(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】免疫グロブリン結合性ポリペプチド
(51)【国際特許分類】
C07K 14/31 20060101AFI20241113BHJP
C07K 17/02 20060101ALI20241113BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241113BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241113BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241113BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241113BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241113BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20241113BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20241113BHJP
C07K 1/22 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
C07K14/31 ZNA
C07K17/02
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
C12N15/31
C07K1/22
(21)【出願番号】P 2020138896
(22)【出願日】2020-08-19
【審査請求日】2023-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 瑛大
(72)【発明者】
【氏名】山中 直紀
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 陽介
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-533924(JP,A)
【文献】国際公開第2017/022759(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/034000(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/093439(WO,A1)
【文献】特開2007-252368(JP,A)
【文献】特表2014-508118(JP,A)
【文献】特許第7432813(JP,B2)
【文献】特許第7363134(JP,B2)
【文献】特開2022-034946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
C12P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブドウ球菌属細菌由来Protein Aの改変された免疫グロブリン結合ドメインを含む免疫グロブリン結合性ポリペプチドであって、
前記改変された免疫グロブリン結合ドメイン
が、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含む、ポリペプチド。
【請求項2】
請求項
1に記載の免疫グロブリン結合性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項
2に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項4】
請求項
2に記載のポリヌクレオチドまたは請求項
3に記載の発現ベクターを含む、遺伝子組換え宿主。
【請求項5】
宿主が大腸菌である、請求項
4に記載の遺伝子組換え宿主。
【請求項6】
請求項
4または5に記載の遺伝子組換え宿主を培養し、請求項
1に記載の免疫グロブリン結合性ポリペプチドを発現させる工程と、発現した前記ポリペプチドを回収する工程とを含む、免疫グロブリン結合性ポリペプチドの製造方法。
【請求項7】
不溶性担体と、当該不溶性担体に固定化した請求項
1に記載の免疫グロブリン結合性ポリペプチドとを含む、免疫グロブリン吸着剤。
【請求項8】
請求項
7に記載の吸着剤を充填したカラムに免疫グロブリンを含む溶液を添加し当該免疫グロブリンを前記吸着剤に吸着させる工程と、前記吸着剤に吸着した免疫グロブリンを溶出させる工程とを含む、前記溶液中に含まれる免疫グロブリンの分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫グロブリンに特異的に結合するポリペプチドに関する。より詳しくは、本発明は、免疫グロブリン吸着量に優れた前記ポリペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
抗体医薬は生体内の免疫機能を担う分子である抗体(免疫グロブリン)を利用した医薬である。抗体医薬は抗体が有する可変領域の多様性により標的分子に対し高い特異性と親和性をもって結合する。そのため抗体医薬は副作用が少なく、また、近年では適応疾患が広がってきていることもあり市場が急速に拡大している。
【0003】
抗体医薬の製造は培養工程と精製工程を含み、培養工程では生産性を向上させるために抗体産生細胞の改質や培養条件の最適化が図られている。また、精製工程では粗精製としてアフィニティークロマトグラフィーが採用され、その後の中間精製、最終精製、およびウイルス除去を経て製剤化される。
【0004】
精製工程では、不溶性担体と、当該不溶性担体に固定化した抗体分子を特異的に認識するタンパク質(リガンド)とを含む、アフィニティー吸着剤も用いられている。前記リガンドとして、ブドウ球菌(Staphylococcus)属細菌由来Protein A(以下、SpAと略)や連鎖球菌(Streptococcus)属細菌由来のProtein Gなどが多く用いられている。
【0005】
抗体医薬を製造する際は、その生産コストを低く保つため、これらアフィニティー担体は複数回使用され、使用後は当該担体に残存した不純物を除去する工程を行なう。前記不純物を除去する工程では、通常、水酸化ナトリウムを用いた定置洗浄を行ない、アフィニティー担体を再生させる。従って前記リガンドタンパク質は、前記再生工程を行なっても、抗体への結合性が維持されるだけの化学的安定性を有する必要がある。
【0006】
化学的安定性を有する、アフィニティー担体で用いられるリガンドタンパク質の一例として、SpAのドメインCのアミノ酸配列を利用したアルカリ安定クロマトグラフィーリガンド(特許文献1)や、SpAのドメインB、ドメインC、ドメインZのうち、いずれかのドメインの一部のアミノ酸配列が欠失したアミノ酸配列から構成されるアフィニティークロマトリガンド(特許文献2)が挙げられる。また、SpAのドメインCにおいてリジンを他のアミノ酸に置換することで、化学的安定性が向上することが知られている(特許文献3)。また、ドメインZにおいて29番目のグリシンをアラニンに置換することで、構造が安定化することが知られている(非特許文献1)。
【0007】
一方で、抗体医薬の生産性向上の観点から、アフィニティー吸着材当たりの抗体吸着量の増加も求められている。抗体吸着量を向上させたリガンドとして、免疫グロブリン結合ドメインをタンデムに連結したポリペプチド(非特許文献2)や、リンカーを介して免疫グロブリン結合ドメインを二つ以上連結したポリペプチド(特許文献4)が開示されている。このように抗体吸着量が向上した免疫グロブリン結合性ポリペプチドが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2010-504754号公報
【文献】特開2012-254981号公報
【文献】WO2012/133342号
【文献】WO2015/034000号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Bjorn Nilsson他,Protein Engineering,1(2),107-113,1987
【文献】Freiherr von Roman M他,Journal of chromatography A,(1347),80-86,2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、免疫グロブリン結合活性を有し、かつ免疫グロブリン吸着量が向上した免疫グロブリン結合性ポリペプチド、および不溶性担体と当該不溶性担体に固定化した前記ポリペプチドとを含む免疫グロブリン吸着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、ブドウ球菌属細菌由来Protein A(SpA)の免疫グロブリン結合性ドメインにおいて少なくとも、黄色ブドウ球菌由来SpAのドメインC(配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるドメイン)の50番目のリジンに相当するアミノ酸残基を、トリプトファンに置換することによって、免疫グロブリン吸着量が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の[1]から[13]に示す態様を包含する。
