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特許7587231抗菌性組成物、多層フィルム、抗菌材、抗菌性組成物の製造方法、カビの防除方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】抗菌性組成物、多層フィルム、抗菌材、抗菌性組成物の製造方法、カビの防除方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 65/00 20090101AFI20241113BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
A01N65/00 H
A01P3/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020173881
(22)【出願日】2020-10-15
(65)【公開番号】P2022065359
(43)【公開日】2022-04-27
【審査請求日】2023-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】杉山 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 菜穂
(72)【発明者】
【氏名】大▲崎▼ 久美子
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2010-0083039(KR,A)
【文献】特開2011-236183(JP,A)
【文献】国際公開第2009/082792(WO,A1)
【文献】MADHANRAJ, R. et al.,“Evaluation of anti-microbial and anti-haemolytic activity of edible basidiomycetes mushroom fungi”,Journal of Drug Delivery and Therapeutics,2019年,Vol. 9, No. 1,pp. 132-135,DOI: 10.22270/jddt.v9i1.2277
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 65/00
A01P 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イサルノコシカケの有機溶媒抽出物を有効成分として含んでいることを特徴とする抗菌性組成物。
【請求項2】
前記シイサルノコシカケの有機溶媒抽出物が、前記シイサルノコシカケの子実体若しくは菌糸体又は菌糸体培養液の有機溶媒抽出物であることを特徴とする請求項1に記載の抗菌性組成物。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか一項に記載の抗菌性組成物を含む樹脂層を少なくとも備える、多層フィルム。
【請求項4】
担体及び前記担体に担持されている請求項1または2のいずれか一項に記載の抗菌性組成物を含有する抗菌材。
【請求項5】
シイサルノコシカケの子実体若しくは菌糸体又は菌糸体培養液から有機溶媒を用いて抽出物を得る工程を含、抗菌性組成物の製造方法。
【請求項6】
エリンギまたはシイサルノコシカケのうち少なくとも1種のキノコの有機溶媒抽出物を有効成分として含む抗菌性組成物を気体暴露することによる、カビの防除方法。
【請求項7】
前記カビが、Aspergillus属、Penicillium属、Cladosporium属のカビである、請求項6に記載のカビの防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性組成物、多層フィルム、抗菌材、抗菌性組成物の製造方法、カビの防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
きのこから揮発する成分にカビや細菌の防除効果があることが知られている(特許文献1)。きのこ由来の抗菌成分は安全性が高く、揮発性があることで空間内のカビや細菌を効率的に防除できるというメリットがある。
【0003】
また、特許文献2には、食用キノコ廃菌床の水抽出物を用いた植物の病害防除剤が提案されている。
【0004】
また、特許文献3には、ヒラタケ属担子菌抽出物を含有する日持ち向上剤が提案されており、抗菌効果も有するとされている。
【0005】
さらに、特許文献4には、イソチオシアン酸エステルを使用して空間内を抗菌するフィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-167073号公報
【文献】特開2011-140463号公報
【文献】特開2020-31597号公報
