(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】2色成形品
(51)【国際特許分類】
B29C 45/16 20060101AFI20241113BHJP
【FI】
B29C45/16
(21)【出願番号】P 2020087931
(22)【出願日】2020-05-20
【審査請求日】2022-11-15
【審判番号】
【審判請求日】2024-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505430975
【氏名又は名称】株式会社ヤシマ精工
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 寿英
(72)【発明者】
【氏名】大軒 興二
【合議体】
【審判長】里村 利光
【審判官】井口 猶二
【審判官】西岡 貴央
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-25402(JP,A)
【文献】特開2009-263006(JP,A)
【文献】特開2011-32295(JP,A)
【文献】特許第6608690(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00- 45/84
B29C 63/00- 63/48
B29C 65/00- 65/82
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
B65D 1/00- 1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の合成樹脂を射出成形することにより得られる一次射出成形品と、当該一次射出成形品を覆うように第二の合成樹脂を射出成形することにより得られる二次射出成形品とからなる、一次射出成形品の内側部と二次射出成形品の外側部から構成される2色成形品において、第一の合成樹脂が結晶性合成樹脂であり、第二の合成樹脂が下記の金型及び測定条件における射出成形時のスパイラルフロー長が200℃において200mm以上のポリエステルであ
り、結晶性合成樹脂と第二の合成樹脂の収縮率の差は3/1000以上50/1000以下である、2色成形品。
使用する金型は、中心部に樹脂注入口を設け、樹脂注入口を起点として溝間隔が一定となるアルキメデススパイラルの渦巻き曲線溝が設けられたものであり、スパイラル形状は幅が10mmで、厚さが2mmで、最大流動長さが1300mmである。
測定条件は、射出圧力が100MPaで、射出時間が10秒で、射出速度が50mm/秒で、金型温度が50℃で、成形温度が200℃である。
【請求項2】
結晶性合成樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン及びポリテトラフルオロエチレンのいずれかである請求項1に記載の2色成形品。
【請求項3】
ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートを含む請求項1または2に記載の2色成形品。
【請求項4】
二次射出成形品が透明である請求項1ないし3のいずれかに記載の2色成形品。
【請求項5】
一次射出成形品の外側に装飾模様が施されている請求項1ないし4のいずれかに記載の2色成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、2色成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、色や材質等の異なる2種類の溶融した成形樹脂を順次射出成形して、異なる2種類の成形樹脂部が接合した2色成形品を製造する、いわゆる2色成形法がある(特許文献1)。また、絵付けされた2色成形品を得る方法として、基体シートに印刷絵柄等が形成された絵付けシートを型閉めして挟み込み、溶融した成形樹脂を射出成形すると同時に射出成形品に絵付けシートを接着させる、いわゆる2色成形同時絵付け法がある。
【0003】
