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  • 特許-リチウムの回収方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】リチウムの回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 26/12 20060101AFI20241113BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20241113BHJP
   C22B 3/04 20060101ALI20241113BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20241113BHJP
   C22B 5/04 20060101ALI20241113BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
C22B26/12
C22B7/00 C
C22B3/04
C22B3/44 101A
C22B5/04
H01M10/54
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023187858
(22)【出願日】2023-11-01
【審査請求日】2023-11-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231372
【氏名又は名称】日本重化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 藍
(72)【発明者】
【氏名】後藤 芳幸
(72)【発明者】
【氏名】中村 仁
(72)【発明者】
【氏名】布浦 達也
(72)【発明者】
【氏名】柴田 悦郎
(72)【発明者】
【氏名】安達 謙
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/085222(WO,A1)
【文献】特開2018-190610(JP,A)
【文献】特表2020-522617(JP,A)
【文献】特開2022-042982(JP,A)
【文献】特表2020-522622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 26/12
C22B 7/00
C22B 3/04
C22B 3/44
C22B 5/04
H01M 10/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム及びアルミニウムを含有する組成物を過酸化水素水溶液で処理してリチウムが溶解した浸出液を得る工程と、
前記浸出液中の残渣を除去する工程と、
前記残渣を除去した後の前記浸出液を中和して前記浸出液に含まれるアルミニウムを難溶性物質の状態で沈殿させ、アルミニウムを含有する沈殿物を除去する工程と、
前記沈殿物を除去した後の前記浸出液からリチウムを回収する工程と
を備えるリチウムの回収方法(ただし、前記過酸化水素水溶液が硫酸、硝酸または塩酸を含む場合を除く)。
【請求項2】
前記沈殿物を除去した後の前記浸出液からリチウムを回収する工程において、前記沈殿物を除去した後の前記浸出液を炭酸化処理し、前記浸出液に含有されるリチウム成分を炭酸リチウムとして回収する
請求項1に記載のリチウムの回収方法。
【請求項3】
前記過酸化水素水溶液の濃度は5質量%以上35質量%以下である
請求項1又は2に記載のリチウムの回収方法。
【請求項4】
前記リチウム及びアルミニウムを含有する組成物は、リチウムイオン二次電池を溶融して金属材料と分離して得られたスラグである
請求項1又は2に記載のリチウムの回収方法。
【請求項5】
前記リチウム及びアルミニウムを含有する組成物は、リチウムイオン二次電池の正極をテルミット反応により還元処理して金属材料と分離して得られたスラグである
請求項1又は2に記載のリチウムの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、ハイブリッド自動車や電気自動車に搭載される蓄電池として用いられており、近年、急激に需要が高まっている。リチウムイオン二次電池の需要増加に伴い、使用済みリチウムイオン二次電池、不良品リチウムイオン二次電池、リチウムイオン二次電池の製造工程で生じる工程屑の量も増加傾向にある。リチウムイオン二次電池には、ニッケル(Ni)やコバルト(Co)等の有価物が含まれており、資源の有効利用のために、ニッケル、コバルト等の有価物を含む金属材料を回収する方法が開発されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池には、上記のニッケル、コバルト等の金属材料の他に、リチウム(Li)が含まれている。リチウムについても資源の有効活用が求められており、リチウムイオン二次電池からリチウムを回収する方法が求められている。
