(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】バチルス優占化装置、バチルス属菌量の相対的評価方法、及びこれを用いた排水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 3/12 20230101AFI20241113BHJP
C02F 1/02 20230101ALI20241113BHJP
C02F 1/32 20230101ALI20241113BHJP
C02F 1/50 20230101ALI20241113BHJP
C02F 3/00 20230101ALI20241113BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20241113BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20241113BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20241113BHJP
【FI】
C02F3/12 A
C02F1/02 C
C02F1/32
C02F1/50 510A
C02F1/50 520P
C02F1/50 550H
C02F1/50 550L
C02F1/50 560H
C02F3/00 G
C02F3/12 B
C02F3/12 D
C12M1/00 D
C12Q1/06
C12N1/20 A
(21)【出願番号】P 2020192276
(22)【出願日】2020-11-19
【審査請求日】2023-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2019208533
(32)【優先日】2019-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517045093
【氏名又は名称】タオ・エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179431
【氏名又は名称】白形 由美子
(72)【発明者】
【氏名】西田 孝伸
(72)【発明者】
【氏名】押田 忠弘
(72)【発明者】
【氏名】菅波 耕三
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-021313(JP,A)
【文献】特開2016-198763(JP,A)
【文献】特開2005-329301(JP,A)
【文献】特開2007-330883(JP,A)
【文献】特開2008-018357(JP,A)
【文献】特開2018-126707(JP,A)
【文献】特開2010-155189(JP,A)
【文献】特開2009-214037(JP,A)
【文献】特開2019-128187(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0109635(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/50
C02F 3/00
C02F 3/12
C02F 11/00-11/20
C12M 1/00-3/10
C12N 1/00-7/08
C12Q 1/00-3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を用いた排水処理装置であって、
有機性排水を一次貯留する原水槽と、
有機性排水を活性汚泥により生物処理する曝気槽と、
汚泥を沈殿する沈殿槽と、
バチルス属菌優占化装置を備え、
前記バチルス属菌優占化装置は
、
沈殿槽より返送された汚泥の一部を熱処理することによってバチルス優占化を図るバチルス属菌選抜装置と
、
選抜されたバチルス属菌を培養するバチルス属菌培養槽
と、
原水槽からバチルス属菌培養槽に原水の一部を移送中にバチルス属菌以外の細菌を殺菌
する殺菌装置を備え
、
バチルス属菌培養槽で培養され、バチルス属菌が優占化されたバチルス属菌培養液が曝
気槽に移送されることを特徴とする排水処理装置。
【請求項3】
前記殺菌装置が紫外線殺菌装置、熱処理装置、
バチルス属菌の増殖に影響を及ぼさない
殺菌剤を添加する殺菌剤添加装置又は超高温瞬間殺菌装置(UHT)であることを特徴とする
請求項1又は2いずれか1項記載の排水処理装置。
【請求項10】
前記バチルス属菌培養槽にはヒーター及び/又は曝気用エアポンプを備える請求項1~
9のいずれか1項記載の排水処理装置。
【請求項11】
請求項1~10記載の排水処理装置を用いた排水処理方法であって、
バチルス優占化処理前のバチルス属菌量とバチルス優占化処理後のバチルス属菌量を
ジピコリン(DPA)量/MLSS(活性汚泥浮遊物質)量、又は芽胞数/MLSS量
によって、活性汚泥中のバチルス属菌の細菌量に対する相対的な量として評価し、
排水処理装置のバチルス優占化の程度を判断し、
バチルス優占化装置におけるバチルス属菌の培養条件を調節し、
排水処理を行うことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水を生物処理するための排水処理装置に関する。特に、バチルス属菌を活性汚泥槽内で優占種として培養するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機性排水の処理は、環境保全に直接関係するため種々の方法が提案されている。中でも活性汚泥法は、比較的低コストで排水処理が可能であり、適切に管理することにより規定されている放流レベルの処理水にできることから、生活雑排水、工場排水などの処理に広く使用されている。しかし、余剰汚泥が大量に発生することが問題となっている。
【0003】
生物処理槽から排出され、産業廃棄物となっている余剰汚泥は約1900万トン/年と推定されている(平成22年 産業構造審議会産業技術分科会「排水処理における余剰汚泥の減量化技術開発事後評価報告書」)。余剰汚泥の削減は企業において、余剰汚泥を運搬し、焼却、埋立などの処分を行う費用を削減できるだけでなく、最終処分場の確保、焼却などの消費エネルギーの削減など社会的問題の解決にも繋がることが指摘されている。
【0004】
Bacillus(バチルス)属は真正細菌ドメイン、Firmicutes門、Bacilli綱、Bacillales目、Bacillaceae科に位置付けられ、指標菌種であるBacillus subtilisを含む95種が分類されている(Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology SECOND EDITION)。例外はあるもののバチルス属菌に共通する主な性状は、グラム陽性、桿菌、好気性または通性嫌気性、芽胞(内生胞子)の形成、カタラーゼ陽性であり、多くは土壌中から分離されている。16Sリボソーム配列を利用した分類の進歩もあり、菌の分類に大きな変化、それに伴う多くの名称変更が起こり、いまだにその途上で混沌とした状態である。その中で俗に使われる「バチルス菌」という名称が示す菌種の範囲は非常にあやふやである。ここではバチルス属菌という名称を用いて、中心的な属を明確に示している。また、運用においては、かつては同属に分類されていたが属名が変更になったような、性質が非常に類似した菌種も対象としている。
