IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本植生株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-斜面の保護方法 図1
  • 特許-斜面の保護方法 図2
  • 特許-斜面の保護方法 図3
  • 特許-斜面の保護方法 図4
  • 特許-斜面の保護方法 図5
  • 特許-斜面の保護方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】斜面の保護方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20241113BHJP
【FI】
E02D17/20 103A
E02D17/20 103Z
E02D17/20 102A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021046999
(22)【出願日】2021-03-22
(65)【公開番号】P2022146171
(43)【公開日】2022-10-05
【審査請求日】2024-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000231431
【氏名又は名称】日本植生株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074273
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173222
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100151149
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 幸城
(72)【発明者】
【氏名】中村 剛志
(72)【発明者】
【氏名】遠山 宏一
(72)【発明者】
【氏名】津下 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】戸来 義仁
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-223265(JP,A)
【文献】特開平05-156643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
袋状体に硬化材料を収容した硬化材料袋を備える立体金網を斜面に敷設し、前記立体金網の各線材は、上に凸の上線部と下に凸の下線部とを有し、前記下線部の凸を前記上線部の凸よりも緩やかな湾曲状にすることを特徴とする斜面の保護方法。
【請求項2】
前記立体金網は、略螺旋状に屈曲した複数の線材を、前記線材の螺旋軸どうしが略平行となるように互いに係合させて構成され、
前記硬化材料袋は、前記立体金網の一部の線材内にその螺旋軸を通るように収容される請求項1に記載の斜面の保護方法。
【請求項3】
前記硬化材料袋は、斜面に打設される複数の固定部材によって貫かれ、前記立体金網とともに前記斜面に敷設される請求項1または2に記載の斜面の保護方法。
【請求項4】
前記立体金網は、袋状体に基材を収容した基材袋も備える請求項1~3の何れか一項に記載の斜面の保護方法。
【請求項5】
前記基材袋の外面には、複数のひれ状部がその長手方向に並んでいる請求項4に記載の斜面の保護方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、法面等の斜面を保護するための斜面の保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吸水または吸湿により硬化する硬化材料を収容した袋状体を具備した斜面保護用具を斜面に敷設する斜面保護方法を、本出願人は提案している(特許文献1)。この斜面保護方法では、袋状体によって堰止められて堆積した流亡土砂、周囲からの木の葉等により、袋状体の山側に植生基盤が小段状に形成され、この小段において植物が生長し易くなるいわゆる小段効果によって、緑化が早期にかつ良好に実現することとなる。すなわち、ここでいう小段効果とは、土砂が堆積することにより斜面よりも勾配が緩い生育基盤層が小段状に形成され、この小段において植物が生長し易くなる効果をいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-223265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記斜面保護方法では、斜面表層の保護(転石落下の初動抑制、小崩落防止、凍上抑制)機能につき向上の余地がある。