従来は、2次成形時において、絵付けシートが供給されない第2キャビティ型を使用している。このため、2色成形品のうち1次成形樹脂部の表面には絵付けシートを接着できるが、2次成形樹脂部の表面には絵付けシートを接着できない。2次成形樹脂部の表面にも絵柄を形成するには、2色成形工程の後の別工程で、2色成形同時絵付け品の2次成形樹脂部の表面にスクリーン印刷等を施すしかない。スクリーン印刷による絵柄は、絵付けシートの絵柄に比べ、色数の多さも模様の精密さも格段に劣る。また、成形樹脂部の表面に既に接着されている絵付けシートの絵柄に、正確に位置合わせしてスクリーン印刷するのは極めて困難である。したがって、2色成形の工程の他に別工程を必要とする分、生産効率が悪かった。さらに、2色成形同時絵付け品の表面には、絵付けシートの絵柄とスクリーン印刷による絵柄とが並存することになり、絵柄の色数や精密さにムラのある見栄えの悪い2色成形同時絵付け品しか生産できない。しかも、1次成形樹脂部表面の絵柄と2次成形樹脂表面の絵柄との位置合わせが正確でない見栄えの悪い2色成形同時絵付け品しか生産できない。
【0004】
そこで、本発明者は見栄えのよい絵柄が形成された2色成形品を提供するために、結晶性プラスチック材料の内側部と、非結晶性プラスチック材料の外側部とからなる2色成形品を提案した(特許第6608690号)。本発明者が先に提案した2色成形品の発明によれば、内側部は結晶性プラスチックの高収縮材料とし、外側部は非結晶性プラスチックの低収縮材料とすることで、冷却時に、内側部の結晶性プラスチックは外側部の非結晶性プラスチックに比べてより大きく収縮する。その結果、内側部の材料と外側部の材料のあいだに僅かな隙間ができるので、内側部の材料に装飾絵柄を施せば、内側部の材料と外側部の材料の屈折率差に起因して、内側部の材料の装飾絵柄を明確に認めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者が提案した2色成形品は様々な用途に適用できるが、例えば、薬液(目薬などの液体の医薬品や、液体の医薬部外品、液体の化粧品等)を収納する容器として用いることができる。そのような薬液を収納した2色成形品は耐久性に優れていることが好ましい。この点で、本発明者が先に提案した2色成形品は、見栄えのよい絵柄を形成することはできるが、例えば、目薬の容器として用いた場合に、容器の開閉操作等によって継続的に締め付けに力がかかり過ぎた際に、まれに外側部にひびが生じたり、携帯時に落下させてしまうなど、一時的に大きな衝撃が加わった際に、まれに外側部が破損したりすることがあり、耐久性の面では改良の余地があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する改良点に鑑みてなされたものであって、その目的は、耐久性に優れた2色成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、第一の合成樹脂を射出成形することにより得られる一次射出成形品と、当該一次射出成形品を覆うように第二の合成樹脂を射出成形することにより得られる二次射出成形品とからなる、一次射出成形品の内側部と二次射出成形品の外側部から構成される2色成形品において、第一の合成樹脂が結晶性合成樹脂であり、第二の合成樹脂はスパイラルフロー長が200℃において200mm以上のポリエステルである。
【0009】
スパイラルフロー長は、以下の金型を用いて以下の測定条件のもとで射出成形を行ったときのアルキメデススパイラルフローにおける流動長さである。
使用する金型は、中心部に樹脂注入口を設け、樹脂注入口を起点として溝間隔が一定となるアルキメデススパイラルの渦巻き曲線溝が設けられたものであり、スパイラル形状は幅が10mmで、厚さが2mmで、最大流動長さが1300mmである。
測定条件は、射出圧力が100MPaで、射出時間が10秒で、射出速度が50mm/秒で、金型温度が50℃で、成形温度が200℃である。
なお、アルキメデススパイラルとは、代数螺旋の一種であり、極座標(r、θ)において極方程式r=aθ(aは定数)で表される曲線である。アルキメデススパイラルは、線同士の間隔が等しい渦巻である。
【0010】
一般に、熱可塑性樹脂は、融点未満の温度領域では固体状態であるものの、融点以上に加熱すると溶融し流動性を示す。熱可塑性樹脂の溶融時の流動性(粘度)を表す代表的な方法としては、メルトフローレイトと、キャピラリーレオメーターなどの測定機による方法と、実際の射出成形機を用いた流動長評価などがある。一般的に溶融粘度特性は、ポリマーの分子量に依存した傾向を示すが、強化系グレードやエラストマー改質グレードでは強化材の含有率などの影響を受けることから、必ずしも分子量に相関した流動性とならない。
【0011】
≪メルトフローレイト≫
メルトフローレイトは、シリンダー(加熱筒)内で溶融させた試料に、一定の重りをかけオリフィスより押出す試料の吐出量(標線間)を10分間あたりの重量(単位:g/10分)に換算して表す流動性の指標である。同一のシリンダー温度および荷重条件であれば、メルトフローレイトの値が高い材料ほど流動性が良いことを示すが、ただし、熱可塑性樹脂は、通常、流れの剪断応力と流れの速度勾配が比例関係にない非ニュートン流体であるため、射出成形のように成形条件や成形品形状により見掛けのせん断速度が大きく変化する場合は成形時の流動性とメルトフローレイトの関係が一致しない場合がある。
