(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】はんだ供給方法
(51)【国際特許分類】
B23K 3/06 20060101AFI20241113BHJP
B23K 35/40 20060101ALI20241113BHJP
B23K 35/26 20060101ALN20241113BHJP
C22C 13/02 20060101ALN20241113BHJP
C22C 12/00 20060101ALN20241113BHJP
B23K 1/08 20060101ALN20241113BHJP
【FI】
B23K3/06 S
B23K35/40 340Z
B23K35/26 310C
B23K35/26 310A
C22C13/02
C22C12/00
B23K1/08 310
B23K1/08 320
(21)【出願番号】P 2024105827
(22)【出願日】2024-06-30
【審査請求日】2024-06-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180426
【氏名又は名称】剱物 英貴
(72)【発明者】
【氏名】杉澤 昂太
(72)【発明者】
【氏名】松藤 貴大
(72)【発明者】
【氏名】吉川 俊策
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-340947(JP,A)
【文献】特開2003-136234(JP,A)
【文献】特開2003-273504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 3/06
B23K 35/40
B23K 35/26
C22C 13/02
C22C 12/00
B23K 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bi含有はんだ合金を導入したはんだ槽に
、前記Bi含有はんだ合金よりBiの含有量が少ない低Biはんだ合金
、または、Snである追加供給はんだをはんだ槽に供給して、前記はんだ槽内のBi含有量を、前記はんだ槽に入れた当初における前記Bi含有はんだ合金のBi含有量に調整することを特徴とするはんだ供給方法。
【請求項2】
前記Bi含有はんだ合金、および前記追加供給はんだは、各々、In、Zn、Mn、Cr、Co、Fe、Si、Al、Ti、Ag、Cu、Ni、Sb、および希土類元素の少なくとも1種を含有する、請求項1に記載のはんだ供給方法。
【請求項3】
前記Bi含有はんだ合金は、Sn-Biはんだ合金、またはSn-Bi-Agはんだ合金である、請求項1または2に記載のはんだ供給方法。
【請求項4】
前記はんだ槽に最初に前記Bi含有はんだ合金を導入してから前記追加供給はんだを供給する直前までの時間域において、所定時間毎または所定タイミング毎に、前記はんだ槽に最初に導入した前記Bi含有はんだ合金を導入する、請求項1または2に記載のはんだ供給方法。
【請求項5】
前記はんだ槽に最初に前記Bi含有はんだ合金を導入してから前記追加供給はんだを供給する直前までの時間域において、所定時間毎または所定タイミング毎に、前記はんだ槽に最初に導入した前記Bi含有はんだ合金を導入する、請求項3に記載のはんだ供給方法。
【請求項6】
前記追加供給はんだを供給する直前の前記はんだ槽内のはんだ合金を構成するBiの含有量に基づいて、前記追加供給はんだを供給する、請求項1または2に記載のはんだ供給方法。
【請求項7】
前記追加供給はんだを供給する直前の前記はんだ槽内のはんだ合金を構成するBiの含有量に基づいて、前記追加供給はんだを供給する、請求項3に記載のはんだ供給方法。
【請求項8】
前記追加供給はんだを供給する直前の前記はんだ槽内のはんだ合金を構成するBiの含有量に基づいて、前記追加供給はんだを供給する、請求項4に記載のはんだ供給方法。
【請求項9】