【0005】
本発明は上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、斜面表層の保護(転石落下の初動抑制、小崩落防止、凍上抑制)機能の向上を図ることができる斜面の保護方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る斜面の保護方法は、袋状体に硬化材料を収容した硬化材料袋を備える立体金網を斜面に敷設し、前記立体金網の各線材は、上に凸の上線部と下に凸の下線部とを有し、前記下線部の凸を前記上線部の凸よりも緩やかな湾曲状にする(請求項1)。
【0007】
上記斜面の保護方法において、前記立体金網は、略螺旋状に屈曲した複数の線材を、前記線材の螺旋軸どうしが略平行となるように互いに係合させて構成され、前記硬化材料袋は、前記立体金網の一部の線材内にその螺旋軸を通るように収容されてもよい(請求項2)。
【0008】
上記斜面の保護方法において、前記硬化材料袋は、斜面に打設される複数の固定部材によって貫かれ、前記立体金網とともに前記斜面に敷設されてもよい(請求項3)。
【0009】
【0010】
上記斜面の保護方法において、前記立体金網は、袋状体に基材を収容した基材袋も備えてもよい(請求項4)。
【0011】
上記斜面の保護方法において、前記基材袋の外面には、複数のひれ状部がその長手方向に並んでいてもよい(請求項5)。
【発明の効果】
【0012】
本願発明では、斜面表層の保護(転石落下の初動抑制、小崩落防止、凍上抑制)機能の向上を図ることができる斜面の保護方法が得られる。
【0013】
すなわち、本願の各請求項に係る発明の斜面の保護方法では、斜面に敷設する立体金網が備える硬化材料袋は、その重量により斜面に広い面積にわたって密接するので、斜面表層の保護(転石落下の初動抑制、小崩落防止、凍上抑制)機能の向上を図ることができる。特に、立体金網のみを敷設した場合に比べると、本方法に係る硬化材料袋を備えた立体金網によって構成する斜面保護具は、硬化材料の収容部分に重量がある分、斜面に沿わせ易くなるので斜面に対する摩擦力・係合力が増大する結果、アンカーピンや止め釘等の使用本数も少なく抑えられ、ひいては施工性の向上にも資するものとなる。
【0014】
請求項2に係る発明の斜面の保護方法では、立体金網の一部の線材内にその螺旋軸を通るように硬化材料袋を収容するのであり、硬化材料袋を例えば長尺状とすることにより、この収容を容易に行うことができる。
【0015】
請求項3に係る発明の斜面の保護方法では、斜面に打設する固定部材を、斜面に対する前記立体金網及び前記硬化材料袋の両方の固定に用いることができるので、それだけ固定部材の使用本数が少なく抑えられ、ひいては施工性の向上にも資するものとなる。
【0016】
請求項1に係る発明の斜面の保護方法では、各線材の下線部が下に凸の比較的緩やかな湾曲状をしているので、その上に配置した硬化材料袋が斜面に接するのを下線部が妨げ難く、それだけ硬化材料袋による斜面表層の保護機能が高まることになる。
【0017】
請求項4に係る発明の斜面の保護方法では、基材袋により早期緑化にも資するものとなる。
【0018】
請求項5に係る発明の斜面の保護方法では、例えば基材袋が斜面から若干浮いていてもその隙間を立体金網の目合いを抜けたひれ状部で埋めるようにすれば、基材袋の山側に流亡土砂等を留め易くすることができ、ひいては小段効果をより確実に得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(A)は本発明の一実施の形態に係る斜面の保護方法の説明図、(B)は前記斜面の保護方法に用いる斜面保護具の平面図である。
図2】(A)及び(B)は、前記斜面保護具の斜視図及び正面図である。
図3】(A)~(C)はそれぞれ前記斜面の保護方法の変形例の説明図である。
図4】(A)は立体金網の上線部の一部が露出する程度に基材で覆われた前記斜面保護具を示す説明図、(B)は(A)から基材が減った状態を示す説明図である。
図5】前記斜面の保護方法の他の変形例に用いる斜面保護具の平面図である。
