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特許7587258車両の速度検知方法、車速検知ユニットおよび自動運転装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】車両の速度検知方法、車速検知ユニットおよび自動運転装置
(51)【国際特許分類】
   G01P 3/44 20060101AFI20241113BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20241113BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20241113BHJP
【FI】
G01P3/44 C
B60W60/00
B60L3/00 N
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020200106
(22)【出願日】2020-12-02
(65)【公開番号】P2022087949
(43)【公開日】2022-06-14
【審査請求日】2023-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000191353
【氏名又は名称】新明工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074273
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173222
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100151149
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 幸城
(72)【発明者】
【氏名】田中 康貴
【審査官】大森 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-105813(JP,A)
【文献】特開2011-041342(JP,A)
【文献】特開2001-215234(JP,A)
【文献】特開昭59-116049(JP,A)
【文献】特開2011-141207(JP,A)
【文献】特開2019-138273(JP,A)
【文献】特開2005-218277(JP,A)
【文献】特開2009-210427(JP,A)
【文献】特開平05-184017(JP,A)
【文献】特開平05-264292(JP,A)
【文献】特開昭61-077714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 1/00-3/80
G01D 5/12-5/245
G01B 7/00-7/34
B60W 60/00
B60L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたモータのレゾルバとこのレゾルバに接続されるレゾルバICの間のケーブル部分に入出力信号測定部を分岐接続して、レゾルバへの入力信号とレゾルバからの出力信号の両方を測定し、前記入力信号と出力信号の関係からモータの回転角を検出し、この回転角を用いて車両の移動速度を演算することを特徴とする車両の速度検知方法。
【請求項2】
前記レゾルバは、励磁用の交流電流を入力信号として流す励磁巻線と、この励磁巻線によって励磁された回転子によって形成される磁気回路上の異なる位相に配置されることにより回転子の回転角に応じた誘導電流が出力信号として電磁誘導される複数の電磁誘導巻線とを備えるものであり、前記入力信号として励磁巻線に流れる励磁電流を測定し、出力信号として電磁誘導巻線の両端に生じる各誘導電圧をそれぞれ測定し、励磁電流に対する各誘導電圧の振幅比からモータの回転角を検出する請求項1に記載の車両の速度検知方法。
【請求項3】
車両に搭載されたモータのレゾルバとこのレゾルバに接続されるレゾルバICの間のケーブル部分に分岐接続するように取り付けられ、
このレゾルバの入力信号および出力信号の両方を測定する入出力信号測定部と、この入出力信号測定部によって測定された入力信号および出力信号からモータの回転角を検出し、この回転角を用いて車両の移動速度を演算する演算部とを備えることを特徴とする車速検知ユニット。
【請求項4】