【文献】特開平3-151972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の抗菌成分はきのこの子実体、菌糸体、廃菌床そのものから発せられるものであり、それらを、防除したいカビや細菌の付近に設置する必要があることから、利用形態が限られたものであった。
【0008】
また、特許文献2にある病害防除剤とは、植物が元々有している抵抗性を発現させることで菌類による病害を防除するという方法であり、加工食品等には応用することができない。
【0009】
さらに、特許文献3に記載のヒラタケ抽出物の抗菌効果は、菌懸濁液に直接添加する方法でしか確認されておらず、揮発して空間内のカビや細菌を防除できるかは定かではない。また、特許文献3に記載のヒラタケ抽出物は、熱水により抽出したものである。
【0010】
また、特許文献4にあるイソチオシアン酸エステルは強い刺激臭や皮膚刺激性を有するため、使用時に保護具が必要であったり、内容物へのにおい移りや食品であればその風味を損なうなどの問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、刺激臭が少なく安全に空間抗菌性を発現することができる抗菌性組成物および抗菌方法を提供することを目的とする。
本明細書において、「空間抗菌性」を発現するとは、抗菌性の有効成分が、空気中に拡散し、対象物に接触することなく、対象物において抗菌性を発揮することを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]エリンギまたはシイサルノコシカケのうち少なくとも1種のキノコの有機溶媒抽出物を有効成分として含んでいることを特徴とする抗菌性組成物。
[2]前記キノコの有機溶媒抽出物が、前記キノコの子実体若しくは菌糸体又は菌糸体培養液の有機溶媒抽出物であることを特徴とする[1]に記載の抗菌性組成物。
[3][1]または[2]のいずれか一項に記載の抗菌性組成物を含む樹脂層を少なくとも備える、多層フィルム。
[4]担体及び前記担体に担持されている[1]または[2]のいずれか一項に記載の抗菌性組成物を含有する抗菌材。
[5]キノコの子実体若しくは菌糸体又は菌糸体培養液から有機溶媒を用いて抽出物を得る工程を含み、前記キノコが、エリンギまたはシイサルノコシカケのうち少なくとも1種のキノコである、抗菌性組成物の製造方法。
[6][1]または[2]のいずれか一項に記載の抗菌性組成物を気体暴露することによる、カビの防除方法。
[7]前記カビが、Aspergillus属、Penicillium属、Cladosporium属のカビである、[6]に記載のカビの防除方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、刺激臭が少なく安全に空間抗菌性を発現することができる抗菌性組成物および抗菌方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[抗菌性組成物]
1実施形態において、本発明は、エリンギまたはシイサルノコシカケのうち少なくとも1種のキノコの有機溶媒抽出物を有効成分として含む、抗菌性組成物を提供する。
【0015】
実施例において後述するように、発明者らは、エリンギまたはシイサルノコシカケの有機溶媒抽出物が抗菌性を示すことを見出した。
本明細書において、「抗菌性」とは、カビ、細菌等の増殖を抑制する性質を意味する。また、本明細書において、「抗菌性」とは、カビの菌糸の伸長を抑制する性質を包含する。
【0016】
カビとしては、例えば、Aspergillus属、Penicillium属、Cladosporium属、Eurotium属、Mucor属、Scopulariopsis属、Wallemia属、Alternaria属、Fusarium属、Geotrichum属、Phialophora属、Colletotrichum属、Ulocladium属、Phoma属、Arthrinium属、Aureobasidium属、Trichoderma属、Rhizoctonia属、Neurospora属、Arthrinium属、Rhizopus属、Cunninghamella属、Curvularia属等が挙げられる。
【0017】