【0013】
[1] ブドウ球菌属細菌由来Protein Aの改変された免疫グロブリン結合ドメインを含む免疫グロブリン結合性ポリペプチドであって、免疫グロブリン結合ドメインの改変が配列番号1の50番目のリジンに相当するアミノ酸残基のトリプトファンへの置換を含むポリペプチド。
【0014】
[2] 改変された免疫グロブリン結合ドメインが、以下の(a)から(c)のいずれかに記載のアミノ酸配列を有する、[1]に記載の免疫グロブリン結合性ポリペプチド:
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列において50番目のリジンがトリプトファンに置換されたアミノ酸配列
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列において50番目のリジンがトリプトファンに置換され、さらに、50番目以外の1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、ならびに/または付加されたアミノ酸配列
(c)配列番号1に記載のアミノ酸配列またはその部分配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、配列番号1の50番目のリジンに相当するアミノ酸残基がトリプトファンに置換されているアミノ酸配列。
【0015】
[3] 改変された免疫グロブリン結合ドメインが、さらに、
配列番号1の35番目のリジンに相当するアミノ酸残基のアルギニンへの置換、および
配列番号1の49番目のリジンに相当するアミノ酸残基のメチオニンへの置換
を含む、[1]または[2]に記載の免疫グロブリン結合性ポリペプチド。
【0016】
[4] 改変された免疫グロブリン結合ドメインが、さらに、
配列番号1の35番目のリジンに相当するアミノ酸残基のアルギニンへの置換、
配列番号1の49番目のリジンに相当するアミノ酸残基のメチオニンへの置換、および
配列番号1の11番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基のアルギニンへの置換
を含む、[1]または[2]に記載の免疫グロブリン結合性ポリペプチド。
【0017】
[5] 改変された免疫グロブリン結合ドメインが、さらに、
配列番号1の3番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基のヒスチジンへの置換、
配列番号1の4番目のリジンに相当するアミノ酸残基のアルギニンへの置換、
配列番号1の7番目のリジンに相当するアミノ酸残基のバリンへの置換、
配列番号1の15番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基のアラニンへの置換、
配列番号1の21番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基のチロシンへの置換、
配列番号1の29番目のグリシンに相当するアミノ酸残基のアラニンへの置換、
配列番号1の39番目のセリンに相当するアミノ酸残基のグリシンへの置換、
配列番号1の40番目のバリンに相当するアミノ酸残基のアラニンへの置換、
配列番号1の42番目のリジンに相当するアミノ酸残基のロイシンへの置換、および
配列番号1の58番目のリジンに相当するアミノ酸残基のアスパラギン酸への置換
を含む、[1]から[4]のいずれかに記載の免疫グロブリン結合性ポリペプチド。
【0018】
[6] 改変された免疫グロブリン結合ドメインが、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含む、[1]に記載のペプチド。
【0019】
[7] [1]から[6]のいずれかに記載の免疫グロブリン結合性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0020】
[8] [7]に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【0021】
[9] [7]に記載のポリヌクレオチドまたは[8]に記載の発現ベクターを含む、遺伝子組換え宿主。
【0022】
[10] 宿主が大腸菌である、[9]に記載の遺伝子組換え宿主。
【0023】
[11] [9]または[10]に記載の遺伝子組換え宿主を培養し、[1]から[6]のいずれかに記載の免疫グロブリン結合性ポリペプチドを発現させる工程と、発現した前記ポリペプチドを回収する工程とを含む、免疫グロブリン結合性ポリペプチドの製造方法。
【0024】
[12] 不溶性担体と、当該不溶性担体に固定化した[1]から[6]のいずれかに記載の免疫グロブリン結合性ポリペプチドとを含む、免疫グロブリン吸着剤。
【0025】
[13] [12]に記載の吸着剤を充填したカラムに免疫グロブリンを含む溶液を添加し当該免疫グロブリンを前記吸着剤に吸着させる工程と、前記吸着剤に吸着した免疫グロブリンを溶出させる工程とを含む、前記溶液中に含まれる免疫グロブリンの分離方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドにおいては少なくとも、配列番号1の50番目のリジンに相当するアミノ酸残基のトリプトファンへの置換を導入することによって、免疫グロブリン吸着量が向上している。したがって、抗体(免疫グロブリン)分離用吸着剤を構成するリガンドポリペプチドとして有用である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0028】
本発明は、ブドウ球菌属細菌由来Protein Aの改変された免疫グロブリン結合ドメイン(以下「改変型免疫グロブリン結合ドメイン」とも称する)を含み、免疫グロブリン結合ドメインの改変が配列番号1の50番目のリジンに相当するアミノ酸残基のトリプトファンへの置換を含む免疫グロブリン結合性ポリペプチドに関する。
【0029】
本発明において「免疫グロブリン結合性」とは、免疫グロブリンに対する結合性を意味し、「免疫グロブリン結合活性」または「抗体結合活性」とも称する。また、免疫グロブリンのFc領域に対する結合性であってもよい。「免疫グロブリン結合性ポリペプチド」とは、免疫グロブリン結合性を有するポリペプチドを意味する。なお、任意のポリペプチドが免疫グロブリン結合性を有するか否かは、当業者であれば、公知の手法、例えば、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法を用い測定することにより判定できる。
【0030】
本発明において、後述の本発明にかかるアミノ酸置換(Lys50Trp等)が導入されることにより改変される「免疫グロブリン結合ドメイン」とは、ブドウ球菌(Staphylococcus)属細菌由来Protein A(以下、SpAと略)の免疫グロブリン結合ドメインを意味する。
【0031】
SpAの由来であるブドウ球菌属細菌としては、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が挙げられる。免疫グロブリン結合ドメインとしては、ドメインC、ドメインE、ドメインD、ドメインA、ドメインB/Zが挙げられる。免疫グロブリン結合ドメインとしては、特に、ドメインCが挙げられる。黄色ブドウ球菌由来Protein AのドメインCとしては、GenBank No.AAA26676の270番目から327番目までのアミノ酸残基が挙げられる。当該ドメインCのアミノ酸配列を配列番号1に示す。また黄色ブドウ球菌由来Protein AのドメインEとしては、GenBank No.AAA26676の37番目から92番目までのアミノ酸残基からなるポリペプチドが挙げられる。当該ドメインEのアミノ酸配列を配列番号4に示す。また黄色ブドウ球菌由来Protein AのドメインDとしては、GenBank No.AAA26676の93番目から153番目までのアミノ酸残基からなるポリペプチドが挙げられる。当該ドメインDのアミノ酸配列を配列番号5に示す。また黄色ブドウ球菌由来Protein AのドメインAとしては、GenBank No.AAA26676の154番目から211番目までのアミノ酸残基からなるポリペプチドが挙げられる。当該ドメインAのアミノ酸配列を配列番号6に示す。また黄色ブドウ球菌由来Protein AのドメインBとしては、GenBank No.AAA26676の212番目から269番目までのアミノ酸残基からなるポリペプチドが挙げられる。当該ドメインBのアミノ酸配列を配列番号7に示す。また黄色ブドウ球菌由来Protein AのドメインZとしては、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。
【0032】
後述のLys50Trp等が導入されることにより改変される、本発明にかかるSpAの免疫グロブリン結合ドメインは、前述の特定のアミノ酸配列のような、天然に見出される配列であってもよく、またそのバリアント(variant)配列であってもよい。
【0033】
バリアント配列としては、SpAの免疫グロブリン結合ドメイン(例えば、配列番号1に記載のアミノ酸配列)において、1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列が挙げられる。
【0034】