前記レゾルバは、励磁用の交流電流を流す一次巻線と、この一次巻線との位置関係に応じた誘導電流が電磁誘導される複数の二次巻線とを備えるものであり、
前記入出力信号測定部は、前記一次巻線に供給される励磁電流を入力信号として測定する励磁電流測定部と、各二次巻線に電磁誘導される各誘導電圧を出力信号としてそれぞれ測定する誘導電圧測定部とからなることを特徴とする請求項3に記載の車速検知ユニット。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の車速検知ユニットによって求められる車両の移動速度を用いて、既存の車両の自動運転制御における加減速時のアクセル開度、ブレーキ強度のフィードバック制御を行うことを特徴とする自動運転装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の速度検知方法、車速検知ユニットおよび自動運転装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両には種々のセンサを配置して車両のあらゆる制御が行われている。近年においては車両の制御も高精度化が進んでおり、プログラマブルロジック回路などを用いて、より緻密な制御を行うことができるようになっている。とりわけ、近年は車載LANが構築され、車両に関するあらゆる情報が制御に活用されている。
【0003】
加えて、情報技術の更なる進歩に伴って、車両に取付けたカメラや近接センサなどのセンサを用いて検出した情報を基に、利用者による車両の安全運転をサポートして、例えば車両の加減速を自動的に行ったり、不適切な操作を警告したり、事故発生を阻止したりする安全運転サポート車(所謂、サポカー、サポカーSと呼ばれるもの)が開発され、実用化されるに至っている。加えて、産業用ロボットを含む車両を自発的に運転する自動運転車も開発され、実用化される状況にある。
【0004】
このような車両においては移動方向および移動速度の情報は重要であり、車輪またはその回転軸などに移動速度を測定する車速センサを配置することが行われている。車速センサには種々の構成が考えられるが、車輪の回転速度を測定する回転角センサを設けることにより、移動速度を高精度に求めることが可能となる。次いで、車輪の回転を積算することにより車両の位置を演算するオドメトリが用いられる。
【0005】
他方、公道を走行する車両においても、自動運転を実現させることにより、人による作業負荷の軽減が実現されており、このような自動運転車両では、GPS(Global Positioning System)による位置情報の入手に加えて、前記オドメトリを併用することも考えられる。
【0006】
図7は従来のモータ駆動式の電気自動車(以下、車両90という)の基本的な構成の一例を示すブロック図である。図7において、車両90は、例えば操舵可能な前輪91Fと、推進力を供給できる駆動輪91Rと、使用者が運転操作するためのアクセルペダル92A、ブレーキペダル92Bおよびステアリング92Cとを備え、少なくともアクセルペダル92Aの操作量に従って、車両90に推進力を供給するためのモータ93と、このモータ93に電力を供給するインバータ94と、インバータ94に電力を供給するバッテリ95と、少なくともアクセルペダル92Aの操作量に応じて、インバータ94に制御信号を与えてモータ93に発生させる回転力の調節を行う電子制御装置(以下、ECUという)96とを備える。
【0007】
なお、97はモータ93の回転力を左右両側の駆動軸91Rに分配供給するディファレンシャルギアであり、92Dは車両90の前方に取付けられた撮像手段である。ECU96は、各部92A~92Dからの入力を用いて車両90の状況を確認し、使用者による危険な運転操作が行われた場合には警告したり、事故に至りそうな緊急事態が発生するときには車両90を減速させ、停止させるなどの制御を行うことが可能である。
【0008】
図8はモータの制御に関する部分を拡大して示すブロック図である。図8に示すように、前記インバータ94はECU96からの制御信号に従ってモータ93に駆動電流を流すことによりモータ93を適正な回転速度で回転させることが可能である。93Aはモータ93に搭載されてその回転角を検出可能とするためのレゾルバ、96Aはこのレゾルバ93Aに接続されてこれに励磁電流Iaを供給すると共に、レゾルバ93Aからの誘導電流Iiを入力することにより、モータ93Aの回転角を検出するレゾルバICである。