【0012】
≪キャピラリーレオメーター≫
キャピラリーレオメーターは、メルトフローレイトと同様にシリンダー内で溶融させた試料をキャピラリー(毛細管)を通して押出す試験方法である。メルトフローレイトと異なるのは単位時間あたりの樹脂重量ではなく、溶融粘度(単位:Pa・sec)として求めることができる点である。しかし、溶融粘度はせん断速度と温度に依存しており、溶融粘度特性を用いて流動性を判断する場合は、成形方法や形状に合わせて適切なせん断速度範囲を確認しなければならないという煩雑な点がある。
【0013】
≪流動長≫
流動長は、実際の射出成形機と金型を使用した流動性の評価方法である。流動長は成形条件や形状に依存することから、特に成形温度、金型温度、射出圧力、射出速度および射出時間を一定条件にすることにより流動性を相対的に判断することができる。また、流動長は溶融粘度だけではなく、材料の固化特性なども加味した流動性の指標であり、上記のメルトフローレイトやキャピラリーレオメーターに比べて、より実践的といえる。200℃におけるスパイラルフロー長が長いということは、樹脂の成形温度としては比較的低温である200℃において、流動性が高く、成形条件の幅が広く、様々な形状に適応することを示す。
【0014】
本発明は、内側部の第一の合成樹脂が結晶性合成樹脂であり、外側部の第二の合成樹脂はスパイラルフロー長が200℃において200mm以上のポリエステルであることにより、以下に説明するように、耐久性に優れた2色成形品を提供することができる。
【0015】
結晶性合成樹脂といっても、すべての部分が結晶状態であるというわけではなく、結晶部分と非結晶部分とが混在している。この結晶部分の割合を結晶化度といい、この結晶化度が比較的高いものが結晶性合成樹脂である。結晶性合成樹脂には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレンなどがある。
【0016】
結晶性合成樹脂は、「ガラス転移温度および融点が存在する。透明になりにくい。結晶化に伴う容積変化が生じる(成形時の収縮が大きい)。寸法精度が出しにくい。耐疲労性に優れる。機械的強度に優れる。耐薬品性に優れる。摺動性に優れる。添加物による補強効果が高い。機械的特性に優れる。機能的部品に適する。剛性、バネ性に優れる。」という特性を備えており、本発明は、内側部が結晶性合成樹脂で構成されることにより、以下のような効果が期待できる。
【0017】
結晶性合成樹脂は、液体から固体に変化する際に体積が減少し、収縮する。この収縮する比率のことを収縮率という。すなわち、収縮率=〔(収縮前の長さ)-(収縮後の長さ)〕/(収縮前の長さ)で定義される数値である。以下の表1には、代表的な結晶性プラスチックの収縮率の数値を示す。
【0018】
【0019】
内側部は結晶性合成樹脂の高収縮材料とすることで、冷却時に、内側部の結晶性合成樹脂は外側部の第二の合成樹脂に比べてより大きく収縮する。その結果、内側部の材料と外側部の材料のあいだに僅かな隙間ができるので、内側部の材料に装飾絵柄を施せば、内側部の材料と外側部の材料の屈折率差に起因して、内側部の材料の装飾絵柄を外側から明確に認めることができる。そこで、内側部の結晶性合成樹脂としては、表1の中で、収縮率が大きいポリプロピレン、高密度ポリエチレン、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレートを、特に好ましく用いることができる。なお、結晶性合成樹脂と第二の合成樹脂の収縮率の差(結晶性合成樹脂の収縮率から第二の合成樹脂の収縮率を差し引いた値)は、3/1000以上であることが好ましい。この収縮率差が3/1000未満であると、内側部の材料と外側部の材料の屈折率差が小さいので、内側部の材料の装飾絵柄を明確に認めることができないからである。内側部の材料の装飾絵柄をより明確に認めることができるという点で、結晶性合成樹脂と第二の合成樹脂の収縮率の差は大きい方が好ましいが、現実に入手可能な材料から判断すると、結晶性合成樹脂と第二の合成樹脂の収縮率の差の上限は50/1000程度である。
【0020】