【0004】
特許文献1には、廃棄処理対象のリチウムイオン二次電池を熔融して、アルミニウム/リチウムの質量比が6以下に調整されたアルミニウムとリチウムを含むスラグを得て、該スラグを希硫酸と接触させてスラグ中のリチウムを浸出し、アルミニウム等の不要金属を沈殿除去するリチウムの回収方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、廃リチウムイオン電池を熔解し還元することで得られるメタルとスラグとを分離し、分離したスラグをpHが5~7の純水に接触させて浸出処理に付し、浸出処理により得られる浸出スラリーのpHを11以上に維持して、該浸出スラリーを固液分離することにより、リチウムを含む浸出液と浸出後スラグとに分離するリチウムの回収方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2022/085222号
【文献】特開2020-029613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の方法ではリチウムの浸出率は高いが、浸出の選択性が低くアルミニウムも液中に浸出し、スラグ中のアルミニウムの重量比率が高くなるほどリチウムの回収率が大幅に悪化するという問題がある。
【0008】
特許文献2に記載の方法では、水によりリチウムを浸出することが可能ではあるが、浸出率は低く、スラグ中のリチウムの回収には十分でない。
【0009】
そこで本発明は、リチウム及びアルミニウムを含有する組成物から、リチウムの選択率を高めて浸出して回収できるリチウムの回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るリチウムの回収方法は、リチウム及びアルミニウムを含有する組成物を過酸化水素水溶液で処理してリチウムが溶解した浸出液を得る工程と、前記浸出液中の残渣を除去する工程と、前記残渣を除去した後の前記浸出液を中和して前記浸出液に含まれるアルミニウムを難溶性物質の状態で沈殿させ、アルミニウムを含有する沈殿物を除去する工程と、前記沈殿物を除去した後の前記浸出液からリチウムを回収する工程とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リチウム及びアルミニウムを含有する組成物から、リチウムの選択率を高めて浸出して回収できるリチウムの回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係るリチウムの回収方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.実施形態
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
本実施形態のリチウムの回収方法は、リチウム(Li)及びアルミニウム(Al)を含有する組成物からリチウムを回収する方法である。リチウム及びアルミニウムを含有する組成物は、例えばリチウムイオン二次電池の正極をテルミット反応により酸化還元処理して金属材料と分離して得られたスラグである。以下では、リチウムイオン二次電池の正極をテルミット反応により酸化還元処理して金属材料と分離して得られたスラグからリチウムを回収する方法について説明する。
【0015】
まず、リチウムイオン二次電池と、リチウムイオン二次電池の正極をテルミット反応により酸化還元処理して金属材料と分離して得られたスラグとについて説明する。
【0016】
(リチウムイオン二次電池)
本実施形態に係るリチウムの回収方法においてリチウム回収の対象となるリチウムイオン二次電池は、電気自動車やハイブリッド自動車等の自動車の蓄電池として利用された使用済みの二次電池である。リチウムイオン二次電池は、製造後に不良が確認された未使用のものでも良い。また、製造工程で生じる工程屑等でも良い。
【0017】
リチウムイオン二次電池は、セル容器に、電極体と電解液とを備える。セル容器は、例えばアルミニウム合金製である。
【0018】
電極体は、セパレータを介して捲回された正極と負極とを含む。電極体は、捲回型である場合に限られず、正極、負極、およびセパレータを積層した積層型でも良い。