前記「1もしくは数個」とは、アミノ酸残基のポリペプチドの立体構造における位置やアミノ酸残基の種類によっても異なるが、具体的には、例えば、1から30個、1から20個、1から10個、1から9個、1から8個、1から7個、1から6個、1から5個、1から4個、1から3個、1から2個、1個のいずれかを意味する。前記のアミノ酸残基の置換の一例としては、物理的性質および/または化学的性質が類似したアミノ酸間で置換が生じる保守的置換が挙げられる。保守的置換の場合、一般に、置換が生じているものと置換が生じていないものとの間でポリペプチドの機能が維持されることが当業者において知られている。保守的置換の一例としては、グリシンとアラニン間、セリンとプロリン間、またはグルタミン酸とアラニン間での置換があげられる(タンパク質の構造と機能,メディカル・サイエンス・インターナショナル社,9,2005)。また、前記のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加には、例えば、ポリペプチドまたはそれをコードする遺伝子が由来する微生物の個体差や種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(ミュータント(mutant)またはバリアント(variant))によって生じるものも含まれる。
【0035】
また、SpAの免疫グロブリン結合ドメインのバリアント配列としては、前記ドメインのアミノ酸配列(例えば、配列番号1に記載のアミノ酸配列)またはその部分配列に対して高い相同性を有するアミノ酸配列も挙げられる。前記「相同性」とは、類似性(Similarity)または同一性(identity)を意味してよく、特に同一性を意味してもよい。アミノ酸配列間の「同一性(identity)」とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率を意味する(実験医学 2013年2月号 Vol.31 No.3、羊土社)。アミノ酸配列間の「類似性(similarity)」とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率と側鎖の性質が類似したアミノ酸残基の比率の合計を意味する(実験医学 2013年2月号 Vol.31 No.3、羊土社)。側鎖の性質が類似したアミノ酸残基については前述した通りである。アミノ酸配列の相同性は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)やFASTA等のアラインメントプログラムを利用して決定できる。前記「高い相同性」とは、70%以上、80%以上、90%以上、または95%以上の相同性を意味してよい。
【0036】
本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドは、上述のSpAの免疫グロブリン結合ドメインにおいて、少なくとも配列番号1の50番目のリジンに相当するアミノ酸残基のトリプトファンへの置換が導入されたことにより改変されたポリペプチドである。
【0037】
なお、本発明において、「配列番号1のα番目のアミノ酸」とは、配列番号1に記載のアミノ酸配列のN末端から数えてα位の位置に存在するアミノ酸を意味する。あるアミノ酸配列における「配列番号1のα番目のアミノ酸に相当するアミノ酸残基」とは、あるアミノ酸配列におけるアミノ酸残基であって、当該あるアミノ酸配列と配列番号1のアミノ酸配列とのアライメント(alignment)において配列番号1に示すアミノ酸配列におけるα番目のアミノ酸と同一の位置に配列されるアミノ酸残基を意味する。前記アライメントは、例えば、BLASTやFASTA等のアライメントプログラムを利用して実施できる。また、本発明において「Xaa1αXaa2」とは、配列番号1のα番目のXaa1に相当するアミノ酸残基のXaa2への置換を意味する。すなわち、「配列番号1の50番目のリジンに相当するアミノ酸残基のトリプトファンへの置換」は、Lys50Trpとも表記される。
【0038】
本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドは、改変型免疫グロブリン結合ドメインにおいて、Lys50Trp以外の他のアミノ酸置換をさらに有してもよい(Lys50Trp及び他のアミノ酸置換を「本発明にかかるアミノ酸置換」又は「Lys50Trp等」とも総称する)。他のアミノ酸置換としては、Asn11Arg、Lys35ArgおよびLys49Metのうちいずれか1つ以上のアミノ酸置換が挙げられる。また、Asn3His、Lys4Arg、Lys7Val、Glu15Ala、Asn21Tyr、Ser39Gly、Val40Ala、Lys42LeuおよびLys58Aspのうちいずれか1つ以上のアミノ酸置換、ならびに/または構造安定性が増すことが知られているGly29Alaのアミノ酸置換(Bjorn Nilsson他、Protein Engineering,1(2),107-113,1987)が、前記他のアミノ酸置換として、改変型免疫グロブリン結合ドメインに導入されていてもよい。また、他のアミノ酸置換としては、Asp2Glu、Asp3Ile、Asp3Thr、Asp4Thr、Asn11Tyr、Ser39Cys、Glu47Val、Lys58Glu、Lys58ValおよびLys58Asnのうちいずれか1つ以上のアミノ酸置換も挙げられる。
【0039】
本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドが、Lys50Trp以外の他のアミノ酸置換(Asn11Arg等)を2つまたはそれ以上有する場合、当該他のアミノ酸置換の組み合わせは特に制限されないが、前記他のアミノ酸置換の組み合わせとして、具体的には、
Lys35ArgおよびLys49Metのアミノ酸置換、
Asn11Arg、Lys35ArgおよびLys49Metのアミノ酸置換、
Asn3His、Lys4Arg、Lys7Val、Asn11Arg、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Lys35Arg、Ser39Gly、Val40Ala、Lys42Leu、Lys49MetおよびLys58Aspのアミノ酸置換、
が挙げられる。
【0040】
本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドとして、より具体的には、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、当該アミノ酸配列において、Asn3His、Lys4Arg、Lys7Val、Asn11Arg、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Lys35Arg、Ser39Gly、Val40Ala、Lys42Leu、Lys49Met、Lys50TrpおよびLys58Aspのアミノ酸置換が導入された、改変型免疫グロブリン結合ドメイン(配列番号3に記載のアミノ酸配列を含む改変型免疫グロブリン結合ドメイン)が挙げられる。
【0041】
なお、配列番号3に記載のアミノ酸配列は、配列番号1に記載のアミノ酸配列においてAsn3His、Lys4Arg、Lys7Val、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Ser39Gly、Val40Ala、Lys42LeuおよびLys58Aspのアミノ酸置換が導入された配列(配列番号2に記載のアミノ酸配列)に、Asn11Arg、Lys35Arg、Lys49MetおよびLys50Trpのアミノ酸置換がさらに導入された配列である。
【0042】
本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドは、上述の改変型免疫グロブリン結合ドメインを1個のみ含んでいてもよく、改変型免疫グロブリン結合ドメインを複数個含んでいてもよい。本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドは、例えば、改変型免疫グロブリン結合ドメインを2個以上、3個以上、4個以上、または5個以上含んでいてもよく、10個以下、7個以下、5個以下、4個以下、3個以下、または2個以下含んでいてもよく、それらの矛盾しない組み合わせの個数含んでいてもよい。本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドが複数個の改変型免疫グロブリン結合ドメインを含む場合、それら複数個の改変型免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列は同一であってもよく、そうでなくてもよい。それら複数個の改変型免疫グロブリン結合ドメインは、例えば、適切なリンカーを介して互いに連結されていてよい。なお、かかるリンカーとして、その配列および長さ等に関し、特に制限はないが、例えば、Gly-Gly、Gly-Ala-Gly、Gly-Pro-Gly、Gly-Gly-Gly-Gly-Ser等の繰り返し単位が複数連結されてなるリンカーが挙げられる。また、最も一般的なリンカーとしては、Gly-Gly-Gly-Gly-Serを3回繰り返してなるリンカーが挙げられる。
【0043】