細菌としては、例えば、Escherichia属、Staphylococcus属、Streptococcus属、Enterococcus属、Corynebacterium属、Bacillus属、Listeria属、Peptococcus属、Peptostreptococcus属、Clostridium属、Eubacterium属、Propionibacterium属、Lactobacillus属、Neisseria属、Branhamella属、Haemophilus属、Bordetella属、Citrobacter属、Salmonella属、Shigella属、Klebsiella属、Enterobacter属、Serratia属、Hafnia属、Proteus属、Morganella属、Providencia属、Yersinia属、Campylobacter属、Vibrio属、Aeromonas属、Pseudomonas属、Xanthomonas属、Acinetobacter属、Flavobacterium属、Brucella属、Legionella属、Veillonella属、Bacteroides属、Fusobacterium属、Mycobacterium属、Actinomyces属、Nocardia属、Treponema属、Leptspira属、Mycoplasma属、Rickettsia属、Chlamydia属等が挙げられる。
【0018】
実施例において後述するように、本実施形態に係る抗菌性組成物は、揮発して抗菌性を発揮できることから、抗菌性組成物を対象物に接触させることなく、対象物における菌の繁殖を抑制することができる。
【0019】
エリンギやシイサルノコシカケは刺激臭や皮膚刺激性を有しないことから、上述の抗菌性組成物から対象物へ臭いが移ることを防止することができ、上述の抗菌性組成物を容易に取り扱うことができる。
【0020】
有機溶媒としては、特に限定されず、アルコール、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン、ジエチルエーテル、ブタノール等を挙げることができる。
有機溶媒は、極性が低い有機溶媒であることが好ましい。極性が低い有機溶媒としては、酢酸エチル、ヘキサン、ジエチルエーテル、ブタノールが好ましく、酢酸エチル、ヘキサン、ジエチルエーテル、アセトンがより好ましい。
本実施形態に係る有機溶媒抽出物は、キノコの子実体若しくは菌糸体又はキノコ菌糸体培養液の有機溶媒抽出物であってもよい。
キノコの栽培に用いられる菌床は、木質基材に米糠等の栄養源を混ぜた人工の培地であり、本実施形態において、「キノコの有機溶媒抽出物」とは、「キノコの廃菌床の有機溶媒抽出物」を包含しない。
【0021】
本実施形態に係る有機溶媒抽出物は、抗菌性を有する。理論に拘泥するものではないが、有機溶媒抽出物に含まれる抗菌性物質は、揮発性の低分子化合物を含んでいると推測される。
これに対し、キノコの子実体若しくは菌糸体又はキノコ菌糸体培養液を、水等の極性の高い溶媒で抽出した場合、その抽出物においては、抗菌性を有する揮発性の低分子化合物の含有量は十分ではないと推測される。
【0022】
[多層フィルム]
1実施形態において、本発明は、上述の抗菌性組成物を含む樹脂層を少なくとも備える、多層フィルムを提供する。
【0023】
この多層フィルムは、抗菌性組成物が樹脂層に含有されていることにより、樹脂層から揮発した有効成分が多層フィルムを透過して、抗菌性を発揮することができる。
【0024】
揮発した有効成分が多層フィルムを透過して抗菌性を発揮することができる限り、多層フィルムは、その他の層を備えていてもよい。その他の層としては、例えば、基材層、外層、シーラント層等の当業者に公知の層を挙げることができる。
【0025】
この多層フィルムを備える包装体は、内容物に対して抗菌性を発揮することができる。内容物としては、例えば、食料品等を挙げることができる。
【0026】
[抗菌材]
1実施形態において、本発明は、担体及び担体に担持されている上述の抗菌性組成物を含有する抗菌材を提供する。
【0027】
担体としては特に限定されず、例えば、多孔質のものを挙げることができる。上述の抗菌剤は、例えば、抗菌性組成物を多孔質の担体に含浸させたものであってもよい。
【0028】
[製造方法]
1実施形態において、本発明は、キノコの子実体若しくは菌糸体又はキノコ菌糸体培養液から有機溶媒を用いて抽出物を得る工程(a)を含み、前記キノコが、エリンギまたはシイサルノコシカケのうち少なくとも1種のキノコである、抗菌性組成物の製造方法を提供する。
【0029】
(工程(a))
工程(a)において、キノコの子実体又はキノコの菌糸体を用いる場合、有効成分を効率的に取り出すために、工程(a)は破砕工程、抽出工程、精製工程を含むことが好ましい。
【0030】
破砕工程において、キノコの子実体又は菌糸体を破砕することにより、抗菌性を有する有機溶媒抽出物の収量を高めることができる。破砕する方法としては特に限定されず、刃、超音波、ホモジナイザー等を用いた破砕方法が挙げられる。
【0031】
抽出工程においては、破砕した子実体又は菌糸体を有機溶媒に浸漬して、有効成分を抽出する。このとき、有効成分の浸出を促進させるために、攪拌や加熱、加圧を行ってもよい。
【0032】