前記追加供給はんだを供給する直前の前記はんだ槽内のはんだ合金を構成するBiの含有量に基づいて、前記追加供給はんだを供給する、請求項5に記載のはんだ供給方法。
【請求項10】
前記はんだ槽内のBi含有はんだ合金から、前記追加供給はんだの供給量と略同質量の前記Bi含有はんだ合金を前記はんだ槽外に導出した後、前記追加供給はんだを前記はんだ槽内に供給する、請求項6に記載のはんだ供給方法。
【請求項11】
前記はんだ槽内のBi含有はんだ合金から、前記追加供給はんだの供給量と略同質量の前記Bi含有はんだ合金を前記はんだ槽外に導出した後、前記追加供給はんだを前記はんだ槽内に供給する、請求項7に記載のはんだ供給方法。
【請求項12】
前記はんだ槽内のBi含有はんだ合金から、前記追加供給はんだの供給量と略同質量の前記Bi含有はんだ合金を前記はんだ槽外に導出した後、前記追加供給はんだを前記はんだ槽内に供給する、請求項8に記載のはんだ供給方法。
【請求項13】
前記はんだ槽内のBi含有はんだ合金から、前記追加供給はんだの供給量と略同質量の前記Bi含有はんだ合金を前記はんだ槽外に導出した後、前記追加供給はんだを前記はんだ槽内に供給する、請求項9に記載のはんだ供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだ槽へのはんだ供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビ、ビデオ、ラジオ、コンピューター、複写機、通信機器等の電子機器はプリント基板に電子部品を搭載したものが使用されている。この電子部品はプリント基板に堅固に固定されているとともにプリント基板と電気的に良好な導通がなされていなければならない。そのため電子部品とプリント基板の接続には、はんだ合金が使用されている。
【0003】
近年では電子部品の小型化が進み、はんだ付け時の熱的負荷が大きくなるため、低温でのはんだ付けが望まれている。はんだ付け温度が低温になれば、はんだ付け時の電子部品や基板への負荷を少なくでき、また、環境負荷低減にもつながる。低温ではんだ付けを行うためには、低融点のはんだ合金を用いればよい。
【0004】
低融点のはんだ合金としては、JIS Z 3282(2017)に開示されているように、Sn-58質量%BiやSn-52質量%Inが挙げられる。これらの合金の溶融温度は各々139℃、119℃であり、いずれも低融点はんだを代表する合金組成である。特に、Sn-58質量%Biは低コストのはんだ合金として広く用いられている。
【0005】
ところではんだ合金の使用方法としては、浸漬法、フロー法がある。浸漬法とは、はんだ槽内ではんだを溶融させておき、該溶融はんだにプリント基板を接触させることにより、はんだ付け部にはんだを付着させるものである。フロー法とは、溶融はんだを収容するはんだ槽に設けられている噴流ノズルから溶融はんだを噴流してプリント基板にはんだ付けをするものである。
【0006】
このように、各方法はプリント基板にはんだ槽中の溶融はんだを接触させる手法をもちいている。しかしながら、浸漬法やフロー法によりCu電極やCu配線を備えるプリント基板にはんだ付けした場合、多数のプリント基板をはんだ槽中の溶融はんだに接触させるため、溶融はんだ中のCu含有量が増え、融点の上昇やはんだ付け不良という問題が発生することがあった。
【0007】
そこで、例えば特許文献1には、Cuの含有量が少ないはんだ合金をはんだ槽に追加供給する方法が提案されている。同文献に記載の発明では、Cuの含有量が少ないはんだ合金をはんだ槽に追加供給するため、はんだ槽内の溶融はんだのCuの含有量を所定のCuの含有量に戻すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載の発明は、溶融はんだのCuの含有量を調整するための技術である。例えば、前述のように、低融点はんだ合金として知られているBiを主成分とするはんだ合金は、Cuを含有するはんだ合金と比較して融点が低く、Snの含有量が少ない。このため、Biを主成分とするはんだ合金を浸漬法やフロー法に用いる場合には、Cuの溶融はんだへの溶出量は、特許文献1に記載のCu含有はんだ合金より少ない。これは、Cuの含有量の上昇に関して、Biを主成分とするはんだ合金の方が特許文献1に記載のはんだ合金と比較して緩やかであるためであると考えられる。したがって、メンテナンス期間などを鑑みると、Biを主成分とするはんだ合金を浸漬法やフロー法に用いる場合、特許文献1に記載の技術を適用することは現実的ではない。