本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドは、選択した免疫グロブリン結合ドメイン由来の改変型免疫グロブリン結合ドメインに加えて、他の免疫グロブリン結合ドメインの一部および/またはSpAの免疫グロブリン結合ドメイン以外の領域の一部を含んでいてもよい。例えば、本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドがドメインC由来の改変型免疫グロブリン結合ドメインを含む場合、さらに、SpAのドメインCのN末端側領域(ドメインE、ドメインD、ドメインA、ドメインB/Z)の一部を含んでいてもよく、またSpAのドメインCのC末端側領域の一部を含んでいてもよい。
【0044】
本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドは、改変型免疫グロブリン結合ドメインのみからなるものであってもよく、他のアミノ酸配列(例えばオリゴペプチド)をさらに含んでいてもよい。例えば、本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドにおいて、改変型免疫グロブリン結合ドメインのN末端側およびC末端側の少なくともいずれか一方に他のアミノ酸配列が付加されていてもよい。
【0045】
他のアミノ酸配列は、本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドの免疫グロブリン結合性や安定性を損なわない限り、例えば、その種類、長さ等は、特に制限されない。より具体的には、目的物を特異的に検出または分離する目的で、ポリヒスチジンやポリアルギニン等のポリペプチドを、改変型免疫グロブリン結合ドメインの末端に直接または間接的に付加することが挙げられる。また、本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドをクロマトグラフィー用の支持体等の固相に固定化する目的で、リジンやシステインを含むオリゴペプチド等を、改変型免疫グロブリン結合ドメインの末端に直接または間接的に付加することが挙げられる。
【0046】
本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドが前記のような他のアミノ酸配列を含む場合、本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドは、例えば、予め他のアミノ酸配列を含む形態で製造されてもよいし、別途製造された前記のような他のアミノ酸配列が付加されてもよい。本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドが前記のような他のアミノ酸配列を含む場合、典型的には、本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドは、前記のような他のアミノ酸配列を含む本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドの全長アミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドから発現させることで製造できる。すなわち、例えば、他のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドと本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチド(例えば他のアミノ酸配列を含まないもの)をコードするポリヌクレオチドとを、他のアミノ酸配列が本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドのN末端側またはC末端側に付加されるように連結し、本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドを発現させてもよい。また例えば、化学的に合成した他のアミノ酸配列を本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチド(例えば他のアミノ酸配列を含まないもの)のN末端側またはC末端側に化学的に結合させてもよい。
【0047】
本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドは、例えば、本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドから発現させることで製造できる。本明細書では、本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、「本発明のポリヌクレオチド」ともいう。本発明のポリヌクレオチドは、具体的には、本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドであってよい。
【0048】
本発明のポリヌクレオチドは、例えば、化学合成法、またはPCR法等のDNA増幅法により取得できる。DNA増幅法は、例えば、本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列等の増幅すべきヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを鋳型として実施できる。鋳型とするポリヌクレオチドとしては、本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドを発現する生物のゲノムDNA、本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドのcDNA、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターが挙げられる。本発明のポリヌクレオチドのヌクレオチド配列は、例えば、本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドのアミノ酸配列からの変換により設計できる。アミノ酸配列からヌクレオチド配列に変換する際には、標準のコドンテーブルを使用できるが、本発明のポリヌクレオチドで形質転換する宿主におけるコドンの使用頻度を考慮して変換するのが好ましい。一例として、宿主が大腸菌(Escherichia coli)の場合は、アルギニン(Arg)ではAGA/AGG/CGG/CGAが、イソロイシン(Ile)ではATAが、ロイシン(Leu)ではCTAが、グリシン(Gly)ではGGAが、プロリン(Pro)ではCCCが、それぞれ使用頻度が少ないため(いわゆるレアコドン(rare codon)であるため)、それらのコドンを避けるように変換してよい。コドンの使用頻度の解析は公的データベース(例えば、かずさDNA研究所のウェブサイトにあるCodon Usage Databaseなど)を利用することによっても可能である。
【0049】
また本発明のポリヌクレオチドは、例えば、上述の免疫グロブリン結合ドメイン(例えば配列番号1に記載のアミノ酸配列またはそのバリアント配列を含む免疫グロブリン結合ドメイン)をコードするポリヌクレオチドに、当該ドメインがLys50Trp等のアミノ酸置換を有するように変異を導入することによっても、取得できる。免疫グロブリン結合ドメインをコードするポリヌクレオチドは、例えば、化学合成法、またはPCR法等のDNA増幅法で取得できる。本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドが、その改変型免疫グロブリン結合ドメインにおいて2以上のアミノ酸置換を有している場合、それらのアミノ酸置換は、例えば、同時に、または順次、導入されてよい。例えば、免疫グロブリン結合性ドメインをコードするポリヌクレオチドに、当該ドメインにおいて2箇所以上の本発明にかかるアミノ酸置換を有するように変異を導入してもよい。また、ある位置のアミノ酸残基を2回以上改変してもよい。例えば、既にAsn11Lysのアミノ酸置換を有する免疫グロブリン結合性ポリペプチドをさらにAsn11Argのアミノ酸置換を導入してもよい。
【0050】
またポリヌクレオチドは、前記例示したアミノ酸置換を生じる変異に限られず、バリアント配列の構築のための変異等の任意の変異を導入して、本発明のポリヌクレオチドまたはそれを取得するための材料として利用してよい。
【0051】
ポリヌクレオチドへ変異を導入する方法としては、エラープローンPCR法が挙げられる。エラープローンPCR法における反応条件は、ポリヌクレオチドに所望の変異を導入できる条件であれば特に制限されない。例えば、基質である4種類のデオキシヌクレオチド(dATP/dTTP/dCTP/dGTP)の濃度を不均一にし、MnCl2を0.01から10mM(好ましくは0.1から1mM)の濃度でPCR反応液に添加してPCRを行なうことで、ポリヌクレオチドに変異を導入できる。
【0052】
また、ポリヌクレオチドへ変異を導入する方法としては、インバースPCR法も挙げられる。インバースPCR法は、まず目的とする遺伝子を挿入したポリヌクレオチドを変性させた後、変異プライマーをアニーリングさせ、DNAポリメラーゼを用いて伸長反応を行なう。伸長したポリヌクレオチドを制限酵素DpnIを用いて選択的に切断し、新たに合成された遺伝子をリン酸化、ライゲーションを実施し、環化させることでポリヌクレオチドに変異を導入できる。
【0053】
