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特許7587212スルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】スルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 319/18 20060101AFI20241113BHJP
   C07C 323/62 20060101ALI20241113BHJP
   C07C 323/54 20060101ALI20241113BHJP
   C07D 327/06 20060101ALI20241113BHJP
   C07D 327/02 20060101ALI20241113BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20241113BHJP
   C08F 28/06 20060101ALN20241113BHJP
   C08F 20/38 20060101ALN20241113BHJP
【FI】
C07C319/18
C07C323/62
C07C323/54
C07D327/06
C07D327/02
C07B61/00 300
C08F28/06
C08F20/38
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020074157
(22)【出願日】2020-04-17
(65)【公開番号】P2021169440
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】314001841
【氏名又は名称】KJケミカルズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(72)【発明者】
【氏名】▼高▼坂 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】萩原 敬人
(72)【発明者】
【氏名】塩塚 朗
(72)【発明者】
【氏名】安永 篤史
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表平08-504771(JP,A)
【文献】特表2001-512519(JP,A)
【文献】特開2017-058421(JP,A)
【文献】特開平04-356510(JP,A)
【文献】特開2007-086515(JP,A)
【文献】Macromolecules,1991年,24,3689-3695
【文献】Polymer ,2005年,46,12046-12056
【文献】European Polymer Journal ,2006年,42,2475-2485
【文献】Asian J. Org. Chem.,2016年,5,895-899
【文献】ORGANIC PREPARATIONS AND PROCEDURES INT.,1993年,25(6),649-657
【文献】Polym. Chem. ,2017年,8,976-979
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 319/14
C07C 323/62
C07C 323/54
C07D 327/06
C07D 327/02
C08F 28/06
C08F 20/38
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[1]で表されるアリル位置換メタクリル酸エステルと一般式[2]で表されるヒドロキシ基含有メルカプタンとを、触媒として塩基解離定数pKbが5.0~11.0である三級有機ホスフィン化合物の存在下で反応されることを特徴とする一般式[3]で表されるヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルの製造方法。
【化1】
【化2】
【化3】
(各式中、Rは水素原子又は炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、芳香族炭化水素、複素環を表し、RとRは各々独立に炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素を表す。Xはアシルオキシ基又はハロゲン基を表す。)
【請求項2】
有機ホスフィン化合物はトリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリノルマルブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィンである請求項1に記載のヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルの製造方法。
【請求項3】
一般式[1]で表されるアリル位置換メタクリル酸エステル(A)と一般式[2]で表されるヒドロキシ基含有メルカプタン(B)のモル比(B/A)は1~10である請求項1又は2に記載のヒドロキシ基含有スルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルの製造方法。
【請求項4】
有機ホスフィン化合物の含有量は、一般式[1]で表されるアリル位置換メタクリル酸エステルに対して0.0001~5倍モル比であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルの製造方法。
【請求項5】
塩基性化合物を更に含有することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルの製造方法。
【請求項6】
塩基性化合物は無機系塩基性化合物及び/又は有機系塩基性化合物であることを特徴とする請求項5に記載のヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルの製造方法。
【請求項7】
塩基性化合物は三級アミンであることを特徴とする請求項5又は6に記載のヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルの製造方法。
【請求項8】