【0005】
活性汚泥を利用した有機性排水の処理分野では、活性汚泥中のバチルス属菌を優占化する技術が知られている。バチルス属菌は有機物を分解する酵素を分泌し、デンプン、タンパク質、脂質を糖、アミノ酸、脂肪酸、グリセロール等に分解する。得られた栄養成分を自己の代謝や増殖に利用するとともに、他の微生物の増殖にも寄与することができる。そのため、有機物分解を効率化し生じた栄養成分の消費を早めることにより、悪臭の原因となる菌や、汚泥転換率が高く余剰汚泥を多く産生する他の微生物の増殖を抑制する効果がある。その結果、従来の活性汚泥法に比べて、汚泥発生量の低減、臭気の抑制など、様々な効果が生じると言われている。
【0006】
バチルス属菌を優占化する技術には、以下のように種々の方法が開示されている。返送汚泥に殺菌作用を有するオゾンを供給しバチルス属以外の菌を殺菌することにより、バチルス優占化を図る方法や(特許文献1)、次亜塩素酸ナトリウムなどの殺菌剤に加えて、バチルス属菌を活性化するための活性化剤を添加する方法が開示されている(特許文献2)。殺菌剤以外のバチルス優占化手段としては、バチルス属菌を添加し、45~70℃の温度に保持する汚泥減量化槽を設け汚泥を減量化する方法及び装置が開示されている(特許文献3)。また、返送汚泥の少なくとも一部を熱処理する熱処理手段を備えた排水処理装置及び処理方法が開示されている(特許文献4)。
【0007】
これらの方法は、バチルス属菌が、高温、pHの低下、栄養枯渇などの過酷な環境条件において栄養細胞内に芽胞を形成し、芽胞が環境条件に対し極めて高い耐性を備えていることを利用している。環境条件が悪化して、他の細菌が死滅するような条件となっても、バチルス属菌は芽胞の状態で生存することが可能であることから、バチルス属菌の優占化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2005-296852号公報
【文献】特開2007-330883号公報
【文献】特開2003-190993号公報
【文献】特開2008-18357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、殺菌剤などの薬剤を用いる方法は、薬剤の添加量をバチルス属菌以外の細菌が死滅し、かつバチルス属菌が生存可能である濃度に調整する必要があり、濃度、及び殺菌剤と混和後の滞留時間の調整が難しい。また、殺菌剤と混和する過程で一時的ではあるが高濃度の殺菌剤と接触することは避けられず、バチルス属菌もある程度死滅してしまう。また、処理後の汚泥を生物処理槽に返送する際に、殺菌剤とともに返送することになるから、殺菌剤の混入を避けることはできない。そのため、殺菌剤の影響を完全に排除することはできず、微生物の生育に対して負の影響がある。また、バチルス属菌の添加と同時に活性化剤を添加する方法は、バチルス属菌に選択性の高い活性化剤があるわけではなく、他の細菌の増殖にも寄与することから、バチルス優占化にはさほど効果が得られない。
【0010】
熱処理によってバチルス優占化を図る方法は、殺菌剤を添加する方法と比べて、バチルス属菌以外の細菌を殺菌する条件を調節しやすいという長所がある。しかし、特許文献3に開示されている装置では、汚泥減量化槽全体を加熱し一定の温度に保持する必要があり、汚泥を減量することはできるものの加熱するためにコストがかさむという問題があった。特許文献4に記載されている返送汚泥の一部を熱処理し、バチルス属菌を優占化したものを活性汚泥槽に返送する場合には、汚泥減量化槽を設けて加熱する装置よりも熱処理に費用がかからない。しかし、熱処理する汚泥の量が適切でなければ、バチルス属菌を優占化することができない。そのため、適切な熱処理時間、熱処理する汚泥の量などの調節が困難であるとの指摘があった。
【0011】
効率的にバチルス優占化を行うためには、活性汚泥、バチルス属菌培養液に含まれるバチルス属菌や他の細菌数を測定する必要がある。しかし、活性汚泥中のバチルス属菌の総細胞数に対する割合を計数し、バチルス属菌の適切な量を検討し、バチルス優占化を行った報告は今までにはない。活性汚泥内では有機物と多数の微生物細胞が凝集したフロックが形成されており、寒天平板上に発育するコロニーによる細菌数の計数を困難なものにしている。フロックは多数の微生物が凝集していることから、微生物数を計数するためには、フロックを解体する必要がある。ホモジナイザーなどの剪断力、超音波、界面活性剤などによりフロックの解体が試みられているが、いずれの方法でも完全にフロックを解体することは困難であり、活性汚泥内の総菌数を測定することはできない。そのため、推定値に基いて排水処理装置を設計しているのが現状である。バチルス属菌以外の細菌の死滅処理が不完全な場合にはバチルス優占化が生じないことから、通常は過剰に殺菌処理を行いバチルス属菌以外の細菌を死滅させる装置として設計されておりコストの増加に繋がっていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、余剰汚泥を減量し、かつ既存の排水処理施設にも設置可能なバチルス優占化のための装置及び排水処理方法に関する。また、排水処理装置におけるバチルス属菌の総細菌量に対する相対的な評価方法に関する。
(1)微生物を用いた排水処理装置であって、有機性排水を一次貯留する原水槽と、有機性排水を活性汚泥により生物処理する曝気槽と、汚泥を沈殿する沈殿槽と、バチルス属菌優占化装置を備え、前記バチルス属菌優占化装置は汚泥の一部を熱処理することによってバチルス優占化を図るバチルス属菌選抜装置と選抜されたバチルス属菌を培養するバチルス属菌培養槽を備えていることを特徴とする排水処理装置。
(2)前記バチルス属菌優占化装置は、さらに殺菌装置を備えていることを特徴とする(1)記載の排水処理装置。
(3)前記バチルス属菌優占化装置をユニットとして既存の排水処理装置に組み込むことを特徴とする(1)、又は(2)記載の排水処理装置。
(4)前記殺菌装置は、前記原水槽から前記バチルス属菌培養槽に原水の一部を移送中に原水を殺菌処理する装置であることを特徴とする(1)~(3)いずれか1つ記載の排水処理装置。
(5)前記殺菌装置が紫外線殺菌装置、熱処理装置、殺菌剤添加装置、又は超高温瞬間殺菌装置(UHT)であることを特徴とする(2)~(4)いずれか1つ記載の排水処理装置。
(6)前記紫外線殺菌装置が通液性紫外線殺菌装置であることを特徴とする(5)記載の排水処理装置。