【0010】
また、SnBiはんだ合金を浸漬法やフロー法などに用いる場合には、多数のプリント基板のはんだ付けを行うことにより、Biの含有量の変化が所望の特性に影響をもたらす懸念がある。これは、例えば、平衡状態図から明らかなようにSnBi共晶はんだ合金では、Biの含有量が変化すると融点が上昇し、また、はんだ付け性が損なわれる懸念があるためである。
【0011】
そこで、本発明の課題は、Bi含有はんだ合金で多数の基板にはんだ付けを行なった後であっても、はんだ槽内のはんだ合金に含まれるBiの含有量を所定量に維持するはんだ供給方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、浸漬法やフロー法でプリント基板をはんだ付けしたときに、溶融はんだに含まれるBiの含有量が変化する原因について鋭意検討した結果、はんだ槽中の溶融はんだが大量のプリント基板に接触してはんだ付けがなされるためである知見を得た。これにともない、本発明者らは、SnBiはんだ合金を浸漬法やフロー法などに用いる場合、連続ではんだ付けを実施し続けるため、はんだ槽内のはんだ合金のSnが消費されることにより、Bi含有量が相対的に上昇する知見を得た。
【0013】
浸漬法やフロー法では、はんだ付け時に溶融はんだが基板と接する時間は短く、1枚のプリント基板を接合するために消費されるSnの質量はごく僅かである。しかしながら、1枚のプリント基板の接合に消費するSnの質量が僅かであっても、大量生産ではんだ付けされるプリント基板の数が多い。このため、はんだ槽中の溶融はんだから消費されるSnの質量は最終的に多くなってしまう。その結果、溶融はんだに含まれるSnの質量は、初期投入組成から遥かに低減してしまう。このように、SnBiはんだ合金を浸漬法やフロー法に用いると、相対的にBiの含有量が多くなる。
【0014】
また、浸漬法やフロー法では、はんだ槽内の溶融はんだが基板に付着していくため、多数の基板にはんだ付けを行うと、はんだ槽中のはんだ合金の質量が少なくなる。更に、溶融はんだ付けにおいては、はんだ合金と酸素が反応したドロスが発生するため、ドロスを除去する際にはんだ槽内のはんだの質量が減少する。浸漬法やフロー法では、基板を溶融はんだに接触させてはんだ付けを行うものであり、溶融はんだの液面は所定の範囲でないと正常なはんだ付けを行うができなくなる。つまり、はんだ槽中のはんだ合金が多数の基板のはんだ付けで基板に付着して少なくなり、溶融はんだの液面が下がってしまうと、溶融はんだが一定位置で流される基板に接することができなくなり、はんだの付け不良が発生してしまう。
【0015】
そのため、はんだ槽では溶融はんだの液面を常に監視する液面センサを設置しておき、溶融はんだの質量が少なくなり、溶融はんだの液面が下がったときには液面センサが警報を発するようになっている。この警報が発せられると、作業者や自動供給装置が棒状はんだやワイヤー状はんだをはんだ槽に供給して所定の液面を保つようにしている。
【0016】
一般に、溶融はんだの液面が下がったときに、はんだ槽に供給するBi含有はんだ合金は、Biの含有量が初期投入組成のBiの含有量と同じであった。例えばBiの含有量が58質量%であれば、供給するはんだのBiの含有量も58質量%であるはんだ合金を供給していた。また、従来では、追加供給後の組成のズレを抑制するためには、はんだ槽内のはんだ合金をすべてはんだ槽外に導出した後に、初期投入組成のBi含有はんだ合金をはんだ槽に導入していた。もしくは、はんだ槽内のBi含有はんだ合金の半分程度の質量を、初期投入組成のBi含有はんだ合金と入れ替えていた。