さらにポリヌクレオチドへ変異を導入する方法としては、前述したエラープローンPCR法やインバースPCR法以外にも、ポリヌクレオチドに変異原となる薬剤を作用させること、または、ポリヌクレオチドに紫外線を照射すること、ポリヌクレオチドに変異を導入する方法が挙げられる。変異原となる薬剤としては、ヒドロキシルアミン、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン、亜硝酸、亜硫酸、ヒドラジン等の、当業者が通常用いる変異原性薬剤が挙げられる。このようなポリヌクレオチドへ変異を導入する方法は、前記例示したアミノ酸置換の導入に限られず、バリアント配列の構築(例えば、アミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加の導入や、前記のような相同性の範囲でのアミノ酸配列の変化)にも利用できる。
【0054】
本発明のポリヌクレオチドは、例えば、その全長配列を一括して取得してもよく、その部分配列をそれぞれ取得し連結することで取得してもよい。前記のような本発明のポリヌクレオチドを取得する手法についての説明は、その全長配列を一括して取得する場合に限られず、その部分配列を取得する場合にも準用できる。
【0055】
本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドは、具体的には、例えば、本発明のポリヌクレオチドを含む遺伝子組換え宿主に本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドを発現させることで製造できる。本明細書では、本発明のポリヌクレオチドを含む遺伝子組換え宿主を、「本発明の遺伝子組換え宿主」ともいう。本発明の遺伝子組換え宿主は、本発明のポリヌクレオチドを含むことに依拠して、本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドを発現できる。すなわち、本発明の遺伝子組換え宿主は、言い換えると、本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドを発現可能な宿主である。
【0056】
本発明の遺伝子組換え宿主は、例えば、本発明のポリヌクレオチドを用いて宿主を形質転換することで得られる。すなわち、本発明の遺伝子組換え宿主は、例えば、本発明のポリヌクレオチドで遺伝子組換え(形質転換)された宿主であってよく、本発明のポリヌクレオチドを含む宿主であってよく、また本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドを発現可能な宿主であってよい。遺伝子組換えに用いる宿主は、本発明のポリヌクレオチドで形質転換されることで本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドを発現可能な宿主であれば特に制限されない。宿主としては、動物細胞、昆虫細胞、微生物が挙げられる。動物細胞としては、COS細胞、CHO(Chinese Hamster Ovary)細胞、Hela細胞、NIH3T3細胞、HEK293細胞が挙げられる。昆虫細胞としては、Sf9細胞、BTI-TN-5B1-4細胞が挙げられる。微生物としては、酵母や細菌が挙げられる。酵母としては、Saccharomyces cerevisiae等のSaccharomyces属酵母、Pichia pastoris等のPichia属酵母、Schizosaccharomyces pombe等のSchizosaccharomyces属酵母が挙げられる。細菌としては、大腸菌(Escherichia coli)等のEscherichia属細菌が挙げられる。大腸菌としては、JM109株、BL21(DE3)株が挙げられる。なお、酵母や大腸菌を宿主として用いると生産性の面で好ましく、大腸菌を宿主として用いるとさらに好ましい。
【0057】
本発明のポリヌクレオチドは、発現可能に本発明の遺伝子組換え宿主に保持されていればよい。本発明のポリヌクレオチドは、具体的には、宿主で機能するプロモーターの制御下で発現するように保持されていればよい。宿主で機能するプロモーターとしては、例えば、大腸菌を宿主とする場合、trpプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、lacプロモーター、T7プロモーター、recAプロモーター、lppプロモーターが挙げられる。
【0058】
本発明の遺伝子組換え宿主において、本発明のポリヌクレオチドは、例えば、ゲノムDNA外で自律複製するベクター上に存在していてよい。すなわち、本発明のポリヌクレオチドは、例えば、本発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクターとして宿主に導入できる。すなわち本発明の遺伝子組換え宿主は、一態様において、本発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクターを含む宿主であってよい。本明細書では、本発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクターを、「本発明の発現ベクター」ともいう。本発明の発現ベクターは、例えば、発現ベクターの適切な位置に本発明のポリヌクレオチドを挿入することで得られる。なお発現ベクターは、形質転換する宿主内で安定に存在し複製できるものであれば特に制限されない。発現ベクターとしては、例えば、大腸菌を宿主とする場合は、pETプラスミドベクター、pUCプラスミドベクター、pTrcプラスミドベクターを例示できる。発現ベクターは、抗生物質耐性遺伝子等の選択マーカーを備えていてよい。また前記適切な位置とは、発現ベクター複製機能、選択マーカー、伝達性に関わる領域を破壊しない位置を意味する。前記発現ベクターに本発明のポリヌクレオチドを挿入する際は、発現に必要なプロモーター等の機能性ポリヌクレオチドに連結された状態で挿入すると好ましい。
【0059】
また本発明の遺伝子組換え宿主において、本発明のポリヌクレオチドは、例えば、ゲノムDNA上に導入されていてもよい。ゲノムDNAへの本発明のポリヌクレオチドの導入は、例えば、相同組み換えによる遺伝子導入法を利用して実施できる。相同組み換えによる遺伝子導入法としては、Red-driven integration法(Datsenko,K.A,and Wanner,B.L.Proc.NatI.Acad.Sci.USA.97:6640-6645(2000))等の直鎖状DNAを用いる方法、温度感受性複製起点を含むベクターを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないベクターを用いる方法、ファージを用いたtransduction法が挙げられる。
【0060】
本発明の発現ベクター等のポリヌクレオチドを用いた宿主の形質転換は、例えば、当業者が通常用いる方法で行なえる。例えば、宿主として大腸菌を選択する場合には、コンピテントセル法、ヒートショック法、エレクトロポレーション法等形質転換できる。形質転換後に適切な方法でスクリーニングすることで、本発明の遺伝子組換え宿主を取得できる。
【0061】
各種微生物において利用可能な発現ベクターやプロモーター等の遺伝子工学的手法に関する情報については、例えば、「微生物学基礎講座8 遺伝子工学、共立出版、1987年」に詳細に記載されており、それらを利用できる。
【0062】
本発明の遺伝子組換え宿主が本発明の発現ベクターを含む場合、本発明の遺伝子組換え宿主から本発明の発現ベクターを調製できる。例えば、本発明の遺伝子組換え宿主を培養して得られる培養物からアルカリ抽出法またはQIAprep Spin Miniprep kit(QIAGEN社製)等の市販の抽出キットを用いて本発明の発現ベクターを調製できる。
【0063】
本発明の遺伝子組換え宿主を培養することで、本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドを発現できる。また本発明の遺伝子組換え宿主を培養することで、本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドを発現させ、当該発現したポリペプチドを回収することで、本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドを製造できる。すなわち本発明は、例えば、本発明の遺伝子組換え宿主を培養することで、本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドを発現させる工程と、発現させた前記ポリペプチドを回収する工程とを含む、本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドの製造方法を提供する。培地組成や培養条件は、宿主の種類や本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドの特性等の諸条件に応じて適宜設定できる。培地組成や培養条件は、例えば、宿主が増殖でき、かつ本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドを発現できるように設定できる。培地としては、例えば、炭素源、窒素源、無機塩、その他の各種有機成分や無機成分を適宜含む培地を利用できる。