(7)前記バチルス属菌培養槽は、前記曝気槽の1日あたりの処理量の1/10000以上1/2以下の処理量であることを特徴とする(1)~(6)いずれか1つ記載の排水処理装置。
(8)前記バチルス属菌選抜装置は、前記バチルス属菌培養槽の1日あたりの処理量の1/10000以上1/2以下の処理量であることを特徴とする(1)~(7)いずれか1つ記載の排水処理装置。
(9)前記原水槽から前記曝気槽と前記バチルス属菌培養槽に流量を調節可能に原水を供給するポンプを備えていることを特徴とする(1)~(8)いずれか1つ記載の排水処理装置。
(10)前記曝気槽及び/又はバチルス属菌培養槽には、細菌の培養環境をモニターする装置が備えられている(1)~(9)いずれか1つ記載の排水処理装置。
(11)前記細菌の培養環境をモニターする装置が、pHメーター及び/又は溶存酸素計であることを特徴とする(10)記載の排水処理装置。
(12)微生物を用いた排水処理施設にユニットとして組み込むバチルス属菌優占化装置であって、殺菌装置、バチルス属菌選抜装置、及び選抜されたバチルス属菌を培養するバチルス属菌培養槽を備えたバチルス属菌優占化装置。
(13)前記バチルス属菌培養槽にはヒーター及び/又は曝気用エアポンプを備える(12)に記載のバチルス優占化装置。
(14)活性汚泥中のバチルス属菌の細菌量に対する相対的な評価方法であって、ジピコリン(DPA)量/MLSS(活性汚泥浮遊物質)量、又は芽胞数/MLSS量によって評価する方法。
(15)バチルス優占化処理前のバチルス属菌量とバチルス優占化処理後のバチルス属菌量を(14)記載の評価方法によって評価し、排水処理装置のバチルス優占化の程度を判断し、バチルス優占化装置におけるバチルス属菌の培養条件を調節するバチルス属菌優占化排水処理方法。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】バチルス優占化装置を備えた排水処理装置の一例を示す。
【
図3】無処理原水、処理原水で活性汚泥由来のバチルス属菌を培養した際の総生菌数と芽胞数の経時変化を示す図。
【
図5】装置A及びBの活性汚泥のSV30を示す写真。
【
図6】紫外線殺菌装置通過前後のコロニー数を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は活性汚泥中に存在する内在性バチルスを利用するバチルス優占化装置に関する。以下に例を挙げて説明するが、本発明を実施できる形態であれば、以下の実施態様に限定されることはない。
【0015】
1.排水処理装置の一実施態様
図1にバチルス優占化装置を備えた連続式活性汚泥法による排水処理装置の一例を示す。排水処理装置は、原水槽、曝気槽、沈殿槽、及びバチルス属菌優占化装置を備えている。バチルス属菌優占化装置は、バチルス属菌以外の微生物を死滅させるバチルス属菌選抜装置と、選抜されたバチルス属菌を培養するバチルス属菌培養槽を備えている。さらに、バチルス属菌培養槽に導入する原水に混入する細菌を殺菌する通液性殺菌装置、バチルス属菌培養槽におけるバチルス属菌の増殖が最適になるように曝気用エアポンプを備えることが好ましい。曝気用エアポンプには空気中に浮遊する微生物が混入しないようにヘパフィルター設けてもよい。
【0016】
バチルス属菌選抜装置は、熱処理によりバチルス属菌以外の細菌を死滅させる装置となっている。本実施態様では熱処理によってバチルス属菌以外の細菌の処理を行うので、バチルス属菌培養槽では殺菌剤の持ち込みなど処理の影響を考慮する必要がない。バチルス属菌選抜装置にはヒーターが設けられており、沈殿槽から移送された汚泥のバチルス属菌以外の細菌を熱処理することによって死滅させる。バチルス属菌であっても栄養細胞は熱処理によって死滅する可能性があるが、一定の割合で芽胞が含まれておりバチルス属菌のみが選抜される。また、バチルス属菌選抜装置には、温度調節器を設けることにより、必要以上に熱処理が行われるのを防ぐことができる。バチルス属菌選抜装置の熱処理温度、処理時間は予め最適な処理温度、時間を定めることによって、熱処理にかかる費用、時間を最小限に抑えることができる。
【0017】
図1に示すバチルス属菌優占化装置を備えた排水処理装置による排水処理工程を説明する。排液は一旦原水槽に貯留され、ここで流量を調節しながら、曝気槽とバチルス属菌培養槽に移送される。原水槽からの流量を調節することにより曝気槽での浄化処理を適切に進行させることができる。
【0018】
また、バチルス属菌培養槽には、原水の一部を移送し、原水に含まれる有機物質をバチルス属菌を培養するための栄養源として使用する。また、バチルス属菌培養槽に導入する原水にバチルス属菌以外の細菌が混入しているとバチルス優占化を妨げるので原水はバチルス属菌培養槽に導入する工程で殺菌を行うことが好ましい。原水をバチルス属菌の培養に使用することによって、原水の処理に適したバチルス属菌を増加させることができる。その結果、曝気槽でのバチルス優占化が効率的に行われる。また、原水を使用することによって、バチルス属菌を培養するための栄養剤等を特に加えることなく培養することができ、コスト削減に繋がる。
【0019】
曝気槽やバチルス属菌培養槽では必要に応じてpHや溶存酸素量など、槽内の環境をモニターする。培養条件のモニターは定期的、あるいは連続的にモニターする装置を備えてもよいし、定期的に曝気槽からサンプリングを行い、pH、溶存酸素量などを測定してもよい。得られた測定値によって、必要であればpHを調節するために、水酸化ナトリウム溶液などのアルカリ水溶液、あるいは塩酸などの酸を添加したり、エアポンプなどによって曝気することにより細菌が増殖するのに適した環境に調節する。
【0020】
曝気槽には、上述のバチルス属菌優占化装置でバチルス属菌が選抜され、さらにバチルス属菌培養槽で培養されたバチルス属菌培養液がポンプによって移送される。その結果、曝気槽内の活性汚泥はバチルス属菌が優占種となっている。一定時間曝気槽内で処理された排水は沈殿槽へと移送され、汚泥と上澄み液とに分離される。沈殿槽で汚泥と分離された上澄み液は、処理基準を満たし排水可能な状態となっていることを確認したうえで処理水として排出される。
【0021】
沈殿槽で沈殿された汚泥の一部は返送汚泥として曝気槽に返送され、一部はバチルス属菌選抜装置へと移送され、残部は余剰汚泥として処理される。沈殿槽で沈殿された汚泥もバチルス属菌が優占種であるから、返送汚泥として沈殿槽から汚泥の一部を返送して再利用することにより、活性汚泥浮遊物質(MLSS:Mixed liquor suspended solid)を一定量に維持し、安定して排水処理を行うことができる。
【0022】