図6】(A)~(C)は、前記斜面の保護方法の他の変形例に用いる基材袋の製造方法を示す説明図、(D)は前記基材袋を用いた斜面保護具の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態について以下に説明する。
【0021】
本実施の形態に係る斜面の保護方法は、図1(A)に示すように、施工領域とする斜面(法面)Sに、立体金網1及び硬化材料袋2によって構成される斜面保護具Dを配するものである。
【0022】
立体金網1は、図2(A)及び(B)に示すように、略螺旋状に屈曲した複数の線材4を、線材4の螺旋軸どうしが略平行となるように互いに係合させて構成した立体的な厚みを持つ菱形金網(ワイヤーラス)である。また、立体金網1は、図1(B)に示すように、全体として平面視略矩形状を呈し、その短手方向に各線材4の螺旋軸が延びるように構成してある。
【0023】
なお、本例の立体金網1は、幅が約1500mm、長さが約5000mm、目合いが約80mm、厚み(高さ)が約36mmである。そして、線材4は、例えば亜鉛メッキを施した鉄線からなり、必要強度等に応じた任意の太さのものを用いればよいが、太さが1mm未満では金網としての強度が不十分となり、10mm超では得られる金網の重量化により施工が困難となるので、1~10mmの太さとするのが好ましい。ここで、線材4の両端は、例えばナックル加工、ツイスト加工等の適宜の加工により処理すればよい。
【0024】
各線材4は、図1(A)中の拡大図、図2(A)及び(B)に示すように、上に凸の湾曲状の上線部4aと下に凸の湾曲状の下線部4bとが交互に繰り返し連なって略螺旋状を描くように構成され、下線部4bの凸を上線部4aの凸よりも緩やかな湾曲(円弧)状にしてある。
【0025】
硬化材料袋2は、両端が閉塞された細長い筒状を呈する袋状体に、吸水により硬化するドライモルタル(硬化材料の一例)を収容したものであり、袋状体内に空隙を生じる材料(例えば肥料成分の溶出等によって経時的に目減りする基材のような材料)は収容していないので、高強度化を図ることができる。なお、本例のドライモルタルは、セメントに粒状の砂を骨材として混合したものであるが、ドライモルタルを構成する骨材には、砂に限らずバーミキュライトやパーライト(軽石)等を用いることができる。袋状体への収容物は、硬化材料のみか、または前記硬化材料を骨材のみと混合して収容することで、強度の高い硬化袋とすることができる。硬化材料は、吸水または吸湿により経時的に硬化するもののほか、酸化、光照射、熱等、水分以外の刺激により経時的に硬化するもの等でもよい。また、ドライモルタル等の硬化材料に例えばスチールファイバー等の補強材を混合し、硬化後の硬化材料袋2の強度向上効果が得られるようにしてもよい。
【0026】
ここで、袋状体に対する収容物の充填量は、粗充填時を100%としたときに重量比で80~160%となるようにする。粗充填とは、袋状体内に収容物を自然落下させて充填することであり、一般的に「ゆるみかさ密度」を測定するときに使用される方法である。そして、袋状体に対する収容物の充填量が160%を上回ると、強度面では良好となるものの、硬化材料袋2の柔軟性が失われ斜面Sへ追随しづらくなり、材料コストも余分に必要となる。反対に、充填量が80%を下回ると、硬化材料袋2の斜面Sへの馴染みは良くなるが、袋状体中に空隙が発生し、硬化材料の硬化時に袋状体と一体化しない等の理由で密実な硬化体が得られず強度不足に陥る。
【0027】
例えば、ドライモルタルとして、セメント:砂が1:2(重量比)の材料を用いる場合には、上記充填量が128%程度になるようにすると、強度面でも斜面Sへの追随性の面でも非常に優れた硬化材料袋2が得られることになる。
【0028】
また、硬化材料袋2を構成する袋状体は、一重構造に限らず、二重構造を有していてもよく、さらにこの場合、二重の層の間に、例えば長手方向の強度を増すためのシート状の高強度繊維を配置してもよい。もちろん、袋状体を三重以上の多重構造としてもよい。いずれにしても、袋状体は、硬化材料を通さず、かつ、硬化材料を硬化させるのに必要な刺激が硬化材料に付与されることを少なくとも完全に妨げてしまわない性状のものとすればよい。例えば硬化材料がドライモルタルの場合、袋状体の材料には、ドライモルタルを通さず、かつ、透水性を有するシート状体を用いて形成することができ、その素材としては、不織布、フェルト、布(織布)、編織物、ジュート布、水分解性プラスチック、薄綿などを挙げることができる。