【0017】
このように、Sn量が減っている溶融はんだ槽内に、初期投入組成と同一組成のはんだ合金を追加供給した場合、前述の知見から、はんだ付けを行う基板の枚数が多くなるほど、はんだ槽内の溶融はんだ中に含まれるBiの含有量が所定の量よりも増える知見が得られた。また、はんだ槽から導出した使用済みはんだ合金の回収量の増加に伴い、環境負荷の増加、はんだ付け工程時間の増加、更には、はんだ付けのコスト上昇の問題が起こっていた。
【0018】
前述のように、浸漬法やフロー法では多数の基板をはんだ槽中の溶融はんだに接触させるため、Snが消費されて相対的にBiの含有量が増える。そこで、本発明者らは、相対的に増えたBiの含有量を投入初期のBi含有量に戻すことができれば、Bi含有量の増加による前述のような懸念を解決できることに着目して、本発明を完成させた。
完成された本発明は以下のとおりである。
【0019】
(1) Bi含有はんだ合金を導入したはんだ槽に、Snおよび/またはBi含有はんだ合金よりBiの含有量が少ない低Biはんだ合金である追加供給はんだをはんだ槽に供給して、はんだ槽内のBi含有量を、はんだ槽に入れた当初におけるBi含有はんだ合金のBi含有量に調整することを特徴とするはんだ供給方法。
【0020】
(2) Bi含有はんだ合金、および追加供給はんだは、各々、In、Zn、Mn、Cr、Co、Fe、Si、Al、Ti、Ag、Cu、Ni、Sb、および希土類元素の少なくとも1種を含有する、上記(1)に記載のはんだ供給方法。
【0021】
(3) Bi含有はんだ合金は、Sn-Biはんだ合金、またはSn-Bi-Agはんだ合金である、上記(1)または上記(2)に記載のはんだ供給方法。
【0022】
(4~5) はんだ槽に最初にBi含有はんだ合金を導入してから追加供給はんだを供給する直前までの時間域において、所定時間毎または所定タイミング毎に、はんだ槽に最初に導入したBi含有はんだ合金を導入する、上記(1)~上記(3)のいずれか1項に記載のはんだ供給方法。
【0023】
(6~9) 追加供給はんだを供給する直前のはんだ槽内のはんだ合金を構成するBiの含有量に基づいて、追加供給はんだを供給する、上記(1)~上記(5)のいずれか1項に記載のはんだ供給方法。
【0024】
(10~13) はんだ槽内のBi含有はんだ合金から、追加供給はんだの供給量と略同質量のBi含有はんだ合金をはんだ槽外に導出した後、追加供給はんだをはんだ槽内に供給する、上記(6)~上記(9)のいずれか1項に記載のはんだ供給方法。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を以下により詳しく説明する。本明細書において、はんだ合金組成に関する「%」は、特に指定しない限り「質量%」である。
【0026】
1. はんだ供給方法
本発明に係るはんだ供給方法は、Bi含有はんだ合金を入れたはんだ槽にはんだを供給する方法である。本発明は、はんだ槽を備えるはんだ付け装置を用いたはんだ付けに適用される。
【0027】
本発明に係るはんだ供給方法に用いるはんだ槽の容量は、プリント基板をはんだ付けするために必要な溶融はんだを投入することができればよく、例えば数g~数百Kgであればよい。
【0028】
はんだ槽に最初に投入するはんだ合金の初期投入組成は、Bi含有はんだ合金であれば特に限定されることはなく、例えば、Sn-Biはんだ合金、Sn-Bi-Agはんだ合金などが挙げられる。なお、本発明において、「Bi含有はんだ合金」は、特に限定されない限り、はんだ槽に最初に投入する初期投入組成を有するものとする。
【0029】
Bi含有はんだ合金におけるBiの含有量は、例えば10~60%であればよく、30~60%であってもよい。具体的なBi含有はんだ合金中のBi含有量は、例えば、58%、57%、40%、35%、30%等が挙げられる。