沈殿槽から移送された汚泥は、上述のようにバチルス属菌選抜装置でバチルス属菌以外の細菌は死滅する条件で熱処理される。熱処理によって選抜されたバチルス属菌は、バチルス属菌培養槽に移送される。バチルス属菌培養槽では、原水槽から原水を連続的に供給し、バチルス属菌選抜装置から連続的に移送されたバチルス属菌を培養する。原水中には、しばしば細菌が存在している。その菌数が多い場合には、バチルス属菌選抜装置から移送されるバチルス属菌の増殖を抑制するので、原水を殺菌する殺菌装置を設けることが好ましい。例えば、通液性紫外線(UV)殺菌装置、熱処理装置、バチルス属菌の増殖に影響を及ぼさない殺菌剤を用いた殺菌剤添加装置、超高温瞬間殺菌(UHT)装置を用いて原水中の菌を殺菌する。その結果、バチルス属菌培養槽に導入される優占種はバチルス属菌となる。
【0023】
通液性紫外線殺菌装置による紫外線殺菌は、装置が簡便であり、コスト面からも好ましい。しかし、殺菌効果が原水の濁度(紫外線透過度)により影響を受ける。濁度が高い原水の場合、紫外線が透過せず、十分な殺菌効果が見込めない。濁度の変動が激しい原水の場合、濁度による影響を防止するために、紫外線の透過度を検出するセンサーを設置して、原水の流入量の制御を行えばよい。紫外線の透過率が低い場合には、紫外線に照射されている時間を長くすることによって、確実に殺菌が行われるようにすることができる。また、濁度計を備えたタンクを設置し、原水槽から送られて来た原水が一定の濁度となるように、水や処理水で希釈してもよい。
【0024】
また、原水中の浮遊物質には微生物を付着、あるいは含有しているものが存在する。浮遊物質中の微生物は紫外線殺菌を受けにくいため、浮遊物質量が多い原水では紫外線殺菌の効果が薄い可能性が高い。原水に含まれる浮遊物質を除き、一定量以下とすることによって、通液性紫外線殺菌装置を用いて安定して殺菌を行うことができる。浮遊物質を除去するためには、通液性殺菌装置に送液する前に沈殿槽を設置し、浮遊物質を沈殿させ、上清を通液性紫外線殺菌装置で殺菌すればよい。あるいは、原水中の浮遊物質をスクリーンもしくは膜濾過装置により除去してから通液性紫外線殺菌装置で殺菌処理を行ってもよい。また、浮遊物質を除去するのではなく、超音波処理によって細かく粉砕してから殺菌処理を行ってもよい。超音波処理は、専用の処理槽を設けてもよいし、通液中に超音波処理を行う構成としてもよい。超音波処理後の原水を通液性紫外線殺菌装置で殺菌処理を行うことにより効率的な殺菌処理を行うことができる。また、濁度が高い場合と同様に、原水を水や処理水によって希釈し、通液性紫外線殺菌装置で殺菌処理を行ってもよい。
【0025】
バチルス属菌培養槽は、エアポンプなどを用いて曝気することにより、バチルス属菌の増殖に適した環境とすることができる。エアポンプから供給される空気はヘパフィルターを通して、浮遊微生物を除いたあとにバチルス属菌培養槽に通気することが好ましい。また、原水の条件がバチルスの生育環境に適していない場合には、pHの調整、栄養源、活性化剤を添加することもできる。また、バチルス属菌の増殖に適した温度に設定することが好ましい。特に、気温が低下する冬季は、バチルス属菌培養槽の温度も低下することから、ヒーター等により一定の温度に保つことが好ましい。一定時間培養し、バチルス属菌が増殖した後に、バチルス属菌培養槽から、曝気槽にバチルス属菌培養液を移送する。また、バチルス属菌培養槽では、バチルス菌選抜装置で熱処理された汚泥や選抜されたバチルス属菌が増殖を繰り返すことによって発生する汚泥が槽内に蓄積することから、蓄積した汚泥を巻き上げる撹拌装置を設置したり、汚泥を排出する機構を設けてもよい。
【0026】
沈殿槽からバチルス属菌選抜装置へ、あるいはバチルス属菌選抜装置からバチルス培養槽への移送はポンプを使用して行ってもよいし、それぞれの槽の高低差を利用して自然に培養液が移動するように各槽を配置してもよい。
【0027】
通常、活性汚泥法による排水処理装置には、バチルス属菌優占化装置以外の槽、すなわち原水槽、曝気槽、沈殿槽がすでに備えられている。既存の排水処理装置に、バチルス属菌優占化装置として、バチルス属菌培養槽、及びバチルス属菌選抜装置を一つのユニットとして付け加えることも可能である。
【0028】
以下に詳細に示すが、バチルス属菌培養槽から曝気槽に戻すバチルス属菌培養液はそれほど多量でなくともバチルス優占化を達成できることが明らかとなった。そのため、バチルス属菌選抜装置、バチルス属菌培養槽からなるバチルス属菌優占化装置はさほど大きなスペースを必要としない。従って、既存の装置に後付ユニットとして組み込むことができる。後付ユニットとしてバチルス優占化装置を組み込むことができれば、既存の排水処理施設を活かし、バチルス優占化装置に変更することも可能であることから、既存設備を改良するだけでよく、改良に要する費用を削減することができる。
【0029】
2.曝気槽に移送するバチルス属菌培養液中のバチルス属菌の量の検討
必要以上にバチルス属菌選抜装置で熱処理を行っても、余剰汚泥を減量する効率が上がることはなく、熱処理のための消費エネルギーを浪費することになる。一方、曝気槽に戻すバチルス属菌の量が少なければ、バチルス属菌が優占種とならず、汚泥の減量化を達成することができない。そこで、バチルス属菌培養液として曝気槽に戻すバチルス属菌の適切な細菌数を検討した。
【0030】
上述のようにフロックを形成している微生物の計数は困難である。そこで、フロックの影響をできるだけ排して、バチルス属菌の芽胞細胞数を推定する方法を検討した。バチルス属菌は、栄養細胞、芽胞細胞が混在した状態で存在している。活性汚泥中のバチルス属菌の数を正確に把握するには、栄養細胞と芽胞細胞の両方を求める必要がある。しかし、バチルス属菌の栄養細胞は多くの場合高温で死滅するので、他の微生物と分けて計数することは非常に困難である。一方、芽胞数の測定は、汚泥をホモゲナイズしてフロックのサイズの分布を試料間で整えた後に、熱処理を行い芽胞のみにして、寒天平板上に発育するコロニーを測定することにより、試料間の菌数の多少を相対的に比較することが可能である。以後、芽胞数という言葉は以上の様にして求めた数値である。
【0031】
フロック中の細菌数を計測することが困難であることから総細菌数と相関する指標として微生物濃度の指標でもあるMLSS量を用いることにした。芽胞数とMLSS量との比率であれば、上述のように熱処理した試料を用いてコロニーを計数し、芽胞数を求めることができるので算出可能である。
【0032】
また、芽胞数はジピコリン酸(dipicolinic acid、DPA)量によっても推定可能であると考え、検討を行った。DPAは、芽胞形成後期過程に特異的に合成され蓄積されるが、栄養細胞やバチルス属菌以外の細菌は合成しないことが知られている。そこで、活性汚泥を熱抽出してDPAを測定することにより、芽胞数の推定が可能であると考えた。
【0033】