【0019】
正極は、正極集電体および正極活物質層を有する。正極集電体はアルミニウムを含む箔(以下、Al箔とも言う)である。正極活物質層は、正極活物質、バインダー、および導電材を含む。
【0020】
正極活物質としては、リチウムを含有する任意の金属複合酸化物を用いることができる。例えば、正極活物質は、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、リチウムニッケルマンガン複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、リン酸鉄リチウム等から選択することができる。本実施形態においては、正極活物質は、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物である。
【0021】
負極は、負極集電体および負極活物質層を有する。例えば、負極集電体は銅(Cu)箔であり、負極活物質は黒鉛である。
【0022】
電解液は、溶媒と、リチウム塩(電解質)とを含む。
【0023】
電解質としては、フッ素化合物を含むもの、例えば、LiPF(ヘキサフルオロリン酸リチウム)、LiBF(テトラフルオロホウ酸リチウム)、LiTFSA(リチウムトリフルオロメタンスルホニルアミド)、LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド)等が用いられる。
【0024】
上記ではセパレータ及び電解液を用いた構成について説明したが、これに限定されず、セパレータ及び電解液に代えて、固体電解質を用いた構成でもよい。
【0025】
(スラグ)
本実施形態のリチウムの回収方法においてリチウム回収の対象となるスラグは、例えば、上記のリチウムイオン二次電池の正極を取り出し、テルミット反応により酸化還元処理して金属材料と分離して得られたスラグである。スラグは、リチウム及びアルミニウムを含む組成物である。
【0026】
(スラグの製造方法)
スラグの製造方法は、例えば、リチウムイオン二次電池から正極を取り出し、炉等に投入して高温で還元溶融する。中でも、テルミット反応を用いた場合にはフラックス等が不要となる為、リサイクルにおいて純度の高いリチウムを得る上で有利である。テルミット反応により箔と活物質との反応熱により正極を溶融して溶融物を得て、該溶融物を冷却し、金属複合酸化物を構成する金属を含む金属材料とスラグとに分離して回収する。ここで、テルミット反応とは、金属Alである正極集電体と金属酸化物である正極活物質との混合物を反応させた際に、金属Alにより金属酸化物を還元しながら高熱を発生する酸化還元反応である。また、テルミット反応の促進の為、結着材と導電助剤の分解・除去を目的とした熱処理を先に実施することが好ましい。
【0027】
正極の溶融について、正極活物質としてLiNiCoMn2を用いた場合を例に説明する。テルミット反応で、正極に含まれるAl箔が還元剤となり、以下のような反応が生じる。
LiNiCoMn2+Al → 1/2Li2O+NiCoMn+1/2Al23
【0028】
正極の溶融物を冷却することにより、金属複合酸化物を構成する金属を含む金属材料としてのNiCoMnと、リチウム酸化物、アルミニウム酸化物、アルミン酸リチウム等を含むスラグとが分離して回収される。
【0029】
(リチウムの回収方法)
図1に示すように、本実施形態に係るリチウムの回収方法は、リチウムイオン二次電池の正極をテルミット反応により酸化還元処理して金属材料と分離して得られた、リチウム及びアルミニウムを含有する組成物であるスラグを、過酸化水素水溶液で処理してリチウムが溶解した浸出液を得る過酸化水素溶解工程S10と、浸出液中の残渣を除去する残渣除去工程S11と、残渣を除去した後の浸出液を中和して浸出液に含まれるアルミニウムを難溶性物質の状態で沈殿させ、アルミニウムを含有する沈殿物を除去するアルミニウム除去工程S12と、アルミニウム含有沈殿物を除去した後の浸出液を炭酸化処理する炭酸化工程S13及び精製する精製工程S14を有して沈殿物を除去した後の浸出液からリチウムを回収する工程とを有する。各工程について、以下に詳細な説明を行う。
【0030】
[過酸化水素溶解工程]
過酸化水素溶解工程S10では、上記のスラグの製造方法により得られたリチウム及びアルミニウムを含有するスラグを過酸化水素水溶液で処理して、リチウムが溶解した浸出液を得る。過酸化水素でのリチウムの溶解は、例えば以下の化学式で示される。式中、スラグに含まれるリチウム及びアルミニウムを含有する組成物をLiAlOと示す。
4LiAlO+2H→4LiOH+2Al+O