【0009】
つまり、ECU96はレゾルバIC96Aによって検出されたモータ93の回転角を用いて、インバータ94を介するモータ93のフィードバック制御を行うことができる。加えて車両90の移動速度(車速)などの情報は運転席のインパネ表示に用いることも可能である。
【0010】
このように構成された車両90を自動運転車両にアップグレードする場合には、図7に示すように自動運転制御部98を取付けると共に、一点鎖線に示すように各部92A~92Dからの信号を自動運転制御部98に分岐入力し、ECU96に車両90を自動運転するための自動運転制御信号Cを出力することにより、車両90の自動運転を行うことが考えられる。
【0011】
また、自動運転制御部98は車両90の移動速度を確認することにより自動運転制御信号C(指令速度)に対する車速のフィードバック制御を行ったり、自動運転制御信号Cが正しく機能しているかどうかを確認したりするが、前記レゾルバ93Aに対してレゾルバIC96Aは排他的に接続されるものであった。他方、ECU96に対して車両情報の一つとしての車速を情報の提供を求めることにより、ECU96を介する車速情報を得ることも考えられるが、これでは即時性が保たれないという問題がある。このため、車速検出のために直接的に検出信号を得ることができる別のセンサを設ける必要があった。
【0012】
そこで、図7に示すように、車輪91Rのホイール91Hおよびその周辺に磁気エンコーダ99を設けることが行われている。この磁気エンコーダ99は左右両側の車輪91Rのホイール91Hの内側に取り付けられた環状の略帯状体で円周方向に複数の凸部が並べて形成されたエンコード用の専用ブラケット99Bと、この専用ブラケット99Bの凸部に対して僅かな隙間で対面するように配置された状態で、例えばナックルアームに設けた図示していない支持用ブラケットに固定される2つのセンサ99S,99Sとからなる。
【0013】
磁気エンコーダ99によって測定されたホイール91Hの回転速度と方向は容易に車速に変換することが可能であり、時間遅れなく車速を検出することができるので、自動運転制御部98による自動運転制御信号C(指令速度)のフィードバック制御に用いることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2020-134505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上記構成の磁気エンコーダ99は専用ブラケット99Bとセンサ99Sの間の隙間が狭いため、外力によって歪が発生することによる不具合が生じる可能性があった。すなわち、キャリアカーへの車両90の積車時において、車両90を固縛する固縛ベルトによってエンコード用の専用ブラケット99Bが曲がったり、センサ99Sの位置がずれてしまうことにより、車輪91Rの回転角が正しく検出できなくなることが考えられる。
【0016】
また、専用ブラケット99Bが取り付けられたホイール91Hは、通常のホイール91Hと互換性がないため、タイヤにパンクが発生した時に他のタイヤをホイール91Hごと交換できないという問題もあり、加えて、タイヤのローテーションできないという問題も併発していた。さらに、専用ブラケット99Bを取り付けたホイール91Hは、タイヤチェンジャー金具によるタイヤ交換の際にも、タイヤチェンジャー金具が専用ブラケット99Bと干渉して破損する可能性があった。
【0017】
これらの問題に加えて、磁気エンコーダ99の取付けには、高精度の加工が必要であり、部品点数も多数必要であるため、製造コストがかかるという問題もあった。そこで、磁気エンコーダ99を取り付ける車輪91Rの数を1つにするなど、簡素化を図ることも考えられるが、根本的な解決には至っていなかった。
【0018】
ほかにも、モータ93の回転角を検出するためには、別のロータリーエンコーダを用いることも考えられ、特許文献1に示す汎用型ロータリーエンコーダを用いることにより、高精度の回転角を検知することができる。しかしながら、モータ93に対して別のロータリーエンコーダを取付けることによる製造コストの引き上げは避けられなかった。
【0019】