精製工程においては、得られた抽出液をろ過又は遠心分離し、子実体や菌糸体等の固形物を除去する。抽出液は有効成分以外の成分を多く含むため、浸漬に用いた有機溶媒とは異なる有機溶媒を用いて分液し、有効成分を精製することが好ましい。
【0033】
精製された抽出液中の有機溶媒を加熱または減圧下で除去し、濃縮することで、抗菌性組成物を得ることができる。
【0034】
工程(a)において、菌糸体培養液を用いる場合、培養液としては特に限定されず、培養するキノコの生育に適したものを用いることができる。培養温度、pH、培養時間等の条件は適宜選択することができる。
【0035】
菌糸体培養液は、菌糸体から産生された有効成分を含有する。有機溶媒を用いて、菌糸体培養液から有効成分を抽出することにより、抗菌性組成物を得ることができる。
【0036】
工程(a)により得られた抽出物は、さらに精製して純度を高めてもよい。精製方法としては特に限定されず、例えば、有機溶媒分配抽出、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー等の方法であってもよい。
【0037】
[防除方法]
1実施形態において、本発明は、上述の抗菌性組成物を気体暴露することによる、カビの防除方法を提供する。カビとしては、上述したものを挙げることができる。カビは、Aspergillus属、Penicillium属、Cladosporium属であることが好ましい。
【0038】
本明細書において、「抗菌性組成物を気体暴露する」とは、「抗菌性組成物が揮発して空気中を拡散する」ことを意味する。実施例において後述するように、上述の抗菌性組成物が揮発して空気中を拡散することにより、抗菌組成物に近接する空間、対象物において、カビ、細菌の生育を抑制することができる。
【0039】
より具体的な防除方法としては、例えば、上述の抗菌性組成物を用いた多層フィルム、包装体等を用いて、対象物を包装する方法等が挙げられる。このような方法によれば、対象物が多層フィルム、包装体等に接触しない場合であっても、多層フィルム、包装体から揮発した有効成分により、対象物においてカビ、細菌の生育が抑制される。
【0040】
あるいは、上述の抗菌性組成物を用いた抗菌材を、カビ、細菌の生育を防止したい空間に設置することにより、抗菌材から揮発した有効成分が、その空間においてカビ、細菌の生育を抑制する。
【実施例
【0041】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
[実験例1]
以下に述べる手順に従って、各キノコ菌糸体を浸漬した有機溶媒から抽出物を得た。また、各キノコ菌糸体の培養液から抽出物を得た。
【0043】
(実施例1)
エリンギ菌株(市販エリンギ子実体より採取)を、ポテトデキストロース寒天培地(ニッスイ)を用いて、25℃で2週間培養した。得られた菌糸体50gを200mlのアセトン(富士フイルム和光純薬)に24時間浸漬した。菌糸体を含む浸漬液をろ過し、菌糸体とろ液に分離した。菌糸体を再度アセトンに24時間浸漬した後、ろ過によりろ液を得た。これを計3回繰り返し、計650mlのろ液を得た。得られたろ液を、ロータリーエバポレータを用いて濃縮した。得られた濃縮液約50mlに等量のヘキサン(関東化学)を加えて分液した。ヘキサン層をロータリーエバポレータで濃縮し、ヘキサンを除去した結果、エリンギ菌糸体の溶媒抽出物50mgを得た。
【0044】
(実施例2)
シイサルノコシカケ菌株(TUFC33311)を麦芽寒天培地(ニッスイ)を用いて培養した以外は実施例1と同様にして、シイサルノコシカケ菌糸体の溶媒抽出物45mgを得た。
【0045】
(実施例3)
エリンギ菌株(市販エリンギ子実体より採取)を、ポテトデキストロース寒天培地(ニッスイ)を用いて、25℃で2週間培養した。得られた菌糸体から大きさが5~6mmの小片を打ち抜いて、5個の小片をポテトデキストロースブロス液体培地(富士フイルム和光純薬)200mlに投入した。同様の培養液を2個用意し、計400mlの培養液を25℃、3週間、静置培養した。得られた培養液をろ過し、ろ液に等量の酢酸エチル(富士フィルム和光純薬)を加えて分液した。酢酸エチル層をロータリーエバポレータで濃縮し、酢酸エチルを除去した結果、エリンギ菌糸体培養液の溶媒抽出物110mgが得られた。
【0046】
(実施例4)
シイサルノコシカケ菌株(TUFC33311)を麦芽寒天培地(ニッスイ)を用いて、25℃で2週間培養した。得られた菌糸体から大きさが5~6mmの小片を打ち抜いて、5個の小片を麦芽エキス培養液(ライフテクノロジーズ)200mlに投入した。これを25℃、3週間、静置培養した。その他は実施例3と同様にして、シイサルノコシカケ菌糸体培養液の溶媒抽出物3.0mgを得た。
【0047】