塩基性化合物は、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ジアザビシクロウンデセン、キヌクリジン、N-メチルモルホリン、N,N-ジメチルアニリン、N、N‐ジメチル-4-アミノピリジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリノルマルプロピルアミン、トリノルマルブチルアミンからなる群により選択される1種以上の化合物であることを特徴とする請求項5~7のいずれか一項に記載のヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルの製造方法。
【請求項9】
塩基性化合物の含有量は一般式[1]で表されるアリル位置換メタクリル酸エステルに対して0.1~50倍モル比を含有することを特徴とする請求項5~8のいずれか一項に記載のヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルの製造方法。
【請求項10】
三フッ化ホウ素錯体の存在下、一般式[4]で表されるヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルを分子内閉環反応させることを特徴とする一般式[5]で表されるスルフィド基有する環状ビニル化合物の製造方法。
【化4】
【化5】
(各式中、Rは水素原子又は炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、芳香族炭化水素、複素環を表し、RとRは各々独立に炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素を表す。)
【請求項11】
三フッ化ホウ素錯体の含有量はヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルに対して0.01~10倍モルである請求項10に記載のスルフィド基を有する環状ビニル化合物の製造方法。
【請求項12】
一般式[6]で表されるアリル位置換メタクリル酸エステルと一般式[7]で表されるヒドロキシ基含有メルカプタンとを、触媒として塩基解離定数pKbが5.0~11.0である三級有機ホスフィン化合物の存在下で反応させ、一般式[8]で表されるヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルを得、次に分子内閉環反応させることを特徴とする一般式[9]で表されるスルフィド基を有する環状ビニル化合物の製造方法、
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
(各式中、Rは水素原子又は炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、芳香族炭化水素、複素環を表し、RとRは各々独立に炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素を表す。Xはアシルオキシ基又はハロゲン基を表す。)
【請求項13】
分子内閉環反応は触媒として三フッ化ホウ素錯体の存在下で行うことを特徴とする請求項12に記載のスルフィド基を有する環状ビニル化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルの製造方法に関するものである。より詳しくは、ヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステル及びスルフィド基を有する環状ビニル化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スルフィド基でアリル位を置換したメタクリル酸エステルは、様々な分野に用いられる重合体を誘導するモノマーや構成するモノマーとして有用である。その中でも特に、ヒドロキシ基を含むスルフィド基でアリル位を置換したメタクリル酸エステルは、ラジカル重合における連鎖移動剤としても機能し、ヒドロキシ基を利用した反応性モノマーとして種々の用途に使用することができる。また、置換基であるスルフィド基がメタクリル酸エステルのエステル置換基と連結し、環状分子を構成する場合、ラジカル開環重合が進行する。ラジカル開環重合が可能なメタクリル酸エステル類は、重合時における硬化収縮(体積収縮)が小さいモノマーとしても注目されている。
【0003】
スルフィド基でアリル位を置換したメタクリル酸エステルの製造方法は、従来から数多く報告されてきた。例えば、3-ブロモ-2-(ブロモメチル)プロピオン酸エチルとメルカプトエタノールとを炭酸カリウムの存在下に反応させて、α-((2-ヒドロキシエチルチオ)メチル)アクリル酸エチルを合成する方法が報告されている(非特許文献1)。しかし、この方法ではブロモメチル基を二重結合へ変換する脱離反応と、脱離生成物の臭素原子をヒドロキシエチルチオ基に置換する反応が一度に進行するため、目的化合物の収率が23%と極めて低く、工業的製法としては課題のあるものであった。また、α-(アシルオキシメチル)アクリル酸エステルとアルコール系水酸基やアミン基、メルカプト基などの活性水素含有化合物とをトリメチルアミン及び/又は環状3級アミンの存在下で反応させて、対応するアリル位を置換したメタクリル酸エステルを製造する方法が開示されている(特許文献1)。しかし、この特許文献の実施形態に記載している活性水素含有化合物はアルコール系水酸基(ヒドロキシ基)、アミン基或いはメルカプト基の何れか一種の官能基のみを含有するものであって、ヒドロキシ基とメルカプト基を併せ持つヒドロキシ基含有メルカプタンを用いることはなかった。また、特許文献1と2はともに触媒として3級アミンの使用量を原料のアリル位置換メタクリル酸エステルに対して50モル%以下と限定し、50モル%を超えても反応の促進効果が得られなく、副反応進行の恐れがあると開示した。
【0004】
また、スルフィド基を有する環状ビニル化合物の製造方法については、原料としてヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸を用い、トリエチルアミンとヨウ化2-クロロ-1-メチルピリジニウムの存在下で脱水閉環反応させて、対応するスルフィド基含有環状ビニル化合物を得る方法が開示されている(特許文献2)。しかしながら、ヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルを原料とするスルフィド基含有環状ビニル化合物を製造する方法については、未だに報告されてない状況である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-254665号公報
【文献】特表平8-504771号公報
【0006】
