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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】立ち上がり移乗補助具
(51)【国際特許分類】
   A61G 5/14 20060101AFI20241113BHJP
   A61G 7/053 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
A61G5/14
A61G7/053
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020190080
(22)【出願日】2020-11-16
(65)【公開番号】P2022079106
(43)【公開日】2022-05-26
【審査請求日】2023-11-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 展示日:令和2年2月12日から令和2年2月14日 展示会名、開催場所:第6回 CareTEX東京 東京ビッグサイト 公開者:矢崎化工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000245830
【氏名又は名称】矢崎化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174207
【弁理士】
【氏名又は名称】筬島 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 朋継
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-009922(JP,A)
【文献】特開2016-022155(JP,A)
【文献】特開2018-068878(JP,A)
【文献】米国特許第05054137(US,A)
【文献】特開2013-092034(JP,A)
【文献】特表2000-509638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 5/14
A61G 7/053
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
要介護者の立ち上がり動作、座る動作を補助して移乗するための足置盤と手すり部とから成る立ち上がり移乗装置であって、
前記手すり部は、1本の支柱手すり部と2つの横手すり部とのみから成り、前記横手すり部は、水平部材と垂直部材とから成ること、
前記足置盤は、要介護者の足が載置できる大きさ・形状に形成され、前記1本の支柱手すり部は、前記足置盤に垂直方向に立設されて要介護者が把持自在であり、前記2つの横手すり部は、前記1本の支柱手すり部を中心に同支柱手すり部の中間から前記水平部材が2方向に開いて内方に突き出すと共に前記垂直部材が前記足置盤に立設されて要介護者が把持自在に構成されていること、
前記1本の支柱手すり部の上端部は、前記2つの横手すり部よりも上部にあり、前記2つの横手すり部の水平部材は、前記横手すり部を平面方向から見てL字状に形成されていることを特徴とする、立ち上がり移乗補助具。
【請求項2】
前記横手すり部が開く方向の前記支柱手すり部の内方で、要介護者の膝が当接自在な膝当て体が前記足置盤に立設して備え付けられていることを特徴とする、請求項1に記載した立ち上がり移乗補助具。
【請求項3】
前記膝当て体は、膝当接部と膝当て支柱部及び基板並びに減衰部材とで成り、前記基板は、前記足置盤に対し回転可能な連結軸から前記支柱手すり部方向に延設され、前記膝当て支柱部は、前記連結軸上に軸支して立設され、要介護者の膝が当接される前記膝当接部が前記膝当て支柱部の所定高さ位置に設けられ、前記減衰部材は、前記膝当て支柱部と前記基板との間に傾斜して、その両端が軸支して設けられており、前記膝当接部が前記連結軸を支軸として傾動可能に構成されていることを特徴とする、請求項2に記載した立ち上がり移乗補助具。
【請求項4】
記基板の下側には、前記足置盤に対して水平回転可能な固定軸が設定され、前記固定軸回りに前記膝当て体が回転して、前記膝当接部を所定位置に回転可能とされていることを特徴とする、請求項に記載した立ち上がり移乗補助具。
