活用して形成されるコアの特性を予測し、フォトマスク15およびフォトレジストパターン17におけるコアの幅の調整量(もしくは、作成条件の補正量)を決定してもよい。
【0117】
本実施形態では、図1に示した6:エッチング工程において、コア幅を補正する構成を説明したが、6:エッチング工程において形成したコアの観察データに基づいて、当該コアをさらにエッチングしての幅を調整することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の1つの実施態様の光導波路デバイスの製造方法によれば、ウェハに光導波路のパターンをエッチングする工程よりも前の1つまたは複数の工程における前記ウェハの観察を行い、観察結果に基づいて、ウェハに光導波路のパターンをエッチングする工程以前の1つまたは複数の工程における1つまたは複数の工程データを調整することにより、製造工程の品質およびスループットを向上することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15