例えば、宿主が大腸菌の場合、必要な栄養源を補ったLB(Luria-Bertani)培地(トリプトン1%(w/v)、酵母エキス0.5%(w/v)、塩化ナトリウム1%(w/v))が好ましい培地の一例として挙げられる。なお、本発明の発現ベクターの導入の有無に基づき、本発明の遺伝子組換え宿主を選択的に増殖させるために、培地に当該発現ベクターに含まれる抗生物質耐性遺伝子に対応した抗生物質を添加して培養すると好ましい。例えば、当該発現ベクターがカナマイシン耐性遺伝子を含んでいる場合は培地にカナマイシンを添加すればよい。本発明のポリヌクレオチドがゲノムDNA上に導入されている場合も同様である。また培地は、グルタチオン、システイン、シスタチン、チオグリコレートおよびジチオスレイトールからなる群から選択される一種類以上の還元剤を含んでいてもよい。また、培地は、グリシン等の前記遺伝子組換え宿主から培養液へのポリペプチド分泌を促す試薬を含んでいてもよい。例えば、宿主が大腸菌の場合、培地に対してグリシンを2%(w/v)以下で添加すると好ましい。培養温度は、例えば、宿主が大腸菌の場合、一般に10℃から40℃、好ましくは20℃から37℃、より好ましくは25℃前後であってよい。培地のpHは、例えば、宿主が大腸菌の場合、pH6.8からpH7.4、好ましくはpH7.0前後であってよい。また、本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドを誘導性のプロモーターの制御下で発現する場合は、本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドが良好に発現できるように誘導をかけると好ましい。発現誘導には、例えば、プロモーターの種類に応じた誘導剤を利用できる。誘導剤としては、IPTG(Isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)を例示できる。例えば、宿主が大腸菌の場合、培養液の濁度(600nmにおける吸光度)が約0.5から1.0となったときに適当量のIPTGを添加し、引き続き培養することで、本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドの発現を誘導できる。IPTGの添加濃度は、例えば、0.005から1.0mM、好ましくは0.01から0.5mMであってよい。IPTG誘導等の発現誘導は、例えば、当該技術分野において周知の条件で行なえる。
【0064】
本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドは、その発現形態に適した方法で培養物から分離して回収できる。なお、本明細書において「培養物」とは、培養で得られた培養液の全体またはその一部を意味する。当該一部は、本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドを含む部分であれば特に制限されない。当該一部としては、培養された本発明の遺伝子組換え宿主の細胞や培養後の培地(すなわち培養上清)が挙げられる。例えば、本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドが培養上清に蓄積する場合、細胞を遠心分離操作によって分離し、得られる培養上清から本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドを回収できる。また、本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドが細胞内(ペリプラズムを含む)に蓄積する場合、細胞を遠心分離操作にて回収した後、酵素処理剤や界面活性剤等を添加することで細胞を破砕して、破砕物から本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドを回収できる。培養上清や細胞破砕物からの本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドの回収は、例えば、ポリペプチドの分離精製に用いられる公知の方法で行なえる。そのような方法としては、硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、等電点沈殿が挙げられる。
【0065】
本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドは、例えば、免疫グロブリン(抗体)の分離または分析に使用できる。本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドは、例えば、不溶性担体に固定化して使用できる。すなわち、免疫グロブリン(抗体)の分離または分析は、具体的には、例えば、不溶性担体と、当該不溶性担体に固定化された本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドとを含む、免疫グロブリン吸着剤を用いて実施できる。本明細書では、不溶性担体と、当該不溶性担体に固定化された本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドとを含む、免疫グロブリン吸着剤を、「本発明の免疫グロブリン吸着剤」ともいう。なお「免疫グロブリンの分離」とは、夾雑物質共存化の溶液からの免疫グロブリンの分離に限らず、構造、性質または活性等に基づく免疫グロブリン間の分離も含まれる。不溶性担体は特に制限されない。不溶性担体としては、アガロース、アルギネート(アルギン酸塩)、カラゲナン、キチン、セルロース、デキストリン、デキストラン、デンプン等の多糖質を原料とした担体や、ポリビニルアルコール、ポリメタクレート、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリウレタン等の合成高分子を原料とした担体や、シリカ等のセラミックスを原料とした担体が例示できる。中でも、多糖質を原料とした担体や合成高分子を原料とした担体が不溶性担体として好ましい。前記好ましい担体の一例として、トヨパール(東ソー社製)等のヒドロキシ基を導入したポリメタクリレートゲル、Sepharose(GEヘルスケア社製)等のアガロースゲル、セルファイン(JNC社製)等のセルロースゲルが挙げられる。不溶性担体の形状は特に制限されない。不溶性担体は、例えば、カラムに充填できる形状であってよい。不溶性担体は、例えば、粒状物または非粒状物であってよい。また、不溶性担体は、例えば、多孔性または非多孔性であってもよい。
【0066】
本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドは、例えば、共有結合を介して不溶性担体に固定化できる。本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドは、具体的には、例えば、不溶性担体が有する活性基を介して本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドと不溶性担体とを共有結合させることで、不溶性担体に固定化できる。すなわち、不溶性担体は、活性基を有していてよい。不溶性担体は、例えば、その表面に活性基を有していてよい。活性基としては、N-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)活性化エステル基、エポキシ基、カルボキシ基、マレイミド基、ハロアセチル基、トレシル基、ホルミル基、ハロアセトアミドが挙げられる。活性基を有する不溶性担体としては、例えば、活性基を有する市販の不溶性担体をそのまま用いてもよいし、不溶性担体に活性基を導入して用いてもよい。活性基を有する市販の担体としては、TOYOPEARL AF-Epoxy-650M、TOYOPEARL AF-Tresyl-650M(いずれも東ソー社製)、HiTrap NHS-activated HP Columns、NHS-activated Sepharose 4 Fast Flow、Epoxy-activated Sepharose 6B(いずれもGEヘルスケア社製)、SulfoLink Coupling Resin(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)が例示できる。
【0067】
担体表面に活性基を導入する方法としては、担体表面に存在するヒドロキシ基、エポキシ基、カルボキシ基、アミノ基等に対して2個以上の活性部位を有する化合物の一方を反応させる方法が例示できる。
【0068】
担体表面に存在するヒドロキシ基やアミノ基にエポキシ基を導入する化合物としては、エピクロロヒドリン、エタンジオールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテルが例示できる。
【0069】
また担体表面に存在するエポキシ基にカルボキシ基を導入する化合物としては、2-メルカプト酢酸、3-メルカプトプロピオン酸、4-メルカプト酪酸、6-メルカプト酪酸、グリシン、3-アミノプロピオン酸、4-アミノ酪酸、6-アミノヘキサン酸を例示できる。
【0070】