【文献】Macromolecules、1991年、第24巻、3689-3695頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、分子内にヒドロキシ基とメルカプト基を併せ持つヒドロキシ基含有メルカプタンを原料とするヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルの製造方法、及び該化合物の閉環反応によるスルフィド基を有する環状ビニル化合物の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、これらの課題を解決するために鋭意検討を行った結果、アリル位にアシルオキシ基又はハロゲン基を有するメタクリル酸エステルとヒドロキシ基含有メルカプタンとを触媒として有機ホスフィン化合物存在下で反応させることによりヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルを製造する方法を見出した。また、ヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルを触媒として三フッ化ホウ素錯体の存在下で閉環反応させることによりスルフィド基を有する環状ビニル化合物の製造方法を見出した。
【0009】
すなわち本発明は、
(1)一般式[1]で表されるアリル位置換メタクリル酸エステルと一般式[2]で表されるヒドロキシ基含有メルカプタンとを、触媒として有機ホスフィン化合物の存在下で反応されることを特徴とする一般式[3]で表されるヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルの製造方法、
【化1】
【化2】
【化3】
(各式中、Rは水素原子又は炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、芳香族炭化水素、複素環を表し、RとRは各々独立に炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレンエーテル基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素を表す。Xはアシルオキシ基又はハロゲン基を表す。)
(2)有機ホスフィン化合物は、三級ホスフィン化合物であることを特徴とする前記(1)に記載のヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルの製造方法、
(3)有機ホスフィン化合物は、塩基解離定数pKbが5.0~11.0である三級ホスフィン化合物であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルの製造方法、
(4)有機ホスフィン化合物の含有量は一般式[1]に記載のアリル位置換メタクリル酸エステルに対して0.0001~5倍モル比であることを特徴とする前記(1)~(3)のいずれか一項に記載のヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルの製造方法、
(5)塩基性化合物を更に含有することを特徴とする前記(1)~(4)のいずれか一項に記載のヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルの製造方法、
(6)塩基性化合物は無機系塩基性化合物及び/又は有機系塩基性化合物であることを特徴とする前記(1)~(5)のいずれか一項に記載のヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルの製造方法、
(7)塩基性化合物は三級アミンであることを特徴とする前記(1)~(6)のいずれか一項に記載のヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルの製造方法、
(8)塩基性化合物は、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ジアザビシクロウンデセン、キヌクリジン、N-メチルモルホリン、N,N-ジメチルアニリン、N、N‐ジメチル-4-アミノピリジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリノルマルプロピルアミン、トリノルマルブチルアミンからなる群により選択される1種以上の化合物であることを特徴とする前記(1)~(7)のいずれか一項に記載のヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルの製造方法、
(9)塩基性化合物の含有量は一般式[1]に記載のアリル位置換メタクリル酸エステルに対して0.1~50倍モル比を含有することを特徴とする前記(1)~(8)のいずれか一項に記載のヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルを製造する方法、
(10)一般式[4]で表されるヒドロキシ基含有スルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルを分子内閉環反応させることを特徴とする一般式[5]で表されるスルフィド基を有する環状ビニル化合物の製造方法、
【化4】
【化5】
(各式中、Rは水素原子又は炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、芳香族炭化水素、複素環を表し、RとRは各々独立に炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレンエーテル基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素を表す。)
(11)分子内閉環反応は触媒として三フッ化ホウ素錯体の存在下で行うことを特徴とする前記(10)に記載のスルフィド基を有する環状ビニル化合物の製造方法、
(12)一般式[6]で表されるアリル位置換メタクリル酸エステルと一般式[7]で表されるヒドロキシ基含有メルカプタンとを、触媒として有機ホスフィン化合物の存在下で反応させ、一般式[8]で表されるヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルを得、次に分子内閉環反応させることを特徴とする一般式[9]で表されるスルフィド基を有する環状ビニル化合物の製造方法、
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