【0029】
ここで、立体金網1による硬化材料袋2の保持の安定化、確実化の観点から、硬化材料袋2が収容される線材4が硬化材料袋2を螺旋状に抱擁する(線材4の繰り返して連なる上線部4a及び下線部4bのそれぞれに硬化材料袋2が接する)ようにしてあるのが好ましい。こうすることで、硬化前の硬化材料袋2に対して立体金網1がしっかりと食い込み易くなり、この状態で硬化材料袋2が硬化すれば、斜面Sに固定した立体金網1及び硬化材料袋2の安定性が一層高まることとなる。
【0030】
本例の斜面の保護方法は、図1(A)に示すように、法面である斜面Sに、立体金網1を敷設するとともに、立体金網1に硬化材料袋2を保持させた状態にし、アンカーピン5によって両者1,2を斜面Sに固定することにより行える。この際、立体金網1の短手方向(各線材4の螺旋軸方向)及び硬化材料袋2の長手方向が斜面Sの等高線に沿うように配置する。
【0031】
本例では、あらかじめロール状に長手方向に巻いておいた立体金網1の長手方向一端部にある線材4の内側空間にその螺旋軸を通るように硬化材料袋2を挿入し、この硬化材料袋2にアンカーピン5を打ち込んで立体金網1とともに斜面Sに固定した後、立体金網1を法尻側に向けて展開し、法肩から法尻に向かって一定間隔(例えば480mm)ごとに硬化材料袋2を立体金網1(線材4の内側空間)に挿入しつつアンカーピン5による固定を行っていく。そして、上述のような立体金網1の展開作業等に対応できるように、最も法肩側(上側)に位置する部分に打設するアンカーピン5の少なくとも一部には、他のアンカーピン5より一回り大きいアンカーピンを用い、強力な固定を行えるようにしてある。
【0032】
上記のように斜面Sに敷設された硬化材料袋2は、自重により斜面Sに隙間無く沿った状態で配置される。すなわち、硬化材料袋2は、斜面Sに凹凸があってもそれに沿わせて張設することができる程度以上の柔軟性を有している。
【0033】
そして、例えば硬化材料袋2に収容した硬化材料がドライモルタルである場合は、降雨等による硬化材料袋2内への水分の供給に伴って硬化材料は硬化する。このように硬化材料が硬化した後は、硬化材料袋2はその形状を維持し、これにより、硬化材料袋2の斜面Sへの密接状態は保持されるので、この硬化材料袋2の山側に流亡土砂が堆積するなどして植生基盤が確実に形成され、上述の小段効果が得られる。そして、本例では、上述のように、硬化材料袋2の袋状体に対する収容物の充填量を考慮してあるので、斯かる小段効果を良好かつ確実に得ることができる。
【0034】
特に、固定部材としてのアンカーピン5を打設する際、一本の硬化材料袋2が複数のアンカーピン5で貫かれた状態となるようにしておくことにより、硬化材料の硬化後には硬化材料袋2がアンカーピン5の頭部と強固に連結され一体構造になるので、立体金網1の縦横の両方向の補強効果も得られる。この場合、鹿の踏み荒らしからの保護効果も高まる。すなわち、立体金網1、硬化材料袋2を斜面Sに配し、アンカーピン5で固定するのみで、斜面Sの転石落下の初動を効果的に抑制することができ、それに起因する小崩落を防止できる。故に、立体金網1及び硬化材料袋2は、小落石の崩壊が生じやすい斜面Sや侵食を生じやすい斜面Sに用いて好適であり、斜面Sの凍上抑制にも資するものとなり、本実施形態の斜面保護方法は緑化(斜面保護)基礎工として適用可能なものとなる。
【0035】
上記のように立体金網1及び硬化材料袋2を斜面Sに敷設する斜面の保護方法を実施することにより、硬化材料袋2の山側に小段状に形成された植生基盤において周辺植生からの飛来種子を効果的に捕捉することができ、植物が発芽・生長する。
【0036】
しかも、硬化材料袋2の硬化材料がドライモルタルである場合、ドライモルタルによって形成されるモルタルの圧縮強度は高いが曲げ強度は小さく、故に硬化後のモルタルは割れやすいという問題があるが、上述のように硬化材料袋2の袋状体の強度を高める高強度繊維を設けておけばモルタルが割れ難くなる。また、硬化材料袋2の袋状体が分厚くて袋状体の内部にまで水が十分に浸透しなかったり、硬化材料袋2への水分の供給量が少なかったりしてドライモルタルが十分に硬化しなくても、袋状体は高強度繊維によって保形可能とすることができる。
【0037】
