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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】伝送回路
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/59 20060101AFI20241113BHJP
   G06K 19/07 20060101ALI20241113BHJP
   H04B 5/48 20240101ALI20241113BHJP
   H04B 5/79 20240101ALI20241113BHJP
【FI】
H04B1/59
G06K19/07 230
G06K19/07 260
H04B5/48
H04B5/79
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020163974
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2022056139
(43)【公開日】2022-04-08
【審査請求日】2023-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京科学大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 昇
(72)【発明者】
【氏名】水流 槙介
(72)【発明者】
【氏名】湯澤 友直
(72)【発明者】
【氏名】磯山 伸治
【審査官】川口 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-232372(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0365549(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0124916(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第2330538(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/59
H04B 5/48
H04B 5/79
G06K 19/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナに接続されるように構成される伝送回路であって、
前記伝送回路は、
各々のインピーダンスが異なる複数のインピーダンス回路と、
前記複数のインピーダンス回路の各々にいずれか1つが接続される複数の第1スイッチ素子と、
前記複数の第1スイッチ素子の開閉を制御するように構成される第1制御回路と、を含み、
前記第1制御回路は、前記複数の第1スイッチ素子の開閉を選択的に変更して、前記アンテナ側の出力端子の反射係数を複素平面において回転するように制御可能に構成されている、伝送回路。
【請求項2】
請求項1に記載の伝送回路において、
前記複数のインピーダンス回路は、インピーダンスのリアクタンス成分のうち、インダクタンスを調整するように構成された複数のインダクタ回路を含む、伝送回路。
【請求項3】
請求項2に記載の伝送回路において、
前記複数のインダクタ回路は、各々のインピーダンスが異なる、伝送回路。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の伝送回路において、
前記複数のインダクタ回路の少なくとも1つは、複数のインダクタ素子を含む、伝送回路。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか1項に記載の伝送回路において、
前記複数のインダクタ回路の少なくとも1つは、抵抗素子を含む、伝送回路。
【請求項6】
請求項2から4のいずれか1項に記載の伝送回路において、
前記複数のインダクタ回路の少なくとも1つは、キャパシタ素子を含む、伝送回路。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の伝送回路において、
前記第1制御回路は、前記複数の第1スイッチ素子の開閉を選択的に変更して、インピーダンスを複素平面において等間隔に回転するように制御可能に構成されている、伝送回路。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の伝送回路において、
前記複数のインピーダンス回路は、インピーダンスのリアクタンス成分のうち、キャパシタンスを調整するように構成された複数のキャパシタ回路を含む、伝送回路。
【請求項9】
請求項8に記載の伝送回路において、
前記複数のキャパシタ回路は、各々のインピーダンスが異なる、伝送回路。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の伝送回路において、
前記複数のキャパシタ回路の少なくとも1つは、複数のキャパシタ素子を含む、伝送回路。
【請求項11】
請求項8から10のいずれか1項に記載の伝送回路において、
前記複数のキャパシタ回路の少なくとも1つは、抵抗素子を含む、伝送回路。
【請求項12】
請求項8から10のいずれか1項に記載の伝送回路において、
前記複数のキャパシタ回路の少なくとも1つは、インダクタ素子を含む、伝送回路。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載の伝送回路において、
前記第1制御回路は、
前記複数の第1スイッチ素子のいずれか1つを閉じるように制御することでインピーダンスを変化させ反射係数を複素平面において回転するように制御可能に構成されている、伝送回路。
【請求項14】
請求項1から12のいずれか1項に記載の伝送回路において、
前記第1制御回路は、
前記複数の第1スイッチ素子のいずれか1つを閉じる、または、
前記複数の第1スイッチ素子の全てを開く、ように制御することでインピーダンス変化させ反射係数を複素平面において回転するように制御可能に構成されている、伝送回路。
【請求項15】
請求項1から12のいずれか1項に記載の伝送回路において、
前記第1制御回路は、
前記複数の第1スイッチ素子のいずれか1つを閉じる、
前記複数の第1スイッチ素子の複数を閉じる、または、
前記複数の第1スイッチ素子の全てを開く、ように制御することでインピーダンスを複素平面において回転するように制御可能に構成されている、伝送回路。
【請求項16】
請求項1から12のいずれか1項に記載の伝送回路において、
前記第1制御回路は、
前記複数の第1スイッチ素子の複数を閉じる、または、
前記複数の第1スイッチ素子の全てを開く、ように制御することでインピーダンスを複素平面において回転するように制御可能に構成されている、伝送回路。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか1項に記載の伝送回路において、
前記伝送回路は、
伝送時に位相が回転する複数の移相回路と、
複数の移相回路の各々にいずれか1つが接続される複数の第2スイッチ素子と、