【0031】
過酸化水素水溶液を用いることにより、アルミン酸リチウム及びリチウムを含む複合酸化物からリチウムを選択的に溶出させることができる。
【0032】
上記の反応は発熱反応であり、処理中に浸出液の温度が反応熱により上昇し、浸出液へのリチウムの溶解が促進される。
【0033】
過酸化水素溶解工程S10で用いる過酸化水素水溶液の濃度は、好ましくは5質量%以上35質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以上20質量%以下であり、具体的には10質量%である。
【0034】
過酸化水素溶解工程S10で用いるスラグは、粉砕後に目開き500μmのメッシュの篩にかけて得られる篩下粉末である。
【0035】
過酸化水素溶解工程S10で用いる過酸化水素水溶液の体積(L)に対するスラグの質量(g)であるスラリー濃度(g/L)は、好ましくは10g/L以上100g/L以下であり、さらに好ましくは50g/L以上75g/L以下である。
【0036】
過酸化水素溶解工程S10で用いる過酸化水素水溶液の下限温度は、20℃以上、好ましくは40℃以上、さらに好ましくは60℃以上であり、上限温度は100℃以下である。ただし、ハンドリングの面で80℃以上95℃以下が好ましい。過酸化水素溶解工程S10においてスラグを過酸化水素水溶液で処理することで浸出液が得られる。過酸化水素によるスラグの溶解は発熱反応であり、反応熱により浸出液の温度が上昇する。反応熱により上昇する温度は、例えば10℃以上15℃以下である。これにより、過酸化水素によるリチウムの溶解の反応速度が高められる。また、反応速度を高めるための浸出液の加温のコストを低減できる。また、反応速度が高められるので、反応時間を短縮することができる。
【0037】
過酸化水素溶解工程S10において過酸化水素水溶液で処理する反応時間は、好ましくは6h以上48h以下であり、さらに好ましくは16h以上24h以下である。
【0038】
上記の過酸化水素溶解工程S10においては、リチウム及びアルミニウムを含有するスラグから、アルミニウムに対してリチウムの選択率を高めて溶解させることができる。
【0039】
[残渣除去工程]
残渣除去工程S11では、濾過による固液分離により浸出液中の残渣を除去する。浸出液は、過酸化水素水溶液に溶解しなかったアルミニウム酸化物等の残渣を含む。アルミニウム酸化物等の残渣を濾過することにより、リチウムが溶解した浸出液が得られる。
【0040】
[アルミニウム除去工程]
アルミニウム除去工程S12では、残渣を除去した後の浸出液を中和して浸出液に含まれるアルミニウムを難溶性物質の状態で沈殿させ、アルミニウムを含有する沈殿物を除去する。沈殿物の除去は、例えば吸引濾過等の濾過による固液分離により行う。中和によるアルミニウム含有沈殿物の形成は、例えば以下の化学式で示される。
Al(OH)4-+H→Al(OH)↓+H
【0041】
アルミニウム除去工程S12で浸出液の中和に用いる酸としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。
【0042】
アルミニウム除去工程S12において浸出液の中和後のpHは好ましくは6.0以上9.0以下であり、さらに好ましくは7.0以上8.0以下である。
【0043】
上記のアルミニウム除去工程S12においては、アルミニウム成分が水酸化アルミニウム等の難溶性の沈殿物となる。生成された水酸化アルミニウム等の難溶性の沈殿物に対して必要に応じてイオン交換水による貫通洗浄等の洗浄処理を行う。過酸化水素溶解工程S10において、浸出液に含まれるアルミニウムが多いと、中和時にゲル状の水酸化アルミニウムが生成され、このゲル状の水酸化アルミニウムに浸出液に溶解したリチウムが取り込まれてしまう。本実施形態の過酸化水素溶解工程S10では、アルミニウムに対してリチウムの選択率を高めて溶解させることにより、浸出液中のアルミニウムの含有量を小さくして、ゲルへのリチウム成分の取り込みによるリチウムの収率の低下を抑制できる。ここで、リチウムの収率とは、原料のスラグ中のリチウムの質量に対するアルミニウム除去後の浸出液中のリチウムの質量の割合(質量%)である。
【0044】
次に、以下のような炭酸化工程S13及び精製工程S14を行い、沈殿物を除去した後の浸出液からリチウムを回収する工程を行う。
【0045】
[炭酸化工程]
炭酸化工程S13では、アルミニウム含有沈殿物を除去した後の浸出液に炭酸化処理を行い、リチウム成分から炭酸リチウムを生成する。炭酸化処理は、例えばアルミニウム含有沈殿物を除去した後の浸出液に炭酸塩または炭酸ガスを接触させて行う。