【請求項5】
前記足置盤は、円盤状のベース部材と、その上に配置される回転部材とで成り、前記回転部材は前記ベース部材に対して相対的に水平回転自在で、前記ベース部材の円周上の所定位置にピン孔が設けられ、前記回転部材には、前記ピン孔へ位置決めピンが前進又は後退の動作が自由に設けられており、所望位置の前記ピン孔へ前記位置決めピンを突入させて回転部材を所望の回転角の位置に止め、前記位置決めピンを前記ピン孔から引き抜いて回転部材の回転を自由にする操作機構が備え付けられていることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載した立ち上がり移乗補助具。
【請求項6】
前記足置盤のベース部材の円周上の45°毎等の所望位置に、前記ピン孔が設定可能であることを特徴とする、請求項5 に記載した立ち上がり移乗補助具。
【請求項7】
前記足置盤の操作機構は、前記位置決めピンに接続するロック解除ノブが、前記支柱手すり部の上端部に設けられており、前記ロック解除ノブを持ち上げることにより前記位置決めピンが前記ピン孔から引き抜き自在に構成されていることを特徴とする、請求項5又は6に記載した立ち上がり移乗補助具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、要介護者の自立を助けて安全に立ち上がる動作や着座動作を補助して移乗する移乗補助具の技術分野に関し、さらに言えば、要介護者が介助者による若干の助け(介助)を受けて乗り移る移乗動作の自立支援に役立ち、介助者の介助、介護の負担(支援)を軽減化する立ち上がり移乗補助具の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、要介護者用の移乗補助に関し、本出願人は、下記特許文献1(特開2018-68878号)に係る回転式移乗補助具を開発している。同文献の符号を援用すると、床面F上に足10を介して載置されるベース部材1の上に、利用者 (要介護者)が両足を乗せる回転盤3は水平回転が自在な関係に組み合わされ、この回転盤3の上面のほぼ中心部に、下端のフランジ部5aをボルト5bで強固に固定された中空管構造の支柱5が垂直上向き姿勢に立てられている。 また、同支柱5の上端部には、回転盤3の上へ乗り込んだ利用者(要介護者)が両手で掴まり立つのに適切な高さに調節が可能で、かつ両腕の肘が十分に着ける大きさの肘受け部材7が、段階的に高さ位置を変更可能に、支柱5内に下端部を挿入して、上下に伸縮できる挿入支柱5cの上端部に広がる取付け盤7aにボルト止めをされて、要介護者の掴まり 立ちに適正な高さで設置可能とされている。回転盤3の回転を自由にするためには操作機構15の可動操作レバー15aを前側に引き出す。そして、実施例2では可動操作レバー15aではなく梃子レバー70により、介助者の足の先の操作による操作機構とすることが記載されている。
【0003】
また、下記特許文献2(特開2015-202334号)には、固定ベース71と基礎台座70と基礎台座70内に配置される電動モータ90と、足置部11と支柱台12とを含む台座10と、一対の2本の支柱20と、支柱高さ調整手段40と、膝脛当て部60と、胸当て部30と、把持部51を含むグリップ50と、グリップ50に配置されたスイッチ52とランプ53とを備える立体補助具が開示されている。なお、スイッチ52は電動モータ90を駆動させることで台座10が水平面内で回転をする旨記載されている。
さらに、本出願人に係る下記特許文献3(実用新案登録第3034536号)には、ベース8の鉛直方向にフレーム5が設けられ、フレーム5は継手6によって横桟7が取り付けられた起き上がり用補助具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-68878号公報(図2
【文献】特開2015-202334号公報