前記複数の第2スイッチ素子の開閉を制御するように構成される第2制御回路と、を含み、
前記第2制御回路は、前記複数の第2スイッチ素子の開閉を変更して、インピーダンス変化させて、前記アンテナとの反射係数を複素平面において回転するように制御可能に構成されている、伝送回路。
【請求項18】
請求項17に記載の伝送回路において、
前記第2制御回路は、前記複数の第2スイッチ素子のいずれか1つを閉じることでインピーダンス変化させて、前記アンテナとの反射係数を複素平面において回転するように制御可能に構成されている、伝送回路。
【請求項19】
請求項17または18に記載の伝送回路において、
前記第2制御回路は、前記第1制御回路と一体化されている、伝送回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、伝送回路に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信装置のデータ通信方法として、バックスキャッタ方式が知られている。例えば、特許文献1には、分波/合成器を用いて、USB(Upper Side Band)信号およびLSB(Lower Side Band)信号のいずれか一方の信号を抑制して、シングルサイドバンドを実現する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-323223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バックスキャッタ方式のデータ通信を行うRFID(Radio Frequency Identification)システムでは無線通信装置の小型化が求められている。しかしながら、特許文献1は、シングルサイドバンドを実現するために、分波/合成器を用いているので、小型化には不利な構成である。
【0005】
本開示は、バックスキャッタ方式の無線通信装置を小型化することのできる伝送回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る伝送回路は、アンテナに接続されるように構成される伝送回路であって、前記伝送回路は、各々のインピーダンスが異なる複数のインピーダンス回路と、前記複数のインピーダンス回路の各々にいずれか1つが接続される複数の第1スイッチと、前記複数の第1スイッチの開閉を制御するように構成される第1制御回路と、を含み、前記第1制御回路は、前記複数の第1スイッチの開閉を選択的に変更して、前記アンテナ側の出力端子の反射係数を複素平面において回転するように制御可能に構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、バックスキャッタ方式の無線通信装置を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1実施形態に係る無線通信装置の構成の一例を示すブロック図である。
図2図2は、第1実施形態に係る複素平面においてインピーダンスを回転制御する方法を説明するための図である。
図3A図3Aは、バックスキャッタ信号の変化を説明するための図である。
図3B図3Bは、バックスキャッタ信号の変化を説明するための図である。
図3C図3Cは、バックスキャッタ信号の変化を説明するための図である。
図4図4は、第1実施形態に係る伝送回路の構成の一例を示す図である。
図5図5は、第1実施形態に係るシングルサイドバンドを実現したバックスキャッタ信号のスペクトル波形の一例を示す図である。
図6図6は、第2実施形態に係る伝送回路の構成の一例を説明するための図である。
図7図7は、第2実施形態に係る複素平面においてインピーダンスを回転制御する方法を説明するための図である。
図8図8は、第2実施形態に係るシングルサイドバンドを実現したバックスキャッタ信号のスペクトラム波形の一例を示す図である。
図9図9は、第2実施形態の変形例の構成を説明するための図である。
図10図10は、変調信号のスペクトル波形の一例を示す図である。
図11図11は、第3実施形態に係るQPSK変調を説明するための図である。
図12図12は、第3実施形態に係る変調信号のスペクトル波形の一例を示す図である。
図13図13は、第3実施形態に係る変調信号のスペクトル波形の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本開示に係る実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本開示が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含む。また、以下の実施形態において、同一の部位には同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
【0010】
[第1実施形態]
図1を用いて、第1実施形態に係る無線通信装置の構成について説明する。図1は、実施形態に係る無線通信装置の構成の一例を示すブロック図である。
【0011】
図1に示すように、無線通信装置1は、アンテナ10と、BPF(Band Pass Filter)11と、RFBS(Radio Frequency Back Scatter)デバイス20と、制御装置30と、センサ40と、を含む。無線通信装置1は、RFIDなどのバックスキャッタ方式の無線通信するように構成される通信装置である。
【0012】
アンテナ10は、無線通信装置1に対して送信された信号を受信するように構成される。アンテナ10は、無線通信装置1の外部に向かって電波を送信するように構成される。BPF11は、所望の周波数帯域の信号を通過させるように構成されるフィルタである。
【0013】
RFBSデバイス20は、高周波スイッチ21と、アンプ22と、復調部23と、発振部24と、LPF(Low Pass Filter)25と、LPF26と、制御回路27と、伝送回路28と、を含む。RFBSデバイス20は、バックスキャッタ方式のデータ通信に対応している無線通信デバイスである。バックスキャッタ方式のデータ通信では、送信されてきた電波の反射を利用して通信を行う。
【0014】
高周波スイッチ21は、アンテナ10と、送信回路系または受信回路系との接続を切り替えるように構成される。高周波スイッチ21は、アンテナ10に送信回路系を接続可能に構成される。無線通信装置1は、アンテナ10と送信回路系とが接続されているときに、送信するように構成される。高周波スイッチ21は、アンテナ10に受信回路系を接続可能に構成される。送信回路系は、発振部24と、LPF25と、LPF26と、制御回路27と、伝送回路28と、を含む。受信回路系は、アンプ22と、復調部23と、を含む。
【0015】
アンプ22は、アンテナ10から受けた信号を増幅して出力するように構成される。アンプ22は、増幅した信号を復調部23に出力するように構成される。復調部23は、入力された信号に対して、復調処理を実行するように構成される。復調部23は、アンプ22から受けた信号を復調するように構成される。例えば、復調部23は、アンプ22から受けた信号(ASK(Amplitude Shift Keying)などの変調信号)に対して、復調処理を実行するように構成される。