【0030】
また、本発明に用いるBi含有はんだ合金は、任意元素として、In、Zn、Mn、Cr、Co、Fe、Si、Al、Ti、Ag、Cu、Ni、Sb、および希土類元素の少なくとも1種を含有してもよい。各々の元素の含有量は、好ましくは、In、Sb、およびZnの少なくとも1種を合計で5%以下、Mn、Cr、Co、Fe、Si、Al、Ti、および希土類元素の少なくとも1種を合計で1%以下である。本発明において希土類元素とは、周期律表において第3族に属するSc、Yと原子番号57~71に該当するランタン族の15個の元素を合わせた17種の元素のことである。
【0031】
Bi含有はんだ合金の合金組成としてはSn-57Bi-1Ag(溶融温度:138-145℃)、Sn-58Bi-0.5Sb-0.015Ni(溶融温度:140-145℃)、Sn-57Bi-0.4Ag(溶融温度:138-141℃)、Sn-40Bi-0.5Cu-0.03Ni(溶融温度:139-174℃)、Sn-35Bi-0.5Cu-0.03Ni(溶融温度:140-182℃)が挙げられる。なお、カッコ内の融点は、固相線温度から液相線温度の温度域を表す。
【0032】
初期投入組成のはんだ合金の特性が損なわれない範囲内で不可避的不純物を含んでもよい。Bi含有はんだ合金の溶融温度は190℃以下であればよい。
【0033】
はんだ槽に追加供給する追加供給はんだは、Snおよび/またはBi含有はんだ合金よりBiの含有量が少ない低Biはんだ合金である。はんだ槽内のBi含有はんだ合金は、基板のはんだ付けによりSnを消費するため、相対的にBiの含有量が増加する。このため、はんだ槽内のはんだ合金のBi含有量を初期投入組成のBi含有量に調整するために追加供給する追加供給はんだのBi含有量は、初期投入組成を有するBi含有はんだ合金より少ないことが必要である。
【0034】
低Biはんだ合金のBi含有量は、Bi含有はんだ合金に含まれるBi含有量の0~90%程度であればよく、供給時期に応じて変更してもよい。Biを含有しないはんだ合金であってもよい。なお、追加供給はんだは、いずれもBi含有はんだ合金の特性が損なわれない範囲内で不可避的不純物を含んでもよい。また、追加供給はんだは、Bi含有はんだ合金と同様に、前述の任意元素を含有してもよい。
【0035】
なお、追加供給組成のBi含有量が当初投入組成よりわずかに低い追加供給はんだを用いる場合、Bi含有量を当初投入組成に戻すためには追加供給量を多くする必要があることがある。このため、追加供給はんだの組成は、追加供給量と追加供給はんだのBi含有量との兼ね合いで任意に決定することができる。ただ、前述のように、追加供給組成は、少なくとも当初投入組成のBi含有量より低い必要がある。
【0036】
本発明では、上述の追加供給はんだを用いて、はんだ槽内の増加したBi含有量を、初期投入組成を有するBi含有はんだ合金のBi含有量に調整することができる。これは、追加供給はんだのBi含有量が初期投入組成のBi含有量より少ないために成し得るものである。好ましい態様については後述する。
【0037】
前述のように、浸漬法やフロー法を用いたはんだ付けでは、ドロスを定期的に除去する必要がある。また、はんだ付けを行う基板の枚数が多いほど、はんだ付けに費やすはんだ量は多くなる。このため、本発明では、はんだ槽に最初にBi含有はんだ合金を導入してから追加供給はんだを供給する直前までの時間域において、所定時間毎または所定タイミング毎に、はんだ槽に最初に導入したBi含有はんだ合金を導入してもよい。
【0038】
所定のタイミングとは、例えばドロスを除去するタイミングである。また、所定時間とは、例えば単位時間当たりの基板のはんだ付け枚数が長時間に渡り一定である場合、はんだ槽内の溶融はんだが低減する量ははんだ付け時間に応じて減少する。このような状況下では、所定時間毎に追加供給はんだを供給すればよい。
【0039】