そして、硬化材料袋2の袋状体を二重構造とし、その二層の間に高強度繊維を挟み込むようにしてあれば、硬化材料袋2にドライモルタルを収容するときに高強度繊維が剥離することを防止することができる上、袋状体の三層構造内に空間が形成されることにより水分の保持性能が上昇し、モルタルの養生効果が高まること(高強度化)を期待することもできる。
【0038】
ここで、硬化材料袋2に対するアンカーピン5の打込みは、図1(A)に示すように、硬化材料袋2の谷側に打ち込んだアンカーピン5の頭部で硬化材料袋2を抱え込むようにしてもよいし、上述のようにアンカーピン5が硬化材料袋2を貫くようにしてもよい。そして、必要に応じ、斜面Sに対する立体金網1の固定のために、立体金網1において硬化材料袋2を収容していない適宜の箇所(線材4)にもアンカーピン5を打ち込むようにすればよい。
【0039】
なお、一定間隔で硬化材料袋2を挿入した状態の立体金網1をロール状に巻くことができる場合には、硬化材料袋2をあらかじめ立体金網1に挿入(装着)してあってもよい。また、硬化材料袋2を挿入した状態の立体金網1がロール状に巻けない場合であっても、例えば展開した状態で立体金網1を運搬するのであれば、硬化材料袋2をあらかじめ立体金網1に挿入(装着)してあってもよい。
【0040】
以上説明した本例の斜面の保護方法では、斜面Sに敷設する立体金網1が備える硬化材料袋2は、その重量により斜面Sに広い面積にわたって密接するので、斜面S表層の保護(転石落下の初動抑制、小崩落防止、凍上抑制)機能の向上を図ることができる。特に、立体金網1のみを敷設した場合に比べると、本方法に係る硬化材料袋2を備えた立体金網1によって構成する斜面保護具Dは、硬化材料の収容部分に重量がある分、斜面Sに沿わせ易くなるので斜面に対する摩擦力・係合力が増大する結果、アンカーピン5や止め釘等の使用本数も少なく抑えられ、ひいては施工性の向上にも資するものとなる。加えて、立体金網1のみを敷設した場合、立体金網1を斜面Sに押さえつけるのはアンカーピン5のみとなるので、立体金網1は全体として斜面Sから浮き上がる部分が多くなり、これに重力が作用して立体金網1に所謂ダレ(弓状に撓む部分)が生じ易く、外観上、好ましくないという問題があるが、硬化材料袋2を用いる本例の斜面の保護方法では、ダレの低減をも図ることができる。
【0041】
また、本例では、立体金網1の一部の線材4内にその螺旋軸を通るように硬化材料袋2を収容するのであり、硬化材料袋2を例えば長尺状とすることにより、この収容を容易に行うことができる。
【0042】
さらに、本例では、斜面Sに打設する固定部材であるアンカーピン5を、斜面Sに対する立体金網1及び硬化材料袋2の両方の固定に用いることができるので、それだけ固定部材の使用本数が少なく抑えられ、ひいては施工性の向上にも資するものとなる。なお、アンカーピン5による固定は、硬化材料袋2の谷側にアンカーピン5を打込み、その頭部で硬化材料袋2を抱え込むようにするよりも、硬化材料袋2を貫くようにアンカーピン5を打設した方が、より強力かつ好適に行える。
【0043】
その上、本例では、各線材4の下線部4bが下に凸の比較的緩やかな湾曲状をしているので、その上に配置した硬化材料袋2が斜面Sに接するのを下線部4bが妨げ難く、それだけ硬化材料袋2による斜面S表層の保護機能が高まることになる。
【0044】
なお、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。例えば、以下のような変形例を挙げることができる。
【0045】
上記実施の形態では、斜面Sの保護を主たる目的とし、斜面Sに立体金網1及び硬化材料袋2によって構成される斜面保護具Dを配するのみとしてあるが、これに限らず、例えば、図3(A)に示すように、斜面保護具Dとともに基材3を斜面Sに配するようにしてもよい。具体的には、基材3の吹付けや散布等により、斜面Sに敷設した斜面保護具Dを覆うように基材3の層を形成することが考えられる。すなわち、観点を変えれば、上記実施の形態の斜面の保護方法で構築する斜面保護具Dは、基材吹付工法時の基礎として利用可能といえる。
【0046】