(実施例5)
ヘキサン(関東化学)を用いて分液した以外は実施例3と同様にして、エリンギ菌糸体培養液の溶媒抽出物17mgを得た。
【0048】
(実施例6)
エリンギ子実体(市販品)50gを-80℃で凍結し、凍ったままのエリンギ子実体をホモジナイザーで細かく粉砕した。得られた子実体粉砕物にアセトン(富士フィルム和光純薬)を300ml加えて24時間浸漬した後、ろ過によりろ液を得た。これを計3回繰り返し、計900mlのろ液を得た。その他は実施例1と同様にして、エリンギ子実体の溶媒抽出物110mgを得た。
【0049】
(比較例1)
エリンギ菌株(市販エリンギ子実体より採取)を、ポテトデキストロース寒天培地(ニッスイ)を用いて、25℃で2週間培養した。得られた菌糸体42gを200mlの熱水(90℃)に24時間浸漬した。菌糸体を含む浸漬液をろ過し、菌糸体とろ液に分離した。菌糸体を再度熱水に24時間浸漬した後、ろ過によりろ液を得た。これを計3回繰り返し、計650mlのろ液を得た。得られたろ液に等量のヘキサン(関東化学)を加えて分液した。ヘキサン層をロータリーエバポレータで濃縮し、ヘキサンを除去した結果、エリンギ菌糸体の熱水抽出物31mgを得た。
【0050】
(比較例2)
エリンギ廃菌床50gをホモジナイザーで細かく粉砕した。得られた廃菌床粉砕物にアセトン(富士フィルム和光純薬)を300ml加えて24時間浸漬した後、ろ過によりろ液を得た。これを計3回繰り返し、計900mlのろ液を得た。その他は実施例1と同様にして、エリンギ廃菌床の溶媒抽出物90mgを得た。
【0051】
(比較例3)
サンゴハリタケ菌株(TUFC12790)を培養した以外は実施例3と同様にして、サンゴハリタケ菌糸体培養液溶媒抽出物11mgを得た。
【0052】
(比較例4)
カイガラタケ菌株(TUFC13768)を培養した以外は実施例3と同様にして、カイガラタケ菌糸体培養液溶媒抽出物15mgを得た。
【0053】
(比較例5)
ツリガネタケ菌株(TUFC33594)を培養した以外は実施例3と同様にして、ツリガネタケ菌糸体培養液溶媒抽出物10mgを得た。
【0054】
[実験例2]
実験例1において得られた、菌糸体溶媒抽出物、菌糸体培養液溶媒抽出物、子実体抽出物を用いて、カビに対する抗菌性を評価した。
【0055】
(抗菌試験)
クロコウジカビ(Aspergillus niger)に対する抗菌試験
ポテトデキストロース寒天培地が入った直径50mmのシャーレ(培地との距離1cm)に、クロコウジカビの胞子液(菌数1×103.5cfu/ml)50μlを接種した。シャーレのふた側に30mm×30mmサイズのろ紙を貼りつけ、各ろ紙に、実験例1で作製した菌糸体溶媒抽出物または菌糸体培養液溶媒抽出物または子実体抽出物をメタノールで10質量%に調整した抽出液を50μlずつ滴下した。シャーレのふたを閉じ、パラフィルムで周縁を封止して、25℃で24時間培養した。また、対照として、抽出物の代わりにメタノール50μlを滴下したろ紙を準備した。
【0056】
アオカビ(Penicillium citrinum)に対する抗菌試験
アオカビの胞子液(菌数1×103.0cfu/ml)を用いた以外はクロコウジカビに対する抗菌試験と同様に、抗菌試験を行った。
【0057】
クロカビ(Cladosporium sphaerospermum)に対する抗菌試験
クロカビの胞子液(菌数1×103.7cfu/ml)を用いた以外はクロコウジカビに対する抗菌試験と同様に、抗菌試験を行った。
【0058】
(評価方法)
培養後の培地を少量削り取りスライドグラスに乗せ、カバーガラスをかけて光学顕微鏡で観察して画像を取り込んだ。この画像から、解析ソフトで菌糸の長さを測定し、対照であるメタノールを滴下した際の菌糸の長さと比較して菌糸伸長抑制率を算出して抗菌性を評価した。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
実施例1~6の抽出物は、エリンギ又はシイサルノコシカケの子実体若しくは菌糸体又は菌糸体培養液の有機溶媒抽出物であり、十分な抗菌性を有していた。
これに対し、比較例1の抽出物は、エリンギの菌糸体の熱水抽出物であり、十分な抗菌性を有していなかった。
比較例2の抽出物は、エリンギの廃菌床の有機溶媒抽出物であり、十分な抗菌性を有していなかった。
比較例3~5の抽出物は、特定の種ではないキノコの有機溶媒抽出物であり、十分な抗菌性を有していなかった。
【0061】
以上の結果から、本発明を適用した実施例は抗菌性を有するが、比較例は抗菌性を有しないことが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、刺激臭が少なく安全に空間抗菌性を発現することができる抗菌性組成物および抗菌方法を提供することができる。