本発明は上述の事柄を考慮に入れてなされたものであり、ホイールに細工を施すことなく車速を高い応答性で検出することができる車両の速度検知方法、車速検知ユニットおよび自動運転装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題を解決するため、第1発明は、車両に搭載されたモータのレゾルバとこのレゾルバに接続されるレゾルバICの間のケーブル部分に入出力信号測定部を分岐接続して、レゾルバへの入力信号とレゾルバからの出力信号の両方を測定し、前記入力信号と出力信号の関係からモータの回転角を検出し、この回転角を用いて車両の移動速度を演算することを特徴とする車両の速度検知方法を提供する(請求項1)。
【0021】
モータのレゾルバは入力信号として供給された交流電力を、モータの回転角に応じた出力信号に変換して出力する。したがって、これら入力信号と出力信号の両方を測定することにより、レゾルバに対して1対1の関係で接続される専用ICの動作に悪影響を与えることなく、モータの回転角を検出することができる。次いで、モータの回転角を用いて車両の移動速度を演算によって求めることが可能である。
【0022】
なお、入力信号および出力信号の測定は、その信号線の間の電位差をこの信号線の分岐接続したハイ入力インピーダンスの電圧測定器によって行なうことが考えられるが、入力信号および/または出力信号のループに介在させた測定用の配線に流れる電流を測定可能な電流測定器によって行なってもよい。何れにしても、簡素な構成でありながら、モータに付属のレゾルバの入力信号と出力信号による車速を安定して測定することができる。
【0023】
レゾルバから得られたモータの回転角の信号は即時応答するものであり、時間遅れなく検出可能であるから、レゾルバの入出力信号から求められる車速を用いて、自動運転のフィードバック制御を行なうことができる。
【0024】
前記レゾルバは、励磁用の交流電流を入力信号として流す励磁巻線と、この励磁巻線によって励磁された回転子によって形成される磁気回路上の異なる位相に配置されることにより回転子の回転角に応じた誘導電流が出力信号として電磁誘導される複数の電磁誘導巻線とを備えるものであり、前記入力信号として励磁巻線に流れる励磁電流を測定し、出力信号として電磁誘導巻線の両端に生じる各誘導電圧をそれぞれ測定し、励磁電流に対する各誘導電圧の振幅比からモータの回転角を検出する場合(請求項2)には、励磁巻線に流れる励磁電流と、各電磁誘導巻線の両端に生じる誘導電圧を用いて、モータの回転角を検出することができる。
【0025】
なお、前記励磁電流は、励磁巻線と同じループ内に介在させた電流測定器を用いて測定することが可能であり、誘導電圧は各電磁誘導巻線に接続される配線に分岐接続された電圧測定器を用いて測定することが可能である。測定された励磁電流に対して誘導電圧の振幅は励磁巻線と電磁誘導巻線の間の位置関係に応じて変動するので、励磁電流に対する各誘導電圧の振幅比からモータの回転角を検出できる。
【0026】
第2発明は、車両に搭載されたモータのレゾルバとこのレゾルバに接続されるレゾルバICの間のケーブル部分に分岐接続するように取り付けられ、このレゾルバの入力信号および出力信号の両方を測定する入出力信号測定部と、この入出力信号測定部によって測定された入力信号および出力信号からモータの回転角を検出し、この回転角を用いて車両の移動速度を演算する演算部とを備えることを特徴とする車速検知ユニットを提供する(請求項3)。
【0027】
入出力信号測定部はモータのレゾルバの入力信号および出力信号の両方を共に測定するものであるから、レゾルバとこれに接続されるレゾルバICの接続に悪影響を与えることなく、レゾルバ信号としての入力信号および出力信号を得ることができる。
【0028】
演算部はレゾルバの入力信号の振幅に対する出力信号の振幅がモータの回転角に対応するものとなることを用いて、両信号の関係からモータの回転角を検出し、さらに、この回転角を用いて車両の移動速度の演算を行うものである。モータの回転が直接的に車輪に連結されている場合、モータの回転角を直接的に車両の移動速度に変換することができる。また、車輪とモータの間に変速機がある場合にも、変速機の変速比を乗算することによりモータの回転角を求めることにより、車両の移動速度を求めることも可能である。レゾルバによるモータの回転角の検出は極めて安定しており、経年劣化する部分が少ないのでそれだけ信頼性が高い。
【0029】