【0016】
制御装置30は、例えば、プロセッサ等によって、内部に記憶されたプログラムがRAM(Random Access Memory)等を作業領域として実行されることにより実現される。制御装置30は、コントローラ(Controller)でありうる。制御装置30は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、又はFPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路により実現されてよい。制御装置30は、ソフトウェアと、ハードウェアとの組み合わせで実現されてよい。
【0017】
制御装置30は、シリアルデータS1を、LPF25を介して、制御回路27に出力するように構成される。シリアルデータS1は、センサ40からの出力データに基づく。制御装置30は、シリアルデータS2を、LPF26を介して制御回路27に出力する。シリアルデータS2は、センサ40からの出力データに基づく。シリアルデータS1は、シリアルデータS2と位相が概ね90°異なる。
【0018】
制御装置30は、制御信号S3を制御回路27に出力するように構成される。制御信号S3は、キャリア信号に対するUSB信号及びLSB信号のいずれか一方を抑圧するのに利用しうる。制御装置30は、制御信号S4を発振部24に信号を出力するように構成される。制御信号S4は、通信に用いるチャネルを制御するのに利用しうる。
【0019】
センサ40は、各種の物理量を検出するように構成される。センサ40が検出する物理量に特に制限はない。センサ40は、例えば、無線通信装置1の周囲の温度を検出するように構成される温度センサ、及び無線通信装置1に生じた加速度を検出するように構成される加速度センサの一方又は両方を含みうる。センサ40は、その他のセンサを含んでよい。
【0020】
発振部24は、所定の周波数の発振信号を生成するように構成される。発振部24は、制御信号S4に従って、発振信号S5を生成するように構成される。発振部24は、発振信号S5とは位相が90°異なる発振信号S6を生成するように構成される。
【0021】
制御回路27は、伝送回路28を制御するように構成される。制御回路27は、シリアルデータS1と、シリアルデータS2と、制御信号S3とに基づいて、伝送回路28のインピーダンスの値を調整するように制御するように構成される。制御回路27は、伝送回路28のインピーダンスを変化させるように構成される。インピーダンスの変化によって、アンテナ10側の出力端子の反射係数は、複素平面において回転する。制御回路27は、伝送回路28のインピーダンスを変化させて、出力端子の反射係数が複素平面において回転するように制御するように構成される。例えば、反射信号(以下、バックスキャッタ信号とも呼ぶ)におけるキャリア信号に対するUSB信号またはLSB信号を低減して、シングルサイドバンドを実現するように、制御回路27は、伝送回路28のインピーダンスを制御するように構成される。
【0022】
図2のポーラーチャート(極座標)を用いて、制御回路27が伝送回路28のアンテナ10側の出力端子の反射係数がポーラーチャートの複素平面上で回転するように制御する方法について説明する。図2は、制御回路27が伝送回路28のインピーダンスを変化させ、その出力端子の反射係数を回転するように制御する方法を説明するための図である。
【0023】
図2は、インピーダンスの変化による反射係数Γの変化をポーラーチャート上に示した図である。インピーダンスは、次の式(1)で算出される。式(1)において、Zはインピーダンス、Rはレジスタンス、jは虚数、ωは角周波数、Lはインダクタンス、Cはキャパシタンスである。
Z=R+j(ωL-1/ωC)・・・(1)
【0024】
また、反射係数Γは、次式で表せる。
Γ=(Z-Z)/(Z+Z)・・・(2)
ここで、Zはアンテナ10またはBPF11のインピーダンスである。
【0025】
制御回路27は、インピーダンスZを選択制御して、反射係数Γが基準点の周囲を回るよう制御する。基準点は、原点を含むが、原点に限定されず、任意の点を含む。伝送回路は、基準点が原点に近いほど、理想に近い信号を得られうる。伝送回路は、基準点の周囲を円状に回すように制御するほど、理想に近い信号を得られうる。スミスチャートで考えると、下半円領域が容量性を示し、上半分がインダクタンス性を示す。実軸上の変化は抵抗値の変化を表すことになる。
【0026】
制御回路27は、伝送回路28が備えている複数のインピーダンスを選択制御することができる。例えば、制御回路27は、0°、45°、90°、135°、180°、-135°、-90°、-45°の45°刻みで伝送回路28のインピーダンスを制御するように構成される。制御回路27は、伝送回路28のインピーダンスを順次変更することで、インピーダンスが離散的に回転するように制御可能に構成される。制御回路27は、インピーダンスの離散的な回転に応じて、反射係数Γが離散的に回転する。
【0027】
制御回路27は、伝送回路28のインピーダンスの変更順によって、当該インピーダンスを左回転で変更可能に構成される。制御回路27は、インピーダンスの左回転によって、反射係数Γを左回転で変更可能に構成される。反射係数の制御が左回転の場合、RF(Radio Frequency)に対する反射信号は、USB(Upper Side Band)信号のみとなる。反射係数が右回転となるように制御すると、LSB(Lower Side Band)信号のみが得られることになる。その際、反射信号の周波数は、RF信号周波数から回転速度周波数分、離調した周波数となる。図3Aと、図3Bと、図3Cとを用いて、インピーダンスを変化させ反射係数を制御することによる、バックスキャッタ信号の変化についていくつかの例を説明する。
【0028】
図3Aは、制御回路27がインピーダンスの抵抗成分のみを制御し、反射係数Γをポーラーチャート(図2)の実軸上で変化させた場合のバックスキャッタ信号の様子を説明するための周波数スペクトラムを示す図である。横軸は周波数、縦軸はRF信号および反射信号の強度を示す。図3Aには、キャリア信号51と、USB信号52と、LSB信号53とが示される。抵抗成分が制御されると、反射係数Γは、0°と、180°との実軸上のいずれかに制御される。抵抗成分のみでインピーダンスを変えて反射係数Γを制御する場合、図3Aに示すように、例えば、0°から180°に切り替わる際に、右回りの信号成分と、左回りの信号成分と、が内在する。2つの回転方向の信号成分が内在することによって、USB信号52及びLSB信号53は同時に出現し、一方の信号のみを選択的に抑制することができない。結果として、SSB信号は、抵抗成分のみの制御で得ることができない。
【0029】