DPA量は、培養条件や芽胞(バチルス属菌種)の種類によっても変動すると言われていることから、DPA量が活性汚泥に由来する芽胞形成菌、すなわちバチルス属菌と相関するか検討した。バチルス属菌種の標準菌であるBacillus subtilisを用いて測定を行った。Bacillus subtilisの菌液からから常法によりDPAを抽出し、Scott & Ellarの高感度法を用いて、差スペクトルによりDPA値を測定した。菌液の希釈率を変えて測定した結果、1×106cfu/mL以上の芽胞数で測定が可能であり、DPA量と芽胞数との間に相関があることが確認された。
【0034】
さらに、熱処理(80℃、20分間)により活性汚泥から選抜されたバチルス属細菌の培養液からDPAを抽出し、DPA値を測定した。培養液の一部を80℃、20分間の熱処理後に寒天培地で培養し、コロニー形成数を測定した。含有する芽胞数が異なる培養液でDPAの測定を行った結果、1×107cfu/mLのバチルス属菌が含まれていたもので、DPA量を測定することができた。すなわち純粋にバチルス属菌を用いた系であれば1×106cfu/mL、あるいは活性汚泥から選抜されたバチルス属菌の場合であっても1×107cfu/mL以上のバチルス属菌が含まれていれば、DPA量の測定が可能である。
【0035】
上述の結果から、DPA量とMLSS量との比、すなわちDPA量/MLSS量、あるいは芽胞数/MLSS量を芽胞形成量の評価指標として用いることとした。DPA量/MLSS量、芽胞数/MLSS量により、芽胞を形成しているバチルス属菌の総細菌数中の割合を推定することができる。
【0036】
以下に、食品製造会社2社の廃液処理について、芽胞数/MLSS量よりバチルス優占化を検討した結果を示す。模擬的な曝気槽として一定量の活性汚泥に原水を加え1Lとして曝気した。1日に1回静置し汚泥を沈殿させたあとの上澄み液を500mL除き、500mLの原水を加え曝気を継続した。バチルス属菌選抜装置の処理として、上述曝気槽から1mLの汚泥懸濁液を採取し、80℃、20分間の熱処理を行った。熱処理汚泥を100mLのろ過した原水に懸濁し、30℃で24時間培養した。原水の交換を行う際に、この100mLの培養液を400mLの原水とともに模擬曝気槽に加えて曝気を継続した。この操作を4回繰り返した後に、生菌数及び芽胞数を測定し汚泥を全量回収して、MLSSを測定した。
【0037】
結果を表1に示す。なお、優占化率は、(優占化処理したサンプルの芽胞数/MLSS)/(対照の芽胞数/MLSS)として計算した。いずれの試料を用いた場合でも優占化率が上昇している場合には、汚泥増加量が低減していた。汚泥増加量の低減は、余剰汚泥の発生が抑制されることを示している。ここでは、模擬的に曝気槽の1/1000量の活性汚泥を熱処理し、その後曝気槽の1/10量でバチルス属菌を培養して曝気槽に送液しているが、短時間で十分なバチルス優占化が進み、余剰汚泥の発生が抑制されている。
【0038】
【0039】
従来のバチルス優占化技術は、曝気槽におけるバチルス属菌の優占化をモニターすることができなかったが、上記推定方法によりバチルス属菌の変化をモニターすることが可能となる。すなわち、バチルス優占化前の曝気槽内の芽胞数/MLSS量、あるいはDPA量/MLSS量を求め、バチルス培養槽で培養したバチルス属菌を曝気槽に返送しバチルス優占化を図った後に芽胞数/MLSS量、あるいはDPA量/MLSS量を再度求め、その増加をモニターすることによって、バチルス優占化が適切に行われているかを検証することが可能となる。さらに、バチルス優占化の進行が適切に行われていない、あるいは進行が遅い場合には、バチルス属菌優占化装置でのバチルス属菌の培養条件を調節し、適切な量のバチルス属菌がバチルス属菌培養液として曝気槽に移送されるように調節すればよい。
【0040】
上述の結果をもとにして、バチルス優占化を効率良く進めるためのバチルス属菌選抜に用いる返送汚泥量、及びバチルス属菌培養槽の容量を検討した。いくつかの排水処理施設で測定した中の典型的な例を用いて解析を行った。典型例では、優占化処理前の汚泥中に総菌数として1×107cfu/mLの菌が存在し、その2.2×104cfu/mL(0.22%)がバチルス属菌(正確には芽胞数2.2×104cfu/mLに相当するバチルス属菌数。以下の記載も同様とする。)であった。原水の浄化は連続的に処理されこれらの菌数は平衡状態にあると考えられる。バチルス属菌においては、浄化の過程で増殖した菌量はその分だけ上位の微生物によって捕食されたり、余剰汚泥として廃棄されて、一定数に保たれていると考えられる。
【0041】
この施設の汚泥及び原水を用いて実験を行った。以下、回分式の培養実験で行った例を示す。バチルス属菌培養槽及び曝気槽それぞれにおける培養液の滞留時間は24時間とする。原水の有機物量等によっても異なるが、栄養分が多く増殖しやすい場合、バチルス属菌培養槽ではバチルス属菌選抜装置から供給されたバチルス属菌が盛んに増殖する。バチルス属菌選抜装置の1日処理量がバチルス属菌培養槽の1/100として、紫外線処理した原水100mLに熱処理した返送汚泥1mLを加えた。返送汚泥には4.9×104cfu/mLのバチルス属菌が存在し、これがバチルス属菌選抜装置で選抜され、バチルス属菌培養槽において原水によって希釈される。バチルス属菌培養槽における培養開始時のバチルス属菌数は4.9×102cfu/mLで24時間後には1.7×107cfu/mLまで増殖した(倍加時間1.6時間)。
【0042】
このバチルス属菌培養液が、曝気槽に移送されると、最初は両槽の体積比によって希釈され、バチルス属菌培養槽が曝気槽容量の1/100の容量の場合、バチルス属菌数は1.7×105cfu/mLとなる。元々、2.2×104cfu/mLのバチルス属菌が存在したところにその約8倍多い1.7×105cfu/mLの菌が加わるので、バチルス属菌の比率が増加する。曝気槽内では、他の細菌も存在することから、バチルス属菌増殖は抑制されるが、返送汚泥中のバチルス属菌の菌数が増加することは明らかである。1.7×105cfu/mLの菌数が加わった後に、上述のように平衡状態に達すると考えられることから菌数の増加分と減少分が同じとなり、最終的に1.7×105cfu/mLとなる。処理前のバチルス属菌数と比べて8倍増となる。このサイクルが繰り返されることにより、曝気槽内のバチルス属菌数は徐々に増加しバチルス優占化が進行する。従って、上述の条件では、バチルス属菌選抜装置の1日処理量がバチルス属菌培養槽容量の1/100、バチルス属菌培養槽容量が曝気槽容量の1/100であれば、理論的にはバチルス優占化が起こると考えられる。
【0043】
バチルス属菌培養槽の処理量に対するバチルス属菌選抜装置の1日の処理量、曝気槽の処理量に対するバチルス属菌培養槽処理量の2つの数値は小さければ小さいほどそれぞれの処理槽を小さくすることができる。すなわち、バチルス属菌培養槽、バチルス選抜装置、ともに曝気槽と比較して非常に小さい容量の槽とすることができる。その結果、既存の排水処理施設にバチルス属菌優占化装置としてユニット化して組み込むことができる。実施態様に示した装置は、バチルス優占化により余剰汚泥が削減され、余剰汚泥の処理に掛かる費用が削減できるだけではなく、既存の装置を活かしたままバチルス属菌優占化装置を組み込むことができるため、工事費等、設備に係る費用を削減することができる。