(各式中、Rは水素原子又は炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、芳香族炭化水素、複素環を表し、RとRは各々独立に炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレンエーテル基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素を表す。Xはアシルオキシ基又はハロゲン基を表す。)
(13)分子内閉環反応は触媒として三フッ化ホウ素錯体の存在下で行うことを特徴とする前記(12)に記載のスルフィド基を有する環状ビニル化合物の製造方法、
(14)一般式[10]で表されるヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルを単独及び/又は他の重合性単量体と共重合してなる重合物、
【化10】
(式中、R10は水素原子又は炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、芳香族炭化水素、複素環を表し、R11とR12は各々独立に炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレンエーテル基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素を表す。)
(15)一般式[11]で表されるスルフィド基を有する環状ビニル化合物を単独及び/又は他の重合性単量体と共重合してなる重合物
【化11】
(式中、R13は水素原子又は炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、芳香族炭化水素、複素環を表し、R14は各々独立に炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレンエーテル基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素を表す。)
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によると、アリル位にアシルオキシ基又はハロゲン基を有するメタクリル酸エステルと、分子内にヒドロキシ基とメルカプト基を併せ持つヒドロキシ基含有メルカプタンとを原料として用い、触媒として有機ホスフィン化合物存在下で反応させることによりヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルを高収率に製造することができる。
【0011】
また、本発明の製造方法によると、ヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルを触媒として三フッ化ホウ素錯体の存在下で閉環反応させることによりスルフィド基を有する環状ビニル化合物を高収率に製造することができる。
【0012】
更に、本発明の製造方法によると、アリル位にアシルオキシ基又はハロゲン基を有するメタクリル酸エステルと、分子内にヒドロキシ基とメルカプト基を併せ持つヒドロキシ基含有メルカプタンとを原料として用い、触媒として有機ホスフィン化合物存在下で反応させることによりヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルを合成した後、三フッ化ホウ素錯体を反応系内に加え、得られたヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステルの分子内閉環反応させることによりスルフィド基を有する環状ビニル化合物を高収率に製造することができる。
【0013】
本発明の製造方法の原料は、分子内にヒドロキシ基とメルカプト基を併せ持つヒドロキシ基含有メルカプタンであり、公知の強塩基性触媒を使用する場合、メルカプト基のみではなく、ヒドロキシ基のプロトン脱離が併発するため、反応の選択率も収率も低かった。それに対し、本発明に用いる触媒有機ホスフィン化合物が強い求核性を有しながら、強い塩基性を有さず、ヒドロキシ基のプロトン脱離が抑制され、メルカプト基のみが反応性を示すため、末端にヒドロキシ基を導入したスルフィド基含有アリル位置換メタクリル酸エステルを高選択率且つ高収率に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の製造方法はアリル位にアシルオキシ基又はハロゲン基を有するメタクリル酸エステル(A)と、分子内にヒドロキシ基とメルカプト基を併せ持つヒドロキシ基含有メルカプタン(B)とを触媒として有機ホスフィン化合物(C)存在下で反応させることでヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステル(D)を製造する方法である。
【0015】
アリル位にアシルオキシ基有するメタクリル酸エステル(A-1)は一般式[12]で表され、Rは水素原子又は炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、芳香族炭化水素、複素環を表し、RとR15は各々独立に炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレンエーテル基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素を表す。アシルオキシ基としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、イソブチリルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等が挙げられるが、中でも立体障害の小さいアセトキシ基であることがより好ましい。
【化12】
【0016】
アリル位にハロゲン基有するメタクリル酸エステル(A-2)は一般式[13]で表され、Rは水素原子又は炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、芳香族炭化水素、複素環を表し、RとR16は各々独立に炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレンエーテル基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素を表し、R16はハロゲンとしてフッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられるが、中でも反応性と工業的に入手し易い観点から臭素であることがより好ましい。