図3Bは、制御回路27がインピーダンスのインダクタンス/キャパシタンスを変化させ反射係数Γの軌跡が円を描くように制御した場合のバックスキャッタ信号の変化を説明するための周波数スペクトラムを示す図である。横軸は周波数、縦軸はRF信号および反射信号の強度を示す。式(1)、(2)に基づき、制御回路27は、インダクタンスの値を制御することで、インピーダンスを左回りに回転するように制御可能である。このとき、インピーダンスは、例えば、0°から45°、90°、135°と左回りに回転する。制御回路27は、さらにキャパシタンスの値を制御することで、インピーダンスを左回りに回転するように制御可能である。このとき、インピーダンスは、例えば、180°から-135°、-90°、-45°と左回りに回転する。図3Bに示すように、制御回路27は、インピーダンスを左回りに回転するように制御することで、LSB信号53を抑圧するように、送信されてきたRF信号を反射させることができる。言い換えれば、制御回路27は、インピーダンスの左回りの回転制御によって、USB信号52にSSB化されたバックスキャッタ信号を得ることができる。
【0030】
図3Cは、制御回路27がインピーダンスのキャパシタンス/インダクタンスを変化させ、反射係数Γの軌跡が円を描くように制御した場合のバックスキャッタ信号の変化を説明するための周波数スペクトラムを示す図である。横軸は周波数、縦軸はRF信号および反射信号の強度を示す。式(1)、(2)に基づき、制御回路27は、キャパシタンスの値を制御することで、インピーダンスを右回りに回転するように制御可能である。このとき、インピーダンスは、例えば、0°から-45°、-90°、-135°と右回りに回転する。制御回路27は、さらにインダクタンスの値を制御することで、インピーダンスを右回りに回転するように制御可能である。このとき、インピーダンスは、例えば、180°、135°、90°、45°と右回りに回転する。図3Cに示すように、制御回路27は、インピーダンスを右回りに回転するように制御することで、USB信号52を抑圧するように。送信されてきたRF信号を反射させることができる。言い換えれば、制御回路27は、インピーダンスの右回りの回転制御によって、LSB信号53にSSB化されたバックスキャッタ信号を得ることができる。
【0031】
伝送回路28は、無線通信装置1のフロントエンドに配置されている。伝送回路28は、送信されてきた電波をバックスキャッタ信号として反射するバックスキャッタ通信を行うように構成される回路である。伝送回路28は、アンテナ10に接続されるように構成されている。伝送回路28は、各々のインピーダンスが異なる複数のインピーダンス回路を含む。複数のインピーダンス回路の各々は、スイッチ素子を含む。スイッチ素子は、当該インピーダンス回路の接続を切り替えるように構成される。制御回路27は、複数のスイッチ素子を制御することで、複数のインピーダンス回路の接続を切り替えるように構成される。制御回路27は、複数のスイッチ素子を制御することで、伝送回路28のインピーダンスを制御するように構成される。
【0032】
[伝送回路の構成]
図4を用いて、第1実施形態に係る伝送回路の構成について説明する。図4は、第1実施形態に係る伝送回路の構成の一例を示す図である。
【0033】
図4に示すように、伝送回路28は、インダクタ回路110と、インダクタ回路110と、インダクタ回路110と、キャパシタ回路120と、キャパシタ回路120と、キャパシタ回路120と、抵抗回路130と、を含む。インダクタ回路110~インダクタ回路110、キャパシタ回路120~キャパシタ回路120、および抵抗回路130は、それぞれ、インピーダンス回路の一種である。インダクタ回路110~インダクタ回路110を特に区別する必要のない場合には、インダクタ回路110と総称することもある。キャパシタ回路120~キャパシタ回路120を特に区別する必要のない場合には、キャパシタ回路120と総称することもある。図4では、本開示と関連の薄い構成要素については省力して示している。
【0034】
インダクタ回路110~インダクタ回路110、キャパシタ回路120~キャパシタ回路120、および抵抗回路130のそれぞれは、信号線101によって電気的に接続されている。信号線101は、入出力端子102と電気的に接続されている。入出力端子102は、アンテナ10側の周辺回路等と電気的に接続される。
【0035】
インダクタ回路110は、信号源140と、スイッチ素子150と、インダクタL1と、を含む。信号源140は、制御回路27からの制御信号が供給される信号源を示している。信号源140は、スイッチ素子150に制御信号を出力して、スイッチ素子150の開閉動作を制御するように構成される。スイッチ素子150は、一方の入力端子に信号源140が接続され、他方の入力端子には基準電位が接続されている。基準電位は、グラウンドであるものとして説明するが、本開示はこれに限定されない。スイッチ素子150は、信号源140からの制御信号に従って、閉状態と開状態とを切り替えるように構成される。
【0036】
スイッチ素子150の一端には、信号線101が電気的に接続され、他端にはインダクタL1の一端が電気的に接続されている。インダクタL1の他端は基準電位に接続されている。この場合、スイッチ素子150は、閉状態とすることで信号線101と、インダクタL1とを電気的に接続するように構成される。スイッチ素子150は、開状態とすることで、信号線101と、インダクタL1とを電気的に離すように構成される。信号線101と、インダクタL1とが電気的に接続されることで、伝送回路28のインピーダンスには、インダクタL1のインダクタンスが付加される。すなわち、伝送回路28のインピーダンスは、インダクタL1のインダクタンスが付加されることで、リアクタンス成分が変化する。インダクタL1のインダクタンスは、例えば、3.3[nH(nano Henry)]である。
【0037】
インダクタ回路110は、信号源140と、スイッチ素子150と、インダクタL2と、を含む。信号源140は、制御回路27からの制御信号が供給される信号源を示している。信号源140は、スイッチ素子150に制御信号を出力して、スイッチ素子150の開閉動作を制御するように構成される。スイッチ素子150は、一方の入力端子に信号源140が接続され、他方の入力端子には基準電位が接続されている。基準電位は、グラウンドであるものとして説明するが、本開示はこれに限定されない。スイッチ素子150は、信号源140からの制御信号に従って、閉状態と開状態とを切り替えるように構成される。
【0038】
スイッチ素子150の一端には、信号線101が電気的に接続され、他端にはインダクタL2の一端が電気的に接続されている。インダクタL2の他端は、基準電位に接続されている。この場合、スイッチ素子150は、閉状態とすることで信号線101と、インダクタL2とを電気的に接続するように構成される。スイッチ素子150は、開状態とすることで信号線101と、インダクタL2とを電気的に離すように構成される。信号線101と、インダクタL2とが電気的に接続されることで、伝送回路28のインピーダンスには、インダクタL2のインダクタンスが付加される。すなわち、伝送回路28のインピーダンスは、インダクタL2のインダクタンスが付加されることで、リアクタンス成分が変化する。インダクタL2のインダクタンスは、例えば、7.96[nH]である。