【0044】
また、逆にこの2つの数値を大きく取れば、装置としては大きくなるが、バチルス優占化の進行を早め、バチルス優占化率を高く維持することができ、バチルス属菌が持つ機能をより強く排水処理系に作用させることができる。
【0045】
実際には原水の液質や対象とするバチルス属菌株によりバチルス優占化の状態が異なること、さらには、バチルス属菌選抜装置及びバチルス属菌培養槽双方の処理能力によりバチルス属菌培養液に含まれるバチルス属菌の菌数も異なってくることから、バチルス属菌培養槽の1日あたりの処理量は曝気槽の1日あたりの処理量の1/10000以上1/2以下、好ましくは1/1000以上1/5以下、より好ましくは1/500以上1/10以下、バチルス属菌選抜装置の1日あたりの処理量はバチルス属菌培養槽の1日あたりの処理量の1/10000以上1/2以下、好ましくは1/1000以上1/3以下、より好ましくは1/100以上1/4以下とすることができる。これら処理量は排水処理の条件や目標とする優占化の状態によって上記範囲で適宜選択すればよい。また、処理施設のバチルス優占化をモニタリングしながら、送液量を調節することによって、適切な値に調整することも可能である。
【0046】
ユニットとして組み込む際の別な方法を示す。多くの場合、既存浄化装置は複数の曝気槽から構成されている、その最初の第1曝気槽をバチルス属菌培養槽として、そこにバチルス属菌培養装置からの処理汚泥を移送する方法である。この場合、次の第2曝気槽からが通常の曝気槽となり、汚泥の返送も第2曝気槽以降に返送される。バチルス属菌培養槽の容量は大きくなり、バチルス優占化の程度を強めることができる。
【0047】
3.原水処理装置
多くの排水処理施設では、
図1に示すように原水を曝気槽に直接流入させるのではなく、一旦原水槽に貯め、流量を調節して曝気槽へ移送する。原水には細菌の栄養となる有機物が含まれていることから、滞留する間に原水槽で微生物が増殖することが想定される。そこで10箇所の排水処理施設の原水の微生物量を確認したところ、いずれも10
6~10
7個/mLの微生物が確認された。
【0048】
原水に相当数の微生物が含まれている場合には、バチルス属菌の増殖を抑制し、バチルス優占化を阻害する。原水に含まれる有機物量にもよるが、原水の殺菌を行うことによって、バチルス属菌培養槽においてバチルス属菌の培養効率を高めることができる。
【0049】
原水の処理は、熱処理、殺菌剤の添加、紫外線殺菌など種々の方法を採ることができる。中でも流水を紫外線によって殺菌する通液性紫外線殺菌装置がランニングコスト、作業の点から優れていると考えられた。しかし、処理する原水の濁度などの水質によって、十分な効果を示さない恐れがあった。そこで、比較的濁度の高い食品工場の原水を用いて原水の紫外線効果を検証した。
【0050】
水道水、無希釈の原水、10
1~10
6倍に原水を水道水で希釈した試料を流速3.5L/分で通液性紫外線殺菌装置に注水し処理した。注水は原水の濃度が薄いものから順番に行い、各10Lの注水を行った。7L以上の注水を行った段階で通液性紫外線殺菌装置から出てきた処理水を500mL回収した。回収した処理水は段階的に希釈を行い、100μLの処理水を寒天培地に塗布し培養した。25℃、2日間培養を行った後、寒天培地上に形成されるコロニー数(処理水に含まれる細菌の細胞数)を測定し、処理前と処理後の値を比較した(
図2)。
【0051】
無処理の原水では1.6×106cfu/mLの微生物が存在するのに対し、紫外線処理を行った水道水、希釈した原水はいずれも0~3個のコロニーの存在が確認された。培養試験は滅菌した器具等を用いているものの、通液性紫外線殺菌装置の処理済み水の流路における付着微生物や、サンプリング操作はオープンで行っていることから、空気中の浮遊微生物等の混入によるものと考えられる。
【0052】
殺菌した原水では、102cfu/mL程度のコロニーが計測されているが、原水では106cfu/mLのコロニーが検出されており、原水に対して99.99%の除菌率となっている。原水を通液性紫外線殺菌装置によって殺菌することにより、微生物細胞を完全に除去できるわけではないが、元の細菌数の1/10,000程度まで、殺菌することができる。従って、紫外線による殺菌を行ってから、原水をバチルス属菌培養槽に移送することによって、バチルス属菌の増殖をより高めることができる。
【0053】
次に、通液性紫外線殺菌装置によって殺菌処理した後の原水での活性汚泥由来のバチルス属菌の増殖を解析した。活性汚泥懸濁液を80℃、20分の条件で熱処理し、芽胞形成菌以外の細菌を殺菌した。1mLの殺菌処理した活性汚泥懸濁液を、原水あるいは通液性紫外線殺菌装置によって殺菌処理した原水に添加し、30℃、120rpmの条件で回転振とう培養し、経時的に培養液を採取し総生菌数と芽胞数を求めた。
【0054】
図3に示すように無処理原水では総生菌数は20時間後に10倍増殖したが、芽胞数に大きな変化はなかった。また、芽胞数は120時間培養後もまったく増加していなかった。通液性紫外線殺菌装置によって殺菌処理した原水を用いた場合には、総生菌数が24時間で10
4倍となった。一方、芽胞数は24時間では大きな変化はなかったが、120時間後には10
3倍増加した。通液性紫外線殺菌装置によって殺菌処理した原水では24時間で総生菌数が定常期に達していたが、芽胞数には変化が見られなかった。しかしながら、120時間で芽胞数が大幅に増加し、総生菌数の約20%が芽胞になっていたことから、芽胞数に変化が見られない24時間までの段階でも栄養細胞としてバチルス属菌が20%以上存在しているものと推定される。従って、原水を処理することにより、効果的にバチルス属菌を増殖させることができることが確認された。
【0055】
従って、バチルス属菌培養槽において効果的にバチルス属菌を増殖させる時に、原水に微生物が多数存在する場合には、殺菌処理することが重要であることがわかった。この場合、殺菌する方法としてはここで示した紫外線処理に限るものではなく、例えば、80℃の熱処理によって行うなど、処理後の原水にバチルス属菌の増殖を阻害する要因がない方法であればよい。
【0056】
4.検証用試験装置での性能評価
実際の装置に近いスケールで精度の高い評価を行うために2つの浄化試験を同時に同条件で実施できる2連浄化装置を作製し、一方を対照試験に用いて、他方でバチルス優占化処理を行ないバチルス優占化の効果を検証した。
【0057】
図4に模式的に示すように、通常の活性汚泥法の装置構成で曝気槽総容量180Lの検証試験用装置を2基並列に並べた2連浄化装置を製作した。第1及び第3曝気槽はそれぞれ30L、第2曝気槽は120L、沈殿槽は31Lの容量であり、沈殿槽には沈殿した汚泥を均一化するための攪拌装置が設置されている。原水槽から第1曝気槽までの原水の送液、沈殿槽から直接第1曝気槽までの返送汚泥の送液はすべてペリスタポンプで行なった。