なお、基材3は、例えば緑化用植物の種子(植生種子)、生育補助材(保水材、肥料等)または土壌改良材等から適宜に選択されたものを含む植生基材であってもよいし、その他の通常基材であってもよく、さらに、植生基材および通常基材を混合したものであってもよい。前記植生基材としては、例えば、バーミキュライトを主体として配合され植生種子を含んでいるものや、表土シードバンクを含み、具体的には、斜面保護対象地(緑化対象地)の近傍の地山や森林等の植生種子を含んでいる表土にピートモス、バーク堆肥や保水材など生育補助材を適宜混合してなるものが挙げられる。この場合、確実に筋状に植物を導入可能となる。また、前記通常基材としては、ウッドチップ、農水産廃棄物(貝殻、蟹殻、果実屑など)、製紙スラッジ等の植生に害を及ぼすことの無い材料から適宜に選択されたものを含む基材が挙げられる。
【0047】
このように基材3を斜面Sに配した場合、基材3によって植生の復元を図ることができる。特に、基材3として、斜面Sまたはその周辺から採取した表土(表土シードバンク、埋土種子混在表土)を用いるようにした場合には、本例の斜面の保護方法を、周辺環境との調和のとれた植生を復元する森林表土利用工として実施可能となる。
【0048】
ここで、立体金網1の各線材4の下線部4bを下に凸の比較的緩やかな湾曲状としたことは、基材3の保持力の向上に寄与する。すなわち、基材3の保持力には、立体金網1の形状や硬化材料袋2の有無の他に、斜面Sに対する基材3自体の摩擦抵抗も関係する。そして、その下面が全体として凹凸のある波形状を呈し、線材4の下線部4bの湾曲の緩やかさが下線部4bにおいて斜面Sに近接する部分の増大に繋がる立体金網1を用いれば、下線部4bの下方の隙間に基材3を保持し易くなり、これに伴い、斜面Sに対する立体金網1及び基材3の摩擦抵抗が大きくなる結果、基材3の流亡防止効果が高まることになる。
【0049】
また、各線材4の下線部4bが下に凸の比較的緩やかな湾曲状をしているので、その上に配置した硬化材料袋2が斜面Sに接するのを下線部4bが妨げ難く、それだけ硬化材料袋2による基材3の流亡防止効果が高まることになる。加えて、下線部4bの上に載った硬化材料袋2によって下線部4bが押圧され、下線部4bの左右両端が斜面Sに接するように押し下げられた際、この変形した下線部4bの左右両隣に連続する二つの上線部4aが仮に緩やかな湾曲状をしていると、上記変形に伴って両上線部4aも下方に大きく移動し易く、その部分で立体金網1の厚みが小さくなる(すなわち薄くなり低くなる)と、保持可能な基材3の量が減ることに繋がるが、本例では、上線部4aは下線部4bよりも曲率の大きい湾曲(円弧)状をしていて、上記変形に伴って上記両上線部4aは下方に移動するよりも曲率が大きくなるように変形し易くなっており、その結果、立体金網1の厚みが小さくなり難いので、基材3の保持量の低減防止を図ることができる。
【0050】
図3(A)の例では、立体金網1を基材3で完全に覆うようにしているが、これに限らず、例えば同図の(B)や(C)に示すように、立体金網1の少なくとも一部を基材3で覆わないようにしてもよく、この場合、立体金網1において基材3の外側に露出した部分によって飛来種子や飛来落葉等を捕捉し易くなるので、本例の斜面の保護方法を、周辺環境との調和のとれた植生の復元に秀でた自然侵入促進工として実施可能となる。また、この場合、基材3の使用量を減らすことができるので、それだけ施工に掛かる労力やコストの削減に資するものともなる。
【0051】
ここで、厚み(高さ)が約36mm(36±2mm)の立体金網1に対し、図3(A)では基材3の厚みを50mm(5cm)として立体金網1が露出しないようにしてある。一方、図3(B)では基材3の厚みを30mm(3cm)として立体金網1の上部(上線部4a)のみが露出するようにしてあり、この露出部分(上線部4a)は、図4(A)の右側図に実線で示すように、斜面Sにおいて等高線に対して斜めとなる方向に延び、かつ、複数の露出部分(上線部4a)が略千鳥状に並ぶことになる。
【0052】
そして、図1(A)、図2(B)に示すように、立体金網1を構成する各線材4の上線部4aは、上側に向かってその幅が狭くなっており、少なくとも上線部4aの全体が露出しないように基材3で立体金網1を覆ってあれば、例えばゲリラ豪雨や台風等により基材3の侵食や流亡が進行し、図3(A)に示す状態から、図4(A)さらには(B)に示す状態になっても、この進行に伴って上線部4aの基材3表面への露出量は増し、飛来種子等の捕捉力は増強されることになり、植生復元力が大きく損なわれることは防止される。
【0053】
図1(A)及び(B)、図2(A)及び(B)に示した例では、立体金網1に硬化材料袋2のみを保持させているが、これに限らず、例えば図5に示すように、立体金網1に、硬化材料袋2とともに基材袋6を保持させて斜面保護具Dを構成するようにしてもよい。