【0039】
インダクタ回路110は、信号源140と、スイッチ素子150と、インダクタL3と、を含む。信号源140は、制御回路27からの制御信号が供給される信号源を示している。信号源140は、スイッチ素子150に制御信号を出力して、スイッチ素子150の開閉動作を制御するように構成される。スイッチ素子150は、一方の入力端子に信号源140が接続され、他方の入力端子には基準電位が接続されている。基準電位は、グラウンドであるものとして説明するが、本開示はこれに限定されない。スイッチ素子150は、信号源140からの制御信号に従って、閉状態と開状態とを切り替えるように構成される。なお、インダクタ回路110~インダクタ回路110のうち、1つ又は複数のスイッチ回路は、複数のキャパシタ素子および複数の抵抗素子から1又は複数の電気素子を含んでよい。
【0040】
スイッチ素子150の一端には、信号線101が電気的に接続され、他端にはインダクタL3の一端が電気的に接続されている。インダクタL3の他端は、基準電位に接続されている。この場合、スイッチ素子150は、閉状態とすることで信号線101と、インダクタL3とを電気的に接続するように構成される。スイッチ素子150は、開状態とすることで信号線101と、インダクタL3とを電気的に離すように構成される。信号線101と、インダクタL3とが電気的に接続されることで、伝送回路28のインピーダンスには、インダクタL3のインダクタンスが付加される。すなわち、伝送回路28のインピーダンスは、インダクタL3のインダクタンスが付加されることで、リアクタンス成分が変化する。インダクタL3のインダクタンスは、例えば、19.21[nH]である。
【0041】
キャパシタ回路120は、信号源140と、スイッチ素子150と、キャパシタC1と、を含む。信号源140は、制御回路27からの制御信号が供給される信号源を示している。信号源140は、スイッチ素子150に制御信号を出力して、スイッチ素子150の開閉動作を制御するように構成される。スイッチ素子150は、一方の入力端子に信号源140が接続され、他方の入力端子には基準電位が接続されている。基準電位は、グラウンドであるものとして説明するが、本開示はこれに限定されない。スイッチ素子150は、信号源140からの制御信号に従って、閉状態と開状態とを切り替えるように構成される。
【0042】
スイッチ素子150の一端には、信号線101が電気的に接続され、他端にはキャパシタC1の一端が電気的に接続されている。キャパシタC1の他端は、基準電位に接続されている。この場合、スイッチ素子150は、閉状態とすることで信号線101と、キャパシタC1とを電気的に接続するように構成される。スイッチ素子150は、開状態とすることで信号線101と、キャパシタC1とを電気的に離すように構成される。信号線101と、キャパシタC1とが電気的に接続されることで、伝送回路28のインピーダンスには、キャパシタC1のキャパシタンスが付加される。すなわち、伝送回路28のインピーダンスは、キャパシタC1のキャパシタンスが付加されることでリアクタンス成分が変化する。キャパシタC1のキャパシタンスは、例えば、1.32[pF(pico Farad)]である。
【0043】
キャパシタ回路120は、信号源140と、スイッチ素子150と、キャパシタC2と、を含む。信号源140は、制御回路27からの制御信号が供給される信号源を示している。信号源140は、スイッチ素子150に制御信号を出力して、スイッチ素子150の開閉動作を制御するように構成される。スイッチ素子150は、一方の入力端子に信号源140が接続され、他方の入力端子には基準電位が接続されている。基準電位は、グラウンドであるものとして説明するが、本開示はこれに限定されない。スイッチ素子150は、信号源140からの制御信号に従って、閉状態と開状態とを切り替えるように構成される。
【0044】
スイッチ素子150の一端には、信号線101が電気的に接続され、他端にはキャパシタC2の一端が電気的に接続されている。キャパシタC2の他端は、基準電位に接続されている。この場合、スイッチ素子150は、閉状態とすることで信号線101と、キャパシタC2とを電気的に接続するように構成される。スイッチ素子150は、開状態とすることで信号線101と、キャパシタC2とを電気的に離すように構成される。信号線101と、キャパシタC2とが電気的に接続されることで、伝送回路28のインピーダンスには、キャパシタC2のキャパシタンスが付加される。すなわち、伝送回路28のインピーダンスは、キャパシタC2のキャパシタンスが付加されることでリアクタンス成分が変化する。キャパシタC2のキャパシタンスは、例えば、3.18[pF]である。
【0045】
キャパシタ回路120は、信号源140と、スイッチ素子150と、キャパシタC3と、を含む。信号源140は、制御回路27からの制御信号が供給される信号源を示している。信号源140は、スイッチ素子150に制御信号を出力して、スイッチ素子150の開閉動作を制御するように構成される。スイッチ素子150は、一方の入力端子に信号源140が接続され、他方の入力端子には基準電位が接続されている。基準電位は、グラウンドであるものとして説明するが、本開示はこれに限定されない。スイッチ素子150は、信号源140からの制御信号に従って、閉状態と開状態とを切り替えるように構成される。なお、キャパシタ回路120~キャパシタ回路120のうち、1つ又は複数のキャパシタ回路は、複数のインダクタ素子および複数の抵抗素子のうち1つ又は複数の電気素子を含んでよい。
【0046】
スイッチ素子150の一端には、信号線101が電気的に接続され、他端にはキャパシタC3の一端が電気的に接続されている。キャパシタC3の他端は、基準電位に接続されている。この場合、スイッチ素子150は、閉状態とすることで信号線101と、キャパシタC3とを電気的に接続するように構成される。スイッチ素子150は、開状態とすることで信号線101と、キャパシタC3とを電気的に離すように構成される。信号線101と、キャパシタC3とが電気的に接続されることで、伝送回路28のインピーダンスには、キャパシタC3のキャパシタンスが付加される。すなわち、伝送回路28のインピーダンスは、キャパシタC3のキャパシタンスが付加されることでリアクタンス成分が変化する。キャパシタC3のキャパシタンスは、例えば、7.68[pF]である。
【0047】
抵抗回路130は、信号源140と、スイッチ素子150と、抵抗素子R1と、を含む。信号源140は、制御回路27からの制御信号が供給される信号源を示している。信号源140は、スイッチ素子150に制御信号を出力して、スイッチ素子150の開閉動作を制御するように構成される。スイッチ素子150は、一方の入力端子に信号源140が接続され、他方の入力端子には基準電位が接続されている。基準電位は、グラウンドであるものとして説明するが、本開示はこれに限定されない。スイッチ素子150は、信号源140からの制御信号に従って、閉状態と開状態とを切り替えるように構成される。
【0048】