【化13】
【0017】
前記一般式[2]で表される、分子内にヒドロキシ基とメルカプト基を併せ持つヒドロキシ基含有メルカプタン(B)としては、ヒドロキシメチルメルカプト(メルカプトメタノール)、ヒドロキシエチルメルカプト(メルカプトエタノール)、ヒドロキシプロピルメルカプト、ヒドロキシイソプロピルメルカプト及び炭素数4~12のヒドロキシアルキルメルカプト、ベンジルメルカプト、2-メルカプトベンジルアルコール、4-メルカプトベンジルアルコール等の芳香族ヒドロキシ基含有メルカプタンが挙げられるが、中でも反応性の観点からヒドロキシアルキル基メルカプタンが好ましく、また、メルカプトエタノールがより好ましい。
【0018】
アリル位にアシルオキシ基又はハロゲン基を有するメタクリル酸エステル(A)と、分子内にヒドロキシ基とメルカプト基を併せ持つヒドロキシ基含有メルカプタン(B)の反応は化学量論的に進行するため、AとBは等量に用いることができ、また何れか片方を過剰に用いることで反応の完結が促進されるため、好ましい。一般的に、ヒドロキシ基含有メルカプタン(B)が反応の原料と同時に反応の溶媒として使用することができ、モル比(B/A)は1~10の範囲で用いることが好ましい。また、原料の回収や精製工程の負担軽減のため、モル比(B/A)は1~5の範囲がより好ましく、1~2の範囲が特に好ましい。
【0019】
ヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステル(D)の製造に用いられる触媒である有機ホスフィン化合物(C)としては、一級ホスフィン、二級ホスフィン、三級ホスフィン、ホスフィンオキシド類が挙げられる。その中でも、三級ホスフィン化合物は求核性が強いため、好ましい。三級ホスフィン化合物は、具体的には、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン、アルキルジアリールホスフィン類が挙げられる。更に、塩基解離定数pKbが5.0~11.0である三級ホスフィン化合物は、強い求核性を有しながら、塩基性も酸性もそれ程強くないため、より好ましい。塩基解離定数pKbが5.0~11.0である三級ホスフィン化合物は、具体的にトリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリノルマルブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン類が挙げられる。また、トリノルマルブチルホスフィンとジメチルフェニルホスフィンがより好ましい。
【0020】
有機ホスフィン化合物(C)の添加量は、アリル位にアシルオキシ基又はハロゲン基を有するメタクリル酸エステル(A)に対して0.0001~5倍モル比の範囲であれば良く、また0.001~3倍モル比が好ましく、0.01~1倍モル比が特に好ましい。Aに対して触媒Cの添加量が0.0001倍モル未満であると、触媒が十分に機能せず、反応時間が長くなり、目的化合物を効率よく製造することができない。また、Cの添加量が5倍モルを超えると、反応後の触媒分離、回収する必要があり、コスト面で不利になるため好ましくない。
【0021】
ヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステル(D)の製造において、反応温度は特に限定されるものではないが、0℃~120℃の範囲内であることが好ましく、10℃~60℃の範囲がより好ましい。反応温度が0℃未満の場合は、反応が完結するまでの所要時間が長くなり、また、反応温度が120℃を超える場合、製造エネルギーコストの負担が大きく、副反応の発生による反応収率が低下する恐れがあるため、好ましくない。
【0022】
ヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステル(D)の製造において、反応時間は0.1~12時間の範囲であれば良く、また0.2~6時間の範囲が好ましく、0.5~3時間がより好ましい。反応時間が0.1時間未満である場合、原料や触媒の品種にもよるが、反応が完結できない可能性があり、また、反応時間が12時間を超える場合、それ以上反応時間を長くしても収率向上が期待できないため、生産性やコスト面で不利である。
【0023】
ヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステル(D)の製造において、原料が過剰に配合することによって反応溶媒としての作用も提供できるが、更に必要に応じて溶媒を使用してもよい。反応溶媒は、特に限定するものではなく、反応の出発原料(A及びB)、生成物(D)及び触媒である有機ホスフィン化合物(C)との副反応を起さなければ、一般的な溶媒が使用することができる。具体的には、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル等のエーテル類、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の炭化水素類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類が挙げられるが、エーテル類と炭化水素類の非極性溶媒が好ましく、テトラヒドロフランとトルエンを用いることがより好ましい。また、溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、アリル位にアシルオキシ基又はハロゲン基を有するメタクリル酸エステル(A)に対して20~1000重量%の範囲であればよく、100~500重量%の範囲が好ましく、150~300重量%の範囲がより好ましい。反応溶媒が、20重量%未満であると原料や触媒の種類と配合量によって溶解速度や撹拌効率の低下が招いてしまう可能性があり、また、1000重量%を超えると、不経済であると同時に反応速度が低下する恐れがある。
【0024】
ヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステル(D)の製造において、反応を促進するために塩基性化合物を更に含有することができる。塩基性化合物は、特に制限はなく、無機系塩基性化合物及び/又は有機系塩基性化合物を用いられ、無機系と有機系から構成される複合塩基性化合物も用いられる。無機系塩基性化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、炭酸塩や炭酸水素塩、燐酸塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、燐酸塩等が挙げられる。また、無機と有機の複合塩基性化合物としては、アルカリ金属のカルボン酸塩やアルカリ土類金属のカルボン酸塩等が挙げられる。