【文献】実用新案登録第3034536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1の回転式移乗補助具は、要介護者が腰を曲げて前傾姿勢を取ることで要介護者の重心が前方に傾くばかりでなく、膝の屈曲は十分に行えず、さらに親指を除く4指で掴むことになるので十分な把持ができているとは言えず、不安定な状態となることから要介護者にとって不安を抱かせてしまう。また、要介護者が前傾姿勢で回転するため、回転盤より頭が外側に出ることで、回転半径が大きくなり、狭いトイレでは使用が難しくなる。座位姿勢から立位姿勢へ遷移する際の立位動作及び立位保持の補助ができない。回転可能角度は-90°~+90°と制限があり、自由度が低い。しかも、回転盤の回転を自由にするための操作機構が要介護者でも扱える位置にあるため、要介護者が不意に操作してしまうことで回転盤が回転して、要介護者が怪我をしてしまう問題点がある。
【0006】
特許文献2の立体補助具は、グリップが左右1か所ずつにしかないので把持できる範囲が限られるだけでなく、使用者(要介護者)の身体状況(例えば片麻痺)によっては非常に不安定となる。腕の力だけで座位から立位へ遷移することになり、使用者(要介護者)の負担が大きくなってしまう。また、台座を電動モータにて回転させるためコストがかかり、スイッチ52がグリップ50にあることから使用者(要介護者)が不用意に操作してしまうことで台座が回転して、使用者(要介護者)が怪我をしてしまう恐れがある。
【0007】
特許文献3の起き上がり用補助具は、ベッドからの立ち上がり又は移乗に対して利用すると、把持可能な部分はフレーム5の上部4しかないことから、使用者の身長や腕の長さ、身体状況によっては使いづらく、平面視でベッドと本体2を平行に置くと横桟7が立ち上がりを阻害したり、平面視でベッドと本体2を直角に置くと使用者が立ち上がって前方にバランスを崩したりした場合、支えが何もないので怪我をしてしまう可能性があって、これらが解決すべき課題となっている。
【0008】
したがって、本発明の目的は、要介護者が無理な前傾姿勢をせずに安心して把持できる手すり部があり、不安をなくして安全に立ち上がり又は着座する移乗を実現すると共に、足置盤の誤操作による回転を防止して安全な上、製造コストダウンを図って使い勝手に優れた立ち上がり移乗補助具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決する手段として、請求項1に記載した発明は、要介護者1の立ち上がり動作、座る動作を補助して移乗するための足置盤2と手すり部とから成る立ち上がり移乗装置であって、
前記手すり部は、1本の支柱手すり部3と2つの横手すり部4とのみから成り、前記横手すり部4は、水平部材4aと垂直部材4bとから成ること、
前記足置盤2は、要介護者1の足11が載置できる大きさ・形状に形成され、前記1本の支柱手すり部3は、前記足置盤2に垂直方向に立設されて要介護者1が把持自在であり、前記2つの横手すり部4は、前記1本の支柱手すり部3を中心に同支柱手すり部3の中間から前記水平部材4aが2方向に開いて内方に突き出すと共に前記垂直部材4bが前記足置盤2に立設されて要介護者1が把持自在に構成されていること、
前記1本の支柱手すり部3の上端部は、前記2つの横手すり部4よりも上部にあり、前記2つの横手すり部4の水平部材4aは、前記横手すり部4を平面方向から見てL字状に形成されていることを特徴とする、立ち上がり移乗補助具である。
【0010】
請求項2に記載した発明は、前記横手すり部4が開く方向の前記支柱手すり部3の内方で、要介護者1の膝10が当接自在な膝当て体5が前記足置盤2に立設して備え付けられていることを特徴とする、請求項1に記載した立ち上がり移乗補助具である。
【0011】
請求項3に記載した発明は、前記膝当て体5が、膝当接部50と膝当て支柱部51及び基板52並びに減衰部材53とで成り、前記基板52は、前記足置盤2に対し回転可能な連結軸52aから前記支柱手すり部3の方向に延設され、前記膝当て支柱部51は、前記連結軸52a上に軸支して立設され、要介護者1の膝10が当接される前記膝当接部50が前記膝当て支柱部51の所定高さ位置に設けられ、前記減衰部材53は、前記膝当て支柱部51と前記基板52との間に傾斜して、その両端が軸支して設けられており、前記膝当接部50が前記連結軸52aを支軸として傾動可能に構成されていることを特徴とする、請求項2に記載した立ち上がり移乗補助具である。
【0012】