スイッチ素子150の一端には、信号線101が電気的に接続され、他端には抵抗素子R1の一端が電気的に接続されている。抵抗素子R1の他端は、基準電位に接続されている。この場合、スイッチ素子150は、閉状態とすることで信号線101と、抵抗素子R1とを電気的に接続するように構成される。スイッチ素子150は、開状態とすることで信号線101と、抵抗素子R1とを電気的に離すように構成される。信号線101と、抵抗素子R1とが電気的に接続されることで、伝送回路28のインピーダンスには、抵抗素子R1の抵抗値が付加される。すなわち、伝送回路28のインピーダンスは、抵抗素子R1の抵抗値が付加されることで実部成分が変化する。抵抗素子R1の抵抗値は、例えば、1[mΩ(milli-Ohm)]である。
【0049】
制御回路27は、スイッチ素子150~スイッチ素子150のそれぞれの開閉状態を選択的に制御することで、伝送回路28のインピーダンスを選択的に変化させ反射係数をポーラーチャート上において回転するように制御するように構成される。制御回路27は、スイッチ素子150~スイッチ素子150のいずれか1つのスイッチ素子を閉状態とするか、全てのスイッチ素子を開状態とすることで、伝送回路28のインピーダンスを複素平面において回転するように制御するように構成される。または、制御回路27は、スイッチ素子150~スイッチ素子150のうちの、複数のスイッチ素子を閉状態とすることで、伝送回路28のインピーダンスの選択により反射係数が回転するように制御してもよい。
【0050】
具体的には、スイッチ素子150~スイッチ素子150の全てのスイッチ素子が開状態のときに、伝送回路28は、反射係数が複素平面において0°に位置するように構成される。スイッチ素子150のみが閉状態のときに、伝送回路28は、インピーダンスが複素平面において45°に位置するように構成される。スイッチ素子150のみが閉状態のときに、伝送回路28は、インピーダンスが複素平面において90°に位置するように構成される。スイッチ素子150のみが閉状態のときに、伝送回路28は、インピーダンスが複素平面において135°に位置するように構成される。スイッチ素子150のみが閉状態のときに、伝送回路28は、インピーダンスが複素平面において-45°に位置するように構成される。スイッチ素子150のみが閉状態のときに、伝送回路28は、インピーダンスが複素平面において-90°に位置するように構成される。スイッチ素子150のみが閉状態のときに、伝送回路28は、インピーダンスが複素平面において-135°に位置するように構成される。スイッチ素子150のみが閉状態のときに、伝送回路28は、インピーダンスが複素平面において180°に位置するように構成される。
【0051】
制御回路27は、送信されてきた電波を反射する際に、スイッチ素子150~スイッチ素子150のうち、予め定められたスイッチ素子の開閉状態を制御するように構成してよい。制御回路27は、センサ40からの出力に応じて、複素平面における回転位置にインピーダンスが位置するように、スイッチ素子150~スイッチ素子150を制御するように構成してよい。制御回路27は、無線通信装置1の外部から送信された制御信号に基づいて、複素平面における回転位置にインピーダンスが位置するように、スイッチ素子150~スイッチ素子150を制御するように構成してよい。
【0052】
図5を用いて、伝送回路28に係るシングルサイドバンドを実現する方法について説明する。
【0053】
図5には、反射係数を左回転させた時のバックスキャッタ信号の周波数スペクトラムを解析した結果例を示す。無線通信装置1が送信するバックスキャッタ信号(反射信号)のスペクトル波形となる。横軸は周波数、縦軸は信号強度を示している。図5には、キャリア信号61と、USB信号62と、LSB信号63とが示されている。キャリア信号61の周波数は、例えば、1.0[GHz(Giga Hertz)]である。USB信号62の周波数は、例えば、1.001[GHz]である。LSB信号63の周波数は、例えば、0.999[GHz]である。図5に示すキャリア信号61のスペクトル強度は、約-48[dB(Decibel)]である。USB信号62のスペクトル強度は、約0[dB]である。LSB信号63のスペクトル強度は、約-60[dB]である。USB信号62と、LSB信号63とのスペクトル強度の差は、-60[dB]である。すなわち、図5に示すスペクトル波形においては、LSB信号63はUSB信号62と比べて抑圧されているので、USB信号62のシングルサイドバンドが実現されているといえる。
【0054】
上述のとおり、伝送回路28は、伝送回路28のインピーダンスを選択的に変え反射係数を回転するように制御することで、シングルサイドバンドを実現することができる。すなわち、伝送回路28は、キャリア信号に対するLSB信号及びUSB信号のいずれか一方を抑圧するように伝送回路28のインピーダンスを制御することで、両サイドバンドを独立に利用でき、周波数帯域の利用効率を2倍に向上させることができる。
【0055】
伝送回路28は、分波器などの構成を用いずに、バックスキャッタ信号のシングルサイドバンドを実現させることができる。このため、伝送回路28は、分波器などの構成は不要なので、バックスキャッタ方式の無線通信装置を小型化することができる。
【0056】
なお、伝送回路28では、複素平面において0°、45°、90°、135°、180°、-135°、-90°、-45°の45°刻みの8点でインピーダンスを制御するものとして説明した。これらの角度は例示であり、本開示を限定するものではない。インピーダンスを回転制御するポイントの数に特に制限はなく、3個でも、4個でも、6個でも10個以上でもよい。インピーダンスを回転制御するポイントの数は、4個以上であることが好ましい。インピーダンスを回転制御するポイントの数は4の倍数であることが好ましい。インピーダンスを回転制御するポイントは、各ポイントの角度間隔が同じであってもよいし、異なっていてもよい。第1実施形態では、インピーダンスを回転制御するためのポイントの角度間隔は、厳密に一致するものだけでなく、所定の角度(例えば、10°以内)ずれている場合も含む。第1実施形態では、インピーダンスを回転制御するための基準となるポイントの角度は、設計に応じて任意の角度だけずらすようにしてもよい。例えば、基準となるポイントのインピーダンスを0°に制御することが困難である場合には、20°程度ずらすようにしてもよい。
【0057】
[第2実施形態]
次に、本開示の第2実施形態に係る伝送回路について説明する。上述したように、第1実施形態に係る伝送回路28は、インピーダンス回路として、インダクタ回路110と、キャパシタ回路120と、抵抗回路130とを含む。しかしながら、本開示の伝送回路の構成は、これに限定されない。例えば、伝送回路は、インダクタ回路110、抵抗回路130を含まずに、キャパシタ回路120から構成されてもよい。この場合、伝送回路と、伝送回路に接続された信号の位相を90°シフトさせる移相器とスイッチ素子とを用いてシングルサイドバンドを実現することができる。
【0058】
図6を用いて、第2実施形態に係る伝送回路の構成について説明する。図6は、第2実施形態に係る伝送回路の構成の一例を説明するための図である。