【0058】
原水を同時に2つの装置に送液した。バチルス優占化装置による培養はバッチ式で行なった。沈殿槽から均一に混合された汚泥を採取することは困難であるので、第2曝気槽から活性汚泥を採取して返送汚泥として熱処理し、バチルス優占化を行った。熱処理以外はまったく同じ条件で対照試験を行った。
【0059】
装置A、装置Bともに以下の範囲内で、できる限り近い条件を設定し、実験を行った。
原水処理量:162~180L/日
返送汚泥量:1~4日目 187.2~198L/日
:4~6日目 115.2~118L/日
【0060】
装置Bのバチルス菌液の調製及び接種は以下のようにして行った。原水3Lを121℃、30分間、オートクレーブ滅菌し、装置B第2曝気槽から採取した活性汚泥100mLを80℃で20分間熱処理し、オートクレーブ滅菌した原水に接種し、30℃で12時間~72時間培養した。培養液全量を装置Bの第1曝気槽へ3.7~4.1L/日の速度で接種した。この作業を毎日1回実施した。装置Aについては、80℃で20分間熱処理をせずに、装置A第2曝気槽から採取した活性汚泥100mLを接種し培養を実施した。その他は、装置Bと同様の作業を行い対照とした。なお、各装置とも培養後の菌の接種(返送)は、当日行う測定作業がすべて終了した後に開始している。
【0061】
使用した活性汚泥及び原水は食品工場から提供された。原水は2回採取し、それぞれのBODは200mg/L及び220mg/Lであった。同じ原水槽から装置A(対照)及びB(バチルス属菌優占化装置)に等量ずつ原水を添加した。各装置の第2曝気槽の温度(水温)、pH、DO(Dissolved Oxigen、溶存酸素量)、BOD(Biochemical oxygen demand、生物化学的酸素要求量)、SV30(30分間汚泥沈殿率)、MLSS、SVI(汚泥容量指標)を測定した。さらに、総生菌数、バチルス芽胞数を測定し、評価を行った。なお、BODは微生物が利用できる栄養源の量と相関し、水質を判断する指標である。DOは好気的微生物の増殖の度合いを示す指標である。また、SV30は、活性汚泥をメスシリンダーに入れ、30分間静置した後の沈殿した汚泥の体積をパーセント(%)で表したものであり、活性汚泥の沈降性や固液分離等の性状を把握できる。また、曝気槽内のおおよその活性汚泥量の推測も可能である。SVIは沈殿汚泥1gが占める容積を表し、活性汚泥の沈降性を示す指標である。SV、SVI、MLSSは、以下の関係式で表される。
SVI=SV30(%)/MLSS(%)
≒SV30(%)×10,000/MLSS(mg/L)
【0062】
沈降性が良好な汚泥ではSVIは50~150を示す。また、総生菌数は、熱処理をしないで、1/2濃度のトリプトソーヤ寒天培地(1/2TSA培地)に発育する菌数、バチルス芽胞数は、熱処理した場合に、1/2TSA培地に発育する菌数として測定した。なお、1/2TSA培地はトリプトソーヤブイヨン(日水製薬株式会社)15gと寒天(富士フィルム和光純薬株式会社)15gに精製水を1Lの割合で加え、オートクレーブ滅菌して作成した。
【0063】
第2曝気槽の温度、pH、DOは装置A、B間で差はなく、温度は17.9~19.4℃の範囲を、pHは6.8~7.4の範囲を、DOは6.9~8.8の範囲を推移した。試験開始後1日目から6日目までのSV30、MLSS、SVIの結果を表2に示す。また、ここでは示さないが、処理水のBODは、装置A、Bともに、1.1~4.2mg/Lまでの値を示し、浄化性能が保たれていることが判明した。
【0064】
【0065】
試験開始2日目、すなわちバチルス属菌を優占化させた培養液の添加開始1日後からSV30に差が認められた。対照である装置Aと比較し、装置BではSV30が小さく、非常に早い沈降性が認められた(
図5)。また、菌液添加後はいずれの時点でも装置Aよりも良好な沈降性を示し、特に試験開始3、5及び6日目ではSVIが150以下となり、良好な沈降性を示した。沈降性の向上は、汚泥間の凝集性が高まり、大きなフロックが形成されやすくなっている可能性を示す。沈降性が悪くなると、沈殿槽中での汚泥の容積が増加し、容易にオーバーフローしやすくなる。それを防ぐために、濃度が薄い状態の汚泥を頻繁に引き抜く必要が生じ、管理が難しくなると共に汚泥の処理費用もかさむことになる。バチルス優先化処理により活性汚泥の沈降性が高まることは、非常に重要な意義がある。
【0066】
次に、バチルス菌の優占化を装置Bで実施したときの芽胞数の変化と総細菌数に対する芽胞数の比率を検討した(表3)。試験開始後2日目から芽胞数の総細菌数に占める比率が対照の装置Aにおける数値と比較して明らかに高くなっており、バチルス優占化が進んでいることが示された。さらに、MLSS 1mgあたりの芽胞数を求めると、装置Aでは変動が少なく、装置Bでは日数が経つにつれ徐々に増加していく傾向がより強く現れていた。このことは、バチルス化の程度を表す際に、MLSS 1mgあたりの芽胞数は有用なパラメーターであることを示している。
【表3】
【0067】
5.実証機での性能評価
上述のように実験室レベルで、バチルス属菌の優先化が確認できたことから、排水浄化施設にバチルス属菌優先化装置の実証機、すなわち基本的構成であるバチルス属菌選抜装置、バチルス属菌培養槽、通液性紫外線殺菌装置から構成されるバチルス属菌優占化装置を一つのユニットにして設置し、排水浄化施設でその性能を検討した。熱処理装置による活性汚泥中のバチルス菌の選抜性能、紫外線殺菌装置による原水の殺菌性能、培養槽でのバチルス菌の培養性能の3点について検証を行った。
【0068】
(1)熱処理装置によるバチルス属菌選抜装置の性能評価
実施態様に示すように、バチルス属菌選抜装置は、熱処理によりバチルス属菌以外の細菌を死滅させる装置を採用している。80℃に設定した連続式熱処理装置の中を一定の流速で活性汚泥を通過させ、所定の時間熱処理されるように設定した。熱処理によって、芽胞を形成し高い熱耐性を示す、バチルス属菌のみが生存することになる。実証機の連続式熱処理装置が実際に想定の性能を示すのか、模擬的な曝気槽によりバチルス優先化の検討を行った2つの食品工場の活性汚泥を用いて検討した。
【0069】
実機で使用する予定の連続式熱処理装置(ゼンシン株式会社HST-1000L-12P)を用いた模擬試験装置を作製し、試験を行った。模擬試験装置で、食品工場1及び2の活性汚泥を流速300mL/分の一定の流速で80℃の温浴中を通過させ熱処理を行った。
【0070】