【0046】
[精製工程]
回収する炭酸リチウムの純度を高める為に、必要に応じて炭酸化処理して得られた炭酸リチウムを精製する(精製工程S14)。
【0047】
上記のようにして、リチウムイオン二次電池の正極をテルミット反応により酸化還元処理して金属材料と分離して得られたリチウム及びアルミニウムを含有するスラグからリチウムを回収することができる。
【0048】
2.作用・効果
本実施形態のリチウムの回収方法によれば、過酸化水素溶解工程S10においては、リチウム及びアルミニウムを含有するスラグを過酸化水素水溶液で処理することにより、アルミニウムに対してリチウムの選択率を高めて溶解させることができる。
【0049】
過酸化水素溶解工程S10においてアルミニウムに対してリチウムの選択率を高めて溶解させることにより浸出液中のアルミニウムの含有量を小さくすることで、アルミニウム除去工程S12においてアルミニウム成分を難溶性の沈殿物とするときのゲル状の水酸化アルミニウムへのリチウム成分の取り込みによるリチウムの収率の低下を抑制できる。また、リチウムの溶解に硫酸を用いた場合に対し、中和剤、中和時の沈殿物、過剰の硫酸除去時に発生する石膏を減少させることができる。
【0050】
過酸化水素溶解工程S10においてスラグを過酸化水素水溶液で処理すると発熱して浸出液の温度が上昇する。これにより、過酸化水素によるリチウムの溶解の反応速度が高められる。また、反応速度を高めるための浸出液の加温のコストを低減できる。また、反応速度が高められるので、反応時間を短縮することができる。
【0051】
3.実施例
以下に、本発明の効果を確認するために行った実験について説明する。
【0052】
(実施例1)
リチウムイオン二次電池の製造工程で生じた工程屑の正極を用意した。
【0053】
<正極>
Al箔 30質量%
活物質(LiNi1/6Co2/3Mn1/62) 61~62質量%
バインダー(PVDF) 2~3質量%
導電材 5~6質量%
【0054】
正極を加熱し、テルミット反応により正極を溶融して溶融物を得た。得られた溶融物を冷却し、正極活物質の金属複合酸化物を構成する金属(Ni、Co、Mn)を含む金属材料と、リチウム及びアルミニウムを含有するスラグとに分離した。
【0055】
上記のようにして得たスラグからリチウムを溶解して浸出液を得る実験を行った。スラグはロッドミルにて粉砕し、目開き500μmのメッシュの篩下粉末を使用した。実験番号No.1~5について、過酸化水素水溶液を用いた溶解法により過酸化水素溶解工程を行い、さらに残渣除去工程までを行って浸出液を得た。過酸化水素を用いた溶解における過酸化水素水溶液の濃度は10%とし、スラリー濃度は50~75g/Lとした。反応は大気圧下で行い、スラグと過酸化水素水溶液との攪拌はマグネチックスターラー等の撹拌子を用いて行った。この後、後述のようにして浸出液中のリチウム、アルミニウム、及びマグネシウムの浸出率を調べた。
【0056】
実験番号No.6については、水を用いた溶解法によりリチウムの溶解を行い、さらに残渣除去を行って浸出液を得た。pH7の純水を用いた溶解においてスラリー濃度は50g/Lとした。浸出液中のリチウム、アルミニウム、及びマグネシウムの浸出率を調べた。上記を除いては、実験番号No.1~5と同様とした。
【0057】
実験番号No.7~9については、硫酸を用いた溶解法によりリチウムの溶解を行い、さらに残渣除去を行って浸出液を得た。硫酸を用いた溶解における硫酸の濃度は10%とし、スラリー濃度は50g/Lとした。浸出液中のリチウム、アルミニウム、及びマグネシウムの浸出率を調べた。上記を除いては、実験番号No.1~5と同様とした。
【0058】
表1に、実験番号No.1~9の溶解法、温度、反応時間、スラリー濃度、をまとめて示す。実験番号No.1~5は実施例に対応し、実験番号No.6~8は比較例に対応する。ここで、表1に示した温度は、反応開始前の過酸化水素水溶液、水、硫酸の温度である。
【0059】
【表1】
【0060】
上記の実験番号No.1~9で得た浸出液について、リチウム(Li)、アルミニウム(Al)、及びマグネシウム(Mg)の浸出率を調べた結果を表1に示す。浸出率は、原料のスラグ中の各元素の質量に対する中和前の段階の浸出液中の質量の割合(質量%)である。各元素のスラグ中の質量は、スラグの元素分析の結果(スラグの単位質量あたりの各元素の含有量)と、実験に用いたスラグの質量とから求めた。スラグの元素分析は、ICP発光分光分析装置(日立ハイテクサイエンス株式会社製、製品名「SPS3520UV-DD」)により行った。各元素の浸出液中の質量は、ICP質量分析の結果と、溶液量から求めた。浸出液のICP質量分析は、ICP質量分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック製、製品名「ELEMENT XR」)により行った。