【0059】
図6に示すように、伝送回路28Aは、キャパシタ回路120~キャパシタ回路120を含む。キャパシタ回路120~キャパシタ回路120は、それぞれ、信号源140~信号源140と、スイッチ素子150A~スイッチ素子150Aとを含む。スイッチ素子150A~スイッチ素子150Aを特に区別する必要のない場合には、スイッチ素子150Aと総称することもある。スイッチ素子150Aは、第1実施形態で説明したスイッチ素子150と同様なので説明を省略する。
【0060】
キャパシタ回路120~キャパシタ回路120は、それぞれ、信号線103によって電気的に接続されている。信号線103は、入出力端子104と電気的に接続されている。キャパシタ回路120~キャパシタ回路120は、反射係数を複素平面(ポーラーチャート)において-135°~-90°及び-90°~0°を右回り又は左回りに回転制御する際に使用する回路である。
【0061】
キャパシタ回路120~キャパシタ回路120は、第1実施形態で説明した、キャパシタ回路120~キャパシタ回路120と同様である。具体的には、キャパシタC1のキャパシタンスは、1.32[pF]である。キャパシタC2のキャパシタンスは、3.18[pF]である。キャパシタC3のキャパシタンスは、7.68[pF]である。
【0062】
制御回路27は、スイッチ素子150A~スイッチ素子150Aのそれぞれの開閉状態を制御することで、伝送回路28Aのインピーダンスを複素平面において回転するように制御可能である。制御回路27は、スイッチ素子150A~スイッチ素子150Aのいずれか1つのスイッチ素子を閉状態とするか、全てのスイッチ素子を開状態とすることで、伝送回路28Aのインピーダンスを複素平面において回転するように制御可能である。制御回路27は、スイッチ素子150A~スイッチ素子150Aのうち、複数のスイッチ素子を開状態として、伝送回路28Aのインピーダンスを複素平面において回転するように制御可能としてよい。
【0063】
スイッチ素子150A~スイッチ素子150Aの全てのスイッチ素子が開状態のときに、伝送回路28Aは、インピーダンスが複素平面において0°に位置する。スイッチ素子150Aのみが閉状態のときに、伝送回路28Aは、インピーダンスが-45°に位置する。スイッチ素子150Aのみが閉状態のときに、伝送回路28Aは、インピーダンスが-90°に位置する。スイッチ素子150Aのみが閉状態のときに、伝送回路28Aは、インピーダンスが-135°に位置する。すなわち、制御回路27は、スイッチ素子150A1~スイッチ素子150A3を制御することで、複素平面上におけるインピーダンスの位置を4点間で制御し得る。キャパシタ回路120~キャパシタ回路120は、インピーダンスを-135°~-90°及び-90°~0°の間で回転制御するように構成されうる。制御回路27は、スイッチ素子150A,150A,150Aを順々に1つのみを閉状態とすることで、伝送回路28Aのインピーダンスを右回りに回転制御するように構成される。制御回路27は、スイッチ素子150A,150A,150Aを順々に1つのみを閉状態とすることで、伝送回路28Aのインピーダンスを左回りに回転制御するように構成される。
【0064】
図7を用いて、第2実施形態に係る伝送回路を複素平面においてインピーダンスを回転制御する方法を説明する。図7は、第2実施形態(図6)に係る複素平面において反射係数を回転制御する方法を説明するための図である。
【0065】
図7に示すように、図6に示した、伝送回路28A(キャパシタ回路120~キャパシタ回路120)をキャパシタIC160として集積回路化して用いてよい。この場合、キャパシタIC160は、切り替えスイッチ制御回路200による切り替えスイッチ素子190の切り替えにより、移相器170と、信号線180とのいずれか一方に接続されるように構成される。
【0066】
移相器170は、図示しないキャパシタと、インダクタと、キャパシタと、を含む。移相器170は、入力された信号の位相を90°シフトさせて出力する移相器である。
【0067】
切り替えスイッチ制御回路200は、インピーダンスを0°~-90°及び-90°~-135°の間で回転制御する場合には、キャパシタIC160と、信号線180とを接続するように、切り替えスイッチ素子190を制御する。
【0068】
切り替えスイッチ制御回路200は、インピーダンスを45°~90°、及び90°~180°の間で回転制御する場合には、キャパシタIC160と、移相器170を接続するように、切り替えスイッチ素子190を制御する。キャパシタIC160と、移相器170とを接続することで、複素平面上におけるインピーダンスの位置を8点間で制御し得る。このように、集積回路化することにより、小型化に有利な構成とすることができる。
【0069】
図8を用いて、第2実施形態に係るシングルサイドバンドを実現する方法について説明する。
【0070】
図8は、反射係数を左回転させた場合のバックスキャッタ信号の周波数スペクトラムの解析結果を示す。無線通信装置1が送信するバックスキャッタ信号のスペクトル波形が示されている。図8には、キャリア信号61Aと、USB信号62Aと、LSB信号63Aとが示されている。キャリア信号61Aの周波数は、例えば、1.0[GHz]である。USB信号62Aの周波数は、1.001[GHz]である。LSB信号63Aの周波数は、0.999[GHz]である。キャリア信号61Aのスペクトル強度は、約-50[dB]である。USB信号62のスペクトル強度は、約0[dB]である。LSB信号63のスペクトル強度は、約-50[dB]である。USB信号62と、LSB信号63とのスペクトル強度の差は、約-50[dB]である。すなわち、図8に示すスペクトル波形において、LSB信号63はUSB信号62と比べて抑圧されているので、USB信号62のシングルサイドバンドが実現されている。
【0071】
図7に示す第2実施形態では、抵抗器およびキャパシタンスに比べてサイズが大きいインダクタの使用を減らすことができる。図7に示す第2実施形態では、IC化することが容易となるので、小型化により有利な構成となる。
【0072】
[第2実施形態の変形例]
次に、本開示の第2実施形態の変形例の構成について説明する。第2実施形態では、位相をシフトさせるための移相器を1つのみ含んでいたが、本開示はこれに限定されない。本開示では、複数の移相器を含んでよい。
【0073】
図9を用いて、第2実施形態の変形例の構成について説明する。図9は、第2実施形態の変形例の構成を説明するための図である。
【0074】
図9には、キャパシタIC160と、移相器170Aと、移相器170Bと、移相器170Cと、切り替えスイッチ制御回路200と、が示されている。移相器170Aは、例えば、位相を45°シフトさせるように構成される移相器である。移相器170Bは、例えば、位相を90°シフトさせるように構成される移相器である。移相器170Cは、例えば、位相を135°シフトさせるように構成される移相器である。
【0075】