請求項4に記載した発明は、前記基板52の下側に、前記足置盤2に対して水平回転可能な固定軸52cが設定され、前記固定軸52c回りに前記膝当て体5が回転して、前記膝当接部50を所定位置に回転可能とされていることを特徴とする、請求項に記載した立ち上がり移乗補助具である。
【0013】
請求項5に記載した発明は、前記足置盤2が、円盤状のベース部材2Bと、その上に配置される回転部材2Aとで成り、前記回転部材2Aは前記ベース部材2Bに対して相対的に水平回転自在で、前記ベース部材2Bの円周上の所定位置にピン孔22が設けられ、前記回転部材2Aには、前記ピン孔22へ位置決めピン21が前進又は後退の動作が自由に設けられており、所望位置の前記ピン孔22へ前記位置決めピン21を突入させて回転部材2Aを所望の回転角の位置に止め、前記位置決めピン21を前記ピン孔22から引き抜いて回転部材2Aの回転を自由にする操作機構7が備え付けられていることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載した立ち上がり移乗補助具である。
【0014】
請求項6に記載した発明は、前記足置盤2のベース部材2Bの円周上の45°毎等の所望位置に、前記ピン孔22が設定可能であることを特徴とする、請求項5に記載した立ち上がり移乗補助具である。
【0015】
請求項7に記載した発明は、前記足置盤2の操作機構7が、前記位置決めピン21に接続するロック解除ノブ71が、前記支柱手すり部3の上端部3aに設けられており、前記ロック解除ノブ71を持ち上げることにより前記位置決めピン21が前記ピン孔22から引き抜き自在に構成されていることを特徴とする、請求項5又は6に記載した立ち上がり移乗補助具である。
【発明の効果】
【0016】
請求項1、2に係る立ち上がり移乗補助具によれば、支柱手すり部が、着座又は立位状態においてもどの位置でも把持可能となったことから、要介護者の身長や腕の長さを考慮した調整が不要となった。また、立位状態を可能としたことで要介護者の重心が大きく外れることが無くなっただけでなく、5指で十分な把持が可能で安定な状態となったので、要介護者の使用上の安全性を確保した。しかも、横手すり部が支柱手すり部の中間から2方向に開いて前方に突き出た構成になっているので、要介護者が万一前方へバランスを崩したとしても、その横手すり部が支えとなり、転倒が防止される。
請求項3のように、膝当て体は、膝が当接する膝当接部の膝当て支柱部が連結軸に軸支されて傾動可能としたことにより、要介護者の立位動作や着座動作を容易にすることが可能となっただけでなく、要介護者が屈曲させた膝に体重をかけた状態でも安定した支えとなり、バランスを崩して転倒する恐れが無い。
請求項4のように、膝当て体が足置盤に対して水平回転可能としたことにより、膝当て体を所望位置に回転して固定することで、要介護者の身体状況に応じて使用することができる。また、使用目的を移乗のみならず、立ち上がりのリハビリテーションとして用いることもできる。
請求項5のように、立位状態のまま回転部材が回転可能とさせることにより、回転部材より身体が外側に出ることが無くなり、回転半径が小さくなったので、狭いトイレでも使用可能となった利便性にも優れている。
請求項6のように、回転部材の回転可能角度を45°毎等の所望の回転角度の調整が可能としたことで、移乗先の回転角度による限定が無くなり、使用可能な場面が増えた。
請求項7のように、回転部材の回転を自由にするための操作機構は、支柱手すり部の上端部に設けたロック解除ノブによりロックの解除が操作されるので、要介護者が不意に操作する恐れが無くなり、怪我の防止が図られている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の立ち上がり移乗補助具を示した斜視図である。
図2】(A)は図1の立ち上がり移乗補助具の平面図、(B)は同底面図である。
図3】(A)は図1の立ち上がり移乗補助具の正面図、(B)は同右側面図である。
図4】足置盤が異なる立ち上がり移乗補助具を示した斜視図である。
図5】膝当て体を設けた立ち上がり移乗補助具を示した斜視図である。
図6】(A)は図5の膝当て体を設けた立ち上がり移乗補助具の正面図、(B)は同右側面図、(C)は同平面図、(D)は同底面図である。