【0061】
実験番号No.1~5の過酸化水素水溶液の処理では、処理時間、処理温度、スラリー濃度によらず、浸出液中のアルミニウムの浸出率は低く、アルミニウムの浸出率に対するリチウムの浸出率を高くすることができ、アルミニウムに対してリチウムの選択性を高めて溶解をすることができることが確認できた。実験番号No.1~5の過酸化水素水溶液の処理では、処理時間が長い程、処理温度が高い程、また、スラリー濃度が高い程、リチウムの浸出率を高くすることができる。
【0062】
実験番号No.7~9の硫酸の処理では、浸出液中のリチウムの浸出率は高いが、アルミニウムの浸出率も高い。アルミニウムの除去のために浸出液を中和するとアルミニウム成分は難溶性のゲル化沈殿物(Al(OH))となる。アルミニウムの浸出率が高い場合、ゲル化沈殿物が大量に生成され、濾別分離及びゲルの洗浄負荷が大きくなる他、LiAlO等の共沈物を生成し、アルミニウムを除去した後のリチウムの収率が低くなる。また、硫酸で処理をして得た浸出液には、マグネシウムの浸出が確認された。マグネシウムは、正極を溶融した際の炉材由来のものである。硫酸で処理して得た浸出液を中和してアルミニウムを除去する場合には、大量の中和剤が必要となるとともに、中和によって大量の沈殿物、及び液中の硫酸イオンを除去する為に大量の石膏が生成する弊害がある。これらから、浸出液中のアルミニウム濃度は低いほど良い。
【0063】
一方で、実験番号No.1~5の過酸化水素水溶液の処理では、アルミニウムの浸出率が低いため、ゲル化沈殿物の生成が抑制され、ゲル化沈殿物によるリチウムの取り込みを抑えることができるため、アルミニウム除去処理において浸出液中のリチウムの含有量は減少せず、浸出液中のリチウムはほぼその全量を回収できる。
【0064】
実験番号No.6の水での処理について、同じ温度、反応時間及びスラリー濃度である実験番号No.2(実施例)と実験番号No.6(比較例)との比較から、過酸化水素水溶液での処理におけるリチウムの浸出率は水での処理より高められていることが確認された。
【0065】
また、リチウムの浸出率がほぼ同等である実験番号No.3(実施例)と実験番号No.6(比較例)との比較から、過酸化水素水溶液での処理における反応時間は水での処理より短縮できることが確認された。
【0066】
上記のように、リチウムイオン二次電池から得たスラグを過酸化水素水溶液で処理してリチウムを回収する方法では、硫酸を用いた処理よりもアルミニウムの浸出率を低くしてリチウムの選択率を高めて溶解でき、また、水を用いた処理よりもリチウムの浸出率を高めることができた。これにより、リチウム回収の収率を高めることができる。
【0067】
(実施例2)
実施例1と同様にして得たスラグから、上記の実験番号No.9と同様にして硫酸を用いた溶解法によりリチウムを溶解して浸出液を得た後、中和によりアルミニウムを除去する実験を行い、ゲル化沈殿物によるリチウムの取り込みの影響を調査した。残渣除去後の浸出液について、NaOH水溶液(濃度7.4質量%)にて中和を行った。中和により生成されたゲル化沈殿物は遠心分離による固液分離を行い、ゲルの洗浄液での洗浄後に同様に遠心分離機を用いてゲルと洗浄液との分離を行った。
【0068】
中和後の浸出液中のリチウム含有量は、中和前の浸出液中のリチウム含有量の約50質量%であった。ゲル化沈殿物の含水量に対して1.4倍の水を用いて洗浄した場合のアルミニウム除去後の液中のリチウム含有量はアルミニウム除去前(中和前)の60質量%であり、4.2倍の水を用いて洗浄した場合のアルミニウム除去後の液中のリチウム含有量はアルミニウム除去前の75質量%であり、7.6倍の水を用いて洗浄した場合のアルミニウム除去後の液中のリチウム含有量はアルミニウム除去前の80質量%であった。すなわち、比較例の硫酸を用いた溶解法によりリチウムを溶解して浸出液を得る場合は、ゲル化沈殿物によるリチウムの取り込みにより、アルミニウム除去工程で液中のリチウムの含有量が減少してしまう。大量の水を用いて洗浄し、遠心分離により固液分離を行ったとしても、アルミニウム除去後の液中のリチウム含有量はアルミニウム除去前の60質量%~80質量%にとどまることが確認された。
【0069】