図9に示す例においては、キャパシタIC160は、例えば、伝送回路28Aのキャパシタ回路120のみをIC化している。切り替えスイッチ制御回路200は、インピーダンスを0°~90°の間で回転制御する場合には、キャパシタIC160と、移相器170Aとを接続するように、切り替えスイッチ素子190を制御するように構成される。切り替えスイッチ制御回路200は、インピーダンスを90°~180°の間で回転制御する場合には、キャパシタIC160と、移相器170Bとを接続するように、切り替えスイッチ素子190を制御するように構成される。切り替えスイッチ制御回路200は、インピーダンスを180°~270°の間で回転制御する場合には、キャパシタIC160と、移相器170Cとを接続するように、切り替えスイッチ素子190を制御するように構成される。切り替えスイッチ制御回路200は、インピーダンスを270°~360°の間で回転制御する場合には、キャパシタIC160と、信号線180とを接続するように、切り替えスイッチ素子190を制御するように構成される。第2実施形態の変形例では、複数の移相器を含む伝送回路を構成することができる。
【0076】
[第3実施形態]
次に、本開示に係る第3実施形態について説明する。第3実施形態では、受信した信号に対して変調処理を実行して、信号を出力する。第3実施形態は、無線通信装置1が、例えば、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)方式の変調を使って信号を変調する場合に、変調信号のシングルサイドバンドを実現する。
【0077】
図10を用いて、変調信号のスペクトル波形の一例について説明する。図10は、変調信号のスペクトル波形の一例を示す図である。
【0078】
図10には、QPSK変調されたバックスキャッタ信号のスペクトル波形W1が示されている。図10において、横軸は周波数であり、縦軸は強度である。図10に示すように、QPSK変調されたバックスキャッタ信号は、横軸に広がりを持つ波形となる。この場合、USB信号81と、USB信号81の隣接信号82との差は、約15dBとなる。第3実施形態では、周波数の使用効率を高めるQPSKの変調方式を提供する。
【0079】
図11を用いて、第3実施形態に係るQPSK変調について説明する。図11は、第3実施形態に係るQPSK変調を説明するための図である。
【0080】
図11は、第3実施形態に係るQPSK信号の信号点配置図を示している。信号点配置図には、点P1~点P16の16個の点が示されている。点P1の位相は0°である。点P2の位相は22.5°である。点P3の位相は45°である。点P4の位相は67.5°である。点P5の位相は90°である。点P6の位相は112.5°である。点P7の位相は135°である。点P8の位相は157.5°である。点P9の位相は180°である。点P10の位相は202.5°である。点P11の位相は225°である。点P12は247.5°である。点P13の位相は270°である。点P14の位相は292.5°である。点P15の位相は315°である。点P16の位相は337.5°である。点P1~点P16のそれぞれの位相は、例えば、第2実施形態で説明したキャパシタをスイッチで切り替える伝送回路28Aと移相器と切り替えスイッチの組み合わせ(図7参照)の応用で実現できる。
【0081】
QPSK変調は、通常、位相が90°ごとに変化した4つの信号が用いられる。図11に示す例でいえば、位相が45°の点P3と、位相が135°の点P7と、位相が225°の点P11と、位相が315°の点P15とが用いられる。例えば、QPSK変調において、点P3から点P7にQPSK信号が変化した場合には、位相が急激に変化することになる。
【0082】
第3実施形態では、図11に示す16個の位相を用いることで、無線通信装置1は、QPSK変調において連続的に位相を変化させるように構成される。例えば、1シンボル長が10回転する間に、QPSK信号の位相が0°、±90°または180°変化するように制御する。例えば、図11に示す点P3から点P7まで変化させる場合、1シンボル長が10回転する間に、点P4と、点P5と、点P6と、点P7とを経由するように変化するので、位相が4回進めて変化する。例えば、点P3から点P15に変化させる場合、点P2と、点P1と、点P16と、点P15とを経由して変化するので、位相が4回遅らせて変化する。すなわち、16点の位相を用いることで、無線通信装置1は、QPSK変調において、位相をゆっくりと変化させることができるように構成される。言い換えれば、無線通信装置1は、位相を準連続的に変化させることができるように構成される。
【0083】
図12と、図13とを用いて、第3実施形態に係る変調信号のスペクトル波形の一例について説明する。図12と、図13とは、第3実施形態に係る変調信号のスペクトル波形の一例を示す図である。
【0084】
図12は、無線通信装置1が準連続的に位相を進めた場合のスペクトル波形W2を示している。この場合、USB信号83と、USB信号83の隣接信号84との差は、約30dBとなる。すなわち、無線通信装置1は、準連続的に位相を進めることで、周波数の利用効率を高めることができる。
【0085】
図13は、無線通信装置1が準連続的に位相を遅らせた場合のスペクトル波形W3を示している。この場合、USB信号85と、USB信号85の隣接信号86との差は、約30dBとなる。すなわち、無線通信装置1は、準連続的に位相を遅らせることで、周波数の利用効率を高めることができる。
【0086】
上述のとおり、第3実施形態では、無線通信装置1は、QPSK変調において、バックスキャッタ信号のUSB信号に隣接する信号を抑圧することができる。これにより、無線通信装置1は、QPSK変調においても、周波数の利用効率を改善することができる。
【0087】
また、本実施形態では、位相変調を用いて、反射係数を制御する方法について説明したが、本開示はこれに限定されない。本開示では、例えば、デジタル情報に応じて反射係数の回転速度を変化させることで、SSB信号上に周波数変調をかけることでも、反射係数を制御し得る。
【0088】
以上、本開示の実施形態を説明したが、これら実施形態の内容により本開示が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0089】
1 無線通信装置
10 アンテナ
11 BPF
20 RFBSデバイス
21 高周波スイッチ
22 アンプ
23 復調部
24 発振部
25,26 LPF
27 制御回路(第1制御回路)
28 伝送回路
30 制御装置
40 センサ
110 インダクタ回路
120 キャパシタ回路
130 抵抗回路
140 信号源
150,150A スイッチ素子(第1スイッチ素子)
160 キャパシタIC
170,170A,170B,170C 移相器
190 切り替えスイッチ素子(第2スイッチ素子)
200 切り替えスイッチ制御回路(第2制御回路)
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8
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図13