第二の合成樹脂は、一次射出成形品を覆うように射出成形する際に、当該一次射出成形品を融解させない温度において成形を行うことができるものであり、スパイラルフロー長が200℃において200mm以上のポリエステルを採用することができる。スパイラルフロー長は、200℃において250mm以上であることがより好ましく、200℃において300mm以上であることがさらに好ましい。ポリエステルとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられ、これらのブレンド品も使用することができる。中でもポリエチレンテレフタレートが好適である。第二の合成樹脂として、スパイラルフロー長が200℃において200mm以上のポリエステルを本発明の外側部に採用することにより、流動性が高くて、成形条件の幅が広く、様々な形状に適応することでき、耐久性に優れた2色成形品を提供することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、耐久性に優れた2色成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1(a)は、本発明の2色成形品の一実施例の内側部の縦断面図、
図1(b)は本発明の2色成形品の一実施例の外側部の縦断面図、
図1(c)は本発明の2色成形品の一実施例の縦断面図である。
【
図2】
図2は、外側部にポリエチレンテレフタレート(200℃におけるスパイラルフロー長が320mm)を用いた実施例の2色成形品における圧縮試験の結果を示す外観写真である。
【
図3】
図3は、外側部にアクリロニトリルスチレンを用いた比較例の2色成形品における圧縮試験の結果を示す外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は例示であり、本発明は実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において、様々な変更や修正が可能である。
【0024】
本発明の2色成形品は、第1および第2の固定側金型と可動側金型を用いて射出成形により得ることができる。
図1(a)は、第1の固定側金型と可動側金型により規定される第1のキャビティで結晶性合成樹脂を用いて1次射出成形を行って得た、内側部1の縦断面を示す図である。そして、1次射出成形部を可動側金型とともに移動し、第2の固定側金型と可動側金型により規定される第2のキャビティでスパイラルフロー長が200℃において200mm以上のポリエステルを用いて2次射出成形を行い、
図1(c)に示すように、外側部2と内側部1が一体となった2色成形品3を得ることができる。
【0025】
図1(a)に示すように、内側部1の下端部には径方向に突出したアンダーカット部4が形成されているので、
図1(c)に示すように、外側部2は内側部1のアンダーカット部4に保持され、良好な嵌合状態を維持することができる。
【0026】
<圧縮試験>
本発明の2色成形品の強度を評価するために圧縮試験を行った。
実施例として、内側部1にポリプロピレンを用い、外側部2に易成形ポリエチレンテレフタレート(200℃におけるスパイラルフロー長:320mm)を用い、段落0024に記載したように射出成形を行うことによって、内側部1の外側には所定の装飾絵柄が施された2色成形品を準備した。
【0027】
比較例として、内側部1にポリプロピレンを用い、外側部2にアクリロニトリルスチレンを用い、段落0024に記載したように射出成形を行うことによって、内側部1の外側には所定の装飾絵柄が施された2色成形品を準備した。
【0028】
実施例及び比較例の2色成形品に対して、引張圧縮試験機(株式会社島津製作所社製の「TRAPEZIUM LITE X」)を用いて、180Nの荷重を100mm/分の速度で付加した際のキャップの破損状態を確認した。その結果、
図2及び
図3の写真に示すような結果を得た。
【0029】
図3に示すように、外側部にアクリロニトリルスチレンを用いた比較例の2色成形品では、灰色に見える外側部の斜めや横方向に白く見える筋状の多数のひびが生じているのが認められた。しかし、
図2に示すように、外側部にポリエチレンテレフタレート(200℃におけるスパイラルフロー長が320mmのもの)を用いた実施例の2色成形品の外側部には、
図3に見られるようなひびは生じなかった。このように、本発明の2色成形品は耐久性が顕著に高いことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上、説明したように、本発明の2色成形品は、化粧品や医薬品や食料品や様々な収容物を収容する容器や容器の一部(例えば、蓋部)として有用である。
【符号の説明】
【0031】
1 内側部
2 外側部
3 2色成形品
4 アンダーカット部