図7】(A)~(C)は、図5の移乗補助具の膝当て体の配置変更例を示した平面図である。
図8】(A)(B)は、図5の立ち上がり移乗補助具における回転盤(ベース部材)の操作機構を示した各底面図である。
図9】(A)は支柱手すり部の上端部において、操作機構のロック状態を拡大して示した断面図、(B)は同上端部における操作機構のロック解除状態を拡大して示した断面図、(C)は支柱手すり部の下端部の回転盤において、操作機構のロック状態を拡大して示した断面図、(D)は同回転盤における操作機構のロック解除状態を拡大して示した断面図である。
図10】(A)~(E)は、要介護者が立ち上がり移乗補助具を使用して、ベッドから車椅子に移乗する要領を時系列で平面的に示した説明図である。
図11】(a)~(j)は、要介護者が立ち上がり移乗補助具を使用して、洋式便器から車椅子に移乗する要領を時系列で平面的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の立ち上がり移乗補助具を、以下、図面にしたがって説明する。
この立ち上がり移乗補助具は、要介護者1の立ち上がり動作や座る動作を補助して移乗するための足置盤2及び、支柱手すり部3並びに横手すり部4を基本構造としている。
手すり部を構成するフレームは、支柱手すり部3と横手すり部4とから成り、これらが各種の継手40により接続され、平面方向から見てL字状に横手すり部4の水平部材4aが形成されている。すなわち、前記横手すり部4は1本の垂直配置の支柱手すり部3の中間から2方向に開いて内方に突き出すと共に前記足置盤2に立設されて、要介護者1が把持自在に構成されている。
前記支柱手すり部3と横手すり部4の垂直部材4bは、足置盤2から垂直姿勢に固定されたスタンド31に下端部を差し入れてねじ止めされている。スタンド31には鉛直方向に複数のねじ孔31aが設けられており、支柱手すり部3と横手すり部4の高さを調整することが可能となっている(図3)。
前記スタンド31は足置盤2とボルト60にて締結固定されているが(図2B)、溶接固定されていても構わない。また、フレームをなす支柱手すり部3と横手すり部4は、合成樹脂被覆パイプを用いて好適に実施されるが、違う材質を用いても構わない。
前記支柱手すり部3の上端部3aは、横手すり部4よりも上部、かつ天井Cよりも下にあるが、本立ち上がり移乗具を移動させるのに支障のない高さであることが好ましく、高くても要介護者1の身長と同じくらいであれば問題ない(図11参照)。なお、本実施例においては地面から上端部3aまで約135cm程度であり、高さを調整することで床面Fから上端部3aまで約150cm程度とすることが可能である。
【0019】
膝当て体5を設けた実施形態について説明する。この膝当て体5は、図5図7に示したように、膝当接部50と膝当て支柱部51、及び基板52並びに減衰部材(ダンパー)53とから成り、前記横手すり部4が開く方向の前記支柱手すり部3の内方で、要介護者1の膝10が当接自在なように、前記足置盤2に立設して備え付けられている。
前記基板52は、後述する足置盤2に対し回転可能な連結軸52aから支柱手すり部3の方向に延設されている。膝当て支柱部51は、前記の連結軸52a上に軸支して立設されている。また、要介護者1の膝10が当接される前記膝当接部50が、膝当て支柱部51の所定の高さ位置に設けられ、減衰部材のシリンダー型ダンパー53が膝当て支柱部51と基板52との間に傾斜して、その両端が軸支して設けられており、膝当接部50が、連結軸52aを支軸として連結軸52a回りに回転し前方向に傾動可能に構成されている。
【0020】
したがって、膝当て支柱部51の高さ方向の上部に、足置盤2上に乗った要介護者1の両足11の膝10を当てる膝当接部50が設置されているため、要介護者1の体重を同要介護者1の膝10にかけることで、膝当て支柱部51と共に膝当接部50が膝当て支柱部51の足置盤2付近にある連結軸52a回りに回転し、前方向に傾動する。また、膝当て支柱部51にダンパー53が取り付けられているので、要介護者1の体重を同要介護者1の膝10にかけることをやめるとダンパー53が作用して、膝当て支柱部51と共に膝当接部50が連結軸52a回りに回転して垂直状態となる。また、ダンパー53によって膝当接部50の回転が緩やかになるので、要介護者1はバランスを崩して転倒することなく、膝10の屈曲を行うことが可能となる。