前記レゾルバは、励磁用の交流電流を入力信号として流す励磁巻線と、この励磁巻線によって励磁された回転子によって形成される磁気回路上の異なる位相に配置されることにより回転子の回転角に応じた誘導電流が出力信号として電磁誘導される複数の電磁誘導巻線とを備えるものであり、前記入出力信号測定部は、前記励磁巻線に供給される励磁電流を入力信号として測定する励磁電流測定部と、各電磁誘導巻線に電磁誘導される各誘導電圧を出力信号としてそれぞれ測定する誘導電圧測定部とからなる場合(請求項4)には、レゾルバを構成する励磁巻線に流す交流電流に対する電磁誘導巻線の誘導電圧を用いて、回転子の回転角を求めることができる。
【0030】
励磁巻線および電磁誘導巻線は何れもモータの固定子側に設けることが可能であり、回転子と固定子の間を電気的に接続するためのブラシを不要としているので、それだけ、信頼性と耐久性を向上させることができる。
【0031】
また、電磁誘導巻線が複数であることにより各電磁誘導巻線の位相を変えることができるので、各位相における電磁誘導巻線からの出力信号を比較することにより、モータの回転子の回転各をより正確に求めることが可能となる。さらに、回転子の回転角を矩形パルスに変換した場合にも、位相の異なる矩形パルスを用いて、モータの回転方向を正確にとらえることができる。
【0032】
励磁電流測定部は励磁巻線に供給される励磁電流を入力信号として測定するものであり、例えば、励磁巻線と同じループ上に電流測定器が配置される基板を備えるものであることが好ましい。誘導電圧測定部は複数の電磁誘導巻線の出力信号を電位差によって測定するものであり、各電磁誘導巻線への配線にそれぞれ分岐接続される高い入力インピーダンスの電圧測定部を備えるものであることが好ましい。
【0033】
第3発明は、車速検知ユニットによって求められる車両の移動速度を用いて、既存の車両の自動運転制御における加減速時のアクセル開度、ブレーキ強度のフィードバック制御を行うことを特徴とする自動運転装置を提供する。(請求項5)
【0034】
車両に搭載されたモータにはレゾルバが取り付けられており、このレゾルバに対して取り付けられるレゾルバICによってモータの回転角に変換された信号はECU内の演算処理部によって車速に変換されてインパネ表示や、基本的な車両制御に用いられるが、レゾルバとレゾルバICの間の信号のやり取りに悪影響を及ぼすことなくレゾルバとの入出力信号を測定してモータの回転角を検出し、このモータの回転角を用いて演算される車両の走行速度と自動運転制御における加減速時のアクセル開度、ブレーキ強度のフィードバック制御を行なうことができる。
【0035】
なお、本自動運転装置は、車速検知ユニットから得られた車速をGPSシステムから得られた位置情報と組合わせて、方向や速度に不一致が発生するときに、制御の異常を判断する異常検知部を設けて、自動運転の信頼性を向上させてもよい。
【発明の効果】
【0036】
前述したように、本発明によれば、車両のシステムに大がかりなセンサのシステムを設けることなく、車両の移動速度を求めることができる。ホイールへの部品取付の必要が無いので、それだけ低コストにて高い信頼性の車速検知を行うことができ、既存の車両に対して大がかりな改造を施すことなく車速を自動運転制御のフィードバック制御に用いたり、車速監視に用いることが可能である。
【0037】
モータの回転角を用いた車速検知はECUを介する車載LANの通信によって得られる車速信号に比べて即時性が高く、モータにロータリーエンコーダを設けた構成と同程度の精度と応答性を得ることができ、それだけ自動制御に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の第1実施形態に係る車両の自動運転装置の構成を示す図である。
図2】前記自動運転装置と車速検知ユニットの構成を説明する図である。
図3】前記車速検知ユニットの動作を説明する図である。
図4】車両の速度検知方法を示す図である。
図5】第2実施形態に係る車両の自動運転装置の構成を示す図である。
図6図5に示す自動運転装置と車速検知ユニットの構成を説明する図である。
図7】従来の車両の構成を説明する図である。
図8】前記車両のモータのレゾルバとレゾルバICの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図1図4を用いて、本発明の第1実施形態にかかる車速検知ユニットおよび自動運転装置の構成および車両の速度検知方法を説明する。