【0054】
ここで、基材袋6は、両端が閉塞された細長い筒状を呈する袋状体に基材3を収容したものであり、袋状体は、基材3を通さず、透水性を有するシート状体を用いて形成することができ、その素材には、例えば硬化材料袋2の袋状体と同じ素材を用いることができる。
【0055】
図5の例では、硬化材料袋2及び基材袋6を立体金網1の長手方向に等間隔に配し、かつ、一つの硬化材料袋2と二つの基材袋6がこの順に繰り返し並ぶようにしてあるが、硬化材料袋2及び基材袋6の配置方法や割合はこれに限らない。
【0056】
ところで、立体金網1のみを所定本数のアンカーピン5で斜面Sに固定した場合、斜面Sの凹凸に馴染みきれずどうしても隙間があいてしまう。そして、凹凸が激しい斜面Sほど、この隙間は大きくなり、隙間の箇所も多くなる傾向にある。
【0057】
この点、立体金網1に硬化材料袋2を装着し、この硬化材料袋2をアンカーピン5が貫くように打設して固定すれば、立体金網1は硬化材料袋2とともに斜面Sの凹凸に沿い易くなる。
【0058】
これに対し、基材袋6は、例えばこれを貫くように打設するのであれば比較的小径(例えば直径5ミリ)のアンカーピン5を用い、その頭部で基材袋6を抱え込むように打設するのであれば比較的大径(例えば直径9ミリ)のアンカーピン5を用いることが考えられるが、いずれにしても、斜面Sとの間の隙間が大きくなり易い。
【0059】
そこで、図6(A)及び(B)に示すように、一枚のシート状体7を筒状に縫製して基材袋6の袋状体6aを作成する場合に、その縫い代部(ひれ状部の一例)7aを通常より大幅に長くし、図6(D)に示すように、その縫い代部7aを基材袋6本体と斜面Sとの間に配置することでその隙間を埋めるようにしてもよい。
【0060】
ここで、シート状体7を筒状に縫製するときに、形成しようとする袋状体6aの長手方向に延びる縫い代部7aの幅を10~100mm程度とすることが考えられる。しかし、このまま立体金網1に装着しても、縫い代部7aは立体金網1の線材4の内側空間に入り込むので、上記隙間を十分に埋められず、斜面Sにおける土砂の侵食防止への寄与は限定的なものとなる。
【0061】
そのため、縫い代部7aに土砂の侵食防止効果を良好に発揮させるには、例えば立体金網1の目合いの間隔で図6(C)に示すように縫い代部7aにスリット7bを入れ、そのスリット7bに立体金網1の隣り合う線材4同士の接点部分をはめ込むと、上下2枚一組で袋状体6aの長手方向に並ぶ複数の縫い代部7aのそれぞれが立体金網1から斜面S側に出るようにしてあるのが好適である。
【0062】
このように、立体金網1の目合いを抜け線材4の内側空間から斜面S側に突出した縫い代部7aが、凹凸等により斜面Sと基材袋6との間に生じた隙間を埋めることにより(図6(D)参照)、風雨や凍上などにより移動する土砂を留めることができる。
【0063】
なお、図6(C)の例では、各組上下2枚の縫い代部7aの長さを略同一としてあるが、上側の縫い代部7aが下側の縫い代部7aより長くても短くてもよい。また、シート状体7を筒状にする手段は縫製によらず、例えば熱圧着でもよく、この場合は縫い代部7aを圧着代部として用いればよい。
【0064】
図6(A)~(C)の例では、基材6の袋状体6aをシート状体7から縫製する際に必ず形成される縫い代部7aを利用しているが、これに限らず、例えば袋状体6aの外面に、図6(C)に示す縫い代部7aと同様の形状を呈するシート片を縫合、熱圧着等の適宜の手段により接合し、これにより、基材袋6の外面に、立体金網1の目合いを抜けることができる複数のひれ状部がその長手方向に並ぶようにしてもよい。そして、この場合、袋状体6aの外面に設けるひれ状部は、上下2枚一組ではなく1枚一組あるいは3枚以上一組とすることができる。
【0065】
また、こうしたひれ状部(縫い代部7a)を硬化材料袋2(の袋状体)に設けてもよい。
【0066】
なお、本明細書で挙げた変形例どうしを適宜組み合わせてもよいことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0067】
1 立体金網
2 硬化材料袋
3 基材
4 線材
4a 上線部
4b 下線部
5 アンカーピン
6 基材袋
6a 袋状体
7 シート状体
7a 縫い代部
7b スリット
D 斜面保護具
S 斜面
図1
図2
図3
図4
図5
図6