なお、前記の膝当接部50は、高さ調整手段を含んでも良い(図示は省略)。また、ダンパー53等の減衰部材を使用せずに、膝当て支柱部51を高力な回転軸52aで軸支する実施形態も採用可能である。
【0021】
足置盤2は、円盤状のベース部材2Bと、その上に配置され前記ベース部材2Bと同じ大きさの円盤状で足11が置かれる回転部材2Aとで構成されている。回転部材2Aはベース部材2Bに対して360°水平回転自在であり、45°毎にピン孔22を設けたピン孔部材23が配置されている。そのピン孔部材23のピン孔22へ位置決めピン21を突入させることにより回転部材2Aは回転しない(図8A)。
前記ベース部材2Bには、図8に示したような操作機構7が備え付けられている。この操作機構7は、前記の位置決めピン21(又はプランジャー)とワイヤー70とから成る。前記ワイヤー70の一端にはロック解除ノブ71が取り付けられ、他端には位置決めピン21が前進、後退可能になるように取り付けられている。
【0022】
そして、支柱手すり部3の上端部3aにロック解除ノブ71が設けられており、図9Bに示したように、ロック解除ノブ71を上方に持ち上げて引くと、ワイヤー70にて結合された位置決めピン21がピン孔22から引き抜かれて、回転部材2Aの回転を自由にすることが可能となる。ロック解除ノブ71を上方に引くことをやめると、ワイヤー70にて結合された位置決めピン21の内部にある弾性体の作用にて、位置決めピン21は突き出た状態へと戻る(図9A)。
前記ピン孔部材23は45°毎に設定が可能であるので、45°毎に設置しても構わないが、すべて使用しなくてもよい。使用しないピン孔部材23を取り外すことが可能で、例えば、回転部材2Aを180°毎に水平回転のみを行う場合は、図8Bのようにする。使用時は、介助者がロック解除ノブ71を持ち上げると、ワイヤー70によってピン孔部材23のピン孔22から位置決めピン21が引き抜かれ、回転部材2Aの回転が自由となる。そこで、介助者がロック解除ノブ71を元に戻し、回転部材2Aを180°水平回転させる。すると、ピン孔部材23のピン孔22に位置決めピン21が突入し、回転部材2Aの回転が止まる。つまり、介助者は最初にロック解除ノブ71を持ち上げて回転部材2Aを少し回転させてロック解除ノブ71を元に戻した後、回転部材2Aを回転させれば、180°の位置に確実に停止させることができる。
【0023】
なお、本実施例ではワイヤー70を用いているが、ロープを使用しても構わない。また、支柱手すり部3の上端部3aにあるロック解除ノブ71は横手すり部4よりも上方にあって、かつ天井Cよりも下方にあるが、介助者が手でロック解除ノブ71を掴むことが可能な高さであることが望ましい。さらに、要介護者1が容易に掴むことが無いような高さで実施すれば、不用意に回転部材2Aを回転させることが無く安全である。
また、足置盤2にはキャスター8が設けられており、足置盤2をそのキャスター8に近付けるように倒すことで移動が容易に構成されているが、足置盤2の軽量化が可能であればキャスター8を設けなくてもよい。さらに、足置盤2は滑り止め加工を施してもよく、滑り止めのマット(図示は省略)を足置盤2の上に置いても構わない。足置盤2はステンレス製である。また、足置盤2は平面方向から見て円形状に限定することは無く、図4に示したように角形状でも構わない。
【0024】
上述した膝当て体5の配置を変えることで、要介護者1の身体状況に応じた使用が可能となっている。すなわち、膝当て体5は、足置盤2に対して水平回転可能な状態で固定軸52cが基板52の下側に設けられている(図6C)。そのため、固定軸52c回りに膝当て体5が回転して、膝当接部50が360°の範囲内で回転可能となっている(図6A)。具体的には、図7に示したように、足置盤2に設けた固定孔20と、膝当て体5の基板52の後ろ側にある平面部に設けた固定孔52bとを締結しているボルト等の固定具6から成る固定部材Kを緩めることにより、足置盤2に対して膝当て体5は固定軸52c回りに水平回転が可能となる。