【0040】
図1に示すように、本実施形態における車両の自動運転装置1は、車両2に搭載されたモータ3のレゾルバ3Aに接続された車両2の車速検知ユニット4を備えることにより、車両2の移動速度(車速S)をモータ3の回転数から求め、この車速Sを用いて車両2のフィードバック制御を行うものである。
【0041】
本実施形態の自動運転装置車両1が取付けられる車両2は例えば1人乗り用の小型電気自動車であり、この車両2は、電力源となるバッテリ5と、このバッテリ5から供給される電力を整流してモータ3に供給するインバータ6と、モータ3の回転力を左右の後輪2R,2Rに分配供給するデファレンシャルギア7と、操舵用の左右の前輪2F,2Fと、前輪2F,2Fを操舵方向を操作するステアリング8と、車両2の加速および減速を操作するアクセルペダル9A,ブレーキペダル9Bと、これらのアクセルペダル9Aおよびブレーキペダル9Bの操作量に応じて前記インバータ6に回転速度の設定値などの指令を送ることを含む、車両2の制御を行う電子制御装置(ECU)10とを備える。
【0042】
11は車両2の前方を撮像するカメラであり、前記ECU10は各部8,9A,9B,11から操作量や画像情報などの情報を入力することにより、車両2の制御を行うことが可能となる。
【0043】
モータ3はインバータ6によって制御が容易な例えばサーボモータであり、このモータ3の回転角を測定するためのレゾルバ3Aは、通常、一つのレゾルバ3Aに対して一つのレゾルバIC(後述する)が排他的に接続されることになり、複数のレゾルバICを同じレゾルバ3Aに接続すると破損を招くことになる。なお、本実施形態の車両2は、モータ3の回転軸を固定の変速率でデファレンシャルギヤ7に接続しているので、モータ3の回転角の微分値は左右の車輪3R,3Rの回転数の和に比例し、容易に車速Sに変換することができる。
【0044】
図2に示すように、本実施形態に示すレゾルバ3Aは、例えば、励磁用の交流電流を流す励磁巻線12と、この励磁巻線12によって励磁された回転子によって形成される磁気回路上の90°異なる位相に配置されることにより回転子の90°異なる回転角θに応じた誘導電流が出力信号としてそれぞれ電磁誘導される複数の電磁誘導巻線13(以下、区別が必要な場合は正弦電磁誘導巻線13A、余弦電磁誘導巻線13Bという)とを備えるものである。
【0045】
上記構成の前記レゾルバ3AはレゾルバIC14に接続されており、これにより、レゾルバIC14は、励磁巻線12に交流の励磁電流Iaを供給する一方,各電磁誘導巻線13A,13Bに生じる誘導起電力(電磁誘導巻線13による誘導電流Iiに比例する電圧)を測定することができるように構成されている。
【0046】
本実施形態の車速検知ユニット4はレゾルバ3AとレゾルバIC14の間のケーブル部分に分岐接続するように取付けられるものであり、前記励磁巻線12に励磁電流Iaを供給するための第1励磁ケーブル15Aおよび第2励磁ケーブル15Bと、各電磁誘導巻線13A,13Bにおいて発生した誘導起電力によって得られる誘導電流Iiを流すためにレゾルバ3Aの電磁誘導巻線13A,13BとレゾルバIC14の間に分岐線16Aを接続するための分岐点16Bが形成された誘導起電力ケーブル16とを備える。
【0047】
前記第1励磁ケーブル15AはレゾルバIC14と車速検知ユニット4を連結し、第2励磁ケーブル15Bは車速検知ユニット4とレゾルバ3Aを連結するものであり、全体として1つのループを形成すると共に、車速検知ユニット4の基板内においてループ内に低インピーダンスの電流測定部17を介在させることができる。
【0048】
なお、前記電流測定部17はレゾルバ3AとレゾルバIC14の接続の関係に悪影響を与えることなく、レゾルバIC14からレゾルバ3Aに供給された励磁電流Iaを正確に測定することができる。
【0049】
他方、前記誘導起電力ケーブル16は分岐点16Bにおいて分岐接続された分岐線16Aを備えるケーブルであり、この分帰線16に電圧測定部18A,18Bが接続されている。つまり、各電圧測定部18A,18Bは、分岐点16Bにおける電位差を高インピーダンスで測定することにより、各電磁誘導巻線13の誘導起電力によって発生する電位差を測定することができる。なお、これら測定された電位差は、電磁誘導巻線13によって発生する誘導電流Ii(正弦電磁誘導巻線13Aによって発生する誘導電流Iisおよび余弦誘導巻線13Bによって発生する誘導電流Iic)と比例する近似値と考えることができる。