【0025】
有機系塩基性化合物としては、ピリジン、三級アミン、四級アンモニウム塩が用いられ、中でも三級アミンが好ましい。三級アミンは、具体的に1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ジアザビシクロウンデセン、1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン、キヌクリジン、N-メチルモルホリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリノルマルプロピルアミン、トリノルマルブチルアミンが挙げられる。中でも1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、トリエチルアミンを用いることが好ましく、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンを用いることがより好ましい。
【0026】
前記各種塩基性化合物は、一種を単独使用しても良く、二種以上を組み合わせて使用してもよい。塩基性化合物はアリル位にアシルオキシ基又はハロゲン基を有するメタクリル酸エステル(A)に対して0.1~50倍モルを含有することができ、また0.2~20倍モルを含有することが好ましく、1~10倍モルを含有することがより好ましい。原料Aに対する塩基性化合物の含有量が0.1倍モル未満であれば、添加による反応速度向上や反応収率改善等の効果が発揮できない可能性があり、また、塩基性化合物の含有量が10倍モルを超えると、反応後の塩基性化合物の分離、回収には手間がかかり、生産性やコストの面で不利になるため好ましくない。
【0027】
本発明のヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステル(D)の製造において、塩基性化合物の併用による反応収率が向上される。その理由については明確に解明されているわけではないが、発明者らは、塩基性化合物の存在による触媒有機ホスフィン化合物の求核性がより強くなるとともに、反応で副生成した酸性不純物が中和され、反応がより高選択率で進行することができるためと推定している。
【0028】
ヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステル(D)の製造方法において、反応は常圧、減圧、又は加圧の何れの条件下で行うことができる。反応に用いる原料、触媒と生成物の種類によって、反応温度とのバランスを調整しながら反応圧力を適宜に選択すればよい。また、設備及びエネルギーコストの面で常圧下の反応が好ましい。
【0029】
ヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステル(D)の製造方法において、反応はバッチ方式でも、連続方式でもよく、また、原料や触媒、塩基性化合物、溶媒等の仕込みは回分式反応器でも、半回分式反応器でも用いることができる。また、反応終了後、必要に応じて生成物を精製することにより高純度化することができる。精製方法について、特に限定されるものではないが、例えば、溶媒や残存する原料、触媒、塩基性化合物等を除去する方法や、有機溶媒を用いて生成物を抽出する方法、蒸留精製等が挙げられる。溶媒を除去することによって、精製することができる。
【0030】
また、本発明は、ヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステル(D)を三フッ化ホウ素錯体(E)の存在下で閉環反応させることによりスルフィド基を有する環状ビニル化合物(F)を製造することである。
【0031】
三フッ化ホウ素錯体(E)は、三フッ化ホウ素と錯化剤(配位子)からなるものであればよく、特に限定されることがない。具体的には、三フッ化ホウ素メタノール錯体、三フッ化ホウ素ジメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素エタノール錯体、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジプロピルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素メチルエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素メチルプロピルエーテル錯体、三フッ化ホウ素メチルブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体、三フッ化ホウ素フェノール錯体、三フッ化ホウ素ジアルキルアミン錯体、三フッ化ホウ素アンモニア錯体、三フッ化ホウ素ピペリジン錯体、三フッ化ホウ素トリエタノールアミン錯体、三フッ化ホウ素アルコール錯体、三フッ化ホウ素ケトン錯体、三フッ化ホウ素アルデヒド錯体、三フッ化ホウ素エステル錯体、三フッ化ホウ素酸無水物錯体、三フッ化ホウ素酸錯体などが挙げられる。中でも、三フッ化ホウ素メタノール錯体、三フッ化ホウ素ジメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素エタノール錯体、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体は立体的障害が低く、活性が高いため、好ましい。
【0032】
閉環反応における三フッ化ホウ素錯体(E)の添加量は、ヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステル(D)に対して、0.01~10倍モルの範囲で用いればよく、0.1~5.0倍モルの範囲が好ましく、0.5~2.0倍モルの範囲がより好ましい。添加量が0.01倍モルを未満であると、触媒が十分に機能せず、スルフィド基を有するビニル環状化合物(F)を効率的に製造することができない。また、触媒Eの添加量が10倍モルを超えると、反応後の触媒分離など、コスト面で不利になるため好ましくない。
【0033】