追加供給はんだを追加供給するタイミングは、例えば、Bi含有はんだ合金をはんだ槽に投入した初期の液面高さから1~20mm程度下がった時であればよく、5~8mmであってもよい。供給時の液面高さに応じて、上述のようにSnもしくはBi含有量が調整された低Biはんだ合金を供給してもよい。
【0040】
本発明において、この他のタイミングとしては、追加供給はんだを供給する直前のはんだ槽内のはんだ合金を構成するBiの含有量を基準としてもよい。例えば、追加供給する直前におけるはんだ槽内のBi含有量の増加率が2%以上になった場合に追加供給を行ってもよく、2.4%以上になった場合に追加供給を行ってもよい。この増加率は、[{(追加供給直前のBi含有量)-(初期投入組成のBi含有量)}/(初期投入組成のBi含有量)]×100(%)で算出することができる。追加供給する直前におけるはんだ槽内のBi含有量は、例えば、ICP質量分析により求めてもよい。
【0041】
また、本発明において、追加供給はんだの供給量は、以下のように求めることができる。(初期投入組成のBi含有量)-(追加供給はんだのBi含有量)=Xとし、(追加供給直前のBi含有量)-(初期投入組成のBi含有量)=Yとする。これらを用い、(初期投入量)/{(X/Y)+1}により、求めることができる。たとえば、初期投入量が420kg、初期投入組成のBi含有量が58質量%、追加供給はんだのBi含有量が0%(例えばSn)、追加供給直前のBi含有量が59.77質量%である場合、X=58、Y=1.77であるため、(追加供給はんだの供給量)=420/{(58/1.77)+1}≒12.44kgとなる。
【0042】
本発明では、このように求めた追加供給はんだの追加供給量をはんだ槽に追加するが、前述のように、初期投入組成と同一組成のBi含有はんだ合金を定期的に供給している場合には、はんだ槽内のはんだ量は常にほぼ満タンである。このような場合には、追加供給はんだを供給する前に、追加供給はんだの追加供給量と略同質量の溶融はんだをはんだ槽外に導出してもよい。初期投入組成と同一組成のBi含有はんだ合金を定期的に供給していない場合には、はんだ槽内のはんだ量が追加供給量だけ低減した時に追加供給してもよい。はんだ槽内のはんだ量の低減量は、はんだ槽内の溶融はんだの液面の高さの変化に基づいて求めることができる。
【0043】
追加供給はんだ合金が追加供給された後におけるはんだ槽内のBi含有量は、Bi含有はんだ合金の初期投入組成におけるBi含有量との差が小さい方が好ましい。例えば、初期投入組成のBi含有量と追加供給後のBi含有量との差の割合[{(追加供給後のBi含有量)-(初期投入組成のBi含有量)}/(初期投入組成のBi含有量)]×100(%)が、初期投入組成におけるBi含有量の±1.0%に入る程度であればよく、±0.57%に入ることが好ましい。この範囲内であれば、初期投入されたBi含有はんだ合金の諸特性が維持される。
【0044】
本実施形態では、Biに着目した供給方法を説明したが、はんだ付けにより相対的に含有量が増加する元素にも適用される。特に、AgもBiと同様の手法により含有量を当初投入組成に調整することができる。
【0045】
本実施形態によれば浸漬法またはフロー法でBi含有はんだ合金を用いたはんだ付けを行なった場合、はんだ槽内の溶融はんだ中からSnが消費されてBiの含有量が高くなっても、追加供給はんだがSn、もしくは初期投入組成のBi含有量より少ない低Biはんだ合金であるため、はんだ槽中のBi含有量を初期投入組成と略同一のBi含有量にすることができる。従って、本発明のはんだ供給方法ではんだ槽にはんだを追加供給すれば、はんだ付け性が低下することを抑制できるため、はんだ付け不良の発生も非常に少なくなる。また、はんだ槽から導出した使用済みはんだ合金の回収量を抑制し、環境負荷の低減、はんだ付け工程時間の短縮、更には、はんだ付けのコスト上昇の抑制を図ることができる。
【実施例】
【0046】
本発明を以下の実施例により説明するが、本発明が以下の実施例に限定されることはない。