【0050】
19は前記電流測定部17によって測定された励磁電流Iaと、電圧測定部18A,18Bによって測定された電圧(すなわち誘導電流Iis,Iicの近似値)の測定値を演算処理する演算処理部である。
【0051】
図3は励磁電流Iaと誘導電流Iis,Iicの関係を示す図である。図3に示すように、励磁電流Iaは例えば50~60Hzの商用周波数の正弦波となるように流される交流電流であり、この励磁電流Iaをモータ3の回転角θの三角関数sinθ、cosθに比例する増幅率を乗算したような誘導電圧(すなわち、誘導電流Iis,Iicに比例する信号)を測定する。また、誘導電流Iis,Iicは互いに90°異なる位相の回転角θに対応する三角関数の増幅率で励磁電流Iaの振幅を変化させたような信号である。
【0052】
図4は本発明にかかる車両2の車両の速度検知方法を説明する図である。図4に示すように、本発明の車両2の車両の速度検知方法は、まず、入力信号として励磁巻線12に流れる励磁電流Iaを測定する(ステップS1)。
【0053】
なお、本実施形態では、励磁電流Iaの測定はレゾルバIC14からレゾルバ3Aに供給される励磁電流Iaのループ上に配置された電流測定部17を用いて測定しており、電流測定部17の入力インピーダンスは無視できる程度に小さくしていることにより、レゾルバIC14の動作に全く影響を与えることなく励磁電流Iaを測定可能であるが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、入力信号として励磁巻線12の両端に供給される電圧を、例えば分岐点において分岐させた分帰線と高い入力インピーダンスの電圧測定部によって測定し、測定された励磁電圧を用いて励磁電流Iaの近似値としてもよいことはいうまでもない。
【0054】
他方、出力信号として電磁誘導巻線13A,13Bの両端に生じる各誘導電圧をそれぞれの電圧測定部18A、18Bを用いて高い入力インピーダンスで測定し、これを電磁誘導起電力、ひいては、電磁誘導起電力によって流れる誘導電流IiA,IiBの近似値として測定することにより、レゾルバIC14の動作に何ら悪影響を及ぼすことなく、誘導電流Ii(Iis,Iic)を測定することができる(ステップS2)。
【0055】
また、本実施形態では、誘導電流Iis,Iicの測定を分岐点16Bにおいて分岐接続された分帰線16Aと、電圧測定部18A、18Bとを用いて測定することにより、これを誘導電流Iis,Iicの近似値とする例を示しているが、本発明はこの方法に限定されるものではなく、電磁誘導巻線13A,13Bにそれぞれループを作るように接続されるケーブルのループ上に低インピーダンスの電流測定部を介在させて、直接的に誘導電流IiA,IiBを測定してもよい。
【0056】
次いで、励磁電流Iaに対する誘導電圧(すなわち誘導電流Iis,Iicの近似値)の振幅比を除算によって求めることにより、この振幅比からモータ2の回転角θを検出することができる(ステップS3)。
【0057】
図3には、前記演算処理部19が誘導電流Iis,Iicの測定値を励磁電流Iaの測定値で除算することにより求めた振幅比の演算結果が、回転角θの三角関数sinθ、cosθに比例する内部信号Sθ,Cθとなることを示している。したがって、これらの内部信号Sθ、Cθの比を用いて、逆三角関数tan-1(Sθ/Cθ)の演算を行なうことにより、モータ3の回転角θを求めることができる。
【0058】
次いで、得られた回転角θの変化(微分値)を用いて回転角速度を求め、これにデファレンシャルギヤ7による変速比と車輪2R,2Rの直径を乗算することにより車両2の移動速度(車速)Sを演算することができる(ステップS4)。前記ステップS1~S4の処理を繰り返すことにより、車速検知ユニット4は車速Sの信号を時間的な遅れなく出力し続けることができる。
【0059】
なお、車速検知ユニット4は回転角θを用いて120°異なるU相の矩形波信号Uと、V相の矩形波信号Vとを生成することにより、自動運転装置1はモータ2の回転角θだけでなく回転方向も検知するために、従来のレゾルバIC14の出力を演算処理するのと全く同様の確立された回路構成および演算処理により、車両2のフィードバック制御を時間遅れなく、正確に行なうことも可能である。
【0060】