足置盤2には3か所の固定孔20があるので、その足置盤2の固定孔20と膝当て体5の固定孔52bを固定具6により締め付け固定することで、フレームをなす支柱手すり部3と横手すり部4と膝当接部50が要介護者1の身体状態に応じた配置にすることができる。例えば、図7(B)の配置を基本として、左手のみ動かすことのできる要介護者1の場合は図7(A)のように基板52が基本に対して右を向くような配置、右手のみ動かすことのできる要介護者1の場合は図7(C)のように基板52が基本に対して左を向くような配置、両手を動かすことが可能な要介護者1の場合は図7(B)のような配置にすることで利用しやすくなる。なお、身体状況に問題のない要介護者であっても、図7(A)や(C)に示した配置状態で使用しても何ら問題はない。また、足置盤2の固定孔20の数は、3か所に限定することは無い。
【0025】
<使用例1>
上述した本立ち上がり移乗補助具の使用例として、ベッドBから車椅子9へ要介護者1が移乗する場合を、図10にしたがって時系列に説明する。
(1)図10Aに示したように、要介護者1は、ベッドBに端座位となると共に、支柱手すり部3又は横手すり部4を手12で把持する。
(2)図10Bに示したように、要介護者1の上半身が車椅子9側に軽く倒れるようになりながら、要介護者1の膝10が膝当接部50に当接するように足11を置く。
(3)図10Cに示したように、要介護者1は前方に身体を手すり部3、4に引き寄せるようにして前傾姿勢になりつつ立ち上がる。同時に膝当接部50が要介護者1の膝10にかかる体重(荷重)を受けて膝当て支柱部51と共に連結軸52a回りに回転し、前方向へ傾動をする。さらに、要介護者1は足11の踏み替えを行って、移乗先である車椅子9に体の向きを変える。
(4)図10Dに示したように、車椅子9へ移乗する。同時に、回転して前方向へ傾動していた膝当接部50は荷重が無くなったことで元の位置へと戻る。
(5)図10Eに示したように、車椅子9へ深く座りつつ支柱手すり部3又は横手すり部4から手12を離して完了する。
なお、上述の移乗に際し、要介護者1の身体状況に応じて介助者(図示は省略)が介助しても何ら問題は無い。
【0026】
<使用例2>
洋式便器Tから車椅子9へ移乗する使用例を、図11にしたがって時系列に説明する。
(1)図11aに示したように、立ち上がる準備のため、洋式便器Tに座っている要介護者1は横手すり部4を手12で把持する。洋式便器Tに深く座っていると立ち上がることは困難なため、横手すり部4を把持しつつ身体を支柱手すり部3へ引き寄せるようにして洋式便器Tから太ももが離れるように浅く座り直し、横手すり部4から支柱手すり部3へと持ち替える。この時に膝10は膝当接部50に当接するようにしておく。
(2)図11bに示したように、要介護者1は支柱手すり部3を両手12で把持し、身体を支柱手すり部3へ引き寄せるような動作をすると共に、腰を上げて洋式便器Tから離れる動作をとる。すると、膝当接部50は膝10の押圧力により、膝当て支柱部51と共に連結軸52a回りに回転し、前方向へ傾動を始める。
(3)図11cに示したように、要介護者1はさらに身体を支柱手すり部3へ引き寄せる動作をとりつつ膝当接部50に体重をかけることにより、膝当て支柱部51と共に膝当接部50はさらに連結軸52a回りに回転し、前方向へ傾動して、要介護者1の立ち上がりを補助する。側面方向視で回転部材2A(2)と膝当て支柱部51のなす角が一定角度まで達すると(図11cでは70°)、連結軸52a回りの回転は停止する。この時、重心が膝10にあり、膝当接部50が連結軸52a回りの回転を停止していることから、手すり部3、4を持ち替える行為を行ったとしてもバランスを崩して転倒することがない。
(4)図11dに示したように、要介護者1は支柱手すり部3から横手すり部4へ手12の把持を遷移させて、横手すり部4を押し下げるような腕の動きをとることで、要介護者1の頭が上方へ上がると共に膝10の屈曲が浅くなり、膝当接部50にかかる押圧力が弱くなることで、ダンパー53の反発力が打ち勝ち、膝当て支柱部51と共に膝当接部50が連結軸52a回りに回転して膝当接部50は元の位置へ戻ろうとし、膝10を伸ばすような動きとなることにより立位状態を促す。
(5)図11eに示したように、立位状態に達すると膝10の屈曲は無くなると共に、ダンパー53の反発力により膝当て支柱部51と共に膝当接部50は元の位置へと戻り、回転部材2Aに対して垂直状態となる。この時、要介護者1の身体は、回転部材2Aから飛び出ていない。