実施例1:
千住金属工業株式会社製のフローはんだ装置(MTF-300)を用い、はんだ槽中に、下記表1に示す当初投入組成のSnBi(Biの含有量は58質量%であり、残部はSnと不可避的不純物である。)はんだ合金を420Kg投入した。その後、追加供給はんだを供給するまでは、ドロスを除去する度に、当初投入組成と同一組成のBi含有はんだ合金(追加供給組成1)をはんだ槽に導入し続けた。このはんだ槽でフロー法により、Cu張基板(Cuの広さ:200mm×350mm)のはんだ付けを行い続けた。
【0047】
そして、はんだ槽内のBi含有量が59.77質量%になった後、追加供給はんだとしてSn(残部は不可避不純物)を用い、追加供給はんだの供給量を求めたところ、12.44Kgであった。はんだ槽から溶融はんだをはんだ槽から12.44Kgだけ導出し、追加供給はんだであるSn(残部は不可避的不純物)(追加供給組成2)を12.44Kg導入した。はんだ槽内のBi含有量は、Agilent Technologies社のICP質量分析装置(ICP-MS)(RFパワー:1600W)を用いてICP分析を行い計測した。
【0048】
そして、はんだ槽内のSnBiはんだ合金に、追加供給組成2を有する追加供給はんだを追加供給した後の溶融はんだに含まれるBiの含有量を、前述のICP質量分析装置を用いて計測した。その結果、Biの含有量は58.25質量%となっており、初期投入組成のはんだ合金に近い成分になっていた。
【0049】
実施例2~4、実施例7~10
実施例1において、初期投入組成、追加供給組成1、2、追加供給タイミング、および追加供給量が表1に示す条件であることを除いて、実施例1と同様にはんだの追加供給を行った。いずれも、表1に示すように、初期投入組成のはんだ合金に近い成分となっていた。
【0050】
実施例5、6、11、12
小型フロー装置(マルコム社製、フローシミュレーター)を用い、Cuの広さ:70mm×100mmのCu張基板のはんだ付けを行い、初期投入量、当初投入組成、追加供給組成1、2、追加供給タイミング、および追加供給量が表1に示す条件で追加供給を行った。いずれも、表1に示すように、初期投入組成のはんだ合金に近い成分となっていた。
【0051】
実施例13
実施例13では、当初投入組成と同一組成のBi含有はんだ合金(追加供給組成1)をはんだ槽に導入せず、はんだ槽内の溶融はんだの液面高さが初期の液面高さから5mm下がるまで、実施例1と同様にCu張基板(Cuの広さ:200mm×350mm)のはんだ付けを行った。その後、液面高さが投入当初に戻るまで追加供給はんだ(追加供給組成2)を供給した。
【0052】
比較例1
実施例1において、追加供給組成1、2を初期投入組成と同一の組成とし、実施例1と同様にCu張基板(Cuの広さ:200mm×350mm)のはんだ付けを行い、表1に示す条件ではんだの追加供給を行った。表1に示すように、初期投入組成より大幅にBiの含有量が増加した。
なお、表1中のはんだ組成は、いずれも不可避的不純物を含む。
【0053】
【0054】
このように、すべての実施例は、いずれも追加供給組成2のはんだを供給した後におけるはんだ槽内のBi含有量が初期投入組成に近い組成に調整されていることがわかった。一方、比較例1では、はんだ槽の半分の質量である210kgを導出した後、初期投入組成と同じ組成の追加供給はんだを供給したため、初期投入組成に調整することができなかった。
【要約】 (修正有)
【課題】Bi含有はんだ合金で多数のプリント基板にはんだ付けを行なった後であっても、はんだ槽内のはんだ合金に含まれるBiの含有量を所定量に維持するはんだ供給方法を提供する。
【解決手段】はんだ供給方法は、Bi含有はんだ合金を導入したはんだ槽に、Snおよび/またはBi含有はんだ合金よりBiの含有量が少ない低Biはんだ合金である追加供給はんだを供給して、はんだ槽内のBi含有量を、はんだ槽に入れた当初におけるBi含有はんだ合金のBi含有量に調整する。
【選択図】なし