従って、自動運転装置1の開発に既存の技術を用いることができるので、開発コストを引き下げることができる。なお、本実施形態では車速検知ユニット4が120°異なるU相、V相の矩形波信号U,Vと車速Sを出力する例を示しているが、さらに120°異なるW相の矩形波信号も出力してもよく、他にも、一般的なレゾルバICの出力信号に合わせて、90°異なるA相、B相の矩形波信号(A信号、B信号)および1回転ごとに1パルス出力するZ信号をスピードパルスとして出力するものであってもよい。この場合、車速検知ユニット4はZ信号をスピードパルスとするスピードパルス変換器となる。
【0061】
自動運転装置1は車両2を自動運転するための制御信号CをECU10に出力することにより、少なくとも車両2の加減速を制御するのであるが、車速検知ユニット4から検知した車速Sの信号を時間的に遅れることなく得ることができるので、車速Sと指令速度を比較して加減速のフィードバック制御を行なうことが可能である。また、車速Sとハンドル8の操作量または図外のジャイロセンサから求められる旋回ヨーレートからオドメトリの演算を行なうことが可能となる。
【0062】
また、自動運転を行なうためには前記矩形波信号U,Vを用いてオドメトリの演算を行なうことも考えられるが、GPSによる位置情報の入手に加えてオドメトリによる位置情報の演算を組み合わせることにより、移動方向や移動速度が大きく異なる場合には、異常と判断して、自動運転制御を停止させるなどのフェールセーフとしても利用することも可能である。
【0063】
上述したように、本発明の車速検知ユニット4は、車速Sに変換したアナログ信号または車速を表すデジタル信号をシリアルまたはパラレルで出力するものであることにより、よりシンプルなフィードバック制御を行なうことが可能であるが、これを省略して、一般的なレゾルバICと同様の信号(A,B,ZまたはU、V,W)だけを出力するものであってもよいことはいうまでもない。
【0064】
図5図6は第2実施形態を示す図である。これらの図において、図1図4と同一の符号を付したものは、同一または同等の部材であるから、その詳細な説明を省略する。
【0065】
図5に示す、車両20のように、モータ3の出力端に変速機21を備える場合、ECU10は変速機21の制御部22に変速率Rを指示する信号を出力する。この場合、車速検知ユニット23にも変速率Rを入力させる。
【0066】
図6に詳細に示すように、本実施形態では励磁ケーブル15はレゾルバIC14とレゾルバ3Aを接続するものであり、分岐点15Cにおいて分岐接続された分帰線15Dが車速検知ユニット23に接続される。また、車速検知ユニット23において、電圧測定部18Cが分岐点15Cにおいて高い入力インピーダンスで接続されることにより、分岐点15Cにおける電位差を励磁電圧として測定する。この励磁電圧はレゾルバICから励磁巻線12に供給する励磁電流Iaに比例する近似値であるから、これを励磁電流Iaを表すものとする。
【0067】
車速検知ユニット23は電圧測定部18A~18Cによって測定された各電圧を用いて励磁電流Iaおよび誘導電流Iis,Iicの近似値を得ることにより、既に詳述した演算処理によりモータθの回転角を求めることができ、さらに、その回転速度求めることができる。加えて変速機21の変速率Rとデファレンシャルギヤ7の変速率と車輪2Rの外径を乗算することにより車速Sを求めることができる。
【0068】
上述した各実施形態において、車両2の車速検知ユニット4,23は既存の車両2に取り付けられることにより、自動運転装置1が必要とする車速Sを得ることができるが、本発明は自動運転装置1に限定されるものではなく、運転者による安全運転を支援するアシスト機能を備えた安全運転サーポート車とするためのサポカー装置などに用いることも可能である。さらには、工場などの自律走行可能な台車に用いられるものであってもよい。
【0069】
いずれの場合にも、車両2に搭載されたモータ3に元々備わっているレゾルバ3AとレゾルバICの間の通信線に分岐接続される形で接続される車速検知ユニット4を用いてレゾルバICの動作の妨げとなることなく、車速Sを検出可能であるから、従来のように大掛かりなエンコーダを取り付ける必要がなく、それだけ信頼性が向上すると共に、製造コストの削減を図ることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8