また担体表面に存在するヒドロキシ基、エポキシ基、カルボキシ基、アミノ基にマレイミド基を導入する化合物としては、N-(ε-マレイミドカプロン酸)ヒドラジド、N-(ε-マレイミドプロピオン酸)ヒドラジド、4-(4-N-マレイミドフェニル)酢酸ヒドラジド、2-アミノマレイミド、3-アミノマレイミド、4-アミノマレイミド、6-アミノマレイミド、1-(4-アミノフェニル)マレイミド、1-(3-アミノフェニル)マレイミド、4-(マレイミド)フェニルイソシアナート、2-マレイミド酢酸、3-マレイミドプロピオン酸、4-マレイミド酪酸、6-マレイミドヘキサン酸、N-(α-マレイミドアセトキシ)スクシンイミドエステル、(m-マレイミドベンゾイル)N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、スクシンイミジル-4-(マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボニル-(6-アミノヘキサン酸)、スクシンイミジル-4-(マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸、(p-マレイミドベンゾイル)N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、(m-マレイミドベンゾイル)N-ヒドロキシスクシンイミドエステルを例示できる。
【0071】
また担体表面に存在するヒドロキシ基やアミノ基にハロアセチル基を導入する化合物としては、クロロ酢酸、ブロモ酢酸、ヨード酢酸、クロロ酢酸クロリド、ブロモ酢酸クロリド、ブロモ酢酸ブロミド、クロロ酢酸無水物、ブロモ酢酸無水物、ヨード酢酸無水物、2-(ヨードアセトアミド)酢酸-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、3-(ブロモアセトアミド)プロピオン酸-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、4-(ヨードアセチル)アミノ安息香酸-N-ヒドロキシスクシンイミドエステルを例示できる。
【0072】
また担体表面に活性基を導入する方法としては、担体表面に存在するヒドロキシ基やアミノ基にω-アルケニルアルカングリシジルエーテルを反応させた後、ハロゲン化剤でω-アルケニル部位をハロゲン化することで活性化する方法も例示できる。ω-アルケニルアルカングリシジルエーテルとしては、アリルグリシジルエーテル、3-ブテニルグリシジルエーテル、4-ペンテニルグリシジルエーテルを例示できる。ハロゲン化剤としては、N-クロロスクシンイミド、N-ブロモスクシンイミド、N-ヨードスクシンイミドを例示できる。
【0073】
また担体表面に活性基を導入する方法としては、担体表面に存在するカルボキシ基に対して縮合剤と添加剤を用いて活性基を導入する方法も例示できる。縮合剤としては1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、ジシクロヘキシルカルボジアミド、カルボニルジイミダゾールを例示できる。添加剤としては、N-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)、4-ニトロフェノール、1-ヒドロキシベンズトリアゾールを例示できる。
【0074】
本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチドの不溶性担体への固定化は、例えば、緩衝液中で実施できる。緩衝液としては、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、MES(2-Morpholinoethanesulfonic acid)緩衝液、HEPES(4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)緩衝液、Tris(Tris(hydroxymethyl)aminomethane)緩衝液、ホウ酸緩衝液を例示できる。固定化させるときの反応温度は、例えば、活性基の反応性や免疫グロブリン結合性ポリペプチドの安定性等の諸条件に応じて適宜設定できる。固定化させるときの反応温度は、例えば、5℃から50℃であってよく、好ましくは10℃から35℃であってよい。
【0075】
本発明の免疫グロブリン吸着剤は、例えば、カラムに充填して免疫グロブリン(抗体)の分離に使用できる。具体的には、例えば、本発明の免疫グロブリン吸着剤を充填したカラムに免疫グロブリンを含む溶液を添加して当該免疫グロブリンを前記吸着剤に吸着させ、前記吸着剤に吸着した免疫グロブリンを溶出させることで、免疫グロブリンを分離できる。すなわち、本発明は、例えば、本発明の免疫グロブリン吸着剤を充填したカラムに免疫グロブリンを含む溶液を添加して当該免疫グロブリンを前記吸着剤に吸着させる工程と、前記吸着剤に吸着した免疫グロブリンを溶出させる工程とを含む、免疫グロブリンの分離方法を提供する。免疫グロブリンを含む溶液は、例えば、ポンプ等の送液手段を用いてカラムに添加できる。なお本明細書では、液体をカラムに添加することを、「液体をカラムに送液する」ともいう。なお免疫グロブリンを含む溶液は、カラムに添加する前に予め適切な緩衝液を用いて溶媒置換してよい。また、免疫グロブリンを含む溶液をカラムに添加する前に、適切な緩衝液を用いてカラムを平衡化してよい。前記平衡化により、例えば、免疫グロブリンをより高純度に分離できると期待される。溶媒置換や平衡化に用いる緩衝液としては、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、MES緩衝液が例示できる。そのような緩衝液には、例えば、さらに、10mMから100mMの塩化ナトリウム等の無機塩を添加してもよい。溶媒置換に用いる緩衝液と平衡化に用いる緩衝液は、同一であってもよく、同一でなくてもよい。また、免疫グロブリンを含む溶液のカラムへの通液後に夾雑物質等の免疫グロブリン以外の成分がカラムに残存している場合、免疫グロブリン吸着剤に吸着した免疫グロブリンを溶出する前に、そのような成分をカラムから除去してよい。免疫グロブリン以外の成分は、例えば、適切な緩衝液を用いてカラムから除去できる。免疫グロブリン以外の成分の除去に用いる緩衝液については、例えば、溶媒置換や平衡化に用いる緩衝液についての記載を準用できる。免疫グロブリン吸着剤に吸着した免疫グロブリンは、例えば、免疫グロブリンとリガンド(本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチド)との相互作用を弱めることで、溶出できる。免疫グロブリンとリガンド(本発明の免疫グロブリン結合性ポリペプチド)との相互作用を弱める手段としては、緩衝液によるpHの低下、カウンターペプチドの添加、温度上昇、塩濃度変化が例示できる。免疫グロブリン吸着剤に吸着した免疫グロブリンは、具体的には、例えば、適切な溶出液を用いて溶出できる。溶出液としては、溶媒置換や平衡化に用いる緩衝液よりも酸性側の緩衝液が挙げられる。そのような緩衝液としては、クエン酸緩衝液、グリシン塩酸緩衝液、酢酸緩衝液を例示できる。溶出液のpHは、例えば、免疫グロブリンの機能(抗原への結合性等)を損なわない範囲で設定できる。
【0076】
このようにして免疫グロブリン(抗体)の分離を実施することで、例えば、分離された免疫グロブリンが得られる。すなわち、免疫グロブリンの分離方法は、一態様において、免疫グロブリンの製造方法であってよく、具体的には、分離された免疫グロブリンの製造方法であってよい。免疫グロブリンは、例えば、免疫グロブリンを含む溶出画分として得られる。すなわち、溶出された免疫グロブリンを含む画分を分取できる。画分の分取は、例えば、常法で行なえる。画分を分取する方法としては、一定の時間ごとや、一定の容量ごとに回収容器を交換する方法や、溶出液のクロマトグラムの形状に合わせて回収容器を換える方法や、オートサンプラー等の自動フラクションコレクター等画分の分取をする方法が挙げられる。さらに、免疫グロブリンを含む画分から免疫グロブリンを回収することもできる。免疫グロブリンを含む画分からの免疫グロブリンの回収は、例えば、タンパク質の分離精製に用いられる公知の方法で行なえる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら例に限定されるものではない。
【0078】
(免疫グロブリン結合性ポリペプチドの調製)
(比較例1) 配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる免疫グロブリン結合性ポリペプチドSpA10aのC末端側に不溶性担体へ固定化するためのタグ配列(Lys-Lys-Lys)を付加したポリペプチドSpA10a-K3(配列番号9)を設計した。なおSpA10aは、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる天然型ブドウ球菌(Staphylococcus)属細菌由来Protein A(以下、SpA)のドメインC(GenBank No.AAA26676の270番目から327番目までのアミノ酸残基)に対し、Asn3His(この表記は配列番号1の3番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がヒスチジンに置換されていることを表す、以下同じ)、Lys4Arg、Lys7Val、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Ser39Gly、Val40Ala、Lys42LeuおよびLys58Aspのアミノ酸置換が生じたポリペプチドである。