熱交換器を通過した活性汚泥を経時的に採取し、採取した活性汚泥のMLSSと活性汚泥中に生存する生菌数を測定した。MLSSの測定は加熱乾燥式水分計MX-50(株式会社エー・アンド・デイ製)を使用した。生菌数は回収した活性汚泥を段階的に生理食塩水で希釈し、希釈した活性汚泥に由来する細菌が1/2TSA培地上で形成するコロニーの数より求めた。更に、生存する細菌に占めるバチルス菌の割合を求めた。生菌数の測定の際に1/2TSA培地上に形成されたコロニーを芽胞形成培地(Schaeffer’s sporulation medium)に植継ぎ、芽胞形成培地で培養を行った。芽胞形成培地上で形成されたコロニーに由来する細胞をメラー芽胞染色して顕微鏡にて観察した。顕微鏡下で明確に芽胞と判断される赤色に染色された芽胞細胞を含む菌株をバチルス菌とした。メラー芽胞染色法の手順は以下の(1)~(4)の通りである。(1)スライドグラスに固定した菌体を5%クロム酸水溶液(武藤化学株式会社)で2分間脱脂し、水洗する。(2)脱脂した菌体をチール石炭酸フクシン染色液(ナカライテスク株式会社)で1~2分間加温染色し、水洗する。(3)3%硫酸水で4秒間脱色し、直ちに水洗する。(4)5倍希釈レフレルメチレンブルー染色液(メルク株式会社)で1分間染色し、水洗する。顕微鏡観察に供与したコロニーに占めるバチルス菌の割合をバチルス菌含有率とした。対照として装置通過前の活性汚泥を用いた。また、熱処理の効果を検討するために、コントロールとして処理前の活性汚泥をヒートブロックにて80℃、20分の条件で熱処理し、生存する生菌数を求めた。表4に食品工場1の、表5に食品工場2の活性汚泥を用いた結果を示す。
【0071】
【0072】
なお、0分(熱処理)は、処理前の活性汚泥をヒートブロックにて80℃、20分間熱処理を行った試料での結果を示している。ヒートブロックによる熱処理は、1.5mL容のマイクロチューブに1.0mLの活性汚泥を入れ、蓋を閉めた状態で加熱を行った。蓋を開けた状態で温度を測定すると、チューブの中の活性汚泥が80℃に達するには6~7分が必要であったことから、実際には、5分程度で80℃に到達し、15分程度80℃で加熱されたと考えられる。
【0073】
表4は、食品工場1の活性汚泥を模擬試験装置にて240分間連続して熱処理した結果を示す。処理前(0分)の生菌数は1.1×106cfu/mLであったのが、熱処理装置により熱処理したものでは1.4~5.8×104cfu/mLへ低下した。食品工場1の活性汚泥をヒートブロックで80℃、20分の条件で熱処理した場合、生菌数は1.2×104cfu/mLとなった。この結果から、模擬試験装置はヒートブロックでの熱処理と同程度の処理能力を示すことが明らかとなった。
【0074】
熱処理されている活性汚泥の状態は活性汚泥と水の分離が見られ、濃い汚泥が排出される時間とほとんど水のみが排出される時間があった。処理液の排出の停止は見られなかったことから、長いスパンでは問題なく活性汚泥が熱処理され、排出されると考えられた。また、活性汚泥の粘性が高いなど、連続式熱処理装置の使用に問題がある場合には、一定量の液体を分取し、熱処理後に全量をバチルス属菌培養槽に添加するなど、回分式で熱処理を行えばよい。更に、バチルス菌含有量をみると処理前には4.2%であったのが、処理後には80~95%となった。この結果から熱処理装置によるバチルス菌の選抜が機能していることが分かった。
【0075】
【0076】
表5は、食品工場2の活性汚泥を模擬試験装置で60分間連続加熱運転した結果を示す。処理前(0分)の生菌数は1.1×106cfu/mLであったのが、模擬試験装置により熱処理したものでは1.7~5.6×105cfu/mLへ低下した。食品工場2の活性汚泥をヒートブロックで80℃、20分の条件で熱処理した場合、生菌数は1.6×105cfu/mLとなった。この結果からも、熱処理装置はヒートブロックでの熱処理と同程度の処理能力を示すことが明らかとなった。更に、バチルス菌含有量をみると処理前には21%であったのが、処理後には90%前後となった。この結果も熱処理装置によるバチルス菌の選抜が機能していることを示している。
【0077】
(2)紫外線殺菌装置の原水の殺菌性能の評価
排水処理施設では多くの場合、排出された原水は一時的に原水槽に貯留されてから浄化処理される。そのため、原水中には貯留中に増殖した雑菌が相当数含まれ、その数は通常107cfu/mL程度に達すると言われている。バチルス菌優占化処理では活性汚泥より選抜したバチルス菌を原水中で増殖させることが必要となるが、原水に含まれる雑菌がバチルス菌の増殖を阻害する要因となる。従って、原水をそのまま曝気槽に導入してもバチルス属菌による優占化が起こりにくい。
【0078】
そこで、バチルス菌優占化装置には原水を殺菌する装置を組み込んでいる。上述のように紫外線殺菌装置が好ましく用いられることから、通液性紫外線殺菌装置に一定の流速で原水を通すことにより、原水中の雑菌を殺菌することが可能である。しかし、原水の濁度により殺菌効果は影響を受けるため、食品工場2の浄化施設にて所望の殺菌効果を得ることができるか検討した。
【0079】
バチルス菌優占化装置を食品工場2の浄化施設に設置し、バチルス菌優占化装置の殺菌装置の性能を評価した。原水の流速を変えて装置に注入し殺菌効果を解析することにした。原水は装置内の紫外線殺菌装置により殺菌を行った。紫外線殺菌装置の殺菌効果を検討するため紫外線殺菌装置通過の前後で原水を採取し、採取した原水に含まれる生菌数を求めた。
【0080】
原水の紫外線殺菌装置への注入速度を1.0、1.5、3.0L/分にして殺菌効果を検討した。紫外線殺菌装置通過前と各注入速度で紫外線殺菌装置を通過させた原水を採取し、段階的に希釈して寒天培地上で培養を行った。各希釈培率の原水、紫外線処理水の寒天培地上で形成されたコロニーの性状を
図6に示す。
【0081】
流速3.0L/分で紫外線殺菌装置を通過させたものでも10
4倍希釈で多くのコロニーが見られたが、コロニー数から生菌数を計数すると2.2×10
6cfu/mLとなり、原水の生菌数2.2×10
7cfu/mLよりも1/10に減少していた(表6)。流速1.5L/分で紫外線殺菌装置を通過させたものでは10
3倍希釈でも形成されるコロニーの数が大きく減少しており、生菌数も5.6×10
5cfu/mLと大きく減少した。しかしながら、殺菌率は97.5%であり、まだ十分な殺菌ではなかった。一方で、流速1.0L/分で紫外線殺菌装置を通過させたものでは10倍希釈したものでもコロニー数が計数可能であり、生菌数も1.3×10
3cfu/mLと大幅に減少した。予備的な実験から、バチルス属菌培養槽に送液される原水の菌数をバチルス属菌の1/100以下に調整することが、バチルス属菌の優占化に好ましいことを見出している。従って、流速1.0L/分の殺菌率99.995%は、十分な殺菌効果であると言える。
【表6】
【0082】
以上示したように、本発明で示したバチルス属菌優占化装置を用いることによって、効率良くバチルス優占化を進めることが可能であり、汚泥の減量化を行うことができる。また、バチルス優占化装置、すなわちバチルス属菌選抜装置、バチルス属菌培養槽の処理量が小さくてもよいことから、既存の排水装置に組み込むことも可能である。