一方で、上記の実験番号No.4と同様にして過酸化水素を用いた溶解法により浸出液を得た後、硫酸水溶液(濃度10質量%)によって中和を行った。中和時に生成されたアルミニウム含有沈殿物と浸出液とを分離する固液分離は吸引濾過によって行い、分離されたアルミニウム含有沈殿物に対してイオン交換水によって貫通洗浄を行った。アルミニウム除去後の液中のリチウム含有量は、アルミニウム除去前(中和前)の94質量%であった。アルミニウム除去処理において浸出液中のリチウムの含有量は減少せず、浸出液中のリチウムはほぼその全量を回収できることを確認できた。
【0070】
以上より、比較例の硫酸を用いた溶解法によりリチウムを溶解して浸出液を得る場合は、ゲル化沈殿物(Al(OH))によるリチウムの取り込みにより、アルミニウム除去工程で液中のリチウムの含有量が大きく減少することが確認された。従って、高いリチウム収率を得るためには、浸出液中のアルミニウムはできるだけ少ないことが好ましく、過酸化水素水溶液を用いた溶解法により浸出液を得ることは効果的である。
【0071】
過酸化水素を用いた溶解法により浸出液を得て中和する時の中和剤(硫酸水溶液)は、硫酸を用いた溶解法により浸出液を得て中和する時の中和剤(NaOH水溶液あるいはCa(OH)水溶液)よりもコストが小さい。また、過酸化水素を用いた溶解法により浸出液を得て中和する時に発生する沈殿物は、硫酸を用いた溶解法により浸出液を得て中和する場合よりも大幅に少ない。また、硫酸を用いた溶解法により浸出液を得て中和する場合は大量の石膏が発生するが、過酸化水素を用いた溶解法により浸出液を得て中和する場合は石膏の発生がない。
【0072】
また、過酸化水素を用いた溶解法により浸出液を得る場合、リチウムの浸出率の絶対値は硫酸を用いた溶解法により浸出液を得る場合に対して小さいが、浸出液に浸出しなかったリチウム成分はスラグの残渣に残されている。従って、残渣除去工程で得たスラグの残渣を用いて過酸化水素溶解工程をさらに行うことができ、リチウム回収を行う工程を複数回繰り返すことで、リチウム回収の収率を高めることができる。過酸化水素水溶液の処理の場合、浸出液中のリチウムはほぼその全量を回収できるので、リチウム回収を行う工程を複数回繰り返すことで最終的な収率は100%に近付く。
【0073】
4.変形例
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【0074】
本発明のリチウムの回収方法は、リチウム及びアルミニウムを含有する組成物からリチウムを回収する際に広く適用できる技術である。上記の実施形態においては、リチウム及びアルミニウムを含有する組成物が、リチウムイオン二次電池の正極をテルミット反応により還元処理して金属材料と分離して得られたスラグである場合について説明したが、これに限定されない。例えば、リチウム及びアルミニウムを含有する組成物は、リチウムイオン電池を焙焼、解砕、選別する事により得られたブラックマスを原料とし、溶融して金属材料と分離したスラグでも良い。溶融は、還元剤を用いて大気雰囲気で行っても、還元雰囲気で行っても良い。その他、リチウム及びアルミニウムを含有する組成物であれば本発明のリチウムの回収方法を適用可能である。上記実施形態においてリチウムを回収する対象物としては一例としてアルミン酸リチウムを例示したが、リチウムとアルミニウムが個別に混在する対象物であっても構わない。
【0075】
また、リチウム回収の対象とするリチウムイオン二次電池は、使用済みのものの他、未使用のものでも良い。また、リチウムイオン二次電池の製造工程で生じる工程屑等をリチウム回収の対象としても良い。また、本明細書においてリチウムを回収する対象物はリチウムイオン二次電池としたが、リチウム一次電池でも良く、リチウム及びアルミニウムを含む鉱石でも良い。
【符号の説明】
【0076】
S10 過酸化水素溶解工程
S11 残渣除去工程
S12 アルミニウム除去工程
S13 炭酸化工程
S14 精製工程
【要約】
【課題】リチウム及びアルミニウムを含有する組成物から、リチウムの選択率を高めて浸出して回収できるリチウムの回収方法を提供する。
【解決手段】リチウムの回収方法は、リチウム及びアルミニウムを含有する組成物を過酸化水素水溶液で処理してリチウムが溶解した浸出液を得る工程S10と、浸出液中の残渣を除去する工程S11と、残渣を除去した後の浸出液を中和して浸出液に含まれるアルミニウムを難溶性物質の状態で沈殿させ、アルミニウムを含有する沈殿物を除去する工程S12と、アルミニウム含有沈殿物を除去した後の浸出液を炭酸化処理する工程S13及び精製する工程S14を有して沈殿物を除去した後の浸出液からリチウムを回収する工程とを有する。
【選択図】図1

図1