閉環反応の反応温度は、ヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステル(D)、使用する触媒の種類(化合物の構造)や配合比、溶媒の品種等に応じて、適切に選定されるが、通常、反応温度は40~120℃の範囲が好ましく、50℃~100℃の範囲がより好ましい。反応温度が40℃未満の場合は、触媒Eの構造にもよるが、閉環反応が起こりにくい可能性があり、また、反応温度が120℃を超える場合、副反応が多く発生する恐れがあるため好ましくない。
【0034】
閉環反応の反応時間は、1~40時間の範囲であれば良く、好ましくは3~12時間の範囲である。反応時間が1時間未満であると、原料の転化率が低いく、生産の効率が悪い。一方、反応時間が40時間を超える場合、それ以上反応時間を長くしても収率の向上が期待できないため、生産性やコスト面で不利である。
【0035】
本発明の閉環反応において、必要に応じて溶媒を使用することができる。具体的には、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素やベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル等のエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド等のアミド類等が用いることができる。また、
エーテル類と炭化水素類の非極性溶媒が好ましく、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、シクロヘキサン、トルエン等を用いることがより好ましい。また、溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、ヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステル(D)に対し、重量比で10~500倍であればよく、100~400倍が好ましくは、200~300倍がより好ましい。反応溶媒が10倍未満であると、ヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステル(D)や触媒の種類にもよるが、Dの分子内閉環反応のみではなく、分子間のエステル交換反応も起こってしまう可能性があり、また、500倍を超えると反応時間が長くなりすぎ、生産性及びコスト面で不利であるため好ましくない。
【0036】
本発明の閉環反応において、反応は常圧、減圧、又は加圧の何れの条件下で行うことができる。ヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステル(D)、触媒と生成物の種類によって、反応温度とのバランスを調整しながら反応圧力を適宜に選択すればよい。また、設備及びエネルギーコストの面で常圧下の反応が好ましい。
【0037】
また、閉環反応終了後、必要に応じて生成物であるスルフィド基を有するビニル環状化合物を精製することにより高純度品を取得することができる。精製方法について、特に限定されるものではないが、例えば、溶媒や残存する原料、触媒、塩基性化合物等を除去する方法や、有機溶媒を用いて生成物を抽出する方法、蒸留精製等が挙げられる。溶媒を除去することによって、精製することができる。
【0038】
本発明におけるスルフィド基を有する環状ビニル化合物(F)の製造は、アリル位にアシルオキシ基又はハロゲン基を有するメタクリル酸エステル(A)と、分子内にヒドロキシ基とメルカプト基を併せ持つヒドロキシ基含有メルカプタン(B)とを触媒として有機ホスフィン化合物(C)存在下で反応させ、ヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステル(D)を得た後、Dを含有する反応液を用いて閉環反応を行って、Fを取得することができる。例えば、AとBを反応させてDを含有する反応液を得、次にDの反応液に三フッ化ホウ素錯体を加えて閉環反応を行い、スルフィド基を有するビニル環状化合物(F)を製造することができる。このような連続反応は、Dの分離、精製等の工程処理が省略することができるため、トータル収率が高くなり、生産の効率、コストの面でも有利である。AとBを原料として連続的にFを製造する場合、高選択率を維持するため、高濃度のDの反応液を製造してから、必要に応じて適当な溶媒で希釈してから閉環反応を行うことが好ましい。また、原料A、B及び触媒Cの種類にもよるが、閉環反応の触媒三フッ化ホウ素錯体(E)を触媒Cより過剰に配合することがより好ましい。それらの理由は明確に解明されているわけではないが、発明者らは、触媒CとEの活性が反応液の塩基性や酸性に影響され、即ち、有機ホスフィン化合物(C)の求核性が塩基下で強いが、三フッ化ホウ素錯体(E)の活性は酸性下で強いと推定している。
【0039】
本発明の製造方法で得られるヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステル(D)もスルフィド基を有する環状ビニル化合物(F)もビニル基を有し、通常のアリル位置換メタクリル酸エステルと同様にビニル基を利用した付加反応や重合反応等が行うことができる。また、ヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステル(D)はラジカル重合における優れた連鎖移動性を示し、また、反応性官能基としてヒドロキシ基を有するため、ラジカル重合の連鎖移動剤やビニル基或いはヒドロキシ基を利用する反応性モノマーとして種々の用途に好適に用いられる。更に、スルフィド基を有する環状ビニル化合物(F)においても、ラジカル開環重合によりポリマーを得ることができる。重合時における硬化収縮が小さいため、溶液重合のみではなく、活性エネルギー線による光重合にもモノマーとしても好適に用いられる。
【実施例
【0040】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例及び比較例に記載する化合物の略称は以下の通りである。
EAMB:3-アセトキシ-2-メチレンブタン酸エチル
EBMP:3-ブロモ-2-メチレンプロピオン酸エチル
MBMP:3-ブロモ-2-メチレンプロピオン酸メチル
EBZMB:3-ベンゾイルオキシ-2-メチレンブタン酸エチル
ME:メルカプトエタノール
MMB:3-メルカプト-3-メチル-1-ブタノール
MBA:4-メルカプトベンジルアルコール
TBP:トリノルマルブチルホスフィン
DMPP:ジメチルフェニルホスフィン
TPP:トリフェニルホスフィン
DABCO:1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン
TEA:トリエチルアミン
DMAP:N,N-ジメチル-4-アミノピリジン
DBU:ジアザビシクロウンデセン
PC:炭酸カリウム
THF:テトラヒドロフラン
TLE:トルエン
EMEB:2-メチレン-3-(2-ヒドロキシエチルチオ)ブタン酸エチル
EMMBB:2-メチレン-3-(4-ヒドロキシ-2-メチルブチルチオ)ブタン酸エチル
EMEP:2-メチレン-3-(2-ヒドロキシエチルチオ)プロピオン酸エチル
MMEP:2-メチレン-3-(2-ヒドロキシエチルチオ)プロピオン酸メチル
EMMPP:2-メチレン-3-[[4-(ヒドロキシメチル)フェニル]チオ]プロピオン酸エチル
MMMPP:2-メチレン-3-[[4-(ヒドロキシメチル)フェニル]チオ]プロピオン酸メチル
BFE:三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体
BFM:三フッ化ホウ素メタノール錯体
BFT:三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体
DOX:1,4-ジオキサン
MnO:二酸化マンガン
MOT:6-メチレン-1,4-オキサチエパン-7-オン
MMOT:5-メチル-6-メチレン-1,4-オキサチエパン-7-オン
CDCl:重クロロホルム
【0041】
実施例1
攪拌装置、温度計、コンデンサーを付けた300mLのフラスコに3-アセトキシ-2-メチレンブタン酸エチル(EAMB)30.0g(0.16mol)、メルカプトエタノール(ME)12.1g(0.16mol)、トリノルマルブチルホスフィン(TBP)3.2g(0.016mol)とテトラヒドロフラン(THF)150gを仕込んだ。25℃で反応液を1時間攪拌した後、サンプリングを行い、ガスクロマトグラフィー(GC)分析(内部標準法)により反応収率が82%に達したことを確認した。反応を終了し、無機塩基を用いて反応液の中和を行い、中和塩をろ過で除去し、その後減圧下で蒸留精製により無色透明の液体を得た。プロトン核磁気共鳴(H-NMRの)解析により該生成物は目的化合物2-メチレン-3-(2-ヒドロキシエチルチオ)ブタン酸エチル(EMEB)であることを確認した。また、GC分析により目的生成物の純度は85.7%であった。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ 6.26(1H,d,J=1.2Hz)、5.58(1H,m)、4.25(2H,q,J=7.1Hz)、3.95(2H,t,J=6.0Hz)、3.74(1H,m)、2.68(2H,t,J=6.0Hz)、1.48(3H,m)、1.33(3H,t,J=7.1Hz)
【0042】
実施例2~10と比較例1~3
実施例1において、原料、触媒、溶媒、塩基性化合物および反応温度、時間等の反応条件を表1に示す通りに変更し、実施例1と同様に実施例2~10、比較例1~3の反応と分析を行い、それぞれの反応収率を表1に示す。また、実施例2~10で得られた目的化合物は、実施例1と同様に蒸留精製により高純度品を取得することができる。
【0043】
【表1】
【0044】
実施例11
攪拌装置、温度計、コンデンサーを付けた500mLのフラスコにEME 32.4g(0.15mol)、触媒として三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BFE)23.3g(0.16mol)、溶媒として1,4-ジオキサン(DOX)350gを仕込んで、撹拌しながら反応液を70℃まで加熱した。70℃3時間反応させた後、反応液のサンプリングを行い、GC分析(内部標準法)により反応収率が50%に達したことを確認した。反応液を無機塩基で中和し、中和塩をろ過で除去した後、減圧下で蒸留精製により無色透明の液体を得た。1H-NMRの解析により当該生成物は6-メチレン-1,4オキサチオパン-7-オン(MOT)であることを確認した。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ 5.85(1H、m)、5.61(1H,m)、4.51(2H,m)、3.39(2H,s)、2.97(2H,m)
【0045】
実施例12~14と比較例4~6
実施例10において、原料、触媒、溶媒及び反応条件を表2に示す通りに変更したこと以外は、実施例10に記載した方法に準じて実施例12~14と比較例4~6の反応を行い、結果を表2に示す。なお、反応収率はGC分析の内部標準法により算出した。
【0046】
【表2】
【0047】
実施例15
攪拌装置、温度計、コンデンサーを付けた500mLのフラスコにEAMB 27.9g(0.15mol)、ME 24.2g(0.30mol)、TBP 3.0g(0.015mol)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)17.9g(0.16mol)とTHF 150gを仕込んだ。25℃で反応液を1時間攪拌した後、GC分析によりEAMBを完全に消費したことを確認した。次に、BFE 23.3g(0.16mol)とDOX 280gを加え、攪拌しながら70℃に加熱した。70℃で3時間反応を続け、GC分析より反応収率が68%に達していることを確認した。
【0048】
実施例16と17及び比較例6と7
実施例15において、原料、触媒、溶媒、塩基性化合物及び反応条件を表3に示す通りに変更したこと以外は、実施例15に記載した方法に準じて実施例16と17及び比較例6と7の反応を行い、結果を表3に示す。反応収率はGC分析の内部標準法により算出した。
【0049】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上説明してきたように、本発明の方法により、ヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステル及びスルフィド基を有する環状ビニル化合物は高収率に製造することができる。本発明の製法方法で取得するヒドロキシ基とスルフィド基を有するアリル位置換メタクリル酸エステル及びスルフィド基を有する環状ビニル化合物は、他の重合性モノマーと共重合した機能性ポリマーとして、日常生活において、その利便性から、連鎖移動剤、植物成長抑制剤、インクジェット組成物、ホログラフィック媒体、光情報記録媒体、レンズ材料、立体造形物材料、光学デバイス用封止剤、ディスプレイ材、料接着剤、歯科用修復材等、極めて多様な分野において好適に使用することができる。