【0079】
(実施例1) 配列番号3に記載のアミノ酸配列からなる免疫グロブリン結合性ポリペプチドSpA10bのC末端側に不溶性担体へ固定化するためのタグ配列(Lys-Lys-Lys)を付加したポリペプチドSpA10b-K3(配列番号13)を設計した。なおSpA10bは、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるSpA10aに対し、Asn11Arg、Lys35Arg、Lys49MetおよびLys50Trpのアミノ酸置換が生じたポリペプチドである。
【0080】
(1)前記(比較例1)および(実施例1)で設計したSpA10a-K3およびSpA10bをコードするポリヌクレオチドを合成した後、PCRを用いて前記ヌクレオチド配列を各々含むポリヌクレオチドを作製した。PCRは、前記合成した各ポリヌクレオチドを鋳型DNAとし、配列番号10(5’-TAGCCATGGGCGCCGATATTCGCTTTA-3’)および配列番号11(5’-CTACTCGAGATCCGGTGCTTGAGCATC-3’)に記載のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、表1に示す組成からなる反応液を調製後、当該反応液を98℃で30秒間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で60秒間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で2分間熱処理することで行なった。
【0081】
【0082】
(2)得られたポリヌクレオチドを精製し、制限酵素NcoIとXhoIとで消化後、予め制限酵素NcoIとXhoIで消化した発現ベクターpET-28aにライゲーションし、当該ライゲーション産物を用いて大腸菌BL21(DE3)株(ニッポンジーン社製)を形質転換した。
【0083】
(3)得られた形質転換体(遺伝子組換え大腸菌)を50μg/mLのカナマイシンを含むLB培地にて培養後、QIAprep Spin Miniprep kitを用いて発現ベクター(各々pET-SpA10a-K3、pET-SpA10b-K3と命名)を抽出した。
【0084】
(4)得られた抽出物のうち、免疫グロブリン結合性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドおよびその周辺領域について、チェーンターミネータ法に基づくBig Dye Terminator Cycle Sequencing ready Reaction kit(Thermo Fisher Scientific社製)を用いてサイクルシークエンス反応に供し、全自動DNAシークエンサーABI Prism 3700 DNA analyzer(Thermo Fisher Scientific社製)にてヌクレオチド配列を解析した。なお当該解析の際、配列番号10または配列番号11に記載のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドをシークエンス用プライマーとして使用した。
【0085】
配列解析の結果、発現ベクターpET-SpA10a-K3およびpET-SpA10b-K3に、SpA10a-K3をコードするポリヌクレオチドおよびSpA10b-K3をコードするポリヌクレオチドが各々挿入されていることを確認した。SpA10a-K3をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号12に示す。SpA10b-K3をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号14に示す。
【0086】
(免疫グロブリン結合性ポリペプチドの調製)
(1)50μg/mLのカナマイシンを含む2×YT液体培地(トリプトン1.6%(w/v)、酵母エキス1%(w/v)、塩化ナトリウム0.5%(w/v))20mLに、上記にて作製したpET-SpA10a-K3またはpET-SpA10b-K3を含む遺伝子組換え大腸菌を接種し、前培養した(30℃、16時間)。
【0087】
(2)前培養後の培養液10mLを、50μg/mLのカナマイシンを含む2×YT液体培地1Lに接種し、37℃で2から3時間培養後、0.5MのIPTG(Isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)を200μL加えて、さらに20℃で終夜振とう培養した。
【0088】
(3)培養後の培養液を遠心分離し、湿重量8gの培養菌体を回収した。当該培養菌体のうち2gをBugBuster Protein Extraction Reagent(メルクミリポア社製)を用いて溶菌し、遠心分離により取得した上清をフィルターに通し、清澄化した。
【0089】
(4)あらかじめ0.15Mの塩化ナトリウムを含む0.05MのTris緩衝液(pH 7.6)(以下、洗浄緩衝液と表記)により平衡化したIgG Sepharose 6 Fast Flow(GEヘルスケア社製)を充填したカラムに、(3)で清澄化した上清を添加し、前記カラムに充填した担体の10倍量の洗浄緩衝液で洗浄後、0.1Mグリシン―塩酸緩衝液(pH 3.0)(以降、酸性溶液と表記)を通液することで、免疫グロブリン結合性ポリペプチドに相当する画分を回収した。
【0090】
(5)回収した画分の吸光度を分光光度計により測定し、当該画分に含まれるポリペプチド量を定量した。またSDS-PAGEも実施し、免疫グロブリン結合性ポリペプチド(SpA10a-K3またはSpA10b-K3)が純度よく精製されていることを確認した。
【0091】
(免疫グロブリン吸着剤の作製)
(1)前記にて調製した、精製免疫グロブリン結合性ポリペプチド(SpA10a-K3またはSpA10b-K3)を含む画分を、Amicon Ultra(メルクミリポア社製)により元の体積の10分の1量まで濃縮した。当該濃縮溶液に対し10倍量のリン酸ナトリウム緩衝液を加え、再度Amicon Ultra(メルクミリポア社製)により元の体積の10分の1量まで濃縮した。これら操作により、前記画分の濃縮および緩衝液置換を行なった。
【0092】
(2)活性基としてホルミル基を有した不溶性担体である、TOYOPEARL AF-Formyl-650(東ソー社製)を純水に置換後、吸引ろ過で乾燥した。吸引濾過後のサクションドライゲルの含水率を含水率計(メトラートレド社製)で測定後、共栓付き三角フラスコに、ゲルとして0.5から3.0g加えた。
【0093】
(3)サクションドライゲルが入った共栓付き三角フラスコに、0.5Mの塩化ナトリウムを含む緩衝液(ホウ酸またはリン酸緩衝液)を加え、サクションドライゲルを膨潤させた。
【0094】
(4)(1)で調製した免疫グロブリン結合性ポリペプチドの濃縮液を、終濃度が5g/Lとなるよう共栓付き三角フラスコに加え、室温で振とうすることで、当該フラスコ内に入っているゲルとポリペプチドとをシッフ塩基形成により結合した。15分から4時間後に共栓付き三角フラスコの上清を一部回収し、結合していない免疫グロブリン結合性ポリペプチドの割合から、前記ポリペプチドのゲルへの固定化量を算出した。
【0095】
(5)1MのNaBH4水溶液を適量加え、室温で15分から2時間振とうすることで、残存シッフ塩基を還元し、免疫グロブリン吸着剤を作製した。作製した吸着剤は水洗後、20%(v/v)エタノールに置換し保存した。
【0096】
(免疫グロブリン吸着剤の静的吸着量の測定)
(1)前記にて作製した免疫グロブリン吸着剤をそれぞれ50%(w/v)スラリーに調製し、当該スラリー100μLをミニバイオスピンカラム(BIORAD社製)へ添加した。
【0097】
(2)酸性溶液および洗浄緩衝液を通液して洗浄後、洗浄緩衝液で希釈した免疫グロブリン溶液(日本血液製剤機構社製)(43mg/mL)を添加し、恒温振とう培養機(TAITEC社製)を用いて25℃、1000rpmで2時間振とうすることで、免疫グロブリンを不溶性担体に吸着させた。
【0098】
(3)洗浄緩衝液を通液することで未吸着の免疫グロブリンを洗浄後、酸性溶液を用いて吸着剤に吸着した免疫グロブリンを溶出した。溶出液の吸光度(波長280nm)を分光光度計で測定し、当該溶出液に含まれる免疫グロブリンの量から、吸着剤の静的吸着量を算出した。得られた結果を表2に示す。
【0099】
【0100】
免疫グロブリン結合性ポリペプチドとしてSpA10b(配列番号3)を用いることでSpA10a(配列番号2)を用いたときよりも、静的吸着量が向上した。このことから免疫ブロブリン結合性ポリペプチドにLys50Trpのアミノ酸置換を導入することで、免疫ブロブリンの静的吸着量が向上することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
以上説明したように、本発明において、免疫グロブリン結合ドメインに、Lys50Trpのアミノ酸置換を導入することによって、免疫グロブリン(抗体)吸着量が向上した吸着剤が得られる。つまり本発明により、試料中に含まれる免疫グロブリンを、より高効率に取得できる。
【0102】
したがって、本発明は、抗体医薬や抗体診断薬分野におけるイムノグロブリンの製造、生体成分からのイムノグロブリン除去、成分分析等において有用である。
【配列表】