【0027】
(6)図11fに示したように、介助者は要介護者1が立位状態となったことを確認し、支柱手すり部3の上端部3aにあるロック解除ノブ71を上方に引っ張ることで、要介護者1が乗っている回転部材2Aの回転の固定が解除され、ベース部材2Bに対して相対的に水平回転が可能となる。所望する回転位置(図11fでは180°水平回転した位置)に達したら、ロック解除ノブ71を元の位置に戻して、回転部材2Aの回転を固定する。回転部材2Aから要介護者1の身体が飛び出ていないので、壁が接近しているような場所でも壁と要介護者1が接触することがなく、安全に使用が可能である。
(7)図11gに示したように、回転部材2Aの回転が固定されたことを確認し、介助者は要介護者1に立位状態から座位状態へ移るように伝え、要介護者1は行動を開始し、膝10の屈曲を始める。すると膝当接部50は膝10の押圧力により膝当て支柱部51と共に連結軸52a回りに回転し、前方向へ傾動を開始する。
(8)図11hに示したように、要介護者1はさらに膝10の屈曲を深くすると、膝当て支柱部51を含む膝当接部50はさらに回転して前方向へ傾動し、側面方向視で回転部材2Aと膝当て支柱部51のなす角が一定角度まで達すると(図11hでは70°)、連結軸52a回りの回転は停止する。この時、重心が膝10にあり、膝当接部50が連結軸52a回りの回転を停止していることから、手すり部3、4を持ち替える行為を行ったとしてもバランスを崩して転倒することはないので、横手すり部4から支柱手すり部3へと持ち替えつつ、前腕を支柱手すり部3に当接させて立位状態から座位状態へと遷移する。
(9)図11iに示したように、要介護者1は支柱手すり部3を把持しつつ、前腕の肘に近い方から徐々に支柱手すり部3を離し、車椅子9に腰を下ろすために、重心を膝10から腰へ移動させる。すると、膝当接部50にかかる押圧力が弱くなり、ダンパー53の反発力が打ち勝ち、膝当て支柱部51と共に膝当接部50は連結軸52a回りに回転して元の位置に戻ろうとする。
(10)図11jに示したように、要介護者1が車椅子9に腰を下ろして座位状態となり、膝当接部50にかかる押圧力が無くなると、ダンパー53が作用して膝当て支柱部51と共に膝当接部50は連結軸52a回りに回転して元に戻る。座りが浅く、太ももが車椅子9に当接していない場合は、横手すり部4を把持して座りを深くし、太ももを車椅子9に当接させて完了する。
【0028】
なお、当該立ち上がり移乗補助具は、上記したような洋式便器Tから車椅子9への使用だけでなく、ベッドBから簡易便器、車椅子9からシャワーキャリーの移乗にも使用可能で、回転部材2Aは360°水平回転可能であることから、どのような配置であっても移乗は可能である。
また、側面方向視で回転部材2Aと膝当て支柱部51のなす角は70°に限らなくてもよく、ダンパー53(減衰部材)次第で変化させることが可能である。
【0029】
以上、実施例を図面に基づいて説明したが、本発明は図示例の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために申し添える。
【符号の説明】
【0030】
1 要介護者
10 膝
11 足
12 手
2 足置盤
2A 回転部材
2B ベース部材
20 固定孔
21 位置決めピン
22 ピン孔
23 ピン孔部材
3 支柱手すり部
3a 上端部
31 スタンド
31a ねじ孔
4 横手すり部
4a 水平部材
4b 垂直部材
40 継手
5 膝当て体
50 膝当接部
51 膝当て支柱部
52 基板
52a 連結軸
52b 固定孔
52c 固定軸
53 減衰部材
6 固定具
60 ボルト
K 固定部材
7 操作機構
70 ワイヤー
71 ロック解除ノブ
8 キャスター
9 車椅子
図1
図2
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図4
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図6
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図11